(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】状況認識装置、航空機客室、及び航空機客室監視方法
(51)【国際特許分類】
B64D 45/00 20060101AFI20240522BHJP
B64D 11/00 20060101ALI20240522BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240522BHJP
【FI】
B64D45/00 A
B64D11/00
G06N20/00
(21)【出願番号】P 2020057443
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】10 2019 204 359.3
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】311014956
【氏名又は名称】エアバス オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Airbus Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Kreetslag 10,21129 Hamburg,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】ホルガ― メールホルツ
(72)【発明者】
【氏名】ジョーン ステュブナー
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-500276(JP,A)
【文献】特開2016-173682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 45/00
B64D 11/00
G06N 20/00
G06N 5/025
G06V 10/774
G06V 20/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力インタフェー
スと出力インタフェー
スを有する監視プロセッ
サであって、前記入力インタフェー
スを介して航空機客
室からの視覚的及び/又は聴覚的監視信
号を受信するように設計された監視プロセッサと、
AIプロセッ
サ、自己学習アルゴリズムに基づくルールセット発生
器、及び基準ルールセットメモ
リを含むAIシステ
ムであって、前記監視プロセッ
サと両方向にデータ通信するAIシステ
ムと、
を含む状況認識装
置において、
前記AIプロセッ
サは、前記監視プロセッ
サからの要
求に応じて、前記受信した視覚的及び/又は聴覚的監視信
号の中のデータパターンを、前記基準ルールセットメモ
リ内に保存された基準ルールセッ
ト内のデータパターンからの逸脱についてチェックするように設計され、
前記監視プロセッ
サは、前記AIプロセッ
サにより特定された前記逸脱が1つ又は複数の事前決定可能な逸脱閾値を超えた場合に、前記出力インタフェー
スを介してインディケータ信
号を出力するように設計される状況認識装
置。
【請求項2】
前記AIシステ
ムの前記ルールセット発生
器は、航空機客
室内の状況とプロセスに関する時間的及び空間的に分解された観察データであって、前記監視プロセッ
サの前記入力インタフェー
スを介して受信された観察データに基づいて、前記観察データ内のパターンと規則性を検出し、前記観察データの前記検出されたパターンと規則性を前記基準ルールセットメモ
リ内に基準ルールセッ
トとして保存するように設計される、請求項1に記載の状況認識装
置。
【請求項3】
前記監視プロセッ
サに連結され、複数のインディケータ信号プリ定
義を保存するように設計されたインディケータデータメモ
リをさらに含み、前記監視プロセッ
サは、前記AIプロセッ
サにより特定された逸脱の種類に応じて、前記インディケータデータメモ
リから前記複数のインディケータ信号プリ定
義の1つを呼び出し、それをインディケータ信
号として前記出力インタフェー
スで出力するように設計される、請求項1または2に記載の状況認識装
置。
【請求項4】
前記ルールセット発生
器は、サポートベクトル分類器、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト分類器、決定木分類器、モンテカルロネットワーク、又はベイズ分類器を含む、請求項1から3の何れか1項に記載の状況認識装
置。
【請求項5】
前記視覚的及び/又は聴覚的監視信
号は、1つ又は複数の監視カメ
ラからのリアルタイムビデオ記録を含む、請求項1から4の何れか1項に記載の状況認識装
置。
【請求項6】
前記監視プロセッ
サは、前記視覚的及び/又は聴覚的監視信
号を前記AIプロセッ
サによるチェックの後に消去するように設計される、請求項1から5の何れか1項に記載の状況認識装
置。
【請求項7】
航空機客
室において、
請求項1から6の何れか1項に記載の状況認識装
置と、
前記監視プロセッ
サの前記入力インタフェー
スに連結され、視覚的及び/又は聴覚的監視信
号をリアルタイムで前記監視プロセッ
サに送信するように設計された1つ又は複数の監視カメ
ラと、
前記監視プロセッ
サの前記出力インタフェー
スに連結され、前記監視プロセッ
サから受け取ったインディケータ信
号に応じて、前記航空機客
室内の危険の可能性のある状況に関する警告表示をユーザに対して表示するように設計される警告装
置と、
を含む航空機客
室。
【請求項8】
警告信号インタフェー
スを含み、それを介して前記警告装
置は警告信
号を航空
機のコックピット内に、及び/又は乗務員のコンソー
ル上に出力できる、請求項7に記載の航空機客
室。
【請求項9】
航空機客
室内のプロセス及び状況の自動監視方
法において、
航空機客
室からの視覚的及び/又は聴覚的監視信
号を監視プロセッ
サにより受信するステッ
プと、
前記受信した視覚的及び/又は聴覚的監視信
号を、AIシステ
ムの基準ルールセットメモ
リの中に保存された、ルールセット発生
器により自己学習アルゴリズムに基づいて生成された基準ルールセッ
トからの逸脱について、前記AIシステ
ムのAIプロセッ
サによりチェックするステッ
プと、
前記AIプロセッ
サにより特定された前記逸脱が1つ又は複数の事前決定可能な逸脱閾値を超えた場合に、前記監視プロセッ
サによりインディケータ信
号を出力するステッ
プと、
を含む方
法。
【請求項10】
前記ルールセット発生
器はサポートベクトル分類器、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト分類器、決定木分類器、モンテカルロネットワーク、又はベイズ分類器を含む、請求項9に記載の方
法。
【請求項11】
前記監視プロセッ
サによりインディケータ信
号を出力するステッ
プは、前記航空機客
室を含む航空
機の飛行フェーズに応じて実行される、請求項9または10に記載の方
法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状況認識装置及び、プロセス及び状況の自動監視のための、特に航空機の客室におけるハザード状況の自動認識のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば旅客機等の公共交通手段においては、規定の運行又は航行状態から逸脱した場合に乗務員がその状況にとって適切な、ほぼ即時の対応策を開始できるようにするために、機内のプロセスをモニタする必要がある。この目的のために、交通手段の内部で動的に生成される画像又は音声資料を人間の査定により評価することが知られている。詳しくは、旅客機において、異常な航行又は運航状態を素早く認識し、査定できることが望ましい。これは通常、乗務員によるモニタを必要とするが、その継続性と偏在性を継続的に確保することは、モニタすべき空間、状況、及びプロセスの多さを考えると不可能である。
【0003】
そのため、人間である乗務員に異常な航行又は運航状態の前段分類と初期査定を提供できるようにするために、監視プロセスを自動化する手法がある。それによって、実際の状況から抽出された機械生成状況インディケータを得ることが可能となり、乗務員はこれをより詳しくチェックすることができる。
【0004】
特許文献1、特許文献2、及び特許文献3は、ビデオ監視システムのためのアダプティブラーニングパターン認識装置を開示している。特許文献4は、乗客の不適正な挙動を認識するためのビデオ監視システムを開示している。特許文献5は、航空機のロワーデッキに設けられた客室を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第7,868,912 B2号明細書
【文献】米国特許出願公開第2008/0031491 A1号明細書
【文献】米国特許第9,111,148 B2号明細書
【文献】中国特許公開第107 600 440 A号明細書
【文献】独国特許公開第44 16 506 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的の1つはしたがって、例えば航空機の客室等における、航空機の人間の乗務員が異常かもしれない状況又はプロセスの発生に関する情報をより素早く、より効率的に取得できるようにする、状況又はプロセスの自動認識のための改良された解決策を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記及びその他の目的は、請求項1の特徴を有する状況認識装置によって、請求項7の特徴を有する航空機客室によって、及び請求項9の特徴を有する航空機客室内のプロセスと状況の自動監視方法によって達成される。
【0008】
本発明の第一の態様によれば、状況認識装置は、入力インタフェースと出力インタフェースを有する監視プロセッサを含み、前記監視プロセッサは、航空機客室から入力インタフェースを介して視覚的及び/又は聴覚的監視信号を受信するように設計される。状況認識装置はそれに加えて、AIシステムを含み、これはAIプロセッサと、自己学習アルゴリズムに基づくルールセット発生器と、基準ルールセットメモリと、を含み、前記AIシステムは監視プロセッサと双方向データ通信を行う。AIプロセッサは、監視プロセッサからの要求に応じて、基準ルールセットメモリ内に保存された基準ルールセット内のデータパターンからの逸脱について、受信された視覚的及び/又は聴覚的監視信号内のデータパターンをチェックするように設計される。監視プロセッサは、AIプロセッサにより特定された逸脱が1つ又は複数の事前決定可能な逸脱閾値を超えたときに、出力インタフェースを介してインディケータ信号を出力するように設計される。
【0009】
本発明の第二の態様によれば、航空機客室、特にロワーデッキに設けられた客室(LDC: lower deck passenger compartment)は、本発明の第一の態様による状況認識装置と、監視プロセッサの入力インタフェースに連結され、視覚的及び/又は聴覚的監視信号を監視プロセッサにリアルタイムで送信するように設計された1つ又は複数の監視カメラと、監視プロセッサの出力インタフェースに連結され、監視プロセッサから受信したインディケータ信号に応じて、航空機客室内の危険である可能性のある状態に関する警告表示をユーザに対して表示するように設計された警告装置と、を含む。
【0010】
本発明の第三の態様によれば、航空機客室内のプロセスと状況の自動監視方法は、監視プロセッサによって航空機客室から視覚的及び/又は聴覚的監視信号を受信するステップと、受信した視覚的及び/又は聴覚的監視信号をAIシステムのAIプロセッサによって、AIシステムの基準ルールセットメモリ内に保存され、ルールセット発生器により自己学習アルゴリズムに基づいて生成された基準ルールセットからの逸脱についてチェックするステップと、AIプロセッサにより特定された逸脱が1つ又は複数の事前決定可能な逸脱閾値を超えた場合に、監視プロセッサによってインディケータ信号を出力するステップと、を含む。
【0011】
本発明の1つの重要な概念は、アルゴリズムによる機械学習を利用することにより、動的且つ恒常的に収集された情報データにおけるパターンと規則性からの逸脱の可能性について、航空機客室内の状況とプロセスに関する観察可能な情報をモニタし、査定することにある。人工知能システム(AIシステム)がこの目的のために使用され、このシステムは航空機客室内の状況及びプロセスのパターンと規則性に関する対応する訓練データで初期化される。例えばビデオ又は音声記録等の収集された情報データは、AIシステムにより基準ルールセットにしたがってリアルタイムで裁定(arbitrate)される。
【0012】
AIシステムが、情報データに表されている状況とプロセスが基準ルールセット内で事前に決定された基準状況及び基準プロセスから逸脱し、これらの逸脱が事前決定可能な逸脱閾値を超えているとの結論に達すると、AIシステムは自動査定を実行して、推定される危険状態に関するインディケータを、航空機客室の安全を担当する実体に出力することができる。このようなインディケータに基づいて、下流のシステムによって自動的に、又は人間のユーザによる査定後に個別に対応措置を開始できる。
【0013】
本発明による解決策の1つの特定の利点は、危険状態をより容易に、より高い信頼性で、より素早くそれとして認識でき、情報データの永久保存を必要としないことである。情報データをむやみに保存することは、観察された状況やプロセスが予告されていないものであったとの理由で、観察された人物の人権を侵しかねないが、本発明による解決策では、有利な点として、危険状態が存在するとの推定に関するインディケータであって、実際に記録された情報材料から抽出されたインディケータだけを保存すればよいため、このことが回避される。
【0014】
これによって、有利な点として、乗客のプライバシーの保護と、飛行の安全を保持するために必要な監視手段との間のバランスを取ることができる。本発明による解決策では、問題となり得る様々な状況を、航空機客室内の予定通りの、又は問題とならない状況から迅速に区別できる。例えば、空けておくべき領域内の人物又は物、非常口を塞いでいる物、その性質により飛行の安全を危険にさらす物、支援を必要とする人物、不適正な行動をする人物、又は犯意を持って行動する人物を自動的に認識し、乗務員に対応策を開始させるように知らせることができる。
【0015】
有利な構成と発展形は、また別の従属項から、及び図面に関する説明から明らかである。
【0016】
状況認識装置の幾つかの実施形態によれば、AIシステムのルールセット生成器は、航空機客室内の状況とプロセスに関する時間的及び空間的に分解された観察データ(前記観察データは監視プロセッサの入力インタフェースを介して受信される)に基づいて、観察データの中のパターンと規則性を検出し、観察データの中で検出されたパターンと規則性を基準ルールセットメモリの中に基準ルールセットとして保存するように設計できる。その結果、基準ルールセットは、有利な点として、AIシステムの訓練により、航空機客室のそれぞれの環境に合わせて適応させることができる。
【0017】
状況認識装置の幾つかの他の実施形態によれば、状況認識装置は、インディケータデータメモリを含むことができ、これは監視プロセッサに連結され、複数のインディケータ信号のプリ定義を保存するように設計され、監視プロセッサは、AIプロセッサにより特定された逸脱の種類に応じて、複数のインディケータ信号プリ定義のうちの1つをインディケータデータメモリから呼び出し、それを出力インタフェースでインディケータ信号として出力するように設計される。その結果、状況認識装置の出力データは、検出された視覚的及び/又は聴覚的監視信号から抽出でき、それによって航空機客室内にいる人物の人権を侵す可能性のある秘密データを出力せずに済む。その代わりに、危険状態をインディケータ信号に基づいて評価できる。
【0018】
状況認識装置の幾つかの他の実施形態によれば、ルールセット発生器は、サポートベクトル分類器、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト分類器、決定木分類器、モンテカルロネットワーク、又はベイズ分類器を含むことができる。
【0019】
状況認識装置の幾つかの他の実施形態によれば、視覚的及び/又は聴覚的監視信号は、1つ又は複数の監視カメラからのリアルタイムビデオ記録を含むことができる。
【0020】
状況認識装置の幾つかの他の実施形態によれば、監視プロセッサは、視覚的及び/又は聴覚的監視信号をAIプロセッサによるチェックの後に消去するように設計できる。これによって、有利な点として、航空機客室の監視を、航空機の乗客のデータを必要以上にむやみに長期間保管せずに実行することが可能となる。特に、記録された視覚的及び/又は聴覚的監視信号は、AIシステムによる自動状況認識のためにのみ使用され、無許可の第三者に渡すことはできない。
【0021】
方法の幾つかの実施形態によれば、ルールセット発生器は、サポートベクトル分類器、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト分類器、決定木分類器、モンテカルロネットワーク、又はベイズ分類器を含むことができる。方法の幾つかの実施形態において、監視プロセッサによりインディケータ信号を出力するステップは、航空機客室を含む航空機の瞬間的飛行フェーズに応じて実行できる。
【0022】
航空機客室の幾つかの実施形態によれば、航空機客室は、警告信号インタフェースをさらに含むことができ、それを介して警告装置は警告信号を航空機のコックピット内に、及び/又は乗務員のコンソール上に出力できる。これにより、有利な点として、客室乗務員又はその他の乗務員は、航空機の中の、より離れた作業区域内のものを含め、航空機客室内の危険である可能性のある状態に関する知らせを受けることが可能となる。特に、乗務員が比較的長い距離を移動しなければ行けないロワーデッキに設けられた客室にとって、AIに基づく自動監視は飛行の安全をモニタするための支援ツールとして有益であり得る。
【0023】
上記の構成と発展形は、現実的であるかぎり、所望のあらゆる方法で相互に組み合わせることができる。本発明の他の考え得る構成、発展形、及び実施例はまた、上述の、又は例示的な実施形態に関する後述の本発明の特徴の明示されていない組合せも含む。特に、この場合、当業者であれば、本発明のそれぞれの基本形態に改良や補足として個々の態様も追加するであろう。
【0024】
本発明は、下記のような概略図において示される例示的な実施形態に基づいて以下により詳しく説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の1つの実施形態による航空機客室内の状況認識装置の概略ブロック図を示す。
【
図2】本発明の他の実施形態による交通移動の監視方法のフロー図を示す。
【
図3】本発明の他の実施形態による客室と状況認識装置を含む航空機の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
添付の図面は、本発明の実施形態をさらに理解できるようにするためのものである。これらは実施形態を示しており、説明文と共に、本発明の原理と概念を説明する役割を果たす。その他の実施形態や記載されている利点の多くは、図面を参照すれば明らかである。図中の要素は必ずしも相互に関して正確な縮尺で示されているとはかぎらない。例えば「上」、「下」、「左」、「右」、「上方」、「下方」、「水平」、「垂直」、「前」、「後」、及びこれらに類する指示語等の方向を示す用語は説明を目的としてのみ使用されており、一般性を図に示されている具体的な構成に限定しようとしていない。
【0027】
図面の図中、同じ、機能的に同じ、及び同じに動作する要素、特徴及び構成部品には、特に別段の説明がないかぎり、それぞれの場合に同じ参照符号が付与されている。
【0028】
以下の説明は、人工知能のシステム(AIシステム)で使用される自己学習アルゴリズムに関する。一般的に、自己学習アルゴリズムは、人間の判断により人間の認識能力に与えられる認識機能をまねている。この場合、新しい訓練情報が追加される結果として、自己学習アルゴリズムは古い訓練情報からそれまでに得ていた知識を変化した状況に動的に適応させて、訓練情報全体の中のパターンと規則性を認識し、推定することができる。
【0029】
本発明の意味における自己学習アルゴリズムでは、人間の知識獲得を形成するあらゆる種類の訓練を使用することが可能であり、これは例えば教師あり学習、半教師あり学習、生成、非生成、又は深層敵対的ネットワーク(AN:adversarial networks)に基づく独立学習、強化学習、又はアクティブラーニングである。この場合、それぞれの場合で特徴に基づく学習(「表現学習(representation learning)」)を使用できる。本発明の意味における自己学習アルゴリズムは、特に、フィードバック解析によって、学習すべきパラメータと特徴の繰返し適応を行うことができる。
【0030】
本発明の意味における自己学習アルゴリズムは、サポートベクトル分類器(SVN)、例えば畳込みニューラルネットワーク(CNN)等のニューラルネットワーク、コホネンネットワーク、再帰型ニューラルネットワーク、時間遅延ニューラルネットワーク(TDNN)若しくは振動子ニューラルネットワーク(ONN)、ランダムフォレスト分類器、決定木分類器、モンテカルロネットワーク、又はベイズ分類器に基づくことができる。この場合、本発明の意味における自己学習アルゴリズムは、プロパティ-遺伝的アルゴリズム、例えばロイド若しくはマックイーンアルゴリズム等のk-meansアルゴリズム、又は例えばSARSA若しくはQ-ラーニング等のTD学習アルゴリズムを使用できる。
【0031】
本発明の意味における航空機客室は、特に、航空機での旅程中の旅客の運搬とその機内滞在用に設計されたモジュール型の構成によるあらゆる客室内設備を含むことができる。このような航空機客室は、例えばロワーデッキに設けられる客室として設計できる。このようなロワーデッキに設けられた客室の例は、本発明を限定するものではないが、インターネットのhttps://www.safran-cabin.com/printpdf/media/airbus-and-zodiac-aerospace-enter-partnership-new-lower-deck-sleeping-facilities-20180410において開示されている。
【0032】
図1は、状況認識装置10の例示的な図を示す。状況認識装置10は、入力インタフェース7と出力インタフェース8を有する監視プロセッサ1を含む。まず、航空機客室20からの視覚的及び/又は聴覚的監視信号Eを入力インタフェース7で、例えば、例えば航空機客室20の戦略的監視地点に取り付けられた監視カメラ21等の監視装置から受信できる。次に、航空機客室20内の状況とプロセスに関する、時間的及び空間的に分解された観察データを、入力インタフェース7を介して監視プロセッサ1に送信でき、このデータからパターンと規則性を導き出すことができる。前記時間的及び空間的に分解された観察データは例えば、同様に、航空機客室20の実際の動作中に監視カメラにより記録されたデータ又は、接続された別のシステムによるコンピュータ生成訓練データとして監視プロセッサ1に送信されたデータとすることができる。
【0033】
状況認識装置10はそれに加えて、AIシステム3を含む。AIシステム3は、AIプロセッサ4と、自己学習アルゴリズムに基づくルールセット発生器5と、基準ルールセットメモリ6と、を含む。AIシステム3は、AIプロセッサ4を介して監視プロセッサ1と両方向データ通信する。監視プロセッサ1は、まず、航空機客室20内の状況とプロセスに関する複数の履歴及び/又は現在観察データをAIシステム3に通信できる。前記観察データは、ルールセット発生器5による、あり得る状況及びプロセスに関するパターン及び規則性の検出のための根拠としての役割を果たすことができる。ルールセット発生器5は、例えば、サポートベクトル分類器、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト分類器、決定木分類器、モンテカルロネットワーク、又はベイズ分類器を含むことができる。
【0034】
状況及びプロセスの中で検出されたパターンと規則性はまず、訓練ルールセットTに繰り返し保存され、これは動的且つ恒常的に更新される。ルールセット発生器5により動作的基準ルールセットRが訓練ルールセットTから形成され、基準ルールセットメモリ6の中に保存される。すると、AIプロセッサ4が受け取った視覚的及び/又は聴覚的監視信号Eの中のデータパターンを、予定通りの、危機的状況ではないと分類されるデータパターンからの逸脱の点でチェックするようにとの要求Qを監視プロセッサ1から受け取った場合、AIプロセッサ4は、基準として基準ルールセットメモリ6の中に保存された基準ルールセットRを参照できる。この基準に関して、AIプロセッサ4は、予定通りの、又は正常とみなされるべきである状況又はプロセスからの逸脱が航空機客室20の監視対象領域内で発生したか否かをチェックする。ルールセット発生器5は、基準ルールセットメモリ6に保存された基準ルールセットRを新たに追加された観察データに基づいて、又は新たな外的プリ定義に基づいて定期的間隔で更新できる。
【0035】
逸脱分析の結果は、監視プロセッサ1にフィードバックされ、これはすると、AIプロセッサ4により特定された逸脱が1つ又は複数の事前決定可能な逸脱閾値を超えているか否かのインディケータ信号Aを、出力インタフェース8を介して出力するように設計されている。
【0036】
インディケータデータメモリ2を監視プロセッサ1に連結できる。前記インディケータデータメモリ2は、複数のインディケータ信号プリ定義Lを一時的又は永久的に保存する役割を果たし、監視プロセッサ1はこれにアクセスして、AIプロセッサ4により特定された逸脱の種類に応じて、複数のインディケータ信号プリ定義Lのうちの1つをインディケータデータメモリ2から呼び出し、それをインディケータ信号Aとして出力インタフェース8で出力することができる。
【0037】
警告装置22が出力インタフェース8に接続される。前記警告装置22は、受け取った監視プロセッサ1のインディケータ信号Aに応じて、航空機客室20内の危険である可能性のある状況に関する警告表示をユーザに対して表示するために使用でき、航空機客室20からの実際の画像又は音声記録は示されなくてよい。これは、モニタ対象の客室20内の航空機の乗客のプライバシーを保護するのに寄与できる。
【0038】
図3に例として示されているように、状況認識装置10は、旅客機Aの航空機客室20の中に取り付けることができる。この目的のために、航空機客室20内の1つ又は複数の監視カメラ21を監視プロセッサ1の入力インタフェース7に連結して、視覚的及び/又は聴覚的監視信号Eを監視プロセッサ1にリアルタイムで送信できる。航空機客室20はそれに加えて、警告信号インタフェース24を有することができ、それを介して警告装置22は警告信号Cを航空機Aのコックピットに、及び/又は乗務員のコンソール30に出力できる。
【0039】
有利な点として、状況認識装置10の全ての構成部品及び、警告装置22もまた航空機客室20に取り付けることができる。しかしながら、個々の構成部品又はシステム構成要素を航空機客室20の外に取り付けることも可能であるかもしれない。
【0040】
図2は、航空機客室内のプロセスと状況の自動監視のための方法Mを示す。方法Mは例えば、例として
図1に示されるような状況認識装置10内で実行でき、例えば、例として
図3に示され、説明されているような旅客機Aの中の、例として
図1に示されているような航空機客室20の監視のために使用できる。
【0041】
方法Mは、第一のステップM1として、監視プロセッサ1により航空機客室20から視覚的及び/又は聴覚的監視信号Eを受信するステップを含む。この場合、状況認識装置10は例えば電子データ処理システムの一部とすることができ、その中では交通移動に関する観察データが記録され、処理され、一時的にのみ保存される。第二のステップM2において、受信した視覚的及び/又は聴覚的監視信号Eは、AIシステム3のAIプロセッサ4により、AIシステム3の基準ルールセットメモリ6に保存され、ルールセット発生器5により自己学習アルゴリズムに基づいて生成された基準ルールセットRとの逸脱についてチェックされる。これは、自己学習アルゴリズムに基づくAIシステム3のルールセット発生器5により行われる。このようなルールセット発生器5は例えば、サポートベクトル分類器、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト分類器、決定木分類器、モンテカルロネットワーク、又はベイズ分類器を含むことができる。
【0042】
反復的な動的適応型学習プロセスでは、訓練ルールセットTをルールセット発生器5の中で生成できる。前記訓練ルールセットTは、1回生成することも、又は連続的に、特に航空機客室20内の状況とプロセスに関する現在観察データの継続的な受信の過程で更新することもできる。ルールセット発生器5は、訓練ルールセットTから基準ルールセットRを生成することができ、前記基準ルールセットは、ルールセット発生器5により検出されたパターンと規則性に基づく。基準ルールセットRは、ルールセット発生器5によりAIシステム3の基準ルールセットメモリ6の中に保存される。前記基準ルールセットRは動作的ルールセットを構成し、これを利用して、受信された視覚的及び/又は聴覚的監視信号Eの中のデータパターンが、予定通りの、危険でないと分類されるデータパターンからの逸脱についてチェックされる。この目的のために、AIプロセッサ4は、基準として、基準ルールセットメモリ6の中に保存された基準ルールセットRを参照できる。前記基準に関して、AIプロセッサ4は、予定通りの、通常とみなされるべき状況又はプロセスからの逸脱が航空機客室20のモニタ対象領域内で発生したか否かをチェックする。
【0043】
方法Mの第三のステップM3で、最後に、AIプロセッサ4により特定された逸脱が1つ又は複数の事前決定可能な逸脱閾値を超えるか否かのインディケータ信号Aが監視プロセッサ1により出力される。前記インディケータ信号Aは、人間のユーザに、航空機客室20内に異常とみなされるべき状況又はプロセスの存在を知らせる役割を果たす。すると、異常と分類された状況又はプロセスは、フライトの安全に対する危険の可能性の発生に早い段階で対応できるようにするために、適切な対応策が開始されるように自動的又は半自動的にシステム内に供給できる。特に、飛行フェーズに応じてインディケータ信号Aを出力することが可能であるかもしれない。例えば、航空機の離陸又は着陸プロセス中、非常口等の特定の領域では、例えば巡航中又は航空機が地上にいる間には一時的にそこに置くことが許される鞄やスーツケース等の物をどける必要があるかもしれない。したがって、監視プロセッサ1は、航空機ネットワークに接続して航空機の動作状態信号を取得することができ、これを、インディケータ信号Aを出力すべきか否かに関する監視プロセッサ1による判断に含めることができる。
【0044】
上述の詳細な説明の中で、各種の特徴を1つ又は複数の例にまとめて、説明をより正確にしようとした。しかしながら、ここで明確にすべきことは、上記の説明は単に例示に過ぎず、限定的な性格のものではないという点である。これは、各種の特徴と例示的な実施形態のあらゆる代替、改良、及び均等物をカバーするものである。その他の多くの例は、当業者にとって、その技術的知見をもとに上記の説明に鑑みれば、すぐに容易に明らかとなるであろう。
【0045】
例示的な実施形態は、本発明の基本原理とその現実的な応用の可能性をできるだけうまく提示できるように選択され、説明されている。その結果、当業者であれば、本発明及びその様々な例示的実施形態を所期の用途に関して最適に改良し、利用することができる。特許請求の範囲及び説明文の中で、「~を含む(including)」及び「~を有する」という用語は、「~を含む(comprising)」という対応する用語の中間的な文言として表現される用語として使用されている。さらに、「ある」及び「ひとつの」(a、an、one)という用語の使用は、基本的に、このように記載された特徴及び構成要素が複数あることを排除しないものとする。
【符号の説明】
【0046】
1 監視プロセッサ
3 AIシステム
4 AIプロセッサ
5 ルールセット発生器
6 基準ルールセットメモリ
7 入力インタフェース
8 出力インタフェース
10 状況認識装置
20 航空機客室
21 監視カメラ
22 警告装置
24 警告信号インタフェース
A インディケータ信号
A 航空機
C 警告信号
E 視覚的及び/又は聴覚的監視信号
L インディケータ信号プリ定義
R 基準ルールセット
Q 要求