(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】インペラ用着脱治具
(51)【国際特許分類】
F04D 29/62 20060101AFI20240522BHJP
F04D 29/22 20060101ALI20240522BHJP
F04D 29/044 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
F04D29/62 C
F04D29/22 C
F04D29/22 G
F04D29/044
(21)【出願番号】P 2020018338
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】505328085
【氏名又は名称】古河産機システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】葛山 達夫
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0010660(US,A1)
【文献】実公昭37-030679(JP,Y1)
【文献】特開平05-042953(JP,A)
【文献】実開昭48-042876(JP,U)
【文献】実公昭46-005024(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16、
17/00-19/02、
21/00-25/16、
29/00-35/00
F04C 23/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムまたは樹脂製のライニングに覆われて前面側に張り出す複数の羽根を有するインペラと、該インペラを回転させるシャフトと、を備える機器に用いられて、前記インペラの背面基端部を前記シャフトの先端のねじ部に前面側からねじ込んで取り付ける若しくは取り外すための治具であって、
基部と、該基部から突設されて前記インペラの複数の羽根間の流路に対して前記シャフトの軸心を挟んだ位置に挿入される複数の爪部と、を備え、
前記複数の爪部相互は、前記羽根の周方向を向く表面に沿って周方向で同時に接して前記インペラの着脱時にトルクを付与するトルク付与面をそれぞれ有することを特徴とするインペラ用着脱治具。
【請求項2】
前記複数の爪部は、前記羽根の表面に沿って周方向の一方側で接する第一のトルク付与面と、前記羽根の表面に沿って周方向の他方側で接する第二のトルク付与面と、をそれぞれ有する請求項1に記載のインペラ用着脱治具。
【請求項3】
前記複数の爪部は、軸方向を向く一または複数の接触面を更に有し、当該軸方向を向く一または複数の接触面が、前記インペラの基端部を前記シャフトの先端に取り付ける若しくは取り外す際の軸方向での押圧力を分散するように前記羽根の表面に当接するように形成されている請求項1または2に記載のインペラ用着脱治具。
【請求項4】
前記インペラは、芯金と、該芯金を覆う
前記ライニングと、を有するものであり、
前記複数の爪部は、各爪部の外周面の外径が、前記インペラに内挿される前記芯金の外径と同一若しくは前記芯金の外径よりも僅かに小さくなっている請求項1~3のいずれか一項に記載のインペラ用着脱治具。
【請求項5】
前記基部は、前記シャフトの軸線と直交する方向に沿って形成された貫通孔を有する請求項1~4のいずれか一項に記載のインペラ用着脱治具。
【請求項6】
前記爪部は、前記トルク付与面に貫通孔を有する請求項1~5のいずれか一項に記載のインペラ用着脱治具。
【請求項7】
前記機器は、前面に吸込口を有するケーシングと、該ケーシング内に設けられて前面側に張り出す複数の羽根を有するインペラと、前記インペラを回転させるシャフトと、を備える遠心ポンプである請求項1~6のいずれか一項に記載のインペラ用着脱治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトから回転動力が伝達されることで回転されるインペラを備える機器に係り、特に、遠心ポンプやファン等の機器のセミオープン形インペラの着脱作業用として好適なインペラ用着脱治具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばターボ機械の例であるが、特許文献1には、シャフトから回転動力が伝達されることで回転されるインペラを備える機器が開示されている。同文献記載の技術では、インペラをシャフトに固定する手段として、インペラのボス部中心部分をインペラ前面側から着脱可能な固定ネジでシャフトに固定している。
そして、同文献記載の技術では、インペラ前端面の中心部分に、固定ネジを回転させる治具として、汎用工具である六角レンチを用い、六角レンチをインペラのボス部に形成された貫通孔に挿入し、治具先端の係合部を貫通孔から露出した固定ネジの係合穴に嵌合させて、治具を回転させることによって固定ネジを回転させ、インペラをシャフトに着脱するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、スラリーポンプにおいては、接液部品の摩耗や腐食が避けられず、とりわけインペラの交換頻度は高い。そのため、スラリーの移送では、上記特許文献1記載の技術のような、インペラの中心部分をインペラ前面側からナットやねじで固定する構造であると、ナットやねじが摩耗してしまいインペラを外せなくなるという問題がある。
【0005】
そのため、この種の用途に適用されるインペラは、ボス部前面側は、ボス部と一体の平滑な接液面とし、ボス部の裏面側中心に内挿されたネジ穴をシャフト先端のネジにねじ込むことによってシャフトに固定している。
ネジは、右ねじないし左ねじが、インペラの回転方向に応じて締まり勝手になるように選択される。インペラをシャフトに取り付けるときは、シャフトを固定してインペラを締まり方向にねじ込み、インペラをシャフトから外すときはその逆に緩み方向に回す。
【0006】
ここで、インペラを取り付けるときは、運転中にインペラが緩まないように、十分な初期締付力が必要である。そのため、インペラの回転に勢いをつけてインペラをシャフト先端のネジにねじ込み、仕上げにインペラの羽根外周部をハンマーで叩くなどによって増し締めを行う。
一方、インペラを取り外すときは、運転することによって締まり勝手のねじによりさらに締付力が増している。そのため、緩み方向に大きなトルクを与えなければインペラをシャフトから取り外すことが困難である。
【0007】
そのため、
図10に示すように、インペラ10の羽根11の外周部に、ハンマーHで衝撃力を加える取り外し作業が行われている。このとき、スラリーポンプにおいては、インペラ10の羽根11にゴム製のライニング11aが施されたものを用いている場合、ライニング11aがハンマーHの打撃による衝撃力に耐えられずに、インペラ10の羽根11が破損することがある。なお、同図において、符号DはハンマーHの打撃による衝撃力のイメージを示し、符号Sは、衝撃力に耐えられずにインペラ10の羽根11が破損するイメージを示している。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、シャフトから回転動力が伝達されることで回転されるインペラを有し、インペラの中心部分をインペラ背面側からナットやねじでシャフト先端に固定する構造を備える遠心ポンプに好適に用いられ、インペラの着脱作業時における、インペラの羽根の破損を防止するとともに着脱作業性を向上させ得るインペラ用着脱治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るインペラ用着脱治具は、前面側に張り出す複数の羽根を有するインペラと、該インペラを回転させるシャフトと、を備える機器に用いられて、前記インペラの背面基端部を前記シャフトの先端のねじ部に前面側からねじ込んで取り付ける若しくは取り外すための治具であって、基部と、該基部から突設されて前記インペラの複数の羽根間の流路に対して前記シャフトの軸心を挟んだ位置に挿入される複数の爪部と、を備え、前記複数の爪部相互は、前記羽根の周方向を向く表面に同時に接して前記インペラの着脱時にトルクを付与するトルク付与面をそれぞれ有することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係るインペラ用着脱治具によれば、複数の爪部が、複数の羽根間の流路に挿入され、複数の爪部相互のトルク付与面は、羽根の周方向を向く表面に同時に接してインペラの着脱時にトルクを付与するように形成されているので、羽根の表面と周方向で同時に接することで羽根にフィットする。これにより、インペラの基端部をシャフトの先端ねじ部に取り付ける若しくは取り外す際のトルクを各トルク付与面に分散できる。そのため、インペラの羽根の破損を防止するとともに、着脱作業性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
上述のように、本発明によれば、インペラの羽根の破損を防止するとともに、着脱作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一態様に係るインペラ用着脱治具を適用する機器としての遠心ポンプの一実施形態の説明図であり、同図では、軸線に沿った断面を示している。
【
図2】本発明の一態様に係るインペラ用着脱治具の一実施形態の説明図であり、同図(a)は、正面左上方から見た斜視図、(b)は、正面左下方から見た斜視図である。
【
図3】本発明の一態様に係るインペラ用着脱治具の一実施形態の説明図であり、同図(a)は、平面図、(b)は正面図、(c)は(b)でのZ-Z断面図、(d)は右側面図である。
【
図4】
図2および
図3に示すインペラ用着脱治具の使用方法の説明図であり、同図(a)は、インペラの前面側から見た図、(b)はインペラの側面側から見た図である。
【
図7】比較例として示すインペラ用着脱治具の一例の説明図であり、同図は、インペラの側面側から見た図である。
【
図8】比較例として示すインペラ用着脱治具の一例の説明図であり、同図(a)は、
図7でのW-W断面図、(b)は、同図(a)でのV-V断面部分の拡大図である。
【
図9】本発明の一態様に係るインペラ用着脱治具の変形例として示す図であり、同図(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は右側面図、(d)は、実施形態での
図5に対応する断面図である。
【
図10】従来のインペラ着脱工程のイメージを示す図であり、同図では、インペラの一部を破断して示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。なお、本明細書において、インペラをシャフトに取り付けたり若しくは取り外したりすることを「着脱」と、取り付けることを「装着」と、取り外すことを「脱着」という。
【0014】
[遠心ポンプ]
まず、本実施形態に係るインペラ着脱治具が用いられる機器である遠心ポンプについて説明する。遠心ポンプは、清水、汚泥液、パルプ液、微細な粒子を含むスラリー液、サンド等といった種々の液体(被送流体)を移送できるが、本実施形態の例は、インペラにゴムライニングが設けられているスラリーポンプの例である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の遠心ポンプ1は、フレーム20と、フレーム20上に設けられて前面が吸込み側とされたケーシング2と、ケーシング2内に設けられたインペラ(羽根車)10と、インペラ10を回転させるシャフト3と、シャフト3にインペラ10の背面側(駆動側)の位置に装着されたエキスペラ(補助羽根車)15とを備える。本明細書では、シャフト3の軸線CLの方向を前後とし、インペラ10に対し、ケーシング1の吸込み側を「前面」側、駆動側を「背面」側とも呼ぶ。
【0016】
ケーシング2には、前面中央に吸込口4が設けられ、上部中央に吐出口5が設けられている。また、ケーシング2には、エキスペラ15の背面側に軸封装置21が設けられている。シャフト3が回転すると、インペラ10およびエキスペラ15がともに回転し、インペラ10で被送流体を昇圧し吸込口4から吐出口5に向けて移送できる。
【0017】
ここで、インペラ10は、ベース面14の前面中央に平滑な接液面を有するとともに複数枚の羽根11がベース面14から前面側に張り出している。インペラ10の背面には、複数枚の裏羽根12が設けられている。本実施形態に係るインペラ10は、ライニング11aおよび芯金11bを有して構成されている(
図5参照)。ライニング11aは、ゴムや樹脂などのように柔らかく強度が低い材料から形成され、このライニング11aが芯金11bを覆うように接液部分に設けられている。
【0018】
[インペラ着脱治具]
次に、本実施形態に係るインペラ着脱治具について説明する。本実施形態のインペラ用着脱治具は、作業者が、インペラ10をシャフト3の先端にねじ込んで取り付ける装着作業、もしくはインペラ10をシャフト3の先端から取り外すための脱着作業に用いる工具である。
詳しくは、
図2および
図3に示すように、本実施形態に係るインペラ着脱治具30は、基部31と、基部31の一方の面から突設されてインペラ10の複数の主羽根11間の流路に挿入される一対の爪部40A、40Bと、を備える。
【0019】
基部31は、平面視が略矩形をなし、四隅に円弧状の丸みをもたせた形状になっている。基部31は、一対の爪部40A、40Bの反対側の面に膨出部32を有し、膨出部32には、一対の爪部40A、40Bの対向する方向に沿って貫通する円筒状の通し穴33が形成されている。通し穴33には、インペラ10の着脱作業時に、作業者の把持部とされるパイプ材Pが挿通される(
図4参照)。
【0020】
一対の爪部40A、40Bは、
図5および
図6に示すように、インペラ10表面と接触する複数(この例では5つ)の接触面41,42、45,46,47を有する。これにより、インペラ10をシャフト3に取り付ける若しくは取り外す際のトルクや推力が各接触面41,42、45,46,47に分散されるようになっている。一対の爪部40A、40Bの形状は、3Dプリンタによる造形、多面加工機による切削加工、型による造形などによって製作可能である。
詳しくは、各爪部40A、40Bは、
図3(c)に示すように、径方向内側の内周面43と、径方向外側の外周面44と、内周面43および外周面44の周方向での一端側を相互に繋ぐ第一の接触面41と、内周面43および外周面44の周方向での他端側を相互に繋ぐ第二の接触面42と、を4つの側面として有する。
【0021】
一対の爪部40A、40Bは、
図5に示すように、4つの側面のうち、第一および第二の接触面41,42が、インペラ10の主羽根11の表面と周方向で羽根11の表面に沿って当接するトルク付与面として形成されている。
特に、本実施形態の一対の爪部40A、40Bは、インペラ10の複数の羽根11間の流路に対してシャフト3の軸心CLを挟んだ位置に挿入され、一対の爪部40A、40B相互の第一および第二の接触面41,42は、羽根11の周方向を向く表面に同時に接してインペラ10の着脱時にトルクを付与するように形成されている。これにより、第一および第二の接触面41,42は、
図4に示すように、インペラ10の基端部10bをシャフト3の先端のねじ部3sにねじ込んで取り付ける若しくは取り外す際のトルクを主羽根11の周方向を向く表面に分散しつつ主羽根11に伝達可能になっている。
【0022】
つまり、一対の爪部40A、40Bは、第一の接触面41が、インペラ10の基端部10bをシャフト3の先端のねじ部3sから緩めるときの脱着トルクを主羽根11の表面に伝達する脱着トルク付与面になっている。また、第二の接触面42は、インペラ10基端部10bをシャフト3の先端のねじ部3sに締め付けるときの装着トルクを主羽根11の表面に伝達する装着トルク付与面になっている。
インペラ着脱治具30の各爪部40A、40Bの外周面44の外径44dは、インペラ10に内挿されている芯金11bの外径11dと同一か、もしくは芯金11bの外径11dよりも僅かに小さくなっている。
【0023】
本実施形態のような、ライニング11a内に芯金11bを内包するゴム製インペラ用の着脱治具の場合、一対の爪部40A、40Bの外周面44の外径は、芯金11bの外径11dと同一かそれ以下が適切であり、これによって、主羽根11の外周部のライニング11aに対し、芯金11bが内包されていない部分に、第一および第二の接触面41,42による無用な力が加わってライニングゴムが裂けるのを防ぐことができる。
【0024】
また、各爪部40A、40Bは、軸方向においてインペラ10の表面と接触する接触面として、
図3(c)および(d)並びに
図6に示すように、各爪部40A、40Bの先端面45と、第一の接触面41側の基端面46と、第二の接触面42側の基端面47と、を有する。
これら先端面45および二つの基端面46,47は、
図6に示すように、インペラ10の着脱作業時に、軸方向に押圧される推力を分散するとともに、治具自身が撚れたり傾いたりする姿勢の乱れを防ぎ、着脱トルクを効率よくインペラ10の複数の主羽根11に伝達する補助機能を奏する。
【0025】
本実施形態に係るインペラ着脱治具30は、膨出部32および爪部40A、40Bの各面に、通し穴33、35が形成されている。膨出部32に形成された大きな通し穴33には、
図4に示すように、インペラ着脱治具30の使用時に、長尺なパイプPを径方向に沿って差し込んで用いることにより、作業者が手で強いトルクをインペラ着脱治具30に与えることができる。
また、
図4に示すように、各爪部40A、40Bの外周面44と内周面43とに貫通するように形成された二つの通し穴35は、インペラ10の基端部10bをシャフト3の先端のねじ部3sに着脱する際に、インペラ10の重心に近い位置で、インペラ着脱治具30ごとインペラ10を吊るのに用いられる。なお、
図4に示す二点鎖線Rは、二つの通し穴35にロープを通して、インペラ着脱治具30ごとインペラ10を吊るイメージを示している。
【0026】
[インペラ着脱治具の使用方法および作用効果]
次に、本実施形態に係るインペラ着脱治具30の使用方法および作用効果について説明する。
インペラ10をシャフト3の先端から着脱する際は、ケーシング2の前面側を覆うフロントケーシングを取り外してインペラ10を露出させ、
図4に示すように、インペラ10の軸方向前方から、インペラ10の複数の羽根11間の流路に、インペラ着脱治具30の一対の爪部40A、40Bをシャフト3の軸心CLを挟んだ位置に挿入する。
【0027】
インペラ着脱治具30の先端面45および二つの基端面46,47が、軸方向においてインペラ10の表面と接触した位置まで挿入したら、膨出部32に通し穴33に長尺なパイプPを径方向に沿って差し込んでハンドルとして用いる。
インペラ10を取り外すときは、緩み方向Lに治具30を回転させる。また、インペラ10を取り付けるときは、取り外すときとは逆方向Tに治具30を回転させる。これにより、本実施形態に係るインペラ着脱治具30により、インペラ10をシャフト3の先端から容易に着脱することができる。
なお、シャフト3の先端のねじ部3sのネジは、右ねじないし左ねじが、インペラ10の回転方向に応じて締まり勝手になるように選択される。インペラ10をシャフト3に取り付けるときは、シャフト3を固定してインペラ10を締まり方向にねじ込み、インペラ10をシャフト3から外すときはその逆に緩み方向に回す。
【0028】
ところで、スラリーポンプにおいては、接液部品の摩耗や腐食は避けられず、とりわけインペラの交換頻度は高い。通常の清水ポンプは、シャフトを平行キーとナットとによって固定して力を伝達するところ、上述したように、スラリーの移送では、インペラの中心部分をインペラ前面側からナットやねじで固定する構造であると、ナットやねじが摩耗してしまいインペラをシャフト先端から外せなくなる。そのため、この種の用途に適用されるスラリーポンプのインペラは、そのボス部の裏面側に内挿されたネジ穴をシャフト先端のネジ部にねじ込むことによって固定する。
【0029】
ここで、
図10に示したようなハンマーHを使わないように、例えば
図7に比較例として示すような治具130を用いることは好ましい。同図に示す比較例の治具130は、ハンドル134のついた円盤部131と、円盤部131のインペラ側を向く面に溶接された複数の爪部140と、を有する。比較例の治具130では、製作の簡便さやコストの問題から、鋼管などのパイプを短冊状にカットしたものを爪部140として作成し、その爪部140の基端を円盤部131に溶接したものである。
しかし、インペラ10の接液部分の材料が、ゴムや樹脂などのように柔らかく強度が低いライニング付きのインペラ10では、比較例に示すような治具130であっても、ライニングの破損リスクを完全には回避できず、また、インペラ10の着脱作業性についても検討の余地がある。
【0030】
つまり、比較例の治具130の場合、インペラ10の羽根11の円弧形状に適合した半径のパイプがあることは稀である。そのため、羽根11の円弧形状に適合させるように、パイプ製の爪部140の側を修正・加工するには手間がかかるという問題がある。
また、治具130を操作する際には、
図7に示す軸方向への押し付け力Dも作用するところ、
図8(b)に断面を示すように、羽根11にテーパ角θが付いているインペラ10の場合、爪部140の先端部Fが強く接して、パイプを短冊状にカットした各爪部140を羽根11の円弧形状にフィットさせることがより一層難しくなる。
【0031】
一方、
図7に符号Tで示す状態(
図8に示す符号M)は、インペラ10を取り外すときの回転方向を示しているが、インペラ10を取り付けるときは、取り外すときとは逆方向に治具130を回転させる。そのため、爪部140の位置は、
図8(a)に示す羽根11との接触面11nから面11sにフィットさせる必要があるものの、その場合、パイプを短冊状にカットした爪部140の円弧形状が面11sにフィットしないのは明らかである。
【0032】
これに対し、本実施形態のインペラ用着脱治具30によれば、複数の爪部40A、40Bは、
図5に示したように、シャフト3の軸心CLを挟んだ位置に挿入され、第一および第二の接触面41,42で羽根11の表面に沿って周方向で同時に当接することでフィットする。そのため、シャフト3の先端のねじ部3sにインペラ10の基端部10bを取り付ける若しくは取り外す際のトルクを各接触面41,42に分散できる。そのため、インペラ10の羽根11の破損を防止するとともに、着脱作業性を向上させることができる。
【0033】
また、本実施形態のインペラ用着脱治具30によれば、各爪部40A、40Bは、軸方向においてインペラ10の表面と接触する接触面として、各爪部40A、40Bの先端面45と、第一の接触面41側の基端面46と、第二の接触面42側の基端面47と、を有するので、
図6に示したように、これら先端面45および二つの基端面46,47により、インペラ10の着脱作業時に、軸方向に押圧される推力を分散するとともに、治具自身が撚れたり傾いたりする姿勢の乱れを防ぎ、着脱トルクを効率よくインペラ10の複数の主羽根11に伝達できる。
【0034】
また、本実施形態のインペラ用着脱治具30によれば、各爪部40A、40Bの外周面44の外径44dは、
図5に示したように、インペラ10に内挿されている芯金11bの外径11dと同一か、もしくは芯金11bの外径11dよりも僅かに小さくなっているので、ライニング11a内に芯金11bを内包するゴム製インペラ用の着脱治具の場合に、主羽根11の外周部のライニング11aに対し、芯金11bが内包されていない部分に、第一および第二の接触面41,42から無用な力が加わってライニングゴムが裂けるのを防ぐ上で好適である。
【0035】
また、本実施形態のインペラ用着脱治具30によれば、
図4に示したように、膨出部32に通し穴33が形成され、インペラ着脱治具30の使用時に、長尺なパイプPを径方向に沿って差し込んで用いることにより、作業者が手で強いトルクをインペラ着脱治具30に与えることができる。これにより、着脱作業性をより向上させることができる。
また、本実施形態のインペラ用着脱治具30によれば、爪部40A、40Bの各面に通し穴35が形成されているので、
図4に示したように、インペラ10の基端部10bをシャフト3の先端のねじ部3sに着脱する際に、インペラ10の重心に近い位置で、インペラ着脱治具30ごとインペラ10を吊るのに用いることができる。これにより、着脱作業性を一層向上させることができる。
【0036】
なお、本発明に係るインペラ用着脱治具は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
例えば、上記実施形態では、複数の爪部として、羽根11が4枚のインペラ10に対し、一対の爪部40A、40Bを対応させた例を示したが、これに限らず、例えば二対、4枚の爪部としてもよい。また、羽根11が3枚のインペラであれば、インペラの3枚の羽根間の3つの流路に対して3枚の爪部を対応させるように構成することができる。
【0037】
また、例えば上記実施形態のインペラ用着脱治具30では、インペラの背面基端部をシャフトの先端のねじ部に前面側からねじ込んで取り付け可能且つ取り外し可能な治具を例に示したが、これに限定されず、取り付け専用若しくは取り外し専用の治具としてもよい。ただし、上記実施形態のインペラ用着脱治具30のように、取り付け可能且つ取り外し可能な治具とすることは好ましい。
また、例えば上記実施形態では、複数の爪部40A、40Bは、羽根3の表面に沿って周方向の一方側で接する第一のトルク付与面41と、羽根11の表面に沿って周方向の他方側で接する第二のトルク付与面42と、をそれぞれ有する例を示したが、これに限定されない。
【0038】
つまり、本発明に係るインペラ用着脱治具は、少なくとも、複数の爪部相互が、羽根11の周方向を向く表面に同時に接してインペラ3の着脱時にトルクを付与するトルク付与面をそれぞれ有するものであれば、所期の作用効果を奏することができる。
具体的には、
図9に示す変形例のように、例えば一対の爪部40A、40Bの形状を円筒状にすることができる。このような構成であっても、同図(d)に示すように、一対の爪部40A、40Bの円筒状外面が、羽根11の周方向を向く表面に同時に接してインペラ3の着脱時にトルクを付与するトルク付与面となる。
【0039】
さらに、
図9に示す変形例によれば、上記実施形態では、取り付け方向と取り外し方向とでそれぞれ別個のトルク付与面41、42を設けていたのに対し、一対の爪部40A、40Bそれぞれの一の円筒状外面により、羽根の表面に沿って周方向の一方側で接するトルク付与面と、羽根の表面に沿って周方向の他方側で接するトルク付与面と、を兼ねることができる。そのため、上記実施形態に比べて、単純な形状によって所期の作用効果を奏する上で好適である。
【0040】
但し、インペラの基端部をシャフトの先端ねじ部に取り付ける若しくは取り外す際のトルクを各トルク付与面により効率良く分散させる上では、上記実施形態に示したように、複数の爪部が、羽根11の表面に沿って周方向の一方側で接する第一のトルク付与面41と、羽根11の表面に沿って周方向の他方側で接する第二のトルク付与面42と、をそれぞれ有することが好ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 遠心ポンプ(機器)
2 ケーシング
3 シャフト
4 吸込口
5 吐出口
10 インペラ(羽根車)
11 主羽根(羽根)
12 裏羽根
14 ベース面
15 エキスペラ(補助羽根車)
20 フレーム
21 軸封装置
30 インペラ用着脱治具
31 基部
32 膨出部
33 通し穴
35 貫通孔
40A、40B 爪部
41 第一のトルク付与面
42 第二のトルク付与面
43 内周面
44 外周面
45 先端面(接触面)
46 第一の基端面(接触面)
47 第二の基端面(接触面)