(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】一液型水性エアゾール組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 25/06 20060101AFI20240522BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20240522BHJP
A01N 65/12 20090101ALI20240522BHJP
A01N 53/10 20060101ALI20240522BHJP
A01M 7/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
A01N25/06
A01P7/04
A01N65/12
A01N53/10 210
A01M7/00 S
(21)【出願番号】P 2020029786
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019038229
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】山城 敬範
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋子
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-040704(JP,A)
【文献】特開昭54-023123(JP,A)
【文献】特開昭50-117917(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103141526(CN,A)
【文献】特開平06-329510(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01256417(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/06
A01P 7/04
A01N 65/12
A01N 53/10
A01M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)除虫菊エキス、(b)界面活性剤、(c)炭素数が8~16個の脂肪族炭化水素、及び(d)水を含有するエアゾール原液と、(e)噴射剤としてのLPG(液化石油ガス)とを含有する一液型水性エアゾール組成物であって、
前記(a)除虫菊エキスは、ピレトリンI及びII、シネリンI及びII、並びにジャスモリンI及びIIの6種類の(h)天然ピレトリン類を含み、
前記(b)界面活性剤は、(f)ポリエチレングリコールアルキルエステル類と(g)ソルビタン脂肪酸エステル類を含有し、その配合重量比[(f)/(g)]は0.5 ≦ [(f)/(g)] ≦ 2.5 であり、
前記(b)界面活性剤は、さらにポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類を含有し、
前記(d)水の当該エアゾール原液全体量に対する配合量は15~53質量%(w/v)であり、
かつ、前記(e)噴射剤の当該一液型水性エアゾール組成物全体量に対する配合量は40~70容量%(v/v)である一液型水性エアゾール組成物。
【請求項2】
前記(a)除虫菊エキスに含まれる
前記(h)天然ピレトリン類と、前記(b)界面活性剤との配合重量比[(h)/(b)]は、0.005 ≦ [(h)/(b)] ≦ 0.34である請求項1に記載の一液型水性エアゾール組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除虫菊エキスを含有する一液型水性エアゾール組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、製剤の引火性の問題を解決し、また環境問題の配慮、さらに使用感の向上を目的に水を配合した散布用水性殺虫剤や水性エアゾールに関して多数の提案がなされている。しかしながら、一般にその製剤化にあたっては、殺虫成分の疎水性を考慮し、均一な乳化安定性を得るためにアルコール等の水性有機溶剤を使用することが多かった。そして、これらの製剤は、水を含まない油性エアゾールに比べ、対象害虫の種類によっては殺虫効力面で劣る傾向があった。その理由は殺虫成分の害虫皮膚表面からの浸透性によるものと考えられる。
【0003】
先行文献1においては、(a)殺虫成分、(b)界面活性剤、(c)炭素数が8~16個の脂肪族炭化水素、及び(d)水を含有するエアゾール原液と、(e)噴射剤とからなり、(c)炭素数が8~16個の脂肪族炭化水素、及び(d)水の配合比を特定した有用なエアゾール組成物を開示している。これらを含め、従来の害虫防除用水性エアゾールの大部分は、油中水滴型もしくは水中油滴型のエマルジョン製剤である。このため、エアゾール容器内で液相部分が分離して二液型となっており、使用する前に容器を振とうして液相部分を均一に分散させる必要があった。
【0004】
この点を改良した一液型の水性エアゾールとして、例えば先行文献2や先行文献3が提案されている。いずれも、噴射剤としてジメチルエーテルを使用し、後者においては更に低級アルコールなどの有機溶剤が必要とされ、水性エアゾールとしての性能評価は満足のいくものではなかった。
【0005】
この点を改良した一液型の水性エアゾールとして、例えば先行文献4においては、(a)殺虫成分、(b)ソルビタン脂肪酸エステル類及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類を配合してなる界面活性剤、(c)炭素数が8~16個の脂肪族炭化水素、及び(d) 水を含有するエアゾール原液と、(e) 噴射剤としてのLPG(液化石油ガス)からなる一液型水性エアゾール組成物であって、該エアゾール原液中に、(b)界面活性剤がエアゾール原液量に対して5~20容量%、(c) 炭素数が8~16個の脂肪族炭化水素が40~78容量%、及び(d)水が15~53容量%含有され、かつ、(b)界面活性剤において、ソルビタン脂肪酸エステル類とポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類の配合比が1:1~5:1であることを特徴とする一液型水性エアゾール組成物を開示している。
【0006】
ところで近年、消費者による天然志向が高まり、天然成分を有効成分として含有する殺虫剤に対するニーズが高まっている。水性エアゾールにおいても有効成分にキク科植物である除虫菊から得られる除虫菊エキス等の天然成分を含有する製品が求められている。一般に、除虫菊エキスは6種類の化合物の混合物である天然ピレトリン類を含有し、さらに植物由来の不純物を含むため、一液型水性エアゾールの製剤化により適した界面活性剤を配合することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-89303号公報
【文献】特公昭61-45601号公報
【文献】特公平7-121848号公報
【文献】特開2003-40704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性に優れ、一液型水性エアゾール組成物の安定性にも優れ、さらに殺虫効力面にも優れた一液型水性エアゾール組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、除虫菊エキスと特定の界面活性剤と脂肪族炭化水素及び水を含有するエアゾール原液、更に噴射剤の特定量を組み合わせた組成物を調製することによって目的を達成できることの知見を得て、本発明を完成した。
【0010】
すなわち請求項1の発明は、(a)除虫菊エキス、(b)界面活性剤、(c)炭素数が8~16個の脂肪族炭化水素、及び(d)水を含有するエアゾール原液と、(e)噴射剤としてのLPG(液化石油ガス)とを含有する一液型水性エアゾール組成物であって、
前記(b)界面活性剤は、(f)ポリエチレングリコールアルキルエステル類と(g)ソルビタン脂肪酸エステル類を含有し、その配合重量比[(f)/(g)]は0.5≦[(f)/(g)]≦2.5であり、
前記(d)水の当該エアゾール原液全体量に対する配合量は15~53質量%(w/v)であり、
かつ、前記(e)噴射剤の当該一液型水性エアゾール組成物全体量に対する配合量は40~70容量%(v/v)である一液型水性エアゾール組成物に係るものである。
【0011】
本発明で用いる除虫菊エキスはピレトリンI、II、シネリンI、II、ジャスモリンI、IIの6種類の天然ピレトリン類 、植物由来の不純物、及び溶剤を含んでいる。天然ピレトリン類の濃度が10%~80%の除虫菊エキスを用いるのが適当であり、天然ピレトリン類の濃度が20~60%の除虫菊エキスを用いるのがより好ましい。除虫菊エキスの配合量は、エアゾール原液中の天然ピレトリン類の含有量として0.01~5.0質量 %(w/v)程度が適当であり、0.01質量%(w/v)未満であると所望の殺虫効果が得られない。一方、5.0質量%(w/v)を超えると除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性に問題を生じる場合がある。除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性や殺虫効力の観点から0.20~3.0質量 %(w/v)程度がより好ましい。なお、除虫菊エキスの産地、精製法や各成分の組成比は限定されない。
【0012】
本発明は、(b)ポリエチレングリコールアルキルエステル類及びソルビタン脂肪酸エステル類を配合してなる界面活性剤を使用し、更に、(f)ポリエチレングリコールアルキルエステル類と(g)ソルビタン脂肪酸エステル類の配合重量比[(f)/(g)]を0.5≦[(f)/(g)]≦2.5としたことに特徴を有する。ポリエチレングリコールアルキルエステル類としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコールラウレート、ポリエチレングリコールオレエート、ポリエチレングリコールステアレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールモノステアレートなどが例示できる。一方、ソルビタン脂肪酸エステル類としては、特に限定されないが、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノステアレートなどが挙げられる。ポリエチレングリコールアルキルエステル類とソルビタン脂肪酸エステル類の配合重量比[(f)/(g)]が0.5≦[(f)/(g)]≦2.5の範囲を外れると、除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性が低下し、また、エアゾールにした時にエマルジョンが形成されないか、もしくは形成されてもエマルジョンの安定性が悪くなり、好ましくない。除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性やエマルジョンの安定性の観点から1.0≦[(f)/(g)]≦2.0がより好ましい。
【0013】
本発明では、除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性やエマルジョンの安定性の点から、上記配合の界面活性剤中に更にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類を配合するのが好ましい。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテルなどがあげられるが、これらに限定されない。また、除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性やエマルジョンの安定性に支障をきたさない限りにおいて、他のタイプの界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の脂肪酸エステル、ジグリセリルアルキルエステルなどを加えてもよい。さらに、界面活性剤は、本発明エアゾール原液中にトータルとして5~20質量%(w/v)配合されるのが適当である。5質量%(w/v)未満であると十分なエマルジョンが得られず、一方20質量%(w/v)を超えるとべた付きなどの使用感に影響を及ぼし、水性エアゾールのメリットが得られないので好ましくない。
【0014】
本発明では、(c) 炭素数が8~16個の脂肪族炭化水素の、エアゾール原液全体量に対する配合量は40~78容量%(v/v)である。40容量%(v/v)未満であると害虫に対する皮膚浸透性が悪いため殺虫効力が低く、一方、78容量%(v/v)を超えると引火性の問題が解消されないので好ましくない。脂肪族炭化水素としては、n-パラフィン又はイソパラフィンがあげられるが、効力の点においてn-パラフィンが好ましい。なお、本発明の特性を損なわない範囲において、他の種類の有機溶剤を使用してもよい。
【0015】
また本発明では、所望の作用・効果を得るために、エアゾール原液中の(d)水の配合量は15~53質量%(w/v)に設定される。15質量%(w/v)未満であるとエアゾール原液における引火性の問題が解消されず、一方、53質量%(w/v)を超えると殺虫効力の改善が難しい。
【0016】
(e) 噴射剤としては、LPG(液化石油ガス)が使用されるが、エマルジョンの生成が可能な範囲内で、DME(ジメチルエーテル)、フロンガス、ハイドロフルオロオレフィン、圧縮ガス(窒素ガス、炭酸ガス等)などを混合することは差支えない。また、噴射剤の配合量としては、一液型水性エアゾール組成物全体量に対して40~70容量%(v/v)の範囲に抑えるのが好ましい。40容量%(v/v)未満では、噴霧粒子が粗くなって殺虫効力に問題が生じるし、一方、70容量%(v/v)を超えると火気に対する安全性の点で好ましくない。なお、噴射剤の配合量を減らしたり、圧縮ガスを使用した場合、噴射圧の低下を招くことがあるので、その対策として例えば、プロパン/ブタン中のプロパン比率を高めたLPG(液化石油ガス)を使用することは有用である。
【0017】
また、本発明の一液型水性エアゾール組成物には、除虫菊エキスの溶解性やエマルジョンの安定性に影響を及ぼさない範囲で他の殺虫成分や忌避成分を配合することも可能である。例えば、殺虫成分としてフェノトリン、ぺルメトリン、シフェノトリン、シペルメトリン、レスメトリン、フタルスリン、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン、イミプロトリン、エトフェンプロックス、ビフェントリン、エンペントリン、メトフルトリン、トランスフルトリン、プロフルトリン、モンフルオロトリン等のピレスロイド系殺虫成分、シラフルオフェン等のケイ素系殺虫成分、ジノテフラン、アセタミプリド等のネオニコチノイド系殺虫成分、ジクロルボス、フェニトロチオン、ダイアジノン等の有機リン系殺虫成分があげられる。また、忌避成分としてN,N-ジエチル-m-トルアミド、リモネン、リナロール、シトロネラール、メントール、酢酸メンチル、メントン、ヒノキチオール、ゲラニオール、テルピネオール、p-メンタン-3,8-ジオール、ユーカリプトール、カラン-3,4-ジオール、イカリジン{2-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン-1-カルボン酸1-メチルプロピル}、IR-3535{3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチル}、ハッカ油、レモン油、ラベンダー油、ユーカリ油等が挙げられる。
【0018】
また、本発明の一液型水性エアゾール組成物には、殺虫成分以外に殺ダニ剤、カビ類や細菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤、殺菌剤、芳香剤、消臭剤、安定化剤、帯電防止剤、消泡剤、賦形剤等を適宜配合することもできる。殺ダニ剤としては、5-クロロ-2-トリフルオロメタンスルホンアミド安息香酸メチル、サリチル酸フェニル、安息香酸ベンジル、セバシン酸ジブチル、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート等が挙げられる。防カビ剤、抗菌剤、及び殺菌剤としては、ヒノキチオール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、トリホリン、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、オルト-フェニルフェノール等が挙げられる。芳香剤としては、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α-ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分等が挙げられる。消臭剤としては、各種のものが使用可能であるが、カキノキ科、イネ科、ツバキ科(茶など)、イチョウ科、モクセイ科(シナレンギョウなど)、クワ科(イチジクなど)、ミカン科、キントラノオ科(アセロラなど)の中から選ばれる1種以上の天然の植物由来物質等が挙げられる。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、(a)除虫菊エキスに含まれる(h)天然ピレトリン類と、前記(b)界面活性剤との配合重量比[(h)/(b)]は、0.005≦[(h)/(b)]≦0.34としたものである。
【0020】
(a)除虫菊エキスに含まれる(h)天然ピレトリン類と、前記(b)界面活性剤との配合重量比[(h)/(b)]は0.005≦[(h)/(b)]≦0.34が適当であり、[(h)/(b)]<0.005であると所望の殺虫効果が得られず、0.34<[(h)/(b)]であると除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性やエマルジョンの安定性に問題が生じる場合がある。中でも除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性や殺虫効力の観点から0.005≦[(h)/(b)]≦0.25がより好ましい。
【0021】
請求項3の発明は、請求項1又は2の構成において、(b)界面活性剤に、さらにポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類を含有するものである。
【0022】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類の配合により、除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性やエマルジョンの安定性が向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性に優れ、一液型水性エアゾール組成物の安定性にも優れ、さらに殺虫効力面にも優れた一液型水性エアゾール組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の請求項1乃至3のいずれかの構成によると、エアゾール原液は非引火性であり、更に噴射剤を配合して一液型水性エアゾール組成物となしたので、使用の際に容器を振とうする必要がなく使用に優れる。また、除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性に優れる。さらに一液型水性エアゾール組成物の安定性に優れ、種々の害虫に対して優れた殺虫効力を奏する極めて有用な一液型水性エアゾール組成物が提供される。エアゾール剤を製造するにあたっては、通常、バルブ部分を装填した耐圧容器にまずエアゾール原液を入れた後、噴射剤を加圧充填して製造する。エアゾール剤は、その用途、使用目的、対象害虫等に応じて、適宜バルブ、噴口、ノズル等の形状を選択することができ、種々の実施の形態が可能である。
【0025】
本発明の一液型水性エアゾール組成物が有効な害虫としては、特に限定されないが、例えば、アカイエカ、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のカ類、ユスリカ類、イエバエ、ニクバエ等のハエ類、チョウバエ、ブユ類、アブ類等の双翅目害虫や、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類、ヒアリ、イエヤマアリ等のアリ類、ヤスデ類、ムカデ類、シロアリ類等の匍匐害虫、さらにコナダニ、チリダニ等の屋内塵性ダニ類等があげられ、その実用性は極めて高いものである。
【実施例】
【0026】
つぎに具体的実施例ならびに試験例に基づいて、本発明の一液型水性エアゾール組成物を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1.除虫菊エキス(天然ピレトリン類の濃度:50%)1.80g(エアゾール原液中に除虫菊エキスは1.80質量%(w/v)で、天然ピレトリン類は0.90質量%(w/v))、ソルビタンモノラウレート4.8g(エアゾール原液中、4.8質量%(w/v))、ポリエチレングリコールモノオレエート5.6g(エアゾール原液中5.6質量%(w/v))、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテル2.4g(エアゾール原液中2.4質量%(w/v))に炭素数が11 ~14個のn-パラフィン系脂肪族飽和炭化水素(商品名:デオトミゾール)及び水18g(エアゾール原液中18質量%(w/v))からなるエアゾール原液100mLをエアゾール容器に入れ、該容器にバルブ部分を取付け、該バルブ部分を通じて、LPG(液化石油ガス)150mL(一液型水性エアゾール組成物全体量に対して、60容量%(v/v))を加圧充填して、本発明の一液型水性エアゾール組成物を含むエアゾール剤を得た。
【0028】
本発明で用いたエアゾール原液は、消防法の試験方法に基づく引火点が測定されず、引火性の問題が非常に軽減されたものと考えられた。また、本発明の一液型水性エアゾール組成物は、一液型で使用の際に容器を振とうする必要がなく使用性に優れた。更に、水を配合したエアゾール剤は、水を含まない油性エアゾール剤に比べて低い殺虫効果を示すと言われているが、本発明の一液型水性エアゾール組成物を含むエアゾール剤の効力は、同量の除虫菊エキスを含む油性エアゾール剤とほとんど遜色ないものであった。
【0029】
試験例1.実施例1に準じて表1に示す各種一液型水性エアゾール組成物を調製し、下記に示す試験を行った。
(1)除虫菊エキスの溶解性;除虫菊エキスの各種一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性を目視にて確認した。結果を、○、△、×で示した。
(○:一液、透明、△:一液、半透明、×:一液ではない)
(2)エマルジョンの安定性;各種一液型水性エアゾール組成物を耐圧ガラスびんに入れ、5℃と45℃に保存してエマルジョンの安定性を調べた。結果を、○、△、×で示した。
(○:一液、透明、△:一液、半透明、×:一液ではない)
【0030】
【0031】
試験例2.表1の実施例1、2及び比較例5の一液型水性エアゾール組成物を調製して水性エアゾール剤を得た。また、実施例1と同量の除虫菊エキス(天然ピレトリン類の濃度:50%)1.80g(エアゾール原液中に除虫菊エキスは1.80質量%(w/v)で、天然ピレトリン類は0.90質量%(w/v))を炭素数が11~14個のn-パラフィン系脂肪族飽和炭化水素(商品名:デオトミゾール)に溶解させ、エアゾール原液100mLとする。該エアゾール原液をエアゾール容器に入れ、該容器にバルブ部分を取付け、該バルブ部分を通じて、LPG(液化石油ガス)150mL(エアゾール組成物全体量に対して、60容量%(v/v))を加圧充填して、油性エアゾール剤を調整した。実施例2及び比較例5に関しても同様に油性エアゾール剤を調製した。各種エアゾール剤を用いて下記に示す試験を行った。
(1)殺虫効力試験(ガラスチャンバー法)
60cm 立方(0.216m3) のガラスチャンバーにイエバエ(1群約 25匹の雄雌成虫)を放った後、供試エアゾールを1秒間噴霧し、時間の経過に伴う仰転虫数を記録した。KT50値を求め、油性エアゾール剤の効力を1.0として水性エアゾール剤(実施例1、2及び比較例5)の相対効力を表2に示した。なお、相対殺虫効力は(油性エアゾール剤のKT50値)/(水性エアゾール剤のKT50値)の式により算出した。
【0032】
【0033】
試験例1及び2の結果、本発明の一液型水性エアゾール組成物は除虫菊エキスの溶解性に優れた。また、一液型でエマルジョンの安定性にすぐれ、更に殺虫効力についても対照の油性エアゾール剤と比べて遜色なく実用的であった。なかでも、除虫菊エキスに含まれる(h)天然ピレトリン類と、前記(b)界面活性剤との配合重量比[(h)/(b)]は、0.005≦[(h)/(b)]≦0.25の実施例1~7、9、10および11は除虫菊エキスのエアゾール組成物に対する溶解性及び殺虫効力において特に優れたものであった。これに対し、比較例1や比較例2のように、界面活性剤が(f)ポリエチレングリコールアルキルエステル類と(g)ソルビタン脂肪酸エステル類の組み合わせでないもの、また比較例3や比較例7のように、界面活性剤が両者の組み合わせであってもその配合重量比[(f)/(g)]が0.5≦[(f)/(g)]≦2.5の範囲を外れるものは、除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性が低く、エマルジョンの安定性が不良であった。また噴射剤としてDMEを用いた場合(比較例4)は、エマルジョンの安定性の低下を招いた。さらに、特開2003-40704で好適とされた界面活性剤に除虫菊エキスを加えた処方(比較例2、比較例6)では、除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性において満足のいくものではなかった。これは、特開2003-40704では、殺虫成分として合成ピレスロイド系化合物が使用されたのに対し、本願で用いる天然産の除虫菊エキスは植物由来の不純物を多く含み、界面活性剤の選定に当たっては、従来の技術を適用することは難しく、高度な適合性が求められたためである。また、エアゾール原液中の水の量を多くした処方(比較例5)では殺虫効力が大幅に低下した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、除虫菊エキスの一液型水性エアゾール組成物に対する溶解性に優れ、一液型水性エアゾール組成物の安定性にも優れ、さらに殺虫効力面にも優れた一液型水性エアゾール組成物であり、除虫菊エキスを含有する水性エアゾール剤として好適に用いられる。