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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ファージ療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/76 20150101AFI20240522BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240522BHJP
   A61L 2/00 20060101ALI20240522BHJP
   A61L 12/00 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240522BHJP
   C07K 14/005 20060101ALI20240522BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20240522BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20240522BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
A61K35/76
A61K9/08
A61K9/19
A61K31/711
A61K38/02
A61K48/00
A61L2/00
A61L12/00
A61P31/04
A61P43/00 111
C07K14/005
C12N7/00
C12N15/33 ZNA
C12Q1/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019548691
(86)(22)【出願日】2018-03-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2018055629
(87)【国際公開番号】W WO2018162566
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】17305245.7
(32)【優先日】2017-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516124225
【氏名又は名称】フレシード・ファルマ
【氏名又は名称原語表記】PHERECYDES PHARMA
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】フェーブル,シンディ
(72)【発明者】
【氏名】ブロワ,エレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】メディナ,マチュー
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/015652(WO,A1)
【文献】International Journal of Food Microbiology, 2016, Vol. 217, pp.7-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/76
A61K 9/08
A61K 9/19
A61K 31/711
A61K 38/02
A61K 48/00
A61L 2/00
A61L 12/00
A61P 31/04
A61P 43/00
C07K 14/005
C12N 7/00
C12N 15/33
C12Q 1/02
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus)(S. aureus)株に対して溶解活性を有する少なくとも1種のバクテリオファージを含む抗菌組成物であって、
前記少なくとも1種のバクテリオファージは、配列番号1のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する、抗菌組成物。
【請求項2】
少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(S. aureus)株に対して溶解活性を有する少なくとも1種のバクテリオファージをさらに含む、請求項1記載の組成物であって、
前記少なくとも1種のバクテリオファージは、配列番号2~4のいずれかのヌクレオチド配列またはそれと95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する、前記組成物。
【請求項3】
少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(S. aureus)株に対して溶解活性を有する少なくとも2種のバクテリオファージをさらに含む、請求項1または2記載の組成物であって、
前記少なくとも2種のバクテリオファージは、配列番号2~4のいずれかのヌクレオチド配列又はそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する、前記組成物。
【請求項4】
以下
-少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(S. aureus)株に対して溶解活性を有する少なくとも1種のバクテリオファージであって、前記少なくとも1種のバクテリオファージは、配列番号1のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する;
-少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(S. aureus)株に対して溶解活性を有する少なくとも1種のバクテリオファージであって、前記少なくとも1種のバクテリオファージは、配列番号2のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する;
-少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(S. aureus)株に対して溶解活性を有する少なくとも1種のバクテリオファージであって、前記少なくとも1種のバクテリオファージは、配列番号3のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する;及び
-少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(S. aureus)株に対して溶解活性を有する少なくとも1種のバクテリオファージであって、前記少なくとも1種のバクテリオファージは、配列番号4のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する
を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
更に、薬学的に許容し得る賦形剤または担体を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
液体、半液体、固体又は凍結乾燥製剤である、請求項1~5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
各バクテリオファージ 10~1012PFU/mlを含む、請求項1~6のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
ヒト又は動物における感染の処置における使用のための抗菌組成物であって、前記組成物が、少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus)(S. aureus)株に対して溶解活性を有する少なくとも1種のバクテリオファージを含み、前記少なくとも1種のバクテリオファージは、配列番号1のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する、前記組成物。
【請求項9】
ヒト又は動物における感染の処置のための医薬の製造のための抗菌組成物の使用であっ
て、前記組成物が、少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(Staphylococcus
aureus)(S. aureus)株に対して溶解活性を有し、及び配列番号1のヌクレオチド配列
またはそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する少なくとも1
種のバクテリオファージを含む、前記使用。
【請求項10】
ヒト又は動物における微生物叢を修正することによりヒト又は動物の状態を改善す
るための医薬の製造のための抗菌組成物の使用であって、前記組成物が、少なくとも1種
のスタフィロコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus)(S. aureus)株に対して
溶解活性を有し、及び配列番号1のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも95%の同
一性を有する配列を含むゲノムを有する少なくとも1種のバクテリオファージを含む、前
記使用。
【請求項11】
材料を汚染除去するための抗菌組成物のインビトロでの使用であって、前記組成物が、
少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus)(S. aureu
s)株に対して溶解活性を有し、及び配列番号1のヌクレオチド配列またはそれと少なく
とも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する少なくとも1種のバクテリオファ
ージを含む、前記使用。
【請求項12】
少なくとも1種のスタフィロコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus)(S. aureus)株に対して溶解活性を有する少なくとも2種のバクテリオファージを含む抗菌組成物を製造するための方法であって、
前記バクテリオファージの少なくとも1種は、配列番号1のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有し、
前記少なくとも2種のバクテリオファージを別々に産生すること、及び
前記バクテリオファージを適切な担体又は賦形剤と組み合わせること
を含む、前記方法。
【請求項13】
S. aureus株に対する溶解活性を有し、配列番号1のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むヌクレオチド配列を含むゲノムを有する、バクテリオファージ。
【請求項14】
配列番号1のヌクレオチド配列、又はそれと少なくとも95%の同一性を有する配列であって、S. aureus株に対する溶解活性を有するバクテリオファージのゲノムをコードする配列を含む、単離された核酸。
【請求項15】
以下:
a)ターゲットS. aureus株又は前記株を含有するサンプルを
(i)配列番号1のヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び
(ii)少なくとも配列番号2、3又は4のヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ
と別々に接触させること;
b)前記株に対して溶解活性を示すバクテリオファージの組み合わせを選択することと、及び
c)前記選択されたバクテリオファージを組み合わせること
を含む、
ターゲットS. aureus株に対して溶解性のバクテリオファージの組み合わせを決定するためのインビトロでの方法。
【請求項16】
溶解性のバクテリオファージの組み合わせが、前記株に対して相乗活性を示す、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
溶解性のバクテリオファージの組み合わせが、前記株に対してアンタゴニズムを示さない、請求項15又は16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なバクテリオファージ組成物、その製造及びその使用に関する。本発明は、ヒト及び動物における感染の処置に特に適している。
【0002】
発明の背景
バクテリオファージ(又はファージ)は、細菌に感染し、殺傷する能力を示すが、他の生物由来の細胞に影響を及ぼさない小型ウイルスである。最初にWilliam Twortにより1世紀前に記載され、その後すぐに独立してFelix d’Herelleにより発見された、6000超の種類のバクテリオファージが、細菌及び古細菌ウイルスを含めて、これまでに明らかにされ、形態学的に説明されてきた。これらのウイルスの大部分は尾状であり、一方、小さい割合は、多面体、糸状又は多形である。それらは、それらの形態、それらの遺伝物質(DNA対RNA)、それらの特異的ホスト、それらが生存する場所(海洋ウイルス対他の生息地)及びそれらのライフサイクルに従って分類することができる。細菌細胞の細胞内寄生虫として、ファージは、細菌ホスト内で異なるライフサイクル:溶菌性、溶原性及び偽溶原性を示す(Weinbauer, 2004; Drulis-Kawa, 2012)。溶菌ファージは、それらのライフサイクルの正常な部分として、ホスト細菌細胞の溶解を引き起こす。溶原性ファージ(テンペレートファージとも呼ばれる)は、溶菌ライフサイクルにより複製し、ホスト細菌の溶解を引き起こすか又はそれらのDNAをホスト細菌DNA内に組み込み、非感染性プロファージになるかのいずれかをすることができる。偽溶原性は、増殖又は複製を伴わないホスト細胞におけるバクテリオファージの停止した発達の段階として定義することができる(M Los 2012)。ファージサイクルの種類に関わらず、最初の段階は、細菌細胞壁のレセプターへの付着であり、その後、ファージ遺伝物質が、細菌に入ることができる。この特定のプロセスは、ファージが相互作用する細菌のスペクトルを規定する。
【0003】
バクテリオファージは、実験室実験において、細菌を改変するための研究ツールとして一般に使用される。
【0004】
それらのターゲットホスト細胞特異性のために、急性及び慢性感染を処置するための治療としてのファージの使用が、特に、皮膚科、眼科、泌尿器科学、口腔科、小児科、耳鼻咽喉科又は手術において考慮されてきた。しかしながら、細菌感染症を処置するためのファージの治療的使用のこの概念は、一番最初から非常に議論の余地があり、公衆又は医学界に広く受け入れられなかった。初期の研究は、適切な制御が欠如しており、結果が一貫していないと広く批判された。種々の公表された研究で得られた再現性の欠如及び多くの矛盾する結果から、the Council on Pharmacy and Chemistry of the American Medical Associationは、その主張される利益を確認するには、溶解性ろ液の治療的価値の証拠が、ほとんどの部分で矛盾し、説得力がなく、そして追加の研究を推奨されると結論づけた。
【0005】
1940年代に抗生物質が導入されて以来、この治療分野は、特に、西洋世界において、ほとんど注目されていなかった。しかし、抗生物質の広範な使用により、世界中で抗生物質耐性細菌の広範な出現がもたらされ、ますます深刻な問題を引き起こされている。したがって、主要な多剤耐性微生物を処置するために依然として利用可能な残りの限定された治療選択肢を克服することが、主要な課題となっている。
【0006】
Staphylococcus aureus(S. aureus)は、鼻、気道及び皮膚に頻繁に見出されるグラム陽性球菌である。S. aureusは、金コロニーの色素沈着及びコアグラーゼ、マンニトール発酵及びデオキシリボヌクレアーゼ試験の陽性結果に基づいて、他のブドウ球菌種と区別される。S. aureusは、世界中で最も重大な病原体の1つであり、重篤な患者に感染する突出した生物として出現してきた。
【0007】
S. aureusは共生菌であるが、危険な病原体である場合もある。ヒト集団の約30%において、S. aureusがコロニー形成している。S. aureus感染は、皮膚、軟組織、呼吸器、骨、関節及び血管内疾患、例えば、皮膚膿瘍、創傷感染、心内膜炎、骨髄炎、肺炎及び毒性ショック症候群の主な原因である。S. aureusは、ヒトホスト内での異物感染に特に精通いている。これらの場合、S. aureusは、典型的には、外来装置(例えば、移植可能な心臓装置、血管内カテーテル、人工器官、ステント・・・)の表面にバイオフィルムを形成し、この装置を外科的に除去することなく感染を根絶することは、不可能以外の何物でもない。S. aureusは、ホスト防御メカニズム及びほとんどの抗生物質から保護を見出した細胞内で生存するのに順応することができる。
【0008】
ブドウ球菌感染症の数は増加し続けているが、これらの感染症の処置は、メチシリン又はバンコマイシンを含む複数の抗生物質に耐性のブドウ球菌株の出現のために、更に困難になっている。米国及び英国では、院内S. aureus株の40%~60%が多剤耐性である。
【0009】
したがって、ヒト又は動物の治療における使用及び材料の汚染除去に適したS. aureus株を破壊又は制御するのに使用することができる、新規な抗菌剤又は組成物が大いに必要とされている。
【0010】
S. aureusに対する実験的ファージ療法は、ヒトへの使用のための開発なしに、マウスにおいて試験されてきた(Capparelli et al., 2007)。したがって、S. aureusの高い耐性獲得力の観点から、厄介なメチシリン耐性株(MRSA)を含むS. aureus株を殺傷するのに使用することができる、新規な抗菌剤又は組成物が必要とされている。
【0011】
発明の概要
本発明者らは、Staphylococcus aureus(S. aureus)株に対して強力な溶解活性を示す新規なバクテリオファージを単離し、特徴付けた。これらのバクテリオファージは、単独で又は組み合わせにおいて、非常に強力な抗菌効果を提供し、特に、S. aureus細菌感染を処置するために、医薬又は獣医学調製物中の活性剤として使用することができる。
【0012】
本発明の目的は、少なくとも1種のStaphylococcus aureus(S. aureus)株に対して溶解活性を有する少なくとも1種のバクテリオファージを含む抗菌組成物であって、前記少なくとも1種のバクテリオファージは、配列番号:1~4のいずれか1つのヌクレオチド配列またはそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージから選択される、抗菌組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、S. aureus株に対して溶解活性を有し、配列番号:1~4のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列又はそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する、バクテリオファージに関する。
【0014】
更に、本発明は、本発明のバクテリオファージに含まれる単離された核酸分子、好ましくは、配列番号:1~4のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列又はそれと少なくとも95%の同一性を有する配列を含む単離された核酸分子及び前記核酸によりコードされる単離されたポリペプチドに関する。
【0015】
本発明の別の目的は、上記定義された核酸又はポリペプチドを含む、組成物である。
【0016】
本発明の組成物は、典型的には、更に、薬学的又は獣医学的に許容し得る賦形剤又は担体を含む。それらは、液体、半液体、固体でもよく又は凍結乾燥されていてもよい。
【0017】
本発明の別の目的は、ヒト及び動物における感染の処置における使用のため、ヒトもしくは動物の微生物叢を修正するため、材料を汚染除去するため、S. aureus細菌を殺傷しもしくは制御するため並びに/又はS. aureus細菌により産生される細菌バイオフィルムの完全性を損なわせるため並びに/又は食物及び飲料を汚染除去するための、上記定義されたバクテリオファージ、核酸、ポリペプチド又は組成物に関する。
【0018】
また、本発明は、対象における微生物叢を修正することにより、対象の状態を改善するのに使用するための、上記定義されたバクテリオファージ、核酸、ポリペプチド又は組成物に関する。微生物叢は、前記微生物叢中の微生物の適切なバランスを補正し、適応させ又は回復させることにより修正することができる。
【0019】
また、本発明は、ヒト又は動物における感染を処置するための方法であって、上記定義された少なくとも1つのバクテリオファージ、核酸、ポリペプチド又は組成物の前記ヒト又は動物への投与を含む、方法に関する。
【0020】
また、本発明は、S. aureus細菌で汚染されている疑いのある表面又は材料を処理するための方法であって、前記表面又は材料に、上記定義された少なくとも1つのバクテリオファージ、核酸、ポリペプチド又は組成物を適用することを含む、方法に関する。表面又は材料は、任意の装置、容器、実験室材料、衣類、履物、軍用機器、空冷システム、ハウジング等の表面でもよい。
【0021】
本発明のさらなる目的は、上記定義された組成物と、それを対象又は表面に適用するための手段とを含む、キットに関する。
【0022】
本発明は、任意のヒトもしくは動物、好ましくは、ヒトの上及び中において又は任意の材料(実験室材料又はヒトもしくは動物の内外の医療装置を含む)を処理するのに使用することができる。
【0023】
本発明の別の目的は、a)ターゲットS. aureus株又は前記株を含有するサンプルを(i)配列番号:1のヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び/又は(ii)配列番号:2のヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び/又は(iii)配列番号:3のヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び/又は(iv)配列番号:4のヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ並びに(v)それらの1つ以上の組み合わせと別々に接触させること;
b)前記株に対して溶解活性を示すバクテリオファージを選択することと、
c)場合により、組み合わせられた場合、前記株に対して相乗活性を示す活性バクテリオファージを更に選択すること;並びに/又は
d)場合により、組み合わせられた場合、アンタゴニズムを示さない活性バクテリオファージを更に選択すること;並びに/又は
e)場合により、異なる属に属する活性バクテリオファージを選択すること;並びに
f)前記選択されたバクテリオファージを組み合わせること
を含む、S. aureus株ターゲットに対して効果的なバクテリオファージのカクテルを決定するための方法に関する。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、新規なバクテリオファージ、その成分、それを含む組成物、その製造及び抗菌剤としての、特に、ヒトもしくは動物における感染の処置のため又は対象における微生物叢を修正することにより、対象の状態を改善するためのその使用に関する。
【0025】
定義
本発明の理解を容易にするために、数多くの用語が以下に定義される。
【0026】
本明細書で使用する場合、「バクテリオファージ」又は「ファージ」という用語は、タンパク質性エンベロープ又はカプシド中にパッケージングされた核酸ゲノムを含む機能性ファージ粒子を指す。また、この用語は、実質的に同じ機能的活性を提供する、例えば、頭部を含むバクテリオファージの部分又はファージ成分のアセンブリも指す。
【0027】
「表現型特徴」という用語は、より好ましくは、バクテリオファージの形態及び/又はホスト範囲を示す。バクテリオファージを表現型分類するための方法は、それ自体が当技術分野において周知であり、例えば、細菌ホスト範囲及び/又は特定の細菌株により産生されるバイオフィルムに対する活性を決定することを含む。
【0028】
本発明において使用する場合、「溶解活性」という用語は、バクテリオファージが細菌細胞の溶解を引き起こす特性を示す。バクテリオファージの溶解活性は、当技術分野においてそれ自体公知の技術に従って、S. aureus株で試験することができる(実験セクションも参照のこと)。
【0029】
参照バクテリオファージの「変異体」という用語は、前記参照バクテリオファージと比較して、ゲノム配列及び/又はそれによりコードされるポリペプチドに変異を有するバクテリオファージを指す。前記変異体は、参照バクテリオファージと比較して、異なる表現型特性、例えば、異なる細菌ホスト範囲を有する場合がある。特定の態様では、変異体は、変異体が1種又は複数種の細菌株に対して溶解活性を獲得することを可能にする、指向性進化(ファージトレーニングとも呼ばれる)により得ることができる。変異体は、典型的には、参照バクテリオファージと比較して、同じ形態を示す。典型的には、参照バクテリオファージは、配列番号:1~4のいずれか1つから選択される配列を含む核酸配列を有する。変異体は、典型的には、例えば、遺伝物質のサイレント突然変異、保存的突然変異、わずかな欠失及び/又はわずかな複製を含む。好ましい実施態様では、本発明の変異体は、本発明のバクテリオファージのゲノムに依存する任意の観察可能な特徴又は特性、例えば、前記バクテリオファージの表現型特性及び/又はS. aureus株に対する溶解活性を保持する。好ましい変異体は、参照バクテリオファージのゲノムと比較して、5%未満、更により好ましくは、4%未満、より好ましくは、2%未満 核酸変異を有する。代替的に又は組み合わせにおいて、変異体は、好ましくは、参照バクテリオファージのポリペプチドと比較して、コードされたポリペプチド配列において、5%未満 アミノ酸変異を有する。
【0030】
バクテリオファージに関する「特異的」又は「特異性」という用語は、前記バクテリオファージが感染可能であるホストの種類を指す。S. aureusに「特異的」なバクテリオファージは、より好ましくは、生理的条件下において、1種又は複数種のS. aureus株に感染することができ、S. aureusでない細菌に本質的に感染しない、バクテリオファージを示す。
【0031】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」という用語は、任意のサイズのポリペプチドを指し、例えば、5~20個 アミノ酸の小ペプチド、より長いポリペプチド、タンパク質又はそのフラグメントを含む。
【0032】
本明細書の文脈において、「単離されたバクテリオファージ」という用語は、その自然環境から除去され及び/又はその自然環境の成分から分離され及び/又は指向性進化から生じる、バクテリオファージを意味すると考えるべきである。この用語は、特に、例えば、in vitroで培養され、精製され及び/又は製剤化のための任意の適切な製品、例えば、希釈剤もしくは賦形剤と共に製剤化されたファージを示す。核酸又はポリペプチドに関して、「単離された」という用語は、例えば、その自然環境の少なくとも1種の成分、例えば、タンパク質、脂質、炭水化物及び/又は核酸から分離された核酸分子又はポリペプチドを示す。
【0033】
本明細書で使用する場合、「薬学的又は獣医学的に許容し得る」という用語は、ヒト又は動物の対象での使用に適合性の任意の材料(例えば、担体、賦形剤又は希釈剤)を指す。このようなものは、無害であるか又は生物に対して著しい特異的もしくは非特異的免疫反応を何ら引き起こさないか又は活性化合物の生物学的活性を阻害しない、生理学的に許容し得る溶液又は媒体を含む。液体調製物への組成物の製剤化のために、生理食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝生理食塩水、アルブミン注入溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びそれらの混合物を、薬学的又は獣医学的に許容し得る賦形剤又は担体として使用することができる。必要に応じて、他の従来の添加剤、例えば、増粘剤、希釈剤、バッファー、保存剤、界面活性剤、抗酸化剤及び静菌剤を加えることができる。更に、希釈剤、分散化剤、界面活性剤、バインダー及び滑沢剤を組成物に付加的に加えて、注射用製剤、例えば、水溶液、懸濁液及びエマルジョン、経口製剤、例えば、丸剤、カプセル剤、顆粒剤もしくは錠剤又は粉末製剤並びにエアロゾル化製剤、例えば、液剤又は散剤を調製することができる。
【0034】
本明細書で使用する場合、「PFU」は、当技術分野において十分に定義されているように、プラーク形成単位を意味する。溶解性バクテリオファージは、ホスト細胞を溶解し、培養プレート上に透明化ゾーン(又はプラーク)を生じさせる。理論的には、各プラークは、1つのファージにより形成され、プラークの数に希釈因子を乗じたものが、試験調製物中のファージの総数に等しい。
【0035】
本明細書で使用する場合、「CFU」は、サンプル中の生きている細菌の数を推定するのに当技術分野おいて十分に定義されているように、コロニー形成単位を意味する。
【0036】
「処置」又は「治療」という用語は、疾患の治癒的処置又は予防的処置を示す。治癒的処置は、疾患の治癒をもたらす処置又は疾患の症状もしくはそれが直接もしくは間接的に引き起こす苦痛を軽減し、減少させ、安定化しもしくは排除する処置又は対象の状態を改善し又は疾患の進行を減少させる処置として定義される。予防的処置は、疾患の予防をもたらす処置並びに/又は疾患の発生もしくはその発生のリスクを減少させ及び/もしくは遅延させる処置を含む。
【0037】
本明細書で使用する場合、「バイオフィルム」という用語は、種々の表面上で成長する不均一な細菌形成を指し、好ましくは、固体の生物学的又は非生物学的表面上に付着したエキソ多糖マトリックス中に埋め込まれて成長する細菌群集を指す。
【0038】
本明細書で使用する場合、「損なわせる」という用語は、完全性の任意の変更を指す。細菌バイオフィルムを損なわせることは、バクテリオファージによるバイオフィルムの変性及び/もしくは浸透、バイオフィルム関連細菌の感染及び/もしくはその溶解並びに/又はバイオフィルムの部分的もしくは全体的な透明化(すなわち、コロニー形成の停止及び/又はバイオフィルムの破壊による)と理解される。
【0039】
本明細書で使用する場合、「サンプル」という用語は、任意のサンプル、例えば、生体サンプル、特に、細胞を含有するサンプルを意味する。サンプルの例は、体液、例えば、血液、血漿、唾液、糞又は尿及び生検、臓器、組織又は細胞のサンプルを含む。サンプルを処理することができる。
【0040】
本明細書で使用する場合、「対象」又は「患者」という用語は、動物、好ましくは、成人及び小児を含むヒトを指す。また、「対象」という用語は、動物、例えば、ペット、例えば、イヌ、ネコ、農場種、例えば、ウマ、ウシ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、家禽、非ヒト霊長類及び魚類、貝、エビ等も包含するが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書で使用する場合、処置の「効力」又はバクテリオファージ療法への「応答」という用語は、処置前のS. aureus株の数と比較した場合、バクテリオファージ処置後の対象におけるS. aureus株の数の減少をもたらす治療を指す。「良好な応答者」である対象は、バクテリオファージ療法で処置された場合、臨床的に顕著な回復を示すか又は示すであろう対象を指す。
【0042】
バクテリオファージの「カクテル」という用語は、異なるバクテリオファージの組み合わせを示す。カクテル中のバクテリオファージは、好ましくは、同じ容器又は包装中に共に配合されるが、それらは、幾つかのバクテリオファージ別々に配合され又は包装され、使用され又は投与される際に組み合わせられる、キットの部品として使用することができる。
【0043】
本明細書で使用する場合、「配列同一性」という用語は、比較ウィンドウにわたって、2つの最適にアライメントされた配列を比較することにより決定され、ここで、比較ウィンドウ中のポリヌクレオチドのフラグメントは、2つの配列の最適なアライメントのために、付加又は欠失を含まない参照配列と比較して、付加又は欠失(例えば、ギャップ又はオーバーハング)を含むことができる。配列同一性の割合は、一致した位置の数を生じるために同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が両方の配列において生じる位置の数を決定し、一致した位置の数を比較ウィンドウにおける位置の総数で割り、配列同一性の割合を生じるために、この結果に100を乗じることにより計算される。比較のための配列の最適なアラインメントは、Smith and Waterman Add. APL. Math. 2:482 (1981)の局所相同性アルゴリズムにより、Needleman and Wunsch J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズムにより、Pearson and Lipman Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 85: 2444 (1988)の類似性法のための検索により、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WIにおけるGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA及びTFASTA)により又は検査により行うことができる。
【0044】
実施態様の説明
本発明は、S. aureus感染の新規なバクテリオファージ療法に関する。とりわけ、本発明は、S. aureus株に対して高い溶解活性を有する新規バクテリオファージ、その製造、その成分、それらを含む組成物及びファージ療法におけるその使用に関する。
【0045】
バクテリオファージ
第1の態様では、本発明は、S. aureus株に対して溶解活性を有し、単独で又は組み合わせでのいずれかにおいて、溶解活性の顕著なホスト範囲スペクトルを示す、新規なバクテリオファージの単離及び特徴決定を開示する。これらのバクテリオファージは、単離され、配列決定され、特徴付けられた。それらは、個別に及び組み合わせにおいて、S. aureus株に対して活性である。それらは、抗生物質耐性S. aureus株、例えば、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)株を含む病原性S. aureus株に対して顕著に有効である。これらのバクテリオファージは、S. aureus株の制御されたスペクトルに対して非常に強力な抗菌効果を示すために、薬学的又は獣医学的薬剤としての使用に適した条件で組み合わせ、製剤化することができる。
【0046】
より具体的には、下記バクテリオファージが単離されている。それらの対応する核酸配列も示される。
【0047】
【表1】
【0048】
これらのバクテリオファージの溶解プロファイルは、広範囲のS. aureus株について決定されている。結果から、本発明の4種のバクテリオファージについての広範な活性スペクトル(比及び合計)が示される。これらの4種のバクテリオファージは、Caudovirales目のメンバーである。
【0049】
バクテリオファージPN1137は、Podoviridae科のメンバーであり、17,213ヌクレオチドを含む配列番号:1の核酸配列を有する。このバクテリオファージは、試験した109種のS. aureus株のうち46種(株の42.2%に相当)に対して特異的溶解活性を示す。更に、バクテリオファージPN1137は、試験した109種のうち81種(株の74.31%に相当)に対して全溶解活性を示す。
【0050】
バクテリオファージPN1493は、Myoviridae科のメンバーであり、134,876ヌクレオチドを含む配列番号:2の核酸配列を有する。このバクテリオファージは、試験した109種のS. aureus株のうち86種(株の78.9%に相当)に対して特異的溶解活性を示す。更に、バクテリオファージPN1493は、試験した109種のうち108種(株の99.08%に相当)に対して全溶解活性を示す。
【0051】
バクテリオファージPN1815は、Myoviridae科のメンバーであり、136,156ヌクレオチドを含む配列番号:3の核酸配列を有する。このバクテリオファージは、試験した109種のS. aureus株のうち59種(株の54.13%に相当)に対して特異的溶解活性を示す。更に、バクテリオファージPN1815は、試験した109種のうち108種(株の99.08%に相当)に対して全溶解活性を示す。
【0052】
バクテリオファージPN1957は、Podoviridae科のメンバーであり、17,629ヌクレオチドを含む配列番号:4の核酸配列を有する。このバクテリオファージは、試験した109種のS. aureus株のうち71種(株の65.14%に相当)に対して特異的溶解活性を示す。更に、バクテリオファージPN1957は、試験した109種のうち95種(株の87.16%に相当)に対して全溶解活性を示す。
【0053】
これらのバクテリオファージの組み合わせは、少なくとも74種(67%)をカバーする特異的溶解活性を有する。特に、バクテリオファージPN1493及びPN1957は共に、98種 S. aureus株(89.9%)をカバーする特異的溶解活性及び100% S. aureus株をカバーする全溶解活性を有する。
【0054】
このため、本発明の特定の目的は、S. aureus株に対して溶解活性を有し、配列番号:1~4のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列又はそれと少なくとも95%の同一性、好ましくは、それと少なくとも96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列を含むゲノムを有する、バクテリオファージにある。
【0055】
本発明のバクテリオファージは、標準的な培養、単離及び精製法により調製することができる。例えば、S. aureus産生細菌を培養し、バクテリオファージのサンプルに感染させ、ついで、細菌細胞及びデブリを除去するために処理する。濃縮されたバクテリオファージ溶液は、プラークを得るために、S. aureusの包埋された感受性ホスト株を含む培地、例えば、アガー培地中に播種することができる。ついで、単一のプラークを、その後のバクテリオファージの精製及び増幅のために取り出すことができる。本発明のバクテリオファージの選択的増幅の1回以上のサイクルは、例えば、バクテリオファージをコンピテントS. aureusと混合し、続けて、増殖培地を加え、選択された試験増殖条件でインキュベーションすることにより行うことができる。遠心分離後、透明になった増幅上清をフィルターに通してろ過し、選択的増幅の別のサイクルに供するか又は溶解活性の存在について試験する。
【0056】
ついで、懸濁液中でのバクテリオファージの滴定及び本発明のバクテリオファージのプラーク形態の可視化を、公知の方法、例えば、プラーク計数により評価することができる。更に、本発明のバクテリオファージを、短期、長期、凍結又は任意の他の種類の保存のための種々の形態(液体、凍結乾燥等)に処理することを、当技術分野において周知の任意の適切な方法(例えば、Clark,1962を参照のこと)により行うことができる。
【0057】
本発明のバクテリオファージの溶解活性を、当技術分野において周知の方法、例えば、ダブルアガー法としても公知のプラークアッセイ(バクテリオファージを潜在的なホスト細菌と共に増殖させ、続けて、ホスト細菌細胞を殺傷するその能力を評価することに基づく)により評価することができる。プラークアッセイ法では、バクテリオファージは、軟アガー培地中でのインキュベーション期間後に、ターゲットS. aureus株の溶解を誘引し、プラークとして公知のプレート上の透明ゾーンを生じる。
【0058】
本発明のバクテリオファージを、以下により詳細に開示されるであろうように、培養し、増殖させ、単離し、精製し、例えば、S. aureus媒介障害のファージ療法に使用することができる。更に、バクテリオファージの表現型特性(例えば、溶解活性)を保持するこれらのバクテリオファージの変異体を、当技術分野においてそれ自体公知の技術により、産生し及び/又は単離することができる。
【0059】
核酸及びポリペプチド
本発明は、本発明のバクテリオファージに含まれる核酸又はこのような核酸の任意のフラグメントに関する。フラグメントという用語は、より好ましくは、オープンリーディングフレームを含有する(又はそれからなる)フラグメントを示す。核酸は、DNA又はRNAであることができ、一本鎖又は二本鎖であることができる。
【0060】
核酸は、寄託されたバクテリオファージから単離することができる又はリコンビナントDNA技術(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、クローニング)、酵素的もしくは化学的合成又はそれらの組み合わせを使用し、当技術分野においてそれ自体公知の一般的な技術に従って産生することができる。ヌクレオチドが挿入され、欠失され、置換され及び/又は反転された、天然のアレル変異体及び改変された核酸配列を含むが、これらに限定されない、相同配列及びそのフラグメントも含まれる。
【0061】
特定の実施態様では、本発明は、配列番号:1~4のいずれか1つから選択される配列又は配列番号:1~4のいずれか1つと少なくとも95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の配列同一性を有する配列を含む、核酸に関する。
【0062】
本発明の核酸は、遊離形態であることができ又はベクター、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、発現カセット、コスミド等中にクローニングすることができる。
【0063】
更なる態様では、また、本発明は、上記定義された核酸配列、好ましくは、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3又は配列番号:4から選択される核酸配列によりコードされた、単離されたポリペプチドに関する。前記ポリペプチドは、当技術分野においてそれ自体公知の技術、例えば、合成、リコンビナント技術又はそれらの組み合わせにより産生することができる。前記ポリペプチドを、単離し又は精製することができ、抗菌剤として又はin vitro分析のための試薬として使用することができる。
【0064】
本発明の組成物
本発明の一態様は、上記された少なくとも1種のバクテリオファージ、より好ましくは、少なくとも2種以上と、場合により、薬学的又は獣医学的に許容し得る賦形剤とを含む、組成物に関する。記載されるように、本発明のバクテリオファージは、S. aureus株に対して非常に強力な溶解活性を有する。これらのバクテリオファージの組み合わせは、ホストスペクトルを広げ、非常に有効な抗菌組成物を産生するように産生することができる。
【0065】
とりわけ、本発明は、S. aureus株に対して溶解活性を有する少なくとも1種のバクテリオファージを含む、抗菌組成物に関し、前記少なくとも1種のバクテリオファージは、配列番号:1~4のいずれか1つのヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性、例えば、それと少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージから選択される。
【0066】
一態様では、配列番号:1~4のいずれか1つとなくとも90%の同一性、例えば、配列番号:1~4のいずれか1つと少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有するバクテリオファージは、配列番号:1~4のいずれか1つの配列を有する参照バクテリオファージと同じ表現型特性を有することができる。典型的には、前記バクテリオファージは、同じ細菌ホスト範囲を有する。このようなバクテリオファージは、典型的には、例えば、遺伝物質のサイレント突然変異、保存的突然変異、わずかな欠失及び/又はわずかな複製を含む。
【0067】
別の態様では、配列番号:1~4のいずれか1つと少なくとも90%の同一性、例えば、配列番号:1~4のいずれか1つと少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有するバクテリオファージは、指向性進化(ファージトレーニング)から生じさせることができ、異なる細菌ホスト範囲を有することができる。典型的には、前記バクテリオファージは、配列番号:1~4のいずれか1つの配列を有する参照バクテリオファージと比較して、より多くの細菌株に対して活性を有する。
【0068】
更により詳細には、本発明は、S. aureus株に対して溶解活性を有する少なくとも2種のバクテリオファージを含む、抗菌組成物に関し、前記少なくとも2種のバクテリオファージは、配列番号:1~4のいずれか1つのヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性、例えば、それと少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージから選択される。
【0069】
別の特定の実施態様では、本発明の組成物は、配列番号:1~4のいずれか1つのヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性、例えば、それと少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージから選択される少なくとも3種、更により好ましくは、少なくとも4種の異なるバクテリオファージを含む。
【0070】
本発明の組成物の具体例は、
-配列番号:1のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び配列番号:2のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;
-配列番号:1のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び配列番号:3のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;
-配列番号:1のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び配列番号:4のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;
-配列番号:2のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び配列番号:3のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;
-配列番号:2のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び配列番号:4のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;
-配列番号:3のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び配列番号:4のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;
-配列番号:1のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ、配列番号:2のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び配列番号:3のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;
-配列番号:1のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ、配列番号:2のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び配列番号:4のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;
-配列番号:1のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ、配列番号:3のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び配列番号:4のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;又は
-配列番号:2のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ、配列番号:3のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び配列番号:4のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ
を含む。
【0071】
特定の実施態様では、本発明の組成物は、少なくとも:
-配列番号:1のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;
-配列番号:2のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;
-配列番号:3のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ;及び
-配列番号:4のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ
を含む。
【0072】
本発明の組成物は、表2に表わされたバクテリオファージのカクテルを含むことができる。
【0073】
【表2】
【0074】
本発明の組成物は、更に、更なる抗菌剤、特に、異なるホスト特異性を有する他のバクテリオファージを含むことができる。
【0075】
本発明の最も好ましい組成物は、the Centre National de Reference des Staphylocoques de Lyonにより決定されたパネルの109種の全細菌株の70%以上に対して溶解性である。このコレクションは、ヨーロッパ及びアメリカ合衆国において最も高い発生率を有するものである、膨大な数の多様なS. aureus株を含有する。
【0076】
本発明の組成物は、任意の有効量の選択されたバクテリオファージを含むことができる。好ましくは、それらは、10e1~10e12PFU/ml、好ましくは、10e4~10e11PFU/ml 前記各バクテリオファージを含む。本発明の組成物中の各種のバクテリオファージの相対量は、当業者により調節することができる。典型的には、抗菌組成物が上記定義された複数(n)の異なるバクテリオファージを含む場合、この組成物中の各バクテリオファージの合計相対量%Aは、より好ましくは、%A=(100/n)×V(式中、nは、別個のバクテリオファージの数を表わし、Vは、0.2~5を含む変動因子である)である。最も好ましくは、Vは、0.3~3、更により好ましくは、0.5~2、一般的には、0.8~1.5を含む。好ましい典型的な実施態様では、各種のバクテリオファージは、本発明の組成物中に、ほぼ等しい相対量で存在する。
【0077】
本発明の抗菌組成物は、種々の形態、例えば、液体、半液体、固体又は凍結乾燥製剤であることができる。本発明の組成物は、好ましくは、適切な希釈剤又は担体、例えば、薬学的又は獣医学的に許容し得る賦形剤又は担体を含む。本発明の組成物は、選択されるバクテリオファージに加えて、任意の賦形剤又は担体、例えば、増粘剤、希釈剤、バッファー、保存剤、界面活性剤等を含むことができる。このようなものは、無害であるか又は生物に対して著しい特異的もしくは非特異的免疫反応を何ら引き起こさないか又はバクテリオファージの生物学的活性を阻害しない、生理学的に許容し得る溶液又は媒体を含む。液体製剤について、生理食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝生理食塩水、アルブミン注入溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びそれらの混合物を、薬学的又は獣医学的に許容し得る賦形剤又は担体として使用することができる。必要に応じて、他の従来の添加剤、例えば、増粘剤、希釈剤、バッファー、保存剤、界面活性剤、抗酸化剤及び静菌剤を加えることができる。更に、希釈剤、分散化剤、界面活性剤、バインダー及び滑沢剤を組成物に付加的に加えて、注射用製剤、例えば、水溶液、懸濁液及びエマルジョン、経口製剤、例えば、丸剤、カプセル剤、顆粒剤もしくは錠剤又は乾燥及び/もしくは押出粉末を含む粉末製剤、液体又は乾燥エアロゾルを含むエアロゾル化製剤を調製することができる。局所投与のための製剤は、包帯、手当用品、パッチ、フィルム、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、ドロップ剤、座剤、スプレー剤、タンポン、衛生ナプキン、液剤及び散剤を含むことができる。また、汚染除去又は医療用途のための製剤は、エアロゾル剤又はスプレー剤も含むことができる。
【0078】
本発明の組成物は、例えば、対象の感染の処置のため又は対象の状態を改善するために、ヒト又は獣医学分野を含む医療分野において使用することができる。前記組成物は、感染を処置するために、生物においてS. aureus細菌を減少させ又は殺傷するのに使用することができる。また、前記組成物は、対象における微生物叢を修正することにより、対象の状態を改善するのに使用することもできる。特に、本発明の組成物は、対象の皮膚又は粘膜上のS. aureus株を特異的に除去することができるため、その微生物叢を修正し、適切なバランスを回復することができる。
【0079】
特定の実施態様では、また、本発明は、対象における感染を処置するための方法であって、上記定義された組成物又はバクテリオファージ又は核酸又はポリペプチドの前記対象への投与を含む、方法に関する。
【0080】
また、本発明は、対象における感染を処置するため又は前記対象における微生物叢を回復するための医薬を製造するための、記載されたバクテリオファージ、核酸又はポリペプチドの組成物の使用に関する。
【0081】
本発明の組成物は、種々のS. aureus媒介感染症、特に、糖尿病性もしくは非糖尿病性足潰瘍感染症又は骨、例えば、骨髄炎、敗血症性関節炎もしくは関節感染症もしくは補綴関節感染症(これらに限定されない)又は皮膚感染症、例えば、アトピー性皮膚炎、ざ瘡、膿疱症、ブドウ球菌性熱傷皮膚症候群(これらに限定されない)又は軟組織感染症又は胸膜肺感染症又は他の臨床症候群、例えば、髄膜炎もしくは尿路感染症、敗血症もしくは心内膜炎もしくは中耳炎(これらに限定されない)を処置するのに使用することができる。
【0082】
本発明の組成物は、任意の都合の良い経路により投与することができる。同経路は、静脈内、経口、経皮、皮下、粘膜、筋肉内、肺内、鼻腔内、非経口、直腸、膣及び局所を含む。バクテリオファージ又は組成物は、同様に、肺内又は鼻腔内点滴又は噴霧により投与することができる。前記組成物は、直接的又は間接的に、例えば、支持体又は装置(例えば、ネブライザー、包帯・・・)を介して投与することができる。この点に関して、前記組成物は、例えば、罹患領域に塗布し又は噴霧することができる。また、本発明の組成物は、経口又は非経口経路により投与することもできる。本発明の組成物を塗布し、噴霧し又は投与するのに適した投与量は、配合、投与モード、処置される対象の投与時点での年齢、体重、性別、状態、食餌、投与経路及び反応感受性を含む各種の要因に依存して、当業者により調節することができる。当技術分野において通常の技能を有する医師又は獣医師は、必要とされる組成物の有効量を容易に決定し、処方することができる。
【0083】
また、投与量は、抗生物質耐性S. aureus株に対する溶解活性が得られるように、当業者により調節することもできる。in vivoにおいて溶解活性を得るのに効率的な用量は、典型的には、投与経路に応じて、少なくとも10e4PFU/ml、好ましくは、約10e2~10e12PFU/mlの濃度を含む。
【0084】
特定の実施態様では、本発明のバクテリオファージ、組成物及びカクテルは、糖尿病性もしくは非糖尿病性足潰瘍感染、骨及び関節感染、人工関節感染又は気道感染を処置するのに使用される。
【0085】
例えば、メチシリン耐性又は感受性S. aureus(MRSA又はMSSA)に感染した糖尿病性足潰瘍の症例では、患者は、10~1010PFU/ml ファージ液を含浸させた手当用品を、毎日~10日毎、例えば、2日毎~9日毎、好ましくは、3日毎~8日毎、より好ましくは、7日毎を含む投与頻度で、抗生物質と共に又は抗生物質を伴わず、傷が閉じるまで受けることができる。処置の効力は、細菌ロードの相対的減少により測定することができる。
【0086】
例えば、股関節又は膝関節の再発性S. aureus(MRSA又はMSSA)人工関節感染の症例では、患者は、抗生物質と共に又は抗生物質を伴わず、標準的な手術に関連するファージ療法を受けることができる。10~1010PFU/ml ファージ液の含量であれば、外植の終わりに、骨バレル、関節腔及び/又は筋肉組織中の手術野に散在させることができる。第2の同一の調製物を、再移植の直後及び手術部位閉鎖の前の第2の分散に使用することができる。傷が依然として開いている場合、例えば、創傷被覆材の時に、さらなる適用を行ってもよい。局所処置を支持するために、10~1010PFU/mlでの補完的経口ファージ投与を使用することができる。
【0087】
S. aureus(MRSA又はMSSA)に感染した骨についての形成手術の症例では、骨掻爬術の後に、感染した掻爬術済みの骨に接して、手術部位の底部に10~1010PFU/ml バクテリオファージを吸収させた湿布を置くことができる。空洞の残りには、他の無菌の湿布で埋めることができ、手術部位は、防水包帯により閉塞することができる。加えて、創傷又は手術部位から血又は漿液を除去するためのドレナージのサイクル後に、真空補助閉鎖(VAC)系を使用し、続けて、抗生物質と共に又は抗生物質を伴わず、ファージ滴下(10~1010PFU/ml)を使用することができる。ファージは、ドレナージを再開する前の数時間の間残存する。このサイクルを、操作後の数日間に数回繰り返すことができる。
【0088】
気道感染の症例では、10~1010PFU/ml ファージ液を、噴霧装置を使用して適用することができる。噴霧は、携帯型吸入器により又は医療用機械式人工呼吸器へのアドオンネブライザーにより行うことができる。例えば、1~20mlの範囲のファージ液容量を種々の時間間隔で、処置期間中に噴霧することができる。最初の噴霧を開始する前に、病理学に従って、肺洗浄を同じファージ液で行うことができる。
【0089】
実験セクションに示されたように、本発明のバクテリオファージ及び組成物は、広範囲のS. aureus細菌を効果的に殺傷可能である。組成物は、低投与量であっても、異なるS. aureus細菌の混合物を破壊することができる。また、本発明の組成物及びバクテリオファージは、真核細胞に厳密に影響を及ぼすことがないため、特異的であり、ヒト及び動物に適用される場合、副作用が無い。
【0090】
また、本発明は、材料を汚染除去するための、本発明の組成物、バクテリオファージ、核酸又はポリペプチドの使用に関する。それらの強力な抗菌効果及び細菌バイオフィルムの完全性を損なわせもするその能力のために、本発明の組成物は、材料上の細菌を排除し又は同細菌数の減少を少なくとも引き起こすための汚染除去剤として使用することができる。このような方法は、医療及び非医療の両方の状況において、各種の生物学的又は非生物学的表面の処置に適用することができる。同表面は、固体材料又は装置、例えば、コンタクトレンズ、体内に埋め込まれる装置の表面、パイプ、ダクト、実験容器、織物、衣類、履物、ハウジング、軍事機器等を含む。
【0091】
また、本発明は、組成物が少なくとも2種のバクテリオファージを含み、前記少なくとも2種のバクテリオファージを別々に産生することと、前記バクテリオファージを適切な担体又は賦形剤と組み合わせることとを含む、本発明の組成物を製造するための方法に関する。
【0092】
本発明の組成物は、少なくとも1種の抗生物質と組み合わせて使用することができる。このような同時投与により、使用される抗生物質の量を減少させ、抗生物質の効力を回復させ又はバイオフィルムに埋め込まれた細菌を抗生物質に感受性にすることが可能となる。
【0093】
本発明の診断/予測試験-コンパニオン診断
また、本発明は、対象におけるバクテリオファージ療法の効力を予測し又は決定するための方法であって、前記対象からのサンプルからのS. aureus株に対する本発明の1種以上のバクテリオファージの溶解活性を決定する工程を含み、このような溶解活性は、効率的な処置を示す、方法に関する。好ましい態様では、前記方法は、場合により更に、前記対象のサンプルからのS. aureus株に対する溶解活性を有する1種以上のバクテリオファージにより前記対象を処置する工程を含む。
【0094】
別の態様では、本発明は、対象を選択するため又は対象がバクテリオファージ療法からの利益を受けやすいかどうかを決定するための方法であって、前記対象のサンプルからのS. aureus株に対する本発明の1種以上のバクテリオファージの溶解活性を決定する工程を含み、少なくとも1種のS. aureus株に対する本発明の1種以上のバクテリオファージの溶解活性は、対象が応答者であることを示す、方法に関する。
【0095】
本発明の別の目的は、バクテリオファージ療法に対する対象の応答を予測するための方法であって、前記対象のサンプルからのS. aureus株に対する本発明の1種以上のバクテリオファージの溶解活性を決定する工程を含み、少なくとも1種のS. aureus株に対する本発明の1種以上のバクテリオファージの溶解活性は、前記治療に対する良好な応答を示す、方法に関する。
【0096】
別の態様では、本発明は、配列番号:1~4のいずれか1つのヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージから選択されるバクテリオファージ及び/又は表2のバクテリオファージの少なくとも1種のカクテルに対するS. aureus株の感受性を評価するための方法であり、
a)S. aureus株を前記少なくとも1種のバクテリオファージ及び/又は前記少なくとも1種のバクテリオファージカクテルと接触させることと、
b)前記株に対するバクテリオファージ及び/又はカクテルの溶解活性を決定することにより、バクテリオファージ及び/又はカクテルに対する前記株の感受性を評価することとを含む、方法を提供する。
【0097】
工程a)を、in vitroにおいて、このような工程に適合した任意の培地(例えば、固体又は液体培地)中で、S. aureus株を少なくとも1種のバクテリオファージ及び/又は少なくとも1種のバクテリオファージカクテルと接触させ、曝露し又は混合することにより行うことができる。
【0098】
好ましい実施態様では、バクテリオファージ及び/又はカクテルの溶解活性の決定は、S. aureus株におけるバクテリオファージの増幅を測定することを含み、ここで、バクテリオファージ濃度の向上は、バクテリオファージ及び/又はカクテルの前記株に対する溶解活性を示す。
【0099】
バクテリオファージ濃度を、当業者に周知の任意の技術、例えば、プラーク形成、多型連鎖反応(polymorphism Chain Reaction)(PCR)、生物発光等により測定することができる。
【0100】
付加的に又は代替的に、バクテリオファージ及び/又はカクテルの溶解活性の決定は、プラークアッセイにおけるプラークの出現の決定を含む。
【0101】
ただし、細菌株は、細菌の固体培地中において、バクテリオファージの存在下で、細菌マットの完全又は部分的な溶解が観察される場合、バクテリオファージに感受性であると考えることもできる。
【0102】
バクテリオファージ及び/又はカクテルの溶解活性を評価するために、当業者に周知の他の技術を使用することができる。
【0103】
本発明の別の目的は、
a)ターゲットS. aureus株又は前記株を含有するサンプルを(i)配列番号:1のヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び/又は(ii)配列番号:2のヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び/又は(iii)配列番号:3のヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ及び/又は(iv)配列番号:4のヌクレオチド配列もしくはそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含むゲノムを有するバクテリオファージ並びに/又は(v)それらの1つ以上の組み合わせと別々に接触させること;
b)前記株に対して溶解活性を示すバクテリオファージを選択することと、
c)場合により、組み合わせられた場合、前記株に対して相乗活性を示す活性バクテリオファージを更に選択すること;並びに/又は
d)場合により、組み合わせられた場合、アンタゴニズムを示さない活性バクテリオファージを更に選択すること;並びに/又は
e)場合により、異なる属に属する活性バクテリオファージを選択すること;並びに
f)前記選択されたバクテリオファージを組み合わせること
を含む、ターゲットS. aureus株に対して有効なバクテリオファージのカクテルを決定するための方法に関する。
【0104】
この方法を、どのカクテルが特定のS. aureus株に対して最良の溶解活性を有するかを決定するためのファゴグラムとして使用することができる。
【0105】
本発明の更なる態様及び利点は、下記実験セクションに開示されるであろうが、これは、例示にすぎない。
【0106】
実施例
方法
ファージファミリーの分類学的特定
本発明の4種のファージ(PN1137、PN1493、PN1815及びPN1957)を、電子顕微鏡を使用して研究した。結果から、バクテリオファージは、以下に記載されるCaudovirales目並びにPodovirae及びMyoviridae科に属することが示される。
-PN1137:Podovirae、
-PN1483:Myoviridae、
-PN1815:Myoviridae、
-PN1957:Podovirae
【0107】
ファージゲノムの配列決定及び分析
ファージDNAをフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1、V/V)での抽出、エタノール沈殿及び水中での分離により単離した。全ゲノム配列決定を行い、BLASTアルゴリズムを使用して、National Center for Biotechnology Information(NCBI)データベース中の記載された遺伝子との類似性を決定した。ゲノムを潜在的オープンリーディングフレーム(ORF)についてスキャンした。核酸配列は、配列番号:1~4として示される。データベースを使用した配列アラインメントから、電子顕微鏡を使用したものと同じ分類学的特定をもたらされる。
【0108】
実施例1:in vitro特徴決定:ホスト範囲
2つの異なる種類の溶菌が可能である。バクテリオファージの酵素による細菌細胞壁の加水分解により生じる溶菌(「非特異的」溶解と呼ばれる)及びファージ増幅により生じる溶菌(「特異的」溶解と呼ばれる)。両方のタイプの溶解は、ファージの有用性に関連する。特異的溶解及び非特異的溶解の両方を、2つの方法を使用して、バクテリオファージそれぞれについて決定した。
【0109】
固体培地中でのファージ増幅
この方法により、バクテリオファージが増幅により細菌を溶解する能力を評価することが可能となる。
【0110】
この方法は、バクテリオファージ懸濁液の一定範囲の希釈(比10)を細菌含有アガーの表面に沈着させることからなる。ついで、このアガーを、細菌マットの発生を可能にするために、37℃で18時間インキュベーションする。堆積領域を分析する。以下の状況の可能がある。
-ケース1:堆積領域での細菌マットの溶解が存在しない、
-ケース2:堆積領域での細菌マットの完全な溶解、
-ケース3:堆積領域での細菌マットの部分的な溶解及び
-ケース4:堆積領域でのプラーク(プラーク形成単位(PFU))を観察
【0111】
細菌株において増幅し、細菌を効果的に溶解するファージの能力を証明するのは、プラーク形成(ケース4)のみである。
【0112】
ケース1、2及び/又は3がケース4の非存在下で観察される場合、前記株を液体培地中で試験する。
【0113】
液体培地中でのファージ増幅
この方法により、バクテリオファージを産生する細菌の能力を評価することが可能となる。
【0114】
この方法は、細菌株及びバクテリオファージを37℃で18時間培養することからなる。ついで、上清中のバクテリオファージ濃度を測定する。培養後のバクテリオファージ濃度が最初のバクテリオファージ濃度よりも優れている場合、このことは、バクテリオファージが細菌により増幅されたことを示す。
【0115】
バクテリオファージを産生する細菌の能力は、とりわけ、感染多重度(MOI)、すなわちバクテリオファージ/細菌比により決まる。幾つかのMOIを試験した。
【0116】
培養後のファージ滴定を、スポット試験に類似した方法を使用して決定する。培養上清の一定範囲の希釈(比10)を、一方ではバクテリオファージの産生株を含有するアガー表面上に、他方では患者の株を含有するアガー表面上に堆積させる。ついで、このアガーを37℃で18時間インキュベーションする。希釈因子に相関する堆積領域上のプラーク数から、バクテリオファージ濃度の決定が可能となる。
【0117】
特異的活性
特異的活性のスペクトル、すなわち、パネルの株を増幅により溶解する各バクテリオファージの能力を評価した。バクテリオファージは、以下の場合、細菌株により増幅されると考えられる。
-固形培地試験において、ケース4が観察された。
-液状培地試験において、培養後のバクテリオファージの濃度が、初期濃度に対して50倍に増加した。
【0118】
S. aureusのパネルは、Centre National de Refrence des Staphylocoques de Lyonにより決定された。このパネルは、ヨーロッパ及びアメリカ合衆国において最も高い発生率を有する109種のS. aureus株を含む。
【0119】
下記表3において、細菌株により増幅される本発明のバクテリオファージの能力を「+」で表わし、細菌株により増幅されるバクテリオファージの無能力を「-」で表わす。
【0120】
表3:109種のS. aureus株のパネルに対するPN1137、PN1493、PN1815及びPN1957の特異的活性のスペクトル
【表3】


【0121】
PN1493及びPN1957はそれぞれ、109種のS. aureus株のうちの86種及び71種(それぞれ78.9%及び65.14%に相当)に対して特異的活性を示す。
【0122】
また、PN1137及びPN1815も、広範囲の比活性を表わす。それらはそれぞれ、該株の46種及び59種(それぞれ42.2%及び54.13%に相当)で特異的活性を示す。
【0123】
全溶解活性
全溶解活性のスペクトル、すなわち、バクテリオファージ産生の有無にかかわらず、各バクテリオファージが菌株を溶解する能力を評価した。バクテリオファージは、S. aureus株に対して、以下のいずれかの場合に活性であると考えられる。
-固体培地試験において、ケース2、3、4が観察された。
-液体培地試験において、培養後のバクテリオファージ濃度が、初期濃度に対して50倍に増加した。
【0124】
下記表5において、細菌株に対するバクテリオファージの陽性溶解活性を「+」で表わし、細菌株に対するバクテリオファージの溶解活性が無いことを「-」で表わす。
【0125】
表5:109種のS. aureus株のパネルに対するPN1137、PN1493、PN1815及びPN1957の全活性のスペクトル
【表4】


【0126】
これらの結果から、試験した4つのバクテリオファージについて非常に広範な活性スペクトルが示され、これらのバクテリオファージは全て、109種のS. aureus株の70%超に対して溶解活性を表わす。特に、バクテリオファージPN1493及びPN1815は、109種のS. aureus株のうちの108種(このパネルの該株の99%超に相当)に対する活性を有する非常に良好な結果を示す。また、PN1137及びPN1957も、広範囲の溶解活性を示す。これらはそれぞれ、このパネルからの該株の81種及び95種(それぞれ74.31%及び87.16%)に対して有効である。パネルからの全てのS. aureus株は、少なくとも1種のバクテリオファージにより溶解される。更に、79種の株が、4種のバクテリオファージにより溶解される。
【0127】
実施例II:カクテルの製造
カクテル5:PN1493及びPN1957
これらの2種のバクテリオファージは、補完的な範囲の溶解活性を有する。実際、それらを合わせると、試験したS. aureus株の98種(株の89.9%に相当)に対して特異的活性を示す。更に、それらの全溶解活性は、試験したS. aureus株の全てをカバーする。好ましいカクテルは、これらの2種のバクテリオファージを1:1の比で含む。
【0128】
カクテル6:PN1815及びPN1957
カクテル5と同様に、これらの2種のバクテリオファージは、補完的な範囲の溶解活性を有する。それらを合わせると、試験したS. aureus株の87種(79.8%)に対して特異的活性を示す。更に、それらの全溶解活性は、試験したS. aureus株の全てをカバーする。好ましいカクテルは、これらの2種のバクテリオファージを1:1の比で含む。
【0129】
カクテル1(PN1137及びPN1493)及びカクテル4(PN1493及びPN1815)
また、これらの2種のカクテルも、試験した細菌株に対して広範囲の溶解活性を表わす。カクテル1及び4はそれぞれ、89種及び87種(それぞれ81.6%及び79.8%)の該株に対して特異的溶解活性を有する。更に、それらは両方とも、108種(試験したS. aureus株の99%超に対する溶解活性に相当)の該株に対して全溶解活性を示す。好ましいカクテルは、2種のバクテリオファージを1:1の比で含む。
【0130】
カクテル3、5、6、8、9、10及び11
これらのカクテルは、100% 株に対して全溶解活性を示す。
【0131】
実施例II:in vivoでの効力
2つのマウスモデルを使用して、本発明のバクテリオファージのカクテルの効力を評価する。
【0132】
第1のモデルでは、糖尿病性又は非糖尿病性足潰瘍のS. aureus感染を再現する。これは、ナイーブマウス又は糖尿病マウスのS. aureus後足感染に基づいている。
【0133】
第2のモデルでは、S. aureus骨及び関節感染(BJI)並びに人工関節感染(PJI)を再現する。
【0134】
糖尿病性足潰瘍モデル(DFU)
糖尿病を、ストレプトゾトシンを使用して誘引する。マウスの糖尿病状態は、誘引7日後での約5g/l 血中グルコース及び損なわれたS. aureus血液殺傷アッセイに基づいている。
【0135】
S. aureus株
補綴感染から単離された臨床株をその株がin situで持続し、増殖する能力に基づいて選択する。最良の接種材料を、最高の生存率を有する糖尿病マウスにおいて、14日間腹腔内に維持された細菌ロードに基づいて選択する。
【0136】
実験設計
糖尿病を、ストレプトゾトシンを48時間間隔で2回注射することにより誘引する。1回目のストレプトゾトシン注射の14日後に、一方の後足に感染させる。4つのグループを比較する。
・バクテリオファージカクテル処置。カクテルを1の感染多重度(MOI1)で、30分p.i.局所投与(SC注射)する。
・バクテリオファージカクテル処置。カクテルをMOI10で、30分p.i.局所投与(SC注射)する。
・抗生物質処置。リネゾリドを25mg/kgで、30分p.i.全身投与(IP注射)する。
・未処置対照。PBSを30分p.i.局所投与(SC注射)する。
【0137】
群あたりに30匹 マウスを研究する。
【0138】
p.i.の6回目の時点で、マウスを安楽死させ、感染した後足の軟組織及び骨におけるコロニー形成単位(CFU)及びプラーク形成単位(PFU)の数を数える。浮腫及び病変の肉眼観察をChhibber et alに言及されているようにスコア化する。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)レベルを測定して、炎症反応を追跡し、後足の組織学を5日目に行って、4つの群間の炎症反応差を評価する。
【0139】
このモデルにより、糖尿病性足潰瘍のS. aureus感染に対する本発明のバクテリオファージ又はバクテリオファージカクテルの効力を評価することが可能となる。
【0140】
非糖尿病性足潰瘍モデル
S. aureus株
糖尿病性足潰瘍モデルで使用された株を非糖尿病性足潰瘍モデルでも使用する。同じ接種材料を使用する。
【0141】
実験設計
ナイーブマウスにおいて、一方の後足に感染させる。糖尿病性足潰瘍モデルにおいて比較された群を非糖尿病性足潰瘍モデルにおいても研究する。同じ評価基準について研究した。
【0142】
このモデルにより、非糖尿病性足潰瘍のS. aureus感染に対する本発明のバクテリオファージ又はバクテリオファージカクテルの効力を評価することが可能となる。
【0143】
骨及び関節感染モデル
S. aureus株
補綴感染から単離された臨床株をその株がin situで持続し、増殖する能力に基づいて選択する。最良の接種材料を、最高の生存率を有する7日間腹腔内に維持された細菌ロードに基づいて選択する。
【0144】
実験設計
ナイーブマウスの膝から感染させる。7つの群を比較する。
・バクテリオファージカクテル処置。カクテルを高用量で、30分p.i.全身投与する。
・バクテリオファージカクテル処置。カクテルを低用量で、30分p.i.全身投与する。
・バクテリオファージカクテル処置。カクテルを高用量で、30分p.i.局所投与する。
・バクテリオファージカクテル処置。カクテルを低用量で、30分p.i.局所投与する。
・抗生物質処置。
・抗生物質+バクテリオファージ処置。
・未処置対照。
【0145】
群あたりに30匹 マウスを研究する。
【0146】
細菌ロード及びファージロード、マウスの臨床状態、例えば、体重、食餌及び水の消費を感染の経過に沿って追跡する。
【0147】
このモデルにより、S. aureus骨及び関節感染に対する本発明のバクテリオファージ又はバクテリオファージカクテルの効力を評価することが可能となる。
【0148】
人工関節感染モデル
S. aureus株
この株は、BJIモデル並びに接種材料と同様である。
【0149】
実験設計
Kワイヤをナイーブマウスの大腿腔に挿入する。ついで、マウスをKワイヤの隣の膝から感染させる。群の比較及び読み出しは、骨及び関節感染モデルと同様である。
【0150】
このモデルにより、S. aureus人工関節感染に対する本発明のバクテリオファージ又はバクテリオファージカクテルの効力を評価することが可能となる。
【0151】
参考文献
【表5】
【配列表】
0007492337000001.app