(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】皮膚のバリア機能改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/368 20060101AFI20240522BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240522BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20240522BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
A61K8/368
A61Q19/00
A61K31/192
A61P17/00
(21)【出願番号】P 2019185807
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2022-06-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 清昭
(72)【発明者】
【氏名】古田 到真
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/190290(WO,A1)
【文献】特開2014-055127(JP,A)
【文献】特開2019-112362(JP,A)
【文献】特開2013-180968(JP,A)
【文献】J. Soc. Cosmet. Sci. Korea,2019年,Vol. 45, No. 3,pp.225-235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p-クマル酸を有効成分として含有する、セラミド合成遺伝子発現促進剤。
【請求項2】
p-クマル酸を有効成分として含有する、表皮ブドウ球菌増殖促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚のバリア機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のバリア機能は、アレルゲン等の異物又は刺激物などが皮膚へ進入することを抑制する機能である。皮膚のバリア機能が低下すると、肌の乾燥や過敏化、老化などが惹起され、アトピー性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎といった皮膚疾患の発症に繋がる。この皮膚のバリア機能には、皮膚の最表層である角質層が特に関係している。角質層は、フィラグリン、ケラチンを主成分とする角質細胞と、セラミド、コレステロール、遊離脂肪酸を主成分とする角質細胞間脂質から構成されており(非特許文献1)、バリア機能が低下した皮膚では、角質層の主成分であるフィラグリンやセラミドが減少していることが知られている。
【0003】
そこで、皮膚のバリア機能低下に関わるフィラグリンの遺伝子発現又はセラミドの減少に着目した皮膚のバリア機能改善剤が検討されている。例えば特許文献1には、所定のペプチドを用いることにより、フィラグリン遺伝子の発現を促進することで、皮膚のバリア機能を改善し、アトピー性皮膚炎を改善させることが記載されている。また、特許文献2には、麹菌又は麹抽出物を含有する美容組成物により、セラミド産生の促進に関連する遺伝子の発現を促進し、セラミド産生を促進することで、皮膚のバリア機能を改善させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/175001号公報
【文献】特開2015-27985号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】日皮会誌、128(2)、2431-2502、2018年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面は、新規な皮膚のバリア機能改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、p-クマル酸を有効成分として含有する、皮膚のバリア機能改善剤を提供する。
【0008】
皮膚のバリア機能改善剤は、プロフィラグリン遺伝子の発現促進作用に基づくものであってよい。皮膚のバリア機能改善剤は、セラミド合成遺伝子の発現促進作用に基づくものであってもよい。皮膚のバリア機能改善剤は、表皮ブドウ球菌増殖促進作用に基づくものであってもよい。
【0009】
皮膚のバリア機能が低下した場合、例えばフィラグリンの遺伝子発現及びセラミドの含有率でそれぞれ低下が見られ、これらによって、角質層の構造の脆弱化、及び水分保持能の低下が惹起され、皮膚のバリア機能低下に繋がると考えられる。本発明の一側面に係る皮膚のバリア機能改善剤によれば、有効成分であるp-クマル酸の作用によりフィラグリンの前駆体物質であるプロフィラグリン遺伝子の発現、及びセラミド合成遺伝子の発現が促進される。これにより、角質層の構造の脆弱化、及び水分保持能の低下が抑制され、皮膚のバリア機能を改善することができる。
【0010】
一方、近年、皮膚表面に存在する表皮ブドウ球菌がグリセリン又は脂肪酸を産生することによって、黄色ブドウ球菌の増殖を抑制し、皮膚のバリア機能の向上に寄与することが報告されている。本発明の一側面に係る皮膚のバリア機能改善剤によれば、有効成分であるp-クマル酸が表皮ブドウ球菌の増殖を促進し、黄色ブドウ球菌の増殖を抑制できるため、皮膚のバリア機能を改善することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、p-クマル酸を有効成分として含有する、皮膚のバリア機能改善剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】表皮ブドウ球菌増殖促進試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
一実施形態に係る皮膚のバリア機能改善剤は、p-クマル酸を有効成分として含有する。
【0015】
本実施形態に係る皮膚のバリア機能改善剤は、皮膚のバリア機能、すなわち、アレルゲン等の異物、刺激物などが皮膚へ進入することを抑制する機能を向上させる作用、皮膚のバリア機能の低下を未然に抑制する作用、更には、低下した皮膚のバリア機能を向上させる作用を有する。皮膚のバリア機能改善剤は、皮膚のバリア機能低下に基づく症状(乾燥、痒み、炎症等)を改善、予防する作用を有するものでもある。
【0016】
皮膚のバリア機能改善作用は、例えば、皮膚、特に角質層の構造の脆弱化を抑制する作用、水分保持機能の低下を抑制する作用、及び/又は皮膚常在菌を制御する作用に基づくものであってよい。
【0017】
角質層の構造の脆弱化を抑制する作用は、一実施形態において、プロフィラグリンの産生に寄与する遺伝子(プロフィラグリン遺伝子)の発現を促進する作用である。プロフィラグリンは、角質層において角質細胞を構成するフィラグリンの前駆体物質である。プロフィラグリン遺伝子の発現が促進されるとフィラグリンの産生が促進されるため、角質層の構造の脆弱化が抑制される。すなわち、本実施形態に係る皮膚のバリア機能改善剤は、プロフィラグリン遺伝子の発現促進作用に基づくものであるということができる。また、本発明の他の一実施形態は、p-クマル酸を有効成分として含有するプロフィラグリン遺伝子発現促進剤ということができる。
【0018】
水分保持機能の低下を抑制する作用は、角質細胞間脂質に含まれるセラミドの含有率を高める作用であってもよい。セラミドの含有率を高める作用は、セラミド合成遺伝子の発現を促進することにより得られる。すなわち、本実施形態に係る皮膚のバリア機能改善剤は、セラミド合成遺伝子の発現促進作用に基づくものであるということができ、本発明の他の一実施形態は、p-クマル酸を有効成分として含有するセラミド合成遺伝子発現促進剤ということができる。
【0019】
皮膚常在菌を制御する作用は、例えば、表皮ブドウ球菌の増殖を促進する作用であってよい。すなわち、本実施形態に係る皮膚のバリア機能改善剤は、表皮ブドウ球菌増殖促進作用に基づくものであるということができ、本発明の他の一実施形態は、p-クマル酸を有効成分として含有する表皮ブドウ球菌増殖促進剤ということができる。
【0020】
皮膚のバリア機能改善剤の有効成分であるp-クマル酸は、ヒドロキシケイ皮酸の一種であり、リグニン分解生成物、又は天然精油から分離したもの、合成反応生成物等として入手することができる。リグニン分解生成物の原料となるリグニンは、イネ科植物由来であってよく、サトウキビ又はバガス由来のものを用いてもよい。p-クマル酸は、市販されているものを用いてもよい。
【0021】
本実施形態に係る皮膚のバリア機能改善剤は、有効成分であるp-クマル酸のみからなってもよく、化粧品、食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材を更に配合してもよい。化粧品、食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材としては、特に制限されるものではないが、例えば、アミノ酸、タンパク質、炭水化物、油脂、甘味料、ミネラル、ビタミン、香料、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等が挙げられる。
【0022】
タンパク質としては、例えば、ミルクカゼイン、ホエイ、大豆タンパク、小麦タンパク、卵白等が挙げられる。炭水化物としては、例えば、コーンスターチ、セルロース、α化デンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン等が挙げられる。油脂としては、例えば、サラダ油、コーン油、大豆油、ベニバナ油、オリーブ油、パーム油等が挙げられる。甘味料としては、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等の糖アルコール、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK等の人工甘味料、ステビア甘味料等が挙げられる。ミネラルとしては、例えば、カルシウム、カリウム、リン、ナトリウム、マンガン、鉄、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの塩類等が挙げられる。ビタミンとしては、例えば、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB類、ビオチン、ナイアシン等が挙げられる。賦形剤としては、例えば、デキストリン、デンプン、乳糖、結晶セルロース等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、クエン酸、乳酸、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。基剤としては、例えば、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。懸濁化剤としては、例えば、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
皮膚のバリア機能改善剤が他の素材を配合する場合、有効成分であるp-クマル酸の含有量は、後述する皮膚のバリア機能改善剤の形態、使用目的等に応じて適宜設定すればよいが、皮膚のバリア機能の改善作用をより得やすくする観点から、皮膚のバリア機能改善剤全量を基準として、好ましくは50μg/g以上、より好ましくは70μg/g以上、更に好ましくは100μg/g以上であり、また、好ましくは10mg/g以下、より好ましくは7mg/g以下、更に好ましくは5mg/gである。
【0024】
皮膚のバリア機能改善剤は、固体(粉末、顆粒等)、液体(溶液、懸濁液等)、ペースト等のいずれの形状であってもよく、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、液剤、懸濁剤等のいずれの剤形であってもよい。
【0025】
皮膚のバリア機能改善剤は、皮膚へ施用する外用剤として用いられてもよい。外用剤は医薬品、医薬部外品、又は化粧品のいずれであってもよい。
【0026】
医薬品又は医薬部外品である外用剤の形態としては、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤等が挙げられる。
【0027】
化粧品である外用剤の形態としては、化粧水、乳液、ローション、クリーム、美容液、オイル、パック、リップクリームなどの基礎化粧料、ヘアートニック、ヘアーリキッド等の整髪料、育毛・養毛料等の頭髪化粧品、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、アイブロウライナー等のメークアップ化粧料などが挙げられる。
【0028】
皮膚のバリア機能改善剤は、経口剤として用いられてもよい。経口剤は、食品組成物、医薬部外品又は医薬品のいずれであってもよい。食品組成物は、例えば、健康食品、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、サプリメント等の形態で提供されてもよい。
【0029】
皮膚のバリア機能改善剤が非経口投与(例えば皮膚への施用)される場合、施用量としては、例えば、p-クマル酸が1回当たり5μg/cm2以上となるように施用されるのが好ましく、10μg/cm2以上となるように施用されるのがより好ましく、30μg/cm2以上となるように施用されるのが更に好ましい。また、p-クマル酸が1日当たり10μg/cm2以上となるように施用されるのが好ましく、20μg/cm2以上となるように施用されるのがより好ましく、60μg/cm2以上となるように施用されるのが更に好ましい。また、p-クマル酸が、1回当たり5mg/cm2以下となるように施用されるのが好ましく、4mg/cm2以下となるように施用されるのがより好ましく、3mg/cm2以下となるように施用されるのが更に好ましい。また、p-クマル酸が1日当たり10mg/cm2以下となるように施用されるのが好ましく、8mg/cm2以下となるように施用されるのがより好ましく、6mg/cm2以下となるように施用されるのが更に好ましい。この範囲であれば、表皮(角質層)に十分な濃度で皮膚のバリア機能改善剤を作用させることができ、皮膚のバリア機能改善作用をよりよく発現することができる。
【0030】
皮膚のバリア機能改善剤が経口投与される場合、投与量としては、例えば、p-クマル酸が1回当たり50μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが好ましく、100μg/kg(体重)以上となるように投与されるのがより好ましく、150μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが更に好ましい。また、p-クマル酸が1日当たり150μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが好ましく、300μg/kg(体重)以上となるように投与されるのがより好ましく、450μg/kg(体重)以上となるように投与されるのが更に好ましい。また、p-クマル酸が1回当たり300mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが好ましく、200mg/kg(体重)以下となるように投与されるのがより好ましく、100mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが更に好ましい。また、p-クマル酸が1日当たり900mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが好ましく、600mg/kg(体重)以下となるように投与されるのがより好ましく、300mg/kg(体重)以下となるように投与されるのが更に好ましい。この範囲であれば、血中に十分な濃度で皮膚のバリア機能改善剤を作用させることができ、皮膚のバリア機能改善作用をよりよく発現することができる。
【0031】
皮膚のバリア機能改善剤は、飼料、飼料添加物としても用いることができる。飼料としては、ドッグフード、キャットフード等のコンパニオン・アニマル用飼料、家畜用飼料、家禽用飼料、養殖魚介類用飼料等が挙げられる。「飼料」には、動物が栄養目的で経口的に摂取するもの全てが含まれる。より具体的には、養分含量の面から分類すると、粗飼料、濃厚飼料、無機物飼料、特殊飼料の全てを包含し、また公的規格の面から分類すると、配合飼料、混合飼料、単体飼料の全てを包含する。また、給餌方法の面から分類すると、直接給餌する飼料、他の飼料と混合して給餌する飼料、または飲料水に添加し栄養分を補給するための飼料の全てを包含する。
【0032】
一実施形態に係る、プロフィラグリン遺伝子発現促進剤、セラミド合成遺伝子発現促進剤、又は表皮ブドウ球菌増殖促進剤の具体的な態様は、上述した皮膚のバリア機能改善剤における態様と同様であってよい。すなわち、一実施形態に係る、プロフィラグリン遺伝子発現促進剤、セラミド合成遺伝子発現促進剤、又は表皮ブドウ球菌増殖促進剤は、上述した皮膚のバリア機能改善剤に関する説明において、「皮膚のバリア機能改善剤」を、「プロフィラグリン遺伝子発現促進剤」、「セラミド合成遺伝子発現促進剤」、又は「表皮ブドウ球菌増殖促進剤」と読み替えたものであってよい。
【0033】
プロフィラグリン遺伝子発現促進剤は、皮膚のバリア機能改善用として用いられる以外に、保湿用、乾燥肌改善用、敏感肌改善用、アレルギー性皮膚炎改善用、アトピー性皮膚炎改善用、皮膚の老化抑制用、肌荒れ防止用、皮膚の紫外線ダメージ改善用、ひび割れ改善用、皮膚ターンオーバー改善用、皮脂テカリ改善用、皮膚弾性改善用としても用いられ得る。セラミド合成遺伝子発現促進剤は、皮膚のバリア機能改善用として用いられる以外に、保湿用、乾燥肌改善用、敏感肌改善用、アレルギー性皮膚炎改善用、アトピー性皮膚炎改善用、皮膚の老化抑制用、肌荒れ防止用、皮膚の紫外線ダメージ改善用、ひび割れ改善用、皮膚ターンオーバー改善用、皮脂テカリ改善用、皮膚弾性改善用としても用いられ得る。表皮ブドウ球菌増殖促進剤は、皮膚のバリア機能改善用として用いられる以外に、保湿用、乾燥肌改善用、敏感肌改善用、アレルギー性皮膚炎改善用、アトピー性皮膚炎改善用、皮膚の老化抑制用、肌荒れ防止用、皮膚の紫外線ダメージ改善用、ひび割れ改善用、皮脂テカリ改善用、皮膚弾性改善用、皮膚有害微生物の増殖抑制用としても用いられ得る。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
<プロフィラグリン遺伝子発現促進試験、セラミド合成遺伝子発現促進試験>
正常ヒト表皮角化細胞を用いて、炎症性サイトカインであるインターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-13(IL-13)刺激下におけるp-クマル酸のプロフィラグリン遺伝子(FLG)及びセラミド合成遺伝子(SPT)の発現解析試験を行った。
【0036】
[細胞、培地]
本試験には下記の細胞及び培地を用いた。
細胞:成人由来正常ヒト表皮角化細胞(Cat.No.KK-4109、ロットNo.04165、倉敷紡績株式会社)
培地:500mLの基礎培地(HuMedia-KB2、Cat.No.KK2150S、倉敷紡績株式会社)に、増殖添加剤(10μg/mLのインスリン、0.1ng/mLのヒト上皮細胞成長因子(hEGF)、0.67μg/mLのハイドロコーチゾン、4μL/mLのウシ脳下垂体抽出液(BPE)を含む。)、及び抗菌剤(50μg/mLのゲンタマイシン、50ng/mLのアンフォテリシンを含む。)を添加して調製した。
【0037】
[試験方法]
成人由来正常ヒト表皮細胞(以下、単に「細胞」ともいう。)は、調製した培地を用いてT-75フラスコに起眠し、CO2インキュベーター(5%CO2、37℃、湿潤)内で培養した(細胞前培養)。培地交換は一日おきに行い、80%コンフルエントに到達した時点で細胞を回収し、試験に用いた。
【0038】
(実施例)
前培養した細胞を5×104セル/0.2mL/ウェルとなるよう培地で調製し、48ウェルプレートに播種した。CO2インキュベーター内(5%CO2、37℃)で1日間培養後、1%(v/v)エタノールにIL-4、IL-13及びp-クマル酸を溶解させたサンプル添加培地に置換し、24時間培養した。サンプル添加培地中のIL-4及びIL-13、並びにp-クマル酸の終濃度は下記の表2~3に示す各濃度となるように調整した。
【0039】
(比較例)
比較例として、p-クマル酸に代えてフェルラ酸を含むサンプル添加培地を用い、上述した方法と同様の方法で細胞を培養した。サンプル添加培地中のフェルラ酸の終濃度は下記の表2~3に示す濃度に調整した。
【0040】
(対照)
陽性対照として、p-クマル酸に代えて10nMのJTC-801(Cat.No.SC-203614、Santa Cruz Biotechnology社)を添加した培地を用いて、同様に細胞を培養した。さらに、陰性対照として、サンプル添加培地に代えて、p-クマル酸を添加せずにIL-4、IL-13を1%(v/v)エタノールに溶解させた培地(IL添加陰性対照)、及び1%(v/v)エタノールのみを0.2mL含む培地(IL無添加陰性対照)を用いて同様に細胞を培養した。
【0041】
培養後、Fast Lane Cell cDNAキット(Cat.No.215011、Qiagen社)を用いて、トータルRNAの回収及びcDNAへの逆転写を行った。SYBR Green I(Takara社、Cat.No.RR041L)を用いたリアルタイムRT-PCR法により、遺伝子発現量を測定した。SPT遺伝子については、哺乳動物で発見されている3種のSPTタンパク質(SPTLC1、SPTLC2、SPTLC3)のうち、中心的役割を示すといわれているSPTLC1を発現する遺伝子について解析した。内部標準としてグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子を用い、IL無添加陰性対照との相対値として算出した。
【0042】
トータルRNAの回収からリアルタイムPCR解析の詳細を以下に示す。細胞からのトータルRNAの回収及びcDNA化はFastLane Cell RT-PCRキットの手順に従って行った。
【0043】
(プロトコール)
(1)ウェル当たり80μLのBuffer FCWを添加、すぐにBuffer FCWを除去吸引した。
(2)ウェル当たり30μLのBuffer FCPを添加、室温(25℃)で5分間インキュベート後、FastLaneライセートを96ウェルPCRチューブに移した。チューブを-80℃にて次のcDNA化作業まで保存した。
(3)PCRチューブに2μLのgDNA Wipeout Buffer、4μLのFastLaneライセート、8μLのRNaseフリー水を添加し42℃にて5分間反応させた。その後、すぐに氷上へ移した。
(4)上述(3)で得られた反応液14μLに逆転写反応マスターミックス(1μLのQuantiscript Reverse Transcriptase、4μLのQuantiscript RT Buffer、1μLのRT Primer Mix/チューブ)を6μL添加し、42℃、30分間インキュベートした。
(5)反応液を95℃、3分間処理することで逆転写酵素を失活させた。この反応液を合成cDNAとしてリアルタイムPCRに用いた。解析に用いるまで-80℃で保存した。
【0044】
(リアルタイムPCR法)
リアルタイムPCR専用チューブにおいて下記の成分を含む反応液を調製し、PCR反応を行った。
反応液(合計8.0μL):dsH2O(2.6μL)、SYBER Premix Ex Taq(4.0μL)、Forward primer(10μM、0.2μL)、Reverse primer(10μM、0.2μL)、合成cDNA(1.0μL)
【0045】
試験に使用した特異的プライマー、及び内部標準としたGADPHの特異的プライマー及びPCRの反応条件は下記の表1のとおりとした。
【0046】
【0047】
(相対定量の算出)
各遺伝子の増幅曲線と閾値線との交点より、Ct値(PCRサイクル数)を算出した。目的遺伝子のCt値より、内部標準であるGAPDH遺伝子のCt値を引いて、Ct(目的遺伝子)-Ct(GAPDH)=ΔCt値とした。さらに、ILを添加した試験区(実施例、比較例、陽性対照、又はIL添加陰性対照)のΔCt値よりIL無添加陰性対照の平均ΔCt値を引いて、ΔCt(ILを添加した試験区)-ΔCt(IL無添加陰性対照)=ΔΔCt値とした。ΔΔCt値を乗数項に代入した2-ΔΔCt値を相対発現量とした。
【0048】
(有意差検定)
比較試験区間では計測値が5個以上あるものについて有意差検定を行った。検定はスチューデントのt検定で両側検定を行い、P<0.05(帰無仮説が5%未満)以上のものを有意差ありと判断した。結果を表2~3に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
表2~3に示すように、p-クマル酸ではIL-4及びIL-13処理下においてFLG遺伝子及びSPT遺伝子の発現量が有意に増加した。陽性対照であるJTC-801においてもFLG遺伝子及びSPT遺伝子の発現が有意に増加したことから、試験は問題なく行われたと考えられた。
【0052】
<表皮ブドウ球菌増殖促進試験>
本試験には下記の菌株及び培地を用いた。
[菌株、培地]
菌株:Staphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌、提供者:NBRC、NBRC番号:12993)
培地:Tryptic Soy Broth(性状:粉末、保管条件:常温、供給元:BD、カタログ番号211825)を用い、30gの粉末を1Lの蒸留水に溶解して加圧加熱滅菌を行った(推奨濃度培地)。
【0053】
[試験方法]
100%DMSOにp-クマル酸を懸濁させて試験用サンプルを調製した。サンプル中のp-クマル酸の濃度は、1nM(サンプル1)、10nM(サンプル2)、100nM(サンプル3)とした。
【0054】
本試験では、推奨濃度培地を10倍希釈することで低栄養状態を作り出し、この条件下における表皮ブドウ球菌の増殖作用を検証した。実施例4~6においては、24時間前培養した菌体を新しい液体培地(推奨濃度の10倍希釈)に0.1v/v%添加した。ここに調製したサンプルを添加し、試験管にて37℃で振盪培養を行った。16時間後、分光光度計にて600nmにおける吸光度を測定した。なお、サンプル1を添加した試験区を実施例4、サンプル2を添加した試験区を実施例5、サンプル3を添加した試験区を実施例6とする。また、対照として、DMSOのみを含むサンプルを用いて同様に試験した。さらに、陰性対照としてサンプルを添加せずに同様に試験し、陽性対照として推奨濃度培地で培養して同様に試験した。
【0055】
p-クマル酸を添加しない場合(対照)の測定値と、p-クマル酸を添加した場合(実施例4~6)の測定値により、スチューデントのt検定を用いて統計解析を行った。有意水準は5%未満(p<0.05)を有意とした。結果を
図1に示す。なお、
図1においては、n=3での平均値±標準誤差の値を示し、陰性対照及び陽性対照の結果はn=1の結果を示している。
【0056】
図1に示すように、p-クマル酸を添加した場合には表皮ブドウ球菌の増殖率が上昇し、p-クマル酸の濃度が10nM及び100nMの場合において、有意な増殖率の上昇が見られた。