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  • 特許-潤滑油組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 171/02 20060101AFI20240522BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20240522BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240522BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240522BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20240522BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20240522BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240522BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
C10M171/02
C10M101/02
C10N40:04
C10N20:02
C10N20:00 C
C10N20:04
C10N30:00 Z
C10N40:00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020170072
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061863
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】菖蒲 紀子
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 康聖
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 万由子
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/147162(WO,A1)
【文献】特表2007-534826(JP,A)
【文献】特開2013-213116(JP,A)
【文献】特開2011-006635(JP,A)
【文献】特開2016-190897(JP,A)
【文献】国際公開第2004/081156(WO,A1)
【文献】特開2018-090680(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0122678(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
80℃における動粘度が7.0mm/s以下であり、
80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下であり、かつ、
はすば歯車機構用の潤滑油組成物であること、
を特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記潤滑油組成物中に含まれる潤滑油基油が、80℃における動粘度が2.0~6.0mm/sのものであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記潤滑油組成物中に含まれる潤滑油基油が、下記(A)~(C):
(A)API分類がグループII又はIIIであること、
(B)硫黄分の濃度が200質量ppm以下であること、
(C)窒素分の濃度が500質量ppm以下であること、
に示す条件を全て満たす鉱油系基油を潤滑油基油全量基準で60質量%以上含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記潤滑油組成物中に含まれる潤滑油基油が、15℃における密度が0.800~0.850g/cmのものであることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
粘度調整剤を含むことを特徴とする請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記粘度調整剤が、重量平均分子量が5,000~20,000のポリマーであることを特徴とする請求項5に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、より詳しくは、はすば歯車機構に用いるための潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、動力伝達機構等に利用される歯車(ギア)機構において、動力の伝達効率の向上の観点から、様々な潤滑油組成物の利用が検討されてきた。例えば、国際公開第2013/136582号(特許文献1)には、100℃における動粘度が2.5mm/s以上3.8mm/s以下である変速機用潤滑油組成物が開示されている。また、国際公開第2013/147162号(特許文献2)の実施例の欄には、100℃における動粘度が6.0mm/sでありかつ40℃におけるトラクション係数が0.008又は0.006となる潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/136582号
【文献】国際公開第2013/147162号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、はすば歯車機構に用いた場合に、特異的に、幅広い温度域において高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させることを可能とする潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが研究を重ねた結果、特許文献1~2に記載のような従来の潤滑油組成物は、平歯車機構に利用した場合に十分に動力伝達効率の向上を図ることが可能なものであるが、それをそのままはすば歯車(斜歯歯車:ヘリカルギア)機構に対して利用した場合に、高速回転時の動力伝達効率を必ずしも十分に向上させることができないことを見出した。なお、平歯車機構に利用した場合と、はすば歯車機構に利用した場合とにおいて、動力伝達効率の向上効果が異なる傾向となるといったことは、特許文献1~2等の周知技術を勘案しても当業者にとって容易に想起されるものではなかった。
【0006】
このような知見に基づいて、本発明者らが更に鋭意研究を重ねた結果、潤滑油組成物の80℃における動粘度を7.0mm/s以下となるようにし、かつ、その潤滑油組成物において80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下となるようにすることにより、その条件を満たす潤滑油組成物をはすば歯車機構に対して利用した場合に、特異的に、20℃~140℃(より好ましくは40~120℃)といった幅広い温度域において高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の潤滑油組成物は、
80℃における動粘度が7.0mm/s以下であり、
80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下であり、かつ、
はすば歯車機構用の潤滑油組成物であることを特徴とするものである。
【0008】
前記本発明の潤滑油組成物においては、前記潤滑油組成物中に含まれる潤滑油基油が、80℃における動粘度が2.0~6.0mm/sのものであることが好ましい。
【0009】
また、前記本発明の潤滑油組成物においては、前記潤滑油組成物中に含まれる潤滑油基油が、下記(A)~(C):
(A)API分類がグループII又はIIIであること、
(B)硫黄分の濃度が200質量ppm以下であること、
(C)窒素分の濃度が500質量ppm以下であること、
に示す条件を全て満たす鉱油系基油を潤滑油基油全量基準で60質量%以上含むことが好ましい。
【0010】
さらに、前記本発明の潤滑油組成物においては、前記潤滑油組成物中に含まれる潤滑油基油が、15℃における密度が0.800~0.850g/cmのものであることが好ましい。
【0011】
前記本発明の潤滑油組成物としては、粘度調整剤を含むものがより好ましく、また、かかる粘度調整剤は、重量平均分子量が5,000~20,000のポリマーであることが更に好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、はすば歯車機構に用いた場合に、特異的に、幅広い温度域において高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させることを可能とする潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例等で得られた潤滑油組成物の特性を評価する際に利用したはすば歯車機構の試験装置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本明細書においては、特に断らない限り、数値X及びYについて「X~Y」という表記は「X以上Y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Xにも適用されるものとする。
【0015】
<潤滑油組成物>
本発明の潤滑油組成物は、80℃における動粘度が7.0mm/s以下であり、80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下であり、かつ、はすば歯車機構用の潤滑油組成物であることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の潤滑油組成物は、80℃における動粘度が7.0mm/s以下であるといった条件(以下、かかる条件を場合により単に「条件(I)」と称する)を満たす必要がある。このような潤滑油組成物の80℃における動粘度は、3.0~7.0mm/sであることがより好ましく、3.5~6.0mm/sであることが更に好ましい。80℃における動粘度が7.0mm/s以下であることにより、幅広い温度域において高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させることができる。また、80℃における動粘度が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、潤滑箇所での潤滑油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上し、幅広い温度域においてより良好な潤滑状態を保持することが可能となる。なお、本明細書において「80℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された80℃での動粘度を意味する。
【0017】
また、本発明の潤滑油組成物は、80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下であるといった条件(以下、かかる条件を場合により単に「条件(II)」と称する)を満たす必要がある。本発明の潤滑油組成物において、80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積は0.035~0.110であることがより好ましい。このような積の値が0.110以下であることにより、幅広い温度域(好ましくは40~120℃)において高速回転時(好ましくは、回転数(回転速度)が3000~10000rpm程度での回転時)の動力伝達効率を十分に向上させることができる。また、前記積の値が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、潤滑箇所での潤滑油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上し、幅広い温度域においてより良好な潤滑状態を保持することが可能となる。なお、本明細書において「80℃におけるトラクション係数」としては、EHL試験機(PCS Instruments社製の試験機「EHD2」)を用い、部材として鋼ディスク及び鋼ボールを利用して、温度:80℃、荷重:40N、周速(平均速度):1m/s、すべり率(SRR):10%の条件下で測定した値を採用する。
【0018】
また、本発明の潤滑油組成物の80℃におけるトラクション係数は、0.0300以下であることが好ましく、0.0100~0.0250であることがより好ましい。80℃におけるトラクション係数が、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、幅広い温度域(好ましくは40~120℃)において高速回転時の動力伝達効率をより向上させることが可能となり、他方、80℃におけるトラクション係数が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、潤滑箇所での潤滑油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上し、幅広い温度域においてより良好な潤滑状態を保持することが可能となる。
【0019】
さらに、本発明の潤滑油組成物は、40℃における動粘度が8.0~20.0mm/sのものであることが好ましく、9.0~18.0mm/sのものであることがより好ましい。40℃における動粘度が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、はすば歯車機構に利用した際に、特に40℃近傍の比較的低温の温度域(好ましくは20~60℃程度)において動力伝達効率をより向上させることが可能となる。他方、40℃における動粘度が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、特に40℃近傍の比較的低温の温度域(好ましくは20~60℃程度)において、潤滑箇所での潤滑油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上してより良好な潤滑状態を保持することが可能となる。なお、本明細書において「40℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された40℃での動粘度を意味する。
【0020】
また、本発明の潤滑油組成物は、120℃における動粘度が1.5~3.5mm/sのものであることが好ましく、1.8~3.2mm/sのものであることがより好ましい。120℃における動粘度が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、はすば歯車機構に利用した際に、120℃近傍の比較的高温の温度域(好ましくは100~140℃程度)において動力伝達効率をより向上させることが可能となる。他方、120℃における動粘度が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、特に120℃近傍の比較的高温の温度域(好ましくは100~140℃程度)において、潤滑箇所での潤滑油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上してより良好な潤滑状態を保持することが可能となる。なお、本明細書において「120℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された120℃での動粘度を意味する。
【0021】
また、本発明の潤滑油組成物は、粘度指数が90以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましい。前記粘度指数が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、潤滑油組成物の粘度の温度依存性をより低下させることができ、幅広い温度域において動力伝達効率をより向上させることが可能となる。なお、本明細書において「粘度指数」とは、JIS K 2283-2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0022】
さらに、本発明の潤滑油組成物は、流動点が-30℃以下であることが好ましく、-40℃以下であることがより好ましい。流動点が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、低温粘度特性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。なお、本明細書において「流動点」とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0023】
本発明の潤滑油組成物は、前記条件(I)及び(II)を満たすように組成を設計すればよく、例えば、潤滑油基油の種類を選択するとともに、その潤滑油基油の種類に応じて、前記条件(I)及び(II)を満たすように、その他の成分を適宜選択して組み合わせることによって調製することが可能である。以下、このような本発明の潤滑油組成物に利用可能な成分として好適なものについて説明する。
【0024】
<潤滑油基油>
本発明の潤滑油組成物に含有させる潤滑油基油としては、80℃における動粘度が2.0~6.0mm/s(より好ましくは3.0~5.9mm/s、特に好ましくは3.0~5.2mm/s)であるものが好ましい。潤滑油基油の80℃における動粘度が、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、前記条件(I)及び(II)を満たす組成物の設計がより容易となり、他方、かかる80℃における動粘度が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、潤滑箇所での潤滑油組成物の油膜形成性及び油膜保持性がより向上し、幅広い温度域においてより良好な潤滑状態を保持することが可能となる。
【0025】
さらに、前記潤滑油基油としては、API(アメリカ石油協会:American Petroleum Institute)による基油の分類(本明細書においては「API分類」と称する)がグループII又はIIIであるという条件(A)を満たす鉱油系基油を含むものであることが好ましい。なお、API分類がグループIIの基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分(飽和ハイドロカーボン)が90容量%以上、且つ、粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。また、API分類がグループIIIの基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分(飽和ハイドロカーボン)が90容量%以上、且つ、粘度指数が120以上の鉱油系基油である。
【0026】
また、前記潤滑油基油としては、硫黄分の濃度が200質量ppm以下(より好ましくは100質量ppm以下、更に好ましくは1質量ppm以下)であるという条件(B)を満たす基油(より好ましくは鉱油系基油)を含むものであることが好ましい。硫黄分の濃度が前記上限以下である場合には、熱・酸化安定性により優れる組成物を得ることが可能となる。なお、本明細書において「硫黄分の濃度」はJIS K 2541-6-2003(紫外蛍光法)に準拠して測定された値を意味する。
【0027】
また、前記潤滑油基油としては、窒素分の濃度が500質量ppm以下(より好ましくは300質量ppm以下、更に好ましくは100質量ppm以下、特に好ましくは1質量ppm以下)であるという条件(C)を満たす基油(より好ましくは鉱油系基油)を含むことが好ましい。窒素分の濃度が前記上限以下である場合には、熱・酸化安定性により優れる組成物を得ることが可能となる。なお、本明細書において「窒素分の濃度」はJIS K 2609-1998(化学発光法)に準拠して測定された値を意味する。
【0028】
また、前記潤滑油基油としては、前記条件(A)~(C)の全てを満たす鉱油系基油を含むものであることがより好ましい。また、前記潤滑油基油が前記条件(A)~(C)の全てを満たす鉱油系基油を含む場合、その含有量としては、前記潤滑油基油全量基準で60質量%以上(より好ましくは80質量%以上)であることが好ましい。このような条件(A)~(C)の全てを満たす鉱油系基油を含む潤滑油基油を利用することで、前記条件(I)及び前記条件(II)を満たす潤滑油組成物をより容易に設計することが可能となる。
【0029】
さらに、前記潤滑油基油としては、15℃における密度が0.800~0.850g/cm(より好ましくは0.805~0.845g/cm)であるものが好ましい。15℃における密度が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、熱・酸化安定性がより向上し、他方、15℃における密度が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、伝熱特性に優れ、摺動面の過度な昇温をより抑制できる。なお、本明細書において「15℃における密度」とは、JIS K 2249-1-1995に準拠して測定された15℃での密度を意味する。
【0030】
また、前記潤滑油基油としては、粘度指数が80以上であることが好ましく、95~160であることがより好ましい。粘度指数が、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、基油中のノルマルパラフィンの含有量がより少なくなるため、低温での粘度急上昇がより抑制され、他方、前記粘度指数が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、得られる潤滑油組成物の粘度の温度依存性をより低下させ、幅広い温度域(好ましくは40~120℃)において、動力伝達効率をより向上させることが可能となる。
【0031】
また、前記潤滑油基油としては、80℃における動粘度が2.0~6.0mm/sであり、15℃における密度が0.800~0.850g/cmであり、かつ、前記条件(A)~(C)の全てを満たす鉱油系基油(かかる鉱油系基油を、以下、場合により「鉱油系基油(I)」と称する)であることが好ましい。
【0032】
なお、このような潤滑油基油は、潤滑油基油全体として、単一の基油成分からなるものであってもよく、あるいは、複数の基油成分を含んでなるものであってもよい。例えば、本発明の潤滑油組成物に、前記潤滑油基油として前記鉱油系基油(I)を利用する場合、80℃における動粘度が2.0~6.0mm/sとなり、15℃における密度が0.800~0.850g/cmとなり、かつ、前記条件(A)~(C)の全てを満たすものとなるように、API分類のグレードIIの鉱油系基油及びグレードIIIの鉱油系基油からなる群より選択される2種以上の基油成分を適宜組み合わせて調製したものを利用してもよい。このように、前記潤滑油基油は、前述の各種条件(80℃における動粘度や粘度指数等)を満たすように、2種以上の基油成分を適宜組み合わせて利用してもよい。
【0033】
本発明の潤滑油組成物において、潤滑油基油の含有量は、潤滑油組成物の全量を基準として50~99質量%(より好ましくは70~99質量%、特に好ましくは80~99質量%)であることが好ましい。潤滑油基油の含有量が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、添加剤を利用して潤滑被膜の形成性等の特性を向上させることがより容易となり、他方、前記潤滑油基油の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、粘度の温度依存性をより低下させることが可能となり、潤滑油組成物を条件(I)を満たすものとすることがより容易となる。
【0034】
<粘度調整剤>
本発明の潤滑油組成物としては、120℃近傍の比較的高温(好ましくは100~140℃程度)の条件下において、はすば歯車機構の動力伝達効率をより向上させることが可能となることから、前記潤滑油基油とともに粘度調整剤を含むものであることが好ましい。このような粘度調整剤は特に制限されず、潤滑油組成物の分野において粘度調整剤として用いられている公知の化合物を適宜利用でき、例えば、重量平均分子量(Mw)が100,000以下の低分子量のポリマーを適宜利用してもよい。また、このような粘度調整剤の中でもせん断安定性の観点からは、重量平均分子量が5,000~20,000(より好ましくは6,000~15,000)のポリマーであることが好ましい。また、前記粘度調整剤に利用する重量平均分子量が5,000~20,000のポリマーとしては、エチレンプロピレンコポリマーがより好ましい。なお、エチレンプロピレンコポリマーは、ブロックコポリマーであっても、あるいは、ランダムコポリマーであってもよい。なお、粘度調整剤としては、市販品を利用してもよい。また、粘度調整剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。さらに、ポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される値(標準ポリスチレン換算により得られた重量平均分子量)を意味する。かかるGPCの測定条件は次の通りである。
[GPC測定条件]
装置:Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC UV RIシステム
カラム:上流側から順に、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT900A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)2本、および、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT200A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)1本を直列に接続
カラム温度:40℃
試料溶液:試料濃度1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:20.0μL
検出装置:示差屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製Agilent EasiCal(登録商標) PS-1)8点(分子量:2698000、597500、290300、133500、70500、30230、9590、2970)
上記条件に基づきGPC測定を行い、重量平均分子量が10,000以上である場合には、そのまま測定を終了する。他方、重量平均分子量が10,000未満である場合には、カラムおよび基準物質を下記のものに変更する以外は、上記条件と同様の条件を採用して再測定を行う。
カラム:上流側から順に、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT125A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)1本、および、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT45A(ゲル粒径1.7μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)2本を直列に接続
基準物質:標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製Agilent EasiCal(登録商標) PS-1)10点(分子量:30230、9590、2970、890、786、682、578、474、370、266)。
【0035】
また、粘度調整剤を利用する場合において、その含有量は特に制限されないが、前記潤滑油組成物の全量を基準として0.1~10.0質量%(より好ましくは0.15~5.0質量%)であることが好ましい。粘度調整剤の含有量が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、せん断安定性がより良好となり、他方、粘度調整剤の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して、120℃近傍の比較的高温(好ましくは100~140℃程度)の条件下において、はすば歯車機構の動力伝達効率をより向上させることが可能となる。
【0036】
<摩耗防止剤>
本発明の潤滑油組成物としては、歯車同士の摩擦面での金属接触を防止する性能がより向上することから、摩耗防止剤を含有するものが好ましい。このような摩耗防止剤としては、特に限定されず、潤滑油組成物の分野において摩耗防止剤として用いられている公知の化合物(例えば、特開2003-155492号公報、特開2020-76004号公報、国際公開2013/147162号等参照)を適宜用いることができる。
【0037】
また、前記摩耗防止剤としては、例えば、硫黄系、リン系又は硫黄-リン系の摩耗防止剤等が使用できる。また、このような硫黄系、リン系又は硫黄-リン系の摩耗防止剤としては、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。このような摩耗防止剤の中でも、優れた摩耗防止性の観点からは、リン系又は硫黄-リン系摩耗防止剤がより好ましく、亜リン酸エステル、チオリン酸エステルがより好ましい。このようなリン系又は硫黄-リン系摩耗防止剤としては、リン原子(P)の含有量が2.0~35.0質量%のものが好ましい。なお、摩耗防止剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0038】
摩耗防止剤を利用する場合において、その含有量は特に制限されないが、前記潤滑油組成物の全量を基準として0.02~2.0質量%(より好ましくは0.05~1.0質量%)であることが好ましい。摩耗防止剤の含有量が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して熱・酸化安定性をより高めることが可能となり、他方、前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して潤滑油組成物の耐摩耗性をより向上させ、高荷重条件においても動力伝達効率をより向上させることが可能となる。
【0039】
<分散剤>
本発明の潤滑油組成物としては、使用時に摩耗により生じた金属粉をより高度に分散させ、より長期に亘って潤滑性能を十分に維持することが可能となることから、無灰分散剤を含有するものが好ましい。このような無灰分散剤としては、潤滑油組成物の分野において無灰分散剤として用いられている公知の化合物(例えば、特開2003-155492号公報、特開2020-76004号公報、国際公開2013/147162号等参照)が適宜使用できる。前記無灰分散剤としては、例えば、直鎖又は分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノ又はビスコハク酸イミド、アルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。なお、このような無灰分散剤において、前記直鎖又は分枝状のアルキル基又はアルケニル基は、炭素数40~400(より好ましくは60~350)の直鎖又は分枝状のアルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。また、このような無灰分散剤としては、金属粉などに対するより優れた分散性の付与の観点から、非ホウ素化コハク酸イミド(前述のモノ又はビスコハク酸イミド等)、ホウ素化コハク酸イミド(前述のモノ又はビスコハク酸イミドのホウ素変性化合物)、及び、これらの混合物を好適に利用できる。また、非ホウ素化コハク酸イミド、ホウ素化コハク酸イミド、又は、これらの混合物としては、窒素原子の含有量が0.5~3.0質量%のものが好ましい。なお、無灰分散剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0040】
無灰分散剤を利用する場合において、その含有量は特に制限されないが、前記潤滑油組成物の全量を基準として0.2~6.0質量%(より好ましくは0.5~5.0質量%)であることが好ましい。無灰分散剤の含有量が前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して、潤滑油組成物の粘度上昇をより十分に抑制できることから、条件(I)を満たす潤滑油組成物を得ることがより容易となり、他方、前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して潤滑性能を長期に亘って十分に維持する効果をより向上させることが可能となる。
【0041】
<他の添加剤>
本発明の潤滑油組成物においては、前述の成分(前記潤滑油基油、前記粘度調整剤、前記摩耗防止剤及び前記無灰分散剤)以外にも、その性能を更に向上させるために、目的に応じて潤滑油組成物に一般的に使用されている他の添加剤を適宜含有させてもよい。このような他の添加剤としては特に制限されず、潤滑油組成物の分野において利用されている公知のもの(例えば、特開2003-155492号公報、国際公開2017/073748号、特開2020-76004号公報等に記載されているもの)を適宜利用できる。また、このような他の添加剤としては、例えば、流動点降下剤、摩擦調整剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、希釈油等の添加剤等を挙げることができる。
【0042】
前記流動点降下剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート、エチレン-酢酸ビニルコポリマー等が挙げられ、中でも、ポリメタクリレートが好ましい。また、前記ポリメタクリレートとしては、流動点降下作用およびせん断安定性の観点から、重量平均分子量が20,000~100,000のものが好ましい。流動点降下剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。流動点降下剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~1.0質量%(より好ましくは0.03~0.6質量%)であることが好ましい。
【0043】
前記摩擦調整剤としては特に制限されないが、例えば、アミン系、アミド系、イミド系、脂肪酸エステル系、脂肪酸系、脂肪族アルコール系、脂肪族エーテル系の摩擦調整剤が挙げられる。また、このような摩擦調整剤としては、より高い摩擦低減作用が得られるといった観点から、アミン系摩擦調整剤がより好ましく、アルキルアミン、アルケニルアミンが更に好ましい。摩擦調整剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、摩擦調整剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.005~3.0質量%(より好ましくは0.01~2.5質量%)であることが好ましい。
【0044】
また、前記金属系清浄剤としては特に制限されないが、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート等が挙げられる。金属系清浄剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。さらに、金属系清浄剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~1.0質量%(より好ましくは0.05~0.6質量%)であることが好ましい。
【0045】
また、前記酸化防止剤としては特に制限されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。酸化防止剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.1~2.0質量%(より好ましくは0.2~1.0質量%)であることが好ましい。
【0046】
さらに、前記金属不活性化剤としては特に制限されないが、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、トリルトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。金属不活性化剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、金属不活性化剤を利用する場合、その含有量は前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~0.5質量%(より好ましくは0.02~0.3質量%)であることが好ましい。
【0047】
また、前記ゴム膨潤剤としては特に制限されないが、潤滑油用のシール膨潤剤として用いることが可能な公知の化合物を適宜利用でき、例えば、エステル系、硫黄系、芳香族系等のシール膨潤剤(例えばスルホラン化合物等)が挙げられる。ゴム膨潤剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、ゴム膨潤剤を利用する場合、その含有量は特に制限されないが、前記潤滑油組成物の全量を基準として0.01~1.0質量%(より好ましくは0.05~0.8質量%)であることが好ましい。
【0048】
また、前記消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1,000~100,000mm2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸とのエステル、メチルサリシレート、および、o-ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。消泡剤は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。また、消泡剤を利用する場合、その含有量は特に制限されないが、前記潤滑油組成物の全量を基準として0.0001~0.005質量%(より好ましくは0.0003~0.003質量%)であることが好ましい。
【0049】
なお、本発明の潤滑油組成物は、先ず、利用する潤滑油基油の特性を考慮して、前記条件(I)及び(II)を満たすように、その潤滑油基油に対して、上述のような他の成分(例えば、前記粘度調整剤、前記無灰分散剤等)の中から利用する成分を適宜選択して(その使用量も適宜設計して)添加することにより調製することができる。また、前記潤滑油基油に対して、上述のような他の成分を添加する場合、他の成分はそれぞれ各成分ごとに別々に準備して添加してもよいし、あるいは、他の成分の混合物を準備して添加してもよい。このような他の成分の混合物としては、市販のパッケージ(例えば、無灰分散剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、ゴム膨潤剤、金属不活性化剤、希釈成分(希釈油)等を含む添加剤パッケージ)を適宜利用してもよい。
【実施例
【0050】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
〔各実施例等で利用した成分について〕
各実施例等において利用した潤滑油基油及び添加剤を以下に示す。なお、以下において、潤滑油基油の密度は15℃における密度であり、「80℃における動粘度」を場合により「80℃動粘度」又は「動粘度(80℃)」と示し、また、硫黄分や窒素分の濃度に関する「ppm」は質量百万分率(mg/kg)である。
(1)潤滑油基油
〈実施例で利用した潤滑油基油〉
[鉱油(A)]80℃動粘度:3.61mm/s、硫黄分:1ppm未満、窒素分:1ppm未満、API分類:グループII(鉱油)、密度:0.837g/cm
[鉱油(B)]80℃動粘度:4.96mm/s、硫黄分:1ppm未満、窒素分:1ppm未満、API分類:グループIII(鉱油)、密度:0.815g/cm
[鉱油(C)]80℃動粘度:3.79mm/s、硫黄分:1ppm未満、窒素分:1ppm未満、API分類:グループIII(鉱油)、密度:0.809g/cm
[鉱油(D)]80℃動粘度:3.13mm/s、硫黄分:1ppm未満、窒素分:1ppm未満、API分類:グループII(鉱油)、密度:0.830g/cm
〈比較例で利用した潤滑油基油〉
[鉱油(E)]80℃動粘度:6.70mm/s、硫黄分:1ppm未満、窒素分:1ppm未満、API分類:グループIII(鉱油)、密度:0.836g/cm
[鉱油(F)]80℃動粘度:4.86mm/s、硫黄分:1ppm未満、窒素分:1ppm未満、API分類:グループII(鉱油)、密度:0.836g/cm
[鉱油(G)]80℃動粘度:6.31mm/s、硫黄分:1ppm未満、窒素分:1ppm未満、API分類:グループIII(鉱油)、密度:0.834g/cm
[鉱油(H)]80℃動粘度:5.75mm/s、硫黄分:1ppm未満、窒素分:1ppm未満、API分類:グループIII(鉱油)、密度:0.826g/cm
【0052】
(2)添加剤
[粘度調整剤]
エチレンプロピレンコポリマー(重量平均分子量:11,500)
[摩耗防止剤]
亜リン酸エステル(リン原子の含有量:7.3質量%)
[無灰分散剤]
非ホウ素化コハク酸イミド(窒素原子の含有量:1.3質量%)
[流動点降下剤]
ポリメタクリレート(非分散型、重量平均分子量:50,000)
[添加剤パッケージ]
無灰分散剤(非ホウ素化コハク酸イミド及びホウ素化コハクイミドの混合物);金属系清浄剤(カルシウムスルホネート、全塩基価:300(TBN300)、カルシウム原子の含有量:10質量%);酸化防止剤(アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤の混合物);摩擦調整剤(アミン系);摩耗防止剤(亜リン酸エステル);ゴム膨潤剤(スルホラン化合物);金属不活性化剤(チアジアゾール);及び、希釈油を含むパッケージ。
【0053】
(実施例1~11及び比較例1~4)
下記表1に示す組成となるように各成分を利用して、潤滑油組成物を調製した。なお、表1中の「-」はその成分を利用していないことを示す。また、表1中、潤滑油基油の含有量の単位の「inmass%」は潤滑油基油の全量に対する鉱油(A)~(H)の含有量(質量%)を表し、添加剤の含有量の単位の「mass%」は潤滑油組成物全量に対する各添加剤の含有量(質量%)を表す。また、表1には、実施例1~11および比較例1~4の各潤滑油組成物に関して、以下のようにして測定された、各温度(40℃、80℃、120℃)における動粘度、80℃におけるトラクション係数、及び、80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積を併せて示す。
・「動粘度」は、各温度(40℃、80℃、120℃)において、JIS K 2283-2000に準拠して、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いてそれぞれ測定した。
・「80℃におけるトラクション係数」は、測定装置としてEHL試験機(PCS Instruments社製の試験機「EHD2」)を用い、部材として鋼ディスク及び鋼ボールを利用して、温度:80℃、荷重:40N、周速(平均速度):1m/s、すべり率(SRR)10%の条件を採用して測定した。
【0054】
【表1】
【0055】
[実施例1~11及び比較例1~4で得られた潤滑油組成物の特性について]
実施例1~11及び比較例1~4で得られた潤滑油組成物をそれぞれ用いて、以下のようにして特性を評価した。
【0056】
<平歯車機構における動力伝達効率の測定試験:FZG平歯車試験>
後述の点で異なる条件を採用した以外は、文献“FVA Information Sheet No.345,March 2002(以下、かかる文献を場合により単に「参考文献1」と称する)”に記載されている方法と同様の方法を採用して、下記試験条件でFZG平歯車試験装置を運転した場合の動力伝達効率を測定した。すなわち、試験装置として動力循環型のFZG平歯車試験装置を利用し、試験用ギアC-PT(C)(歯車材質:16MnCr5)を備えるギアボックスをシャフトの中心部のレベルまで潤滑油組成物で浸した状態とし、荷重ステージ:7(ST7[面圧:約1300N/mm])、試験温度(試験時の潤滑油組成物の温度):90℃、モーター回転速度:1440rpmの試験条件で前記試験装置を運転し、入力トルク[単位:Nm]と、損失トルク([単位:Nm])とを測定して、下記式(1):
[動力伝達効率(%)]={(Tin-Tout)/Tin}×100 (1)
〔式(1)中、Tinは入力トルクを示し、Toutは損失トルクを示す。〕
を計算して、動力伝達効率(ギア効率)を求めた。なお、かかる測定に際しては、参考文献1に記載されている基準油「mineral oil FVA3A」の代わりにENEOS株式会社製の商品名「スーパーオイルM100」を利用し、参考文献1の7章中の7.4に記載されている手順のうち「Vc) Steady-state-tempeature」の欄に記載されている手順を省略し、更に、損失トルクの値として、参考文献1の8.2章に記載されているような「無負荷トルク損失(no load loss torque)」の値を差し引いた値ではなく、上記試験条件での測定値をそのまま採用した点において、参考文献1とは異なる条件を採用したが、それ以外は参考文献1に記載されている方法と同様の方法を採用した。このような測定により得られた結果を表3に示す。なお、表3には、比較例1の動力伝達効率を基準値とした場合の各実施例等の動力伝達効率の増加量(基準値に対する増加量:比較例1の動力伝達効率との差:効率向上値)を併せて示す。
【0057】
<はすば歯車機構における動力伝達効率の測定試験:はすば歯車試験>
図1に模式的に示すはすば歯車機構の試験装置を利用して、一対のはすば歯車に40℃、80℃、120℃の各温度の潤滑油組成物を供給して動力伝達効率(ギア効率)をそれぞれ求めた。以下、試験装置及び試験条件を分けて説明する。
【0058】
(試験装置について)
先ず、試験装置について説明する。図1に試験装置は、はすば歯車G1と、はすば歯車G2とからなる一対のはすば歯車を備えるギアボックス30を利用した試験装置である。より具体的には、図1に試験装置は、駆動力を入力するための入力モータ(Input Motor:駆動モータ)10と、入力モータ10用の回転軸11と、回転軸11の先端に設置された入力側(駆動側)のはすば歯車G1と、入力トルク(駆動トルク)を測定するために回転軸11に接続されたトルクメータ12と、出力モータ(Output Motor:吸収モータ)20と、出力モータ20用の回転軸21と、回転軸21の先端に取り付けられた出力側(吸収側)のはすば歯車G2と、出力トルク(吸収トルク)を測定するために回転軸21に接続されたトルクメータ22と、一対のはすば歯車G1及びG2が内部に配置されたギアボックス30と、歯車に供給するための潤滑油組成物を貯蔵するためのタンク40と、タンク40から一対のはすば歯車G1及びG2の接触部位(歯車のかみ合う部分)に潤滑油組成物を供給するためのオイル供給管41とを備える試験装置である。なお、図1に示すタンク40には、タンク内に潤滑油組成物を導入させるためのオイル導入管(図示省略)が接続されており、タンク内に必要な量の潤滑油組成物を導入可能なように設計されている。また、図1中の矢印A1は、潤滑油組成物が供給管41内を移動する際の移動方向を概念的に示すものである。このような試験装置に利用した歯車の仕様を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
(試験条件について)
次に、試験条件等について説明する。すなわち、図1に示すはすば歯車機構の試験装置を、以下に示すような条件で運転して、入力トルク[単位:Nm]と、出力トルク[単位:Nm]とをそれぞれ測定して、その測定値と入力側(駆動側)及び出力側(吸収側)の各回転軸の回転数の値とに基づいて、下記式(1’):
[動力伝達効率(%)]={(T×n)/(T×n)}×100 (1’)
〔式(1’)中、Tは入力トルク(駆動トルク)を示し、nは入力側のはすば歯車G1の回転数(駆動回転数)を示し、Tは出力トルク(吸収トルク)を示し、nは出力側のはすば歯車G2の回転数(吸収回転数)を示す。〕
を計算して、動力伝達効率(ギア効率)を求めた。このような動力伝達効率の測定は試験温度を変更して3回行った(このような3回の測定試験を、便宜上、以下、試験(A)、試験(B)又は試験(C)と称する)。また、このような試験(A)~(C)の各測定に際して、潤滑油組成物の供給時の温度(供給油温:試験温度)が、試験(A):40℃、試験(B):80℃、試験(C):120℃となるようにした。また、試験(A)~(C)の各測定に際しては、一対のはすば歯車G1及びG2の接触部位(歯車のかみ合う部分)に潤滑油組成物を1.0L/分で供給しながら、回転軸11(入力側:駆動側)の回転数が6000rpm(各試験において共通の回転数)となり、はすば歯車G2(出力側)の歯面に負荷される荷重が10Nm(各試験において共通の荷重)となる条件で試験装置(図1)を運転させた。このような測定により得られた結果(各実施例等の動力伝達効率)を表3に示す。なお、表3には、比較例1の動力伝達効率を基準値とした場合の各実施例等の動力伝達効率の増加量(基準値に対する増加量:比較例1の動力伝達効率との差:効率向上値)を併せて示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示したFZG平歯車試験の結果から明らかなように、平歯車の動力伝達効率といった観点からは、実施例1~11で得られた潤滑油組成物と、比較例1~4で得られた潤滑油組成物とに大きな差はなく、動力伝達効率はほぼ同等の値となっていた。
【0063】
これに対して、表3に示したはすば歯車試験の結果からも明らかなように、40℃~120℃の温度域における試験(A)~(C)の動力伝達効率の増加量(効率向上値)の平均値が、実施例1~11で得られた潤滑油組成物においては0.5以上となっているのに対して、比較例1~4で得られた潤滑油組成物は0.3以下となっていた。なお、比較例1で得られた潤滑油組成物の動力伝達効率が、試験(A)で96.8%、試験(B)で97.5%、試験(C)で98.0%となっていることを考慮すれば、比較例1を基準とした場合の試験(A)~(C)の動力伝達効率の増加量の平均値が0.40以上(更に好ましくは0.50以上)となるような場合には、その潤滑油組成物により、比較例1と対比して、40℃~120℃といった広い温度域において、高速回転時のはすば歯車機構の損失トルクを低減させる度合いがより大きなものとなり、高速回転時の動力伝達効率がより高い水準のものとなっていることは明らかである。かかる観点から、前記はすば歯車試験の結果において、比較例1を基準とした場合の試験(A)~(C)の動力伝達効率の増加量の平均値が0.40以上(更に好ましくは0.50以上)となるような場合には、その潤滑油組成物が、40℃~120℃といった広い温度域において、はすば歯車機構の高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させることが可能なものであると判断できる。そのため、前記はすば歯車試験の結果から、80℃における動粘度が7.0mm/s以下であり、かつ、80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下である本発明の潤滑油組成物(実施例1~11)は、40℃~120℃といった広い温度域において、はすば歯車機構の高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させることが可能なものであることが分かった。
【0064】
また、実施例1の潤滑油組成物と、実施例4及び10の潤滑油組成物とが粘度調整剤以外の点で組成が同じものであることから、これらを対比すると、粘度調整剤を利用した場合(実施例4及び10)に、温度条件が120℃の試験(C)における動力伝達効率の増加量がより高い値となっていることが確認された。同様に、実施例3と実施例5とが粘度調整剤以外の点では組成が同じものであることから、これらを対比すると、やはり、粘度調整剤を利用した場合(実施例5)に、温度条件が120℃の試験(C)における動力伝達効率の増加量がより高い値となっていた。このような結果から、粘度調整剤を利用した場合(実施例4~5、10)に、粘度調整剤を利用しなかった場合(実施例1、3)と対比して、120℃といった高温条件下において動力伝達効率をより向上させることが可能となることが分かった。なお、表1及び表3に示す結果から、粘度調整剤を2.0質量%の割合で利用した場合(実施例11)に、温度条件が120℃の試験(C)における動力伝達効率向上値が0.60となっていた。
【0065】
このような結果から、80℃における動粘度が7.0mm/s以下であり、かつ、80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下である本発明の潤滑油組成物(実施例1~11)によれば、はすば歯車機構に用いた場合に、特異的に、幅広い温度域において、高速回転時の動力伝達効率をより高いものとすることが可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明によれば、はすば歯車機構に用いた場合に、特異的に、幅広い温度域において高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させることを可能とする潤滑油組成物を提供することが可能となる。したがって、本発明の潤滑油組成物は、はすば歯車機構を利用する各種装置に好適に利用でき、特に、電気自動車やハイブリッド自動車等を含む各種自動車用の変速機(自動変速機、手動変速機等)、減速機等に有用である。
【符号の説明】
【0067】
10…入力モータ(Input Motor)、11…回転軸(入力側)、12…トルクメータ(入力側)、20…出力モータ(Output Motor)、21…回転軸(出力側)、22…トルクメータ(出力側)、G1及びG2…はすば歯車、40…潤滑油組成物を貯蔵するためのタンク40、41…オイル供給管、A1…オイル供給管内の潤滑油組成物の移動方向を概念的に示す矢印。
図1