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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】排気管、及びエンジン
(51)【国際特許分類】
   F01N 13/08 20100101AFI20240522BHJP
   F16J 15/08 20060101ALI20240522BHJP
   F16L 23/02 20060101ALI20240522BHJP
   F16L 23/24 20060101ALI20240522BHJP
   F16L 23/036 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
F01N13/08 E
F16J15/08 L
F16J15/08 B
F01N13/08 F
F16L23/02 Z
F16L23/24
F16L23/036
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021009890
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2022113568
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 元
(72)【発明者】
【氏名】江崎 穣
(72)【発明者】
【氏名】門脇 剛
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特表平05-502929(JP,A)
【文献】実開平05-050280(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 13/08
F16J 15/08
F16L 23/02
F16L 23/24
F16L 23/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心とする筒状をなすとともに、軸線方向に配列され、内部にエンジン本体から導かれた排気が流通する複数の管本体と、
前記軸線方向に隣接する一対の前記管本体同士を接続する接続部と、
前記管本体と前記接続部との間に設けられたガスケットと、を備え、
前記管本体の前記軸線方向における端部には外周側に向かって張り出すフランジが設けられ、
前記接続部は、前記軸線を中心とする筒状の接続部本体と、
前記フランジとの間の隙間に前記ガスケットを挟み込んだ状態で前記フランジに対向する対向面が形成された押さえリングと、
を有し、
周方向に間隔をあけて設けられ、前記フランジと前記押さえリングとを結合する結合部材と、
前記隙間の外周側の領域に設けられた変形防止部材と、をさらに備え
前記変形防止部材は、
径方向外側から内側に向かうに従って前記軸線方向の寸法が次第に縮小するテーパ部を有する排気管。
【請求項2】

前記対向面の径方向外側の領域には、前記軸線方向に凹むとともに周方向に延びる切り欠きが形成されている請求項に記載の排気管。
【請求項3】
軸線を中心とする筒状をなすとともに、軸線方向に配列され、内部にエンジン本体から導かれた排気が流通する複数の管本体と、
前記軸線方向に隣接する一対の前記管本体同士を接続する接続部と、
前記管本体と前記接続部との間に設けられたガスケットと、を備え、
前記管本体の前記軸線方向における端部には外周側に向かって張り出すフランジが設けられ、
前記接続部は、前記軸線を中心とする筒状の接続部本体と、
前記フランジとの間の隙間に前記ガスケットを挟み込んだ状態で前記フランジに対向する対向面が形成された押さえリングと、
を有し、
周方向に間隔をあけて設けられ、前記フランジと前記押さえリングとを結合する結合部材と、
前記隙間の外周側の領域に設けられた変形防止部材と、をさらに備え、
前記変形防止部材は、周方向に間隔をあけて複数設けられ、
これら複数の変形防止部材を互いに接続するワイヤをさらに有する排気管。
【請求項4】
前記変形防止部材は、周方向にて前記結合部材と一致する位置にそれぞれ設けられている請求項1からのいずれか一項に記載の排気管。
【請求項5】
前記ガスケットは、前記フランジの全面を覆う環状をなし、該ガスケットの径方向外側における環状の部分が前記変形防止部材をなしている請求項1からのいずれか一項に記載の排気管。
【請求項6】
前記接続部は、
前記軸線方向に伸縮可能な伸縮部と、
該伸縮部の端部に設けられ、外周側に張り出すつば部と、を有し、
前記つば部の径方向外側における環状の部分が前記変形防止部材をなしている請求項1からのいずれか一項に記載の排気管。
【請求項7】
前記フランジ、及び前記押さえリングには、前記軸線方向に延びる貫通孔がそれぞれ形成され、
前記結合部材は、
前記貫通孔に挿通されるボルト、及び該ボルトに締結されるナットと、を有し、
前記変形防止部材は、前記貫通孔に挿通され、前記ボルトを外周側から覆うとともに、予め定められた分だけ前記軸線方向に延びるパイプである請求項1からのいずれか一項に記載の排気管。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の排気管と、
前記排気を前記排気管に送り込む燃焼室が形成されたエンジン本体と、を備えるエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排気管、及びエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやガスエンジンは、ピストンを収容する複数の燃焼室が形成されたエンジン本体と、このエンジン本体で発生した排気を過給機等の外部機器に導く排気管と、枝管と、を備えている。それぞれの燃焼室は、枝管を介して排気管に接続されている。つまり、各枝管から合流した排気が排気管内を流通する。排気管は軸線を中心とした筒状をなし、軸線方向における中途位置にはそれぞれ上記の枝管が接続されている。
【0003】
ここで、エンジンの運転中、排気の温度は500℃程度に達する。この排気の熱応力によって、排気管は軸線方向に熱変形することがある。このような熱変形を吸収するために、例えば下記特許文献1に記載された技術が用いられている。下記特許文献1には、軸線方向に配列された複数の排気本管同士の間に、軸線方向に伸縮可能な伸縮管が設けられている。排気本管の熱変形に合わせて伸縮管が伸縮することで当該熱変形の影響を回避することができるとされている。
【0004】
上記のような排気本管と伸縮管とは、下記特許文献2に示されるようなフランジによって互いに接続されることが一般的である。具体的には、排気本管の端部には外周側に広がるフランジが設けられている。伸縮管の端部をリング状部材によってフランジとの間に挟持する。リング状部材とフランジとはボルト及びナットによって結合される。さらに、このような接続部には、排気の漏れをシールするためにガスケットが設けられる。ガスケットは、上記リング状の部材とフランジとの間に挟み込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-286842号公報
【文献】実開昭61-51431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、エンジンの経年使用に伴って、ガスケットを定期的に交換する必要がある。このとき、フランジには熱応力による変形が生じていることがある。このため、ボルトを規定のトルクで締め付けてもフランジとリング状部材との間で適正な面圧が確保されない虞がある。その結果、排気本管と伸縮管との間のシール性能が低下してしまう。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、排気の漏れがさらに低減された排気管、及びエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係る排気管は、軸線を中心とする筒状をなすとともに、軸線方向に配列され、内部にエンジンから導かれた排気が流通する複数の管本体と、前記軸線方向に隣接する一対の前記管本体同士を接続する接続部と、前記管本体と前記接続部との間に設けられたガスケットと、を備え、前記管本体の前記軸線方向における端部には外周側に向かって張り出すフランジが設けられ、前記接続部は、前記軸線を中心とする筒状の接続部本体と、前記フランジとの間の隙間に前記ガスケットを挟み込んだ状態で前記フランジに対向する対向面が形成された押さえリングと、を有し、周方向に間隔をあけて設けられ、前記フランジと前記押さえリングとを結合する結合部材と、前記隙間の外周側の領域を封止する変形防止部材と、をさらに備え、前記変形防止部材は、径方向外側から内側に向かうに従って前記軸線方向の寸法が次第に縮小するテーパ部を有する。
本開示に係る排気管は、軸線を中心とする筒状をなすとともに、軸線方向に配列され、内部にエンジン本体から導かれた排気が流通する複数の管本体と、前記軸線方向に隣接する一対の前記管本体同士を接続する接続部と、前記管本体と前記接続部との間に設けられたガスケットと、を備え、前記管本体の前記軸線方向における端部には外周側に向かって張り出すフランジが設けられ、前記接続部は、前記軸線を中心とする筒状の接続部本体と、前記フランジとの間の隙間に前記ガスケットを挟み込んだ状態で前記フランジに対向する対向面が形成された押さえリングと、を有し、周方向に間隔をあけて設けられ、前記フランジと前記押さえリングとを結合する結合部材と、前記隙間の外周側の領域に設けられた変形防止部材と、をさらに備え、前記変形防止部材は、周方向に間隔をあけて複数設けられ、これら複数の変形防止部材を互いに接続するワイヤをさらに有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、排気の漏れがさらに低減された排気管、及びエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の第一実施形態に係るエンジンの構成を示す模式図である。
図2】本開示の第一実施形態に係る排気管の側面図である。
図3図2のIII-III線における断面図である。
図4図3のIV-IV線における断面図である。
図5】本開示の第一実施形態に係る排気管の変形例を示す要部拡大断面図である。
図6】本開示の第一実施形態に係る排気管のさらなる変形例を示す要部拡大断面図である。
図7】本開示の第二実施形態に係る排気管の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第一実施形態>
以下、本開示の第一実施形態に係るエンジン100、及び排気管90について、図1から図4を参照して説明する。
【0012】
(エンジンの構成)
エンジン100は、例えば船舶や発電所の動力源として用いられるディーゼルエンジン、又はガスエンジンである。エンジン100は、エンジン本体1と、排気管90と、枝管2Aと、を備えている。エンジン本体1はブロック状をなし、その内部には複数(一例として12個)の燃焼室2が形成されている。本実施形態では、6個の燃焼室2が2列にわたって形成されている。これら燃焼室2内にはピストン(図示省略)が収容されている。
【0013】
例えばディーゼルエンジンの場合、燃焼室2に供給された燃料がピストンの進退動によって圧縮され、当該燃料が自然発火する。このような動作が各燃焼室2でタイミングを違えながら連続して生じることで、エンジン100の出力軸が回転する。出力軸の回転エネルギーは軸端から取り出されて種々の利用(例えば船舶の場合にはプロペラの駆動、発電所の場合には発電機の駆動)に供される。
【0014】
各燃焼室2では、燃料の燃焼に伴って排気(排気ガス)が発生する。この排気は、排気管90によって外部の過給機に導かれる。より詳細には、それぞれの燃焼室2には排気が流通する枝管2Aの一端が接続されている。枝管2Aの他端は排気管90に接続されている。つまり、排気管90には、計12個の枝管2Aが接続されている。排気管90は、燃焼室2の配列されている方向に沿って延びている。
【0015】
(排気管の構成)
次に、図2から図4を参照して、排気管90の構成について説明する。図2又は図4に示すように、排気管90は、複数の管本体10と、フランジ11と、接続部20と、ガスケットG(図4参照)と、結合部材30と、変形防止部材40と、を備えている。
【0016】
図2に示すように、管本体10は、排気管90の軸線Ac方向に間隔をあけて複数配列されている。管本体10は、軸線Acを中心とする筒状をなしている。管本体10の外径寸法は一例として600mm程度である。さらに図4に示すように、管本体10の軸線Ac方向における端部にはフランジ11が設けられている。フランジ11は、管本体10から外周側に向かって張り出すことで円環状をなしている。フランジ11は、管本体10に対して溶接によって結合されている。
【0017】
図2に示すように、接続部20は、互いに隣接する一対の管本体10同士を接続している。接続部20は、接続部本体21と、押さえリング22と、を有している。接続部本体21は、軸線Ac方向に伸縮可能とされている。具体的には図4に示すように、接続部本体21は、つば部21Aと、平行部21Bと、伸縮部21Cと、を有している。つば部21Aは上記のフランジ11と後述する押さえリング22との間に挟み込まれる部分である。
【0018】
つば部21Aは、軸線Acを中心とする円環板状をなしている。平行部21Bは、このつば部21Aの内周側の端縁から軸線Ac方向に延びる筒状をなしている。伸縮部21Cは、平行部21Bにおけるつば部21Aとは反対側の端縁に接続されている。伸縮部21Cは外周側に向かって断面視で曲面状に拡径している。伸縮部21Cに軸線Ac方向から力が加わった場合、当該伸縮部21Cが撓むことで接続部本体21全体が伸縮する。
【0019】
押さえリング22は、軸線Acを中心とする円環状をなしている。押さえリング22の内周側の端縁(リング内周縁22T)は、径方向においてフランジ11の内周側の端縁よりも内側に位置している。また、このリング内周縁22Tは、上記の平行部21Bに接触している。押さえリング22は軸線Ac方向からフランジ11の軸線Ac方向一方側の面(フランジ対向面11S)に隙間Sをあけて対向している。
【0020】
押さえリング22の軸線Ac方向他方側を向く面(フランジ11に対向する面)は対向面22Sとされている。つまり、上記の隙間Sはフランジ対向面11Sと対向面22Sとによって軸線Ac方向から囲まれている。この隙間Sには、ガスケットGと、上記のつば部21Aとが挟み込まれている。具体的には、ガスケットGは隙間S内における軸線Ac方向他方側に位置し、つば部21Aは軸線Ac方向一方側に位置している。これらガスケットGとつば部21Aとは互いに密着している。ガスケットGは、軸線Acを中心とする円環板状をなしている。ガスケットGは例えばSUSによって一体に形成されている。詳しくは図示しないが、ガスケットGの内部は中空とされており、軸線Ac方向両側から押圧された場合に撓むように構成されている。
【0021】
押さえリング22の対向面22Sにおけるボルト(後述)よりも径方向外側の領域には、軸線Ac方向一方側に向かって凹むとともに周方向に延びる円環状の切り欠き22Rが形成されている。この切り欠き22Rは、後述する変形防止部材40を保持するために設けられている。
【0022】
結合部材30は、上記のようにガスケットGとつば部21Aとを隙間Sに挟み込んだ状態でフランジ11と押さえリング22とを結合している。図3に示すように、結合部材30は、周方向に間隔をあけて複数(一例として12個)設けられている。結合部材30はボルト及びナットによって構成されている。つまり、フランジ11と押さえリング22には、このボルトが挿通される孔が形成されている。つば部21Aの外周側の端縁(つば部端縁21t)と、ガスケットGの外周側の端縁(ガスケット端縁Gt)は、隙間S内でこのボルトよりも径方向内側に位置している。つまり、ボルトの中間部は隙間Sに露呈している。
【0023】
上述した隙間Sには、変形防止部材40が配置されている。変形防止部材40は、フランジ11と押さえリング22との間で、面圧を径方向に均等に分散させるために設けられている。図3又は図4に示すように、変形防止部材40は、隙間Sに対して外周側から挿入されている。また、図3に示すように、変形防止部材40は、周方向に間隔をあけて複数(一例として12個)設けられている。この変形防止部材40の周方向位置は、結合部材30の周方向位置と一致している。つまり、1つの結合部材30の外周側に1つの変形防止部材40が設けられている。図4に示すように、変形防止部材40は、外周側に位置する基部41と、基部41から内周側に向かって延びるテーパ部42と、を有している。
【0024】
基部41は、軸線Ac方向から見て円弧状の断面形状を有する板状をなしている。基部41には、周方向に延びる貫通孔hが形成されている。この貫通孔hにはワイヤWが挿通されている。図3に示すように、ワイヤWは複数の変形防止部材40を脱落不能に保持するために設けられている。再び図4に示すように、テーパ部42は、基部41の径方向内側の端面に一体に設けられ、径方向内側に向かうに従って軸線Ac方向の寸法が次第に小さくなっている。つまり、テーパ部42は、軸線Acを含む断面視で三角形状の断面形状を有している。テーパ部42の軸線Ac方向両側を向く面はそれぞれテーパ面42Sとされている。変形防止部材40が隙間Sに挿入されている状態では、一方のテーパ面42Sが上記の切り欠き22Rの外周側の端縁に当接し、他方のテーパ面42Sがフランジ対向面11Sの外周側の端縁に当接している。
【0025】
(作用効果)
続いて、本実施形態に係る排気管90の組立方法、及びエンジン100を運転している際の排気管90の挙動について説明する。
【0026】
排気管90を組み立てるに当たってはまず、複数の管本体10を接続部20によって接続する。具体的には、ガスケットG、及び接続部本体21のつば部21Aを、フランジ11と押さえリング22によって挟み込む。この状態で結合部材30としてのボルト及びナットによってフランジ11と押さえリング22を締結する。このときのボルトの締め込みトルクは、予め定められた規定値とされている。なお、この規定値を超えてボルトを締め込んだ場合、フランジ11が管本体10との接合部(溶接部)を支点として軸線Ac方向一方側に向かって倒れるように変形することがある。言い換えると、規定値はこのような変形が生じない範囲で適宜決定される。
【0027】
次に、上記の状態で、隙間Sに外周側から変形防止部材40を挿入する。具体的には、まずワイヤWが挿通された複数の変形防止部材40を隙間Sの外周側にそれぞれ配置する。さらに、変形防止部材40の基部41に対してハンマー等で打撃力を与え、隙間Sに圧入する。これにより、変形防止部材40のテーパ面42Sがフランジ11と押さえリング22に密着し、脱落不能な状態となる。最後にワイヤWを締め上げる。これにより、排気管90の組み立てが完了する。
【0028】
次いで、エンジン100を運転している際の排気管90の挙動について説明する。エンジン100の運転中には、燃焼室2内で500℃程度の排気が発生する。この排気は、枝管2Aを通じて排気管90に送り込まれる。排気の熱によって、排気管90には軸線Ac方向への熱変形が生じる。この熱変形は、接続部20の伸縮部21Cが上記のように軸線Ac方向に撓むことで吸収される。これにより、排気管90と枝管2Aとの相対位置が維持され、エンジン100を安定的に運転し続けることが可能となる。
【0029】
ここで、経年使用に伴ってガスケットGのシール性能が低下した場合には、結合部材30としてのボルト及びナットを取り外した後、ガスケットGを交換して再びボルト及びナットを締結する作業が必要となる。このとき、排気の熱によってフランジ11自体にも熱変形が生じている場合がある。具体的には、フランジ11と管本体10の接合部を支点としてフランジ11が軸線Ac方向に倒れるように変形している場合がある。つまり、隙間Sの外周側の領域で、軸線Ac方向の寸法が初期よりも小さくなっている場合がある。この場合、ボルト及びナットを規定のトルクで締め付けても、締め付け力がフランジ11と押さえリング22との間に十分に伝わらず、ガスケットGに対する面圧が確保できない虞がある。
【0030】
そこで、本実施形態では、上記のように変形防止部材40が隙間Sに設けられている。具体的には、フランジ11と押さえリング22の間に形成された隙間Sの外周側の領域に変形防止部材40が設けられている。この変形防止部材40が隙間Sに配置されていることによって、隙間Sの外周側の領域でフランジ11と押さえリング22とが力学的に結合した状態となる。つまり、フランジ11と押さえリング22とを結合部材30によって締め上げると、変形防止部材40を介して締め付け力がこれらフランジ11と押さえリング22との間に伝わることになる。したがって、フランジ11に変形が生じて軸線Ac方向に傾いている場合であっても、フランジ11の変形が是正されることで、フランジ11と押さえリング22との間でガスケットGに対する面圧を確保することができる。
【0031】
さらに、本実施形態では、変形防止部材40は、径方向外側から内側に向かうに従って軸線Ac方向の寸法が次第に縮小するテーパ部42を有する。上記構成によれば、隙間Sに対するテーパ部42の挿入量をフランジ11と押さえリング22との間の隙間Sの軸線Ac方向寸法に応じて調整することで、様々な大きさの隙間Sに変形防止部材40を配置することができる。特に、フランジ11の熱変形は、周方向で不均一に生じる場合が多い。上記構成によれば、このような不均一な熱変形が生じた場合であっても、テーパ部42の挿入量を変えることで一様にガスケットGの面圧を確保することができる。
【0032】
加えて、本実施形態では、対向面22Sの径方向外側の領域には、軸線Ac方向に凹むとともに周方向に延びる切り欠き22Rが形成されている。上記構成によれば、押さえリング22に切り欠き22Rが形成されていることから、変形防止部材40をさらに円滑に挿入することが可能となる。また、切り欠き22Rが形成されていない場合に比べて変形防止部材40の挿入量を大きくすることができることから、当該変形防止部材40が脱落する可能性を低減することもできる。
【0033】
さらに加えて、本実施形態では、面圧補完部40は周方向に間隔をあけて複数設けられている。これら複数の変形防止部材40にはワイヤWが挿通されている。上記構成によれば、周方向に間隔をあけて複数の変形防止部材40が設けられていることから、周方向におけるガスケットGの面圧の分布を均一化することができる。さらに、これら複数の変形防止部材40がワイヤWで接続されていることから、当該変形防止部材40の脱落を抑止することができる。加えて、ワイヤWを介して変形防止部材40同士が熱的にも接続されていることから、周方向における排気からの入熱量の分布が平準化される。これにより、管本体10に生じる熱膨張量を周方向で均一化することが可能となる。
【0034】
さらに、本実施形態では、変形防止部材40は、周方向にて結合部材30と一致する位置にそれぞれ設けられている。上記構成によれば、結合部材30による締め付け力が集中的に生じる箇所に変形防止部材40が設けられることから、当該締め付け力を変形防止部材40によって周方向及び径方向に分散させることができる。これにより、フランジ11に変形が生じる可能性をさらに低減することができる。
【0035】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の各構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0036】
例えば、変形例として図5に示す構成を採ることも可能である。同図の例では、ガスケットGの外周側の端縁(ガスケット端縁Gt´)が径方向においてフランジ11の外周側の端縁と同一の位置まで延びている。また、つば部21Aの外周側の端縁(つば部端縁21t´)も径方向においてフランジ11の外周側の端縁と同一の位置まで延びている。つまり、これらガスケットG、及びつば部21Aは、フランジ対向面11Sの全面を覆っている。これにより、ガスケットGの結合部材30よりも外周側の部分と、つば部21Aの結合部材30よりも外周側の部分とが変形防止部材40bを構成している。
【0037】
上記構成によれば、ガスケットGがフランジ11の全面を覆っている。さらに、このガスケットGの径方向外側(外周側)の部分が変形防止部材40として機能する。これにより、上記第一実施形態と同様にガスケットGに対する面圧を確保することができる。さらに、上記構成によれば、ガスケットG及びつば部21Aの一部が変形防止部材40bを構成することから、部品点数が削減され、排気管90の製造やメンテナンスに要するコストを低減することができる。
【0038】
また、さらなる変形例として図6に示す構成を採ることも可能である。同図の例では、ガスケット端縁Gtは結合部材30よりも内周側に位置している。つば部端縁21t´も結合部材30よりも内周側に位置している。このような構成によっても図5に係る変形例と同様の作用効果を得ることができる。なお、図6の例では、つば部端縁21t´は径方向に折り返されている。加えて、ガスケットGに結合部材30としてのボルトを挿通するための孔を形成する必要がないことから、当該孔を通じた排気の漏洩が生じる可能性をさらに低減することが可能となる。
【0039】
<第二実施形態>
次に、本開示の第二実施形態について、図7を参照して説明する。なお、上記第一実施形態及びその変形例と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0040】
本実施形態では、結合部材30としてのボルトの周囲に、当該ボルトを外周側から覆うパイプPが設けられている。つまり、フランジ11及び押さえリング22に形成されているボルトの挿通孔の径は第一実施形態よりも大きい。また、このパイプPは、軸線Ac方向において、フランジ11,ガスケットG,つば部21A,及び押さえリング22のそれぞれの厚さを合計した分だけ延びている。なお、この合計値は、設計時に予め定められた値であって、フランジ11に上述の熱変形が生じていない場合の値である。このパイプPは、変形防止部材40cを構成している。
【0041】
上記構成によれば、ボルトを締め付ける際に変形防止部材40cとしてのパイプPによって当該ボルトの締め付け量が制限される。具体的には、パイプPがフランジ11,ガスケットG,つば部21A,及び押さえリング22のそれぞれの厚さを合計した分だけ延びている。軸線Ac方向におけるパイプPの剛性により、当該厚さの合計値を超えてボルトを締め付けることが抑制される。したがって、ボルトの過度な締め付けが回避され、フランジ11の変形を防ぐことができる。その結果、ガスケットGに対する面圧を確保することが可能となる。
【0042】
以上、本開示の各実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の各構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記の各実施形態では船舶用のエンジン100を例に排気管90の構成について説明した。しかしながら、排気管90の適用対象は船舶用のエンジンに限定されず、他の輸送機械や発電設備等のエンジンにも排気管90を適用することが可能である。
【0043】
また、上記の各実施形態では、結合部材30としてのボルト及びナットが周方向に12個配列されている例について説明した。しかしながらボルト及びナットの個数は12個に限定されず、設計や仕様に応じて適宜変更することが可能である。
【0044】
さらに、上記実施形態では、ガスケットGがSUSで形成されている例について説明した。しかしながら、ガスケットGの材質はSUSに限定されず、耐熱性を有する樹脂やセラミックによってガスケットGを形成することも可能である。
【0045】
また、上記各実施形態、及びその変形例で説明した変形防止部材40,40b,40cを組み合わせて適用することも可能である。
【0046】
<付記>
各実施形態に記載の排気管90、及びエンジン100は、例えば以下のように把握される。
【0047】
(1)第1の態様に係る排気管90は、軸線Acを中心とする筒状をなすとともに、軸線Ac方向に配列され、内部にエンジン本体1から導かれた排気が流通する複数の管本体10と、前記軸線Ac方向に隣接する一対の前記管本体10同士を接続する接続部20と、前記管本体10と前記接続部20との間に設けられたガスケットGと、を備え、前記管本体10の前記軸線Ac方向における端部には外周側に向かって張り出すフランジ11が設けられ、前記接続部20は、前記軸線Acを中心とする筒状の接続部本体21と、前記フランジ11との間の隙間Sに前記ガスケットGを挟み込んだ状態で前記フランジ11に対向する対向面22Sが形成された押さえリング22と、を有し、周方向に間隔をあけて設けられ、前記フランジ11と前記押さえリング22とを結合する結合部材30と、前記隙間Sの外周側の領域に設けられた変形防止部材40と、をさらに備える。
【0048】
上記構成によれば、フランジ11と押さえリング22の間に形成された隙間Sの外周側の領域に変形防止部材40が設けられている。これにより、例えばフランジ11に変形が生じて、軸線Ac方向に傾いている場合であっても、変形防止部材40が介在することでフランジ11と押さえリング22との間でガスケットGに対する面圧を確保することができる。
【0049】
(2)第2の態様に係る排気管90では、前記変形防止部材40は、径方向外側から内側に向かうに従って前記軸線Ac方向の寸法が次第に縮小するテーパ部42を有する。
【0050】
上記構成によれば、隙間Sに対するテーパ部42の挿入量をフランジ11と押さえリング22との間の隙間Sの軸線Ac方向寸法に応じて調整することで、様々な大きさの隙間Sに変形防止部材40を配置することができる。
【0051】
(3)第3の態様に係る排気管90では、前記対向面22Sの径方向外側の領域には、前記軸線Ac方向に凹むとともに周方向に延びる切り欠き22Rが形成されている。
【0052】
上記構成によれば、押さえリング22に切り欠き22Rが形成されていることから、変形防止部材40をさらに円滑に挿入することが可能となる。
【0053】
(4)第4の態様に係る排気管90では、前記変形防止部材40は、周方向に間隔をあけて複数設けられ、これら複数の変形防止部材40を互いに接続するワイヤWをさらに有する。
【0054】
上記構成によれば、周方向に間隔をあけて複数の変形防止部材40が設けられていることから、周方向における面圧の分布を均一化することができる。さらに、これら複数の変形防止部材40がワイヤWで接続されていることから、当該変形防止部材40の脱落を抑止することができる。加えて、ワイヤWを介して変形防止部材40同士が熱的にも接続されていることから、周方向における入熱量の分布が平準化される。これにより、管本体10に生じる熱膨張量を周方向で均一化することが可能となる。
【0055】
(5)第5の態様に係る排気管90では、前記変形防止部材40は、周方向にて前記結合部材30と一致する位置にそれぞれ設けられている。
【0056】
上記構成によれば、結合部材30による締め付け力が集中的に生じる箇所に変形防止部材40が設けられることから、当該締め付け力を変形防止部材40によって分散させることができる。これにより、フランジ11に変形が生じる可能性を低減することができる。
【0057】
(6)第6の態様に係る排気管90では、前記ガスケットGは、前記フランジ11の全面を覆う環状をなし、該ガスケットGの径方向外側における環状の部分が前記変形防止部材40bをなしている。
【0058】
上記構成によれば、ガスケットGがフランジ11の全面を覆っている。さらに、このガスケットGの径方向外側の部分が変形防止部材40bとして機能する。これにより、部品点数が削減され、排気管90の製造やメンテナンスに要するコストを低減することができる。
【0059】
(7)第7の態様に係る排気管90では、前記接続部20は、前記軸線Ac方向に伸縮可能な伸縮部21Cと、該伸縮部21Cの端部に設けられ、外周側に張り出すつば部21Aと、を有し、前記つば部21Aの径方向外側における環状の部分が前記変形防止部材40bをなしている。
【0060】
上記構成によれば、つば部21Aの径方向外側の部分が変形防止部材40bとして機能する。これにより、部品点数が削減され、排気管90の製造やメンテナンスに要するコストを低減することができる。
【0061】
(8)第8の態様に係る排気管90では、前記フランジ11、及び前記押さえリング22には、前記軸線Ac方向に延びる貫通孔がそれぞれ形成され、前記結合部材30は、前記貫通孔に挿通されるボルト、及び該ボルトに締結されるナットと、を有し、前記変形防止部材40cは、前記貫通孔に挿通され、前記ボルトを外周側から覆うとともに、予め定められた分だけ前記軸線Ac方向に延びるパイプPである。
【0062】
上記構成によれば、ボルトを締め付ける際にパイプPによって当該ボルトの締め付け量が制限される。これにより、ボルトの過度な締め付けが抑止され、フランジ11の変形を防ぐことができる。
【0063】
(9)第9の態様に係るエンジン100は、排気管90と、前記排気を前記排気管90に送り込む燃焼室2が形成されたエンジン本体1と、を備える。
【0064】
上記構成によれば、排気の漏れがさらに低減された排気管90を備えるエンジン100を提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
100 エンジン
90 排気管
1 エンジン本体
2 燃焼室
2A 枝管
10 管本体
11 フランジ
11S フランジ対向面
20 接続部
21 接続部本体
21A つば部
21B 平行部
21C 伸縮部
21t,21t´ つば部端縁
22 押さえリング
22R 切り欠き
22S 対向面
22T リング内周縁
30 結合部材
40,40b,40c 変形防止部材
41 基部
42 テーパ部
42S テーパ面
Ac 軸線
G ガスケット
Gt,Gt´ ガスケット端縁
h 貫通孔
P パイプ
W ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7