IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リンテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ワーク加工用シート 図1
  • 特許-ワーク加工用シート 図2
  • 特許-ワーク加工用シート 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ワーク加工用シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240522BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240522BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20240522BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240522BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20240522BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240522BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/304 622J
C09J7/24
C09J7/38
C09J133/00
B32B27/32 Z
B32B27/00 M
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020052566
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021153097
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】小田 直士
(72)【発明者】
【氏名】山口 征太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 周平
(72)【発明者】
【氏名】小曾根 雄一
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183129(JP,A)
【文献】特開2008-244377(JP,A)
【文献】特開2010-225681(JP,A)
【文献】国際公開第2015/193990(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/304
C09J 7/24
C09J 7/38
C09J 133/00
B32B 27/32
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材における片面側に積層された粘着剤層とを備えるワーク加工用シートであって、
前記基材が、ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物から形成された樹脂層を備え、
前記基材の結晶化度が、35%以上、43.9%以下である
ことを特徴とするワーク加工用シート。
【請求項2】
前記樹脂組成物中における前記ポリオレフィン系樹脂の割合は、30質量%以上、100質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のワーク加工用シート。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、前記ポリオレフィン系樹脂以外の熱可塑性エラストマーを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のワーク加工用シート。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーは、オレフィン系エラストマーであることを特徴とする請求項3に記載のワーク加工用シート。
【請求項5】
前記樹脂組成物中における前記オレフィン系エラストマーの割合は、1質量%以上、50質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載のワーク加工用シート。
【請求項6】
前記基材は、前記樹脂層単層からなることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項7】
前記基材は複数層からなり、そのうちの少なくとも一層が前記樹脂層であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項8】
前記基材の厚さは、25μm以上、300μm以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項9】
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤から構成されることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項10】
ダイシングシートであることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等のワークの加工に使用されるワーク加工用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハや各種パッケージ類は、大径の状態で製造され、チップに切断(ダイシング)され、剥離(ピックアップ)された後に、次の工程であるマウント工程に移される。この際、半導体ウエハ等のワークは、基材および粘着剤層を備える粘着シート(以下、「ワーク加工用シート」という場合がある。)上に積層された状態で、バックグラインド、ダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディング、ピックアップ、マウンティング等の加工が行われる。
【0003】
上述したダイシングの具体的な手法として一般的なフルカットダイシングでは、回転する丸刃(ダイシングブレード)によってワークの切断が行われる。このとき、ワーク加工用シートに積層されたワークが確実に切断されるように、通常、ワークのみならず粘着剤層も切断され、さらに基材の一部も切断される。このとき、粘着剤層および基材を構成する材料からなる切削片がワーク加工用シートから発生し、ワークの切断により得られたチップが切削片によって汚染される場合がある。当該切削片の典型的な形態の一つとしては、ダイシングライン上、またはダイシングにより分離されたチップの断面付近に付着する糸状の切削片がある。
【0004】
上記糸状の切削片がチップに多量に付着したままチップの封止を行うと、チップに付着する糸状の切削片が封止の熱で分解し、この熱分解物がパッケージを破壊したり、得られるデバイスにて動作不良の原因となったりする。この糸状の切削片は洗浄により除去することが困難であるため、糸状の切削片の発生によってダイシング工程の歩留まりは著しく低下する。それゆえ、ワーク加工用シートを用いてダイシングを行う場合には、糸状の切削片の発生を防止することが求められている。
【0005】
上記切削片の発生を抑制することを目的として、特許文献1には、ダイシングシートの基材フィルムとして、電子線またはγ(ガンマ)線が1~80Mrad照射されたポリオレフィン系フィルムを用いる発明が開示されている。当該発明では、電子線またはγ線の照射により基材フィルムを構成する樹脂において共有結合による架橋が形成され、切削片の発生が抑制されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-211234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の発明において、電子線またはγ線といった放射線の照射は、上記のような樹脂を一度フィルム状に成形した後に行われるため、製造工程が一つ増えることとなり、製造コストが一般の基材フィルムに比べ高くなる傾向にある。また、上述した架橋の形成が過度に進行して、基材フィルムが過度に硬くなり、その結果として、ワークの加工に使用した際に基材フィルムが裂け易くなるという問題もある。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、電子線やγ線などの物理的なエネルギーを与えることなく、ワークの加工時に発生する切削片、特に糸状の切削片の発生を抑制することができるワーク加工用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材における片面側に積層された粘着剤層とを備えるワーク加工用シートであって、前記基材が、ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物から形成された樹脂層を備え、前記基材の結晶化度が、35%以上、70%以下であることを特徴とするワーク加工用シートを提供する(発明1)。
【0010】
上記発明(発明1)に係るワーク加工用シートは、ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物から形成された樹脂層を備えるとともに、基材の結晶化度が上記範囲であることにより、電子線やγ線などの物理的なエネルギーを与えることなく、回転する丸刃を用いたダイシングに使用した場合であっても、糸状の切削片の発生を良好に抑制することができる。
【0011】
上記発明(発明1)において、前記樹脂組成物中における前記ポリオレフィン系樹脂の割合は、30質量%以上、100質量%以下であることが好ましい(発明2)。
【0012】
上記発明(発明1,2)において、前記樹脂組成物は、前記ポリオレフィン系樹脂以外の熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい(発明3)。
【0013】
上記発明(発明)において、前記熱可塑性エラストマーは、オレフィン系エラストマーであることが好ましい(発明4)。
【0014】
上記発明(発明4)において、前記樹脂組成物中における前記オレフィン系エラストマーの割合は、1質量%以上、50質量%以下であることが好ましい(発明5)。
【0015】
上記発明(発明1~5)において、前記基材は、前記樹脂層単層からなることが好ましい(発明6)。
【0016】
上記発明(発明1~5)において、前記基材は複数層からなり、そのうちの少なくとも一層が前記樹脂層であることが好ましい(発明7)。
【0017】
上記発明(発明1~7)において、前記基材の厚さは、25μm以上、300μm以下であることが好ましい(発明8)。
【0018】
上記発明(発明1~8)において、前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤から構成されることが好ましい(発明9)。
【0019】
上記発明(発明1~9)においては、ダイシングシートであることが好ましい(発明10)。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るワーク加工用シートは、電子線やγ線などの物理的なエネルギーを与えることなく、ワークの加工時に発生する切削片、特に糸状の切削片の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るワーク加工用シートの断面図である。
図2】本発明の別の実施形態に係るワーク加工用シートの断面図である。
図3】本発明のさらに別の実施形態に係るワーク加工用シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1には、一実施形態に係るワーク加工用シートの断面図が示される。図1に示されるワーク加工用シート1Aは、基材11と、基材11における片面側に積層された粘着剤層12とを備える。
【0023】
図2には、別の実施形態に係るワーク加工用シートの断面図が示される。図2に示されるワーク加工用シート1Bも、基材11と、基材11における片面側に積層された粘着剤層12とを備える。
【0024】
図3には、さらに別の実施形態に係るワーク加工用シートの断面図が示される。図3に示されるワーク加工用シート1Cも、基材11と、基材11における片面側に積層された粘着剤層12とを備える。
【0025】
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cにおいては、基材11が、ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物から形成された樹脂層を備える。特に、図1に示されるワーク加工用シート1Aでは、基材11が樹脂層111a単層からなっている。また、図2に示されるワーク加工用シート1Bにおいては、基材11が二層からなり、それらすべてが樹脂層111b,111cとなっている。さらに、図3に示されるワーク加工用シート1Cにおいては、基材11が三層からなり、それらすべてが樹脂層111d,111e,111fとなっている。
【0026】
さらに、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cにおいては、基材11の結晶化度が、35%以上、70%以下となっている。
【0027】
ここで、一般的なダイシングシートの基材から切削屑が生じるメカニズムとしては、次のことが予想される。まず、ダイシングの際、回転する丸刃が基材に接触することによって摩擦熱が発生する。当該摩擦熱によって、基材における回転する丸刃との接触部分は軟化するものとなるが、その状態で、回転する丸刃による、基材の切断部分を引っ張る力が印加されることで、基材の切断部分が引き伸ばされながら基材が削り取られると考えられる。これにより、切断屑、特に糸状の切削片が生じると考えられる。
【0028】
一方、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cでは、基材11がポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物から形成された樹脂層を備えるとともに、基材11の結晶化度が35%以上といった比較的高いものであることにより、上述のように基材11の切断部分を引っ張る力が印加された場合には、切断部分が十分に引き伸ばされる前に容易に切断される。その結果、切削片、特に糸状の切削片の発生を抑えて、ダイシングを完了することができる。
【0029】
このような切削片抑制効果は、本実施形態における基材11に対して、電子線またはγ線といった放射線の照射を行うことなく発揮される。そのため、当該基材11を備えるワーク加工用シート1A,1B,1Cは、放射線照射の工程を含む方法により製造される従来のワーク加工用シートと比較して、製造コストを低く抑えることができる。
【0030】
切削片抑制効果をより効果的に得る観点からは、基材11の結晶化度が、40%以上であることが好ましく、特に42%以上であることが好ましい。なお、基材11の結晶化度の上限値については特に限定されず、上述の通り70%以下であってもよく、特に65%以下であってもよく、さらには63%以下であってもよい。なお、基材11の結晶化度は、基材11についてX線回折により測定されるものであり、その測定方法の詳細は後述する試験例に記載の通りである。特に、基材11が複数の層からなる場合(複数の樹脂層を備える場合や、樹脂層とその他の層とを備える場合等)には、基材11の結晶化度とは、基材11全体を対象として測定を行って得られるものである。
【0031】
1.ワーク加工用シートの構成
(1)基材
本実施形態における基材11は、ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物から形成された樹脂層を備える。基材11は、単層のみからなってもよく、その場合には、図1に示されるように、基材11は樹脂層111aのみからなる。樹脂層111a単層からなる基材11は、製造コストを抑える点で好ましい。また、基材11は、複数層からなってもよく、その場合、そのうちの少なくとも一層が樹脂層となる。なお、図2に示される基材11は、二層からなり、その全てが樹脂層(それぞれ樹脂層111bおよび樹脂層111c)となっている。また、図3に示される基材11は、三層からなり、その全てが樹脂層(それぞれ樹脂層111d、樹脂層111eおよび樹脂層111f)となっている。複数層からなる基材は、樹脂層に主に起因して得られる切削片抑制効果と、樹脂層以外の層に起因して得られる所望の効果とを両立できる点で好ましい。
【0032】
樹脂層を形成するための樹脂組成物に含有される、ポリオレフィン系樹脂以外の成分としては、樹脂層の形成を可能にするものである限り、特に限定されない。当該樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを含有することも好ましい。熱可塑性エラストマーを含有することにより、基材11の結晶化度を前述の範囲に調整し易くなり、それに伴って切削片抑制効果をより効果的に得ることが可能となる。
【0033】
また、基材11が樹脂層以外の層を備える場合、当該層の材料は、当該層および基材11の形成を可能するものである限り特に限定されない。
【0034】
(1-1)ポリオレフィン系樹脂
樹脂層を形成するための樹脂組成物中に含有されるポリオレフィン系樹脂の具体例は、特に限定されない。なお、本明細書において、ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィンを単量体とするホモポリマーもしくはコポリマー、またはオレフィンとオレフィン以外の分子とを単量体とするコポリマーであって重合後の樹脂におけるオレフィン単位に基づく部分の質量比率が1.0質量%以上である樹脂をいう。
【0035】
上記ポリオレフィン系樹脂を構成する高分子は直鎖状であってもよいし、側鎖を有していてもよい。また、ポリオレフィン系樹脂は、官能基を有していてもよい。当該官能基は、芳香族系環または脂肪族系環であってもよく、あるいは非環式の官能基であってもよい。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン単量体としては、炭素数2~8のオレフィン単量体、炭素数3~18のα-オレフィン単量体、環状構造を有するオレフィン単量体などが例示される。炭素数2~8のオレフィン単量体としては、エチレン、プロピレン、2-ブテン、オクテンなどが例示される。炭素数3~18のα-オレフィン単量体としては、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-オクタデセンなどが例示される。環状構造を有するオレフィン単量体としては、ノルボルネン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエンおよびテトラシクロドデセンならびにこれらの誘導体などが例示される。
【0037】
ポリオレフィン系樹脂がポリエチレンを含有する場合には、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンおよび直鎖状低密度ポリエチレンのいずれであってもよいし、これらの2種以上の混合物であってもよい。
【0038】
ポリオレフィン系樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0039】
上述したポリオレフィン系樹脂の具体例の中でも、前述した結晶化度を達成し易いという観点から、エチレンを主な重合単位として含むポリエチレンおよびプロピレンを主な重合単位として含むポリプロピレンの少なくとも一方を使用することが好ましい。
【0040】
上記ポリプリピレンとしては、例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンを使用することが好ましい。これらは、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。特に、前述した結晶化度を達成し易いという観点からは、ホモポリプロピレンとランダムポリプロピレンとを混合して使用することが好ましい。
【0041】
上述したホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンとしては、それぞれ、上市されている市販品を用いてもよい。ホモポリプロピレンの市販品の例としては、いずれもプライムポリマー社製の製品名「プライムポリプロ E111G」、製品名「プライムポリプロ E-100GV」、製品名「プライムポリプロ E-100GPL」、製品名「プライムポリプロ E-200GP」等が挙げられる。ランダムポリプロピレンの市販品の例としては、いずれもプライムポリマー社製の製品名「プライムポリプロ B221WA」、製品名「プライムポリプロ B241」、製品名「プライムポリプロ E222」、製品名「プライムポリプロ E-333GV」等が挙げられる。ブロックポリプロピレンの市販品の例としては、いずれもプライムポリマー社製の製品名「プライムポリプロ E701G」、製品名「プライムポリプロ E702G」、製品名「プライムポリプロ E702MG」等が挙げられる。
【0042】
上記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレンを使用することが好ましく、その市販品の例としては、三菱ケミカル社製の製品名「ノバテックLL」、プライムポリマー社製のネオゼックスシリーズやウルトラゼックスシリーズ等が挙げられる。
【0043】
樹脂層を形成するための樹脂組成物中におけるポリオレフィン系樹脂の割合は、30質量%以上であることが好ましく、特に40質量%以上であることが好ましく、さらには65質量%以上であることが好ましい。また、上記割合は、100質量%以下であることが好ましく、特に95質量%以下であることが好ましく、さらには90質量%以下であることが好ましい。樹脂組成物中におけるポリオレフィン系樹脂の割合が上記範囲であることで、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cがより良好な切削片抑制効果を達成し易いものとなる。
【0044】
(1-2)熱可塑性エラストマー
前述した熱可塑性エラストマーとしては、上記ポリオレフィン系樹脂以外のものであって、基材11の形成を可能とするものである限り、特に限定されない。熱可塑性エラストマーの例としては、例えば、オレフィン系エラストマー、ゴムエラストマー、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
上述したエラストマーの中でも、基材11が前述した結晶化度を達成し易いという観点からは、オレフィン系エラストマーが好ましい。なお、本明細書において「オレフィン系エラストマー」とは、オレフィンまたはその誘導体(オレフィン系化合物)に由来する構造単位を含む共重合体であって、常温を含む温度域ではゴム状の弾性を有するとともに、熱可塑性を有する材料を意味する。
【0046】
オレフィン系エラストマーの例としては、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、ブテン・α-オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・ブテン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・ブテン・α-オレフィン共重合体およびエチレン・プロピレン・ブテン・α-オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むものが挙げられる。これらの中でも、プロピレン・α-オレフィン共重合体が好ましく、特に、プロピレン・エチレン・α-ブチレン共重合体が好ましい。
【0047】
樹脂層を形成するための樹脂組成物中における熱可塑性エラストマーの割合は、1質量%以上であることが好ましく、特に10質量%以上であることが好ましく、さらには15質量%以上であることが好ましい。また、上記割合は、60質量%以下であることが好ましく、特に30質量%以下であることが好ましく、さらには20質量%以下であることが好ましい。樹脂組成物中における熱可塑性エラストマーの割合が上記範囲であることで、前述した結晶化度を達成し易いものとなり、それにより、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cがより良好な切削片抑制効果を達成し易いものとなる。
【0048】
また、熱可塑性エラストマーがオレフィン系エラストマーである場合、樹脂層を形成するための樹脂組成物中におけるオレフィン系エラストマーの割合は、1質量%以上であることが好ましく、特に10質量%以上であることが好ましく、さらには13質量%以上であることが好ましい。また、上記割合は、50質量%以下であることが好ましく、特に20質量%以下であることが好ましく、さらには17質量%以下であることが好ましい。樹脂組成物中におけるオレフィン系エラストマーの割合が上記範囲であることで、前述した結晶化度を達成し易いものとなり、それにより、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cがより良好な切削片抑制効果を達成し易いものとなる。
【0049】
なお、樹脂層を形成するための樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーとしてスチレン系エラストマーを含有してもよいものの、前述した結晶化度を達成し易いという観点からは、その含有量が少ないことが好ましく、特に樹脂組成物は、スチレン系エラストマーを実質的に含有しないことが好ましい。なお、本明細書において「スチレン系エラストマー」とは、スチレンまたはその誘導体(スチレン系化合物)に由来する構造単位を含む共重合体であって、常温を含む温度域ではゴム状の弾性を有するとともに、熱可塑性を有する材料を意味する。
【0050】
樹脂組成物がスチレン系エラストマーを含有する場合、その割合としては、10質量%未満であることが好ましく、特に5質量%以下であることが好ましく、さらには1質量%以下であることが好ましい。なお、上述した、スチレン系エラストマーを実質的に含有しない場合とは、具体的には、樹脂組成物中のスチレン系エラストマーの割合が、0.2質量%以下であることをいう。
【0051】
(1-3)その他の成分
樹脂層を形成するための樹脂組成物は、上述したポリオレフィン系樹脂および熱可塑性エラストマー以外のその他の成分を含有してもよい。特に、当該樹脂組成物には、一般的なワーク加工用シートの基材に用いられる成分を含有させてもよい。
【0052】
そのような成分の例としては、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、着色剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、イオン捕捉剤等の各種添加剤が挙げられる。これらの添加剤の含有量としては、特に限定されないものの、基材が所望の機能を発揮する範囲とすることが好ましい。
【0053】
中でも、樹脂層を形成するための樹脂組成物は、帯電防止剤を含有することが好ましい。帯電防止剤としては、低分子型帯電防止剤や高分子型帯電防止剤が挙げられるが、高分子型帯電防止剤が好ましく、高分子型帯電防止剤としては、分子内にスルホン酸塩を有するビニル共重合体、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ベタイン等が挙げられる。更に、ポリエーテル、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリエーテルアミドまたはポリエーテルエステルアミドの無機プロトン酸の塩等を挙げることができる。無機プロトン酸の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属、亜鉛塩、またはアンモニウム塩が挙げられる。
【0054】
樹脂層を形成するための樹脂組成物が帯電防止剤を含有する場合、当該樹脂組成物中における帯電防止剤の割合は、3質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。樹脂組成物中における帯電防止剤の割合が上記範囲であることで、得られる基材11が良好な帯電防止性を有し易いものとなる。
【0055】
(1-4)基材の表面処理
基材11における粘着剤層12が積層される面には、当該粘着剤層12との密着性を高めるために、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理、粗面化処理(マット加工)等の表面処理が施されてもよい。粗面化処理としては、例えば、エンボス加工法、サンドブラスト加工法等が挙げられる。これらの中でも、エンボス加工を施すことが好ましい。
【0056】
(1-5)基材の製法
本実施形態における基材11の製造方法は、前述した樹脂組成物を用いる限り、特に限定されず、例えば、Tダイ法、丸ダイ法等の溶融押出法;カレンダー法;乾式法、湿式法等の溶液法などを使用することができる。これらの中でも、効率良く基材を製造する観点から、溶融押出法を採用することが好ましく、特にTダイ法を採用することが好ましい。
【0057】
単層の樹脂層のみからなる基材11を溶融押出法により製造する場合、樹脂組成物を混練し、得られた混練物から直接、または一旦ペレットを製造したのち、公知の押出機を用いて製膜すればよい。この場合、押出機によって押し出した直後に、クーリングロール等を用いて直ちに室温に冷却することが、前述した結晶化度を達成し易いという観点から好ましい。
【0058】
また、複数層からなる基材11を溶融押出法により製造する場合、各層を構成する成分をそれぞれ混練し、得られた混練物から直接、または一旦ペレットを製造したのち、公知の押出機を用いて、複数層を同時に押し出して製膜すればよい。この場合も、上記と同様に、前述した結晶化度を達成し易いという観点から、押し出し直後に直ちに室温に冷却することが好ましい。
【0059】
(1-6)基材の厚さ
本実施形態における基材11の厚さは、25μm以上であることが好ましく、特に50μm以上であることが好ましい。また、基材11の厚さは、300μm以下であることが好ましく、特に200μm以下であることが好ましく、さらには150μm以下であることが好ましい。基材の厚さが25μm以上であることで、ワーク加工用シート1A,1B,1Cが適度な強度を有し易いものとなり、ワーク加工用シート1A,1B,1C上に固定されるワークを良好に支持し易いものとなる。また、基材11の厚さが300μm以下であることで、ワーク加工用シート1A,1B,1Cの厚さが良好な柔軟性を有するものとなり、例えばエキスパンドを良好に行い易いものとなる。
【0060】
(2)粘着剤層
本実施形態における粘着剤層12を構成する粘着剤としては、被着体に対する十分な粘着力(特に、ワークの加工を行うために十分となるような対ワーク粘着力)を発揮することができる限り、特に限定されない。粘着剤層12を構成する粘着剤の例としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、所望の粘着力を発揮し易いという観点から、アクリル系粘着剤を使用することが好ましい。
【0061】
本実施形態における粘着剤層12を構成する粘着剤は、活性エネルギー線硬化性を有しない粘着剤であってもよいものの、活性エネルギー線硬化性を有する粘着剤(以下、「活性エネルギー線硬化性粘着剤」という場合がある。)であることが好ましい。粘着剤層12が活性エネルギー線硬化性粘着剤から構成されていることで、活性エネルギー線の照射により粘着剤層12を硬化させて、ワーク加工用シート1A,1B,1Cの被着体に対する粘着力を容易に低下させることができる。特に、活性エネルギー線の照射によって、加工後のワークを当該ワーク加工用シート1A,1B,1Cから容易に分離することが可能となる。
【0062】
粘着剤層12を構成する活性エネルギー線硬化性粘着剤としては、活性エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とするものであってもよいし、活性エネルギー線非硬化性ポリマー(活性エネルギー線硬化性を有しないポリマー)と少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とするものであってもよい。また、活性エネルギー線硬化性粘着剤は、活性エネルギー線硬化性を有するポリマーと、少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物であってもよい。
【0063】
上記活性エネルギー線硬化性を有するポリマーは、側鎖に活性エネルギー線硬化性を有する官能基(活性エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体(以下「活性エネルギー線硬化性重合体」という場合がある。)であることが好ましい。この活性エネルギー線硬化性重合体は、官能基含有モノマー単位を有するアクリル系重合体と、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物とを反応させて得られるものであることが好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。さらに、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0064】
上述した官能基含有モノマー単位を有するアクリル系重合体は、官能基含有モノマーとともに、その他のモノマーを重合させてなるものであってよい。このような官能基含有モノマーおよびその他のモノマー、ならびに上述した不飽和基含有化合物としては、公知のものを使用することができ、例えば国際公開第2018/084021号に開示されるものを使用することができる。
【0065】
上記活性エネルギー線硬化性重合体の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に15万以上であることが好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、150万以下であることが好ましく、特に100万以下であることが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0066】
上述した活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分としては、例えば、不飽和基含有化合物を反応させる前の上記アクリル系重合体を使用することができる。
【0067】
上記活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分としてのアクリル系重合体の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に15万以上であることが好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、150万以下であることが好ましく、特に100万以下であることが好ましい。
【0068】
また、上述した少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル等を使用することができる。
【0069】
なお、活性エネルギー線硬化性粘着剤を硬化させるための活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、当該粘着剤に対して、光重合開始剤を添加することが好ましい。また、当該粘着剤には、活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分またはオリゴマー成分や、架橋剤等を添加してもよい。
【0070】
本実施形態における粘着剤層12の厚さは、1μm以上であることが好ましく、特に3μm以上であることが好ましく、さらには5μm以上であることが好ましい。また、粘着剤層12の厚さは、70μm以下であることが好ましく、特に30μm以下であることが好ましく、さらには10μm以下であることが好ましい。粘着剤層12の厚さが上述した範囲であることで、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cが所望の粘着性を発揮し易いものとなる。
【0071】
(3)剥離シート
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cでは、粘着剤層12における基材11とは反対側の面(以下、「粘着面」という場合がある。)をワークに貼付するまでの間、当該面を保護する目的で、当該面に剥離シートが積層されていてもよい。
【0072】
上記剥離シートの構成は任意であり、プラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。当該プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。上記剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等を用いることができ、これらの中でも、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。
【0073】
上記剥離シートの厚さについては特に制限はなく、例えば、20μm以上、250μm以下であってよい。
【0074】
(4)その他
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cでは、粘着剤層12における基材11とは反対側の面に接着剤層が積層されていてもよい。この場合、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cは、ダイシング・ダイボンディングシートとして使用することができる。当該シートでは、接着剤層における粘着剤層12とは反対側の面にワークを貼付し、当該ワークとともに接着剤層をダイシングすることで、個片化された接着剤層が積層されたチップを得ることができる。当該チップは、この個片化された接着剤層によって、当該チップが搭載される対象に対して容易に固定することが可能となる。上述した接着剤層を構成する材料としては、熱可塑性樹脂と低分子量の熱硬化性接着成分とを含有するものや、Bステージ(半硬化状)の熱硬化型接着成分を含有するもの等を用いることが好ましい。
【0075】
また、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cでは、粘着剤層12における粘着面に保護膜形成層が積層されていてもよい。この場合、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cは、保護膜形成兼ダイシング用シートとして使用することができる。このようなシートでは、保護膜形成層における粘着剤層12とは反対側の面にワークを貼付し、当該ワークとともに保護膜形成層をダイシングすることで、個片化された保護膜形成層が積層されたチップを得ることができる。当該ワークとしては、片面に回路が形成されたものが使用されることが好ましく、この場合、通常、当該回路が形成された面とは反対側の面に保護膜形成層が積層される。個片化された保護膜形成層は、所定のタイミングで硬化させることで、十分な耐久性を有する保護膜をチップに形成することができる。保護膜形成層は、未硬化の硬化性接着剤からなることが好ましい。
【0076】
2.ワーク加工用シートの製造方法
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cの製造方法は特に限定されない。例えば、剥離シート上に粘着剤層12を形成した後、当該粘着剤層12における剥離シートとは反対側の面に基材11の片面を積層することで、ワーク加工用シート1A,1B,1Cを得ることが好ましい。
【0077】
上述した粘着剤層12の形成は、公知の方法により行うことができる。例えば、粘着剤層12を形成するための粘着性組成物、および所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗布液を調製する。そして、剥離シートの剥離性を有する面(以下、「剥離面」という場合がある。)に上記塗布液を塗布する。続いて、得られた塗膜を乾燥させることで、粘着剤層12を形成することができる。
【0078】
上述した塗布液の塗布は公知の方法により行うことができ、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等により行うことができる。なお、塗布液は、塗布を行うことが可能であればその性状は特に限定されず、粘着剤層12を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、分散質として含有する場合もある。また、剥離シートは工程材料として剥離してもよいし、被着体に貼付するまでの間、粘着剤層12を保護していてもよい。
【0079】
粘着剤層12を形成するための粘着性組成物が前述した架橋剤を含有する場合には、上記の乾燥の条件(温度、時間など)を変えることにより、または加熱処理を別途設けることにより、塗膜内のポリマー成分と架橋剤との架橋反応を進行させ、粘着剤層12内に所望の存在密度で架橋構造を形成することが好ましい。さらに、上述した架橋反応を十分に進行させるために、粘着剤層12と基材11とを貼り合わせた後、例えば23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行ってもよい。
【0080】
3.ワーク加工用シートの使用方法
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cは、半導体ウエハ等のワークの加工のために使用することができる。すなわち、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cの粘着面をワークに貼付した後、ワーク加工用シート1A,1B,1C上にてワークの加工を行うことができる。当該加工に応じて、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cは、バックグラインドシート、ダイシングシート、エキスパンドシート、ピックアップシート等として使用されることとなる。ここで、ワークの例としては、半導体ウエハ、半導体パッケージ等の半導体部材、ガラス板等のガラス部材が挙げられる。
【0081】
本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cは、前述した通り、回転する丸刃を用いたダイシングに使用した場合に、切削片、特に糸状の切削片の発生を良好に抑制することができる。そのため、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cは、上述したワーク加工用シートの中でも、特にダイシングシートとして使用することが好適である。
【0082】
なお、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cが前述した接着剤層を備える場合には、当該ワーク加工用シート1A,1B,1Cは、ダイシング・ダイボンディングシートとして使用することができる。さらに、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cが前述した保護膜形成層を備える場合には、当該ワーク加工用シート1A,1B,1Cは、保護膜形成兼ダイシング用シートとして使用することができる。
【0083】
また、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cにおける粘着剤層12が、前述した活性エネルギー線硬化性粘着剤から構成される場合には、使用の際に、次のような活性エネルギー線の照射することも好ましい。すなわち、ワーク加工用シート1A,1B,1C上にてワークの加工が完了し、加工後のワークをワーク加工用シート1A,1B,1Cから分離する場合に、当該分離の前に粘着剤層12に対して活性エネルギー線を照射することが好ましい。これにより、粘着剤層12が硬化して、加工後のワークに対する粘着シートの粘着力が良好に低下し、加工後のワークの分離が容易となる。
【0084】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0085】
例えば、本実施形態に係るワーク加工用シート1A,1B,1Cにおける基材11と粘着剤層12との間、または基材11における粘着剤層12とは反対側の面には、他の層が積層されていてもよい。
【実施例
【0086】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0087】
〔実施例1〕
(1)基材の作製
ランダムポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製,製品名「プライムポリプロ E222」)70質量部、ホモポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製,製品名「プライムポリプロ E100-GPL」)10質量部、オレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学社製,製品名「タフマー PN2070」,プロピレン単位:エチレン単位:α-ブチレン単位=70:15:15)15質量部、および帯電防止剤(三洋化成社製,製品名「ペレスタット」)5質量部を、各々乾燥させた後、二軸混錬機にて混錬した。
【0088】
これによって得られたペレットを、Tダイを設置した単軸押出機のホッパーに投入した。そして、シリンダー温度200℃、ダイス温度200℃の条件下、上記ペレットを溶融混錬させた状態でTダイから押し出し、直ちに冷却ロールにて冷却させることにより、厚さ80μmのシート状の基材を得た。
【0089】
(2)粘着性組成物の調製
アクリル酸2-エチルヘキシル38質量部と、酢酸ビニル37質量部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル25質量部とを、溶液重合法により重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を得た。この(メタ)アクリル酸エステル重合体と、当該(メタ)アクリル酸エステル重合体100gに対して30g(アクリル酸2-ヒドロキシエチルに対して80モル%に相当する。)のメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)とを反応させて、側鎖に活性エネルギー線硬化性基が導入されたアクリル系重合体を得た。このアクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)を後述の方法によって測定したところ、60万であった。
【0090】
上記で得られた、側鎖に活性エネルギー線硬化性基が導入されたアクリル系重合体100質量部(固形分換算,以下同じ)と、光重合開始剤としての1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製,製品名「オムニラッド184」)7質量部と、架橋剤としてのトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(東ソー社製,製品名「コロネートL」)0.2質量部とを溶媒中で混合し、粘着性組成物の塗布液を得た。
【0091】
(3)粘着剤層の形成
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381031」)の剥離面に対して、上記工程(2)で得られた粘着性組成物の塗布液を塗布し、加熱により乾燥させることで、剥離シート上に、厚さ5μmの粘着剤層が形成されてなる積層体を得た。
【0092】
(4)粘着シートの作製
上記工程(1)で得られた基材の片面と、上記工程(3)で得られた積層体における粘着剤層側の面とを貼り合わせることで、ワーク加工用シートを得た。
【0093】
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・測定装置:東ソー社製,HLC-8320
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK gel superH-H
TSK gel superHM-H
TSK gel superH2000
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0094】
〔実施例2〕
基材の材料の配合量を、ランダムポリプロピレン樹脂65質量部、ホモポリプロピレン樹脂5質量部、オレフィン系熱可塑性エラストマー25質量部、および帯電防止剤5質量部に変更した以外、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0095】
〔実施例3〕
以下の材料を用いて、三層構成の基材を作製した。すなわち、一層目を形成するための材料としての低密度ポリエチレン(LDPE)(三菱ケミカル社製,製品名「ノバテック LL UF442」)、二層目を形成するための材料としてのホモポリプロピレン樹脂(PP)(プライムポリマー社製,製品名「プライムポリプロ E100-GPL」)、および三層目を形成するための材料としての低密度ポリエチレン(LDPE)(三菱ケミカル社製,製品名「ノバテック LL UF442」)を用いて、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって共押出成形を行った。
【0096】
これにより、厚さ10μmのLDPEの層、厚さ60μmのPPの層、および厚さ10μmのLDPEの層が順に積層されてなる基材を得た。さらに、当該基材における片側の面に、梨地調のエンボス加工を施した。
【0097】
これにより得られた基材におけるエンボス加工を施した面に、実施例1における工程(3)と同様に得られた積層体における粘着剤層側の面を貼り合わせることでワーク加工用シートを得た。
【0098】
〔比較例1〕
エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)(三井・デュポンポリケミカル社製,製品名「ニュクレルN0903HC」)を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押出成形することで、厚さ80μmのEMAAフィルムを得た。
【0099】
上記の通り得られたEMAAフィルムの片面に対し、下記の条件で電子線照射を行った。この電子線照射後のEMAAフィルムを基材として用いるとともに、当該基材における電子線照射を行った面に対して粘着剤層を積層した以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
電子線照射の照射条件
照射量:110kGy
照射回数:1回
積算照射量:110kGy
【0100】
〔比較例2〕
基材作製時における電子線照射の照射条件を以下の通りに変更した以外は、比較例1と同様にワーク加工用シートを製造した。
電子線照射の照射条件
照射量:110kGy
照射回数:2回
積算照射量:220kGy
【0101】
〔試験例1〕(基材の結晶化度の測定)
実施例および比較例で作製した基材から、60mm×60mmの切断片を切り出した。当該切断片を、中央部に直径40mmの正円の穴があいたアルミ板(材質:JIS A5052、サイズ:縦60mm、横60mm、厚さ1mm)に重ね合わせることで、測定用サンプルとした。
【0102】
得られた測定用サンプルを用いて、以下の測定条件で、基材における上記穴の位置について広角X線回折測定を行った。
測定条件
広角X線回折測定装置: SmartLab(RIGAKU社)
測定範囲2θ=5-40°,0.05ステップ,室温にて測定
【0103】
上記測定により得られたプロファイルを、結晶ピークと非晶ピークとに波形分離して、結晶ピークの面積および非晶ピークの面積を算出した。そして、以下の式(I)に基づいて、結晶化度(%)を算出した。得られた結果を表1に示す。
結晶化度(%)=(結晶ピーク面積)/(結晶ピーク面積+非晶ピーク面積)×100 …(I)
【0104】
〔試験例2〕(切削片抑制の評価)
実施例および比較例で製造したワーク加工用シートから剥離シートを剥離した後、テープマウンター(リンテック社製,製品名「RAD2500m/12」)を用いて、露出した粘着剤層の露出面を、8インチのシリコンウエハの片面に貼付した。続いて、ワーク加工用シートにおける上記露出面の周縁部(シリコンウエハとは重ならない位置)に、ダイシング用リングフレームを付着させた。さらに、リングフレームの外径に合わせてワーク加工用シートを裁断した。
【0105】
その後、ダイシング装置(ディスコ社製,製品名「DFD6362」)を用いて、以下のダイシング条件でダイシングを行うことで、シリコンウエハを、0.67mm×25mmのサイズを有するチップに個片化した。
ダイシング条件
ウエハの厚さ:100μm
ダイシング装置:ディスコ社製,製品名「DFD-6362」
ブレード:以下のZ1およびZ2,ともにディスコ社製
Z1:製品名「ZH05-SD3500-N1-50 DF01」
Z2:製品名「ZH05-SD3000-N1-50 ED」
ブレード回転数
Z1:50000rpm
Z2:35000rpm
切削速度:100mm/sec
ブレードハイト
Z1:0.135mm
Z2:0.055mm
切削水量:1.0L/min
切削水温度:20℃
【0106】
ダイシング後、得られたチップの表面を、電子顕微鏡(KEYENCE社製,製品名「VHZ-100」,倍率:300倍)を用いて観察することで、切削片の数を計測した。具体的には、ワーク加工用シートのMD方向(ワーク加工用シートの製造時の流れ方向)およびCD方向(上記MD方向に垂直な方向)のそれぞれについて、50ダイシングラインを観察し、当該ダイシングライン上に存在する切削片の数を計測した。そして、以下の基準に基づいて、切削片抑制の性能を評価した。切削片数および評価結果を表1に示す。
○:切削片数が100個以下であった。
×:切削片数が100個超であった。
【0107】
なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
ランダムPP:ランダムポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製,製品名「プライムポリプロ E222」)
ホモPP:ホモポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製,製品名「プライムポリプロ E100-GPL」)
TPO:オレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学社製,製品名「タフマー PN2070」,ポリプロピレン成分:ポリエチレン成分:ブタン成分=70:15:15)
AS剤:帯電防止剤(三洋化成社製,製品名「ペレスタット」)
LDPE:低密度ポリエチレン(三菱ケミカル社製,製品名「ノバテック LL UF442」)
EMAA:エチレン・メタクリル酸共重合体(三井・デュポンポリケミカル社製,製品名「ニュクレルN0903HC」)
【0108】
【表1】
【0109】
表1から明らかなように、実施例で製造したワーク加工用シートは、ダイシングの際における糸状の切削片の発生を効果的に抑制することができた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のワーク加工用シートは、半導体ウエハ等のワークの加工に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1A,1B,1C…ワーク加工用シート
11…基材
111a,111b,111c,111d,111e,111f…樹脂層
12…粘着剤層
図1
図2
図3