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特許7492286高次高調波観測装置、及び高次高調波観測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】高次高調波観測装置、及び高次高調波観測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240522BHJP
   G01B 9/02002 20220101ALI20240522BHJP
   G01N 21/45 20060101ALI20240522BHJP
   G02F 1/35 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01B9/02002
G01N21/45 A
G02F1/35
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022568333
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2021045369
(87)【国際公開番号】W WO2022124373
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2020205358
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019-2024年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CREST 独創的原理に基づく革新的光科学技術の創成「キャリアエンベロープ位相制御による対称性の破れと光機能発現」、2018-2027年度、文部科学省(Q-Leap) 光・量子フラッグシッププログラム(技術領域:次世代レーザー) 基礎基盤研究「強相関量子物質におけるアト秒光機能の開拓」 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】岩井 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 洋平
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1259327(KR,B1)
【文献】MALEVICH P , et al.,Generation of Ultrabroadband Phase-Locked Pulse Pairs in the Ultraviolet by Achromatic SHG,2019 Conference on Lasers and Electro-Optics Europe & European Quantum Electronics Conference,2019年06月23日,p.1,DOI:10.1109/CLEOEEQEC.2019.8872231
【文献】REHAULT J , et al.,Two-dimensional electronic spectroscopy with birefringent wedges,REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS,2014年12月09日,Vol.85,pp.123107-1 - 123107-10,https://doi.org/10.1063/1.4902938
【文献】KAWAKAMI Y , et al.,Petahertz non-linear current in a centrosymmetric organic superconductor,NATURE COMMUNICATIONS,2020年08月18日,(2020) 11:4138,pp.1-6,https://doi.org/10.1038/s41467-020-17776-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/74
G01J 3/00 - G01J 3/52
G01B 9/00 - G01B 9/10
G02F 1/35
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力する出力部と、
前記第1パルス光を入力し、相対的に時間差を有する一対の第2パルス光を同軸に出力すると共に、前記測定対象物に前記一対の第2パルス光を入力し高次高調波を発生させる光学遅延回路と、
前記高次高調波を検出する検出部と、を備え、
前記検出部は、前記検出が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波の波長領域をも検出し、
前記高次高調波をフーリエ変換して、前記低次の高次高調波及び高次の高次高調波を検出する、
高次高調波観測装置。
【請求項2】
前記光学遅延回路は、
前記第1パルス光を入力し、光軸方向に見て斜め方向に偏光方向を調整して出力する第1偏光調整部と、
前記第1偏光調整部の下流側に設けられ、入力光に負の時間の遅延を与えて出力する遅延部と、
前記遅延部に隣接した下流側或いは上流側に設けられ、入力光の鉛直成分と水平成分とに相対的に時間差を与えて出力光を出力する第1調整部と、
前記遅延部及び前記第1調整部を含む下流側に設けられ、前記出力光を入力し、前記出力光の光軸方向に見て斜め方向の成分を通過させ前記一対の第2パルス光を生成して出力する第2偏光調整部と、を備える、
請求項1に記載の高次高調波観測装置。
【請求項3】
前記光学遅延回路は、前記遅延部及び前記第1調整部を含む下流側に設けられ、入力される光のパルス幅を調整する第2調整部を備える、
請求項2に記載の高次高調波観測装置。
【請求項4】
前記出力部は、1.5μm帯の波長及び略6fsのパルス幅を有する前記第1パルス光を発生させる、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の高次高調波観測装置。
【請求項5】
前記測定対象物は、前記一対の第2パルス光を入力してペタヘルツ電流を発生し、前記高次高調波を発生する有機超伝導体により形成されている、
請求項4に記載の高次高調波観測装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の高次高調波観測装置と、前記測定対象物に発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力し、前記測定対象物に前記第1パルス光を入力し高次高調波を発生させる出力部と、前記高次高調波を入力し、相対的に時間差を有する一対の前記高次高調波を同軸に出力する光学遅延回路と、前記高次高調波を検出する検出部と、を備える、第2高次高調波観測装置と、を備え、
求項1から5のいずれか1項に記載の高次高調波観測装置を用いて得られた、前記測定対象物に発生する前記高次高調波観測装置の前記検出部が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波を観測した第1観測結果と、前記第2高次高調波観測装置を用いて、前記測定対象物に発生する前記第2高次高調波観測装置の前記検出部が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波を観測した第2観測結果と、を用いて前記測定対象物の内部における前記低次の高次高調波に比して前記高次の高次高調波の周波数成分を有する振動電流の発生状態を評価する、高次高調波観測システム。
【請求項7】
測定対象物に発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力部から出力し、
光学遅延回路に前記第1パルス光を入力して相対的に時間差を有する一対の第2パルス光を生成して同軸に出力し、
前記測定対象物に前記一対の第2パルス光を入力し高次高調波を発生させ、
検出部において、前記検出部が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波の波長領域をも検出し、前記高次高調波をフーリエ変換して、前記低次の高次高調波及び高次の高次高調波を検出する、
高次高調波観測方法。
【請求項8】
前記光学遅延回路において、
第1偏光調整部において、前記第1パルス光を入力し、光軸方向に見て斜め方向に偏光方向を回転して出力し、
遅延部において、入力光に負の時間の遅延を与えて出力し、
第1調整部において、入力光に鉛直成分と水平成分とに相対的に時間の差を与えた出力光を出力し、
第2偏光調整部において前記出力光を入力し、光軸方向に見て前記出力光の斜め方向の成分を通過させ相対的に時間差を有する前記一対の第2パルス光を生成して出力する、
請求項7に記載の高次高調波観測方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載された高次高調波観測方法に基づいて前記測定対象物に発生する前記高次高調波観測方法の前記検出部が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波を観測した第1観測結果と、
前記測定対象物に発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力部から出力させ、前記測定対象物に前記第1パルス光を入力して高次高調波を発生し、前記高次高調波を光学遅延回路に入力して相対的に時間差を有する一対の前記高次高調波を生成して同軸に出力し、検出部において一対の前記高次高調波を検出する、第2高次高調波観測方法に基づいて前記測定対象物に発生する前記第2高次高調波観測方法の前記検出部が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波を観測した第2観測結果と、
を用いて前記測定対象物の内部における前記低次の高次高調波に比して前記高次の高次高調波の周波数成分を有する振動電流の発生状態を評価する、高次高調波観測方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
現在、社会活動におけるオンライン化が飛躍的に進みつつある。そのため、通信トラフィックの急激な増加に対する問題の抜本的な解決が必要である。現在、ギガ(109)ヘルツからテラヘルツ技術の確立、実用化へ向けた試みが精力的に行われている。5年後、10年後の通信は、ペタ(1015)ヘルツ基盤技術(エレクトロニクス、フォトニクス)への飛躍が予想される。ペタヘルツ基盤技術には、ペタヘルツ電流の測定が必要となる。ペタヘルツ電流は、光(可視~近赤外光)の電場振動が固体中の電子を駆動することによって生じる高周波(~1015)の電流である。これまでに、ナノ(10-9)ギャップ電極間に流れるペタヘルツ過渡電流の測定が、絶縁体やグラフェンを用いて行われている(例えば、非特許文献1、2参照)。また、光電子放出の原理を用いてナノ金属中のペタヘルツ電流を測定することも報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0002】
【文献】Schiffrin, A. et al., Optical-field-induced current in dielectrics, Nature 493, 70-74 (03 January 2013).
【文献】T. Higuchi, T. et al. ‘Light-field driven currents in graphene’ Nature 550, 224-228(2017).
【文献】B. Piglosiewicz, B. et al. ‘Carrier-envelope phase effects on the strong-field photoemission of electrons from metallic nanostructures’ Nature Photonics 8, 37-42(2013).
【文献】J. Rehault, et al., ‘Two-dimensional electronic spectroscopy with birefringent wedges’ Review of Scientific Instruments 85, (2014).
【文献】A. D. Sio, et al., ‘Tracking the coherent generation of polaron pairs in conjugated polymers’ Nature Communications 7, 13742(2016).
【文献】J. M. Richter, et al., ‘Ultrafast carrier thermalization in lead iodide perovskite probed with two-dimensional electronic spectroscopy’ Nature Communications 8, 376 (2017).
【文献】Y. Kawakami, et al.,’ Petahertz non-linear current in a centrosymmetric organic superconductor’ Nature Communications 11, Article number: 4138 (2020), 18 August 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ペタヘルツ電流の測定は、パルス幅10fs(フェムト秒)以下のCEP(キャリアエンベロープ位相制御)安定化レーザ等の最先端光源の他に、ナノギャップ電極間の過渡電流測定や光電子分光等の特殊計測装置が必要であり、簡便に行えるものではない。特に材料開発においては、低温環境や高温環境を形成して解析を行う大掛かりな装置が必要であり、実際の測定例は、上記の文献における報告などに限られている。
【0004】
ペタヘルツ電流の観測には、精度がアト(10-18)秒領域である計測法が不可欠である。通常このような時間精度の高い干渉計を実現するためには、空気によって生じる光の揺らぎの影響を低減するために真空槽内に干渉計を設置するなど、装置が大掛かりになるという課題がある。
【0005】
本発明は、装置構成を簡略化しつつ大気中においてペタヘルツ電流を観測、解析することができる高次高調波観測装置、及び高次高調波観測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、測定対象物に発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力する出力部と、前記第1パルス光を入力し、相対的に時間差を有する一対の第2パルス光を同軸に出力すると共に、前記測定対象物に前記一対の第2パルス光を入力し高次高調波を発生させる光学遅延回路と、前記高次高調波を検出する検出部と、を備え、前記検出部は、前記検出が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波の波長領域をも検出し、前記高次高調波をフーリエ変換して、前記低次の高次高調波及び高次の高次高調波を検出する、高次高調波観測装置である。
【0007】
本発明の前記光学遅延回路は、前記第1パルス光を入力し、光軸方向に見て斜め方向に偏光方向を調整して出力する第1偏光調整部と、前記第1偏光調整部の下流側に設けられ、入力光に負の時間の遅延を与えて出力する遅延部と、前記遅延部に隣接した下流側或いは上流側に設けられ、入力光の鉛直成分と水平成分とに相対的に時間差を与えて出力光を出力する第1調整部と、前記遅延部及び前記第1調整部を含む下流側に設けられ、前記出力光を入力し、前記出力光の光軸方向に見て斜め方向の成分を通過させ前記一対の第2パルス光を生成して出力する第2偏光調整部と、を備えていてもよい。
【0008】
本発明の前記光学遅延回路は、前記遅延部及び前記第1調整部を含む下流側に設けられ、入力される光のパルス幅を調整する第2調整部を備えていてもよい。
【0009】
本発明の前記出力部は、1.5μm帯の波長及び略6fsのパルス幅を有する前記第1パルス光を発生させてもよい。
【0010】
本発明の前記測定対象物は、前記一対の第2パルス光を入力してペタヘルツ電流を発生し、前記高次高調波を発生する有機超伝導体により形成されている。
【0011】
本発明の一態様は、前記高次高調波観測装置と、前記測定対象物に発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力し、前記測定対象物に前記第1パルス光を入力し高次高調波を発生させる出力部と、前記高次高調波を入力し、相対的に時間差を有する一対の前記高次高調波を同軸に出力する光学遅延回路と、前記高次高調波を検出する検出部と、を備える、第2高次高調波観測装置と、を備え、記高次高調波観測装置を用いて得られた、前記測定対象物に発生する前記高次高調波観測装置の前記検出部が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波を観測した第1観測結果と、前記第2高次高調波観測装置を用いて、前記測定対象物に発生する前記第2高次高調波観測装置の前記検出部が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波を観測した第2観測結果と、を用いて前記測定対象物の内部における前記低次の高次高調波に比して前記高次の高次高調波の周波数成分を有する振動電流の発生状態を評価する、高次高調波観測システム。
【0012】
本発明の一態様は、測定対象物に発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力部から出力し、光学遅延回路に前記第1パルス光を入力して相対的に時間差を有する一対の第2パルス光を生成して同軸に出力し、前記測定対象物に前記一対の第2パルス光を入力し高次高調波を発生させ、検出部において、前記検出部が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波の波長領域をも検出し、前記高次高調波をフーリエ変換して、前記低次の高次高調波及び高次の高次高調波を検出する、高次高調波観測方法である。
【0013】
本発明の前記光学遅延回路において、第1偏光調整部において、前記第1パルス光を入力し、光軸方向に見て斜め方向に偏光方向を回転して出力し、遅延部において、入力光に負の時間の遅延を与えて出力し、第1調整部において、入力光に鉛直成分と水平成分とに相対的に時間の差を与えた出力光を出力し、第2偏光調整部において前記出力光を入力し、光軸方向に見て前記出力光の斜め方向の成分を通過させ相対的に時間差を有する前記一対の第2パルス光を生成して出力してもよい。
【0015】
本発明の一態様は、前記測定対象物に発生する前記高次高調波観測方法の前記検出部が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波を観測した第1観測結果と、前記測定対象物に発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力部から出力させ、前記測定対象物に前記第1パルス光を入力して高次高調波を発生し、前記高次高調波を光学遅延回路に入力して相対的に時間差を有する一対の前記高次高調波を生成して同軸に出力し、検出部において一対の前記高次高調波を検出する、第2高次高調波観測方法に基づいて前記測定対象物に発生する前記第2高次高調波観測方法の前記検出部が検出可能な波長領域である低次の高次高調波に比して高次の高次高調波を観測した第2観測結果とを用いて前記測定対象物の内部における前記低次の高次高調波に比して前記高次の高次高調波の周波数成分を有する振動電流の発生状態を評価する、高次高調波観測方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、装置構成を簡略化しつつ大気中においてペタヘルツ電流を観測、解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る高次高調波観測装置の構成を示すブロック図である。
図2】高次高調波観測装置の構成を概念的に示す図である。
図3】光学遅延回路の構成を概念的に示す斜視図である。
図4】高次高調波観測方法の処理を示すフロチャートである。
図5】観測される干渉スペクトルの変化を示す図である。
図6】比較例に係る観測される干渉スペクトルの変化を示す図である。
図7】同軸SHG自己相関を示す図である。
図8】観測結果のフーリエ変換スペクトルを示す図である。
図9】観測対象物の時間軸干渉プロファイルを示す図である。
図10】観測対象物の時間軸干渉プロファイルをフーリエ変換して求めたスペクトルを示す図である。
図11】変形例に係る高次高調波観測装置の構成を示すブロック図である。
図12】変形例に係る高次高調波観測装置の観測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る高次高調波観測装置、及び高調波検出方法の実施形態について説明する。
【0019】
発明者らは、ペタヘルツ電流を観測するために鋭意研究を続けたところ、基礎的な新規な原理を発見した(例えば、非特許文献7参照)。この原理は、所定の有機超伝導体に極めて時間幅の短い光パルスを照射した瞬間、向きの定まった電流が生じるというものである。その向きの定まった電流によって、反転対称性を持つ超伝導体において、本来禁制であるべき偶数次の高調波が、ペタヘルツ非線形電流によって活性になる。このことは、固体内に生じるペタヘルツ電流を偶数次高調波として観測できることを意味している。本発明は、この原理に基づいてペタヘルツ電流を、偶数次の高調波の時間軸干渉プロファイルとして観測、解析するための高次高調波観測装置、及び高調波検出方法に関するものである。
【0020】
入力光から同軸に進行する一対のパルス光を生成する方法は、一軸軸性結晶の複屈折性を利用した一対のパルス光を発生させる光学系の装置「Translating Wedge-based Identical pulses eNcoding System(TWINS)」として可視~近赤外(800nm)領域において既に実現されている。一対のパルス光を生成するための上記の光学系(TWINS)は、主にポンププローブ測定などに利用されている(例えば、非特許文献4-6参照)。しかしながら、TWINSは、通信波長帯である近赤外光の1.5μ帯において測定された報告例がなく、また、高調波の測定に応用された例も無い。
【0021】
TWINSは、複屈折光学素子を利用し、偏光方向に依存した屈折率の違いによって光学遅延を生成する光学遅延回路を備える。ここで、複屈折とは、光線が結晶構造を有する物質を透過したときに、その偏光の状態によって、2つの光線に分けられる現象である。TWINSに入力されたパルス光は、複屈折して一対のパルス光となり、同軸の光路において出力される。TWINSは、複屈折光学素子を用いて機械的な構成を最小限としているため、機械精度や擾乱の影響を受けにくいという特徴がある。
【0022】
TWINSによれば、原理的に50as(アト秒)以下の時間精度を有する計測を容易に達成できる。これまでに、通常の機械精度を有する移動ステージを用いた場合においても、TWINSを用いることによって100アト秒程度の時間精度の計測が達成されている。ペタヘルツ電流の観測には、アト秒領域の計測法が不可欠である。通常このような時間精度が高い干渉計を実現するためには、真空槽内に干渉計を設置するなど、大掛かりな装置構成が必要である。これに比してTWINSは、装置構成が簡略化され、大気中においても計測が可能である。従って、TWINSを近赤外光の1.5μ帯の光の測定に用いることができれば、装置構成を簡略化しつつ、高安定な高次高調波観測装置が実現できる。
【0023】
図1に示されるように高次高調波観測装置1は、第1パルス光を生成する出力部2と、第1パルス光を入力し一対の第2パルス光を出力する光学遅延回路4と、高次高調波を発生する有機超伝導体により構成される反射部6と、反射部において発生した高次高調波を検出する検出部8と、検出値に基づいた観測を行う観測装置10とを備える。
【0024】
出力部2は、反射部6(測定対象物)において発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力する。出力部2は、例えば、通信波長帯の近赤外線光のレーザ光を発生する。出力部2は、例えば、1.5μm帯の波長を有し所定のパルス幅(6フェムト秒程度)を有する第1パルス光を発生させる。パルス幅は、通信波長帯の近赤外光における電場振動の1周期に対応する時間に調整されている。
【0025】
光学遅延回路4は、大気中に設置されている。光学遅延回路4は、第1パルス光を入力し、相対的に位相(時間)差を有する一対の第2パルス光を出力する。光学遅延回路4は、例えば、偏光方向に依存した屈折率の違いによって光学遅延を生成する複屈折光学素子により構成されている。光学遅延回路4は、入力した第1パルス光を複屈折光学素子に通過させ、時間差を有する一対の第2パルス光を生成し、同軸の光路に出力する。光学遅延回路4は、一対の第2パルス光に与える相対的な位相差を調整することにより、出力される干渉光の状態を変化させる干渉計として機能する。
【0026】
光学遅延回路4は、複屈折光学素子を有することにより機械精度や擾乱の影響を受けにくい構成を有する。そのため、光学遅延回路4は、機械的な干渉計に比して原理的に200倍の時間精度を有する。
【0027】
反射部6は、例えば、測定対象物である所定の有機超伝導体(κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br)により形成されている。反射部6は、一対の第2パルス光が入力されると、ペタヘルツ電流を発生し、2次以上の高次高調波を発生する性質を有する(非特許文献7参照)。検出部8は、反射部6において発生した高次高調波を検出する。
【0028】
観測装置10は、例えば、検出部8により検出された検出値に基づいて表示画像を生成する制御部12と、処理に必要な各種データを記憶する記憶部14と、生成された表示画像を出力する表示部16とを備える。観測装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ等の情報処理端末により実現される。
【0029】
制御部12は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。制御部12は、表示部16における表示画像の表示制御の他に、後述の光学遅延回路4における第1調整部4C及び第2調整部4Dの制御を行ってもよい。
【0030】
記憶部14は、HDDやフラッシュメモリなどの記憶装置である。後述する閾値等のデータの他、制御部12の処理を実行させるためのプログラムが記憶されている。データやプログラムは、ネットワークに接続された外部サーバに記憶されていてもよい。
【0031】
表示部16には、検出値に基づいて生成された観測結果の画像が表示される。表示部16は、例えば、液晶ディスプレイ、LED(Light Emitting Diode)ディスプレイ、有機EL(Organic Electro-Luminescence)ディスプレイ、デジタルミラーデバイス(Digital Mirror Device)、プラズマディスプレイ等の表示装置が用いられる。表示部16は、スマートフォン、タブレット端末等の観測装置10と別体に設けられた情報処理端末により構成されていてもよい。
【0032】
図2及び図3に示されるように光学遅延回路4において、出力部2から出力される第1パルス光Rの光軸L方向の下流側に、第1偏光調整部4Aが設けられている。第1偏光調整部4Aの下流側には、遅延部4Bが設けられている。遅延部4Bの隣接した下流側には、第1調整部4Cが設けられている。第1調整部4Cは、遅延部4Bの隣接した上流側に設けられていてもよい。即ち第1調整部4Cは、遅延部4Bに隣接した下流側或いは上流側のいずれか一方に設けられている。
【0033】
遅延部4B及び第1調整部4Cを含む下流側には、第2調整部4Dが設けられている。第2調整部4Dの下流側には、第2偏光調整部4Eが設けられている。第2偏光調整部4Eは、遅延部4B、第1調整部4C、第2調整部4Dを含む下流側に設けられている。図3に示す3次元座標軸は、相対的な関係を示す一例であり、これに限定されない。
【0034】
第1偏光調整部4Aは、光を入力し、光軸L方向に見て斜め方向に偏光方向を回転して出力する。第1偏光調整部4Aは、例えば、1/2波長板により形成されている。第1偏光調整部4Aは、例えば、上流側から第1パルス光を入力し下流側から光軸L方向に見て上下方向に対して偏光方向が45度に調整された光(実施形態では第1パルス光)を出力する。
【0035】
遅延部4Bは、入力される光に負の位相の遅延を与えて出力する。遅延部4Bは、例えば、α-BBO(α-BaB2O4)結晶により矩形の板状に形成されている。遅延部4Bのα-BBOは、所定の光学特性を有するy-cutに形成された一軸性結晶である。y-cutは、一軸性結晶のy軸方向と、一軸性結晶の異常光屈折率の方向とが一致するように切断するものである。α-BBOは、190nm~3500nmの透過波長範囲において高い複屈折性を有する。遅延部4Bには、光軸L方向に見て鉛直方向に対して偏光方向が45度に調整された第1パルス光が入力される。遅延部4Bは、第1パルス光に負の位相の遅延を与えて出力する。遅延部4Bにおける位相の遅延量は、遅延部4Bの光軸L方向の板厚(例えば、3.5mm)によって調整される。
【0036】
第1調整部4Cは、入力される光の鉛直成分と水平成分とに相対的に位相差を与えて出力光を出力する。第1調整部4Cは、例えば、光軸Lと直交方向にみて楔型に形成された第1楔部4C1と第2楔部4C2とを備える。第1調整部4Cは、上流側の第1楔部4C1と下流側の第2楔部4C2とを組み合わせて矩形の板状に形成されている。第1調整部4Cは、光軸Lと直交方向に見て第1楔部4C1と、第2楔部4C2との間には、平行な隣接空間4CTが光軸Lと直交方向に対して斜め方向に形成されている。
【0037】
第1楔部4C1は、例えば、x-cutのα-BBO結晶により形成されている。x-cutは、一軸性結晶のx軸方向と、一軸性結晶の異常光屈折率の方向とが一致するように切断するものである。第1楔部4C1は、所定の勾配(例えば、板面長さと板厚の比、3.5mm/25mm 角度7度)に形成されている。第2楔部4C2は、例えば、第1楔部4C1に比して屈折率が異なるz-cutのα-BBO結晶により形成されている。z-cutは、一軸性結晶のz軸方向と、一軸性結晶の異常光屈折率の方向とが一致するように切断するものである。第2楔部4C2は、所定の勾配(例えば、3.5mm/25mm 角度7度)に形成されている。
【0038】
第1楔部4C1は、光軸L方向に沿って所定幅(例えば、3mm)に移動自在に設置されている。第2楔部4C2は、光軸Lと直交方向に沿って所定幅(例えば、3mm)に移動自在に設置されている。第1楔部4C1と第2楔部4C2とを隣接空間4CTに沿って相対的に移動させることにより、第1調整部4C内の光軸Lにおける光路長を調整し、入力される光の鉛直成分と水平成分とに相対的に与える位相差(時間差)を調整して出力光を出力する。
【0039】
第2調整部4Dは、入力される光のパルス幅を調整する。第2調整部4Dは、遅延部4B及び第1調整部4Cを通過して変化したパルス光のパルス幅を調整する。第2調整部4Dは、例えば、第1調整部4Cと同様に、光軸Lと直交方向にみて楔型に形成された第1楔部4D1と第2楔部4D2とを備える。第2調整部4Dは、上流側の第1楔部4D1と下流側の第2楔部4D2とを組み合わせて矩形の板状に形成されている。
【0040】
第2調整部4Dは、光軸Lと直交方向に見て第1楔部4D1と、第2楔部4D2との間には、平行な隣接空間4DTが光軸Lと直交方向に対して斜め方向に形成されている。第1楔部4D1は、例えば、z-cutのα-BBO結晶により形成されている。第1楔部4D1は、所定の勾配(例えば、3.5mm/25mm 角度7度)に形成されている。第2楔部4D2は、例えば、第1楔部4D1に比して屈折率が異なるx-cutのα-BBO結晶により形成されている。第2楔部4D2は、所定の勾配(例えば、3.5mm/25mm 角度7度)に形成されている。
【0041】
第1楔部4D1は、光軸Lと直交方向に沿って所定幅(例えば、3mm)に移動自在に設置されている。第2楔部4D2は、光軸L方向に沿って所定幅(例えば、3mm)に移動自在に設置されている。第1楔部4D1と第2楔部4D2とを隣接空間4DTに沿って相対的に移動させることにより、第2調整部4D内の光軸Lにおける光路長を調整し、入力される光の鉛直成分と水平成分との波長をそれぞれ調整し、出力されるパルス光のパルス幅を元の幅となるように調整する。
【0042】
第2偏光調整部4Eは、入力される出力光の光軸L方向に見て鉛直方向に対して斜め45度方向の成分を通過させ、相対的に位相(時間)差を有する一対の第2パルス光P1,P2を生成して出力する。第2偏光調整部4Eは、例えば、偏光方向を鉛直方向に対して45度になるように設置された偏光板により形成されている。第2偏光調整部4Eから出力される一対の第2パルス光P1,P2は、反射部6に入力される。
【0043】
第1調整部4Cにおいて、出力光に含まれる時間差を調整することにより、第2偏光調整部4Eから出力される一対の第2パルス光P1,P2の時間差が調整され、干渉光が生成される。干渉光が測定対象物に入力されると、測定対象物から発生する高次高調波の干渉スペクトルが検出部8により検出される。
【0044】
次に高次高調波観測方法の処理の流れについて説明する。
【0045】
図4には、高次高調波観測方法の処理を行うフロチャートが示されている。出力部2において、測定対象物(反射部6)に発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力する(ステップS100)。第1偏光調整部4Aにおいて、入力光である第1パルス光に光軸L方向に見て斜め方向に偏光方向を調整して出力する(ステップS102)。
【0046】
遅延部4Bにおいて、入力光に負の位相(時間)の遅延を与えて出力する(ステップS104)。第1調整部4Cにおいて、入力光の鉛直成分の位相を調整すると共に、水平成分の位相を調整し、鉛直成分と水平成分とに相対的に位相(時間)差を与えた出力光を出力する(ステップS106)。ステップS104、ステップS106は入れ替えられてもよい。第2偏光調整部4Eにおいて出力光を入力し、光軸L方向に見て出力光の斜め方向の成分を通過させ相対的に位相(時間)の差を有する一対の第2パルス光P1を生成して出力する(ステップS108)。
【0047】
測定対象物に一対の第2パルス光P1を入力し一対の高次高調波を発生させる(ステップS110)。検出部8において一対の高次高調波を検出し、表示部16に表示される一対の高次高調波に基づいて発生する干渉光の干渉信号の検出結果を観測する(ステップS112)。
【0048】
次に、高次高調波観測装置1と、通常のマイケルソン干渉計型のパルス対発生光学系(ステージ干渉計)との時間精度や安定性の比較結果について説明する。
【0049】
図5には、高次高調波観測装置1により一対の第2パルス光P1,P2の時間差(横軸)を変化させたときの干渉スペクトル(1スキャン)の変化(縦軸)が2Dプロットとして示されている。図6には、通常のマイケルソン干渉計を用いた干渉スペクトルの観測結果が示されている。図示するように、ステージ干渉計の信号を比較すると、高次高調波観測装置1は、通常のマイケルソン干渉計に比して高い安定度を有する。観測結果に基づいて、実際の物性測定の際に想定される積算測定を行うと、干渉波形のビジビリティの違いは約一桁にも及ぶ。更に、マイケルソン干渉計を用いる場合、空気の影響を排除して観測の精度を高めるためには装置を真空中に保つ設備が必要となり設備が大型化する。これに比して高次高調波観測装置1によれば、大気中において簡素化された光学遅延回路4を用いることで観測が可能であり、装置構成を大幅に簡略化できる。
【0050】
高次高調波観測装置1によれば、発生させる一対の第2パルス光P1,P2の時間差100fsに対応する第1調整部4C、第2調整部4Dの調整幅は約3mmである。通常のマイケルソン干渉計は、発生させる干渉光の時間差100fsに対応するステージの調整幅は0.015mmである。従って、高次高調波観測装置1によれば、通常のマイケルソン干渉計に比して調整を容易とすると共に、200倍の精度を達成できる。
【0051】
図7には、同軸SHG(Second harmonic generation:第二高調波発生)自己相関(媒質はβ-BBO)が示されている。図示するように、現状の時間波形では少なくとも、200アト秒程度の時間精度が得られている。
【0052】
図8に示されるように、観測結果のフーリエ変換スペクトルには、基本波の電場振動周期に対応する干渉信号に加え、SHG成分も含まれる。高次高調波観測装置1によれば、原理的には50アト秒程度の精度を有し、ステージの機械精度を1fs程度に設定した場合、より高次の高調波の測定をすることができる。ステージの機械精度を1fsとすることは、既存技術において容易であり、高次高調波観測装置1に高精度の機械動作ステージを適用すると、さらに高い精度の観測をすることができる。
【0053】
図9には、観測対象物κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの時間軸干渉プロファイルが示されている。図10には、κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの時間軸干渉プロファイルをフーリエ変換して求めたスペクトルが示されている。図示するように、3次、5次の高調波のほか、非線形ペタヘルツ電流によるSHGが観測された。また、更に高次の4次高調波も観測された。図示するように、高次高調波観測装置1によれば、更に高次の5次高調波を観測することができ、構成される干渉計の精度を100アト秒以下にすることができる。高次高調波観測装置1によれば、装置構成を簡略化しつつ大気中においてペタヘルツ電流を観測、解析することができる。
【0054】
[変形例]
以下、変形例に係る高次高調波観測装置1Aについて説明する。以下の説明では、上記実施形態と同一の構成については同一の名称及び符号を用い、重複する説明は適宜省略する。
【0055】
図11に示されるように、変形例に係る高次高調波観測装置1Aは、高次高調波観測装置1に比して、光路上における光学遅延回路4の配置位置が異なっている。高次高調波観測装置1Aは、例えば、第1パルス光を生成する出力部2を備えている。出力部2の下流側には、反射部6(測定対象物)が設けられている。反射部6の下流側には、光学遅延回路4が設けられている。光学遅延回路4の下流側には、検出部8Aが設けられている。検出部8Aは、観測装置10に接続されている。検出部8Aは、例えば、高次高調波観測装置1に設けられた検出部8が検出可能な2次高調波及び3次高調波等の低次の高次高調波が含まれる波長領域(例えば、近赤外領域~可視領域)に比して高次高調波の波長領域(例えば、紫外線領域)を検出する。
【0056】
即ち、出力部2は、測定対象物に発生させる高次高調波に応じて調整された所定の波長及び所定のパルス幅を有する第1パルス光を出力する。反射部6は、第1パルス光を入力し高次高調波を発生する。光学遅延回路4は、発生した高次高調波を入力し、相対的に時間差を有する一対の高次高調波を同軸に出力する。検出部8は、一対の高次高調波に基づいて発生する干渉光の干渉信号を検出する。観測装置10は、検出された干渉光の表示画像を表示部16に表示させる。
【0057】
変形例に係る高次高調波観測装置1Aは、高次高調波観測装置1と組み合わせた観測をすることにより、測定対象物の内部に発生する振動電流の状態を評価すするために用いられる。高次高調波観測装置1は、例えば、高次高調波を発生させる測定対象物を発見するために用いることができる。高次高調波観測装置1によれば、例えば、一対のパルス光を干渉信号として測定対象物に入力し、測定対象物から出力される干渉信号に基づいて発生した2次高調波及び3次高調波の波長領域の高次高調波を検出部8により検出する。高次高調波観測装置1によれば、検出結果を2次高調波及び3次高調波の波長領域において分光することにより、2次高調波及び3次高調波の光に、より高次の4次高調波の光が影響を与えているか否かを評価することができる。
【0058】
変形例に係る高次高調波観測装置1Aは、高次高調波観測装置1の観測により、測定対象物が高次高調波に基づく振動電流を発生することが判明した場合、より高次高調波の元となる振動電流の影響を観測するために用いることができる。すなわち、高次高調波観測装置1Aによれば、測定対象物において高次高調波が真に光の成分として発生しているかどうかを確かめることができる。
【0059】
図12(A)には、変形例に係る高次高調波観測装置1Aにより観測された測定対象物(例えば、k-(h-ET)2Cu[N(CN)2]Br(h-Br))の2次高調波及び3次高調波の干渉信号に基づく光子エネルギーの検出結果が示されている。図12(B)には、上記実施形態に係る高次高調波観測装置1により観測された測定対象物の2次高調波及び3次高調波の光子エネルギー(振動電流)の検出結果が示されている。
【0060】
図12(B)に示されるように、例えば、高次高調波観測装置1が有する検出部8において検出された干渉信号の検出データのうち、3次高調波の成分を分光器を用いて分光して検出する。この際に、検出結果のフーリエ変換スペクトルには、3次高調波に比して低次の基本高調波及び2次高調波に加えて、3次高調波に比して高次の4次高調波成分が検出される。3次高調波に比して低次の基本高調波は、非線形光学の基本原理に基づいて通常、観測されるものである。
【0061】
しかし、3次高調波に比して高次の4次高調波成分は、光の成分としては分光器により除外されているのにも関わらず4次高調波成分の振動電流が検出されている。このことは、測定対象物の内部において4次高調波の振動電流が3次高調波の振動電流に影響を及ぼしていることを示している。図12(B)に示されるように、検出部8において検出された検出データのうち、2次高調波の成分を分光器を用いて分光して検出した場合も同様に、3次高調波及び4次高調波の成分が検出される。そうすると、図12(B)に基づく検出結果に基づいて測定対象物の内部において4次高調波の発生源となる分極電流が発生しているかどうかを評価することができる。
【0062】
図12(A)に示されるように、変形例に係る高次高調波観測装置1Aにより同じ測定対象物を用いて測定すると、測定対象物から実際に光の成分として出力される高次高調波のみを観測することができる。図12(A)の例では、測定対象物は、光の成分として4次高調波を出力していないことがわかる。図12(B)の検出結果と比較すると、測定対象物は、例えば、4次高調波を光として出力していないが、内部において4次高調波の周波数成分を有する振動電流を発生していることがわかる。
【0063】
従って、測定対象物を高次高調波観測装置1により観測した所定次数の高次高調波の第1観測結果(図12(B)参照)と、測定対象物を高次高調波観測装置1Aにより観測した所定次数の高次高調波の第2観測結果(図12(A)参照)とに基づいて、測定対象物の内部における所定次数に比して高次の高次高調波の周波数成分を有する振動電流の有無などの振動電流の発生状態を評価することができる。高次高調波観測装置1と高次高調波観測装置1Aとを併用することが有効な理由は以下のとおりである。測定対象物において高次高調波が光の成分としてとして検出されるためには、測定対象物を損失のない薄膜などの適切な試料形状に加工することが必要である。しかし、まず測定対象物を加工せずに試料形状に関わらず、高次高調波観測装置1による測定を行い、振動電流が観測された場合は、測定対象物を適切な試料形状に加工した後、高次高調波観測装置1Aを用いて観測すれば、効率的に高次高調波を発生する物質を見出すことが可能になる。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、高次高調波観測装置1は、光学遅延回路4にTWINSを適用するものを例示したが、第1パルス光を入力し、相対的に時間差を有する一対の第2パルス光を同軸に出力することができれば他のものを用いてもよい。また、上記実施形態において高次高調波を観測することは、測定対象物に発生する振動電流を検出することを含む。
【符号の説明】
【0065】
1、1A 高次高調波観測装置、2 出力部、4 光学遅延回路、4A 第1偏光調整部、4B 遅延部、4CT 隣接空間、4C 第1調整部、4C1 第1楔部、4C2 第2楔部、4D 第2調整部、4D1 第1楔部、4D2 第2楔部、4DT 隣接空間、4E 第2偏光調整部、6 反射部、8、8A 検出部、10 観測装置、12 制御部、14 記憶部、16 表示部、L 光軸、P1、P2 第2パルス光、R 第1パルス光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12