(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】揺動ダクト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F27D 17/00 20060101AFI20240522BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20240522BHJP
【FI】
F27D17/00 105G
B23K26/342
(21)【出願番号】P 2020171751
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】荒関 睦
(72)【発明者】
【氏名】野中 憲司
(72)【発明者】
【氏名】横田 博紀
(72)【発明者】
【氏名】福士 達也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 圭祐
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-194069(JP,A)
【文献】特開2004-190046(JP,A)
【文献】特開2005-290466(JP,A)
【文献】実開昭62-110684(JP,U)
【文献】特開2010-229920(JP,A)
【文献】実開昭52-168908(JP,U)
【文献】特表2007-533859(JP,A)
【文献】特開2003-068657(JP,A)
【文献】特開2020-063478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 17/00
B23K 26/342
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた揺動ダクト。
(1)前記揺動ダクトは、
水冷構造を備えた円筒状の本体と、
前記本体の端面に形成された冷却管と、
前記冷却管の表面に形成されたレーザクラッド層と
を備えている。
(2)前記本体は、一般構造用鋼(A)からなり、
前記冷却管は、一般構造用鋼(B)又は炭素鋼からなり、
前記レーザクラッド層は、Co基合金又はNi基合金からなり、分散した金属炭化物を0mass%以上60mass%以下含む。
【請求項2】
前記金属炭化物の含有量は、5mass%以上30mass%以下である請求項1に記載の揺動ダクト。
【請求項3】
前記レーザクラッド層の厚さは、0.5mm以上3.0mm以下である請求項1又は2に記載の揺動ダクト。
【請求項4】
前記本体の内径が1000mm以上である請求項1から3までのいずれか1項に記載の揺動ダクト。
【請求項5】
水冷構造を備えた円筒状の本体、及び冷却管を準備する第1工程と、
レーザクラッド法を用いて前記冷却管の表面にレーザクラッド層を形成する第2工程と、
前記本体の端面に前記冷却管を接合し、請求項1から4までのいずれか1項に記載の揺動ダクトを得る第3工程と
を備えた揺動ダクトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動ダクト及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、製鋼炉から集塵機に排ガスを送出するための揺動ダクト、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉などの製鋼炉から排出される排ガスは、集塵機により吸引され、有害ガス及びダストを除去した後、大気に放出されている。製鋼炉と集塵機との間はダクトにより連結されているが、ダクトは水平に設置される箇所が多い。製鋼炉から排出される排ガスに含まれるダストは粗大であるものが多いため、水平に設置されたダクト内には粗大なダストが堆積しやすい。ダクト内にダストが堆積すると、ダクト内部の断面積が減少し、排気効率が低下する。そのため、ダクトにハッチを設けておき、製鋼炉を休止させた後、定期的にスクレイパーを用いてダクト内に堆積したダストを除去することが行われていた。しかしながら、このような方法では、製鋼炉の休止時間が長くなり、稼働効率が低下する。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、水平に延びる集煙ダクトを他の部分から別体として構成し、集煙ダクトをその軸芯まわりに回転可能に支持し、さらに、集煙ダクトをその軸芯まわりに左右に交互に回動させるターニング装置を設けた電気炉集煙ダクトのダスト堆積防止装置が開示されている。
【0004】
同文献には、
(A)集煙ダクト内の排ガスの流れには偏流があり、排ガスの流速は集煙ダクトの下部よりも上部の方が速くなるために、集煙ダクトを回動させると、集煙ダクトの底面に沈降したダストが上方に移動し、強い排ガスの流れに押されてダストが下流側に送られる点、
(B)集煙ダクトを回動させるに伴い、集煙ダクトの底面に沈降したダストが底面と共に上方に移動し、ある程度の高さまで持ち上げられると自重でダストが底面に向かって滑り落ちるが、この時に排ガスの流れに押されてダストが下流側に送られる点、及び、
(C)これによって、集煙ダクトの底面にダストが堆積しなくなる点
が記載されている。
【0005】
軸芯回りに左右に回動させることが可能なダクト(以下、このようなダクトを「揺動ダクト」ともいう)を用いて製鋼炉と集塵機とを連結すると、ダクト内におけるダストの堆積を抑制することができる。揺動ダクトは、粗大なダストであっても下流側に送り出すことができるので、大型の製鋼炉と大型の集塵機とを連結するダクトとして好適である。
大型の製鋼炉と大型の集塵機とを揺動ダクトで連結する場合、それに応じて揺動ダクトも大口径となる。この場合、製鋼炉と集塵機との間を一体物の揺動ダクトで連結するのは物理的に困難であるため、通常は、相対的に長さの短い複数個の揺動ダクトを連結することが行われている。以下、複数個の揺動ダクトが連結されているダクトを「集塵連結ダクト」ともいう。
【0006】
しかしながら、製鋼炉から排出される排ガスは高温であるため、揺動ダクトの摩耗に対する負荷が大きい。特に、揺動ダクトの端面(すなわち、揺動ダクトの連結部分)は、高熱のダストによる摩耗速度が極めて速くなりやすい。
ダクトの寿命延命対策としては、端部の板厚の増加や材質・形状の変更などが一般的である。しかし、これらの対策は、施工性・耐用性の点で不十分である。
あるいは、耐摩耗性が要求される部位に、種々の方法を用いて耐熱・耐摩耗材からなる皮膜を形成することも考えられる。しかしながら、大口径の揺動ダクトの端面にこのような皮膜を形成することは、一般に容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、端面の耐摩耗性が高い揺動ダクト及びその製造方法を提供することにある。
本発明が解決しようとする他の課題は、端面の耐摩耗性が高く、かつ、大口径の揺動ダクト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る揺動ダクトは、以下の構成を備えている。
(1)前記揺動ダクトは、
水冷構造を備えた円筒状の本体と、
前記本体の端面に形成された冷却管と、
前記冷却管の表面に形成されたレーザクラッド層と
を備えている。
(2)前記本体は、一般構造用鋼(A)からなり、
前記冷却管は、一般構造用鋼(B)又は炭素鋼からなり、
前記レーザクラッド層は、Co基合金又はNi基合金からなり、分散した金属炭化物を0mass%以上60mass%以下含む。
【0010】
本発明に係る揺動ダクトの製造方法は、
水冷構造を備えた円筒状の本体、及び冷却管を準備する第1工程と、
レーザクラッド法を用いて前記冷却管の表面にレーザクラッド層を形成する第2工程と、
前記本体の端面に前記冷却管を接合し、本発明に係る揺動ダクトを得る第3工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0011】
冷却管の表面に、Co基合金又はNi基合金からなる皮膜を形成する場合において、皮膜形成方法としてレーザクラッド法を用いると、密着力の高い皮膜(レーザクラッド層)が得られ、かつ、レーザクラッド層近傍の熱影響部を最小限に抑制することができる。その結果、揺動ダクトの本体が大口径である場合であっても、本体の端面に、レーザクラッド層が形成された冷却管を接合することができる。また、これによって、高温のダストに対する耐摩耗性が向上する。さらに、揺動ダクトの耐摩耗性が向上することにより、揺動ダクトの補修頻度が低下し、揺動ダクトの維持コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る揺動ダクトの正面図(右図)及びそのA-A’線断面図(左図)である。
【
図3】複数個の揺動ダクトが連結された連結集塵ダクトの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 揺動ダクト]
図1に、本発明に係る揺動ダクトの正面図(右図)及びそのA-A’線断面図(左図)を示す。
図1において、揺動ダクト10は、
水冷構造を備えた円筒状の本体20と、
本体20の端面に形成された冷却管30と、
冷却管30の表面に形成されたレーザクラッド層32と
を備えている。
【0014】
[1.1. 本体]
[1.1.1. 材料]
本発明において、本体20は、一般構造用鋼(A)(SS)からなる。SSは、
(a)製缶性(曲げ、溶接)に優れる、
(b)市場に広く流通しており、安価である、
などの利点がある。そのため、SSは、本体20の材料として好適である。
【0015】
[1.1.2. 水冷構造]
本体20の内部には、製鋼炉から排出される高温の排ガスが流れる。そのため、本体20は、水冷構造を備えている必要がある。水冷構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な構造を選択することができる。
図1において、本体20は、側壁の内部が空洞になっており、空洞内に冷却水を流すことができるようになっている。また、本体20の内部には、排ガス及びダスト50が流れるようになっている。
【0016】
すなわち、
図1において、本体20は、内筒22と、外筒24とを備えている。内筒22の外側表面(外筒24と対向する面)には、らせん状のリブ22aが形成されている。隣り合うリブ22a、22aの間にある空間が、冷却水を流すための冷却水路22bである。外筒24の外側表面(内筒22と対向していない面)には、冷却水供給源(図示せず)から冷却水を冷却水路22bに導入するために導入口24aと、冷却水路22bから冷却水を外部に排出するための排出口24bが設けられている。
【0017】
[1.1.3. 内径]
本発明において、本体20の内径は、特に限定されない。一般に、ダクトの内径が大きくなるほど、端面に形成される冷却管のサイズも大きくなる。冷却管のサイズが大きくなると、冷却管の表面に皮膜を形成するための施工自体が困難となる場合がある。また、冷却管のサイズが大きくなると、それに合わせて曲率半径も大きくなり、皮膜形成過程で冷却管が大きく変形し、本体と冷却管との接合が困難になる場合がある。
これに対し、本発明は、皮膜形成過程での冷却管30の変形が小さいために、内径の大きい本体20であっても、皮膜形成後の冷却管30を容易に接合することができる。後述する方法を用いると、本体20の内径が1000mm以上、あるいは、1500mm以上である揺動ダクト10であっても製造することができる。
【0018】
[1.2. 冷却管]
[1.2.1. 材料]
冷却管30は、本体20の端面を冷却するためのものであり、本体20の端面に形成されている。冷却管30の内部には、本体20内を流れる冷却水の一部が分配されるようになっている。
冷却管30の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。冷却管30の材料としては、例えば、一般構造用鋼(B)、炭素鋼(例えば、圧力配管用炭素鋼鋼管STPG370、高温配管用炭素鋼鋼管STPT370)などがある。冷却管30が一般構造用鋼(B)からなる場合、一般構造用鋼(B)は、本体20を構成する一般構造用鋼(A)と同一組成の材料であっても良く、あるいは、異なる組成の材料であっても良い。
【0019】
[1.2.2. 形状]
図1において、冷却管30は中空円環を半割した形状を呈しているが、これは単なる例示であり、冷却管30の断面形状は特に限定されない。
また、冷却管30は、一体物であっても良く、あるいは、複数個の円弧状のセグメントを円周方向に配置し、セグメント間を接合したものでも良い。
【0020】
[1.3. レーザクラッド層]
[1.3.1. 材料]
冷却管30の表面には、レーザクラッド層32が形成されている。本発明において、レーザクラッド層32は、Co基合金又はNi基合金からなり、分散した金属炭化物を0mass%以上60mass%以下含む。Co基合金及びNi基合金は、いずれも、一般構造用鋼(B)又は炭素鋼に比べて高温硬さが高く、高温のダストに対する耐摩耗性が高いので、冷却管30の表面を覆うレーザクラッド層32を構成する材料として好適である。
【0021】
ここで、「Co基合金」とは、合金中、質量ベースで最も多くを占める金属元素がCoである合金をいう。
「Ni基合金」とは、合金中、質量ベースで最も多くを占める金属元素がNiである合金をいう。
【0022】
レーザクラッド層32は、金属炭化物を含んでいても含んでいなくても良いが、レーザクラッド層32に金属炭化物が含まれていると、耐摩耗性がさらに向上する。金属炭化物としては、例えば、炭化タングステン、炭化モリブデン、炭化クロム、炭化チタン、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウムなどがある。
レーザクラッド層32が金属炭化物を含む場合において、金属炭化物の含有量が少なすぎると、耐摩耗性の向上効果が表れにくい。従って、金属炭化物の含有量は、1mass%以上が好ましい。金属炭化物の含有量は、好ましくは、5mass%以上である。
一方、金属炭化物の含有量が過剰になると、内部応力により割れが発生しやすくなる。従って、金属炭化物の含有量は、60mass%以下である。金属炭化物の含有量は、好ましくは、30mass%以下である。
【0023】
Co基合金としては、例えば、ステライト1、ステライト6、ステライト12、ステライト21、ステライトF、ステライトX-40、トリバロイT-400、トリバロイT-800などがある。
Ni基合金としては、例えば、ハステロイB、ハステロイC-276、ハステロイW、ハステロイX、インコネルX、インコネル625、インコネル700、インコネル718などがある。
【0024】
[1.2.2. 厚さ]
レーザクラッド層32の厚さは、目的に応じて最適な厚さを選択するのが好ましい。一般に、レーザクラッド層32の厚さが薄くなりすぎると、耐久性が低下する。従って、レーザクラッド層32の厚さは、0.5mm以上が好ましい。厚さは、好ましくは、1.0mm以上である。
一方、レーザクラッド層32の厚さを必要以上に厚くすると、内部応力により割れが発生しやすくなる。従って、レーザクラッド層32の厚さは、3.0mm以下が好ましい。厚さは、好ましくは、2.0mm以下である。
【0025】
[2. 揺動ダクトの製造方法]
本発明に係る揺動ダクトの製造方法は、
水冷構造を備えた円筒状の本体、及び冷却管を準備する第1工程と、
レーザクラッド法を用いて前記冷却管の表面にレーザクラッド層を形成する第2工程と、
前記本体の端面に前記冷却管を接合し、本発明に係る揺動ダクトを得る第3工程と
を備えている。
【0026】
[2.1. 第1工程]
まず、水冷構造を備えた円筒状の本体20、及び冷却管30を準備する。本体20及び冷却管30の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0027】
[2.2. 第2工程]
次に、レーザクラッド法を用いて冷却管30の表面にレーザクラッド層32を形成する。
図2に、レーザクラッド法の模式図を示す。レーザクラッド法においては、二重管構造を備えたノズル40が用いられる。ノズル40は、外管42と、外管42の内側に設置された内管44と、内管44内に設置された集光レンズ46とを備えている。内管44内には、酸化を防ぐためのシールドガスとしての不活性ガスが供給可能になっている。また、外管42と内管44の間の隙間には、材料粉末48と、材料粉末48を搬送するためのキャリアガスが供給可能になっている。
【0028】
レーザクラッド法を用いたレーザクラッド層32の形成は、具体的には、以下のようにして行う。すなわち、まず、冷却管30の表面の上方にノズル40を配置する。次いで、外管42と内管44との隙間に材料粉末48及びキャリアガスを供給し、内管44内にはシールドガスを供給する。この状態で、集光レンズ46に向かってレーザ光を照射すると、レーザ光の焦点近傍において材料粉末48と冷却管30の表層部分が溶融して一体化する。ノズル40が移動すると、溶融して一体化した液体が凝固してレーザクラッド層32となる。
【0029】
この時、レーザの出力、冷却管30とノズル40の先端との間の距離、材料粉末48の供給量、及び/又はノズル40の移動速度を調節すると、冷却管30の熱影響を最小限に抑制しながら、材料粉末48と冷却管30の表層部分のみを選択的に溶融させ、さらにレーザクラッド層32の厚さを調節することができる。
【0030】
[2.3. 第3工程]
次に、本体20の端面に冷却管30を接合する(第3工程)。これにより、本発明に係る揺動ダクト10が得られる。本体20と冷却管30の接合方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
【0031】
[3. 作用]
大型の製鋼炉と大型の集塵機とを連結するための揺動ダクトは、通常、大口径である。この場合、製鋼炉と集塵機との間を一体物の揺動ダクトで連結するのは物理的に困難であるため、通常は、相対的に長さの短い複数個の揺動ダクトを連結することが行われている。
【0032】
図3に、複数個の揺動ダクトが連結された連結集塵ダクトの模式図を示す。
図3に示すように、大型の製鋼炉(図示せず)と集塵機(図示せず)との間には、連結集塵ダクト1が配置される。連結集塵ダクト1は、所定の長さを有する複数の揺動ダクト10、10…が水平方向に配置されたものからなる。各揺動ダクト10、10…は、それぞれ、駆動装置(図示せず)を用いて軸芯回りに揺動可能になっている。
【0033】
また、隣接する揺動ダクト10、10…は、種々の締結手段(図示せず)を用いて締結されている。締結方法としては、例えば、
(a)各揺動ダクト10、10…の本体20の端部にそれぞれフランジを設け、隣接するフランジ間をボルト及びナットで締結する方法、
(b)隣接する本体20間の隙間の上にベルトを巻き付ける方法
などがある。
【0034】
連結された揺動ダクト10、10…を軸芯回りに揺動させながら内部に排ガスを流すと、粗大で、かつ、高温のダスト50、50…を下流方向(製鋼炉から集塵機に向かう方向)に送り出すことができる。しかしながら、大口径の揺動ダクト10、10…の連結部の隙間を完全に無くすのは物理的に困難であるため、使用中に高温のダスト50、50…が揺動ダクト10、10間の隙間に入り込む場合がある。あるいは、揺動ダクト10、10…の端面に、高温のダスト50、50…が衝突する場合がある。そのため、特に、揺動ダクト10、10…の端面に形成された冷却管30の表面は、高熱のダスト50、50…による摩耗速度が極めて速くなりやすい。
【0035】
この問題を解決するために、冷却管30の表面に耐熱・耐摩耗材を溶射することも考えられる。しかしながら、溶射膜は、一般的に密着力が低いため、耐久性に乏しい。
一方、自溶合金粉末を溶射後、フュージング処理する自溶合金溶射法を用いると、冷却管30の表面に密着力の高い皮膜を形成することができる。しかしながら、揺動ダクト10の本体20が大口径になり、冷却管30のサイズが大きくなると、フュージングのための熱処理を施すことが物理的に困難となる場合がある。また、仮に熱処理が可能であったとしても、冷却管30の曲率半径が大きくなるほど、熱処理後の変形が大きくなるため、本体20と冷却管30の接合が困難となる場合がある。特に、冷却管30が複数個のセグメントに分割されている場合において、熱処理後に大きな変形が生じた時には、セグメントを接合して一体化するのが物理的に困難となる場合がある。
また、この問題は、Tig溶接やPTAなどの溶接肉盛法による皮膜形成法を採用する場合にも同様に起こり得る。
【0036】
これに対し、冷却管30の表面に、Co基合金又はNi基合金からなる皮膜を形成する場合において、皮膜形成方法としてレーザクラッド法を用いると、密着力の高い皮膜(レーザクラッド層32)が得られ、かつ、レーザクラッド層32近傍の熱影響部を最小限に抑制することができる。その結果、揺動ダクト10の本体20が大口径である場合であっても、本体20の端面に、レーザクラッド層32が形成された冷却管30を接合することができる。また、これによって、高温のダストに対する耐摩耗性が向上する。さらに、揺動ダクト10の耐摩耗性が向上することにより、揺動ダクト10の補修頻度が低下し、揺動ダクト10の維持コストを低減することができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1~13、比較例1、2)
[1. 試料の作製]
各種皮膜形成用材料を用いて、基材の表面に皮膜を形成した。基材には、一般構造用鋼(SS400)を用いた。皮膜形成用材料には、Co基合金(実施例1~3)、Ni基合金(実施例4~13、比較例2)を用いた。金属炭化物には、炭化タングステンを用いた(実施例3、6~13、比較例2)。皮膜形成法には、レーザクラッド法を用いた。また、比較材として、一般構造用鋼(SS400)の平板を用意した(比較例1)。
【0038】
[2. 試験方法]
[2.1. 膜厚]
皮膜形成後、試料を切断し、光学顕微鏡を用いてレーザクラッド層の厚さを測定した。
[2.2. 硬度]
室温において、レーザクラッド層のビッカース硬さを測定した。
【0039】
[2.3. クラックの有無]
皮膜形成後、目視にて皮膜表面のクラックの有無を確認した。評価指標の意味は、以下の通りである。
○:クラックは確認されなかった。
△:クラックが複数本存在していた。
【0040】
[2.4. 耐食性]
塩水噴霧試験を行い、目視にて皮膜表面の錆の発生の有無を確認した。試験は、JIS規格のZ2371:2015に準拠した中性塩水噴霧試験を実施した。試験時間は300時間とした。耐食性の評価指標の意味は、以下の通りである。
○:錆の発生は見られなかった。
△:錆が部分的に発生していた。
×:錆が全面的に発生していた。
【0041】
[2.5. 摩耗試験]
JIS規格のH8503:1989に準拠したスガ式摩耗試験を行い、皮膜の耐摩耗性を評価した。研磨紙には、#320SiCを用いた。荷重は、3.25kgとした。往復回数は、2400回とした。試験終了後、摩耗粉発生質量を測定した。
【0042】
[3. 結果]
[3.1. 膜厚、硬度、クラックの発生、耐食性、耐摩耗性]
表1に結果を示す。表1より、以下のことが分かる。
(1)実施例1~13は、耐食性及び耐摩耗性のいずれも、比較例1に比べて優れていた。
(2)実施例3、6~13は、特に耐摩耗性が優れていた。これは、皮膜中に適度な量の金属炭化物が分散して存在しているためと考えられる。
(3)実施例1~8及び10は、特にクラックの発生が少なかった。これは、皮膜の膜厚が薄い、又は金属炭化物の含有量が少ないことで内部応力の影響が抑えられているためと考えられる。
(4)実施例1、4、10は、実施例11、12に比べ、耐食性が優れていた。これは、実施例1、4、10は、実施例11、12と異なり、クラックの発生がなかったためと考えられる。
(5)比較例1は、耐食性及び耐摩耗性のいずれも、実施例1~13に比べ、劣っていた。
(6)比較例2として、金属炭化物の含有量が皮膜全体の70mass%になる条件で皮膜形成を行ったが、無数のクラックが発生し、皮膜の一部が基材から剥離したため、評価試験に供することができなかった。クラックが発生した理由は、金属炭化物の含有量が多すぎることで内部応力が大きくなりすぎたためと考えられる。
【0043】
【0044】
[3.2. 実機検証]
実施例4及び実施例10の仕様で実機検証を行った。結果としては、いずれもSS400(比較例1に相当)での耐用期間12か月の時点でほぼ損耗はなく、耐摩耗性向上の効果が確認された。実施例4と実施例10とを比較すると、外観観察において、実施例4で一部損耗が確認されたが、実施例10では損耗は全く確認されなかった。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る揺動ダクトは、各種製鋼炉と集塵機とを連結するダクトとして使用することができる。