(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】加熱調理器、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20240522BHJP
【FI】
A47J27/00 109G
(21)【出願番号】P 2021117294
(22)【出願日】2021-07-15
【審査請求日】2021-07-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】500201602
【氏名又は名称】シロカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一威
【合議体】
【審判長】水野 治彦
【審判官】岩▲崎▼ 則昌
【審判官】鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-180289(JP,A)
【文献】特開2018-29652(JP,A)
【文献】特開2009-154026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋部により密閉した内鍋を加熱することで前記内鍋内の食材を調理可能な加熱調理器であって、
前記内鍋を加熱する加熱部と、
前記内鍋内の気体を前記加熱調理器の外部へ排気する排気部と、
前記加熱部と前記排気部との動作を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記加熱部を制御して前記密閉された内鍋を加熱し、前記内鍋内の内部圧力を第1の圧力値まで上昇させることと、
前記内部圧力が前記第1の圧力値まで上昇した後、前記内部圧力を前記第1の圧力値で所定の期間において維持するように前記加熱部による前記内鍋の加熱を制御することと、
前記内部圧力を前記第1の圧力値で所定の期間において維持した後、前記内部圧力が第2の圧力値以下となるまで前記加熱部による前記内鍋の加熱を停止することと、
前記内部圧力が前記第2の圧力値以下に下がった後、前記排気部を制御して、前記内鍋内の気体を前記加熱調理器の外部に排出して前記内部圧力を大気圧まで下降させることと、
前記内鍋内の気体を前記加熱調理器の外部に排出により、前記内鍋内の温度が所定温度まで下降した場合に、前記内部圧力を前記大気圧に維持しつつ、前記加熱部により前記内鍋を加熱し、前記所定温度を維持することと
を実行するように構成され
、
前記第1の圧力値は前記内鍋内の食材及び調理方法に応じて予め定められる圧力値であって、60kPaから100kPaの範囲に含まれる値であり、第2の圧力値は40kPaから45kPaの範囲に含まれる値である、加熱調理器。
【請求項2】
前記制御部は、前記内部圧力の値に基づいて、前記内部圧力が第2の圧力値以下となったかどうかを判定する、請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記制御部は、前記加熱部による前記内鍋の加熱を停止した期間が第1の期間に到達したかどうかに基づいて、前記内部圧力が第2の圧力値以下となったかどうかを判定する、請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記第1の期間は、前記内鍋内の食材及び調理方法に応じて予め定められた、前記内部圧力が前記第2の圧力値以下となるのに要する期間である、請求項3に記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記制御部は、前記内鍋内の温度が第1の温度以下となったかどうかに基づいて、前記内部圧力が第2の圧力値以下となったかどうかを判定する、請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項6】
前記第1の温度は、前記第2の圧力値に対応する飽和温度である、請求項5に記載の加熱調理器。
【請求項7】
前記第1の温度は、109度又は110度である、請求項6に記載の加熱調理器。
【請求項8】
前記第1の圧力値は95kPaであり、第2の圧力値は45kPaである、請求項1から7のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項9】
コンピュータを請求項1から
8のいずれか1項に記載の加熱調理器の制御部として動作させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理器、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者の生活の質の維持向上が重要な課題として注目されつつある。中でも、毎日の食事を如何に美味しく楽しめるものとするかは極めて重要である。しかし、高齢に伴う咀嚼力や嚥下力の低下により、咀嚼力や嚥下力に問題のない人には支障のない食品であっても高齢者には食しづらいことがある。咀嚼力や嚥下力の低下は一日の食事量にも影響し、食の楽しみが失われると共に、低栄養状態を招くおそれがある。
【0003】
この課題に対処するために、食品素材や食品原料に処理を施したり、特定の調理器を使用したりすることによって、高齢者でも咀嚼かつ嚥下が可能な軟らかさや流動性を備えた食品や食品素材に加工することが種々提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/190372号パンフレット
【文献】特許第6837187号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では特定の軟化液に一定時間浸漬しておくことが必要であり、準備が煩雑である。また、特許文献2では食品を指す複数の刃を有する専用の調理器を用いる必要があり、汎用性に欠ける。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての加熱調理器は、
蓋部により密閉した内鍋を加熱することで前記内鍋内の食材を調理可能な加熱調理器であって、
前記内鍋を加熱する加熱部と、
前記内鍋内の気体を前記加熱調理器の外部へ排気する排気部と、
前記加熱部と前記排気部との動作を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記加熱部を制御して前記密閉された内鍋を加熱し、前記内鍋内の内部圧力を第1の圧力値まで上昇させることと、
前記内部圧力が前記第1の圧力値まで上昇した後、前記内部圧力を前記第1の圧力値で所定の期間において維持するように前記加熱部による前記内鍋の加熱を制御することと、
前記内部圧力を前記第1の圧力値で所定の期間において維持した後、前記内部圧力が第2の圧力値以下となるまで前記加熱部による前記内鍋の加熱を停止することと、
前記内部圧力が前記第2の圧力値以下に下がった後、前記排気部を制御して、前記内鍋内の気体を前記加熱調理器の外部に排出して前記内部圧力を大気圧まで下降させることと、
前記内鍋内の気体を前記加熱調理器の外部に排出により、前記内鍋内の温度が所定温度まで下降した場合に、前記内部圧力を前記大気圧に維持しつつ、前記加熱部により前記内鍋を加熱し、前記所定温度を維持することと
を実行するように構成され、
前記第1の圧力値は前記内鍋内の食材及び調理方法に応じて予め定められる圧力値であって、60kPaから100kPaの範囲に含まれる値であり、第2の圧力値は40kPaから45kPaの範囲に含まれる値である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての加熱調理器は、
蓋部により密閉した内鍋を加熱することで前記内鍋内の食材を調理可能な加熱調理器であって、
前記内鍋を加熱する加熱部と、
前記内鍋内の気体を前記加熱調理器の外部へ排気する排気部と、
前記加熱部と前記排気部との動作を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記加熱部を制御して前記密閉された内鍋を加熱し、前記内鍋内の内部圧力を第1の圧力値まで上昇させることと、
前記内部圧力が前記第1の圧力値まで上昇した後、前記内部圧力を前記第1の圧力値で所定の期間において維持するように前記加熱部による前記内鍋の加熱を制御することと、
前記内部圧力を前記第1の圧力値で所定の期間において維持した後、前記内部圧力が第2の圧力値以下となるまで前記加熱部による前記内鍋の加熱を停止することと、
前記内部圧力が前記第2の圧力値以下に下がった後、前記排気部を制御して、前記内鍋内の気体を前記加熱調理器の外部に排出することと、
前記内鍋内の気体を前記加熱調理器の外部に排出により、前記内鍋内の温度が所定温度まで下降した場合に、前記加熱部により前記内鍋を加熱し、前記所定の温度を維持することと
を実行するように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、煩雑な準備や専用の器具がなくとも、咀嚼力や嚥下力が低下した人が容易に咀嚼かつ嚥下を可能とする加熱調理品を加工可能な加熱調理器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に対応する加熱調理器の外観構成の一例を示す図。
【
図2】実施形態に対応する加熱調理器のハードウェア構成の一例を示す図。
【
図3】実施形態に対応する加熱調理器における処理の一例を示すフローチャート。
【
図4】実施形態に対応する加熱調理器における処理の一例に対応する時間遷移図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る加熱調理器100について説明する。
図1は、本実施形態の加熱調理器100全体の外観構成の一例を示す正面斜視図である。
図1は、本体部1から蓋部2を取り外した状態を示している。また、ここではX軸方向を加熱調理器100の左右方向、Y軸方向を加熱調理器100の前後方向、Z軸方向を加熱調理器100の上下方向としている。以下の説明において「X軸方向」と記載している場合、それは+X方向および-X方向を含むものとして定義されうる。「Y軸方向」および「Z軸方向」についても同様である。
【0012】
本実施形態の加熱調理器100は、加圧調理器、或いは、電気圧力鍋とも呼ばれる。加熱調理器100は、種々の加熱プログラムに従って内鍋3の加熱制御を行う本体部1と、本体部1の上部に着脱可能(取り外し可能)に取り付けられる蓋部2とを備える。また、調理対象物としての食材が入れられ、蓋部2により密閉された内鍋3に対して加熱を行う加熱制御をすることで内鍋3内の食材を調理可能に構成されている。本実施形態の加熱調理器100は、本体部1から蓋部2を完全に取り外すことができるように、即ち、本体部1と蓋部2とを互いに分離できるように構成されている。
【0013】
本体部1は、内鍋3を収容可能な収容部10と、収容部10に収容された内鍋3を加熱する、
図1には不図示の加熱部(ヒータ)と制御部とを含みうる。収容部10は、上側が開放された有底円筒の形状を有し、本体部1から蓋部2が取り外された状態で、上側開放部から内鍋3を出し入れ自在に構成されている。収容部10は、外鍋とも呼ばれ、例えば金属などによって形成されうる。
【0014】
加熱部は、例えば、収容部10に収容された内鍋3を誘導加熱するための誘導加熱コイルを有していてもよい。また、制御部は、例えばCPUなどのプロセッサおよびメモリを有し、内鍋3内の食材を調理するための所定の加熱プログラムに従って加熱部(誘導加熱コイル)への給電を制御することにより、内鍋3の加熱処理(食材の調理)を制御することができる。
【0015】
また、本体部1の外面には、ユーザによる操作を受け付ける操作部13が設けられる。操作部13は、内鍋3の加熱処理の内容(即ち、内鍋3に入れられた食材の調理内容)を設定・調整するためにユーザによって操作されるユーザインタフェースであり、例えばボタンやダイヤル、ディスプレイなどによって構成されうる。
【0016】
蓋部2は、本体部1の上部に取り付けられ、本体部1の収容部10に対して開閉される。蓋部2は、本体部1の上部に装着される、配置される、或いは、設置されると理解されてもよい。本実施形態の場合、蓋部2は、ハンドル部15および排気機構20の他、不図示の内蓋を備える。内蓋は、蓋部2が本体部1の上部に取り付けられたときに収容部10(内鍋3)の上側開放部を覆い、収容部10(内鍋3)を閉空間にするように構成され、収容部10に固定されうる。
【0017】
ハンドル部15は、蓋部2の開閉動作を行うためにユーザが把持する部分であり、左右方向(X軸方向)に延設するように蓋部2の上面に設けられうる。排気機構20は、内鍋3の内部から機外(外部)へ気体(蒸気)を排出するための機構であり、制御部によって開閉制御される排気弁を含みうる。例えば、排気機構20は、内鍋3内の食材の調理(内鍋3の加熱処理)が終了した場合に、制御部の制御により排気弁24を開き、蓋部2の上面に設けられた排気孔20aから内鍋3の内部の気体を自動排気するように構成されうる。これにより、内鍋3の内部圧力(単に「圧力」とも言う。)を低減させ、大気圧(機外の圧力)に近づけることができる。ここで、排気機構20は、蓋部2の上面に設けられた排気ボタン16がユーザによって押下された場合に、機械的に排気弁を開き、内鍋3の内部から機外へ気体を排気(強制排気)するように構成されてもよい。また、ソレノイド等の駆動部を駆動させて排気弁24を動作させることにより自動排気を行うように構成されていてもよい。当該駆動部は、内鍋3の内部から機外へ気体(蒸気)を排出するために、蓋部2内に配置された排気弁24を駆動して流路を開く(開放する)ように動作する。
【0018】
蓋部2は、固定機構30を更に有し、本体部1の収容部10の内部を閉空間に維持するように収容部10に対して蓋部2の内蓋を固定することができる。固定機構30における固定状態は、ロック機構40によりロックされる。ロック機構40は、固定機構30のレバーがユーザ操作によって移動されることを制限するための制限機構として機能しうる。
【0019】
次に、
図2を参照して、加熱調理器100のハードウェア構成の一例について説明する。加熱調理器100は、少なくとも、制御部201、加熱部202、圧力検知部203、温度検知部204、タイマー205、表示部206、排気弁駆動部207、操作部208を含むように構成される。
【0020】
制御部201は、加熱調理器100全体の動作を制御する。制御部201は、例えばCPUなどのプロセッサとメモリから構成されてもよいし、マイクロコントローラ或いはMCU(Micro Controller Unit)として構成されてもよい。制御部201は、加熱調理器100の電源が投入されると、ユーザから調理方法の設定を操作部208を介して受け付け、受け付けた調理方法に従って調理を開始する。調理方法の設定は、例えば、プリセットメニューからいずれかのプリセットを選択するか、或いは、圧力値、温度、時間などをマニュアルで設定することにより行うことができる。プリセットメニューには、本実施形態に対応する予約調理処理が含まれ、予約調理処理が選択されると後述するような手順にて加熱部202及び排気弁駆動部207等の動作を制御して調理を実行する。
【0021】
次に、加熱部202は、誘導加熱コイルを含んで構成され、制御部201の制御に従って制御信号が供給され、内鍋3の加熱処理を行う。圧力検知部203は、内鍋3内の内部圧力を検知し制御部201に圧力値を通知する。制御部201は、圧力検知部203から通知される圧力値に応じて加熱部202の動作を制御する。圧力検知部203は、例えば、内鍋3内の内部圧力を検知するための圧力センサを含み、圧力センサは内鍋3の底部に配置される。また、圧力を温度から演算により求めるようにしてもよい。例えば、蓋部2側に温度センサを設置し、温度センサが出力する温度から圧力値を算出してもよい。温度検知部204は、内鍋3内の温度を検知し制御部201に温度値を通知する。温度検知部204は、例えば内鍋3の温度を検知するためのサーミスタで構成された温度センサを含み、温度センサは内鍋3の底部、側面に接触するよう配置されてもよいし、蓋部2側に配置されていてもよい。制御部201は、温度検知部204から通知される温度値に応じて加熱部202の動作を制御する。
【0022】
タイマー205は、例えば予約調理処理を実行する際に、処理の経過時間等を計測する計時手段である。制御部201はタイマー205を制御して経過時間を測定することができる。表示部206は、LEDやLCDなどで構成され、制御部201の制御に従い、調理経過時間、温度、圧力、メニュー番号、調理種別などの各種情報を提供する。排気弁駆動部207は、ソレノイドや歯車等を用いた動力伝達機構等を含んで構成され、制御部201により駆動され、排気弁24を動作させることにより、内鍋3内の気体を機外に排出して内鍋3内の圧力を下げることができる。操作部208は、ユーザからの操作入力を受け付けるための部材であり、タッチパネルとして表示部206と一体化されているものを含む。操作部208は、タッチパネルの他、ボタン、スイッチなど、各種の機械式の操作部を含むことができる。
【0023】
次に、本実施形態に対応する予約調理処理について説明する。本実施形態に対応する予約調理処理は、調理対象の食材を特定の軟化液に一定時間浸漬しておくといったような煩雑な準備や予備調理、複数の刃を備えた専用の器具を必要とせず、圧力調理器において圧力調理と減圧処理とを併用しながら、食材の煮崩れを防ぎ、形状を保持しつつ食感が残る嚥下食に加工可能とする。
【0024】
次に、
図3及び
図4を参照して、本実施形態に対応する予約調理処理を説明する。
図3は、本実施形態に対応する処理のフローチャートである。当該処理は、制御部201が、
図2に示した各機能ブロックの動作を制御することにより実施される。
図4は、
図3のフローチャートに対応する、内鍋3内の圧力の時間遷移(
図4(A))、及び、温度の時間遷移(
図4(B))を示すと共に、排気弁駆動部207の動作波形(
図4(C))及び加熱部202の動作波形(
図4(D))を示す。
【0025】
まずS301において、制御部201は、例えば調理開始時刻として設定された時刻が到来すると加熱工程を開始する。なお、加熱工程を開始する時点においては、加工対象の食材などは全て内鍋3内に含まれているものとする。加熱工程では、加熱部202を動作させて内鍋3内の温度を第1の温度まで上昇させる。S301の加熱工程では、
図4(D)に示すように加熱部202のヒータのON時間を長く確保(デューティ比を高く)して、温度を室温から短時間で高温まで上昇させる。また、第1の温度は、
図4(B)に示すように例えば約120度(℃)とすることができる。なお、ここで、第1の温度の実例である120℃は厳密な数値ではなく120℃付近の値とする。このとき内鍋3内の圧力は第1の圧力値まで上昇している。ここで、第1の圧力値の値は
図4(A)に示すように例えば95キロパスカル(kPa)とすることができる。それ以外にも、第1の圧力値は、60kPaから100kPaの範囲に含まれる値としてもよい。その際、第1の圧力値は、食材や調理方法に応じた圧力とすることができる。例えば、魚の煮つけは95kPaまで上昇させる一方で、大根の煮物や80kPa、蒸し野菜やカレーは60kPaまで上昇させればよい。なお、本実施形態では、内鍋3内の圧力をゲージ圧(大気圧を0kPaとする)で示すこととする。また、これらの温度や圧力値はあくまで一例であって、これ以外の値とすることもできる。特に、第1の圧力値の上限は、100kPaよりも高くてもよい。また、下限も60kPaと45kPaとの間の値としてもよい。
【0026】
続くS302において制御部201は加圧工程を開始する。加圧工程においては、加熱工程において到達した第1の温度及び第1の圧力値を維持するように、加熱部202を間欠的に駆動する(
図4(D))。制御部201は、圧力検知部203から通知される圧力値、及び、温度検知部204から通知される温度の少なくともいずれかに基づいて加熱部202を動作させる制御信号を調整することにより、加熱部202の加熱動作を実行することができる。本加圧工程は予約(予め設定)された所定の時間T=t2-t1だけ実行される。時間Tの長さは、調理内容や、内鍋3に入れられた素材の種類等に応じて異ならせることができる。例えば、魚の煮つけは30分、カレーは15分、大根の煮物は8分、蒸し野菜は30秒とすることができる。
【0027】
時間Tが経過すると処理はS303に移行し、制御部201は、第1の減圧工程を実施する。ここでは加熱部202を停止して、内鍋3内の温度及び圧力を自然に下降させる。なお、第1の減圧工程では、排気弁駆動部207を駆動して排気弁を開くことは行わず、内鍋3は密閉状態におかれる。このように第1の減圧工程では、内鍋3の内部から排気機構20を介して機外へ気体を排気することなく、加熱部202の停止のみに応じて内鍋3内部の温度及び圧力を低下させる。なお、
図4(B)に示すように、温度の下降は時間的遅延が発生している。本実施形態に対応する予約調理処理では、この第1の減圧工程を行うことにより、素材の形状を壊すことなく嚥下食に加工することが可能となる。
【0028】
ここで、制御部201は、圧力検知部203から通知される圧力値に基づいて、第1の減圧工程を実施することができる。例えば、圧力に基づく制御の場合、圧力が第1の圧力値(例えば、95kPa)から第2の圧力値(例えば、45kPa)に到達した(以下となった)場合(S304でYES)に第1の減圧工程を終了し、次のS305に移行することができる。ここで、第1の圧力値を95kPa、第2の圧力値を45kPaとしたが、これらはあくまで一例であって、他の値であってもよい。
【0029】
また、制御部201は、温度検知部204から通知される温度の値に基づいて、第1の減圧工程を実施することができる。温度の場合、温度が第1の温度(例えば、約120℃)から第2の温度(例えば、約110℃)まで下がった場合に第1の減圧工程を終了し、S304に移行することができる。
【0030】
なお、ゲージ圧が0よりも大きい場合、飽和温度(沸点)は圧力に応じて変化する。例えば、ケージ圧が0(大気圧)の場合、飽和温度は100℃であるが、ゲージ圧が大きくなるほど飽和温度が100℃よりも上がっていく。このとき、強制的に排気を行って内鍋3内の気体を外部に放出しなければ、内鍋3内の温度は飽和温度とほぼ一致するので、内鍋3内の圧力値と温度とは対応関係にあると言える。即ち、内部圧力の値を見る代わりに内鍋3の温度をみて、圧力が第1の減圧工程を終了する第2の圧力値にまで下がったかどうかを判定することができる。
【0031】
例えば、第2の圧力値を40kPaとした場合、飽和温度は約109℃であるので、温度が109℃まで下がったかどうかにより、内部圧力が第2の圧力値まで下がったかどうかを判定することができる。同様に、例えば、第2の圧力値を45kPaとした場合、飽和温度は約110℃であるので、温度が110℃まで下がったかどうかにより、内部圧力が第2の圧力値まで下がったかどうかを判定することができる。
【0032】
また、上述の圧力や温度以外に、第1の減圧工程を開始してからの経過時間に応じて第1の減圧工程を終了してもよい。具体的には、第1の減圧工程において圧力が第1の圧力値から第2の圧力値まで下がるのに要する時間の平均を予め測定しておき、得られた平均値に基づいて制御することができる。更には、当該経過時間を食材毎、或いは、調理方法毎に求めておくこともできる。即ち、食材と調理方法との組み合わせに応じた第1の減圧工程の処理時間(第1の期間)を予め複数用意しておき、予約調理処理の開始前に選択された食材と調理方法の組合せに応じた処理時間を選択し、当該選択された処理時間が経過したかどうか基づいて、第1の減圧工程を終了することができる。一般に、調味液が少ない調理は第1の減圧工程の処理時間が短くなり、調味液が多ければ、処理時間が長くなる。例えば、魚の煮つけや蒸し野菜のように調味液が少ない調理の場合、処理時間を5分と短くする一方、カレーや大根の煮物のように調味液が多いものについては処理時間を50分と長くする。
【0033】
次に、S305では制御部201は第2の減圧工程を実施する。ここでは、制御部201は排気弁駆動部207を駆動して排気弁24を開き、内鍋3の内部から排気機構20を介して機外へ気体を排気する。これにより、内鍋3内の内部圧力と温度は更に下がる。内部圧力は大気圧(機外の圧力)と同程度にまで下がる。また、圧力の低下に応じて温度も下がるが、制御部201は温度検知部204からの温度の値を監視し、温度所定の第3の温度(例えば、65度)まで下がったと判定した場合には、S306において保温工程を開始する。
【0034】
S306において、制御部201は保温工程を実施する。制御部201は、温度検知部204からの温度の値に基づいて、内鍋内の温度を第3の温度に維持するように加熱部202の動作を制御する。
【0035】
本実施形態では、強制的な排気を行わない第1の減圧工程を所定の閾値圧力に到達するまで実施した後に、強制的な排気を行う第2の減圧工程を実施する点に特徴がある。上記ではこの閾値圧力を45kPaとしたが、45kPaよりも低い圧力まで下げればよく、閾値圧力を40kPaとしてもよい。
【0036】
本実施形態の予約調理処理によれば、野菜、特には根菜類のように煮崩れしやすい材料であっても煮崩れを防ぐことができる。具体的に、第1の減圧工程で圧力が下がりきらないままに第2の減圧工程を実施すると、煮崩れが発生してしまうか、食感が損なわれてしまう。検証実験においてカボチャの煮物について検証したところ、内鍋3の圧力が95kPaから60kPa、或いは、50kPaに下がるまで第1の減圧工程を実施したのち第2の減圧工程を行ったが、前者の場合、第2の減圧工程の終了後、煮崩れが発生していることが確認できた。また後者においては、煮崩れはそれほど無いものの、水分が多く食感が損なわれてしまった。これに対し、45kPa或いは、40kPaまで第1の減圧工程で減圧した後、第2の減圧工程を実施した場合は、煮崩れがなく、食感が損なわれることもなかった。
【0037】
このように、本実施形態によれば、加熱調理器において嚥下食を作ろうとする場合に、排気弁を開いて強制的に内鍋3内の圧力を下げる第2の減圧工程に移行する際に、予め第1の減圧工程において内部圧力を下げているので、減圧時に発生する調理内容物へのダメージ軽減することができる。
【0038】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1:本体部、2:蓋部、3:内鍋、10:収容部、24:排気弁