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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20240522BHJP
   F16D 13/64 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
F16D13/52 Z
F16D13/64 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019181412
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2021055796
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】小林 佑樹
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-151232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0087420(US,A1)
【文献】特開2011-247425(JP,A)
【文献】特開2018-080776(JP,A)
【文献】特開2018-194160(JP,A)
【文献】特開2012-141000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/52
F16D 13/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、
前記原動軸の回転駆動によって同原動軸とともに回転駆動する入力回転体と、
前記従動軸とともに回転駆動する第2摩擦板に対向配置されて前記入力回転体の回転駆動によって回転駆動する第1摩擦板を保持する有底筒状に形成されたクラッチアウタと、
前記入力回転体と前記クラッチアウタとの相対回転を許容しつつ前記入力回転体の回転駆動力を前記クラッチアウタに伝達するダンパ機構とを備え、
前記ダンパ機構は、
平板状に形成されて前記クラッチアウタと一体的に回転駆動する第1ダンパ摩擦板と、
平板状に形成されて前記第1ダンパ摩擦板に対向する位置で前記入力回転体と一体的に回転駆動する第2ダンパ摩擦板と、
前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方を他方に押圧して互いに摩擦接触させるダンパ摩擦板押圧具とを備え
前記入力回転体は、
前記従動軸を回転自在な状態で嵌合させる筒状のボス部を有し、
前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板は、
前記ボス部の径方向外側に隣接配置されており、
前記ボス部は、
前記従動軸から供給される潤滑油を前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板にそれぞれ導く潤滑油流路を有していることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、
前記原動軸の回転駆動によって同原動軸とともに回転駆動する入力回転体と、
前記従動軸とともに回転駆動する第2摩擦板に対向配置されて前記入力回転体の回転駆動によって回転駆動する第1摩擦板を保持する有底筒状に形成されたクラッチアウタと、
前記入力回転体と前記クラッチアウタとの相対回転を許容しつつ前記入力回転体の回転駆動力を前記クラッチアウタに伝達するダンパ機構とを備え、
前記ダンパ機構は、
平板状に形成されて前記クラッチアウタと一体的に回転駆動する第1ダンパ摩擦板と、
平板状に形成されて前記第1ダンパ摩擦板に対向する位置で前記入力回転体と一体的に回転駆動する第2ダンパ摩擦板と、
前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方を他方に押圧して互いに摩擦接触させるダンパ摩擦板押圧具とを備え
前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板は、
前記入力回転体と前記クラッチアウタとに直接挟まれた状態で配置されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項3】
原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、
前記原動軸の回転駆動によって同原動軸とともに回転駆動する入力回転体と、
前記従動軸とともに回転駆動する第2摩擦板に対向配置されて前記入力回転体の回転駆動によって回転駆動する第1摩擦板を保持する有底筒状に形成されたクラッチアウタと、
前記入力回転体と前記クラッチアウタとの相対回転を許容しつつ前記入力回転体の回転駆動力を前記クラッチアウタに伝達するダンパ機構とを備え、
前記ダンパ機構は、
平板状に形成されて前記クラッチアウタと一体的に回転駆動する第1ダンパ摩擦板と、
平板状に形成されて前記第1ダンパ摩擦板に対向する位置で前記入力回転体と一体的に回転駆動する第2ダンパ摩擦板と、
前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方を他方に押圧して互いに摩擦接触させるダンパ摩擦板押圧具とを備え
前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板のうちの一方は、
前記有底筒状に形成された前記クラッチアウタにおける底部に配置されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項4】
原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、
前記原動軸の回転駆動によって同原動軸とともに回転駆動する入力回転体と、
前記従動軸とともに回転駆動する第2摩擦板に対向配置されて前記入力回転体の回転駆動によって回転駆動する第1摩擦板を保持する有底筒状に形成されたクラッチアウタと、
前記入力回転体と前記クラッチアウタとの相対回転を許容しつつ前記入力回転体の回転駆動力を前記クラッチアウタに伝達するダンパ機構とを備え、
前記ダンパ機構は、
平板状に形成されて前記クラッチアウタと一体的に回転駆動する第1ダンパ摩擦板と、
平板状に形成されて前記第1ダンパ摩擦板に対向する位置で前記入力回転体と一体的に回転駆動する第2ダンパ摩擦板と、
前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方を他方に押圧して互いに摩擦接触させるダンパ摩擦板押圧具とを備え
前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板は、
前記第1摩擦板および前記第2摩擦板よりも小径に形成されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載したクラッチ装置において、
前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方の摩擦板が複数設けられて他方の摩擦板を挟んで配置されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載したクラッチ装置において、
前記クラッチアウタは、
前記第1ダンパ摩擦板をスプライン嵌合によって保持する第1ダンパ摩擦板保持部を一体的に有しており、
前記入力回転体は、
前記第2ダンパ摩擦板をスプライン嵌合によって保持する第2ダンパ摩擦板保持部を一体的に有していることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項7】
請求項6に記載したクラッチ装置において、
前記第1ダンパ摩擦板保持部と前記第2ダンパ摩擦板保持部とは、径方向上で互いに重なって形成されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか1つに記載したクラッチ装置において、
前記ダンパ摩擦板押圧具は、
平板環状に形成されて前記第1ダンパ摩擦板と前記第2ダンパ摩擦板との摩擦摺動面に直交する線上に配置されたリングスプリングで構成されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載したクラッチ装置において、
前記ダンパ機構は、さらに、
前記入力回転体と前記クラッチアウタとを一体的に連結する連結ピンを備え、
前記第1ダンパ摩擦板および前記第2ダンパ摩擦板は、
前記連結ピンよりも径方向の内側に設けられていることを特徴とするクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機によって回転駆動する原動軸の回転駆動力を被動体を駆動させる従動軸に伝達および遮断するクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二輪自動車や四輪自動車などの車両においては、エンジンなどの原動機と車輪などの被動体との間に配置されて原動機の回転駆動力を被動体に伝達または遮断するためにクラッチ装置が用いられている。一般に、クラッチ装置は、原動機の回転駆動力によって回転する複数の第1摩擦板と被動体に連結された複数の第2摩擦板とを互いに対向配置するとともに、これらの第1摩擦板と第2摩擦板とを密着および離隔させることにより回転駆動力の伝達または遮断を任意に行なうことができる。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、原動機の回転駆動力を入力する入力回転体としてのドリブンギアと複数の第1摩擦板を保持するクラッチアウタとの間に原動機の回転駆動力を弾性的にクラッチアウタに伝達するダンパ機構を備えたクラッチ装置が開示されている。ここで、ダンパ機構は、主として、ダンパスプリング、滑り板、保持板、リベットおよびダイヤフラムばねをそれぞれ備えて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-151232号公報
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載したクラッチ装置においては、複数のダンパスプリングを入力回転体としてのドリブンギア内に縮めた状態で組み付ける作業に大きな力が必要になり作業負担が大きいという問題がある。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、ダンパスプリングの入力回転体への組み付け作業の作業負担を軽減することができるクラッチ装置を提供することにある。
【発明の概要】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、原動軸の回転駆動によって同原動軸とともに回転駆動する入力回転体と、従動軸とともに回転駆動する第2摩擦板に対向配置されて入力回転体の回転駆動によって回転駆動する第1摩擦板を保持する有底筒状に形成されたクラッチアウタと、入力回転体とクラッチアウタとの相対回転を許容しつつ入力回転体の回転駆動力をクラッチアウタに伝達するダンパ機構とを備え、ダンパ機構は、平板状に形成されてクラッチアウタと一体的に回転駆動する第1ダンパ摩擦板と、平板状に形成されて第1ダンパ摩擦板に対向する位置で入力回転体と一体的に回転駆動する第2ダンパ摩擦板と、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方を他方に押圧して互いに摩擦接触させるダンパ摩擦板押圧具とを備え入力回転体は、従動軸を回転自在な状態で嵌合させる筒状のボス部を有し、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板は、ボス部の径方向外側に隣接配置されており、ボス部は、従動軸から供給される潤滑油を第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板にそれぞれ導く潤滑油流路を有していることにある。
【0008】
このように構成した本発明の特徴によれば、クラッチ装置は、ダンパ機構が第1ダンパ摩擦板と第2ダンパ摩擦板との摩擦接触を介して入力回転体の回転駆動力をクラッチアウタに伝達するため、縦弾性係数(ヤング率)の小さいダンパスプリングを用いることができ、ダンパスプリングの入力回転体への組み付け作業の作業負担を軽減することができる。この場合、本発明に係るクラッチ装置は、ダンパスプリングを省略して構成することもできる。また、このように構成した本発明の特徴によれば、クラッチ装置は、入力回転体が従動軸を回転自在な状態で嵌合させる筒状のボス部を有しているとともに、このボス部が従動軸から供給される潤滑油を隣接配置された第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板にそれぞれ導く潤滑油流路を有しているため、第1ダンパ摩擦板と第2ダンパ摩擦板との間の排熱、塵などの排出性および潤滑性を向上させることができる。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、原動軸の回転駆動によって同原動軸とともに回転駆動する入力回転体と、従動軸とともに回転駆動する第2摩擦板に対向配置されて入力回転体の回転駆動によって回転駆動する第1摩擦板を保持する有底筒状に形成されたクラッチアウタと、入力回転体とクラッチアウタとの相対回転を許容しつつ入力回転体の回転駆動力をクラッチアウタに伝達するダンパ機構とを備え、ダンパ機構は、平板状に形成されてクラッチアウタと一体的に回転駆動する第1ダンパ摩擦板と、平板状に形成されて第1ダンパ摩擦板に対向する位置で入力回転体と一体的に回転駆動する第2ダンパ摩擦板と、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方を他方に押圧して互いに摩擦接触させるダンパ摩擦板押圧具とを備え、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板は、入力回転体とクラッチアウタとに直接挟まれた状態で配置されていることにある。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、原動軸の回転駆動によって同原動軸とともに回転駆動する入力回転体と、従動軸とともに回転駆動する第2摩擦板に対向配置されて入力回転体の回転駆動によって回転駆動する第1摩擦板を保持する有底筒状に形成されたクラッチアウタと、入力回転体とクラッチアウタとの相対回転を許容しつつ入力回転体の回転駆動力をクラッチアウタに伝達するダンパ機構とを備え、ダンパ機構は、平板状に形成されてクラッチアウタと一体的に回転駆動する第1ダンパ摩擦板と、平板状に形成されて第1ダンパ摩擦板に対向する位置で入力回転体と一体的に回転駆動する第2ダンパ摩擦板と、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方を他方に押圧して互いに摩擦接触させるダンパ摩擦板押圧具とを備え、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板のうちの一方は、有底筒状に形成されたクラッチアウタにおける底部に配置されていることにある。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、原動軸の回転駆動によって同原動軸とともに回転駆動する入力回転体と、従動軸とともに回転駆動する第2摩擦板に対向配置されて入力回転体の回転駆動によって回転駆動する第1摩擦板を保持する有底筒状に形成されたクラッチアウタと、入力回転体とクラッチアウタとの相対回転を許容しつつ入力回転体の回転駆動力をクラッチアウタに伝達するダンパ機構とを備え、ダンパ機構は、平板状に形成されてクラッチアウタと一体的に回転駆動する第1ダンパ摩擦板と、平板状に形成されて第1ダンパ摩擦板に対向する位置で入力回転体と一体的に回転駆動する第2ダンパ摩擦板と、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方を他方に押圧して互いに摩擦接触させるダンパ摩擦板押圧具とを備え、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板は、
第1摩擦板および第2摩擦板よりも小径に形成されていることにある。
【0012】
このように構成した本発明の特徴によれば、クラッチ装置は、ダンパ機構が第1ダンパ摩擦板と第2ダンパ摩擦板との摩擦接触を介して入力回転体の回転駆動力をクラッチアウタに伝達するため、縦弾性係数(ヤング率)の小さいダンパスプリングを用いることができ、ダンパスプリングの入力回転体への組み付け作業の作業負担を軽減することができる。この場合、本発明に係るクラッチ装置は、ダンパスプリングを省略して構成することもできる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方の摩擦板が複数設けられて他方の摩擦板を挟んで配置されていることにある。このように構成した本発明の特徴によれば、クラッチ装置は、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板のうちの少なくとも一方の摩擦板が複数設けられて他方の摩擦板を挟んで配置されているため、摩擦接触面を増加させて入力回転体とクラッチアウタとの間の回転駆動力の伝達効率を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、クラッチアウタは、第1ダンパ摩擦板をスプライン嵌合によって保持する第1ダンパ摩擦板保持部を一体的に有しており、入力回転体は、第2ダンパ摩擦板をスプライン嵌合によって保持する第2ダンパ摩擦板保持部を一体的に有していることにある。このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、クラッチアウタが第1ダンパ摩擦板をスプライン嵌合によって保持する第1ダンパ摩擦板保持部を一体的に有するとともに、入力回転体が第2ダンパ摩擦板をスプライン嵌合によって保持する第2ダンパ摩擦板保持部を一体的に有しているため、クラッチ装置の部品点数の増加を抑えて構造の複雑化および重量化を抑えることができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、第1ダンパ摩擦板保持部と第2ダンパ摩擦板保持部とは、径方向上で互いに重なって形成されていることにある。
【0016】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、ダンパ摩擦板押圧具は、平板環状に形成されて第1ダンパ摩擦板と第2ダンパ摩擦板との摩擦摺動面に直交する線上に配置されたリングスプリングで構成されていることにある。このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、ダンパ摩擦板押圧具が平板環状に形成されて第1ダンパ摩擦板と第2ダンパ摩擦板との摩擦摺動面に直交する線上に配置されたリングスプリングで構成されているため、ダンパ摩擦板押圧具による押圧力の作用線上に摩擦摺動面が存在することで第1ダンパ摩擦板と第2ダンパ摩擦板との面圧を均一化して振動または偏摩耗の発生を抑えながら摩擦接触させることができる。

【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、ダンパ機構は、さらに、入力回転体とクラッチアウタとを一体的に連結する連結ピンを備え、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板は、連結ピンよりも径方向の内側に設けられていることにある。
【0018】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、ダンパ機構が入力回転体とクラッチアウタとを一体的に連結する連結ピンを備えるとともに、第1ダンパ摩擦板および第2ダンパ摩擦板は連結ピンよりも径方向の内側に設けられているため、クラッチ装置の大型化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置の全体構成の概略をクラッチONの状態で示す断面図である。
図2図1に示す破線円2内の構成を拡大して示す部分拡大断面である。
図3図1に示すクラッチ装置を構成する第1ダンパ摩擦板の外観構成の概略を示す平面図である。
図4図1に示すクラッチ装置を構成する第2ダンパ摩擦板の外観構成の概略を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るクラッチ装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るクラッチ装置100の全体構成の概略を示す断面図である。また、図2は、図1に示す破線円2内の構成を示す部分拡大断面である。このクラッチ装置100は、二輪自動車(オートバイ)における原動機であるエンジン(図示せず)の駆動力を被動体である車輪(図示せず)に伝達および遮断するための機械装置であり、同エンジンと変速機(トランスミッション)(図示せず)との間に配置されるものである。
【0021】
(クラッチ装置100の構成)
クラッチ装置100は、クラッチアウタ101を備えている。クラッチアウタ101は、第1摩擦板112を保持するとともにこの第1摩擦板112にエンジンからの駆動力を伝達するための部品であり、アルミニウム合金材を有底円筒状に成形して構成されている。より具体的には、クラッチアウタ101における筒状に形成された部分には、内歯歯車状のスプラインからなる摩擦板保持部101aが形成されており、この摩擦板保持部101aに複数枚(本実施形態においては10枚)の第1摩擦板112がクラッチアウタ101の軸線方向に沿って変位可能、かつ同クラッチアウタ101と一体回転可能な状態でスプライン嵌合して保持されている。
【0022】
また、クラッチアウタ101は、上記有底円筒状における底部に相当する図示左側の側面101bに連結孔101c、ピン支持柱101d、スプリング収容部101eおよび第1ダンパ摩擦板保持部101fがそれぞれ形成されておりダンパ機構105を介して入力回転体102に連結されている。連結孔101cは、後述する入力回転体102のボス部102bが嵌合する部分であり、側面101bの中心部に形成された円形の貫通孔で構成されている。
【0023】
ピン支持柱101dは、入力回転体102を貫通して後述する連結ピン109を支持する部分であり、側面101bから垂直方向に起立する円筒状に形成されている。このピン支持柱101dは、連結ピン109の数に応じて形成される。本実施形態においては、ピン支持柱101dは、側面101bの周方向に沿って等間隔の3つの位置にそれぞれ形成されている。この場合、3つのピン支持柱101dは、側面101bの外縁部に隣接する位置にそれぞれ連結孔101cと同心円上に形成されている。
【0024】
スプリング収容部101eは、後述するダンパスプリング111を収容する部分であり、側面101bの周方向に凹状に凹んで延びて形成されている。この場合、スプリング収容部101eの両端部は、ダンパスプリング111の両端部が弾性的に突き当てられている。このスプリング収容部101eは、本実施形態においては、側面101bの周方向に沿って前記3つのピン支持柱101dの各間にそれぞれ2つずつ形成されているが、2つ未満または3つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0025】
第1ダンパ摩擦板保持部101fは、後述する第1ダンパ摩擦板106を保持する部分であり、側面101bから垂直方向に起立する有底の円筒状に形成されている。この場合、第1ダンパ摩擦板保持部101fは、前記3つのピン支持柱101dの内側に形成されている。この第1ダンパ摩擦板保持部101fは、内周部に内歯歯車状のスプラインが形成されており、このスプラインに1つの第1ダンパ摩擦板106がクラッチアウタ101の軸線方向に沿って変位可能、かつ同クラッチアウタ101と一体回転可能な状態でスプライン嵌合して保持されている。
【0026】
入力回転体102は、エンジンなどの原動機の駆動により回転駆動するクランク軸などの原動軸(図示せず)に連結された駆動ギアと噛合って回転駆動する金属製の歯車部品であり、スリーブ103およびニードルベアリング104を介してそれぞれ後述するシャフト120に回転自在に支持されている。すなわち、クラッチアウタ101は、シャフト120と同心位置でシャフト120と独立して入力回転体102と一体的に回転駆動する。この入力回転体102は、主として、歯部102a,ボス部102b、第2ダンパ摩擦板保持部102cおよび張出部102eを有して構成されている。
【0027】
歯部102aは、前記駆動ギアに噛み合って回転駆動力を受ける部分であり、円周方向に沿って凹凸を繰り返す形状に形成されている。ボス部102bは、入力回転体102をシャフト120上で支持するとともにクラッチアウタ101を支持する部分であり、歯部102aの円周方向に直交する方向に延びる円筒状に形成されている。このボス部102bは、内周側がニードルベアリング104を介してスリーブ103に嵌合している。また、ボス部102bの外周部には、第2ダンパ摩擦板保持部102cが形成されるとともにクラッチアウタ101が摺動自在な状態で嵌合している。
【0028】
第2ダンパ摩擦板保持部102cは、後述する第2ダンパ摩擦板107を保持する部分であり、ボス部102bの外周面上に形成された外歯歯車状のスプラインで構成されている。この第2ダンパ摩擦板保持部102cには、2つの第2ダンパ摩擦板107が前記1つの第1ダンパ摩擦板106を挟んだ状態でクラッチアウタ101の軸線方向に沿って変位可能、かつ同クラッチアウタ101と一体回転可能な状態でスプライン嵌合して保持されている。
【0029】
また、第2ダンパ摩擦板保持部102cには、潤滑油流路102dが形成されている。潤滑油流路102dは、図1における破線矢印で示すように、シャフト120から供給される潤滑油(図示せず)をニードルベアリング104を収容する部分を介して第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107にそれぞれ導くための部分であり、ボス部102bを径方向に貫通する孔で構成されている。本実施形態においては、潤滑油流路102dは、1つ形成されているが、2つ以上形成されていてもよい。また、潤滑油流路102dは、第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107への給油が不要な場合には省略することもできる。
【0030】
張出部102eは、ボス部102bの径方向外側で歯部102aを支持するとともにクラッチアウタ101に連結される部分であり、ボス部102bの径方向外側に平板円環状に形成されている。この張出部102eには、連結ピン貫通部102fおよびスプリング収容部102gがそれぞれ形成されている。
【0031】
連結ピン貫通部102fは、後述する連結ピン109が貫通する部分であり、連結ピン109の周方向への揺動を許容する長孔状に形成されている。この連結ピン貫通部102fは、本実施形態においては、入力回転体102の周方向に沿って均等な間隔を介して3つ形成されているが、3つ未満または4つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0032】
スプリング収容部102gは、後述するダンパスプリング111を収容する部分であり、入力回転体102の周方向の延びる長孔状に形成されている。この場合、スプリング収容部102gの両端部は、ダンパスプリング111の両端部が弾性的に突き当てられている。このスプリング収容部102gは、本実施形態においては、入力回転体102の周方向に沿って3つの連結ピン貫通部102fの各間にそれぞれ2つずつ形成されているが、2つ未満または3つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0033】
スリーブ103は、シャフト120上で入力回転体102をニードルベアリング104を介して支持するための部品であり、金属材を円筒状に形成して構成されている。このスリーブ103には、シャフト120から供給される潤滑油をニードルベアリング104に導くための貫通孔からなる流路103aが形成されている。ニードルベアリング104は、スリーブ103の外周面上で入力回転体102を回転自在な状態で支持するための部品であり、スリーブ103の外周面上を周方向に転動する多数の細長い円柱体を備えて円筒状に形成されている。
【0034】
ダンパ機構105は、入力回転体102の回転駆動力を弾性的にクラッチアウタ101に伝達するための部品群であり、主として、第1ダンパ摩擦板106、第2ダンパ摩擦板107、入力側サイドプレート108、連結ピン109、リングスプリング110およびダンパスプリング111をそれぞれ備えて構成されている。
【0035】
第1ダンパ摩擦板106は、図3に示すように、第2ダンパ摩擦板107に摩擦接触することで入力回転体102の回転駆動力をクラッチアウタ101に伝達するための部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材などの金属材を平板円環状に形成して構成されている。この場合、第1ダンパ摩擦板106の外周部には、クラッチアウタ101の第1ダンパ摩擦板保持部101fに形成された前記内歯状のスプラインに噛み合う外歯106aが形成されている。すなわち、第1ダンパ摩擦板保持部101fは、ダンパ機構105の一部を構成している。この第1ダンパ摩擦板106は、表面に潤滑油を保持するための深さ数μm~数十μmの油溝を形成したり表面硬化処理を施したりすることで耐摩耗性を向上させることができる。
【0036】
第2ダンパ摩擦板107は、図4に示すように、第1ダンパ摩擦板106に摩擦接触することで入力回転体102の回転駆動力をクラッチアウタ101に伝達するための部品であり、アルミニウム材などの金属材を平板円環状に形成して構成されている。この場合、第2ダンパ摩擦板107の内周部には、入力回転体102の第2ダンパ摩擦板保持部102cに形成された前記外歯状のスプラインに噛み合う内歯107aが形成されている。すなわち、第2ダンパ摩擦板保持部102cは、ダンパ機構105の一部を構成している。
【0037】
また、第2ダンパ摩擦板107における両側面(表裏面)には、複数(本実施形態においては、片側24枚)の紙片からなる摩擦材107bが貼り付けられている。この第2ダンパ摩擦板107は、第1ダンパ摩擦板106の両側に配置されて第1ダンパ摩擦板106を挟んで摩擦接触している。なお、前記摩擦材107bは、前記第2ダンパ摩擦板107に代えてこの第1ダンパ摩擦板106に設けられていてもよいことは当然である。また、第2ダンパ摩擦板107は、摩擦材107bを省略して構成することもできる。また、図1においては、摩擦材107bの図示を省略している。
【0038】
入力側サイドプレート108は、入力回転体102のクラッチアウタ101とは反対側(図示左側)への変位を規制するための部品であり、金属材を平板円環状に形成して構成されている。この場合、入力側サイドプレート108は、リングスプリング110の板面における外周部分を押さえることができる内径に形成されている。すなわち、入力側サイドプレート108には、板面の最内周部にリングスプリング110を押圧するリング押圧部108aが形成されている。
【0039】
また、入力側サイドプレート108の板面には、連結ピン貫通部108bおよびスプリング収容部108cがそれぞれ形成されている。連結ピン貫通部108bは、連結ピン109が貫通する部分であり、連結ピン109の外径と略同一の円形の貫通孔で構成されている。この連結ピン貫通部108bは、本実施形態においては、入力側サイドプレート108の周方向に沿って均等な間隔を介して3つ形成されているが、3つ未満または4つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0040】
スプリング収容部108cは、スプリング収容部102gに収容されているダンパスプリング111を収容する部分であり、ダンパスプリング111の一部を覆いつつ入力側サイドプレート108の周方向の延びるカバー付きの長孔状に形成されている。この場合、スプリング収容部108cの両端部は、ダンパスプリング111の両端部が弾性的に突き当てられている。このスプリング収容部108cは、本実施形態においては、入力側サイドプレート108の周方向に沿って3つの連結ピン貫通部108bの各間にそれぞれ2つずつ形成されているが、2つ未満または3つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0041】
連結ピン109は、入力回転体102とクラッチアウタ101とを第1ダンパ摩擦板106、第2ダンパ摩擦板107、入力側サイドプレート108およびリングスプリング110を介して一体的に連結するための部品であり、金属材を棒状に形成して構成されている。本実施形態においては、連結ピン109は、入力側サイドプレート108とクラッチアウタ101とを貫通する3つのリベットで構成されている。この場合、3つの各連結ピン109は、ピン支持柱101dおよび入力側サイドプレート108の連結ピン貫通部108bを貫通した状態で取り付けられている。
【0042】
リングスプリング110は、入力側サイドプレート108とクラッチアウタ101との間に配置されて第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107とを互いに押し付けあわせるための部品であり、平板環状に形成したばね鋼で構成されている。このリングスプリング110は、入力回転体102の張出部102eと入力側サイドプレート108のリング押圧部108aとの間に圧縮変形した状態で配置されている。このリングスプリング110が、本発明に係るダンパ摩擦板押圧具に相当する。
【0043】
ダンパスプリング111は、入力回転体102の回転駆動力(トルク)の変動を減衰しながらクラッチアウタ101に伝達する部品であり、鋼製のコイルスプリングによって構成されている。このダンパスプリング111は、入力回転体102、クラッチアウタ101および入力側サイドプレート108の各周方向の同じ位置にそれぞれ6つずつ形成されたスプリング収容部102g,101e,108c内に弾性的に縮めた状態でそれぞれ配置されている。
【0044】
第1摩擦板112は、第2摩擦板113に押し当てられる平板環状の部品であり、アルミニウム材からなる薄板材を環状に成形して構成されている。この場合、各第1摩擦板112の外周部には、クラッチアウタ101の前記内歯状のスプラインに噛み合う外歯が形成されている。これらの第1摩擦板112における各両側面(表裏面)には、図示しない複数の紙片からなる摩擦材が貼り付けられているとともに各摩擦材間に図示しない油溝が形成されて構成されている。また、これらの第1摩擦板112は、クラッチアウタ101の内側に設けられるセンタークラッチ114およびプレッシャークラッチ115ごとにそれぞれ同じ大きさおよび形状に形成されている。
【0045】
クラッチアウタ101の内側には、複数枚(本実施形態においては9枚)の第2摩擦板113が前記第1摩擦板112で挟まれた状態でセンタークラッチ114およびプレッシャークラッチ115にそれぞれ保持されている。第2摩擦板113は、前記第1摩擦板112に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。これらの第2摩擦板113における各両側面(表裏面)には、クラッチオイルを保持するための深さ数μm~数十μmの図示しない油溝が形成されているとともに、耐摩耗性を向上させる目的で表面硬化処理がそれぞれ施されている。
【0046】
また、各第2摩擦板113の内周部には、センタークラッチ114に形成されたプレート保持部114eおよびプレッシャークラッチ115に形成されたプレートサブ保持部115eにそれぞれスプライン嵌合する内歯歯車状のスプラインがそれぞれ形成されている。これらの第2摩擦板113は、センタークラッチ114およびプレッシャークラッチ115ごとにそれぞれ同じ大きさおよび形状に形成されている。なお、第1摩擦板112に設けられた摩擦材は、前記第1摩擦板112に代えてこの第2摩擦板113に設けられていてもよいことは当然である。
【0047】
センタークラッチ114は、第2摩擦板113を第1摩擦板112とともにそれぞれ収容してエンジンの駆動力を変速機側に伝達するための部品であり、アルミニウム合金材を略円筒状に成形して構成されている。より具体的には、センタークラッチ114は、主として、シャフト連結部114a、リング状中間部114bおよびプレート保持部114eを一体的に形成して構成されている。
【0048】
シャフト連結部114aは、プレッシャークラッチ115が嵌合しつつシャフト120に連結される部分であり、センタークラッチ114の中心部に軸方向に延びる円筒状に形成されている。このシャフト連結部114aの内周面には、センタークラッチ114の軸線方向に沿って内歯歯車状のスプラインが形成されており、このスプラインにシャフト120がスプライン嵌合している。すなわち、センタークラッチ114は、クラッチアウタ101およびシャフト120と同心位置でシャフト120とともに一体的に回転する。
【0049】
リング状中間部114bは、シャフト連結部114aとプレート保持部114eとの間に形成されたフランジ状の部分である。このリング状中間部114bには、周方向に沿って3つの筒状支柱114dがそれぞれ形成されている。
【0050】
なお、リング状中間部114bには、第1摩擦板112と第2摩擦板113との圧接力を増強する力であるアシストトルクまたは第1摩擦板112と第2摩擦板113とを早期に離隔させて半クラッチ状態に移行させる力であるスリッパートルクを生じさせるA&S(登録商標)機構を構成する傾斜面からなるカム面を有した台状のカム体114cが形成されているが、このカム体114cを含むA&S(登録商標)機構は本発明に直接関わらないため、その説明は省略する。また、リング状中間部114bは、このA&S(登録商標)機構を省略して構成することもできる。
【0051】
3つの筒状支柱114dは、プレッシャークラッチ115を支持するためにセンタークラッチ114の軸方向に柱状に延びた円筒状の部分であり、その内周部に雌ネジが形成されている。これら3つの筒状支柱114dは、センタークラッチ114の周方向に沿って均等に形成されている。
【0052】
プレート保持部114eは、前記複数枚の第2摩擦板113の一部を第1摩擦板112とともに保持する部分であり、センタークラッチ114の外縁部に軸方向に延びる円筒状に形成されている。このプレート保持部114eは、外周部が外歯歯車状のスプラインで構成されており、第2摩擦板113と第1摩擦板112とを交互に配置した状態でセンタークラッチ114の軸線方向に沿って変位可能かつ同センタークラッチ114と一体回転可能な状態で保持している。
【0053】
このプレート保持部114eには、図示左側の先端部にプレート受け部114fが形成されている。プレート受け部114fは、プレッシャークラッチ115に押圧された第2摩擦板113および第1摩擦板112を受け止めてこれらをプレッシャークラッチ115とで挟む部分であり、円筒状に形成されたプレート保持部114eの先端部が径方向外側にフランジ状に張り出して形成されている。
【0054】
プレッシャークラッチ115は、第1摩擦板112を押圧することによってこの第1摩擦板112と第2摩擦板113とを互いに密着させるための部品であり、アルミニウム合金材を第2摩擦板113の外径と略同じ大きさの外径の略円盤状に成形して構成されている。より具体的には、プレッシャークラッチ115は、主として、ボス部115a、リング状中間部115bおよびプレートサブ保持部115eを一体的に形成して構成されている。
【0055】
ボス部115aは、シャフト120が備えるプッシュロッド124からの押圧力を受ける部分であり、円筒状に形成されている。このボス部115aには、レリーズベアリング123が設けられている。リング状中間部115bは、ボス部115aとプレートサブ保持部115eとの間に形成されたフランジ状の部分である。このリング状中間部115bには、周方向に沿って3つの筒状収容部115cが形成されているとともに、これら3つの筒状収容部115cの各間に前記A&S(登録商標)機構を構成するカム体115dが形成されている。
【0056】
3つの筒状収容部115cは、それぞれ前記3つの筒状支柱114dおよびクラッチスプリング117をそれぞれ収容する部分であり周方向に延びる長孔状に形成されている。より具体的には、筒状収容部115c内には、センタークラッチ114の筒状支柱114dが貫通した状態で配置されるとともにこの筒状支柱114dの外側にクラッチスプリング117が配置されている。なお、カム体115dは、前記カム体114cに摺動してアシストトルクまたはスリッパートルクを発生させる台状の部分である。
【0057】
プレートサブ保持部115eは、前記複数枚の第2摩擦板113の他の一部を第1摩擦板112とともに保持する部分であり、プレッシャークラッチ115の外縁部の軸方向に延びる円筒状に形成されている。このプレートサブ保持部115eは、外周部が外歯歯車状のスプラインで構成されており、第2摩擦板113と第1摩擦板112とを交互に配置した状態でプレッシャークラッチ115の軸線方向に沿って変位可能かつ同プレッシャークラッチ115と一体回転可能な状態で保持している。このプレートサブ保持部115eには、先端部にプレート押し部115fが形成されている。
【0058】
プレート押し部115fは、プレートサブ保持部115eに保持された第2摩擦板113および第1摩擦板112をプレート受け部114f側に押圧して第2摩擦板113と第1摩擦板112とを高い圧力で互いに密着させるための部分であり、円筒状に形成されたプレートサブ保持部115eの根元部分が径方向外側にフランジ状に張り出して形成されている。
【0059】
このプレッシャークラッチ115は、センタークラッチ114に3つの取付ボルト116によって取り付けられている。具体的には、プレッシャークラッチ115は、筒状収容部115c内にセンタークラッチ114の筒状支柱114dおよびクラッチスプリング117がそれぞれ配置された状態で取付ボルト116が筒状支柱114dにストッパ部材118を介して締め付けられて固定されている。
【0060】
この場合、クラッチスプリング117は、筒状収容部115c内に配置されてプレッシャークラッチ115をセンタークラッチ114に向けて押圧する弾性力を発揮する弾性体であり、ばね鋼を螺旋状に巻いたコイルスプリングによって構成されている。また、ストッパ部材118は、プレッシャークラッチ115がセンタークラッチ114に対して離隔する方向に変位する量を規制するための金属製の部材であり、平面視で略三角形状に形成されている。これにより、プレッシャークラッチ115は、センタークラッチ114に対して近接および離隔する方向に変位可能な状態で取り付けられる。
【0061】
シャフト120は、中空状に形成された軸体であり、一方(図示右側)の端部側がスリーブ103およびニードルベアリング104を介して入力回転体102およびクラッチアウタ101を回転自在にそれぞれ支持するとともに、前記スプライン嵌合するセンタークラッチ114をナット121を介して固定的に支持する。すなわち、センタークラッチ114は、シャフト120とともに一体的に回転する。一方、シャフト120における他方(図示左側)の端部側は、二輪自動車における変速機(図示せず)に連結されている。
【0062】
このシャフト120には、中空部の外側に潤滑油(図示せず)をニードルベアリング104を介して潤滑油流路102dに供給する潤滑油供給路120aが形成されている。また、シャフト120の中空部には、一方(右側)の端部側にプッシュ部材122が設けられるとともに同プッシュ部材122に隣接してプッシュロッド124がシャフト120の軸線方向に延びた状態で設けられている。プッシュ部材122は、シャフト120の軸線方向に沿って延びる棒状部材であり、一方(図示左側)の端部がシャフト120の中空部に摺動自在に嵌合するとともに他方(図示右側)の端部がプレッシャークラッチ115に設けられたレリーズベアリング123に連結している。
【0063】
プッシュロッド124は、シャフト120における一方(図示左側)の端部側がクラッチレリーズ機構を構成するクラッチアクチュエータ(図示せず)に連結されているとともに、他方(図示右側)の端部がプッシュ部材122を押圧している。ここで、クラッチレリーズ機構とは、クラッチ装置100が搭載される自走式車両の運転者のクラッチ操作レバー(図示しない)の操作によってプッシュロッド124をレリーズベアリング123側に押圧する機械装置である。
【0064】
そして、このクラッチ装置100内には、所定量の潤滑油(図示しない)が充填されている。潤滑油は、主として、第1摩擦板112と第2摩擦板113との間および第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107との間にそれぞれ供給されてこれらの間で生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗を防止する。すなわち、このクラッチ装置100は、所謂湿式多板摩擦クラッチ装置である。
【0065】
(クラッチ装置100の作動)
次に、上記のように構成したクラッチ装置100の作動について説明する。このクラッチ装置100は、前記したように、車両におけるエンジンと変速機との間に配置されるものであり、車両の運転者によるクラッチ操作レバーの操作によってエンジンの駆動力の変速機への伝達および遮断を行なう。
【0066】
具体的には、クラッチ装置100は、車両の運転者(図示せず)がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作しない場合においては、クラッチレリーズ機構(図示せず)がプッシュ部材122を押圧しないため、プレッシャークラッチ115がクラッチスプリング117の弾性力によって第1摩擦板112を押圧する。これにより、センタークラッチ114は、第1摩擦板112と第2摩擦板113とが互いに押し当てられて摩擦連結されたクラッチONの状態となって回転駆動する。すなわち、原動機の回転駆動力がセンタークラッチ114に伝達されてシャフト120が回転駆動する。
【0067】
このようなクラッチON状態においては、入力回転体102に伝達された原動機からの回転駆動力は、ダンパ機構105を介してクラッチアウタ101に伝達される。具体的には、クラッチ装置100は、入力回転体102の回転駆動によって第2ダンパ摩擦板107が回転駆動する。この場合、2つの第2ダンパ摩擦板107は、リングスプリング110の押圧力によって第1ダンパ摩擦板106に強い力で押し付けられて摩擦接触している。これにより、第1ダンパ摩擦板106は、第2ダンパ摩擦板107とともに一体的に回転駆動することでクラッチアウタ101を回転駆動させる。この結果、クラッチ装置100は、第1摩擦板112および第2摩擦板113を介してセンタークラッチ114が回転駆動することでシャフト120が回転駆動させる。
【0068】
また、このクラッチON状態においては、原動機側の回転駆動力と駆動輪側の回転駆動力との差が第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107との間の摩擦力以上となった場合には、第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107とが摩擦摺動しながら相対回転する。この場合、第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107とは、ダンパスプリング111の弾性力に抗しながら摩擦摺動する。これにより、クラッチ装置100は、入力回転体102の回転駆動力とクラッチアウタ101の回転駆動力との差を吸収しながら原動機側の回転駆動力を駆動輪側に伝達することができる。
【0069】
また、このクラッチON状態においては、クラッチ装置100は、シャフト120における潤滑油供給路120aから潤滑油が供給される。この場合、潤滑油供給路120a内に供給された潤滑油は、流路103aを介してニードルベアリング104に供給された後、潤滑油流路102dを介して第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107にそれぞれ供給される(図1破線矢印参照)。これにより、クラッチ装置100は、第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107との間の排熱、塵などの排出性および潤滑性を向上させることができる。
【0070】
一方、クラッチ装置100は、クラッチON状態において車両の運転者がクラッチ操作レバーを操作した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)がプッシュ部材122を押圧するため、プレッシャークラッチ115がクラッチスプリング117の弾性力に抗してセンタークラッチ114から離隔する方向に変位する。これにより、センタークラッチ114は、第1摩擦板112と第2摩擦板113との摩擦連結が解消されたクラッチOFFの状態となるため、回転駆動が減衰または回転駆動が停止する状態となる。すなわち、原動機の回転駆動力がセンタークラッチ114に対して遮断される。このクラッチOFF状態においても、クラッチ装置100は、入力回転体102に伝達された原動機からの回転駆動力を円滑にクラッチアウタ101に伝達することができる。
【0071】
そして、このクラッチOFF状態において運転者クラッチ操作レバーを解除した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)によるプッシュ部材122を介したプレッシャークラッチ115の押圧が解除されるため、プレッシャークラッチ115がクラッチスプリング117の弾性力によってセンタークラッチ114に接近する方向に変位する。また、このクラッチOFF状態からクラッチON状態に移行する過程においても、クラッチ装置100は、入力回転体102に伝達された原動機からの回転駆動力を円滑にクラッチアウタ101に伝達することができる。
【0072】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、クラッチ装置100は、ダンパ機構105が第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107との摩擦接触を介して入力回転体102の回転駆動力をクラッチアウタ101に伝達するため、縦弾性係数(ヤング率)の小さいダンパスプリング111を用いることができ、ダンパスプリング111の入力回転体102への組み付け作業の作業負担を軽減することができる。
【0073】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0074】
例えば、上記実施形態においては、ダンパ機構105は、1つの第1ダンパ摩擦板106と2つの第2ダンパ摩擦板107とをそれぞれ備えて構成した。しかし、ダンパ機構105は、少なくとも1つずつの第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107をそれぞれ備えて構成されていればよい。したがって、ダンパ機構105は、例えば、第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107をそれぞれ複数枚ずつ備えて構成することができる。これによれば、クラッチ装置100は、入力回転体102とクラッチアウタ101との間の摩擦接触力を向上させて駆動力の伝達効率を向上させることができる。
【0075】
また、上記実施形態においては、第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107は、それぞれ平板円環状に形成した。しかし、第1ダンパ摩擦板106は、第2ダンパ摩擦板107と摩擦摺動する状態でクラッチアウタ101と一体的に回転駆動するように構成されていればよい。また、第2ダンパ摩擦板107は、第1ダンパ摩擦板106と摩擦摺動する状態で入力回転体102と一体的に回転駆動するように構成されていればよい。したがって、第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107は、平板円環状のほかに円形以外の形状の平板環状に形成することもできる。また、第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107は、平板環状のほか平板状に形成することもできる。例えば、第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107は、平面視でC字状に形成することができる。また、第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107は、クラッチアウタ101および入力回転体102の各側壁に周方向に沿って複数の平板片を設けて構成することもできる。
【0076】
また、上記実施形態においては、第1ダンパ摩擦板保持部101fは、クラッチアウタ101の一部としてクラッチアウタ101と一体的に形成した。しかし、第1ダンパ摩擦板保持部101fは、クラッチアウタ101とは別体の部品として構成してクラッチアウタ101に直接または間接的に取り付けられていてもよい。
【0077】
また、上記実施形態においては、第2ダンパ摩擦板保持部102cは、入力回転体102の一部として入力回転体102と一体的に形成した。しかし、第2ダンパ摩擦板保持部102cは、入力回転体102とは別体の部品として構成して入力回転体102に直接または間接的に取り付けられていてもよい。
【0078】
また、上記実施形態においては、リングスプリング110は、第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107との摩擦摺動面に直交する線上に配置した。これにより、クラッチ装置100は、リングスプリング110による押圧力の作用線上に摩擦摺動面が存在することで第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107との面圧を均一化して振動または偏摩耗の発生を抑えながら摩擦接触させることができる。しかし、リングスプリング110は、第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107との摩擦摺動面に直交する線上以外の位置、すなわち、径方向にずれた位置に配置することもできる。これによれば、クラッチ装置100は、ダンパ機構105の設計の自由度を高めることができる。
【0079】
また、上記実施形態においては、入力回転体102は、シャフト120から供給される潤滑油を第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107にそれぞれ導くための潤滑油流路102dを備えて構成した。しかし、入力回転体102は、潤滑油流路102dを省略して構成することもできる。
【0080】
また、上記実施形態においては、第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107は、連結ピン109よりも径方向の内側に配置した。これにより、クラッチ装置100は、クラッチ装置100の大型化を抑えることができる。しかし、第1ダンパ摩擦板106および第2ダンパ摩擦板107は、連結ピン109よりも径方向の外側に配置することもできる。
【0081】
また、上記実施形態においては、リングスプリング110は、入力回転体102と入力側サイドプレート108との間に設けた。しかし、リングスプリング110は、第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107とを互いに摩擦接触させることができる位置に配置されていればよい。したがって、リングスプリング110は、例えば、入力回転体102と第2ダンパ摩擦板107との間および/またはクラッチアウタ101と第1ダンパ摩擦板106との間に配置することもできる。
【0082】
また、上記実施形態においては、ダンパ機構105は、ダンパスプリング111を備えて構成した。しかし、ダンパ機構105は、クラッチ装置100の仕様または第1ダンパ摩擦板106と第2ダンパ摩擦板107との間の摩擦抵抗の大きさを調整することでダンパスプリング111を省略して構成すこともできる。これによれば、クラッチ装置100は、装置構成を簡単化および軽量化することできるとともに組み立て作業の負担を軽減することができる。
【符号の説明】
【0083】
100…クラッチ装置、101…クラッチアウタ、101a…摩擦板保持部、101b…側面、101c…連結孔、101d…ピン支持柱、101e…スプリング収容部、101f…第1ダンパ摩擦板保持部、102…入力回転体、102a…歯部、102b…ボス部、102c…第2ダンパ摩擦板保持部、102d…潤滑油流路、102e…張出部、102f…連結ピン貫通部、102g…スプリング収容部、103…スリーブ、103a…流路、104…ニードルベアリング、105…ダンパ機構、106…第1ダンパ摩擦板、106a…外歯、107…第2ダンパ摩擦板、107a…内歯、107b…摩擦材、108…入力側サイドプレート、108a…リング押圧部、108b…連結ピン貫通部、108c…スプリング収容部、109…連結ピン、110…リングスプリング、111…ダンパスプリング、112…第1摩擦板、113…第2摩擦板、114…センタークラッチ、114a…シャフト連結部、114b…リング状中間部、114c…カム体、114d…筒状支柱、114e…プレート保持部、114f…プレート受け部、115…プレッシャークラッチ、115a…ボス部、115b…リング状中間部、115c…筒状収容部、115d…カム体、115e…プレートサブ保持部、115f…プレート押し部、116…取付ボルト、117…クラッチスプリング、118…ストッパ部材、120…シャフト、120a…潤滑油供給路、121…ナット、122…プッシュ部材、123…レリーズベアリング、124…プッシュロッド。
図1
図2
図3
図4