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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】金属負極を備えた電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/30 20060101AFI20240522BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20240522BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20240522BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240522BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20240522BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240522BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240522BHJP
【FI】
H01M10/30 A
H01M12/08 K
H01M4/52
H01M50/443 M
H01M50/417
H01M50/451
H01M50/434
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020056565
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021157944
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(72)【発明者】
【氏名】谷本 稔
(72)【発明者】
【氏名】八木 毅
(72)【発明者】
【氏名】牧 采佳
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-032437(JP,A)
【文献】特表2003-514356(JP,A)
【文献】特開2016-081606(JP,A)
【文献】特開2019-128987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00- 10/04;10/06-10/34
H01M 50/40- 50/497
H01M 4/00- 4/62
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、金属負極、及び電解液を備えた電池であって、前記電解液がアルカンチオール誘導体を添加剤として含有し、前記アルカンチオール誘導体が末端にヒドロキシ基を有する、及び/又は前記アルカンチオール誘導体が末端にヒドロキシ基、カルボキシル基及びアミノ基から選択される置換基を有し、前記アルカンチオール誘導体がアルキル鎖と前記置換基との間にオリゴエチレングリコールを有する、電池。
【請求項2】
前記アルカンチオール誘導体が炭素数6~16のアルキル鎖を有する、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記電解液中における前記添加剤の濃度が0.01mmol/L~1mmol/Lである、請求項1又は2に記載の電池。
【請求項4】
前記電解液がアルカリ電解液である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電池。
【請求項5】
前記アルカリ電解液が水酸化カリウム水溶液である、請求項4に記載の電池。
【請求項6】
前記金属負極が亜鉛極である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電池。
【請求項7】
前記電池が亜鉛二次電池である、請求項6に記載の電池。
【請求項8】
前記電池が層状複水酸化物(LDH)セパレータをさらに備える、請求項7に記載の電池。
【請求項9】
前記LDHセパレータが多孔質基材と複合化されている、請求項8に記載の電池。
【請求項10】
前記正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより前記亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなす、請求項7~9のいずれか一項に記載の電池。
【請求項11】
前記正極が空気極であり、それにより前記亜鉛二次電池が亜鉛空気二次電池をなす、請求項7~9のいずれか一項に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属負極を備えた電池、例えば亜鉛二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。特許文献4(国際公開第2019/077953号)には、正極板、負極板、LDHセパレータ及び電解液を含む電池要素を備え、かつ、正極集電タブと負極集電タブを介して互いに反対の側から集電可能とされている、亜鉛二次電池が開示されており、2以上の電池要素をケースに収容した積層電池の形態が好ましいことも記載されている。
【0004】
ところで、固体表面に結合及び集積し、自発的にナノレベルの薄膜を形成する自己組織化単分子膜(SAMs;Self-Assembled Monolayers)が近年注目されている。例えば、金基板上のチオールやジスルフィドの形成するSAMsは、バイオセンサ、金ナノ粒子の機能化、リソグラフィー等の様々な用途に使用されている。SAMsを形成する分子には、基板表面の金属粒子と反応する官能基を有し、かつ、自己組織化的に集合して高密度な薄膜を形成する分子間相互作用を有することが必要とされる。例えば、チオール誘導体の場合、基板表面の金属粒子と反応する官能基がチオール(-SH)やジスルフィド(-S-S-)であり、Au-Sのような強固な結合を形成する。また、自己組織化的に集合するための分子間相互作用は、アルキル鎖間のファンデルワールス力や芳香環間のπ-πスタッキングである。SAMs形成用試薬として、アルカンチオール誘導体が知られており、様々なアルカンチオール誘導体が市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/118561号
【文献】国際公開第2016/076047号
【文献】国際公開第2016/067884号
【文献】国際公開第2019/077953号
【発明の概要】
【0006】
ところで、亜鉛二次電池等の金属負極を備えた電池は、水酸化カリウム水溶液等の水系電解液を用いる点で、可燃性の有機溶媒を含む非水系電解液を用いる電池と比べて、安全性が格段に高いものである。しかしながら、金属負極は腐食(酸化)により自己放電を引き起こし、その際、水の分解により水素ガスが発生しうる。水素ガスは短絡等により着火する可能性があるため、電池内部における水素ガスの発生はできるだけ少なくすることが望まれる。
【0007】
本発明者らは、今般、金属負極を備えた電池において、電解液にアルカンチオール誘導体を添加することにより、電解液の伝導度低下を最小限に留めながら、水素ガスの発生量を有意に低減できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、電解液の伝導度低下を最小限に留めながら、水素ガスの発生量を有意に低減可能な、金属負極を備えた電池を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、正極、金属負極、及び電解液を備えた電池であって、前記電解液がアルカンチオール誘導体を添加剤として含有する、電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】例2で用いた捕集型ガス量測定系を示す模式図である。
図2】例2で測定された発生ガス量と経過時間の関係を示すグラフである。
図3A】例3において、アルカンチオール誘導体を含まない電解液Aを用いた電池、及びアルカンチオール誘導体(H338)を含む電解液Bを用いた電池について、充放電レート0.25Cで測定された、電圧と容量との関係を示す充放電曲線である。
図3B】例3において、アルカンチオール誘導体を含まない電解液Aを用いた電池、及びアルカンチオール誘導体(H338)を含む電解液Bを用いた電池について、充放電レート0.25Cで測定された、電流値と容量との関係を示す充放電曲線である。
図4A】例3において、アルカンチオール誘導体を含まない電解液Aを用いた電池、及びアルカンチオール誘導体(H338)を含む電解液Bを用いた電池について、充放電レート0.50Cで測定された、電圧と容量との関係を示す充放電曲線である。
図4B】例3において、アルカンチオール誘導体を含まない電解液Aを用いた電池、及びアルカンチオール誘導体(H338)を含む電解液Bを用いた電池について、充放電レート0.50Cで測定された、電流値と容量との関係を示す充放電曲線である。
図5A】例4で用いたガス量測定系を示す正面図である。
図5B図5Aに示されるガス量測定系の側面図である。
図5C図5Aに示されるガス量測定系の上面図である。
図5D図5Aに示されるガス量測定系のシリンダー部分における流動パラフィンの液面に基づくガス量の体積変化の算出を説明するための図である。
図6】例4において、アルカンチオール誘導体を含まない電解液Aを用いた電池、及びアルカンチオール誘導体(H338)を含む電解液Bを用いた電池について、35℃で測定された、発生ガス量と経過時間の関係を示すグラフである。
図7】例4において、アルカンチオール誘導体を含まない電解液Aを用いた電池、及びアルカンチオール誘導体(H338)を含む電解液Bを用いた電池について、45℃で測定された、発生ガス量と経過時間の関係を示すグラフである。
図8】例4において、アルカンチオール誘導体を含まない電解液Aを用いた電池、及びアルカンチオール誘導体(H338)を含む電解液Bを用いた電池について、50℃で測定された、発生ガス量と経過時間の関係を示すグラフである。
図9】例4において、アルカンチオール誘導体(H338)を含む電解液Bを用いた電池について、65℃で測定された、発生ガス量と経過時間の関係を示すグラフである。
図10】例4において、アルカンチオール誘導体を含まない電解液Aを用いた電池、及びアルカンチオール誘導体(H338)を含む電解液Bを用いた電池について測定された、温度と発生ガス量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電池は、正極、金属負極、及び電解液を備えたものである。この電解液はアルカンチオール誘導体を添加剤として含有する。このように、金属負極を備えた電池において、電解液にアルカンチオール誘導体を添加することにより、電解液の伝導度低下を最小限に留めながら、水素ガスの発生量を有意に低減することができる。すなわち、亜鉛二次電池等の金属負極を備えた電池は、金属負極が腐食(酸化)により自己放電を引き起こし、その際、水の分解により水素ガスが発生しうる。水素ガスは短絡等により着火する可能性があるため、電池内部における水素ガスの発生はできるだけ少なくすることが望まれる。かかる問題が本発明によれば好都合に解決される。アルカンチオール誘導体の添加により水素ガスの発生量が低減されるメカニズムは定かではないが、金属負極の表面に分子間相互作用により自己組織化単分子膜(SAMs)を形成することで、金属負極の腐食(酸化)及びそれによる自己放電を抑制し、その結果、水の電気分解による水素の発生が抑制されるものと考えられる。
【0012】
したがって、本発明の電池は、上記メカニズムが想定可能な金属負極を備えた電池であれば、一次電池及び二次電池を問わず、いかなる種類の電池であってもよい。金属負極を備えた電池は、アルカリ金属水酸化物水溶液等のアルカリ電解液を含むのが典型的である。そのような電池の典型例としては、負極が亜鉛極である電池、すなわち亜鉛一次電池又は亜鉛二次電池が挙げられる。より好ましくは亜鉛二次電池である。亜鉛二次電池は、亜鉛を負極として用い、かつ、電解液(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)を用いた二次電池であれば特に限定されない。したがって、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池、その他各種のアルカリ亜鉛二次電池であることができる。例えば、正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなすのが好ましい。あるいは、正極が空気極であり、それにより亜鉛二次電池が亜鉛空気二次電池をなしてもよい。
【0013】
前述のとおり、電解液はアルカリ電解液であるのが好ましい。好ましいアルカリ電解液はアルカリ金属水酸化物水溶液である。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。水酸化カリウム水溶液の場合、電解液における好ましいKOH濃度は0.1~10.0mol/Lであり、より好ましくは2.0~8.0mol/Lである。亜鉛含有材料の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等を添加してもよい。
【0014】
電解液はアルカンチオール誘導体を添加剤として含有する。アルカンチオールは「HS-アルキル鎖-R」の末端官能基RがCHのものを指すが、アルカンチオール誘導体は末端官能基RがOH、COOH、NH等の他の官能基で置換された化合物を指す。アルカンチオール誘導体はアルカンチオール類とも称されることがある。
【0015】
アルカンチオール誘導体は、好ましくは炭素数6~16、より好ましくは炭素数6~14、さらに好ましくは炭素数6~12、特に好ましくは炭素数6~9、のアルキル鎖を有するのが好ましい。また、アルカンチオール誘導体は、末端に(すなわち「HS-アルキル鎖-R」の末端官能基Rとして)ヒドロキシ基、カルボキシル基及びアミノ基から選択される置換基を有するのが好ましい。中でも、末端にヒドロキシ基を有するアルカンチオール誘導体は、水素ガスの発生量の低減効果が大きく、より好ましい。このタイプのアルカンチオール誘導体の具体例としては、16-ヒドロキシ-1-ヘキサデカンチオール、11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオール、8-ヒドロキシ-1-オクタンチオール、6-ヒドロキシ-1-ヘキサンチオール、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、特に好ましくは8-ヒドロキシ-1-オクタンチオールである。また、アルカンチオール誘導体がアルキル鎖と置換基との間にオリゴエチレングリコールを有するものも水素ガスの発生量の低減及び水への溶解性の観点から好ましい。このタイプのアルカンチオール誘導体の具体例としては、11-メルカプトウンデカノールトリエチレングリコールエーテル(別名:ヒドロキシ-EG-ウンデカンチオール)、11-メルカプトウンデカノールヘキサエチレングリコールエーテル(別名:ヒドロキシ-EG-ウンデカンチオール)、16-メルカプトヘキサデカノールトリエチレングリコールエーテル(別名:ヒドロキシ-EG-ヘキサデカンチオール)、16-メルカプトヘキサデカノールヘキサエチレングリコールエーテル(別名:ヒドロキシ-EG-ヘキサデカンチオール)、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、特に好ましくは11-メルカプトウンデカノールトリエチレングリコールエーテルである。なお、上記括弧内の別名におけるEGはエチレングリコールを意味する。
【0016】
電解液中における添加剤(アルカンチオール誘導体)の濃度は0.01mmol/L~1mmol/Lであるのが好ましく、より好ましくは0.01mmol/L~0.50mmol/L、さらに好ましくは0.01mmol/L~0.20mmol/L、特に好ましくは0.01mmol/L~0.15mmol/L、最も好ましくは0.05mmol/L~0.15mmol/Lである。これらの範囲内であると、電解液の伝導度低下を最小限に留めながら、水素ガスの発生量をより効果的に低減できる。
【0017】
本発明の電池は、層状複水酸化物(LDH)セパレータをさらに備えるのが好ましい。LDHセパレータは、LDHを含むセパレータであって、専らLDHの水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。LDHセパレータは、正極と金属負極とを水酸化物イオン伝導可能に隔離する。すなわち、前述したように、ニッケル亜鉛二次電池や空気亜鉛二次電池の分野において、LDHセパレータが知られており(特許文献1~4を参照)、このLDHセパレータを本発明の亜鉛二次電池にも好ましく使用することができる。LDHセパレータは、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止することができる。
【0018】
LDHセパレータは、特許文献1~4に開示されるように多孔質基材と複合化されたものであってもよい。多孔質基材はセラミックス材料、金属材料、及び高分子材料のいずれで構成されてもよいが、高分子材料で構成されるのが特に好ましい。高分子多孔質基材には、1)フレキシブル性を有する(それ故薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるため)、4)製造及びハンドリングしやすいといった利点がある。特に好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、最も好ましくはポリプロピレンである。多孔質基材が高分子材料で構成される場合、機能層が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔がLDHで埋まっている)のが特に好ましい。この場合における高分子多孔質基材の好ましい厚さは、5~200μmであり、より好ましくは5~100μm、さらに好ましくは5~30μmである。このような高分子多孔質基材として、リチウム電池用セパレータとして市販されているような微多孔膜を好ましく用いることができる。
【実施例
【0019】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0020】
例1:電解液伝導度測定
以下に示される7種類のアルカンチオール誘導体を用意した。
1)H338:8-Hydroxy-1-octanethiol(株式会社同仁化学研究所製、化学名:8-ヒドロキシ-1-オクタンチオール(8-Hydroxy-1-octanethiol)、CAS番号:33065-54-2)
2)H354:Hydroxy-EG-undecanethiol(株式会社同仁化学研究所製、化学名:11-メルカプトウンデカノールトリエチレングリコールエーテル(11-Mercaptoundecanol triethyleneglycol ether)、CAS番号:130727-41-2)
3)H355:Hydroxy-EG-undecanethiol(株式会社同仁化学研究所製、化学名:11-メルカプトウンデカノールヘキサエチレングリコールエーテル(11-Mercaptoundecanol hexaethyleneglycol ether)、CAS番号:130727-44-5)
4)A423:11-Amino-1-undecanethiol,hydrochloride(株式会社同仁化学研究所製、化学名:11-アミノ-1-ウンデカンチオール,塩酸塩(11-Amino-1-undecanethiol,hydrochloride)、CAS番号:143339-58-6)
5)A424:8-Amino-1-octanethiol,hydrochloride(株式会社同仁化学研究所製、化学名:8-アミノ-1-オクタンチオール,塩酸塩(8-Amino-1-octanethiol,hydrochloride)、CAS番号:937706-44-0)
6)A483:Amino-EG-undecanethiol,hydrochloride(株式会社同仁化学研究所製、化学名:20-(11-メルカプトウンデカニルオキシ)-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサエイコサン-1-アミン,塩酸塩(20-(11-Mercaptoundecanyloxy)-3,6,9,12,15,18-hexaoxaeicosane-1-amine,hydrochloride)、CAS番号:496839-01-1(free base))
7)C386:7-Carboxy-1-heptanethiol(株式会社同仁化学研究所製、化学名:7-カルボキシ-1-ヘプタンチオール(7-Carboxy-1-heptanethiol)、CAS番号:74328-61-3)
【0021】
標準電解液として、0.4mol/LのZnOを溶解させた5.4mol/LのKOH水溶液を用意した。電解液Aについてはアルカンチオール誘導体を添加せずにそのまま電解液として用いた。一方、電解液B~Hについては表1に示されるアルカンチオール誘導体を0.1mmol/Lとなるように標準電解液に溶解させてサンプル電解液を得た。
【0022】
各電極がインピーダンスアナライザ(IM3590、日置電機株式会社製)に接続された、液量:10ml、電極間距離:6.314cm、電極幅:3.355cm、電極高さ:0.5cm、及び電極面積:1.678cmの仕様の電気化学セル中に電解液を入れた。2つの平板(電極)で仕切られた区間内の電解液の電気抵抗(Ω)を測定して、抵抗率(Ω・cm)及びその逆数の伝導度(S/cm=1/(Ω・cm))を算出した。このとき、交流周波数範囲20kHz~1Hz間のオーミック抵抗値を電解液抵抗として算出した。この測定回数は表1に示される回数行い、それらの平均値を測定結果として採用した。測定結果は表1に示されるとおりであった。また、アルカンチオール誘導体を添加しなかった電解液Aの伝導度に対する、アルカンチオール誘導体を添加した電解液B~Hの各伝導度の低下率を算出したところ、表1に示されるとおり、伝導率低下率は7.5~13.2%と低く、各種アルカンチオール誘導体を電解液に添加しても伝導率の低下が小さく、いずれの例の電解液も電池に使用しても問題の無い伝導度を呈することが確認された。
【0023】
【表1】
【0024】
例2:捕集型ガス量測定
図1に示される捕集型ガス量測定系10を用いて、充電負極12から発生するガスの定量測定を60℃で以下のとおりにして行った。この測定系10は、容器14(PFA樹脂製)と、容器14の底部に載置された小型容器16(フッ素コーティングされたポリエチレン樹脂製)と、小型容器16の上部に拡径部を被せるようにして載置された漏斗18(ポリプロピレン樹脂製)と、漏斗18の脚部が挿入されるように漏斗18に逆さに取り付けられたメスシリンダー20(ポリプロピレン樹脂製)とを備えたものである。また、充電負極12は亜鉛負極であり、亜鉛二次電池において満充電状態の負極に相当するものである。
【0025】
充電負極12(サイズ:30mm×30mm)7個を小型容器16内に収納し、例1で作製したサンプル電解液22(0.4mol/LのZnOを溶解させた5.4mol/LのKOH標準電解液(電解液A)又は標準電解液にアルカンチオール誘導体を表2に示される濃度で溶解させた電解液(電解液B又はC))を小型容器16内に注液した。この小型容器16を容器14内に入れ、上部から流動パラフィン24を注ぎ、減圧によりメスシリンダー20内に流動パラフィン24を充填させた。充電負極12から発生したガスをメスシリンダー20内に捕集して、その体積変化を測定した。すなわち、発生したガスがメスシリンダー20内に捕集されることで流動パラフィン24の液面がその分だけ下がる。したがって、メスシリンダー20における流動パラフィン24の液面に対応する目盛りを読み取ることで、捕集したガスの体積を測定することができる。結果は表2及び図2に示されるとおりであった。図2には経過時間(h)とガス量(ml)の関係が示されており、各電解液の測定ごとにプロットの近似直線を求め、その傾き係数を表2に示した。また、アルカンチオール誘導体を添加しなかった電解液Aの伝導度に対する、アルカンチオール誘導体を添加した電解液B及びCのガス発生量の低下率を算出したところ、表2に示されるとおり、伝導率低下率は49.6%(電解液B)又は75.0%(電解液C)であり、アルカンチオール誘導体を電解液に添加することでガス発生量を顕著に低下できることが確認された。
【0026】
【表2】
【0027】
例3:ニッケル亜鉛二次電池の充放電試験
(1)ニッケル亜鉛二次電池の作製
以下に示されるニッケル正極板、亜鉛負極板、LDHセパレータ、及び箱型ケースを用意した。
・ニッケル正極板:ペースト式水酸化ニッケル正極(容量密度:約700mAh/cm
・亜鉛負極:ZnO粉末、金属Zn粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びプロピレングリコールを含むペーストを集電体(銅エキスパンドメタル)に圧着したもの
・LDHセパレータ:ポリエチレン微多孔膜の孔内及び表面にNi-Al-Ti-LDH(層状複水酸化物)を水熱合成により析出させてロールプレスしたもの
・箱型ケース:変性ポリフェニレンエーテル樹脂製の筐体(ケース内で発生したガスを放出可能とする放圧弁を備える)
【0028】
ニッケル正極板12枚及び亜鉛負極板13枚を、正負極間をLDHセパレータで隔離しながら交互に積層して箱型ケース内に収容した。この箱型ケース内に例1で作製した電解液A(電池1及び2)又は電解液B(電池3及び4)を注入して、ニッケル亜鉛二次電池を作製して電池1~4とした。
【0029】
(2)評価
こうして得られた電池1~4の各々に対して以下のとおり化成(エージング処理)及び特性確認を以下のようにして行った。
【0030】
(i)化成(エージング処理)
正極搭載容量(117.3Ah)に対し、SOC80%→100%→120%の充電及び放電を3サイクル行った。これらの充放電は、正極搭載容量比で充電レート0.1C、放電レート0.2CのCレートで実施した。詳細な条件は表3に示されるとおりとした。
【0031】
(ii)特性確認
化成を施したニッケル亜鉛電池について、定格容量(100Ah)に対し、0.25Cの充放電を1サイクル、続いて0.50Cの充放電を1サイクル(合計2サイクル)行った。充電は、CC(定電流)充電して1.9Vに到達した後、CV(定電圧)充電に切り替えることにより行った。詳細な条件は表3に示されるとおりとした。
【0032】
結果は、表4に示されるとおりであった。表4に示される特性から分かるように、電解液にアルカンチオール誘導体を添加した電池3及び4は、アルカンチオールを添加しない標準電解液を用いた電池1及び2と同等の充放電特性を示した。また、図3A及び3Bに充放電レート0.25Cで測定された電池1(図中「無添加」)及び電池3(図中「H338」)の充放電曲線を示す一方、図4A及び4Bに電池1(図中「無添加」)及び電池3(図中「H338」)の充放電レート0.50Cで測定された充放電曲線を示す。これらの充放電曲線から分かるように、アルカンチオール誘導体(H338)を添加した電解液Aを用いた電池3と、アルカンチオール誘導体を添加しなかった電解液Bを用いた電池1との間で放電カーブに有意な違いは見られなかった。また、充電末において負極還元電位でのアルカンチオール分解反応に伴う電流増加傾向も見られなかった。初期特性0.5C放電容量についても両者間で差異は無かった。図3B及び4Bにおいて、アルカンチオール誘導体無添加の電池1より、アルカンチオール誘導体(H338)添加の電池3はCC(定電流)充電時間が短くなっているが、これは液抵抗の増加分と推定され、充放電特性における特段の問題は無いといえる。これらの結果から、アルカンチオール誘導体を電解液に添加しても充放電特性への悪影響は無いことが確認された。
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
例4:ニッケル亜鉛二次電池の内部発生ガス定量試験
(1)ニッケル亜鉛二次電池の作製
以下に示されるニッケル正極板、亜鉛負極板、LDHセパレータ、及び箱型ケースを用意した。
・ニッケル正極板:ペースト式水酸化ニッケル正極(容量密度:約700mAh/cm
・亜鉛負極:ZnO粉末、金属Zn粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びプロピレングリコールを含むペーストを集電体(銅エキスパンドメタル)に圧着したもの
・LDHセパレータ:ポリエチレン微多孔膜の孔内及び表面にNi-Al-Ti-LDH(層状複水酸化物)を水熱合成により析出させてロールプレスしたもの
・箱型ケース:変性ポリフェニレンエーテル樹脂製の筐体(ケース内で発生したガスを放出可能とする放圧弁を備える)
【0036】
ニッケル正極板12枚及び亜鉛負極板13枚を、正負極間をLDHセパレータで隔離しながら交互に積層して箱型ケース内に収容した。この箱型ケース内に例1で作製した電解液A(電池5)又は電解液B(電池6)を注入して、ニッケル亜鉛二次電池を作製して電池5及び6とした。
【0037】
(2)評価
こうして得られた電池5及び6の各々に対して、内部発生ガスの定量測定を図5A~5Cに示されるガス量測定系30を用いて35℃、45℃、55℃、及び65℃の各温度で以下のとおり行った。測定系30は、箱型の本体容器32(外寸:幅250mm×高さ230mm×奥行90mm、内寸:幅240mm×高さ220mm×奥行80mm)と、本体容器32の上蓋に連通して設けられる透明なシリンダー34(直径50mm、高さ200mm、体積392.7cm)とを備えている。
【0038】
まず、評価対象の電池に予め充放電を行い充電深度(SOC)が50%の充電状態とした。この電池にバンドを締め付けて外圧を掛けた。この外圧が掛けられた状態の電池から放圧弁を除去してガス放出可能な状態とし、バリア性の高いアルミラミネートフィルムで電池全体を気密に包装した。こうして得られた電池包装体36(外寸:幅200mm×高さ168.5mm×奥行40mm)を本体容器32に入れ、充填剤としての流動パラフィン38をシリンダー34を介して本体容器32内に注入した。このとき、図5Bに示されるように、流動パラフィン38の投入量は、本体容器32内のみならずその上のシリンダー34の下方部分をも充填するようにした。こうして、シリンダー34内に存在する流動パラフィン38の液面を読み取れるようにした。
【0039】
電池包装体36を所定の温度(35℃、45℃、55℃又は65℃)で保持し、電池内部で発生したガスを電池包装体36内に溜め、溜まったガスの体積変化をシリンダー34における流動パラフィン38の液面変化を読み取ることにより測定した。すなわち、電池内部で発生したガスは電池包装体36のアルミラミネートフィルム内に溜まり、溜まったガスの体積分だけ、シリンダー34における流動パラフィン38の液面を上に押し上げることになる。そして、図5Dに示されるように、流動パラフィン38の液面高さの初期値Hと、体積変化後の液面高さHとに基づき、発生ガスの体積変化ΔVをΔV=πr(H-H)(ただしrはシリンダーの半径)の式により算出することができる。
【0040】
結果は、表5及び図5~10に示されるとおりであった。表5に示されるように、35℃、45℃、55℃及び65℃の各温度において、アルカンチオール誘導体無添加の電池5に対して、アルカンチオール誘導体(H338)添加の電池6では発生ガス量が22.3~43.5%の範囲で大幅に低減された。
【0041】
【表5】
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9
図10