(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】歯科用ハンドピースシステム
(51)【国際特許分類】
A61C 5/42 20170101AFI20240522BHJP
A61C 5/44 20170101ALI20240522BHJP
A61C 1/02 20060101ALI20240522BHJP
A61C 1/06 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
A61C5/42
A61C5/44
A61C1/02 E
A61C1/06
(21)【出願番号】P 2020110386
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390003229
【氏名又は名称】マニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松谷 和彦
【審査官】松山 雛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0374458(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0223957(US,A1)
【文献】登録実用新案第3070233(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/42
A61C 5/44
A61C 1/02
A61C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドピース本体と、該ハンドピース本体の先端部に設けられたヘッド部とを有するハンドピースと、
前記ハンドピースのヘッド部に回転可能に取り付けられ、歯の根管を切削するための棒状の切削工具と、
前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離を調整可能な調整機構とを備え、
前記調整機構の少なくとも一部が治療対象の歯と接触しており、
根管の切削時に、前記切削工具の軸方向において前記ハンドピースが外部から受ける力及び該切削工具の軸方向における該ハンドピースの加速度の少なくとも1つを検知し、検知された前記ハンドピースが外部から受ける力及び該ハンドピースの加速度の少なくとも1つに応じて前記調整機構が該ハンドピースと治療対象の歯との間の距離を調整する歯科用ハンドピースシステム。
【請求項2】
ハンドピース本体と、該ハンドピース本体の先端部に設けられたヘッド部とを有するハンドピースと、
前記ハンドピースのヘッド部に回転可能に取り付けられ、歯の根管を切削するための棒状の切削工具と、
前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離を調整可能な調整機構とを備え、
前記調整機構は、前記ヘッド部が、前記ハンドピース本体の基端側に設けられた把持部に対して、前記切削工具の軸方向と直交する方向に延びる回転軸回りに回転可能に構成されたものであり、
根管の切削時に、前記切削工具の軸方向において前記ハンドピースが外部から受ける力及び該切削工具の軸方向における該ハンドピースの加速度の少なくとも1つを
、前記回転軸を中心に反時計回りに作用するトルク及び加速度として検知し、検知された
トルク及び加速度の少なくとも1つに応じて
、該回転軸を中心に該ヘッド部を時計回りに動作させることで、該ヘッド部を治療対象の歯から引き離すことにより、前記調整機構が該ハンドピースと治療対象の歯との間の距離を調整する歯科用ハンドピースシステム。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記調整機構が前記ハンドピースが外部から受ける力を検知する歯科用ハンドピースシステム。
【請求項4】
請求項1において、
前記切削工具にその軸方向に移動可能に外嵌され、弾性を有するストッパをさらに備え、
前記調整機構の少なくとも一部が前記ストッパを介して治療対象の歯と接触しており、 前記調整機構は、前記ストッパを前記切削工具の軸方向に移動させることで、前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離を調整する歯科用ハンドピースシステム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つにおいて、
前記切削工具に回転駆動力を付与する付与手段をさらに備え、
根管の切削時に、前記ハンドピースが外部から受ける力及び該ハンドピースの加速度の少なくとも1つに応じて、前記回転駆動力を調整する歯科用ハンドピースシステム。
【請求項6】
請求項5において、
前記回転駆動力を前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離に連動させる歯科用ハンドピースシステム。
【請求項7】
請求項5又は6において、
根管治療の熟練度が比較的高い熟練作業者によるハンドピースの所望の動きに応じた、前記ハンドピースが外部から受ける力、前記ハンドピースの加速度、前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離、及び前記回転駆動力の少なくとも1つの最適値が予め記憶された記憶手段と、
前記調整機構及び前記付与手段の少なくとも1つを制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記ハンドピースが外部から受ける力、前記ハンドピースの加速度、前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離、及び前記回転駆動力の少なくとも1つが前記記憶手段から読み出された前記最適値となるように、前記調整機構及び前記付与手段の少なくとも1つを連続的に制御することで、前記ハンドピースの動きを支援する歯科用ハンドピースシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯科用ハンドピースシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯の根管を治療するときには、先端に螺旋状の切刃を備える切削工具が使用される。この切削工具の切刃を根管に挿入し、ヤスリのように押し引き切削、回転切削、又はこれらの組み合わせにより根管を切削する。
【0003】
根管を切削する方法としては、歯科医師等の作業者が手用切削工具の柄の部分を持って手で行う方法と、エンジン用切削工具を歯科用ハンドピースに接続してモータ等の回転駆動力を用いて行う方法とがある。
【0004】
ところで、根管に沿って根管内壁を切削するときには、切削工具(切刃)の切削力による推進力(切削工具が自ら進む力)を利用する。歯科用ハンドピースを用いた根管治療では、モータ等の回転駆動力の勢いで切削工具の推進力が増大するため、切刃が根管壁に食い込んで根尖方向へとどんどん引き込まれてしまうことがある。この場合、根管壁に切刃が必要以上に食い込んでロックしたり切削工具が破折するおそれや、根尖孔を突き抜けてしまうおそれがある。そのため、切削工具の噛み込みや根尖貫通のリスクを回避すべく、歯科用ハンドピースやそのシステムが種々検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、治療対象となる歯牙を切削する工具を保持する保持手段と、治療対象歯牙に対し上記切削工具を所望の位置に設定するための支持具とを有する歯科用ハンドピースが提案されている。この歯科用ハンドピースでは、切削工具による根管の形成が安定して行え、根尖孔を切削工具が貫通するという事態を容易に避けることができる。
【0006】
また、特許文献2には、ヘッド部に切削工具を駆動可能に保持するハンドピースとともに、根管治療に利用可能な情報を提供する根管治療支援装置を備える根管治療装置が提案されている。根管治療支援装置は、歯牙の根管を撮像した画像情報を受付ける受付部と、前記受付部で受け付けた前記画像情報に基づき、根管形状に応じた根管治療に関連する情報を生成する情報生成部と、前記情報生成部で生成した情報を出力する出力部とを備える。この根管治療支援装置を備える根管治療装置では、根管形状の分類ごとに応じた根管治療に関連する情報を出力することができ、術者の根管治療を適切にサポートできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-35010号公報
【文献】特開2019-111045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の歯科用ハンドピース及び特許文献2に記載の根管治療装置では、切削工具を回転するモータの駆動電流量、トルク量、回転角度、回転速度、回転角速度(回転数)等の切削工具の回転に関連する情報を検知し、検知された前記情報に応じて、切削工具を回転する駆動の制御を行っている。そのため、切削工具の切刃が根管壁に食い込んで根尖方向へ引き込まれたときに、切削工具の噛み込みや根尖貫通のリスクを回避できる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の歯科用ハンドピース及び特許文献2に記載の根管治療装置を用いる場合、作業者は、前記リスクを回避する前提として、切削工具の切刃が根管壁に食い込んで根尖方向へ引き込まれないようにするために、切刃が根管壁に僅かに噛み込まれた瞬間に引き上げる動作を根管治療中繰り返さなければならない。この瞬間的な引き上げ動作を行うためには、熟練の引き上げ技術が必要である。
【0010】
そのため、根管治療の熟練度が比較的低い作業者(以下、「低熟練作業者」ともいう)は、安全面を考慮して、手用切削工具を用いて手で行う方法から、エンジン用切削工具が接続された歯科用ハンドピースを用いて行う方法に容易に切り替えることができないという問題があった。また、作業者の熟練度の違いにより、治療効果にばらつきがあるという問題もあった。
【0011】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、歯科用ハンドピースを用いた根管治療において、作業者の熟練度によらず、より一層安全な治療ができ且つ治療効果のばらつきを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この開示技術では、切削工具の回転に関連する情報を検知するという従来の歯科用ハンドピースの発想を転換して、ハンドピースを持つ作業者の手に伝わる力(ハンドピースを持つ作業者の手の感覚(触覚))を検知するようにした。
【0013】
具体的には、ここに開示する歯科用ハンドピースシステムは、ハンドピース本体と該ハンドピース本体の先端部に設けられたヘッド部とを有するハンドピースと、前記ハンドピースのヘッド部に回転可能に取り付けられ、歯の根管を切削するための棒状の切削工具とを備える。そして、根管の切削時に、前記切削工具の軸方向において前記ハンドピースが外部から受ける力及び該切削工具の軸方向における該ハンドピースの加速度の少なくとも1つを検知する。
【0014】
前記の構成によれば、根管の切削時に、切削工具の軸方向においてハンドピースが外部から受ける力(以下「外力」ともいう)及び切削工具の軸方向におけるハンドピースの加速度(以下、単に「加速度」ともいう)の少なくとも1つ(以下、前記外力及び加速度の少なくとも1つを「触覚情報」ともいう)を検知する。即ち、実際に作業者の手に感じることができる触覚情報を検知する。これにより、検知された前記触覚情報を利用することで、歯科用ハンドピースを用いた根管治療において、作業者の熟練度によらず、より一層安全な治療ができ且つ治療効果のばらつきを低減できる。
【0015】
前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離を調整可能な調整機構をさらに備え、根管の切削時に、前記ハンドピースが外部から受ける力及び該ハンドピースの加速度の少なくとも1つに応じて、前記調整機構が前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離を調整する、としてもよい。
【0016】
前記の構成によれば、検知された前記触覚情報を利用する態様が具体化される。具体的には、根管の切削時に、前記触覚情報に応じて、調整機構がハンドピースと治療対象の歯との間の距離を調整する。これにより、調整機構が、例えば、ハンドピースが軽く引き込まれたら引き上げるという作業者の手の動作を代わりに行う(作業者の手の動作をサポートする)ことができる。したがって、前記した効果の向上を図ることができる。
【0017】
前記調整機構が前記ハンドピースが外部から受ける力を検知する、としてもよい。
【0018】
前記の構成によれば、前記外力を検知するための各種センサ及びそのセンサ回路が不要になるため、歯科用ハンドピースの構成が簡易になり、コストを削減できる。
【0019】
前記調整機構の少なくとも一部が治療対象の歯と接触している、としてもよい。
【0020】
前記の構成によれば、調整機構の構造が具体化される。具体的には、調整機構の少なくとも一部が治療対象の歯と接触しているため、その接触部分において、歯から受ける力(反力)を検知できる。したがって、前記外力を調整機構が歯から受ける反力として直接検知できるため、前記外力の検知精度及び調整機構の応答速度を向上できる。
【0021】
前記切削工具にその軸方向に移動可能に外嵌され、弾性を有するストッパをさらに備え、前記調整機構の少なくとも一部が前記ストッパを介して治療対象の歯と接触しており、前記調整機構は、前記ストッパを前記切削工具の軸方向に移動させることで、前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離を調整する、としてもよい。
【0022】
前記の構成によれば、それ自体の弾性により引き込まれた後に戻す動作が自然に生まれるストッパが、歯に接触した状態で歯及び調整機構の間に介在されているため、作業者の手の動作をより一層サポートできる。
【0023】
前記切削工具に回転駆動力を付与する付与手段をさらに備え、根管の切削時に、前記ハンドピースが外部から受ける力及び該ハンドピースの加速度の少なくとも1つに応じて、前記回転駆動力を調整する、としてもよい。
【0024】
前記の構成によれば、前記触覚情報に応じて、切削工具の回転駆動力を調整するため、切削工具の噛み込みや根尖貫通のリスクを低減できる。
【0025】
前記回転駆動力を前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離に連動させる、としてもよい。
【0026】
前記の構成によれば、調整機構が前記触覚情報を検知したときに、切削工具の回転駆動力を低下させながら又は低下させた後に、ハンドピースと治療対象の歯との間の距離を引き離すことができる。したがって、前記した効果の向上をより一層図ることができる。
【0027】
根管治療の熟練度が低熟練作業者よりも高い(根管治療の熟練度が比較的高い)作業者(以下、「高熟練作業者」ともいう)によるハンドピースの所望の動きに応じた、前記ハンドピースが外部から受ける力、前記ハンドピースの加速度、前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離、及び前記回転駆動力の少なくとも1つの最適値が予め記憶された記憶手段と、前記調整機構及び前記付与手段の少なくとも1つを制御する制御手段とを備える。そして、前記制御手段は、前記ハンドピースが外部から受ける力、前記ハンドピースの加速度、前記ハンドピースと治療対象の歯との間の距離、及び前記回転駆動力の少なくとも1つが前記記憶手段から読み出された前記最適値となるように、前記調整機構及び前記付与手段の少なくとも1つを連続的に制御することで、前記ハンドピースの動きを支援する、としてもよい。
【0028】
前記の構成によれば、制御手段は、高熟練作業者によるハンドピースの所望の動きになるように、記憶手段から読み出された各種情報に基づいて、ハンドピースと治療対象の歯との間の距離や切削工具の回転駆動力を制御するため、前記した効果の向上をさらに図ることができる。即ち、高熟練作業者の手の動作を再現できる。また、高熟練作業者の手の動作を再現したハンドピースの動きの自動化を図ることができる。さらに、リアルハプティクス技術を利用できる。
【0029】
また、前記歯科用ハンドピースシステムにおいて用いられるストッパ部材も本開示に含まれる。具体的には、ここに開示するストッパ部材は、ハンドピース本体と、該ハンドピース本体の先端部に設けられたヘッド部とを有するハンドピースと、前記ハンドピースのヘッド部に回転可能に取り付けられ、歯の根管を切削するための棒状の切削工具とを備えた歯科用ハンドピースシステムにおいて、治療対象の歯と前記ヘッド部との間に配置される。前記ストッパ部材は、弾性を有し、前記配置にあたって、前記切削工具の軸方向の長さを調整可能としたものである。
【0030】
前記の構成によれば、ストッパ部材は、弾性を有し、治療対象の歯とヘッド部との間への配置にあたって、切削工具の軸方向の長さを調整可能としたものであるため、前記歯科用ハンドピースシステムに好適に用いられる。
【0031】
前記ストッパ部材が分離されることで、前記切削工具の軸方向の長さが調整された、としてもよい。また、前記ストッパ部材を複数備え、前記複数のストッパ部材が前記切削工具の軸方向に連結されることで、該軸方向の長さが調整された、としてもよい。
【0032】
前記の構成によれば、切削工具の軸方向の長さが調整されたストッパ部材の態様が具体化される。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本開示によると、歯科用ハンドピースを用いた根管治療において、作業者の熟練度によらず、より一層安全な治療ができ且つ治療効果のばらつきを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】第1実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムを用いて根管を切削している状態を模式的に示す断面図である。
【
図2】第2実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムを用いて根管を切削している状態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図2において、歯からハンドピースを引き離した状態を模式的に示す断面図である。
【
図4】第3実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムを用いて根管を切削している状態を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図4において、歯からハンドピースを引き離した状態を模式的に示す断面図である。
【
図6】第3実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムの変形例を示す図であり、
図4に相当する図である。
【
図7】第3実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムの全体構成を示すブロック図である。
【
図8】第3実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムの全体構成を示す概略図である。
【
図9】第4実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムを用いて根管を切削している状態を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図9において、切削工具の先端が根管の根尖に近づいた状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0036】
<第1実施形態>
図1は、本開示の第1実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムS1を示す。歯科用ハンドピースシステムS1は、ハンドピース10と、ハンドピース10に保持される切削工具20とを備える。
【0037】
(ハンドピース)
ハンドピース10は、切削工具20を接続し、接続された切削工具20に回転を付与する回転工具である。ハンドピース10は、ハンドピース本体11と、ハンドピース本体11の先端部に連続して設けられたヘッド部12とを有する。
【0038】
ハンドピース本体11は、作業者の手指によって把持されるものである。ハンドピース本体11(ハンドピース10)内には、切削工具20に回転駆動力を付与する付与手段としてのモータ14(
図7参照)と、モータ14を駆動するためのモータ駆動回路51(
図7参照)と、後述する各種センサ13を駆動するためのセンサ回路52(
図7参照)とが設けられている。
【0039】
また、ハンドピース本体11内には、切削工具20の先端の根管2内での位置を検出するための根管長測定回路53(
図7参照)が設けられていてもよい。これにより、根尖貫通等のリスクを低減できる。根管長測定回路53は、根管2内に挿入した切削工具20を一方の電極、患者の唇に掛けた口腔電極54(
図7参照)を他方の電極として閉回路が構成される。切削工具20と口腔電極54との間のインピーダンスを計測することで、歯1の根尖位置から切削工具20の先端までの距離を測定できる。
【0040】
ヘッド部12は、切削工具20を着脱可能且つその中心軸周りに回転可能に保持するものである。根管治療時に歯1と対向するヘッド部12の対向面には、切削工具20が挿入且つ係止される挿入孔が形成されている。ヘッド部12内には、ロードセル等の荷重センサ、圧力センサ、慣性センサ(加速度センサ)等の各種センサ13(
図7参照)が設けられている。
【0041】
なお、各種センサ13、モータ14等の電子部品、口腔電極54は、特に限定されず、市販品を使用できる。各種回路51,52,53は、特に限定されず、公知の回路を利用できる。各種回路51,52,53は、ハンドピース本体11以外に、ヘッド部12に配置されていてもよく、後述する電子機器50(
図8参照)に配置されていてもよい。
【0042】
なお、ハンドピース10(ハンドピース本体11)には、根管治療中に噛み込みや根尖貫通等のリスクが高まったときに、例えば、人の顔を模したマーク、文字、光等で表示する表示手段55(
図7参照)が設けられていてもよい。
【0043】
(切削工具)
切削工具20は、歯科治療において、根管2を切削するために用いられるものであり、棒状に形成されている。切削工具20の先端部(軸方向一端部)には、治療目的に対応した切刃やエッジ等の刃部が形成されている。一方、切削工具20の基端部(軸方向他端部)には、ハンドピース10のヘッド部12(前記挿入孔)に回転可能に保持される保持部が形成されている。
【0044】
図1に示すように、根管治療では、切削工具20の刃部(切刃)を治療すべき歯1の根管2内に挿入し、切刃の方向に回転させる(回転切削)、切削工具20の軸方向Zに移動させる(押し引き切削)、又は回転させつつ軸方向Zに移動させる(回転切削と押し引き切削とを組み合わせた切削)ことで、根管2の内壁面を切削して根管2を成形する。なお、根管2を切削するとは、根管壁2aに切削工具20の切刃をある程度食い込ませて削り取ることをいう。
【0045】
切削工具20としては、エンジンリーマ、ファイル(Kファイル,Hファイル,Oファイル,フレアファイル等)、ピーソリーマ、ゲーツドリル等が挙げられる。
【0046】
例えば、エンジンリーマは、螺旋のピッチが大きく、緩い螺旋となっているので、回転切削に主に利用される。一方、ファイルは、リーマよりもピッチが小さいので、ヤスリのように押し引き切削に主に使用される。また、ファイルは、押し引きと同時に若干の回転をさせることもよくあり、引く動作で切削すると同時に切削屑を切刃の螺旋状溝によって根管2外へかき出すことができる。
【0047】
(触覚情報の検知)
ここで、歯科用ハンドピースシステムS1では、触覚情報として、根管2の切削時に切削工具20の軸方向Zにおいてハンドピース10が外部から受ける力(外力)F及び切削工具20の軸方向Zにおけるハンドピース10の加速度Aを検知するように構成されている。
【0048】
なお、本明細書において、切削工具20の軸方向Zとは、根管2の形状に沿う方向(根尖方向)、切削工具20の軸方向Zに沿う直線上に接点を有する円又は曲線の接点近傍における周方向、作業者によるハンドピース10の押し引き動作の方向等を含む、切削工具20の軸方向Zと略同一の方向をいう。
【0049】
外力F及び加速度Aは、例えば、切削工具20の刃部が根管壁2aに僅かに噛み込まれた瞬間や、刃部が根管壁2aに食い込んで根尖方向へとどんどん引き込まれるとき等に生じるものであり、根管2の切削時にハンドピース10を持つ作業者の手に伝わるものである。このように、実際に作業者が手に感じるものは、切削工具20のトルク等の回転に関連する情報ではなく、ハンドピース10が歯1に近づく方向又はハンドピース10を歯1から引き離す方向(即ち、切削工具20の軸方向Zと略同一の方向)に作用する力や加速度である。
【0050】
外力F及び加速度Aとしては、例えば、切削工具20の切削力で切削工具20が根管2の形状に沿って自ら進むときに生じる、ハンドピース10が歯1に近づく方向に作用する力及び加速度;切削工具20が根管壁2aに僅かに噛み込まれた瞬間や、切削工具20が根管壁2aに食い込んで根尖方向へとどんどん引き込まれるときに生じる、ハンドピース10が歯1に近づく方向に作用する比較的強い力及び加速度;切削工具20の噛み込みや根尖貫通等のリスクを回避するために作業者が引き上げ動作を行ったときに生じる、ハンドピース10を歯1から引き離す方向に作用する比較的強い力及び加速度;切削工具20の噛み込みが回避されたときに生じる、ハンドピース10を歯1から引き離す方向に作用する比較的弱い力及び加速度;その他、外部要因(例えば、後述するストッパ40の弾性力等)から受ける力及び加速度;等が挙げられる。
【0051】
外力F及び加速度Aは、上述の各種センサ13により検知される。例えば、外力Fは、切削工具20の軸方向Zに対向する、切削工具20の保持部の対向面と、ヘッド部12の挿入孔の対向面との間に、ロードセルや圧力センサ等を配置することで検知できる。加速度Aは、ヘッド部12内又はその近傍に加速度センサ等を配置することで検知できる。
【0052】
なお、切削工具20にその軸方向Zに移動可能なストッパ40等が外嵌されていてもよい。この場合、ストッパ40の弾性を利用して、触覚情報を検知するように構成されていてもよい。例えば、外力Fを検知するために、ストッパ40とヘッド部12との間にロードセルや圧力センサ等が配置されていてもよい。加速度Aを検知するために、ストッパ40の近傍に加速度センサ等が配置されていてもよい。
【0053】
また、触覚情報を連続的(好ましくはリアルタイム)に検知するように構成されていてもよい。これにより、触覚情報をリアルタイム情報として得ることができる。
【0054】
このように、歯科用ハンドピースシステムS1では、触覚情報(外力F、加速度A)を検知するため、検知された触覚情報を利用できる。
【0055】
例えば、触覚情報を検知したときに、ハンドピース10の表示手段55に、人の顔を模したマーク、文字、光等で警告表示するように構成されていてもよく、音で報知するように構成されていてもよい。
【0056】
また、触覚情報に応じて、モータ14(切削工具20)の回転駆動力を調整するように構成されていてもよい。例えば、ハンドピース10が歯1に近づく方向に作用する力Fや加速度Aを検知したときは、切削工具20の回転駆動力を低下させる。また、切削工具20を逆回転させるように駆動してもよい。この場合、切削工具20の噛み込みや根尖貫通のリスクが低減される。
【0057】
このように、触覚情報を検知する歯科用ハンドピースシステムS1では、当該触覚情報を利用することで、根管治療時の安全性を向上できるため、熟練度が比較的低い低熟練作業者でも、手用切削工具を用いて手で行う方法から、ハンドピース10を用いて行う方法に容易に切り替えることができる。
【0058】
そして、実際に作業者の手に伝わる触覚情報を利用した歯科用ハンドピースシステムS1を継続して用いることで、低熟練作業者でも、切刃が根管壁2aに僅かに噛み込まれた瞬間の手の感覚や、その瞬間にハンドピース10を引き上げる手の感覚・動作を比較的容易につかみ易い(熟練の引き上げ技術の習得が比較的容易である)。一方、根管治療の熟練度が低熟練作業者よりも高い高熟練作業者にとっては、熟練の引き上げ技術の維持やさらなる向上を図ることができる。その結果、歯科用ハンドピースシステムS1を用いて根管治療を行う場合には、低熟練作業者と高熟練作業者の治療効果のばらつきが低減される。
【0059】
以上のように構成される歯科用ハンドピースシステムS1によれば、以下の効果を得ることができる。
【0060】
(1)歯科用ハンドピースシステムS1では、根管2の切削時において、従来のハンドピースやそのシステムのように切削工具20の回転に関連する情報を検知するのではなく、切削工具20の軸方向Zに関連する情報を検知する。この切削工具20の軸方向Zに関連する情報(外力F、加速度A)は、実際に作業者が手に感じることができるもの(触覚情報)である。そして、この触覚情報を利用した歯科用ハンドピースシステムS1を継続して用いることで、熟練の引き上げ技術を比較的容易に習得又は維持できる。その結果、作業者の熟練度によらず、より一層安全な治療ができ且つ治療効果のばらつきを低減できる。
【0061】
<第2実施形態>
図2及び
図3は、本開示の第2実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムS2を示す。本実施形態では、ハンドピース本体11の構成が、上述の第1実施形態とは異なる。また、本実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムS2は、調整機構30aをさらに備える。その他の点については、第1実施形態と同様の構成であるため、ここでは詳しい説明を省略する。また、第1実施形態と同様の構成部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0062】
(ハンドピース本体)
本実施形態では、ハンドピース本体11は、その基端側(ヘッド部12側とは反対側)に設けられた把持部15と、把持部15及びヘッド部12の間に連続して設けられたネック部16とを有する。把持部15は、作業者の手指によって把持される部分である。そして、把持部15とネック部16とは、切削工具20の軸方向Zとは略直交する方向(
図2及び
図3では紙面に垂直な方向)に延びる回転(回動)軸(以下「首振り軸」ともいう)31回りに回転可能に連結されている。
【0063】
(調整機構)
調整機構30aは、ハンドピース10と治療対象の歯1との間の距離Dを調整可能なものである。具体的には、調整機構30aは、連結されたヘッド部12及びネック部16が、把持部15に対して、首振り軸31回りに回転可能に構成されている。これにより、ハンドピース10のヘッド部12と歯1との間の距離Dが調整される。換言すると、ヘッド部12が、歯1に対して、首振り軸31を中心とする円の回転方向(切削工具20の軸方向Zに沿う直線上に接点を有する円の接点近傍における周方向、切削工具20の略軸方向Z)に往復動(
図2及び
図3では略上下動)可能になっている。
【0064】
即ち、調整機構30aは、ヘッド部12が切削工具20の略軸方向Zに移動可能(首振り軸31回りに首振り可能)に構成されたチルト型の調整機構(チルト機構)といえる。また、調整機構30aは、治療対象の歯1と接触しないため、非接触式の調整機構ともいえる。
【0065】
一般に、ハンドピースを持つ作業者は、手に伝わる力Fの方向に応じて、該方向とは逆の方向にいつでも力を加えられるように準備をしている。そして、ハンドピース10が軽く引き込まれたら、ハンドピース10を引き上げる。より具体的には、作業者は、ハンドピース10が歯1に近づく方向の力Fや加速度Aを手に感じたときは、ハンドピース10を引き上げる動作(ペッキングモーションとも称される)を行う。この作業者が治療中に行うハンドピース10の引き上げ動作を、検知された触覚情報に応じて(利用して)、調整機構30aがハンドピース10と歯1との間の距離Dを調整する。このように、歯科用ハンドピースシステムS2では、調整機構30aが作業者の手の動作を代わりに行う(作業者の手の動作をサポートする)ように構成されている。
【0066】
また、調整機構30aは、外力Fを検知するように構成されている。具体的には、調整機構30aは、ヘッド部12が首振り軸31回りに首振り可能になっているため、切削工具20が根管壁2aに接触(当接、圧接)したとき、噛み込みしたとき等に歯1(外部)から受ける力(外力)Fを、切削工具20、ヘッド部12及びネック部16を介して、首振り軸31のトルクTで検知できる。
【0067】
外力Fを首振り軸31のトルクTで検知する方法としては、例えば、首振り軸31にトルクセンサを設けて検知する方法、首振り軸31をモータやアクチュエータ等の駆動源と電気的に接続し、駆動源の電流、インピーダンス等を検知する方法等が挙げられる。後者の方法では、首振り軸31が受ける反力を利用するため、調整機構30aは反力に応答して作動するアクティブストッパともいえる。当該方法では、トルクセンサ及びそのセンサ回路が不要になるため、歯科用ハンドピースシステムS2の構成が簡易になり、コストを削減できる。
【0068】
なお、ヘッド部12又はネック部16には、加速度センサが設けられていてもよい。これにより、加速度Aは、首振り軸31回りに回転するヘッド部12又はネック部16の加速度で検知できる。
【0069】
そして、歯科用ハンドピースシステムS2では、首振り軸31のトルクTとして検知された外力F及び首振り軸31回りの加速度A(触覚情報)に応じて(利用して)、調整機構30aがヘッド部12と歯1との間の距離Dを調整するように構成されている。
【0070】
例えば、
図2に示すように、根管2の切削時に噛み込みが生じた場合、調整機構30aは、ヘッド部12が歯1に近づく方向に作用する外力F(及び加速度A)を、首振り軸31が反時計回りに作用するトルクT(及び加速度A)として検知する。続いて、調整機構30aは、検知されたトルクT(及び加速度A)の大きさ、回転方向等の情報に基づき、
図3に示すように、ヘッド部12及びネック部16を首振り軸31を中心に時計回りに動作させることで(
図3に示す矢印M)、ヘッド部12を歯1から引き離す。換言すると、調整機構30aは、ヘッド部12と治療対象の歯1との間の距離Dを、最適な距離(例えば、切削工具20の噛み込みや根尖貫通のリスクを回避可能な距離等)になるように、
図2に示す距離D1から
図3に示す距離D2に調整する。なお、調整する距離Dの範囲は、例えば5mm~10mm程度である。
【0071】
なお、調整機構30aの構造は、前記したように構成されていれば特に限定されない。調整機構30aの首振り軸31には、ヘッド部12が首振り軸31を中心に反時計回りに回転する(ヘッド部12が歯1に近づく方向に移動する)ことを制限(規制)するように構成されたラチェット機構が採用されていてもよい。
【0072】
また、調整機構30aは、首振り軸31が例えばモータやアクチュエータ等の駆動源で駆動可能に構成されていてもよい。この場合、駆動源を介して調整機構30aを駆動するための調整機構駆動回路56(
図7参照)をハンドピース本体11又は電子機器50に設ける。これにより、首振り軸31のトルクTを駆動源の電流、インピーダンス等で電気的に検知できるため、外力Fの検知精度及び調整機構30aの応答速度が向上する。
【0073】
なお、歯科用ハンドピースシステムS2では、上述の歯科用ハンドピースシステムS1と同様の構成が採用されていてもよく、またその効果も同様である。具体的には、切削工具20にその軸方向Zに移動可能なストッパ(ストッパ40等)が外嵌されていてもよい。調整機構30aは、首振り軸31のトルクT(及び加速度A)を連続的(好ましくはリアルタイム)に検知するように構成されていてもよい。
【0074】
また、歯科用ハンドピースシステムS2は、切削工具20の回転駆動力を、ヘッド部12と歯1との間の距離Dに連動させるように構成されていてもよい。この場合、例えば、首振り軸31を中心に反時計回りに作用するトルクT(
図2参照)を検知した(噛み込みが生じた)ときは、モータ14の回転駆動力を低下させながら又は低下させた後に、調整機構30aが距離Dを調整してヘッド部12を歯1から引き離す。その後、噛み込みが回避され、根管2の切削を再開する場合には、調整機構30aによりヘッド部12を歯1に近づけながら又は近づけた後に、モータ14の回転駆動力を元に戻す。これにより、切削工具20を根管壁2aに接触させる瞬間や切削工具20が根管壁2aに僅かに噛み込まれた瞬間の切削工具20と根管2との当たりが優しくなる。その結果、歯科用ハンドピースシステムS2を用いて根管治療を行う作業者の手の動作を、高熟練作業者の手の動作と同様の動作になるようにサポートできる。
【0075】
以上のように構成される歯科用ハンドピースシステムS2によれば、前記(1)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0076】
(2)歯科用ハンドピースシステムS2では、調整機構30aをさらに備え、調整機構30aが外力Fを首振り軸31のトルクTに変換して検知する。そして、検知されたトルクTに応じて(を利用して)、調整機構30aによりハンドピース10のヘッド部12と治療対象の歯1との間の距離Dが調整される。このように、調整機構30aが距離Dを調整することで、ハンドピース10の引き上げ動作を作業者の手の代わりに行う(作業者の手の動作をサポートする)ことができる。これにより、低熟練作業者であっても、当該サポートを受けることで、安全且つ高熟練作業者と同様の治療ができる。したがって、作業者の熟練度によらず、さらに一層安全な治療ができ且つ治療効果のばらつきを低減できる。
【0077】
(3)作業者は、根管治療中、切削工具20を根管壁2aに軽く食い込ませては引き上げるという動作(押し引き動作)を繰り返すことが必要になる。そのため、作業者に必要以上の精神的な負担が強いられるところ、調整機構30aが作業者の手の動作をサポートするため、作業者の負担を軽減できる。
【0078】
<第3実施形態>
図4~
図8は、本開示の第3実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムS3を示す。本実施形態では、調整機構30bの構成が、上述の第2実施形態の調整機構30aとは異なる。即ち、本実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムS3は、調整機構30aに代わり、調整機構30bを備える。また、歯科用ハンドピースシステムS3は、ストッパ40と、記憶手段57と、制御手段58とをさらに備える。その他の点については、上述の第1及び第2実施形態と同様の構成であるため、ここでは詳しい説明を省略する。また、第1及び第2実施形態と同様の構成部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0079】
(調整機構)
調整機構30bは、ハンドピース本体11に外接された調整機構本体32と、治療対象の歯1と接触する接触部33と、調整機構本体32及び接触部33を連結する連結部34とを備える。
【0080】
調整機構本体32は、連結部34の一端(回転軸35)を、ハンドピース本体11の長手方向(
図4~
図6では略左右方向)に往復動するものである。調整機構本体32としては、特に限定されず、例えば、モータ、アクチュエータ等が挙げられる。なお、調整機構本体32は、調整機構本体32を駆動するための調整機構駆動回路56と電気的に接続されている。
【0081】
接触部33(その少なくとも一部)は、根管2の切削時に、治療対象の歯1と接触する部分である。即ち、調整機構30bは、接触式の調整機構といえる。
【0082】
接触部33は、切削工具20が貫通可能な貫通孔を有し、切削工具20にその軸方向Zに移動可能に外嵌されている。また、接触部33は、連結部34の他端(回転軸36)に連結されている。なお、接触部33の形状は、根管2の切削時に治療対象の歯1と接触可能なものであれば特に限定されないが、例えばドーナツ状等が挙げられる。また、接触部33の大きさ、重量等は、調整機構本体32が連結部34を介して切削工具20の軸方向Zに移動可能なものであれば特に限定されない。また、接触部33は、根管2の切削時に接触部33の位置を安定させることができれば、治療対象の歯1以外の歯、その他口腔内或いは口腔外の適当な箇所(骨等の硬い部分)に接触させてもよい。
【0083】
連結部34は、例えば、長板、棒状等に形成され、その長手方向両端に切削工具20の軸方向Zと直交する方向(
図4~
図6では紙面に垂直な方向)に延びる回転(回動)軸35,36が設けられている。この回転軸35,36を介して、連結部34と調整機構本体32及び接触部33とが回動軸35,36回りに回転可能にそれぞれ連結されている。これにより、連結部34の一端が回転軸35回りに回転しながら調整機構本体32の長手方向に往復動したときに、連結部34の他端が回転軸36回りに回転することで、連結部34の切削工具20の軸方向Zに対する傾斜角度が変化する。その結果、ヘッド部12と接触部33(即ち治療対象の歯1)との間の距離Dが変化するようになっている。
【0084】
また、調整機構30bは、上述の調整機構30aと同様に、外力Fを検知するように構成されている。具体的には、調整機構30bは、根管治療時には接触部33の少なくとも一部が治療対象の歯1と接触しているため、その接触部分において、歯(外部)から受ける力fを検知できる。例えば、切削工具20が根管壁2aに接触(当接、圧接)したとき、噛み込みしたとき等に受ける歯1(外部)から受ける力Fは、接触部33が歯1から受ける反力(歯からの圧力)fで直接検知できる。即ち、調整機構30bは反力に応答して作動するアクティブストッパともいえる。
【0085】
外力Fを接触部33が受ける反力fで検知する方法としては、例えば、接触部33の歯1との接触面に圧力センサを設けて検知する方法、調整機構本体32の駆動電流、インピーダンス等を検知する方法等が挙げられる。後者の方法では、圧力センサ及びそのセンサ回路が不要になるため、歯科用ハンドピースシステムS3の構成が簡易になり、コストを削減できる。
【0086】
なお、接触部33又はその近傍には、加速度センサが設けられていてもよい。これにより、加速度Aは、接触部33と接触する歯1の加速度aで直接検知できる。
【0087】
そして、歯科用ハンドピースシステムS3では、接触部33で検知された外力f及び加速度a(触覚情報)に応じて(利用して)、上述の歯科用ハンドピースシステムS2と同様に、調整機構30bがハンドピース10のヘッド部12と治療対象の歯1との間の距離Dを調整するように構成されている。
【0088】
例えば、
図4に示すように、根管2の切削時に噛み込みが生じた場合、調整機構30bは、ヘッド部12が歯1に近づく方向に作用する外力F(及び加速度A)を、接触部33が歯1から受ける反力f(及び加速度a)として検知する。続いて、調整機構30bは、検知された反力f(及び加速度a)の大きさ、方向等の情報に基づき、
図5に示すように、調整機構本体32を作動させて、連結部34の一端(回転軸35)をヘッド部12側に移動させる。これにより、切削工具20の軸方向Zに対する連結部34の傾斜角度が小さくなる(連結部34の長手方向が切削工具20の軸方向Zに近づく)。その結果、ヘッド部12を接触部33(即ち歯1)から引き離す(
図5に示す矢印M)。換言すると、調整機構30bは、ヘッド部12と治療対象の歯1との間の距離Dを、最適な距離になるように、
図4に示す距離D1から
図5に示す距離D2に調整する。なお、調整する距離Dの範囲は、例えば5mm~10mm程度である。
【0089】
なお、調整機構30bの構造は、前記したように構成されていれば特に限定されず、ジャッキを用いた構造、エアバッグ等の空気圧を利用する構造等でもよい。また、調整機構30bは、ハンドピース10(ハンドピース本体11)の外部に設けられているため、ハンドピース10に後付けできるように構成されていてもよい。
【0090】
また、調整機構30bは、上述の調整機構30aと同様の構成が採用されていてもよく、またその効果も同様である。具体的には、調整機構30bは、接触部33が受ける反力f(及び加速度a)を連続的(好ましくはリアルタイム)に検知するように構成されていてもよい。また、切削工具20の回転駆動力を、ヘッド部12と治療対象の歯1との間の距離Dに連動させるように構成されていてもよい。
【0091】
(ストッパ)
歯科用ハンドピースシステムS3は、
図4、
図5及び
図7に示すように、ストッパ40をさらに備えていてもよい。なお、作業者の手の動作をより一層サポートする観点から、ストッパ40を備えていることが好ましい。ストッパ40は、上述の歯科用ハンドピースシステムS1,S2にも採用できるものである。
【0092】
ストッパ40は、切削工具20が貫通可能な貫通孔を有する。そして、ストッパ40は、切削工具20にその軸方向Zに移動可能に外嵌され、治療対象の歯1と接触部33との間に介在している。具体的には、ストッパ40は、その少なくとも一部が歯1と接触している一方、歯1と接触する面とは反対側の面が接触部33と接触している。換言すると、調整機構30b(接触部33)の少なくとも一部は、ストッパ40を介して、治療対象の歯1と接触している。そして、調整機構30bは、ストッパ40を切削工具20の軸方向Zに移動させることで、ハンドピース10と歯1との間の距離Dを調整するように構成されている。
【0093】
ストッパ40は、弾性を有する弾性部材で構成されており、それ自体の弾性により引き込まれた後に戻す動作が自然に生まれる。弾性部材としては、特に限定されず、例えば、ゴム、エラストマー、樹脂等が挙げられる。なお、ストッパ40は、ラバーストッパ等と称される市販品を使用できる。
【0094】
ストッパ40の具体例としては、切削工具20に付属されているストッパ(作業長の目安として一般に使用される市販品、切削工具20の軸方向Zの長さ:2mm程度);歯科用ハンドピースシステムS3専用に軸方向Zの長さが調整されたストッパ(市販品よりも軸方向Zに長いタイプや治療前に最適長さに切断するタイプ等を含む);接触部33の歯1と接触する面の少なくとも一部に接着固定されたストッパ;これらを組み合わせたストッパ等が挙げられる。
【0095】
なお、ストッパ40の形状は、根管2の切削時に、接触部33及び歯1と接触可能なものであれば特に限定されないが、例えばドーナツ状等が挙げられる。また、ストッパ40の大きさ、重量等は、調整機構本体32が接触部33を介して切削工具20の軸方向Zに移動可能なものであれば特に限定されない。
【0096】
このように、ストッパ40を歯1と接触部33との間に介在させることで、ストッパ40の弾性により、切削工具20の根尖方向への引き込みが抑制され、切削工具20の噛み込みや根尖貫通のリスクが低減される。その結果、当該リスクへの不安が軽減され、歯科用ハンドピースシステムS3の使用感及び安全性の向上を図ることができる。
【0097】
なお、歯科用ハンドピースシステムS3は、
図6に示す本実施形態の変形例のように、ストッパ40を備えていなくてもよい。この場合、接触部33(その少なくとも一部、接触部分)は、歯1と直接接触している。そのため、接触部33自体が弾性部材で構成されていてもよい。弾性部材としては、前記したものと同様のものが挙げられる。
【0098】
(記憶手段)
歯科用ハンドピースシステムS3は、
図7に示すように、記憶手段57をさらに備える。記憶手段57は、ハンドピース本体11に設けられている。なお、記憶手段57は、上述の歯科用ハンドピースシステムS1,S2にも採用できるものである。
【0099】
記憶手段57は、高熟練作業者によるハンドピース10の所望の動きに応じた、外力F、加速度A、ヘッド部12と治療対象の歯1との間の距離D、及び切削工具20の回転駆動力の少なくとも1つ(以下、外力F、加速度A、距離D及び回転駆動力の少なくとも1つをまとめて「ハンドピース10の動きに関連する情報」ともいう)の最適値が予め記憶されている。
【0100】
高熟練作業者によるハンドピース10の所望の動きとは、ハンドピース10を持つ高熟練作業者の手の動作であり、例えば、(I)ストップ動作、(II)ブレーキング動作、(III)バック動作等が挙げられる。(I)ストップ動作とは、切削工具20の軸方向Zにおけるハンドピース10の動きを停止させる動作をいう。(II)ブレーキング動作とは、切削工具20が根管壁2aに食い込んで根尖方向へとどんどん引き込まれてしまうときに、歯1に近づく方向へのハンドピース10の根尖への前進速度を低減させたり、前進自体を抑制する動作をいう。(III)バック動作とは、ハンドピース10を歯1から引き離す(後退)動作をいう。なお、バック動作は、切削された根管2内の神経等(切削屑)を掻き出すためのかき上げ動作も含む。また、前記動作(I)~(III)以外に、切削工具20の推進力による前進とは別の、作業者によるハンドピース10を前進させるために押す動作等もある。
【0101】
高熟練作業者は、ハンドピース10に作用する外力Fや加速度Aを手に感じたときには、切削工具20の噛み込みや根尖貫通のリスクを回避するために、前記動作(I)~(III)を組み合わせて、ハンドピース10が所望の動きとなるように動作する。
【0102】
なお、ハンドピース10の所望の動きには、前記リスク回避の観点だけではなく、前記動作(I)~(III)に、上述したかき上げ動作、作業者によるハンドピース10を押す動作、症例(根管形状を含む)に適した動作、使用する切削工具20の特性に適した動作等をさらに組み合わせた、推奨される治療に適したハンドピース10の動きも含まれる。
【0103】
歯科用ハンドピースシステムS3では、高熟練作業者が前記動作(I)~(III)や他の動作を行うときの、前記ハンドピース10の動きに関連する情報を予め計測し、平均化等された数値(最適値)が記憶手段57に記憶されている。
【0104】
即ち、高熟練作業者によるハンドピース10の所望の動きとは、高熟練作業者の手の動作を保存又は再現した(高熟練作業者の手の動作をもとに作成された)根管治療時のハンドピース10の最適な動きであり、前記ハンドピース10の動きに関連する情報とは、ハンドピース10の最適な動きを各パラメータごとに数値化した情報である。
【0105】
なお、前記ハンドピース10の動きに関連する情報は、ハンドピース10の一連の動きに応じた連続値であってもよい。また、当該情報は、例えば、症例(根管形状を含む)や使用する切削工具20の種類ごとにプログラム化されていてもよく、作業者が当該プログラムを選択できるように構成されていてもよい。
【0106】
また、記憶手段57は、実際の治療時に連続的(好ましくはリアルタイム)に検知された前記ハンドピース10の動きに関連する情報(最新情報)を順次記憶できるように構成されていてもよい。
【0107】
また、記憶手段57は、前記ハンドピース10の動きに関連する情報と組み合わせて使用可能な、他の情報を予め記憶するように構成されていてもよい。他の情報としては、例えば、ハンドピース10の使用中に入手可能な情報として、切削工具20の負荷トルク、根管長測定回路53により測定された歯1の根尖位置から切削工具20の先端までの距離のリアルタイム情報等;ハンドピース10の使用前・使用中に設定される情報として、切削工具20の回転速度、回転モード(回転方向、回転数、回転角度等)等のリアルタイム情報;ハンドピース10に予め入力される情報として、切削工具20の個体識別情報[製品の品番、製品サイズ(具体的には、ISO規格で規格された切刃のサイズ)、それに対応する規格色、製造番号、製造年月日、ロット毎等に付される情報(UDI(Unique Device Identification、機器識別情報)と呼ばれる医療機器等に使用される識別子等)、1本毎に付される情報(1本毎に異なる、個体識別番号等の固有の情報)等]、切削工具20の仕様情報(耐累積負荷や耐累積回転数等の製造メーカーから提供される推奨耐久性情報等)、類似根管形状情報(治療対象の歯1(根管2)を予め撮像した2次元の画像情報、X線CT画像、超音波画像、OCT画像等の3次元画像等);ハンドピース10の使用後に管理され又は更新される切削工具20の情報として、累積回転数(最新情報)、累積負荷トルク(最新情報)、これら最新の累積情報と前記推奨耐久性情報とを比較し、計算された疲労蓄積状況、ファイルの根管侵入速度等;が挙げられる。これらの情報を組み合わせて使用することで、症例(根管形状を含む)や使用する切削工具20の特性に適した情報を利用できるため、切削工具20の破断リスクや根尖貫通リスクがより一層低減される。
【0108】
(制御手段)
図7に示すように、歯科用ハンドピースシステムS3は、制御手段58をさらに備える。制御手段58は、ハンドピース本体11に設けられている。なお、制御手段58は、上述の歯科用ハンドピースシステムS1,S2にも採用できるものである。
【0109】
制御手段58は、調整機構30b及びモータ14を制御するものである。即ち、
図7に示すように、制御手段58は、調整機構30bを駆動する調整機構駆動回路56、及びモータ14を駆動するモータ駆動回路51とそれぞれ電気的に接続されている。これにより、調整機構30bを単独で、モータ14を単独で、又は調整機構30b及びモータ14を共同で制御できる。これにより、切削工具20の回転駆動力を、ヘッド部12と治療対象の歯1との間の距離Dに連動させることができる。なお、制御手段58は、センサ回路52、根管長測定回路53及び表示手段55にもそれぞれ電気的に接続されている。
【0110】
また、制御手段58は、記憶手段57とも電気的に接続されている。これにより、記憶手段57に予め記憶された前記ハンドピース10の動きに関連する情報、必要に応じて前記他の情報が読み出される。そして、当該情報に基づいて(利用して)、制御手段58が調整機構30b及びモータ14を制御することで、ハンドピース10と治療対象の歯1との間の距離D及び切削工具20の回転駆動力が調整される。このように、歯科用ハンドピースシステムS3では、制御手段58が、記憶手段57に記憶された各情報に基づき、外力F、加速度A、距離D及び回転駆動力の少なくとも1つを最適化する。換言すると、歯科用ハンドピースシステムS3は、調整機構30b、モータ14、記憶手段57及び制御手段58が互いに協働して、高熟練作業者の手の動作(ハンドピース10の所望の動き)を再現するように構成されている。
【0111】
例えば、根管治療前及び/又は治療中に、制御手段58は、前記ハンドピース10の動きに関連する情報の最適値、直近で検知された最新情報(最新値)、直前に検知された旧情報(旧値)等を記憶手段57から読み出す。続いて、制御手段58は、前記最適値と前記最新値とを比較し前記最新値が前記最適値に近づくように、又は前記最新値と前記旧値とを比較しその変化分に応じて、調整機構30b及びモータ14を連続的(好ましくはリアルタイム)に制御する。これにより、調整機構30bがヘッド部12と治療対象の歯1との間の距離Dを最適な距離(例えば切削工具20の推進力による根管切削が可能な距離、前記リスクを回避可能な距離等)になるように連続的(好ましくはリアルタイム)に調整する。またモータ14が切削工具20の回転駆動力を最適な駆動力になるように連続的(好ましくはリアルタイム)に調整する。
【0112】
前記した一連の制御により、歯科用ハンドピースシステムS3を用いて根管治療を行う作業者は、その手の動作が、高熟練作業者の手の動作(ペッキングモーション、押し引き動作、引き上げ動作)と同様の動作になるように、連続的(好ましくはリアルタイム)にサポートされる。これにより、高熟練作業者の手の動作を再現したハンドピース10の動きの自動化を図ることができる。このように、高熟練作業者が根管治療時に行う手の動作を歯科用ハンドピースシステムS3が行う。即ち、歯科用ハンドピースシステムS3は、記憶手段57に記憶された前記ハンドピース10の動きに関連するリアルタイム情報に応じて、ハンドピース10の動きを自動化した歯科用ハンドピースシステムともいえる。
【0113】
(電子機器)
図8に示すように、歯科用ハンドピースシステムS3では、記憶手段57及び制御手段58が電子機器50等に設けられていてもよい。電子機器50は、ハンドピース10(調整機構30b)と、インターネットを介して、各種制御信号や前記した各種情報(データ)を送受信可能に構成されている。電子機器50は、特に限定されず、携帯電話、タブレット端末、パソコン等を利用できる。なお、電子機器50は、上述の歯科用ハンドピースシステムS1,S2にも採用できるものである。
【0114】
また、電子機器50は、記憶手段57から読み出された情報を表示したり、治療中の切削工具20のリスク状況や現在の切削工具20の疲労蓄積状況を、例えば、数値や人の顔を模したマーク等で表示してもよい。また、根管治療中に切削工具20の噛み込みや根尖貫通等のリスクが高まったときには、警告音を鳴らしたり、切削工具20の動作を止める等の処理が行われるようにしてもよい。
【0115】
また、歯科用ハンドピースシステムS3では、リアルハプティクス技術を利用できる。具体的には、実際の治療場所に配置された歯科用ハンドピースシステムS3aと、実際の治療場所とは異なる遠隔地(操作場所)に配置され、作業者が実際に操作する歯科用ハンドピースシステムS3bとは、インターネットを介して、各種制御信号や前記した各種情報(データ)を送受信可能に構成されている。そして、歯科用ハンドピースシステムS3aで検知された触覚情報(外力F及び加速度A)を双方向に伝送することで、遠隔地にいる作業者が歯科用ハンドピースシステムS3bで当該触覚情報と略同じ触覚情報を取得し、またそれを再現できる。即ち、歯科用ハンドピースシステムS3a,S3b間で接触情報を共有できる。したがって、歯科用ハンドピースシステムS3では、根管2の遠隔治療が可能になる。
【0116】
以上のように構成される歯科用ハンドピースシステムS3によれば、前記(1)~(3)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0117】
(4)歯科用ハンドピースシステムS3では、上述の調整機構30aとは異なる調整機構30bを備え、外力Fを、調整機構30bの接触部33が受ける反力fとして直接検知するため、外力Fの検知精度及び調整機構30bの応答速度を向上できる。したがって、作業者の熟練度によらず、さらに一層安全な治療ができ且つ治療効果のばらつきを低減できる。
【0118】
(5)歯科用ハンドピースシステムS3では、弾性を有するストッパ40をさらに備え、このストッパ40が、歯1に接触した状態で、歯1及び調整機構30b(接触部33)の間に介在されている。ストッパ40は、それ自体の弾性により引き込まれた後に戻す動作が自然に生まれるため、作業者の手の動作がサポートされる。また、切削工具20の噛み込みや根尖貫通のリスクが低減され、歯科用ハンドピースシステムS3の使用感及び安全性の向上を図ることができる。
【0119】
(6)歯科用ハンドピースシステムS3では、記憶手段57及び制御手段58を備え、制御手段58は、記憶手段57から読み出された前記ハンドピース10の動きに関連する情報に基づき、調整機構30b及びモータ14を制御する。これにより、高熟練作業者の手の動作を誰でも再現できる。即ち、低熟練作業者であっても、安全な治療ができる。換言すると、歯科用ハンドピースシステムS3は、熟練技術が不要の歯科用ハンドピースシステムともいえる。また、高熟練作業者の手の動作を連続的にサポートすることで、当該動作を再現したハンドピース10の動きの自動化を図ることができる。さらに、リアルハプティクス技術を利用して、遠隔地にいる作業者であっても、その熟練度によらず、安全な治療ができ且つ治療効果のばらつきを低減できる。
【0120】
<第4実施形態>
図9及び
図10は、本開示の第4実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムS4を示す。本実施形態では、調整機構30cの構成が、上述の第2及び第3実施形態の調整機構30a,30bとは異なる。即ち、本実施形態に係る歯科用ハンドピースシステムS4は、調整機構30a,30bに代わり、調整機構30cを備える。その他の点については、上述の第1~第3実施形態と同様の構成であるため、ここでは詳しい説明を省略する。また、第1~第3実施形態と同様の構成部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0121】
(調整機構)
調整機構30cは、ストッパ40と同様の弾性部材で同様の形状に形成され、治療対象の歯1とハンドピース10のヘッド部12との間に配置されている。具体的には、調整機構30cは、切削工具20が貫通可能な貫通孔を有し、切削工具20にその軸方向Zに移動可能に外嵌され、ハンドピース10のヘッド部12と治療対象の歯1との間に介在している。なお、調整機構30cは、前記したラバーストッパ等と称される市販品や、好適には短くカットされる前のラバーストッパ用弾性部材等を使用できる。
【0122】
ここで、調整機構30cでは、その切削工具20の軸方向Zの長さが、作業長の目安として一般に使用されるラバーストッパよりも長く、使用する切削工具20の種類や治療対象の歯1(根管2)を予め撮像した画像情報等に応じて最適長さに調整されている。最適長さとは、根尖貫通リスクを低減する観点から、例えば、切削工具20の前記保持部を除いた(ヘッド部12表面から突出する切削工具20の)軸方向Zの長さから治療する根管2の根管長を引いた長さと略同じ長さをいう。例えば、前記ラバーストッパ用弾性部材を最適長さにカットする(ラバーストッパ用弾性部材を複数に分離する)方法や、前記したラバーストッパ等と称される市販品を複数用い、該市販品を軸方向Zに複数連結する方法等により、調整機構30cが得られる。即ち、調整機構30cは、最適長さに調整されたラバーストッパといえる。また、調整機構30cは、治療対象の歯1とヘッド部12との間への配置にあたって、切削工具20の軸方向Zの長さを調整可能としたストッパ部材ともいえる。
【0123】
ストッパ40の具体例としては、切削工具20に付属されているストッパ(作業長の目安として一般に使用される市販品、切削工具20の軸方向Zの長さ:2mm程度)が最適長さに応じて軸方向Zに複数連結されたストッパ連結体;歯科用ハンドピースシステムS3専用に軸方向Zの長さが調整されたストッパ(市販品よりも軸方向Zに長いタイプや治療前に最適長さに切断するタイプ等を含む);接触部33の歯1と接触する面の少なくとも一部に接着固定されたストッパ;これらを組み合わせたストッパ等が挙げられる。
【0124】
また、調整機構30cは、その少なくとも一部が歯1と接触している。即ち、調整機構30cは、上述の調整機構30bと同様に、接触式の調整機構ともいえる。これにより、調整機構30cは、調整機構30b(接触部33)と同様に、その接触部分において、歯(外部)から受ける力fを検知できる。即ち、調整機構30cは反力に応答して作動するアクティブストッパともいえる。反力fを検知する方法は、調整機構30bと同様の方法を採用できる。また、調整機構30c又はその近傍には、加速度センサが設けられていてもよい。
【0125】
そして、歯科用ハンドピースシステムS4では、調整機構30cで検知された外力f及び加速度a(触覚情報)に応じて(利用して)、上述の歯科用ハンドピースシステムS1及びS2と同様に、調整機構30cがハンドピース10のヘッド部12と治療対象の歯1との間の距離Dを調整するように構成されている。
【0126】
例えば、予め最適長さにカットされた調整機構30cを、切削工具20にその軸方向Zに移動可能に外嵌する。そして、
図9に示すように、調整機構30cとハンドピース10のヘッド部12との間に隙間を設ける一方、調整機構30cの少なくとも一部を治療対象の歯1と接触させた状態で根管治療を行う。根管治療中、調整機構30cは、その接触部分が歯1から受ける反力f(及び加速度a)を検知すると、
図9に示す矢印M方向に移動する。このとき、調整機構30cは、一般に使用されるラバーストッパと比較して、切削工具20との接触面積が大きく、切削工具20に対する抵抗が大きいため、比較的ゆっくり(徐々に)移動する。即ち、調整機構30cの矢印M方向への急激な移動が抑制され、その結果、切削工具20が根管壁2aに食い込んで根尖方向へ急激に引き込まれることが抑制される。
【0127】
さらに、
図10に示すように、調整機構30cは、最適長さに調整されているため、切削工具20の先端が根管2の根尖に近づいたときには、ヘッド部12に接触する。これにより、調整機構30cの矢印M方向への移動が抑制され、その結果、根管長測定回路53が設けられていなくても、根尖貫通リスクが低減される。
【0128】
このように、調整機構30cは、ヘッド部12と治療対象の歯1との間の距離Dを、
図9に示す距離D2から
図10に示す距離D1に調整する。
【0129】
以上のように構成される歯科用ハンドピースシステムS4によれば、前記(1)~(3)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0130】
(7)歯科用ハンドピースシステムS4では、上述の調整機構30a,30bとは異なる調整機構30cを備え、調整機構30bと同様に、外力Fを、調整機構30cの歯1との接触部分が受ける反力fとして直接検知するため、外力Fの検知精度及び調整機構30cの応答速度を向上できる。したがって、作業者の熟練度によらず、さらに一層安全な治療ができ且つ治療効果のばらつきを低減できる。
【0131】
(8)歯科用ハンドピースシステムS4では、調整機構30cは、その配置にあたって、切削工具20の軸方向Zの長さを調整可能としたストッパ部材であり、該ストッパ部材をカット(分離)又は連結することで、その長さを最適長さに容易に調整できるため、調整機構30cの構造及び構成が簡易である。
【0132】
(9)歯科用ハンドピースシステムS4では、調整機構30cは、それ自体の弾性により引き込まれた後に戻す動作が自然に生まれるため、作業者の手の動作がサポートされる。また根管治療中、調整機構30cの矢印M方向への急激な移動が抑制されるため、切削工具20の噛み込みや根尖貫通のリスクが低減され、歯科用ハンドピースシステムS4の使用感及び安全性の向上を図ることができる。
【0133】
<ストッパ部材>
本開示のストッパ部材は、調整機構30cと同様の構成を備えており、調整機構30cと同様の弾性部材で、同様の方法により、同様の形状に形成されている。また、ストッパ部材は、ハンドピース本体11及びヘッド部12を有するハンドピース10と、切削工具20とを備える歯科用ハンドピースシステム(即ち、上述の歯科用ハンドピースシステムS1~S4と同様の構成を備えるもの)に好適に使用でき、治療対象の歯1とヘッド部12との間に配置される。そして、ストッパ部材は、その配置にあたって、切削工具20の軸方向Zの長さを調整可能としたものであり、その長さが最適長さに調整されている。
【0134】
このように構成されるストッパ部材は、上述の歯科用ハンドピースシステムS1~S4のいずれかに配置したときはアクティブストッパとして作用する一方、外力Fや加速度Aを検知するように構成されていない歯科用ハンドピースシステムに配置したときは、完全パッシブ型のストッパとして作用する。
【0135】
なお、ストッパ部材が完全パッシブ型のストッパとして作用する場合、その動きは調整機構30cと同様である。
図9及び
図10において、調整機構30cをストッパ部材に代えて以下説明する。例えば、予め最適長さにカットされたストッパ部材を、切削工具20にその軸方向Zに移動可能に外嵌する。そして、
図9に示すように、ストッパ部材とハンドピース10のヘッド部12との間に隙間を設ける一方、ストッパ部材の少なくとも一部を治療対象の歯1と接触させた状態で根管治療を行う。根管治療中、ストッパ部材は、その接触部分が歯1から反力fを受けると、
図9に示す矢印M方向に移動する。このとき、ストッパ部材は、一般に使用されるラバーストッパと比較して、切削工具20との接触面積が大きく、切削工具20に対する抵抗が大きいため、比較的ゆっくり(徐々に)移動する。即ち、ストッパ部材の矢印M方向への急激な移動が抑制され、その結果、切削工具20が根管壁2aに食い込んで根尖方向へ急激に引き込まれることが抑制される。
【0136】
さらに、
図10に示すように、ストッパ部材は、最適長さに調整されているため、切削工具20の先端が根管2の根尖に近づいたときには、ヘッド部12に接触する。これにより、ストッパ部材の矢印M方向への移動が抑制され、その結果、根管長測定回路53が設けられていなくても、根尖貫通リスクが低減される。
【0137】
以上のように構成されるストッパ部材によれば、前記(8)及び(9)と同様の効果を得ることができる。
【0138】
<その他の実施形態>
第1~第4実施形態では、根管2の切削時に外力F及び加速度Aの両方を検知するように構成されているが、これに限定されず、外力F及び加速度Aの少なくとも1つを検知するように構成されていてもよい。なお、外力F及び加速度Aの両方を検知することで、触覚情報の検知精度を向上できる。一方、外力Fのみを検知する場合は、加速度Aを検知するための加速度センサ及びそのセンサ回路が不要になるため、歯科用ハンドピースシステムS1,S2,S3の構成がより簡易になり、コストを削減できる。
【0139】
第3実施形態では、制御手段58は、調整機構30b及びモータ14の両方を制御するように構成されているが、これに限定されず、調整機構30b及びモータ14の少なくとも1つを制御するように構成されていてもよい。
【0140】
第3実施形態では、調整機構30b(調整機構本体32)は、制御手段58により電気的に制御するように構成されているが、これに限定されない。例えば、ハンドピース10を歯1(接触部33)から引き離す方向に弾性により付勢する伸張ばね、スプリング等により構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本開示は、歯の根管を治療する際に用いられるハンドピースに適用できる。
【符号の説明】
【0142】
S1,S2,S3,S4 歯科用ハンドピースシステム
Z 切削工具の軸方向
F,f 切削工具の軸方向におけるハンドピースが外部から受ける力
A,a 切削工具の軸方向におけるハンドピースの加速度
D1,D2(D) ハンドピースと治療対象の歯との間の距離
M 調整機構の動き
T 調整機構のトルク
1 治療対象の歯
2 根管
2a 根管壁
10 ハンドピース
11 ハンドピース本体
12 ヘッド部
13 センサ
14 モータ(付与手段)
15 把持部
16 ネック部
20 切削工具
30a,30b,30c 調整機構
31 回転軸
32 調整機構本体
33 接触部
34 連結部
35,36 連結部の回転軸
40 ストッパ
50 電子機器
51 モータ駆動回路
52 センサ回路
53 根管長測定回路
54 口腔電極
55 表示手段
56 調整機構駆動回路
57 記憶手段
58 制御手段