(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/61 20060101AFI20240522BHJP
G01N 21/03 20060101ALI20240522BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
G01N21/61
G01N21/03 B
G01N21/33
(21)【出願番号】P 2021546581
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032827
(87)【国際公開番号】W WO2021054097
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2019169331
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
(72)【発明者】
【氏名】滝本 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 一輝
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025499(JP,A)
【文献】特開平10-221020(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0045500(US,A1)
【文献】特表2009-506330(JP,A)
【文献】米国特許第05841536(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0178362(US,A1)
【文献】特開平07-103895(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021311(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117173(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源および光検出器を有する電気ユニットと、
測定セルを有する流体ユニットと、
前記光源からの光を前記測定セルに伝送するための第1光伝送部材と、
前記測定セルからの光を前記光検出器に伝送するための第2光伝送部材と、
前記流体ユニットに設けられたレンズであって、前記レンズの光軸とは異なる第1の位置に前記第1光伝送部材からの
入射光が入射され、かつ/または、前記レンズの光軸
および前記第1の位置とは異なる第2の位置から前記第2光伝送部材に
出射光を出射するように配置されたレンズと、
前記測定セルを流れる流体の圧力を測定する圧力センサと、
前記光検出器に接続され、前記測定セルを流れる流体の濃度を検出する演算回路と
を備え、
前記演算回路は、
前記圧力センサが出力する圧力および前記流体の濃度に関連付けられた補正ファクタを記載するテーブルを格納したメモリを有し、前記流体の屈折率の
変化によって生じる、前記測定セルにおける光路変化による測定誤差を補正するために、前記光検出器の出力と、
前記テーブルから読み出された補正ファクタとに基づいて前記流体の濃度を演算により求めるように構成されている、濃度測定装置。
【請求項2】
前記測定セルを流れるガスの温度を測定する温度センサをさらに有し、
前記演算回路は、測定ガスに関連付けられた吸光係数α
aを用いて、下記の式に基づいて混合ガス中の測定ガスの体積濃度Cv+ΔCnを求めるように構成されており、下記の式において、I
0は前記測定セルに入射する入射光の強度、Iは前記測定セルを通過した光の強度、Rは気体定数、Tは前記測定セル内のガス温度、Lは光路長、Ptは前記測定セル内のガス圧力、I(n)は屈折率変化に基づく光量変化であり、ΔCnは(RT/α
aLPt)・ln(I
0/I)と前記ガス圧力とに基づいて決定される補正ファクタである、請求項
1に記載の濃度測定装置。
Cv+ΔCn=(RT/α
aLPt)・ln(I
0/I+I(n))=(RT/α
aLPt)・ln(I
0/I)+ΔCn
【請求項3】
前記補正ファクタは、前記測定セルの内部の流体が吸収しない波長の光を用いて、予め測定され前記メモリに格納されたものである、請求項1または2に記載の濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度測定装置に関し、特に、測定セル内を透過した光の強度に基づいて流体の濃度を測定する濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置に原料ガスを供給するガス供給ラインに組み込まれ、ガスの濃度を測定するように構成された濃度測定装置(いわゆるインライン式濃度測定装置)が知られている。原料ガスとしては、例えば、液体材料や固体材料から得られる有機金属(MO)ガスが挙げられる。
【0003】
この種の濃度測定装置では、ガスが流れる測定セルに光源からの所定波長の光を入射させ、測定セルを通過した透過光を受光素子で受光することによって吸光度を測定する。また、測定した吸光度から、ランベルト・ベールの法則に基づいて測定ガスの濃度を求めることができる(例えば、特許文献1~3)。
【0004】
本明細書において、流体の濃度を検出するために用いられる種々の透過光検出構造を広く、測定セルと呼んでいる。測定セルには、流体供給ラインから分岐して別個に配置された測定セルだけでなく、特許文献1~3に示されるような流体供給ラインの途中に設けられたインライン式の透過光検出構造も含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-219294号公報
【文献】国際公開第2017/029792号
【文献】国際公開第2018/021311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の濃度測定装置の測定セルでは、通常、コリメータを用いて平行光をセル内に入射させている。例えば特許文献3に記載の反射型の濃度測定装置では、測定セルの一端部に配置された透光性窓部の手前にコリメートレンズとしての凸レンズが配置されており、測定セルの他端部には反射部材が配置されている。この構成において、凸レンズを通って平行光としてセル内に入射した光は、他端部の反射部材によって反射され、セル内を一往復した光が再び凸レンズを通って光検出器に導光される。
【0007】
反射型の測定セルにおいて入射光と反射光とを別の経路で導光する場合、入射光(光線径は例えば数ミリ程度)は、レンズの中心すなわちレンズの光軸からずれた位置に照射され、入射光は、レンズを通過するときに屈折作用を受ける。また、レンズから出射した光は、測定セルの端部に設けられた透光性の窓部の窓面に対して完全に垂直には入射せず、測定セルの中心軸方向に対してわずかに傾いた角度で入射する。そして、セル内を進み反射部材によって反射された光もまた、測定セルの中心軸方向に対してわずかに傾いた角度でセル内を進んだ後に窓部で屈折し、レンズの中心からずれた位置を通って出射する(
図2参照)。
【0008】
このようにわずかに傾いた角度で光を測定セルに入射させる場合、測定セル内のガスの屈折率が変化すると、窓部とガスとの界面における屈折角が微妙に変化する。本発明者は、セル内の媒質の屈折率の変化によって、測定セル内を伝播する光の光路も微妙ながら変化し、このことによって濃度測定の誤差が増加し得ることを見出した。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、測定セル内の媒質の屈折率変化による濃度測定誤差の増加を抑制することができる濃度測定装置を提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態による濃度測定装置は、測定セルを有する流体ユニットと、前記光源からの光を前記測定セルに伝送するための第1光伝送部材と、前記測定セルからの光を前記光検出器に伝送するための第2光伝送部材と、前記流体ユニットに設けられたレンズであって、前記レンズの光軸とは異なる第1の位置に前記第1光伝送部材からの光が入射され、かつ/または、前記レンズの光軸とは異なる第2の位置から前記第2光伝送部材に光を出射するように配置されたレンズと、前記測定セルを流れる流体の圧力を測定する圧力センサと、前記光検出器に接続され、前記測定セルを流れる流体の濃度を検出する演算回路とを備え、前記演算回路は、前記流体の屈折率に対応する測定誤差を補正するために、前記光検出器の出力と、前記圧力センサが出力する圧力および前記流体の濃度に関連付けられた補正ファクタとに基づいて前記流体の濃度を演算により求めるように構成されている。
【0011】
ある実施形態において、前記演算回路は、前記圧力センサが出力する圧力および前記流体の濃度に関連付けられた補正ファクタを記載するテーブルを格納したメモリを有し、前記テーブルから読み出された補正ファクタを用いて濃度を測定する。
【0012】
ある実施形態において、前記濃度測定装置は、前記測定セルを流れるガスの温度を測定する温度センサをさらに有し、前記演算回路は、測定ガスに関連付けられた吸光係数αaを用いて、下記の式に基づいて混合ガス中の測定ガスの体積濃度Cv+ΔCnを求めるように構成されており、下記の式において、I0は前記測定セルに入射する入射光の強度、Iは前記測定セルを通過した光の強度、Rは気体定数、Tは前記測定セル内のガス温度、Lは光路長、Ptは前記測定セル内のガス圧力、I(n)は屈折率変化に基づく光量変化であり、ΔCnは(RT/αaLPt)・ln(I0/I)と前記ガス圧力とに基づいて決定される補正ファクタである。
Cv+ΔCn=(RT/αaLPt)・ln(I0/I+I(n))=(RT/αaLPt)・ln(I0/I)+ΔCn
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、測定セル内の媒質の屈折率変化による測定誤差の増加を抑制して、向上した精度で濃度測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る濃度測定装置の全体構成を示す模式図である。
【
図2】濃度測定装置の測定セルにおける光学系を示す図である。
【
図3】セル内の媒質の屈折率が変化したときの測定セルにおける光学系を示す図である。
【
図4】セル内の媒質の屈折率が変化したときの窓部近傍での光路の変化を示す図である。
【
図5】測定セル内のガス圧力(セル圧力)と光量変化との関係を示すグラフである。
【
図6】測定セル内のガスの屈折率と光量変化との関係を示すグラフである。
【
図7】ガスの濃度と圧力とによって決まる濃度補正ファクタを記載するテーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態で用いられる濃度測定装置100の全体構成の一例を示す図である。濃度測定装置100は、ガス供給ラインに組み込まれる測定セル1を有する流体ユニット10と、流体ユニット10と隔離して配置される電気ユニット20とを備えている。流体ユニット10と電気ユニット20とは、入射用の光ファイバケーブル11(第1光伝送部材)、出射用の光ファイバケーブル12(第2光伝送部材)、および、センサケーブル(図示せず)によって、光学的および電気的に接続されている。
【0017】
流体ユニット10は、使用温度は特に限定されず、例えば室温環境下での使用も可能であるが、測定ガスの種類によって100℃~200℃程度にまで加熱される可能性がある。一方、流体ユニット10とは隔離された電気ユニット20は、高温耐性が低いために、通常は室温環境下に配置されている。電気ユニット20には、濃度測定装置100に動作制御信号を送信したり、濃度測定装置100から測定濃度信号を受信したりするための外部制御装置が接続されている。
【0018】
流体ユニット10には、測定ガスの流入口1a、流出口1bおよびこれらが接続された長手方向に延びる流路1cを有する測定セル1が設けられている。測定セル1の一方の端部には、流路に接する透光性の窓部2(ここではサファイアプレート)が設けられ、測定セル1の他方の端部には反射部材4が設けられている。本明細書において、光とは、可視光線のみならず、少なくとも赤外線、紫外線を含み、任意の波長の電磁波を含み得る。また、透光性とは、測定セルに入射させる光に対する内部透過率が濃度測定を行い得る程度に高いことを意味する。
【0019】
測定光の波長は、測定対象のガスの吸光特性に基づいて、適宜選択されてよいが、本実施形態では、紫外光を吸収する有機金属ガス(例えば、トリメチルガリウム(TMGa))などの濃度測定および水分検知を行うために、近紫外光(例えば、波長200nm~400nm)を用いている。
【0020】
測定セル1の窓部2の近傍には、2本の光ファイバケーブル11、12が接続されたコリメータ3が取り付けられている。コリメータ3は、コリメートレンズとしての凸レンズ3A(
図2参照)を有しており、光源からの光を測定セル1に窓部2を介して平行光として入射させるとともに、反射部材4からの反射光を受光するように構成されている。反射部材4の反射面は、入射光の進行方向または流路の中心軸に対して垂直になるように設けられている。測定セル1の流路1cは、測定光の光路としても利用される。
【0021】
窓部2としては、近紫外光等の濃度測定に用いる検出光に対して耐性および高透過率を有し、測定セルを流れるガス(流体)に対しても耐性があり、機械的・化学的に安定なサファイアプレートが好適に用いられる。ただし、他の安定な素材、例えば石英ガラスを用いることもできる。測定セル1の本体(流路形成部)は例えばSUS316L製である。
【0022】
反射部材4は、例えばサファイアプレートの裏面に反射層としてのアルミニウム層や誘電体多層膜が設けられたものであってもよい。反射層として誘電体多層膜を用いれば、特定波長域の光を選択的に反射させることができる。誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の光学薄膜の積層体(高屈折率膜と低屈折率膜とを交互に積層したもの)によって構成され、各層の厚さや屈折率を適宜選択することによって、特定の波長の光を反射したり透過させたりすることができる。また、誘電体多層膜は、任意の割合で光を反射させるように設計することができるため、一部(例えば10%)の光を透過させ、反射部材4の下部に設置した光検出器によって参照光として検出してもよい。
【0023】
また、本実施形態のように近紫外光を測定光として用いる場合に、窓部2として、フッ化カルシウム(CaF2)系の窓材を用いることもできる。紫外光用フッ化カルシウム窓材(例えばシグマ光機社製)において、約300nmの紫外光の透過率は約90%以上であり、また、屈折率は約1.45程度である。これに対して、サファイア(Al2O3)の場合は、約300nmの紫外光に対する透過率が約85%であり、屈折率が約1.81程度である。このように、フッ化カルシウムは、サファイアに比べて、紫外光に対する透過率が高く屈折率が低いという性質を有している。したがって、フッ化カルシウム窓材を用いれば、セル内の媒質の屈折率の変化が発生したときにも、光路の変化が比較的小さくて済み、屈折率変化に基づく濃度測定誤差の発生をより効果的に抑制し得る。
【0024】
流体ユニット10は、また、測定セル1内を流れる測定ガスの圧力を検出するための圧力センサ5と、測定ガスの温度を測定するための温度センサ6とを備えている。圧力センサ5および温度センサ6の出力は、図示しないセンサケーブルを介して電気ユニット20に送られる。圧力センサ5および温度センサ6の出力は、ガス濃度を測定するために用いられる。
【0025】
本実施形態の濃度測定装置100において、電気ユニット20は、測定セル1内に入射させる光を発生する光源22と、測定セル1から出射した光を受光する光検出器24と、光検出器24が出力する検出信号(受光した光の強度に応じた検出信号)に基づいて測定ガスの濃度を演算する演算回路28とを備えている。
【0026】
光源22は、互いに異なる波長の紫外光を発する2つの発光素子(ここではLED)23a、23bを用いて構成されている。発光素子23a、23bには、発振回路を用いて異なる周波数の駆動電流が流され、周波数解析(例えば、高速フーリエ変換やウェーブレット変換)を行うことによって、光検出器24が検出した検出信号から、各波長成分に対応した光の強度を測定することができる。発光素子23a、23bとしては、LD(レーザダイオード)を用いることもできる。また、複数の異なる波長の合波光を光源に用いる代わりに、単一波長の光源を利用することもでき、この場合、合波器や周波数解析回路は省略することができる。
【0027】
発光素子23a、23bは、ハーフミラー23cに対していずれも45°の角度で光を照射するように配置されている。また、ハーフミラー23cを挟んで一方の発光素子23bと対向するように、参照光検出器26が設けられている。光源22からの光の一部は、参照光検出器26に入射され、光学素子の劣化等を調べるために用いられる。残りの光は、ボールレンズ23dによって集光されてから、入射光用の光ファイバケーブル11に入射される。光検出器24および参照光検出器26を構成する受光素子としては、例えばフォトダイオードやフォトトランジスタが用いられる。
【0028】
演算回路28は、例えば、回路基板上に設けられたプロセッサやメモリなどによって構成され、入力信号に基づいて所定の演算を実行するコンピュータプログラムを含み、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現され得る。なお、図示する態様では演算回路28は、電気ユニット20に内蔵されているが、その構成要素の一部(CPUなど)または全部が電気ユニット20の外側の装置に設けられていてもよいことは言うまでもない。
【0029】
図2は、測定セル1における入射光L1と出射光(反射光)L2との光路の一例を示す。
図2に示すように、入射用と出射用とで別個の光ファイバケーブル11、12を用いる場合、入射光L1および反射光L2は、コリメータが有する凸レンズ3Aの中心または光軸x1からずれた位置を通過する。
【0030】
この場合、測定セル1に設けられた窓部2には、窓面法線方向(または測定セルの軸方向)から僅かに傾いた角度で入射光L1が入射する。そして、窓部2で屈折した後、測定セル1の内部の空間に出射される。
【0031】
ここで、窓部(媒質A)2の屈折率をnAとし、測定セル内の媒質Bの屈折率をnBとし、窓部2からセル内媒質への入射角をθAとし、出射角(屈折角)をθBとすると、スネルの法則により下記の関係が成り立つ。なお、下記式におけるnABは、媒質Aに対する媒質Bの相対屈折率である。
(sinθA/sinθB)=nB/nA=nAB
【0032】
上記式からわかるように、出射角θBは、セル内媒質の屈折率nBまたは相対屈折率nABに依存して変化する。このため、セル内媒質の屈折率nBが変化したとき、例えば、セル内が真空から所定濃度の測定ガスに変わったときには、出射角θBおよびセル内を進む光L1、L2の光路もわずかに変化する。ここで、sinθB=nA・sinθA/nBであるので、出射角θBは、屈折率nBまたは相対屈折率nABが大きくなる程、小さくなる。
【0033】
図3は、測定セル内が、真空からアセトン/N
2ガスに変化したときの、光路の変化を示す図である。アセトン/N
2ガスを通過する入射光および反射光をL1’、L2’として破線で示している。また、
図4は、窓部2の外側(レンズ側)が空気(窒素)であり、窓部がサファイアガラスであり、測定セル内の流路1cが真空から200torrのアセトンガスに変化したときの光路の変化を示す図である。
【0034】
真空の屈折率が1.000000であるのに対して、0℃、1atmにおけるアセトンの屈折率は約1.001079であり、N
2の屈折率は約1.000298である。なお、Arガスの屈折率は約1.000283であり、半導体製造プロセスにおけるドライエッチング用ガスまたはクリーニングガスとして用いられるSF
6ガスの屈折率は約1.000769である。また、
図4では、空気の屈折率を1.000298とし、サファイアの屈折率を1.75449(入射光の波長1060nm)とし、200Torrのアセトンの屈折率を1.000284とし、窓材への入射角を1°と仮定して出射角の計算を行っている。
【0035】
セル内が真空からアセトン/N2ガスに変わると、媒質の屈折率nBがわずかに大きくなるため、窓部2からセル内媒質に入射するときの光の屈折角θBは小さくなる。また、反射部材として裏面側に反射層を設けた透光性プレートを用いる場合、セル内媒質から反射部材4に入射するときの光の屈折角および反射部材4からセル内媒質に入射するときの光の屈折角も、セル内媒質の屈折率変化に応じてわずかに変化する。
【0036】
その結果、
図3において破線L1’L2’で示すように、真空時とは異なる光路を通って、反射光L2’が光ファイバケーブル12に入射する。これにより、検出できる反射光強度が低下する場合があり、屈折率変化に基づく測定誤差が発生する。真空時に最大の光量が得られるように光学系が設計されている場合、セル内媒質の真空に対する相対屈折率が大きいほど、測定誤差が大きくなる傾向がある。なお、光学系の設計によっては、セル内媒質の屈折率の増加によって測定誤差が減少することもあり得る。
【0037】
具体的な例を挙げると、
図4に示すように、1.000000°(わかりやすくするために、
図4ではより大きな角度で示している)の入射角でサファイア製の窓部2に入射した光は、窓部2の両界面で屈折し、セル内が真空である場合には、1.000298°の出射角で出射する。これに対して、セル内が200Torr、100%体積濃度のアセトンで満たされているときには、1.000014°の出射角で出射する。このことによって、光検出器24(
図1参照)が検出する光の強度は、ガスによる吸収がない場合であってもわずかに変化することがある。
【0038】
上記のようにセル内媒質の屈折率によって測定誤差に違いが生じるが、アセトン/N2ガスのような混合ガスを用いる場合、セル内媒質の屈折率は、混合ガス中のアセトンの濃度によって変化する。より具体的には、より屈折率が高いアセトンの濃度が高いほど、光路のずれが大きくなり、測定精度が低下する傾向がある。ただし、アセトン濃度が100体積%のときに最大光量が得られるように光学系が設計されている場合などにおいては、アセトン濃度が低下するほど測定誤差が増加する場合もある。
【0039】
また、ガスの濃度だけでなく、ガスの圧力および温度も屈折率と関連性を有している。以下の式は、屈折率の温度依存および圧力依存を表している。
n(P、T)=1+(n(0℃、1atm)/(1+αT))×P/1.01325×105
【0040】
上記式において、n(P、T)は、圧力および温度を考慮した屈折率、n(0℃、1atm)は、0℃、1atmのときの屈折率、αは膨張率、Tは温度、Pは圧力である。このように屈折率は、圧力によっても変化するので、圧力センサ5の測定結果に基づいて補正を行うことによって、測定誤差を低減させ得る。なお、上記式に示すように、温度Tによっても屈折率は変化するので、温度センサ6による測定温度に応じた補正を付加的に行うこともできる。
【0041】
図5は、セル内のガスの圧力(Torr)と、光検出器24が検出する光量の変化(真空時を1として規格化した値)との関係を示すグラフである。また、
図6は、
図5に示したグラフのデータにおいて、温度Tが23℃で一定であると仮定したうえで上記式に基づいて屈折率を求め、求めた屈折率を横軸にとって屈折率と光量の変化との関係を示すものである。
【0042】
図5において、N
2ガス、SF
6ガス、C
4F
8ガスのそれぞれについて、測定光波長が300nmのときと、測定光波長が365nmのときとでの、圧力と光量の変化との関係を示している。N
2ガス、SF
6ガス、C
4F
8ガスの何れも、300nmおよび365nmの波長の光を吸収することはないことが確認されている。また、
図6では、N
2ガスおよびSF
6ガスについて、屈折率と光量変化との関係を示している。
【0043】
図5および
図6からわかるように、セル内のガスの圧力の増加とともに、光量の変化が増大する傾向があり、同様に、屈折率の増加とともに、光量の変化が増大する傾向がある。また、屈折率と光量の変化との関係は、ガス種や測定光波長によらず同様の傾向があることが確認できる。このように、屈折率と圧力とには相関関係があるので、屈折率の変化による測定誤差(光量変化)の増加を修正するためには、圧力に応じた補正を行うことが好適であると考えられる。
【0044】
また、上述したように、屈折率はセル内のガスの濃度の変化によっても変化する。したがって、濃度と圧力とに基づく補正ファクタを求めておき、この補正ファクタを用いて濃度演算を補正することによって、屈折率の変化に対応する補正を行い、より正確に濃度を求めることが可能である。
【0045】
図7は、圧力P1~Pnと濃度n1~nnとに関連付けられた濃度の補正ファクタΔCnを記録するテーブルTBを示す。
図7に示すように、濃度n1~nnと、圧力P1~Pnとに対応する複数の補正ファクタΔC11~ΔCnnがテーブルTBに記録されている。後述するように、測定セル内のガスの濃度の測定を行うときには、反射光の光強度Iの測定を行うとともに、テーブルTBから読み出した補正ファクタΔCnを用いて、濃度を演算により求めることができる。これによって、ガスによる吸収ではなく、屈折率に起因する光量変化によって生じる誤差を濃度に換算して補正し、向上した精度で濃度測定を行うことが可能になる。
【0046】
なお、測定された圧力または吸光度から演算により求めた濃度が、圧力P1~Pnまたは濃度n1~nnと異なるときには、もっとも近い圧力および濃度に対応する補正ファクタΔCnを選択すればよい。また、例えば、圧力がP1とP2との間であり、濃度がn1とn2の間のときには、ΔC11とΔC21とΔC12とΔC22の平均からΔCnを決定するなどして、テーブルTBに記載の補正ファクタΔC11~ΔCnnから適切な補正ファクタを演算により求めるようにしてもよい。
【0047】
以下、本実施形態の濃度測定装置を用いた濃度測定の手順を説明する。
図1に示した測定セル1において、測定セル1の内部を往復する光の光路長は、窓部2と反射部材4との距離の2倍によって規定することができる。濃度測定装置100において、測定セル1に入射され、その後、反射部材4によって反射された波長λの光は、ガスの濃度に依存して吸収される。そして、演算回路28は、光検出器24からの検出信号を周波数解析することによって、当該波長λでの吸光度Aλを測定することができ、さらに、以下の式(1)に示すランベルト・ベールの法則に基づいて、吸光度Aλからモル濃度C
Mを算出することができる。
Aλ=-log
10(I/I
0)=α’LC
M ・・・(1)
【0048】
式(1)において、I0は測定セルに入射する入射光の強度、Iは測定セル内のガス中を通過した光の強度、α’はモル吸光係数(m2/mol)、Lは光路長(m)、CMはモル濃度(mol/m3)である。モル吸光係数α’は物質によって決まる係数である。I/I0は、一般に透過率と呼ばれており、透過率I/I0が100%のときに吸光度Aλは0となり、透過率I/I0が0%のときに吸光度Aλは無限大となる。なお、上記式における入射光強度I0については、測定セル1内に吸光性のガスが存在しないとき(例えば、紫外光を吸収しないガスが充満しているときや、真空に引かれているとき)に光検出器24によって検出された光の強度を入射光強度I0とみなしてよい。
【0049】
また、濃度測定装置100は、測定セル1を流れるガスの圧力および温度も考慮して、ガスの濃度を求めるように構成されていてもよい。以下、具体例を説明する。上記のランベルト・ベールの式(1)が成り立つが、上記のモル濃度CMは、単位体積当たりのガスの物質量であるので、CM=N/Vと表すことができる。ここで、Nはガスの物質量(mol)すなわちモル数であり、Vは体積(m3)である。そして、測定対象がガスであるので、理想気体の状態方程式PV=NRTから、モル濃度CM=N/V=P/RTが導かれ、これをランベルト・ベールの式に代入し、また、-ln(I/I0)=ln(I0/I)を適用すると、下記の式(2)が得られる。
ln(I0/I)=αL(P/RT) ・・・(2)
【0050】
式(2)において、Rは気体定数=0.0623(Torr・m3/K/mol)であり、Pは圧力(Torr)であり、Tは温度(K)である。また、式(2)のモル吸光係数は、透過率の自然対数に対するαであり、式(1)のα’に対して、α’=0.434αの関係を満たすものである。
【0051】
ここで、圧力センサが検出できる圧力は、測定ガスとキャリアガスとを含む混合ガスの全圧Pt(Torr)である。一方、吸収に関係するガスは、測定ガスのみであり、上記の式(2)における圧力Pは、測定ガスの分圧Paに対応する。そこで、測定ガスの分圧Paを、ガス全体中における測定ガス濃度Cv(体積%)と全圧Ptとによって表した式であるPa=Pt・Cvを用いて式(2)を表すと、圧力および温度を考慮した測定ガスの濃度(体積%)と吸光度との関係は、測定ガスの吸光係数αaを用いて、下記の式(3)によって表すことができる。
ln(I0/I)=αaL(Pt・Cv/RT) ・・・(3)
【0052】
また、式(3)を変形すると、下記の式(4)が得られる。
Cv=(RT/αaLPt)・ln(I0/I) ・・・(4)
【0053】
したがって、式(4)によれば、各測定値(ガス温度T、全圧Pt、および透過光強度I)に基づいて、測定光波長における測定ガス濃度(体積%)を演算により求めることが可能である。このようにすれば、ガス温度やガス圧力も考慮して混合ガス中における吸光ガスの濃度を求めることができる。なお、測定ガスの吸光係数αaは、既知濃度(例えば100%濃度)の測定ガスを流したときの測定値(T、Pt、I)から、式(3)または(4)に従って予め求めておくことができる。このようにして求められた吸光係数αaはメモリに格納されており、式(4)に基づいて未知濃度の測定ガスの濃度演算を行うときは、吸光係数αaをメモリから読み出して用いることができる。
【0054】
ただし、上記に説明したように、光検出器24によって検出される透過光強度Iは、セル内の媒質の屈折率の変化によって生じる光量の変化分を含んでいるものと考えられる。この屈折率に基づく光量の変化は、ガスによる吸収によって生じたものではないので、吸光度および濃度をより正確に求めるときには、屈折率の変化による光量の変化分を補正することが好ましい。屈折率nを考慮した濃度Cv’の式は、次の式(5)のように与えられる。
Cv’=(RT/αaLPt)・ln(I0/I(n)) ・・・(5)
ここで、I(n)は、セル内の媒質の屈折率を考慮した透過光強度を表しており、I(n)=I+ΔI(n)、すなわち、光検出器の検出した透過光強度Iと、屈折率による光強度変化分との和に対応する。
【0055】
この屈折率変化に基づく光強度の変化分ΔI(n)によって生じる濃度測定の変化分(誤差分)をΔCnとすると、屈折率変化を考慮して濃度を求める式は、下記の式(6)によって与えられる。
Cv+ΔCn
=(RT/αaLPt)・ln(I0/(I+ΔI(n)))
=(RT/αaLPt)・ln(I0/I)+ΔCn ・・・(6)
【0056】
したがって、上記式(4)に基づいて補正前の濃度Cvを算出するとともに、屈折率分の光強度変化を示すΔCnを、
図7に示したテーブルTBを参照して特定し、これによって、屈折率の変化が補償された濃度を求めることができる。テーブルTBに記載されるΔCnは、上記のように、圧力と濃度とによって決定されるものであり、測定ガスの濃度とセル内圧力とを変化させたときの光強度変化(光検出器24の出力の変化)を、測定ガスが吸収しない波長の光を用いて測定することによって得られる。
【0057】
以上、本発明の実施形態による濃度測定装置を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定解釈されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、測定に用いられる光としては、ガスの種類に応じて、紫外領域以外の波長領域の光を利用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の実施形態に係る濃度測定装置は、半導体製造装置などに対して用いられ、種々のガスの濃度を測定するために好適に利用される。
【符号の説明】
【0059】
1 測定セル
2 窓部
3 コリメータ
3A 凸レンズ
4 反射部材
5 圧力センサ
6 温度センサ
10 流体ユニット
11 光ファイバケーブル(入射用)
12 光ファイバケーブル(出射用)
20 電気ユニット
22 光源
24 光検出器
26 参照光検出器
28 演算回路
100 濃度測定装置