(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】回転装置のシール構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20240522BHJP
F16J 15/3252 20160101ALI20240522BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
F16J15/3204 201
F16J15/3252
F16C33/78 Z
(21)【出願番号】P 2019181893
(22)【出願日】2019-10-02
【審査請求日】2022-05-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】金 鐘剛
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-021151(JP,A)
【文献】実開平04-050724(JP,U)
【文献】特開2018-119681(JP,A)
【文献】特開2001-099145(JP,A)
【文献】特開平08-303474(JP,A)
【文献】特開2005-048780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
F16J 15/3252
F16C 33/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と、当該軸部材と相対回転可能に配置される支持部材との間をシールする回転装置のシール構造であって、
前記軸部材と前記支持部材との間に形成される隙間をシールするシール部材と、
前記軸部材と前記支持部材との間に位置するシール形成部と、
を備え、
前記軸部材および前記支持部材のうちの一方の部材に前記シール形成部が接続され、他方の部材に前記シール部材が装着され、
前記シール部材は、前記シール形成部との間でシールを形成するリップ部および当該リップ部を支持するリップ支持部を有し、
前記リップ支持部は、弾性部と、当該弾性部よりも剛性が大きい剛性部と、を有し、
前記シール部材は、前記剛性部が前記他方の部材に設けられた位置決め部に直接または前記弾性部よりも剛性が大きい所定の部材を介して当接することによって位置決めされ、
前記シール部材が位置決め部によって位置決めされた状態で、前記位置決め部に対する前記剛性部側の方向は、前記シール形成部に対する前記リップ部側の方向と同一であ
り、
前記位置決め部が、前記軸部材と前記支持部材との間に設けられる軸受の外輪に設けられることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記シール部材は、前記リップ部よりも剛性が大きい骨格部材を有し、
前記剛性部は、前記骨格部材と一体に形成されているか、または前記骨格部材と直接当接していることを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
軸部材と、当該軸部材と相対回転可能に配置される支持部材との間をシールする回転装置のシール構造であって、
前記軸部材と前記支持部材との間に形成される隙間をシールするシール部材と、
前記軸部材と前記支持部材との間に位置するシール形成部と、
を備え、
前記軸部材および前記支持部材のうちの一方の部材に前記シール形成部が接続され、他方の部材に前記シール部材が装着され、
前記シール部材は、前記シール形成部との間でシールを形成するリップ部および当該リップ部を支持するリップ支持部を有し、
前記リップ支持部は、弾性部と、当該弾性部よりも剛性が大きい剛性部と、を有し、
前記シール部材は、前記剛性部が前記他方の部材に設けられた位置決め部に直接または前記弾性部よりも剛性が大きい所定の部材を介して当接することによって位置決めされ、
前記シール部材は、前記リップ部よりも剛性が大きい骨格部材を有し、
前記剛性部は、前記骨格部材と一体に形成されているか、または前記骨格部材と直接当接しており、
軸方向からみて、前記剛性部の前記位置決め部と重なる領域の面積が、前記骨格部材の前記位置決め部と重なる領域の面積より大きいことを特徴とするシール構造。
【請求項4】
前記軸部材と前記支持部材との間に設けられる外輪は、前記支持部材とは別体に形成され、
前記位置決め部は、前記支持部材に形成され、
前記シール形成部は、前記軸部材に接続されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシール構造。
【請求項5】
前記シール形成部は、前記軸部材および前記支持部材とは別体に形成され、
前記シール形成部は、前記軸部材または前記支持部材の一方に移動規制されることを特徴とする請求項1から
4のいずれかに記載のシール構造。
【請求項6】
前記リップ部は、互いに離隔して配置され、前記シール形成部との間でシールを形成する複数のリップ部を含むことを特徴とする請求項1から
4のいずれかに記載のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転装置のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに相対回転する軸部材と、当該軸部材を環囲する環状部材とを備える回転装置をシールするためのシール構造が知られている。例えば、特許文献1には、ケースおよび軸部材を備える回転機械において、ケースと軸部材との間の隙間をシールするためのシール構造が記載されている。このシール構造は、回転機械の潤滑剤収容空間からの潤滑剤の漏れを防止する。このシール構造は、ケースと軸部材の一方に接続されるシール形成部と、シール形成部よりも外側に配置されるシール部材とを有する。このシール部材は、シール形成部に対面する環状の支持部と、シール形成部との間でシールを形成するリップとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、回転装置のシール構造に関して以下の認識を得た。
特許文献1に記載のシール構造では、ケースや軸部材に対するシール部材の装着位置の軸方向精度が低いため、シール性能のばらつきが大きくなる傾向があることが判明した。これは、シール部材の表面が柔らかなゴム等で覆われており、シール部材を組み付ける際に、ゴム等の部分を基準に位置決めされるため、装着位置が不安定になるためである。シール部材の装着位置が変化すると、メインリップと相手部材との接触状態が変化するので、この間におけるシール性能も変化してばらつきが大きくなる。
【0005】
これらから、本発明者は、特許文献1に記載のシール構造には、シール性能のばらつきを低減する観点で改善の余地があることを認識した。
【0006】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、シール性能のばらつきを低減可能な回転装置のシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のシール構造は、軸部材と、当該軸部材と相対回転可能に配置される支持部材との間をシールする回転装置のシール構造であって、軸部材と支持部材との間に形成される隙間をシールするシール部材と、軸部材と支持部材との間に位置するシール形成部と、を備える。軸部材および支持部材のうちの一方の部材にシール形成部が接続され、他方の部材にシール部材が装着され、シール部材は、支持部材とシール形成部との間でシールを形成するリップ部および当該リップ部を支持するリップ支持部を有する。リップ支持部は、弾性部と、当該弾性部よりも剛性が大きい剛性部と、を有する。シール部材は、剛性部が他方の部材に設けられた位置決め部に直接または所定の部材を介して当接することによって位置決めされる。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シール性能のばらつきを低減可能な回転装置のシール構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るシール構造を備えた回転装置の一例を概略的に示す側断面図である。
【
図2】第1実施形態に係るシール構造の第1の例を示す側断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るシール構造の第2の例を示す側断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るシール構造の第3の例を示す側断面図である。
【
図5】第1実施形態に係るシール構造の第4の例を示す側断面図である。
【
図6】第1実施形態に係るシール構造の第5の例を示す側断面図である。
【
図7】第1実施形態に係るシール構造の第6の例を示す側断面図である。
【
図8】第1実施形態に係るシール構造の第7の例を示す側断面図である。
【
図9】第1実施形態に係るシール構造の第8の例を示す側断面図である。
【
図10】第2実施形態に係るシール構造の第1の例を示す側断面図である。
【
図11】第2実施形態に係るシール構造の第1の例を製造する工程を示す説明図である。
【
図12】第2実施形態に係るシール構造の第2の例を製造する工程を示す説明図である。
【
図13】第2実施形態に係るシール構造の第3の例を示す側断面図である。
【
図14】第2実施形態に係るシール構造の第4の例を示す側断面図である。
【
図15】比較例に係るシール構造を示す側断面図である。
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0013】
[第1実施形態]
以下、図面を参照して、第1実施形態に係るシール構造10の構成を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るシール構造10が適用された回転装置100を示す側断面図である。回転装置100は、軸部材28と、支持部材30と、軸受40とを備える。一例として、回転装置100は、減速機であってもよいし、偏心揺動型減速機であってもよい。この場合、軸部材28はキャリアに対応し、支持部材30はキャリアの外周を覆う筒状のケーシングに対応し、軸受40は主軸受に対応する。
【0014】
以下、回転装置100の軸部材28の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。この例における中心軸線Laは軸部材28の回転軸線に一致している。支持部材30と軸部材28との間には、軸受40が設けられる。軸部材28は、支持部材30内に配置され支持部材30に対して相対回転可能に支持される。
【0015】
軸受40は、支持部材30と軸部材28の軸方向の一方側と他方側とに配置されている。軸受40は、周方向に間隔を空けて並ぶ複数の転動体42を有している。
図1の例では、軸受40の内輪軌道面40aは軸部材28の外周面に形成されており、外輪軌道面40bは支持部材30の内周面に嵌め込まれた外輪40cに形成されている。つまり、軸受40の外輪40cは、支持部材30とは別体に形成されている。軸受40には、潤滑剤が保持されている。
【0016】
支持部材30と軸部材28との間の空間において、潤滑剤を保持する軸受40が配置されてシール構造10によってシールされている領域を「潤滑剤保持空間J」という。また、軸方向において、潤滑剤保持空間Jから離れる方向を「外方」、「外側」といい、その反対方向を「内方」、「内側」という。また、部材の内側・外側の端部を「内端・外端」という。また、潤滑剤保持空間Jから回転装置100の外部空間に至る通気路において、潤滑剤保持空間Jに接近する側を「内部側」といい、その反対側を「外部側」という。
【0017】
図2は、本実施形態のシール構造10の第1の例を示す側断面図である。この図は、径方向に沿って切断された断面を示している。シール構造10は、軸部材28と、当該軸部材28と相対回転可能に配置される支持部材30との間をシールする。シール構造10は、シール部材12と、シール形成部16とを備える。シール部材12は、軸部材28と支持部材30との間に形成される隙間をシールする。特に、シール構造10は、シール部材12がシール形成部16に接触することにより、支持部材30と軸部材28との間の隙間をシールしている。
【0018】
なお、支持部材30および軸部材28のうち、シール形成部16が接続されている部材を「一方の部材」といい、支持部材30および軸部材28のうち、シール形成部16が接続されていない部材を「他方の部材」ということがある。この例では、一方の部材は軸部材28であり、他方の部材は支持部材30である。
【0019】
(シール形成部)
シール形成部16は、支持部材30および軸部材28の一方の部材に接続されて、軸部材28と支持部材30との間に位置する。本実施形態のシール形成部16は、軸部材28に接続されている。この場合、シール形成部16を軸部材28の外周側に形成できるので、加工が容易になる。具体的には、シール形成部16は、支持部材30に向けて径方向に延出する環状の部材であって、軸部材28に設けられている。この例のシール形成部16は、軸部材28と同一の材料から一体的に形成されている。シール形成部16の外周面16gと支持部材30の内周面30nとの間には、径方向の隙間が形成されている。シール形成部16の一方の端面16mは、シール部材12の端面12mと軸方向に対向する。
【0020】
(シール部材)
シール部材12は、支持部材30および軸部材28のうちシール形成部16が接続されていない部材に装着される。本実施形態のシール部材12は、シール形成部16の軸方向外側において支持部材30に着脱可能に取り付けられている。シール部材12は、リップ部14とリップ部14を支持するリップ支持部20とを有する。リップ部14は、シール形成部16に接触することにより、支持部材30とシール形成部16との間でシールを形成する。
【0021】
(リップ部)
リップ部14は、弾性変形可能な複数のリップ部を含んでもよい。本実施形態のリップ部14は、シール形成部16の端面16mと接触するための第1リップ部14mと、軸部材28の外周面28gに接触するための第2リップ部14gとを含んでいる。第1リップ部14mは、潤滑剤保持空間Jの潤滑剤の外部への漏出を抑制可能なメインリップとして機能する。第2リップ部14gは、潤滑剤保持空間Jの潤滑剤の外部への漏出を抑制するとともに、外部から潤滑剤保持空間Jへの異物の侵入を抑制する。つまり、第2リップ部14gは、異物の侵入を抑制するダストリップとして機能する。
【0022】
第1リップ部14mは、軸方向でシール形成部16の端面16mに向けて延び、軸方向及び径方向に対して傾斜している。第1リップ部14mは、基端側から先端側に向かって径方向で支持部材30に近づくように延びている。つまり、第1リップ部14mは、軸方向内側に向かって先細りとなるテーパ円筒状に形成されている。
【0023】
第2リップ部14gは、リップ支持部20の内周側の端部に設けられている。第2リップ部14gは、基端部から軸部材28の外周面28gに向けて延び、軸方向及び径方向に対して傾斜している。第2リップ部14gは、軸方向内側に向かって先細りとなるテーパ円筒状に形成されている。リップ部14は、後述するリップ支持部20の弾性部18と一体的に形成されている。
【0024】
(リップ支持部)
リップ支持部20は、弾性部18と、剛性部22と、骨格部材24とを有する。この例のリップ支持部20は、それ自身では軸部材28に接触しない部分である。骨格部材24は、弾性部18の形状を一定の範囲で維持する芯材として機能する。このため、骨格部材24は、弾性部18よりも剛性が大きく、特にリップ部14よりも剛性が大きい。なお、本明細書において、「剛性」は外部からの力に対する変形のし難さであり、例えばヤング率で示すことができる。つまり、ヤング率が大きい場合は剛性も大きいといえる。骨格部材24は、中空円板状の円板部24bと、円板部24bの外周から軸方向内方に延びる中空円筒状の円筒部24cとを有する。つまり、骨格部材24は、径方向に沿って切断された断面がL字状の環状部材である。骨格部材24および剛性部22は、鉄系金属などの金属材料、硬質プラスチックなどの非金属材料またはこれらの複合材料などで構成できる。
【0025】
(弾性部)
本実施形態の弾性部18は、骨格部材24の全体を覆っており、円板部24bを覆う円板部18bと、円筒部24cを覆う円筒部18cとを有する。骨格部材24の一部は、弾性部18から露出してもよい。第1リップ部14mは、円板部18bの端部から一体的に延びている。第2リップ部14gは、円板部18bの外周部から一体的に延びている。弾性部18は、ゴムなどの柔らかい樹脂材料で形成されており、後述する剛性部22よりも弾性が大きい。
【0026】
(比較例)
ここで、剛性部22を説明する前に、比較例に係るシール構造510を説明する。
図15は、比較例に係るシール構造510を示す側断面図であり、
図2に対応する。比較例は、シール部材12が剛性部を有しない点で本実施形態と相違し、他の構成は同様である。
図15の例では、円筒部18cの外周面18nが支持部材30の内周面30nに嵌合されている。内周面30nの途中には、内側に向かって小径になるテーパ部30tが設けられており、外周面18nの一部がテーパ部30tに弾性力によって密着することによりシール部材12の軸方向位置が規制されている。
【0027】
比較例では、剛性が小さい弾性部18の外周面18nに基づいて位置決めされるため、シール部材12の装着位置のばらつきが大きくなる。この結果、リップ部14と相手部材との接触状態が一定でなくなり、シール性能のばらつきが大きくなる。
【0028】
(剛性部)
比較例の説明を踏まえ剛性部22を説明する。
図2の例では、剛性部22は、シール部材12が支持部材30に装着されたときに、支持部材30に設けられた位置決め部30fに当接してシール部材12の軸方向の位置を決める基準部として機能する。位置決め部30fについては後述する。剛性部22は、弾性部18よりも剛性が大きい。剛性部22を基準としてシール部材12を軸方向に位置決めすることにより、シール部材12の取付位置のばらつきが減り、リップ部14と相手部材との接触状態が安定し、シール性能のばらつきが少なくなる。
【0029】
剛性部22は、鉄系金属などの金属材料、硬質プラスチックなどの非金属材料、これらの複合材料などで構成できる。剛性部22は、骨格部材24とは別に形成されて骨格部材24と直接当接してもよいし、骨格部材24と一体に形成されてもよい。
図2の例では、剛性部22は、円筒部24cの内端に一体的に設けられており、円筒部18cの内端から突出して軸方向内側に延びている。
【0030】
(位置決め部)
位置決め部30fを説明する。位置決め部30fは、支持部材30および軸部材28の他方の部材に設けられる。本実施形態の位置決め部30fは、軸方向に直交する円環状の端面であり、支持部材30に一体的に設けられている。
図2の例では、位置決め部30fは、支持部材30の内周面30nから径方向内側に延びる段部の外側端面である。位置決め部30fが支持部材30に形成されているので、位置決め部30fを設けるための加工代が少なくでき、切削などの加工時間を短くできる。
【0031】
弾性部18の別例を説明する。
図3は、本実施形態のシール構造10の第2の例を示す側断面図である。
図3の例では、円筒部18cの内端が剛性部22の内端と軸方向で同面に位置している点で、
図2の例と相違し、他の構成は同様である。
【0032】
位置決め部30fの別例を説明する。
図4は、本実施形態のシール構造10の第3の例を示す側断面図である。
図4の例では、位置決め部30fは、軸部材28と支持部材30との間に設けられる軸受40の外輪40cに設けられている点で、
図2の例と相違し、他の構成は同様である。つまり、シール部材12は、剛性部22が他方の部材に設けられた位置決め部30fに直接または所定の部材(例えば、ワッシャ、スペーサなど)を介して当接する。この例では、位置決め部30fは、外輪40cの外側端面であり、剛性部22が直接当接する。この場合、支持部材30の内周面30nの形状が単純化され、加工工数を低減できる。
【0033】
剛性部22の別例を説明する。
図5は、本実施形態のシール構造10の第4の例を示す側断面図である。軸方向から見た剛性部22の断面積が小さいと、剛性部22が容易に変形し、シール部材12の取付位置が不安定になる。このため、軸方向から見た剛性部22の断面積は大きいことが望ましい。
図5のシール部材12では、位置決め部30fから軸方向にみて、剛性部22の位置決め部30fと重なる領域の面積は、骨格部材24の位置決め部30fと重なる領域の面積よりも大きく構成されている。
【0034】
図5の例は、剛性部22の形状が異なる点で
図2の例と相違し、他の構成は同様である。この例の剛性部22は、円筒部24cの内端に径方向に拡大された拡大部22hが形成されている。拡大部22hは、内周側または外周側の少なくとも一方に張り出している。この場合、剛性部22が変形し難いので、シール部材12の取付位置が安定する。拡大部22hは、骨格部材24と一体的に形成されてもよい。
【0035】
剛性部22のさらに別例を説明する。
図6は、本実施形態のシール構造10の第5の例を示す側断面図である。
図6の例は、剛性部22が、骨格部材24とは別体に構成される点で
図5の例と相違し、他の構成は同様である。この例における剛性部22は、骨格部材24と同軸の中空円板状のリング部22bを含む。軸方向に見て、リング部22bの位置決め部30fと重なる領域の面積は、骨格部材24の位置決め部30fと重なる領域の面積よりも大きい。リング部22bは、金属材料や非金属材料から加工によって形成されてもよい。この場合、簡易な加工でリング部22bを形成できる。リング部22bは、金属材料や非金属材料のコーティングによって形成されてもよい。この場合、リング部22bの軸方向寸法(厚さ)を小さくできる。
【0036】
骨格部材24と剛性部22との間には、剛性部22や骨格部材24とは異なる材料からなる介在層18dが介在していてもよい。
図7は、本実施形態のシール構造10の第6の例を示す側断面図である。
図7の例は、介在層18dを有する点で
図6の例と相違し、他の構成は同様である。この場合、介在層18dによって骨格部材24の内端を覆うことができる。介在層18dは、弾性部18とは別の材料で形成されてもよいし、弾性部18と同じ材料で一体的に形成されてもよい。
【0037】
なお、介在層18dの軸方向寸法(厚さ)や剛性などのパラメータは、押し込み時のシール部材12の位置精度に影響を与える可能性がある。換言すれば、介在層18dのパラメータを調整することにより、所望の位置精度を得ることができる。
【0038】
シール形成部16をさらに説明する。
図8は、本実施形態のシール構造10の第7の例を示す側断面図である。
図8の例は、シール形成部16が軸部材28および支持部材30とは別体に形成されている点で
図2の例と相違し、他の構成は同様である。この例におけるシール形成部16は、中空円板状の形成部本体16hと、形成部本体16hの外縁から軸方向で外向きに延びる中空円筒状の環状部16jとを含む。つまり、シール形成部16は、径方向に沿って切断された断面がL字状の環状部材である。
【0039】
シール形成部16を軸部材28および支持部材30とは別体にすることによって、シール形成部16を軸部材28とは別の工程で形成できる。この結果、それぞれの形状に適した加工方法を採用できる。例えば、この例のシール形成部16はプレス加工によって形成されてもよい。
【0040】
シール形成部16は、軸部材28または支持部材30の一方に移動規制される。軸部材28または支持部材30のシール形成部16が配置される部分にはシール形成部16の軸方向移動を規制する移動規制部32が設けられる。この例の移動規制部32は、軸部材28の外周面28gから径方向外側に突出する周状の突起である。シール形成部16の環状部16jは、外周面28gに嵌合しており、移動規制部32により軸方向で内側への移動が規制されている。移動規制部32は、シール形成部16の位置決め部としても機能している。
【0041】
リップ部14をさらに説明する。
図9は、本実施形態のシール構造10の第8の例を示す側断面図である。リップ部14は、シール形成部16との間でシールを形成する複数のリップ部を含んでもよい。
図9の例では、リップ部14が、第1リップ部14m、第2リップ部14gに加えて、シール形成部16との間でシールを形成する第3リップ部14pを含む点で
図2の例と相違し、他の構成は同様である。つまり、リップ部14は、シール形成部16との間でシールを形成する3つのリップ部を含んでいる。第3リップ部14pは、第1リップ部14mおよび第2リップ部14gとは別に、潤滑剤保持空間Jの潤滑剤の外部への漏出を抑制する。
図9の例では、第3リップ部14pは、第1リップ部14mより内部側に配置されている。
【0042】
第3リップ部14pは、径方向でシール形成部16の外周面16gに向けて延び、軸方向及び径方向に対して傾斜している。第3リップ部14pは、軸方向外側に向かって先細りとなるテーパ円筒状に形成されている。第3リップ部14pは、円筒部18cから一体的に延びている。第3リップ部14pを有することにより、潤滑剤保持空間Jの潤滑剤の外部への漏出を一層抑制できる。
【0043】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0044】
本発明の第2実施形態もまた、シール構造である。
図10は、本実施形態に係るシール構造10の第1の例を示す側断面図であり、
図2に対応する。本実施形態に係るシール構造10は、剛性部22の形状が異なり、特に剛性部22が軸方向外側に露出している露出部22eを有する点で
図2の例と相違する。また、
図10の例は、剛性部22が位置決め部30fに当接する部分を有さず、したがって支持部材30が位置決め部30fを有しない点で
図2の例と相違し、他の構成は概ね同様である。骨格部材24の円板部24bの軸方向外側の面は、弾性部18の円板部18bから露出しており、剛性部22の露出部22eを構成している。
【0045】
本実施形態のシール構造10は、剛性部22が露出部22eを有するので、露出部22eを基準としてシール部材12を軸方向に位置決めすることができる。この場合、シール部材12の取付位置のばらつきが減り、リップ部14と相手部材との接触状態が安定し、シール性能のばらつきが少なくなる。また、露出部22eが軸方向外側を向いているので、露出部22eを治具で押すことにより、シール部材12を所定位置まで容易に押し込むことができる。
【0046】
次に、本実施形態に係るシール構造10の製造方法を説明する。
図11は、本実施形態のシール構造10の製造工程を示す説明図である。この方法は、押し込み用の治具50を用いて、シール部材12を支持部材30の内周面30nの所定位置まで押し込む工程S60を含む。
図11(a)は、シール部材12が支持部材30に押し込まれる中間状態を示し、
図11(b)は、シール部材12が所定位置まで押し込まれた後の終了状態を示している。
【0047】
治具50は、露出部22eに当接させるための第1面50pと、支持部材30の軸方向外側の端面30bに当接させるための第2面50sとを含んでいる。
図11の例では、第1面50pと、第2面50sとは軸方向で同面に形成されている。
【0048】
工程S60は、以下のステップを含んでいる。
(1)まず、
図11(a)に示すように、治具50の軸方向内側の第1面50pを露出部22eに当接させた状態で、矢印Fで示すように、治具50を軸方向内側に移動させてシール部材12を支持部材30に押し込む。
(2)次に、その状態から、治具50の軸方向内側の第2面50sが、支持部材30の軸方向外側の端面30bに当接するまで治具50を軸方向内側に移動させる。
(3)
図11(b)に示すように、第2面50sが端面30bに当接したとき、シール部材12は支持部材30の所定位置に押し込まれており、工程S60は終了する。
図11(b)の状態で、露出部22eは端面30bと軸方向で同面に位置している。
【0049】
この製造方法によれば、工程S60を含むことにより、シール部材12を所定位置に精度よく押し込むことができる。この結果、シール部材12の取付位置のばらつきが減り、リップ部14と相手部材との接触状態が安定し、シール性能のばらつきが少なくなる。
【0050】
次に、本実施形態に係るシール構造10の第2の例を説明する。
図12は、本実施形態のシール構造10の第2の例の製造工程を示す説明図である。
図12のシール構造10は、軸方向において露出部22eの位置が端面30bの位置と異なる点で
図11のシール構造10と相違し、他の構成は同様である。
図12に示すように、露出部22eは、端面30bより軸方向で内側に位置している。この場合、治具50の第1面50pの位置と第2面50sの位置とに差を設けることで対応できる。治具50の第1面50pは、第2面50sより軸方向で内側に形成されている。
【0051】
図12(a)は、シール部材12が支持部材30に押し込まれる中間状態を示し、
図12(b)は、シール部材12が所定位置まで押し込まれた後の終了状態を示している。
図12のシール構造10は、工程S60によって製造できる。
【0052】
次に、本実施形態に係るシール構造10の第3の例を説明する。
図13は、本実施形態のシール構造10の第3の例を示す説明図であり、
図10に対応する。
図10の例では、円板部24bの軸方向外側の全体の面が露出しているが、
図13の例では、一部の面のみが露出している点で相違する。
図13の例では、円板部24bは、軸方向で外側に向かって突出する突起24pを有する。突起24pの外端の面は、弾性部18の円板部18bから露出しており、剛性部22の露出部22eを構成している。露出部22eは、端面30bと軸方向に同面であってもよい。
図13のシール構造10は、工程S60によって製造できる。
【0053】
次に、本実施形態に係るシール構造10の第4の例を説明する。
図14は、本実施形態のシール構造10の第4の例を示す説明図であり、
図10に対応する。
図14の例は、剛性部22が、骨格部材24とは別体に構成される点で
図10の例と相違し、他の構成は同様である。この例における剛性部22は、骨格部材24と同軸の中空円板状の円環部22fを含む。円環部22fは、シール部材12の軸方向外側に接続されている。円環部22fの径方向範囲は骨格部材24の円板部24bの径方向範囲とほぼ同じである。
【0054】
円環部22fは、金属材料や非金属材料から加工によって形成できる。この場合、簡易な加工で円環部22fを形成できる。円環部22fは、金属材料や非金属材料のコーティングによって形成されてもよい。この場合、円環部22fの軸方向寸法(厚さ)を小さくできる。
【0055】
円板部24bと円環部22fとの間には、円環部22fや円板部24bとは異なる材料からなる介在層18gが介在していてもよい。この場合、介在層18gによって円板部24bを覆うことができる。介在層18gは、弾性部18とは別の材料で形成されてもよいし、弾性部18と同じ材料で一体的に形成されてもよい。
【0056】
介在層18gの軸方向寸法(厚さ)や剛性などのパラメータは、押し込み時のシール部材12の位置精度に影響を与える可能性がある。換言すれば、介在層18gのパラメータを調整することにより、所望の位置精度を得ることができる。
【0057】
露出部22eは、端面30bと軸方向に同面であってもよい。
図14のシール構造10は、工程S60によって製造できる。
【0058】
本実施形態に係るシール構造10は、
図10~
図14の例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本実施形態に係るシール構造10は、
図8に示すように、シール形成部16が軸部材28および支持部材30とは別体であってもよいし、
図9に示すように、リップ部14がシール形成部16との間でシールを形成する複数のリップ部を含んでもよい。本実施形態は、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0059】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0060】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0061】
実施形態の説明では、軸部材28にシール形成部16が接続され、支持部材30にシール部材12が装着される例を示したが、本発明はこれに限定されない。支持部材30にシール形成部16が接続され、軸部材28にシール部材12が装着されてもよい。
【0062】
実施形態の説明では、シール構造10が回転装置100の軸方向の一方側に設けられる例を示したが、シール構造10は、回転装置100の軸方向で両側に設けられてもよい。
【0063】
実施形態の説明では、内輪軌道面40aが軸部材28の外周面に形成される例を示したが、軸部材28とは別体の内輪を備え、その内輪に内輪軌道面が形成されてもよい。
【0064】
実施形態の説明では、位置決め部30fが支持部材30に一体的に形成される例を示したが、位置決め部30fは支持部材30とは別体に形成され、支持部材30に連結されてもよい。また、位置決め部30fは、他の機能を兼有する部材に設けられていてもよい。
【0065】
実施形態の説明では、第3リップ部14pが、第1リップ部14mより内部側に設けられる例を示したが、第3リップ部14pは、第1リップ部14mより外部側に設けられてもよい。
【0066】
上述の各変形例は実施の形態と同様の作用・効果を奏する。
【0067】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0068】
10 シール構造、 12 シール部材、 14 リップ部、 16 シール形成部、 18 弾性部、 20 リップ支持部、 22 剛性部、 18d 介在層、 22e 露出部、 24 骨格部材、 28 軸部材、 30 支持部材、 30f 位置決め部、 32 移動規制部、 40 軸受、 40c 外輪、 50 治具、 S60 工程、 100 回転装置。