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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】車輪及び車両
(51)【国際特許分類】
   B60B 33/00 20060101AFI20240522BHJP
   B62B 5/02 20060101ALI20240522BHJP
   B60B 19/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B60B33/00 X
B62B5/02 Z
B60B19/00 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021018676
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022121781
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石堂 健二
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-119576(JP,A)
【文献】特開2019-123292(JP,A)
【文献】特開2006-306246(JP,A)
【文献】特開2017-042223(JP,A)
【文献】特開2003-220803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 33/00
B62B 5/02
B60B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸回りに回動する円板体を含む車輪本体と、
前記車軸と一致する腕回転軸回りに前記車輪本体に対して回動可能な腕部と、
前記腕部を重力に抗して所定の待機位置に保持しかつ前記腕部に対する前記腕回転軸回りの外力によって前記保持を解除する保持部と、
前記車輪本体の外周面と接触する位置と離隔する位置との間で前記腕部に対して前記車輪本体の径方向に相対移動可能かつ前記腕部とともに前記腕回転軸回りに回動するように前記腕部に連結されるスロープ部と、
前記腕部が前記腕回転軸を中心とする回転方向の前記待機位置を含む所定範囲にある場合に前記スロープ部を前記車輪本体の外周面から離隔させるスロープ位置調整機構と、
を備える、車輪。
【請求項2】
車軸回りに回動する円板体を含む車輪本体と、
前記車軸と一致する腕回転軸回りに前記車輪本体に対して回動可能な腕部と、
前記腕部を重力に抗して所定の待機位置に保持しかつ前記腕部に対する前記腕回転軸回りの外力によって前記保持を解除する保持部と、
前記車輪本体の外周面と接触する位置と離隔する位置との間で移動可能かつ前記腕部とともに前記腕回転軸回りに回動するように前記腕部に連結されるスロープ部と、
前記腕部が前記腕回転軸を中心とする回転方向の前記待機位置を含む所定範囲にある場合に前記スロープ部を前記車輪本体の外周面から離隔させるスロープ位置調整機構と、
を備え、
前記スロープ位置調整機構は、
前記スロープ部を前記車輪本体の外周面から離隔する方向に常時付勢する付勢部と、
前記スロープ部の前記車輪本体の外周面から離隔する方向への移動範囲を制限する制止部と、
を備える、車輪。
【請求項3】
車軸回りに回動する円板体を含む車輪本体と、
前記車軸と平行な腕回転軸回りに前記車輪本体に対して回動可能な腕部と、
前記腕部を重力に抗して所定の待機位置に保持しかつ前記腕部に対する前記腕回転軸回りの外力によって前記保持を解除する保持部と、
前記車輪本体の外周面と接触する位置と離隔する位置との間で移動可能かつ前記腕部とともに前記腕回転軸回りに回動するように前記腕部に連結されるスロープ部と、
前記腕部が前記腕回転軸を中心とする回転方向の前記待機位置を含む所定範囲にある場合に前記スロープ部を前記車輪本体の外周面から離隔させるスロープ位置調整機構と、
を備え、
前記スロープ位置調整機構は、
前記車軸と異なる位置に設けられる前記腕回転軸と、
前記スロープ部を前記車輪本体の外周面に近接する方向に常時付勢する付勢部と、
前記スロープ部の前記車輪本体の外周面に近接する方向への移動範囲を制限する制止部と、
を含み、
前記腕部が前記所定範囲以外にある場合に前記スロープ部が前記車輪本体の外周面と接触させる、車輪。
【請求項4】
車軸回りに回動する円板体を含む車輪本体と、
前記車軸と平行な腕回転軸回りに前記車輪本体に対して回動可能な腕部と、
前記腕部を重力に抗して所定の待機位置に保持しかつ前記腕部に対する前記腕回転軸回りの外力によって前記保持を解除する保持部と、
前記車輪本体の外周面と接触する位置と離隔する位置との間で移動可能かつ前記腕部とともに前記腕回転軸回りに回動するように前記腕部に連結されるスロープ部と、
前記腕部が前記腕回転軸を中心とする回転方向の前記待機位置を含む所定範囲にある場合に前記スロープ部を前記車輪本体の外周面から離隔させるスロープ位置調整機構と、
を備え、
前記スロープ部は、外周面のうち前記車輪本体の外周面に接触する面に、前記車軸方向視で前記車輪本体の外周面と曲率半径が等しい円弧形状を含む凹状の曲面を含む、車輪。
【請求項5】
車軸回りに回動する円板体を含む車輪本体と、
前記車軸と平行な腕回転軸回りに前記車輪本体に対して回動可能な腕部と、
前記腕部を重力に抗して所定の待機位置に保持しかつ前記腕部に対する前記腕回転軸回りの外力によって前記保持を解除する保持部と、
前記車輪本体の外周面と接触する位置と離隔する位置との間で移動可能かつ前記腕部とともに前記腕回転軸回りに回動するように前記腕部に連結されるスロープ部と、
前記腕部が前記腕回転軸を中心とする回転方向の前記待機位置を含む所定範囲にある場合に前記スロープ部を前記車輪本体の外周面から離隔させるスロープ位置調整機構と、
を備え、
前記スロープ部は、外周面のうち前記車軸に対して径方向外側に位置する面に、前記車軸方向視で前記車輪本体の外周面より曲率半径が大きい楕円弧形状を含む凸状の曲面を含む、車輪。
【請求項6】
車軸回りに回動する円板体を含む車輪本体と、
前記車軸と平行な腕回転軸回りに前記車輪本体に対して回動可能な腕部と、
前記腕部を重力に抗して所定の待機位置に保持しかつ前記腕部に対する前記腕回転軸回りの外力によって前記保持を解除する保持部と、
前記車輪本体の外周面と接触する位置と離隔する位置との間で移動可能かつ前記腕部とともに前記腕回転軸回りに回動するように前記腕部に連結されるスロープ部と、
前記腕部が前記腕回転軸を中心とする回転方向の前記待機位置を含む所定範囲にある場合に前記スロープ部を前記車輪本体の外周面から離隔させるスロープ位置調整機構と、
を備え、
前記車軸方向視で一部が前記スロープ部より前記車輪本体の径方向外側に突出する位置と前記スロープ部に収容される位置との間で前記スロープ部に対して前記車軸と平行な軸心回りに回動可能であって、前記腕部が前記待機位置にある状態において先端が前記スロープ部より前方に位置する段差検知部を備える、車輪。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の車輪と、
前記車輪を前記車軸回りに回転可能に支持する車体と、
を備える、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車輪及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
搬送台車等の車両に搭載される車輪は、許容する段差に限界があり、特に、車両が重量物を搬送する場合等、車輪に大きな荷重がかかる場合、低い段差であっても乗り越えることが困難である。例えば、特許文献1には、車輪より前方に突出したアームの先端を段差下に引っ掛け、アームの先端を支点にして車輪を持ち上げて段差を乗り越える手押し車が開示されている。また、特許文献2には、車輪が段差を乗り越えるためのスロープ部材を備え、段差の直前の任意のタイミングでスロープ部材を段差に懸架してスロープの上を車輪が走行可能な車輪走行体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-147470号公報
【文献】特開2018-175346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の車輪では、アームの先端が段差下に引っ掛かって車輪が持ち上がる瞬間に、依然として大きな牽引力がかかる。また、特許文献2の車輪では、使用者が任意のタイミングでスロープ部材を段差に懸架する必要がある。このため、例えば、積載された荷物によって前方の段差の位置が把握しづらい搬送台車等に適用する場合、段差の位置を都度確認してスロープ部材を懸架する搬送台車の位置を調整する必要があり煩雑である。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、段差を乗り越える際の負荷を低減させることができる車輪及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の車輪は、車軸回りに回動する円板体を含む車輪本体と、前記車軸と平行な腕回転軸回りに前記車輪本体に対して回動可能な腕部と、前記腕部を重力に抗して所定の待機位置に保持しかつ前記腕部に対する前記腕回転軸回りの外力によって前記保持を解除する保持部と、前記車輪本体の外周面と接触する位置と離隔する位置との間で移動可能かつ前記腕部とともに前記腕回転軸回りに回動するように前記腕部に連結されるスロープ部と、前記腕部が前記腕回転軸を中心とする回転方向の前記待機位置を含む所定範囲にある場合に前記スロープ部を前記車輪本体の外周面から離隔させるスロープ位置調整機構と、を備える。
【0007】
車輪の望ましい態様として、前記腕回転軸は、前記車軸と一致し、前記スロープ位置調整機構は、前記スロープ部を前記車輪本体の外周面から離隔する方向に常時付勢する付勢部と、前記スロープ部の前記車輪本体の外周面から離隔する方向への移動範囲を制限する制止部と、を備える。
【0008】
車輪の望ましい態様として、前記スロープ位置調整機構は、前記車軸と異なる位置に設けられる前記腕回転軸と、前記スロープ部を前記車輪本体の外周面に近接する方向に常時付勢する付勢部と、前記スロープ部の前記車輪本体の外周面に近接する方向への移動範囲を制限する制止部と、含み、前記腕部が前記所定範囲以外にある場合に前記スロープ部が前記車輪本体の外周面と接触させる。
【0009】
車輪の望ましい態様として、前記スロープ部は、外周面のうち前記車輪本体の外周面に接触する面に、前記車軸方向視で前記車輪本体の外周面と曲率半径が等しい円弧形状を含む凹状の曲面を含む。
【0010】
車輪の望ましい態様として、前記スロープ部は、外周面のうち前記車軸に対して径方向外側に位置する面に、前記車軸方向視で前記車輪本体の外周面より曲率半径が大きい楕円弧形状を含む凸状の曲面を含む。
【0011】
車輪の望ましい態様として、前記車軸方向視で一部が前記スロープ部より前記車輪本体の径方向外側に突出する位置と前記スロープ部に収容される位置との間で前記スロープ部に対して前記車軸と平行な軸心回りに回動可能であって、前記腕部が前記待機位置にある状態において先端が前記スロープ部より前方に位置する段差検知部を備える。
【0012】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の車両は、前記車輪と、前記車輪を前記車軸回りに回転可能に支持する車体と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、段差を乗り越える際の負荷を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1実施形態に係る車輪の構成例を模式的に示す側面図である。
図2図2は、図1に示す車輪の変形状態を示す側面図である。
図3図3は、図1に示す車輪の正面図である。
図4図4は、図1に示す車輪による段差乗り越え動作を説明する説明図である。
図5図5は、第2実施形態に係る車輪による段差乗り越え動作を説明する説明図である。
図6図6は、第3実施形態に係る車輪の構成例を模式的に示す側面図である。
図7図7は、図6に示す車輪の正面図である。
図8図8は、図7に示す車輪のスロープ部の軌道を説明する説明図である。
図9図9は、第1実施形態に係る車輪を搭載する適用例としての台車の構成例を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施形態の記載に限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した実施形態における構成要素は、本開示の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。以下の実施形態では、本開示の実施形態を例示する上で、必要となる構成要素を説明し、その他の構成要素を省略する。
【0016】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る車輪1の構成について、図1から図3までを参照して説明する。図1は、第1実施形態に係る車輪1の構成例を模式的に示す側面図である。図2は、図1に示す車輪1の変形状態を示す側面図である。図3は、図1に示す車輪1の正面図である。以下の説明において、車輪1が段差の乗り越えが可能な方向への回転方向を正回転方向Rfといい、正回転方向Rfとは反対側の回転方向を逆回転方向Rrという。正回転方向Rfは、図1及び図2において、時計方向である。逆回転方向Rrは、図1及び図2において、反時計方向である。
【0017】
第1実施形態の車輪1は、例えば、重量物を搬送する搬送台車等の車両に搭載される。車両は、例えば、左右対称に車輪1が配置される四輪車両(例えば、図9の台車100)が想定されるが、本開示ではこれに限定されない。また、第1実施形態の車輪1は、非駆動輪であるが、本開示ではこれに限定されず、駆動輪であってもよい。例えば、車両が自走車である場合、車輪1は、車輪1が搭載される車両の車体側に搭載される電源等のエネルギー源から、平地走行及び段差走行するための回転駆動力が供給される駆動輪であってもよい。
【0018】
車輪1は、第1実施形態において、車輪本体10と、腕部20と、保持部30と、スロープ部40と、付勢部50と、支持部90と、シャフト91と、を備える。支持部90は、車輪1が搭載される車両に固定される。支持部90は、車両の車体に対して、少なくとも水平軸回りの回動が規制される。シャフト91は、支持部90によって軸心が水平姿勢に支持される。
【0019】
車輪本体10は、車輪1の車軸Awを中心軸とする円板体である。車輪本体10は、車軸Aw回りに回動する。車輪本体10は、車軸Awに沿って貫通するシャフト孔11を有する。シャフト孔11には、シャフト91が貫通する。車輪本体10は、第1実施形態において、シャフト孔11を介してシャフト91によって、支持部90に対して車軸Aw回りに回動可能に支持される。
【0020】
車輪本体10の外周面12は、全周に亘って車輪1の転動周面を構成する。車輪本体10は、外周面12の周方向に沿って取り付けられる環状のタイヤ部(不図示)を有していてもよい。タイヤ部は、例えば、ゴム等で形成され、走行時における接地面から受ける車輪本体10への衝撃を吸収する。
【0021】
腕部20は、第1実施形態において、車輪本体10の両側面側に一対で設けられる。それぞれの腕部20は、長手方向が車輪本体10の径方向に延びる棒形状である。腕部20は、車軸Awと平行な腕回転軸Aa回りに車輪本体10に対して回動可能である。腕回転軸Aaは、第1実施形態において、車軸Awに一致する。腕部20は、一端部21が、車輪本体10に対して腕回転軸Aa回りに回動可能に支持される。腕部20は、第1実施形態において、一端部21とは反対側の端部である他端部22が、車軸Aw方向視で車輪本体10の外周面12より径方向外側に突出する。それぞれの腕部20は、軸孔23を有する。また、一対の腕部20は、連結部24によって互いに連結される。
【0022】
軸孔23は、腕部20の一端部21に腕回転軸Aaに沿って貫通する貫通孔である。軸孔23には、支持部90によって軸心が水平姿勢に支持されるシャフト91が挿通する。腕部20は、第1実施形態において、軸孔23を介してシャフト91によって、腕回転軸Aa回りに回動可能に支持される。
【0023】
連結部24は、腕部20の他端部22において、車輪本体10の外周面12より径方向外側に突出する部分に設けられる。連結部24は、一対の腕部20の間に設けられる後述のスロープ部40を支持する。連結部24は、第1実施形態において、車軸Awと平行な方向に延びて一対の腕部20を連結する柱状の軸部材である。連結部24は、一対の腕部20のいずれかと一体的に形成されてもよいし、別体に設けられて一対の腕部20に固定されてもよい。連結部24は、後述のスロープ部40の長孔41に挿通して設けられる。腕部20は、連結部24がスロープ部40の長孔41内を移動可能な範囲において、スロープ部40の腕部20に対する相対移動を許容する。連結部24は、後述の付勢部50の第1腕部52の先端部を固定する。
【0024】
保持部30は、第1実施形態において、支持部90に設けられる。保持部30は、所定の待機位置(図1に示す位置)にある一対の腕部20にそれぞれ対向する位置に固定されるよう一対で設けられる。保持部30は、第1実施形態において、支持部90の腕部20が設けられる側の側面から待機位置にある腕部20に向かって突出する突起部材である。腕部20は、待機位置において、腕部20の他端部22が腕回転軸Aaより車輪1の進行方向側かつ下方に位置する。また、腕部20が待機位置にある場合、後述のスロープ部40は、車輪1が走行する地面に接地しない。
【0025】
保持部30は、腕部20を重力に抗して所定の待機位置(図1に示す位置)に保持する。保持部30は、第1実施形態において、例えば、ゴム等で形成され、待機位置にある腕部20を摩擦によって保持する。また、保持部30は、待機位置より上方から自重によって腕回転軸Aa回りに回転する腕部20を、摩擦によって制止して待機位置に保持する。保持部30は、腕部20に対して腕回転軸Aa回りの外力を受けることによって、待機位置における保持を解除する。
【0026】
スロープ部40は、腕部20とともに腕回転軸Aa回りに回動するように腕部20の他端部22に連結される。スロープ部40は、車輪本体10の外周面12と接触する位置(図2に示す位置)と離隔する位置(図1に示す位置)との間で移動可能に設けられる。スロープ部40は、第1実施形態において、後述の付勢部50によって、車輪本体10の外周面12から離隔する方向に常時付勢される。スロープ部40は、車輪本体10の外周面12と接触する方向への外力を受けることによって、付勢部50による付勢力に抗して、車輪本体10の外周面12と接触するまで、外周面12に近接する方向に移動する。スロープ部40は、長孔41と、突起軸部42と、固定部43と、を有する。また、スロープ部40は、実施形態において、車軸Aw方向視が略三角形状の略三角柱体である。スロープ部40は、略三角柱体の3つの側面にそれぞれ対応する外周面に、第1曲面部44と、第2曲面部45と、平面部46と、を含む。
【0027】
長孔41は、腕回転軸Aaに平行な方向に貫通する貫通孔である。長孔41は、腕部20に対してスロープ部40が相対移動する方向に形成される。スロープ部40は、第1実施形態において、腕部20の長手方向、すなわち腕回転軸Aaを中心とする径方向に沿って移動する。すなわち、長孔41は、腕回転軸Aaを中心とする径方向に長手方向を有する。長孔41には、腕部20の連結部24が挿通する。
【0028】
連結部24及び長孔41は、スロープ部40の車輪本体10から離隔する方向への移動範囲を制限する制止部である。長孔41は、長手方向における車輪本体10側の端部が連結部24と接触することによって、スロープ部40の車輪本体10から離隔する方向への移動範囲を制限する。なお、スロープ部40は、車輪本体10の外周面12に接触することによって、車輪本体10へ近接する方向への移動範囲を制限される。
【0029】
突起軸部42は、スロープ部40の側面から腕回転軸Aaに平行な方向に突出して設けられる柱状の突起部材である。突起軸部42は、例えば、ボルト又はピン等でもよい。突起軸部42は、後述の付勢部50の折曲部51が外周の一部に沿って設けられる。突起軸部42は、折曲部51を支持する。
【0030】
固定部43は、スロープ部40の側面から腕回転軸Aaに平行な方向に突出して設けられる柱状の突起部材である。固定部43は、例えば、ボルト又はピン等でもよい。固定部43は、後述の付勢部50の第2腕部53の先端部を固定する。
【0031】
第1曲面部44は、略三角柱体の3つの側面のうち1つの側面に対応するスロープ部40の外周面の一部であって、車軸Awに対して径方向内側、すなわち車輪本体10の外周面12に対向する側に位置する面である。第1曲面部44は、車軸Aw方向視において、車輪本体10の外周面12と曲率半径が等しい円弧形状を含む凹状の曲面である。すなわち、スロープ部40が車輪本体10の外周面12に接触する位置にある場合、第1曲面部44は、車輪本体10の外周面12に沿って接触する。第1曲面部44が車輪本体10の外周面12に接触している状態では、腕部20及びスロープ部40は、腕回転軸Aa回りに車輪本体10と共回りする。第1曲面部44が車輪本体10の外周面12から離隔している状態では、腕部20及びスロープ部40は、車輪本体10と相対回転可能である。
【0032】
第2曲面部45は、略三角柱体の3つの側面のうち第1曲面部44とは異なる1つの側面に対応するスロープ部40の外周面の一部であって、車軸Awに対して径方向外側に位置する面である。第2曲面部45は、車軸Aw方向視において、車輪本体10の外周面12より曲率半径が大きい楕円弧形状を含む凸状の曲面である。第2曲面部45の正回転方向Rf側の端縁は、第1曲面部44の正回転方向Rf側の端縁に接続する。第2曲面部45は、第1曲面部44が車輪本体10の外周面12に接触している状態において、車軸Aw方向視の外形線を正回転方向Rf側に延ばした仮想の延長曲線に、車輪本体10の外周面12が内接するように設けられることが好ましい。第2曲面部45は、腕部20が保持部30から解除されてスロープ部40が地面に接地する状態において、地面を転動する(後述の図4のステップS12、S13、S14を参照)。
【0033】
平面部46は、略三角柱体の3つの側面のうち第1曲面部44及び第2曲面部45とは異なる1つの側面に対応するスロープ部40の外周面の一部であって、逆回転方向Rr側に位置する面である。平面部46は、車輪本体10の外周面12側の端縁で、第1曲面部44の逆回転方向Rr側の端縁に接続する。平面部46は、車輪本体10の外周面12側とは反対側の端縁で、第2曲面部45の逆回転方向Rr側の端縁に接続する。腕部20が待機位置(図1に示す位置)にある状態において、平面部46は、車輪本体10の外周面12側の端縁より車輪本体10の外周面12側とは反対側の端縁が進行方向に位置する。すなわち、第1実施形態の車輪1は、腕部20が待機位置(図1に示す位置)にある状態で段差に到達した場合、第2曲面部45と平面部46との間の縁部47が段差面Sに接触する(後述の図4のステップS11を参照)。
【0034】
付勢部50は、第1実施形態において、スロープ部40を車輪本体10の外周面12から離隔する方向に常時付勢する。付勢部50は、第1実施形態において、板ばねを含む。付勢部50は、第1実施形態において、折曲部51と、第1腕部52と、第2腕部53と、を含む。
【0035】
折曲部51は、突起軸部42の外周の一部に沿って設けられる。付勢部50は、突起軸部42に支持される折曲部51を支点に腕回転軸Aaと平行な軸回りに曲げ変形する。第1腕部52は、折曲部51の一端から腕回転軸Aaと垂直な一方向に引き出された部分である。第1腕部52は、腕部20の連結部24に固定される。第2腕部53は、折曲部51の他端から腕回転軸Aaと平行かつ一方向とは異なる他方向に引き出された部分である。第2腕部53は、固定部43に固定される。
【0036】
付勢部50及び制止部(連結部24及び長孔41)は、第1実施形態において、少なくとも腕部20が腕回転軸Aaを中心とする回転方向の待機位置(図1に示す位置)を含む所定範囲にある場合に、スロープ部40を車輪本体10の外周面12から離隔させるスロープ位置調整機構を構成する。
【0037】
次に、車輪1の動作について、図4を参照して説明する。図4は、図1に示す車輪1による段差乗り越え動作を説明する説明図である。図4に示すように、車輪1は、正回転方向Rfに回転する方向に移動しているものとし、進行方向に段差があるものとする。なお、図4に示す段差の高さは、スロープ部40の平面部46の車軸Aw方向視の長さと同等であることを想定するが、本開示ではこれに限定されない。
【0038】
図4のステップS11に示すように、車輪1は、腕部20が保持部30によって待機位置に保持されている場合、スロープ部40が地面より上方に離隔した位置に保持されるため、車輪本体10の外周面12のみが地面に接地する。これにより、車輪1は、通常の車輪と同様な走行が可能である。車輪1が段差に到達すると、最初にスロープ部40の縁部47が段差面Sに接触する。
【0039】
図4のステップS12に示すように、さらに車輪1が正回転方向Rfに転動すると、スロープ部40は、段差面Sから後方への反力に押される。これにより、スロープ部40は、車輪本体10の外周面12に近接する方向の力を受ける。スロープ部40は、車輪本体10の外周面12に近接する方向への外力を受けることによって、付勢部50による付勢力に抗して、外周面12に近接する方向に移動する。この際、連結部24は、スロープ部40の長孔41内を、車輪本体10側とは反対側の端部に向かって移動する。また、スロープ部40が段差面Sから後方への反力に押されることによって、腕部20は、スロープ部40の長孔41及び連結部24を介して、正回転方向Rfの力を受ける。これにより、腕部20は、保持部30の摩擦力に抗して正回転方向Rfに回転し、保持部30による保持から解除される。
【0040】
図4のステップS13に示すように、保持部30から保持を解除された腕部20は、自重によって正回転方向Rfに回転する。スロープ部40は、第2曲面部45が地面に接地する。スロープ部40は、段差面S及び地面からの反力に押されるので、付勢部50による付勢力に抗して、車輪本体10の外周面12に近接する方向に移動し、第1曲面部44が外周面12と接触する。車輪1は、外周面12に接触したスロープ部40が車輪本体10の回転に巻き込まれて、腕部20及びスロープ部40が車輪本体10と共回りを開始するともに、車輪本体10がスロープ部40に乗り上げる。車輪1は、第2曲面部45が地面を転動する。
【0041】
図4のステップS14に示すように、さらに車輪1が正回転方向Rfに転動すると、車輪本体10が段差の角に接触する。この際、スロープ部40の平面部46の高さによって、車輪本体10の外周面12と段差との間の落差が小さくなる(図4に示す段差では落差がなくなる)ので、車輪1は、車輪本体10がスロープ部40を土台にして、容易に段差を乗り越えることができる。
【0042】
なお、車輪1が段差を乗り越えて、車輪本体10にかかる荷重がスロープ部40にかからなくなると、スロープ部40は、付勢部50の付勢力によって、再び車輪本体10の外周面12から離隔する。使用者は、例えば手動で腕部20を正回転方向Rfに回転させて待機位置に戻す。車輪1は、段差を乗り越えた後の腕部20及びスロープ部40が、車輪本体10の上端を超えて進行方向側に位置するまで車輪本体10と共回りするためのガイド手段を備えていてもよい。
【0043】
以上で説明したように、第1実施形態の車輪1は、車輪本体10と、腕部20と、保持部30と、スロープ部40と、スロープ位置調整機構と、を備える。車輪本体10は、車軸Aw回りに回動する円板体を含む。腕部20は、車軸Awと平行な腕回転軸Aa回りに車輪本体10に対して回動可能である。保持部30は、腕部20を重力に抗して所定の待機位置に保持しかつ腕部20に対する腕回転軸Aa回りの外力によって保持を解除する。スロープ部40は、車輪本体10の外周面12と接触する位置と離隔する位置との間で移動可能かつ腕部20とともに腕回転軸Aa回りに回動するように腕部20に連結される。スロープ位置調整機構は、腕部20が腕回転軸Aaを中心とする回転方向の待機位置を含む所定範囲にある場合にスロープ部40を車輪本体10の外周面12から離隔させる。
【0044】
第1実施形態の車輪1は、スロープ部40が車輪本体10の外周面12と接触する場合に車輪本体10と共回りし、スロープ部40が車輪本体10の外周面12と離隔する場合に車輪本体10に対して相対回転する。すなわち、腕部20が待機位置にある場合、スロープ部40が車輪本体10の外周面12と離隔するので、スロープ部40及び腕部20が車輪本体10に対して相対回転可能である。したがって、車輪1が平地を走行している際には、保持部30によって腕部20を待機位置に保持することによって、腕部20及びスロープ部40を待機位置に維持することができる。
【0045】
車輪1が段差に到達して、腕部20又はスロープ部40が段差に接触すると、段差からの反力によって、腕部20が正回転方向Rfへの力を受ける。これにより、腕部20は、保持部30による保持が解除されて正回転方向Rfへ回転する。腕部20の回転に伴って、スロープ部40が地面に接地すると、スロープ部40は、地面から車輪本体10の外周面12に近接する方向に力を受けて、外周面12に近接する方向に移動し、外周面12に接触する。これにより、スロープ部40及び腕部20が車輪本体10と共回りを開始する。車輪1は、車輪本体10がスロープ部40に乗り上げ、土台にすることによって、段差を乗り越える際の負荷を低減させることができる。
【0046】
また、第1実施形態の車輪1において、腕回転軸Aaは、車軸Awと一致する。また、スロープ位置調整機構は、スロープ部40を車輪本体10の外周面12から離隔する方向に常時付勢する付勢部50と、スロープ部40の車輪本体10の外周面12から離隔する方向への移動範囲を制限する制止部(連結部24及び長孔41)と、を備える。これにより、スロープ部40が車輪本体10の外周面12と接触する位置と離隔する位置との間で移動可能、かつ腕部20が腕回転軸Aaを中心とする回転方向の待機位置を含む所定範囲にある場合にスロープ部40を車輪本体10の外周面12から離隔させる構成を実現できる。
【0047】
また、第1実施形態の車輪1において、スロープ部40は、外周面のうち車輪本体10の外周面12に接触する面に、車軸Aw方向視で車輪本体10の外周面12と曲率半径が等しい円弧形状を含む凹状の曲面(第1曲面部44)を含む。これにより、スロープ部40が車輪本体10の外周面12に接触している状態において、スロープ部40及び腕部20を、車輪本体10と好適に共回りさせることができる。
【0048】
また、第1実施形態の車輪1において、スロープ部40は、外周面のうち車軸Awに対して径方向外側に位置する面に、車軸Aw方向視で車輪本体10の外周面12より曲率半径が大きい楕円弧形状を含む凸状の曲面(第2曲面部45)を含む。これにより、車輪本体10がスロープ部40に乗り上げて土台にする際、車輪1を滑らかに転動させることができる。
【0049】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る車輪2の構成及び動作について、図5を参照して説明する。図5は、第2実施形態に係る車輪2による段差乗り越え動作を説明する説明図である。
【0050】
第2実施形態に係る車輪2について、第1実施形態に係る車輪1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。第2実施形態に係る車輪2は、第1実施形態に係る車輪1と比較して、段差検知部60をさらに備える点で異なる。
【0051】
段差検知部60は、スロープ部40に対して、車軸Awと平行な軸心回りに回動可能に設けられる。段差検知部60は、車軸Awと平行な方向に貫通する軸孔61を有する。軸孔61には、スロープ部40の突起軸部42が挿通する。段差検知部60は、第2実施形態において、軸孔61を介して、スロープ部40に対して突起軸部42の軸心回りに回動する。
【0052】
段差検知部60は、車軸Aw方向視において、スロープ部40の第2曲面部45より径方向内側に収容される収容位置(ステップS24に示す位置)と、第2曲面部45より径方向外側に一部が突出する突出位置(ステップS21に示す位置)との間でスロープ部40に対して回動可能である。
【0053】
段差検知部60は、突出位置より正回転方向Rfへの回転を規制される。なお、段差検知部60は、第2実施形態において、腕部20の連結部24によって、収容位置より逆回転方向Rrへの回転を規制される。段差検知部60は、腕部20が待機位置(ステップS21に示す位置)にある状態において、車輪2が走行する地面に接地しない。
【0054】
段差検知部60は、第2実施形態において、車軸Aw方向視で長手方向が逆回転方向Rrに屈曲するL字形状である。段差検知部60は、腕部20が待機位置(ステップS21に示す位置)にある状態において、L字形状の先端側の検知部62が、スロープ部40の進行方向の端部より前方に位置する。すなわち、第2実施形態の車輪2は、腕部20が待機位置にある状態で段差に到達した場合、段差検知部60の検知部62が段差面Sに接触する(ステップS22を参照)。
【0055】
段差検知部60の検知部62が段差面Sと接触して後方への反力を受けると、スロープ部40は、軸孔61及び突起軸部42を介して、後方への力を受ける。これにより、スロープ部40が付勢部50の付勢力に抗して車輪本体10の外周面12へ近接する方向への力を受けるとともに、腕部20が正回転方向Rfへの力を受ける。
【0056】
図5のステップS21に示すように、車輪2は、腕部20が保持部30によって待機位置に保持されている場合、スロープ部40が地面より上方に離隔した位置に保持されるため、車輪本体10の外周面12のみが地面に接地する。これにより、車輪2は、通常の車輪と同様な走行が可能である。車輪2が段差に到達すると、最初に段差検知部60の検知部62が段差面Sに接触する。
【0057】
図5のステップS22に示すように、さらに車輪2が正回転方向Rfに転動すると、段差検知部60は、段差面Sから後方への反力に押される。これにより、スロープ部40は、段差検知部60の軸孔61及び突起軸部42を介して、車輪本体10の外周面12に近接する方向の力を受ける。スロープ部40は、車輪本体10の外周面12に近接する方向への外力を受けることによって、付勢部50による付勢力に抗して、外周面12に近接する方向に移動する。この際、連結部24は、スロープ部40の長孔41内を、車輪本体10側とは反対側の端部に向かって移動する。また、スロープ部40が段差検知部60を介して段差面Sから後方への反力に押されることによって、腕部20は、スロープ部40の長孔41及び連結部24を介して、正回転方向Rfの力を受ける。これにより、腕部20は、保持部30の摩擦力に抗して正回転方向Rfに回転し、保持部30による保持から解除される。
【0058】
図5のステップS23に示すように、保持部30から保持を解除された腕部20は、自重によって正回転方向Rfに回転する。スロープ部40は、第2曲面部45が地面に接地する。スロープ部40は、段差面S及び地面からの反力に押されるので、付勢部50による付勢力に抗して、車輪本体10の外周面12に近接する方向に移動し、第1曲面部44が外周面12と接触する。車輪2は、外周面12に接触したスロープ部40が車輪本体10の回転に巻き込まれて、腕部20及びスロープ部40が車輪本体10と共回りを開始するともに、車輪本体10がスロープ部40に乗り上げる。車輪2は、第2曲面部45が地面を転動する。また、この際、段差検知部60は、地面に接地すると、地面に接地しながらスロープ部40の第2曲面部45より径方向内側に収容される方向に回転する。
【0059】
図5のステップS24に示すように、さらに車輪2が正回転方向Rfに転動すると、車輪本体10が段差の角に接触する。この際、スロープ部40の平面部46の高さによって、車輪本体10の外周面12と段差との間の落差が小さくなる(図4に示す段差では落差がなくなる)ので、車輪2は、車輪本体10がスロープ部40を土台にして、容易に段差を乗り越えることができる。なお、この際、段差検知部60は、スロープ部40の第2曲面部45より径方向内側に収容される。
【0060】
なお、車輪2が段差を乗り越えて、車輪本体10にかかる荷重がスロープ部40にかからなくなると、スロープ部40は、付勢部50の付勢力によって、再び車輪本体10の外周面12から離隔する。使用者は、例えば手動で腕部20を正回転方向Rfに回転させて待機位置に戻す。車輪2は、段差を乗り越えた後の腕部20及びスロープ部40が、車輪本体10の上端を超えて進行方向側に位置するまで車輪本体10と共回りするためのガイド手段を備えていてもよい。
【0061】
以上で説明したように、第2実施形態の車輪2は、段差検知部60を備える。段差検知部60は、車軸Aw方向視で一部がスロープ部40より車輪本体10の径方向外側に突出する位置とスロープ部40に収容される位置との間でスロープ部40に対して車軸Awと平行な軸心回りに回動可能である。段差検知部60は、腕部20が待機位置にある状態において先端(検知部62)がスロープ部40より前方に位置する。
【0062】
これにより、第2実施形態の車輪2は、腕部20が待機位置にある場合のスロープ部40の前端より下方に段差検知部60の先端(検知部62)を設けることが可能である。したがって、段差検知部60を備えない場合と比較して、スロープ部40の下端の位置を高くできるので、車輪2が凹凸を有する地面を走行する場合等に、スロープ部40が地面の凸部に引っ掛かって、予期せず保持部30による腕部20の保持を解除することを抑制できる。
【0063】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る車輪3の構成及び動作について、図6から図8までを参照して説明する。図6は、第3実施形態に係る車輪3の構成例を模式的に示す側面図である。図7は、図7に示す車輪3の正面図である。
【0064】
第3実施形態に係る車輪3について、第1実施形態に係る車輪1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。第3実施形態に係る車輪3は、第1実施形態に係る車輪1と比較して、腕部20及び付勢部50の代わりに、腕部70及び付勢部80を備え、さらに、シャフト92を備える点で異なる。シャフト92は、支持部90によって軸心が水平姿勢に支持される。
【0065】
腕部70は、第3実施形態において、車輪本体10の一方の側面側に設けられる。腕部70は、長手方向が車輪本体10の径方向に延びる棒形状である。腕部70は、車軸Awと平行な腕回転軸Aa回りに車輪本体10に対して回動可能である。腕回転軸Aaは、第3実施形態において、車軸Awと異なる位置に設けられる。腕部70は、一端部71が、車輪本体10に対して腕回転軸Aa回りに回動可能に支持される。腕部70は、第3実施形態において、一端部71とは反対側の端部である他端部72が、車軸Aw方向視で車輪本体10の外周面12より径方向外側に突出する。腕部70は、所定の待機位置(図7に示す位置)において、保持部30によって保持される。腕部70は、軸孔73と、連結部74と、を有する。
【0066】
軸孔73は、腕部70の一端部71に腕回転軸Aaに沿って貫通する貫通孔である。軸孔73には、支持部90によって軸心が水平姿勢に支持されるシャフト92が貫通する。腕部70は、第3実施形態において、軸孔73を介してシャフト92によって、腕回転軸Aa回りに回動可能に支持される。
【0067】
連結部74は、腕部70の他端部72において、車輪本体10の外周面12より径方向外側に突出する部分に設けられる。連結部74は、腕部70と一体的に形成されてもよいし、別体に設けられて腕部70に固定されてもよい。連結部74は、スロープ部40を支持する。連結部74は、第3実施形態において、腕回転軸Aaと平行な方向に延びて、スロープ部40の長孔41に挿通して設けられる柱状の軸部材である。腕部70は、連結部74がスロープ部40の長孔41内を移動可能な範囲において、スロープ部40の腕部70に対する相対移動を許容する。連結部74は、後述の付勢部80の腕部82の先端部を固定する。
【0068】
付勢部80は、第3実施形態において、スロープ部40を車輪本体10の外周面12に近接する方向に常時付勢する。付勢部80は、第3実施形態において、板ばねを含む。付勢部80は、第3実施形態において、支点部81と、腕部82と、を含む。
【0069】
支点部81は、突起軸部42に固定して設けられる。腕部82は、支点部81から腕回転軸Aaと垂直な一方向に引き出された部分である。腕部82の支点部81とは反対側の先端は、腕部20の連結部74に固定される。腕部82は、腕回転軸Aaと平行な軸回りに曲げ変形する。
【0070】
第3実施形態のスロープ部40は、付勢部80によって、車輪本体10の外周面12に近接する方向に常時付勢される。スロープ部40は、腕回転軸Aaを中心とする径方向外側への力を受けることによって、付勢部80による付勢力に抗して、腕回転軸Aaを中心とする径方向外側方向に移動する。
【0071】
連結部74及び長孔41は、スロープ部40の車輪本体10から離隔する方向及び車輪本体10に近接する方向への移動範囲を制限する制止部である。長孔41は、長手方向における車輪本体10側の端部が連結部74と接触することによって、スロープ部40の車輪本体10から離隔する方向への移動範囲を制限する。長孔41は、長手方向における車輪本体10側とは反対側の端部が連結部74と接触することによって、スロープ部40の車輪本体10に近接する方向への移動範囲を制限する。
【0072】
車軸Awと異なる位置に設けられる腕回転軸Aa、付勢部80、制止部(連結部74及び長孔41)は、第3実施形態において、少なくとも腕部20が腕回転軸Aaを中心とする回転方向の待機位置(図6に示す位置)を含む所定範囲にある場合に、スロープ部40を車輪本体10の外周面12から離隔させるスロープ位置調整機構を構成する。
【0073】
図8は、図7に示す車輪3のスロープ部40の軌道Tsを説明する説明図である。図6に示したように、腕回転軸Aaは、車軸Awと異なる位置に設けられる。このため、腕部70の他端部72は、車軸Aw方向視で車輪本体10の外周面12より径方向外側に突出する量が一定ではない。より詳しくは、車軸Aw方向視で車軸Awに対して腕回転軸Aa側に腕部70の他端部72が位置する場合、突出量が最も大きい。
【0074】
腕部70が他端部72の突出量が大きい範囲70cにある場合、スロープ部40が腕部70に対して最も車輪本体10の外周面12に近接する位置であっても、スロープ部40は、車輪本体10の外周面12に接触しない。この際、スロープ部40は、制止部(連結部74及び長孔41)によって、腕部70に対して、最も車輪本体10の外周面12に近接する位置に維持される。すなわち、腕部70が範囲70cにある場合、腕部70及びスロープ部40は、車輪本体10と共回りせず、自重によって正回転方向Rfに回転して待機位置(図6に示す位置)で停止する。
【0075】
腕部70が他端部72の突出量が小さい範囲70bにある場合、スロープ部40は、車輪本体10の外周面12に接触する。この際、スロープ部40は、第1曲面部44が車輪本体10の外周面12に径方向外側に押されて、付勢部80の付勢力に抗して腕部70に対して径方向外側へ移動する。スロープ部40は、付勢部80の付勢力によって、車輪本体10の外周面12に押し付けられる。すなわち、腕部70が範囲70bにある場合、腕部70及びスロープ部40は、車輪本体10と共回りする。
【0076】
腕部70が範囲70cと範囲70bとの間であって、待機位置(図6に示す位置)を含む範囲70aにある場合、スロープ部40は、車輪本体10の外周面12に接触する位置と離隔する位置との間で移動可能である。すなわち、スロープ部40は、段差又は地面等から外力を受けて腕部70に対して径方向内側へ移動することによって、車輪本体10の外周面12に接触する。すなわち、腕部70が範囲70aにある場合、かつスロープ部40が径方向内側への外力を受けた場合、腕部70及びスロープ部40は、車輪本体10と共回りする。
【0077】
以上で説明したように、第3実施形態の車輪3において、スロープ位置調整機構は、車軸Awと異なる位置に設けられる腕回転軸Aaと、スロープ部40を車輪本体10の外周面12に近接する方向に常時付勢する付勢部80と、スロープ部40の車輪本体10の外周面12に近接する方向への移動範囲を制限する制止部(連結部74及び長孔41)と、を含む。スロープ位置調整機構は、腕部70が所定範囲以外にある場合にスロープ部40が車輪本体10の外周面12と接触させる。
【0078】
第3実施形態の車輪3は、スロープ部40が車輪本体10の外周面12と接触する位置と離隔する位置との間で移動可能、かつ腕部20が腕回転軸Aaを中心とする回転方向の待機位置を含む所定範囲にある場合にスロープ部40を車輪本体10の外周面12から離隔させる構成を簡便な構成で実現できる。また、腕部70が所定範囲以外にある場合にスロープ部40が車輪本体10の外周面12と接触させることにより、所定範囲以外で腕部70及びスロープ部40が車輪本体10と共回りできるので、段差を乗り越えた後、車輪3の走行にともなって腕部70を待機位置まで復帰させることができる。
【0079】
(適用形態)
次に、第1実施形態の車輪1の適用例としての台車100の構成について、図9を参照して説明する。図9は、第1実施形態に係る車輪1を搭載する適用例としての台車100の構成例を模式的に示す側面図である。
【0080】
適用形態の台車100は、重量物を積載する積載部を含む車体101と、4つの車輪1と、連結部102と、を備える。車体101には、4つの車輪1の支持部90が鉛直軸回りに回動可能に支持される。4つの車輪1は、車体101の前後左右(左右方向は、図9の紙面に垂直な方向)に配置される。それぞれの車輪1は、車軸Awが水平姿勢になるように配置される。車輪1は、台車100が進行方向に走行する時、左右2つの車輪1の車軸Awが同軸となるように設けられる。
【0081】
連結部102は、台車100の車体101の中央部に設けられる。連結部102は、少なくとも車体101の下面側に開口する凹部を含む。連結部102には、後述の自動牽引車200の連結部204が挿通する。台車100は、連結部102を介して自動牽引車200に牽引される。自動牽引車200は、車体201と、4つの駆動輪202と、2つの無端ベルト203と、連結部204と、を備える。車体201には、4つの駆動輪202及び連結部204の駆動機構に供給する電力の電源、制御装置等(不図示)が搭載される。
【0082】
4つの駆動輪202は、車体201の前後左右に配置される。それぞれの駆動輪202は、車軸が水平姿勢かつ進行方向に直交するように配置される。左右2つの駆動輪202は、車軸が同軸となるように設けられる。なお、4つの駆動輪202のうち、前側2つの駆動輪202及び後側2つの駆動輪202のいずれかは、従動輪であってもよい。
【0083】
無端ベルト203は、前後2つの駆動輪202の間に掛け回される。無端ベルト203の下面は、自動牽引車200が走行する際に地面に接地する走行面である。自動牽引車200の左右方向への旋回は、操舵にステアリング装置を用いるのではなく、右側の駆動輪202と左側の駆動輪202との回転速度差を用いる。
【0084】
連結部204は、車体201に対して昇降可能に設けられる。連結部204が車体201に対して最も下方に位置する際、連結部204の上端は、台車100の連結部102の下端より下方に位置する。連結部204が車体201に対して最も上方に位置する際、連結部204の上端は、台車100の連結部102の下端より上方に位置する。連結部204は、自動牽引車200が台車100の下方に潜り込んだ位置において、車体201に対して上昇することによって、台車100の連結部102に挿通する。これにより、自動牽引車200は、連結部204を介して、台車100を水平方向に牽引可能である。
【0085】
なお、適用形態では、第1実施形態の車輪1を台車100に適用したが、第2実施形態の車輪2又は第3実施形態の車輪3を台車100に適用してもよい。また、適用形態では、走行するための駆動源を有さず、自動牽引車200に牽引される台車100に車輪1を適用したが、駆動源を有する車両に車輪1、2、3を適用してもよい。
【0086】
以上で説明したように、適用形態の台車100(車両)は、車輪1と、車輪1を車軸Aw回りに回転可能に支持する車体101と、を備える。適用形態の台車100(車両)の車輪1は、スロープ部40が車輪本体10の外周面12と接触する場合に車輪本体10と共回りし、スロープ部40が車輪本体10の外周面12と離隔する場合に車輪本体10に対して相対回転する。すなわち、腕部20が待機位置にある場合、スロープ部40が車輪本体10の外周面12と離隔するので、スロープ部40及び腕部20が車輪本体10に対して相対回転可能である。したがって、台車100が平地を走行している際には、保持部30によって腕部20を待機位置に保持することによって、腕部20及びスロープ部40を待機位置に維持することができる。
【0087】
台車100が段差に到達して、車輪1の腕部20又はスロープ部40が段差に接触すると、段差からの反力によって、腕部20が正回転方向Rfへの力を受ける。これにより、腕部20は、保持部30による保持が解除されて正回転方向Rfへ回転する。腕部20の回転に伴って、スロープ部40が地面に接地すると、スロープ部40は、地面から車輪本体10の外周面12に近接する方向に力を受けて、外周面12に近接する方向に移動し、外周面12に接触する。これにより、スロープ部40及び腕部20が車輪本体10と共回りを開始する。台車100は、車輪1の車輪本体10がスロープ部40に乗り上げ、土台にすることによって、段差を乗り越える際の負荷を低減させることができる。
【符号の説明】
【0088】
1、2、3 車輪
10 車輪本体
11 シャフト孔
12 外周面
20、70 腕部
21、71 一端部
22、72 他端部
23、73 軸孔
24、74 連結部
30 保持部
40 スロープ部
41 長孔
42 突起軸部
43 固定部
44 第1曲面部
45 第2曲面部
46 平面部
47 縁部
50、80 付勢部
51 折曲部
52 第1腕部
53 第2腕部
60 段差検知部
61 軸孔
62 検知部
70a、70b、70c 範囲
81 支点部
82 腕部
90 支持部
91、92 シャフト
100 台車
101 車体
102 連結部
200 自動牽引車
201 車体
202 駆動輪
203 無端ベルト
204 連結部
Aw 車軸
Aa 腕回転軸
Rf 正回転方向
Rr 逆回転方向
S 段差面
Ts 軌道
S11、S12、S13、S14、S21、S22、S23、S24 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9