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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ペプチド化合物
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20240522BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240522BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240522BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20240522BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240522BHJP
   C12P 21/00 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A61K38/08
A61P31/04
A61L31/16
C12N15/31
C12P21/00 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021510977
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 SE2019050789
(87)【国際公開番号】W WO2020046190
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】1851022-2
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(31)【優先権主張番号】1950877-9
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
【微生物の受託番号】BCCM/LMG  LMG P-30868
(73)【特許権者】
【識別番号】518186399
【氏名又は名称】ウルツファルマ・アクチェボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】エーベリ,ボ
(72)【発明者】
【氏名】ブロベリ,アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】グス,ベングト
(72)【発明者】
【氏名】レベンフォルス,ヨランタ
(72)【発明者】
【氏名】ビェルケトルプ,ヨアキム
(72)【発明者】
【氏名】ノルド,クリスティーナ
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-200324(JP,A)
【文献】The Journal of Antibiotics,2014年,Vol.67,pp.237-242
【文献】The Journal of Antibiotics,2014年,Vol.67,pp.243-251
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12P 21/00
A61K 38/12
A61P 31/04
A61L 31/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に提示した式(I):
【化1】
[式中、
yは、1であり;
Xは、Oであり;
Rが、0または1個のメチル分岐を有する、C-C10n-アルキルまたはC-C10n-アルケニルであり;
およびRが、両方とも-CH-NR1112であるか、または1つが-CH-NR1112であり、1つが-CH-CO-NR1112であり;
が-CH-CH(CH)-CHであり;
が-CH-CH-NR1112であり;
がEまたはZ=CH-CHであり;
が-CH(OR13)-CHであり;
が-CH-Phであり;
が-CH(CH)-CHまたは-COR13(CH)-CHであり;
が-CH-COOHまたは-CH-CONR1112であり;
10は、独立して、-H、-OR13、-(CH-H(ここでoは1~5である)、-F、-Cl、-Br、または-Iであり;
11およびR12は、-H、C-Cn-アルキル、およびC-Cn-アルケニル、または任意の一般的なN-保護基であり;
13は、-(CH-H(ここでnは0~5である)である]
を含む単離または合成された化合物;
または、そのエナンチオマー、ジアステレオマー、互変異性体、もしくは薬学的に許容される塩(ここで、それぞれの立体中心は、RまたはSのいずれかであり得る)。
【請求項2】
式中、R10がHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が-CH-COOHであり;R11およびR12がHであり;Rが-CHOH-CHであり、ここで、立体中心はRであり;Rが-CH(CH)-CHまたは-COH(CH)-CHである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
が-COH(CH)-CHであり、OH-FAの立体中心がRであり;aa1~aa3、aa5、aa6、aa8およびaa9の各立体中心がSであり;aa7の立体中心がRである、請求項1~のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の化合物を含む、1種または複数のグラム陽性細菌またはグラム陰性細菌によって引き起こされる感染症を治療または予防するための医薬組成物。
【請求項6】
感染症が1種または複数のグラム陽性細菌によって引き起こされる、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記の1種または複数のグラム陽性細菌が、アクチノマイセス属;バチルス属;クロストリジウム属;コリネバクテリウム属;エンテロコッカス属;ガードネレラ属;ラクトバチルス属;リステリア属;ミクロコッカス属;マイコバクテリア属;ノカルディア属;スタフィロコッカス属;およびストレプトコッカス属からなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
感染症が1種または複数のグラム陰性細菌によって引き起こされる、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記の1種または複数のグラム陰性細菌が、アシネトバクター属;バルトネラ属;ボルデテラ属;ボレリア属;ブルセラ菌;バークホルデリア属;カンピロバクター属;クラミジア属;クラミドフィラ属;シトロバクター属;コクシエラ属;エールリヒア属;エンテロバクター属;エシェリキア属;フランシセラ属;フゾバクテリウム属;ヘモフィルス属;ヘリコバクター属;クレブシェラ属;レジオネラ属;レプトスピラ属;モラクセラ属;マイコプラズマ属;ナイセリア属;プロテウス属;シュードモナス属;リケッチア属;サルモネラ属;セラチア属:シゲラ属;トレポネーマ属;ビブリオ属;およびエルシニア属からなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の化合物を、薬学的に許容される担体および/またはアジュバントとともに含む、医薬製剤。
【請求項11】
無害で有益な細菌への阻害を最小限にすると同時に、疾患を引き起こす細菌に対して最適な効果を付与する、iv製剤、経口製剤、局所製剤および他の製剤として使用される、請求項10に記載の医薬製剤。
【請求項12】
疾患を引き起こす細菌が、アシネトバクター属;バチルス属;カンピロバクター属;クラミジア属:クロストリジウム属;エンテロバクター属;エンテロコッカス属;エシェリキア属;ヘモフィルス属;ヘリコバクター属;クレブシェラ属;レジオネラ属;マイコバクテリア属;ナイセリア属;シュードモナス属;サルモネラ属;シゲラ属;スタフィロコッカス属;ストレプトコッカス属;ビブリオ属;およびエルシニア属からなる群から選択される、請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
疾患を引き起こす細菌が、アミノグリコシド;アンサマイシン;カルバペネム;セファロスポリン;フルオロキノロン;グリコペプチド;リンコサミド;リポペプチド;マクロライド;モノバクタム;ニトロフラン;オキサゾリジノン;ペニシリン;ポリペプチド;キノロン;スルホンアミド;およびテトラサイクリンからなる群から選択される抗生物質に対して耐性および/または多剤耐性である、請求項11又は12に記載の製剤。
【請求項14】
請求項1~のいずれか一項に記載の化合物を含む、グラム陽性細菌および/またはグラム陰性細菌の表面の定着化を防止するための医薬組成物。
【請求項15】
表面が身体表面である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
グラム陽性細菌および/またはグラム陰性細菌の表面の定着化を防止するための、請求項1~のいずれか一項に記載の化合物の使用(ただし、ヒトへの使用は除く)。
【請求項17】
表面が、臨床機器の一部、例えば金属またはプラスチック製品の表面である、請求項16に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドの領域に関し、特に抗菌化合物において有用なペプチドに関する。より詳しくは、本発明は、少なくとも1つの環状ペプチドまたは非環状ペプチドを含む化合物、ならびにそのような化合物を使用する、対象におけるグラム陰性細菌感染症またはグラム陽性細菌感染症を治療、排除および/または予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質耐性の細菌および真菌は、国内外において健康に深刻な脅威を及ぼしており、優先度が高いヒト病原体に対する新規の抗生物質を開発する必要性が差し迫っている。世界保健機関(WHO)は、最近、優先病原体リスト(Priority Pathogens List)を公表し、「創薬および開発戦略は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(多剤耐性および超多剤耐性株を含む)に対して、また国内外の病院および社会環境の両方で急性臨床感染の原因となる多剤耐性および超多剤耐性グラム陰性細菌に対して特に活性のある新しい抗生物質に向けて至急重点的に取り組むべきである」ことを提言している。グラム陰性細菌のうち、最優先とされたのは、カルバペネム耐性のアシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、および腸内細菌科(Enterobacteriaceae)であった。選択された「創薬可能な」ターゲットに対する合理的な薬物設計および合成、ならびに大規模な合成コンビナトリアルライブラリーのハイスループットスクリーニングでは、新しいクラスの抗生物質を産生するという予想したような成功には至らなかった。Harvey, A.L.ら (2015) Nat Rev Drug Discov 14: 111~129は、標的細菌細胞に入り込み、その後の排出が回避されるように転じた天然産物が、化合物の親油性、サイズ、剛性および芳香性の点から合成コンビナトリアルライブラリーと比べて、より多くのケミカルスペースを網羅することを示す理論分析を提示している。したがって、抗生物質の発見における近年の取り組みは、細菌および真菌によって産生される豊富な抗菌化合物を探索することに回帰していった。
【0003】
医薬品として使用されている、および使用されてきた多数の様々なタイプの豊富な天然二次代謝産物がある。最初の、おそらく最も知名度が高い例は、ペニシリウム(Penicillium)属の真菌によって産生される抗生物質のペニシリンGであり、70年以上も前に市場に提供された。ペニシリンは非リボソームペプチド(NRP)と呼ばれる化合物群に属しており、ペニシリン以外にも、重要な抗生物質、例えば、関連するセファロスポリン、バンコマイシンおよびダプトマイシンへと開発された多数のNRPがある。
【0004】
米国特許第4,537,717号(Eli Lilly Company)は、ダプトマイシンを開示しており、これは、N末端アミノ酸に連結された脂肪酸と、31員環を形成する、C末端アミノ酸とスレオニン残基の間のラクトンを有する、13アミノ酸をベースとしたNRPである。この化合物の群は環状リポデプシペプチドである。
【0005】
ダプトマイシンは、2003年に、グラム陽性細菌感染症に対する使用がFDAにより承認されており、細菌細胞膜のいくつかの機能を破壊することが報告されている。
ダプトマイシンに類似した構造を有する、すなわち、C末端アミノ酸とスレオニン残基またはセリン残基との間のエステルとして形成された31員ラクトンと、N末端脂肪アシル残基を有する、多数の微生物環状リポデプシペプチドがある。環状31員リポデプシペプチドを得るためのラクトン形成の代替方式は、C末端アミノ酸とN末端3-ヒドロキシ脂肪酸残基の間である。文献にそのような構造の12の例がある:特開2005-200324は、ペプチドB12489A~Cを開示しており、Kozuma, S.らは、ペドペプチン(pedopeptin)A~Cを開示しており(Kozuma, S.ら、J. Antibiot.、2014、67、237~242; Hirota-Takahata, Y.ら、J. Antibiot.、2014、67、243~251)、いくつかの刊行物は、ペルギペプチン(pelgipeptin)A~D(例えば、Takahara, Y.ら、J. Antibiot.、1979、32、115~120、121~129; Sugawara, K.ら、J. Antibiot.、1984、37、1257~1259; Murai, A.ら、J. Antibiot.、1985、38、1610~1613; Wu, X.-C.ら、FEMS Microbiol. Lett.、2010、310、32~38; Ding, R.ら、J. Microbiol. (Seoul, Repub. Korea)、2011、49、942~949; Cochrane, S.A.およびVederas, J.C. Medicinal Research Reviews、36、No.1、4~31、2016を参照)と、ポリペプチンAおよびB(McLeod, C.、J. Bacteriol.、1948、56、749~754、 Howell, S.F.、J. Biol. Chem.、1950、186、863~877; Sogn, J.A.、J. Med. Chem.、1976、19、1228~1231; CN102030819-A; CN102030819-B)を開示している。
【0006】
ペプチドB12489A~Cおよび3つのペドペプチンは、すべてペドバクター(Pedobacter)属の種から単離され、これらの構造は、非常に類似しているかまたは同一であり、aa8の相違、Valまたは3-ヒドロキシバリン(OHVal)と、3-ヒドロキシ脂肪酸残基(3-ヒドロキシオクタノイルまたは3-ヒドロキシ-7-メチルオクタノイル)の相違があり、またおそらく、2-アミノ-2-ブテノイル(ABA)残基の形状といくつかのアミノ酸残基(aa1、3、5~7)の立体配置の違いもある。ペドペプチンおよびB12489A~Cは、細菌リポ多糖の細胞表面の受容体への結合ならびに抗細菌活性を妨害することによって抗炎症作用を有し、大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)が2~4μg/mlであり、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対しては4~64μg/mLであることが説明されている。
【0007】
ペルギペプチンA~DおよびポリペプチンA~Bは、ペドペプチンおよびB12489-A~Cに類似しており、これらのペプチドは共通してaa3およびaa5を有し、aa1、aa6、aa7およびaa8に類似アミノ酸残基を有する。ペルギペプチンA~DおよびポリペプチンA~Bは、C末端セリン(aa9)がスレオニンと交換され、イソロイシンがバリン(aa2)に交換されることにより、またN末端脂肪アシル基でのメチル分岐ポジションの位置により、相互に異なっている(表1)。ペルギペプチンおよびポリペプチンは、グラム陽性細菌およびグラム陰性細菌に対する活性、ならびに真菌に対する活性を有することが開示されている。
【0008】
上記の技術にもかかわらず、依然として、新規抗菌剤の必要性が継続し増大している。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、自然界から同定され、特性決定され、合成された新規化合物;ならびに、好ましくは抗菌化合物として、または医薬製剤の一部としての前記化合物の使用に関する。
本発明の第1の態様は、以下に提示した式(I):
【0010】
【化1】
【0011】
[式中、
yは、0~5であり;
Xは、O、NR10、または(CH(ここでnは0~10である)、または(OH)であり;
Rは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するn-アルケニルであり;ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく;
は、-(CH-NR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-CONR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり、これらのそれぞれは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有することが可能であり;
は、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するn-アルケニルであり、ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく、RおよびRは、相互に位置を交換することができ;
は、-(CH-NR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-CONR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり、これらのそれぞれは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有することが可能であり;
は、-(CH-CH=C[(CH-H](CH-H(ここでnは0~10であり、mは0~10であり、oは0~5であり、EもしくはZ二重結合を有する)、または=C[(CH-H](CH-H(ここでmは0~10であり、oは0~5であり、EもしくはZ二重結合を有する)であり;
は、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するn-アルケニルであり;ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく、0~2個のHは、-OR13、-NR1112、-F、-Cl、-Br、-I、-(CH-H(ここでoは1~5である)の任意の組合せに交換することができ;
は、-(CH-NR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-CONR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり、これらのそれぞれは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有することが可能であり;
は、-(CH-Ph(Y)(ここでYは、-OR13、-NR1112、-F、-Cl、-Br、-I、-(CH-Hの任意の組合せであり、nは0~5であり、mは0~5であり、oは1~20である)であり;ここで、RおよびRは、相互に位置を交換することができ;
は、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルケニルであり、ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく、0~2個のHは、-OR13、-NR1112、-F、-Cl、-Br、-I、-(CH-H(ここでoは1~5である)の任意の組合せに交換することができ;
は、-(CH-CONR1112または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり;
10は、独立して、-H、-OR13、-(CH-H(ここでoは1~5である)、-F、-Cl、-Br、または-Iであり;
11およびR12は、-H、C-Cn-アルキル、およびC-Cn-アルケニル、または任意の一般的なN-保護基であり;
13は、-(CH-H(ここでnは0~5である)である]
を含む単離または合成された化合物;
あるいは、そのエナンチオマー、ジアステレオマー、互変異性体、または薬学的に許容される塩(ここで、それぞれの立体中心は、RまたはSのいずれかであり得る)
である。
【0012】
本発明の第2の態様は、本発明による化合物を製造する方法である。この態様には、合成法および組換え法;ならびにそれらの方法で使用するためのツール、例えば、中間ペプチドおよび発現系が含まれる。
【0013】
本発明の第3の態様は、本発明による化合物の医学的使用である。したがって、本発明による化合物は、グラム陽性細菌および/またはグラム陰性細菌によって引き起こされる感染症の治療または予防などにおいて、医薬として使用することができる。
【0014】
本発明の第4の態様は、1種または複数のグラム陽性細菌および/またはグラム陰性細菌によって引き起こされる感染症を治療または予防する方法であって、本明細書で記載および特許請求した化合物が、感染症の治療または予防を必要とする個体に投与される、方法である。
【0015】
本発明の第5の態様は、適切な担体および/またはアジュバントと組み合わせた、本明細書で記載および特許請求した化合物の1つまたは複数を含む医薬製剤である。
本発明の第6の態様は、グラム陽性細菌および/またはグラム陰性細菌の表面の定着化を防止する方法(method for decolonization)における、本明細書で記載および特許請求した化合物の1つまたは複数の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、以下の実施例2に記載した本発明による例示的な化合物U747の固相合成のパートIを詳述するスキーム1である。
図2図2は、以下の実施例2に記載した例示的な化合物U747の固相合成のパートIIを詳述するスキーム2である。
図3図3は、以下の実施例4に記載した本発明による例示的な化合物U747の代替の立体特異的固相合成において使用するためのビルディングブロックの合成を詳述するスキーム3である。
図4図4は、以下の実施例4に記載した本発明による例示的な化合物U747の代替の立体特異的固相合成のパートIを詳述するスキーム4である。
図5図5は、以下の実施例4に記載した本発明による例示的な化合物U747の代替の立体特異的固相合成のパートIIを詳述するスキーム5である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
用語「ペプチド」とは、本明細書では、その最も広い態様で使用され、すなわち、ペプチド(アミド)結合によって連結されたアミノ酸モノマーの任意の短鎖に対して使用され、例えば、デプシペプチドおよびリポデプシペプチドを含む。
【0018】
「デプシペプチド」は、そのアミド基の-C(0)NHR-基の1つまたは複数が対応するエステルの-C(0)ORで置き換えられているペプチドであり、より一般的には、同じアミノ酸を含有する小分子または鎖の中に近接してペプチド結合とエステル結合の両方を有する分子である。
【0019】
用語「立体中心」とは、本明細書では、キラリティー中心の従来の意味において使用される。
用語「DABA」とは、本明細書では、2,4-ジアミノブタン酸を意味する。
【0020】
用語「ABA」とは、本明細書では、2-アミノ-2-ブテン酸を意味する。
用語「DAPA」とは、本明細書では、2,3-ジアミノプロパン酸を意味する。
用語「Leu」とは、本明細書では、ロイシンを意味する。
【0021】
用語「Thr」とは、本明細書では、スレオニンを意味する。
用語「Phe」とは、本明細書では、フェニルアラニンを意味する。
用語「Asp」とは、本明細書では、アスパラギン酸を意味する。
【0022】
用語「Asn」とは、本明細書では、アスパラギンを意味する。
用語「Val」とは、本明細書では、バリンを意味する。
用語「OHVal」とは、本明細書では、3-ヒドロキシバリンを意味する。
【0023】
略語のaaは、本明細書では、アミノ酸に対して使用されており、aaとその後の数字は、ペプチドまたはタンパク質のN末端アミノ末端から始まるaaの位置番号を示す。
用語「THF」とは、テトラヒドロフランを意味する。
【0024】
用語「DCM」とは、ジクロロメタンを意味する。
用語「DMF」とは、N,N-ジメチルホルムアミドを意味する。
用語「TFA」とは、トリフルオロ酢酸を意味する。
【0025】
用語「HOBt」とは、ヒドロキシベンゾトリアゾールを意味する。
用語「HCTU」とは、本明細書では、O-(1H-6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートを意味する。
【0026】
用語「DEPBT」とは、3-(ジエトキシホスホルイルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オンを意味する。
用語「DIPEA」とは、N,N-ジイソプロピルエチルアミンを意味する。
【0027】
用語「HFIP」とは、ヘキサフルオロイソプロパノールを意味する。
用語「PyBOP」とは、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェートを意味する。
【0028】
用語「PyClocK」とは、6-クロロベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェートを意味する。
用語「TIPS」とは、トリイソプロピルシランを意味する。
【0029】
用語「EDCI」とは、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩を意味する。
用語「DMAP」とは、4-ジメチルアミノピリジンを意味する。
【0030】
用語「DMEDA」とは、N,N’-ジメチルエタン-1,2-ジアミンを意味する。
発明の詳細な説明
上記から明らかなように、本発明は、新規の環状または非環状のペプチドを含む化合物に関する。より詳しくは、本発明は、それ自体で、または組成物もしくは調製物の一部としてのデプシペプチドであり得る、そのようなペプチド化合物に関する。
【0031】
したがって、本発明の第1の態様は、式Iの化合物:以下に提示した式(I):
【0032】
【化2】
【0033】
[式中、
yは、0~5であり;
Xは、O、NR10、または(CH(ここでnは0~10である)、または(OH)であり;
Rは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するn-アルケニルであり;ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく;
は、-(CH-NR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-CONR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり、これらのそれぞれは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有することが可能であり;
は、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するn-アルケニルであり、ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく、RおよびRは、相互に位置を交換することができ;
は、-(CH-NR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-CONR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり、これらのそれぞれは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有することが可能であり;
は、-(CH-CH=C[(CH-H](CH-H(ここでnは0~10であり、mは0~10であり、oは0~5であり、EもしくはZ二重結合を有する)、または=C[(CH-H](CH-H(ここでmは0~10であり、oは0~5であり、EもしくはZ二重結合を有する)であり;
は、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するn-アルケニルであり;ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく、0~2個のHは、-OR13、-NR1112、-F、-Cl、-Br、-I、-(CH-H(ここでoは1~5である)の任意の組合せに交換することができ;
は、-(CH-NR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-CONR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり、これらのそれぞれは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有することが可能であり;
は、-(CH-Ph(Y)(ここでYは、-OR13、-NR1112、-F、-Cl、-Br、-I、-(CH-Hの任意の組合せであり、nは0~5であり、mは0~5であり、oは1~20である)であり、ここで、RおよびRは、相互に位置を交換することができ;
は、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルケニルであり、ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく、0~2個のHは、-OR13、-NR1112、-F、-Cl、-Br、-I、-(CH-H(ここでoは1~5である)の任意の組合せに交換することができ;
は、-(CH-CONR1112または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり;
10は、独立して、-H、-OR13、-(CH-H(ここでoは1~5である)、-F、-Cl、-Br、または-Iであり;
11およびR12は、-H、C-Cn-アルキル、およびC-Cn-アルケニル、または任意の一般的なN-保護基であり;
13は、-(CH-H(ここでnは0~5である)である]
を含む単離または合成された化合物である。
【0034】
当業者には明らかなように、Xが(OH)の場合、特許請求した化合物は非環状ペプチドである。
本発明の様々な態様に関して論じるように、本発明による化合物は、上記の式Iによって表され得るか、あるいは、その立体異性体、互変異性体、薬学的に許容される塩、またはプロドラッグであり得る。
【0035】
さらに、調製する方法に関して下記で論じるように、本発明による化合物は、ペプチド合成によって;組換えDNA技術によって;または自然界の供給源から単離することによって得ることができる。
【0036】
XがOであり、yが0、1、または2である本発明の化合物は、C末端アミノ酸と、30員環状構造を形成する2-ヒドロキシ脂肪酸;31員環状構造を形成する3-ヒドロキシ脂肪酸;または32員環状構造を形成する4-ヒドロキシ脂肪酸のいずれかとの間にエステルを有する環状デプシペプチドである。
【0037】
Xが(OH)である、本発明のいくつかの化合物では、ペプチドは非閉環である。
XがNHである、本発明のいくつかの化合物は、aa0へのペプチド結合によって;またはアミノ置換脂肪酸残基へのペプチド結合によって、C末端アミノ酸から閉環している環状ペプチドである。
【0038】
本発明のさらなる化合物では、環状デプシペプチドまたは環状ペプチドは、R10:-HをR10:-OHおよび/または-CHに単一的/多重的に交換している。
本発明の一化合物では、Y、X、およびR-R13は、化合物が1つの3-ヒドロキシ脂肪酸と、アミノ酸残基の2,3-ジアミノプロパン酸(DAPA、aa1およびaa6)、ロイシン(Leu、aa2)、2,4-ジアミノブタン酸(DABA、aa3)、2-アミノ-2-ブテン酸(ABA、aa4)、スレオニン(Thr、aa5)、フェニルアラニン(Phe、aa7)、バリン(Val)または3-ヒドロキシバリン(OHVal、aa8)、アスパラギン酸(Asp、aa9)を含み、31員環状リポデプシペプチドを形成するように選択される。そのような化合物は、一般構造シクロ(3-ヒドロキシアルカノイル-DAPA-Leu-DABA-ABA-Thr-DAPA-Phe-Val/OHVal-Asp)を有する。
【0039】
一般構造シクロ(3-ヒドロキシアルカノイル-DAPA-Leu-DABA-ABA-Thr-DAPA-Phe-Val/OHVal-Asp)を含むさらなる化合物では、アルキル基による単一側鎖もしくは複数側鎖N-および/またはO-置換、あるいは一般的なN-またはO-保護基、ならびに/あるいはPhe残基の-NH置換または-OH置換が存在する。
【0040】
本明細書でU747と示される、本発明の1つの例示的な化合物は、yが1であり、XがOであり;Rがn-ヘプチルであり;Rが-CH-NHであり;Rが-CH-CH(CH)-CHであり;Rが-CH-CH-NHであり;Rが(E)=CH-CHであり;RがCHOH-CHであり;Rが-CH-NHであり;Rが-CH-Phであり;Rが-COH(CH)-CHであり;Rが-CH-COOHであり;R10、R11、R12およびR13がHである。この化合物は、C末端のL-Asp残基から3-ヒドロキシデカノイル残基へと閉環しており、配列がシクロ-((R)-3-ヒドロキシデカノイル-L-DAPA-L-Leu-L-DABA-(E)-ABA-L-Thr-L-DAPA-D-Phe-L-OHVal-L-Asp)である、環状リポデプシペプチド(31員ラクトン)である。
【0041】
当業者には明らかなように、本明細書に記載した基本構造に対する多くのマイナーな変更は、本発明から逸脱することなく実施することができる。したがって、本発明は、式(I)の基準を満たす任意の化合物を包含し、病原体に曝露された場合に、本明細書で論じた有利な特性を示す。
【0042】
本明細書でU773と示される、本発明の別の例示的な化合物は、yが1であり;XがOであり;Rが8-メチルノニルであり;Rが-CH-NHであり;Rが-CH-CH(CH)-CHであり;Rが-CH-CH-NHであり;Rが(E)=CH-CHであり;RがCHOH-CHであり;Rが-CH-NHであり;Rが-CH-Phであり;Rが-COH(CH)-CHであり;Rが-CH-COOHであり;R10、R11、R12およびR13がHである。この化合物は、3-ヒドロキシ-11-メチルドデカノイル残基に閉環しており、その配列がシクロ-((R)-3-ヒドロキシ-11-メチルドデカノイル-L-DAPA-L-Leu-L-DABA-ABA-L-Thr-L-DAPA-D-Phe-L-OHVal-L-Asp)である、環状リポデプシペプチド(31員ラクトン)である。
【0043】
本明細書でU793と示される、本発明のさらなる例示的な化合物は、yが1であり;XがOであり;Rが8-メチルノニルであり;Rが-CH-NHであり;Rが-CH-CH(CH)-CHであり;Rが-CH-CH-NHであり;Rが(E)=CH-CHであり;RがCHOH-CHであり;Rが-CH-NHであり;Rが-CH-Phであり;Rが-CH(CH)-CHであり;Rが-CH-COOHであり;R10、R11、R12およびR13がHである。この化合物は、3-ヒドロキシ-11-メチルドデカノイル残基に閉環しており、その配列がシクロ-((R)-3-ヒドロキシ-11-メチルドデカノイル-L-DAPA-L-Leu-L-DABA-ABA-L-Thr-L-DAPA-D-Phe-L-Val-L-Asp)である、環状リポデプシペプチド(31員ラクトン)である。
【0044】
本明細書でU824と示される、本発明のさらなる1つの例示的な化合物は、yが1であり;XがOであり;Rが8-メチルノニルであり;Rが-CH-CO-NHであり;Rが-CH-CH(CH)-CHであり;Rが-CH-CH-NHであり;Rが(E)=CH-CHであり;RがCHOH-CHであり;Rが-CH-NHであり;Rが-CH-Phであり;Rが-CH(CH)-CHであり;Rが-CH-COOHであり;R10、R11、R12およびR13がHである。この化合物は、3-ヒドロキシ-11-メチルドデカノイル残基に閉環しており、その配列がシクロ-((R)-3-ヒドロキシ-11-メチルドデカノイル-L-Asn-L-Leu-L-DABA-ABA-L-Thr-L-DAPA-D-Phe-L-Val-L-Asp)である、環状リポデプシペプチド(31員ラクトン)である。
【0045】
本明細書でU756と示される、本発明の1つの追加の化合物は、yが1であり;XがOであり;Rが2-ノネニルであり;Rが-CH-NHであり;Rが-CH-CH(CH)-CHであり;Rが-CH-CH-NHであり;Rが(E)=CH-CHであり;RがCHOH-CHであり;Rが-CH-NHであり;Rが-CH-Phであり;Rが-COH(CH)-CHであり;Rが-CH-COOHであり、R10、R11、R12およびR13がHである。この化合物は、ドデカ-5-エノイル残基に閉環しており、その配列がシクロ-((R)-3-ヒドロキシドデカ-5-エノイル-L-DAPA-L-Leu-L-DABA-ABA-L-Thr-L-DAPA-D-Phe-L-OHVal-L-Asp)である、環状リポデプシペプチド(31員ラクトン)である。
【0046】
U747、U773、U793、U824およびU756のプロトタイプに類似する、本発明のさらなる化合物では、単一/複数のアミノ酸残基の立体配置は、3-ヒドロキシ脂肪酸の立体配置と同様に、逆転される。
【0047】
-R13は同一であるがRは異なる、U747に類似の化合物では、化合物の細胞毒性(IC50)は、アルキル鎖の長さとともに、例えば、RがC15からC1021へと高まることに留意されたい。
【0048】
またはRが-CHNHから-CH-CO-NHに交換された、U747に類似の化合物では、抗菌活性が、ある特定の条件下で低くなり得る、すなわち、MIC値が高くなり得ることに留意されたい。さらに、RがC15より小さい、U747に類似の化合物では、抗菌活性が、ある特定の条件下で低くなり得る、すなわち、MIC値が高くなり得ることに留意されたい。
【0049】
当業者には明らかなように、本明細書に記載したペプチドなどのペプチドをベースとした製品を開発する場合、ルーチンの最適化を使用して、特定の構造物が、ある特定の細菌に対する効果および/またはある特定の病状に対する効果の観点から、ある特定の用途に非常に有利であることを特定することができる。
【0050】
「背景技術」で論じたように、3-ヒドロキシ脂肪酸に閉環しており、表1に記載した構造である、31員大環状ラクトンを有する12種の環状リポデプシペプチドが文献に存在する。
【0051】
【表1】
【0052】
ペプチドB12489A~CとペドペプチンA~Cは相互に非常に類似しており、一方、ペルギペプチンA~DとポリペプチンA~Bが相互に非常に類似している。U747は、ペルギペプチンA~DおよびポリペプチンA~BよりもB12489A~CおよびペドペプチンA~Cにより類似しているが、U747は、B12489A~CおよびペドペプチンA~Cと9個のアミノ酸(同じ位置の同じアミノ酸)のうちの6個(aa1、3、4、6、8、9)を共有しており、ペルギペプチンA~DおよびポリペプチンA~Bとはaa3の1つのアミノ酸のみを共有する。しかし、U747は、aa2およびaa7の位置が交換されており、非極性(Leu)の代わりにaa5として極性アミノ酸(Thr)であり、B12489A~CおよびペドペプチンA~Cとは実質的にまだ異なっている。
【0053】
ペドペプチンA~Cは、グラム陰性細菌のLPSと相互作用し、その抗炎症活性をもたらすことが報告されている。おそらくは、ペドペプチンの抗菌特性もLPSとの相互作用に依存しており、化合物の類似性を考慮すると、本発明のU747および類似の化合物もまた、グラム陰性細菌のLPSと相互作用するものと推測することができる。しかし、その広義の意味において、本発明は、その作用機序のいかなる定義によっても限定されない。
【0054】
ペドペプチンA~Cは、2種類の大腸菌株に対して2~4μg/mLのMIC値を有することが報告されているが、これは、大腸菌に対してだけでなく、多数の他のグラム陰性細菌に対する本発明のU747および類似の化合物のMIC値と似ている。化合物U747はまた、今日最も重要な3つの病原体としてWHOによってランク付けされているヒト病原体の大腸菌、緑膿菌およびアシネトバクター・バウマンニ(A.baumannii)のカルバペネム耐性株に対して強力な活性(MICが0.5~1μg/mLから2~4μg/mLの間)を示すことも確認されている。
【0055】
U747の非常に期待される抗菌特性に加えて、本発明のこの化合物はまた、ヒト細胞株に対する低毒性(IC50)、および許容される溶血率を示すだけでなく、耐性変異株の形成率が非常に低いことも明らかになっている。
【0056】
第2の態様では、本発明は、本発明による本明細書で定義された化合物のいずれか1つを製造する方法に関する。
したがって、本方法は、ペプチドが少なくとも9つのアミノ酸を含み、少なくとも1つの第1のアミノ酸とそれに続くLeu;DABA;ABA;Thr;DAPA;Phe;Val;およびAspの配列を包含し、第1のアミノ酸がDAPAであり、またはAsnが中間体として使用される、合成方法であり得る。
【0057】
より詳しくは、中間体は、配列番号1~5のいずれか1つによって定義されるペプチド;またはそのような配列を含むより長いペプチドであり得る。したがって、本発明による化合物の合成において有用な中間体は、DAPAまたはAsnである第1のアミノ酸に連結された上記のペプチドであり得る。
【0058】
さらに、Valは、OHでOHValに修飾されていてもよい。
ペプチド合成は、標準的な装置、例えば、固相ペプチド合成などを使用して実施することができ、機器ならびに適切なプロトコルは、販売元から広く入手することができる。当業者は、ペプチドを閉環する従来の方法、例えばエステル化またはペプチド結合形成などを利用することができる。本発明による化合物を製造する2つの例示的な方法を、実施例2および実施例4として、以下に提供する。
【0059】
あるいは、本発明による化合物のいずれか1つを製造する方法は、請求項1~6のいずれか一項で定義した化合物の一部もしくは全部、または上記の中間ペプチドの発現を含む、微生物の培養または組換えDNA技術を含み得る。
【0060】
したがって、本発明は、本発明による化合物を発現することが可能な微生物に関する。より詳しくは、そのような微生物は、ペドバクター(Pedobacter)属に属し得る。本発明による特定の微生物は、2018年7月3日にブダペスト条約に従ってBCCM-LMGに寄託され、特許受託証LMGP-30868を得た。
【0061】
さらに、本発明はまた、本発明による化合物を製造するために配置された組換え発現系に関する。発現系は、本発明による化合物のその産生を増加させるため;ある特定の状況下で増殖させるための組換えDNA技術によって、または、発現系としての天然微生物の機能を改良もしくは変化させる任意の他の従来の改変によって改変された微生物、例えば細菌または真菌を含み得る。
【0062】
より詳しくは、本発明による発現系は、ペドバクター属に属し得る。
本発明に包含される特定の発現系は、2018年7月3日にLMGP-30868としてBCCM-LMGに寄託された。
【0063】
さらに、本発明による化合物は、そのような環状ペプチドを自然に産生する微生物、例えば細菌から単離することによって産生することができる。本発明による化合物を産生するために細菌を単離する1つの方法は、天然サンプル、例えば土壌または泥などから細菌を単離するステップを含む。実際の単離は、標準のプロトコル、例えばThaker, Mら、(2013) Nat Biotechnol 31 (10):922~929などに従って実施することができる。本発明による化合物を土壌細菌から単離する特定の例を、実施例1として以下に示す。
【0064】
第3の態様では、本発明は、1種または複数のグラム陽性細菌および/またはグラム陰性細菌によって引き起こされる感染症の治療または予防などにおいて医薬として使用するための本発明による1つまたは複数の化合物に関する。
【0065】
感染症は、1種または複数のグラム陽性細菌、例えば、アクチノマイセス属(Actinomyces);バチルス属(Bacillus);クロストリジウム属(Clostridium);コリネバクテリウム属(Corynebacterium);エンテロコッカス属(Enterococcus);ガードネレラ属(Gardnerella);ラクトバチルス属(Lactobacillus);リステリア属(Listeria);ミクロコッカス属(Micrococcus);マイコバクテリア属(Mycobacteria);ノカルディア属(Nocardia);スタフィロコッカス属(Staphylococcus);およびストレプトコッカス属(Streptococcus)からなる群から選択されるグラム陽性細菌によって引き起こされ得る。あるいは、またはさらに、感染症は、1種または複数のグラム陰性細菌、例えば、アシネトバクター属(Acinetobacter);バルトネラ属(Batronella);ボルデテラ属(Bordetella);ボレリア属(Borrelia);ブルセラ菌(Brucella);バークホルデリア属(Burkholderia);カンピロバクター属(Campylobacter);クラミジア属(Chlamydia);クラミドフィラ属(Chlamydophilia);シトロバクター属(Citrobacter);コクシエラ属(Coxiella);エールリヒア属(Ehrlichia);エンテロバクター属(Enterobacter);エシェリキア属(Escherichia);フランシセラ属(Francisella);フゾバクテリウム属(Fusobacterium);ヘモフィルス属(Haemophilus);ヘリコバクター属(Helicobacter);クレブシェラ属(Klebsiella);レジオネラ属(Legionella);レプトスピラ属(Leptospira);モラクセラ属(Moraxella);マイコプラズマ属(Mycoplasma);ナイセリア属(Neisseria);プロテウス属(Proteus);シュードモナス属(Pseudomonas);リケッチア属(Rickettsia);サルモネラ属(Salmonella);セラチア属(Serratia):シゲラ属(Shigella);トレポネーマ属(Treponema);ビブリオ属(Vibrio);およびエルシニア属(Yersinia)からなる群から選択されるグラム陰性細菌によって引き起こされ得る。
【0066】
第4の態様では、本発明は、本発明による1つまたは複数の化合物が使用される、1種または複数のグラム陽性細菌および/またはグラム陰性細菌によって引き起こされる感染症を治療または予防する方法に関する。細菌は、本発明の第3の態様に関して上記で論じた通りであってもよく、または本出願の他の箇所で論じた通りであり得る。したがって、本発明に従って予防および/または治療することができる病状は、アクチノマイセス属;バチルス属;クロストリジウム属;コリネバクテリウム属;エンテロコッカス属;ガードネレラ属;ラクトバチルス属;リステリア属;ミクロコッカス属;マイコバクテリア属;ノカルディア属;スタフィロコッカス属;ストレプトコッカス属;アシネトバクター属;バルトネラ属;ボルデテラ属;ボレリア属;ブルセラ菌;バークホルデリア属;カンピロバクター属;クラミジア属;クラミドフィラ属;シトロバクター属;コクシエラ属;エールリヒア属;エンテロバクター属;エシェリキア属;フランシセラ属;フゾバクテリウム属;ヘモフィルス属;ヘリコバクター属;クレブシェラ属;レジオネラ属;レプトスピラ属;モラクセラ属;マイコプラズマ属;ナイセリア属;プロテウス属;シュードモナス属;リケッチア属;サルモネラ属;セラチア属:シゲラ属;トレポネーマ属;ビブリオ属;およびエルシニア属からなる群から選択され得る。
【0067】
第5の態様では、本発明は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体および/またはアジュバントと組み合わせた、本明細書に記載し特許請求した化合物の1つまたは複数を含む医薬製剤に関する。担体は、本発明による化合物と適合し、また含まれる任意の追加の成分と適合する任意の固体担体材料または液体担体材料であってよく、これは治療投与に適しており、すなわち薬学的に許容される。したがって、担体は、経腸投与(例えば経口投与)または非経口投与に適した有機または無機の担体材料であってよい。そのような担体材料の例は、水、ゼラチン、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物油、アラビアゴム、ポリアルキレングリコール、ワセリンなどである。医薬製剤は、固体剤形(例えば、錠剤、糖衣錠、坐剤、もしくはカプセル剤として)または液体剤形(例えば、溶液、懸濁液もしくは乳濁液として)で製造することができる。
【0068】
本発明による医薬製剤は、当技術分野で公知の方法によって調製することができ、従来の製薬上の操作、例えば滅菌に供することができ、また浸透圧または緩衝液を変化させるための1つまたは複数のアジュバント、例えば保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、塩などを含むことができる。緩衝液が使用される場合、医薬製剤のpHは、もちろん、製薬業務では周知である範囲内で変えられる。
【0069】
本発明による医薬製剤は、無害で有益な細菌への阻害を最小限にすると同時に、疾患を引き起こす細菌に対しては最適な効果を付与する、iv製剤、経口製剤、局所製剤および他の製剤として使用することができる。
【0070】
本製剤が医学的に有効な疾患を引き起こす病原菌は上記で論じた通りであり、アシネトバクター属;バチルス属;カンピロバクター属;クラミジア属:クロストリジウム属;エンテロバクター属;エンテロコッカス属;エシェリキア属;ヘモフィルス属;ヘリコバクター属;クレブシェラ属;レジオネラ属;マイコバクテリア属;ナイセリア属;シュードモナス属;サルモネラ属;シゲラ属;スタフィロコッカス属;ストレプトコッカス属;ビブリオ属;およびエルシニア属からなる群から選択することができる。
【0071】
有利には、本発明による製剤は、アミノグリコシド;アンサマイシン;カルバペネム;セファロスポリン;フルオロキノロン;グリコペプチド;リンコサミド;リポペプチド;マクロライド;モノバクタム;ニトロフラン;オキサゾリジノン;ペニシリン;ポリペプチド;キノロン;スルホンアミド;およびテトラサイクリンからなる群から選択される抗生物質に対して耐性および/または多剤耐性である1つまたは複数の疾患を引き起こす細菌に対して有効である。
【0072】
第6の態様では、本発明は、グラム陽性細菌および/またはグラム陰性細菌の表面の定着化を防止する方法における、本明細書に記載し特許請求した化合物の1つまたは複数の使用に関する。表面は、身体の表面、または臨床機器の一部、例えば金属もしくはプラスチック製品の表面であり得る。
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]以下に提示した式(I):
【化3】
[式中、
yは、0~5であり;
Xは、O、NR10、または(CH(ここでnは0~10である)、または(OH)であり;
Rは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するn-アルケニルであり;ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく;
は、-(CH-NR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-CONR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり、これらのそれぞれは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有することが可能であり;
は、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するn-アルケニルであり、ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく、RおよびRは、相互に位置を交換することができ;
は、-(CH-NR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-CONR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり、これらのそれぞれは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有することが可能であり;
は、-(CH-CH=C[(CH-H](CH-H(ここでnは0~10であり、mは0~10であり、oは0~5であり、EもしくはZ二重結合を有する)、または=C[(CH-H](CH-H(ここでmは0~10であり、oは0~5であり、EもしくはZ二重結合を有する)であり;
は、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するn-アルケニルであり;ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく、0~2個のHは、-OR13、-NR1112、-F、-Cl、-Br、-I、-(CH-H(ここでoは1~5である)の任意の組合せに交換することができ;
は、-(CH-NR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-CONR1112(ここでnは0~5である)、または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり、これらのそれぞれは、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有することが可能であり;
は、-(CH-Ph(Y)(ここでYは、-OR13、-NR1112、-F、-Cl、-Br、-I、-(CH-Hの任意の組合せであり、nは0~5であり、mは0~5であり、oは1~20である)であり、ここで、RおよびRは、相互に位置を交換することができ;
は、0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルキル、または0~5個のC-Cn-アルキル分岐を有するC-C20n-アルケニルであり、ここで二重結合はE立体配置またはZ立体配置を有していてもよく、0~2個のHは、-OR13、-NR1112、-F、-Cl、-Br、-I、-(CH-H(ここでoは1~5である)の任意の組合せに交換することができ;
は、-(CH-CONR1112または-(CH-COO-(CH-H(ここでnは0~5であり、mは0~5である)であり;
10は、独立して、-H、-OR13、-(CH-H(ここでoは1~5である)、-F、-Cl、-Br、または-Iであり;
11およびR12は、-H、C-Cn-アルキル、およびC-Cn-アルケニル、または任意の一般的なN-保護基であり;
13は、-(CH-H(ここでnは0~5である)である]
を含む単離または合成された化合物;
または、そのエナンチオマー、ジアステレオマー、互変異性体、もしくは薬学的に許容される塩(ここで、それぞれの立体中心は、RまたはSのいずれかであり得る)。
[態様2]式中、
yが1であり;
Rが、0または1個のメチル分岐を有する、C-C10n-アルキルまたはC-C10n-アルケニルであり;
およびRが、両方とも-CH-NR1112であるか、または1つが-CH-NR1112であり、1つが-CH-CO-NR1112であり;
が-CH-CH(CH)-CHであり;
が-CH-CH-NR1112であり;
がEまたはZ=CH-CHであり;
が-CH(OR13)-CHであり;
が-CH-Phであり;
が-CH(CH)-CHまたは-COR13(CH)-CHであり;
が-CH-COOHまたは-CH-CONR1112である、
態様1に記載の化合物。
[態様3]式中、R10がHであり;XがOである、態様1または2に記載の化合物。
[態様4]3-OH FAの立体中心、ならびにaa1、aa6およびaa7の各立体中心が、それぞれ、RまたはSであってもよく;aa2~aa5、aa8およびaa9の各立体中心がSであり、Rの立体中心がRである、先行する態様のいずれか一に記載の化合物。
[態様5]Rが-CH-COOHであり;R11およびR12がHであり;Rが-CHOH-CHであり、ここで、立体中心はRであり;Rが-CH(CH)-CHまたは-COH(CH)-CHである、先行する態様のいずれか一に記載の化合物。
[態様6]Rが-COH(CH)-CHであり、OH-FAの立体中心がRであり;aa1~aa3、aa5、aa6、aa8およびaa9の各立体中心がSであり;aa7の立体中心がRである、先行する態様のいずれか一に記載の化合物。
[態様7]態様1~6のいずれか一に記載の化合物を製造する方法。
[態様8]少なくとも9つのアミノ酸を含み、少なくとも1つの第1のアミノ酸と後続のLeu;DABA;ABA;Thr;DAPA;Phe;Val;およびAspの配列を包含し、第1のアミノ酸がDAPAまたはAsnであり、ValがOHValに修飾され得る、ペプチドが、中間体として使用される、合成方法である、態様7に記載の方法。
[態様9]中間体が、配列番号1~5のうちのいずれか1つによって定義されたペプチドである、態様8に記載の方法。
[態様10]態様1~6、8および9のいずれか一によって定義された1つまたは複数の化合物またはペプチドを自然に発現する微生物の培養を含む、態様7に記載の方法。
[態様11]BCCM-LMGに寄託された微生物LMGP-30868が使用される、態様7に記載の方法。
[態様12]態様1~6、8および9のいずれか一によって定義された1つまたは複数の化合物またはペプチドの組換えDNA発現を含む、態様7に記載の方法。
[態様13]態様1~6、8および9のいずれか一によって定義された1つまたは複数の化合物またはペプチドを製造するために配置された発現系。
[態様14]少なくとも1つの細菌または真菌などの微生物を含む、態様13に記載の発現系。
[態様15]微生物がペドバクター属に属する、態様14に記載の発現系。
[態様16]微生物が、BCCM-LMGに寄託されたLMGP-30868である、態様15に記載の発現系。
[態様17]組換え発現系である、態様13~16のいずれか一に記載の発現系。
[態様18]医薬として使用するための、態様1~6のいずれか一に記載の化合物。
[態様19]1種または複数のグラム陽性細菌またはグラム陰性細菌によって引き起こされる少なくとも1つの感染症の治療または予防において使用するための、態様1~6のいずれか一に記載の化合物。
[態様20]感染症が1種または複数のグラム陽性細菌によって引き起こされる、態様19に記載の化合物。
[態様21]前記の1種または複数のグラム陽性細菌が、アクチノマイセス属;バチルス属;クロストリジウム属;コリネバクテリウム属;エンテロコッカス属;ガードネレラ属;ラクトバチルス属;リステリア属;ミクロコッカス属;マイコバクテリア属;ノカルディア属;スタフィロコッカス属;およびストレプトコッカス属からなる群から選択される、態様20に記載の化合物。
[態様22]感染症が1種または複数のグラム陰性細菌によって引き起こされる、態様19に記載の化合物。
[態様23]前記の1種または複数のグラム陰性細菌が、アシネトバクター属;バルトネラ属;ボルデテラ属;ボレリア属;ブルセラ菌;バークホルデリア属;カンピロバクター属;クラミジア属;クラミドフィラ属;シトロバクター属;コクシエラ属;エールリヒア属;エンテロバクター属;エシェリキア属;フランシセラ属;フゾバクテリウム属;ヘモフィルス属;ヘリコバクター属;クレブシェラ属;レジオネラ属;レプトスピラ属;モラクセラ属;マイコプラズマ属;ナイセリア属;プロテウス属;シュードモナス属;リケッチア属;サルモネラ属;セラチア属:シゲラ属;トレポネーマ属;ビブリオ属;およびエルシニア属からなる群から選択される、態様22に記載の化合物。
[態様24]1種または複数のグラム陽性細菌またはグラム陰性細菌によって引き起こされる感染症を治療または予防する方法であって、感染症の治療または予防を必要とする対象が、態様1~6のいずれか一に記載の化合物で治療される、方法。
[態様25]感染症が1種または複数のグラム陽性細菌によって引き起こされる、態様24に記載の方法。
[態様26]前記の1種または複数のグラム陽性細菌が、アクチノマイセス属;バチルス属;クロストリジウム属;コリネバクテリウム属;エンテロコッカス属;ガードネレラ属;ラクトバチルス属;リステリア属;ミクロコッカス属;マイコバクテリア属;ノカルディア属;スタフィロコッカス属;およびストレプトコッカス属からなる群から選択される、態様25に記載の方法。
[態様27]感染症が1種または複数のグラム陰性細菌によって引き起こされる、態様24に記載の方法。
[態様28]前記の1種または複数のグラム陰性細菌が、アシネトバクター属;バルトネラ属;ボルデテラ属;ボレリア属;ブルセラ菌;バークホルデリア属;カンピロバクター属;クラミジア属;クラミドフィラ属;シトロバクター属;コクシエラ属;エールリヒア属;エンテロバクター属;エシェリキア属;フランシセラ属;フゾバクテリウム属;ヘモフィルス属;ヘリコバクター属;クレブシェラ属;レジオネラ属;レプトスピラ属;モラクセラ属;マイコプラズマ属;ナイセリア属;プロテウス属;シュードモナス属;リケッチア属;サルモネラ属;セラチア属:シゲラ属;トレポネーマ属;ビブリオ属;およびエルシニア属からなる群から選択される、態様27に記載の方法。
[態様29]態様1~6のいずれか一に記載の化合物を、薬学的に許容される担体および/またはアジュバントとともに含む、医薬製剤。
[態様30]無害で有益な細菌への阻害を最小限にすると同時に、疾患を引き起こす細菌に対して最適な効果を付与する、iv製剤、経口製剤、局所製剤および他の製剤として使用される、態様29に記載の医薬製剤。
[態様31]疾患を引き起こす細菌が、アシネトバクター属;バチルス属;カンピロバクター属;クラミジア属:クロストリジウム属;エンテロバクター属;エンテロコッカス属;エシェリキア属;ヘモフィルス属;ヘリコバクター属;クレブシェラ属;レジオネラ属;マイコバクテリア属;ナイセリア属;シュードモナス属;サルモネラ属;シゲラ属;スタフィロコッカス属;ストレプトコッカス属;ビブリオ属;およびエルシニア属からなる群から選択される、態様30に記載の製剤。
[態様32]疾患を引き起こす細菌が、アミノグリコシド;アンサマイシン;カルバペネム;セファロスポリン;フルオロキノロン;グリコペプチド;リンコサミド;リポペプチド;マクロライド;モノバクタム;ニトロフラン;オキサゾリジノン;ペニシリン;ポリペプチド;キノロン;スルホンアミド;およびテトラサイクリンからなる群から選択される抗生物質に対して耐性および/または多剤耐性である、態様30または31に記載の製剤。
[態様33]グラム陽性細菌および/またはグラム陰性細菌の表面の定着化を防止する方法における、態様1~6のいずれか一に記載の化合物の使用。
[態様34]表面が身体表面である、態様33に記載の使用。
[態様35]表面が、臨床機器の一部、例えば金属またはプラスチック製品の表面である、態様33に記載の使用。
【0073】
図面の詳細な説明
図1は、本発明による例示的な化合物U747の固相合成のパートIを詳述するスキーム1である。より詳しくは、スキーム1は、i)Martinのスルフラン脱水試薬、ii)ギ酸、iii)2-クロロトリチル樹脂/コリジン/DMF、iv)20%ピペリジン/DMF、v)Fmoc-L-Leu/HCTU/DIPEA、vi)Fmoc-L-DAPA(Nγ-Boc)/HCTU/DIPEA、vii)Fmoc-L-Asp(O-tBu)-O-CH[(CH-CH]-CH-COOH/HCTU/DIPEA、viii)Fmoc-L-OHVal(O-tBu)/HCTU/DIPEA、ix)Fmoc-D-Phe/HCTU/DIPEAを含む。それぞれのカップリングステップの後、Fmoc基は、DMF中の20%ピペリジンで除去される。
【0074】
図2は、本発明による例示的な化合物U747の固相合成のパートIIを詳述するスキーム2である。より詳しくは、スキーム2は、x)Fmoc-L-DAPA(Nγ-Boc)/HCTU/DIPEA、xi)Fmoc-L-Thr(O-tBu)/HCTU/DIPEA、xii)DMF中の20%HFIP、xiii)PyclocK/DIPEA、xiv)TFA/TIPSを含む。それぞれのカップリングステップの後、Fmoc基は、DMF中の20%ピペリジンで除去される。
【0075】
図3は、本発明による例示的な化合物U747の代替の立体特異的固相合成のパートIを詳述するスキーム3である。より詳しくは、スキーム3は、i)TiCl/DCMとその後のTFA/HO、ii)CrO/aq.HSOとその後のKOH/MeOH、iii)臭化アリル/KCO/DMF、iv)Fmoc-L-Asp(OtBu)/EDCI/DMAP、v)Pd(PPh/PhSiH/DCM、vi)Pd(PPh/n-BuSnH/THF、vii)I/DCM、viii)NaN/アスコルビン酸Na/CuI/DMEDA/DMSO-HO、ix)LiOH/HO、x)EDCI/DMAP/DCMを含む。
【0076】
図4は、本発明による例示的な化合物U747の代替の立体特異的固相合成のパートIIを詳述するスキーム4である。より詳しくは、スキーム4は、xi)Fmoc-L-DAPA(Nγ-Boc)/PyBOP/HOBt/DIPEA、xii)EBB/PyBOP/HOBt/DIPEA、xiii)Fmoc-L-3-OHVal/PyBOP/HOBt/DIPEA、xiv)Fmoc-D-Phe/PyBOP/HOBt/DIPEA、xv)Fmoc-L-DAPA(Nγ-Boc)/PyBOP/HOBt/DIPEA、xvi)Fmoc-L-Thr(O-tBu)/DEBPT/DIPEA、xvii)(E)-2-アジド-2-ブテン酸/PyBOP/HOBt/DIPEAを含む。それぞれのカップリングステップの後、Fmoc基は、DMF中の20%ピペリジンで除去される。
【0077】
図5は、本発明による例示的な化合物U747の代替の立体特異的固相合成のパートIIIを詳述するスキーム5である。より詳しくは、スキーム5は、xviii)Fmoc-L-DABA(Nδ-Boc)2-ジフェニルホスファニルフェニルエステル/THF-HOとその後のDMF中の20%ピペリジン、xix)20%HFIP、xx)PyBOP/HOBt/DIPEA/DMF、xxi)TFA/TIPSを含む。
【実施例
【0078】
本実施例は例示の目的でのみ提供され、添付の特許請求の範囲によって定義した本発明を限定するものではない。以下で提供した、および本出願の他の箇所で提供したすべての参考文献は、参照によって本明細書に含まれる。
【0079】
実施例1:ペドバクター属の種UP508の単離および同定
本明細書でUP508と示した細菌単離株(2018年7月3日にLMG P-30868としてBCCM-LMGに寄託)は、標準のプロトコルに基づいて、スウェーデン、ウプサラのウルトゥナで収集した土壌サンプルから単離した。単離株は、16S rRNAを配列決定することにより、ペドバクター・クリオコニティス(Pedobacter cryoconitis)のA37株またはペドバクター・ウェステルホフェンシス(Pedobacter westerhofensis)のWB3.3-22株に最も近いと同定された。
【0080】
U747の産生
単離株ペドバクター属の種UP508を、それぞれ、300mLの半分に薄めたベジタブルペプトンブロス(VPB;1000mLの脱イオンHO中、15gのVPB(Oxoid Ltd))を入れた32×1000mLの三角フラスコ内で、15℃の回転振盪機(130rpm)により培養した。U747および他の細胞外代謝産物を回収するため、接種の16~24時間後に、滅菌綿/ポリマー樹脂Sepabeads(登録商標)SP850(Mitsubishi Chemical Corporation;1バッグ当たり約10g)を入れたペーパーバッグを、活発に増殖している培養物中に沈めた。6~7日後にバッグを取り出し、脱イオン水で洗浄し、バッグ当たり約2×20mLのMeOHおよび2×20mLのMeCNで抽出した。プールした抽出物を減圧下で乾燥させた。乾燥させた抽出物を40mLの50%MeCN水溶液(0.2%ギ酸)に溶解させ、遠心分離にかけ(13000rpmで5分)、セミ分取HPLCカラム(Phenomenex Luna Omega 5μm PS C18、100Å;100×21.2mm)に注入し(40×1mL)、水に溶解したMeCNの2段階勾配で溶出し(15分で15~50%、2分で50~95%、その後4分間95%、「HPLC1」)、0.2%ギ酸で10mL/分溶出した。フラクション(2mL)を2.2mLのディープウェルプレートに収集し、クロマトグラフィーを210nmのUV検出器でモニターした。HPLC-フラクションをUHPLC-MS(0.5μL;Accucore Vanquish C18+、50×2.1mm、1.5μm;10~95%MeCNを3分、95%MeCNで1.2分、0.2%ギ酸、0.9mL/分;Agilent 1290 Infinity II UHPLCおよびBruker maXis Impact QTOF)によりポジティブモードで分析した。tが1.4分であり、m/zが373.2143(3+)(UHPLC-MS)のペプチドU747が含まれたフラクション57~59をプールし、真空遠心分離機で乾燥させた。乾燥残留物を同じセミ分取カラムで分画し、水に溶解したMeCNの直線勾配(26分で20~37.5%、9分で37.5~60%、0.2%ギ酸、10mL/分、「HPLC2」)で溶出した。U747が含まれたフラクション54~61(上記のUHPLC-MS)をプールし、真空遠心分離機で乾燥させ、上記と同じカラムで、水に溶解したMeCNの勾配(0.2%ギ酸;26分で17.5~35%MeCN、9分で35~57.5%、「HPLC3」)を使用してさらに単離した。U747が含まれたフラクション39~54をプールし、真空遠心分離機で乾燥させ、同じカラムで最終1ラウンドのHPLCにかけた(28分で17.5~35%MeCN、7分で35~57.5%、0.2%のギ酸、10mL/分、「HPLC4」)。U747が含まれたフラクション48~53をプールし、真空遠心分離機で乾燥させた。HPLC3からの低純度のU747を含むフラクションをHPLC4にかけ、さらにHPLC5(HPLC4と同一条件)にかけ、U747を含むフラクションをプールし、真空遠心分離機で乾燥させた。U747の全収量は33mgであった。
【0081】
本発明の他の化合物は、同じ方法を使用して単離したが、適切に適合したHPLC条件を使用した。
U747および類似化合物の構造決定
NMR
U747を0.6mLのDMSO-dに溶解させ、5mmのクライオプローブを備えたBruker Avance-III NMR分光計で分析した。1D Hおよび13C NMR実験から得られたU747のNMRデータは、2D実験H-H COSY、H-H TOCSY、HSQC-TOCSY、およびH-13C HSQCとともに、次の共通アミノ酸:1×Leu、1×Thr、1×Phe、および1×Asp、ならびにいくつかの非標準アミノ酸の存在を示唆した。続いて、NMRデータの分析からは、2×2,3-ジアミノプロパン酸(DAPA)、1×2,4-ジアミノブタン酸(DABA)、1×2-アミノ-2-ブテン酸(ABA)、および1×3-ヒドロキシバリン(OHVal)の存在が示唆された。ROESY実験からは、ABAが(E)-ABAとして存在することが証明された。
【0082】
またNMRデータは、3-ヒドロキシデカン酸の存在も示しており、β-CHの化学シフトから判断すれば、3-ヒドロキシ官能基はエステル化されているはずであり、このことから、ラクトンがこの官能基のエステルによって形成されていることが示唆される。最後に、ROESYデータとHMBCデータの組合せにより、U747の構造がシクロ(3-ヒドロキシデカノイル-DAPA-Leu-DABA-ABA-Thr-DAPA-Phe-OHVal-Asp)であることが示唆された。
【0083】
MSMS。
ペプチドU747の推定ラクトンを開環するため、少量のサンプル(約50μg)を室温で20分間、200μLのMeOH中の1%NaOMeで処理し、その溶液を10μLの2M HCl(aq)で中和した。得られたサンプルを、水中のMeCNの勾配を使用して(0.2%ギ酸;3分で30~60%MeCN、0.9mL/分)、UHPLC-MSMS(上記と同じ機器およびカラム)により分析した。直鎖開環ペプチドU747(t 33s)に対応するm/z 575.3287(2+)のイオンがMSMS(21.5eV)にて選択された。フラグメントイオンB(N連結3-ヒドロキシデカノイル基を含む)は、B~Bとともに、完全配列を網羅することができ、NMRデータによって提示された配列が確認された。
【0084】
アミノ酸の立体配置
U747(0.5mg)を200μLの6M HClに溶解させ、真空ガラスバイアル内で一晩120℃にて処理した。バイアルを開封し、溶液をN下で乾燥させた。続いて、アミノ酸の立体配置を、改良Marfey法を使用して決定した(Fujiiら 1997. Anal. Chem. 69、5146~5151.)。誘導体化したサンプルをUHPLC-MS(上記と同じカラム、6分で20~50%MeCN、0.9mL/分、0.2%ギ酸)により分析し、標準の参照サンプルと比較することにより、アミノ酸はL-Thr、L-OHVal、L-Asp、L-Leu、D-Phe、2×L-DAPAおよびL-DABAと決定された。
【0085】
3-ヒドロキシ脂肪酸の立体配置
本発明のペプチドの3-ヒドロキシ脂肪酸部分の立体配置は、改良Mosher法(Ohtaniら、J. Am. Chem. Soc. 1991、113、4092~4096)を使用して、プロトタイプU752について決定した。U752(6mg)を200μLの6M HClに溶解させ、真空ガラスバイアル内で、6時間120℃にて処理した。冷却後、バイアルを開封し、内容物をN下で乾燥させた。残留物をEtOAcと水との間で分配し、EtOAc抽出物をN下で乾燥させた。サンプル(約0.5mg)を1.2mLのピリジン-dに溶解させ、その溶液を1.5mLガラスバイアル中の2つの等しい分量(それぞれ約1.2μmol)に分けた。それぞれのサンプルを、室温にて、5μLのR-またはS-MTPA-Cl(3,3,3-トリフルオロ-2-メトキシ-2-フェニルプロパノイルクロリド、各約27μmol、約22倍過剰)で処理し、それぞれ、脂肪酸のS-MTPAエステルおよびR-MTPAエステルを得た。6時間後、サンプルをNMRにより分析し、2つのジアステレオマーサンプルについて、H-2、H-4、およびH-5の化学シフトを決定した。最後に、S-MTPAエステルとR-MTPAエステルに関する上記化学シフトの差異を計算して、U752の3-ヒドロキシ脂肪酸の立体配置がRであると決定されたが、この立体配置は、U747を含む本発明のすべてのペプチドにおいて同様であると思われる。
【0086】
したがって、U747の構造は、シクロ((R)-3-ヒドロキシデカノイル-L-DAPA-L-Leu-L-DABA-(E)-ABA-L-Thr-L-DAPA-D-Phe-L-OHVal-L-Asp)であると決定された。本発明の他の化合物の構造は、必要に応じて、NMR、MSMS、および改良型Marfey法の組合せを使用して決定した。
【0087】
【表2】
【0088】
実施例2:U747の合成
U747の合成は、Mountfordら(Org. Biomol. Chem.、2017、15、7173~7180)によって開示されている、ポリペプチンPE2の合成と同様にして行う。ほとんどのアミノ酸は、それらのNα-Fmoc保護形態(L-Leu、L-DABA(Nγ-Boc)、L-Thr(O-tBu)、L-DAPA(Nβ-Boc)、D-PheおよびL-Asp(O-tBu))で市販されており、一方、保護されていないL-OHValも市販されており、容易にNα-FmocおよびO-tBu保護される。L-allo-Thrのtert-ブチルエステルは市販されている。
【0089】
最初に、ジペプチドは、カップリング用のN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド/トリエチルアミンを使用して、Fmoc-L-DABA(Nγ-Boc)をL-allo-Thr(OH)tert-ブチルエステルに結合させることにより形成する。次いで、このジペプチド中の(E)-ABAを、Martinのスルフランを使用する脱水[YokokawaおよびShioiri、Tetrahedron Letters 43 (2002) 8679~8682](図1;スキーム1)によって、その後、主要なZ-異性体からE-異性体を単離する分取HPLCによって得る。ジペプチドFmoc-L-DABA(Nγ-Boc)-(E)-DABAを、DMF中のコリジンを使用して2-クロロトリチル樹脂に結合させ、直鎖ペプチドFmoc-L-DAPA(Nβ-Boc)-L-Leu-L-DABA(Nγ-Boc)-(E)-ABA-樹脂を、それぞれのカップリングステップ前では樹脂結合ペプチドのFmoc脱保護用のDMF中20%ピペリジンを使用し、それぞれのカップリングステップではDMF中のHCTU(O-(1H-6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)/DIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)を使用して、固相ペプチド合成によって合成する(図1および図2;スキーム1およびスキーム2)。デプシペプチドの必要なエステルビルディングブロック(Fmoc-L-Asp(O-tBu)-O-CH[(CH-CH]-CH-COOH)は、Mountfordら(Org. Biomol. Chem.、2017、15、7173~7180)の方法と同様にして、Fmoc-L-Asp(O-tBu)およびアリル(R/S)-3-ヒドロキシデカノエートから合成する。
【0090】
パラジウムテトラキストリフェニルホスフィンを使用してアリル基を除去した後、エステルビルディングブロックを、DMF中のHCTU/DIPEAを使用して、樹脂結合直鎖ペプチドに結合させる。続いて、直鎖デプシペプチドFmoc-L-Thr-L-DAPA(Nβ-Boc)-D-Phe-L-OHVal-L-Asp(O-tBu)-O-CH[(CH-CH]-CH-CO-L-DAPA(Nβ-Boc)-L-Leu-L-DABA(Nγ-Boc)-(E)-ABA-樹脂を上記のように合成する。
【0091】
Fmoc脱保護の後、N-BocおよびO-tBu保護されたデプシペプチドを、ジクロロメタン中のHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)を使用して、樹脂から遊離させる。
【0092】
続いて、このデプシペプチドを、DMF中のPyClocK(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)/DIPEAを使用して、N末端L-Thr残基とC末端(E)-ABA残基との間にペプチド結合を形成させることにより環化する。最後に、側鎖保護基(N-BocおよびO-tBu)を、TFA/TIPS(トリイソプロピルシラン)による処理によって除去し、ペプチドU747を分取HPLCによって(S)-3-ヒドロキシデカン酸ジアステレオマーから精製する(上記のカラム、28分で17.5~35%MeCN、7分で35~57.5%、0.2%ギ酸、10mL/分)。
【0093】
実施例3:U747の生物学的特性
異なる病原性細菌のパネルに対するU747の最小発育阻止濃度(MIC)を、A)96ウェルマイクロタイタープレートにおける微量液体希釈法、およびB)米国臨床検査標準委員会(Clinical and Laboratory Standards Institute)(CLSI)ガイドラインによる方法(Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI). 2015. M7-A10. Methods for dilution antimicrobial susceptibility tests for bacteria that grow aerobically、第10版 承認基準 CLSI、ペンシルベニア州ウェイン)の2つの方法によって測定した。
【0094】
A)微量液体希釈方法では、試験培地は、1:4の比率でリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Amresco LLC、ソロン、米国)と混合したAM3ブロス(BD Difco Ltd)(大腸菌、A.バウマンニ、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、クレブシェラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)および緑膿菌)であるか、1:1の比率でPBSと混合したAM3ブロス(黄色ブドウ球菌(S. aureus))であるか、麦芽エキス(ME;1000mLの脱イオンHO中15gの麦芽エキス、Dico Ltd.;アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus))のいずれかであった。MIC試験の前に、細菌細胞濃度/真菌胞子濃度を、1mL当たり1~5×10細胞/胞子に調節した。細胞濃度は、常に、それぞれのMIC試験の直後に、標準希釈法に従って実施した生細胞カウントと、VPAプレート(1000mL脱イオンHO中、10gのVPB(Oxoid Ltd.)、15gのBacto Agar(Saveen Werner AB)へのそれぞれの病原菌の播種と、麦芽エキスプレート(1000mL脱イオンHO中、15gの麦芽エキス Dico Ltd.、15gのBacto Agar(Saveen Werner AB))へのA.フミガーツスの播種によって確認した。続いて、プレートを暗所で37℃にてインキュベートし、16~24時間後に生存コロニーをカウントした。MIC(0.05~64μg/mLの濃度範囲)を推定するため、MeOH中の100、10、および1μg/mL、必要に応じて0.1μg/mLのストック溶液からテスト化合物の適切なサンプル量をマイクロタイタープレートのウェルに分注し、溶媒をドラフト内で蒸発させた。その後、適切な培地中の病原体細胞の懸濁液をマイクロタイタープレートのウェルに分注し、病原体の増殖を、暗所で37℃にて16~20時間インキュベーションした後にモニターした。陽性対照は、化合物を添加していない未処理の滅菌した適切な培地中に懸濁したそれぞれの病原体細胞を含んでおり、陰性対照は、培地のみを含んでいた。MICは、病原体の目視可能な増殖がないそれぞれの化合物の最低濃度として定義した。すべてのMIC試験は、2連および/または3連で実施し、少なくとも2回繰り返した。
【0095】
B)さらに、選択した病原体に対するU747のMIC値を、米国臨床検査標準委員会(CLSI)のガイドラインに従って決定した。
IC50、溶血率、および耐性率(frequency of resistance)(FoR、表4)を、様々なCROによる標準プロトコルを使用して決定した。
【0096】
実施例4:U747の代替合成
最初に、必要なエステルビルディングブロック(EBB、スキーム3)を、カップリング剤としてDMAP/EDCIを使用して、Fmoc-L-Asp(OtBu)OH(市販品)とアリル(3R)-3-ヒドロキシデカノエート(以下に説明したように合成)から合成する。(3R)-3-ヒドロキシデカン酸は、TiCl促進性ジアステレオ選択的カップリング反応(Elliot, J.D.ら、Tet. Lett 1985、26、2535~2538)において、(4R,6R)-2-ヘプチル-4,6-ジメチル-1,3-ジオキサン(Bartlett, P.A.ら、JACS 1983、105、2088~2089)と1-tert-ブトキシビニルオキシ-tert-ブチル-ジメチルシラン(Wenzel, A.G.およびJacobsen、E.N.、JACS 2002、124、44、12964~12965)から合成され、続いてJones試薬を使用した酸化とβ-除去(KOH/MeOH)を実施した。アリル(3R)-3-ヒドロキシデカノエートは、臭化アリルとの反応によって得る。Fmoc-L-Asp(OtBu)OHとのカップリングの後、アリル基をPhSiH/Pdにより除去し、その後のカップリング反応において使用するEBBを得る。
【0097】
次に、(E)-2-アジド-2-ブテン酸とFmoc-L-DABA(Nδ-Boc)の2-ジフェニルホスファニルフェニルエステルを以下に示したように合成する(スキーム3)。これらの成分は、固相ペプチド合成のStaudingerライゲーションステップ(Kohn, M.およびBreinbauer, R. 2004. ANGEW. CHEMIE-INT. ED. 43 3106~3116)で使用される。エチルブタ-3-イノエート(市販品)の立体選択的ヒドロスタンニル化(Miyake, H.; Yamamura, K. Chem. Lett. 1989、18、981~984)と、その後のヨードスタンニル化(Hanson, R. N.およびEl-Wakil, H. J.、1987、Org. Chem.、52、3687~3688)によって、エチル(E)-2-ヨード-2-ブテネオエート(buteneoate)が得られ、これはアジ化ナトリウムで処理することによってエチル(E)-2-アジド-2-ブテノエートに変換され、次いで(E)-2-アジド-2-ブテン酸に加水分解される。Fmoc-L-DABA(Nδ-Boc)と2-ジフェニルホスファニルフェノール(市販品)を、DMAP/EDCIを使用してカップリングし、対応するエステルを形成させる。続いて、直鎖ペプチドを、Cl-トリチル樹脂に結合させたL-Leuから出発して、1)Fmoc-L-DAPA(Nγ-Boc)(市販品)、2)EBB(上記)、3)Fmoc-L-3-OH-Val(市販品)、4)Fmoc-D-Phe(市販品)、5)Fmoc-L-DAPA(Nγ-Boc)、6)Fmoc-L-Thr(OtBu)(市販品)、7)(E)-2-アジド-2-ブテン酸、8)Fmoc-L-DABA(Nδ-Boc)のジフェニルホスファニルフェニルエステルを使用して合成する(スキーム4および5)。カップリング1~5および7は、PyBOP/HOBt/DIPEA/DMFで行われ、カップリング6は、DEBPT/DIPEA/DMFで行われ、カップリング8はTHF/HOで行われる(Staudingerライゲーション)。Fmoc脱保護は、DMF中の20%ピペリジンで行われる。このペプチドを、DCM中の20%HFIPで樹脂から切断し、ペプチドを分取HPLCにより精製する。最後に、遊離したペプチドを、PyBOP/HOBt/DIPEA/DMFを使用して環化し、環化したペプチドをTFA/TIPSで脱保護する。分取HPLCにより純粋なU747を得る。
【0098】
【表3-1】
【0099】
【表3-2】
【0100】
【表4】
【0101】
本発明の他の化合物のMIC値(表5)は、方法Aを使用して決定した。
【0102】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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