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特許7492530自動車両のホイール操舵システムおよび差動ブレーキシステムの組合せ制御のための設定値を生成する方法
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  • 特許-自動車両のホイール操舵システムおよび差動ブレーキシステムの組合せ制御のための設定値を生成する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】自動車両のホイール操舵システムおよび差動ブレーキシステムの組合せ制御のための設定値を生成する方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/10 20060101AFI20240522BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20240522BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240522BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20240522BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
B60W30/10
B62D6/00
B60T7/12 C
B60T8/1755 Z
B62D101:00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021553282
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2020055120
(87)【国際公開番号】W WO2020182480
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】1902510
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ドー, アイン ラム
(72)【発明者】
【氏名】アダッド, アラン
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ, ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】グエン, ホア デュック
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/044227(WO,A1)
【文献】特開2007-161184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B62D 6/00- 6/10
B60T 7/12- 8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両(10)の操舵システム(14)および差動ブレーキシステム(15)を制御するための設定値を生成するための、コンピュータによって実行される方法であって、
前記自動車両(10)が要求された経路(T1)を追従するように前記自動車両(10)に加えるべき全ヨーモーメント(MYaw_total)に関する値と、前記自動車両(10)の速度(V)とを前記コンピュータが取得するステップと、
前記操舵システム(14)または前記差動ブレーキシステム(15)が提供可能な前記全ヨーモーメント(MYaw_total)の最大比率に関する少なくとも1つのしきい値(α max )を前記速度(V)の関数として前記コンピュータが計算するステップと、
前記操舵システム(14)または前記差動ブレーキシステム(15)が提供すべき前記全ヨーモーメント(MYaw_total)の比率に関する分散率(α)を前記しきい値(αmax)の関数として前記コンピュータが求めるステップと、
前記操舵システム(14)および前記差動ブレーキシステム(15)を制御するための設定値を、前記分散率(α)と、前記全ヨーモーメント(MYaw_total)に関する前記値の関数として前記コンピュータが生成するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記しきい値(αmax)が、前記操舵システム(14)が提供可能な前記全ヨーモーメント(MYaw_total)の最大比率に関係し、前記自動車両(10)のホイール(11)の操舵角(δ)の最大限度の関数として求められる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記しきい値(αmax)が、前記操舵システム(14)が提供可能な前記全ヨーモーメント(MYaw_total)の最大比率に関係し、前記自動車両(10)のホイール(11)の操舵速度の最大限度の関数として求められる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記しきい値(αmax)が、前記操舵システム(14)が提供可能な前記全ヨーモーメント(MYaw_total)の最大比率に関係し、前記自動車両(10)が追従可能な前記経路の最大曲率の関数として求められる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記しきい値(αmax)が、前記操舵システム(14)が提供可能な前記全ヨーモーメント(MYaw_total)の最大比率に関係し、前記自動車両(10)が持続可能な最大角度ヨーレートの関数として求められる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記しきい値(αmax)が第1の式
によって計算され、上式で
であり、
Vが前記自動車両(10)の速度であり、
が、前記自動車両(10)の重心と前車軸との間の距離であり、
が、前記自動車両(10)の重心と後車軸との間の距離であり、
が、前記自動車両(10)の前輪のコーナリング剛性の係数であり、
が、前記自動車両(10)の後輪のコーナリング剛性の係数であり、
mが前記自動車両(10)の質量であり、
δsafetyが、前記自動車両(10)のホイール(11、12)の操舵角の最大限度であり、
ρmaxが、前記自動車両(10)が追従可能な経路の最大曲率であり、
が、前記自動車両(10)の前記ホイール(11、12)の操舵速度の最大限度であり、
が、前記自動車両(10)が持続可能な最大角度ヨーレートである、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記計算するステップは、前記操舵システム(14)または前記差動ブレーキシステム(15)が提供可能な前記全ヨーモーメント(M Yaw_total )の最大比率に関するしきい値(α min )を前記速度(V)の関数としてさらに計算し、
前記しきい値(αmin)が、前記差動ブレーキシステム(15)が提供可能な前記全ヨーモーメント(MYaw_total)の最大比率に関係し、前記差動ブレーキシステム(15)によって制限可能な最大ヨーモーメント限度の関数として求められる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記しきい値(αmin)が第2の式
によって計算され、上式で
であり、
Vが前記自動車両(10)の速度であり、
が、前記自動車両(10)の重心と前車軸との間の距離であり、
が、前記自動車両(10)の重心と後車軸との間の距離であり、
が、前記自動車両(10)の前輪のコーナリング剛性の係数であり、
が、前記自動車両(10)の後輪のコーナリング剛性の係数であり、
mが前記自動車両(10)の質量であり、
DB_sat_actが、前記差動ブレーキシステム(15)によって制限可能な最大ヨーモーメント限度であり、
ρmaxが、前記自動車両(10)が追従可能な経路の最大曲率である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の式によって第1のしきい値(αmax)を計算し、前記第2の式によって第2のしきい値(αmin)を計算することが可能となり、前記第1のしきい値(αmax)が前記第2のしきい値(αmin)未満である場合、
前記操舵システム(14)を制御するための設定値がゼロとなるように選ばれ、
前記差動ブレーキシステム(15)を制御するための設定値がゼロとなるように選ばれ、
前記自動車両(10)の従来型ブレーキシステム(16)を制御するための非ゼロ設定値を生成することが可能となる、請求項7が請求項6に従属するときの請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記取得するステップの前に、前記経路(T1)が、前記自動車両(10)の軌道に位置する障害物(20)の位置の関数として求められる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には自動車両運転補助に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、自動車両の操舵システムおよび差動ブレーキシステムを制御するための設定値を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
自動車両の安全に鑑みて、車両は現在、運転支援システムまたは自動運転システムを備えている。
【0004】
こうしたシステムは、具体的には、単に自動車両の従来型ブレーキシステムに作用することによって車両が走行する車線に位置する障害物とのどんな衝突も回避するように設計される衝突被害軽減ブレーキシステム(AEBという省略形でより広く知られている)を含むことが知られている。
【0005】
しかしながら、こうした緊急ブレーキシステムでは衝突を回避することが可能ではない状況、またはこうした緊急ブレーキシステムを使用することができない状況(たとえば、自動車両の後ろに別の車両が接近して追走する場合)が存在する。
【0006】
こうした状況のために、車両の操舵装置に作用することによって、または車両の差動ブレーキシステムに作用することによって車両を車両の経路から迂回させることにより障害物を回避することを可能にする自動回避システム(省略形AES、すなわち「自動操舵回避(Automatic Evasive Steering)」または「自動緊急操舵(Automatic Emergency Steering)」でより広く知られている)が開発されてきた。
【0007】
しかしながら、AEBおよびAESシステムでは完全に安全に障害物を回避することが可能ではないことが生じ得る。
【発明の概要】
【0008】
この欠点を克服するために、本発明は、完全に安全にどんな障害物も可能な限り回避するように、操舵システムおよび差動ブレーキシステムによって与えられる力の良好な分散を達成することを可能にする方法を提案する。
【0009】
より具体的には、本発明によれば、自動車両の操舵システムおよび差動ブレーキシステムを制御するための設定値を生成する方法であって、
自動車両が必要とされる経路をたどるように自動車両に加えるべき全ヨーモーメントに関する値と、自動車両の速度とを取得するステップと、
操舵システムまたは差動ブレーキシステムが与えることのできる全ヨーモーメントの最大比率に関する少なくとも1つのしきい値を前記速度の関数として計算するステップと、
操舵システムまたは差動ブレーキシステムが与えなければならない全ヨーモーメントの比率に関する分散率を前記しきい値の関数として求めるステップと、
操舵システムおよび差動ブレーキシステムを制御するための設定値を、前記分散率と、全ヨーモーメントに関する値の関数として生成するステップと
を含む方法が提案される。
【0010】
したがって、本発明により、車両の操舵を完全に安全に保証することを可能にする制限を考慮し、こうした制限に応じてしきい値を計算し、次いで、完全に安全にどんな障害物も可能な限り回避するために操舵システムおよび差動ブレーキシステムによって与えられる力を分散させることが可能となる。
【0011】
個々に取り上げられる、またはすべての技術的に可能な組合せによる、本発明による方法の他の有利で非限定的な特徴は以下の通りである。
しきい値が、操舵システムが与えることのできる全ヨーモーメントの最大比率に関係する。
しきい値が、自動車両のホイールの操舵角の最大限度の関数として求められる。
しきい値が、自動車両のホイールの操舵速度の最大限度の関数として求められる。
しきい値が、自動車両がたどることのできる経路の最大曲率の関数として求められる。
しきい値が、自動車両が耐えることのできる最大角度ヨーレートの関数として求められる。
しきい値が第1の式によって計算される。
上式で
であり、
Vは自動車両の速度であり、
は、自動車両の重心と前車軸との間の距離であり、
は、自動車両の重心と後車軸との間の距離であり、
は、自動車両の前輪のコーナリング剛性の係数であり、
は、自動車両の後輪のコーナリング剛性の係数であり、
mは自動車両の質量であり、
δsafetyは、自動車両のホイールの操舵角の最大限度であり、
ρmaxは、自動車両がたどることのできる経路の最大曲率であり、
は、自動車両のホイールの操舵速度の最大限度であり、
は、自動車両が耐えることのできる最大角度ヨーレートである。
しきい値が、差動ブレーキシステムが与えることのできる全ヨーモーメントの最大比率に関係する。
しきい値が、差動ブレーキシステムによって課すことのできる最大ヨーモーメント限度の関数として求められる。
しきい値が、第2の式によって計算される。
上式で、MDB_sat_actは、差動ブレーキシステムによって課すことのできる最大ヨーモーメント限度である。
第1の式によって第1のしきい値を計算し、第2の式によって第2のしきい値を計算することが可能となり、第1のしきい値が第2のしきい値未満である場合、
操舵システムを制御するための設定値がゼロとなるように選ばれ、
差動ブレーキシステムを制御するための設定値がゼロとなるように選ばれ、
自動車両の従来型ブレーキシステムを制御するための非ゼロ設定値を生成することが可能となる。
取得するステップの前に、自動車両の経路が、自動車両の軌道に位置する障害物の位置の関数として求められる。
【0012】
もちろん、本発明の様々な特徴、変形形態、および実施形態が、非互換または相互排他的でない限り、様々な組合せで互いに組み合わされ得る。
【0013】
非限定的な例として与えられる添付の図面を参照して行われる以下の説明により、本発明を構成するもの、および本発明がどのように実装され得るかについて良い理解が与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】道路上を移動中の自動車両の概略平面図であり、この車両が取ることのできる経路が道路上に表される図である。
図2】別の経路沿いに位置する4つの連続する位置で表される図1の自動車両と障害物の概略斜視図である。
図3】分散率αをそれらの間で選ばなければならないしきい値を示すグラフである。
図4】本発明の方法を実装するためのアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
図5】自動車両の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図5は、乗客区画を画定するシャーシと、2つの操舵前輪11と、2つの非操舵後輪12とを従来通り備える自動車両10を示す。変形形態では、これらの2つの後輪も操舵ホイールであり得る。
【0016】
この自動車両10は、車両の向きを変えることができるように前輪11の向きに作用することを可能にする従来型操舵システム14を備える。この従来型操舵システム14は、具体的には、前輪11を枢動させるためにタイロッドに連結された操舵ホイールを備える。当該の例では、この従来型操舵システム14はまた、操舵ホイールの向きに応じて、かつ/またはコンピュータ13から受け取った要求に応じて前輪の向きに作用するためのアクチュエータも備える。
【0017】
この自動車両10は、自動車両10を減速するようにホイールの回転速度に作用するための従来型ブレーキシステム16をさらに備える。この従来型ブレーキシステム16は、具体的には、制動状況で車両が完全に車両の経路を維持するように、2つのホイール11(および2つの後輪12)にほぼ同様に作用するように意図される。この従来型ブレーキシステム16は、たとえば、ブレーキディスクを備えるホイールをクランプするためのブレーキペダルおよびブレーキキャリパを備える。当該の例では、この従来型ブレーキシステム16は、ブレーキペダルに加えられる圧力に応じて、かつ/またはコンピュータ13から受け取った要求に応じてブレーキキャリパに作用するためのアクチュエータも備える。
【0018】
最後に、この自動車両は、自動車両に向きを変えさせる間に自動車両を減速するように、前輪11の回転速度(および後輪12の回転速度)に対して別様に作用するための差動ブレーキシステム15を備える。この差動ブレーキシステム15は、たとえば、車両のホイールに配置された制御された差動または電動機を備える。当該の例では、制御された差動または電動機がコンピュータ13によって制御される。
【0019】
次いで、コンピュータ13は、調整された形でこうした様々なシステムを制御するように意図される。したがってコンピュータ13は、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つのメモリ、ならびに様々な入力および出力インターフェースを備える。
【0020】
コンピュータ13の入力インターフェースにより、コンピュータ13は、様々なセンサから入力信号を受け取るように設計される。
【0021】
こうしたセンサの中でも、たとえば以下が設けられる。
車両の車線に対する車両の位置を特定するための、前面に取り付けられたカメラなどのデバイス、
自動車両10の経路に位置する障害物20(図2)を検出するための、遠隔レーダーやLIDAR検出器などのデバイス、
自動車両10の(垂直軸の周りの)回転ヨーレートを求めるための、ジャイロメータなどのデバイス、および
操舵ホイール角度位置および速度センサ。
【0022】
コンピュータ13の出力インターフェースにより、コンピュータ13は、前述のシステムに要求を送るように設計される。
【0023】
したがって、車両に強制的に回避経路T1をたどらせ、所望の速度に減速させることが可能となる。
【0024】
コンピュータ13のメモリにより、コンピュータ13は、以下で説明される方法の文脈内で使用されるデータを記憶する。
【0025】
具体的には、コンピュータ13は、命令を含むコンピュータプログラムの形態のコンピュータアプリケーションを記憶し、プロセッサによる命令の実行により、以下で説明される方法をコンピュータによって実装することが可能となる。
【0026】
この方法を説明する前に、使用される様々な変数が導入され得、その一部が図1に示されている。
【0027】
自動車両の全質量が「m」で示され、kg単位で表現される。
【0028】
自動車両の重心CGを通る垂直軸の周りの自動車両の慣性が「J」で示され、kg.m単位で表現される。
【0029】
重心CGと車両の前車軸との間の距離が「l」で示され、メートル単位で表現される。
【0030】
重心CGと後車軸との間の距離が「l」で示され、メートル単位で表現される。
【0031】
前輪のコーナリング剛性の係数が「C」で示され、N/rad単位で表現される。
【0032】
後輪のコーナリング剛性の係数が「C」で示され、N/rad単位で表現される。
【0033】
ホイールのコーナリング剛性のこれらの係数は、当業者にはよく知られている概念である。例として、前輪のコーナリング剛性の係数は、式F=2.C.αを書くことを可能にするようなものであり、ただしFは前輪の横方向スリップ力であり、αは前輪のドリフト角である。
【0034】
操舵前輪が自動車両10の縦軸A1となす操舵角が「δ」で示され、rad単位で表現される。
【0035】
(車両の重心CGを通る垂直軸の周りの)車両のヨーレートが「r」で示され、rad/s単位で表現される。
【0036】
車両の縦軸A1と回避経路T1(車両の所望の経路)の接線との間の相対向首角が「ψ」で示され、rad単位で表現される。
【0037】
車両の前方に位置する照準距離「ls」での(重心CGを通る)自動車両10の縦軸A1と、回避経路T1との間の横方向偏位が「eyL」で示され、メートル単位で表現される。
【0038】
前述の照準距離「ls」は重心CGから測定され、メートル単位で表現される。
【0039】
自動車両10のドリフト角(自動車両の速度ベクトルが自動車両の縦軸A1となす角)が「β」で示され、rad単位で表現される。
【0040】
縦軸A1に沿った自動車両の速度が「V」で示され、m/sで表現される。
【0041】
回避経路T1の曲率がρで示され、m-1単位で表現される。
【0042】
車線の平均曲率がρrefで示され、m-1単位で表現される。
【0043】
必要とされる回避経路T1をたどるように自動車両10に加えるべき全ヨーモーメントが「MYaw_total」で示され、Nm単位で表現される。
【0044】
差動ブレーキシステム15だけを使用して実行されるこの全ヨーモーメントMYaw_totalの成分が「MDB」で示され、Nm単位で表現される。
【0045】
本発明を実装するためにコンピュータによって実行される方法を説明する前に、本発明に至ることを可能にした計算のこの説明の最初の部分で、こうした計算がどこに源を発しているのか、およびどんな基盤に基づいているのかについてのはっきりした理解を与えるように説明を与えることができる。
【0046】
前置きのコメントとして、回避経路T1をたどることを可能にする(または横方向偏位eyLを最小限に抑える)全ヨーモーメントMYaw_totalが以下のようにモデル化できることが考慮される。
[Math 1]
【0047】
本発明の目的は、自動車両10の軌道で検出された障害物の脇を通り、自動車両10が完全に安全にたどることのできる回避経路T1を自動車両10がたどることを可能にする形で、差動ブレーキシステム15および操舵システム14が命令を受けることを保証することである。
【0048】
そのことを達成するために、車両制御アルゴリズムに課されるべき第1の制限は、この回避経路T1が、それを超えると自動車両10の制御を失う危険がある最大回避経路よりも曲率が小さいことが必要とされることである。自動車両10の速度Vに依存するこの最大回避経路は、既知であることが仮定され、最大回避経路曲線および最大ヨーレートによって定義され、以下の式の形で書くことができる。
【0049】
[Math 2]
ρ≦ρmax
[Math 3]
【0050】
最大回避経路曲線および最大ヨーレートは自動車両10の速度Vに依存することに留意されよう。
【0051】
式Math 1の最初の2つの行が考慮される場合、以下のように書くことができる。
[Math 4]
【0052】
定常(または「静的」)状態では、この式は以下のように書くことができる。
[Math 5]
【0053】
この式では、係数を以下のように計算することができる。
[Math 6]
【0054】
式Math 5の分解により、以下のように書くことが可能となる。
[Math 7]
【0055】
または代替として、
[Math 8]
【0056】
この式では、係数κを以下のように書くことができる。
[Math 9]
【0057】
ヨーレートrを以下の式によって推定することができる。
【0058】
[Math 10]
r=ρ.v
【0059】
この結果を用いて以下のように書くことができる。
[Math 11]
【0060】
この式を、式Math 2およびMath 3で記述される2つの条件と組み合わせると、以下の2つの条件を書くことが可能となる。
[Math 12]
[Math 13]
【0061】
これらの2つの式を書くために、MYaw_totalがMYaw_total_static未満であることが仮定される。それらの導関数について同じことが当てはまることも仮定される。
【0062】
この段階では、以下の式により、ヨーモーメントMDBの成分の関数として自動車両10をモデル化することができる。
[Math 14]
【0063】
したがって、この式の第2の行により、以下のように書くことが可能となる。
[Math 15]
【0064】
この段階では、道路上の車両のスリップに対応するドリフト角βはゼロであると仮定することができる。次いで、式Math 1に関連して以下のように書くことが可能である。
【0065】
[Math 16]
Yaw_total=Cδ+MDB
【0066】
この式は、一方では差動ブレーキシステム15によって与えられる成分MDBと、従来型操舵システム14によって与えられる成分C.L.δとの間の全ヨーモーメントMYaw_totalの分散をはっきりと示している。
【0067】
したがって、以下の2つの式を書くことが可能である。
[Math 17]
【0068】
[Math 18]
DB=(1-α)MYaw_total
【0069】
これらの式では、係数αは、2つの前述の成分の間の「修復率」に対応する。
【0070】
この分散率αは、従来型操舵システム14によって与えられる全ヨーモーメントMYaw_totalの割合に、より正確に対応する。この割合の補完は、その部分について、差動ブレーキシステム15によって与えられる全ヨーモーメントMYaw_totalの割合に対応する。
【0071】
この分散率αに関して、当然ながら以下のように書くことが可能である。
【0072】
[Math 19]
0≦α≦1
【0073】
この段階で、どんなドライバも、いつでもこの車両の制御を引き受けることができる立場にあることを保証するために、自動車両10の制御アルゴリズムに課されるべき第2および第3の制限を設定することがさらに望ましい。これらの2つの制限は、それを超えるとドライバが完全に安全に車両の制御を引き受けることが難しくなる、操舵角の最大値および最大角度操舵速度(すなわち、垂直軸の周りのホイールの回転速度)に関係する。これらの2つの制限を以下の形に書くことができる。
【0074】
[Math 20]
δ≦δsafety
[Math 21]
【0075】
ここで、操舵角の最大値および最大角度操舵速度は自動車両10の速度Vに依存し得ることに留意されよう。
【0076】
以下のように書くことのできる、飽和しきい値(それを超えるとホイールが滑ることになる)未満の差動制動トルクをすべてのホイール11、12に与えるものである、自動車両10の制御アルゴリズムに課されるべき第4の制限を設定することも望ましい。
【0077】
[Math 22]
DB≦MDB_sat_act
【0078】
この飽和しきい値は、たとえば自動車両10の速度Vに応じて変動し得ることに留意されよう。
【0079】
したがって、式Math 12、Math 13、およびMath 17の組合せによって以下の式を書くことが可能となる。
[Math 23]
[Math 24]
【0080】
一方では式Math 20とMath 23の整合性を保証し、他方では式Math 21とMath 24の整合性を保証するために、分散率αが以下の条件に従わなければならない。
[Math 25]
【0081】
はαmaxとも表され、分散率αについての上限しきい値である。
【0082】
式Math 12、Math 18、およびMath 22も以下のように書くことが可能となる。
[Math 26]
【0083】
αはαminとも表され、分散率αについての最小しきい値である。
【0084】
このしきい値が以下の式を満たさなければならないことも理解されよう。
[Math 27]
【0085】
したがって、差動ブレーキシステムと従来型操舵システムとの間のヨーモーメントの分散の実現可能性を保証するために、これらの2つのしきい値αmin、αmaxの間に含まれるように分散率αを選ぶことが必要である。この条件を図形で示すために、3つの数学関数f、g、およびhを導入することができる。
【0086】
第1の関数fは分散率αの第1の上限に対応し、第1の上限は、課された操舵角δの限度に関連付けられる。この第1の関数を以下のように書くことができる。
[Math 28]
【0087】
第2の関数gは分散率αの別の上限に対応し、このとき、別の上限は、課された角度操舵速度限度に関連付けられる。この第2の関数を以下のように書くことができる。
[Math 29]
【0088】
第3の関数hは、分散率αの下限に対応し、下限は、差動ブレーキシステム15によって課すことのできるヨーモーメント限度に関連付けられる。この第3の関数を以下のように書くことができる。
[Math 30]
【0089】
これらの3つの数学関数f、g、hの図解の一例が図3で与えられる。
【0090】
この例では、斜線部分が、アルゴリズムに課されるすべての制限が満たされるように分散率αを選ぶことが可能な領域に対応する。
【0091】
したがって、この分散率を0から1の間となるように、かつ第1および第2の数学関数f、gより小さく、第3の数学関数hより大きくなるように選ばなければならないことを理解されよう。
【0092】
この図3で、それを超えるとすべての所望の制限を保証する分散率αを見つけることが不可能である臨界速度Vcriticalがあることに気付くであろう。
【0093】
このシナリオの中に自分がいるとき、まず第1に、自動車両10の速度Vが臨界速度Vcritical以下となるまで、従来型ブレーキシステム16だけを使用して直線で車両の緊急ブレーキを実施することが想定される。次いで、障害物が自動車両によって回避されることを保証するために、3つの数学関数の間に含まれる分散率が選択される。
【0094】
この段階で、車両に課される4つの制限が知られ、式Math 25およびMath 26の起源が説明されたので、図4を参照して、本発明による自動車両を制御するための設定値を生成する方法の実施形態の一例を与えることができる。
【0095】
ここでは、コンピュータ13は、この方法を再帰的に、すなわち段階的に、ループで実装するようにプログラムされる。
【0096】
その目的で、第1のステップE1の間に、コンピュータ13は、自動車両10の軌道に位置する潜在的障害物の存在を検出しようと試みる。そのことを行うために、コンピュータ13は、コンピュータ13の遠隔レーダーまたはLIDAR検出器を使用する。
【0097】
障害物がない場合、このステップE1がループで反復される。
【0098】
障害物20が検出されるとすぐに(図2参照)、コンピュータ13は、この障害物20を回避することを可能にする回避経路T1を計画する。
【0099】
次いでコンピュータ13は、従来型ブレーキシステム16、差動ブレーキシステム15、および従来型操舵システム14についての制御設定値を定義しようとする。
【0100】
その目的で、第2のステップE2の間に、コンピュータ13はまず第1に、車両が回避経路T1をたどることができるように車両に加えるべき全ヨーモーメントMYaw_totalの値を求める。
【0101】
全ヨーモーメントMYaw_totalの値を計算する方式は、それ自体の権利において本発明の主題を形成するものではないので、ここでは説明しない。この値を計算する様々な方法が既によく知られていることを単に想起することができる。たとえば、従来型PIDコントローラ、MPC制御(「モデル予測制御」)、または従来技術から知られている任意の他の方策を使用することができる。
【0102】
第3のステップE3の間に、コンピュータ13は、分散率αが取ることのできる最大しきい値αmaxおよび最小しきい値αminを求める。
【0103】
その目的で、コンピュータは、自動車両10の速度Vを記録し、次いでコンピュータは、式Math 25およびMath 26を使用して、これらの値を求める。
【0104】
これらの計算のために有用な変数の値がこの段階では既知となり、コンピュータのメモリ内に記憶される(そのうちの一部はそれ自体が速度Vに依存する)ことに気付くであろう。たとえば、変数の値は、ここで考慮するものと同じタイプの車両に対して実施されるテストキャンペーン中に求めることができていることになる。
【0105】
第4のステップE4の間に、コンピュータは、計算した最大しきい値αmaxが最小しきい値αminよりもずっと大きいかどうかを判定する。
【0106】
そうでない場合、自動車両10が臨界速度Vcriticalよりも高速で移動していることを意味し、コンピュータ13は、従来型ブレーキシステム16による自動車両10の制動を命令する(ステップE5)。次いで方法は再びステップE2から開始する。
【0107】
逆の場合、コンピュータ13は、2つのしきい値の間に含まれ、さらに0から1の間に含まれる分散率αを選ぶ(ステップE6)。
【0108】
その目的で、車両の速度が低速である場合(すなわち、計算した最大しきい値αmaxが1に近く、または1に等しい場合、かつ最小しきい値αminが0に近く、または0に等しい場合)、車両が回避経路T1をたどるように車両の向きを変えるために従来型操舵システム14の使用を支持するように、1に等しい分散率αを選ぶことができる。
【0109】
車両の速度がかなり速い場合、他方では、差動ブレーキシステム15の使用を支持することが可能である。
【0110】
例として、車両の速度Vが50km/h未満である場合、分散率αを1に設定することができる。
【0111】
車両の速度Vが50から160km/h(この例では臨界速度Vcriticalと見なされる)の間に含まれる場合、分散率αを1未満(特に、速度が速いときは1未満)の値に設定することができる。
【0112】
したがって、従来型操舵システム14と差動ブレーキシステム15との間の分散の法則は、自動車両10の物理的限界に直接的に関連付けられる。具体的には、アクチュエータの限度に関連付けられる制限を満たすように制動トルクを制限しなければならない。
【0113】
最後に、ステップE7およびE11の間に、コンピュータ13は、操舵システム14を制御するための設定値および差動ブレーキシステム15を制御するための設定値を、選んだ分散率αおよび全ヨーモーメントMYaw_totalの関数としてそれぞれ生成する。
【0114】
ステップE8では、コンピュータ13は、操舵システム14を制御するための設定値が、従来型操舵システム14の支援付き操舵アクチュエータによって定義される制御可能性限界に正しく適合することを検証する。具体的には、これらの制御可能性限界は、ドライバが常に操舵ホイールの手動制御を取り戻すことができるように操舵角および操舵速度が制限されなければならないことによって明らかにされる。
【0115】
ステップE9では、コンピュータ13は、ヨーモーメント設定値を、アクチュエータに適合された設定値に変換する。
【0116】
ステップE10では、アクチュエータは、この設定値に応じて車両の前輪11の向きを変えさせる。
【0117】
並行して、ステップE12では、コンピュータ13は、差動ブレーキシステム15を制御するための設定値がこのシステムによって定義される制御可能性限度に正しく適合することを検証する。
【0118】
ステップE13では、コンピュータ13は、差動ブレーキシステム15を制御するためのこの同じ設定値が車両の他の安全システム、具体的にはVMC(「車両運動制御(Vehicle Motion Control)」)システムおよびVDC(「車両ダイナミックス制御(Vehicle Dynamics Control)」)システムによって定義される制御可能性限界に正しく適合することをさらに検証する。コンピュータ13はまた、各タイヤの制動能力を考慮に入れて、この設定値が適用可能であることも検証する。
【0119】
ステップE14では、コンピュータ13は、ヨーモーメント設定値を、使用されるシステム(制御される差動または電動機)に適合された設定値に変換する。
【0120】
ステップE15では、使用されるシステムは、この設定値に応じて車両のホイール11、12を制動する。
【0121】
本発明は、説明され、表現される実施形態に決して限定されず、当業者は本発明による任意の変形形態に本発明を適用することができるであろう。
【0122】
したがって、本発明は、アクチュエータ、たとえば電気または液圧アクチュエータを使用して(たとえば、回生ブレーキシステムと共に)、任意のタイプのブレーキシステムおよび任意のタイプの操舵システムに適用され得る。
【0123】
本発明は、コンピュータ13内に既に存在するESP(「横滑り防止装置(Electronic Stability Program)」)電子経路補正方策とは無関係である。たとえば、ESPが活動化されるとき、本発明による制御設定値を生成する方法は活動化されない。どんな場合でも、本発明による制御設定値を生成する方法はESPをトリガしない。具体的には、本発明による方法では、ESPの補正ダイナミクスに侵害しないことを可能にする、最も動的な回避経路が考慮に入れられる。
図1
図2
図3
図4
図5