(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ブレーカー、安全回路及び2次電池パック
(51)【国際特許分類】
H01H 37/04 20060101AFI20240522BHJP
H01H 37/54 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
H01H37/04 A
H01H37/54 C
(21)【出願番号】P 2021164882
(22)【出願日】2021-10-06
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390025140
【氏名又は名称】ボーンズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 将起
【審査官】片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-118155(JP,A)
【文献】特開2011-134624(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029826(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/124338(WO,A1)
【文献】特開2017-098186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/04
H01H 37/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定接点を有する固定片と、
弾性変形する弾性部及び該弾性部の一端部に可動接点を有し、前記可動接点を前記固定接点に押圧して接触させる可動片と、
温度変化に伴って変形することにより、前記可動片を前記可動接点が前記固定接点に接触する導通状態から前記可動接点が前記固定接点から離隔する遮断状態に移行させる熱応動素子と、
前記熱応動素子を収容する凹部を有する樹脂ケースとを備えたブレーカーであって、
前記固定片は、その厚さ方向から見た平面視で前記熱応動素子と重複する領域で、前記樹脂ケースに埋設された埋設部を有し、
前記樹脂ケースは、前記凹部の外周に形成された外周部と、前記凹部を貫通し前記埋設部を前記熱応動素子の側に露出させる第1貫通部と、前記第1貫通部の内側で、前記固定片と前記熱応動素子との間に介在する島部と、前記外周部と前記島部とを連結する連結部とを有する、
ブレーカー。
【請求項2】
前記連結部は、前記熱応動素子の側に隆起するリブを含む、請求項1に記載のブレーカー。
【請求項3】
前記固定片は、貫通孔を有し、
前記貫通孔に充填された樹脂によって、前記外周部と前記連結部とが結合される、請求項1または2に記載のブレーカー。
【請求項4】
前記樹脂ケースは、前記固定片の底面を覆う底部と、前記底部を貫通し、前記底面を露出させる窓部を有する、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のブレーカー。
【請求項5】
正特性サーミスターをさらに備え、
前記島部には、前記正特性サーミスターを介して前記固定片と前記熱応動素子とが導通できるように、前記正特性サーミスターを装着するための第2貫通部が形成されている、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のブレーカー。
【請求項6】
前記連結部は、前記島部から前記可動片の長手方向の両側にのびる第1連結部と、前記島部から前記可動片の短手方向の両側にのびる第2連結部とを含む、請求項5に記載のブレーカー。
【請求項7】
前記連結部は、前記島部から前記可動片の長手方向であって前記固定接点とは逆の側にのびる第3連結部を含む、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のブレーカー。
【請求項8】
前記樹脂ケースは、前記島部から前記可動片の短手方向の両側に突出する突出部を含む、請求項7に記載のブレーカー。
【請求項9】
前記突出部は、前記外周部の手前で終端する、請求項8に記載のブレーカー。
【請求項10】
固定接点を有する固定片と、
弾性変形する弾性部及び該弾性部の一端部に可動接点を有し、前記可動接点を前記固定接点に押圧して接触させる可動片と、
温度変化に伴って変形することにより、前記可動片を前記可動接点が前記固定接点に接触する導通状態から前記可動接点が前記固定接点から離隔する遮断状態に移行させる熱応動素子と、
前記熱応動素子を収容する凹部を有する樹脂ケースとを備えたブレーカーであって、
前記固定片は、その厚さ方向から見た平面視で前記熱応動素子と重複する領域で、前記樹脂ケースに埋設された埋設部を有し、
前記樹脂ケースは、前記凹部の外周に形成された外周部と、前記凹部を貫通し前記埋設部を前記熱応動素子の側に露出させる第1貫通部と、前記第1貫通部の内側で、前記固定片と前記熱応動素子との間に介在する島部と、前記固定片の底面を覆う底部と、前記底部を貫通し、前記底面の一部を露出させる窓部を有する、
ブレーカー。
【請求項11】
前記第1貫通部と前記窓部とは、前記平面視で一部において重複している、請求項10に記載のブレーカー。
【請求項12】
前記熱応動素子は、前記平面視で矩形状に形成され、
前記第1貫通部が前記熱応動素子の四隅に対向する場所に設けられている、請求項1ないし11のいずれか一項に記載のブレーカー。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載のブレーカーを備える、電気機器用の安全回路。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれかに記載のブレーカーを備える、2次電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器等に内蔵される小型のブレーカー等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種電気機器の2次電池やモーター等の保護装置(安全回路)としてブレーカーが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のブレーカーでは、矩形状に形成された熱応動素子が適用されている。熱応動素子は、熱膨張率の異なる薄板材を積層することにより形成され、平常時では、可動片の側に凸となるように湾曲している。
【0005】
しかしながら、電気機器が極めて低温に晒される環境で使用される場合、熱応動素子の曲率も過大となる。その結果、熱応動素子の四隅が樹脂ケースに当接(干渉)する状態で、熱応動素子の中央部が可動片を上方に押し上げ、可動接点が固定接点から離隔するおそれがある。また、可動接点が固定接点から離隔しない場合であっても、固定接点に対する可動接点の接触圧力が低下し、両接点間の接触抵抗が増大する。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、極低温下で使用される場合であっても、安定した導通が得られるブレーカーを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1発明は、固定接点を有する固定片と、弾性変形する弾性部及び該弾性部の一端部に可動接点を有し、前記可動接点を前記固定接点に押圧して接触させる可動片と、温度変化に伴って変形することにより、前記可動片を前記可動接点が前記固定接点に接触する導通状態から前記可動接点が前記固定接点から離隔する遮断状態に移行させる熱応動素子と、前記熱応動素子を収容する凹部を有する樹脂ケースとを備えたブレーカーであって、前記固定片は、その厚さ方向から見た平面視で前記熱応動素子と重複する領域で、前記樹脂ケースに埋設された埋設部を有し、前記樹脂ケースは、前記凹部の外周に形成された外周部と、前記凹部を貫通し前記埋設部を前記熱応動素子の側に露出させる第1貫通部と、前記第1貫通部の内側で、前記固定片と前記熱応動素子との間に介在する島部と、前記外周部と前記島部とを連結する連結部とを有する。
【0008】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記連結部は、前記熱応動素子の側に隆起するリブを含む、ことが望ましい。
【0009】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記固定片は、貫通孔を有し、前記貫通孔に充填された樹脂によって、前記外周部と前記連結部とが結合される、ことが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記樹脂ケースは、前記固定片の底面を覆う底部と、前記底部を貫通し、前記底面を露出させる窓部を有する、ことが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、正特性サーミスターをさらに備え、前記島部には、前記正特性サーミスターを介して前記固定片と前記熱応動素子とが導通できるように、前記正特性サーミスターを装着するための第2貫通部が形成されている、ことが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記連結部は、前記島部から前記可動片の長手方向の両側にのびる第1連結部と、前記島部から前記可動片の短手方向の両側にのびる第2連結部とを含む、ことが望ましい。
【0013】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記連結部は、前記島部から前記可動片の長手方向であって前記固定接点とは逆の側にのびる第3連結部を含む、ことが望ましい。
【0014】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記樹脂ケースは、前記島部から前記可動片の短手方向の両側に突出する突出部を含む、ことが望ましい。
【0015】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記突出部は、前記外周部の手前で終端する、ことが望ましい。
【0016】
本発明の第2発明は、固定接点を有する固定片と、弾性変形する弾性部及び該弾性部の一端部に可動接点を有し、前記可動接点を前記固定接点に押圧して接触させる可動片と、温度変化に伴って変形することにより、前記可動片を前記可動接点が前記固定接点に接触する導通状態から前記可動接点が前記固定接点から離隔する遮断状態に移行させる熱応動素子と、前記熱応動素子を収容する凹部を有する樹脂ケースとを備えたブレーカーであって、前記固定片は、その厚さ方向から見た平面視で前記熱応動素子と重複する領域で、前記樹脂ケースに埋設された埋設部を有し、前記樹脂ケースは、前記凹部の外周に形成された外周部と、前記凹部を貫通し前記埋設部を前記熱応動素子の側に露出させる第1貫通部と、前記第1貫通部の内側で、前記固定片と前記熱応動素子との間に介在する島部と、前記固定片の底面を覆う底部と、前記底部を貫通し、前記底面の一部を露出させる窓部を有する。
【0017】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記第1貫通部と前記窓部とは、前記平面視で一部において重複している、ことが望ましい。
【0018】
本発明に係る前記ブレーカーにおいて、前記熱応動素子は、前記平面視で矩形状に形成され、前記第1貫通部が前記熱応動素子の四隅に対向する場所に設けられている、
ことが望ましい。
【0019】
本発明は、前記ブレーカーを備える、電気機器用の安全回路である。
【0020】
本発明は、前記ブレーカーを備える、2次電池パックである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のブレーカーは、樹脂ケースに第1貫通部が形成されているので、低温時に熱応動素子の変形が過大となっても、熱応動素子と樹脂ケースとの干渉が回避される。これにより、可動片が熱応動素子の中央部によって押し上げられることが抑制され、安定した導通が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明によって製造されるブレーカーの組立前の状態を示す斜視図。
【
図2】通常の充電又は放電状態における上記ブレーカーを示す断面図。
【
図3】過充電状態又は異常時などにおける上記ブレーカーを示す断面図。
【
図5】極低温の環境に晒されたブレーカーを示す断面図。
【
図7】
図4のケース本体の変形例及び固定片を示す斜視図。
【
図9】
図7のケース本体の変形例及び固定片を示す斜視図。
【
図10】
図9のケース本体及び固定片の長手方向に垂直な断面図。
【
図11】本発明の上記ブレーカーを備えた2次電池パックの構成を示す平面図。
【
図12】本発明の上記ブレーカーを備えた安全回路の回路図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態によるブレーカーについて図面を参照して説明する。
図1乃至
図3は、本発明によって製造されるブレーカー1の構成を示している。ブレーカー1は、電気機器等に実装され、過度な温度上昇又は過電流から電気機器を保護する。
【0024】
ブレーカー1は、固定接点21を有する固定片2と、一端部に可動接点41を有する可動片4と、温度変化に伴って変形する熱応動素子5と、PTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスター6と、固定片2、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6を収容する樹脂ケース10等によって構成されている。樹脂ケース10は、ケース本体(第1ケース)7とケース本体7の上面に装着される蓋部材(第2ケース)8等によって構成されている。
【0025】
固定片2は、例えば、銅等を主成分とする金属板(この他、銅-チタニウム合金、洋白、黄銅などの金属板)をプレス加工することにより形成され、ケース本体7にインサート成形により埋め込まれている。固定片2の一端側には外部回路と電気的に接続される端子22が形成され、他端側には、PTCサーミスター6を支持する支持部23が形成されている。端子22は、ケース本体7の外側に突出している。PTCサーミスター6は、固定片2の支持部23に3箇所形成された凸状の突起(ダボ)24の上に載置されて、突起24に支持される。固定片2が階段状に曲げられることにより、固定接点21と支持部23とが段違いに配置され、PTCサーミスター6を収納する空間が容易に確保される。
【0026】
固定接点21は、銀、ニッケル、ニッケル-銀合金の他、銅-銀合金、金-銀合金などの導電性の良い材料のクラッド、メッキ、溶接又は塗布等により可動接点41に対向する位置に形成され、ケース本体7の内部に形成されている開口73aの一部から露出されている。端子22はケース本体7の端縁から外側に突き出されている。支持部23は、ケース本体7の内部に形成されている開口73dから露出されている。
【0027】
本出願においては、特に断りのない限り、固定片2において、固定接点21が形成されている側の面(すなわち
図1において上側の面)を第1面、その反対側の面を第2面として説明している。他の部品、例えば、可動片4及び熱応動素子5、PTCサーミスター6、樹脂ケース10等についても同様である。
【0028】
可動片4は、銅等を主成分とする板状の金属材料をプレス加工することにより、長手方向の中心線に対して対称なアーム状に形成されている。可動片4の一部(後述する埋設部43)は、蓋部材8にインサート成形により埋め込まれている。
【0029】
可動片4の長手方向の一端部には、可動接点41が形成されている。可動接点41は、例えば、固定接点21と同等の材料によって形成され、溶接の他、クラッド、かしめ(crimping)等の手法によって可動片4の一端部に接合されている。
【0030】
可動片4の他端部には、外部回路と電気的に接続される端子42が形成されている。可動接点41と端子42との間には、蓋部材8に埋設され固定される埋設部43が設けられている。埋設部43は端子42の側に配されている。
【0031】
可動片4は、可動接点41と埋設部43との間に、弾性部44を有している。弾性部44は、埋設部43から可動接点41の側に延出されている。可動片4は、弾性部44の基端側の埋設部43で、蓋部材8によって片持ち支持され、その状態で弾性部44が第1面の側に弾性変形することにより、弾性部44の先端部に形成されている可動接点41が固定接点21の側に押圧されて接触し、固定片2と可動片4とが通電可能となる。
【0032】
可動片4は、弾性部44において、プレス加工により湾曲又は屈曲されているのが望ましい。湾曲又は屈曲の度合いは、熱応動素子5を収納できる限り特に限定はなく、動作温度及び復帰温度における弾性力、接点の押圧力などを考慮して適宜設定すればよい。また、弾性部44の第2面には、熱応動素子5に対向して一対の突起(接触部)44a,44bが形成されている。突起44a,44bと熱応動素子5とは接触して、突起44a,44bを介して熱応動素子5の変形が弾性部44に伝達される(
図1、
図2及び
図3参照)。
【0033】
熱応動素子5は、可動片4とPTCサーミスター6との間に配されている。すなわち、熱応動素子5は、後述するPTCサーミスター6の第1面上に載置されている。熱応動素子5は、可動片4の状態を可動接点41が固定接点21に接触する導通状態から可動接点41が固定接点21から離隔する遮断状態に移行させる。熱応動素子5は、熱膨張率の異なる薄板材を積層することにより板状に形成され、断面が円弧状に湾曲した初期形状をなしている。過熱により反転動作温度に達すると、熱応動素子5の湾曲形状は、スナップモーションを伴って逆反りし、冷却により正転復帰温度を下回ると復元する。熱応動素子5の初期形状は、プレス加工により形成することができる。所期の温度で熱応動素子5の逆反り変形により可動片4の弾性部44が押し上げられ、かつ弾性部44の弾性力により元に戻る限り、熱応動素子5の材料及び形状は特に限定されるものでないが、生産性及び逆反り変形の効率性の観点から矩形状が望ましい。
【0034】
熱応動素子5の材料としては、洋白、黄銅、ステンレス鋼等の各種の合金からなる熱膨張率の異なる2種類の材料を積層したものが、所要条件に応じて組み合わせて使用される。例えば、安定した反転動作温度及び正転復帰温度が得られる熱応動素子5の材料としては、高膨脹側に銅-ニッケル-マンガン合金、低膨脹側に鉄-ニッケル合金を組み合わせたものが望ましい。また、化学的安定性の観点からさらに望ましい材料として、高膨脹側に鉄-ニッケル-クロム合金、低膨脹側に鉄-ニッケル合金を組み合わせたものが挙げられる。さらにまた、化学的安定性及び加工性の観点からさらに望ましい材料として、高膨脹側に鉄-ニッケル-クロム合金、低膨脹側に鉄-ニッケル-コバルト合金を組み合わせたものが挙げられる。
【0035】
PTCサーミスター6は、可動片4が遮断状態にあるとき、熱応動素子5を介して固定片2と可動片4とを導通させる。PTCサーミスター6は、固定片2と熱応動素子5との間に配設されている。すなわち、PTCサーミスター6を挟んで、固定片2の支持部23は熱応動素子5の直下に位置している。熱応動素子5の逆反り変形により固定片2と可動片4との通電が遮断されたとき、PTCサーミスター6に流れる電流が増大する。PTCサーミスター6は、温度上昇と共に抵抗値が増大して電流を制限する正特性サーミスターであれば、作動電流、作動電圧、作動温度、復帰温度などの必要に応じて種類を選択でき、その材料及び形状はこれらの諸特性を損なわない限り特に限定されるものではない。本実施形態では、チタニウム酸バリウム、チタニウム酸ストロンチウム又はチタニウム酸カルシウムを含むセラミック焼結体が用いられる。セラミック焼結体の他、ポリマーにカーボン等の導電性粒子を含有させたいわゆるポリマーPTCを用いてもよい。
【0036】
樹脂ケース10を構成するケース本体7及び蓋部材8は、難燃性のポリアミド、耐熱性に優れたポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの熱可塑性樹脂により成形されている。上述した樹脂と同等以上の特性が得られるのであれば、樹脂以外の材料を適用してもよい。
【0037】
ケース本体7の第1面側には、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6などを収容するための内部空間である凹部73が形成されている。凹部73は、可動片4を収容するための開口73a、可動片4及び熱応動素子5を収容するための開口73c、並びに、PTCサーミスター6を収容するための開口73d等を有している。なお、ケース本体7に組み込まれた可動片4、熱応動素子5の端縁は、凹部73を構成する枠によってそれぞれ当接され、熱応動素子5の逆反り変形時に案内される。すなわち、凹部73は、可動片4及び熱応動素子5を変形可能に収容する。
【0038】
蓋部材8は、凹部73を覆うように構成されている。蓋部材8は、凹部73の少なくとも一部を覆う形態であってもよい。蓋部材8には、銅等を主成分とする金属板又はステンレス鋼等のカバー片9がインサート成形によって埋め込まれている。カバー片9は、可動片4の第1面と当接した状態で、蓋部材8に埋設される。カバー片9は、可動片4の動きを規制すると共に、蓋部材8ひいては筐体としての樹脂ケース10の剛性・強度を高めつつブレーカー1の小型化に貢献する。
【0039】
ケース本体7及び蓋部材8は、上記樹脂材料を用いた射出成形により形成される。既に述べたように、ケース本体7には、固定片2がインサートされ、蓋部材8には、可動片4及びカバー片9がインサートされる。
【0040】
図1が示すように、固定片2、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6等を収容したケース本体7の開口73a、73b、73c等を塞ぐように、蓋部材8が、ケース本体7に装着される。ケース本体7と蓋部材8とは、例えば超音波溶着によって接合される。これにより、樹脂ケース10が形成される。
【0041】
図2及び
図3は、ブレーカー1の動作の概略を示している。
図2は、通常の充電又は放電状態におけるブレーカー1の動作を示している。通常の充電又は放電状態においては、熱応動素子5は逆反り前の初期形状を維持している。弾性部44によって可動接点41が固定接点21の側に押圧されることにより、可動接点41と固定接点21とが接触し、可動片4の弾性部44を介してブレーカー1の固定片2と可動片4とが導通可能な状態とされる。
【0042】
可動片4の弾性部44と熱応動素子5とは接触していてもよい。この場合、可動片4、熱応動素子5、PTCサーミスター6及び固定片2は、回路として導通している。しかし、PTCサーミスター6の抵抗は、可動片4の抵抗に比べて圧倒的に大きいため、PTCサーミスター6を流れる電流は、固定接点21及び可動接点41を流れる量に比して実質的に無視できる程度である。
【0043】
図3は、過充電状態又は異常時などにおけるブレーカー1の動作を示している。熱膨張率の異なる薄板材が積層された構造の熱応動素子5は、温度上昇に伴い、
図2に示される湾曲した初期形状が是正されるように変形する。そして、動作温度に達した熱応動素子5は、
図3に示されるように逆反り形状にスナップ変形する。これにより、熱応動素子5が可動片4の弾性部44と接触し、熱応動素子5によって弾性部44が押し上げられて固定接点21と可動接点41とが離隔する。このとき、固定接点21と可動接点41の間を流れていた電流は遮断される。一方、熱応動素子5は、可動片4と接触して、僅かな漏れ電流が熱応動素子5及びPTCサーミスター6を通して流れることとなる。すなわち、PTCサーミスター6は、可動片4を遮断状態に移行させている熱応動素子5を介して、固定片2と可動片4とを導通させる。PTCサーミスター6は、このような漏れ電流の流れる限り発熱を続け、熱応動素子5を逆反り状態に維持させつつ抵抗値を激増させるので、電流は固定接点21と可動接点41の間の経路を流れず、上述の僅かな漏れ電流のみが存在する(自己保持回路を構成する)。この漏れ電流は安全装置の他の機能に充てることができる。
【0044】
過充電状態を解除し、又は異常状態を解消すると、PTCサーミスター6の発熱も収まり、熱応動素子5は正転復帰温度に戻り、元の初期形状に復元する。そして、可動片4の弾性部44の弾性力によって可動接点41と固定接点21とは再び接触し、回路は遮断状態を解かれ、
図2に示す導通状態に復帰する。
【0045】
図4は、固定片2が埋設されたケース本体7を示している。
【0046】
固定片2は、その厚さ方向から見た平面視で熱応動素子5と重複する領域で、ケース本体7に埋設された埋設部25を有する(
図1ないし3参照)。本実施形態の埋設部25は、支持部23の外周に配されている。これにより、支持部23を介してPTCサーミスター6を強固に支持することが可能となる。
【0047】
ケース本体7は、外周部74と、第1貫通部75と、島部76と、連結部77とを有している。
【0048】
外周部74は、凹部73の外周に形成されている。外周部74の端面(第1面)は、蓋部材8と溶着される。第1貫通部75は、凹部73の底を貫通している。これにより、固定片2の埋設部25の第1面が熱応動素子5の側(凹部73)に露出される。
【0049】
島部76は、第1貫通部75の内側に配されている。島部76は、固定片2と熱応動素子5との間に介在している。連結部77は、外周部74と島部76とを連結する。すなわち、連結部77は、第1貫通部75によって隔たれた外周部74と島部76と架橋する。
【0050】
図5は、極低温の環境(例えば、-15℃未満の雰囲気中)に晒されたブレーカー1の断面を示している。同図では、説明の便宜上、熱応動素子5及びPTCサーミスター6のみが全体で描かれている。
【0051】
図2に示されるように、通常の使用環境(例えば、10℃~80℃の雰囲気中で、過電流が生じていない使用)におけるブレーカー1では、熱応動素子5は、可動片4の側に凸となるように湾曲している。この状態から、熱応動素子5の温度が低下すると、熱応動素子5の変形(すなわち曲率)も過大となり、熱応動素子5の中央部5aの突出が大きくなる。なお、極低温の環境及び通常の使用環境の温度は、上記範囲に限られない。
【0052】
本発明のブレーカー1では、樹脂ケース10のケース本体7に第1貫通部75が形成されているので、熱応動素子5の第2面側のクリアランスが容易に確保される。従って、低温時に熱応動素子5の変形が過大となっても、熱応動素子5とケース本体7との干渉が容易に回避される。これにより、可動片4が熱応動素子5の中央部5aによって押し上げられることが抑制され、可動接点41が固定接点21から離隔することが抑制される。また、固定接点21に対する可動接点41の接触圧力の低下が抑制され、両接点間の接触抵抗が低く維持される。これにより、固定片2の端子22と可動片4の端子42との間で、安定した導通が得られる。
【0053】
また、第1貫通部75によって隔たれた外周部74と島部76とが連結部77によって連結されるので、ケース本体7が強固となり、固定接点21と可動接点41との接触状態が安定する。従って、固定片2の端子22と可動片4の端子42との間で、より一層安定した導通が得られる。
【0054】
連結部77は、熱応動素子5の側に隆起するリブ77aを含む、のが望ましい。リブ77aによって連結部77ひいてはケース本体7がより一層強固となる。また、ケース本体7の成形時に連結部77での樹脂材料の流動性が高められ、生産性が向上する。
【0055】
図6は、ケース本体7及び固定片2の長手方向に垂直な断面を示している。なお、同図では、便宜上、熱応動素子5及びPTCサーミスター6は、断面で切断されることなく描かれている。
【0056】
固定片2は、貫通孔26を有している。貫通孔26は、固定片2の厚さ方向から視た平面視で、連結部77に重複する領域に形成されている。貫通孔26には、ケース本体7を構成する樹脂が充填されている。貫通孔26に充填された樹脂によって、固定片2の第2面側の外周部74と固定片2の第1面側の連結部77とが結合される。これにより、ケース本体7がより一層強固となる。また、ケース本体7の成形時に、貫通孔26を介して外周部74から連結部77にかけての樹脂材料の流動性が高められ、生産性が向上する。
【0057】
貫通孔26は、ケース本体7及び固定片2の長手方向に沿ってのびるスリット状に形成されていてもよい。このような貫通孔26によって、上記長手方向に垂直な短手方向の幅寸法を肥大させることなく、ケース本体7の強度・剛性を高めることができる。
【0058】
ケース本体7は、固定片2の底面(第2面)2aを覆う底部71と、底部71に形成された窓部72とを有している。窓部72は、底部71を貫通し、固定片2の底面2aをケース本体7の外部に露出させる。
【0059】
図4に示されるように、本ブレーカー1において、島部76には第2貫通部76aが形成されている。第2貫通部76aは、島部76を貫通している。第2貫通部76aは、PTCサーミスター6に対応する形状に形成されている。PTCサーミスター6は、第2貫通部76aに収容される。これにより、PTCサーミスター6を介して固定片2と熱応動素子5とが導通可能となる。
【0060】
連結部77は、島部76から可動片4の長手方向の両側にのびる第1連結部771と、島部76から可動片4の短手方向の両側にのびる第2連結部772とを含んでいる、のが望ましい。第1連結部771及び第2連結部772は、島部76において、”+”状に交差している。
【0061】
第1連結部771及び第2連結部772によって、外周部74と島部76とをつなぐ連結部77が複数になり、ケース本体7がより一層強固となる。
【0062】
なお、外周部74に何らかの外力が負荷された場合であっても、第2貫通部76aが形成されている島部76が柔軟に変形することにより、連結部77(特に外周部74との接合部)での応力集中が回避され、ケース本体7の損傷が抑制される。
【0063】
第1貫通部75と窓部72とは、固定片2の平面視で一部において重複している、のが望ましい。これにより、ケース本体7の成形時に、第1貫通部75の側と窓部72の側から、固定片2を金型で挟み込んで、正確に位置決めすることが可能となる。
【0064】
図7は、ケース本体7の変形例であるケース本体7A及び固定片2を示す斜視図である。ケース本体7Aのうち、以下で説明されてない部分については、上述したケース本体7の構成が採用されうる。
【0065】
ケース本体7Aでは、島部76にPTCサーミスター6を収容するための第2貫通部76aが廃されている。このため、ケース本体7Aが適用されるブレーカー1では、PTCサーミスター6が省略される。これにより、ブレーカー1の構成が簡素化され、コストダウンが図られる。
【0066】
ケース本体7Aにおいて、連結部77は、第3連結部773を含んでいる。第3連結部773は、島部76から可動片4の長手方向であって固定接点21とは逆の側にのびている。外周部74と島部76とが第3連結部773によって連結されるので、ケース本体7が強固となり、固定接点21と可動接点41との接触状態が安定する。従って、固定片2の端子22と可動片4の端子42との間で、より一層安定した導通が得られる。
【0067】
ケース本体7Aは、島部76から突出する突出部774を含んでいる。突出部774は、可動片4の短手方向の両側に突出する。
【0068】
突出部774は、外周部74の手前で終端する、のが望ましい。このような突出部774によって、外周部74に何らかの外力が負荷された場合であっても、突出部774及び島部76への応力の伝達が断たれるので、ケース本体7の損傷が抑制される。
【0069】
ケース本体7Aと組み合わせられる固定片2にあっても、
図6に示される固定片2と同様に、貫通孔26が形成されるのが望ましい。この場合、貫通孔26は、固定片2の厚さ方向から視た平面視で、突出部774に重複する領域に形成されている(
図10参照)。貫通孔26には、ケース本体7Aを構成する樹脂が充填されている。貫通孔26に充填された樹脂によって、固定片2の第2面側の外周部74と固定片2の第1面側の突出部774とが結合される。これにより、ケース本体7Aがより一層強固となる。また、ケース本体7Aの成形時に、貫通孔26を介して外周部74から突出部774にかけての樹脂材料の流動性が高められ、生産性が向上する。
【0070】
突出部774は、熱応動素子5の側に隆起するリブ77aを含む、のが望ましい。リブ77aによって突出部774ひいてはケース本体7Aがより一層強固となる。また、ケース本体7Aの成形時に突出部774での樹脂材料の流動性が高められ、生産性が向上する。
【0071】
図8は、ケース本体7A及び固定片2を示す平面図である。
図1、4、5、7および8に示されるように、第1貫通部75は、矩形状に形成されている熱応動素子5の四隅部5cに対向する場所に設けられている、のが望ましい。これにより、極低温の環境で、熱応動素子5とケース本体7、7Aとの当接がより一層容易に回避され(
図5参照)、固定片2の端子22と可動片4の端子42との間で、安定した導通が得られる。
【0072】
図9は、ケース本体7Aの変形例であるケース本体7B及び固定片2を示す斜視図である。また、
図10は、ケース本体7B及び固定片2の長手方向に垂直な断面を示している。ケース本体7Bのうち、以下で説明されてない部分については、上述したケース本体7、7Aの構成が採用されうる。
【0073】
ケース本体7Bでは、外周部74と島部76とを連結する連結部77が廃されている。なわち、ケース本体7Bは、外周部74と、第1貫通部75と、島部76と、底部71と、窓部72とを有する。
【0074】
図10に示されるように、固定片2には、貫通孔26が形成されている。貫通孔26には、ケース本体7Bを構成する樹脂が充填されている。貫通孔26に充填された樹脂によって、固定片2の第2面側の外周部74と固定片2の第1面側の突出部774とが結合される。これにより、ケース本体7Bがより一層強固となる。また、ケース本体7Bの成形時に、貫通孔26を介して外周部74から突出部774にかけての樹脂材料の流動性が高められ、生産性が向上する。
【0075】
ケース本体7Bにあっては、さらに、島部76から突出する突出部774が廃されていてもよい。この場合、貫通孔26に充填された樹脂によって、固定片2の第2面側の外周部74と固定片2の第1面側の島部76とが結合されるように構成される。
【0076】
ケース本体7Bにあっても、第1貫通部75は、矩形状に形成されている熱応動素子5の四隅部5cに対向する場所に設けられている、のが望ましい。これにより、ケース本体7、7Aと同様に、極低温の環境で、熱応動素子5とケース本体7Bとの当接がより一層容易に回避され、固定片2の端子22と可動片4の端子42との間で、安定した導通が得られる。
【0077】
以上、本発明のブレーカー1が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。本実施形態のブレーカー1では、例えば、WO2011/105175号公報に示されるように、可動片4がケース本体7と蓋部材8に挟み込まれて固定される形態であってもよい。また、例えば、特開2020-035515号公報に示されるように、可動片4がケース本体7に埋設された端子片に溶接によって固定される形態であってもよい。
【0078】
すなわち、本発明のブレーカー1は、少なくとも、固定接点21有する固定片2と、弾性変形する弾性部44及び該弾性部44の一端部に可動接点41を有し、可動接点41を固定接点21に押圧して接触させる可動片4と、温度変化に伴って変形することにより、可動片4を可動接点41が固定接点21に接触する導通状態から可動接点41が固定接点21から離隔する遮断状態に移行させる熱応動素子5と、熱応動素子5を収容する凹部73を有する樹脂ケース10とを備えたブレーカー1であって、固定片2は、その厚さ方向から見た平面視で熱応動素子5と重複する領域で、樹脂ケース10に埋設された埋設部25を有し、樹脂ケース10は、凹部73の外周に形成された外周部74と、凹部73を貫通し埋設部25を熱応動素子5の側に露出させる第1貫通部75と、第1貫通部75の内側で、固定片2と熱応動素子5との間に介在する島部76と、外周部74と島部76とを連結する連結部77とを有していればよい。
【0079】
また、本発明のブレーカー1は、少なくとも、固定接点21有する固定片2と、弾性変形する弾性部44及び該弾性部44の一端部に可動接点41を有し、可動接点41を固定接点21に押圧して接触させる可動片4と、温度変化に伴って変形することにより、可動片4を可動接点41が固定接点21に接触する導通状態から可動接点41が固定接点21から離隔する遮断状態に移行させる熱応動素子5と、熱応動素子5を収容する凹部73を有する樹脂ケース10とを備えたブレーカー1であって、固定片2は、その厚さ方向から見た平面視で熱応動素子5と重複する領域で、樹脂ケース10に埋設された埋設部25を有し、樹脂ケース10は、凹部73の外周に形成された外周部74と、凹部73を貫通し埋設部25を熱応動素子5の側に露出させる第1貫通部75と、第1貫通部75の内側で、固定片2と熱応動素子5との間に介在する島部76と、固定片2の底面を覆う底部71と、底部71を貫通し、固定片2の底面の一部を露出させる窓部72とを有していればよい。
【0080】
また、本発明のブレーカー1等は、2次電池パック、電気機器用の安全回路等にも広く適用できる。
図11は2次電池パック500を示す。2次電池パック500は、2次電池501と、2次電池501の出力回路中に設けたブレーカー1とを備える。
図12は電気機器用の安全回路502を示す。安全回路502は2次電池501の出力回路中に直列にブレーカー1を備えている。ブレーカー1を備えた2次電池パック500又は安全回路502によれば、極低温下で使用される場合であっても、安定した導通が得られる2次電池パック500又は安全回路502を実現できる。
【符号の説明】
【0081】
1 :ブレーカー
2 :固定片
2a :底面
4 :可動片
5 :熱応動素子
6 :サーミスター
10 :樹脂ケース
21 :固定接点
25 :埋設部
26 :貫通孔
41 :可動接点
43 :埋設部
44 :弾性部
71 :底部
72 :窓部
73 :凹部
74 :外周部
75 :第1貫通部
76 :島部
76a :第2貫通部
77 :連結部
77a :リブ
500 :2次電池パック
501 :2次電池
502 :安全回路
771 :第1連結部
772 :第2連結部
773 :第3連結部
774 :突出部