(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】透析排水中和システム、制御装置、透析排水中和方法および透析排水中和プログラム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/66 20230101AFI20240522BHJP
A61M 1/14 20060101ALI20240522BHJP
A61M 1/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
C02F1/66 522B
A61M1/14
A61M1/00 170
C02F1/66 510L
C02F1/66 510R
C02F1/66 530L
C02F1/66 540D
(21)【出願番号】P 2020105287
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】520220869
【氏名又は名称】久高 好夫
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】久高 好夫
(72)【発明者】
【氏名】堅田 玄慧
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-219041(JP,A)
【文献】特開2009-269014(JP,A)
【文献】実開昭52-089437(JP,U)
【文献】特開2002-153890(JP,A)
【文献】特開平2-068194(JP,A)
【文献】特開2001-009473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/66-1/68
A61M1/00-1/38、60/00-60/90
B01F21/00-25/90、35/00-35/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析装置からの排水を外部に排出する排水ラインに配置され、前記排水のpH値を測定するセンサと、
前記pH値が所定の値以上のアルカリ性の場合、炭酸水を前記排水ラインに直接投入して、前記排水ラインの排水を中和する制御装置と、を備えること
を特徴とする透析排水中和システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記pH値が所定の値以上のアルカリ性の場合、炭酸水作成部に水と炭酸ガスを注入して前記炭酸水を作製し、前記炭酸水作成部で作製した炭酸水を前記排水ラインに直接投入すること
を特徴とする請求項1記載の透析排水中和システム。
【請求項3】
前記炭酸水作成部を、複数備え、
前記制御装置は、第1の炭酸水作成部の炭酸水を生成後、第2の炭酸水作成部で炭酸水を生成すること
を特徴とする請求項2記載の透析排水中和システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の透析排水中和システムであって、
前記制御装置は、前記pH値が所定の値以下の酸性の場合、炭酸水素ナトリウム溶液またはセスキ炭酸ナトリウム溶液を前記排水ラインに直接投入して、前記排水を中和すること
を特徴とする透析排水中和システム。
【請求項5】
センサから、透析装置の排水ラインに流れる排水のpH値を受信する受信部と、
前記pH値が所定の値以上のアルカリ性か否かを判定する判定部と、
前記pH値が所定の値以上のアルカリ性の場合、炭酸水を前記排水ラインに直接投入して、前記排水ラインの排水を中和する中和処理部と、を備えること
を特徴とする制御装置。
【請求項6】
センサが、
透析装置の排水ラインに流れる排水のpH値を測定する測定ステップを行い、
制御装置が、
前記センサから前記排水のpH値を受信する受信ステップと、
前記pH値が所定の値以上のアルカリ性か否かを判定する判定ステップと、
前記pH値が所定の値以上のアルカリ性の場合、炭酸水を前記排水ラインに直接投入して、前記排水ラインの排水を中和する中和ステップと、を行うこと
を特徴とする透析排水中和方法。
【請求項7】
請求項5に記載の制御装置として、コンピュータを機能させることを特徴とする透析排水中和プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析排水中和システム、制御装置、透析排水中和方法および透析排水中和プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
透析治療に用いられる透析装置は、毎日、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系消毒剤で洗浄し、さらに、週2~3回、酢酸などの酸性系消毒剤で洗浄している。そのため、洗浄中の透析装置から排出される排水には、次亜塩素酸水溶液、酢酸水溶液などの洗浄液が含まれる。このような洗浄液を含む排水は、水道法上のpH基準を逸脱し、そのまま下水などの外部に放出することはできず、浄化槽などの排水処理設備で処理する必要がある。特許文献1には、透析装置の排水を処理するための透析排水貯留装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
透析装置の洗浄中、透析装置からの排水のpHが水道法上の基準を逸脱する状態は、45分程度ある。処理が必要な排水の量を1回の洗浄で1床当たり毎分0.5Lとすると、透析ベッド20床の医療施設では、毎分10Lとなる。毎分10Lで45分間、排出される場合、450Lの処理すべき排水が排出されるため、450L以上のタンクを備える大規模な排水処理設備が必要になる。
【0005】
しかしながら、ビルのテナントに入居している透析クリニックなどでは、大規模な排水処理設備を設置するスペースがなく、また、大掛かりな設置工事を行うことは難しい。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、狭いスペースで使用可能な透析排水中和システム、制御装置、透析排水中和方法および透析排水中和プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、透析排水中和システムであって、透析装置からの排水を外部に排出する排水ラインに配置され、前記排水のpH値を測定するセンサと、前記pH値が所定の値以上のアルカリ性の場合、炭酸水を前記排水ラインに直接投入して、前記排水ラインの排水を中和する制御装置と、を備える。
【0008】
本発明の一態様は、制御装置であって、センサから、透析装置の排水ラインに流れる排水のpH値を受信する受信部と、前記pH値が所定の値以上のアルカリ性か否かを判定する判定部と、前記pH値が所定の値以上のアルカリ性の場合、炭酸水を前記排水ラインに直接投入して、前記排水ラインの排水を中和する中和処理部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様は、透析排水中和方法であって、センサが、透析装置の排水ラインに流れる排水のpH値を測定する測定ステップを行い、制御装置が、前記センサから前記排水のpH値を受信する受信ステップと、前記pH値が所定の値以上のアルカリ性か否かを判定する判定ステップと、前記pH値が所定の値以上のアルカリ性の場合、炭酸水を前記排水ラインに直接投入して、前記排水ラインの排水を中和する中和ステップと、を行う。
【0010】
本発明の一態様は、上記制御装置として、コンピュータを機能させる透析排水中和プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、狭いスペースで使用可能な透析排水中和システム、制御装置、透析排水中和方法および透析排水中和プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る透析排水中和システムの全体構成図である。
【
図2】洗浄時における透析装置から排出される排水のpH値の推移の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態の制御装置1の中和処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0014】
(システムの構成)
図1は、本実施形態の透析排水中和システムの構成を示す構成図である。本実施形態の透析排水中和システム(以下、「システム」という)は、制御装置1と、水供給部2と、炭酸水作成部3と、炭酸ガス供給部4と、溶液格納部6と、pHセンサS1、S2と、ポンプP1、P2と、流量計R1、R2と、レベルセンサLと、弁SV1-SV9とを備える。なお、制御装置1は、pHセンサS1、S2と、ポンプP1、P2と、流量計R1、R2と、レベルセンサLと、弁SV1-SV9と、無線または有線で通信可能なように接続されている。
【0015】
pHセンサS1、S2は、透析装置8からの排水を外部に排出する排水ライン7に配置され、排水ライン7を流れる排水の水素イオン濃度(以下、「pH」)の値を測定する。排水ライン7は、透析装置8から出力される排水を、下水道などの外部に放流(排出)するためのパイプ・管である。
【0016】
本実施形態では、2つのpHセンサS1、S2を備える。pHセンサS1は、透析装置8の排出口に近い位置の排水ライン7に配置され、透析装置8の排水のpHを測定する。pHセンサS1は、透析装置8の排出直後の排水を測定できる位置に設置することが好ましい。
【0017】
pHセンサS2は、排水ライン7の外部への放出地点の手前に配置され、外部へ放出される前の排水のpHを測定する。各pHセンサS1、S2は、所定のタイミングで(例えば、10秒毎に)、排水ライン7を流れる排水のpHを測定する。各pHセンサS1、S2は、通信機能を備え、測定したpHを無線または有線で制御装置1に送信する。pHセンサS1、S2は、例えばプローブ(電極)を排水ライン7の排水に浸すことで、排水のpHを測定する。
【0018】
透析装置8から排出される排水には、透析治療時に生じる透析排水と、透析装置8の洗浄時に排出される洗浄排水とが含まれる。洗浄排水には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液などの塩素系消毒剤で洗浄した際に排出されるアルカリ性排水と、酢酸などの酸性系消毒剤で洗浄した際に排出される酸性排水とが含まれる。塩素系消毒剤による洗浄は毎日行われ、酸性系消毒剤による洗浄は、週2回~3回行われる。ここでは、塩素系消毒剤として次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用い、酸性系消毒剤として酢酸を用いるもとする。
【0019】
図2は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による洗浄時における、透析装置8から排出される排水のpH値の推移の一例を示す図である。透析装置8が次亜塩素酸ナトリウム水溶液で洗浄されることで、透析装置8から排出される排水のpHは急激に上昇する。
【0020】
制御装置1は、pHセンサS1から受信したpH値に基づいて、排水ライン7の排水を中和し、当該排水を水道法上の基準値(pH5-9)に収まるように処理する。図示する制御装置1は、受信部11と、判定部12と、中和処理部13と、監視部14とを備える。
【0021】
受信部11は、センサS1から、透析装置8の排水ライン7に流れる排水のpH値を受信する。判定部12は、pHセンサS1から受信したpH値が、所定の値以上のアルカリ性か否かを判定する。また、判定部12は、pHセンサS1から受信したpH値が所定の値以下の酸性であるか否かを判定する。
【0022】
中和処理部13は、pH値が所定の値以上のアルカリ性の場合、炭酸水を排水ライン7に直接投入して、排水ライン7の排水を中和する。ここでは、中和処理部13は、弁SV1-SV8およびポンプP1を制御することで排水を中和する。本実施形態の弁SV1-SV8は電磁弁であって、中和処理部13からの制御信号によりONまたはOFFに制御され、流体を止めたり流したりする。本実施形態では、ONで弁が開放されて流体が流れ、OFFで弁が閉じて流体が止められるものとする。制御装置1は、弁SV1-SV8およびポンプP1と、無線または有線で通信可能なように接続されている。
【0023】
具体的には、中和処理部13は、炭酸水作成部3と水供給部2と間の弁SV1、SV2を制御して、炭酸水作成部3に水を注入し、炭酸水作成部3と炭酸ガス供給部4と間の弁SV4、SV6を制御して炭酸水作成部3に炭酸ガスを注入して炭酸水を作成する。そして、中和処理部13は、炭酸水作成部3と排水ライン7と間の弁SV7、SV8を制御して、作成した炭酸水を排水ライン7に投入する。各弁のSV1-SV8の制御については後述する。
【0024】
炭酸水作成部3は、注入された水と炭酸ガスとを撹拌混合するためのポンプP1を備える。ポンプP1が作動することで炭酸水作成部3に注入された水と炭酸ガスとが循環ライン5を循環することで撹拌混合される。これにより、炭酸ガスの混合効率(水に炭酸ガスが溶け込む量)を高めることができる。また、ポンプP1は、炭酸水作成部3の炭酸水を排水ライン7に投入する際にも作動する。中和処理部13は、作動を指示するON信号、または、停止を指示するOFF信号をポンプP1に送信することで、ポンプP1を制御する。
【0025】
循環ライン5は、炭酸水作成部3の水と炭酸ガスとを循環させて撹拌混合するためのパイプ・管である。炭酸水作成部3から排出された炭酸水は、循環ライン5を介して炭酸水作成部3に再び供給され、炭酸ガスがさらに注入される。循環ライン5は、図示しない弁(電磁弁)を備えていてもよい。この場合、制御装置1の中和処理部13は、ポンプP1を作動するタイミングで、循環ライン5の弁を開放し、炭酸水作成部3の炭酸水を、循環ライン5を介して循環させる。また、中和処理部13は、炭酸水作成部3の炭酸水を排水ライン7に排出するタイミングで、循環ライン5の弁を閉じて循環ライン5への炭酸水の流入を停止する。これにより、炭酸水を排水ライン7に排出する際に、循環ライン5に炭酸水が分岐することなく、炭酸水の流量を適切に制御することができる。
【0026】
なお、炭酸水では、水に溶け込む炭酸ガスの量は、ポンプP1による撹拌混合の時間と、注入する炭酸ガスの圧に依存する。したがって、本システムが設置される医療機関の規模(透析装置の数)等などに応じて、ポンプP1による撹拌混合の時間、および炭酸ガス供給部4の圧の少なくとも1つを調整する。炭酸ガスの圧の調整には、例えば、炭酸ガスボンベ(炭酸ガス供給部4)に付属するレギュレーターなどを用いる。
【0027】
炭酸水作成部3は、供給される水の水位を検知するレベルセンサLを備える。レベルセンサLは、水供給部2からの水が炭酸水作成部3の所定の水位(レベル)まで注入されたことを検知すると、制御装置1の中和処理部13に検知信号を送信する。中和処理部13は、レベルセンサLから検知信号を受信すると、現在、注入している炭酸水作成部3への水の注入を停止する。レベルセンサLと制御装置1とは、無線または有線で通信可能なように接続されている。
【0028】
本システムは、炭酸水作成部3を少なくとも1つ備える。
図1に示すシステムでは、2つの炭酸水作成部3を備えるが、これに限定されず、炭酸水作成部3は、1つであっても3つ以上でもよい。炭酸水作成部3を複数備える場合、中和処理部13は、第1の炭酸水作成部3で炭酸水を作成後に、第2の炭酸水作成部3で炭酸水を作成する。
【0029】
また、本実施形態では、炭酸水作成部3と排水ライン7との間に流量計R1を備える。流量計R1は、炭酸水作成部3から排水ライン7に投入された炭酸水の流量(総量)を計測し、計測した流量を制御装置1の中和処理部13に送信する。中和処理部13は、受信した流量を用いて、現在使用している炭酸水作成部3の炭酸水が空になるタイミングを判定し、別の炭酸水作成部3に切り替えて当該別の炭酸水作成部3で作成した炭酸水を排水ライン7に排水するように制御する。
【0030】
炭酸ガス供給部4は、炭酸ガス(CO2)を炭酸水作成部3に供給する。炭酸ガス供給部4には、例えば炭酸ガスボンベなどが用いられる。
【0031】
水供給部2は、炭酸水作成部3に水を供給する。水供給部2の水には、水道水、RO水(ろ過水)などが用いられる。RO水は、例えば水道水などをろ過、イオン交換などの処理を行った後に、逆浸透膜によって精製された水である。なお、不純物のないRO水を用いることが好ましい。
【0032】
また、中和処理部13は、センサS1から受信したpH値が所定の値以下の酸性の場合、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)溶液、またはセスキ炭酸ナトリウム(Na3H(CO3)2)溶液を排水ライン7に直接投入して、排水を中和する。ここでは、中和処理部13は、弁SV9およびポンプP2を制御することで排水を中和する。弁SV9は、弁SV1-8と同様の電磁弁である。制御装置1は、弁SV9およびポンプP2と、無線または有線で通信可能なように接続されている。具体的には、中和処理部13は、溶液格納部6と排水ライン7との間の弁SV9を制御して、炭酸水素ナトリウム溶液またはセスキ炭酸ナトリウム溶液を排水ライン7に直接投入する。
【0033】
溶液格納部6には、酸性の排水を中和するアルカリ性の中和剤として、炭酸水素ナトリウム溶液またはセスキ炭酸ナトリウム溶液が格納される。本実施形態では、アルカリ性の中和剤として炭酸水素ナトリウム溶液が溶液格納部6に格納されているものとする。
【0034】
本システムが設置される医療機関の規模(透析装置の数)、使用する薬剤に応じて、溶液格納部6に格納されて炭酸水素ナトリウム溶液の濃度、流量などを予め調整する。
【0035】
溶液格納部6は、溶液格納部6の炭酸水素ナトリウム溶液を排水ライン7に投入する際に流量を調整するためのポンプP2を備える。中和処理部13は、作動を指示するON信号、または、停止を指示するOFF信号を送信することで、ポンプP2を制御する。
【0036】
また、本実施形態では、溶液格納部6と排水ライン7との間に流量計R2を備える。流量計R2は、溶液格納部6から排水ライン7に投入された炭酸水素ナトリウム溶液の流量(総量、単位時間当たりの流量)を計測し、計測した流量を制御装置1の中和処理部13に送信する。中和処理部13は、受信した流量を用いてポンプP2を制御し、排水ライン7に投入する炭酸水素ナトリウム溶液の流量を調整してもよい。
【0037】
監視部14は、センサS2から送信されるpH値を受信し、記憶部に記憶する。センサS2から送信されるpH値を記録することで、外部に放流される排水が水道法上の基準(pH5-9)を満たしているか否かをモニタリングすることができる。また、監視部14は、センサS2から受信したpH値が基準を満たしているか否かを判別し、基準を満たしていない場合、アラーム(警告)を制御処置1のディスプレイ、スピーカ等の出力装置から出力してもよい。また、監視部14は、アラームを、他の管理者端末に送信してもよい。
【0038】
また、監視部14は、センサS2から受信したpH値が基準を満たしていない場合、当該pH値を中和処理部13に出力(フィードバック)してもよい。中和処理部13は、監視部14から出力されたpH値を受け付けると、中和が不十分であるとみなし、例えばポンプP1、P2などを制御して、炭酸水または炭酸水素ナトリウム溶液の単位時間当たりの流量を増加することで、排水のpH値を基準値の範囲内に収まるように排水を中和してもよい。
【0039】
(制御装置の動作)
図3は、本実施形態の制御装置1の中和処理を示すフローチャートである。
【0040】
センサS1は、所定のタイミングで(例えば、10秒毎)、排水ライン7を流れる排水のpHを測定し、測定したpH値を制御装置1に送信する。制御装置1は、所定のタイミングでセンサS1からpH値を受信する(S11)。
【0041】
制御装置1は、受信したpH値がアルカリ性の所定の値以上(例えば8以上)の場合(S12:YES)、炭酸水を作成し、炭酸水を排水ライン7へ投入する(S13)。
図2に示すように、透析中は透析液(pH7前後)が排水ライン7に排出されるが、次亜塩素酸ナトリウムによる透析装置の洗浄が開始されると、数分後にはpHが11近くまで上昇する。S13の処理は、後述する。
【0042】
センサS1から受信したpH値がアルカリ性の所定の値未満であって(S12:NO)、酸性の所定の値以下(例えば6以下)の場合(S14:YES)、制御装置1は、溶液格納部6に貯蔵された炭酸水素ナトリウム溶液を排水ライン7へ投入する(S15)。酢酸による透析装置8の洗浄が開始されると、数分後に排水ライン7の排水のpH値が2~3に低下する。
【0043】
センサS1から受信したpH値が酸性の所定の値を超える場合、すなわち、水道法上の基準を満たしている場合であって(S14:NO)、炭酸水または炭酸水素ナトリウム溶液を排水ライン7に投入中の場合(S16:YES)、制御装置1は、炭酸水または炭酸水素ナトリウム溶液の投入を停止し(S17)、S11に戻る。炭酸水または炭酸水素ナトリウム溶液を排水中でない場合(S16:NO)、制御装置1は、S11に戻る。
【0044】
図4は、
図3のS13で投入される炭酸水の作成手順を説明するための説明図である。ここでは2つの炭酸水作成部3を用いて炭酸水を作成する場合を例として説明する。
【0045】
制御装置1は、排水ライン7の排水のpH値が8以上になった場合、弁SV1~SV8、ポンプP1、流量計R1を制御し、炭酸水作成工程を開始する。
【0046】
制御装置1は、水を第1の炭酸水作成部3に注入する(S21)。具体的には、制御装置1は、弁SV1を開放し、水供給部2から第1の炭酸水作成部3に、所定の水位まで水を注入する。また、制御装置1は、水を注入する際に、第1の炭酸水作成部3に設置された弁SV3を開放して、第1の炭酸水作成部3の空気を抜く。
【0047】
制御装置1は、水が注入された第1の炭酸水作成部3に炭酸ガスを注入し、炭酸水を生成する(S22)。具体的には、制御装置1は、弁SV4を開放し、ガス供給部4の炭酸ガスを第1の炭酸水作成部3に注入する。また、制御装置1は、炭酸ガスを注入する際に、ポンプP1(
図4のP1
1)にON信号(制御信号)を送信する。これにより、ポンプP1が作動し、第1の炭酸水作成部3の水と炭酸ガスとが循環ライン5を循環することで、炭酸ガスを水に溶け込ませ、炭酸水が作成される。循環ライン5に弁(不図示)が設けられている場合は、制御装置1は、制御信号を送信し、当該弁を開放してONの状態にする。
【0048】
制御装置1は、第1の炭酸水作成部3の炭酸水を、排水ライン7に投入する(S23)。具体的には、制御装置1は、弁SV7を開放するとともにポンプP1を作動させて、排水ライン7に炭酸水を送出する。循環ライン5に弁(不図示)が設けられている場合は、制御装置1は、制御信号を送信して当該弁を閉じてOFFの状態とする。
【0049】
なお、流量計R1は、第1の炭酸水作成部3および第2の炭酸水作成部3から排出される炭酸水の流量を所定のタイミングで計測し、計測結果を制御装置1に送信する。制御装置1は、受信した流量が、目標とする流量と乖離する場合、ポンプP1の回転量を変更し、目標とする流量となるように制御してもよい。
【0050】
制御装置1は、S23で第1の炭酸水作成部3から炭酸水を排水ライン7に排出するとともに、第2の炭酸水作成部3に水を注入する(S31)。具体的には、制御装置1は、弁SV2を開放し、水供給部2から第2の炭酸水作成部3に所定の水位まで水を注入する。また、制御装置1は、水を注入する際に、弁SV5を開放して第2の炭酸水作成部3の空気を抜く。
【0051】
制御装置1は、水が注入された第2の炭酸水作成部3に炭酸ガスを注入し、炭酸水を生成する(S32)。具体的には、制御装置1は、弁SV6を開放し、ガス供給部4の炭酸ガスを第2の炭酸水作成部3に注入する。また、制御装置1は、炭酸ガスを注入する際に、ポンプP1(
図4のP1
2)にON信号(制御信号)を送信する。これにより、ポンプP1が作動し、第2の炭酸水作成部3内で水と炭酸ガスとを循環させることで、炭酸ガスを水に溶け込ませ、炭酸水が作成される。
【0052】
制御装置1は、流量計R1からの測定結果に基づいて、第1の炭酸水作成部3の炭酸水が全て排出されたと判定すると、第2の炭酸水作成部3に切り替えて、第2の炭酸水作成部3の炭酸水を排水ライン7に排出する(S33)。具体的には、制御装置1は、弁SV7を閉じるとともに、弁SV8を開放する。また、制御装置1は、第2の炭酸水作成部3のポンプP1を作動させて、排水ライン7に炭酸水を送出する。また、制御装置1は、必要に応じてポンプP1の回転量を変更し、目標とする流量となるように制御してもよい。
【0053】
制御装置1は、上記S21~S23およびS31~S33の工程を、
図3のS17で停止するまで繰り返し行う。
【0054】
なお、
図3のS15で炭酸水素ナトリウム溶液を排水ライン7に投入する場合、制御装置1は、溶液格納部6の炭酸水素ナトリウム溶液を排水ライン7に排出する。具体的には、制御装置1は、弁SV9を開放するとともにポンプP2を作動させて、排水ライン7に炭酸水素ナトリウム溶液を送出する。流量計R2は、溶液格納部6から排出される炭酸水素ナトリウム溶液の流量を所定のタイミングで計測し、計測結果を制御装置1に送信する。制御装置1は、受信した流量が、目標とする流量と乖離する場合、ポンプP2の回転量を変更し、目標とする流量となるように制御してもよい。
(本実施形態の効果)
以上説明した本実施形態の透析排水中和システムは、透析装置8からの排水を外部に排出する排水ライン7に配置され、排水のpH値を測定するセンサS1と、前記pH値が所定の値以上のアルカリ性の場合、炭酸水を排水ライン7に直接投入して、排水ライン7の排水を中和する制御装置1とを備える。
【0055】
このように本実施形態では、炭酸水を排水ライン7に投入して、水道法の基準を満たすように排水ライン7の排水を直接中和する。これにより、本実施形態では、排水を処理するための大きな貯水槽を設ける必要がなく、また、貯水槽に排水を誘導するための設備もいらない。したがって、本実施形態の透析排水中和システムは、システム(装置)の小型化を実現でき、狭いスペースでも設置することができる。そのため、ビルのテナントなどに入居している小規模な透析クリニックであっても、本実施形態の透析排水中和システムを容易に設置することができる。
【0056】
また、本実施形態の透析排水中和システムは、制御装置1、炭酸水作成部3、溶液格納部6、炭酸ガス供給部4などの構成要素が、一体型ではなく分散して配置できるため、各構成要素がそれぞれ設置可能なスペースがあれば、取り付けることができる。
【0057】
また、本実施形態では、炭酸水を排水ライン7に直接投入するコンパクト設備であるため、大掛かりな設備工事が不要で、低コストでの設置可能である。したがって、本実施形態は、コストパフォーマンスに優れている。
【0058】
また、本実施形態では、アルカリ性の排水の中和剤として炭酸水を用いる。炭酸水は、炭酸ガスと比較して、中和速度が極めて高いため、炭酸水を排水ライン7に投入することで、短時間でアルカリ性の排水の中和することができる。また、炭酸水は、有毒ガスの発生がなく、取り扱いが容易で安全である。
【0059】
(ハードウェア構成)
上記説明した制御装置1には、例えば、CPU(Central Processing Unit、プロセッサ)と、メモリと、ストレージ(HDD:Hard Disk Drive、SSD:So lid State Drive)と、通信装置と、入力装置と、出力装置とを備える汎用的なコンピュータシステムを用いることができる。メモリおよびストレージは、記憶装置である。このコンピュータシステムにおいて、CPUがメモリ上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、制御装置1の各機能が実現される。また、制御装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよく、あるいは複数のコンピュータで実装されても良い。また、制御装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであっても良い。また、制御装置1に、ラズベリーパイ(Raspberry Pi)などのシングルボードコンピュータ(超小型コンピュータ)を用いてもよい、
制御装置1用のプログラムは、HDD、SSD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、CD (Compact Disc)、DVD (Digital Versatile Disc)などのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶することも、ネットワークを介して配信することもできる。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 :制御装置
11:受信部
12:判定部
13:中和処理部
14:監視部
2 :水供給部
3 :炭酸水作成部
4 :炭酸ガス供給部
6 :溶液格納部
7 :排水ライン
S1、S2:pHセンサ