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特許7492338光電変換装置、光電変換システム及び移動体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】光電変換装置、光電変換システム及び移動体
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/107 20060101AFI20240522BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20240522BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
H01L31/10 B
H01L31/10 G
H01L27/146 A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020013718
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120980
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】篠原 真人
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0024058(US,A1)
【文献】特開2019-192903(JP,A)
【文献】特開2015-188049(JP,A)
【文献】特開2008-099174(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0240579(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110365924(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/0392,31/08-31/119,27/14-27/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光に基づく信号電荷を保持する第1導電型の第1半導体領域を含む電荷保持部と、
前記第1導電型の第2半導体領域を含むアヴァランシェフォトダイオードと、を備え、
前記第1導電型とは異なる第2導電型の第3半導体領域と、前記第1導電型の第4半導体領域と、前記第2導電型の第5半導体領域をこの順に介して、前記第1半導体領域から前記第2半導体領域に前記信号電荷を転送する、
ことを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
光電変換により前記信号電荷が生成されている期間において、前記アヴァランシェフォトダイオードは、アヴァランシェ増倍を行わない不活性状態である
ことを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記第4半導体領域は、前記第4半導体領域への入射光を光電変換することにより前記信号電荷を生成する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換装置。
【請求項4】
前記第4半導体領域で生成された前記信号電荷は、前記第4半導体領域から、前記第3半導体領域を介して前記第1半導体領域に転送される
ことを特徴とする請求項3に記載の光電変換装置。
【請求項5】
入射光を光電変換することにより前記信号電荷を生成する第6半導体領域を更に有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換装置。
【請求項6】
前記第6半導体領域において生成された前記信号電荷を前記第1半導体領域に転送する転送ゲートを更に有する
ことを特徴とする請求項5に記載の光電変換装置。
【請求項7】
前記アヴァランシェフォトダイオードで発生したアヴァランシェ電流の生起回数をカウントするカウント部を更に有する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項8】
前記第1半導体領域の電位を制御する第1電極を更に有する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項9】
前記第1半導体領域と前記第1電極の間に配された絶縁層を更に有する
ことを特徴とする請求項8に記載の光電変換装置。
【請求項10】
前記第3半導体領域及び前記第5半導体領域の電位を制御する第2電極を更に有する
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の光電変換装置。
【請求項11】
前記第1電極及び前記第2電極の電位が変化することにより、前記第1半導体領域から前記第2半導体領域への、前記信号電荷の転送を行う
ことを特徴とする請求項10に記載の光電変換装置。
【請求項12】
前記第1半導体領域から前記アヴァランシェフォトダイオードの前記第2半導体領域に前記信号電荷が転送される期間の少なくとも一部において、前記アヴァランシェフォトダイオードがアヴァランシェ増倍を行う活性状態である
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項13】
前記第1半導体領域から前記アヴァランシェフォトダイオードの前記第2半導体領域に前記信号電荷が転送される期間の少なくとも一部において、前記アヴァランシェフォトダイオードは、アヴァランシェ増倍を行わない不活性状態である
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項14】
前記アヴァランシェフォトダイオードに転送された前記信号電荷に基づく電圧をデジタル値に変換するAD変換部を更に有する
ことを特徴とする請求項13に記載の光電変換装置。
【請求項15】
前記アヴァランシェフォトダイオードがアヴァランシェ増倍を行う活性状態において転送された前記信号電荷に基づく第1のデジタル値と、前記アヴァランシェフォトダイオードがアヴァランシェ増倍を行わない不活性状態において転送された前記信号電荷に基づく第2のデジタル値とを出力可能である
ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項16】
複数の前記電荷保持部を有し、
前記複数の電荷保持部の各々に保持された前記信号電荷が1つの前記アヴァランシェフォトダイオードに転送される
ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項17】
前記複数の前記電荷保持部の間に配された分離領域を更に有する
ことを特徴とする請求項16に記載の光電変換装置。
【請求項18】
入射光に基づく信号電荷を保持する第1導電型の第1半導体領域を含む電荷保持部と、
前記第1導電型の第2半導体領域を含むアヴァランシェフォトダイオードと、を備え、
前記第1半導体領域から前記第2半導体領域への前記信号電荷の転送経路には複数のポテンシャルバリアが配され、
前記複数のポテンシャルバリアのレベルが変化することにより、前記第1半導体領域から前記第2半導体領域に前記信号電荷が転送される
ことを特徴とする光電変換装置。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の光電変換装置と、
前記光電変換装置から出力される信号を処理する信号処理手段と、
を有することを特徴とする光電変換システム。
【請求項20】
移動体であって、
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の光電変換装置と、
前記光電変換装置からの信号に基づく視差画像から、対象物までの距離情報を取得する距離情報取得手段と、
前記距離情報に基づいて前記移動体を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置、光電変換システム及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
アヴァランシェフォトダイオード(以下APDとも称する)を含む光電変換装置が知られている。APDは、入射された光子をアヴァランシェ増倍する。APDを含む光電変換装置は、アヴァランシェ増倍により増幅された電流(アヴァランシェ電流)を検出することにより光子の入射を検出することができる。したがって、APDを含む光電変換装置は、信号検出回路において生じ得るノイズの影響を受けにくく、更に光子がAPDに入射した時刻を検出することもできる。APDを含む光電変換装置は、このような特性を有するため、光通信、医療、科学計測等の分野で広く使用されている。
【0003】
また、APDに入射された光子をカウントするSingle-photon Avalanche Diode(以下SPADとも称する)も知られている。特許文献1及び特許文献2には、複数のSPADが2次元配列されたイメージセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-152176号公報
【文献】米国特許出願公開第2015/0115131号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アヴァランシェフォトダイオードを用いた光電変換装置において、光子の検出精度の向上が要求されている。
【0006】
そこで、本発明は、光子の検出精度が向上された光電変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、入射光に基づく信号電荷を保持する第1導電型の第1半導体領域を含む電荷保持部と、前記第1導電型の第2半導体領域を含むアヴァランシェフォトダイオードと、を備え、前記第1導電型とは異なる第2導電型の第3半導体領域と、前記第1導電型の第4半導体領域と、前記第2導電型の第5半導体領域をこの順に介して、前記第1半導体領域から前記第2半導体領域に前記信号電荷を転送する、ことを特徴とする光電変換装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によれば、入射光に基づく信号電荷を保持する第1導電型の第1半導体領域を含む電荷保持部と、前記第1導電型の第2半導体領域を含むアヴァランシェフォトダイオードと、を備え、前記第1半導体領域から前記第2半導体領域への前記信号電荷の転送経路には複数のポテンシャルバリアが配され、前記複数のポテンシャルバリアのレベルが変化することにより、前記第1半導体領域から前記第2半導体領域に前記信号電荷が転送される、ことを特徴とする光電変換装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光子の検出精度が向上された光電変換装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る光電変換装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】第1実施形態に係る光電変換素子の等価回路図である。
図3】第1実施形態に係る画素信号処理部のブロック図である。
図4】第1実施形態に係る光電変換素子の平面模式図である。
図5】第1実施形態に係る光電変換素子の断面模式図である。
図6】第1実施形態に係る光電変換素子の動作を示すタイミング図である。
図7】第1実施形態に係る光電変換素子のポテンシャル図である。
図8】第1実施形態に係る光電変換素子及び画素信号処理部の動作を示すタイミング図である。
図9】第2実施形態に係る光電変換素子の平面模式図である。
図10】第2実施形態に係る光電変換素子の断面模式図である。
図11】第2実施形態に係る光電変換素子の断面模式図である。
図12】第2実施形態に係る光電変換素子の等価回路図である。
図13】第2実施形態に係る画素信号処理部のブロック図である。
図14】第3実施形態に係る光電変換装置の構成を示す図である。
図15】第3実施形態に係る光電変換装置の動作を示すタイミング図である。
図16】第4実施形態に係る光電変換素子の断面模式図である。
図17】第5実施形態に係る光電変換システムの概略構成を示すブロック図である。
図18】第6実施形態に係る撮像システム及び移動体の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。複数の図面にわたって同一の要素又は対応する要素には共通の符号が付されており、その説明は省略又は簡略化されることがある。
【0012】
また、以下の実施形態において、信号電荷は電子であるものとする。また、第1導電型がN型、第2導電型がP型であるものとする。しかしながら、信号電荷は正孔であってもよい。その場合、以下の説明における半導体領域の第1導電型がP型、第2導電型がN型となる。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係る光電変換装置1010の概略構成を示すブロック図である。光電変換装置1010は、垂直選択回路103、水平選択回路104、列回路105、画素部106、信号線107、出力回路108及び制御回路109を有している。なお、本実施形態の光電変換装置1010は、画像を取得する撮像装置であるものとするが、これに限定されるものではない。例えば、光電変換装置1010は、焦点検出装置、測距装置、TOF(Time-Of-Flight)カメラ等であってもよい。
【0014】
画素部106は、行列状に配された複数の画素100を有している。画素100は、光電変換素子101及び画素信号処理部102を含む。光電変換素子101は入射された光を光電変換して電気信号に変換する。画素信号処理部102は、変換された電気信号を処理して列回路105に出力する。
【0015】
なお、本明細書において、「光」とはあらゆる波長の電磁波を含み得る。すなわち、「光」は、可視光に限定されるものではなく、赤外線、紫外線、X線、ガンマ線等の不可視光を含み得る。
【0016】
制御回路109は、垂直選択回路103、水平選択回路104及び列回路105を駆動する制御パルスを生成し、これらの各部に供給する。これにより、制御回路109は、各部の駆動タイミング等の制御を行う。
【0017】
垂直選択回路103は、制御回路109から供給された制御信号に基づいて、複数の画素100の各々に制御信号を供給する。図1に示されているように、垂直選択回路103は、画素部106の行ごとに設けられている制御信号線を介して各画素100に対して行ごとに制御信号を供給する。垂直選択回路103にはシフトレジスタ、アドレスデコーダ等の論理回路が用いられ得る。
【0018】
信号線107は、画素部106の列ごとに設けられており、垂直選択回路103により選択された行の画素100から出力された信号をデジタル信号として画素100の後段の列回路105に伝送する。列回路105は、信号線107を介して入力された各画素100の信号に対して所定の処理を行う。所定の処理とは、例えば、入力された信号のノイズ除去、増幅、出力形式の変換等の処理である。これらの機能を実現するため、列回路105は、センスアンプ、メモリ、パラレル-シリアル変換回路等を有し得る。
【0019】
水平選択回路104は、制御回路109から供給された制御パルスに基づいて、所定の処理が行われた信号を出力回路108へ順次出力するための制御パルスを列回路105に供給する。出力回路108は、バッファアンプ、差動増幅器等を含み、列回路105から出力された信号を光電変換装置1010の外部の記録部又は信号処理部に出力する。
【0020】
制御回路109は、垂直選択回路103、水平選択回路104、列回路105、出力回路108の動作やそのタイミングを制御する制御信号を供給するための回路である。なお、垂直選択回路103、水平選択回路104、列回路105、及び出力回路108は、光電変換装置1010の外部から供給された制御信号によって駆動されてもよい。
【0021】
図1において、画素部106内における画素100の配列は一次元状であってもよく、画素100が1つのみであってもよい。画素部106内における画素100がいくつかのブロックに分割されている場合には、垂直選択回路103、水平選択回路104及び列回路105は、各ブロックに対応して複数個配置されていてもよい。
【0022】
画素信号処理部102は、必ずしもすべての画素100に1つずつ設けられていなくてもよい。例えば、複数の画素100によって1つの画素信号処理部102が共有されていてもよい。この場合、画素信号処理部102は、各光電変換素子101から出力された信号を順次処理することにより、各画素に対して信号処理の機能を提供する。
【0023】
また、画素信号処理部102は、光電変換素子101が設けられている半導体基板とは異なる半導体基板に設けられてもよい。この場合、光電変換素子101が受光可能な面積の割合(開口率)を向上させることにより、感度を向上させることができる。光電変換素子101と画素信号処理部102とは、画素100ごとに設けられた接続配線を介して信号線107に電気的に接続される。信号線107のそれぞれはnビットのデジタル信号を伝送するn本の信号線を含み得る。なお、垂直選択回路103、水平選択回路104、列回路105及び信号線107は、画素信号処理部102と同様に、光電変換素子101が設けられている半導体基板とは異なる半導体基板に設けられていてもよい。
【0024】
図2は、本実施形態に係る光電変換素子101の等価回路図である。光電変換素子101は、アヴァランシェフォトダイオード(APD)2と、フォトダイオード(PD)13と、寄生ダイオード14、15と、抵抗5と、容量9と、端子6、11、16とを有している。また、光電変換素子101は、N型半導体領域1、4、8と、P型半導体領域3、12、電極7、10とを有している。
【0025】
PD13は、N型半導体領域1をカソードとし、P型半導体領域3をアノードとするダイオードである。N型半導体領域1は、入射光を光電変換することにより、信号電荷を生成する感度領域である。
【0026】
APD2は、N型半導体領域4をカソードとし、P型半導体領域3をアノードとするダイオードである。電極7は、P型半導体領域3の電位を制御する。抵抗5の第1端子は、N型半導体領域4に接続されている。N型半導体領域4のノードは、光電変換素子101の出力端子であり、画素信号処理部102に接続されている。
【0027】
寄生ダイオード14は、N型半導体領域1をカソードとし、P型半導体領域12をアノードとするダイオードである。P型半導体領域12とP型半導体領域3とは互いに導通している。寄生ダイオード15は、N型半導体領域8をカソードとし、P型半導体領域12をアノードとするダイオードである。N型半導体領域8は、電荷保持部として機能する。
【0028】
電極10はポリシリコン、金属等の導電性材料により形成されている。容量9は、電極10とN型半導体領域8とが酸化シリコン等の絶縁層を間に介して配されることにより形成されるMOSダイオード(MOSキャパシタ)である。電極10は、容量9を介してN型半導体領域8の電位を制御する。
【0029】
端子6は、抵抗5の第2端子のノードである。端子11は、電極10のノードである。端子16は、電極7のノードである。端子6、11、16は、いずれも光電変換素子101を制御するための制御端子である。端子6、11、16は、電圧制御部80に接続されている。電圧制御部80は、端子6、11、16の電圧を制御することにより、光電変換素子101を制御する。
【0030】
図3は、本実施形態に係る画素信号処理部102のブロック図である。画素信号処理部102は、インバータ回路203、カウンタ回路(カウンタ部)204及び選択回路206を有する。
【0031】
インバータ回路203は、光電変換素子101の出力ノードにおける電位変化を整形して、パルス信号を出力する。N型半導体領域4(APD2のカソード)の電位がインバータ回路203の閾値以上のときはインバータ回路203の出力はローレベルになる。一方、N型半導体領域4の電位がインバータ回路203の閾値より低いときはインバータ回路203の出力はハイレベルになる。すなわち、インバータ回路203からは二値化されたパルス信号が出力される。すなわちインバータ回路203は比較器の役目を果たす。APD2によってアヴァランシェ増倍された信号電荷の有無に応じて、矩形パルス信号がインバータ回路203から出力される。インバータ回路203の代わりに差動アンプを使った比較器を用いてもよいが、図3では回路規模の小さいインバータ回路が使われている。
【0032】
カウンタ回路204(カウント部)は、インバータ回路203に接続されており、インバータ回路203から出力されたパルスの数をカウントし、累算したカウント値を出力する。カウンタ回路204は、例えば、N-bitカウンタ(N:正の整数)であり得る。この場合、カウンタ回路204はパルスの個数を最大で約2のN乗個までカウントすることが可能である。カウント数は、検出信号としてカウンタ回路204に保持される。また、カウンタ回路204には、垂直選択回路103から駆動線207を介して制御信号RESが供給され得る。制御信号RESがカウンタ回路204に供給されると、保持されているカウント数がリセットされる。このようにして、カウンタ回路204は、APD2に少なくとも1つの信号電荷が転送され、かつ、アヴァランシェ増倍されることにより生起するアヴァランシェ電流の生起回数をカウントする。
【0033】
選択回路206は、カウンタ回路204と信号線107との間の電気的な接続・非接続を切り替える。選択回路206には、垂直選択回路103から駆動線208を介して制御信号SELが供給される。制御信号SELが選択回路206に供給されると、制御信号SELのレベルに応じてカウンタ回路204と信号線107との間の電気的な接続・非接続が切り替わる。選択回路206には、例えば、トランジスタ、画素100の外部に信号を出力するためのバッファ回路等が含まれ得る。カウンタ回路204と信号線107とが電気的に接続されると、カウンタ回路204に保持されているカウント値が信号線107に出力される。
【0034】
なお、選択回路206に代えて、端子6とAPD2との間、又は光電変換素子101と画素信号処理部102との間のノードにトランジスタ等のスイッチが設けられていてもよい。この場合も、スイッチの接続・非接続を切り替えることにより、選択回路206と同様の機能が実現され得る。同様に、電圧制御部80から端子6への電位の供給をトランジスタ等のスイッチを用いて電気的に切り替えてもよい。
【0035】
カウンタ回路204が複数配された場合には、選択回路206に複数の信号が供給され得る。これにより、カウンタ回路204に保持されたカウント値を信号線107に出力する際に、カウンタ回路204毎に信号線107への出力を制御することが可能である。
【0036】
カウンタ回路204に保持されたデジタル信号であるカウント値は撮像画像を形成するための信号となる。具体的には、複数の画素100が行列状に配された画素部106において、ローリングシャッタ動作によって撮像画像を取得してもよい。すなわち、カウンタ回路204のカウント値を行ごとに順次リセットし、カウンタ回路204に保持されたカウント値を行ごとに順次出力してもよい。また、グローバル電子シャッタ動作によって撮像画像を取得してもよい。グローバル電子シャッタ動作においては、全画素行のカウンタ回路204のカウント値を同時にリセットし、カウンタ回路204に保持された検出した信号を行ごとに順次出力することができる。
【0037】
なお、グローバル電子シャッタ動作を行う場合には、パルスのカウントを行う時間を各行で同一にするため、カウンタ回路204のカウントを実行するか否かを切り替える手段を更に追加することが好ましい。カウントを実行するか否かを切り替える手段は、例えば、トランジスタ等のスイッチであり得る。
【0038】
また、カウンタ回路204に代えて時間・デジタル変換回路(Time to Digital Converter:以下、TDCと呼称する)及びメモリが設けられていてもよい。この場合、光電変換装置1010は、パルスを検出したタイミングを取得することができる。
【0039】
この変形例において、インバータ回路203から出力されたパルス信号の発生タイミングは、TDCによってデジタル信号に変換される。TDCには、パルス信号のタイミングの測定に用いる参照信号として、垂直選択回路103から駆動線を介して、制御信号RESが供給される。TDCは、制御信号RESを時刻の基準として、インバータ回路203からのパルスの入力時刻に相当するデジタル信号を取得する。
【0040】
TDCの回路には、例えば、バッファ回路を直列接続したDelay Lineを用いて遅延回路を形成するDelay Line方式、Delay Lineをループ状に繋いだ回路を用いるLooped TDC方式等が用いられ得る。TDCの回路には、その他の方式を用いてもよいが、十分な時間分解能を確保するため、光電変換素子101の時間分解能と同等以上の時間分解能を達成できる方式であることが好ましい。
【0041】
TDCにより取得されたデジタル信号は、1つ又は複数のメモリに保持される。メモリの個数が複数である場合には、選択回路206に複数の制御信号SELを供給することにより、複数のメモリのいずれかから信号線107に選択的に信号を出力させることが可能である。
【0042】
図4は、本実施形態に係る光電変換素子101の平面模式図であり、図5は、本実施形態に係る光電変換素子101の断面模式図である。図4及び図5は、半導体基板に形成されている複数の光電変換素子101のうちの1つを抜き出して示しており、図4の破線で示した範囲が1つの光電変換素子101に対応する。光電変換素子101への入射光は図5に示されている半導体基板の下面側(裏面側)から入射される。図5は、図4のA-A’線における断面を示している。図4及び図5を相互に参照しつつ光電変換素子101の構造を説明する。
【0043】
光電変換素子101は、N型半導体領域1、4、8、22、23と、P型半導体領域3、12、18、19、20と、電極7、10と、絶縁層21とを有している。P型半導体領域19は、複数の光電変換素子101の間を分離している。また、P型半導体領域19の一部の上には、電極7(第2電極)が配されている。P型半導体領域20は、容量9が形成されている領域と、APD2が形成されている領域とを分離している。P型半導体領域18は、半導体基板の裏面の界面に配されている。
【0044】
信号電荷を生成する感度領域であるN型半導体領域1(第4半導体領域)は、P型半導体領域18の上方に配されている。N型半導体領域1の上方には、P型半導体領域3(第5半導体領域)と、P型半導体領域12(第3半導体領域)とが配されている。P型半導体領域12の上方には、N型半導体領域23とN型半導体領域8(第1半導体領域)とがこの順に配されている。なお、半導体領域23はN型半導体領域とするが、場合によってはP型半導体領域12よりも低不純物濃度のP型半導体領域であってもかまわない。P型半導体領域3の上方には、N型半導体領域22とN型半導体領域4とがこの順に配されている。P型半導体領域3、12、18、19、20は、電気的に接続されている。N型半導体領域4、8、22、23及びP型半導体領域19、20の上方には絶縁層21が配されている。N型半導体領域8の上方には、絶縁層21を間に介して電極10(第1電極)が配されている。
【0045】
P型半導体領域3及びN型半導体領域4、22は、APD2を構成している。N型半導体領域22は、N型半導体領域4よりも不純物濃度が低い領域である。N型半導体領域22(第2半導体領域)は、APD2における空乏化領域である。また、P型半導体領域3及びN型半導体領域1は、PD13を構成している。
【0046】
P型半導体領域12及びN型半導体領域1は、寄生ダイオード14を構成しており、P型半導体領域12及びN型半導体領域8、23は、寄生ダイオード15を構成している。N型半導体領域8、絶縁層21及び電極10は、容量9を構成している。
【0047】
図5に破線で示されている転送経路24は、電荷保持部として機能するN型半導体領域8からAPD2に信号電荷が転送される経路である。転送経路24(転送部)の上には、N型半導体領域23、P型半導体領域12、N型半導体領域1、P型半導体領域3、N型半導体領域22がこの順に配されている。転送経路24は、以下では、この信号電荷の転送について説明する。
【0048】
図6は、本実施形態に係る光電変換素子101の動作を示すタイミング図であり、図7は、本実施形態に係る光電変換素子101のポテンシャル図である。図8は、本実施形態に係る光電変換素子101及び画素信号処理部102の動作を示すタイミング図である。
【0049】
図6には、電圧制御部80から端子6、11、16に供給される電位の時間変化が示されている。図7には、転送経路24に沿った箇所におけるポテンシャルが模式的に示されている。図7に示されているポテンシャルは負電荷を有する信号電子に対するポテンシャルであるため、図中の下側の方が高電位である。図7のポテンシャル図中に付されている符号は、図5の対応する符号の部材が配された位置を示している。また、図7のポテンシャル図中に付されている丸印は信号電子を示している。図8には、端子11の電位、N型半導体領域4の電位(インバータ回路203の入力電位)及びインバータ回路203の出力電位の時間変化が示されている。なお、図8は、図6における第2転送期間の近傍の期間のみを抜き出して示したものである。
【0050】
図6に示されているように、光電変換素子101の動作は、蓄積期間、第1転送期間及び第2転送期間に大別される。図7には、蓄積期間、第1転送期間及び第2転送期間のポテンシャル図が示されている。図6及び図7を相互に参照しつつ光電変換素子101の動作を説明する。
【0051】
まず、蓄積期間における光電変換素子101の動作を説明する。蓄積期間は、半導体基板の裏面からの入射光によって生成された信号電子がN型半導体領域1に蓄積される期間である。蓄積期間においては、端子6の電位は、0Vであり、端子16の電位はV1であり、端子11の電位はV3である。端子16の電位V1は、例えば、-5Vである。このとき、APD2のカソード-アノード間には5Vの逆バイアス電圧が印加される。APD2においてアヴァランシェ増倍が起こる逆バイアス電圧は、例えば25V程度である。したがって、蓄積期間においては、APD2はアヴァランシェ増倍が起こらない不活性状態である。
【0052】
端子11の電位V3は、例えば-15Vである。また、容量9を構成するMOSダイオードの閾値電圧は、例えば-1Vである。このとき、MOSダイオードの半導体側は、いわゆるピニング状態であり、界面にはホールが蓄積されている。N型半導体領域8は、MOSダイオードの界面付近に形成されているため、N型半導体領域8の大部分は、ホールが蓄積されており電子を受け入れられない状態となっている。したがって、半導体基板の裏面からの入射光によって生成された信号電子は、N型半導体領域8には移動せず、N型半導体領域1に蓄積される。
【0053】
図7に示されているように、上述のメカニズムにより、蓄積期間において、N型半導体領域1に存在する信号電子から見ると、P型半導体領域3とP型半導体領域12とがポテンシャルバリアになっている。したがって、N型半導体領域1に信号電子が蓄積される。
【0054】
なお、N型半導体領域1において信号電子が飽和した場合には、溢れた信号電子は、N型半導体領域8ではなくN型半導体領域4側に流れる。すなわち、N型半導体領域4は、蓄積期間においてはオーバーフロードレインの機能を有している。
【0055】
次に、第1転送期間における光電変換素子101の動作を説明する。第1転送期間は、N型半導体領域1に蓄積された信号電子がN型半導体領域8に転送される期間である。第1転送期間において、端子16の電位はV1からV2に向かって徐々に変化する。また、蓄積期間と同様に、端子6の電位は、0Vであり、端子11の電位はV3である。電位V2は、例えば-25Vである。
【0056】
端子16の電位の変化に伴って、P型半導体領域3の電位がV1からV2に向かって変化すると、APD2の逆バイアス電圧が増大し、P型半導体領域3が空乏化する。これに伴い、N型半導体領域1に存在する信号電子から見たP型半導体領域3のポテンシャルバリアが減少する。
【0057】
N型半導体領域8の電位は固定されていないものの、端子11から与えられる電極10の電位はV3に固定されているため、N型半導体領域8の電位の変動は小さい。したがって、端子16の電位の変化に伴って、P型半導体領域12の電位がV1付近からV2付近に向かって変化すると、寄生ダイオード15の逆バイアス電圧が増大し、P型半導体領域12が空乏化する。これに伴い、N型半導体領域1に存在する信号電子から見たP型半導体領域12のポテンシャルバリアが減少する。
【0058】
したがって、図7に示されているように、第1転送期間においては、P型半導体領域3のポテンシャルバリアとP型半導体領域12のポテンシャルバリアとがいずれも減少する。ここで、APD2及び寄生ダイオード15の形成条件は、第1転送期間においてP型半導体領域3の空乏化よりもP型半導体領域12の空乏化の方が早く進むように決められている。これにより、端子16の電位がV1からV2に変化する途中の中間状態において、P型半導体領域12のポテンシャルバリアがほとんどなく、P型半導体領域3のポテンシャルバリアが残されている状態が実現される。図7にはこの中間状態のポテンシャルも図示されている。このときの端子16の電位は、例えば-18Vである。
【0059】
この中間状態においては、N型半導体領域1に存在する信号電子から見ると、P型半導体領域3のポテンシャルバリアよりもP型半導体領域12のポテンシャルバリアの方が低いため、信号電子は、P型半導体領域12に向かって転送される。例えば、端子16の電位が-20Vの状態において、信号電子のN型半導体領域8への転送が完了し、P型半導体領域3のポテンシャルバリアがまだ残っているものとする。
【0060】
その後、端子16の電位がV2=-25Vになると、APD2の逆バイアス電圧が25Vとなるため、APD2は活性状態と不活性状態の境界に近づく。この状態では、複数の光電変換素子101のばらつきにより、APD2が活性状態である光電変換素子101と、APD2が不活性状態である光電変換素子101とが混在する状態となる。この時点においては、P型半導体領域3のポテンシャルバリアがほとんど消失する。
【0061】
しかしながら、この時点では、信号電子は既にN型半導体領域8に転送されている。N型半導体領域8に保持された信号電子から見たP型半導体領域12のポテンシャルバリアが大きいため、端子16の電位がV2になり、P型半導体領域3のポテンシャルバリアが消失しても、信号電子は、APD2には移動しない。このようにして、第1転送期間の経過後、入射光に基づく信号電子がN型半導体領域8に一時的に保持される。
【0062】
次に、第2転送期間における光電変換素子101の動作を説明する。第2転送期間は、N型半導体領域8に保持されている信号電子がAPD2に1つずつ転送される期間である。第2転送期間において、端子11の電位は、V3からV4に向かって徐々に変化する。電位V4は、例えば-27Vである。端子16の電位は、第1転送期間の終期と同様のV2である。
【0063】
端子6の電位は、第2転送期間に先立って0VからVDDに変化している。電位VDDは、例えば3.3Vである。このとき、APD2の逆バイアス電圧は、28.3Vとなる。APD2のカソードであるN型半導体領域4に接続されているインバータ回路203の電源電圧はVDDであり、インバータ回路203の閾値電圧VtはVDD/2に近い1.8Vであるものとする。また、APD2においてアヴァランシェ増倍が起こる逆バイアス電圧のばらつきは、1.8V未満であるものとする。この条件では、N型半導体領域4の電位、すなわちインバータ回路203の入力電位が閾値電圧Vt以上であるならば、APD2は活性状態である。言い換えると、APD2が不活性状態となるためには、N型半導体領域4の電位がインバータ回路203の閾値電圧Vt未満となる必要がある。これは、インバータ回路203が確実にアヴァランシェ増倍を検出できるための条件である。
【0064】
N型半導体領域4の電位がVDDになると、N型半導体領域1側から見たときのP型半導体領域3のポテンシャルバリアが消失する。このとき、図7に示されているように、APD2のアノード-カソード間の大きな逆バイアス電圧の影響により、P型半導体領域12からP型半導体領域3に向かって電位勾配が生じる。上述のように、端子11の電位は、V3からV4に向かって徐々に変化することにより、N型半導体領域8のポテンシャルが徐々に高くなる。すなわち、N型半導体領域8に蓄積されている信号電子から見たP型半導体領域12のポテンシャルバリアが相対的に小さくなっていく。これにより、信号電子は、徐々にP型半導体領域12のポテンシャルバリアを越え、N型半導体領域1を経由してP型半導体領域3に達する。このようにして、信号電子が徐々にN型半導体領域8からAPD2に転送される。
【0065】
APD2に到達した信号電子は、APD2においてアヴァランシェ増倍を生じさせる。このとき、APD2にはアヴァランシェ電流が流れ、抵抗5における電圧降下によってN型半導体領域4の電位が低下する。APD2が不活性状態となる電位までN型半導体領域4の電位が低下するとアヴァランシェ増倍は停止する。この電位は平均的には0Vである。その後、端子6から抵抗5を介して与えられている電位により、N型半導体領域4の電位は再びVDDに戻る。N型半導体領域4の電位はインバータ回路203の入力電位であるため、上述の電位変化の過程で閾値電圧Vt未満となった期間だけインバータ回路203の出力はハイレベルとなる。すなわち、インバータ回路203は、1つの信号電子が転送された時刻に、1つのパルスを出力する。なお、1つの信号電子が1つのパルスに対応する関係を保つため、信号電子が転送される時間間隔が閾値電圧Vt未満となる期間よりも十分に長くなるように、端子11の電位変化の傾きが設定されている。つまり複数の信号電子がほぼ同時にAPD2に転送されると、ひとつのパルスしか生ぜずカウントロスとなる。このカウントロスを防ぐため、転送されるひとつひとつの信号電子が十分な時間間隔を持ってAPD2に転送されるよう端子11の電位変化の傾きをゆるやかにする。
【0066】
このようにして、インバータ回路203は、信号電子がAPD2に転送されると、転送された信号電子の数のパルスを出力する。カウンタ回路204は、パルスの数をカウントして、累積のカウント値を出力する。このようにして、N型半導体領域8に保持された信号電子の個数がカウントされる。
【0067】
図8には、N型半導体領域8に保持された信号電子が5個である場合の例が示されている。時刻T1、T2、T3、T4、T5の各々は、1つの信号電子がN型半導体領域8からAPD2に転送された時刻を示している。時刻T1、T2、T3、T4、T5において、N型半導体領域4の電位が一時的に低下する。これに伴って、インバータ回路203は、時刻T1、T2、T3、T4、T5にパルスを出力する。このようにして、インバータ回路203は、N型半導体領域8に保持された信号電子と同数のパルスを出力する。カウンタ回路204は、パルスの個数をカウントすることで、信号電子の個数を示すデジタル値を取得することができる。
【0068】
なお、図8にはN型半導体領域4の電位がVDDから0Vまで低下する例が示されているがこれは一例であり、N型半導体領域4の下限電圧は、アヴァランシェ増倍が起こる逆バイアス電圧のばらつきによって異なり得る。しかしながら、上述のとおり、このばらつきを考慮して各端子の電圧等が設定されているため、インバータ回路203から出力されるパルスの個数は、信号電子の個数と一致する。
【0069】
以上のようにして、本実施形態の光電変換装置1010は、入射された光子をカウントするSPADとして動作する。本実施形態の光電変換装置1010は、光子の検出精度を向上する効果を有する。以下、この効果について2つの観点から詳細に説明する。
【0070】
特許文献1又は特許文献2に記載されているような一般的なAPDを用いたSPADでは、入射光の検出を行っている期間においては、APDが活性状態になるように制御されている。そのため、動作時には、APDのアノード-カソード間には一般的なPDに比べて大きな逆バイアス電圧が印加され続けている。APDのアノード-カソード間にキャリア発生準位が存在していると、この大きな逆バイアス電圧によって低バイアス時よりも多量のキャリアが生成され、大きな暗電流が発生する場合がある。このような理由により、SPADにおいては、信号読み出し回路のノイズ及び増倍率のばらつきの影響を受けないという利点があるものの、APDで発生する暗電流ノイズの影響が一般的な低電圧動作のPDに比べて大きくなる。これは、SN比の低下の原因になり得る。
【0071】
これに対し、本実施形態では、蓄積期間においてAPD2は不活性状態である。このとき、APD2にはアヴァランシェ電流が流れないため、光電変換素子101の消費電力は小さい。なぜなら従来のSPADでは大量に信号電子が発生する場合でも基本的にはすべてアヴァランシェ増倍を伴ってカウントパルスを発生させる。一方、本実施形態では蓄積期間中、N型半導体領域1の飽和電子数を超える信号電子はN型半導体領域4にアヴァランシェ増倍を伴わずに流れ去るので、電気エネルギーを消費するカウントパルス発生がないのである。また、蓄積期間においては、インバータ回路203及びカウンタ回路204の少なくとも1つの機能を停止することにより、APD2における暗電流による電位の変化が生じたとしてもこれをカウントしないようにすることができる。したがって、蓄積期間内に暗電流による影響が発生し得る主要な箇所はPD13のみである。蓄積期間におけるPD13の逆バイアス電圧は、アヴァランシェ増倍を伴わない一般的なCMOSイメージセンサのPDと同程度であり、典型的には1Vから2V程度である。PD13で生じる暗電流は、一般的なCMOSイメージセンサと同程度であり、アヴァランシェ活性状態の時のAPD2と比べてはるかに小さい。また、N型半導体領域8の界面はピニング状態となっているため、ここで生じる暗電流も小さい。以上の理由により、本実施形態の光電変換素子101においては、蓄積期間内に生じる暗電流ノイズの影響が低減されている。
【0072】
本実施形態においては、第2転送期間等のAPD2が活性状態になる期間もあるが、この期間の長さは、APD2が不活性状態である期間の長さよりも短い。具体的には、例えば通常の撮像を想定すると、活性状態の期間の長さが3ms程度であり、不活性状態の期間の長さが30ms程度である。そのため、APD2が活性状態の期間に生じる暗電流ノイズの影響は小さい。SPADはその特性上、入射光が少ない暗い環境下でも信号をはっきり捉えることを目的とすることが多い。このような暗い環境では蓄積時間を数百msから数秒と長めにすることがあるが、そのような条件ではより一層、従来のSPADと比べて本実施形態の暗電流の影響の少なさが顕著となる。
【0073】
以上のように、本実施形態では、蓄積期間においてPD13に信号電子を蓄積し、その信号電子をAPD2に転送することにより電荷のカウントを行う構成を有しているため、暗電流ノイズの影響を低減することができる。
【0074】
また、本実施形態の光電変換装置1010は、電荷保持部として機能するN型半導体領域8を有している。第1転送期間において、信号電子がN型半導体領域1からN型半導体領域8に転送され、第2転送期間において、信号電子がN型半導体領域8からN型半導体領域4に転送される。この構成による更なる効果について説明する。
【0075】
本実施形態の別の構成例として、電荷保持部を設けずにPDからAPDに直接信号電荷を転送する構成も考えられる。この変形構成例における課題について説明する。信号電子がPDからAPDに転送されると、アヴァランシェ増倍により、多数の電子及びホールが生じる。電子の少なくとも一部はAPDのカソードに移動する。また、ホールの少なくとも一部は、PDとAPDの間のP型半導体領域によるポテンシャルバリアを通過してAPDのアノードに移動する。
【0076】
このとき、アヴァランシェ電流による電圧降下によってポテンシャルバリアが低くなり、PDに蓄積されている複数の信号電子が一度にまとめて転送されることがある。この現象は、ポテンシャルバリアを構成するP型半導体領域に集まるホールがPDに蓄積された信号電子を静電気力で引きつけることにより生じると解釈することもできる。このようにしてまとめて転送された複数の信号電子は、1個の信号電子としてカウントされる。例えば、PDに1000個の信号電子が蓄積されており、1個の信号電子がAPDに転送されるときに更に99個の信号電子が一緒に転送されると仮定すると、1000個の信号電子が10個としてカウントされる。このように、本変形構成例では、信号電子の個数を正確にカウントできない場合がある。
【0077】
これに対し、本実施形態の光電変換装置1010における第2転送期間には、信号電子はPD13を構成するN型半導体領域1ではなくN型半導体領域8に保持されている。N型半導体領域8とAPD2の間には、P型半導体領域12によるポテンシャルバリアが存在している。これにより、アヴァランシェ増倍が起こったときにP型半導体領域3のポテンシャルバリアが変化したとしても、P型半導体領域12によるポテンシャルバリアはほとんど変化しない。言い換えると、本実施形態では、電荷保持部を構成するN型半導体領域1とAPD2のN型半導体領域4との間に2つのポテンシャルバリアが存在している。これにより、本実施形態では、アヴァランシェ増倍が起こったときに電荷保持部の電荷が一緒に転送されないようなポテンシャル分布となっている。したがって、N型半導体領域8に保持されている信号電子がアヴァランシェ増倍に伴ってまとめて転送される現象が生じにくくなる。したがって、信号電子の個数をより正確にカウントできるため、精度が向上する。
【0078】
以上のように、本実施形態では、信号電荷を保持するN型半導体領域8を有し、第2転送期間において、N型半導体領域8からAPD2のN型半導体領域4に信号電子を転送する構成を有しているため、信号電子のカウント精度を向上させることができる。
【0079】
以上、2つの観点から述べた理由のうちの少なくとも1つにより、本実施形態によれば、光子の検出精度が向上された光電変換装置が提供される。
【0080】
なお、蓄積期間において、N型半導体領域8をN型半導体領域1と同様に電荷蓄積部として機能させることも可能である。例えば、蓄積期間において、端子11の電位V3が例えば-15Vであるときに、端子16の電位V1を-20Vに設定する。この場合、P型半導体領域12によりポテンシャルバリアはほとんど無い状態となるため、信号電子は、N型半導体領域8にも蓄積される。蓄積期間の終了後に上述と同様に第1転送期間及び第2転送期間の動作を行うことで、同様に信号電子のカウントを行うことができる。
【0081】
この動作例では、蓄積期間の間、N型半導体領域8の界面近傍が空乏化しているため、N型半導体領域8から比較的大きな暗電流が生じ得る。しかしながら、MOSダイオード等が用いられる容量9は、PN接合等と比べて大きな容量値にすることができるため、本動作例では、飽和信号量を大きくすることができる。
【0082】
したがって、飽和信号量を大きくする必要があり、かつ暗電流の影響を受けにくい条件下では、N型半導体領域8を電荷蓄積部として機能させる動作が有効である場合がある。暗電流の影響を受けにくい条件の例としては、温度が低いため暗電流の発生量が少ない場合、蓄積期間が十分に短い場合等が挙げられる。
【0083】
[第2実施形態]
本実施形態の光電変換装置1010は、入射光に基づいて信号電子を蓄積するN型半導体領域1と、信号電子を一時的に保持するN型半導体領域8とが1つのAPD2に対して4対設けられている構造を有している。本実施形態の説明において、第1実施形態と共通する部分については説明を省略又は簡略化する場合がある。
【0084】
図9は、本実施形態に係る光電変換素子101の平面模式図であり、図10及び図11は、本実施形態に係る光電変換素子101の断面模式図である。図10は、図9のB-B’線における断面を示している。図11は、図9のC-C’線における断面を示している。図9乃至図11を相互に参照しつつ光電変換素子101の構造を説明する。
【0085】
光電変換素子101は、平面視において中心付近に第1実施形態と同様の構成のAPD2を1つ有している。また、光電変換素子101は、平面視において左上、左下、右上、右下の4箇所に第1実施形態と同様の構成のPD13とN型半導体領域8により構成される電荷保持部とを4対有している。光電変換素子101は、平面視において十字形をなしているP型半導体領域25を有する。P型半導体領域25は、4対のPD13及び電荷保持部を分離する分離領域として機能する。これにより、4対のPD13及び電荷保持部の間で信号電子が移動することを防止できる。
【0086】
電荷保持部の電位を制御する4つの電極10a、10b、10c、10dには、別々の電位を与えることができるように構成されている。これにより、4つの電荷保持部は、独立に電荷転送の動作を行うことができる。
【0087】
図10及び図11に示されているように、P型半導体領域25は、P型半導体領域3との間にN型半導体領域1の一部が挟まれるように配されている。言い換えると、P型半導体領域25とP型半導体領域3との間が空いている。この構成により、信号電子がN型半導体領域8からAPD2のN型半導体領域22に転送される際に、P型半導体領域25により転送が阻害されないようにすることができる。またこの構成では、蓄積期間においては、P型半導体領域25により隣接するN型半導体領域1の間にポテンシャルバリアが形成されるため、隣接するN型半導体領域1間は電気的に分離されている。
【0088】
図12は、本実施形態に係る光電変換素子101の等価回路図である。第1実施形態との相違点は、PD13、電荷保持部、電荷の転送経路等を含む信号電荷出力部50a、50b、50c、50dが4組設けられている点である。4つの信号電荷出力部50a、50b、50c、50dは、並列にAPD2に接続されている。図12において、信号電荷出力部50b、50c、50dの構造は、信号電荷出力部50aと同様であるため、図示が省略されている。
【0089】
図13は、本実施形態に係る画素信号処理部102のブロック図である。図13においては、図3に示したブロック図の構成のうち、光電変換素子101、インバータ回路203及びカウンタ回路204以外の要素の図示が省略されている。カウンタ回路204は、1つのカウンタ210及び4つのメモリユニット220a、220b、220c、220dを含む。メモリユニット220aは、MOSトランジスタ222a及びメモリ223aを有する。図13において、メモリユニット220b、220c、220dの構造は、メモリユニット220aと同様であるため、図示が省略されている。
【0090】
インバータ回路203の出力端子は、カウンタ210の入力端子に接続されている。カウンタ210の出力端子は、メモリユニット220a、220b、220c、220dの入力端子に接続されている。MOSトランジスタ222aのソースは、カウンタ210の出力端子に接続されている。MOSトランジスタ222aのドレインは、メモリ223aの入力端子に接続されている。MOSトランジスタ222aのゲートには端子221aから制御電圧が入力される。メモリユニット220b、220c、220dの構造及び接続関係の説明は、メモリユニット220aと同様であるため省略する。このように、本実施形態においては、カウンタ210の出力端子がスイッチとして機能するMOSトランジスタを介して4つのメモリに接続されている。
【0091】
信号電荷出力部50aから出力された信号電子の個数をカウンタ210がカウントすると、MOSトランジスタ222aがオンに制御されることにより、そのカウント値は、メモリ223aに記憶される。このようにして、メモリユニット220aは、信号電荷出力部50aからの信号電子の個数を記憶する。同様に、メモリユニット220b、220c、220dは、信号電荷出力部50b、50b、50dからの信号電子の個数をそれぞれ記憶する。このように、4つの信号電荷出力部50a、50b、50c、50dと、4つのメモリユニット220a、220b、220c、220dとが一対一に対応している。
【0092】
このように、本実施形態では、APD2、インバータ回路203及びカウンタ210は、4つの信号電荷出力部50a、50b、50c、50d及び4つのメモリユニット220a、220b、220c、220dに共用されている。
【0093】
高電界が印加されるAPDにはある程度の面積が必要であるため、一般的に、APDの素子面積を縮小することは難しい。そのため、APDを用いた光電変換装置の小型化が難しいことが課題となる場合があった。本実施形態では、4つの信号電荷出力部50a、50b、50c、50dが1つのAPD2を共用する構造を有しているため、信号電荷出力部50a、50b、50c、50dの個数に対するAPD2の配置数を少なくすることができる。したがって、APD2の配置に要する素子面積が低減される。
【0094】
また、一般的にBit数が同一であればカウンタの回路規模は、メモリ回路に比べてかなり大きい場合が多い。本実施形態では、4つの信号電荷出力部50a、50b、50c、50dと、4つのメモリユニット220a、220b、220c、220dとが1つのカウンタ210を共用する構造を有している。そのため、信号電荷出力部50a、50b、50c、50d及びメモリユニット220a、220b、220c、220dの個数に対するカウンタ210の配置数を少なくすることができる。つまり本実施形態においては1つの信号電荷出力部につき1つのメモリユニットと1/4のカウンタとが割り当てられるが、1つの信号電荷出力部に1つのカウンタが割り当てられる構成に比べて、回路規模を低減しやすい。
【0095】
また、本実施形態では、抵抗5と、インバータ回路203も4つの信号電荷出力部50a、50b、50c、50d及び4つのメモリユニット220a、220b、220c、220dに共用されており、同様に素子面積を低減する効果が得られる。
【0096】
以上の少なくとも1つの理由により、本実施形態によれば、第1実施形態で述べた効果に加えて、光電変換装置1010の小型化が実現される。
【0097】
なお、本実施形態の説明では、信号電荷出力部50a、50b、50c、50d及びメモリユニット220a、220b、220c、220dの個数は4個ずつであるが、これは一例であり、複数個であれば同様の効果が得られる。
【0098】
[第3実施形態]
本実施形態の光電変換装置1010は、APD2がアヴァランシェ増倍を行わない不活性状態のままで信号電子を転送し、信号電子に基づく信号をAD変換することができる機能を有する。本実施形態の説明において、第1実施形態と共通する部分については説明を省略又は簡略化する場合がある。
【0099】
図14は、第3実施形態に係る光電変換装置1010の構成を示す図である。光電変換装置1010は、第1実施形態の図2及び図3と同様に、光電変換素子101及び画素信号処理部102を有している。光電変換素子101における第1実施形態との相違点は、図2の抵抗5がP型のMOSトランジスタ30に置き換えられている点である。MOSトランジスタ30のソースは端子6に接続されている。MOSトランジスタ30のドレインはN型半導体領域4に接続されている。MOSトランジスタ30のゲートには端子31から制御信号が入力される。
【0100】
画素信号処理部102における第1実施形態との相違点は、図3のインバータ回路203が比較器231に置き換えられている点と、ANDゲート233、デジタルメモリ235及びスイッチ群236が追加されている点である。これにより、画素信号処理部102は、AD変換部として機能する。
【0101】
比較器231の反転入力端子は、N型半導体領域4に接続されている。比較器231の非反転入力端子には、端子232から比較信号が入力される。比較信号は例えば時間に応じて電圧が変化するランプ信号である。比較器231の出力端子は、カウンタ回路204及びANDゲート233の第1入力端子に接続されている。ANDゲート233の第2入力端子には、端子234から制御信号が入力される。ANDゲート233の出力信号のレベルは、第1入力端子の入力信号のレベルと第2入力端子の入力信号のレベルの論理積である。
【0102】
スイッチ群236は、複数のN型のMOSトランジスタを含む。図14では、スイッチ群236に含まれるMOSトランジスタの個数は4個であるがこれに限定されるものではなく、典型的にはこれよりも多くのMOSトランジスタを含み得る。ANDゲート233の出力端子は、複数のMOSトランジスタの各々のゲートに接続されている。複数のMOSトランジスタのソースは、端子237、238、239、240に接続されている。複数のMOSトランジスタのドレインは、デジタルメモリ235に接続されている。デジタルメモリ235は、MOSトランジスタが接続されているノードの電位のレベルを記憶する。図14では、デジタルメモリ235は4ビットのデジタルデータを記憶するように構成されているが、ビット数はこれに限定されるものではなく、典型的にはこれよりも多くのビット数を記憶可能であり得る。
【0103】
図15は、第3実施形態に係る光電変換装置1010の動作を示すタイミング図である。図15は、第1実施形態で述べた蓄積期間の後に行われるAD変換の動作を示している。すなわち、図15の処理の前にN型半導体領域1には信号電子が既に蓄積されているものとする。図14及び図15を参照しつつ光電変換装置1010のAD変換の動作を説明する。
【0104】
時刻T1において、端子31の電位がVDDから0Vに変化する。これにより、MOSトランジスタ30がオンになり、N型半導体領域4の電位が端子6の電位に応じた電位にリセットされる。リセット時のN型半導体領域4の電位は、例えば3Vである。時刻T2において、端子31の電位がVDDに戻り、リセットが解除される。
【0105】
時刻T3において、端子16の電位がV1からV5に変化する。これにより、P型半導体領域3の電位が低下して、N型半導体領域1からN型半導体領域4に信号電子が転送される。V5は、例えば-15Vである。このとき、APD2の逆バイアス電圧は18Vであり、APD2のアヴァランシェ増倍が起こる25Vよりも低い。したがって、このときのAPD2は不活性状態のままである。このときの端子11の電位は例えば-20Vであり、N型半導体領域8の大部分は、ホールが蓄積されており電子を受け入れられない状態となっている。したがって、信号電子は、N型半導体領域8には移動せず、N型半導体領域4に転送される。時刻T4において、端子16の電位がV1に戻り、転送が終了する。
【0106】
この転送においては、N型半導体領域1に蓄積された信号電子のすべてがN型半導体領域4に転送されるわけではない。N型半導体領域1に多数の信号電子が蓄積されている場合に、ある個数を超える分の信号電子がN型半導体領域4に転送される。これは、V5が例えば-15Vである場合に、N型半導体領域1とN型半導体領域4の間のポテンシャルバリアは完全には下がりきらず、一部の信号電子はN型半導体領域1に残留するためである。なお、上述のある個数とは、例えば200個程度である。
【0107】
時刻T5において、端子234の電位が0VからVDDに変化する。これにより、ANDゲート233の出力信号のレベルは、比較器231の出力信号のレベルと一致する。
【0108】
時刻T6において、端子232の電位がVDDから0Vに向かって徐々に変化する。また、時刻T6以降、端子237、238、239、240の電位は、時間経過に応じて増加する二進数を示すようにハイレベルとローレベルを繰り返す。すなわち、端子237、238、239、240の電圧レベルは、経過時間を示す二進数の1桁目(最下位ビット)、2桁目、3桁目、4桁目のビット値にそれぞれ対応する。
【0109】
時刻T6の直後において、比較器231の非反転入力端子の電位はVDDであり、比較器231の反転入力端子の電位はVDDよりも低い電位である。したがって、比較器231の出力はハイレベルであり、ANDゲート233の出力もハイレベルである。これにより、スイッチ群236に含まれるMOSトランジスタはいずれもオン状態になっているため、端子237、238、239、240の電位がデジタルメモリ235に書き込まれている。
【0110】
その後、時刻T7において、比較器231の非反転入力端子の電位が比較器231の反転入力端子の電位よりも低くなるものとする。このとき、比較器231の出力がローレベルになり、ANDゲート233の出力もローレベルになる。これにより、スイッチ群236に含まれるMOSトランジスタがいずれもオフになり、その時点の端子237、238、239、240の電位がデジタルメモリ235に記憶される。図15の例では、このときにデジタルメモリ235に記憶されるデジタル値は、二進数では1011であり、十進数では11である。この値がN型半導体領域1からN型半導体領域4に転送された信号電子の量を示している。この値は信号電子の量をAD変換して得られたデジタル値であるため、電子の絶対数を示すものではない。デジタル値の最小ビットが電子数何個分に相当するかは、N型半導体領域4の容量、端子232の電位の傾き等に依存して変わり得る。以下の説明において、上述のAD変換により得られたデジタル値に1ビット当たりの電子数を掛けて信号電子数相当に変換した信号をS2(第2のデジタル値)と呼ぶ。
【0111】
なお、より正確には、N型半導体領域4のリセット電位が3Vであり、端子232の初期電圧が3.3Vであるため、0.3Vのオフセットが存在する。0.3のオフセットが十進数で3に相当するものとすると、図15の例における信号電子に起因する正味の値は11から3を減算した8(二進法表記では1000)となる。
【0112】
図15のAD変換処理の後、第1実施形態の第1転送期間及び第2転送期間と同様の手法により、APD2を活性状態にした状態でN型半導体領域1に残留している信号電子の読み出しを行う。この読み出しの期間においては、MOSトランジスタ30のオン抵抗が抵抗5として機能するように、端子31の電位を一定の電位とする。また、端子232の電位をVDD/2程度に設定し、比較器231をインバータ回路203として機能させる。以下の説明において、AD変換後のアヴァランシェ動作による電子数カウントにより得られた信号をS1(第1のデジタル値)と呼ぶ。S1はカウントされた電子数そのものである。
【0113】
これにより、本実施形態の光電変換装置1010は、2つの信号S1、S2を出力可能である。これらを合計した(S1+S2)がN型半導体領域1に蓄積された信号電子数を示す値となる。
【0114】
本実施形態の光電変換装置1010は、N型半導体領域1に蓄積された信号電子の量が多い場合に、第1実施形態のようにすべての信号電子を1電子ずつ読み出す手法と比べて高速に読み出しを完了することができる。したがって、フレームレートを高くすることができる。更に、読み出しの時間が短くなることにより、APD2が活性状態である時間が短くなるため、暗電流の影響を受ける時間を短くすることができる。また、本実施形態の電荷転送及びAD変換の手法は、1電子ずつ読み出す手法と比べて低消費電力であるため、消費電力を低減することができる。したがって、本実施形態によれば、第1実施形態で述べた効果に加えて、上述の少なくとも1つの効果が得られる。
【0115】
なお、S1がある閾値よりも小さい場合には、2つの信号S1、S2を加算せず、S1をN型半導体領域1に蓄積された信号電子の量として出力してもよい。これにより得られる効果を説明する。
【0116】
S1に含まれるノイズをN1、S2に含まれるノイズをN2とする。このとき、暗時のノイズ量で比較すると、N1<N2の関係がある。具体的にはN2は通常のCMOSセンサにおける暗時のノイズ程度であり、通常は数電子相当程度であるのに対し、N1はゼロに近い。したがって、S2がゼロに近いならば、信号を(S1+S2)とするよりS1としたほうが高いSN比が得られる。また、信号電子数が少ない場合には、本実施形態の時刻T3の転送の際にほとんど電荷が転送されない。例えば、信号電子数が63個以下であるような場合には、信号電子のエネルギーの分布により平均よりも高いエネルギーを有する信号電子が存在することを考慮しても、ポテンシャルバリアを超える信号電子がほとんどない状態となる。このような場合にはS1が64個以上であれば(S1+S2)を全信号電子の量として出力し、S1が64個未満であればS1を全信号電子の量として出力するというアルゴリズムとしても信号電子の数え落としが生じない。また、このアルゴリズムでは、常にS1とS2を合計する場合と比べて、S1が64個未満である場合のSN比が向上する。
【0117】
補足すると、信号電子数が多くなるほど暗時ノイズに比べて光ショットノイズが支配的となる。通常、信号電子数が64個以上では光ショットノイズが支配的である。よって、信号電子数が多く本実施形態で(S1+S2)を信号とする場合と、第1実施形態のように信号電子数をすべてアヴァランシェ増倍によるカウントで得る場合とでは、SN比はほとんど変わらない。信号電子数が64個未満では第1実施形態と同じSN比であるから、結局信号電子数が多くても少なくても第1実施形態とほとんど同じSN比が得られる。
【0118】
図14及び図15の説明において、デジタルメモリ235は1つの信号S2のみを記憶するものとしているが、リセット状態の信号を更に記憶できる構成であってもよい。時刻T1におけるリセットの後に、リセット時のN型半導体領域4の電位に基づくデジタル値を取得するAD変換を行うことで、リセットノイズのレベルを示す信号を取得することができる。S2からこのリセット時の信号を減算することにより、S2からリセットノイズの影響を除去することができ、更に精度が向上する効果が得られる。
【0119】
[第4実施形態]
本実施形態は、第1実施形態で述べた光電変換素子101の構造の変形例である。本実施形態の説明において、第1実施形態と共通する部分については説明を省略又は簡略化する場合がある。
【0120】
図16は、本実施形態に係る光電変換素子101の断面模式図である。光電変換素子101は、第1実施形態のP型半導体領域3に代えてP型半導体領域45(第5半導体領域)を有しており、第1実施形態の電極10に代えて電極43を有している。また、光電変換素子101は、N型半導体領域41、44及びP型半導体領域42、45を有している。
【0121】
N型半導体領域44(第4半導体領域)は、P型半導体領域18の上方かつP型半導体領域12(第3半導体領域)の下方に配されている。P型半導体領域45は、N型半導体領域44とN型半導体領域22の間を分離し、かつN型半導体領域44とN型半導体領域1の間を分離するように配されている。N型半導体領域4はAPD2のカソードであり、P型半導体領域45は、APD2のアノードである。本実施形態では、APD2を構成する接合の界面が縦方向であるが、第1実施形態と同様に横方向であってもよい。
【0122】
図16に破線で示されている転送経路24は、電荷保持部として機能するN型半導体領域8からAPD2に信号電荷が転送される経路である。すなわち、P型半導体領域12、N型半導体領域44、P型半導体領域45及びN型半導体領域22は、転送経路24上に配されている。また、N型半導体領域1の大部分は転送経路24の外側に配されている。
【0123】
N型半導体領域1(第6半導体領域)の上方にはN型半導体領域41が配されており、N型半導体領域41の上方には高濃度のP型半導体領域42が配されている。N型半導体領域41及びP型半導体領域42は埋め込みPDをなしている。N型半導体領域41とP型半導体領域42の間のPN接合は大きな容量を有するため、N型半導体領域1で生成された信号電子の多くはN型半導体領域41に蓄積される。
【0124】
電極43は、N型半導体領域8(第1半導体領域)の上方及び埋め込みPDとN型半導体領域8の間隙の上方に延在するように配されている。電極43は、N型半導体領域41に蓄積された電荷をN型半導体領域8に転送する転送ゲートである。また、電極43は、第1実施形態の電極10と同様の機能をも有する。N型半導体領域8とN型半導体領域44の間のポテンシャルバリアは、N型半導体領域1とN型半導体領域8の間のポテンシャルバリアよりも低い。
【0125】
本実施形態においては、第1実施形態とは異なり、入射光を光電変換し、信号電荷を蓄積するN型半導体領域1、41が転送経路24の外側に配されている。これにより、N型半導体領域1、41を入射面(図16の下面)から深い位置にまで配置することができ、感度領域を広げることができる。これにより、感度が向上する。入射光をN型半導体領域1、41に導くマイクロレンズを入射面側に設けてもよく、その場合、更に感度が向上する。また、本実施形態の構造では、埋め込みPDを設けることができるため、飽和電子数を多くすることができる。したがって、本実施形態によれば、第1実施形態で述べた効果に加えて、上述の少なくとも1つの効果が得られる。
【0126】
なお、本実施形態の構造においては平面視における面積が増大するため、小型化が重視される製品においては第1実施形態のように転送経路24の中にN型半導体領域1が含まれている構造の方が有効である場合もある。
【0127】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態による光電変換システムについて、図17を用いて説明する。図17は、本実施形態に係る光電変換システムの構成例を示すブロック図である。
【0128】
本実施形態では、図17を参照しつつ、第1乃至第4実施形態の光電変換装置1010を用いた光電変換システムの他の一例を説明する。図1乃至図16と同様の機能を有する部分には同様の符号を付し、説明を省略又は簡略化する。
【0129】
まず、図17を参照して、光電変換システムの一例である距離検出システムについて説明する。なお、本実施形態の画素100は、図3のカウンタ回路204に代えてTDC209及びメモリ250を有する。
【0130】
図17は、距離検出システムのブロック図である。距離検出システムは、光源制御部1301、発光部1302、光学部材1303、光電変換装置1010及び距離算出部1309を有している。
【0131】
光源制御部1301は、発光部1302の駆動を制御する。発光部1302は、光源制御部1301からの信号に応じて、撮影方向に対して短パルス(列)の光を照射する発光装置である。
【0132】
発光部1302から照射された光は、被写体1304において反射される。反射光は、レンズなどの光学部材1303を通して、光電変換装置1010の光電変換素子101で受光される。光電変換素子101は、入射光に基づく信号を出力し、当該信号は、インバータ回路203を介してTDC209に入力される。
【0133】
TDC209は、光源制御部1301から発光部1302からの光照射のタイミングを示す信号を取得する。TDC209は、光源制御部1301から取得した信号と、インバータ回路203から入力された信号とを比較する。これにより、TDC209は、発光部1302がパルス光を発光してから被写体1304で反射された反射光を受光するまでの時間をデジタル信号として出力する。TDC209から出力されたデジタル信号は、メモリ250に保持される。この処理は複数回繰り返し行われ、メモリ250が複数回分のデジタル信号を保持することができる。
【0134】
距離算出部1309は、メモリ250に保持された複数のデジタル信号に基づいて、光電変換装置1010から被写体1304までの距離を算出する。この距離検出システムは例えば、車載用の距離検出装置に適用することができる。なお、距離算出部1309で行われる処理はデジタル信号の処理であることから、距離算出部1309は、より一般的に信号処理手段、信号処理回路等と呼ばれることもある。
【0135】
[第6実施形態]
本発明の第6実施形態による撮像システム及び移動体について、図18を用いて説明する。図18(A)及び図18(B)は、本実施形態による光電変換システム1000及び移動体の構成を示す図である。
【0136】
図15(A)は、車載カメラに関する光電変換システム1000の一例を示したブロック図である。光電変換システム1000は、第1乃至第4実施形態に係る光電変換装置1010を有する。光電変換システム1000は、光電変換装置1010により取得された複数のデジタル信号に対し、画像処理を行う画像処理部1030を有する。更に、光電変換システム1000は、画像処理部1030により取得された複数の画像データから視差(視差画像の位相差)の算出を行う視差算出部1040を有する。
【0137】
また、光電変換システム1000は、算出された視差に基づいて対象物までの距離を算出する距離計測部1050と、算出された距離に基づいて衝突可能性があるか否かを判定する衝突判定部1060と、を有する。ここで、視差算出部1040及び距離計測部1050は、対象物までの距離情報を取得する距離情報取得手段(あるいは距離情報取得回路)の一例である。すなわち、距離情報とは、視差、デフォーカス量、対象物までの距離等に関する情報である。
【0138】
衝突判定部1060はこれらの距離情報のいずれかを用いて、衝突可能性を判定してもよい。距離情報取得手段は、専用に設計されたハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアモジュールによって実現されてもよいし、これらの組合せによって実現されてもよい。また、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって実現されてもよい。更に、これらの組合せによって実現されてもよい。
【0139】
光電変換システム1000は車両情報取得装置1310と接続されており、車速、ヨーレート、舵角などの車両情報を取得することができる。また、光電変換システム1000は、衝突判定部1060での判定結果に基づいて、車両に対して制動力を発生させる制御信号を出力する制御手段(制御回路)である制御ECU1410と接続されている。
【0140】
また、光電変換システム1000は、衝突判定部1060での判定結果に基づいて、ドライバーへ警報を発する警報装置1420とも接続されている。例えば、衝突判定部1060の判定結果として衝突可能性が高い場合、制御ECU1410はブレーキをかける、アクセルを戻す、エンジン出力を抑制するなどして衝突を回避、被害を軽減する車両制御を行う。警報装置1420は、音等の警報を鳴らす、カーナビゲーションシステムなどの画面に警報情報を表示する、シートベルトやステアリングに振動を与えるなどしてユーザに警告を行う。
【0141】
本実施形態では、車両の周囲、例えば前方又は後方を光電変換システム1000で撮像する。図18(B)に、車両前方(撮像範囲1510)を撮像する場合の光電変換システム1000を示す。車両情報取得装置1310は、所定の動作を行うように光電変換システム1000又は光電変換装置1010に指示を送る。このような構成により、測距の精度をより向上させることができる。車両は更に距離情報に基づいて移動体である車両を制御する制御手段を備え得る。
【0142】
上述の例では他の車両と衝突しない制御を説明したが、光電変換システム1000は、他の車両に追従して自動運転する制御や、車線からはみ出さないように自動運転する制御などにも適用可能である。更に、光電変換システム1000は、車両に限らず、例えば、船舶、航空機あるいは産業用ロボットなどの移動体(移動装置)に適用することができる。加えて、移動体に限らず、高度道路交通システム(ITS)等、広く物体認識を利用する機器に適用することができる。
【0143】
本実施形態によれば、検出性能が向上された光電変換装置1010を用いることにより、より高性能な光電変換システム及び移動体を提供することができる。
【0144】
[変形実施形態]
本発明は、上述の実施形態に限らず種々の変形が可能である。例えば、いずれかの実施形態の一部の構成を他の実施形態に追加した例や、他の実施形態の一部の構成と置換した例も、本発明の実施形態である。
【0145】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0146】
なお、上述の実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0147】
1、8 N型半導体領域
2 アヴァランシェフォトダイオード(APD)
3、12 P型半導体領域
24 転送経路
1010 光電変換装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18