(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】鋼管杭と鋼製柱との接合構造およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20240522BHJP
E02D 5/28 20060101ALI20240522BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240522BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20240522BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
E02D5/28
E04B1/58 503M
E04B1/58 511M
E04B1/30 C
E04B1/24 R
(21)【出願番号】P 2020127370
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-07-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第51回海洋工学パネル 令和1年7月31日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】594012070
【氏名又は名称】株式会社安井建築設計事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】安田 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】足立 幸多朗
(72)【発明者】
【氏名】楠城 誉章
(72)【発明者】
【氏名】中村 治男
(72)【発明者】
【氏名】正田 雄高
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-104707(JP,A)
【文献】特開2003-193480(JP,A)
【文献】特開2004-156292(JP,A)
【文献】特表2004-504521(JP,A)
【文献】特開2004-183324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00-27/52
E02D 5/22- 5/80
E04B 1/58
E04B 1/30
E04B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭と鋼製柱とを前記鋼製柱が前記鋼管杭内に入り込んで接合する接合構造であって、
前記鋼製柱に対する押し込み力を前記鋼管杭に伝達する柱押し込み力伝達機構と、前記鋼製柱と前記鋼管杭との間の鉛直高さに関する鉛直誤差を調整する鉛直誤差調整機構と、前記鋼管杭内の少なくとも上部に充填されて前記鋼製柱の柱脚
部が埋設されるコンクリートと、を備え、
前記柱押し込み力伝達機構は、前記鋼製柱に設けられる軸力受けリブと、前記鋼管杭の天端に設置され
前記鋼管杭の内周側に水平方向に広がるように突き出ておりかつ前記鋼製柱が貫通する柱貫通孔を中心領域に有する柱セットプレートと、を有し、
前記鉛直誤差調整機構は、前記軸力受けリブと前記柱セットプレートとの間に板部材が
前記柱セットプレートの前記柱貫通孔の周囲に配置可能に構成され、前記板部材の厚さの調整により前記鉛直誤差が調整可能であり、
前記柱押し込み力伝達機構は、
前記鉛直誤差調整機構を兼用し、前記鉛直誤差の調整のため前記板部材が配置され
ることで前記鋼製柱の押し込み力を前記軸力受けリブと前記板部材と前記柱セットプレートとを介して前記鋼管杭に伝達する鋼管杭と鋼製柱との接合構造。
【請求項2】
前記鋼製柱の引き抜き力を前記鋼管杭に伝達する柱引き抜き力伝達機構と、地震時の前記鋼製柱の水平力を前記鋼管杭に伝達する地震水平力伝達機構と、をさらに備える請求項1に記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造。
【請求項3】
前記板部材はフィラープレートから構成され、前記板部材の厚さが前記フィラープレートの厚さおよび/または枚数を変えることで調整可能である請求項1または2に記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造。
【請求項4】
前記柱セットプレートは、前記鋼管杭の天端近傍において前記鋼管杭の内周面に対向する対向部を有する水平誤差調整機構を
兼用し、
前記水平誤差調整機構は、前記内周面から前記対向部までの水平距離が前記対向部に対応して所定値になるように構成され、前記柱セットプレートが前記鋼管杭の天端に設置され
ることで前記鋼管杭に対し前記所定値内で水平誤差を調整可能である請求項1乃至3のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造。
【請求項5】
前記柱セットプレートは、前記鋼製柱の建て方時のテンプレートの役割を果たすように構成される請求項1乃至4のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造。
【請求項6】
前記鋼管杭内の所定位置にコンクリート止め部材を備え、前記コンクリートは前記鋼管杭内において前記コンクリート止め部材から上側に充填されている請求項1乃至5のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造。
【請求項7】
前記鋼製柱内に前記鋼製柱の下端から所定高さまで充填されたコンクリートを備える請求項1乃至6のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造。
【請求項8】
前記鋼管杭の杭頭部に
前記鋼管杭よりも大径の鋼管を備え、
前記柱押し込み力伝達機構は、前記鋼管杭の天端近傍および前記天端の上部の前記大径の鋼管内に構成される請求項1乃至7のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造。
【請求項9】
鋼管杭と鋼製柱とを前記鋼製柱が前記鋼管杭内に入り込んで接合する接合構造を施工する方法であって、
前記接合構造は、前記鋼製柱に対する押し込み力を前記鋼管杭に伝達する柱押し込み力伝達機構と、前記鋼製柱と前記鋼管杭との間の鉛直高さに関する鉛直誤差を調整する鉛直誤差調整機構と、前記鋼管杭内の少なくとも上部に充填されて前記鋼製柱の柱脚
部が埋設されるコンクリートと、を備え、
前記柱押し込み力伝達機構は、前記鋼製柱に設けられる軸力受けリブと、前記鋼管杭の天端に設置され
前記鋼管杭の内周側に水平方向に広がるように突き出ておりかつ前記鋼製柱が貫通する柱貫通孔を中心領域に有する柱セットプレートと、を有し、
前記鉛直誤差調整機構は、前記軸力受けリブと前記柱セットプレートとの間に板部材が
前記柱セットプレートの前記柱貫通孔の周囲に配置可能に構成され、前記板部材の厚さの調整により前記鉛直誤差が調整可能であり、
前記柱押し込み力伝達機構は、前記鉛直誤差の調整のため前記板部材が配置され
ることで前記鋼製柱の押し込み力を前記軸力受けリブと前記板部材と前記柱セットプレートとを介して前記鋼管杭に伝達し、
前記鋼管杭の天端の高さレベルを確認する工程と、
前記柱セットプレートを前記鋼管杭の天端に設置する工程と、
前記軸力受けリブが設けられた前記鋼製柱
の柱脚部を前記柱セットプレートの前記柱貫通孔に貫通させて前記鋼管杭内に配置する工程と、
前記確認された前記天端の高さレベルに基づいて設定された厚さの前記板部材を介在させて前記柱セットプレートと前記軸力受けリブとを連結する工程と、を含み、
前記柱セットプレートと前記軸力受けリブとの間で前記設定された厚さの板部材により前記鉛直誤差を吸収する、鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法。
【請求項10】
前記板部材をフィラープレートから構成し、前記板部材の厚さを前記フィラープレートの厚さおよび/または枚数により調整する請求項9に記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法。
【請求項11】
前記鋼管杭の位置を実測し、前記柱セットプレートを製作する際に前記実測した値に基づいて前記鋼管杭との間の水平誤差を調整するように前記柱セットプレートの寸法を調整する請求項9または10に記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法。
【請求項12】
前記柱セットプレートは、前記鋼管杭の天端近傍において前記鋼管杭の内周面に対向する対向部を有する水平誤差調整機構を備え、前記水平誤差調整機構は、前記内周面から前記対向部までの水平距離が前記対向部に対応して所定値になるように構成され、
前記柱セットプレートの設置工程において前記鋼管杭に対し前記所定値内で水平誤差を調整する請求項9乃至11のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法。
【請求項13】
前記柱セットプレートを前記鋼製柱の配置工程においてテンプレートとして用いる請求項9乃至12のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法。
【請求項14】
前記鋼管杭内の少なくとも上部においてコンクリート打設を複数回に分けて行う請求項9乃至13のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法。
【請求項15】
前記鋼製柱内にコンクリートを打設し前記鋼製柱の下端から所定高さまで充填する請求項9乃至14のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法。
【請求項16】
前記鋼管杭内に吊り足場をセットしてから前記柱セットプレートを前記吊り足場を用いて設置し、その後、前記吊り足場を切断し前記鋼管杭内に残置したまま前記コンクリートで埋め殺す請求項9乃至15のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法。
【請求項17】
前記柱セットプレートの設置工程の前に、前記鋼管杭よりも大径の鋼管を前記鋼管杭の杭頭部に差し込むようにしてジャケット
式構造を設置する請求項9乃至16のいずれかに記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法。
【請求項18】
前記鋼管杭の上端の上方において前記ジャケット
式構造の床版に形成された開口部内に配筋後にコンクリート打設を行う請求項17に記載の鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭と鋼製柱とを鋼製柱が鋼管杭内に入り込んで接合する接合構造およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭内に鋼管柱を差し込んでからコンクリートを充填して鋼管杭と鋼管柱とを接合し一体化する工法が公知である。特許文献1は、かかる差し込み型の杭と柱の接合構造の施工方法において鋼管柱の所定の位置から両側に突出する2つの嵌合部材を備えると共に、鋼管杭の頭部の一方側に1つの嵌合部材を挟むことができる挟持部材と嵌合部材を載置することができるストッパー部材とを備え、鋼管杭の頭部の他方側に他の1つの嵌合部材を挟むことができる第1の接続装置によって、鋼管柱の水平方向位置及び上下方向の高さ位置のレベル調整を行い、更に、ジャッキアップボルトを設置されている固定金具板と、鋼管杭の頭部から突出して固定金具板を載置できる天板プレートとを備えてなる第2の接続装置によって、ジャッキアップボルトを操作して鋼管柱の垂直方向の倒れのレベル調整を行う施工方法を開示する。第1、第2の接続装置は、コンクリートが固まってから除去される。
【0003】
特許文献2は、鋼管杭の頭部を地面あるいは掘削面より突出させ、該突出部を囲んで鋼管杭の外径より大径の内面突起付鋼管をほぼ同軸上に配置し、前記内面突起付鋼管の内部にコンクリートを充填してフーチングを築造することで杭と柱を接合する構造において杭頭部に鋼製受圧板を配設した杭頭部と柱との接合構造、また、下端部外面に突起を有する柱が杭頭部に配置された内面突起付鋼管の中に挿入され、間隙にコンクリートが充填される接合構造、また、下端部にベースプレートを有する柱が杭頭部に配置された内面突起付鋼管の中に挿入され、間隙にコンクリートが充填される接合構造を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-1924号公報
【文献】特開2000-355938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2の接合構造は、杭と柱とが杭内に充填されたコンクリートにより接合されるもので、柱の軸力をコンクリートを介して杭に伝達し、その伝達の際に柱の外周面や杭頭部の内周面に設けられた突起物等により伝達効率を高めているが(特許文献2)、柱の軸力、特に柱の押し込み力を杭に確実に伝達するには不充分な場合がおおい。杭と柱との接合構造により構築される構造物が大型化すると、杭径および柱サイズも大きくなり、かかる場合には、柱の押し込み力の杭への確実な伝達がよりいっそう要求される。
【0006】
また、杭は土木構造物であり、柱は建築構造物であり、柱を杭内に入れ込んで接合する際には土木構造物の施工誤差、すなわち、鋼管杭の打設地点における支持地盤深度や打設の精度等によって鋼管杭の天端の高さレベルのバラツキや水平方向の位置ずれが生じているため、そのバラツキや位置ずれ等の施工誤差をいかに吸収し調整するかが課題となる。特許文献1は、第1の接続装置で鋼管柱の水平方向位置及び上下方向の高さ位置のレベル調整を行い、第2の接続装置でジャッキアップボルトを操作して鋼管柱の垂直方向の倒れのレベル調整を行うことを開示するが、これらの接続装置は、特別に設置する必要のある位置調整専用機構であり、コンクリート打設後に除去される。
【0007】
柱の押し込み力を杭へ直接伝達することでより確実な伝達が可能となるが、そうすると、杭と柱の接合構造が複雑になってしまい、それに加えて誤差調整のために特別な機構を設けると、接合構造およびその施工工程がより複雑になってしまう。また、誤差調整機構をコンクリートの充填範囲外に設置しコンクリート打設後に撤去する構成とすると、接合構造およびその施工工程のさらなる複雑化が避けられない。一方、杭と柱の接合構造においてより精密性が要求される場合には、主に杭の施工誤差に起因する杭と柱との間の鉛直誤差・水平誤差の調整がより重要となる。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、鋼製柱の押し込み力を鋼管杭に確実に伝達でき、鋼管杭と鋼製柱との間の誤差の調整が可能でかつコンパクトに構成可能な鋼管杭と鋼製柱との接合構造およびその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための鋼管杭と鋼製柱との接合構造は、鋼管杭と鋼製柱とを前記鋼製柱が前記鋼管杭内に入り込んで接合する接合構造であって、
前記鋼製柱に対する押し込み力を前記鋼管杭に伝達する柱押し込み力伝達機構と、前記鋼製柱と前記鋼管杭との間の鉛直高さに関する鉛直誤差を調整する鉛直誤差調整機構と、前記鋼管杭内の少なくとも上部に充填されて前記鋼製柱の柱脚部が埋設されるコンクリートと、を備え、
前記柱押し込み力伝達機構は、前記鋼製柱に設けられる軸力受けリブと、前記鋼管杭の天端に設置され前記鋼管杭の内周側に水平方向に広がるように突き出ておりかつ前記鋼製柱が貫通する柱貫通孔を中心領域に有する柱セットプレートと、を有し、
前記鉛直誤差調整機構は、前記軸力受けリブと前記柱セットプレートとの間に板部材が前記柱セットプレートの前記柱貫通孔の周囲に配置可能に構成され、前記板部材の厚さの調整により前記鉛直誤差が調整可能であり、
前記柱押し込み力伝達機構は、前記鉛直誤差調整機構を兼用し、前記鉛直誤差の調整のため前記板部材が配置されることで前記鋼製柱の押し込み力を前記軸力受けリブと前記板部材と前記柱セットプレートとを介して前記鋼管杭に伝達するものである。
【0010】
この鋼管杭と鋼製柱との接合構造によれば、鉛直誤差調整機構は、軸力受けリブと柱セットプレートとの間に配置される板部材の厚さを調整することで、主に鋼管杭の施工誤差に起因する鋼管杭と鋼製柱との間の鉛直誤差を調整可能であるとともに、柱押し込み力伝達機構は、鉛直誤差調整のため厚さを調整した板部材が配置されたとき、鋼製柱の押し込み力を軸力受けリブと板部材と柱セットプレートとを介して鋼管杭に直接かつ確実に伝達できる。このように、柱押し込み力伝達機構は、軸力受けリブと柱セットプレートとの間に厚さ調整可能な板部材を配置可能に構成されることで鉛直誤差調整機構を内部に備え、鉛直誤差調整機構を兼ねることができるので、確実な柱押し込み力伝達と鉛直誤差調整とが可能な接合構造をよりコンパクトな構造に構成できる。
【0011】
上記接合構造において、前記鋼製柱の引き抜き力を前記鋼管杭に伝達する柱引き抜き力伝達機構と、地震時の前記鋼製柱の水平力を前記鋼管杭に伝達する地震水平力伝達機構と、をさらに備えることが好ましい。
【0012】
また、前記板部材はフィラープレートから構成され、前記板部材の厚さが前記フィラープレートの厚さおよび/または枚数を変えることで調整可能である。
【0013】
また、前記柱セットプレートは、前記鋼管杭の天端近傍において前記鋼管杭の内周面に対向する対向部を有する水平誤差調整機構を兼用し、前記水平誤差調整機構は、前記内周面から前記対向部までの水平距離が前記対向部に対応して所定値になるように構成され、前記柱セットプレートが前記鋼管杭の天端に設置されることで前記鋼管杭に対し前記所定値内で水平誤差を調整可能である。これにより、柱押し込み力伝達部材である柱セットプレートにおいて、主に鋼管杭の施工誤差に起因する水平誤差を調整し吸収できる。
【0014】
また、前記柱セットプレートは、前記鋼製柱の建て方時のテンプレートの役割を果たすように構成されることが好ましい。これにより、鋼管杭との間の鋼製柱の水平誤差を調整でき、鋼製柱を水平方向に精度よく設置できる。
【0015】
また、前記鋼管杭内の所定位置にコンクリート止め部材を備え、前記コンクリートは前記鋼管杭内において前記コンクリート止め部材から上側に充填されていることが好ましい。
【0016】
また、前記鋼製柱内に前記鋼製柱の下端から所定高さまで充填されたコンクリートを備えることが好ましい。また、前記鋼管杭の杭頭部に前記鋼管杭よりも大径の鋼管を備え、前記柱押し込み力伝達機構は、前記鋼管杭の天端近傍および前記天端の上部の前記大径の鋼管内に構成されることが好ましい。なお、前記鋼管杭の杭頭部にジャケット式構造を備えるように構成できる。
【0017】
上記目的を達成するための鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工方法は、鋼管杭と鋼製柱とを前記鋼製柱が前記鋼管杭内に入り込んで接合する接合構造を施工する方法であって、
前記接合構造は、前記鋼製柱に対する押し込み力を前記鋼管杭に伝達する柱押し込み力伝達機構と、前記鋼製柱と前記鋼管杭との間の鉛直高さに関する鉛直誤差を調整する鉛直誤差調整機構と、前記鋼管杭内の少なくとも上部に充填されて前記鋼製柱の柱脚部が埋設されるコンクリートと、を備え、
前記柱押し込み力伝達機構は、前記鋼製柱に設けられる軸力受けリブと、前記鋼管杭の天端に設置され前記鋼管杭の内周側に水平方向に広がるように突き出ておりかつ前記鋼製柱が貫通する柱貫通孔を中心領域に有する柱セットプレートと、を有し、
前記鉛直誤差調整機構は、前記軸力受けリブと前記柱セットプレートとの間に板部材が前記柱セットプレートの前記柱貫通孔の周囲に配置可能に構成され、前記板部材の厚さの調整により前記鉛直誤差が調整可能であり、
前記柱押し込み力伝達機構は、前記鉛直誤差の調整のため前記板部材が配置されることで前記鋼製柱の押し込み力を前記軸力受けリブと前記板部材と前記柱セットプレートとを介して前記鋼管杭に伝達し、
前記鋼管杭の天端の高さレベルを確認する工程と、
前記柱セットプレートを前記鋼管杭の天端に設置する工程と、
前記軸力受けリブが設けられた前記鋼製柱の柱脚部を前記柱セットプレートの前記柱貫通孔に貫通させて前記鋼管杭内に配置する工程と、
前記確認された前記天端の高さレベルに基づいて設定された厚さの前記板部材を介在させて前記柱セットプレートと前記軸力受けリブとを連結する工程と、を含み、
前記柱セットプレートと前記軸力受けリブとの間で前記設定された厚さの板部材により前記鉛直誤差を吸収するものである。
【0018】
この鋼管杭と鋼製柱との接合構造の施工法によれば、鋼管杭の天端の高さレベルを確認し、その確認された天端の高さレベルに基づいて板部材の厚さを設定し、その設定された厚さの板部材を介在させて軸力受けリブと柱セットプレートとを連結するので、主に鋼管杭の施工誤差に起因する鋼管杭と鋼製柱との間の鉛直誤差を調整し吸収できるとともに、鋼製柱の押し込み力を軸力受けリブと板部材と柱セットプレートとを介して鋼管杭に直接かつ確実に伝達できる。このため、確実な柱押し込み力伝達と鉛直誤差調整とが可能なコンパクトな構成の接合構造を確実にかつ精度よく施工することができる。
【0019】
上記接合構造の施工方法において前記板部材をフィラープレートから構成し、前記板部材の厚さを前記フィラープレートの厚さおよび/または枚数により調整することが好ましい。
【0020】
また、前記鋼管杭の位置を実測し、前記柱セットプレートを製作する際に前記実測した値に基づいて前記鋼管杭との間の水平誤差を調整するように前記柱セットプレートの寸法を調整することが好ましい。これにより、主に鋼管杭の施工誤差に起因する水平誤差を調整し吸収できる。
【0021】
また、前記柱セットプレートは、前記鋼管杭の天端近傍において前記鋼管杭の内周面に対向する対向部を有する水平誤差調整機構を備え、前記水平誤差調整機構は、前記内周面から前記対向部までの水平距離が前記対向部に対応して所定値になるように構成され、前記柱セットプレートの設置工程において前記柱セットプレートと前記鋼管杭との間において前記所定値内で水平誤差を調整することが好ましい。これにより、主に鋼管杭の施工誤差に起因する水平誤差を調整し吸収できる。
【0022】
また、前記柱セットプレートを前記鋼製柱の配置工程においてテンプレートとして用いることが好ましい。これにより、鋼管杭との間の鋼製柱の水平誤差を調整でき、鋼製柱を水平方向に精度よく設置できる。
【0023】
また、前記鋼管杭内の少なくとも上部においてコンクリート打設を複数回に分けて行うことが好ましい。
【0024】
また、前記鋼製柱内にコンクリートを打設し前記鋼製柱の下端から所定高さまで充填することが好ましい。
【0025】
前記鋼管杭内に吊り足場をセットしてから前記柱セットプレートを前記吊り足場を用いて設置し、その後、前記吊り足場を切断し前記鋼管杭内に残置したまま前記コンクリートで埋め殺すようにできる。
【0026】
また、前記柱セットプレートの設置工程の前に、前記鋼管杭よりも大径の鋼管を前記鋼管杭の杭頭部に差し込むようにしてジャケット式桟橋構造等のジャケット式構造を設置することが好ましい。また、前記鋼管杭の上端の上方において前記ジャケット式構造の床版に形成された開口部内に配筋後にコンクリート打設を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の鋼管杭と鋼製柱との接合構造およびその施工方法によれば、鋼製柱の押し込み力を鋼管杭に確実に伝達でき、鋼管杭と鋼製柱との間の誤差の調整が可能でかつコンパクトに構成可能な接合構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施形態による鋼管杭と鋼製柱との接合構造により構築された建築土木一体構造物を概略的に示す斜視図である。
【
図2】本実施形態による鋼管杭と鋼製柱との接合構造を示す要部斜視図である。
【
図4】
図3のIVa-IVa線方向に切断してみた図(a)、IVb-IVb線方向に切断してみた図(b)、IVc-IVc線方向に切断してみた図(c)、IVd-IVd線方向に切断してみた図(d)およびIVe-IVe線方向に切断してみた図(e)である。
【
図5】
図2、
図3、
図4(b)(c)の軸力受けリブおよび柱セットプレートを
図4(b)(c)の矢印方向Vabから中央部分を見た図(a)、同じく左側部分を見た図(b)である。
【
図6】
図2~
図5の柱セットプレートに配置された軸力受けリブおよびその周囲を示す要部斜視図である。
【
図7】本実施形態における手摺設置・養生蓋撤去工程を示す
図2~
図6の接合構造の要部縦断面図(a)、底型枠設置工程を示す要部縦断面図(b)およびコンクリート1次打設工程を示す要部縦断面図(c)である。
【
図8】吊り足場セット工程を示す
図2~
図6の接合構造の要部縦断面図(a)、柱セットプレートの設置工程を示す要部縦断面図(b)および吊り足場切断工程・柱建方工程を示す要部縦断面図(c)である。
【
図9】コンクリート2次打設工程を示す
図2~
図6の接合構造の要部縦断面図(a)およびコンクリート3次打設工程を示す要部縦断面図(b)である。
【
図10】本実施形態における手摺設置工程を示すために
図2~
図6の接合構造を縦方向に切断してみた要部外観図である。
【
図11】墨出し用足場セット工程を示す
図10と同様の要部外観図である。
【
図12】底型枠設置工程を示す
図10と同様の要部外観図である。
【
図13】吊り足場セット工程を示す
図10と同様の要部外観図である。
【
図14】柱セットプレートの設置工程を示す
図10と同様の要部外観図である。
【
図15】吊り足場切断工程を示す
図10と同様の要部外観図である。
【
図16】0節柱建方工程を示す
図10と同様の要部外観図である。
【
図17】梁鉄骨取付工程を示す
図10と同様の要部外観図である。
【
図18】床版開口部の配筋工程を示す
図10と同様の要部外観図である。
【
図19】コンクリート4次打設工程を示す
図10と同様の要部外観図である。
【
図20】
図2~
図6の鋼管杭の天端に設置した柱セットプレートを示す上面図(a)および矢印方向XXBからみた部分図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態による鋼管杭と鋼製柱との接合構造により構築された建築土木一体構造物を概略的に示す斜視図である。
図2は、本実施形態による鋼管杭と鋼製柱との接合構造を示す要部斜視図である。
図3は、
図2の接合構造を示す要部縦断面図である。
図4は、
図3のIVa-IVa線方向に切断してみた図(a)、IVb-IVb線方向に切断してみた図(b)、IVc-IVc線方向に切断してみた図(c)、IVd-IVd線方向に切断してみた図(d)およびIVe-IVe線方向に切断してみた図(e)である。
図5は、
図2、
図3、
図4(b)(c)の軸力受けリブおよび柱セットプレートを
図4(b)(c)の矢印方向Vabから中央部分を見た図(a)、同じく左側部分を見た図(b)である。
図6は、
図2~
図5の柱セットプレートに配置された軸力受けリブおよびその周囲を示す要部斜視図である。
【0030】
図1に示す建築土木一体構造物は、建築構造物と土木構造物とが一体に構成されたもので、多数の鋼管杭Aの上部に建築物Bの多数の鋼製柱Cをそれぞれ接合して鋼管杭Aと鋼製柱Cとで一体的に構築された構造を備える。多数の鋼管杭Aは、杭打ち船等により水底地盤内に打設され、ジャケット式桟橋構造を構成する土木構造物である。多数の鋼製柱Cを有する建築物Bは、整形グリットラーメン構造を有する鉄骨構造の4階建ての建築構造物である。
【0031】
図1~
図3のように、鋼管杭Aの杭頭部においてジャケット式桟橋構造を構成するジャケット部20は、鋼管杭Aよりも大径の鋼管からなるジャケット用鋼管21と、形鋼からなるジャケット用上部桁部材22と、ジャケット用上部桁部材22の下方位置のジャケット用鋼管21の外周面から斜め上方に突き出てジャケット用上部桁部材22に連結する鋼管からなる複数のジャケット用ブレース23a~23dと、ジャケット用ブレース23a~23dの下方に配置されて隣接のジャケット用鋼管21に連結するジャケット用水平部材24(
図3) と、ジャケット用上部桁部材22の上方に設けられた床版25と、を有する。
【0032】
ジャケット部20は、
図1の多数の鋼管杭Aに対応して多数のジャケット用鋼管21を有してジャケット用上部桁部材22、ジャケット用ブレース23a~23d、ジャケット用水平部材24とともに一体に構成され、各ジャケット用鋼管21が各鋼管杭Aの杭頭部に差し込まれるようにして設置されることで、ジャケット式桟橋構造を有する土木構造物が構築される。なお、
図3のように、ジャケット用鋼管21の下側外周には補強部26が設けられる。また、ジャケット用鋼管21と鋼管杭Aとの間の隙間にはグラウトGが充填される。
【0033】
鋼製柱Cは、
図2、
図3、
図4(a)(d)(e)のように、横断面形状が四角形の鋼管からなり、1階の梁11と接合し、鋼製柱Cの柱脚部C1が鋼製柱Cの横断面形状よりも若干大きい四角形状のベース板C2を下端に有する。鋼製柱Cが鋼管杭Aの上部に柱脚部C1が入り込むようにして設置されてから、鋼管杭Aの内周面A1と柱脚部C1との間の充填空間Sにコンクリートが充填されて鋼管杭Aと鋼製柱Cとが接合される。かかる本実施形態による接合構造について
図2~
図5を参照して説明する。
【0034】
この接合構造は、鋼管杭Aと鋼製柱Cとの間の応力伝達機構および土木構造と建築構造との間の水平・鉛直誤差調整機構を備え、鋼管杭Aと鋼製柱Cとの間の応力伝達機構として、鋼製柱Cに対する押し込み力を鋼管杭Aに伝達する柱押し込み力伝達機構、鋼製柱Cの引き抜き力を鋼管杭Aに伝達する柱引き抜き力伝達機構と、地震時の鋼製柱Cの水平力を鋼管杭Aに伝達する地震水平力伝達機構と、をそれぞれ有する。
【0035】
図2、
図3、
図4(b)(c)のように、柱押し込み力伝達機構は、鋼板から構成され鋼製柱Cに取り付けられる軸力受けリブ31と、鋼板から構成され鋼管杭Aの天端A2に設置される柱セットプレート32と、を有し、さらにコンクリート充填空間Sの下部に鋼管杭Aの内周面に溶接により取り付けられた鋼板からなる複数の押し抜き抵抗リングプレート33a~33cから構成される押し抜き抵抗部33を有する。軸力受けリブ31と柱セットプレート32とは、ジャケット用上部桁部材22とほぼ対応した高さ範囲に設置され、鋼製柱Cからの柱押し込み力を鋼管杭Aに直接に伝達する柱押し込み力伝達部材である。
【0036】
図2、
図3、
図4(b)、
図6のように、軸力受けリブ31は、鋼製柱Cの各外周面から垂直に突き出るようにして設けられた矩形状の複数の突き出し部31a~31dと、各突き出し部31a~31dに立設して溶接により取り付けられた鋼板からなる略直角三角形状の複数のリブ板31eと、を有する。突き出し部31a~31dはリブ板31eとともに柱脚部C1の外周面に所定の高さ位置に溶接により取り付けられている。
【0037】
柱セットプレート32は、
図3、図20のように水平方向に広がって
図4(c)、図20の上下左右に突き出た複数の突き出し部32a~32dを有し鋼板からなるプレート32jと、各突き出し部32a~32dの上面に立設して溶接により取り付けられた鋼板からなる略台形形状の複数のリブ板32eと、プレート32jの下面に溶接により取り付けられた鋼管からなる円筒部32gと、各突き出し部32a~32dの下面および円筒部32gの外周面に溶接により取り付けられ鋼管杭Aの内周面A1に対し放射状に並んだ鋼板からなる略台形状の複数のリブ板32fと、を有する。
【0038】
また、柱セットプレート32のプレート32jの中心領域に柱貫通孔32kが形成されている。柱貫通孔32kは、鋼製柱Cの建て方時に下端のベース板C2が通過可能なようにベース板C2と対応した形状を有し、この形状は後述の
図20(a)の一点鎖線で示す四角形状のベース板C2を内接する円よりも径が若干大きい円形状である。柱貫通孔32kの円中心が円筒部32gの中心と一致する。なお、柱貫通孔32kは、四角形や八角形等の多角形状であってもよい。
【0039】
柱セットプレート32は、
図5(a)(b)のように、各突き出し部32a~32dが鋼管杭Aの天端A2に載るようにして設置され、かかる設置後に配置される鋼製柱Cの軸力受けリブ31の直下に位置する。また、軸力受けリブ31との間にフィラープレート40が配置され縦方向の孔内に貫通したアンカーボルト36とナット37により固定されることで、軸力受けリブ31と柱セットプレート32とがフィラープレート40を間にして連結される。
【0040】
なお、柱セットプレート32の各突き出し部32a~32dの間に形成された各凹部に対抗して略台形状の鋼板からなる複数のシム34が
図6のように、鋼管杭Aの内周面A1に溶接された扇形状の鋼板38に略台形状の斜面34aが内側に向くようにして溶接により取り付けられている。
【0041】
上述の柱押し込み力伝達機構により、鋼製柱Cに加わる押し込み力は、軸力受けリブ31とフィラープレート40と柱セットプレート32とを介して、鋼管杭Aに直接に伝達され、さらに、充填空間Sに充填されたコンクリートと複数の押し抜き抵抗リングプレート33a~33cとを介して鋼管杭Aに伝達される。このようにして、鋼製柱Cの押し込み力を鋼管杭Aに確実に伝達することができる。なお、押し抜き抵抗リングプレート33a~33cの本数は、鋼製柱Cに加わる押し込み力に応じて設定される。
【0042】
柱引き抜き力伝達機構は、
図2、
図3のように、柱セットプレート32の下方において鋼管杭Aの内周面A1に溶接により取り付けられた引き抜き抵抗リングプレート35を有する。鋼製柱Cに加わる柱引き抜き力は、充填空間Sに充填されたコンクリートと引き抜き抵抗リングプレート35とを介して鋼管杭Aに伝達される。
【0043】
また、地震水平力伝達機構は充填空間Sに充填されたコンクリートから構成され、地震時に鋼製柱Cに加わる柱水平力が充填空間Sに充填されたコンクリートに埋設した柱脚部C1の側面からコンクリートを介して鋼管杭Aに伝達される。
【0044】
次に、建築構造物と土木構造物との間の誤差吸収を想定して設けられた水平誤差調整機構および鉛直誤差調整機構について説明する。
【0045】
土木構造が土木工事において設計誤差以内で施工されていることを確認し、建築構造の鋼製柱Cが設計された所定位置に設置されるが、鋼管杭Aの位置を現場実測し、主に鋼管杭の施工誤差に起因して鋼管杭Aと鋼製柱Cとの間で水平誤差(杭芯ずれ)を有する場合、必要に応じて、柱セットプレート32の製作出寸法にて調整する。
【0046】
また、柱セットプレート32の複数のリブ板32fは、
図5(a)(b)のように、鋼管杭Aの天端A2の近傍においてプレート32jの下側の円筒部32gの外周面に設けられているが、各リブ板32fの側部である対向部32f1は、円筒部32gとほぼ同心円状に並ぶように構成され、鋼管杭Aの内周面A1に対向し、内周面A1から対向部32f1までの水平方向距離xが各対向部32f1毎に確保されている。このように、柱セットプレート32は、その水平位置を水平方向距離xの範囲内で調整可能な水平誤差調整機構を備えている。水平方向距離xがたとえば最大許容水平誤差に設定されることで、柱セットプレート32の位置調整の際に水平誤差を、-x~+xの範囲内で調整できる。水平方向距離xは、たとえば、±100mmに設定される。
【0047】
また、柱セットプレート32は、鋼製柱Cの建て方時のテンプレートの役割を果たし、鋼製柱Cのベース板C2の対角中心が柱セットプレート32の柱貫通孔32kの円中心と略一致し、ベース板C2が柱貫通孔32kを通過するように鋼製柱Cの水平位置を調整することで、鋼管杭Aに対する鋼製柱Cの水平誤差を調整でき、鋼製柱Cを水平方向に精度よく設置できる。なお、柱セットプレート32は、上述のように柱押し込み力伝達部材でもあるので、現場実測の上で製作される際には、寸法調整のみとされ部材構成は変更されない。
【0048】
また、鋼管杭Aが天端A2で鋼製柱Cに対し鉛直高さの誤差(鉛直誤差)を有する場合は、
図5(a)(b)のように、軸力受けリブ31と柱セットプレート32との間に配置されるフィラープレート40により調整する。すなわち、軸力受けリブ31と柱セットプレート32との間の鉛直方向距離yが鉛直誤差に対応するが、鉛直方向距離yに対応してフィラープレート40の厚さや枚数を調整することで、鉛直誤差を調整し吸収することができる。鉛直方向距離yは、たとえば、±50mmに設定される。
【0049】
次に、コンクリートが充填される充填空間Sおよびコンクリートの底型枠について説明する。
図2、
図3、
図4(d)(e)のように、柱脚部C1は柱セットプレート32の下方へ延びているが、柱脚部C1の下端のベース板C2のさらに下方であって押し抜き抵抗リングプレート33cの下方にコンクリートの底型枠41を設置する。底型枠41は、鋼管杭Aの内周面A1に溶接により設けられたドーナッツ状板42と、ドーナッツ状板42を覆うように配置されたコンクリート止め板43と、を有する。コンクリートが充填空間Sに打設され、
図3の多数のドットで示すように、コンクリート止め板43から上方にジャケット部20の床版25の天端S1の高さまで充填され(
図19参照)、柱脚部C1・軸力受けリブ31・柱セットプレート32等がコンクリート内に埋設される。
【0050】
また、鋼製柱Cの内部に
図4(a)(b)に示すコンクリート充填管CPを通してコンクリートが打設され、
図3のように鋼製柱Cの下端のベース板C2から上部の所定高さ(たとえば、1階レベル)まで充填される。なお、鋼製柱内部にダイヤフラムが出るときには、CFT造(コンクリート充填鋼管構造)のようにコンクリート充填管CPを通すため、ダイヤフラムにコンクリート充填孔を設ける。
【0051】
以上のように本実施形態の鋼管杭Aと鋼製柱Cとの接合構造によれば、鉛直誤差調整機構は、柱脚部C1の軸力受けリブ31と鋼管杭Aの天端A2に設置される柱セットプレート32との間に配置されるフィラープレート40の厚さまたは枚数を調整することで、主に鋼管杭Aの施工誤差に起因する鋼管杭Aと鋼製柱Cとの間の鉛直誤差を調整可能であるとともに、柱押し込み力伝達機構は、鉛直誤差調整のため厚さを調整したフィラープレート40が配置されたとき、柱の押し込み力を軸力受けリブ31とフィラープレート40と柱セットプレート32とを介して鋼管杭Aに直接かつ確実に伝達できる。このように、柱押し込み力伝達機構は、軸力受けリブ31と柱セットプレート32との間に厚さ調整可能なフィラープレート40を配置可能に構成されることで鉛直誤差調整機構を内部に備え、鉛直誤差調整機構を兼ねることができるとともに、鋼製柱Cの押し込み力を軸力受けリブ31とフィラープレート40と柱セットプレート32とを介して鋼管杭Aに直接に伝達できるので、確実な柱押し込み力伝達と鉛直誤差調整とが可能な接合構造をよりコンパクトな構造に構成できる。
【0052】
また、柱セットプレート32は、柱押し込み力伝達部材であるが、鉛直誤差調整機構を兼ねることに加え、鋼管杭Aと鋼製柱Cとの水平誤差の調整のために、製作出寸法が調整され、鋼製柱Cの建て方時にはテンプレートとして用いられ、設置時に水平位置の調整可能な水平誤差調整機構をも兼ねることで、接合構造のいっそうのコンパクト化を達成できる。また、柱セットプレート32は、軸力受けリブ31とともにコンクリート内に埋設され、除去不要であり、接合構造のコンパクト化に寄与できる。
【0053】
次に、本実施形態による、
図1~
図6の鋼管杭Aと鋼製柱Cとの接合構造を構築する際の主要な施工工程S01~S15についてさらに
図7~
図20を参照して説明する。
【0054】
図7、
図8は、本実施形態における各施工工程を示す
図2~
図6の接合構造の要部縦断面図(a)~(c)である。
図9は、各施工工程を示す
図7、
図8と同様の要部縦断面図(a)(b)である。
図10~
図19は、各施工工程を示すために
図2~
図6の接合構造を縦方向に切断してみた要部外観図である。
図20は鋼管杭の天端に設置した柱セットプレート32を示す上面図(a)および矢印方向XXBからみた部分図(b)である。
【0055】
(工程S01)土木工事状況の確認・実測および養生蓋の撤去
打設された鋼管杭Aが設計誤差以内であることを確認し、必要に応じて実測を行う。ジャケット部20について基準墨出しを行う。また、鋼管杭Aが高止まりの場合は、天端を切断する。
図10のように、鋼管杭Aの上部においてジャケット用上部桁部材22、床版25に形成された開口部80が養生蓋81で塞がれている。開口部80の周囲に手摺82を設置する。次に、
図7(a)のように、開口部80を塞いでいた養生蓋81をクレーンの吊り具TRで吊り上げて撤去する。
【0056】
(工程S02)柱セットプレートの製作
工程S01の実測結果に基づいて、必要に応じて、柱セットプレート32の製作の際に水平誤差調整のため寸法調整をする。なお、柱セットプレート32は、鋼製柱Cを建て込む時のテンプレートの役割をも有する。
【0057】
(工程S03)墨出し用足場セット・天端の高さレベル確認
図11のように、墨出し用足場83をクレーンの吊り具TRで吊り下げて鋼管杭Aの天端A2にセットし、墨出しを行い、天端A2の高さレベルを確認し、
図20(a)(b)のように、ガイド兼固定用アングル51、52を、後工程で設置される柱セットプレート32の各突き出し部32a~32dの両端近傍に対応した位置に鋼管杭Aの天端A2に溶接により取り付ける。その後、墨出し用足場83を吊り具TRで吊り上げて撤去する。なお、ガイド兼固定用アングル51、52の取り付け位置は、
図5(b)の水平方向距離xの範囲内で柱セットプレート32の水平誤差を勘案して決められるが、最終的な水平位置の微調整のため
図20(b)のように突き出し部32a~32dの両端に対し数mm程度のクリアランスδが設けられる。
【0058】
(工程S04)底型枠設置
次に、
図7(b)、
図12のように、底型枠41としてコンクリート止め板43をクレーンの吊り具TRで鋼管杭A内に吊り下げてドーナッツ状板42に載せるようにして設置する。
【0059】
(工程S05)コンクリート1次打設
次に、
図7(c)のように、コンクリートホース84を通して充填空間S内にコンクリートの1次打設を行う。これにより、充填空間Sの下部であって、コンクリート止め板43から複数の押し抜き抵抗リングプレート33a~33cの上部近傍まで1次コンクリートCR1を充填する。
【0060】
(工程S06)吊り足場セット
次に、
図8(a)、
図13のように、クレーンの吊り具TRで吊り下げて、足場板85aと複数の支柱85bとからなる柱セットプレート32の設置のための吊り足場85をシム34に溶接等により接続しセットする。必要に応じて、鋼管杭Aの天端A2をグラインダー掛けなどで平滑にする。
【0061】
(工程S07)柱セットプレートの設置
次に、
図8(b)、
図14のように、クレーンの吊り具TRに吊り下げて柱セットプレート(テンプレート)32を突き出し部32a~32dがガイド兼固定用アングル51、52の間に位置し鋼管杭Aの天端A2に載せるようにしてセットし、
図20(a)(b)のように、柱セットプレート32を方向M、その反対方向M’、方向Mと直交する方向N、その反対方向N’に必要に応じてクリアランスδの範囲内でジャッキアップ等により動かし、柱セットプレート32の水平位置を微調整する。以上のようにして、柱セットプレート32の水平位置は、水平方向距離xの範囲内で調整されることになる。なお、このセットのとき、柱セットプレート32は吊り足場85の各支柱85bと干渉しないようになっている。柱セットプレート32のプレート32jに形成された柱貫通孔32kを通して作業者が吊り足場85の上に乗って位置調整や溶接等の作業を行う。
【0062】
(工程S08)フィラープレートの配置
次に、
図5(a)(b)、
図6のように、柱セットプレート32のプレート32j上に柱貫通孔32kの周囲にフィラープレート40を配置し鉛直方向の誤差を調整し、アンカーボルト36のレベルをナット37で仮固定する。フィラープレート40の厚さ(枚数)は、墨出し工程(S03)で確認された鋼管杭Aの天端A2の高さレベルから得られた鉛直誤差に対応する鉛直方向距離yに基づいて設定される。
【0063】
(工程S09)吊り足場の切断
次に、
図8(c)、
図15のように、吊り足場85を支柱85bの上部で切断する。切断された吊り足場85は、柱セットプレート32の設置後に鋼管杭Aの外部に撤去できないので、足場板85aが下方の1次コンクリートCR1の上に載った状態となって、そのまま後工程で打設されるコンクリートに埋め殺しされる。
【0064】
(工程S10)柱の建て方
次に、
図8(c)、
図16のように、0節の鋼製柱Cをクレーンの吊り具TRに吊り下げて鋼管杭A内への0節の鋼製柱Cの建て方を行う。この鋼製柱Cの建て方時に工程S07で設置された柱セットプレート32がテンプレートの役割を果たす。すなわち、
図20(a)のように四角形状の鋼製柱Cの下端のベース板C2が柱セットプレート32の円形状の柱貫通孔32kを通過するように鋼製柱Cを位置調整し位置決めし、その建入を確認する。柱脚部C1の軸力受けリブ31が柱セットプレート32のプレート32jに載る状態となるとともに、柱脚部C1が柱セットプレート32の下方の充填空間Sに入り込み、下端のベース板C2が残置された吊り足場85の支柱85bの上部近傍に位置する。
【0065】
(工程S11)軸力受けリブと柱セットプレートとの連結
次に、柱脚部C1の軸力受けリブ31が柱セットプレート32のプレート32j上に配置されたフィラープレート40の上に位置した状態で、アンカーボルト36をナット37で締め付けて軸力受けリブ31と柱セットプレート32とをフィラープレート40を介して固定し連結する(
図5(a)(b))。
【0066】
(工程S12)梁鉄骨の取り付け
次に、
図17のように、0節の鋼製柱Cに梁11の鉄骨をボルト(図示省略)により接合する。
【0067】
(工程S13)コンクリート2次打設
次に、
図9(a)のように、コンクリートホース84を通して充填空間S内にコンクリートの2次打設を行う。これにより、1次コンクリートCR1の上から柱セットプレート32の下方近傍まで2次コンクリートCR2を充填する。このコンクリート充填により残置された吊り足場85が埋設される。
【0068】
(工程S14)コンクリート3次打設
次に、
図9(b)のように、手摺82を利用して柱内コンクリート打設用足場86を組み立てる。次に、コンクリートホース84を通して充填空間S内に、さらに、コンクリート充填管CPを通して鋼製柱Cの内部にコンクリートの3次打設を行う。これにより、2次コンクリートCR2の上からシム34の上端まで、さらに、鋼製柱Cの下端のベース板C2からジャケット用上部桁部材22の上部の所定高さ(たとえば、1階レベル)まで3次コンクリートCR3を充填する(
図18参照)。充填空間S内の3次コンクリートCR3内に軸力受けリブ31や柱セットプレート32が埋設される。
【0069】
(工程S15)床版配筋、コンクリート4次打設
次に、
図18のように床版25の開口部80内に配筋を行ってから、開口部80内の空間にコンクリートの4次打設を行う。これにより、
図19のように、床版25の開口部80内に4次コンクリートCR4を充填する。
【0070】
図19のように、コンクリートの複数回の打設により、鋼管杭A内のコンクリート止め板43からジャケット部20の床版25の天端S1までの充填空間S内にコンクリートCR1~CR4を充填し、また、鋼製柱Cの下端から上部の所定高さまで3次コンクリートCR3を充填できる。
【0071】
以上のようにして、
図1~
図6の鋼管杭Aと鋼製柱Cとの接合構造を構築することができるが、本実施形態の鋼管杭Aと鋼製柱Cとの接合構造の施工方法によれば、工程S03において鋼管杭Aの天端A2の高さレベルを確認し、その確認された天端A2の高さレベルに基づいてフィラープレート40の厚さを設定し、工程S11においてその設定された厚さのフィラープレート40を介在させて軸力受けリブ31と柱セットプレート32とを連結するので、主に鋼管杭の施工誤差に起因する鋼管杭Aと鋼製柱Cとの間の鉛直誤差を調整し吸収できるとともに、柱の押し込み力を柱脚部C1の軸力受けリブ31とフィラープレート40と鋼管杭Aの天端A2に設置される柱セットプレート32とを介して鋼管杭Aに直接かつ確実に伝達できる。このため、確実な柱軸力伝達と鉛直誤差調整とが可能なコンパクトな構成の接合構造を確実にかつ精度よく施工することができる。
【0072】
また、工程S02の柱セットプレート32の製作工程において工程S01の鋼管杭Aの実測結果に基づいて柱セットプレート32について水平誤差調整のため寸法調整をするとともに、柱セットプレート32の設置工程S07で柱セットプレート32について水平方向距離xの範囲内で水平位置を調整することで、主に鋼管杭Aの施工誤差に起因する水平誤差を調整し吸収できる。
【0073】
また、鋼製柱Cの建て方工程S10において、鋼管杭Aの実測結果に基づく寸法調整がされた柱セットプレート32を鋼製柱Cの水平方向の位置決めのためのテンプレートとして用いることで、鋼管杭Aとの間の鋼製柱Cの水平誤差を調整し、鋼製柱Cを水平方向に精度よく設置できる。
【0074】
また、
図1の各鋼管杭Aについて上述と同様の施工工程により鋼製柱Cと接合する施工を行い、鋼製柱Cに梁を接続し鋼製柱Cを上階へ組み上げて鉄骨構造の建築構造物を構築する。このようにして、
図1のような建築構造物と土木構造物とを一体にした建築土木一体構造物を構築できる。なお、鋼管杭Aは、たとえば、直径2m、肉厚20~34mm、長さ50~53m、鋼製柱Cは、たとえば、750mm角の鋼管であるが、これらの寸法は一例であって、設計条件によって適宜変更される。
【0075】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態では土木構造物がジャケット式桟橋構造を有するが、本発明はこれに限定されず、ジャケット式桟橋構造を有さない場合にも適用できることはもちろんである。
【0076】
また、本実施形態では、鋼管杭A内の上部にコンクリートを充填したが、本発明はこれに限定されず、中間部まで、または、全体にコンクリートを充填するようにしてもよい。また、鋼製柱Cは、本実施形態では四角形状の鋼管から構成されるが、本発明はこれに限定されず、たとえば、型鋼から構成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、鋼管杭と鋼製柱との接合構造を、柱押し込み力伝達機構が柱の押し込み力を鋼管杭に直接かつ確実に伝達できかつ鉛直誤差調整機構を兼ねるので、よりコンパクトな構造にでき、接合構造の確実性・施工性・経済性を向上できるとともに、主に鋼管杭の施工誤差に起因する鋼管杭と鋼製柱との間の鉛直誤差・水平誤差を調整し吸収できるので、より精密性が要求される接合構造を実現でき、精度よく施工できる。
【符号の説明】
【0078】
20 ジャケット部
21 ジャケット用鋼管
25 床版
31 軸力受けリブ
31a~31d 矩形状の突き出し部
32 柱セットプレート
32a~32d 突き出し部
32e リブ板
32f リブ板
32f1 対向部
32g 円筒部
32j プレート
32k 柱貫通孔
33a~33c 押し抜き抵抗リングプレート
35 引き抜き抵抗リングプレート
36 アンカーボルト
37 ナット
40 フィラープレート(板部材)
43 コンクリート止め板
80 開口部
85 吊り足場
A 鋼管杭
A1 内周面
A2 天端
B 建築物
C 鋼製柱
C1 柱脚部
C2 ベース板
CR1~CR4 1次~4次コンクリート
S コンクリート充填空間
x 水平方向距離
y 鉛直方向距離