IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
  • 特許-薬剤注入カテーテル 図1
  • 特許-薬剤注入カテーテル 図2
  • 特許-薬剤注入カテーテル 図3
  • 特許-薬剤注入カテーテル 図4
  • 特許-薬剤注入カテーテル 図5
  • 特許-薬剤注入カテーテル 図6
  • 特許-薬剤注入カテーテル 図7
  • 特許-薬剤注入カテーテル 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】薬剤注入カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20240522BHJP
   A61M 31/00 20060101ALI20240522BHJP
   A61B 8/12 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
A61M25/00 600
A61M25/00 530
A61M31/00
A61B8/12
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021501616
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049332
(87)【国際公開番号】W WO2020170582
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2019027567
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船村 重彰
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0313634(US,A1)
【文献】特表2016-515012(JP,A)
【文献】特開2006-314474(JP,A)
【文献】特開平02-065870(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0049518(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 31/00
A61B 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔を有し近位端から遠位端へ延在し、遠位端に開口を有し、患部に接触するシャフトと、
前記シャフトの近位部に設けられている、前記シャフトの前記内腔を減圧するための吸引口と、
前記シャフトの前記内腔に配置され、該シャフトの遠位端の前記開口から突没可能である針管と、
前記シャフトの遠位端部に設けられている患部接触検知部および超音波発生部と、
を有し、
前記針管が配置されている前記シャフトの前記内腔が、前記吸引口から減圧吸引されるものである薬剤注入カテーテル。
【請求項2】
前記患部接触検知部の遠位端は、前記シャフトの遠位端より遠位側にある請求項1に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項3】
前記患部接触検知部の遠位端は、前記シャフトの遠位端より遠位側、かつ前記超音波発生部の遠位端より遠位側にある請求項2に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項4】
前記患部接触検知部は、電極である請求項1~3のいずれか一項に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項5】
前記超音波発生部は、圧電材料、正極、および負極を有し、正極と負極はリング状である請求項1~4のいずれか一項に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項6】
前記超音波発生部は、圧電材料、正極、および負極を有し、圧電材料は、リング状である請求項1~4のいずれか一項に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項7】
前記超音波発生部は複数であり、前記シャフトの遠位端部に、それらが該シャフトの周方向に配置されている請求項1~4のいずれか一項に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項8】
前記患部接触検知部はリング状である請求項1~7のいずれか一項に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項9】
前記患部接触検知部は、前記超音波発生部の外方に配置されている請求項1~8のいずれか一項に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項10】
前記患部接触検知部は複数であり、前記シャフトの遠位端部に、それらが該シャフトの周方向に配置されている請求項1~9のいずれか一項に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項11】
前記シャフトの遠位端より遠位側、前記患部接触検知部の遠位端より遠位側、かつ前記超音波発生部の遠位端より遠位側に、樹脂製リング状部材が配置されている請求項1~10のいずれか一項に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項12】
前記樹脂製リング状部材の内径は、前記シャフトの内径より大きい請求項11に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項13】
前記樹脂製リング状部材の厚みは、前記シャフトの厚みより小さい請求項11に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項14】
前記針管は、屈曲部を有する請求項1~13のいずれか一項に記載の薬剤注入カテーテル。
【請求項15】
前記針管は、遠位側開口と近位側開口の他に、側部開口を有している請求項1~14のいずれか一項に記載の薬剤注入カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤注入カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
不全心筋や腫瘍に薬剤を直接注入して心筋を再生したり、腫瘍を縮小、死滅させる治療が試みられている。また、薬剤を投与した後に、超音波を照射し、投与した薬剤を体内組織へ拡散させることが試みられている。こうした体内局所における薬剤投与と、集束超音波照射による薬剤効果発現に適した超音波プローブを用いたカテーテルが特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-314474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
患部が体表であれば、例えば、目視で患部を確認し、患部に針管を穿刺し、針管から薬剤を患部に直接注入できる。しかし患部が心臓であったり、肺、胃、肝臓、胆道などの体の深部にある場合は、目視では患部を確認できないため、内視鏡や断層撮影装置などを用いて心筋の状態や腫瘍の位置を予め検知し、患部を特定してから針管を穿刺し、薬剤を注入する必要がある。しかし従来では、患部を特定する検知装置と薬剤を注入するカテーテルが別体であったため、検知装置で患部を特定しても必ずしも患部に針管を正確に穿刺し、薬剤を注入できるわけではなかった。また、心臓や臓器は心拍や呼吸に合わせて動くため、患部に穿刺した針管が抜けたり、穿刺部位が収縮し、注入した薬剤が患部に拡散せずに溢れ出ることがあった。
【0005】
本発明は、上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、患部に薬剤を正確に注入でき、特に体内腔の深部へ薬剤を注入できる薬剤注入カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る薬剤注入カテーテルの一実施態様は、上記課題を解決するために以下の構成を備える。即ち、内腔を有し近位端から遠位端へ延在し、遠位端に開口を有するシャフトと、前記シャフトの内腔を減圧するための吸引口と、前記シャフトの内腔に配置され、該シャフトの遠位端から突没可能である針管と、前記シャフトの遠位端部に設けられている患部接触検知部および超音波発生部とを有する薬剤注入カテーテルである。また本発明には、上記薬剤注入カテーテルの少なくとも一部を体内腔に送達させる工程と、患部接触検知部により注入部位を検知する工程と、検知された注入部位に針管を挿入する工程と、シャフトの内腔の圧力を減圧する工程と、前記針管から薬剤を注入する工程と、超音波発生部から超音波を発生する工程と、を含む薬剤注入カテーテルの使用方法も含まれる。
【発明の効果】
【0007】
上記薬剤注入カテーテルは、シャフトの遠位端から突没可能である針管と、シャフトの遠位端部に患部接触検知部と超音波発生部とを有しており、且つシャフトの内腔を減圧できるため、患部に対して薬剤を針管から正確に注入できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態における薬剤注入カテーテルの一構成例を示す断面図であり、一部外観図である。
図2図2は、図1に示した薬剤注入カテーテルの遠位端部を拡大した図である。
図3図3は、本発明の実施形態における薬剤注入カテーテルの他の構成例を示す断面図であり、薬剤注入カテーテルの遠位端部を拡大した図である。
図4図4は、図1に示した薬剤注入カテーテルの遠位端部を、遠位側から近位側に向かって見たときの模式図である。
図5図5は、図4に示した患部接触検知部の他の構成例を示す模式図である。
図6図6は、図4に示した患部接触検知部のさらに他の構成例を示す模式図である。
図7図7は、本発明の実施形態における薬剤注入カテーテルの他の構成例を示す断面図であり、薬剤注入カテーテルの遠位端部を拡大した図である。
図8図8は、本発明の実施形態における薬剤注入カテーテルの他の構成例を示す断面図であり、薬剤注入カテーテルの遠位端部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態における薬剤注入カテーテルは、内腔を有し近位端から遠位端へ延在し、遠位端に開口を有するシャフトと、前記シャフトの内腔を減圧するための吸引口と、前記シャフトの内腔に配置され、該シャフトの遠位端から突没可能である針管と、前記シャフトの遠位端部に設けられている患部接触検知部および超音波発生部とを有する点に特徴がある。
【0010】
上記薬剤注入カテーテルに用いられる薬剤としては、例えば、低分子薬や、細胞やウイルスを含む液体などを用いることができる。このような薬剤を用いることによって本発明の実施形態における薬剤注入カテーテルを、遺伝子治療や、再生細胞治療などに用いることができる。また、本発明の実施形態における薬剤注入カテーテルは、体組織や臓器での治療に用いることができる。
【0011】
以下、本発明の実施形態における薬剤注入カテーテルについて、図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明における薬剤注入カテーテルは図示例に限定される訳ではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、本明細書では、薬剤注入カテーテルの操作者の手元側を近位側、手元側と反対側を遠位側とする。また、薬剤注入カテーテルの内方とは、針管の径方向において針管の長軸中心に向かう方向を指し、外方とは、内方とは反対方向の放射方向を指す。
【0012】
図1は、本発明の実施形態における薬剤注入カテーテル100の一例を模式的に示した断面図であり、一部外観図で示している。図面に対して左側が近位側、右側が遠位側である。
【0013】
シャフト1は、薬剤注入カテーテル100を患部まで送達する際に、針管3によって治療非対象組織部位や内視鏡の鉗子チャンネル内を傷付けないように、針管3を収容する部材である。シャフト1は、遠位端と近位端を有している。シャフト1はその遠位端に設けられている開口を介して外部と連通している。対象組織に針管3を穿刺する際には、開口から針管3の穿刺部を突出させる。なお、シャフト1は、長尺に形成されており、長手方向と径方向を有している。
【0014】
図1において、内腔を有し近位端から遠位端へ延在し、遠位端に開口を有するシャフト1の遠位端部に、患部接触検知部2aおよび2bを配置している。以下、患部接触検知部2aと2bをまとめて患部接触検知部2と呼ぶことがある。上記患部接触検知部2とは、臓器等の体組織に接触して、患部を検知する検知デバイスであり、例えば患部接触検知センサーや患部接触検知電極とすることができる。上記患部接触検知部は、電極であることが好ましい。
【0015】
上記患部接触検知部2として患部接触検知電極2a、2bを配置した場合、これらの患部接触検知電極2aと2bを体組織に接触させて通電することによって、例えば、患部接触検知電極2a-2b間のインピーダンスの変化を測定でき、患部の状態を検知できる。
【0016】
上記シャフト1の内腔には、該シャフト1の遠位端から突没可能である針管3を配置している。針管3は、内側シャフト4の遠位端に固定されており、該内側シャフト4の近位側には、注入具5としてシリンジを配置している。注入具5としては、シリンジの代わりに例えばモーターで制御される注入ポンプなどを配置してもよい。上記シャフト1と内側シャフト4は、互いに非固定であり、長手方向に相対的に移動可能である。従って内側シャフト4を遠位側へ押し出すか、シャフト1を近位側へ引きつつ内側シャフト4を遠位側へ押し出すことによって、針管3をシャフト1の遠位部から突出させることができる。上記患部接触検知部2で検知された患部に針管3を穿刺し、注入具5から内側シャフト4を通して患部に薬剤を注入できる。
【0017】
図2に示すように、針管3は、遠位側開口と近位側開口を有している。針管3の内腔は、遠位側開口を介して外部と連通している。また、針管3の内腔は、近位側開口を介して内側シャフト4の内腔と連通している。近位側開口から針管3の内腔に薬剤を供給することができ、遠位側開口から薬剤を針管3の外に放出することができる。
【0018】
上記シャフト1の遠位端部には、超音波発生部6を配置している。上記針管3から患部に薬剤を注入した後、超音波発生部6から超音波を発生させるように制御されていることによって、薬剤を生体の深部へ拡散させることができる。超音波は、患部に薬剤を注入する途中で発生させるように制御されていてもよい。
【0019】
上記シャフト1は、該シャフト1の内腔を減圧するための吸引口1aを有している。該吸引口1aに固定した吸引具7によって、シャフト1の内腔を減圧させることができる。これによりカテーテルの遠位端部を患部へ吸着させることができるため、針管3や超音波発生部6の位置が患部からズレることなく手技を進めることができる。吸引口1aは、例えばシャフト1の近位部に設けることができる。なお、図1では吸引具7の一例としてシリンジを配置した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、シリンジの代わりに例えばモーターで制御される吸気ポンプなどを配置してもよい。
【0020】
本発明では、上記患部接触検知部2で検知された患部に上記シャフト1の遠位端部を接触させ、上記針管3を穿刺した状態で上記シャフト1の内腔を減圧させるように制御することによって、患部から上記針管3を抜けにくくさせることができる。また、シャフト1の内腔を減圧することによって上記シャフト1の遠位端部と患部が固定されるため、上記針管3から患部への薬剤注入に時間がかかっても針管3が患部から抜けることなく患部に薬剤を注入できる。
【0021】
本発明の実施形態における薬剤注入カテーテル100は、上記注入具5や上記吸引具7として自動制御可能なポンプを用いたり、患部接触検知部2や超音波発生部6の検知装置、電源装置や、システムの制御装置を組み合わせることによって、手技の少なくとも一部を自動化できる。これにより手技の時間を短縮したり、術者や患者の負担を軽減できる。
【0022】
上記図1に示した薬剤注入カテーテル100の遠位端部について、図2を用いて詳細に説明する。図2は、図1に示した薬剤注入カテーテル100の遠位端部における拡大図である。図2において図1と重複する箇所には同じ符号を付した。以下の図面について同じである。図2に示すように、上記患部接触検知部2aは上記超音波発生部6の外方に配置されていることが好ましい。詳細には、患部接触検知部2aは、超音波発生部6より外方に位置していることが好ましい。これにより患部接触検知部2aが体組織に接触しやすくなるため、手技のスピードが向上する。
【0023】
また図2に示すように、上記患部接触検知部2aの遠位端βは、上記シャフト1の遠位端αより遠位側にあることが好ましい。これにより患部接触検知部2aが体組織の表面により一層接近するため、患部検知の精度を向上させることができる。また、上記患部接触検知部2を体組織に接触させるために薬剤注入カテーテル100の遠位端部を体組織の表面に押し込まなくても患部を検知できる。なお、図2に示すように、患部接触検知部2aの遠位端βの位置は、超音波発生部6の遠位端γの位置と一致していてもよい。
【0024】
本発明の実施形態における薬剤注入カテーテル100の他の構成例を図3に示す。図3は、薬剤注入カテーテル100の遠位端部における拡大図である。
【0025】
上記患部接触検知部2aの遠位端βは、上記シャフト1の遠位端αより遠位側、かつ上記超音波発生部6の遠位端γより遠位側にあることが好ましい。これにより患部接触検知部2aが体組織に接触しやすくなるため、薬剤注入カテーテル100の遠位端部を体組織の表面に押し込まなくても患部を検知できる。また、患部接触検知部2aの遠位端βよりも超音波発生部6の遠位端γが近位側であっても、上記薬剤注入カテーテル100は、上述したようにシャフトの内腔を減圧するための吸引口1aを有しているため、シャフト1の内腔が減圧されたときに、生体の一部がシャフト1の内腔に吸い込まれるので患部に超音波を照射できる。
【0026】
超音波発生部6は、超音波探触子を含むことができる。超音波探触子は、電気信号を超音波に変換して、超音波の発信および受信を行うものであり、一振動子型探触子であってもよく、発信振動子および受信振動子を有する二振動子型探触子であってもよい。振動子は、例えば、正極と、負極と、正極および負極に挟持されている圧電材料と、を有する構成とすることができる。圧電材料は、圧電性を示す結晶性物質であり、機械的ひずみを与えたとき電圧を発生するか、逆に電圧を加えると機械的ひずみを発生する物質である。圧電材料としては、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ジルコンチタン酸鉛(PZT)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-3コンポジット複合圧電材料等を用いることができる。
【0027】
超音波発生部6において、超音波はシャフト1の遠位側に向かって発生することが好ましいが、シャフト1の径方向の外方に向かって発生してもよい。また、超音波発生部6において、超音波はシャフト1の遠位側と径方向の外方の両方に向かって発生してもよい。
【0028】
上記超音波発生部6で発生させる超音波の周波数や照射エネルギーは、処置や薬剤、使用方法に応じて適宜設定できる。周波数は例えば0.03~25MHzであってもよく、照射エネルギーは例えば0.25~400W/cm2であってもよい。超音波の発生方法には、圧電方式や静電方式などがある。
【0029】
上記超音波発生部6(好ましくは振動子)の形状は特に限定されず、リング状であってもよいし、ブロック状であってもよいし、帯状であってもよい。例えば、上記超音波発生部6が、圧電材料、正極、および負極を有し、正極と負極がリング状であってもよい。また、上記超音波発生部6が、圧電材料、正極、および負極を有し、圧電材料がリング状であってもよい。超音波発生部6をリング状とすることによって、超音波を広範囲に亘って発生させることができるため、生体組織に注入した薬剤を広範囲に浸透させることができる。
【0030】
超音波発生部6がブロック状または帯状の場合は、上記シャフト1の遠位端部に超音波発生部6を1個配置してもよいし、複数の超音波発生部6を該シャフト1の周方向に配置してもよい。また、ブロック状または帯状の複数の超音波発生部6をシャフト1の長手方向に沿って配置してもよい。超音波発生部6の個数によって超音波を照射する方向を制御することができる。
【0031】
超音波発生部6は、シャフト1の遠位部の外方端よりも径方向の内方に配置されていることが好ましい。これにより、シャフト1の径方向における超音波発生部6の過度な突出を防ぐことができる。
【0032】
上記患部接触検知部2、超音波発生部6と電源などエネルギー供給源との連結、制御のために、導線を用いることができる。導線は、シャフト1の壁面内や壁面上に配置することができる。また、シャフト1と内側シャフト4の間にさらに中間シャフトを配置し、シャフト1と中間シャフトの間に、導線を配置することもできる。導線は、電気エネルギーや光エネルギーの導体を用い、表面にコーティングがされていてもよい。導線としては、導電性材料のコアに非導電性材料の被覆を行った導線、光ファイバーなどを用いることができる。
【0033】
上記患部接触検知部の形状について図4図6を用いて説明する。図4は、図1に示した薬剤注入カテーテル100の遠位端部を、遠位側から近位側に向かって見たときの模式図である。なお、図4は断面図ではないが、各部材の位置関係の把握を容易にするため、各部材にハッチングを施している。図5図6についても同様である。上記患部接触検知部2aは、図4に示すようにリング状の患部接触検知電極2aや患部接触検知センサー2aであってもよい。これにより薬剤注入カテーテル100の遠位端部がどのような方向に向いても、リング状の患部接触検知部2aが体組織に接触するため手技のスピードを向上させることができる。患部の検知方法としては、電位差の変化、インピーダンスの変化、超音波の反射、光の反射などを用いることができる。
【0034】
患部接触検知電極2aの形状をリング状にする場合は、例えば、体組織のインピーダンスを測定するために、図1に示すように患部接触検知電極2aと離隔し、且つ患部接触検知電極2aより近位側に患部接触検知電極2bを設ける。
【0035】
上記患部接触検知部2aは、図5に示すようにブロック状の患部接触検知電極2a1、2a2、2a3、2a4や患部接触検知センサー2a1、2a2、2a3、2a4であってもよい。即ち、上記シャフト1の遠位端部に、複数の患部接触検知部2a1~2a4が該シャフト1の周方向に配置されていてもよい。患部接触検知部を患部接触検知電極2a1、2a2、2a3、2a4とする場合、薬剤注入カテーテル100の遠位端に正極と負極が対になるように複数の電極を配置することによって、薬剤注入カテーテル100の遠位端を体組織に接触させることにより患部を検知できる。従って形状がブロック状である患部接触検知電極2aを、図5に示すように、シャフト1の遠位端部に複数配置する場合は、図1に示した患部接触検知電極2bは必ずしも設ける必要はない。
【0036】
図5では、ブロック状の患部接触検知部を4個配置した構成例が示されているが、ブロック状の患部接触検知部の数はこれに限定されず、3個以下であってもよいし、5個以上であってもよい。シャフト1の遠位端部に、ブロック状の患部接触検知電極を1個のみ配置する場合は、上記図1と同様、当該ブロック状の患部接触検知電極2aと離隔し、且つ患部接触検知電極2aより近位側に患部接触検知電極2bを設ける。
【0037】
図6に示すように、シャフト1の周方向において、患部接触検知部2aと超音波発生部6が隣り合って配置されていてもよい。また、複数の患部接触検知部2aと、複数の超音波発生部6が交互に配置されていてもよい。図6では、ブロック状の患部接触検知部2a1~2a4がシャフト1の周方向に沿って配置されており、患部接触検知部2a1と2a2の間、2a2と2a3の間、2a3と2a4の間、2a4と2a1の間にそれぞれ超音波発生部6が配置されている。このように患部接触検知部2aと超音波発生部6を配置することによって、患部接触検知部2aで検知した患部の近傍に超音波を照射することができるようになる。
【0038】
上記シャフト1は、体腔内の形状に沿って屈曲する可撓性と、患部まで確実に到達する剛性の両方をバランス良く兼ね備えていることが望ましい。シャフト1は、生体適合性を有する材料から構成されることが好ましい。シャフト1としては、樹脂チューブ、単線または複数の線材、撚線の線材を特定のパターンで配置することによって形成された筒部材、金属管またはこれらを組み合わせたものが挙げられる。樹脂チューブは、例えば押出成形によって製造することができる。線材が特定のパターンで配置された筒部材としては、線材が単に交差される、または編み込まれることによって網目構造を有する筒状体や、線材が巻回されたコイルが示される。網目構造の種類は特に制限されず、コイルの巻き数や密度も特に制限されない。網目構造やコイルは、シャフト1の長手方向の全体にわたって一定の密度で形成されていてもよく、シャフト1の長手方向の位置によって異なる密度で形成されていてもよい。金属管の可撓性を高めるために、金属管の外側表面には複数の環状の溝やらせん状の溝が形成されていてもよい。中でも、溝が金属管の軸方向の中央よりも遠位側の外表面、特に外周面に形成されていることが好ましい。シャフト1は、単層から構成されていてもよく、複数層から構成されていてもよい。また、長手方向において、シャフト1の一部が単層から構成されており、他部が複数層から構成されていてもよい。
【0039】
上記シャフト1は、近位側に向かって二又に分岐されているY字管状に形成されていることが好ましい。一方の分岐管の近位側開口を吸引口1aとして吸引具7を接続することができる。また、他方の分岐管の近位側開口から注入具5をシャフト1の内腔に挿入することで、内側シャフト4の近位側に注入具5を接続することができる。
【0040】
上記シャフト1は樹脂または金属から構成されることが好ましい。シャフト1を構成する樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂が好適に用いられる。シャフト1を構成する金属としては、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス鋼、白金、ニッケル、コバルト、クロム、チタン、タングステン、金、Ni-Ti合金、Co-Cr合金、またはこれらの組み合わせが挙げられる。特に、Ni-Ti合金から構成されている線材は、形状記憶性および高弾性に優れている。また、線材は、上述の金属、ポリアリレート繊維、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、PBO繊維、炭素繊維等の繊維材料であってもよい。繊維材料は、モノフィラメントであっても、マルチフィラメントであってもよい。また、樹脂から構成されている筒状体に金属線材等の補強材が配設されているものをシャフト1として用いてもよい。
【0041】
上記針管3は、生体内の対象組織に穿刺される管状の部材であり、対象組織内に局所的に薬剤を投与する機能を有する。針管3は遠位側と近位側を有しており、対象組織に挿入される穿刺部が針管3の遠位側に設けられる。穿刺部の先端は、遠位側を向くように配置される。穿刺部は、組織に穿刺しやすいように形成されていれば特に限定されないが、針管3の遠位端に傾斜した開口縁を有していることが好ましい。
【0042】
上記針管3は、近位端から遠位端へ延在している一または複数の内腔を有しており、少なくとも1つの内腔は薬液が流れる流路として機能する。図2に示す針管3には、内腔と連通している遠位側開口と近位側開口が設けられている。近位側開口により、針管3の内腔に薬剤を供給することができ、遠位側開口から薬剤を針管3の外に放出することができる。
【0043】
上記針管3は、上記シャフト1と同様に、樹脂チューブ、単線または複数の線材、撚線の線材を特定のパターンで配置することによって形成された筒状体、金属管またはこれらを組み合わせたものを用いることができるが、金属管であることが好ましい。
【0044】
上記針管3は、内側シャフト4の遠位端に直接固定してもよいし、間接固定してもよい。固定方法は特に限定されず、固定用の部材や接着剤を用いる方法や熱融着による固定方法が挙げられる。
【0045】
上記内側シャフト4は、上記シャフト1と同様に、樹脂チューブ、単線または複数の線材、撚線の線材を特定のパターンで配置することによって形成された筒状体、金属管またはこれらを組み合わせたものを用いることができるが、樹脂チューブであることが好ましい。内側シャフト4を構成する材料は、シャフト1を構成する材料の説明を参照することができる。内側シャフト4を構成する材料は、シャフト1を構成する材料と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0046】
上記針管3は、金属から構成されていることが好ましい。針管3を構成する金属としては、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス鋼、タングステン、銅、Ni-Ti合金、Co-Cr合金等の導電性の合金などが挙げられる。また針管3は、表面がメッキされていてもよく、例えば、金メッキや白金メッキが挙げられる。針管3は、樹脂から構成されていてもよい。針管3を構成する樹脂としては、シャフト1を構成する樹脂の説明を参照することができる。
【0047】
上記針管3は、屈曲部を有することが好ましい。直線状よりも屈曲部を有することによって、針管3を生体から抜けにくくさせることができる。針管3の屈曲部の形状は特に限定されず、例えば、S字状、J字状、螺旋状などが挙げられる。
【0048】
図示していないが、上記針管3は、遠位側開口と近位側開口の他に側部開口を有していてもよい。側部開口は、針管3の側壁に設けられている貫通孔であることが好ましい。針管3の側壁に貫通孔を有することによって、生体組織に対して様々な深度で薬液を注入できる。側部開口の数は特に限定されず、例えば、1個以上、10個以下であってもよい。側部開口の形状も特に限定されず、例えば、円形、楕円形、矩形などが挙げられるが、加工のしやすさから円形が好ましい。
【0049】
本発明の実施形態における薬剤注入カテーテル100は、上記シャフト1の遠位端より遠位側、上記患部接触検知部2aの遠位端より遠位側、かつ上記超音波発生部6の遠位端より遠位側に、樹脂製リング状部材を配置してもよい。これにより体組織の表面の凹凸に沿って薬剤注入カテーテル100の遠位端部が密着しやすくなるため、吸引した場合には特に吸着効果が向上する。
【0050】
上記薬剤注入カテーテル100の遠位端部に上記樹脂製リング状部材を配置した実施形態の構成例について図7を用いて説明する。図7は、実施の形態における薬剤注入カテーテル100の遠位端部を拡大して示した模式図であり、図2に示した薬剤注入カテーテル100の遠位端に、更に樹脂製リング状部材8を配置した構成例を示している。図7に示した樹脂製リング状部材8の厚みは、上記シャフト1の厚みと同じである。樹脂製リング状部材8の厚みとシャフト1の厚みを同じにすることで、シャフト1に樹脂製リング状部材8を固定しやすくなる。
【0051】
上記樹脂の種類は特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂でもよいし、天然ゴムでもよく、これらを混合したものであってもよい。熱による変形を防止するため、シリコーンなどの耐熱性樹脂であってもよい。
【0052】
上記薬剤注入カテーテル100の遠位端部に上記樹脂製リング状部材を配置した他の構成例について図8を用いて説明する。図8では、上記シャフト1の厚みより薄い樹脂製リング状部材8を配置している。上記樹脂製リング状部材8の厚みが上記シャフト1の厚みより小さい場合は、上記樹脂製リング状部材8の内径d1は、上記シャフト1の内径d2より大きいことが好ましい。これにより樹脂製リング状部材8が上記薬剤注入カテーテル100の外側に配置されるため、吸引の際に樹脂製リング状部材8が内側に倒れ込むことを防止でき、吸着効果を向上させることができる。
【0053】
上記シャフト1の遠位端部と上記内側シャフト4の遠位端部の少なくともいずれか一方には、これらの位置をX線透視下で確認するためにX線不透過マーカーを配置することが好ましい。
【0054】
上記X線不透過マーカーの形状は、筒状が好ましく、円筒状、多角筒状、筒に切れ込みが入った断面C字状の形状、線材を巻回したコイル形状等が挙げられる。シャフト1の遠位端部および内側シャフト4の遠位端部に配置するX線不透過マーカーの形状は、同じであってもよいが、異なることによってシャフト1の遠位端部と内側シャフト4の遠位端部の位置がそれぞれ視認しやすくなる。
【0055】
上記X線不透過マーカーを構成する材料は、例えば、鉛、バリウム、ヨウ素、タングステン、金、白金、イリジウム、ステンレス、チタン、コバルトクロム合金等のX線不透過物質を用いることができる。シャフト1の遠位端部に配置するX線不透過マーカーを構成する材料と、内側シャフト4の遠位端部に配置するX線不透過マーカーを構成する材料は、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。これらの材料を同じとすることによって、X線透過によりX線不透過マーカーの視認性を同程度とすることができるため、シャフト1や針管3の位置を把握しやすくなる。
【0056】
本発明の実施形態における薬剤注入カテーテルは、その少なくとも一部を体内腔に送達させる工程と、患部接触検知部により注入部位を検知する工程と、検知された注入部位に針管を挿入する工程と、シャフトの内腔を減圧する工程と、前記針管から薬剤を注入する工程と、超音波発生部から超音波を発生する工程と、を含むことによって使用できる。
【0057】
本発明の実施形態における薬剤注入カテーテルは、体腔内の組織の治療に用いることができる。治療には、以下のステップを含む。即ち、内腔を有し近位端から遠位端へ延在し、遠位端に開口を有するシャフトと、前記シャフトの内腔を減圧するための吸引口と、前記シャフトの内腔に配置され、該シャフトの遠位端から突没可能である針管と、前記シャフトの遠位端部に設けられている患部接触検知部および超音波発生部とを有する薬剤注入カテーテルを準備するステップ、前記薬剤注入カテーテルの少なくとも一部を体内腔に送達させるステップ、前記患部接触検知部により注入部位を特定するステップ、前記特定により特定された注入部位に針管を挿入するステップ、前記シャフトの内腔を減圧するステップ、前記針管から薬剤を注入するステップ、前記超音波発生部から超音波を発生するステップ、を含む治療方法である。これにより、患部へ薬剤を効果的に拡散することができ、治療効果を促進することができる。
【0058】
本願は、2019年2月19日に出願された日本国特許出願第2019-27567号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年2月19日に出願された日本国特許出願第2019-27567号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【符号の説明】
【0059】
1 シャフト
2a、2b、2a1~2a4 患部接触検知部(患部接触検知電極)
3 針管
4 内側シャフト
5 注入具
6 超音波発生部
7 吸引具
8 樹脂製リング状部材
100 薬剤注入カテーテル
d1 樹脂製リング状部材8の内径
d2 シャフト1の内径
α シャフト1の遠位端
β 患部接触検知部の遠位端
γ 超音波発生部の遠位端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8