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特許7492487等価サンプリング信号の評価方法及び評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】等価サンプリング信号の評価方法及び評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/02 20060101AFI20240522BHJP
   G01R 29/26 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
G01R29/02 L
G01R29/26 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021077283
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022170971
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000121844
【氏名又は名称】応用地質株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一徳
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-135507(JP,A)
【文献】特開2001-133485(JP,A)
【文献】特開2006-211654(JP,A)
【文献】特開2009-271078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 29/00-29/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号に対する等価サンプリングにより得られた複数の等価サンプリング信号(s(t))の平均信号を算出する工程と、
前記平均信号の振幅の傾きが0付近での前記等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σa)を算出する工程と、
前記平均信号の振幅の傾きを基準に設定された複数の区間ごとに、前記等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σtotal)を算出する工程と、
前記区間ごとの時間誤差の標準偏差(σt)を、前記振幅の傾きが0付近での等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σa)と、前記区間ごとの等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σtotal)と、前記区間における前記平均信号の振幅の傾きとを用いて算出する工程とを備えており、
前記時間誤差は、前記信号に対する前記等価サンプリングのタイミングの相対的なずれであることを特徴とする、等価サンプリング信号の評価方法。
【請求項2】
前記時間誤差の標準偏差(σt)は式(2)により算出されるようになっており、
ここで前記式(2)は
と表すことができるものであり、ここで
は前記平均信号の振幅の傾きである
請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
信号に対する等価サンプリングにより得られた等価サンプリング信号を取得する信号取得部と、評価部とを備えており、
前記評価部は、
複数の等価サンプリング信号(s(t))の平均信号を算出する処理と、
前記平均信号の振幅の傾きが0付近での前記等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σa)を算出する処理と、
前記平均信号の振幅の傾きを基準に設定された複数の区間ごとに、前記等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σtotal)を算出する処理と、
前記区間ごとの時間誤差の標準偏差(σt)を、前記振幅の傾きが0付近での等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σa)と、前記区間ごとの等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σtotal)と、前記区間における前記平均信号の振幅の傾きとを用いて算出する処理とを少なくとも行う構成となっており、
前記時間誤差は、前記信号に対する前記等価サンプリングのタイミングの相対的なずれである、等価サンプリング信号の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等価サンプリング信号の評価方法及び評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中レーダ等における高周波信号の収録においては、等価サンプリングが用いられることが多い。等価サンプリングを用いることにより、AD変換器等サンプラー自体のサンプリング周波数が比較的に低くても、ナイキスト周波数より高い周波数を含む高周波信号をサンプルすることができる。
【0003】
ところで、等価サンプリングにおいて、収録後の信号には(1)機器内部トリガ信号のジッタ(時間軸方向の誤差)の影響と、(2)素子による雑音(振幅方向の誤差)の影響とが同様に含まれており、それぞれを分離して評価することができない。
【0004】
下記非特許文献1では、ジッタおよび雑音の量を信号の誤差分布より定量的に求めることを提案している。しかしながら、この文献の技術では、処理が煩雑でありかつ解の安定が得にくいという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】K. J. Coakley, C. M. Wang, P. D. Hale, and T. S. Clement, "Adaptive characterization of jitter noise in sampled high-speed signals," IEEE Trans. Instrum. Meas., vol. 52, no. 5, pp. 1537-1547, Oct. 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、等価サンプリング信号における雑音とは別にジッタを評価できる技術を提供することである。本発明のさらなる目的は、この評価を簡便にかつ安定して行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の項目に記載の発明として表現することができる。
【0008】
(項目1)
複数の等価サンプリング信号(s(t))の平均信号を算出する工程と、
前記平均信号の振幅の傾きが0付近での前記等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σa)を算出する工程と、
前記平均信号の振幅の傾きを基準に設定された複数の区間ごとに、前記等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σtotal)を算出する工程と、
前記区間ごとの時間誤差の標準偏差(σt)を、前記振幅の傾きが0付近での等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σa)と、前記区間ごとの等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σtotal)と、前記区間における前記平均信号の振幅の傾きとを用いて算出する工程とを備えることを特徴とする、等価サンプリング信号の評価方法。
【0009】
(項目2)
前記時間誤差の標準偏差(σt)は式(2)により算出されるようになっており、
ここで前記式(2)は
と表すことができるものであり、ここで
は前記平均信号の振幅の傾きである
項目1に記載の評価方法。
【0010】
(項目3)
等価サンプリング信号を取得する信号取得部と、評価部とを備えており、
前記評価部は、
複数の等価サンプリング信号(s(t))の平均信号を算出する処理と、
前記平均信号の振幅の傾きが0付近での前記等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σa)を算出する処理と、
前記平均信号の振幅の傾きを基準に設定された複数の区間ごとに、前記等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σtotal)を算出する処理と、
前記区間ごとの時間誤差の標準偏差(σt)を、前記振幅の傾きが0付近での等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σa)と、前記区間ごとの等価サンプリング信号と前記平均信号との間の振幅誤差の標準偏差(σtotal)と、前記区間における前記平均信号の振幅の傾きとを用いて算出する処理とを少なくとも行う構成となっている、等価サンプリング信号の評価装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の技術によれば、等価サンプリング信号における雑音とは別にジッタを評価することができ、さらには、この評価を簡便にかつ安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】等価サンプリング信号を取得するシステムの一例の概略的なブロック図である。
図2】等価サンプリング信号を説明するための説明図である。
図3】図(a)は振幅誤差、図(b)は時間誤差、図(c)は時間誤差が振幅誤差として観測される状況をそれぞれ説明するための説明図である。
図4】信号振幅の傾きによって振幅誤差が変わることを説明するための説明図であって、横軸は時間、縦軸は振幅である。
図5】本発明の一実施形態に係る信号評価装置の概略的なブロック図である。
図6】本発明の一実施形態に係る等価サンプリング信号の評価方法を説明するための流れ図である。
図7】信号の傾斜と振幅誤差との関係を概念的に説明するための説明図である。
図8】実施例1のシミュレーション条件を説明するための説明図であり、横軸は時間(ns)、縦軸は振幅を示している。
図9】実施例1における振幅の傾きと振幅誤差との関係を示すグラフである。
図10】振幅の傾きによる区間分けを説明するための説明図である。
図11】振幅の傾きと、ジッタおよび雑音による振幅誤差の標準偏差との関係を示すグラフである。
図12】実施例1において推定したS/N比を示すグラフである。
図13】実施例1において推定したジッタを示すグラフである。
図14】実施例2において観測された信号を示すグラフである。
図15】実施例2における信号の傾きと振幅誤差との関係を示すグラフである。
図16】実施例2における区間ごとの信号の傾きと標準偏差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る等価サンプリング信号の評価方法及びそれに用いる評価装置を、添付の図面を参照しながら説明する。まず、説明の前提として、等価サンプリング信号の取得及びその性質について説明する。
【0014】
(等価サンプリング信号の取得)
図1に、等価サンプリング信号を取得するシステムの概略的な構成例を示す。このシステムでは、トリガ信号源1からのトリガ信号により、信号源2が、図2に示すような波形の信号を繰り返して発信する。
【0015】
一方、トリガ信号は、可変ディレイライン3を経由して、サンプラー4に送られる。サンプラー4では、トリガ信号により、信号源2からの信号をサンプルする。ここで、サンプラー4は、可変ディレイライン3で決定された遅延時間に基づいてサンプリングタイミングをずらす。具体的には、この例では、図2に示すように、トリガ信号を、所望のサンプリング周期と同じ時間tだけ遅らせる。
【0016】
それぞれの遅延時間で得られたサンプルを並べると、サンプリング周波数fs=1/tsでサンプルした受信信号(つまり等価サンプリング信号)を得ることができる(図2の下段を参照)。
【0017】
前記の例では、トリガ信号によりサンプラーの受信タイミングを遅らせたが、信号源からの発信タイミングをずらしても、前記と同様の受信信号を得ることができる。
【0018】
(等価サンプリング信号の性質)
等価サンプリング信号における誤差の原因としては、相加性雑音(以下単に「雑音」ということがある)と、タイミングジッタ(以下単に「ジッタ」)とがある。
【0019】
相加性雑音は、各素子の熱雑音などに起因するものであり、振幅方向の誤差である(図3(a)参照)。タイミングジッタは、ディレイラインのランダムな誤差によって起こるトリガ信号のタイミングのずれに起因するものである。リアルタイムサンプリングの場合は、ジッタは信号全体の単なる時間シフトであるが、等価サンプリング信号の場合は、時間方向の誤差であっても、振幅誤差として観測されることになる(図3(b)及び(c)参照)。
【0020】
したがって、等価サンプリング信号においては、ジッタを相加性雑音と分離して評価することが困難である。
【0021】
(雑音及びジッタの統計的性質)
相加性雑音εは一般的に、白色雑音あるいはガウス雑音であり、振幅方向に平均0の正規分布として以下のように表される
【0022】
タイミングジッタに対応する時間誤差Δtは、時間方向に平均0の正規分布として以下のように表すことができる
【0023】
ここで、N(μ,σ)は平均μ、標準偏差σの正規分布を表す。タイミングジッタによる振幅誤差εは、以下に示すように、信号s(t)の振幅の傾き(一次時間微分)に比例する(図4参照)。図4においてs1(t), s2(t)は、傾きが異なる信号の一部である。両信号とも、時間tsでサンプルされると同じ振幅であるとする。時間誤差Δtsだけずれた時間ts+Δtsでサンプルされた場合、振幅の傾きが異なるので、振幅誤差はそれぞれεt1、εt2となる。この例から、時間誤差が同じでも、信号振幅の傾きによって、観測される振幅誤差が変わることがわかる。時間誤差がΔtsの時、ジッタによる振幅誤差εは以下のように表すことができる。
【0024】
【0025】
等価サンプリングにより観測される振幅誤差εは雑音とジッタによるものの和となる。
【0026】
2つの正規分布の和は正規分布であるから
である。ここで、
である。
【0027】
(信号の評価指標)
信号の評価指標としては、相加性雑音においては、一般的に信号対雑音比(S/N比)が用いられる。タイミングジッタについては、時間誤差の標準偏差σを用いて表すことができる。例えば、2σは、95%の時間誤差が含まれる時間幅である。ここで、両指標とも標準偏差を用いる点に注意する。すると、2つの正規分布が混合した正規分布よりそれぞれの標準偏差を求める必要があることがわかる。
【0028】
(雑音とジッタの分離・評価方法)
以上の説明を前提として、以下、雑音とジッタを分離して評価する方法を具体的に説明する。まず、この方法に用いる信号評価装置の概要を図5に基づいて説明する。
【0029】
(信号評価装置)
本実施形態の信号評価装置5は、サンプラー4で取得されたサンプルから等価サンプリング信号を生成して取得する信号取得部6と、評価部7と、出力部8とから構成されている。
【0030】
評価部7は、
・複数の等価サンプリング信号s(t)の平均信号を算出する処理と、
・平均信号の振幅の傾きが0付近での等価サンプリング信号と平均信号との間の振幅誤差の標準偏差σaを算出する処理と、
・平均信号の振幅の傾きを基準に設定された複数の区間ごとに、等価サンプリング信号と平均信号との間の振幅誤差の標準偏差σtotalを算出する処理と、
・区間ごとの時間誤差の標準偏差σtを、振幅の傾きが0付近での等価サンプリング信号と平均信号との間の振幅誤差の標準偏差σaと、区間ごとの等価サンプリング信号と平均信号との間の振幅誤差の標準偏差σtotalと、区間における平均信号の振幅の傾きとを用いて算出する処理と
を行う構成となっている。評価部7の詳しい動作については後述する。
【0031】
出力部8は、評価部7によって得られた結果、例えばジッタや誤差を適宜な装置あるいはディスプレイに出力する構成となっている。
【0032】
(信号評価方法)
次に、図5の装置を用いて等価サンプリング信号を評価する方法の一例を、図6を参照しながら説明する。
【0033】
図6のステップSA-1)
まず、信号取得部6により等価サンプリング信号を複数回取得する。これにより、図2の下段に示すような等価サンプリング信号を複数得ることができる。
【0034】
図6のステップSA-2)
評価部7は、つぎに、得られた複数の等価サンプリング信号(s(t))の平均信号を計算する。これは無雑音信号とみなすことができる。
【0035】
図6のステップSA-3)
つぎに、各サンプリング信号と平均信号との差を計算する。これを振幅誤差の総和とみなすことができる。
【0036】
図6のステップSA-4)
つぎに、平均信号の振幅の傾きが0付近での等価サンプリング信号と平均信号との間の振幅誤差の標準偏差σaを算出する。
【0037】
具体的には、等価サンプリング信号の振幅誤差の総和の標準偏差σtotalは下記式(1)のように表せる。
【0038】
ここで、振幅誤差の総和の分布は
である。前記式(1)において、
であるから、
となる。この標準偏差σは信号の振幅によらず一定である。
【0039】
このことを、図7をさらに参照して説明する。
【0040】
図7に示すように、信号の傾斜がほぼ0のときは、ジッタによる誤差への影響は、無視できるほど小さく、ほぼ0である。したがって、前記によって振幅誤差の標準偏差σを得ることができる。振幅誤差の標準偏差σは相加性雑音量とみなすことができる。したがって、これからS/N比を算出することができる。
【0041】
図6のステップSA-5)
ついで、振幅の傾きごとに、振幅誤差を区間に分ける。例えば、図7の横軸に示す傾きを、所定の幅ごとに、区間に分ける。これについての具体例は後述する。
【0042】
図6のステップSA-6)
ついで、平均信号の振幅の傾きを基準に設定された複数の区間ごとに、等価サンプリング信号と平均信号との間の振幅誤差の標準偏差σtotalを算出する。
【0043】
図6のステップSA-7)
ついで、ある振幅の傾き(つまり区間)において、下記式(2)により、ジッタによる振幅誤差の標準偏差σを計算する。この式(2)は前記式(1)から導かれる。
【0044】
すなわち、区間ごとの時間誤差の標準偏差σtを、振幅の傾きが0付近での等価サンプリング信号と平均信号との間の振幅誤差の標準偏差σaと、区間ごとの等価サンプリング信号と平均信号との間の振幅誤差の標準偏差σtotalと、区間における平均信号の振幅の傾きとを用いて算出することができる。これは、図7の任意の振幅の傾きにおいて、振幅誤差の分布は式(1)を分散(標準偏差の2乗)とする正規分布となっているためである。
【0045】
図6のステップSA-8)
ついで、区間ごとに得られた時間誤差の標準偏差σtを平均する。この平均値をタイミングジッタの量とすることができる。ただし、平均することは必須ではなく、例えば、区間毎に得られた標準偏差σを線形回帰することにより、回帰直線を用いて、タイミングジッタ量を安定的に推定することができる。これは、振幅誤差の分布は振幅の傾きによって変化するが、式(2)で表されるタイミングジッタの量は振幅の傾きによらず一定であるためである。
【0046】
(実施例1)
つぎに、シミュレーションにより前記した実施形態の方法を実施した例を説明する。
【0047】
(シミュレーション条件)
0.75nsを中心とする一次微分ガウス信号を100回観測する。
【0048】
ここで、時間レンジT=4.5nsを1024点で等価サンプリングする。ここでサンプリング周期dt≒4.4psとした。
【0049】
また、以下の三つのパターンで雑音およびジッタを付加した(図8参照)。
(1)SNR 60dB, 2σt=1ps
(2)SNR 60dB, 2σt=5ps
(3)SNR 40dB, 2σt=5ps
【0050】
(振幅誤差の分布)
無雑音の信号として、観測した100個の信号の平均を計算した。また、振幅誤差として観測した100個の信号と平均との、各サンプルでの差を計算した。
【0051】
無雑音信号の振幅の傾きに対して振幅誤差をプロットした(図9参照)。すると信号の傾きが大きくなると振幅誤差の分布が広がることが分かる。これは、ジッタが大きくなると分布が広がり、その結果、信号傾きにより分布が広がる量が大きくなる(2σ=5psのときと2σ=1psのときを参照)。
【0052】
また、傾き0のときに一定の分布を示す。これが、雑音のみによる振幅誤差によるものである。
【0053】
この例では、傾き<0.1≒0で計算した標準偏差をσとする。
【0054】
(σtの推定)
この例では、振幅の傾きが「1」毎に、振幅誤差を区間分けする。そして、各区間で振幅誤差の標準偏差を計算する(図10参照)。
【0055】
各区間について、式(2)および雑音による振幅誤差の標準偏差を用いて、ジッタによる振幅誤差の標準偏差を計算する(図11の●、▲、◇参照)。図11中の線はシミュレーションに用いた既知の雑音およびジッタ量を用いて式(1)を計算したものである。本実施例で求めた振幅誤差と合致しており、式(1)より導出された式(2)により雑音およびジッタによる振幅誤差の標準偏差を計算できることがわかる。
【0056】
ついで、各区間で求めた値を平均する。ここで、平均による無雑音信号推定のバイアスの影響をなくすため、傾き0付近の区間は除外する。
【0057】
(推定したS/N比・ジッタ)
推定したS/N比及びジッタを図12及び図13に示す。図12においてDirect estimationは、ジッタを考慮せずS/N比を計算したものである。本実施例により、正確にS/N比を推定できることが分かる。一方、Direct estimationにより求めたS/N比は、ジッタの影響により常に過小評価(雑音量を過大評価)している。本例の手法はジッタ量も正確に推定できている。
【0058】
(実施例2:実観測信号への適用例)
つぎに、実観測信号について本実施形態の手法を適用した例を説明する。
【0059】
この例では、等価サンプリングによるレーダ信号を50回観測した。時間レンジ T=4.5nsを1024点でサンプリングした。サンプリング周期dt≒4.4psとした。
【0060】
直接結合(約1.5nsより始まるパルス)および誘電体からの反射波(約3.5 nsから始まるパルス)が観測された(図14参照)。
【0061】
得られた実観測信号における信号の傾きと振幅誤差との関係を図15に示す。傾き0で一定の分布があり、これは、信号が相加性雑音を含むことを示している。
【0062】
また、傾きとともに分布が広がることは、信号がジッタを含むことを示している。
【0063】
(σaおよびσtの推定)
傾き<0.1≒0での標準偏差σaをS/N比=55.99 dB(振幅の最大値に対して)として算出した。
【0064】
また、傾き1毎に区間を分け、区間毎に標準偏差σtotalを計算した。そして、区間毎に時間誤差の標準偏差σtを計算した(図16参照)。得られた区間毎の標準偏差の値を平均(傾き0付近の区間を除く)した。これにより、2σt=4.80psとなった。ここで傾き10以上では十分な数のサンプルがなかったため除外した。ここまでの処理は評価部7が行う。評価部7で得られた結果は、出力部8により、適宜な装置あるいはユーザに出力される。
【0065】
(まとめ)
以上、本実施形態の手法によれば、以下のような利点を得ることができる。
【0066】
すなわち、前提として、等価サンプリングのシステムあるいは得られた信号において、相加性雑音とタイミングジッタをそれぞれ評価するのは困難であった。
【0067】
これに対して、本手法は、
・観測信号の平均を無雑音信号として計算
・観測信号と平均信号の差を振幅誤差の総和として計算
・振幅誤差を平均信号の振幅の傾きの空間に投影
・傾き0付近での標準偏差を計算 → 相加性雑音による振幅誤差の標準偏差を取得
・傾きに対して振幅誤差を区間分けし、各区間での標準偏差を計算し平均
・雑音および振幅誤差の総和の標準偏差から、タイミングジッタによる振幅誤差の標準偏差を計算
という手段を用いており、これにより、雑音およびジッタを個別に評価できる。
【0068】
本実施形態の手法は、以下のような利点がある。
・既存の手法の多くは、ジッタを雑音と分離して評価するために、数式表現可能な波形を出力する追加の信号源を用いる。これに対して本手法では、追加の信号源を必要としない
・したがって、安価で簡便である。
・また、送受信系を含むシステム全体の評価が可能となる。
・決定論的な計算を用いており、フィッティングや最適化などの複雑な計算を必要としない。したがって、計算が高速であり、解が安定する。
・振幅傾きに対する振幅誤差の区間分けを行うので、平均信号によるバイアスの影響を軽減できる。
・区間分けにより、より多くのサンプルを使って標準偏差を計算できることになるので、ロバストで正確な結果を得ることができる。
【0069】
なお、前記実施形態の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【符号の説明】
【0070】
1 トリガ信号源
2 信号源
4 サンプラー
5 信号評価装置
6 信号取得部
7 評価部
8 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16