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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】耐熱部材
(51)【国際特許分類】
   F27D 1/00 20060101AFI20240522BHJP
   F27D 1/14 20060101ALI20240522BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20240522BHJP
   C04B 35/84 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
F27D1/00 G
F27D1/14 F
C04B35/80
C04B35/84
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020100888
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021196081
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-124798(JP,U)
【文献】特開昭57-6288(JP,A)
【文献】国際公開第2015/015224(WO,A1)
【文献】特開2010-215459(JP,A)
【文献】特開2013-210372(JP,A)
【文献】特開2009-203091(JP,A)
【文献】特開平10-196862(JP,A)
【文献】特開2012-76971(JP,A)
【文献】国際公開第1998/030853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00
F27D 1/14
C04B 35/80
C04B 35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の耐熱板と、前記耐熱板の少なくとも一方の面に備え付けられた取付け具とからなる耐熱部材であって、
前記耐熱板と前記取付け具とは、セラミック繊維からなる骨材と、該骨材の周囲に配設されたセラミックマトリックスとからなるセラミック繊維強化セラミック複合材料により構成され、
前記耐熱板を構成する骨材は、セラミック繊維シートが複数層積層された骨材積層体からなり、前記耐熱板の少なくとも一方の面に有底孔が設けられており、
前記取付け具を構成する骨材は、ブレイディング体からなり、前記取付け具は、前記有底孔に挿入され、前記骨材積層体を構成する複数層のセラミック繊維シートの間で前記耐熱板の面方向に広がる鍔部と、該鍔部から延びる柱状又は筒状の取付け具本体とからなることを特徴とする耐熱部材。
【請求項2】
前記取付け具本体には、ネジが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の耐熱部材。
【請求項3】
前記取付け具本体のネジは、前記ブレイディング体のうねりによる凹凸で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の耐熱部材。
【請求項4】
前記セラミック繊維はSiC繊維であり、前記セラミックマトリックスはSiCであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項5】
前記セラミック繊維は炭素繊維であり、前記セラミックマトリックスは炭素であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項6】
前記セラミック繊維はアルミナ繊維であり、前記セラミックマトリックスはアルミナであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の耐熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック繊維強化セラミック複合材料は、高い強度、耐熱性、靭性を備えるとともに軽量であるので、高温炉、原子力、冶金、ガスタービン、半導体製造装置の部材や断熱材など過酷な環境下で使用することが可能な部材として注目されている。
【0003】
このセラミック繊維強化セラミック複合材料は、そもそもセラミック材料であるので、溶接などで複数の部材を接合する方法は適用できないうえに、内部に強化繊維が入っているので、切削加工を行って所定の形状のものを作製しようとしても、繊維の切断による強度の低下が起き、目的の形状を得ることが難しい。そのため、セラミック繊維強化セラミック複合材料を用いて、所定の形状や機能を有する部材を作製する際、様々な方法がとられていた。
【0004】
例えば、特許文献1には、炭素繊維強化複合材料からなるネジ山を有する部材であって、縦断面において少なくとも2つのネジ山にわたって軸方向に沿って延びる炭素繊維が、前記少なくとも2つのネジ山の縦断面における表面形状に沿うように前記少なくとも2つのネジ山にジグザグ状に埋め込まれている、炭素繊維強化複合材料からなるネジ山を有する構造の部材が記載されている。
【0005】
特許文献1には、炭素繊維によってネジ山を補強できる新規な炭素繊維の埋め込み構造をとることにより、少なくともネジ山が炭素繊維強化複合材料からなるナット及びボルトの強度を飛躍的に改善できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-105299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の発明を、表裏で断熱する耐熱板を有する耐熱部材に適用すると、ボルトとナットで固定する構造をとっているので、ボルトやナットを構成する炭素繊維に沿って熱が耐熱板を貫通して伝達され、断熱性能の低下をもたらすという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、取付け構造を備えた耐熱部材であって、熱が伝達しにくく、断熱性能に優れ、強度の高い耐熱部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の耐熱部材は、板状の耐熱板と、上記耐熱板の少なくとも一方の面に備え付けられた取付け具とからなる耐熱部材であって、上記耐熱板と上記取付け具とは、セラミック繊維からなる骨材と、該骨材の周囲に配設されたセラミックマトリックスとからなるセラミック繊維強化セラミック複合材料により構成され、上記耐熱板を構成する骨材は、セラミック繊維シートが複数層積層された骨材積層体からなり、上記耐熱板の少なくとも一方の面に有底孔が設けられており、上記取付け具を構成する骨材は、ブレイディング体からなり、上記取付け具は、上記有底孔に挿入され、上記骨材積層体を構成する複数層のセラミック繊維シートの間で上記耐熱板の面方向に広がる鍔部と、該鍔部から延びる柱状又は筒状の取付け具本体とからなることを特徴とする。
本明細書において、上記有底孔とは、孔が耐熱板を貫通しておらず、途中で孔が塞がれ、底部を有する孔をいう。
【0010】
本発明の耐熱部材によれば、上記取付け具を構成する取付け具本体は、セラミック繊維の周囲にセラミックマトリックスが配設されたブレイディング体からなるので、強度が高く、さらに、上記取付け具は、下部に耐熱板の面方向にブレイディング体が広がる鍔部を有し、該鍔部は、有底孔の内部で、上記耐熱板を構成するセラミック繊維シートに挟まれ、セラミックマトリックスに囲まれているので、上記耐熱板に強固に接合されている。さらに、上記耐熱板には、厚さ方向に貫通する繊維は存在しないので十分な断熱性を確保することが可能な耐熱部材となる。
【0011】
さらに、取付け具は、有底孔に挿入されており、有底孔は、反対側に貫通しておらず、耐熱板は、高温にさらされる側において、面方向にセラミック繊維が延びているので、厚み方向に熱を伝達させにくい構造の耐熱部材を提供することができる。
【0012】
本発明の耐熱部材は、以下の態様であることが望ましい。
本発明の耐熱部材では、上記取付け具本体に、ネジが形成されていることが望ましい。
また、本発明の耐熱部材において、上記取付け具本体に、ネジ(雄ネジ又は雌ネジ)が形成されていると、このネジを介して耐熱部材を他の部材に容易に取り付けることができる。
【0013】
本発明の耐熱部材では、上記取付け具本体のネジは、上記ブレイディング体のうねりによる凹凸で形成されていることが望ましい。
【0014】
本発明の耐熱部材において、上記取付け具本体のネジが、上記ブレイディング体のうねりによる凹凸で形成されており、ネジの形状となっていると、このネジの凹凸は、高強度で破損されにくいので、このネジを用いることにより、強固にしっかりと他の部材に取り付けることができる。
【0015】
本発明の耐熱部材では、上記セラミック繊維はSiC繊維であり、上記セラミックマトリックスはSiCであることが望ましい。
本発明の耐熱部材において、上記セラミック繊維はSiC繊維であり、上記セラミックマトリックスはSiCであると、空気酸化に強いSiC繊維強化SiC複合材料の耐熱部材を得ることができるので、ガスタービンの部材や、酸化雰囲気で使う耐熱部材として好適に利用することができる。
【0016】
本発明の耐熱部材では、上記セラミック繊維は炭素繊維であり、上記セラミックマトリックスは炭素であることが望ましい。
本発明の耐熱部材において、上記セラミック繊維は炭素繊維であり、上記セラミックマトリックスは炭素であると、特に耐熱性の高い炭素繊維強化炭素複合材料を得ることができるので、使用温度の高い高温炉の部材や半導体製造装置の部材などで好適に利用することができる。
【0017】
本発明の耐熱部材では、上記セラミック繊維はアルミナ繊維であり、上記セラミックマトリックスはアルミナであることが望ましい。
本発明の耐熱部材において、上記セラミック繊維はアルミナ繊維であり、上記セラミックマトリックスはアルミナであると、耐熱性、耐酸化性が高い、アルミナ繊維強化アルミナ複合材料を得ることができるので、酸化雰囲気下で使用温度の高い高温炉の部材などで好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の耐熱部材によれば、上記取付け具を構成する取付け具本体は、セラミック繊維の周囲にセラミックマトリックスが配設されたブレイディング体からなるので、強度が高く、さらに、上記取付け具は、下部に耐熱板の面方向に広がる鍔部を有し、該鍔部は、有底孔の内部で、上記耐熱板を構成するセラミック繊維シートに挟まれ、セラミックマトリックスに囲まれているので、上記耐熱板に強固に接合されている。さらに、上記耐熱板には、厚さ方向に貫通する繊維は存在しないので十分な断熱性を確保することが可能な耐熱部材となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る耐熱部材を模式的に示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示した耐熱部材を構成する取付け具及びその近傍を示す部分拡大縦断面図である。
図2図2(a)は、本発明の第1実施形態に係る耐熱部材を構成する取付け具を模式的に示す平面図であり、図2(b)は、図2(a)に示した取付け具の側面図であり、図2(c)は、上記取付け具の縦断面図である。
図3図3(a)は、本発明の第2実施形態に係る耐熱部材を模式的に示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示した耐熱部材を構成する取付け具及びその近傍を示す部分拡大縦断面図である。
図4図4(a)は、本発明の第2実施形態に係る耐熱部材を構成する取付け具を模式的に示す平面図であり、図4(b)は、図4(a)に示した取付け具の側面図であり、図4(c)は、上記取付け具の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の耐熱部材について、各実施形態に分けて詳細に説明するが、本発明は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0021】
本発明の耐熱部材は、板状の耐熱板と、上記耐熱板の少なくとも一方の面に備え付けられた取付け具とからなる耐熱部材であって、上記耐熱板と上記取付け具とは、セラミック繊維からなる骨材と、該骨材の周囲に配設されたセラミックマトリックスとからなるセラミック繊維強化セラミック複合材料により構成され、上記耐熱板を構成する骨材は、セラミック繊維シートが複数層積層された骨材積層体からなり、上記耐熱板の少なくとも一方の面に有底孔が設けられており、上記取付け具を構成する骨材は、ブレイディング体からなり、上記取付け具は、上記有底孔に挿入され、上記骨材積層体を構成する複数層のセラミック繊維シートの間で上記耐熱板の面方向に広がる鍔部と、該鍔部から延びる柱状又は筒状の取付け具本体とからなることを特徴とする。
【0022】
本発明の耐熱部材によれば、上記取付け具を構成する取付け具本体は、セラミック繊維の周囲にセラミックマトリックスが形成されたブレイディング体からなるので、強度が高く、さらに、上記取付け具は、下部に耐熱板の面方向にブレイディング体が広がる鍔部を有し、該鍔部は、有底孔の内部で、上記耐熱板を構成するセラミック繊維シートに挟まれ、セラミックマトリックスに囲まれているので、上記耐熱板に強固に接合されている。さらに、上記耐熱板には、厚さ方向に貫通する繊維は存在しないので十分な断熱性を確保することが可能な耐熱部材となる。
【0023】
さらに、取付け具は、有底孔に挿入されており、有底孔は、反対側に貫通しておらず、耐熱板は、高温にさらされる側において、面方向にセラミック繊維が延び、厚み方向に熱を伝達させにくい構造の耐熱部材を提供することができる。
【0024】
本発明の耐熱部材は、耐熱板と取付け具とからなり、上記耐熱板と上記取付け具とは、セラミック繊維からなる骨材と、該骨材の周囲に配設されたセラミックマトリックスとからなるセラミック繊維強化セラミック複合材料により構成されている。
【0025】
本発明の耐熱部材の骨材となるセラミック繊維の材料は、特に限定されるものではないが、セラミックマトリックスの材料と同じ材料であることが望ましい。二つの材料が同じ材料であると、親和性に優れるので、セラミックマトリックスとセラミック繊維とが強固に接合され、機械的特性に優れたセラミック繊維強化セラミック複合材料となる。
【0026】
上記セラミック繊維の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、SiC繊維、炭素繊維、SiO繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維、シリカアルミナ繊維等が挙げられる。
【0027】
上記セラミック繊維のなかでは、炭素繊維及びSiC繊維、アルミナ繊維が望ましい。すなわち、本発明の耐熱部材を構成するセラミック繊維強化セラミック複合材料は、炭素繊維強化炭素複合材料、SiC繊維強化SiC複合材料あるいはアルミナ繊維強化アルミナ複合材料であることが望ましい。
【0028】
上記炭素繊維は、特に耐熱性に優れるため、使用温度の高い高温炉の部材や半導体製造装置の部材などとして好適に使用され、一方、SiCは、空気酸化に強く、酸化性雰囲気で耐酸化性が要求される部材等として好適に使用される。また、アルミナ繊維は耐熱温度が高い上に酸化物系セラミックであるので、酸化雰囲気下で好適に使用することができる。
【0029】
セラミック繊維の材料が炭素繊維である場合、炭素繊維の材料は特に限定されず、PAN系炭素繊維であっても、ピッチ系炭素繊維であってもよい。
炭素繊維の直径は、5~50μmが望ましい。炭素繊維の直径が5μm以上であると、炭素繊維が充分な強度を有するので、炭素複合材料の機械的特性を改善することができる。一方、炭素繊維の直径が50μm以下であると、炭素繊維の直径が大きすぎないので、曲げても折れにくい。
【0030】
セラミック繊維の材料がSiC繊維である場合、SiC繊維の直径は、5~20μmであることが望ましい。
SiC繊維の直径が5μm以上であると繊維表面に発生する微少な傷などの欠陥の影響を小さくすることができ、折れにくくすることができる。SiC繊維の直径が20μm以下であると、曲げに伴って延びる側の外表面に発生する張力を抑制することができ、折れにくくすることができる。
【0031】
セラミック繊維の材料がアルミナ繊維である場合、アルミナ繊維の直径は、5~20μmであることが望ましい。
アルミナ繊維の直径が5μm以上であると繊維表面に発生する微少な傷などの欠陥の影響を小さくすることができ、折れにくくすることができる。アルミナ繊維の直径が20μm以下であると、曲げに伴って延びる側の外表面に発生する張力を抑制することができ、折れにくくすることができる。
【0032】
上記セラミック繊維は、セラミック繊維を複数本、束ねたストランドの形態で構成されていることが望ましい。
ストランドを構成するセラミック繊維の数は100~10000本であることが好ましい。ストランドを構成するセラミック繊維の数が100本以上であると、ストランドの隙間を大きくすることができ、セラミックマトリックス前駆体を内部まで浸透しやすくすることができる。
【0033】
ストランドを構成するセラミック繊維の数が10000本以下100本以上であると、ストランドを曲げた際にストランドの断面形状が容易に潰れ、セラミック繊維が自由に再配列しやすく、曲げ応力のかかりにくい薄いバンド状になり、変形させ容易に目的の取付け具の形状を得ることができる。
【0034】
本発明の耐熱部材を構成するセラミックマトリックスは、特に限定されるものではないが、例えば、SiC等の炭化物系セラミック、黒鉛等の炭素材料、コージェライト、アルミナ、シリカ、ムライト等の酸化物系セラミック等が挙げられる。これらのなかでは、黒鉛等の炭素材料やSiCが好ましい。
【0035】
上記セラミックマトリックスは、例えば、セラミック繊維の周囲にセラミックマトリックスの前駆体を含浸、充填させて含浸体を形成し、含浸体を硬化させた後、焼成することにより形成することができる。
【0036】
セラミック繊維がSiCである場合には、セラミックマトリックスもSiCであることが望ましく、セラミック繊維が黒鉛等の炭素材料である場合には、セラミックマトリックスも黒鉛等の炭素材料が好ましく、セラミック繊維がアルミナ繊維である場合には、セラミックマトリックスもアルミナであることが望ましい。
【0037】
セラミックマトリックスの前駆体の種類は、特に限定されるものではないが、焼成することにより炭素化又は黒鉛化するセラミックマトリックスの前駆体としては、コプナ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂等の炭化収率の高い熱硬化性樹脂のほか、石油系、石炭系等から得られるコールタールやピッチ等を用いることができる。
【0038】
他のセラミックマトリックスの前駆体としては、例えば、ポリカルボシラン、ポリオルガノボロシラザン、ポリメタロキサン、ポリボロシロキサン、ポリカルボシラザン等が挙げられる。上記セラミックマトリックスの前駆体のなかで、ポリカルボシランからはSiC、ポリオルガノボロシラザンからはSiNBCセラミック、ポリメタロキサンからは酸化物系セラミック、ポリオルガノボロシラザンからは、B-Si-C-N系セラミック、ポリカルボシラザンからはSi-C-N系セラミックが得られる。
また、アルミナからなるセラミックマトリックスを得る場合には、アルミニウム塩を用い、例えば高塩基性塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、乳酸アルミニウムなどを利用することができる。
これらの前駆体で液状のものはそのまま使用でき、固体のものは、所定の溶媒を用いることにより、上記前駆体を含む溶液となるので、セラミック繊維の周囲に塗布することが可能である。
【0039】
これらのセラミックマトリックスの前駆体は、黒鉛、SiC、アルミナ等のセラミック粒子を含んでいることが望ましい。上記焼成工程におけるセラミックマトリックスの収縮によるクラックの発生等を防止することができ、歩留まりを高めることができ、効率よくセラミック繊維強化セラミック複合材料を形成することができる。また、セラミック粒子が含まれることにより、セラミックマトリックスの前駆体が焼成体となった際、焼成体の強度を増加させることができる。
これらの観点から、セラミックマトリックスの前駆体に含有されるセラミック粒子は、セラミックマトリックスと同じ材料からなるものが望ましい。
【0040】
このように、セラミック繊維の周囲にセラミックマトリックスの前駆体を含浸させた後、この含浸体を硬化させる。
この硬化工程では、含浸工程を経た含浸体を加熱することにより硬化させることができる。
セラミックマトリックスの前駆体が熱硬化性樹脂であれば、加熱することにより重合が進行するため、硬化させることができる。また、溶媒を含む前駆体であれば、溶媒を蒸発させることにより、硬化させることができる。さらに、セラミックマトリックスの前駆体が紫外線等を照射することにより硬化する樹脂であれば、紫外線等を照射すればよい。
【0041】
次に、硬化工程を経て、充填部が硬化された含浸体を焼成することにより、硬化した部分をセラミックマトリックスに変化させる。
セラミックマトリックスの前駆体として炭素材料の前駆体である、コールタールやピッチ等を用いた場合には、1000℃程度の温度で焼成し、必要があれば2000~3000℃程度の高温で加熱処理することにより黒鉛化させる。
セラミックマトリックスの前駆体として、炭素材料の前駆体である熱硬化性樹脂を用いた場合には、800~2000℃で焼成し、セラミックマトリックスを得ることができる。
炭素材料からなるセラミックマトリックスは、充分に炭素化していればよく、必ずしも完全に黒鉛化していなくてもよい。
【0042】
セラミックマトリックスの前駆体として、SiC等の前駆体であるポリカルボシラン、ポリオルガノボロシラザン、ポリメタロキサン、ポリボロシロキサン、ポリカルボシラザン等を用いた場合、800~2000℃で加熱処理することにより、セラミックマトリックスとすることができる。製造するセラミックマトリックスが非酸化物系セラミックの場合には、焼成処理は、不活性ガス雰囲気で行うことが望ましく、製造するセラミックマトリックスが酸化物系セラミックの場合、酸素を含む雰囲気で行うことが望ましい。
【0043】
セラミックマトリックスの前駆体として、アルミナ等の前駆体である塩化アルミニウム、リン酸アルミニウム等を用いた場合、800~1200℃で加熱処理することにより、セラミックマトリックスとすることができる。この場合、製造するセラミックマトリックスが酸化物系セラミックであるので、酸素を含む雰囲気で行うことが望ましい。
【0044】
上述した工程により、セラミック繊維の周囲がセラミックマトリックスにより被覆されたセラミック繊維強化セラミック複合材料を得ることができる。
【0045】
セラミックマトリックスの製造方法は、これらの前駆体法に限らず、原料ガスを骨材内部に気相含浸するCVI法でも得ることができ、上記の方法と組み合わせて行ってもよい。SiCからなるセラミックマトリックスを得る場合には、炭化水素とシラン系の混合ガス、シリコンと炭素を含む原料ガスを用い、炭素からなるセラミックマトリックスを得る場合には、炭化水素の原料ガスとして用い、CVD炉内で骨材を加熱し、骨材内部で原料ガスを気相成長させることによりセラミックマトリックスを得ることができる。加熱の温度は特に限定されないが、例えば、800~1500℃で加熱することによって得ることができる。
【0046】
次に、本発明の耐熱部材を構成する取付け具及びその製造方法について説明する。
本発明の取付け具は、セラミック繊維からなる骨材と、該骨材の周囲に配設されたセラミックマトリックスとからなるセラミック繊維強化セラミック複合材料により構成され、上記取付け具を構成する骨材は、ブレイディング体からなり、上記取付け具は、上記有底孔に挿入され、上記骨材積層体を構成する複数層のセラミック繊維シートの間で上記耐熱板の面方向に広がる鍔部と、該鍔部から延びる柱状又は筒状の取付け具本体とからなる。
【0047】
本発明の取付け具を構成する骨材は、ブレイディング体からなり、上記耐熱板の面方向に広がる鍔部と、該鍔部から延びる柱状又は筒状の取付け具本体とからなる。
【0048】
ブレイディング体とは、芯材の周囲にストランドを管状となるように織ったものであって、芯材の表面に沿って互いに逆方向に旋回するように2方向のストランドが配列されたものである。芯材の長手方向に沿って配列したストランドをさらに加えたブレイディング体であってもよい。この場合には3方向のストランドが配列して形成されていることとなる。
【0049】
本発明では、取付け具は、鍔部と該鍔部から延びる柱状の取付け具本体(雄ネジ形状)からなる場合と、鍔部と該鍔部から延びる筒状の取付け具本体(雌ネジ形状)からなる場合とが考えられる。
【0050】
本発明において、取付け具が「雄ネジ形状」からなる場合、上記芯材は、上記したセラミックマトリックスからなり、柱状のセラミックマトリックスの周囲にストランドを管状に織ったブレイディング体を形成し、最下部では、織りを解くことにより横方向に広がった構造とする。このように形成されたセラミック繊維の周囲に、上記したように、セラミックマトリックスの前駆体を含浸させて含浸体を形成し、含浸体を硬化させた後、焼成することにより柱状の取付け具本体と横方向に広がった構造の鍔部とからなる取付け具とする。
【0051】
この際、芯材に巻き付けたブレイディング体をうねりによる凹凸で形成されている形状、すなわち雄ネジの形状とすることにより、得られる取付け具も鍔部と該鍔部から延びる雄ネジ形状の取付け具本体とからなる取付け具とすることができる。また、芯材自体をうねりによる凹凸で形成された雄ネジ形状とすることによっても、取付け具本体を雄ネジ形状とすることとができる。このほか、均一な厚さで巻き付けられたブレイディング体の上にストランドを螺旋状に巻き付けることにより、雄ネジ形状とすることができる。
【0052】
この場合、柱状の芯材(セラミックマトリックス)を構成する材料は、モノリシックなセラミック材料のみからなるものであってもよく、セラミック繊維強化セラミック複合材料などのほか、他の材料を含んでいてもよい。また、芯材自体は必須ではなく、強度さえ十分に確保できれば中空の取付け具であってもよい。
芯材のセラミックマトリックスを構成するセラミック材料は、特に限定されるものではないが、例えば、コージェライト、アルミナ、シリカ、ムライト等の酸化物系セラミック、SiC等の炭化物系セラミック、黒鉛等の炭素材料等のほか、これらのセラミックを複合させたセラミック繊維強化複合材料が挙げられる。これらのなかでは、黒鉛等の炭素材料やSiCが好ましい。
【0053】
芯材のセラミックマトリックスがSiCからなる場合は、例えば、SiC微粒子を有機バインダ、焼結助剤等とともに、成型して棒形状又は雄ネジ形状の成形体を作製し、脱脂、焼成したものであることが望ましい。得られる焼成体は、密度が高いものが好ましい。
【0054】
芯材のセラミックマトリックスが黒鉛からなる場合は、黒鉛は、等方性黒鉛材等として使用される黒鉛材料であることが望ましい。
等方性黒鉛材とは、等方的な構造、特性を有する黒鉛材料であり、例えば、CIP(静水圧成形法)により製造することができる。具体的には、例えば、圧力容器内で等方性黒鉛材の原料粉をゴムバックに詰め、水などで加圧することにより成形したのち、焼成、黒鉛化することにより製造することができる。なお、等方性黒鉛材においては、原料粉の平均粒子径は、例えば10~50μmであり、黒鉛材料が細かな組織を有していることが特徴である。
【0055】
取付け具が「雄ネジ形状」からなる場合、取付け具本体の直径は、3~20mmが望ましく、その高さは、10~100mmが望ましい。
【0056】
一方、上記取付け具が、「雌ネジ形状」からなる場合、雄ネジ形状からなる取付け具の場合と同様に、芯材の周囲にブレイディング体を形成し、最下部では、織りを解くことにより横方向に広がった構造とし、同様にセラミックマトリックスの前駆体を用いてセラミック繊維の周囲にセラミックマトリックスを形成するが、その後、芯材を除去することにより、鍔部と、該鍔部から延びる筒状の取付け具本体とからなる(雌ネジ形状の)取付け具とすることができる。
この場合、芯材を雄ネジの形状とする必要があり、芯材を取り除くと、筒状体からなる取付け具本体は、内側が雌ネジの形状となり、雄ネジを筒状体にねじ込み、固定することができる。
【0057】
芯材を除去する方法は、特に限定されるものではないが、芯材を耐熱温度の低い樹脂等で構成することにより、セラミック繊維の周囲に形成されたセラミックマトリックスの前駆体を焼成する際、芯材を構成する樹脂は、熱分解し、焼失するため、除去することができる。芯材を除去する方法としては、セラミックマトリックスの前駆体を硬化させた後、物理的に除去してもよく、溶剤等に溶かすことにより、除去してもよい。
【0058】
取付け具が「雌ネジ形状」からなる場合、円筒状の取付け具本体の内径は、3~20mmが望ましく、その高さは、3~100mmが望ましい。
【0059】
次に、本発明の耐熱部材を構成する耐熱板及びその製造方法について説明する。
本発明の耐熱部材を構成する耐熱板は、セラミック繊維からなる骨材と、該骨材の周囲に配設されたセラミックマトリックスとからなるセラミック繊維強化セラミック複合材料により構成され、上記耐熱板を構成する骨材は、セラミック繊維シートが複数層積層された骨材積層体からなり、上記耐熱板の少なくとも一方の面に有底孔が設けられている。
【0060】
耐熱板を構成するセラミック繊維としては、セラミック繊維シートが複数層積層された骨材積層体を用いる。セラミック繊維シートとしては、上記ストランドを使用したクロス(織物)が複数層折り重ねられた骨材積層体を用いる。
セラミック繊維シートとなるクロス(織物)の種類は、特に限定されず、平織、綾織、繻子織、三次元立体織等により形成されたもの等が挙げられる。
骨材積層体の積層数は、特に限定されるものではないが、2層以上が望ましく、3~100層がより望ましい。また、耐熱板の厚さは、1~20mmが望ましい。
【0061】
本発明の場合、平面状のクロスを複数層積層することにより、骨材積層体とし、骨材積層体を構成するセラミック繊維の周囲にセラミックマトリックスの前駆体を含浸させて含浸体を形成し、含浸体を硬化させた後、焼成することによりセラミックマトリックスとするが、骨材積層体を構成するセラミック繊維の周囲にセラミックマトリックスの前駆体を含浸させて含浸体を形成した後、有底孔を形成し、有底孔に上記方法により製造した取付け具を鍔部が複数層のセラミック繊維シートに挟まれる態様で挿入し、その後、セラミックマトリックスの前駆体を硬化させ、焼成することにより、取付け具が備え付けられた耐熱板を製造することができる。
セラミックマトリックスの製造方法は、これらに限定されず、CVI法を用いることもできる。
【0062】
耐熱板の一方の面に備え付けられる取付け具の数は、100cm当たり1~5個が望ましい。取付け具は、耐熱板の両方の面に備え付けられていてもよい。
【0063】
以下、具体的な実施形態について説明するが、第1実施形態では、耐熱部材を構成する取付け具が、鍔部と該鍔部から延びる柱状(雄ネジ形状)の取付け具本体からなる場合を表しており、第2実施形態では、耐熱部材を構成する取付け具が、鍔部と該鍔部から延びる筒状(雌ネジ形状)の取付け具本体からなる場合を表している。
【0064】
<第1実施形態>
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る耐熱部材を模式的に示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示した耐熱部材を構成する取付け具及びその近傍を示す部分拡大縦断面図である。また、図2(a)は、本発明の第1実施形態に係る耐熱部材を構成する取付け具を模式的に示す平面図であり、図2(b)は、図2(a)に示した取付け具の側面図であり、図2(c)は、上記取付け具の縦断面図である。
【0065】
図1(a)に示すように、この耐熱部材10は、板状の耐熱板11と、耐熱板11の一方の面に備え付けられた2個の取付け具21とからなる。耐熱板11は、セラミック繊維の織布からなる骨材(セラミック繊維シート)が4層積層され、4層のセラミック繊維シート11a、11b、11c、11dを構成する繊維の周囲にセラミックマトリックスが配設されたセラミック繊維強化セラミック複合材料からなる。
【0066】
この取付け具21は、図1(b)に示すように、最下部において、耐熱板11の面方向に広がる鍔部21aと、鍔部21aから延びる柱状の取付け具本体21bとからなり、鍔部21aは、有底孔11hに挿入され、骨材積層体を構成する4層のセラミック繊維シート11a、11b、11c、11dに挟まれるように広がっており、鍔部21aの周囲にも、セラミックマトリックスが配設されており、これにより、取付け具21は、しっかりと耐熱板11に接合されている。骨材積層体の積層数は、4層に限定されず、3層であっても、5層以上であってもよい。
【0067】
さらに、図2(a)、図2(b)及び図2(c)に示すように、取付け具21は、芯材22である、セラミックマトリックスにほぼ均一な厚さで巻き付けられたブレイディング体23と、最下部において、芯材22から横方向に広がったブレイディング体24と、螺旋形状にブレイディング体に巻き付けられたストランド25とを有している。そして、これらのブレイディング体23、24及びストランド25を構成するセラミック繊維の周囲にセラミックマトリックスとなるセラミックの前駆体を含浸させて含浸体を形成し、含浸体を硬化させた後、焼成することにより取付け具21が作製されており、その結果、取付け具本体21bは、雄ネジ形状となっており、この雄ネジを介して他の部材に結合させることができる。
【0068】
<第2実施形態>
図3(a)は、本発明の第2実施形態に係る耐熱部材を模式的に示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示した耐熱部材を構成する取付け具及びその近傍を示す部分拡大縦断面図である。図4(a)は、本発明の第2実施形態に係る耐熱部材を構成する取付け具を模式的に示す平面図であり、図4(b)は、図4(a)に示した取付け具の側面図であり、図4(c)は、上記取付け具の縦断面図である。
【0069】
図3(a)に示すように、この耐熱部材30は、板状の耐熱板31と、耐熱板31の一方の面に備え付けられた2個の取付け具41とからなる。耐熱板31は、セラミック繊維の織布からなる骨材(セラミック繊維シート)が4層積層され、4層のセラミック繊維シート31a、31b、31c、31dの周囲にセラミックマトリックスが配設されたセラミック繊維強化セラミック複合材料からなる。
【0070】
この取付け具41は、図3(b)に示すように、最下部において、耐熱板31の面方向に広がる鍔部41aと、鍔部41aから延びる筒状の取付け具本体41bとからなり、鍔部41aは、有底孔31hに挿入され、骨材積層体を構成する4層のセラミック繊維シート31a、31b、31c、31dに挟まれるように広がっており、鍔部41aの周囲にも、セラミックマトリックスが配設されており、これにより、取付け具41は、しっかりと耐熱板31に接合されている。
【0071】
さらに、図4(a)、図4(b)及び図4(c)に示すように、取付け具41は、製作が終了した際には、除去されている芯材42にほぼ均一な厚さで巻き付けられたブレイディング体43と、最下部において、芯材42から横方向に広がったブレイディング体44と、を有している。また、芯材42は、螺旋状のうねりが形成されており、雄ネジの形状となっている。このような形状の芯材42に巻き付けられたブレイディング体43、44を構成するセラミック繊維の周囲にセラミックマトリックスとなるセラミックの前駆体を含浸させて含浸体を形成し、含浸体を硬化させた後、焼成することによりセラミックマトリックスを形成するとともに、芯材42を焼失させる。芯材42は、雄ネジの形状を有していたので、その周囲に形成された取付け具本体41bは、雌ネジの形状となっている。その結果、この雌ネジに螺合が可能な雄ネジを取付け具本体41bにねじ込むことにより、雄ネジを有する他の部材としっかりと結合させることができる。
【符号の説明】
【0072】
10、30 耐熱部材
11、31 耐熱板
11a、11b、11c、11d、31a、31b、31c、31d セラミック繊維シート
11h、31h 有底孔
21、41 取付け具
21a、41a 鍔部
21b、41b 取付け具本体
22、42 芯材
23、24、43、44 ブレイディング体
25 ストランド
図1
図2
図3
図4