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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】後房有水晶体眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240522BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021506981
(86)(22)【出願日】2019-08-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 EP2019071831
(87)【国際公開番号】W WO2020035534
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】BE2018/5569
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(31)【優先権主張番号】16/103,722
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512003777
【氏名又は名称】フィシオル
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザルジバル,ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】パニョーレ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】レドゾビック,スワード
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-277242(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0097177(US,A1)
【文献】特表2003-513704(JP,A)
【文献】特開2004-147770(JP,A)
【文献】特開2013-031670(JP,A)
【文献】特表2006-511242(JP,A)
【文献】特表2001-525220(JP,A)
【文献】特表2008-539951(JP,A)
【文献】特表2009-518148(JP,A)
【文献】特表2018-524045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00;2/02-2/80;3/00-4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後房有水晶体眼内レンズ(1)であって、
-前面(11)と後面(12)、
-レンズを含み、前記前面(11)から前記後面(12)に向かう光軸(Z)に対して半径方向に延びる中央光学部(2)、
を含み、
前記後房有水晶体眼内レンズ(1)は、
-前記中央光学部(2)に対して半径方向外向きに延びる周辺ハプティック部(3)であって、
前記周辺ハプティック部(3)は、
・前記中央光学部(2)に取り付けられ、前記中央光学部(2)の円周方向および対称的に延びる近位部分(31)、
・前記近位部分(31)に取り付けられ、前記中央光学部(2)に対して半径方向外向きおよび後方の両方に延びる複数の支持要素(4A~D)を含む遠位部分(32)、
を含み、
前記支持要素(4A~D)は、眼(9)で通常使用されているときに、毛様体小帯(97)上で前記有水晶体眼内レンズ(1)を支持するように構成され、
前記中央光学部(2)および前記周辺ハプティック部(3)がドーム(K)を形成する、
周辺ハプティック部、
-複数の細長い可撓性ハプティック(5A~D)であって、
前記可撓性ハプティック(5A~D)のそれぞれは、前記支持要素(4A~D)の1つの周りに部分的に円周方向に、および前記中央光学部(2)に対して半径方向外向きに延び、
前記有水晶体眼内レンズ(1)の第1の直径(81)が、前記中央光学部(2)および前記周辺ハプティック部(3)から成る光学アセンブリの第2の直径(82)よりも厳密に大きく、前記可撓性ハプティック(5A~D)のそれぞれは前記第1の(81)直径と第2の(82)直径との間で少なくとも部分的に延び、
前記可撓性ハプティック(5A~D)のそれぞれが、
・前記周辺ハプティック部(3)の前記近位部分(31)に取り付けられた近位端(51A~D)、
・眼(9)で通常使用されているときに、前記有水晶体眼内レンズ(1)を毛様体溝(98)に引っ掛けるための自由遠位端(52A~D)、
を含む細長い可撓性ハプティック(5A~D)、
をさらに含み、
前記可撓性ハプティック(5A~D)のそれぞれは、前記可撓性ハプティックの近位端(51A~D)に横方向凹部(56A~D)を含み、横方向凹部(56A~D)は、近位端(51A~D)が、前記可撓性ハプティック(5A~D)のそれぞれと前記周辺ハプティック部(3)の前記近位部分(31)との間でヒンジとして機能することを可能にしやすいことを特徴とする、後房有水晶体眼内レンズ。
【請求項2】
前記可撓性ハプティック(5A~D)のそれぞれが、前記可撓性ハプティックの近位端(51A~D)と前記可撓性ハプティックの遠位端(52A~D)との間に含まれる中間セクション(53A~D)を含み、軸方向および/または半径方向の圧縮が前記可撓性ハプティック(5A~D)のそれぞれに加えられると湾曲しやすく、
-前記可撓性ハプティックの近位端(51A~D)と前記可撓性ハプティックの中間セクション(53A~D)との間に延びる、前記可撓性ハプティック(5A~D)のそれぞれの近位セクションは、前記中央光学部(2)に対して後方に延び、
-前記可撓性ハプティックの中間セクション(53A~D)と前記可撓性ハプティックの遠位端(52A~D)との間に延びる、前記可撓性ハプティック(5A~D)のそれぞれの遠位セクションは、前記光軸(Z)に垂直な線(d)と-15°~15°の角度(α)を形成することを特徴とする、請求項1に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項3】
前記可撓性ハプティック(5A~D)のそれぞれは、
-前記光軸(Z)に沿って測定され、前記可撓性ハプティックの近位端(51A~D)から前記可撓性ハプティックの遠位端(52A~D)まで減少する厚さ(83)、
-前記光軸(Z)に対して垂直に測定された幅(84)であって、
・前記可撓性ハプティックの近位端(51A~D)から前記可撓性ハプティックの中間セクション(53A~D)に向かって減少し、
・前記可撓性ハプティックの近位端(51A~D)よりも前記可撓性ハプティックの遠位端(52A~D)の方が大きい、
幅(84)、
であることを特徴とする、請求項2に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項4】
前記自由遠位端(52A~D)は、前記有水晶体眼内レンズ(1)が眼(9)で通常使用されているときに、毛様体溝(98)に引っ掛かるように構成された滑らかなリプル(54、55)を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項5】
有水晶体眼内レンズ(1)は、
-前記光軸(Z)に沿って伸長し、前記中央光学部(2)を中心とし、且つ前記第2の直径(82)に等しい直径を有する円筒内に内接する、第1(4A)、第2(4B)、第3(4C)および第4(4D)の支持要素であって、
前記第1(4A)および第2(4B)の支持要素が、前記光軸(Z)の両側で正反対に延び、
前記第3(4C)および第4(4D)の支持要素が、前記光軸(Z)の両側で正反対に延びる、
支持要素と、
-前記光軸(Z)に沿って伸長し、前記中央光学部(2)を中心とし、且つ前記第1の直径(81)に等しい直径を有する別の円筒内に内接する、第1(5A)、第2(5B)、第3(5C)、および第4(5D)の可撓性ハプティックであって、
前記第1(5A)および第2(5B)の可撓性ハプティックが、前記光軸(Z)の両側で正反対に延び、
前記第3(5C)および第4(5D)の可撓性ハプティックが、前記光軸(Z)の両側で正反対に延びる、
可撓性ハプティックと、
を含むことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項6】
-前記第1(4A)、第2(4B)、第3(4C)および第4(4D)の支持要素は、前記中央光学部(2)に対して半径方向に外側に向けられ、前記光軸(Z)上で交差する第1の平面矩形(R)の対角線(r1、r2)に従って対称であり、
-前記第1(5A)、第2(5B)、第3(5C)および第4(5D)の可撓性ハプティックの前記遠位端(52A~D)は、前記第1の平面矩形(R)の辺に平行な辺の第2の平面矩形(S)の頂点(s1、s2、s3、s4)によって規定される位置に実質的に対称に配置され、
-前記第1(5A)、第2(5B)、第3(5C)および第4(5D)の可撓性ハプティックの前記近位端(51A~D)は、前記第1の平面矩形(R)の辺に平行な辺の第3の平面矩形(T)の頂点(t1、t2、t3、t4)によって規定される位置に実質的に対称に配置され、
-前記第1(5A)、第2(5B)、第3(5C)および第4(5D)の可撓性ハプティックは、それぞれ前記第1(4A)、第2(4B)、第3(4C)および第4(4D)の支持要素の周りに円周方向に部分的に延びる、
ことを特徴とする、請求項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項7】
-前記第1(5A)および第3(5C)の可撓性ハプティックの前記近位端(51A、51C)は、1mm未満の距離(85)だけ離れ、
-前記第2(5B)および第4(5D)の可撓性ハプティックの前記近位端(51B、51D)は、1mm未満の距離(85)だけ離れ、
-前記第1(5A)、第2(5C)、第3(5C)および第4(5D)の可撓性ハプティックの前記近位端(51A~D)は、前記中央光学部(2)から2mm未満の距離(86)にある、
ことを特徴とする、請求項又はに記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項8】
-前記第1の直径(81)は、14~15mmの間であり、
-前記第2の直径(82)は、11~12mmの間である、
ことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項9】
前記可撓性ハプティックの近位端(51A~D)から前記可撓性ハプティックの遠位端(52A~D)まで延びる曲線(C)に沿って測定された、前記可撓性ハプティックのそれぞれの長さ(87)は、4~5mmであることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項10】
前記ドーム(K)の後面の曲率半径(k)が8~10mmの間であることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項11】
前記ドーム(K)の後面が滑らかで凹面であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項12】
30~40%の水を含み、ヤング率が1GPa未満である、可撓性で生体適合性の材料を含むことを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項13】
前記中央光学部(2)は、前記前面(11)と後面(12)との間に延在し、流体の流れを可能にするように構成された貫通穴(21)を備えることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項14】
前記レンズが、近視の矯正、遠視の矯正、および角膜の矯正の中の少なくとも1つの矯正を可能にする単焦点レンズからなることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【請求項15】
前記レンズが、拡張された焦点深度における屈折レンズまたは回折レンズからなることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の有水晶体眼内レンズ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズに関する。より具体的には、本発明は、後房有水晶体眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に言えば、有水晶体眼内レンズは、視力の欠陥を矯正するために眼に配置されることを目的とした眼内レンズである。これらの眼内レンズは、一般に、眼の水晶体を補完するものとして、まだ年齢的に若い患者に移植されている。
【0003】
有水晶体眼内レンズにはいくつかのクラスがあり、その中には、虹彩の後面と水晶体の前面との間の眼の領域、および少なくとも部分的に眼の毛様体溝に移植されることを意図した、後房有水晶体眼内レンズのクラスがある。
【0004】
そのような眼内レンズの移植における欠陥は、いくつかのパラメータに基づいて、特に、通常その大きさが患者ごとに数ミリメートル異なる毛様体溝の解剖学的構造に基づいて、一方の眼から他方の眼まで異なるように位置している可能性が高いという事実にある。特に、大きさが適合されない可能性がある後房有水晶体眼内レンズの移植は、以下のような患者にとって多かれ少なかれ重篤な合併症を引き起こすリスクがあるだろう:
-例えば、有水晶体眼内レンズが患者の毛様体溝の大きさに対して小さすぎる場合:視野の精度に影響を与える、または眼の白内障を引き起こす眼の水晶体との接触、または有水晶体眼内レンズの矯正力の喪失;
-例えば、有水晶体眼内レンズが患者の毛様体溝の大きさに対して大きすぎる場合:炎症、虹彩の色素脱失、瞳孔の閉塞、緑内障、または前房と後房の間を通る液体が閉塞した後に眼のこれらの房の間にある窪み。
【0005】
患者の眼の解剖学的構造に基づいた、いくつかの大きさの後房有水晶体眼内レンズの製造および使用は、この欠陥を完全に回避することはできない。実際に、そのような有水晶体眼内レンズが眼に移植された後の位置の安定性に関する欠点は、同じ医学的な合併症を引き起こす可能性が高い。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、任意の眼の解剖学的構造に適合し、眼の移植位置で特に安定している後房有水晶体眼内レンズを提供することである。
【0007】
この目的のために、本発明は、後房有水晶体眼内レンズであって、
-前面と後面、
-レンズを含み、前面から後面に向かう光軸に対して半径方向に延びる中央光学部、
-中央光学部に対して半径方向外向きに延びる周辺ハプティック(触覚;haptic)部であって、
周辺ハプティック部は、
・中央光学部に固定され、中央光学部の周りに円周方向および(実質的に)対称的に延びる近位部分、
・近位部分に固定され、中央光学部に対して半径方向外向きおよび後方の両方に延びる複数の支持要素を含む遠位部分、
を含み、
支持要素は、眼で通常使用されているときに、毛様体小帯上で有水晶体眼内レンズを支持するように構成され、
中央光学部および周辺ハプティック部が(剛性)ドームを形成する、
周辺ハプティック部、
-複数の細長い可撓性ハプティックであって、
可撓性ハプティックのそれぞれは、支持要素の1つの周りに部分的に円周方向におよび中央光学部に対して半径方向外向きに延び、
有水晶体眼内レンズの第1の直径が、中央光学部および周辺ハプティック部から成る光学アセンブリの第2の直径よりも厳密に大きく、可撓性ハプティックのそれぞれは第1の直径と第2の直径との間で少なくとも部分的に延び、
可撓性ハプティックのそれぞれが、
・周辺ハプティック部の近位部分に取り付けられた近位端、
・眼で通常使用されているときに、有水晶体眼内レンズを毛様体溝に引っ掛けるための自由遠位端、
を含む、可撓性ハプティック、
を含む後房有水晶体眼内レンズを提供する。
【0008】
本発明によって提供される後房有水晶体眼内レンズは、2つの別個の相補的なハプティック構造(複数の支持要素を含む周辺ハプティック部および複数の可撓性ハプティック)を備えた中央光学部を含む。本発明の技術的効果は、主に、光学アセンブリの支持要素がドームの足であり、有水晶体眼内レンズ、より具体的には光学アセンブリを毛様体小帯上で支持する、光学アセンブリの(剛性)ドーム形態の構造と、可撓性ハプティックが光学アセンブリを越えて半径方向に伸び、第1の直径が第2の直径よりも厳密に大きい場合、任意の毛様体溝に引っ掛かる可撓性ハプティックの能力との組み合わせにある。これら2つのハプティック構造は、眼の後房に画定された移植部位における有水晶体眼内レンズの軸方向および半径方向の両方での安定化ならびに回転時の改善された安定化、ならびに広範囲の患者の眼の解剖学的構造に対する有水晶体眼内レンズの適合を可能にする。
【0009】
より具体的には、周辺ハプティック部は、光軸に平行な方向での移植の安定化を可能にする。支持要素は、移植位置で毛様体小帯上のドームを支持するように、中央光学部に接する平面に対して割面にある。ドームは、有水晶体眼内レンズが眼内で通常使用されているときに眼の水晶体の上方前方にあるように構成されているため、少なくとも前方で水晶体を取り囲む。結果として、水晶体と有水晶体眼内レンズの後面との間の、光軸に沿って測定された「vault」と呼ばれる距離が規定され、安定化される。それは、身体的外傷および医学的な合併症につながる可能性が高い、有水晶体眼内レンズと水晶体との間の接触または過度の近接を回避するために必要な安全な距離に一致され得る。有水晶体眼内レンズと虹彩との間の距離もまた、有水晶体眼内レンズの前面、すなわち、ドームの頂部と虹彩の後面との間の距離として規定され、安定化される。
【0010】
優先的には、「vault」と呼ばれるこの距離は、半径方向および/または軸方向の圧縮の有無にかかわらず、100~1000ミクロンの間、より好ましくは350~700ミクロンの間で構成および/または調整可能である。この距離は、有利には、有水晶体眼内レンズと水晶体および虹彩の両方との間に十分なスペースを保証し、眼の後房の解剖学的大きさの欠陥、または有水晶体眼内レンズの考えられる位置欠陥を補償することを可能にし、患者の合併症のリスクを大幅に減らすことを可能にする。本発明の一実施形態によれば、この距離は、それが移植されることが意図されている特定の生来の水晶体の輪郭に従うように、有水晶体眼内レンズの後面を彫ることによって決定される。
【0011】
光学アセンブリの剛性ドームの構造は、ドームの後面が水晶体の前面よりも優先的には湾曲しているドームの曲率に基づいて、および優先的には11~12mmの間である第2の直径、より好ましくは眼の標準的な後房の解剖学的構造と適合する11.25mmの値である第2の直径の選択に基づいて、任意の眼に適合するように設計されている。したがって、光学アセンブリによって誘導される剛性のドーム構造は、眼の後房に適切に移植され、毛様体小帯上に置かれ、光軸に平行な有水晶体眼内レンズを安定化させる間、水晶体の上方にある。細長い可撓性ハプティックは、眼の後房の光学アセンブリよりもさらに半径方向に延び、毛様体溝に引っ掛かる。これらのハプティックの可撓性と形状により、毛様体溝のサイズ変動を補正することが可能になり、移植位置における有水晶体眼内レンズは、術前に正確に推定することができないものを含む内部寸法の範囲にわたって、毛様体溝のサイズに完全に適合し、それにより、有水晶体眼内レンズが眼で通常使用されるときに、つまり、有水晶体眼内レンズが眼の移植位置にあるときに、ドーム型光学アセンブリを実質的に第2の直径に対応する寸法に維持しながら、有水晶体眼内レンズの第1の直径の大きさを縮小させることができる。有利なことに、本発明による単一の有水晶体眼内レンズモデルの製造および取り扱いは、広範囲の患者の眼の解剖学的構造に対して十分なものである。
【0012】
さらに、可撓性ハプティックは、光軸に垂直な平面での回転において本発明による有水晶体眼内レンズの安定化を可能にし、その結果、内部溝直径の変化(ある方向で、別の方向よりも大きいことが認められる)を完全に補償することができる。これらの可撓性ハプティックはまた、眼の毛様体溝に引っ掛かかるように半径方向および円周方向に延びており、横方向のフックを使用して横方向に取り付けられた平面弾性布のように、有水晶体眼内レンズの円周方向のアンカーの役割を果たす。これらの可撓性ハプティックは、レンズが乱視を矯正するための曲率の不規則性を含むトロイドインプラントのレンズである特定の実施形態において重要である。この場合、期待される光学的結果を保証するために、垂直面でのレンズの角度位置の安定性が重要である。可撓性ハプティックはまた、通常の使用時に前述の垂直面内で有水晶体眼内レンズを安定させることに寄与すると共に、期待されている光学的な結果に影響を与える可能性がある、眼の光軸に対する有水晶体眼内レンズの偏心の可能性を回避する。可撓性ハプティックが連携して、レンズを中央の光学ゾーンに維持する。
【0013】
周辺ハプティック部および可撓性ハプティックは、非常に可撓性で非常に耐久性のある材料で、優先的には作られている。それらは、眼内構造の安定性およびコンプライアンスの必要性と剛性の必要性との間の妥協点を構成し、繊細な眼内構造(これらの多くは複雑で、移植中または移植前には見えない)への過度の力と外傷を回避する。可撓性ハプティックの「可撓性の」特性は、曲線に沿ったそれらの実質的に細長い形状および/または光軸に沿って測定されたそれらの低平均厚さと組み合わされたこの材料によって優先的に誘発される。ドームの「剛性」の特性は、好ましくは、一方では、可撓性ハプティックよりも平均して著しく大きい、光軸に平行に測定される周辺ハプティック部の厚さによって誘発され、および/または、他方では、支持要素の広がったおよび/または幅広および/または厚い形状、および/またはさらに他方では、広い範囲における患者の眼の解剖学的構造に対するドームの幾何学的技術的特徴の剛性および適合性である。優先的には、「剛性」という用語の使用は、ドームを可撓性ハプティックと比較するよりも、ドームを適格とする目的の方が少ない。
【0014】
好ましくは、周辺ハプティック部の厚さは、後面が特定の生来の水晶体の曲率を模倣するように、前面および/または後面の曲率を選択的に決定することによって、有水晶体眼内レンズが生来の水晶体の前面から特定の距離に存在することを可能にする。
【0015】
本文書の枠組みでは、「第1」、「第2」、「第3」および「第4」という用語は、様々な要素を区別するためにのみ使用され、これらの要素の順序を意味するものではない。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、
-第1の直径は14~15mmの間である、および/または、
-第2の直径は11~12mmの間である。
【0017】
有水晶体眼内レンズに半径方向および/または軸方向の圧縮力が加えられていない場合、優先的には、第1の直径は14.5~15mmの間であり、より好ましくは14.7mmに等しい。優先的には、第2の直径は、11.2~11.3mmの間であり、より好ましくは、11.25mmに等しく、それは、より小さなサイズの毛様体溝に対応するため、剛性のドーム型光学アセンブリは、広範囲の患者の眼の解剖学的構造と適合するサイズを有する。特に、剛性のドーム型光学アセンブリは、それ自体が眼の中で圧縮を受けないほど十分に小さい。第1と第2の直径の差は、細長い可撓性ハプティックに起因する可能性があり、剛性ドームの第2の直径と患者の毛様体溝のサイズとの間の隙間を埋めるために収縮できる可撓性寄与を優先的に構成する。したがって、本発明による有水晶体眼内レンズは、計画された結果として得られるvaultを有する任意の眼の解剖学的構造に特によく適合する、つまり、上記の距離は、有水晶体眼内レンズの可撓性ハプティックの圧縮に依存していない。
【0018】
優先的には、可撓性ハプティックの近位端から可撓性ハプティックの遠位端まで延びる曲線に沿って測定された各可撓性ハプティックの長さは、4~5mmの間、より好ましくは4.4~4.5mmの間である。細長い可撓性ハプティックは、半径方向に延びるだけでなく、光学アセンブリを越えて円周方向にも延びる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、ドームの(全体の)後面は滑らかであり、(後方に)凹面である。本発明の好ましい実施形態によれば、ドームの後面の曲率半径は、8~10mmの間であり、好ましくは、9mmに等しい。
【0020】
有利なことに、このように選択された曲率半径は、中央光学部および周辺ハプティック部が、
-ドームの後面が水晶体の前面よりも湾曲している(凹面の)ドームを形成する、および/または水晶体の前面の直径がこの曲率半径よりも小さくなるようにドームを形成すること、
-またその結果、この前面上方の実質的に前方にあること、
を可能にする。
【0021】
ドームの後面は必然的に滑らかであり、数学的な分析の意味で少なくとも規則的(および/または微分可能)であるため、前記曲率および曲率半径は明確に規定されることが指摘される。特に、周辺ハプティック部と中央光学部との間の接合部におけるドームの後面は、いずれの不規則性または角点を含まないことに注意する必要がある。
【0022】
優先的には、この曲率半径は、眼の生来の水晶体の前面の曲率半径よりも小さい。より好ましくは、この曲率半径は、眼の生来の水晶体の前面の最小の平均曲率半径からなる。有水晶体眼内レンズの前面および後面の曲率半径も、対象となる視度に関して最適化されており、中央光学部の中央の厚さが全視度範囲にわたって実質的に一定に保たれるようになっている。さらに、有水晶体眼内レンズの明瞭な光学系は明確に規定されている。
【0023】
優先的には、中央光学面は、前方に実質的に凸状であり、および/または実質的に平面であり、および/または光軸に実質的に垂直である。これにより、圧縮を必要とせずにvaultを供給できるため、有水晶体眼内レンズを前方に屈曲させることができる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、可撓性ハプティックのそれぞれは、その近位端とその遠位端との間に含まれる中間セクションを含み、軸方向および/または半径方向の圧縮が各可撓性ハプティックに加えられると湾曲しやすい(特に、有水晶体眼内レンズが通常使用されているとき、すなわち、それが眼の移植位置にあるとき)。
【0025】
この中間セクションは、好ましくは、遠位端および近位端から略等しい距離に配置される。優先的には、それは、軸方向および/または半径方向の圧力が加えられたときに多かれ少なかれ鋭く湾曲するように、各可撓性ハプティックの材料の折り畳みを容易にするように構成された材料の折り目を含む。
【0026】
有利には、本発明のこの実施形態による可撓性ハプティックは、より耐久性があり、眼の毛様体溝の解剖学的構造にさらに適合しやすい。有利なことに、それらの中間セクションにおける可撓性ハプティックの曲率は、特に毛様体溝のサイズが小さい場合に、毛様体溝との接触角を増加させるために使用される。
【0027】
さらに、優先的にも、この好ましい実施形態によれば、近位端と中間セクションとの間に延びる、各可撓性ハプティックの近位セクションは、中央光学部に対して後方に延びる。
【0028】
さらに、優先的には、この好ましい実施形態によれば、中間セクションと遠位端との間に延びる、各可撓性ハプティックの遠位セクションは、好ましくは光軸に垂直な線と-15°~15°の間の角度を形成する。
【0029】
特に、近位セクションは、支持要素の1つに対して略平行に後方に延びるが、遠位セクションは、必ずしも近位セクションに対して平行である必要はなく、これは、可撓性ハプティックのそれぞれが湾曲しやすい中間セクションを与えられ、遠位セクションに対する近位セクションの向きを変更する。遠位セクションと光軸に垂直な線との間に形成される角度は任意であるが、好ましくは、特に眼の移植位置において、-15°~15°の間であり、毛様体溝に引っ掛けるのに十分である遠位セクションの配向を可能にする。
【0030】
優先的には、有水晶体眼内レンズが製造中であり、まだ眼に移植されていない場合、近位および遠位セクションは絶対値で5°未満の別の角度を形成し、その結果、患者の虹彩の下への可撓性ハプティックの挿入が有利に促進されることが証明される。
【0031】
この文書の枠組みでは、動詞「comprise」、「include」、「involve」、または任意のその他の変形、およびそれらの活用形の使用は、言及されたもの以外の要素の存在を決して排除することはできない。
【0032】
本発明の好ましい実施形態によれば、可撓性ハプティックのそれぞれは、
-光軸に沿って測定され、その近位端からその遠位端に向かって減少する厚さ、および/または、
-光軸に垂直に測定される幅であって、
・その近位端からその中間セクションに向かって減少し、
・その近位端よりもその遠位端の方が大きい、
幅、
を有する。
【0033】
有利なことに、可撓性ハプティックは、それらがより耐久性があり、近位部分により強固に固定されるように、それらが周辺ハプティック部の近位部分に取り付けられる場所でより厚くてより広い。可撓性ハプティックの厚さは、毛様体溝への遠位端の挿入を容易にするために有利には減少する。
【0034】
幅は、可撓性ハプティックの近位端よりも可撓性ハプティックの遠位端の方が大きいため、遠位端は、好ましくは足の形状を有し、光軸に垂直な平面においてより大きな横方向の輪郭を促し、したがって、毛様体溝においてより大きな接触面を促す。
【0035】
したがって、この実施形態による有水晶体眼内レンズの可撓性ハプティックは、より耐久性があるだけでなく、毛様体溝により良好に引っ掛かり、また、半径方向および回転の両方におけるより一層の安定性を提供する。
【0036】
本発明の好ましい実施形態によれば、各可撓性ハプティックの遠位端は、有水晶体眼内レンズが通常使用されているとき、すなわち、それが眼の移植位置にあるときに、毛様体溝に引っ掛かるように構成された滑らかな(横方向および/または半径方向の)リプル(波形)を含む。
【0037】
有利なことに、リプルは、可撓性ハプティックのそれぞれの遠位端が毛様体溝に引っ掛かるのを容易にする。リプルは優先的には可撓性ハプティックの遠位端にピンの役割を与え、遠位端が毛様体溝により容易に引っ掛かるようにする。優先的には、これらのリプルは、輪郭が滑らかで毛様体溝を刺激しないように研磨されている。
【0038】
本発明の好ましい実施形態によれば、可撓性ハプティックのそれぞれは、その近位端に横方向凹部を含み、これは、近位端が、可撓性ハプティックのそれぞれと周辺ハプティック部の近位部分との間でヒンジとして機能することを可能にしやすい。
【0039】
有利なことに、近位端は、このようにして、軸方向および/または半径方向の圧縮が有水晶体眼内レンズに加えられたときに湾曲しやすい。このように、可撓性ハプティックのそれぞれは、その近位端でより可撓性で、堅牢で、滑らかである。
【0040】
有利なことに、横方向凹部は、可撓性ハプティックから中央光学部に過度の力が伝達されるのを防ぐためのフェイルセーフ機構の役割を果たす。それは、可撓性ハプティックによってある角度、好ましくは上記の角度に加えられる力を制御し、それにより、毛様体溝への適合した固定をもたらし、繊細な眼内組織の侵食を防ぐ。
【0041】
優先的には、複数の支持要素は4つの支持要素を含み、および/または複数の可撓性ハプティックは4つの可撓性ハプティックを含み、および/または支持要素の数は可撓性ハプティックの数に対応する。
【0042】
特定かつ好ましい本発明の実施形態によれば、有水晶体眼内レンズは、
-光軸に沿って伸長し、中央光学部を中心とし、第2の直径に等しい直径を有する円筒に内接する第1、第2、第3および第4の支持要素であって、第1および第2の支持要素が、光軸の両側で正反対に延び、第3および第4の支持要素が、光軸の両側で正反対に延びる第1、第2、第3および第4の支持要素、
-光軸に沿って伸長し、中央光学部を中心とし、第1の直径に等しい直径を有する別の円筒に内接する第1、第2、第3、および第4の可撓性ハプティックであって、第1および第2の可撓性ハプティックが、光軸の両側で正反対に延び、第3および第4の可撓性ハプティックが、光軸の両側で正反対に延びる第1、第2、第3、および第4の可撓性ハプティック、
を含む。
【0043】
有利には、支持要素および可撓性ハプティックのこの構成は、本発明による有水晶体眼内レンズに、軸方向および半径方向、ならびに回転の両方において、より一層の安定性を提供する。特に、有水晶体眼内レンズと生来の水晶体との間の所定の空間としてのvaultは、圧縮を及ぼす有水晶体眼内レンズ本体全体を通して及ぼされる横方向の力に依存しない。そのような横方向の力が発生した場合、この有水晶体眼内レンズの設計は、可撓性ハプティック内でそれを吸収し、その結果、剛性光学アセンブリは、いずれのそのような圧縮の影響をも受けないままである。
【0044】
光軸の両側で正反対に延びる一対の支持要素および/または可撓性ハプティックの伸長は、この一対の支持要素および/または可撓性ハプティックの点の平面中心対称性の集合に同化することができる。特に、伸長は必ずしも線や直径に沿って実現される必要はなく、光軸の両側に対称的に伸長する滑らかな曲線に沿って実現される。
【0045】
優先的には、特定かつ好ましい本発明の前記実施形態によれば、第1、第2、第3および第4の支持要素は、光軸上で交差する第1の平面矩形の対角線に従って、対称的に、中央光学部に対して半径方向に外側に配向される。
【0046】
優先的には、特定かつ好ましい本発明の前記実施形態によれば、第1、第2、第3および第4の可撓性ハプティックの遠位端は、第1の平面矩形の辺に平行な第2の平面矩形の頂点によって規定される位置に実質的に対称に配置される。
【0047】
第1の平面矩形の頂点は、円筒上に優先的に配置される。第2の平面矩形の頂点は、もう一方の円筒に優先的に配置される。
【0048】
第1の平面矩形の最長の辺と第1の平面矩形の最短の辺との比、および/または第2の平面矩形の最長の辺と第2の平面矩形の最短の辺との比率は、好ましくは1~1.5の間である。
【0049】
優先的には、特定かつ好ましい本発明の前記実施形態によれば、第1、第2、第3および第4の可撓性ハプティックの近位端は、第1の平面矩形の辺に平行な第3の平面矩形の辺の頂点によって規定される位置に、実質的に対称に配置される。
【0050】
優先的には、特定かつ好ましい本発明の前記実施形態によれば、第1、第2、第3および第4の可撓性ハプティックは、第1、第2、第3および第4の支持要素の周りにそれぞれ部分的に円周方向に延びる。
【0051】
優先的には、特定かつ好ましい本発明の前記実施形態によれば、第1および第3の可撓性ハプティックの近位端、および/または第2および第4の可撓性ハプティックの近位端は、1mm未満の距離だけ離れている。
【0052】
優先的には、前述の第3の矩形の最短の辺の長さが、この距離に対応する。優先的には、第3の平面矩形の最大の辺と第3の平面矩形の最小の辺との比率は5より大きく、優先的には10より大きい。
【0053】
優先的には、特定かつ好ましい本発明の前記実施形態によれば、第1、第2、第3および第4の可撓性ハプティックの近位端は、中央光学部から2mm未満の距離にある。
【0054】
有利には、各可撓性ハプティックの、周辺ハプティック部の近位部分との接続は、中央光学部の近くに実現され、その結果、眼球の虹彩の下への可撓性ハプティックの挿入は、この接続部から各可撓性ハプティックの遠位端への円周方向の動きを方向付けるスパチュラによって容易になる。優先的には、一対の可撓性ハプティックの近位端は、この挿入をさらに容易にするために同じ接続ゾーンに配置される。
【0055】
本発明の好ましい実施形態によれば、有水晶体眼内レンズは、30~40%の水を含み、そのヤング率が1GPa未満である、可撓性で生体適合性の材料を含む。
【0056】
優先的には、この材料は36~38%の水を含む。優先的には、この材料は、0.25~0.75GPaの間、より好ましくは0.4~0.6GPaの間、さらにより好ましくは0.5GPaのヤング率を有する。
【0057】
この材料は、優先的には、眼内レンズの設計で通常使用される材料よりも可撓性である。この材料は優先的にはポリマコンである。
【0058】
優先的には、本発明による有水晶体眼内レンズは、可撓性ハプティック、周辺ハプティック部または中央光学部の片面または切断端を回避するために、有水晶体眼内レンズの外面のそれぞれ、特に、前面、後面、および側面で広範囲に研磨され、有水晶体眼内レンズが移植位置にあるときに、患者の眼の後房の組織に対して刺激性であることができる。
【0059】
さらに、本発明の好ましい実施形態によれば、有水晶体眼内レンズは、前面と後面との間に延び、流体の流れを可能にするように構成された貫通穴を含む。
【0060】
優先的には、流体の流れは、有水晶体眼内レンズが眼で通常使用されているときの、眼の前房と後房との間の液体の流れである。この穴は、有利には、前方空間及び後方空間のいずれかの実際のサイズに関係なく、有水晶体レンズへの前方空間と後方空間との間の流体の流れの結果として生じる制限により、第2の人工後房が、作製されるのを防ぐことを可能にする。これにより、眼の前房と後房との間の完全かつ永続的な流体連通を保証できる。優先的には、貫通穴は、中央光学部の中心に、より好ましくは、光軸との交差点に少なくとも部分的に配置される。
【0061】
本発明は、有利には、患者において矯正されるべき視力の欠陥に最もよく適合される中央光学部レンズを選択することを可能にする。
【0062】
特に、本発明の一実施形態によれば、中央光学部レンズは、近視の矯正、遠視の矯正、および角膜乱視の矯正のうちの少なくとも1つの矯正を可能にする単焦点レンズからなる。本発明の特定の実施形態によれば、レンズは、焦点深度が拡張された屈折レンズまたは回折レンズからなる。優先的には、レンズは最新技術に従って選択される。
【0063】
本文書の枠組みにおいて、眼の「光軸」は、優先的には、角膜、虹彩、および水晶体を連続的に含む眼の前部から、特に網膜を含む眼の後部に方向付けられた、一方の側から他方の側に眼を横切るベクトルからなる。眼の移植位置にある本発明による有水晶体眼内レンズの場合、眼の光軸は、前面から後面に向けられ、優先的には、有水晶体眼内レンズに関して本質的に規定された光軸に対応する。特に、光軸という用語は、現在、また優先的に、眼および/または有水晶体眼内レンズに関する基準軸として、本文書で使用されている。
【0064】
本文書の枠組みにおいて、眼または眼内レンズの一部の「前」(または「後」)側および/または面は、優先的には、光軸によって規定されたベクトルに対する眼または眼内レンズの部分の上流(または、下流)に配置された側および/または面からなる。例として、眼では、虹彩は水晶体に対して前方に位置している。したがって、虹彩の後面は、水晶体に最も近い虹彩の一部である。同様に、眼または眼内レンズの第1の部分が、眼または眼内レンズの第2の部分の上方の前方(または、後方)にある場合、この第1の部分は、この第2の部分に対して前方(または、後方)に位置することになる。
【0065】
眼および/または眼内レンズの部分に対する前部、後部、または光軸の前述の概念は、当業者によく知られている。
【0066】
特に、本発明による有水晶体眼内レンズは、その前面が少なくとも部分的に眼の虹彩に面し、その後面が少なくとも部分的に眼の水晶体に面するように、眼の後房に配置されるよう構成される。
【0067】
本文書の枠組みでは、有水晶体眼内レンズの一部が、光軸に垂直なベクトルに従って、光軸と共通の点からこの共通点を中心とする円の点の向きに優先的に延びるときに、「半径方向外向き」に延びると言われる。同様に、有水晶体眼内レンズの一部が、光軸に垂直な平面上の円であって、その平面と光軸との交点を中心とする円の少なくとも円弧に沿って優先的に延びる場合、「円周方向に」延びると言われる。これらの半径方向および円周方向の伸長の概念は、光軸に垂直な各平面の極座標系を指す。
【0068】
形容詞「遠位」は、基準器官からまたは体の胴体から最も遠い体の部分の一部を指し、形容詞「近位」は、体の胴体に最も近い部分の一部を指すことは当業者によく知られている。本文書の枠組みにおいて、これらの2つの定義は、基準の光軸に対する距離に対して、本発明による眼の部分および/または有水晶体眼内レンズに、優先的に適用される。例えばおよび優先的には、本発明による有水晶体眼内レンズの近位部分は、中央光学部および/または中央部の周りの有水晶体眼内レンズの部分を含み、本発明による有水晶体眼内レンズの遠位部分は、眼の一部に到達し得る有水晶体眼内レンズの外側横方向縁を含む。
【0069】
この文書の枠組みでは、要素を導入するための不定冠詞「a」、「an」、または定冠詞「the」の使用は、これらの複数の要素の存在を排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明を読むことで明らかになり、その理解のために、以下の添付の図を参照する。
【0071】
図1A】本発明による後房有水晶体眼内レンズの上部の第1の簡略化された平面的な図を示す。
図1B】追加の概念的な幾何学的ガイドマークを備えた第1の簡略化された平面的な図を示す。
図2図1に示されている後房有水晶体眼内レンズの側面の第2の簡略化された平面的な図を示している。
図3図1に示される後房有水晶体眼内レンズの前部の第3の簡略化された平面的な図を示す。
図4A図1に示される後房有水晶体眼内レンズの側面および後面の部分的な第1の簡略化された三次元的な図を示す。
図4B図1に示される後房有水晶体眼内レンズの前面の第2の簡略化された三次元的な図を示す。
図5】本発明による後房有水晶体眼内レンズが取り付けられた眼の一部の簡略化された断面図を示す。
図6A】本発明による後房有水晶体眼内レンズの上部の簡略化された平面的な図を示す。
図6B】本発明による後房有水晶体眼内レンズの上部の簡略化された平面的な図を示す。
図7】本発明による後房有水晶体眼内レンズの側面の簡略化された平面的な図を示す。
図8】本発明による後房有水晶体眼内レンズの可撓性ハプティックの1つの遠位端の上部の簡略化された平面的な図を示す。
図9】本発明による後房有水晶体眼内レンズの上部の簡略化された平面的な図を示す。
図10】毛様体溝の直径に基づいた、本発明による後房有水晶体眼内レンズの軸方向位置のグラフ表示を示している。
【0072】
図面の図は原寸に比例していない。一般に、同様の要素は、図では同様の参照によって示される。本文書の枠組みでは、同一または類似の要素が同じ参照を伴う場合がある。さらに、図面に参照符号が存在することは、これらの番号が特許請求の範囲に示されている場合を含めて、限定するものであるとみなすことはできない。
【発明を実施するための形態】
【0073】
この部分は、本発明の好ましい実施形態の詳細な説明を提示する。これは、特定の実施形態および図への参照と共に説明されているが、本発明はこれらに限定されない。特に、以下に説明する図面または図は、概略的なものにすぎず、決して限定するものではない。
【0074】
符号X、Y、Z、K、d、R、S、T、C、r1、r2、s1、s2、s3、s4、t1、t2、t3、およびt4で指定された幾何学的要素は、純粋に、本発明の実施形態の技術的特性を定量化および/または視覚化するための例示として以下の図に示されている。特に、これらの要素は抽象的であり、具体的な材料物体に対応していない。
【0075】
本発明は、光軸Zに軸方向に沿った軸方向および半径方向において、並びに光軸Zに垂直で且つベクトルXとYに基づく平面内での回転時において、任意の眼の解剖学的構造に適合し、眼9の移植位置で安定する後房有水晶体眼内レンズ1を提供する。光軸Zは、有水晶体眼内レンズ1の前面11から有水晶体眼内レンズ1の後面12に向けられている。
【0076】
本図面に示すように、本発明による有水晶体眼内レンズ1は中央光学部2を含み、中央光学部2は光軸Zに対して半径方向に、且つ実質的に平面および/または実質的に凸状に延び、直径が5.5~6.5mmの範囲であり、優先的に6mmに等しい。中央光学部2は、光軸Zに沿って細長く、前面11と後面12との間に延びる貫通穴21を含み、これらの表面間の流体連通を可能にする。
【0077】
図1Aおよび図1Bに示されるように、有水晶体眼内レンズ1は、中心光学部2に対して半径方向外向きに延びる周辺ハプティック部3を含み、周辺ハプティック部3は、
-中央光学部2の周りに及び中央光学部2から、円周方向および対称的に延びる近位部分31、
-少なくとも部分的に近位部分31から半径方向に延在する遠位部分32であって、光軸Zに垂直な第1の平面矩形Rの対角線r1およびr2に沿って半径方向外向きに延び、且つ中央光学部2に対して後方に延びる複数の支持要素4A~Dを含む、遠位部分32、
を含み、
そのため、中央光学部2および周辺ハプティック部3は、支持要素4A~Dからなる広い足によって支持されたドームKを形成する。
【0078】
ドームKを図2に示す。十分な壁の厚さは、ドームKに剛性を付与するので、ドームKは、軸方向および/または半径方向の圧縮下で耐久性を有する。ドームKの後面は湾曲しており、その優先的な曲率半径kは約9mmであり、そのため、図2に示すように、ドームKを半径kの球に内接させることができる。光軸Zに沿って測定され、図2に示される、「固有のvault」と呼ばれるドームKの高さ89Aは、有水晶体眼内レンズ1に固有のvaultの高さを構成する。これは、1.5~2.2mm、より優先的には1.7~2mm、さらにより優先的には1.87mmの優先的な値を受け入れる。ドームKの基部の幅は、中央光学部2および周辺ハプティック部3の第2の直径82に対応する。この第2の直径82は、約11.25mmである。
【0079】
本発明の概要に詳細に示されているように、これらの値は、中央光学部2および周辺ハプティック部3から構成されるアセンブリが、図3に示されているように、眼の水晶体94の上方を取り囲み且つ前方に着座するのに十分に剛性で且つ十分に広い構造を構成するように選択される。それにより、アセンブリが光軸Zに平行に安定している間、眼の後房の非常に広範囲の解剖学的構造に移植される。
【0080】
図1Aおよび図1Bに示されるように、有水晶体眼内レンズ1はまた、複数の可撓性ハプティック5A~Dを含み、複数の可撓性ハプティック5A~Dそれぞれは、中央光学部2に対して半径方向外向きに且つ支持要素4A~Dの1つの周りに円周方向に延びる曲線に沿った細長い形態である。例えば、図1Bに示されるように、可撓性ハプティック5Cは、細長く、曲線Cに従っており、支持要素4Cの周りに円周方向に延びる。このように、可撓性ハプティック5A~Dは、中央光学2および周辺ハプティック3を半径方向に越えて延び、優先的に14.5~15mmの間、より優先的には14.7mmの値を有する第1の直径81の円筒に内接する。可撓性ハプティック5A~Dのそれぞれは、4.2~4.7mmの間、より優先的には4.45mmの長さ87を有する。
【0081】
可撓性ハプティック5A~Dのそれぞれは、近位部分31に取り付けられる近位端51A~Dであって、光軸Zに垂直な平面矩形Tの頂点t1~4に配置された近位端51A~Dを含み、その最短の辺は、頂点(t2、t4)および(t1、t3)を分離しているものであり、0.5mm~1mmの間、より優先的には0.6~0.8mmの間の長さ85を備え、最長の辺は、頂点(t1、t4)および(t3、t2)を分離しているものであり、7.5~8.5mm、より優先的には7.9~8.3mmの間の長さを備える。可撓性ハプティック5A~Dのそれぞれは、足の形の遠位端52A~Dであって、光軸Zに垂直な平面矩形Sの頂点s1~4に配置された遠位端52A~Dを含み、その最短の辺は、頂点(s2、s4)および(s1、s3)を分離しているもので、8.5mm~9mmの間であり、より優先的には8.8mmに等しい長さを備え、最長の辺は、頂点(s1、s4)および(s3、s2)を分離しているもので、12~13mm、より優先的には12.3~12.6mmの間であり、より優先的には12.43mmに等しい長さを備える。これらのデータは、有水晶体眼内レンズ1に軸方向または半径方向の圧縮が加えられていない、移植されていない、製造時の可撓性ハプティック5A~Dについて考慮されている。
【0082】
可撓性ハプティック5A~Dのそれぞれは、近位端51A~Dと遠位端52A~Dとの間に、優先的にはそれらの間の中央に、中間セクション53A~Dを含み、圧縮が有水晶体眼内レンズ1に軸方向および/または半径方向に加えられたときにこの中間セクションにおいて可撓性ハプティック5A~Dのそれぞれの折り畳みおよび/または湾曲を可能にするように構成された材料の折り目を含み、その結果、図7に示されるように、光軸Zに垂直な線dと、遠位端52A~Dおよび中間セクション53A~Dの間の伸長方向との角度αは、優先的には、-15°~15°の間に含まれ得る。
【0083】
前述の長さ85、および優先的には1~1.5mmの間である、近位端51A~Dと中央光学部2との間の距離86の選択は、有水晶体眼内レンズ1が虹彩の下に移植されるときに、近位端51A~Dのうちの2つとの接続を含む周辺ハプティック部3の同じ限定されたゾーンから、可撓性ハプティック5A~Dを有利に案内するために使用される。
【0084】
これらのハプティック5A~Dは、好ましくは38%の水を含む可撓性で耐久性のある材料から構成され、それは、その形状と組み合わされて、可撓性を与える。図3、4A~Bおよび6A~Bに示されるように、可撓性ハプティック5A~Dは、近位端51A~Dから遠位端52A~Dまで減少する厚さ83と、近位端51A~Dと中間セクション53A~Dとの間にそれぞれ含まれる近位セクションよりも、遠位端52A~Dにおいて、優先的には2倍である幅84とを有し、それにより、遠位端52A~Dは、眼の毛様体溝に挿入され引っ掛けるように適合された扁平足の形態を有する。この形態およびこの技術的効果は、遠位端52A~Dの側面の滑らかなリプル54、55によって、優先的に強調される。そのようなリプル54および55の2つの例が、図8の遠位端52A上に示され、遠位端の選択に関して限定されない。これらのリプル54は、リプル55よりも、互いに大きな距離で離隔されており、湾曲が少ない。
【0085】
近位端51A~Dの幾何学形状は、それらと周辺ハプティック部3の近位部分31との間の接続に対して大きな堅牢性および抵抗を付与する。これらの接続は、図6A図Bに示されている幅88を有し、優先的には0.8~0.4mmで構成される。図6Bにより具体的に表されるように、これらの接続は、近位端51A~Sの横方向凹部56A~Dに隣接する可能性が高く、その結果、幅88は、優先的には0.4~0.5mmで構成される。図6Aに具体的に示されているように、これらの横方向凹部がない場合、幅88は、優先的には、0.7~0.8mmで構成される。これらの凹部56A~Dは、近位端51A~Dが可撓性ハプティック5A~Dと近位部分31との間でヒンジとして機能するように、近位端51A~Dがそれらの可撓性を増大させることを可能にする。
【0086】
図9に示される本発明の特定の実施形態によれば、可撓性ハプティック5A~Dは、支持要素4A~D上で部分的に折りたたまれにくい傾向がある。この閉じた構成は、有水晶体眼内レンズ1を眼の後房に注入する前に有利である可能性が高い。一般に、当業者にとって、可撓性ハプティック5A~Dの可撓性は、有水晶体眼内レンズ1が移植される前、移植中、および移植された後にそれらを異なる方法で配置するために使用されることは明らかであるように思われる。
【0087】
図5は、本発明に従って有水晶体眼内レンズ1が移植されている眼9の断面を表す。この断面では、眼9の、角膜91、虹彩92、瞳孔93、水晶体94、および前房95、後房96、毛様体小帯97、および毛様体溝98が表されている。有水晶体眼内レンズ1は、後房96に配置される。周辺ハプティック部3の支持要素4A~Dは、毛様体小帯97に載置されており、一方、可撓性ハプティック5A~Dは、発明の概要で説明およびコメントされているように、毛様体溝98に引っ掛けるために作製されている。光軸Zに沿って測定された、水晶体94と有水晶体眼内レンズ1の後面との間の、vaultと呼ばれる安全な距離89Bは、350~700ミクロンの間で優先的には構成され且つ調整可能である。ハプティック4A~Dおよび5A~Dの二重構造は、軸方向および半径方向の安定化、ならびにその移植位置での有水晶体眼内レンズ1の回転における安定化を可能にする。
【0088】
図10は、軸71に示され且つミリメートル単位で測定された毛様体溝の直径に基づいて、軸72に示され且つミクロン単位で測定されている、本発明1による後房有水晶体眼内レンズの軸方向位置のグラフ74を示している。望ましい平衡位置は、軸72で測定された1500ミクロンの線76によって表され、この値は、500ミクロンの前述の距離89Bに対応する。この平衡位置76の周りで光軸Zに従って軸方向に許容される変動の余地は、350ミクロンである。この余地は、その上限と下限がそれぞれ2本の点線75Aと75Bで表されている。グラフ74は、11.5~13.5mmの間に含まれる毛様体溝の広範囲のサイズについて、毛様体溝のサイズに基づいた有水晶体眼内レンズ1の軸方向変位がほとんど変動せず、線75A~Bの間の許容値に留まっていることを示している。点線で示される曲線73は、従来技術による、直径が12.6mmである平均的な後房有水晶体眼内レンズの平均的な軸方向変位の測定傾向を表している。グラフ74と傾向曲線73との比較は、本発明による有水晶体眼内レンズ1の軸方向安定性に関する性能および改善を示している。
【0089】
言い換えれば、本発明は、中央光学部2、片方の眼の毛様体小帯に位置するように構成された複数の支持要素4A~Dを含む周辺ハプティック部3、および眼の毛様体溝に引っ掛かるように構成された複数の可撓性の細長いハプティック5A~Dを含む後房有水晶体眼内レンズ1に関する。
【0090】
本発明は、純粋に例示的であり、限定的であるとみなされるべきではない値を有する特定の実施形態に関連して説明された。一般的に言えば、本発明が上に例示および/または記載された例に限定されないことは、当業者にとって明らかであるように思われる。本発明は、本文書全体に記載されている新しい特徴のそれぞれ、ならびにそれらすべての組み合わせを含む。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10