(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/16 20060101AFI20240522BHJP
H02P 21/24 20160101ALI20240522BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20240522BHJP
【FI】
H02P25/16
H02P21/24
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2020196802
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寳田 明彦
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/176316(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/239628(WO,A1)
【文献】特開2011-004515(JP,A)
【文献】特開2012-175747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/16
H02P 21/24
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ位置検出器を用いないセンサレス制御によって交流モータを制御するモータ制御装置であって、
パルス幅変調信号に基づいて直流を交流に変換するインバータと、
前記インバータと前記交流モータの巻線とを接続する電流ラインに介装された配線パターンを内層に有する多層プリント基板と、
前記配線パターンと交差する所定方向に巻線方向を向けて前記配線パターンと対向するように前記多層プリント基板の主面上に実装され、直列に接続されて、基準電位に接続される中点を有する直列回路を形成する複数のチップインダクタと、
前記直列回路の前記中点と当該直列回路の両端との間にそれぞれ接続された負荷抵抗と、
前記直列回路の前記両端に一対の入力端が接続された差動増幅回路と、
前記差動増幅回路の出力を用いて前記交流モータのロータの位置を推定し、当該推定されたロータの位置に応じて、前記インバータに供給するパルス幅変調信号を生成する制御ユニットと、
を含む、モータ制御装置。
【請求項2】
前記複数のチップインダクタは、前記配線パターンに流れる電流が形成する磁束の変化によって各チップインダクタに誘起される起電力の方向を揃えて直列に接続されている、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記複数のチップインダクタの総数が偶数である、請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記制御ユニットが、前記差動増幅回路の出力を前記交流モータの巻線電流の時間微分値に相当する値として取り扱って前記ロータの位置を推定するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記複数のチップインダクタは、前記多層プリント基板の対向する2つの主面に同数ずつ実装されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記複数のチップインダクタは、前記多層プリント基板の一つの主面における配置数が1であり、前記一つの主面に対向する他の主面における配置数が1である、請求項1~5のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記配線パターンから前記多層プリント基板の一方の主面側の一つの前記チップインダクタまでの距離と他方の主面側の一つの前記チップインダクタまでの距離とが、互いに等しくなるように設計されている、請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記複数のチップインダクタは、前記多層プリント基板の一つの主面における配置数が2であり、前記一つの主面に対向する他の主面における配置数が2である、請求項1~5のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記多層プリント基板の一方の主面の一つの前記チップインダクタと他方主面の一つの前記チップインダクタとを直列に接続して前記中点の一方側に配置し、残る二つの前記チップインダクタを直列に接続して前記中点の他方側に配置して、4つの前記チップインダクタの前記直列回路が形成されている、請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記チップインダクタは、空芯コイルであり、シールドされていない、請求項1~9のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
前記複数のチップインダクタは、同一仕様である、請求項1~10のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロータ位置検出器を用いないセンサレス制御によって交流モータを制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流モータとは、交流電流の供給を受けて作動するように構成された電動モータをいい、ブラシレスDCモータ、誘導モータ、ステッピングモータなどを含む。端的には、直流電流の供給を受け、整流子を用いて巻線電流の方向を変化させる構成以外の電動モータは、交流モータの範疇に含まれる。
交流モータのための典型的なモータ制御装置は、直流を交流に変換するインバータを備え、そのインバータによって電動モータに交流電流を供給する。インバータを適切に制御するためには、ロータ位置の情報が必要である。そこで、ロータの回転位置を検出するロータ位置検出器の出力を用いてインバータが制御される。
【0003】
ロータ位置検出器を用いる代わりに、ロータ位置を推定し、推定したロータ位置に基づいてインバータを制御することによって交流モータを駆動する方式が知られている。このような制御方式は、「位置センサレス制御」、あるいは単に「センサレス制御」と呼ばれている。ロータ位置検出器を省くことにより、ロータ位置検出器の実装位置精度およびロータ位置検出器に関連する配線を考慮する必要がなくなる。加えて、センサレス制御は、物理的にロータ位置検出器の配置が不可能なモータや、ロータ位置検出器が使用環境に耐えられない用途のモータにも適用できる利点がある。
【0004】
典型的なセンサレス制御におけるロータ位置の推定は、誘起電圧法による。誘起電圧法とは、電圧指令および電流検出値を用い、モータモデルに基づく演算によって誘起電圧を求め、その誘起電圧を用いてロータ位置を推定する方法である。
しかしながら、誘起電圧が小さい低速領域では、電圧指令に対する実際の印加電圧の誤差、電流検出の誤差、電流検出の分解能の制限などのために、ロータ位置検出が難しい。
【0005】
特許文献1は、低速回転時の微小な誘起電圧を検出する方法を提案している。この方法は、巻線間に電圧が印加されない零電圧ベクトル期間中の巻線電流の電流微分値を利用している。
しかし、零速度を含む極低速領域では、誘起電圧を用いる位置推定は不可能である。このような極低速領域では、特許文献2,3および非特許文献1,2に開示されている方法を用いることができる。すなわち、突極性に起因して、ロータ位置に応じて巻線インダクタンスが変化する現象を利用して、ロータ位置を推定することができる。巻線インダクタンスは、既知の電圧を印加したときの電流微分値に基づいて求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/153794号
【文献】国際公開第2014/128947号
【文献】特開2011-176975号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】J. B. Bartolo, C. S. Staines and C. Caruana, "An Investigation on the Performance of Current Derivative Sensors for the Sensorless Control of A.C. drives," 2008 4th IET Conference on Power Electronics, Machines and Drives, York, 2008, pp. 532-536, DOI: 10.1049/cp:20080578.
【文献】S. Bolognani, S. Calligaro, R. Petrella and M. Sterpellone, "Sensorless control for IPMSM using PWM excitation: Analytical developments and implementation issues," 2011 Symposium on Sensorless Control for Electrical Drives, Birmingham, 2011, pp. 64-73, DOI: 10.1109/SLED.2011.6051546.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
センサレス制御においては、ロータ位置推定の精度および速さが、制御特性に大きな影響を与える。ロータ位置推定に用いられる電流微分検出の精度および速度は、制御特性に直接的に影響を与える重要な要素である。
電流微分を検出する方法には、大きく分けて、特許文献1,2に記載されているように電流検出値から算出する方法と、特許文献3および非特許文献1,2に記載されているように専用の電流微分検出器を用いる方法とがある。
【0009】
特許文献1では、PWMシーケンスの零電圧期間中に、電流値を少なくとも2回サンプリングし、電流値の変化量をサンプリング時間間隔で除することにより、電流微分値を演算している。この手法は、短時間に複数回のサンプリングを行うために高速なA/D変換が必要であり、このことがコストアップの要因となる。
一般的に、電流値をサンプリングし、電流値に対する演算によって電流微分値を求める方法においては、サンプリングの時間間隔が短いと、電流変化量が小さいので、電流検出誤差の影響を受けて、電流微分値の誤差が大きくなる。一方、サンプリングの時間間隔が長いと、電流値の検出から電流微分値が得られるまでの時間が長くなるので、制御性に悪影響がでる。
【0010】
2回のサンプリングではノイズの影響を受けやすいため、サンプリング回数を増やしてフィルタを掛ける手法が採られることもある。しかし、A/D変換の高速化が必要であり、かつ検出時間の増加を招きやすい欠点がある。
特許文献1では、電流微分値が求められてはいるものの、求められた電流微分値は、ロータ位置の推定ではなく、振動抑制のための制御に用いられている。そのため、電流微分値にはさほどの精度は要求されない。特許文献1に記載されている手法で求められる電流微分値は、ロータ位置の推定の用途には適さない。
【0011】
特許文献2では、電流検出信号をアナログ回路によって電流微分値に変換している。具体的には、電流検出信号が入力される差動増幅回路と、差動増幅回路の出力を積分する積分回路とを備え、積分回路の出力を差動増幅回路に帰還して、積分値と電流検出信号との差分増幅値を積分回路に入力するように構成されている。その差動増幅値、すなわち、積分回路の入力値は、電流微分値に相当する。そして、積分回路の出力は、インバータを制御するPWM信号による高周波成分がフィルタされた電流検出信号となる。特許文献2では、突極比が高く、インダクタンス変化が大きなスイッチドリラクタンスモータ(SRM)に対して、電流微分値と閾値との比較により、転流タイミングを決定している。
【0012】
この方法では、一度のサンプリングで電流微分値の取得が可能である。しかし、PWM周波数に応じた積分回路の設計が必要であり、そのために、電流微分値検出の応答性に制約がある。加えて、電流検出値をもとに電流微分値を得る方法であるため、ノイズおよび回路の精度の影響を直接的に受けるので、精度のよい電流微分値を得難いという根本的な問題がある。
【0013】
一般的に、電流検出器はアナログセンサで電流を検出する構成であるため、フルスケールの1%以上の誤差を持つ。そして、モータ巻線に流す最大電流に対して余裕を見込んだフルスケールを有する電流検出器が選定される。ところが、電流微分値に相当する電流変化は小さく、電流検出器のフルスケール電流の数%のレベルに過ぎない。巻線インダクタンスの変化を検出するためには、さらに、電流微分値の数%レベルの変化を読み取る必要がある。したがって、そもそもフルスケールの1%以上の誤差をもつアナログセンサを備える電流検出器の出力をもとに高精度の電流微分値を検出することは難しい。ノイズの影響を考慮すれば、高精度の電流微分値の検出が一層困難であることが分かる。
【0014】
電流検出値から電流微分値を求める方法は、専用の検出器を用いないため、コストおよびスペースの観点では有利であるが、検出の精度および速さの観点では、専用の電流微分検出器を用いる方が有利である。
特許文献3、非特許文献1,2には、専用の電流微分検出器を用いたセンサレス制御に関する記述がある。形態は異なるが、いずれもカレントトランスの原理で動作し、一次側コイルの電流による磁束変化に応じた電圧が二次側コイル端において検出される。すなわち、一次側の電流微分値を直接的に二次側コイルで検出できる。電流微分値を直接的に検出することから、電流検出値から間接的に電流微分値を検出するよりも、良好な信号を得やすい。
【0015】
特許文献3の
図2には、ホール素子を使った電流検出器のコアに二次側コイルを追加して、電流検出および電流微分検出のためにコアを共用する構成が示されている。
しかし、この構成では、二次側コイルの電流磁束の影響によってコア磁束が変化し、それにより電流検出を正しく行えなくなる恐れがある。カレントトランスは、一次側コイル磁束を打ち消す方向に二次側コイルに電流が流れ、二次側コイルのコイル端に接続した負荷抵抗の電圧降下によって二次側電流を検出することを検出原理とするものである。負荷抵抗およびコイルの設計によって適切な出力を得ることは不可能ではないとしても、二種類の検出器の特性を一つのコアで満足させることは難しい。
【0016】
また、高電圧でモータを駆動する場合には、一次側コイルの電位が高くなるので、安全規格上、一次側コイルと二次側コイルとの間には、電圧に応じた絶縁距離が要求される。巻線に使用されるマグネットワイヤの被覆は、安全規格上、絶縁物とはみなされないので、別の手段で絶縁を確保する必要がある。そのため、検出器の小型化が難しくなる。
非特許文献1では、センサレス制御用の電流微分センサとしては最も一般的に用いられているトロイダルコイル構造の電流微分センサと、同軸ケーブルを巻線として用いた構造の電流微分センサの特性とが紹介されている。トロイダルコイルは、リング内を流れる電流磁束のみを検出し、外部磁束の影響を受けないという特徴がある。同文献のFig.6に示された構造では、二次側コイルのみが巻線となっており、電流を流すリードをリングに貫通させることにより、一次側の1ターンコイルとして扱っている。
【0017】
カレントトランスの原理による電流微分器は、コアに磁性材を用いる方が大きな出力電圧を得やすいが、磁性体の磁気飽和や高周波特性の影響を受けやすい。加えて、応答性も空芯コイルに劣る。非特許文献1では、同文献のFig.5に示されている空芯の同軸ケーブルコイルの方が良好な応答性が得られると結論づけられている。
同軸ケーブルコイルは、同軸ケーブルをコイル状に巻いたものであり、同軸ケーブルの導体の一方を動力用とし、他方を検出用として用いる。動力用の導体は大きな電流を流すため太くなければならない。高い電圧がかかる場合には、導体間に大きな絶縁距離が必要になる。したがって、同軸ケーブル自体が太くなるから、多数回の巻回は不可能である。よって、大きな出力を得ることは難しく、かつ小型化も難しい。
【0018】
非特許文献2には、ロゴスキーコイルと呼ばれる空芯のトロイダル構造の電流微分センサが紹介されている。コアに磁性体を用いていないため磁気飽和せずに応答性のよい出力が得られる。空芯のため、二次側コイルの巻数を多くしても、得られる出力電圧は微弱である。リング状コアに多くの巻線を施す労力を軽減するために、チューブ状の物体に巻線を施した後に、そのチューブ状の物体の両端を繋いでリング形状としている(同文献のFig.5参照)。非特許文献2では、3つのロゴスキーコイルを用いているが、個々の出力にばらつきがあるため、信号調整回路を用いて特性を揃えている。
【0019】
このように、電流微分検出器は研究用に手作りされているのが現状であり、産業用途のための市販の電流微分検出器は存在しない。磁性体コアを用いる電流微分検出器は、磁気飽和および応答性に問題がある。空芯構造であれば磁気飽和および応答性の問題はないが、二次側巻線を多数回巻く必要がある。とくにトロイダル構造の巻線の製作は、機械化に適さず、作業者による手作業を要し、しかも多大な労力を要する。それに応じて、コストが高くなる問題がある。加えて、ばらつきなく製作することが困難であり、特性を揃えるための調整が必要である。さらには、構造的に小型化が困難であり、とくに高電圧で用いられる場合には、一次側および二次側の絶縁が必要になるから、サイズが大きくなる。
【0020】
電流微分検出器におけるこのような現状のために、極低速領域からセンサレス制御によって交流モータを満足に制御できる実用レベルのモータ駆動装置は、事実上提供されていない。
この発明の一実施形態は、このような課題の克服に寄与するモータ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明の一実施形態は、ロータ位置検出器を用いないセンサレス制御によって交流モータを制御するモータ制御装置を提供する。このモータ制御装置は、パルス幅変調信号に基づいて直流を交流に変換するインバータと、前記インバータと前記交流モータの巻線とを接続する電流ラインに介装された配線パターンを内層に有する多層プリント基板と、前記配線パターンと交差する所定方向に巻線方向を向けて前記配線パターンと対向するように前記多層プリント基板の主面上に実装され、直列に接続されて、基準電位に接続される中点を有する直列回路を形成する複数(好ましくは偶数)のチップインダクタと、前記直列回路の前記中点と当該直列回路の両端との間にそれぞれ接続された負荷抵抗と、前記直列回路の前記両端に一対の入力端が接続された差動増幅回路と、前記差動増幅回路の出力を用いて前記交流モータのロータの位置を推定し、当該推定されたロータの位置に応じて、前記インバータに供給するパルス幅変調信号を生成する制御ユニットと、を含む。
【0022】
この構成によれば、インバータと交流モータの巻線とを接続する電流ラインに、多層プリント基板の配線パターンが介装されている。この配線パターンは、多層プリント基板の内層に形成されているので、多層プリント基板の主面との良好な絶縁が確保されている。多層プリント基板の主面には、チップインダクタが実装され、前記配線パターンに対向している。チップインダクタは、配線パターンと交差する所定方向に巻線方向を向けて配置されている。すなわち、多層プリント基板の内層に形成された配線パターンと、多層プリント基板の主面に実装されたチップインダクタとは、多層プリント基板の絶縁材によって電気的に絶縁された状態で互いに対向し、かつ配線パターンとチップインダクタの巻線方向とが交差している。したがって、配線パターンに流れる電流が形成する磁束とチップインダクタの巻線とが鎖交する。配線パターンに流れる電流が変化し、それに応じて磁束が変化すると、チップインダクタは、その磁束の変化を妨げるような起電力を発生し、それに応じた電圧がチップインダクタの両電極間に表れる。この電圧は、配線パターンに流れる電流の時間変化、換言すれば、電流微分を表す信号として取り扱うことができる。したがって、チップインダクタは、電流微分を直接的に検出するセンサとして機能するから、複雑で時間のかかる演算処理を要することなく電流微分値を検出できる。
【0023】
このようなチップインダクタが多層プリント基板の主面に複数個実装されており、それらが直列に接続されている。そして、その直列回路の中点が基準電位に接続され、その直列回路の両端が差動増幅回路の一対の入力端にそれぞれ接続されている。直列回路の両端と中点との間には、負荷抵抗がそれぞれ接続されている。チップインダクタが発生する起電力によって負荷抵抗に電流が流れて電圧降下が生じ、それに応じた信号が差動増幅回路に入力される。直列回路の中点が基準電位に接続されていることにより、インバータにおけるスイッチングに起因して配線パターンの電位が大きく変位しても、中点の電位は変動しない。それにより、スイッチングの影響を抑制して、安定した信号を差動増幅回路に入力することができる。
【0024】
差動増幅回路は、一対の入力端に入力される信号を差動増幅するので、一対の入力端に入力される同相成分を除去し、位相の異なる成分を増幅する。ノイズ成分は同相成分となるので、差動増幅回路は、ノイズ成分を除去した信号成分を増幅して出力することができる。したがって、チップインダクタから出力される電流微分信号が微少であっても、良好な信号対雑音比で電流微分を検出することができる。
【0025】
このようにして、インバータから交流モータに供給される電流をチップインダクタによって直接的に(したがって高速に)検出でき、かつ電流微分を表す良好な信号を得ることができる。それにより、制御ユニットは、交流モータのロータ位置を速やかにかつ正確に推定できるので、応答性の優れた正確なモータ制御を実現できる。
しかも、工業的に生産されるチップインダクタは、性能ばらつきが少ないので、複数個のチップインダクタを用いても個別の調整を要しない。また、チップインダクタのサイズは微小であるので、電流微分の検出のための構成を非常に小型に構成できる利点がある。
【0026】
たとえば、多層プリント基板には、チップインダクタだけでなく、負荷抵抗、差動増幅回路、インバータおよび制御ユニットのうちの一部または全部を併せて実装することができる。それにより、モータ制御装置を全体的に小型化できる。換言すれば、モータ制御装置の大型化を抑制または防止しながら、電流微分値を直接的にかつ正確に検出できる構成を備え、それにより、応答性に優れた正確なモータ制御を実現することができる。
【0027】
この発明の一実施形態では、前記複数のチップインダクタは、前記配線パターンに流れる電流が形成する磁束の変化によって各チップインダクタに誘起される起電力の方向を揃えて直列に接続されている。この構成により、複数のチップインダクタが発生する起電力の総和を差動増幅回路で増幅できるので、電流微分を表す大きな信号を得ることができる。また、個々のチップインダクタの持つ特性のばらつきを平均化して、より正確に電流微分値を検出できる。
【0028】
この発明の一実施形態では、前記複数のチップインダクタの総数が偶数である。この構成により、複数のチップインダクタの直列回路を、中点を挟んで対称に構成しやすくなるので、差動増幅回路の一対の入力端への入力のバランスをとりやすくなる。
この発明の一実施形態では、前記制御ユニットが、前記差動増幅回路の出力を前記交流モータの巻線電流の時間微分値(電流微分値)に相当する値として取り扱って前記ロータの位置を推定するように構成されている。巻線電流の時間微分値(電流微分値)が得られると、たとえば、これに基づいて、巻線のインダクタンスを求めることができる。巻線のインダクタンスは、ロータ位置に応じて周期的に変化するので、巻線のインダクタンスに基づいてロータ位置を推定できる。
【0029】
この発明の一実施形態では、前記複数のチップインダクタは、前記多層プリント基板の対向する2つの主面に同数ずつ実装されている。
多層プリント基板の一方の主面と他方の主面とに同数ずつのチップインダクタを実装することによって、直列回路を、中点を挟んで対称に構成しやすくなるので、差動増幅回路の一対の入力端への入力のバランスをとりやすくなる。
【0030】
また、多層プリント基板の一方の主面と他方の主面とに振り分けて複数のチップインダクタを実装することによって、チップインダクタを三次元的に配置できるので、モータ制御装置の一層の小型化を図ることができる。
また、配線パターンに流れる電流が形成する磁束の方向は、多層プリント基板の一方の主面側と他方の主面側とで反対方向となる。これに対して、外部で発生した磁束、すなわち、配線パターンに流れる電流に起因しない磁束は、多層プリント基板の一方の主面と他方の主面とで同じ方向であり、かつ同じ大きさとなる。前述のとおり、複数のチップインダクタは、配線パターンに流れる電流が形成する磁束の変化によって各チップインダクタに誘起される起電力の方向を揃えて直列に接続されることが好ましい。この場合、複数のチップインダクタの直列回路の両端に表れる電圧は、配線パターンに流れる電流変化に応じて各チップインダクタで生じる起電力を重ね合わせ、かつ外部発生の磁束に起因する起電力を相殺した値となる。このようにして、外部発生磁束の影響を抑制または防止して、電流微分を検出することができる。
【0031】
この発明の一実施形態では、前記複数のチップインダクタは、前記多層プリント基板の一つの主面における配置数が1であり、前記一つの主面に対向する他の主面における配置数が1である。
この場合、巻線電流が流れる配線パターンに対して、一方の主面側の一つのチップインダクタと他方の主面側の一つのチップインダクタとが、幾何学的に対称であることが好ましい。換言すれば、巻線電流が流れる配線パターンから一方の主面側の一つのチップインダクタまでの距離(複数の配線パターンが設けられている場合には、距離の総和をいう。以下同じ。)と他方の主面側の一つのチップインダクタまでの距離とが、互いに等しくなるように設計されていることが好ましい。それにより、差動増幅回路の一対の入力端への入力のバランスをとりやすくなる。
【0032】
この発明の一実施形態では、前記複数のチップインダクタは、前記多層プリント基板の一つの主面における配置数が2であり、前記一つの主面に対向する他の主面における配置数が2である。
この場合、多層プリント基板の一方の主面の一つのチップインダクタと他方の主面のチップインダクタとを直列に接続して前記中点の一方側に配置(接続)し、残る二つのチップインダクタを直列に接続して前記中点の他方側に配置(接続)するようにして4つのチップインダクタを直列に接続することが好ましい。これにより、巻線電流が流れる配線パターンに対するチップインダクタの幾何学的配置(より具体的には配線パターンからチップインダクタまでの距離)が、直列回路の中点の両側で同等(対称)になる。このような接続(配置)は、とくに、配線パターンに対する一方の主面に実装されたチップインダクタおよび他方の主面に実装されたチップインダクタの幾何学的配置(より具体的には配線パターンからチップインダクタまでの距離)が同等(対称)でない場合に有効である。
【0033】
この発明の一実施形態では、前記チップインダクタは、空芯コイルであり、シールドされていない。空芯コイル型のチップインダクタを用いることにより、磁気飽和の影響を受けることなく電流微分を検出できる。また、シールドされていない構造のチップインダクタを用いることによって、配線パターンに流れる電流が形成する磁束を高感度で検出できる。
【0034】
この発明の一実施形態では、前記複数のチップインダクタは、同一仕様である。同一仕様のチップインダクタを用いることにより、前記中点を挟んで対称な構造の直列回路を形成しやすくなる。工業的に生産される同一仕様のチップインダクタは、一様な性能を有するので、実質的に調整を要することなく用いることができる。
【発明の効果】
【0035】
この発明により、巻線電流の電流微分を高速かつ正確に検出でき、しかも小型の構成で電流微分を検出でき、それにより、応答性の優れたモータ制御を実現可能な小型のモータ制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1A】
図1Aは、この発明の一実施形態に係るモータ制御装置の構成を説明するためのブロック図である。
【
図1B】
図1Bは、前記モータ制御装置に備えられるコントローラの機能的な構成を説明するためのブロック図である。
【
図2】
図2は、電流制御器に関連する詳しい構成の具体例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、インバータの構成例を説明するための電気回路図である。
【
図5】
図5は、電流微分値に基づく位置検出の原理を説明するための図である。
【
図6】
図6は、第1の具体例に係る電流微分検出器の構造を説明するための図解的な斜視図である。
【
図7A-7B】
図7Aは、前記電流微分検出器の平面図であり、
図7Bは、前記電流微分検出器の断面図である。
【
図8】
図8は、前記電流微分検出器の構成例を示す電気回路図である。
【
図9】
図9は、第2の具体例に係る電流微分検出器の構造を説明するための図解的な斜視図である。
【
図11】
図11は、前記電流微分検出器の構成例を示す電気回路図である。
【
図12】
図12は、交流モータMの低速回転時におけるPWM制御信号等の波形図の一例を示す。
【
図13A-13C】
図13A、
図13Bおよび
図13Cは、ロータ電気角をエンコーダで検出しながら、様々なロータ電気角でテストパルスを印加して得られた電流微分検出電圧を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1Aは、この発明の一実施形態に係るモータ制御装置の構成を説明するためのブロック図である。モータ制御装置100は、交流モータMを駆動するための装置である。より具体的には、モータ制御装置100は、交流モータMのロータの位置を検出するロータ位置検出器を用いることなく、交流モータMを制御する、いわゆるセンサレス制御によって、交流モータMを駆動する。交流モータMは、表面磁石型同期モータ(SPMSM)であってもよい。交流モータMは、たとえば3相交流モータであり、U相巻線5u、V相巻線5vおよびW相巻線5wを有している。以下、これらの巻線を総称するときには、「巻線5uvw」という。
【0038】
モータ制御装置100は、この例では、位置制御ループ、速度制御ループおよび電流制御ループを備えたフィーバック系を有しており、位置指令に応じて交流モータMのロータ位置を制御する位置サーボ制御を行うように構成されている。電流制御に関しては、ベクトル制御を採用している。
ロータ位置は、ロータ位置検出器を用いず、電流微分検出器によって得た信号を用いて、位置推定器により推定される。より具体的には、電流微分値に基づいて、交流モータMの各相巻線のインダクタンスを推定し、そのインダクタンスに基づいてロータ位置が推定される。表面磁石型同期モータは、原理上、突極性がないので、インダクタンス変化を用いた磁極検出はできないとされているが、ネオジウム磁石などの磁力の強い磁石を用いる場合には、鉄心の磁気飽和によってインダクタンスは若干変化する。
【0039】
具体的な構成について説明すると、モータ制御装置100は、制御ユニットとしてのコントローラ1と、インバータ2と、電流検出器3u,3v,3w,と、電流微分検出器4u,4v,4wとを含む。インバータ2は、直流電源7から供給される直流電流を交流電流に変換して、交流モータMの巻線5uvwに供給する。インバータ2と交流モータMとは、U相、V相およびW相に対応した3本の電流ライン9u,9v,9w(以下、総称するときには「電流ライン9uvw」という。)で接続されている。これらの電流ライン9uvwのそれぞれに、電流検出器3u,3v,3wおよび電流微分検出器4u,4v,4wが配置されている。電流検出器3u,3v,3w(以下、総称するときには「電流検出器3uvw」という。)は、対応する相の電流ライン9uvwを流れる相電流、すなわち、U相電流Iu、V相電流IvおよびW相電流Iw(以下、総称するときには「相電流Iuvw」という。)をそれぞれ検出する。電流微分検出器4u,4v,4w(以下、総称するときには「電流微分検出器4uvw」という。)は、対応する相の電流ライン9uvwを流れる相電流の時間変化、すなわち、U相、V相およびW相の電流微分値dIu,dIv,dIw(以下、総称するときには「電流微分値dIuvw」という。)を検出する。
【0040】
コントローラ1は、位置指令θcmdに基づいて、インバータ2を制御する。コントローラ1は、コンピュータとしての形態を有しており、プロセッサ(CPU)1aと、プロセッサ1aが実行するプログラムを記録した記録媒体としてのメモリ1bとを含む。
図1Bは、コントローラ1の機能的な構成を説明するためのブロック図である。コントローラ1は、プロセッサ1aがプログラムを実行することによって、複数の機能処理部の機能を実現するように構成されている。複数の機能処理部は、位置制御器11、速度制御器12、電流制御器13、PWM生成器14、位置推定器15および速度推定器16を含む。
【0041】
位置推定器15は、電流微分検出器4uvwが出力する信号、すなわち電流微分値dIuvwを用いて、交流モータMのロータの位置を推定する演算を行い、推定位置θfbを位置制御器11にフィードバックする。位置制御器11は、推定位置θfbに基づき、ロータ位置を位置指令θcmdに一致させるための速度指令ωcmdを生成して、速度制御器12に供給する。このようにして、位置制御ループが構成されている。
【0042】
ロータの推定位置θfbは、速度推定器16にも供給される。速度推定器16は、推定位置θfbの時間変化求めてロータ速度を推定する演算を行い、推定速度ωfbを速度制御器12に供給する。速度制御器12は、推定速度ωfbに基づき、ロータ速度を速度指令ωcmdに一致させるための電流指令Idcmd,Iqcmdを生成して、電流制御器13に供給する。このようにして、速度制御ループが構成されている。
【0043】
電流制御器13には、電流検出器3uvwで検出される相電流Iuvw(正確には相電流Iuvwの検出値)が供給される。電流制御器13は、相電流Iuvwを電流指令Idcmd,Iqcmdに整合させるためのU相電圧指令Vu、V相電圧指令VvおよびW相電圧指令Vw(以下、総称するときには「電圧指令Vuvw」という。)を生成して、PWM生成器14に供給する。このようにして、電流制御ループが構成されている。
【0044】
PWM生成器14は、電圧指令Vuvwに応じたPWM制御信号(パルス幅変調信号)を生成してインバータ2に供給する。それにより、電圧指令Vuvwに応じた電圧が電流ライン9uvwを介して交流モータMの巻線5uvw間に印加される。
図2は、電流制御器13に関連する詳しい構成の具体例を示すブロック図である。速度制御器12は、dq回転座標系に従うd軸電流指令Idcmdおよびq軸電流指令Iqcmdを生成して、電流制御器13に供給する。dq回転座標系は、交流モータMのロータの磁束方向をd軸とし、それに直交する方向をq軸として定義され、ロータの回転角(電気角)に応じて回転する回転座標系である。電流制御器13は、dq電流制御器131と、逆dq変換器132と、2相3相変換器133と、3相2相変換器134と、dq変換器135とを含む。
3相2相変換器134は、電流検出器3uvwが検出する3相の相電流Iuvwを、2相固定座標系であるαβ座標系の2相電流値I
α,I
βに変換する。dq変換器135は、αβ座標系の2相電流値I
α,I
βを座標変換してdq回転座標系のd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqに変換する。このdq回転座標系の電流値Id,Iqがdq電流制御器131に供給される。dq電流制御器131は、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqをd軸電流指令Idcmdおよびq軸電流指令Iqcmdにそれぞれ一致させるようにdq回転座標系の電圧指令であるd軸電圧指令Vdcmdおよびq軸電圧指令Vqcmdを生成する。この電圧指令Vdcmd,Vqcmdが、逆dq変換器132において、αβ座標系の電圧指令Vαcmd,Vβcmdに座標変換される。さらに、このαβ座標系の電圧指令Vαcmd,Vβcmdが、2相3
相変換器133によって、3相の電圧指令Vuvwに座標変換される。この3相の電圧指令VuvwがPWM生成器14に供給される。
【0045】
位置推定器15は、αβ座標系のロータ角度を演算し、推定位置θfbとして、逆dq変換器132およびdq変換器135に供給する。推定位置θfbは、dq回転座標系とαβ座標系との間の座標変換演算のために用いられ、かつ速度推定器16での速度推定演算に用いられる。
図3は、インバータ2の構成例を説明するための電気回路図である。直流電源7に接続された一対の給電ライン8A,8Bの間に3相分のブリッジ回路20u,20v,20wが並列に接続されている。一対の給電ライン8A,8Bの間には、さらに、平滑化のためのコンデンサ26が接続されている。
【0046】
各ブリッジ回路20u,20v,20w(以下、総称するときには「ブリッジ回路20uvw」という。)は、上アームスイッチング素子21u,21v,21w(以下、総称するときには「上アームスイッチング素子21uvw」という。)と、下アームスイッチング素子22u,22v,22w(以下、総称するときには「下アームスイッチング素子22uvw」という。)との直列回路で構成されている。各ブリッジ回路20uvwにおいて、上アームスイッチング素子21uvwと下アームスイッチング素子22uvwとの間の中点23u,23v,23wに、交流モータMの対応する巻線5uvwとの接続のための電流ライン9uvwが接続されている。
【0047】
スイッチング素子21uvw,22uvwは、典型的には、パワーMOSトランジスタであり、直流電源7に対して逆方向に接続される寄生ダイオード24u,24v,24w;25u,25v,25wを内蔵している。
電流微分検出器4uvwは、各相の電流ライン9uvwに流れる相電流Iuvwの時間微分値である電流微分値dIuvwを検出するように構成されている。
【0048】
コントローラ1から供給されるPWM制御信号は、スイッチング素子21uvw,22uvwのゲートに入力され、それにより、スイッチング素子21uvw,22uvwがオン/オフする。各ブリッジ回路20uvwの上アームスイッチング素子21uvwおよび下アームスイッチング素子22uvwの対は、一方がオンのときに他方がオフになるように制御される。上アームスイッチング素子21uvwがオンで下アームスイッチング素子22uvwがオフの状態に制御するPWM制御信号値を「1」と定義し、上アームスイッチング素子21uvwがオフで下アームスイッチング素子22uvwがオンの状態に制御するPWM制御信号値を「0」と定義する。すると、PWM制御信号は、3次元のベクトルによって表現できる8つのパターン(状態)を取り得る。この8つのパターン(状態)は、(1,0,0),(1,1,0),(0,1,0),(0,1,1),(0,0,1),(1,0,1),(0,0,0),(1,1,1)のように成分表記することができる。これらのうちの、はじめの6つのパターン(1,0,0),(1,1,0),(0,1,0),(0,1,1),(0,0,1),(1,0,1)は、交流モータMの巻線5uvw間に電圧が印加される状態に相当する。残りの2つのパターン(0,0,0),(1,1,1)は、巻線5uvw間に電圧が印加されない状態に相当する。
【0049】
図4Aは、上記の8つのパターン(状態)に対応する電圧ベクトルV0~V7を示す。巻線間に電圧が印加される6つのパターンに対応する電圧ベクトルV1(1,0,0),V2(1,1,0),V3(0,1,0),V4(0,1,1),V5(0,0,1),V6(1,0,1)は、
図4Bに示すように、電気角360度の区間を6等分する6つの電圧ベクトルによって表現することができる。電圧ベクトルV0(0,0,0)およびV7(1,1,1)は、巻線5uvw間に電圧が印加されない零電圧ベクトルである。
【0050】
図5は、電流微分値dIuvwに基づく位置検出の原理を説明するための図である。電流微分値d
Iuvwと各相の巻線5uvwのインダクタンスLu,Lv,Lwとの関係は、次式に示す通りである。
Vu=Lu・dIu (1)
Vv=Lv・dIv (2)
Vw=Lw・dIw (3)
したがって、各相の電圧指令Vuvwと各相の電流微分値dIuvwとに基づいて、各相巻線5uvwのインダクタンスLu,Lv,Lwを算出することができる。
【0051】
一方、各相のインダクタンスLu,Lv,Lwは、
図5に示すように、ロータの電気角周期の2分の1の周期で周期変動することが知られており、各相のインダクタンスLu,Lv,Lwは、次式によって表される。
Lu=L
0-L
1cos(2θ) (4)
Lv=L
0-L
1cos(2(θ-2π/3)) (5)
Lw=L
0-L
1cos(2(θ+2π/3)) (6)
ただし、L
0は、インダクタンスの一定成分であり、L
1はインダクタンスの変化成分の振幅を表し、θは、ロータの電気角位置を表す。
【0052】
したがって、各相のインダクタンスLu,Lv,Lwを求めることにより、ロータの電気角θを推定することができる。
図6は、第1の具体例に係る電流微分検出器4uvwの構造を説明するための図解的な斜視図である。また、
図7Aは、電流微分検出器4uvwの平面図であり、
図7Bは、電流微分検出器4uvwの断面図である。各相の電流微分検出器4uvwの構成は同じであり、
図6、
図7Aおよび
図7Bならびに後述する
図8には、一相分の電流微分検出器4uvwの構成を示す。つまり、各相に対して、
図6、
図7Aおよび
図7Bならびに後述の
図8に示す構成が設けられている。ただし、プリント基板40は、U相、V相およびW相で共有されることが好ましい。
【0053】
電流微分検出器4uvwは、プリント基板40と、複数のチップインダクタL1,L2とを含む。プリント基板40は、多層プリント配線基板である。より具体的には、プリント基板40は、複数層のプリント配線層の間を絶縁基板で絶縁した多層配線構造を有している。さらに具体的には、この具体例では、4層のプリント配線層43~46を有する多層プリント配線基板が用いられている。4層のプリント配線層は、プリント基板40の一対の主面41,42にそれぞれ形成された一対の外プリント配線層43,44と、一対の外プリント配線層43,44に対して絶縁層47,48(絶縁基板)をそれぞれ挟んで内方に形成された一対の内プリント配線層45,46とを含む。一対の内プリント配線層45,46の間には、さらに別の絶縁層49(絶縁基板)が配置されている。
【0054】
一対の内プリント配線層45,46には、一つのモータ巻線5uvwに接続される一つの電流ライン9uvwの一部を構成する電流パターン51,52がそれぞれ形成されている。これらの電流パターン51,52は、両端でそれぞれ短絡されており、電流ライン9uvwの途中位置で2つに枝分かれし、別の位置で合流する電流経路を形成している。2つの電流パターン51,52は、プリント基板40の主面41,42に垂直な方向に対向しており、絶縁層49(絶縁基板)を挟んで互いに対向する平行な帯状(たとえば直線帯状)に形成されている。
【0055】
プリント基板40は、たとえば、全体の厚みが1.6mmの4層基板である。プリント基板40の内プリント配線層45,46の電流パターン51,52は、配線層は異なるが、幅、厚みおよび平面視における位置は、同じである。また、両端で短絡されており、実質的に等しい電流が流れる。内プリント配線層45,46は、プリント基板40の主面41,42(基板表面)から、それぞれ、たとえば0.2mm内方の位置にある。
【0056】
プリント基板40の一対の主面41,42には、一対のチップインダクタL1,L2が、電流パターン51,52に対向する位置にそれぞれ実装されている。これらは、同一仕様のチップインダクタである。一対のチップインダクタL1,L2は、巻線方向を電流パターン51,52と交差する方向、より具体的には、直交する(平面視で直交)する所定方向53に向けて、それぞれの主面に実装されている。チップインダクタL1,L2は、典型的には、微小な直方体形状であり、たとえば2.5mm×1.8mmの平面視サイズを有している。巻線方向(たとえば長辺方向)の両端に一対の電極54がそれぞれ設けられている。これらの電極54は、チップインダクタL1,L2に内蔵されたコイルの両端に接続されている。チップインダクタL1,L2は、空芯の巻線型で磁気シールドは施されていない。巻線方向は、電極間方向である。巻線方向とは、コイルが巻回される巻回中心軸の方向であり、コイルに電流が流されたときに磁束が発生する方向をいう。チップインダクタL1,L2の一対の電極54は、プリント基板40の主面41,42に形成された外プリント配線層43,44に半田等の接合材(図示省略)によって接合されている。プリント基板40の一対の主面41,42にそれぞれ実装された一対のチップインダクタL1,L2は、この実施形態では、プリント基板40の主面41,42に垂直な方向から見たときに重なり合うように配置されている。換言すれば、一対のチップインダクタL1,L2は、電流パターン51,52を挟んで正対するように平行に配置されている。
【0057】
電流パターン51,52に電流が流れると、この電流は、電流パターン51,52を取り囲む磁束を発生する。この磁束の方向は、プリント基板40の一方の主面41側と他方の主面42側とでは、互いに反対の方向であり、チップインダクタL1,L2の巻線方向(所定方向53)と平行である。したがって、電流パターン51,52に流れる電流によって生じる磁束は、チップインダクタL1,L2とそれぞれ鎖交する。この磁束が増加する過程では、その磁束の増加を妨げる電流を流すようにチップインダクタL1,L2に起電力が生じる。たとえば、電流パターン51,52に流れる電流が矢印50(
図7A参照)の方向に増加すると、これによる磁束の変化を妨げるために、チップインダクタL1,L2は、それぞれ、矢印55,56(
図7B参照)の方向の起電力を発生する。同様に、磁束が減少する過程では、その磁束の減少を妨げる電流を流すようにチップインダクタL1,L2に起電力が生じる。したがって、チップインダクタL1,L2に生じる起電力は、電流パターン51,52に流れる電流の時間微分値に相当する。電流パターン51,52に対するチップインダクタL1,L2の幾何学的配置は対称であるので、チップインダクタL1,L2が発生する起電力は実質的に等しい。幾何学的配置が対称である、とは、電流パターン51,52に対するチップインダクタL1,L2までの距離が実質的に互いに等しいことをいう。すなわち、2つの電流パターン51,52からチップインダクタL1までの距離の総和と、2つの電流パターン51,52からチップインダクタL2までの距離の総和とが実質的に等しい。
【0058】
図6に示すように、一対の負荷抵抗R1,R2が、プリント基板40の一対の主面41,42にそれぞれ実装されており、同じ主面41,42に実装されたチップインダクタL1,L2にそれぞれ接続されている。負荷抵抗R1,R2は、たとえば、チップ抵抗器からなり、等しい抵抗値を有している。負荷抵抗R1,R2の電極は、外プリント配線層43、44を介してチップインダクタL1,L2の電極54に接続されている。
【0059】
図8は、電流微分検出器4uvwの構成例を示す電気回路図である。プリント基板40の一方の主面に実装されたチップインダクタL1と、プリント基板40の他方の主面に実装されたチップインダクタL2とが、直列に接続されて、直列回路60を形成している。そして、各チップインダクタL1,L2に負荷抵抗R1,R2が並列に接続されている。換言すれば、プリント基板40の一方の主面41に実装されたチップインダクタL1および負荷抵抗R1の並列回路57と、プリント基板40の他方の主面42に実装されたチップインダクタL2および負荷抵抗R2の並列回路58とが、直列に接続されている。
【0060】
2つのチップインダクタL1,L2は、電流パターン51,52に流れる電流変化に起因する起電力が重ね合わせられるように、すなわち、互いに相殺しないように、接続されて、直列回路60を形成している。換言すれば、2つのチップインダクタL1,L2の起電力方向が直列回路60の一端から他端に向かう同方向(この方向は電流パターン51,52に流れる電流が増加する場合と減少する場合とで反対になる。)となるように、2つのチップインダクタL1,L2が直列に接続されている。
【0061】
2つのチップインダクタL1,L2を互いに接続する接続点である中点59は、安定な基準電位であるグランド電位(0V)に接続されている。2つのチップインダクタL1,L2の直列回路60の両端は、差動増幅回路70に接続されている。差動増幅回路70は、オペアンプ71と、4つの抵抗74~77とを含む。4つの抵抗74~77は、オペアンプ71の出力端子と反転入力端子72との間に接続された抵抗74と、オペアンプ71の非反転入力端子73とグランド電位(0V)との間に接続された抵抗75と、オペアンプ71の反転入力端子72および非反転入力端子73にそれぞれ接続された抵抗76,77とを含む。2つのチップインダクタL1,L2の直列回路60の一端は、差動増幅回路70の一つの入力端70bに接続され、抵抗76を介してオペアンプ71の反転入力端子72に接続されている。当該直列回路60の他端は、差動増幅回路70の他の入力端70aに接続され、抵抗77を介してオペアンプ71の非反転入力端子73に接続されている。
【0062】
差動増幅回路70を構成する電気/電子部品は、プリント基板40上に実装されていることが好ましい。また、図示はされていないが、プリント基板40上には、
図1に示すモータ制御装置100を構成する電気/電子部品の一部または全部も併せて実装されていることが好ましい。
電流パターン51,52に流れる電流が変化すると、各チップインダクタL1,L2の端子間には、電磁誘導作用により磁束Φの時間変化dΦ/dtに比例する電圧V
L1,V
L2(V
L1=V
L2=V
L)が生成する。この電圧は、比例定数Kを用いて、次式で表される。
【0063】
VL=VL1=VL2=K・dΦ/dt (7)
磁束Φの大きさは電流I(相電流Iuvw)に比例するので、次式のように書き換えることができ、電流微分値dI/dtに比例する電圧出力が得られることが分かる。K′は比例定数である。
VL=K′・dI/dt (8)
前述の回路構成では、チップインダクタL1,L2が直列に接続されているので、差動増幅回路70の出力VOは、そのゲインGを用いて、次式で表される。出力VOは、電流微分値dIuvwを表す信号である。
【0064】
VO=2・G・VL (9)
プリント基板40の内プリント配線層45,46を通る電流パターン51,52が1ターンの一次側巻線の役割を果たし、プリント基板40の主面41,42に実装されたチップインダクタL1,L2が二次側巻線の役割を果たし、それによって、トランスが構成されている。原理上は、1個のチップインダクタの電極間電圧を差動増幅するだけでも電流微分を検出できる。しかし、1個の小さな空芯のチップインダクタから得られる信号電圧は数mV程度の微弱な信号である。その一方で、モータ電流を制御するインバータ2は、スイッチングにより大きなノイズを発生する。したがって、ノイズの影響を受けにくくする必要がある。そのために、この実施形態では、複数個(具体的には2個)のチップインダクタL1,L2を用いている。
【0065】
仮に、1個のチップインダクタ(チップインダクタL1またはL2の一方のみ)の両端の電圧を差動増幅するとすれば、次のような問題がある。
チップインダクタの両端は、グランド電位(0V)に対するインピーダンスが高いので、電位が変動する。チップインダクタは電流パターン51,52上に配置され、電流パターン51,52との間にはたとえば0.2mmの絶縁層があるので、浮遊容量が存在する。電流パターン51,52の電位は、インバータ2におけるスイッチングに伴って、グランド電位(0V)から電源電圧Vdcの間で変動する。この影響を浮遊容量を介して受けるチップインダクタの電位も同様に変化するので、チップインダクタの端子間電圧が同相で変動する。
【0066】
差動増幅回路70は、2つの入力信号が同相で変動する場合、その同相の変動を除去することができる。しかし、オペアンプ71の入力電圧範囲には限りがあるので、それを超える電圧の入力は、破損や不正な出力の原因となる。抵抗分圧によって入力電圧を下げることが考えられるが、信号成分も分圧されるので、信号成分が小さくなり、信号対雑音比が低下する問題が生じる。
【0067】
チップインダクタの両端子のインピーダンスを下げれば変動を抑制できるが、信号源のインピーダンスが高いので、信号の低下などの問題が発生する。
同相電圧変動を抑えるために、チップインダクタの端子の一方をグランド電位(0V)などの安定した電位に接続することが考えられる。しかし、差動増幅回路70において信号のインピーダンスのアンバランスはノイズの原因になる。具体的には、グランド電位に接続された端子のインピーダンスは低く、スイッチングによる電位変動があまりないのに対して、もう一方はインピーダンスが高く電位が変動するので、キャンセルできずに、ノイズが出力される。
【0068】
そこで、この具体例では、2つのチップインダクタL1,L2を直列に接続して直列回路60を形成し、その中点59をグランド電位(0V)に接続し、中点59と直列回路60の両端との間にそれぞれ負荷抵抗R1,R2を接続して、直列回路60の両端を差動増幅回路70の2つの入力端70a,70bにそれぞれ接続している。これにより、コモンモードの電圧変動を抑制しつつ、インピーダンスの不整合を解消できるので、同相ノイズを除去できる。
【0069】
しかも、この具体例では、2つのチップインダクタL1,L2をプリント基板40の両主面41,42にそれぞれ振り分けて実装している。そして、2つのチップインダクタL1,L2は、電流パターン51,52に流れる電流によってプリント基板40の両主面41,42側で正反対方向となる磁束と鎖交し、その磁束の変化に応じて生じる起電力が重ね合わされるように直列に接続されている。そのため、プリント基板40の両主面41,42側で同方向となる外部からの磁束が存在する環境であっても、その磁束の変化に起因して2つのチップインダクタL1,L2がそれぞれ発生する起電力をキャンセルできる。
【0070】
図9は、第2の具体例に係る電流微分検出器4uvwの構造を説明するための図解的な斜視図である。また、
図10Aは、電流微分検出器4uvwの平面図であり、
図10Bは、電流微分検出器4uvwの断面図である。
図11は、電流微分検出器4uvwの構成例を示す電気回路図である。
図9、
図10Aおよび
図10Bならびに
図11には、一相分の電流微分検出器4uvwの構成を示す。つまり、各相に対して、
図9、
図10Aおよび
図10Bならびに
図11に示す構成が設けられている。ただし、プリント基板40は、U相、V相およびW相で共有されることが好ましい。
【0071】
第1の具体例と同様に、電流微分検出器4uvwは、プリント基板40(
図9では二点鎖線で示す。)と、複数のチップインダクタL1~L4とを含む。プリント基板40は、第1の具体例と同様の多層プリント配線基板である。ただし、この具体例では、一対の内プリント配線層45,46のうちの一つだけに、一つのモータ巻線5uvwに接続される一つの電流ライン9uvwの一部を構成する電流パターン52が形成されている。電流パターン52は、帯状(たとえば直線帯状)に形成されている。電流パターン52(内プリント配線層46)は、プリント基板40の一つの主面42(基板表面)から、たとえば0.2mm内方の位置にあり、もう一つの主面41から、たとえば1.4mm内方の位置にある。
【0072】
プリント基板40の一方の主面41には、2つのチップインダクタL1,L4が、電流パターン52に対向するように、実装されている。他方の主面42にも同様に、2つのチップインダクタL2,L3が、電流パターン52に対向するように、実装されている。これらの4つのチップインダクタL1~L4は、この具体例では、同一仕様のチップインダクタである。4つのチップインダクタL1~L4は、巻線方向を電流パターン52と交差する所定方向53、より具体的には、直交する(平面視で直交)する方向に向けて、プリント基板40の主面41,42に実装されている。
【0073】
チップインダクタL1~L4は、第1の具体例の場合と同様に、典型的には、微小な直方体形状であり、たとえば2.5mm×1.8mmの平面視サイズを有している。巻線方向(たとえば長辺方向)の両端に一対の電極54がそれぞれ設けられている。これらの電極54は、チップインダクタL1~L4に内蔵されたコイルの両端に接続されている。チップインダクタL1~L4は、空芯の巻線型で磁気シールドは施されていない。巻線方向は、電極間方向である。
【0074】
詳細な図示は省略するが、チップインダクタL1~L4の一対の電極54は、プリント基板40の主面41,42に形成された外プリント配線層43,44に半田等の接合材によって接合されている。この実施形態では、プリント基板40の一対の主面41,42にそれぞれ実装された一対のチップインダクタL1,L2は、プリント基板40の主面に垂直な方向から見たときに重なり合うように配置されている。プリント基板40の一対の主面41,42にそれぞれ実装された別の一対のチップインダクタL3,L4も同様に、プリント基板40の主面に垂直な方向から見たときに重なり合うように配置されている。換言すれば、一対のチップインダクタL1,L2は、プリント基板40(より具体的には電流パターン52)を挟んで正対するように平行に配置されており、別の一対のチップインダクタL3,L4は、プリント基板40(より具体的には電流パターン52)を挟んで正対するように平行に配置されている。チップインダクタL1~L4は、異なる仕様であってもよいが、プリント基板40の一方の主面41に配置された一対のチップインダクタL1,L4が同一仕様であり、別の主面42に配置された一対のチップインダクタL2,L3が同一仕様であることが好ましい。
【0075】
プリント基板40を挟んで互いに対向する一対のチップインダクタL1,L2は、プリント基板40に備えられた配線層を介して直列に接続されて直列回路61を形成している。この直列回路61の両端の間に、プリント基板40に備えられた配線層を介して負荷抵抗R1(
図11参照)が接続されている。プリント基板40を挟んで互いに対向する別の一対のチップインダクタL3,L4は、プリント基板40に備えられた配線層を介して直列に接続されて直列回路62を形成している。この直列回路62の両端の間に、プリント基板40に備えられた配線層を介して負荷抵抗R2(
図11参照)が接続されている。負荷抵抗R1,R2は、たとえば、チップ抵抗器からなる。なお、
図9、
図10Aおよび
図10Bでは、負荷抵抗R1,R2の図示を省略した。
【0076】
プリント基板40を挟んで対向する一対のチップインダクタL1,L2の直列回路61と、プリント基板40を挟んで対向する別の一対のチップインダクタL3,L4の直列回路62とが、さらに直列に接続されて、直列回路60を形成している。4つのチップインダクタL1~L4は、電流パターン52に流れる電流変化に起因する起電力が重ね合わせられるように、すなわち、互いに相殺しないように、接続されて、直列回路60を形成している。換言すれば、各チップインダクタL1~L4の起電力方向が直列回路60の一端から他端に向かう同方向(この方向は電流パターン52に流れる電流が増加する場合と減少する場合とで反対になる。)となるように、4つのチップインダクタL1~L4が直列に接続されている。
【0077】
各一対のチップインダクタL1,L2;L3,L4を含む2つの直列回路61,62を互いに接続する接続点である中点59は、安定な基準電位であるグランド電位(0V)に接続されている。4つのチップインダクタL1~L4の直列回路60の両端は、差動増幅回路70の2つの入力端70a,70bにそれぞれ接続されている。差動増幅回路70の構成は、第1の具体例と同様であるので、説明を省略する。
【0078】
電流パターン52に電流が流れると、この電流は、電流パターン52を取り囲む磁束を発生する。この磁束の方向は、プリント基板40の一方の主面41側と他方の主面42側では、互いに反対の方向であり、チップインダクタL1~L4の巻線方向(所定方向53)と平行である。したがって、電流パターン52に流れる電流によって生じる磁束は、チップインダクタL1~L4とそれぞれ鎖交する。この磁束が増加する過程では、その磁束の増加を妨げる電流を流すようにチップインダクタL1~L4に起電力が生じる。たとえば、電流パターン52に流れる電流が矢印50(
図10A参照)の方向に増加すると、これによる磁束の変化を妨げるために、チップインダクタL1,L4;L2,L3は、それぞれ、矢印55,56(
図10B参照)の方向の起電力を発生する。磁束が減少する過程においても同様であり、その磁束の減少を妨げる電流を流すようにチップインダクタL1~L4に起電力が生じる。このように、チップインダクタL1~L4に生じる起電力は、電流パターン52に流れる電流の時間微分値に相当する。
【0079】
この具体例では、プリント基板40内の電流パターン52は、一つの主面42の近くに配置された一つの内プリント配線層46のみに形成されている。そのため、電流パターン52から一方の主面41に実装されたチップインダクタL1,L4までの距離と、電流パターン52から他方の主面42に実装されたチップインダクタL2,L3までの距離とが異なる。すなわち、一方の主面41のチップインダクタL1,L4までの距離が、他方の主面42のチップインダクタL2,L3までの距離よりも長い。それに応じて、チップインダクタL1~L4に誘導される電圧が異なる。具体的には、チップインダクタL2,L3は、チップインダクタL1,L4よりも大きな起電力を生じる。
【0080】
電流パターン52からチップインダクタL1~L4までの距離が異なるので、一方主面41および他方主面42に1つずつのチップインダクタL1,L2だけを配置する第1の具体例のような構成では、チップインダクタL1,L2の直列回路60の中点59からその両端までの電圧がアンバランスになる。
そこで、この第2の具体例では、プリント基板40の一方主面41および他方主面42に2個ずつのチップインダクタL1,L4;L2,L3が配置されている。そして、一方主面41の一つのチップインダクタL1,L4と他方主面42の一つのチップインダクタL2,L3とを直列接続して2つの直列回路61,62を形成し、その直列回路61,62の両端間に負荷抵抗R1,R2が並列接続されている。このような2つの直列回路61,62が直列に接続されて直列回路60が形成されている。すると、その直列回路60の中点59の両側でバランスをとることができる。すなわち、チップインダクタL1~L4の直列回路60は、中点59に対して、両端の出力電圧が対称になる。その結果、4つのチップインダクタL1~L4の直列回路60の両端を差動増幅回路70の入力端70a,70bに接続することによって、第1の具体例と同様な出力を差動増幅回路70から得ることができる。
【0081】
差動増幅回路70への入力の大きさは、4つのチップインダクタL1~L4の出力電圧の総和であり、直列接続される順番に依存しない。接続の順序を変えて、一方主面の2個のチップインダクタL1,L4を直列接続した直列回路と、他方主面の2個のチップインダクタL2,L3を直列接続した直列回路とを接続すると、チップインダクタL1~L4の直列回路の中点に対して両端の出力電圧の対称性が崩れる。このような構成でも電流微分の検出は可能である。ただし、高速で動作する微小な電圧の差動増幅回路70においては、チップインダクタL1~L4の直列回路の中点59に対する両端電圧の対称性が保たれている方が、信号の品質を保ちやすいので好ましい。
【0082】
なお、
図11Aに示すように、負荷抵抗R1は、2つのチップインダクタL1,L2のそれぞれの両端子間に接続された負荷抵抗R11,R12に分割されていてもよい。同様に、負荷抵抗R2は、2つのチップインダクタL3,L4のそれぞれの両端子間に接続された負荷抵抗R21,R22に分割されていてもよい。この場合、2つの負荷抵抗R11,R12が直列に接続されて負荷抵抗R1を構成しており、2つの負荷抵抗R21,R22が直列に接続されて負荷抵抗R2を構成している。
【0083】
図12は、交流モータMの低速回転時(停止状態を含む)におけるPWM制御信号等の波形図の一例を示す。
図12(a)は、インバータ2のU相ブリッジ回路20uの上アームスイッチング素子21uのゲートに与えられるU相上アームゲート信号の波形を示す。U相下アームゲート信号(下アームスイッチング素子22uのゲートに与えられる信号)は、この信号を反転した波形となる。
図12(b)は、インバータ2のV相ブリッジ回路20vの上アームスイッチング素子21vのゲートに与えられるV相上アームゲート信号の波形を示す。V相下アームゲート信号(下アームスイッチング素子22vのゲートに与えられる信号)は、この信号を反転した波形となる。
図12(c)は、インバータ2のW相ブリッジ回路20wの上アームスイッチング素子21wのゲートに与えられるW相上アームゲート信号の波形を示す。W相下アームゲート信号(下アームスイッチング素子22wのゲートに与えられる信号)は、この信号を反転した波形となる。さらに、
図12(d)は、U相電流検出器3uが出力するU相電流Iuの変化を示している。
図12(e)は、U相電流の時間微分値、すなわちU相電流微分値dIuの変化を示しており、U相電流微分検出器4uの出力に相当する。
【0084】
図3に示したとおり、インバータ2は、6個のスイッチング素子21uvw,22uvwで構成された3相インバータであり、交流モータMのU相、V相およびW相の3つの巻線5uvwの端子を電源電圧Vdcまたはグランド電位(0V)のいずれかに接続する。前述のように、電源電圧Vdcに接続された状態(上アームスイッチング素子21uvwがオンの状態)を「1」、0Vに接続された状態(上アームスイッチング素子21uvwがオフの状態)を「0」と表現する。すると、生成される電圧ベクトルは、
図4Aに示したとおり、V0(0,0,0)~V7(1,1,1)の8種類である。これらのうち、V0(0,0,0)およびV7(1,1,1)は、全ての巻線端子が同電位となり、巻線5uvw間にかかる電圧が零となる零電圧ベクトルである。残りの6つの電圧ベクトルV1~V6は、巻線5uvw間に電圧が印加される非零電圧ベクトルである。
【0085】
PWM生成器14は、電流制御器13から出力される各相電圧指令Vuvwと三角波キャリア信号との比較により、インバータ2のスイッチング素子21uvw,22uvwをオン/オフするPWM制御信号を生成する。たとえば、PWM周波数(三角波キャリア信号の周波数)は、14kHzであり、これは約70μ秒周期に相当する。低速回転時は、相電圧指令Vuvwが低いので、巻線5uvw間に電圧がかからない零電圧ベクトルV0,V7の期間が長くなる。
図12には、零電圧ベクトルV0の期間T0および零電圧ベクトルV7の期間T7をPWM周期のほぼ半分ずつとして、交流モータMを停止させている状態の波形が示されている。
【0086】
PWM生成器14は、PWM制御信号を生成する機能に加えて、零電圧ベクトルV0またはV7の期間に、ロータ位置検出のためのテストパルス121を印加する機能を有している。テストパルス121とは、ここでは、位置検出のための電圧ベクトルをいう。テストパルス121を印加する時間は、PWM周期(たとえば約70μ秒)比較して十分に短く、さらにPWM周期の半分に比較して十分に短い。より具体的には、テストパルス121を印加する時間は、PWM周期の10%以下、より好ましくは5%以下が好ましい。たとえば、テストパルス121を印加する時間を3μ秒とすれば、PWM周期が70μ秒である場合、PWM周期の4.2%程度となる。
【0087】
テストパルス121による影響を最小化するために、テストパルス121の印加直後に、テストパルス121の逆方向の電圧ベクトルによって定義される相殺パルス122をテストパルス121と同じ時間だけ印加し、テストパルス121による電流を相殺することが好ましい。この場合、位置検出のために電圧が印加される時間は、テストパルス121の印加時間の2倍となる。たとえば、テストパルス121を印加する時間を3μ秒、相殺パルス122を印加する時間を3μ秒とすると、70μ秒のPWM周期のうちの6μ秒、すなわち8.5%の時間を位置検出のために電圧印加に用い、残りの64μ秒、すなわち91.5%を通常のモータ制御に用いることになる。
【0088】
また、PWM周期ごとにU相、V相、W相に順にテストパルス121およびそれを相殺する相殺パルス122を印加するように、テストパルス121のための3種類の電圧ベクトルと、それらにそれぞれ対応する相殺パルス122のための3種類の電圧ベクトルとが用いられる。それにより、位置検出のためのテストパルス121印加の影響が3相で均等になるようにしている。
【0089】
図12の例では、U相に印加されるテストパルス121は電圧ベクトルV1(1,0,0)で表され、U相に印加される相殺パルス122は電圧ベクトルV4(0,1,1)で表される。また、V相に印加されるテストパルス121は電圧ベクトルV3(0,1,0)で表され、V相に印加される相殺パルス122は電圧ベクトルV6(1,0,1)で表される。さらに、W相に印加されるテストパルス121は電圧ベクトルV5(0,0,1)で表され、W相に印加される相殺パルス122は電圧ベクトルV2(1,1,0)で表される。
【0090】
図12(d)および
図12(e)に表れているように、テストパルス121および相殺パルス122の印加に応じて、U相電流が変化し、かつU相電流微分検出電圧が変化している。電流だけでなく電流微分値も直接的に検知しているので、テストパルス121が印加されると、U相電流微分検出電圧が瞬時に立ち上がっていることが分かる。したがって、実質的に、テストパルス121の印加時間(たとえば3μ秒)で電流微分値を検出できる。テストパルス121の印加に対応したタイミングが電流微分値をサンプリングすべき微分検出ポイント123となる。
【0091】
図13Aは、ロータ電気角をエンコーダで検出しながら、様々なロータ電気角で電圧ベクトルV1のテストパルスを印加して得られた電流微分検出電圧を示す。
図13Bは、同様にして電圧ベクトルV3のテストパルスを印加して得られる電流微分検出電圧を示し、
図13Cは同様にして電圧ベクトルV5のテストパルスを印加して得られる電流微分検出電圧を示す。テストパルス印加後、相殺パルスを印加する直前、すなわち、テストパルスの末期にA/D変換を行って、電流微分検出電圧を取り込んでいる。各図には、U相電流微分diUの検出電圧、V相電流微分diVの検出電圧、およびW相電流微分diWの検出電圧が示されている。実際の測定電圧範囲は、0~5Vであり、2.5Vが中心であって、電流微分値=0に対応している。
【0092】
電圧ベクトルV1のテストパルスに対しては、
図13Aに表れているように、U相電流微分diUの検出電圧は、中心値の2.5Vに対して-1Vの付近(測定電圧で1.5Vの付近)で周期的に変動しており、V相電流微分diVの検出電圧およびW相電流微分diWの検出電圧は、中心値の2.5Vに対して+0.5Vの付近(測定電圧で3.0Vの付近)で周期的に変動している。
【0093】
電圧ベクトルV3のテストパルスに対しては、
図13Bに表れているように、V相電流微分diVの検出電圧は、中心値の2.5Vに対して-1Vの付近(測定電圧で1.5Vの付近)で周期的に変動しており、U相電流微分diUの検出電圧およびW相電流微分diWの検出電圧は、中心値の2.5Vに対して+0.5Vの付近(測定電圧で3.0Vの付近)で周期的に変動している。
【0094】
電圧ベクトルV5のテストパルスに対しては、
図13Cに表れているように、W相電流微分diWの検出電圧は、中心値の2.5Vに対して-1Vの付近(測定電圧で1.5Vの付近)で周期的に変動しており、U相電流微分diUの検出電圧およびV相電流微分diVの検出電圧は、中心値の2.5Vに対して+0.5Vの付近(測定電圧で3.0Vの付近)で周期的に変動している。
【0095】
電圧ベクトルV1,V3,V5の印加時には、一つの相が電源電圧Vdcに接続され、残りの2相が0V(グランド電位)に接続される。電圧が印加される
向きは、一つの相と、残りの2相とで逆になる。また、3相であるので、電流の合計は零であり、電流微分の合計も零である。
図13A、
図13Bおよび
図13Cに表れているように、振幅が小さいものの、ロータ電気角の1周期に対して、2周期の120度位相差の3相正弦波信号が得られるので、ロータ位置を求めることができる。この具体例では、PWM周期(70μ秒)ごとに、ロータ位置の更新が行われ、検出精度は機械角で約±1度であった。したがって、この実施形態により、突極性が少なく、低速域のセンサレス制御が難しいSPMSMにおいても、正確で応答性の速い位置フィードバック制御が必要な位置サーボ制御を実現できることがわかる。
【0096】
この実施形態では、テストパルスとして、3つの電圧ベクトルV1,V3,V5を用いて3相分の電流微分値を検出しているが、テストパルスとして一つの電圧ベクトルのみを用いて、3相分の電流微分値を検出しても、ロータ位置の推定は可能である。
以上のように、この実施形態によれば、ロータ位置検出器を用いないセンサレス制御によって交流モータMを制御するモータ制御装置100が提供される。このモータ制御装置100は、交流モータMの巻線電流の電流微分を高速かつ正確に検出でき、しかも小型の構成で電流微分を検出できる。したがって、小型の構成でありながら、応答性の優れた正確なモータ制御を実現可能なモータ制御装置100を提供できる。
【0097】
具体的には、この実施形態では、インバータ2と交流モータMの巻線5uvwとを接続する電流ライン9uvwに、プリント基板40(多層プリント基板)の配線パターンからなる電流パターン51,52が介装されている。この電流パターン51,52は、プリント基板40の内プリント配線層45,46に形成されているので、プリント基板40の主面41,42との絶縁が確保されている。そして、プリント基板40の主面41,42には、チップインダクタL1,L2,L3,L4が電流パターン51,52に対向するように実装されている。チップインダクタL1,L2,L3,L4は、電流パターン51,52と交差する所定方向53に巻線方向を向けて配置されている。すなわち、プリント基板40の内プリント配線層45,46に形成された電流パターン51,52と、プリント基板40の主面41,42に実装されたチップインダクタL1,L2,L3,L4とは、プリント基板40の絶縁材(絶縁基板)によって電気的に絶縁された状態で対向しており、かつ電流パターン51,52とチップインダクタL1,L2,L3,L4との巻線方向とが交差している。したがって、電流パターン51,52に流れる電流が形成する磁束とチップインダクタL1,L2,L3,L4の巻線とが鎖交する。
【0098】
電流パターン51,52に流れる電流が変化し、それに応じて磁束が変化すると、チップインダクタL1,L2,L3,L4は、磁束の変化を妨げるような起電力を発生し、それに応じた電圧がチップインダクタL1,L2,L3,L4の両電極間に表れる。この電圧は、電流パターン51,52に流れる電流の変化、換言すれば、電流微分値を表す信号として取り扱うことができる。したがって、チップインダクタL1,L2,L3,L4は、電流微分を直接的に検出するセンサとして機能するから、複雑で時間のかかる演算処理を要することなく、高速に電流微分値を検出できる。
【0099】
このようなチップインダクタL1,L2,L3,L4がプリント基板40の主面41,42に複数個実装されており、それらが直列に接続されて直列回路60を形成している。そして、その直列回路60の中点59が基準電位であるグランド電位に接続され、その直列回路60の両端が差動増幅回路70の一対の入力端70a,70bに接続されている。当該直列回路60の両端と中点59との間には、一対の負荷抵抗R1,R2がそれぞれ接続されている。
【0100】
チップインダクタL1,L2,L3,L4が発生する起電力によって負荷抵抗R1,R2に電流が流れて電圧降下が生じ、それに応じた信号が差動増幅回路70に入力される。直列回路60の中点59がグランド電位(基準電位)に接続されていることにより、インバータ2におけるスイッチングに起因して電流パターン51,52の電位が大きく変位しても、中点59の電位は変動しない。それにより、スイッチングの影響を抑制して、安定した信号を差動増幅回路70に入力することができる。
【0101】
差動増幅回路70は、一対の入力端70a,70bに入力される信号を差動増幅するので、一対の入力端70a,70bに入力される同相成分を除去し、位相の異なる成分を増幅する。ノイズ成分は同相成分となるので、差動増幅回路70は、ノイズ成分を除去した信号成分を増幅して出力することができる。したがって、チップインダクタL1,L2,L3,L4から出力される電流微分信号が微少であっても、良好な信号対雑音比で電流微分を検出することができる。
【0102】
このようにして、インバータ2から交流モータMに供給される電流をチップインダクタによって直接的に(したがって高速に)検出でき、かつ電流微分を表す良好な信号を得ることができる。それにより、コントローラ1は、交流モータMのロータ位置を速やかにかつ正確に推定できるので、応答性の優れた正確なモータ制御を実現できる。
しかも、工業的に生産されるチップインダクタは、性能ばらつきが少ないので、複数個のチップインダクタを用いても個別の調整を要しない。また、チップインダクタのサイズは微小であるので、電流微分の検出のための構成を非常に小型に構成できる利点がある。
【0103】
プリント基板40には、チップインダクタL1,L2,L3,L4だけでなく、負荷抵抗R1,R2、差動増幅回路70、インバータ2およびコントローラ1のうちの一部または全部を併せて実装することができる。それにより、モータ制御装置100を全体的に小型化できる。換言すれば、モータ制御装置100の大型化を抑制または防止しながら、電流微分値を直接的にかつ正確に検出できる構成を備えることができる。
【0104】
複数のチップインダクタL1,L2,L3,L4は、電流パターン51,52に流れる電流が形成する磁束の変化によって各チップインダクタL1,L2,L3,L4に誘起される起電力の方向を揃えて直列に接続されている。それにより、複数のチップインダクタL1,L2,L3,L4が発生する起電力の総和を差動増幅回路70で増幅できるので、電流微分を表す大きな信号を得ることができる。加えて、個々のチップインダクタL1,L2,L3,L4の持つ特性のばらつきを平均化できるので、より正確に電流微分値を検出できる。
【0105】
また、この実施形態では、チップインダクタL1,L2,L3,L4の数は偶数(第1の具体例では2、第2の具体例では4)である。それにより、チップインダクタL1,L2,L3,L4の直列回路60を、中点59を挟んで対称に構成しやすくなるので、差動増幅回路70の一対の入力端70a,70bへの入力のバランスをとりやすくなる。
コントローラ1は、差動増幅回路70の出力を交流モータMの巻線電流の時間微分値(電流微分値)に相当する値として取り扱ってロータの位置を推定する。具体的には、コントローラ1は、巻線電流の時間微分値(電流微分値)に基づいて、各相の巻線のインダクタンスを求める。各相巻線のインダクタンスは、ロータ位置に応じて周期的に変化するので、コントローラ1は、各相巻線のインダクタンスに基づいてロータ位置を推定できる。
【0106】
前述の実施形態では、複数のチップインダクタL1,L2,L3,L4は、プリント基板40の対向する2つの主面41,42に同数ずつ実装されている。プリント基板40の一方の主面41と他方の主面42とに同数ずつのチップインダクタL1,L2,L3,L4を実装することによって、それらの直列回路60を、中点59を挟んで対称に構成しやすくなるので、差動増幅回路70の一対の入力端70a,70bへの入力のバランスをとりやすくなる。
【0107】
また、プリント基板40の一方の主面41と他方の主面42とに振り分けて複数のチップインダクタL1,L2,L3,L4を実装することによって、チップインダクタを三次元的に配置できるので、モータ制御装置100の一層の小型化を図ることができる。
また、電流パターン51,52に流れる電流が形成する磁束の方向は、プリント基板40の一方の主面41側と他方の主面42側とで反対方向となる。これに対して、外部で発生した磁束、すなわち、電流パターン51,52に流れる電流に起因しない磁束は、プリント基板40の一方の主面41側と他方の主面42側とで同じ方向であり、かつ同じ大きさとなる。前述のとおり、複数のチップインダクタL1,L2,L3,L4は、電流パターン51,52に流れる電流が形成する磁束の変化によって各チップインダクタL1,L2,L3,L4に誘起される起電力の方向を揃えて直列に接続されている。この場合、複数のチップインダクタL1,L2,L3,L4の直列回路60の両端に表れる電圧は、電流パターン51,52に流れる電流変化に応じて各チップインダクタL1,L2,L3,L4で生じる起電力を重ね合わせ、かつ外部発生の磁束に起因する起電力を相殺した値となる。このようにして、外部発生磁束の影響を抑制または防止して、電流微分を検出することができる。
【0108】
前述の第1の具体例では、複数のチップインダクタL1,L2は、プリント基板40の一つの主面41における配置数が1であり、他の主面42における配置数が1である。そして、巻線電流が流れる電流パターン51,52に対して、一方の主面41側の1つのチップインダクタL1と他方の主面42側の一つのチップインダクタL2とが、幾何学的に対称に配置されている。換言すれば、巻線電流が流れる電流パターン51,52から一方の主面41側の1つのチップインダクタL1までの距離と他方の主面42側の一つのチップインダクタL2までの距離とが、互いに等しくなるように設計されている。これにより、差動増幅回路70の一対の入力端70a,70bへの入力のバランスをとりやすくなる。
【0109】
前述の第2の具体例では、複数のチップインダクタL1,L2,L3,L4は、プリント基板40の一方の主面41における配置数が2であり、他方の主面42における配置数が2である。そして、プリント基板40の一方の主面41の一つのチップインダクタL1と他方の主面42のチップインダクタL2とを直列に接続して前記中点59の一方側に配置(接続)し、残る2つのチップインダクタL3,L4を直列に接続して前記中点59の他方側に配置(接続)するようにして、4つのチップインダクタL1,L2,L3,L4が直列に接続されている。これにより、巻線電流が流れる電流パターン52に対するチップインダクタの幾何学的配置(より具体的には電流パターン52からチップインダクタL1,L2,L3,L4までの距離)が、直列回路の中点59の両側で同等(対称)になる。このような接続(配置)は、とくに、電流パターン52に対する一方の主面41に実装されたチップインダクタL1,L4および他方の主面42に実装されたチップインダクタL2,L3の幾何学的配置(より具体的には電流パターン52から各主面のチップインダクタL1,L4;L2,L3までの距離)が同等(対称)でない場合に有効である。
【0110】
また、前述の実施形態では、チップインダクタL1,L2,L3,L4は、空芯コイルであり、シールドされていない。空芯コイル型のチップインダクタを用いることにより、磁気飽和の影響を受けることなく電流微分を検出できる。また、シールドされていない構造のチップインダクタを用いることによって、配線パターンに流れる電流が形成する磁束を高感度で検出できる。
【0111】
また、前述の実施形態では、複数のチップインダクタL1,L2,L3,L4は、同一仕様である。同一仕様のチップインダクタを用いることにより、中点59を挟んで対称な構造の直列回路60を形成しやすくなる。工業的に生産される同一仕様のチップインダクタは、一様な性能を有するので、実質的に調整を要することなく用いることができる。
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、さらに他の形態で実施することができ、特許請求の範囲に記載した事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【0112】
たとえば、前述の実施形態では、電流微分検出器4uvwの構成として、2個のチップインダクタL1,L2を用いた第1の具体例、4個のチップインダクタL1,L2,L3,L4を用いた第2の具体例について説明した。しかし、電流微分を検出するために用いるチップインダクタの個数は、これらに限られない。前述のとおり、チップインダクタの個数は偶数であることが好ましい。また、偶数個のチップインダクタは、同数個ずつをプリント基板40の両主面41,42に振り分けて配置することが好ましい。
【0113】
また、前述の実施形態では、プリント基板40の両主面に配置されるチップインダクタが一対ずつ互いに対向して配置されている例を示した。しかし、チップインダクタは電流パターン51,52に対向していればよく、プリント基板40の両主面41,42に配置したチップインダクタが、主面41,42に垂直に見たときにずれていてもよい。
また、前述の実施形態では、電流パターン51,52が、プリント基板40の2つの内プリント配線層45,46に形成された第1の具体例、およびプリント基板40の一つの内プリント配線層46に形成された第2の具体例について説明した。しかし、より多くのプリント配線層を有する多層プリント基板を用いて、3層以上の内プリント配線層に電流パターンを配置してもよい。また、電流パターンは、直線的な帯形状である必要はなく、曲線部や屈曲部を含む形状であってもよい。
【符号の説明】
【0114】
1 :コントローラ
2 :インバータ
3u,3v,3w :電流検出器
4u,4v,4w :電流微分検出器
5u,5v,5w :巻線
9u,9v,9w :電流ライン
11 :位置制御器
12 :速度制御器
13 :電流制御器
14 :PWM生成器
15 :位置推定器
16 :速度推定器
40 :プリント基板
41,42 :主面
43,44 :外プリント配線層
45,46 :内プリント配線層
47,48,49 :絶縁層
51,52 :電流パターン
53 :所定方向
60 :直列回路
70 :差動増幅回路
70a,70b :入力端
100 :モータ制御装置
121 :テストパルス
122 :相殺パルス
L1~L4 :チップインダクタ
M :交流モータ
R1,R11,R12 :負荷抵抗
R2,R21,R22 :負荷抵抗