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特許7492245演算装置、センサシステム、及び、コンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】演算装置、センサシステム、及び、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/00 20060101AFI20240522BHJP
   G09B 23/32 20060101ALI20240522BHJP
   A61C 17/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
G09B23/32
A61C17/00 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020078654
(22)【出願日】2020-04-27
(65)【公開番号】P2021173903
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開の事実1-1:2019年5月30日に第7回看護理工学会学術集会抄録のウェブサイト(https://nse2019.8href.com/)に掲載 公開の事実1-2:2019年6月6日の「第7回看護理工学会学術集会」にて発表 公開の事実2-1:2020年3月31日の看護理工学会誌、2020年、7巻、p.59-67(DOI:https://doi.org/10.24462/jnse.7.0_59)に掲載
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】平井 慎一
(72)【発明者】
【氏名】松野 孝博
(72)【発明者】
【氏名】三谷 篤史
【審査官】安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-132441(JP,A)
【文献】特開2005-189297(JP,A)
【文献】特開2018-205141(JP,A)
【文献】特開2011-156204(JP,A)
【文献】浅田稔,小俣透,力覚情報認識,新版 ロボット工学ハンドブック,第2版,日本,社団法人日本ロボット学会,2005年06月23日,p.545-549
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00
G09B 23/32
A61C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触によって被接触体に与えられた力の作用線を検出可能な第1のセンサからの前記力のセンシング結果を用いた処理を行う演算装置であって、
前記力のセンシング結果の入力を受け付け可能な入力部と、
前記処理を実行するプロセッサと、を備え、
前記処理は、
前記力のセンシング結果から得られる前記力の作用線と、予め記憶している前記被接触体の形状データとを用いて前記被接触体の前記力の作用点の候補点を算出し、
前記候補点の中から前記作用点を決定する、ことを含み、
前記作用点を決定することは、前記第1のセンサでのセンシングのタイミングが異なる複数の前記力のセンシング結果から前記候補点それぞれについて位置の変化速度に相当する指標値を求め、前記指標値に基づいて前記作用点を決定することを含む
演算装置。
【請求項2】
前記作用点を決定することは、複数の前記候補点のうち、前記変化速度の最も遅い前記候補点を前記作用点と決定することを含む
請求項に記載の演算装置。
【請求項3】
前記候補点を算出することは、予め記憶している前記被接触体の形状データと前記作用線との交点を算出することを含む
請求項1又は2に記載の演算装置。
【請求項4】
前記作用点を決定することは、前記力のセンシング結果に含まれる前記力の向きを用いて、前記候補点のうち、前記力の向きから得られる成分が、各前記候補点に対応した許容される向きの範囲にない点を除くことを含む
請求項1~のいずれか1項に記載の演算装置。
【請求項5】
前記許容される向きの範囲は、前記候補点に対する前記接触が可能な向きに基づいて規定される
請求項4に記載の演算装置。
【請求項6】
前記入力部は、さらに、第2のセンサによる、前記被接触体の形状のセンシング結果の入力を受け付け可能であり、
前記候補点を算出することは、前記被接触体の形状データを前記形状のセンシング結果に基づいて変形させ、変形後の前記被接触体の形状データを用いることを含む
請求項1~のいずれか一項に記載の演算装置。
【請求項7】
前記被接触体の形状データは三次元形状データである
請求項1~のいずれか一項に記載の演算装置。
【請求項8】
前記被接触体の形状データは口腔ケアモデルの形状データである
請求項1~のいずれか一項に記載の演算装置。
【請求項9】
前記処理は、決定された前記作用点と、前記力のセンシング結果に含まれる前記力の大きさと、を関連付けたデータを出力することをさらに含む
請求項1~のいずれか一項に記載の演算装置。
【請求項10】
接触によって被接触体に与えられた力の作用線を検出可能な第1のセンサからの前記力のセンシング結果を用いた処理を行う演算装置であって、
前記力のセンシング結果の入力を受け付け可能な入力部と、
前記処理を実行するプロセッサと、を備え、
前記処理は、
前記力のセンシング結果から得られる前記力の作用線と、予め記憶している前記被接触体の形状データとを用いて前記被接触体の前記力の作用点の候補点を算出し、
前記候補点の中から前記作用点を決定する、ことを含み、
前記処理は、前記被接触体の単位範囲ごとに、単位時間あたりの前記単位範囲に含まれる前記作用点に与えられた前記力の大きさの合計値、及び、前記単位範囲に含まれる前記作用点に前記力が与えられていた時間の合計値、の少なくとも一方を示すデータを出力することを含む
算装置。
【請求項11】
前記データを出力することは、ディスプレイに表示させることを含む
請求項9又は10に記載の演算装置。
【請求項12】
前記ディスプレイに表示させることは、前記データとともに、前記被接触体を表す画像も表示させることを含む
請求項11に記載の演算装置。
【請求項13】
前記第1のセンサは力覚センサである
請求項1~12のいずれか一項に記載の演算装置。
【請求項14】
被接触体に取り付け可能で、取り付けた前記被接触体に接触によって与えられた力の作用線を検出可能なセンサと、
前記センサと通信することでセンシング結果を取得し、前記力のセンシング結果を用いた処理を行う演算装置と、を備え、
前記処理は、
前記力のセンシング結果から得られる前記力の作用線と、予め記憶している前記被接触体の形状データとを用いて前記被接触体の前記力の作用点の候補点を算出し、
前記候補点の中から前記作用点を決定する、ことを含み、
前記作用点を決定することは、前記センサでのセンシングのタイミングが異なる複数の前記力のセンシング結果から前記候補点それぞれについて位置の変化速度に相当する指標値を求め、前記指標値に基づいて前記作用点を決定することを含む
センサシステム。
【請求項15】
前記センサは、前記形状データの座標系に応じた位置関係で前記被接触体に取り付けるための位置決め機構を有する
請求項14に記載のセンサシステム。
【請求項16】
コンピュータを、接触によって被接触体に与えられた力の作用線を検出可能な第1のセンサからのセンシング結果を用いた処理を行う演算装置として機能させるコンピュータプログラムであって、
前記処理は、
前記力のセンシング結果から得られる前記力の作用線と、予め記憶している前記被接触体の形状データとを用いて前記被接触体の前記力の作用点の候補点を算出し、
前記候補点の中から前記作用点を決定する、ことを含み、
前記作用点を決定することは、前記第1のセンサでのセンシングのタイミングが異なる複数の前記力のセンシング結果から前記候補点それぞれについて位置の変化速度に相当する指標値を求め、前記指標値に基づいて前記作用点を決定することを含む
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、演算装置、センサシステム、及び、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
口腔ケアにおいて磨く位置は重要であるにも関わらず、そのトレーニングにおいて、トレーナーがトレーニーに対して適切な位置を伝えることは難しい。すなわち、連続的な接触を伴う技能の教育において、被接触体に接触する位置を正確に表現することが難しい。一般的には、トレーニーはトレーナーの模範動作を見て磨く位置などの接触する位置を確認している。
【0003】
口腔ケア用トレーニングについて、特開2018-173504号公報(以下、特許文献1)は、歯列を構成する個々の歯に圧力センサを取り付けた口腔再現モデルを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-173504号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1のように圧力センサなどの接触を検出するセンサを用いる場合、接触した位置を正確に検出するためには、接触する位置又はその近傍にセンサを設置する必要がある。また、位置の検出精度を上げるには数多く設けることが望まれる。
【0006】
しかしながら、特許文献1のように個々の歯に圧力センサを取り付けると、圧力センサに接続された通信線が多くなり、配線や取り扱いが煩雑になる。また、サイズによっては圧力センサを取り付けることが難しい場合もある。また、薬剤を塗布したり水洗したりするような使い方が制約される場合もある。
【0007】
本開示は、使い勝手を損なうことなく被接触体に接触した正確な位置を検出可能な演算装置、センサシステム、及び、コンピュータプログラムを提供するものである。
【0008】
ある実施の形態に従うと、演算装置は、接触によって被接触体に与えられた力の作用線を検出可能な第1のセンサからの力のセンシング結果を用いた処理を行う演算装置であって、力のセンシング結果の入力を受け付け可能な入力部と、処理を実行するプロセッサと、を備え、処理は、力のセンシング結果から得られる力の作用線と、予め記憶している被接触体の形状データとを用いて被接触体の力の作用点の候補点を算出し、候補点の中から作用点を決定する、ことを含む。
【0009】
他の実施の形態に従うと、センサシステムは、被接触体に取り付け可能で、取り付けた被接触体に接触によって与えられた力の作用線を検出可能なセンサと、センサと通信することでセンシング結果を取得し、センシング結果を用いた処理を行う演算装置と、を備え、処理は、力のセンシング結果から得られる力の作用線と、予め記憶している被接触体の形状データとを用いて被接触体の力の作用点の候補点を算出し、候補点の中から作用点を決定する、ことを含む。
【0010】
他の実施の形態に従うと、コンピュータプログラムは、コンピュータを、接触によって被接触体に与えられた力の作用線を検出可能な第1のセンサからのセンシング結果を用いた処理を行う演算装置として機能させるコンピュータプログラムであって、処理は、力のセンシング結果に含まれる力の作用線と、予め記憶している被接触体の形状データとを用いて被接触体の力の作用点の候補点を算出し、候補点の中から作用点を決定する、ことを含む。
【0011】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態に係るセンサシステムの構成の概略図である。
図2図2は、センサシステムに含まれるセンサの、受力体の上面図であって、口腔ケアモデルに取り付けるための位置決め機構を説明するための図である。
図3図3は、センサシステムに含まれる演算装置の構成を表すブロック図である。
図4図4は、演算装置での演算を説明するための図であって、口腔ケアモデルの歯茎形状の表し方を説明するための図である。
図5図5は、演算装置での演算を説明するための図であって、候補点を説明するための図である。
図6図6は、演算装置での演算を説明するための図であって、候補点の座標の算出に用いる数式を表した図である。
図7図7は、演算装置での演算を説明するための図であって、作用点に与えられる力の角度関係を表した図である。
図8図8は、演算装置での演算を説明するための図であって、候補点を絞り込むために用いられる条件を説明するための図である。
図9図9は、演算装置での演算を説明するための図であって、候補点の位置の移動速度を説明するための図である。
図10図10は、演算装置での演算を説明するための図であって、位置の移動速度に基づく作用点の決定を説明するための図である。
図11図11は、演算装置での処理の流れを表したフローチャートである。
図12図12は、センサシステムでの表示画面の一例を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.演算装置、センサシステム、及び、コンピュータプログラムの概要>
【0014】
(1)実施の形態に係る演算装置は、接触によって被接触体に与えられた力の作用線を検出可能な第1のセンサからの力のセンシング結果を用いた処理を行う演算装置であって、力のセンシング結果の入力を受け付け可能な入力部と、処理を実行するプロセッサと、を備え、処理は、力のセンシング結果から得られる力の作用線と、予め記憶している被接触体の形状データとを用いて被接触体の力の作用点の候補点を算出し、候補点の中から作用点を決定する、ことを含む。
【0015】
被接触体は、接触する対象となる物体であって、例えば、口腔ケアモデルである。この場合、接触は、例えば、ブラシなどによる口腔ケアモデルに対するブラッシングである。第1のセンサは、取り付けられた被接触体に与えられた力の、座標系成分の大きさ、方向、及び、原点に働くモーメントを検出可能なセンサであって、例えば力覚センサである。演算装置は、例えばコンピュータであって、入力部は、例えば、第1のセンサを接続し、センシング結果の入力を受け付けるインタフェースである。被接触体の形状データは、例えば、被接触体の形状を座標で表す式である。被接触体に接触によって力が与えられた作用点が決定されることで、被接触体に接触した正確な位置が得られる。
【0016】
(2)好ましくは、作用点を決定することは、第1のセンサでのセンシングのタイミングが異なる複数の力のセンシング結果から候補点それぞれについて位置の変化速度に相当する指標値を求め、指標値に基づいて作用点を決定することを含む。被接触体に対して連続的な接触を行っている場合、被接触体の表面の形状に応じて作用線の傾きが変化し、それによって候補点ごとに位置の変化速度が異なる。そのため、位置の変化速度を利用することで、候補点の中から作用点を決定することができる。
【0017】
(3)好ましくは、作用点を決定することは、複数の候補点のうち、変化速度の最も遅い候補点を作用点と決定することを含む。作用点の変化に伴って作用線は、作用点、つまり、接触した位置を中心にして、作用点から離れるほど存在する範囲が広がるように変化する。そのため、変化速度の最も遅い候補点を作用点と決定することができる。
【0018】
(4)好ましくは、候補点を算出することは、予め記憶している被接触体の形状データと作用線との交点を算出することを含む。これにより得られた複数の交点を候補点として得ることができる。
【0019】
(5)好ましくは、作用点を決定することは、力のセンシング結果に含まれる力の向きを用いて、候補点のうち、力の向きから得られる成分が、各候補点に対応した許容される向きの範囲にない点を除くことを含む。これにより、候補点の数を減じることができ、計算量を減じることができる。
【0020】
(6)好ましくは、許容される向きの範囲は、候補点に対する接触が可能な向きに基づいて規定される。接触によって与えられる力の作用点であるため、力の方向が接触が可能な方向のためである。
【0021】
(7)好ましくは、入力部は、さらに、第2のセンサによる、被接触体の形状のセンシング結果の入力を受け付け可能であり、候補点を算出することは、被接触体の形状データを形状のセンシング結果に基づいて変形させ、変形後の形状データを用いることを含む。これにより、被接触体が変形した場合であっても作用点を得ることができる。
【0022】
(8)好ましくは、被接触体の形状データは三次元形状データである。これにより、実際の被接触体の形状により近い形状データを用いることができ、精度よく作用点を得ることができる。
【0023】
(9)好ましくは、被接触体の形状データは口腔ケアモデルの形状データである。これにより、口腔ケアにおけるブラッシングの位置を検出することができる。
【0024】
(10)好ましくは、処理は、決定された作用点と、力のセンシング結果に含まれる力の大きさと、を関連付けたデータを出力することをさらに含む。データの出力は、演算装置の外部への出力であって、例えば、後述のディスプレイでの表示、他の装置への送信、などである。これにより、検出結果を外部から知ることができる。
【0025】
(11)好ましくは、処理は、被接触体の単位範囲ごとに、単位時間あたりの単位範囲に含まれる作用点に与えられた力の大きさの合計値、及び、単位範囲に含まれる作用点に力が与えられていた時間の合計値、の少なくとも一方を示すデータを出力することを含む。単位範囲は、被接触体の形状データを所定サイズに分割して設定された、出力のための単位となる範囲を指す。単位範囲ごとに出力されることで、単位範囲ごとの与えられた力の大きさや接触時間の傾向を知ることができる。
【0026】
(12)好ましくは、データを出力することは、ディスプレイに表示させることを含む。これにより、ディスプレイの表示で把握することができる。
【0027】
(13)好ましくは、ディスプレイに表示させることは、データとともに、被接触体を表す画像も表示させることを含む。これにより、ディスプレイの表示で作用点などを把握することができるとともに、用いた被接触体も把握できる。
【0028】
(14)好ましくは、第1のセンサは力覚センサである。これにより、取り付けられた被接触体に与えられた力の、座標系成分の大きさ、方向、及び、原点に働くモーメントが検出される。
【0029】
(15)実施の形態に係るセンサシステムは、被接触体に取り付け可能で、取り付けた被接触体に接触によって与えられた力の作用線を検出可能なセンサと、センサと通信することでセンシング結果を取得し、センシング結果を用いた処理を行う演算装置と、を備え、処理は、力のセンシング結果から得られる力の作用線と、予め記憶している被接触体の形状データとを用いて被接触体の力の作用点の候補点を算出し、候補点の中から作用点を決定する、ことを含む。被接触体に接触によって力が与えられた作用点が決定されることで、被接触体に接触した正確な位置が得られる。
【0030】
(16)好ましくは、センサは、形状データの座標系に応じた位置関係で被接触体に取り付けるための位置決め機構を有する。これにより、センサを、記憶されている形状データの座標系に応じた位置で被接触体に取り付けることができ、位置ずれによる精度の低下を防止できる。
【0031】
(17)実施の形態に係るコンピュータプログラムは、コンピュータを、接触によって被接触体に与えられた力の作用線を検出可能な第1のセンサからのセンシング結果を用いた処理を行う演算装置として機能させるコンピュータプログラムであって、処理は、力のセンシング結果から得られる力の作用線と、予め記憶している被接触体の形状データとを用いて被接触体の力の作用点の候補点を算出し、候補点の中から作用点を決定する、ことを含む。これにより、汎用のコンピュータを(1)~(14)の演算装置として機能させることができるとともに、(15),(16)のセンサシステムの構築に用いることができる。
【0032】
<2.演算装置、センサシステム、及び、コンピュータプログラムの例>
【0033】
本実施の形態に係るセンサシステム100は、被接触体に接触によって与えられた力を検出してその検出結果を処理するシステムの一例として、口腔ケアモデルへのブラシなどの接触によって与えられた力を検出するシステムである。
【0034】
図1を参照して、センサシステム100は、演算装置10と、センサ20と、を含む。センサ20は、被接触体に取り付け可能である。被接触体は、外周からの接触によって力を与えられる物体を指し、この例では口腔ケアモデル30である。センサ20は口腔ケアモデル30に取り付けられ、口腔ケアモデル30に接触によって与えられた力の作用線を検出可能である。
【0035】
センサ20は、取り付けられた被接触体に与えられた力の、座標系成分の大きさ、方向、及び、原点に働くモーメントを検出可能なセンサである。好ましくは、センサ20は、z軸、y軸、及び、z軸の三次元でセンシング可能である。センサ20は、一例として力覚センサである。
【0036】
センサ20は、板状の受力体21を有し、受力体21を口腔ケアモデル30の底面に接するように口腔ケアモデル30に取り付けられる。言い換えると、口腔ケアモデル30は、センサ20の受力体21に載置される。
【0037】
口腔ケアモデル30は歯列を有して、口腔ケアの訓練、教育において、適切なブラッシングを学ぶために用いられる。トレーニーは、口腔ケアモデル30の歯列に対して、ブラシを接触させ、ブラッシングなどのトレーニングを行う。
【0038】
センサ20は、受力体21を上面としたとき、下面には板状の支持体22が設けられ、受力体21と支持体22との間に変形体23が配置されている。センサ20は、変形体23の変形状態を電気的に検出することで、受力体21に載置された被接触体に与えられた力の大きさと、その位置及び方向と、つまり、口腔ケアモデル30に与えられた力の作用線を検出する。
【0039】
センサ20は、口腔ケアモデル30に取り付けるための位置決め機構を有する。位置決め機構は、一例として、図2に示されたようなガイド211~213である。詳しくは図2を参照して、口腔ケアモデル30を載置するセンサ20の受力体21の上面21Aには、口腔ケアモデル30の奥行方向を固定するガイド211,212と、横方向の中心を固定するためのガイド213と、が設けられている。ガイド211~213は、例えば、上面21Aにプリントされた線や窪み突起などである。
【0040】
上面21Aにガイド211~213が設けられていることにより、センサ20の受力体21の上面21Aの、規定された位置に、口腔ケアモデル30を設置することができる。これにより、後述する処理における演算精度を向上させることができる。
【0041】
センサ20と演算装置10とは通信線40で接続され、センサ20のセンシング結果SGは演算装置10に入力される。センサ20と演算装置10とは無線通信を行ってもよい。演算装置10は一般的なコンピュータで構成されて、センサ20からのセンシング結果SGを用いた処理を行う。センシング結果SGを用いた処理については後述する。
【0042】
演算装置10には、出力装置であるディスプレイ50と、操作入力を行うための入力装置60とが接続されている。また、演算装置10には、図1に示されたように、後述するカメラ70がさらに接続されていてもよい。カメラ70は本センサシステム100に必須のものではない。演算装置10にカメラ70が接続されている場合、演算装置10は、カメラ70から撮影画像の画像データIMの入力を受け付け、後述する演算に用いてもよい。
【0043】
演算装置10は、プロセッサ11とメモリ12とを有するコンピュータで構成される。メモリ12は、一次記憶装置であってもよいし、二次記憶装置であってもよい。メモリ12は、プロセッサ11によって実行されるコンピュータプログラム121を記憶している。
【0044】
メモリ12は、さらに、口腔ケアモデル30のモデル形状データM1を記憶する形状データ記憶部122を有している。モデル形状データM1は後述する演算で用いられる口腔ケアモデル30の形状を表すデータである。これにより、後述する処理に口腔ケアモデル30の形状を表すデータを用いることができる。
【0045】
なお、形状データ記憶部122は、さらに、サイズの異なるモデル形状データM2を記憶していてもよい。これにより、プロセッサ11は、処理に用いる口腔ケアモデル30の座標を適したモデル形状データとすることができる。
【0046】
演算装置10は、センサ20と接続するためのセンサI/F(インタフェース)13を有する。センサI/F13は、センサ20からのセンシング結果SGの入力を受け付け可能な入力部として機能する。
【0047】
演算装置10は、後述するカメラ70と接続するためのカメラI/F14を有する。カメラI/F14は、カメラ70からの画像データIMの入力を受け付け可能な入力部として機能する。
【0048】
プロセッサ11は、メモリ12に記憶されているプログラム121を実行することで、センサ20からのセンシング結果SGを用いた処理を行う。センシング結果SGを用いた処理は、センシング結果SGから得られる、口腔ケアモデル30に与えられた力の作用線と、予め記憶しているモデル形状データM1とを用いて口腔ケアモデル30の力の作用点を決定する演算を含む。
【0049】
プロセッサ11の実行する作用点を決定する演算は、候補点算出処理111を含む。候補点算出処理111は、センサ20からのセンシング結果SGとモデル形状データM1とを用いて候補点を算出する処理である。候補点は、作用点の候補となる点である。候補点を算出することは、モデル形状データM1とセンシング結果SGに含まれる作用線との交点を算出することを含む。なお、詳細については後述する。
【0050】
好ましくは、候補点算出処理111は、補正処理112を含む。補正処理112は、用いるモデル形状データM1をセンサ20と口腔ケアモデル30との位置関係に応じて補正する処理である。センサ20と口腔ケアモデル30との位置関係を識別する方法は特定の方法に限定されない。一例として、演算装置10にカメラ70が接続されている場合には、プロセッサ11は、カメラ70からの画像データIMに基づいてセンサ20に対する口腔ケアモデル30の位置関係を識別することができる。他の方法によって識別してもよい。補正処理112で、プロセッサ11は、識別した位置関係に基づいてモデル形状データM1を補正する。これにより、位置関係が規定された関係よりずれた場合であっても演算精度を確保できる。
【0051】
好ましくは、候補点算出処理111は、変形処理113を含む。変形処理113は、用いるモデル形状データM1を口腔ケアモデル30の変形に応じて変形させる処理である。口腔ケアモデル30の変形を検出する方法は特定の方法に限定されない。一例として、演算装置10にカメラ70が接続されている場合には、プロセッサ11は、カメラ70からの画像データIMに基づいて口腔ケアモデル30の変形を検出することができる。他の方法によって検出してもよい。変形処理113で、プロセッサ11は、検出した変形に基づいてモデル形状データM1を変形させる。これにより、口腔ケアモデル30が変形した場合であっても演算精度を確保できる。
【0052】
プロセッサ11の実行する作用点を決定する演算は、作用点決定処理114を含む。作用点決定処理114は、候補点算出処理111によって算出された候補点の中から作用点を決定する処理である。その際に、好ましくは、作用点決定処理114は、絞り込み処理115を含む。絞り込み処理115は、候補点算出処理111によって算出された複数の候補点を絞り込む処理であって、予め規定された絞り込み条件を用いて候補点とならない点を候補点から除く処理である。詳細は後述する。これにより、演算対象とする候補点の数を減じることができ、処理量を減らすことができる。
【0053】
作用点決定処理114は、速度算出処理116を含む。速度算出処理116は、センサ20でのセンシングのタイミングが異なる複数のセンシング結果SGから、候補点それぞれについて位置の変化速度に相当する指標値を求める処理である。変化速度に相当する指標値は、速度そのものであってもよい。作用点決定処理114は、候補点それぞれについての位置の変化速度に基づいて作用点を決定する。詳細は後述する。
【0054】
プロセッサ11はプログラム121を実行することで、さらに、表示処理117を実行する。表示処理117は、作用点決定処理114によって決定された作用点と、センシング結果SGに含まれる力の大きさと、を関連付けたデータを出力する処理であって、一例とし画面データを生成し、ディスプレイ50に表示させる処理である。他の例として、図示しない通信機を含む場合、送信データを生成して他の装置に送信させてもよい。
【0055】
図4図10を用いて、作用点を決定する演算の原理について説明する。用いられる口腔ケアモデル30のためのモデル形状データM1,M2は3次元座標系で定義されるものであるが、ここでは、説明を簡易にするために2次元モデルを用いる。すなわち、口腔ケアモデル30の歯茎形状を2次元平面で定義する。
【0056】
始めに、図4図6を用いて、プロセッサ11の実行する候補点算出処理111について説明する。図4を参照して、口腔ケアモデル30の歯列(歯茎)の外側及び内側、つまり、歯茎形状の外側及び内側を、長軸ai、短軸bi、及び、離心距離eiを用いて、それぞれ、式(1)及び式(2)で示される楕円T1,T2で定義する。式(1)、式(2)、及びこれらを表した図4のグラフでは、x軸を歯茎形状の奥行方向、y軸を歯茎形状の横幅方向に一致させ、x値が大きくなる方向を歯茎の前方とする。x値の閾値xthは歯茎の最も奥の位置に相当するx値である。メモリ12の形状データ記憶部122に記憶されているモデル形状データM1は、一例として、式(1)及び式(2)の組み合わせである。
【0057】
センサ20は、モデル形状データM1の原点Oに対応する位置に取り付けられる。センサ20は、力Fのx軸方向の成分(x成分)Fx、y軸方向の成分(y成分)Fy、及び、原点O周りのモーメントMが検出される。演算装置10は、これらの値をセンシング結果SGから得ることができる。
【0058】
モーメントMは、x成分Fx及びy成分Fy用いて図5の式(3-1)で表される。式(3-1)を変形することで、力Fの作用線L1の式(3)が得られる。従って、演算装置10のプロセッサ11は、センサ20からのセンシング結果SGから得られるx成分Fx、y成分Fy、及び、モーメントMを用いて、式(3)で作用線L1を算出できる。
【0059】
作用点は、ブラシなどが口腔ケアモデル30の歯列の表面に接触する点であるため、式(1)及び式(2)で表された楕円T1,T2上に存在する。従って、作用点は、式(1)又は式(2)上の座標(xc,yc)で表される。また、作用点は作用線上にある。従って、図5に示されたように、作用点は、楕円T1,T2それぞれと作用線L1との交点P11,P12、及び、P13,P14で得られる。
【0060】
具体的には、プロセッサ11は候補点算出処理111において、図6に示されたように、式(1)と式(3)とを連立させた計算C1、及び、式(2)と式(3)とを連立させた計算C2によって、式(5)及び式(6)で表される解C3を得る。解C3は座標(xc,yc)で得られる。なお、式(5)及び式(6)中の定数C,Dは、それぞれ、図6の式(7),(8)で示されるものである。式(5),(6)より、解C3は座標(xc,yc)で表される4つの解である。つまり、候補点として交点P11,P12、及び、P13,P14が得られる。
【0061】
次に、図7図9を用いて、プロセッサ11の実行する作用点決定処理114について説明する。図7は、作用点Aにおける力Fの角度関係を表している。すなわち、図7を参照して、力Fの水平に対する角度θ1は、x成分Fx及びy成分Fyを用いて式(9)で表される。また、楕円T1,T2の作用点Aにおける接線の水平に対する角度θ2は、楕円T1,T2の式(1),(2)を用いて式(10)で表される。作用点Aにおける接線TNに対する力Fの角度φは、θ1とθ2との差である式(11)で表される。また、力Fの作用点Aにおける接線TN方向の成分(接線力)Fn、及び、法線方向の成分(法線力)Fvは、角度φを用いてそれぞれ式(13),(14)で表される。
【0062】
作用点決定処理114の絞り込み処理115では、候補点である交点P11~P14それぞれでの法線力Fvを算出し、法線力Fvが予め記憶している絞り込み条件に合致していない点を候補点から除く。絞り込み条件は、法線力の向きであって、候補点の位置ごとに予め設定されている。図8の例では、交点P11~P14それぞれについて、候補点での法線力の向きの許容範囲R1~R4が設定されている。絞り込み処理115では、法線力Fvの向きが許容範囲にない点が候補点から除く。
【0063】
法線力の向きの許容範囲は、口腔ケアモデル30にブラシ等により接触可能な向きに基づいて規定されるものである。すなわち、口腔ケアモデル30にブラシが外側から接触可能な向きに基づき、法線力が歯茎の内に向く方向となる範囲に設定されている。許容範囲は、予め設定されていてもよいし、楕円T1,T2の上の点の座標値から算出されてもよい。
【0064】
絞り込み処理115では、法線力Fvの向きが許容範囲にない点が候補点から除かれる。言い換えると、絞り込み処理115では、算出された複数の候補点のうち、法線力Fvの向きが歯茎から離れる向きである点が候補点から除かれる。図8の例では、交点P11~P14のうち、交点P12及び交点P13が候補点から除かれる。
【0065】
なお、絞り込み処理115では、より簡易には、力Fのx成分Fx及びy成分Fyのうちの少なくとも一方を用いて、許容範囲にない点を候補点から除いてもよい。これにより、すべての候補点について法線力Fvを算出するよりも簡易に候補点の絞り込みができる。すなわち、絞り込み処理115では、力Fの向きから得られる成分が、各候補点に対応した許容範囲にない点を除く処理と言える。
【0066】
次に、作用点決定処理114では、速度算出処理116を実行して候補点それぞれについての位置の変化速度を算出する。図9を用いて、位置の変化速度について説明する。口腔ケアモデル30にブラシを接触させてブラッシング動作を行う場合、ブラシが接触する位置、つまり、与えられる力Fの作用点は連続的に変化する。これに伴い、作用線の傾きが変化する。特に、口腔ケアモデル30の接触可能な面である歯茎は曲面であるため、作用点の変化に伴う作用線の傾きの時間変化が大きい。作用点の変化に伴って作用線は、作用点、つまり、接触した位置を中心にして、作用点から離れるほど存在する範囲が広がるように変化する。
【0067】
これに関して、図9では、同一の点とみなされる程度に歯茎表面の点Q1でわずかにブラッシング動作を行った場合を表している。点Q1に与えられる力は、力f1,f2と変化する。力f1,f2それぞれの作用線AL1,M2は、歯茎の他の位置で交点Q2,Q3を持つ。交点Q2,Q3は同一の候補点であって、センサ20でのセンシングのタイミングが異なる2つのセンシング結果それぞれで得られる候補点のうちの位置の近いものとして検出される。
【0068】
点Q1は楕円上の点であって曲面を移動することから、作用線AL1,M2の方向の変化が大きい。その結果、交点Q2,Q3の間隔は、交点Q1の移動間隔よりも大きい。そのため、交点Q2,Q3に相当する候補点の位置の変化速度の方が、交点Q1に相当する候補点の位置の変化速度よりも大きい。
【0069】
この性質を利用して、算出された候補点のうち、センシングのタイミングが異なるセンシング結果から得られたそれぞれに対応した位置への変化速度の最も遅い候補点を作用点とすることができる。
【0070】
候補点における位置の変化速度viは、候補点(xc,yc)と、△t秒後の候補点の座標を(xciold,yciold)とを用いて、図9の式(15)で表される。速度算出処理116では、算出された各候補点、又は、算出され、絞り込み処理115によって絞り込まれた後の候補点ごとに変化速度viを算出する。そして、これらを比較して最も変化速度viの小さいものを作用点に決定する。
【0071】
図10の例の場合、絞り込み処理115によって絞り込まれた候補点である交点P11及びP14それぞれの変化速度v1、v2を算出する。その結果、図10に示されたようにv1<v2であるため、交点P11が作用点と決定される。
【0072】
なお、作用点の決定に、変化速度viに相当する他の指標値を用いてもよい。他の指標値は、例えば、点の間隔である。点の間隔を用いる場合、間隔が最も小さい候補点を作用点とする。
【0073】
図11は、演算装置10のプロセッサ11での処理の流れの一例を表したフローチャートである。図11の処理は、例えば、口腔ケアのトレーニングの開始と共に開始される。その際、一例として、オペレータは演算装置10の入力装置60を用いて処理の開始を指示するとともに、トレーニングに用いる口腔ケアモデル30のサイズなどを指示する。
【0074】
プロセッサ11は、入力装置60からの指示信号に従ってプログラム121を読み出して実行する。それによって処理が開始する。初めに、プロセッサ11は、入力装置60からの指示信号によって指定された口腔ケアモデル30の対応したモデル形状データM1をメモリ12から読み出す(ステップS101)。
【0075】
好ましくは、プロセッサ11は、読み出したモデル形状データM1の座標系を口腔ケアモデル30の位置ずれに応じて補正する(ステップS103)。ステップS103でプロセッサ11は、一例として、カメラ70で撮影されることによって得られた画像データIMを解析し、口腔ケアモデル30のガイド211~213からの位置ずれを検出する。位置ずれは、他の方法で検出されてもよい。ステップS103では、モデル形状データM1の座標を検出された位置ずれに応じて変換するとともに、以降のセンシング結果SGに適用する座標系も変換する。これにより、口腔ケアモデル30にセンサ20を装着する際に位置ずれが生じてもセンシング精度の低下を抑えることができる。
【0076】
好ましくは、プロセッサ11は、読み出したモデル形状データM1の座標系を口腔ケアモデル30の変形に応じて補正する(ステップS105、S107)。プロセッサ11は、一例として、カメラ70で撮影されることによって得られた画像データIMを解析し、口腔ケアモデル30の変形を検出する。変形は、例えば、上顎の下顎に対する角度の変化である。変形が検出された場合(ステップS105でYES)、プロセッサ11は、その変形に応じてモデル形状データM1の座標を変換するとともに、以降のセンシング結果SGに適用する座標系も変換する(ステップS107)。これにより、口腔ケアモデル30に変形が生じてもセンシング精度の低下を抑えることができる。
【0077】
プロセッサ11は、センサ20からの、あるタイミングtにおけるセンシング結果SGを読み込む(ステップS109)。そして、プロセッサ11は、モデル形状データM1に含まれる歯茎形状を楕円T1,T2と、センシング結果SGに含まれる力Fのx成分Fx、y成分Fy、及びモーメントMから得られる力Fの作用線L1との交点P11~P14を算出し(ステップS111)、作用点の候補点とする。
【0078】
プロセッサ11は、ステップS111で得られた候補点それぞれに対して、その点における力Fの向きから得られる成分が、その候補点に対応した方向の許容範囲であるか否かに応じて、候補点を絞り込む(ステップS113)。すなわち、ステップS113でプロセッサは、絞り込みの条件である許容範囲にない点を候補点から除き、候補点の数を減じる。これにより、以降の処理の量を減ずることができる。ステップS113で絞り込まれた候補点は、メモリ12に記憶される(ステップS115)。
【0079】
メモリ12に、タイミングtより以前のタイミングのセンシング結果から得られた候補点が記憶されていない場合であって(ステップS117でNO)、次のタイミング(t+△t)のセンシング結果を読み込むことができる場合(ステップS127でYES)、プロセッサ11は、ステップS105からの処理を繰り返す。これにより、次のタイミング(t+△t)のセンシング結果から候補点が算出され、メモリ12に記憶される。
【0080】
この場合、前回のタイミングtでの候補点がメモリ12に記憶されているので(ステップS117でYES)、プロセッサ11は、これら2つのタイミングt,(t+△t)で得られた対応する候補点について位置の変化速度viを算出し(ステップS119)、変化速度viが最も小さい点を作用点と決定する(ステップS121)。
【0081】
以上の処理によって作用点が決定されると、プロセッサ11はディスプレイ50で表示させるための表示データを生成し(ステップS123)、ディスプレイ50に渡して表示を指示する(ステップS125)。ステップS123では、以上の処理で決定された作用点と、力Fの大きさと、を関連付けたデータを表示させる表示データを生成する。
【0082】
プロセッサ11は、以上の処理を繰り返す。それにより、処理が終了するまで、ステップS125の表示が更新され続ける。すなわち、口腔ケアモデル30を用いたブラッシング動作に応じて、リアルタイムにディスプレイ50に作用点、つまり、ブラシが接触した箇所と歯茎に与えられた力Fとが表示されることになる。
【0083】
以上の処理は、一例として、センサ20からセンシング結果が入力されている間、つまり、ブラッシング動作が行われている間(ステップS127でYES)、継続される。言い換えると、センサ20からセンシング結果が入力されないと(ステップS127でNO)、プロセッサ11は処理を終了する。他の例として、プロセッサ11は、入力装置60からの指示入力に従って処理を終了してもよい。
【0084】
上記のように、モデル形状データM1は三次元形状を表す三次元座標系の形状データであってもよい。その場合、式(1)~式(15)を、z軸方向の成分を有する三次元の式とすればよい。これにより、モデル形状データM1を実際の口腔ケアモデル30に近づけることができ、作用点、つまり、ブラシを接触させる位置や力Fの方向がより分かりやすくなる。
【0085】
ディスプレイ50には、一例として図12に表された画面51が表示される。画面51は、モデル形状データM1が三次元座標系の形状データである場合の画面である。詳しくは、図12を参照して、画面51は、作用点と力Fの大きさとを関連付けたデータを表示する領域52を含む。
【0086】
作用点と力Fの大きさとを関連付けたデータは、例えば、作用点の属する単位範囲ごとの、その範囲に含まれる作用点それぞれに与えられた力Fの大きさの統計値、及び、領域ごとの接触されていた合計時間、などである。単位範囲は、モデル形状データM1に対して設定された、表示のための単位となる範囲であって、図12の例では、歯茎形状を下顎、上顎それぞれの左右前後に区分した8つの範囲が設定されている。単位範囲ごとに表示されることで、単位範囲ごとの与えられた力Fの大きさや接触時間の傾向を知ることができる。
【0087】
与えられた力Fの大きさの統計値は、一例として、規定時間における力Fの大きさの平均値である。また、接触されていた合計時間は、一例として、その範囲に属する作用点を示すセンシング結果が得られたセンシングのタイミングの合計時間である。
【0088】
図12の例では、領域252に、単位範囲ごとにその範囲に含まれる作用点に与えられた力Fの大きさの平均値と、その範囲に接触した時間の合計時間との表示521が含まれている。好ましくは、単位範囲ごとに与える力Fの統計値、及び/又は、接触時間の合計時間の閾値を設定しておき、領域52に閾値との比較結果を併せて表示する。図12の例では、単位範囲ごとに比較結果を表す画像522が表示されて、画像522の色によって比較結果が示されている。
【0089】
好ましくは、画面51は、口腔ケアモデル30に対するブラッシング動作を視覚的に表示する領域53を含む。領域53は、口腔ケアモデル30の視覚的な表示531と、力Fに関する表示532と、を含む。表示532は、一例として、口腔ケアモデル30の歯茎上の点から伸びる線分であって、歯茎上の点が力Fの作用点、線分の長さ又は太さが力Fの大きさ、及び、線分の方向が力Fの方向を表すように表示531に対して配置される。
【0090】
領域52の表示521により、領域ごとにブラッシングの強度と時間とを知ることができる。口腔ケアなどの連続的な接触を伴う技能は、一般的に、位置や角度や強度や時間などが明確になりにくい。そのため、その適否を判定したりトレーニングなどで人に伝えたりすることが困難である。その点、本センサシステム100を用いると、口腔ケアモデル30に対する接触の位置が与えられた力Fの作用点として特定され、ディスプレイ50に表示されるなど出力される。併せて、力Fの大きさや方向や接触時間なども画面51から知ることができる。
【0091】
例えば、トレーナーによる模範動作である場合、領域ごとのブラッシングの強度と時間との模範を表示によって数値や画像で把握できる。これにより、模範動作を見てまねるよりも正確に動作を理解することができる。また、トレーニーのトレーニング動作である場合、トレーナーがトレーニーによる領域ごとのブラッシングの強度と時間とを把握することができる。そのため、適切な指導がしやすくなる。
【0092】
さらに画像522の表示により、領域ごとに適したブラッシング動作であるか否かを一目で把握することができる。また、領域53の表示532により、口腔ケアモデル30に対して行われているブラッシング動作をディスプレイ50上で見ることができるとともに、トレーニングの状況を表す領域52の表示内容と同一の画面で表示されることで見比べることもできる。これにより、指導者がいない状態でも動作を確認することができる。
【0093】
例えば、歯磨き指導などにおいてセンサシステム100を用いることで、実践者のブラッシング動作が適切であるかどうかの判定結果を提示できる。そのため、技術者のみならず学校などで広くセンサシステム100を用いてブラッシング動作のトレーニングや判定を行うことができる。
【0094】
画面51は、図11のフローチャートに表された処理が繰り返されるたびに、つまり、ブラッシング動作中にセンサ20によるセンシングが繰り返されるたびに更新される。センシング間隔を短く設定することで、領域53ではブラッシング動作がリアルタイムに表示されるとともに、領域52の表示の更新によって一連のブラッシング動作の結果を累積的に知ることができる。
【0095】
<3.付記>
開示された演算装置10の処理は、上の説明ではプロセッサ11がコンピュータプログラム121を実行することによって実現されるものとしているが、少なくとも一部が回路素子その他のハードウェアによって実現されてもよい。
【0096】
演算装置10での処理を実現するプログラム121は、コンピュータ読取り可能である非一時的な記録媒体に記録されたプログラム製品として提供されてもよい。又は、プログラム121は、ネットワークを介したダウンロードによって提供されてもよい。
【0097】
演算装置10での処理を実現するプログラム121は、演算装置10での処理のためのプログラムコードを有する。プログラム121は、プログラム121が格納されたメモリ12に接続されたプロセッサ11によって読み取られ、実行される。
【0098】
演算装置10での処理を実現するプログラム121は、アプリケーションプログラムとして提供されてもよいし、その一部または全部が、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)に含まれていてもよい。
【0099】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0100】
10 :演算装置
11 :プロセッサ
12 :メモリ
13 :センサI/F
14 :カメラI/F
20 :センサ
21 :受力体
21A :上面
22 :支持体
23 :変形体
30 :口腔ケアモデル
40 :通信線
50 :ディスプレイ
51 :画面
52 :領域
53 :領域
60 :入力装置
70 :カメラ
100 :センサシステム
111 :候補点算出処理
112 :補正処理
113 :変形処理
114 :作用点決定処理
115 :絞り込み処理
116 :速度算出処理
117 :表示処理
121 :コンピュータプログラム
122 :形状データ記憶部
211 :ガイド
212 :ガイド
213 :ガイド
252 :領域
521 :表示
522 :画像
531 :表示
532 :表示
A :作用点
AL1 :作用線
C :定数
C1 :計算
C2 :計算
C3 :解
D :定数
F :力
Fv :法線力
Fx :x成分
Fy :y成分
IM :画像データ
L1 :作用線
M :モーメント
M1 :モデル形状データ
M2 :モデル形状データ
O :原点
P11 :交点
P12 :交点
P13 :交点
P14 :交点
Q1 :交点
Q2 :交点
Q3 :交点
R1 :許容範囲
R2 :許容範囲
R3 :許容範囲
R4 :許容範囲
SG :センシング結果
T1 :楕円
T2 :楕円
TN :接線
ai :長軸
bi :短軸
ei :離心距離
f1 :力
f2 :力
t :タイミング
v1 :変化速度
v2 :変化速度
vi :変化速度
xth :閾値
θ1 :角度
θ2 :角度
φ :角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12