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▶ フラウンホファー ゲセルシャフト ツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ.の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】MHC II/CII複合体の生成
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240522BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240522BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20240522BHJP
   C07K 14/74 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20240522BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N15/12
C07K14/78
C07K14/74
A61K38/16
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P17/06
A61P37/02
A61P33/00
A61P27/16
A61K38/39
A61K47/65
C12N15/62 Z ZNA
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021572488
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2020072287
(87)【国際公開番号】W WO2021028350
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】19191094.2
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500242786
【氏名又は名称】フラウンホファー ゲセルシャフト ツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【弁理士】
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】ナディーネ シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】ピンツォ シュイ
(72)【発明者】
【氏名】シルビア ツィエンツィアラ
(72)【発明者】
【氏名】リカルド ホルムダール
(72)【発明者】
【氏名】ハーラルト ブルクハルト
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0309229(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0168390(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0227516(US,A1)
【文献】The Journal of Immunology,2006年,Vol.176, No.3,p.1525-1533
【文献】MHC,2008年,Vol.15, No.3,p.235-248
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 19/00
C07K 14/78
C07K 14/74
C12N 15/62
C12N 15/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物であって、
(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域、
(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域、および
(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含み、
前記CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G、AGFKGX3QGPX1G、およびAGFKX4EQGPX1Gからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、ここでX1は、Kを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、X2は、Qを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、X3は、Eを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、かつX4は、Gを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、そして
前記MHC II/CIIペプチド複合体は、翻訳後修飾CIIペプチドを含み、ここで前記CIIペプチドの第1のリジン残基は、O-グリコシル化ヒドロキシリジン(Hyl)である、組成物。
【請求項2】
(a)前記第1のリジン残基は、ガラクトシルヒドロキシリジンである、
(b)前記CIIペプチドは、リンカーペプチドによってβ1ドメインのN末端に融合されている、
(c)少なくとも前記α1ドメインはDRA*0101に由来し、少なくとも前記β1ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402、およびDRB1*1303からなる群から選択されるHLA-DR対立遺伝子に由来し、
(d)前記CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、またはAGFKGEQGPKGEP、またはGIAGFKGEQGPKGEPのアミノ酸配列を含む、
(e)前記CIIペプチドは前記第1のリジン残基のみを含み、さらなるKは変異しており、かつ/あるいは
(f)前記CIIペプチドは前記第1のリジン残基のみを含み、さらなるKはRに変異している、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域、
(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域、および
(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合したコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、単一の融合ポリペプチドとして発現される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域を含む第1のポリペプチド、
(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域を含む第2のポリペプチド、および
(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合したコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記MHCクラスIIα鎖は、そのC末端でロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第1の機能的ドメインに融合され、かつ前記MHCクラスIIβ鎖は、そのC末端でロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第2の相補的機能的ドメインに融合される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
翻訳後修飾CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を生成する方法であって、
(a)哺乳動物細胞を
(i)少なくともα1ドメインを含むMHC IIα鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチド、
(ii)少なくともβ1ドメインを含むMHC IIβ鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチド、および
(iii)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)をコードするポリヌクレオチドであって、ここで前記CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G、AGFKGX3QGPX1G、およびAGFKX4EQGPX1Gからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、ここでX1は、Kを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、X2は、Qを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、X3は、Eを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、かつX4は、Gを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかである、ポリヌクレオチド
で遺伝子導入する工程
(b)前記MHC II/CIIペプチド複合体の生成に適する条件で前記哺乳動物細胞を培養する工程、および
(c)翻訳後修飾CIIペプチドを含む前記MHC II/CIIペプチド複合体を含む細胞上清および場合によっては細胞を回収する工程を含み、ここで前記CIIペプチドの第1のリジン残基は、O-グリコシル化ヒドロキシリジン(Hyl)である、方法。
【請求項7】
前記MHC II/CIIペプチド複合体の前記CIIペプチドの翻訳後修飾を分析する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(a)前記第1のリジン残基は、ガラクトシルヒドロキシリジンである、
(b)少なくとも前記α1ドメインはDRA*0101に由来し、少なくとも前記β1ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402、およびDRB1*1303からなる群から選択されるHLA-DR対立遺伝子に由来する、
(c)前記CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、またはAGFKGEQGPKGEP、またはGEPGIAGFKGEQGPKGEPのアミノ酸配列を含む、
(d)前記CIIペプチドは前記第1のリジン残基のみを含み、さらなるKは変異している、かつ/あるいは
(e)前記CIIペプチドは前記第1のリジン残基のみを含み、さらなるKはRに変異している、前記請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記哺乳動物細胞は、
(a)リジンをヒドロキシリジン(Hyl)にヒドロキシル化すること、かつHylをガラクトシルヒドロキシリジン(Gal-Hyl)にガラクトシル化することを含む、コラーゲン中のリジン残基を翻訳後修飾する酵素を含む、
(b)リジン水酸化酵素およびコラーゲンガラクトース転移酵素を含む、かつ/あるいは
(c)リジン水酸化酵素1(LH1)および/またはリジン水酸化酵素2(LH2)およびコラーゲンガラクトース転移酵素GLT25D1および/またはGLT25D2を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞は、
(a)腎細胞、線維芽細胞、または骨芽細胞である
(b)HEK 293細胞株である、あるいは
(c)リジン水酸化酵素およびコラーゲンガラクトース転移酵素を組換え発現する遺伝子操作細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳動物細胞は、
(a)ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性を欠いている、
(b)多機能酵素であるLH3を欠いている、あるいは
(c)ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性を欠く変異性LH3酵素を含む、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域をコードする第1のポリヌクレオチド、
(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域をコードする第2のポリヌクレオチド、および
(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合したコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)をコードするポリヌクレオチドを含み、
前記MHCクラスIIα鎖は、そのC末端でロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第1の機能的ドメインに融合され、かつ前記MHCクラスIIβ鎖は、そのC末端でロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第2の相補的機能的ドメインに融合される、請求項6~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項6~12のいずれか一項に記載の方法によって得られる、翻訳後修飾CIIペプチドを含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体であって、前記CIIペプチドの第1のリジン残基は、O-グリコシル化Hylである、複合体。
【請求項14】
慢性炎症性疾患の治療に使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物、または請求項13に記載の組換えMHC II/CIIペプチド複合体。
【請求項15】
前記慢性炎症性疾患は、関節リウマチ、骨関節炎、乾癬性関節炎、非X線撮影性軸性脊椎関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎、再発性多軟骨炎、全身性エリテマトーデス、ライム病、メニエール病、自己免疫性内耳疾患(AIED)、またはスティル病である、請求項14に記載の使用のための組成物または組換えMHC II/CIIペプチド複合体。
【請求項16】
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物の前記組換えMHC II/CIIペプチド複合体、または請求項13に記載の翻訳後修飾CIIペプチドを含む前記組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含むMHC II/CIIペプチド複合四量体。
【請求項17】
前記第1の機能ドメインおよび前記第2の相補的機能ドメインは、
(a)酸性および塩基性のロイシンジッパーヘテロ二量体化ドメイン、および/または
(b)jun-fosロイシンジッパーモチーフである、請求項5に記載の組成物。
【請求項18】
前記第1の機能ドメインおよび前記第2の相補的機能ドメインは、
(a)酸性および塩基性のロイシンジッパーヘテロ二量体化ドメイン、および/または
(b)jun-fosロイシンジッパーモチーフである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その場でグリコシル化されたMHC II/CIIペプチド複合体、すなわち、宿主細胞内で組換えタンパク質発現中に自然にグリコシル化された複合体に関する。本発明はさらに、哺乳動物細胞内でグリコシル化されたMHC II/CIIペプチド複合体を生成する方法に関する。さらに、本発明は、関節炎の治療に用いるために複合化された、そのように翻訳後修飾されたMHC II/CIIペプチド、好ましくはグリコシル化されたMHC II/CIIペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(RA)は一般的に重篤な疾患であり、欧州では400~700万の人々が罹患している主要な健康事案となっている。この疾患は、疼痛、進行性の軟骨や骨の破壊に関連する関節の異常な自己免疫性炎症によって引き起こされ、適切に治療しない場合には、機能障害かつ最終的には移動障害/廃失に繋がる。今日の薬物治療は、臨床診断が確定すると直ぐに開始されて症例の60~70%には有効であるが、病気の完治には至らない。薬物治療では、主として炎症の一般的なエフェクター経路を標的として、それによって感染リスクの増大に対処する広範な免疫抑制効果を引き起こす。
【0003】
関節リウマチの免疫遺伝学的検討では、疾患の開始および/または永続化にはT細胞の活性化の異常な経路が重要な役割を持つことを示唆している。T細胞活性化プロセスでは、CD4+T細胞は、ヒト白血球抗原(HLA)クラスII分子(ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスII)と複合化した抗原ペプチド断片に関与し、本格的な抗原提示細胞によって提供される共刺激シグナルの環境でそれらの活性化を引き起こす。病因としてのCD4+T細胞の役割を支持する最も強力な証拠は、関節リウマチと、MHCクラスII分子HLA-DR(アミノ酸70~74位のいわゆる「共通エピトープ」)のペプチド結合ポケットのβ鎖上のアミノ酸コンセンサスモチーフQ/R R/K R A AをコードするHLA-DRB1遺伝子座の特定の対立遺伝子との間の遺伝的な相関である(Gregersen PK et al., Arthritis Rheum. 1987;30:1205-1213)。関節リウマチでのT細胞の病原性の役割に関する説得力のある証拠はさらに、中等度から重度の疾患の炎症性滑膜浸潤内にT細胞が頻繁に検出可能なことにより提示され、特定の自己抗体応答の成熟性を促進する局所免疫反応でのそれらT細胞のB細胞との共同作用を示している。さらに、CD4+CD25(hi)制御性T細胞(Treg)機能の障害が、関節リウマチの病因に関与していることが示唆されている。従って関節リウマチでは、調節不全の慢性的に活性化されたT細胞区画が、治療上の免疫調節介入に関して重要な標的となることを示している。
【0004】
現在では、関節リウマチは臨床的な発症の数年前に始まると考えられている。最強の危険因子としてのHLA-DRB1遺伝子座にある上述の共通エピトープをコードする対立遺伝子を伴う多遺伝子性疾患として、関節リウマチはそれぞれその素因のある個体で発症する。しかしながら、依然不明確な環境および/または生活様式の要因(喫煙)もまた、IgG(リウマチ因子)、および関節炎を起こし易いものの最大20年の前臨床期間に亘り依然健康である個体に保持される可能性のあるシトルリン化タンパク質(ACPA)に対する抗体の生成に関連する自己免疫応答の誘発に関与する。臨床的発症の前後では、II型コラーゲン(CII)およびシトルリン化CIIに対する免疫応答が検出可能である(Burkhardt H et al., Eur J Immunol. 2005; 35:1643-52)。CIIは、関節軟骨中の主要なタンパク質成分である。DRB1*0401対立遺伝子を保有する関節リウマチ患者(白色人種の関節リウマチ患者の50%)は、三重螺旋型CII領域のアミノ酸配列259~273に対応する主要なCIIエピトープに特異的に応答するレパートリーにT細胞を有することが実証されている。但しT細胞受容体(TCR)の活性化に重要なT細胞決定因子は、264位にある生理学的にガラクトシル化されたヒドロキシリジン残基に依存している(Baecklund J. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2002; 99:9960-5)。
【0005】
関節リウマチにおいて最も一般的に使用される動物モデルは、マウスでのコラーゲン誘発関節炎(CIA)である。実験的な関節炎は、マウスのクラスII対立遺伝子Aqに関連するMHCクラスIIに依存し、かつガラクトシル化259~273CIIエピトープのT細胞認識に依存する(Holmdahl R. et al. Ageing Res Rev. 2002;1: 135-47)。コラーゲン誘発関節炎は、医薬品開発で抗関節炎に可能性のある新規化合物の治療効率を試験するための標準モデルとして用いられる。従って抗原特異的耐性を誘導するために種々の手順が開発されており、ワクチン接種による関節炎の予防および治療での候補抗原の1つはCIIであった。成体マウスで今までのところ観察されるいかなる副作用も無い最も効率的な手順は、結合ポケット内に主要な抗原CIIペプチドすなわちガラクトシル化CII259~273ペプチドを備えるMHCクラスII分子Aqの細胞外ドメイン、すなわちAq/galCII複合体からなる組換えタンパク質複合体の静脈内注射によって耐性を誘導することである(Dzhambazov B et al. J Immunol 2006; 176: 1525-1533)。CIIでの免疫化後にかつ関節炎の発症前に、Aq/galCII複合体を注射すると、関節炎の発症のほぼ完全な予防および慢性再発性関節炎を有するマウスの治療が導かれ、かつ炎症活性の下方制御がもたらされた。免疫寛容原性のAq/galCII効果は、その抗関節炎の効力を治療済みのマウスからナイーブな受容体にT細胞とともに移転できるので、非常に優れていた。
【0006】
264位にガラクトシル化が無いCIIペプチドを含むAqの複合体では、効果を発揮できないままであった。この顕著に選択的な調節効果の理由は、ガラクトシル化CIIは軟骨内でのみ発現する(Baecklund J. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2002; 99:9960-5)が、非グリコシル化CIIは胸腺内でも発現する(Chin R. K., et al., J Immunol. 2006;177: 290-7)という事実に関連している可能性がある。従って、非グリコシル化CIIに対するT細胞応答は中枢性寛容によって調節されるのに対し、ガラクトシル化抗原に対するT細胞応答は末梢性寛容機序によって調節される。従って、関節リウマチの病因での主要な推進力であるとして、特に可動関節の構造的成分に対する生理学的末梢自己寛容の障害が示唆されており、その再構築が免疫寛容原性治療手法の開発の理論的根拠である。この手法は、遺伝子型決定に先行してバイスタンダー抑制によって関節炎誘発性T細胞応答を下方制御する免疫調節性T細胞を誘導することにより、DRB1*0401対立遺伝子の担体として特定されたバイオマーカー選択ヒト関節リウマチ患者へのDR4/galCII複合体を非経口投与することからなる。従来からの治療手法とは対照的に、作用機序は、防御免疫に悪影響を残さずに、関節炎誘発性の適応免疫応答の選択的免疫調節からなっている。これは、DRB1*0401陽性患者などの特定のHLA対立遺伝子を有する患者に限定される個別化された手法、またはHLA制限治療手法である。さらに、コラーゲン誘発関節炎治療での前臨床データは、DR4/galCII複合体が確定した関節リウマチで治療効果を達成するだけでなく、関節リウマチを発症するリスクのある個体、すなわち疾患の発現前の個体で予防効果を達成できる可能性を有することを示唆している。従ってこの作用機序は、関節リウマチですでに確立されている治療法とは根本的に異なる。
【0007】
国際特許公開WO2007/058587A1号は、「自己抗原性ペプチドおよびMHC結合モチーフを有する担体を含む化合物」に関し、(a)ペプチドおよび(b)担体を含む化合物を開示し、前記ペプチドは、少なくともモチーフX-X-X-X-X-X-Xを有し、少なくとも1つのアミノ酸残基Xがグリコシル化されている。さらに、ペプチドはペプチド結合タンパク質に連結されており、前記担体は少なくともMHC結合モチーフを含み、その連結は共有結合であってもよい。但しペプチドは同一の宿主細胞によってMHC IIタンパク質とともに発現されないか、リンカーペプチドを介してMHC IIタンパク質に連結されている。MHC IIタンパク質は、結合溝内に置換ペプチドを有するSL2細胞内で最初に発現して、その後生体外でペプチドを負荷された。
【0008】
HEK細胞内でのMHC IIタンパク質の生成は過去に報告されている(Sareila et al., Antioxidants & Redox Signaling, 2017, 27(18):1473-1490)が、この場合も合成グリコシル化ペプチドはMHC IIタンパク質とともに発現しないが、生成後にMHC IIタンパク質に負荷されて、従ってリンカーペプチドでMHC IIタンパク質に連結されない。ガラクトシル化CIIペプチドの合成は、時間とコストの両方の浪費を要する。また組換えMHCクラスII分子への合成ペプチドの負荷は容易ではなく、特にペプチドを過剰に付加する必要があるので量産するのは困難である。従って、治療用途に適切な量の生成のために量産可能なより単純な生成方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域;(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域;および(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物に関し、ここで、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG、およびAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、MHC II/CIIペプチド複合体は、翻訳後修飾CIIペプチドを含み、好ましくは、CIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)またはO-グリコシル化Hylである。一実施態様では、第1のリジン残基はガラクトシルヒドロキシリジンである。
【0010】
特定の実施態様では、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G、AGFKGX3QGPX1G、およびAGFKX4EQGPX1Gのアミノ酸配列を含み、ここでX1は、Kを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはR、A、GまたはQ、より好ましくはRであり;X2は、Qを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくは、A、R、HまたはGであり;X3は、Eを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはA、D、QまたはGであり;かつX4は、Gを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、より好ましくはA、S、VまたはLである。好ましくはX2、X3またはX4はKではなく、より好ましくはX1、X2、X3またはX4はKではない。特定の実施態様では、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKGまたはAGFKGEQGPX1G、好ましくはAGFKGEQGPKGEPまたはAGFKGEQGPX1GEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEPまたはGIAGFKGEQGPX1GEPのアミノ酸配列を含む。
【0011】
好ましくは、MHCクラスIIはHLA-DRであり、少なくともα1ドメインはDRA*0101であり、少なくともβ1ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402、およびDRB1*1303から選択され、好ましくはDRB1*0401である。特定の実施態様では、CIIペプチドは、第1のリジン残基のみを含み、さらなるK(any further K)は変異していて、好ましくはR、A、GまたはQ、より好ましくはRに変異している。
【0012】
本発明はさらに、翻訳後修飾(例えばO-グリコシル化)CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を生成する方法に関し、この方法は、(a)哺乳動物細胞を(i)少なくともα1ドメインを含むMHC IIα鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチド;(ii)少なくともβ1ドメインを含むMHC IIβ鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチド;および(iii )リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)をコードするポリヌクレオチドであって、ここでCIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG、およびAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、ポリヌクレオチド、で遺伝子導入する工程、(b)MHC II/CIIペプチド複合体の生成に適する条件で哺乳動物細胞を培養する工程、および(c)翻訳後修飾CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含む細胞上清および場合によっては細胞を回収する工程を含み、好ましくはCIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)またはO-グリコシル化Hylである。場合によっては、この方法はさらに、MHC II/CIIペプチド複合体のCIIペプチドの翻訳後修飾、好ましくはグリコシル化特性を分析する工程を含む。一実施態様では、第1のリジン残基はガラクトシルヒドロキシリジンである。
【0013】
特定の実施態様では、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G、AGFKGX3QGPX1G、およびAGFKX4EQGPX1Gのアミノ酸配列を含み、ここでX1は、Kを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはR、A、GまたはQ、より好ましくはRであり;X2は、Qを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくは、A、R、HまたはGであり;X3は、Eを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはA、D、QまたはGであり;かつX4は、Gを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、より好ましくはA、S、VまたはLである。好ましくはX2、X3またはX4はKではなく、より好ましくはX1、X2、X3またはX4はKではない。特定の実施態様では、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKGまたはAGFKGEQGPX1G、好ましくはAGFKGEQGPKGEPまたはAGFKGEQGPX1GEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEPまたはGIAGFKGEQGPX1GEPのアミノ酸配列を含む。
【0014】
特定の実施態様では、CIIペプチドは第1のリジン残基のみを含み、さらなるKは変異していて、好ましくはR、A、GまたはQ、より好ましくはRに変異している。適切な哺乳動物細胞は、リジンをヒドロキシリジン(Hyl)にヒドロキシル化し、かつHylをガラクトシルヒドロキシリジン(Gal-Hyl)にガラクトシル化することを含むコラーゲン中のリジン残基を翻訳後修飾する、リジン水酸化酵素(例えば、リジン水酸化酵素1(LH1)および/またはリジン水酸化酵素2(LH2))およびコラーゲンガラクトース転移酵素(例えば、コラーゲンガラクトース転移酵素GLT25D1および/またはGLT25D2)などの酵素を含む。一実施態様では、哺乳動物細胞は、腎細胞、線維芽細胞、または骨芽細胞であり、好ましくは腎細胞であり、より好ましくはHEK 293細胞株である。別の実施態様では、哺乳動物細胞は、リジン水酸化酵素およびコラーゲンガラクトース転移酵素、好ましくはリジン水酸化酵素1(LH1)および/またはリジン水酸化酵素2(LH2)およびコラーゲンガラクトース転移酵素GLT25D1および/またはGLT25D2を組換え発現する遺伝子操作細胞である。好ましくは、哺乳動物細胞は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性を欠いている。
【0015】
さらに、本発明による方法によって得られた、翻訳後修飾CIIペプチドを含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を提供する。一実施態様では、CIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であるか、またはO-グリコシル化Hylである。別の側面では、本発明は、本発明による方法によって得られた、翻訳後修飾CIIペプチドを含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物に関する。好ましくは、CIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であるか、またはO-グリコシル化Hylである。
【0016】
さらに、慢性炎症性疾患の治療に使用する本発明による組成物または本発明による組換えMHC II/CIIペプチド複合体を提供し、ここで慢性炎症性関節疾患は、好ましくは、関節リウマチ、骨関節炎、乾癬性関節炎、非X線撮影性軸性脊椎関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎、再発性多軟骨炎、全身性エリテマトーデス、ライム病、メニエール病、自己免疫性内耳疾患(AIED)、またはスティル病からなる群から選択される。
【0017】
さらに別の側面では、本発明は、本発明による組成物の組換えMHC II/CIIペプチド複合体、または本発明による翻訳後修飾CIIペプチドを含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含むMHC II/CIIペプチド複合四量体に関する。好ましくは、この四量体は、ストレプトアビジンなどの多量体化分子を含む。
【0018】
さらに別の側面では、本発明は、MHC II/CIIペプチド複合四量体を調製する方法に関し、この方法は、(a)本発明による組成物、あるいは本発明による翻訳後修飾CIIペプチドを含み、かつ少なくとも1つのN末端にビオチン化を含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を提供する工程、および(b)この組成物を多量体化分子、好ましくはストレプトアビジンと接触させ、場合によってはストレプトアビジンに結合した4つのMHC II/CIIペプチド複合体を含む四量体を単離する工程を含む。
【0019】
さらに別の側面では、本発明は、所定の抗原に特異的なT細胞を検出および/または定量する生体外での方法を提供し、この方法は、本発明によるMHC II/CIIペプチド複合四量体を提供する工程;MHC II/CIIペプチド複合四量体を、対象の試料、好ましくは前記対象の末梢血細胞を含む試料と接触させる工程;およびT細胞に結合したMHC II/CIIペプチド複合四量体の標識を検出する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、MHC II/CIIペプチド複合体の概略図を示す。共有結合したCII259~273ペプチドを備えるMHCII分子、BirA:ビオチン化部位、HIS:ポリ(6x)ヒスチジンタグ、JUN/FOS:ロイシンジッパーの相補的ドメイン(ヘテロ二量体化ドメイン)、TEV:タバコエッチウイルス(TEV)システインタンパク質分解酵素切断部位、リンカー:Gly-Serリンカーペプチド、トロンビン切断部位、strepタグ、およびCIIペプチド259~273を示す。
【0021】
図2図2は、HEK 293細胞内で産生されたAq/rCII(259~273)複合体(組換えかつその場グリコシル化Aq/rCII)に応答するAq制限T細胞のハイブリドーマクローン(上段の図)、昆虫S2細胞(中段の図)、および抗CD3抗体刺激(下段の図)のIL-2(FU)分泌を示す。用いたマウスT細胞のハイブリドーマクローンは、以下の特異性を有する:HCQ3(CII、Gal-HK264)、HCQ.4(CII、未修飾およびHK264)、HCQ.11(Glc-Gal-HK264)、HM1R.2(CII、Gal-HK264およびGal-HK264+270)、HP3(Aq制限、ペプシンペプチド)。ここで、Kはリジンの略称であり、HKはヒドロキシリジンの略称である。
【0022】
図3図3は、マウスコラーゲン誘発関節炎モデルのHEK 293細胞内で産生されたその場グリコシル化Aq/rCIIを用いた治療的ワクチン接種の結果を示す。図3A)では、用量反応曲線を示し、ナイーブ型マウスをCIIで免疫化して関節炎を誘発させて、35日目に追加免疫を受けさせた。マウスを種々の用量、すなわち10、50、または100μg(n=9)のMHC II/CIIペプチド複合体で処理した。関節炎のマウスの数は、対照と比較して100μgの処理群では有意に少ない(p<0.05、カイ二乗検定)。図3B)に示すように、MHC II/CIIペプチド複合体を投与するために、浸透圧ポンプを35日目の追加免疫の7日後に移植して、ワクチンの継続的な投与を確実にした(例えば、100μg:15μg/24時間で7日間投与)。
【0023】
図4図4は、グリコシル化制限ヒトT細胞のハイブリドーマの活性化を示す。ヒトT細胞ハイブリドーマは、抗原特異的な方法でヒトMHC II/CIIペプチド複合体(DR4/hCII)で刺激すると活性化される。ヒトT細胞ハイブリドーマmDR1.1および3H8の認識は、CIIペプチドのグリコシル化特性に依存している。図4A)に示すように、T細胞のハイブリドーマクローンmDR1.1は、HLA-DR4が提示するガラクトシル化K264によって活性化するが、図4B)に示すように、T細胞のハイブリドーマクローン3H8は、HLA-DR4が提示する非修飾CIIエピトープによって活性化する。2つの異なるT細胞のハイブリドーマクローンの反応性を、合成ガラクトシル化CIIペプチドまたは非修飾CIIペプチド(それぞれDR4/galCIIおよびDR4/nCII)および天然にグリコシル化されたMHC II/CIIペプチド複合体(DR4/hCII)を負荷したヒトMHC II/CIIペプチド複合体を用いて比較した。IL-2の分泌をELISAによって測定した。
【0024】
図5図5は、関節リウマチに罹患するHLA-DRB1*0401患者の末梢血内の抗原特異的T細胞の検出結果を示す。図5A)では、ビオチン化DR4/galCIIペプチド複合体を、蛍光色素(PE、APC)結合ストレプトアビジンとともに培養した。これらの四量体を用いて、K264でガラクトシル化されたCII259~273ペプチドに特異的なT細胞を検出した。関節リウマチ患者および健康なドナーの末梢血単球細胞(PBMC)内の抗原特異的(CII259~273、K264gal)T細胞を、フローサイトメトリーを用いて検出した。図5B)には、検出のためにDR4/galCIIペプチド四量体、DR4/nCIIペプチド四量体、またはDR4/hCIIペプチド四量体を用いて、抗原特異的T細胞の頻度の比較を示す。CD4+T細胞集団内の四量体陽性のT細胞の発生頻度を、フローサイトメトリーにより測定した。
【0025】
図6図6は、ヒトT細胞の活性化を示す。HLA-DRB1*0401関節リウマチ患者の末梢血内の抗原特異的T細胞の検出を示す。T細胞を、galCIIで活性化し、狭い範囲では未修飾のCIIペプチド刺激によって活性化する。CD154の上方制御は、フローサイトメトリーによって測定した(有意性:p値=0.0332、マン・ホイットニー検定)。
【0026】
図7図7は、生体外で刺激されたHLA-DRB1*0401陽性の関節リウマチ患者(n=20)からのPBMCによるサイトカイン放出のLegendplexTM分析結果を示す。標準的なTR1細胞分化条件(TR1)および陰性対照(CO)を用いる刺激と比較して、DR4/nCIIペプチド複合体またはDR4/galCIIペプチド複合体を用いる生体外刺激による、IL-2、IL-17f、IFN-γ、IL-10、IL-17a、およびTNF-α放出の特異的誘導を示している。
【0027】
図8図8は、Hisタグの有無での複合体の比較を示す。図8(A)には、DR4特異的抗体および過酸化酵素結合二次抗体を用いるDR4/nCII複合体対Tev切断DR4/nCII複合体の等モル溶液によるマイクロタイターウェルの被覆効率を比較するELISAの結果を示す。マイクロタイタープレートへの被覆に用いられるDR4/nCII溶液の指示タンパク質濃度(μg/mL)に対する405 nmでの吸収率を示している。図8(B)には、指示濃度でマイクロタイターウェルに予備被覆されたDR4/nCII複合体対Tev切断DR4/nCII複合体による、3H8ハイブリドーマ細胞の活性化を示す。マイクロタイタープレートへの被覆に用いられるDR4/nCII溶液の指示タンパク質濃度(μg/mL)での活性化後の上清中のIL-2濃度を示している。
【0028】
図9図9は、DR4/hCIIペプチド複合体内のHisタグの影響、およびT細胞活性化での図9の(A)コンドロイチン硫酸(CS)、(B)ヒアルロン酸、(C)ヘパラン硫酸(HS)のそれら複合体との相互作用を示す。DR4/hCII対DR4/hCIIΔHisによる、および(A)ではコンドロイチン硫酸により遮蔽または予備被覆されたマイクロタイターウェル内の溶質相での指示濃度でのDR4/hCII_DEDによる3H8ハイブリドーマ細胞のIL-2応答の誘導を示している。活性化後の上清中のIL-2濃度を示す。
【0029】
図10図10は、指示濃度でマイクロタイターウェルに予備被覆されたDR4/hCII対DR4/hCIIΔHis対DR4/hCII_DEDによる3H8ハイブリドーマ細胞の活性化を示す。マイクロタイタープレートへの被覆に用いられるDR4/nCII溶液の指示タンパク質濃度(μg/mL)での活性化後の上清中のIL-2濃度が示している。
【0030】
図11図11は、DR4/hCIIペプチド複合体内のHisタグおよび3H8ハイブリドーマ内のIL-10応答を刺激する溶質相内のコンドロイチン硫酸(CS)とのそれら複合体との相互作用の影響、すなわちプラスチック表面が遮蔽されたマイクロタイターウェル内のコンドロイチン硫酸(2.5 mg/mL)を含むまたは含まない(w/o)溶質相で指示された濃度でのDR4/nCIIによる3H8ハイブリドーマの活性化の影響を示す。マイクロタイタープレートへの被覆に用いるDR4/nCII溶液の指示タンパク質濃度(μg/mL)での活性化後の上清中のIL-10濃度を示している。
【0031】
図12図12は、生体内でのコラーゲンIIに対するDTH反応によって誘発される耳の腫れでのHisタグを含むまたは含まないAq/galCIIペプチド複合体の治療的効果の比較を示す。その結合溝(CLIPmt)内に連結されたマウス変異CLIPペプチドを含むAq/mCLIPmt対照構築物に比較して、ポリヒスチジンタグ有り(His)および無し(w/o His)のAq/galCII構築物の効果を示している(*は<0.05のp値を示し、**は<0.01のp値を示す)。
【0032】
図13図13は、組換えDR4/hCII複合体内のCIIペプチドの翻訳後修飾の不均質性を示す。質量分析によって分析された、指示K位置のそれぞれの位置での検出可能な修飾の百分率を示している。OHはヒドロキシリジン、Hexはガラクトシルヒドロキシリジン、DiHexはグルコシルガラクトシルヒドロキシリジン、Ubはユビキチン、およびPOHはヒドロキシプロリンである。
【0033】
図14図14は、Plod3遺伝子(LH3)ノックダウンExpi293細胞の生成を示す。図14(A)には、多機能コラーゲン修飾酵素LH3によって媒介されるリジンからヒドロキシリジン、Galヒドロキシリジン、およびGlc-Galヒドロキシリジンへの段階的な転移の概略図を示している。図14(B)には、ウエスタンブロットによるPLOD3の検出を示す。Plod3特異的sh-RNAをコードする1×106個のレンチウイルスで遺伝子導入された種々のExpi293 HEK細胞クローンからの溶解物をSDS-PAGEに負荷し、PLOD3を抗PLOD3抗体を用いてウエスタンブロットで検出した。PLOD3の理論分子量は84 kDaである。クローン番号4、番号18、および番号20を、さらなる伸長に用いた。図14(C)には、質量分析によるグリカン分析を示す。shRNAでレンチウイルスを遺伝子導入してplod3遺伝子をノックダウンした後に、質量分析によるグリカン分析を実行して、ガラクトシルヒドロキシリシル残基のグルコシル化の減少を調べた。上部の図に示されるコラーゲン型IIエピトープ(配列番号1)内の両方のリジン(K264およびK270)を分析した。グルコガラクトシルヒドロキシリシル残基(DiHex)の明確な減少が示された。Unmodは未修飾、OHはヒドロキシル化、DiOHはジヒドロキシル化、Hexはガラクトシル化ヒドロキシリシル、およびDiHexはグルコガラクトシルヒドロキシリシルである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
一般的な実施態様である「含む(comprising of)」または「含まれた(comprised of)」は、より特定的な実施態様「からなる(consisting of)」を包含する。さらに単数形および複数形は、限定的には使用されない。本明細書で使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、単数形のみを指定するように明示的に述べられない限り、単数形および複数形の両方を示す。
【0035】
用語「タンパク質」は、「アミノ酸配列」または「ポリペプチド」と互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸の高分子を指す。これらの用語にはまた、限定はされないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、糖化、またはタンパク質処理を含む反応によって翻訳後修飾されるタンパク質が含まれる。修飾および変更、例えば他のタンパク質への融合、アミノ酸配列の置換、欠失、または挿入は、その分子がその生物学的機能的活性を維持したままに、ポリペプチドの構造内で実施できる。例えば、特定のアミノ酸配列置換は、ポリペプチドまたはその基礎となる核酸コード配列内で実施でき、同一の特性を備えたタンパク質を得ることができる。
【0036】
用語「ポリペプチド」は、典型的には、20個を超えるアミノ酸の配列を指し、用語「ペプチド」は、長さが最大20個のアミノ酸の配列を意味する。但しこれらの用語は互換的に使用されてもよい。タンパク質は、二量体などの多量体を形成してもよく、二量体は、ヘテロ二量体またはホモ二量体であってもよい。本発明によるMHC II/CIIペプチド複合体は、MHCクラスIIα鎖の細胞外領域およびMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域を含み、これらは典型的には、1つの鎖内のN末端に融合するコラーゲンIIペプチドを収容するための結合溝を形成するヘテロ二量体を形成する。但し当業者なら、ヘテロ二量体を形成する2つのタンパク質を、場合によっては可撓性リンカーすなわち一本鎖ヘテロ二量体を介して、ドメインが互いに連結された単一のポリペプチド鎖を形成する融合タンパク質として生成できることが分かっている。
【0037】
「融合タンパク質」は、2つ以上の元々は別々の天然タンパク質または修飾タンパク質の完全な配列または配列の任意の部分を含むタンパク質として規定される。融合タンパク質は、2つ以上の元々は別々の天然タンパク質または異種タンパク質またはその一部を本来コードする2つ以上の遺伝子またはcDNAまたはその一部を融合して、組換えDNA技術を用いる遺伝子操作手法によって構築することができる。これにより、元々のタンパク質のそれぞれに由来する機能特性を備えた融合タンパク質がもたらされる。従って、ペプチドまたはタンパク質を、ペプチド結合、好ましくはリンカーペプチドによって別のタンパク質に連結する。
【0038】
用語「ゲノムDNA」または「ゲノム」は互換的に使用され、宿主生物の遺伝性の遺伝情報を指す。ゲノムDNAは、核のDNA(染色体DNAとも呼ばれる)だけでなく、他の細胞小器官(ミトコンドリアなど)のDNAも含む。
【0039】
本明細書で使用される用語「遺伝子」は、機能的産物としての発現によって、または遺伝子発現の調節によって生物の形質に影響を及ぼす遺伝性ゲノム配列のDNA遺伝子座を指す。遺伝子およびポリヌクレオチドは、ゲノム配列と同様にイントロンおよびエキソンを含んでもよく、または開始コドン(メチオニンコドン)および翻訳停止コドンを含むオープンリーディングフレーム(ORF)などのcDNA内に含まれるようなコード配列のみを含んでもよい。遺伝子およびポリヌクレオチドはまた、転写開始、翻訳、および転写終結などのそれらの発現を調節する領域を含んでもよい。従って、プロモーターなどの調節要素もまた含まれる。
【0040】
本明細書で使用される用語「核酸」、「ヌクレオチド」、および「ポリヌクレオチド」は、互換的に使用され、5’末端から3’末端までに読み取られるデオキシリボヌクレオチド塩基またはリボヌクレオチド塩基の一本鎖高分子または二本鎖高分子を指し、かつ二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖DNA(ssDNA)、一本鎖RNA(ssRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ゲノムDNA、cDNA、cRNA、組換えDNA、または組換えRNA、およびそれらの誘導体、例えば修飾された骨格を含む誘導体を含む。好ましくは、ポリヌクレオチド、特に哺乳動物ゲノムに安定して組み込まれるポリヌクレオチドは、DNAまたはcDNAである。本発明によるポリヌクレオチドは、異なる方法で(例えば化学合成、遺伝子クローニングなどによって)調製でき、様々な形態(例えば、鎖状または分岐状の、一本鎖または二本鎖の、またはそれらの混成のプライマー、プローブなど)を示してもよい。用語「ヌクレオチド配列」または「核酸配列」は、個々に一本鎖または二本鎖のいずれかとして核酸のセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を指す。
【0041】
本明細書で使用される用語「組換えポリヌクレオチド」は、受容体とは異なる細胞、生物、または異なる種、例えば、CHO細胞またはHEK 293細胞に由来し、かつ組換え技術を用いて受容体に導入されるポリヌクレオチドを指す。本発明の環境では、当業者なら、その組換えポリヌクレオチドがDNAまたはcDNAを指すことが分かる。組換えポリヌクレオチドはまた、導入遺伝子または異種ポリヌクレオチドと呼んでもよい。従ってそれは、組換えタンパク質をコードする遺伝子またはオープンリーディングフレーム(ORF)であってもよい。HEK 293細胞またはCHO細胞などの哺乳動物細胞の環境では、「組換えポリヌクレオチド」は、異なる細胞に由来するか、または人工的に合成されたポリヌクレオチドを指す。用語「組換え体」は、分子クローニングなどの遺伝子組換えの実験的手法によって形成されたポリペプチドまたはポリ核酸分子などの分子を指す。このような方法により、複数の供給源からの遺伝物質を集合させたり、または非天然起源の配列を形成する。核酸の部分に関連して使用される「組換え体」はまた、本質的に互いに同一の関係が見られない2つ以上の配列を含むポリヌクレオチド、または前記ポリヌクレオチドがコードされるポリペプチドを含む。従って組換え体は、同じ細胞株に由来するが、それが通常は見られない部位でゲノム内に挿入されている遺伝子または導入遺伝子またはその一部、あるいはそれが通常見られない生物の細胞内に導入されている遺伝子などのポリヌクレオチド配列を指してもよい。
【0042】
本明細書で使用される「組換えポリヌクレオチド」、「組換え遺伝子」、または「組換え配列」は、直接に、あるいは好ましくは「発現ベクター」、好ましくは哺乳動物発現ベクターを用いて、標的細胞または宿主細胞内に導入されてもよい。ベクターを構築するのに用いる方法は、当業者には周知である。ベクターには、限定はされないが、プラスミドベクター、コスミド、人工/微小染色体(例えばACE)、またはレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、および単純ヘルペスウイルスなどのウイルスベクターが含まれてもよい。真核生物発現ベクターは、典型的には、複製起点および細菌の選択のための抗生物質耐性遺伝子などの細菌中でのベクターの増殖を促進する原核生物配列をまた含んでもよい。ポリヌクレオチドを作動可能に連結できるクローニング部位を含む様々な真核生物発現ベクターは、当技術分野では周知である。通常は、発現ベクターはまた、選択性マーカーをコードする発現カセットを含み、これにより前記発現マーカーを保有する宿主細胞の選択が可能になる。
【0043】
用語「サイトカイン」は、細胞によって放出されかつ細胞間媒介物質として作用する、例えば分泌細胞を包囲する細胞の挙動に影響を及ぼす低分子タンパク質を指す。サイトカインは、T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージなどの免疫細胞またはその他の細胞により分泌されてもよい。サイトカインは、自己分泌シグナル伝達、パラ分泌シグナル伝達、内分泌シグナル伝達などの細胞間シグナル伝達事象に関与する可能性がある。それらサイトカインは、限定はされないが、免疫、炎症、および造血を含む一連の生体プロセスを媒介する可能性がある。サイトカインは、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、または腫瘍壊死因子であってもよい。
【0044】
本明細書で使用される用語「発現」は、宿主細胞内の核酸配列の転写および/または翻訳を指す。宿主細胞内での目的の遺伝子産物の発現水準は、細胞内に存在する対応するRNAの量、または選択配列によってコードされるポリペプチドの量のいずれかに基づいて決定されてもよい。例えば選択配列から転写されるRNAは、ノーザンブロットハイブリダイズ、リボ核酸分解酵素RNA保護、細胞RNAへのその場ハイブリダイズ、またはqPCRなどのPCRによって定量できる。選択配列によってコードされるタンパク質は、様々な方法、例えばELISA、ウエスタンブロット、放射免疫測定、免疫沈降、タンパク質の生物学的活性測定、タンパク質の免疫染色とそれに続くFACS分析、または均一系時間分解蛍光(HTRF)測定によって定量できる。miRNAやshRNAなどの非コードRNAの発現水準は、qPCRなどのPCRによって定量してもよい。
【0045】
用語「遺伝子産物」は、遺伝子またはDNAポリヌクレオチドによってコードされるRNAポリヌクレオチドおよびポリペプチドの両方を指す。
【0046】
本明細書で使用される用語「タンパク質構成アミノ酸」は、翻訳中に生合成的にタンパク質中に組み込まれる全てのアミノ酸を指す。用語「タンパク質構成」は、タンパク質の生成を意味する。真核生物には、21個の遺伝的にコードするアミノ酸すなわちタンパク質構成アミノ酸があり、20個の標準的な遺伝子コードとセレノシステインがある。標準的な遺伝子コードの20個のアミノ酸は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンである。
【0047】
本明細書で使用される用語「翻訳後修飾(post-translational modification)」または「翻訳後に修飾(post-translationally modified)」は、細胞内で産生される際に起こり得る、CIIペプチド中のリジン残基の天然起源の修飾を指す。リジン残基の翻訳後修飾は、ヒドロキシリジン(Hyl)をもたらす可能性があり、またはガラクトシルヒドロキシリジンまたはグルコシルガラクトシルヒドロキシリジン、好ましくはガラクトシルヒドロキシリジンなどのO-グリコシル化Hylである。
【0048】
本明細書で使用される用語「ドメイン」は、タンパク質の残りの部分とは独立した三次構造を有する折畳みタンパク質構造を指す。一般にドメインはタンパク質の個別の機能特性に関与し、多くの場合に、タンパク質の残りの部分および/またはドメインの機能を喪失することなく、付加、排除、または他のタンパク質に移送できる。例えば、MHC IIα鎖のα1ドメインおよびMHC IIβ鎖のβ1ドメインはそれぞれ、折畳みポリペプチドドメインであり、これらは共にMHC II分子のペプチド結合溝を形成する。
哺乳動物細胞内に組換えMHC II/CIIペプチド複合体を生成する方法
【0049】
一側面では、本発明は、翻訳後修飾CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を生成する方法を提供し、この方法は、哺乳動物細胞を(i)少なくともα1ドメインを含むMHC IIα鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチド;(ii)少なくともβ1ドメインを含むMHC IIβ鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチド;および(iii)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)をコードするポリヌクレオチドであって、ここでCIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG、およびAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、ポリヌクレオチド、で遺伝子導入する工程、(b)MHC II/CIIペプチド複合体の生成に適する条件下で哺乳動物細胞を培養する工程、および(c)翻訳後修飾CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含む細胞上清および場合によっては細胞を回収する工程を含む。好ましいCIIペプチドは、リジン残基、好ましくはCIIペプチドの第1のリジン残基に翻訳後修飾を含む。一実施態様では、CIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であるか、またはO-グリコシル化Hylである。第1のリジン残基は、好ましくはヒドロキシリジンまたはガラクトシルヒドロキシリジンであり、さらにより好ましくはガラクトシルヒドロキシリジンである。本明細書で使用される用語「第1のリジン残基」は、CIIペプチド261~273(AGFK(264)GEQGPK(270)GEP;配列番号10)または259~273(GIAGFK(264)GEQGPK(270)GEP;配列番号13)のK264(配列番号1~12のアミノ酸4位および配列番号13~15のアミノ酸6位に対応する)を指す。この方法はさらに、MHC II/CIIペプチド複合体のCIIペプチドのグリコシル化特性などの翻訳後修飾を分析する工程を含んでもよい。グリコシル化特性を分析する方法は、当技術分野では周知であり、かつ質量分析などの方法を含む。本発明による方法は生体外での方法である。さらにこの方法は、初代細胞ではない哺乳動物細胞株の使用を含む。
【0050】
特定の実施態様では、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G、AGFKGX3QGPX1G、およびAGFKX4EQGPX1Gのアミノ酸を含み、ここでX1は、Kを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはR、A、GまたはQ、より好ましくはRであり;X2は、Qを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはA、R、HまたはGであり;X3は、Eを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはA、D、QまたはGであり;かつX4は、Gを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、より好ましくはA、S、VまたはLである。好ましくはX2、X3またはX4はKではなく、より好ましくはX1、X2、X3またはX4はKではない。特定の実施態様では、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKGまたはAGFKGEQGPX1G、好ましくはAGFKGEQGPKGEPまたはAGFKGEQGPX1GEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEPまたはGIAGFKGEQGPX1GEPのアミノ酸配列を含む。
【0051】
本明細書で使用される用語「MHC II/CIIペプチド複合体」は、ペプチド結合溝を形成するMHC IIタンパク質またはその一部の細胞外ドメインおよびコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含む可溶性複合体を指し、このペプチドは、α鎖またはβ鎖のいずれかのN末端に融合されている(すなわちリンカーペプチドを介して結合されている)。好ましくは、CIIペプチドは、MHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されている。MHC IIタンパク質は、α鎖の細胞外ドメインを形成するα1ドメインとα2ドメイン、およびβ鎖の細胞外ドメインを形成するβ1ドメインとβ2ドメインを含む。用語「細胞外ドメイン」および「細胞外領域」は、本明細書では同義語として使用される。α1ドメインおよびβ1ドメインは、ペプチド結合溝、すなわちCIIペプチドなどのペプチドと相互作用して結合する部位を形成する。従って、MHC II/CIIペプチド複合体は、少なくともMHC IIタンパク質のα1ドメインおよびβ1ドメインを含む。好ましくは、MHC II/CIIペプチド複合体は、MHC IIタンパク質のα1ドメイン、α2ドメイン、β1ドメイン、およびβ2ドメインを含む。MHCクラスII分子(MHC IIタンパク質)は、樹状細胞、単球やマクロファージなどの単核食細胞、およびB細胞などの本格的な抗原提示細胞(APC)にのみ通常見られる主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の部類である。MHCクラスII分子によって提示される抗原は、細胞外タンパク質に由来し、MHCクラスI分子は、細胞質ゾルペプチドまたは細胞内ペプチドを提示する。細胞外タンパク質は、形質膜陥入され、消化され、MHC IIタンパク質に負荷され、それによりMHC II/ペプチド複合体が形成される。次に負荷された複合体は細胞表面に移され、そこでエフェクター細胞に提示される。ヒトでは、MHCタンパク質はヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる。従って本明細書で使用される場合には、MHC IIタンパク質は、ヒトHLAタンパク質を包含する。MHCクラスIIタンパク質に対応するHLAは、HLA-DP、HLA-DM、HLA-DOA、HLA-COB、HLA-DQ、およびHLA-DRである。関節リウマチの場合には、MHCクラスII分子HLA-DRのペプチド結合ポケットのβ鎖上に、アミノ酸コンセンサスモチーフ(Q/R R/K R A A)をコードするHLA-DRB1遺伝子座の特定の対立遺伝子との遺伝的な関連性が存在する(アミノ酸位置70~74、いわゆる「共通エピトープ」)。関節リウマチ付随HLA DRB1対立遺伝子の例は、QKRAAコード対立遺伝子:HLA_DRB1*0401および0409、QRRAAコード対立遺伝子:HLA_DRB1*0404、0405、0408、0101、0102および1402、RRRAAコード対立遺伝子:HLA_DRB1*1001、およびDKRAAコード対立遺伝子:HLA_DRB1*1303である。一実施態様では、MHCクラスIIα鎖の細胞外領域およびMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域は、従ってHLA-DRに由来し、好ましくは少なくともα1ドメインはDRA*0101に由来し、少なくともβ1ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402、およびDRB1*1303、好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、およびDRB1*1402、より好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0101、およびDRB1*0405からなる群から選択されるHLA-DR対立遺伝子、さらにより好ましくはDRB1*0401のHLA-DR対立遺伝子に由来する。より好ましくは、α1ドメインおよびα2ドメインは、DRA*0101に由来し(α1およびα2ドメイン:配列番号16のアミノ酸19~200)、β1ドメインおよびβ2ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402、およびDRB1*1303、好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、およびDRB1*1402、より好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0101、およびDRB1*0405からなる群から選択されるHLA-DR対立遺伝子、さらにより好ましくはDRB1*0401のHLA-DR対立遺伝子に由来する(β1およびβ2ドメイン:配列番号17のアミノ酸60~250)。マウスでは、コラーゲン誘発関節炎(CIA)は、マウスMHC II Aq対立遺伝子(Aq)と関連している。
【0052】
実施例で用いられる特定のMHC II/CIIペプチド複合体は、Aq/rCII(天然にグリコシル化されたラットCII)、Aq/nCII(裸のまたは非修飾のラットCII)、Aq/galCII(ガラクトシル化された(K264でのGal-Hyl))のように短縮され、ここで用いられるラットCIIペプチドは、アミノ酸配列GIAGFKGEQGPKGET(配列番号29)およびDR4/hCII(天然にグリコシル化されたヒトCII)、DR4/nCII(裸のまたは非修飾のヒトCII)、DR4/galCII(ガラクトシル化された(K264でのGal-Hyl)ヒトCII)を有し、用いられるCIIペプチドは、ヒトアミノ酸配列GIAGFKGEQGPKGEP(配列番号13)を有する。
【0053】
本発明の方法に従って生成されたMHC II/CIIペプチド複合体は、翻訳後修飾ペプチドを含む。CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG、およびAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。特定の実施態様では、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G、AGFKGX3QGPX1G、およびAGFKX4EQGPX1Gを含み、ここでX1は、Kを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはR、A、GまたはQ、より好ましくはRであり;X2は、Qを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはA、R、HまたはGであり;X3は、Eを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはA、D、QまたはGであり;かつX4は、Gを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、より好ましくはA、S、VまたはLである。好ましくはX2、X3またはX4はKではなく、より好ましくはX1、X2、X3またはX4はKではない。特定の実施態様では、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKGまたはAGFKGEQGPX1G、好ましくはAGFKGEQGPKGEPまたはAGFKGEQGPX1GEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEPまたはGIAGFKGEQGPX1GEPのアミノ酸配列を含む。好ましくは、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG(配列番号1)またはAGFKGEQGPXG(配列番号2)、好ましくはAGFKGEQGPKGEP(配列番号10)またはAGFKGEQGPXGEP(配列番号11)、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEP(配列番号13)またはGIAGFKGEQGPXGEP(配列番号14)のアミノ酸配列を含む。CIIペプチドGIAGFKGEQGPKGEPは、三重螺旋型II型コラーゲン(CII)領域のアミノ酸259~273に対応する。結合ポケットへの結合に適するCIIペプチドは11~20アミノ酸長であり、好ましくはこのCIIペプチドは11~15アミノ酸長であり、より好ましくはこのCIIペプチドは13~15アミノ酸長である。一実施態様では、CIIペプチドは、アミノ酸配列AGFKGEQGPKG(配列番号1)、より好ましくはAGFKGEQGPKGEP(配列番号10)、さらにより好ましくはGIAGFKGEQGPKGEP(配列番号13)を含む。一実施態様では、第2のK(K270)は、好ましくはR、A、GまたはQ、より好ましくはRに変異してもよい。従って複数の実施態様では、CIIペプチドは、アミノ酸配列AGFKGEQGPXG(配列番号: 2)、AGFKGEQGPXGEP(配列番号11)、およびGIAGFKGEQGPXGEP(配列番号14)を含み、ここで、XはK以外の任意のタンパク質構成アミノ酸であってもよく、好ましくはXはR、A、GまたはQであり、より好ましくはXはRである。従って、一実施態様では、CIIペプチドは、アミノ酸配列AGFKGEQGPRG(配列番号9)、AGFKGEQGPRGEP(配列番号12)、およびGIAGFKGEQGPRGEP(配列番号15)を含む。本発明に含まれるCIIペプチドを、表1に開示する。
【表1】
【0054】
本発明に従って生成されたMHC II/CIIペプチド複合体は、翻訳後修飾CIIペプチドを有するMHC II/CIIペプチド複合体を含む。好ましいCIIペプチドは、リジン残基に、好ましくはCIIペプチドの第1のリジン残基に翻訳後修飾を含む。一実施態様では、CIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であり、および/またはO-グリコシル化ヒドロキシリジンである。GIAGFKGEQGPKGEP内の第1のリジン(K)残基は、(配列番号1~12中のアミノ酸4位および配列番号13~15中のアミノ酸6位に対応する)三重螺旋型CII領域のアミノ酸配列の264位に位置する。従って、本明細書で使用される「第1のリジン残基」を、K264または264位のリジンと呼んでもよい。CIIペプチド:GIAGFKGEQGPKGEP内の第2のリジン残基は、(配列番号1、3~5、または10中のアミノ酸10位および配列番号13中のアミノ酸12位に対応する)三重螺旋型CII領域のアミノ酸配列の270位に位置する。従って、本明細書で使用される「第2のリジン残基」または「さらなるリジン残基」を、K270または270位のリジンと呼んでもよい。好ましい実施態様では、本発明に従って生成されるMHC II/CIIペプチド複合体は、少なくとも第1のリジン残基がヒドロキシリジンおよび/またはガラクトシルヒドロキシリジンであるMHC II/CIIペプチド複合体を含む。
【0055】
本発明によるCIIペプチド配列中のリジン残基、特に第1のリジン残基、すなわち264位のリジン残基のコラーゲン特異的翻訳後ガラクトシル化は、TCRを介するT細胞認識および結果として生じる薬理効果に関与する。270位のリジン残基は、DR4分子の結合溝の端部に位置し、そのガラクトシルヒドロキシリジン修飾は、TCR認識にはそれ程重要ではないと考えられている。従って、(K270に対応する)第2のまたはさらなるリジン残基は、未修飾、ヒドロキシリジン、またはガラクトシルヒドロキシリジンであってもよい。gal264エピトープを認識するT細胞ハイブリドーマのTCRは、K270R変異により影響を受けないことが示されている。好ましい実施態様では、CIIペプチドは第1のリジン残基のみを含み、さらなるKは変異し、好ましくはR、A、GまたはQに変異し、より好ましくはRに変異している。従って、CIIペプチドAGFKGEQGPRG(配列番号9)、好ましくはAGFKGEQGPRGEP(配列番号12)、より好ましくはGIAGFKGEQGPRGEP(配列番号15)もまた、本発明には包含される。第2のリジンの変異は、生成物の不均質性を低減する利点を持つ。さらに、ガラクトシルヒドロキシリジンはグルコシル化されてグルコシルガラクトシルヒドロキシリジン(Glc-Gal-Hyl)を生成する可能性があり、これは、特にK270位で二糖(Glc-Gal)の嵩高性のためにTCR認識に悪影響を及ぼす可能性がある。従ってK270変異、特にK270Rはさらに、この位置に二糖修飾を付加できないように、結合への干渉を回避する。
【0056】
コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されている。用語「リンカーペプチド」は、複数のアミノ酸残基からなるポリペプチドを指す。リンカーペプチドは、ペプチドがMHC II複合体によって形成されたペプチド結合ポケットに結合可能となるように十分に長くかつ可撓性である限り、いずれのペプチドであってもよい。適切なリンカーの例は、Gly-Serリンカーである。本発明によれば、CIIペプチド、ペプチドリンカー、ならびにMHC IIα鎖およびMHC IIβ鎖の細胞外領域のうちの少なくとも1つは、1つのポリペプチドとして発現され、1つのポリヌクレオチドによってコードされる。本明細書で使用される用語「融合」は「連結」を意味し、ここで連結は、リンカーペプチドを用いるペプチド結合を介して実施され、従って融合タンパク質が生成される。この特徴により、本発明による方法によって生成されたMHC II/CIIペプチド複合体を、従来技術による複合体とは構造的に区別する。従来からの複合体では、MHC IIタンパク質を、トロンビン切断部位などのペプチダーゼ切断部位を含むリンカーペプチドを介して1つのMHC II鎖に連結されているCLIPペプチドを代理ペプチドとして用いて生成する。従って生成後に、ペプチドは酵素的に切断され、合成的に調製されたガラクトシル化ペプチド(すなわち、K264位にgal-Hylを有するCIIペプチド)が生体外で複合体に負荷される。この合成ガラクトシル化ペプチドは、MHC IIタンパク質に共有結合している可能性があるが、この結合はリンカーペプチドを介するものではない。
【0057】
シグナルペプチドを含まない、実施例に用いられ図1に示されるMHC II/CIIペプチド複合体(配列番号16および配列番号17)は、依然としてリンカーとCIIペプチドとの間に酵素切断部位(トロンビン切断部位、図1参照)を含んでいるが、これは必須ではなく、好ましくは治療用製品から除去される。リンカーペプチドは、製品の安定性を改善して、ペプチドの損失を防止できる。従って、好ましくは本発明によるMHC II/CIIペプチド複合体は、CIIペプチドとMHC IIβ鎖(またはMHC IIα鎖)の細胞外領域との間のアミノ酸配列内に酵素的切断部位を含まない。さらに治療目的のために、MHC II/CIIペプチド複合体(またはポリヌクレオチドによってコードされるMHC II/CIIペプチド複合体)は、(1)精製のためのストレプトアビジンタグ(SAWSHPQFEK、配列番号30)、(2)MHC II α/MHC II β鎖とヘテロ二量体化ドメインとの間の切断部位(例えばTEV切断部位)、および/または(3)図1に示され実施例で使用される例示的な複合体中に存在する大腸菌ビオチン連結酵素(BirA)の認識部位(例えばAviTag)を含まない。これらの要素は、複合体の生体外機能および生体内機能に影響を及ぼさないことが示されていた(データは示さず)。好ましくは、MHC II/CII複合体は、HLA-DR α鎖および/またはHLA-DR β鎖を含むポリペプチドのC末端にHisタグ(ポリヒスチジンタグ)または機能的に同等のタグを含む。本発明による例示的な最小HLA-DR/CIIペプチド複合体は、配列番号18および配列番号19によるアミノ酸配列によってコードされてもよい。当業者なら、ペプチド配列を特許請求の範囲に包含されるように変更してもよいことは分かっている。
【0058】
以下の実施例で用いられる例示的な複合体の配列は、次の通りである。
1)DR4構築物:
・DR4構築物α鎖(配列番号16)、DRA*0101細胞外α鎖領域に先行するシグナルペプチド(実線下線付き)、TEV切断部位(太字)、cFosドメイン(太字および実線下線付き)、およびビオチン化部位(BirA、斜体および実線下線付き)を含む配列:
【化1】
・最小のDR4構築物α鎖(配列番号18)、DRA*0101細胞外α鎖領域に先行するシグナルペプチド(実線下線付き)、およびcFosドメイン(太字および実線下線付き)を含む配列:
【化2】
・hCII259~273ペプチドを有するDR4構築物β鎖(配列番号17)、Strepタグの直前に先行するシグナルペプチド(太字および二重実線下線付き)およびCIIペプチド259~273(斜体および実線下線付き)、各部位のグリシンリンカーで囲まれたトロンビン切断部位(太字および点線下線付き)、DRB*0401細胞外領域(実線下線付き)、TEV切断部位(太字)、cJunドメイン(太字および実線下線付き)およびHisタグ(斜体)を含む配列:
【化3】
・hCII259~273ペプチドを有する最小DR4構築物β鎖(配列番号19)、CIIペプチド259~273の直前に先行するシグナルペプチド(斜体および実線下線付き)、DRB*0401細胞外領域(実線下線付き)、cJunドメイン(太字および実線下線付き)、およびHisタグ(斜体)を含む配列:
【化4】
2)DR4-hCLIPmut構築物:
・上述のDR4構築物α鎖(配列番号16)
・hCLIPmutを有するDR4構築物β鎖(配列番号20)、Strepタグの直前に先行するシグナルペプチド(太字および二重実線下線付き)および変異hCLIPペプチド(斜体および実線下線付き)、各部位のグリシンリンカーで囲まれたトロンビン切断部位(太字および点線下線付き)、DRB*0401細胞外領域(実線下線付き)、TEV切断部位(太字)、cJunドメイン(太字および実線下線付き)、およびHisタグ(斜体)を含む配列:
【化5】
3)Aq-rCII構築物:
・Aq構築物α鎖(配列番号21)、Aq細胞外α鎖領域に先行するシグナルペプチド(実線下線付き)、TEV切断部位(太字)、cFosドメイン(太字および実線下線付き)およびビオチン化部位(BirA、斜体および実線下線付き)を含む配列:
【化6】
・ラットCII259~273ペプチドを有するAq構築物β鎖(配列番号22)、Strepタグの直前に先行するシグナルペプチド(太字および二重実線下線付き)およびCIIペプチド259~273(斜体および実線下線付き)、各部位のグリシンリンカーで囲まれたトロンビン切断部位(太字および点線下線付き)、Aq細胞外領域(実線下線付き)、TEV切断部位(太字)、cJunドメイン(太字および実線下線付き)およびHisタグ(斜体)を含む配列:
【化7】
・Hisタグを含まないラットCII259~273ペプチド有するAq構築物β鎖(配列番号23)、Strepタグの直前に先行するシグナルペプチド(太字および二重実線下線付き)およびCIIペプチド259~273(斜体および実線下線付き)、各部位のグリシンリンカーによって囲まれたトロンビン切断部位(太字および点線下線付き)、Aq細胞外領域(実線下線付き)、TEV切断部位(太字)、およびcJunドメイン(太字および実線下線付き)を含む配列:
【化8】
4)Aq-mCLIPmt構築物:
・上述のAq構築物α鎖(配列番号21)
・mCLIPペプチドを有するAq構築物β鎖(配列番号24)、Strepタグの直前に先行するシグナルペプチド(太字および二重実線下線付き)およびマウスCLIPmtペプチド(斜体および実線下線付き)、各部位のグリシンリンカーによって囲まれたトロンビン切断部位(太字および点線下線付き)、Aq細胞外領域(実線下線付き)、TEV切断部位(太字)、cJunドメイン(太字および実線下線付き)、およびHisタグ(斜体)を含む配列:
【化9】
・Hisタグを含まないmCLIPペプチドを有するAq構築物β鎖(配列番号25)、Strepタグの直前に先行するシグナルペプチド(太字および二重実線下線付き)およびマウスCLIPmtペプチド(斜体および下線付き)、各部位のグリシンリンカーで囲まれたトロンビン切断部位(太字および点線下線付き)、Aq細胞外領域(実線下線付き)、TEV切断部位(太字)、およびcJunドメイン(太字および実線下線付き):
【化10】
本明細書に開示される構築物の個々の要素のさらなるアミノ酸配列を以下に提供する:
・cFosドメイン(配列番号26):LTDTLQAETDQLEDEKSALQTEIANLLKEKEKLEFILAAH
・cJunドメイン(配列番号27):RIARLEEKVKTLKAQNSELASTANMLREQVAQLKQKVMNH
・修飾ヒトCLIPペプチド(配列番号28):PVSKARMATGALAQA
・ラットCIIペプチド259~273(配列番号29):GIAGFKGEQGPKGET
・ストレプトアビジンタグ(配列番号30):SAWSHPQFEK
【0059】
好ましくは、本発明の方法に従って得られたMHC II/CIIペプチド複合体は、HLA-DR α鎖および/またはHLA-DR β鎖を含むポリペプチドのC末端に少なくとも1つのHisタグまたは機能的に同等のタグを含む。Hisタグは、好ましくは少なくともヘキサヒスチジンタグであり、より好ましくは少なくともヘプタヒスチジンタグである。機能的に同等のタグは、例えばコンドロイチン結合ペプチドである。従って、組成物は、コンドロイチン結合ペプチド、好ましくはコンドロイチン結合ペプチドとヒアルロン酸(ヒアルロナンとも呼ばれる)結合ペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含んでもよい。一実施態様では、MHC II/CIIペプチド複合体は、少なくとも1つのC末端コンドロイチン結合ペプチドを含む。コンドロイチン結合ペプチドは当技術分野では知られており、限定はされないが、アミノ酸配列EKRIWFPYRRF(配列番号31)、YKTNFRRYYRF(配列番号32)またはVLIRHFRKRYY(配列番号33)を含む(Butterfield KC et al., Biochemistry. 2010 Feb 23;49(7):1549-55)。一実施態様では、コンドロイチン結合ペプチドは、5~20アミノ酸、好ましくは6~20アミノ酸、より好ましくは6~20アミノ酸を含む。ヒアルロン酸への結合を増大させるために、結合コンセンサスモチーフを含むそれぞれの配列はB(X7)Bのように規定され、式中、BはRまたはKのいずれかであり、X7は酸性残基を含まず、少なくとも1個の塩基性アミノ酸を含む(Yang B et al., EMBO J. 1994 Jan 15;13(2):286-96)。本明細書に開示されるように、MHC II/CIIペプチド複合体はまた、hisタグを介してコンドロイチン硫酸に結合できる。従ってコンドロイチン結合ペプチドは、EKRIWFPYRRF(配列番号31)、YKTNFRRYYRF(配列番号32)、またはVLIRHFRKRYY(配列番号33)などのポリヒスチジンタグ、好ましくはヘキサヒスチジンタグ、またはコンドロイチン硫酸への結合親和性を増大させるその他のアミノ酸配列であってもよい。コンドロイチンとヒアルロン酸はどちらも軟骨の重要な成分である。
【0060】
本発明による方法は、哺乳動物細胞を(i)少なくともα1ドメインを含むMHC IIα鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチドおよび(ii)少なくともβ1ドメインを含むMHC IIβ鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチドで遺伝子導入することを含み、C IIペプチドは、MHC IIα鎖またはMHC IIβ鎖のいずれか、好ましくはMHC IIβ鎖のN末端にさらに融合されている。本明細書で使用される遺伝子導入は、当技術分野で既知の遺伝子導入法を用いて哺乳動物細胞内にDNAを導入することを意味する。本明細書で使用される用語「遺伝子導入(transfection)」または「遺伝子導入すること(transfecting)」は、「形質導入(transduction)」および「形質導入すること(transducing)」を含み、これらは、真核細胞内へのウイルス媒介遺伝子導入を説明するのに頻繁に使用される。ポリヌクレオチドは、DNAまたはRNA、好ましくはDNAであってもよい。遺伝子導入は、一過性の遺伝子導入または永続性の遺伝子導入であってもよい。好ましくは、ポリヌクレオチドは、ベクター、好ましくは発現ベクター中に存在する。
【0061】
安定な組込みのための方法は当技術分野では周知である。簡潔に言えば、安定な組込みは、一般的に、少なくとも1つの組換えポリヌクレオチドまたは少なくとも1つの組換えポリヌクレオチドを含むベクターを哺乳動物宿主細胞に一時的に導入することで達成され、これにより前記組換えポリヌクレオチドの哺乳動物細胞ゲノム内への安定な組込みが容易になる。典型的には、組換えポリヌクレオチドは、相同性アーム、すなわち、組込み部位の上流および下流の領域に相同な配列に隣接している。組換えポリヌクレオチドを哺乳動物細胞内に導入するベクターは、プラスミド、レトロウイルス、コスミド、EBV由来エピソームなどの多種の適切なベクターシステムから選択されてもよい。種々のシャトルベクター、例えば、大腸菌およびシュードモナス属などの複数の宿主微生物内で自律的に複製できるベクターを使用してもよい。それらを哺乳動物宿主細胞内に導入する前に、環状ベクターを鎖状にして哺乳動物細胞ゲノムへの組み込みを容易にしてもよい。ベクターを哺乳動物細胞内に導入する方法は、当技術分野では周知であり、ウイルス送達などの生物学的方法;陽イオン性ポリマー、リン酸カルシウム、陰イオン性脂質、またはカチオン性アミノ酸などを用いる化学的方法;および電気穿孔法や微量注入法などの物理的方法による遺伝子導入を含む。
【0062】
一実施態様では、哺乳動物細胞のゲノム内に安定的に組み込まれた組換えポリヌクレオチドは、発現カセットの一部分である。発現カセットは、プロモーターに作動可能に連結された、RNAおよび/またはタンパク質などの遺伝子産物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含み、場合によっては、遺伝子産物の発現を制御することをさらに意味している。そのような手段には、限定はされないが、エンハンサー、停止シグナル、ポリアデニル化シグナル、および典型的にはポリアデニル化部位を含む3’非翻訳領域が含まれる。プロモーターは、弱いプロモーター、または目的の遺伝子産物の高水準の発現を支援する強いプロモーターであってもよい。前記プロモーターには、限定はされないが、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、SV40(シミアン空胞化ウイルス40)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、アデノウイルスプロモーター(例えばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))、CHEF-1(CHO由来伸長因子-1)プロモーター、ポリオーマ、ならびに天然免疫グロブリンおよびアクチンプロモーターまたは少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドの天然プロモーターなどの強力な哺乳動物プロモーターが含まれる。プロモーターは、好ましくはCMVプロモーターまたはSV40プロモーターであり、最も好ましくはCMVプロモーターである。ポリアデニル化シグナルの例は、BGH polyA、SV40後期または初期polyAであり、あるいは、免疫グロブリン遺伝子などの3’UTRを使用できる。当業者ならさらに、3’非翻訳領域を操作して、例えばARE(アデニル酸-ウリジル酸の富化要素)などの不安定要素を除去することで高水準の発現を支援してもよいことは分かっている。
【0063】
実施態様によっては、遺伝子産物を、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)などの増幅可能な遺伝性選択マーカーの制御下に置いてもよい。増幅可能な選択マーカー遺伝子は、分泌された治療用タンパク質発現カセットと同一の発現ベクター表面にあってもよい。あるいは、増幅可能な選択マーカー遺伝子と分泌された治療用タンパク質発現カセットは、異なる発現ベクター表面にあってもよいが、宿主細胞のゲノム内に近接して組み込まれる。例えば、同時に共に遺伝子導入される2つ以上のベクターは、多くの場合に宿主細胞のゲノム内に近接して組み込まれる。次に分泌された治療用タンパク質発現カセットを含む遺伝子領域の増幅は、増幅剤(例えば、DHFRの場合はMTX、またはGSの場合はMSX)を培養培地に添加して媒介される。
【0064】
宿主細胞またはプロデューサー細胞での十分に高い安定水準の遺伝子産物は、例えば、異種ポリヌクレオチドの複数のコピーを発現ベクターにクローンすることによって達成できる。上述のように、組換えポリヌクレオチドの複数のコピーを発現ベクターにクローンすること、および(MHC II/CIIペプチド複合体をコードする)分泌された治療用タンパク質発現カセットを増幅することを、さらに組み合わせてもよい。
【0065】
一実施態様では、少なくともα1ドメインを含むMHC IIα鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチド(第1のポリヌクレオチド)は1つのベクター内に存在し、少なくともβ1ドメインを含むMHC IIβ鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチド(第2のポリヌクレオチド)は別のベクター内に存在し、CIIペプチドはさらに、第1または第2のポリヌクレオチドのいずれかによってコードされて、MHC IIα鎖またはMHC IIβ鎖のいずれかのN末端に融合したCIIペプチドを提供する。別の実施態様では、第1および第2のポリヌクレオチドは、同一のベクター表面の別個の発現カセットの一部であってもよい。さらに別の実施態様では、第1および第2のポリヌクレオチドは、少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域;少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域;およびリンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されているコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含む単一の融合ポリペプチドをコードする単一のポリヌクレオチドを形成する。
【0066】
一実施形態では、少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域;少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域;およびリンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されているコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、単一のポリヌクレオチドによってコードされていて、単一の融合ポリペプチド(一本鎖ヘテロ二量体)を発現する。
【0067】
別の実施態様では、この方法は、少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域をコードする第1のポリヌクレオチド;少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域をコードする第2のポリヌクレオチド;およびリンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されているコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)をコードするポリヌクレオチドを含む。一実施態様では、MHCクラスIIα鎖は、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第1の機能ドメインにそのC末端で(C末端的に)融合され、MHCクラスIIβ鎖は、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第2の相補的機能ドメインにそのC末端で融合される。第1の機能ドメインおよび第2の相補的機能ドメインは、酸性および塩基性のロイシンジッパーヘテロ二量体化ドメイン、好ましくは、jun-fosロイシンジッパーモチーフであってもよい。一実施態様では、第1および/または第2のポリヌクレオチドは、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの機能的ドメインのC末端にポリヒスチジンタグをコードする。
【0068】
本発明の方法によれば、哺乳動物細胞を、MHC II/CIIペプチド複合体の生成に適する条件で培養し、かつ細胞上清および/または細胞を回収し、ここで細胞上清および/または細胞は、翻訳後修飾CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含み、好ましくはCIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であるか、またはO-グリコシル化ヒドロキシリジンであり、より好ましくは第1のリジン残基は、ヒドロキシリジンまたはガラクトシルヒドロキシリジンであり、より好ましくはガラクトシルヒドロキシリジンである。この方法はさらに、MHC II/CIIペプチド複合体のCIIペプチドのグリコシル化特性などの翻訳後修飾を分析する工程を含んでもよい。翻訳後修飾およびグリコシル化特性を分析する方法は、当技術分野では周知であり、質量分析などの方法を含む。
【0069】
原理的に、リジンのヒドロキシリジン(Hyl)へのヒドロキシル化およびHylのガラクトシルヒドロキシリジン(Gal-Hyl)へのガラクトシル化を含む、コラーゲン中のリジン残基を翻訳後修飾する酵素を含んでいる限り、高収率のタンパク質生成に適する任意の哺乳動物細胞を本発明に従って使用してもよい。リジンの環境で本明細書で使用される用語「ガラクトシル化」は、リジンがガラクトシル化の前にヒドロキシリジンへヒドロキシル化されていることを含む。酵素は、細胞内に内因的に存在してもよく、または細胞内で組換えにより発現されてもよい。好ましくは、哺乳動物細胞は、リジン水酸化酵素(EC1.14.11.4)およびコラーゲンガラクトース転移酵素(EC2.4.1.50)を含み、好ましくはリジン水酸化酵素1(LH1)および/またはリジン水酸化酵素2(LH2)およびコラーゲンガラクトース転移酵素GLT25D1および/またはGLT25D2、好ましくはGLT25D1を含む。これらの酵素は、翻訳後にコラーゲンを修飾する。従ってこれらの酵素は、腎細胞、線維芽細胞、または破骨細胞、特にHEK 293細胞またはその誘導体などの腎細胞などのコラーゲンを産生する細胞株中に存在する可能性が高い。HEK 293細胞は、接着細胞として、または懸濁状態で増殖させてもよい。本発明による方法に適するHEK 293細胞の例は、Expi293F細胞(cGMPバンクカタログ番号100044202としても入手可能であるGibcoカタログ番号A14527)などのHEK 293細胞すなわちHEK 293F細胞である。その他の適切なHEK 293細胞としては、HEK 293T細胞および/またはその懸濁細胞が挙げられる。意外にも、MHC IIタンパク質が提示する低分子ペプチドもまた、これらの細胞内で翻訳後修飾が可能である。ペプチドはコラーゲンに由来するが、MHC II複合体内の全く異なる(非天然の)環境中に存在する。この点について、MHC IIタンパク質には、APCで消化される細胞外(翻訳後修飾)タンパク質からのペプチドが自然に負荷されることに注意すべきである。従って修飾は、形質膜陥入されたタンパク質に既に存在していて、細胞内には付加されない。さらに意外なことには、その場でグリコシル化された際に生成される異質な生成物が治療に適する。コラーゲン中のリジン残基の翻訳後修飾に必要とされる酵素のための適切な細胞を、適切な抗体を用いるウエスタンブロットやRNA発現によって、または機能的にII型コラーゲンまたはMHC II/CIIペプチド複合体をグリコシル化する能力によって、簡単に選別できる。遺伝子またはタンパク質の発現あるいは酵素活性およびグリコシル化特性を検出する方法は、当技術分野では周知である。一実施態様では、哺乳動物細胞は、腎細胞、線維芽細胞、または骨芽細胞、好ましくはHEK 293細胞またはその細胞株である。HEK 293細胞が、(それぞれLH1およびLH2をコードする)リジン水酸化酵素PLOD1およびPLOD2、ガラクトース転移酵素GLT25D1およびGLT25D2、さらに(LH3をコードする)PLOD3を発現することは、過去に説明されている。
【0070】
タンパク質生成に一般的に用いられるCHO細胞は、以前より検討されてきたが、本明細書に説明のコラーゲン中にまたはMHC II/CIIペプチド複合体中にガラクトシルヒドロキシリジン(Gal-Hyl)をもたらすリジン残基での翻訳後修飾を十分に付加することはできない。一実施態様では、哺乳動物細胞は、リジン水酸化酵素およびコラーゲンガラクトース転移酵素を組換え発現する遺伝子操作された細胞である。好ましくは、哺乳動物細胞は、リジン水酸化酵素1(LH1)および/またはリジン水酸化酵素2(LH2)ならびにコラーゲンガラクトース転移酵素GLT25D1および/またはGLT25D2、好ましくはGLT25D1を組換え発現するように遺伝子操作されている。GLT25D2は、少数の細胞型でしか発現しないので、正常なコラーゲン修飾を担う可能性は低くなる。いずれの哺乳動物細胞も、リジン水酸化酵素およびコラーゲンガラクトース転移酵素、好ましくはリジン水酸化酵素1(LH1)および/またはリジン水酸化酵素2(LH2)およびコラーゲンガラクトース転移酵素GLT25D1および/またはGLT25D2を組換え発現するように遺伝子操作されてもよい。好ましくは、説明の遺伝子操作された哺乳動物細胞は、CHO細胞、より好ましくは、CHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、CHO-DXB11細胞、CHO-S細胞、CHOグルタミン合成酵素(GS)欠損細胞、またはこれらの細胞のいずれかの誘導体である。
【0071】
当業者なら、本発明による方法によって生成されるMHC II/CIIペプチド複合体が、CIIペプチドに、特にCIIペプチドの第1のリジン残基および場合によっては第2のリジン残基に異なる翻訳後修飾を含むMHC II/CIIペプチド複合体の異質の混合物であることは分かっている。異質の混合物は、第1のリジンにK、Hyl、G-Hyl、またはGG-Hylを含み、任意の第2のリジンに、独立してK、Hyl、G-Hyl、またはGG-Hylを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含む(ここで、Kはリジン、Hylはヒドロキシリジン、G-Hylはガラクトシルヒドロキシリジン、およびGG-Hylはグルコシルガラクトシルヒドロキシリジンである)。
【0072】
従って、一実施態様では、回収された細胞上清および場合によっては回収された細胞はさらに、CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含み、ここでCIIペプチドの第1のリジン残基は、未修飾であるか、またはグルコシルガラクトシルヒドロキシリジン(GG-Hyl)であり、好ましくは未修飾であり、CIIペプチドの任意の第2のリジン残基は、独立して未修飾であるか、ヒドロキシリジン(Hyl)、ガラクトシルヒドロキシリジン(G-Hyl)、またはグルコシルガラクトシルヒドロキシリジン(GG-Hyl)であり、好ましくは未修飾であるか、ヒドロキシリジン(Hyl)、またはガラクトシルヒドロキシリジン(G-Hyl)である。一実施態様では、回収された細胞上清および場合によっては回収された細胞は、MHC II/CIIペプチド複合体を含まず、第2のリジン残基は、グルコシルガラクトシルヒドロキシリジンである。別の実施態様では、回収された細胞上清および場合によっては回収された細胞は、グルコシルガラクトシルヒドロキシリジン(GG-Hyl)修飾MHC II/CIIペプチド複合体を含まず、例えば、第1および任意の第2のリジン残基はグルコシルガラクトシルヒドロキシリジンである、O-グリコシル化CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含まない。
【0073】
好ましくは、MHC II/CIIペプチド複合体の異種混合物は、混合物または組成物中の全MHC II/CIIペプチド複合体のCIIペプチドの第1のリジン(K264)に、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、または少なくとも30%のG-Hylを含む。さらに、MHC II/CIIペプチド複合体の異種混合物は、混合物または組成物中の全MHC II/CIIペプチド複合体に、好ましくは50%未満、40%未満、または30%未満の未修飾CIIペプチドを含む。特定の実施態様では、MHC II/CIIペプチド複合体の異種混合物は、混合物または組成物中の全MHC II/CIIペプチド複合体のCIIペプチド中に、20%未満、10%未満、5%未満、より好ましくは1%未満のGG-Hylを含む。ここでこの百分率は、MHC II/CIIペプチド複合体中の全CIIペプチドで、MHC II/CIIペプチド複合体中のCIIペプチドの百分率を指す。特に好ましい実施態様では、前記第2のリジン残基(K270)は変異していて、例えばアルギニン(K270R)に変異している。さらなる実施態様では、(任意の)第2のリジンは、グルコシルガラクトシルヒドロキシリジン(GG-Hyl)には翻訳後修飾されず、未修飾のリジン、ヒドロキシリジン、またはガラクトシルヒドロキシリジンとして存在する。
【0074】
MHC II/CIIペプチド複合体の混合物の不均質性および嵩高いグルコシルガラクトシルヒドロキシリジンの生成を低減するために、哺乳動物細胞がガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素(EC 2.4.1.66)活性を含まないのがさらに好都合である。従って一実施態様では、哺乳動物細胞は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性を含まない。好ましくは、哺乳動物細胞はリジン水酸化酵素3(LH3)を含まない。LH3は、リジン水酸化酵素(LH)、ガラクトース転移酵素(GT)、およびガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素(GGT)の各活性を含む多機能酵素であり、この酵素の主要な機能はGGT活性であると思われる。LH3活性は、ノックダウンまたはノックアウト手法を用いて削除または低減してもよい。酵素の発現は、例えば、siRNAやshRNAなどのRNA干渉を用いて低減できる。
【0075】
用語「RNA干渉(RNAi)」は、タンパク質合成の全般的な抑制を伴わない、遺伝子発現(タンパク質合成)の配列特異的または遺伝子特異的阻害を指す。RNAiは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)によるメッセンジャーRNA(mRNA)の分解を伴い、転写されたmRNAの翻訳を阻止できる。RNAiによって引き起こされる遺伝子発現の阻害は、一過性であってもよく、より安定していてもよく、さらに永続的であってもよい。RNAiは、miRNA、siRNA、またはshRNAによって媒介されてもよい。好ましくは、本発明によるRNAiは、遺伝子特異的である(1つの遺伝子のみが標的とされる)。遺伝子特異的RNAiは、siRNAまたはshRNAによって媒介されてもよい。
【0076】
本明細書で使用される用語「低分子干渉」または「低分子干渉RNA」または「siRNA」は、所望の遺伝子を標的とし、かつそれが相同性を共有する遺伝子の発現を阻害できるヌクレオチドのRNA二重鎖を指す。これは、高分子二本鎖RNA(dsRNA)またはshRNAから生成される。RNA二本鎖は、典型的には、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、または27塩基対を形成する19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または29ヌクレオチドの2つの相補的な一本鎖RNAを含み、かつ2ヌクレオチドの3’オーバーハングを有し、好ましくは、RNA二本鎖は、17~25塩基対を形成する19~27ヌクレオチドの2つの相補的一本鎖RNAを含み、かつ2ヌクレオチドの3’オーバーハングを有する。siRNAは遺伝子に「標的化」され、ここで、siRNAの二本鎖部分のヌクレオチド配列は、標的化された遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列に相補的である。siRNAまたはその前駆体は、常に、例えば直接にまたは前記siRNAをコードする配列を有するベクターの遺伝子導入によって細胞内に外因的に導入され、内因性miRNA経路は、siRNAの正確な処理および標的mRNAの切断または分解に利用される。二本鎖RNAは、単一の構築物から細胞内で発現させることができる。
【0077】
本明細書で使用される用語「shRNA」(低分子ヘアピンRNA)は、siRNAの一部がヘアピン構造(shRNA)の一部であるRNA二重鎖を指す。shRNAは細胞内で処理されて機能的なsiRNAになる。二本鎖部分に加えて、ヘアピン構造は、二本鎖を形成する2つの配列の間に配置されたループ部分を含んでもよい。ループは様々な長さであってもよい。実施態様によっては、ループは、長さが4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14ヌクレオチドである。ヘアピン構造はまた、3’または5’のオーバーハング部分を含んでもよい。側面によっては、オーバーハングは、長さが0、1、2、3、4、または5ヌクレオチドの3’または5’オーバーハングである。本発明の一側面では、ベクター内に含まれるヌクレオチド配列は、センス領域、ループ領域、およびアンチセンス領域を含む、低分子ヘアピンRNAの発現のための鋳型として機能する。発現に続いて、センス領域とアンチセンス領域は二重鎖を形成する。shRNAは、例えば、前記shRNAをコードする配列を有するベクターの遺伝子導入によって常に外因的に導入され、内因性miRNA経路は、siRNAの正確な処理および標的mRNAの切断または分解に利用される。shRNAをコードする配列を持つベクターを使用すると、化学的に合成されたsiRNAを使用するよりも、標的遺伝子の阻害が典型的に長期間にわたり安定であるという利点がある。
【0078】
典型的には、siRNAおよびshRNAは、完全な配列相補性(すなわち、低分子干渉RNAのRNA二重鎖のアンチセンス鎖と標的mRNAとの間の完全な塩基対合)によってmRNA阻害を媒介し、従ってそれらの標的に特異的である。RNA二本鎖のアンチセンス鎖は、RNA二本鎖の活性鎖と呼ばれることもある。本明細書で用いられる全塩基対合の完全な配列相補性は、低分子干渉RNAのRNA二重鎖のアンチセンス鎖が、少なくとも15個の連続ヌクレオチド、少なくとも16個の連続ヌクレオチド、少なくとも17個の連続ヌクレオチド、少なくとも18個の連続ヌクレオチド、かつ好ましくは少なくとも19個の連続ヌクレオチドの標的mRNAに対して少なくとも89%の配列同一性、あるいは少なくとも15個の連続ヌクレオチド、少なくとも16個の連続ヌクレオチド、少なくとも17個の連続ヌクレオチド、少なくとも18個の連続ヌクレオチド、かつ好ましくは少なくとも19個の連続ヌクレオチドの標的mRNAに対して少なくとも93%の配列同一性を有することを意味する。より好ましくは、低分子干渉RNAのRNA二重鎖のアンチセンス鎖は、少なくとも15個の連続ヌクレオチド、少なくとも16個の連続ヌクレオチド、少なくとも17個の連続ヌクレオチド、少なくとも18個の連続ヌクレオチド、かつ好ましくは少なくとも19個の連続ヌクレオチドの標的mRNAに対して100%の配列同一性を有する。
【0079】
あるいは、酵素は発現されておらず、または遺伝子は変異または欠失している可能性がある。従って、別の実施態様では、哺乳動物細胞は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性を欠いている。特定の実施態様では、哺乳動物細胞は多機能酵素LH3を欠いている。例えば、遺伝子はサイレンシングされているか、十分に発現されていない可能性がある。他の特定の実施態様では、哺乳動物細胞は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性を欠く変異性LH3酵素を含む。
【0080】
さらなる実施態様では、哺乳動物細胞は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性が低下しているか、またはそれを含まないように遺伝子操作されている。LH3をコードするPLOD3遺伝子は、変異または欠失していいてもよく、および/またはLH3酵素は、ガラクトシルヒドロシリシルグルコース転移酵素活性を欠く変異性LH3酵素であってもよい。遺伝子を欠失または変異する方法は、当技術分野では周知であり、配列特異的DNA編集酵素の使用を含んでもよい。本明細書で使用される「配列特異的DNA編集酵素」または「部位特異的核酸分解酵素」は、定義されたヌクレオチド配列(認識部位)でのDNAの切断を可能にするタンパク質である。前記切断は、2つの相補的DNA鎖の一方または両方で発生してもよく、従って、例えば標的変異誘発、特定のゲノムDNA配列の標的欠失を可能にし、あるいは切断された標的DNAと異種ポリヌクレオチドとの部位特異的組換えをもたらしてもよい。前記編集酵素の配列特異性は、編集酵素内の1つ以上の配列特異的DNA結合タンパク質ドメイン、またはガイドポリヌクレオチド(例えばガイドRNA)に結合する酵素に起因してもよく、このガイドポリヌクレオチドは、前記ガイドポリヌクレオチドに少なくとも部分的な相補性を有するDNA配列に配列特異性を誘導する。従って、前記編集酵素の認識部位は、DNA結合タンパク質ドメインを操作して、または別のガイドポリヌクレオチドを用いて変更してもよい。複数の配列特異的DNA編集酵素は、当技術分野では既知であり、その非限定的な例は、ジンクフィンガー核酸分解酵素(ZFN)、メガ核酸分解酵素、転写活性化因子様エフェクター核酸分解酵素(TALEN)、およびCRISPR関連核酸分解酵素である。
【0081】
好ましくは、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性を欠く遺伝子操作哺乳動物細胞は、HEK 293細胞またはその細胞株である。本発明によるMHC II/CII複合体の生成のためにガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素を還元することから恩恵を得られる細胞株の例は、Expi293F細胞(cGMPバンクカタログ番号100044202としても入手可能であるGibcoカタログ番号A14527)である。
【0082】
ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性はまた、カルミン酸を用いて阻害してもよい。従って、本発明による方法は、カルミン酸中で工程(b)に従って哺乳動物細胞を培養することを含んでもよい。
【0083】
哺乳動物細胞は、好ましくは、無血清条件で、場合によっては動物由来のいずれのタンパク質/ペプチドも含まない培地中で、構築、適応、かつ完全に培養される。以下のような市販の培地が、例示的な適切な栄養溶液となる:PreproGowTM HEK 293培地(PREPROTECH, USA)、Expi293TM発現培地(Thermo Fisher, USA)、HAM´s F12(Sigma, Deisenhofen, Germany,)、RPPMI (Sigma)、Ham´s F12(Sigma, Deisenhofen, Germany)、RPMI-1640(Sigma)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; Sigma)、最少基礎培地(MEM; Sigma)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM; Sigma)、CD-CHO(Invitrogen, Carlsbad, CA)、血清不含CHO Medium(Sigma)、およびタンパク質不含CHO Medium (Sigma)。いずれの培地にも、必要に応じて種々の化合物を補充してもよく、その化合物の非限定的な例は、組換えホルモンおよび/または他の組換え成長因子(インスリン、トランスフェリン、表皮成長因子、インスリン様成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオシド(アデノシン、チミジンなど)、グルタミン、グルコース、または他の同等のエネルギー源、抗生物質、および微量元素である。その他の必須の補充物はまた、当業者には既知と思われる適切な濃度で含んでもよい。選択可能な遺伝子を発現する遺伝子改変細胞の増殖および選択のために、適切な選択剤を培地に添加する。
組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物
【0084】
別の側面では、本発明は、(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域;(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域;および(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物を提供し、ここでCIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG、およびAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、MHC II/CIIペプチド複合体は、翻訳後修飾CIIペプチドを含む。好ましいCIIペプチドは、リジン残基、好ましくはCIIペプチドの第1のリジン残基に翻訳後修飾を含む。一実施態様では、CIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であり、および/またはO-グリコシル化Hylである。好ましくは、第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)および/またはガラクトシルヒドロキシリジンであり、より好ましくはガラクトシルヒドロキシリジンである。
【0085】
用語「MHC II/CIIペプチド複合体」は、ペプチド結合溝を形成するMHC IIタンパク質またはその一部とコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)の細胞外ドメインを含む可溶性複合体を指し、このペプチドは、α鎖またはβ鎖のいずれかのN末端に融合(すなわち結合)している。好ましくは、CIIペプチドは、MHCクラスIIβ鎖のN末端に融合している。MHC IIタンパク質は、α鎖の細胞外ドメインを形成するα1ドメインとα2ドメイン、およびβ鎖の細胞外ドメインを形成するβ1ドメインとβ2ドメインを含む。α1ドメインおよびβ1ドメインは、ペプチド結合溝、すなわちCIIペプチドなどのペプチドと相互作用して結合する部位を形成する。従ってMHC II/CIIペプチド複合体は、MHC IIタンパク質の少なくともα1ドメインおよびβ1ドメインを含む。好ましくは、MHC II/CIIペプチド複合体は、MHC IIタンパク質のα1ドメイン、α2ドメイン、β1ドメイン、およびβ2ドメインを含む。
【0086】
ヒトの関節リウマチでは、MHCクラスII分子HLA-DR(アミノ酸70~74位、いわゆる「共通エピトープ」)のペプチド結合ポケットのβ鎖上のアミノ酸コンセンサスモチーフ(Q/R R/K R A A)をコードするHLA-DRB1遺伝子座の特定の対立遺伝子と遺伝的な相関が存在する。関節リウマチ付随HLA-DRB1対立遺伝子の例は、QKRAAコード対立遺伝子:HLA_DRB1*0401および0409、QRRAAコード対立遺伝子:HLA_DRB1*0404、0405、0408、0101、0102、および1402、RRRAAコード対立遺伝子:HLA_DRB1*1001、およびDKRAAコード対立遺伝子:HLA_DRB1*1303である。従って、MHCクラスIIα鎖の細胞外領域およびMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域はHLA-DRに由来し、好ましくは少なくともα1ドメインはDRA*0101に由来し、少なくともβ1ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402、およびDRB1*1303、好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、およびDRB1*1402、より好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、およびDRB1*0405からなる群から選択されるHLA-DR対立遺伝子に由来する。より好ましくは、α1ドメインおよびα2ドメインは、DRA*0101に由来し、β1ドメインおよびβ2ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402、およびDRB1*1303、好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、およびDRB1*1402、より好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0101、およびDRB1*0405からなる群から選択されるHLA-DR対立遺伝子由来する。マウスでは、コラーゲン誘発関節炎(CIA)は、マウスMHC II Aq対立遺伝子と関連している。従って、一実施態様では、複合体中のMHC II分子は、マウスMHC II Aq対立遺伝子に由来する。
【0087】
本発明によるMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物は、翻訳後修飾ペプチドを含む。CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG、およびAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。特定の実施態様では、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G、AGFKGX3QGPX1G、およびAGFKX4EQGPX1Gのアミノ酸配列を含み、ここでX1は、Kを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはR、A、GまたはQ、より好ましくはRであり;X2は、Qを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくは、A、R、HまたはGであり;X3は、Eを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、好ましくはA、D、QまたはGであり;かつX4は、Gを除くタンパク質構成アミノ酸のいずれかであり、より好ましくはA、S、VまたはLである。好ましくはX2、X3またはX4はKではなく、より好ましくはX1、X2、X3またはX4はKではない。特定の実施態様では、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKGまたはAGFKGEQGPX1G、好ましくはAGFKGEQGPKGEPまたはAGFKGEQGPX1GEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEPまたはGIAGFKGEQGPX1GEPのアミノ酸配列を含む。好ましくは、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG(配列番号1)またはAGFKGEQGPXG(配列番号2)、より好ましくはAGFKGEQGPKGEP(配列番号10)またはAGFKGEQGPXGEP(配列番号11)、さらに好ましくはGIAGFKGEQGPKGEP(配列番号13)またはGIAGFKGEQGPXGEP(配列番号14)のアミノ酸配列を含む。CIIペプチドGIAGFKGEQGPKGEPは、三重螺旋型CII領域のアミノ酸259~273に対応する。MHC IIの結合ポケットへの結合に適するCIIペプチドは、10~20アミノ酸長であり、好ましくはCIIペプチドは、11~15アミノ酸長であり、より好ましくはCIIペプチドは、13~15アミノ酸長である。一実施態様では、CIIペプチドは、アミノ酸配列AGFKGEQGPKG(配列番号1)、より好ましくはAGFKGEQGPKGEP(配列番号10)、さらにより好ましくはGIAGFKGEQGPKGEP(配列番号13)を含む。一実施態様では、第2のK(K270)は変異していてもよく、好ましくはRに変異していてもよい。従って、CIIペプチドがアミノ酸配列AGFKGEQGPXG(配列番号2)、AGFKGEQGPXGEP(配列番号11)、およびGIAGFKGEQGPXGEP(配列番号14)を含む実施態様もまた包含され、XはK以外のいずれのタンパク質構成アミノ酸であってもよく、好ましくはXはR、A、GまたはQ、より好ましくはRである。一実施態様では、CIIペプチドは、アミノ酸配列AGFKGEQGPRG(配列番号9)、AGFKGEQGPRGEP(配列番号12)、およびGIAGFKGEQGPRGEP(配列番号15)を含む。
【0088】
本発明によるMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物は、CIIペプチドを有するMHC II/CIIペプチド複合体を含み、好ましくは、CIIペプチドの少なくとも第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であり、および/またはO-グリコシル化ヒドロキシリジンである。CIIペプチドの第1のリジン(K)残基は、三重螺旋型CII領域のアミノ酸配列の264位にあるGIAGFKGEQGPKGEP(配列番号13)内の第1のKに対応する。CIIペプチドの任意の第2のリジン(K)残基は、三重螺旋型CII領域のアミノ酸配列の270位にあるGIAGFKGEQGPKGEP内の第2のKに対応する。好ましい実施態様では、本発明によるMHC II/CIIペプチド複合体は、翻訳後修飾CIIペプチドを含み、ここで少なくとも第1のリジン残基は、ヒドロキシリジンおよび/またはガラクトシルヒドロキシリジンである。用語「ガラクトシルヒドロキシリジン」は、G-HylまたはGal-Hylと呼ばれることもあり、グルコシルガラクトシルヒドロキシリジンへの修飾は除外する。
【0089】
本発明によるCIIペプチド配列中のリジン残基、特に第1のリジン残基、すなわち264位のリジン残基のコラーゲン特異的翻訳後のガラクトシル化は、TCRおよび結果として生じる薬理効果を通してT細胞認識に関与する。270位のリジン残基は、DR4分子の結合溝の端部に位置し、そのガラクトシルヒドロキシリジン修飾は、TCR認識にはそれ程重要ではないと考えられている。従って、(K270に対応する)第2のさらなるリジン残基は、未修飾、ヒドロキシリジン、またはガラクトシルヒドロキシリジンのいずれかであってもよく、好ましくは未修飾であってもよい。gal264エピトープを認識するT細胞ハイブリドーマのTCRは、K270R変異によって影響を受けないことが示されている。好ましい実施態様では、CIIペプチドは、第1のリジン残基のみを含み、任意のさらなるK(任意の第2のKなど)は変異していて、好ましくはRに変異している。従ってアミノ酸配列AGFKGEQGPRG(配列番号9)、好ましくは、AGFKGEQGPRGEP(配列番号12)、より好ましくはGIAGFKGEQGPRGEP(配列番号15)を含むCIIペプチドもまた、本発明に包含される。第2のリジンの変異には、生成物の不均質性を低減するという利点があるため、正確に修飾されたペプチドの比率がより高くなる。さらに、ガラクトシルヒドロキシリジンは、グルコシル化されてグルコシルガラクトシルヒドロキシリジン(Glc-Gal-Hyl、またはGG-Hyl)を生成する可能性があり、これは特にK270位での二糖(Glc-Gal)の嵩高さのためにTCR認識に悪影響を及ぼす可能性がある。従って、K270変異、特にK270Rにより、この位置での二糖修飾の付加を不可能にするので、さらに結合への干渉を回避できる。
【0090】
コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されている。用語「リンカーペプチド」は、複数のアミノ酸残基からなるポリペプチドを指す。リンカーペプチドは、ペプチドがMHC II複合体によって形成されたペプチド結合ポケットに結合することを可能にするのに十分に長くかつ可撓性がある限り、いずれのペプチドであってもよい。適切なリンカーの例はGly-Serリンカーである。本発明によれば、CIIペプチド、リンカーペプチド、ならびにMHC IIα鎖およびMHC IIβ鎖の細胞外領域のうちの少なくとも1つは、1つのポリペプチドとして発現され、1つのポリヌクレオチドによってコードされる。本明細書で使用される用語「融合」は、「結合」を意味し、ここでこの結合には、ペプチド結合を介し、場合によってはリンカーペプチドを用い、従って融合タンパク質を生成する。この特徴により、本発明によるMHC II/CIIペプチド複合体は、従来技術の複合体とは構造的に区別される。従来の複合体では、MHC IIタンパク質を、トロンビン切断部位などのペプチダーゼ切断部位を含むリンカーペプチドを介してMHC II鎖のうちの1つに連結されているCLIPペプチドを代理ペプチドとして用いて生成する。従って生成後に、ペプチドは酵素的に切断され、合成的に調製されたガラクトシル化ペプチド(すなわち、K264位にgal-Hylを保有するCIIペプチド)が生体外で複合体に負荷される。この合成ガラクトシル化ペプチドはMHC II分子に共有結合する可能性があるが、この結合はリンカーペプチドを介さない。実施例で用いられるMHC II/CIIペプチド複合体は、リンカーとCIIペプチドとの間に酵素切断部位(トロンビン切断部位、図1参照)を依然含んだままであるが、これは必須ではなく、好ましくは治療剤製品からは除去される。リンカーペプチドは、製品の安定性を改善し、ペプチドの損失を防止できる。従って、好ましくは、本発明によるMHC II/CIIペプチド複合体は、CIIペプチドとMHC IIβ鎖(またはMHC IIα鎖)の細胞外領域との間のアミノ酸配列中に酵素的切断部位を含まない。さらに治療目的のために、組成物中に含まれるMHC II/CIIペプチド複合体は、(1)精製のためのストレプトアビジンタグ(SAWSHPQFEKなど;配列番号30)、(2)MHC IIα鎖/MHC IIβ鎖とヘテロ二量体化ドメインとの間の切断部位(例えばTEV切断部位)、および/または(3)図1に示されかつ実施例に用いられる例示的な複合体に存在する大腸菌ビオチン連結酵素(BirA)(例えば、AviTag)の認識部位を含まない。これらの要素は、複合体の生体外かつ生体内機能に影響を及ぼさないことが示された(データは示さず)。好ましくは、MHC II/CII複合体は、HLA-DR α鎖および/またはHLA-DR β鎖を含むポリペプチドのC末端にHisタグ(ポリヒスチジンタグ)または機能的に同等のタグを含む。本発明による例示的な最小のHLA-DR/CIIペプチド複合体は、配列番号18および配列番号19によるアミノ酸配列によってコードされていてもよい。当業者なら、ペプチド配列を特許請求の範囲に含まれるように変更してもよいことは分かっている。
【0091】
好ましくは、本発明による組成物は、HLA-DR α鎖および/またはHLA-DR β鎖を含むポリペプチドのC末端にHisタグまたは機能的に同等のタグを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含む。機能的に同等のタグとは、例えばコンドロイチン結合ペプチドである。従って組成物は、少なくとも1つのコンドロイチン結合ペプチド、好ましくはコンドロイチン結合ペプチドおよびヒアルロン酸(ヒアルロナンとも呼ばれる)結合ペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含んでもよい。一実施態様では、MHC II/CIIペプチド複合体は、少なくとも1つのC末端コンドロイチン結合ペプチドを含む。コンドロイチン結合ペプチドは、当技術分野では知られていて、かつ限定はされないが、アミノ酸配列EKRIWFPYRRF(配列番号31)、YKTNFRRYYRF(配列番号32)、またはVLIRHFRKRYY(配列番号33)を有するペプチドを含む(Butterfield KC et al., Biochemistry. 2010 Feb 23;49(7):1549-55)。一実施態様では、コンドロイチン結合ペプチドは、5~20アミノ酸、好ましくは6~20アミノ酸、より好ましくは6~12アミノ酸を含む。ヒアルロナンへの結合を増大させるために、結合コンセンサスモチーフを含むそれぞれの配列は、B(X7)Bのように定義され、式中、BはRまたはKのいずれかであり、X7は酸性残基を含まず、少なくとも1つの塩基性アミノ酸を含む(Yang B et al., EMBO J. 1994 Jan 15;13(2):286-96)。本明細書に開示されるように、MHC II/CIIペプチド複合体はまた、Hisタグを介してコンドロイチン硫酸に結合できる。従って、コンドロイチン結合ペプチドは、EKRIWFPYRRF(配列番号31)、YKTNFRRYYRF(配列番号32)、またはVLIRHFRKRYY(配列番号33)などのポリヒスチジンタグ、好ましくはヘキサヒスチジンタグ、またはコンドロイチン硫酸への結合親和性を増大させるその他のアミノ酸配列であってもよい。コンドロイチンとヒアルロン酸はどちらも軟骨の重要な成分である。
【0092】
一実施態様では、少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域;少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域;およびリンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されているコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、単一の融合ポリペプチド(一本鎖ヘテロ二量体)として発現される。
【0093】
別の実施態様では、MHC II/CIIペプチド複合体は、少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域を含む第1ポリペプチド;少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域を含む第2ポリペプチド;およびリンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されているコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含む。一実施態様では、MHCクラスIIα鎖は、そのC末端でロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第1の機能ドメインに融合され、MHCクラスIIβ鎖は、そのC末端でロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第2の相補的機能ドメインに融合される。第1の機能ドメインおよび第2の相補的機能ドメインは、酸性および塩基性のロイシンジッパーヘテロ二量体化ドメイン、好ましくは、jun-fosロイシンジッパーモチーフであってもよい。一実施態様では、第1および/または第2のポリペプチドは、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの機能的ドメインのC末端に、ポリヒスチジンタグなどのコンドロイチン硫酸結合ペプチドを含む。
【0094】
当業者なら、本発明による組成物が、CIIペプチドの異なる翻訳後修飾、特にCIIペプチドの第1のリジン残基および任意の第2のリジン残基を含むMHC II/CIIペプチド複合体の不均質な混合物中にMHC II/CIIペプチド複合体を含むことは分かっている。不均質な混合物は、第1のリジンには、K、Hyl、G-Hyl、またはGG-Hylを含み、任意の第2のリジンには、独立してK、Hyl、G-Hyl、またはGG-Hylを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含んでもよい。(ここでKはリジン、Hylはヒドロキシリジン、G-Hylはガラクトシルヒドロキシリジン、およびGG-Hylはグルコシルガラクトシルヒドロキシリジンである)。
【0095】
従って一実施態様では、組成物はさらに、CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含み、ここでCIIペプチドの第1のリジン残基は、未修飾、ヒドロキシリジン(Hyl)、またはグルコシルガラクトシルヒドロキシリジン(GG-Hyl)であってもよく、好ましくは未修飾またはヒドロキシリジン(Hyl)であってもよく、かつCIIペプチドの任意の第2リジン残基は、独立して未修飾、ヒドロキシリジン(Hyl)、ガラクトシルヒドロキシリジン(G-Hyl)、またはグルコシルガラクトシルヒドロキシリジン(GG-Hyl)であってもよく、好ましくは未修飾、ヒドロキシリジン(Hyl)、またはガラクトシルヒドロキシリジン(G-Hyl)であってもよい。一実施態様では、組成物は、グルコシルガラクトシルヒドロキシリジン(GG-Hyl)修飾MHC II/CIIペプチド複合体を含まず、例えば、第1のリジン残基および任意の第2のリジン残基がグルコシルガラクトシルヒドロキシリジンである、O-グリコシル化CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含まない。
【0096】
好ましくは、組成物は、混合物または組成物中の全MHC II/CIIペプチド複合体のCIIペプチドの第1のリジン(K264)に、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、または少なくとも30%のG-Hylを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含む。さらに組成物は、混合物または組成物中の全MHC II/CIIペプチド複合体中に、好ましくは50%未満、40%未満、または30%未満の未修飾CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含む。さらに組成物は、混合物または組成物中の全MHC II/CIIペプチド複合体のCIIペプチド中に、好ましくは20%未満、10%未満、5%未満、より好ましくは1%未満のGG-Hylを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含む。ここでこの百分率は、MHC II/CIIペプチド複合体中の全CIIペプチドのうちの、MHC II/CIIペプチド複合体中のCIIペプチドの百分率を指す。特に好ましい実施態様では、前記第2のリジン残基(K270)は変異していて、例えばアルギニンに変異している(K270R)。さらなる実施態様では、(任意の)第2のリジンは、グルコシルガラクトシルヒドロキシリジン(GG-Hyl)には翻訳後修飾されず、未修飾のリジン、ヒドロキシリジン、またはガラクトシルヒドロキシリジンとして存在する。
【0097】
さらなる側面では、本発明は、本発明の方法によって得られるまたは得ることが可能な組換えMHC II/CIIペプチド複合体を提供する。特に翻訳後修飾されたCIIペプチドを含む前記組換えMHC II/CIIペプチド複合体を包含し、ここでCIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であるか、またはO-グリコシル化Hylである。従って一実施態様では、O-グリコシル化CIIペプチドを含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体は、本発明の方法によって得られる。
【0098】
さらに別の側面では、本発明は、本発明の方法によって得られる翻訳後修飾CIIペプチドを含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物を提供する。
【0099】
抗原特異的T細胞を好ましくは生体外で検出するために、本発明による組成物または本発明のMHC II/CIIペプチド複合四量体の使用もまた想定される。
【0100】
本発明の組成物は医薬組成物であってもよい。従って本発明はまた、本明細書に説明の組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物および薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を開示する。組成物または医薬組成物は、任意の投与経路によって、好ましくは皮下(s.c.)または静脈内(i.v.)に投与してもよい。一実施態様では、組成物または医薬組成物を、皮下に埋め込まれた浸透圧ポンプを用いて投与する。本発明による組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物または医薬組成物は、凍結乾燥されてもよく、または水溶液中にあってもよい。薬学的に許容可能な賦形剤には、担体ならびに安定剤が含まれてもよい。
治療での使用
【0101】
さらに別の側面では、本発明は、本発明による組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物、または慢性炎症性疾患の治療に使用するための本発明による方法によって生成される組換えMHC II/CIIペプチド複合体に関する。好ましくは組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む医薬組成物である。一実施態様では、本発明による組換えMHC II/CIIペプチド複合体、または本発明による方法によって生成される組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物は、ヒト対象での慢性炎症性疾患、特に関節炎またはその他の慢性炎症性関節疾患の治療に使用するものである。一実施態様では、組成物は、関節リウマチ、骨関節炎、乾癬性関節炎、非X線撮影性軸性脊椎関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎、再発性多軟骨炎、全身性エリテマトーデス、ライム病、メニエール病、自己免疫性内耳疾患(AIED)、またはスティル病からなる群から選択される慢性炎症性疾患の治療に使用するものである。
【0102】
慢性炎症性疾患は、関節炎であってもよく、好ましくは関節リウマチ、骨関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎、またはスティル病、より好ましくは関節リウマチ、骨関節炎、乾癬性関節炎からなる群から選択されてもよく、より好ましくは関節リウマチである。特定の実施態様では、本発明による組成物は、関節リウマチの第一線の治療のためのものであり、メトトレキサートおよび/または従来からの合成(小分子)疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)に対する応答が不十分な対象での治療、生物学的DMARD(例えば、抗TNF抗体、抗CTLA4(アバタセプト)抗体、抗IL-6抗体、抗CD20(リツキシマブ)抗体)に対する応答が不十分な対象での治療、かつ標的化した合成DMARD(例えばJAK阻害剤)に対する応答が不十分な対象での治療のためのものである。別の実施態様では、本発明による組成物は、筋骨格症状の新たな発症を伴う抗ccp抗体陽性喫煙者などの関節リウマチを発症するリスクが高い患者での予防的治療のためのものである。
【0103】
好ましくは組成物は、皮下または静脈内に、より好ましくは皮下に投与すべきである。組成物は、約10 μg~約250 μg、好ましくは20 μg~200 μg、より好ましくは50 μg~100 μgの単回用量で投与してもよい。一実施態様では、治療は、負荷段階および保守段階を含む。負荷段階は、連続日数で3~10回、好ましくは6回の連続投与を含んでもよい。保守用量は、毎週または3~14日毎に投与してもよく、好ましくは毎週、隔週、毎月、2ヶ月毎、またはさらに長い間隔で投与してもよい。
組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む四量体
【0104】
さらに別の側面では、本発明は、本発明による組成物の組換えMHC II/CIIペプチド複合体、あるいは本発明による方法によって得られる翻訳後修飾CIIペプチドを含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含むMHC II/CIIペプチド複合四量体を提供する。好ましくはCIIペプチドは、リジン残基に、好ましくはCIIペプチドの第1のリジン残基に翻訳後修飾を含む。一実施態様では、CIIペプチドの第1のリジン残基は、Hylであるか、またはO-グリコシル化Hylである。一実施態様では、四量体は、組換えMHC II/CIIペプチド複合体に結合する多量体化分子、好ましくはストレプトアビジンまたはアビジンを含む。好ましい実施態様では、多量体化分子はストレプトアビジンである。組換えMHC II/CIIペプチド複合体のそれぞれは、少なくとも1つの共有結合したN末端ビオチンを含んでもよい。ビオチンをタンパク質に共有結合させる工程であるビオチン化は、好ましくは部位特異的であり、化学的結合または酵素的結合を介してもよい。好ましくは、組換えMHC II/CIIペプチド複合体は、大腸菌ビオチン連結酵素(BirA)などのビオチン連結酵素の認識部位を含む。BirAの認識部位は、AviTagまたは(例えばAviTagである)受容体ペプチドと呼ばれる15アミノ酸のペプチドである。酵素的ビオチン化は、生体外または生体内で実行してもよい。
【0105】
ストレプトアビジンなどの多量体化分子は、四量体、特に結合四量体の検出を可能にするために、標識、好ましくは蛍光色素に結合させてもよい。標識は、酵素的化学発光(ECL)またはルシフェラーゼによって検出できる西洋ワサビ過酸化酵素などの当技術分野では既知のいずれの標識であってもよい。他の例としては、PE、APC、ローダミン(TRITC)、FITCなどの蛍光色素である。
【0106】
四量体は、MHC II/CIIペプチド複合四量体を調製する方法によって生成され、この方法は、(a)本発明による組成物、または本発明によるO-グリコシル化CIIペプチドおよび少なくとも1つのN末端ビオチン化を含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を提供する工程、および(b)この組成物を、多量体化分子、好ましくはストレプトアビジンと接触させ、場合によっては、ストレプトアビジンに結合した4個のMHC II/CIIペプチド複合体を含む四量体を単離する工程を含む。
【0107】
本発明による四量体を用いて、抗原特異的T細胞を検出でき、従って関節炎、特に関節リウマチを検出できる。従って一側面では、本発明は、所定の抗原に特異的なT細胞を検出および/または定量する方法に関し、この方法は、(a)本発明による標識に結合しているMHC II/CIIペプチド複合四量体を提供する工程、(b)MHC II/CIIペプチド複合四量体を対象の試料、好ましくは前記対象の末梢血細胞を含む試料と接触させる工程、および(c)T細胞に結合したMHC II/CIIペプチド複合四量体の標識を検出する工程を含む。好ましくは、この方法は生体外での検出方法である。好ましくは、標識は蛍光色素である。T細胞に結合した標識されたMHC II/CIIペプチド複合四量体は、フローサイトメトリーなどの当技術分野では既知の任意の適切な方法によって検出できる。好ましくは、この方法は生体外での方法である。一実施態様では、この方法は、関節炎または関節リウマチに罹患する患者を診断する方法であり、(a)本発明による標識に結合しているMHC II/CIIペプチド複合四量体を提供する工程、(b)MHC II/CIIペプチド複合四量体を対象の試料、好ましくは前記対象の末梢血細胞を含む試料と接触させる工程、および(c)T細胞に結合したMHC II/CIIペプチド複合四量体の標識を検出する工程を含む。T細胞に結合した標識化MHC II/CIIペプチド複合四量体が検出された場合には、患者は関節炎、特に関節リウマチに罹患しているか、発症するリスクがある可能性がある。
上記を考慮して、本発明はさらに以下の項目を包含することが分かる。
項目1
組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物であって、この組成物は、
(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域、
(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域、および
(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含み、
CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG、およびAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
MHC II/CIIペプチド複合体は、翻訳後修飾CIIペプチドを含み、好ましくは、CIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であるか、またはO-グリコシル化Hylである。
項目2
項目1に記載の組成物であって、
(a)MHCクラスIIα鎖の細胞外領域は、α1ドメインおよびα2ドメインを含む、かつ/あるいは、
(b)MHCクラスIIβ鎖の細胞外領域は、β1ドメインおよびβ2ドメインを含む。
項目3
項目1または2に記載の組成物であって、第1のリジン残基は、ガラクトシルヒドロキシリジンである。
項目4
項目1~3のいずれか1項目に記載の組成物であって、CIIペプチドは、リンカーペプチドによってβ1ドメインのN末端に融合されている。
項目5
項目1~4のいずれか1項目に記載の組成物であって、少なくともα1ドメインはDRA*0101に由来し、少なくともβ1ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402、およびDRB1*1303からなる群から選択されるHLA-DR対立遺伝子に由来し、好ましくはDRB1*0401に由来する。
項目6
項目1~5のいずれか1項目に記載の組成物であって、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、好ましくはAGFKGEQGPKGEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEPのアミノ酸配列を含む。
項目7
項目1~6のいずれか1項目に記載の組成物であって、CIIペプチドは、第1のリジン残基のみを含み、さらなるK(any further K)は変異していて、好ましくはR、A、GまたはQ、より好ましくはRに変異している。
項目8
項目1~7のいずれか1項目に記載の組成物であって、
(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域、
(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域、および
(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合したコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、単一の融合ポリペプチドとして発現される。
項目9
項目1~7のいずれか1項目に記載の組成物であって、この組成物は、
(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域を含む第1のポリペプチド、
(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域を含む第2のポリペプチド、および
(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合したコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含む。
項目10
項目9に記載の組成物であって、MHCクラスIIα鎖は、そのC末端でロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第1の機能的ドメインに融合され、かつMHCクラスIIβ鎖は、そのC末端でロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第2の相補的機能的ドメインに融合されている。
項目11
項目10に記載の組成物であって、第1の機能ドメインおよび第2の相補的機能ドメインは、
(a)酸性および塩基性のロイシンジッパーヘテロ二量体化ドメイン、および/または
(b)jun-fosロイシンジッパーモチーフである。
項目12
項目1~11のいずれか1項目に記載の組成物はさらに、CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含み、CIIペプチドの第1のリジン残基は未修飾である。
項目13
翻訳後修飾(例えばO-グリコシル化)CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を生成する方法であって、この方法は、
(a)哺乳動物細胞を
(i)少なくともα1ドメインを含むMHC IIα鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチド、
(ii)少なくともβ1ドメインを含むMHC IIβ鎖の細胞外領域をコードするポリヌクレオチド、および
(iii)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)をコードするポリヌクレオチドであって、ここでCIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG、およびAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、ポリヌクレオチド
で遺伝子導入する工程、
(b)MHC II/CIIペプチド複合体の生成に適する条件で哺乳動物細胞を培養する工程、および
(c)翻訳後修飾CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含む細胞上清および場合によっては細胞を回収する工程を含み、好ましくはここでCIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であり、またはO-グリコシル化Hylである。
項目14
項目13に記載の方法はさらに、MHC II/CIIペプチド複合体のCIIペプチドの翻訳後修飾、好ましくはグリコシル化特性を分析する工程を含む。
項目15
項目13または14に記載の方法であって、第1のリジン残基は、ガラクトシルヒドロキシリジンである。
項目16
項目13~15のいずれか1項目に記載の方法であって、哺乳動物細胞は、
(a)リジンをヒドロキシリジン(Hyl)にヒドロキシル化すること、かつHylをガラクトシルヒドロキシリジン(Gal-Hyl)にガラクトシル化することを含む、コラーゲン中のリジン残基を翻訳後修飾する酵素を含む、かつ/あるいは
(b)リジン水酸化酵素およびコラーゲンガラクトース転移酵素、好ましくはリジン水酸化酵素1(LH1)および/またはリジン水酸化酵素2(LH2)およびコラーゲンガラクトース転移酵素GLT25D1および/またはGLT25D2、好ましくはGLT25D1を含む。
項目17
項目16に記載の方法であって、細胞は、
(a)腎細胞、線維芽細胞、または骨芽細胞、好ましくは腎細胞、より好ましくはHEK 293細胞株である、あるいは
(b)リジン水酸化酵素およびコラーゲンガラクトース転移酵素、好ましくはリジン水酸化酵素1(LH1)および/またはリジン水酸化酵素2(LH2)およびコラーゲンガラクトース転移酵素GLT25D1および/またはGLT25D2を組換え発現する遺伝子操作細胞である。
項目18
項目13~17のいずれか1項目に記載の方法であって、哺乳動物細胞は、
(a)ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性を欠いている、
(b)多機能酵素であるLH3を欠いている、あるいは
(c)ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性を欠く変異性LH3酵素を含む。
項目19
項目18に記載の方法であって、哺乳動物細胞は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素活性が低下するか、またはその活性が無いように遺伝子操作され、好ましくは
(a)LH3をコードするPLOD3遺伝子は、変異しているか、または排除されている、
(b)LH3酵素は、ガラクトシルヒドロシリシルグルコース転移酵素活性を欠く変異性LH3酵素である、あるいは
(c)LH3の発現は、RNA干渉によって阻害される。
項目20
項目13~16のいずれか1項目に記載の方法はさらに、工程(b)に従って哺乳動物細胞を培養する間にカルミン酸を添加することを含む。
項目21
項目13~20のいずれか1項目に記載の方法であって、
(a)MHCクラスIIα鎖の細胞外領域は、α1ドメインおよびα2ドメインを含む、かつ/あるいは
(b)MHCクラスIIβ鎖の細胞外領域は、β1ドメインおよびβ2ドメインを含む。
項目22
項目13~21のいずれか1項目に記載の方法であって、CIIペプチドは、β1ドメインのN末端に融合している。
項目23
項目13~22のいずれか1項目に記載の方法であって、少なくともα1ドメインはDRA*0101に由来し、少なくともβ1ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402、およびDRB1*1303からなる群から選択されるHLA-DR対立遺伝子に由来し、好ましくはDRB1*0401に由来する。
項目24
項目13~23のいずれか1項目に記載の方法であって、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、好ましくはAGFKGEQGPKGEP、より好ましくはGEPGIAGFKGEQGPKGEPのアミノ酸配列を含む。
項目25
項目13~24のいずれか1項目に記載の方法であって、CIIペプチドは、第1のリジン残基のみを含み、さらなるK(any further K)は変異していて、好ましくはR、A、GまたはQ、より好ましくはRに変異している。
項目26
項目13~25のいずれか1項目に記載の方法であって、
(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域、
(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域、および
(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合したコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、単一のポリヌクレオチドによってコードされて単一の融合ポリペプチドを発現する。
項目27
項目13~25のいずれか1項目に記載の方法は、
(a)少なくともα1ドメインを含むMHCクラスIIα鎖の細胞外領域をコードする第1のポリヌクレオチド、
(b)少なくともβ1ドメインを含むMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域をコードする第2のポリヌクレオチド、および
(c)リンカーペプチドによってMHCクラスIIα鎖またはMHCクラスIIβ鎖のN末端に融合したコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)をコードするポリヌクレオチドを含む。
項目28
項目27に記載の方法であって、MHCクラスIIα鎖は、そのC末端でロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第1の機能的ドメインに融合され、かつMHCクラスIIβ鎖は、そのC末端でロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第2の相補的機能的ドメインに融合されている。
項目29
項目28に記載の方法であって、第1の機能ドメインおよび第2の相補的機能ドメインは、
(a)酸性および塩基性のロイシンジッパーヘテロ二量体化ドメイン、および/または
(b)jun-fosロイシンジッパーモチーフである。
項目30
項目13~29のいずれか1項目に記載の方法であって、回収された細胞上清および場合によっては回収された細胞はさらに、CIIペプチドを含むMHC II/CIIペプチド複合体を含み、CIIペプチドの第1のリジン残基は未修飾である。
項目31
項目13~30のいずれか1項目に記載の方法によって得られる翻訳後修飾CIIペプチドを含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体であって、好ましくは、CIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であるか、またはO-グリコシル化Hylである。
項目32
項目13~30のいずれか1項目に記載の方法によって得られる翻訳後修飾CIIペプチドを含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含む組成物であって、好ましくは、CIIペプチドの第1のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であるか、またはO-グリコシル化Hylである。
項目33
慢性炎症性疾患の治療に使用する項目1~12および32のいずれか1項目に記載の組成物。
項目34
慢性炎症性疾患の治療に使用する項目31に記載の組換えMHC II/CIIペプチド複合体。
項目35
項目33に記載の使用のための組成物または項目34に記載の使用のための組換えMHC II/CIIペプチド複合体であって、慢性炎症性疾患は、関節リウマチ、骨関節炎、乾癬性関節炎、非X線撮影性軸性脊椎関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎、再発性多軟骨炎、全身性エリテマトーデス、ライム病、メニエール病、自己免疫性内耳疾患(AIED)、またはスティル病である。
項目36
項目1~12および32のいずれか1項目に記載の組成物の組換えMHC II/CIIペプチド複合体、あるいは項目31に記載の翻訳後修飾CIIペプチドを含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を含むMHC II/CIIペプチド複合四量体。
項目37
項目36に記載のMHC II/CIIペプチド複合四量体であって、この四量体は、組換えMHC II/CIIペプチド複合体に結合する多量体化分子、好ましくはストレプトアビジンを含む。
項目38
項目37に記載のMHC II/CIIペプチド複合四量体であって、組換えMHC II/CIIペプチド複合体のそれぞれは、少なくとも1つの共有結合したN末端ビオチンを含む。
項目39
項目37~38に記載のMHC II/CIIペプチド複合四量体であって、多量体化分子は、標識、好ましくは蛍光色素に結合している。
項目40
MHC II/CIIペプチド複合四量体を調製する方法であって、この方法は、
(a)項目1~12および32のいずれか1項目に記載の組成物、または項目31に記載の翻訳後修飾CIIペプチドを含み、かつ少なくとも1つのN末端ビオチン化を含む組換えMHC II/CIIペプチド複合体を提供する工程、
(b)この組成物を、多量体化分子、好ましくはストレプトアビジンと接触させる工程、および
(c)場合によっては、ストレプトアビジンに結合した4個のMHC II/CIIペプチド複合体を含む四量体を単離する工程を含む。
項目41
項目40に記載の方法であって、多量体化分子は、標識、好ましくは蛍光色素に結合している。
項目42
所定の抗原に特異的なT細胞を検出かつ/あるいは定量する生体外での方法であって、この方法は、
(a)項目39に記載のMHC II/CIIペプチド複合四量体を提供する工程、
(b)このMHC II/CIIペプチド複合四量体を、対象の試料、好ましくは前記対象の末梢血細胞を含む試料と接触させる工程、および
(c)T細胞に結合したMHC II/CIIペプチド複合四量体の標識を検出する工程を含む。
項目43
項目42に記載の生体外での方法であって、標識は蛍光色素であり、T細胞に結合したMHC II/CIIペプチド複合四量体は、フローサイトメトリーによって検出される。
項目44
生体外で抗原特異的T細胞を検出するための項目1~12に記載の組成物、または項目36~39に記載のMHC II/CIIペプチド複合四量体の使用。
【実施例
【0108】
試験材料および製剤
(合成Galペプチド:GIAGFK(Gal-Hyl)GEQGPKGEP負荷)Aq/galCIIまたはDR4/galCIIと(非修飾ペプチド:GIAGFKGEQGPKGEP;配列番号13負荷)Aq/nCIIまたはDR4/nCII:Aq-mCLIPmtタンパク質を、HEK 293細胞株(Expi293F細胞、Gibcoカタログ番号A14527)またはCHO細胞(図4)中で一過性の遺伝子質導入により発現させ、Hisタグを用いる固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)とサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の組合せを用いて精製した。次に共有結合したプレペプチドを、トロンビン切断および過剰なGalペプチドまたは非修飾ペプチドの付加によって置換した。最後にSECを実行して、切断されたプレペプチドと過剰なGalペプチドまたは非修飾ペプチドを除去した。Galペプチド:GIAGFK(Gal-Hyl)GEQGPKGEPは、Diogo, D. et al., Curr Opin Rheumatol. 2014; 26: 85-92;Gregersen PK et al., Arthritis Rheum. 1987;30:1205-1213;およびDuke O et al., Clin Exp Immunol. 1982;49:22-30に記述のように、合成・精製し、かつ特性評価した。
【0109】
天然にグリコシル化されたマウスAq/rCIIおよびヒトDR4/hCII:天然にグリコシル化されたマウスAq/rCIIおよびヒトDR4/hCIIタンパク質を、HEK 293細胞株(Expi293F細胞、Gibcoカタログ番号A14527)中で一過性の遺伝子導入により発現させ、Hisタグを用いる固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)とサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の組合せを用いて精製した。生体内の実験では、MHC IIペプチド複合体を滅菌PBS(Gibco)中で所望の濃度に希釈し、DynaGard 0.2 μmシリンジチップフィルターを用いて濾過し、かつ100 μLのタンパク質溶液をALZET微小浸透圧ポンプ(DURECT Corporation、1007D型、0.5 μL/h、7日間)内に滅菌技術を用いて充填した。ポンプは手術用手袋を用いて操作した。材料の即時の圧送を確実にするために、事前に充填したポンプを移植前に4℃で一晩PBS中に置いた。
【0110】
より具体的には、図1に示す複合体の2本の鎖をコードするcDNAを、5’末端および3’末端でKpnIおよびXhoI制限部位によりEurofinsで合成した。合成したcDNAを、制限酵素KpnIおよびXhoI(FastDigestTM、ThermoFisher Scientific)を用いて消化した。消化済みのDNAの断片を、同じ制限酵素でさらに消化した後に、哺乳動物の発現ベクターpCEP4(Life Technologies)内に別々にクローンした。配列の確認後に、複合体の2本の鎖をコードする2本の組換えプラスミドを、FectoPROTMDNA遺伝子導入試薬(Polyplus transfection)を用いてExpi393FTM細胞内に共に遺伝子導入した。遺伝子導入の6日後に上清を回収した。組換えタンパク質を、まず5 mLのHisTrap Excel(GE Healthcare Life Sciences)アフィニティーカラムを用いて捕捉し、続いてSuperdex 200 pg(GE Healthcare Life Sciences)でサイズ排除クロマトグラフィーを実施した。組換えタンパク質を単一のピークとして精製・濃縮して、10 kDaのMWCOによりAmicon遠心分離装置を用いてビオチン化緩衝液(20 mMのTris-HCl、50 mMのNaCl、pH 8.0)中に透析濾過した。ビオチン-タンパク質連結酵素を用いるビオチン化は、製造元の指示書(Avidity)に従って実行し、反応は30°Cで2時間実施した。遊離したビオチンを、Superdex 200 pgカラムでのサイズ排除クロマトグラフィーによって除去した。
動物
【0111】
12~16週齢のオスのQBマウス(B10.Q × BALB/c、n=9)F1を実験に用いた。B10.Qマウスの始祖は、元はJ. Klein(Tubingen, Germany)から提供され、BALB/cマウスはJackson Laboratoryから購入した。全てのマウスを、Medical Inflammation Research(Karolinska Institutet)の動物施設で飼育・収容した。用いた全ての動物には、標準的なげっ歯動物用飼料を与え、水分を自由に与えた。実験の偏りを最小限に抑えるために、他の実験群も共に収容した。地元の倫理委員会(Stockholms Norra Djurforsoksetiska Namnd, Stockholm, Sweden)は、全ての動物実験を承認した。生体内での関節炎の全実験は、倫理番号N213/14およびN35/16の適用範囲にあった。動物の麻酔は、イソフルラン吸入により達成し、殺傷はCO2で実施した。
関節炎の誘発と臨床評価
【0112】
ラットコラーゲンII型(rCII)を、Chavele KM and Ehrenstein MR, FEBS Lett. 2011; 585:3603-10に説明されるように、制限されたペプシン消化およびさらなる精製によって、可移植性軟骨肉腫(可移植性ラット軟骨肉腫、SRC)から調製した。調製したrCIIは使用するまで4℃で保存した。コラーゲン誘発関節炎(CIA)を誘発するために、各マウスに、CFA(Difco)中に1:1で乳化した100 μgのrCIIを総量100 μLで尾の付け根に注射した。35日後に、IFA(Difco)中に1:1で乳化した50 μgのラットCIIを総量50 μLでマウスに追加注射した。免疫化の2週間後に開始して実験が終了するまで継続して、全ての足での炎症を起こした関節の数に基づいて動物を視覚的に得点化することにより、臨床関節炎の発症を追跡した。Klareskog L et al., Annu Rev Immunol. 2008;26: 651-75に説明されている長期に亘る得点化の手法を用いた。この手法では、各足で1~15の範囲で得点化して、1匹のマウス当たり最高得点は60となる。免疫化後の90日間に亘って、マウスを週に2~4回検査した。
治療手順
【0113】
種々の量の天然グリコシル化Aq/rCII(n=9)またはPBS(対照群、n=9)のいずれかを放散するALZET微小浸透圧ポンプを、免疫後7日目にQBマウスの皮下に移植した。外科的移植手順中には滅菌技術を用いた。皮下への配置のために、肩甲骨の間の皮膚を小さく切開して小さな凹部を形成して、流量調節器が切開部から離れた方向となるようにポンプを凹部内に挿入した。創傷クリップを用いて皮膚の切開部を閉じた。
【0114】
臨床的関節炎の治療において、マウスへの100 μgの単回皮下注射は、15 μg/日で7日間連続のポンプ注入とほぼ同等に効果的であった。しかしながら、長期に亘る治療は、治療されたマウスのリンパ節T細胞のFACS分析からの証明として、調節性TR1細胞の誘導にはより効果的であるように思われた。
DTH
【0115】
ラットCII/CFA(rCII)で予備免疫したQBマウスで、免疫化後8日目にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に溶解した10μgのrCIIを左耳に皮内注射した。対照として、右耳には溶媒を注射して、24時間後に動物の治療を知らされていない研究者がノギスを用いて耳の腫れを測定した。rCIIによる免疫化の4日後に移植された浸透圧ポンプを用いて、100 μgのAq/ペプチド複合体の24時間の投与を通して治療を実行した。試験群は、Aq/mCLIPmt(n=6)、Hisタグ含有Aq/galCII(His、n=5)、およびHisタグ不含Aq/galCII(w/o His、n = 5)であった。
T細胞ハイブリドーマ測定
【0116】
MHC II/ペプチド複合体を滅菌PBS中で希釈して、4℃で一晩培養してプレート上に被覆するか、T細胞ハイブリドーマに可溶性形態で直接添加した。次にMHC II/ペプチド複合体で被覆されたプレートを滅菌PBSで2回洗浄して、未結合の複合体を除去し、5%のFCS、100 IU/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシンを補充した200μLのDMEM中の5×104個のTハイブリドーマ細胞をウェル毎に添加した。GalOK264および非修飾CII259~273(K264)にそれぞれ特異的なT細胞ハイブリドーマ3H8およびmDR1.1を使用した。24時間後に、培養液上清中のIL-2または(一部の実験では)IL-10を、サンドイッチELISA法(BioLegend)により測定した。マウスrIL-2またはrI-10は、それぞれ陽性対照および標準として機能した。
【0117】
Tハイドリドーマ細胞を用いる刺激実験を、マイクロタイターウェルで以下の種々の条件で実施した。それらの条件は、1)組換えDR4/CIIペプチド複合体で予備被覆されたマイクロタイターウェル;2)ヒアルロナン(Sigma Aldrich(#H7630))またはコンドロイチン硫酸(SigmaAldrich(#C9819))かつ引き続き液相で添加したD R4/CIIペプチド複合体で被覆されたマイクロタイターウェル:ここで、この設計は、DR4/CIIペプチド複合体によるT細胞活性化に対する両方の成分の潜在的な相互作用の影響を検討するために選択され、かつ組織および流入リンパ系内の細胞外基質(ECM)中で生理学的に発現される結合組織成分とDR4/CIIペプチド複合体との相互作用を模倣する;または3)溶質ECM成分であるヒアルロナン、コンドロイチン硫酸塩、またはヘパリン硫酸塩、ならびにDR4/CIIペプチド複合体が、関節滲出液またはリンパ液などの病変組織区画の体液中のT細胞機能の調節用モデルとしてTハイドリドーマ細胞へのそれらの影響を検討するために添加される、区画化表面を有するマイクロタイターウェルである。
MHC II四量体染色による抗原特異的T細胞の検出
【0118】
MHC II/ペプチド複合四量体を、PE標識ストレプトアビジンおよびAPC標識ストレプトアビジン(Biolegend)を1:4のモル比で組換えタンパク質に添加しかつ+4℃で1時間培養して新たに調製した。ペプチド特異的Tリンパ球を同定するために、細胞をDR4/ペプチド複合四量体(20μg/mL)とともに小分子タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤である50 nMのダサチニブの存在下で+37°Cで1時間培養し、その後に細胞表面マーカーの染色を実施した。死滅細胞を分析から排除するために、回収直前に生死判定染色液(Zombie NIR; Biolegend)を添加した。試料を、FacsDiVaソフトウェア(BD Biosciences)を用いるLSR Fortessaフローサイトメーターを使用して取得して、データをFlowJo Software(v10, FlowJo LLC)で分析した。
CIIペプチド刺激によるヒトT細胞の活性化
【0119】
PBMCを解凍し、TexMACS(Biolegend)中に1.5×106細胞/ウェルで一晩保持した。細胞を、50 μg/ mL濃度のペプチド変異体GIAGFKGEQGPKGEP(配列番号13)およびGIAGFK(Gal-Hyl)GEQGPKGEPのそれぞれにより、1 μg/mLの抗CD28(BioLegend)とともに7時間刺激した。陽性対照およびCD154測定感度の測定のために、ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)を1 μg/mL(Sigma-Aldrich)で別々の培養物に添加した。刺激後に細胞を生死判定識別マーカー(BioLegend)で処理して、次いで陽性判断のためのCD3およびCD4の表面発現に対し、かつB細胞の排除のためのCD19に対して染色した。バックグラウンド水準を、(抗CD28で処理された)非刺激細胞によって決定し、CII刺激の培養物からさらに減算した。試料は、FacsDiVaソフトウェア(BD Biosciences)を用いるLSR Fortessaフローサイトメーターを使用して取得し、データはFlowJo Software(v10, FlowJo LLC)で分析した。
HLA-DRB1*0401陽性の関節リウマチ患者の末梢血からのT細胞の生体外での刺激/分化
【0120】
制御性T細胞機能の誘導/分化、例えば数日間の長期培養期間に亘るDR4/CIIモノマーでの刺激によるTr1表現型関連サイトカインであるIL-10の上方制御を分析するために、生体外測定を実施した。従って、PBMCを高密度勾配遠心分離によって単離し、TexMACS(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-097-196)の1.2×106細胞/mLの細胞を、1μg/mLの抗CD3(Biolegend、カタログ番号317304)および100 ng/mLのIL-27(Peprotech、カタログ番号200-38B)(陽性対照、Tr1)、3.6μg/mLのDR4/nCII、3.6μg/mLのDR4/galCII、3.6μg/mLのDR4/hCIIで刺激し、あるいは刺激せずに8日間放置した(陰性対照、w/o)。刺激は2回繰り返した。8日目に培養上清を回収して、製造元の手順書に従って複合ビーズに基づくLEGENDplexTM測定でヒトサイトカインを検出するための特注品パネルを用いて、放出されたサイトカインを分析した。
結果
実施例1:HEK 293細胞内での機能的に活性なAq/rCIIの生成
【0121】
過去の実験では、合成ガラクトシル化CII259~273ペプチドを負荷したAq分子による2回の静脈内注射により、マウスを関節炎の発症から保護できることが確認されている。但しガラクトシル化CII259~273の合成には、時間と費用の両方を浪費する。さらに組換えMHCクラスII分子への合成ペプチドの負荷は、容易でもなく費用対効果も良くない。従って、その場でのヒドロキシル化とそれに続くガラクトシル化によってCIIペプチド内の264位のリジン側鎖の適切な翻訳後修飾を確実にする、宿主細胞内のMHC II鎖の1つに融合した共有結合CII259~273ペプチド(図1)を含むMHC II分子の単工程生成を可能にする生合成プロセスを確立することは非常に有益なことであると思われる。しかしながら、翻訳後コラーゲンペプチドの修飾は、それぞれの酵素活性、すなわちリジン水酸化酵素活性およびコラーゲンβガラクトース転移酵素活性の存在に依存する。例えば、大腸菌で産生されたタンパク質は、通常そのような修飾を示さず、一部の昆虫細胞はリジン残基をヒドロキシル化する能力を保有するが、それら細胞は、ヒドロキシリジンのO-結合グリコシル化を含むCIIペプチドを産生しない。さらに必要な酵素活性を提供する宿主細胞が、非コラーゲン性MHC IIタンパク質配列のフレーム内でCIIペプチドの選択的アミノ酸位置での必要な修飾を実際に提供できるかどうかは不明であった。
【0122】
以下に、Aq/rCII(259~273)複合体がHEK 293細胞内で発現できること、および精製された複合体が共有結合したCIIペプチド(CII259~273)を含み、264位のリジンが翻訳後修飾されることを初めて示す。本発明者らは、CIIペプチドのリジン側鎖の修飾の種類を分析し、かつ精製されたその場ガラクトシル化Aq/rCII(259~273)複合体が、ガラクトシル化CII259~273ペプチドを負荷した組換えAq分子で観察されるのと同様に、コラーゲン誘発関節炎マウスモデルで保護可能であるかどうかを解析した。HEK 293で生成されたAq/rCII(259~273)複合体の治療能力を試験するために、免疫化の1週間後に皮下に移植された浸透圧ポンプを使用した。浸透圧ポンプは、Aq/rCII(259~273)複合体が一定濃度で循環を維持し、長期間に亘って生体内での寛容性の誘導に利用できるので、静脈内注射よりも有効である。24時間、7日間、または6週間に亘って内容物を放出する3つの異なる種類のポンプを比較すると、合成ガラクトシル化CIIペプチドが負荷されたAq分子を含む場合に、3つのポンプ全てが関節炎からの保護を媒介することが分かった(データは示さず)。しかし7日間の徐放性ポンプを使用すると、24時間ポンプに比較して、調節能力を有するCII特異的T細胞の増殖により強く関連する保護を媒介することが分かった(データは示さず)。理論に拘束されることなく、低用量での遅い放出速度は、制御性T細胞の増殖をもたらす可能性があり、一方ではより高い用量のより速い放出は、病原性T細胞の枯渇をもたらす可能性がある。但し観察された差異は、長時間の曝露によっても説明でき、これにより、(低頻度で発生する)CII特異的T細胞が、循環から排除される前にAq/rCII(259~273)複合体と相互作用する見込みが高くなる可能性がある。以下に説明する実験を、7日間に亘ってそれら内容物を放出する浸透圧ポンプを用いて実施した。
【0123】
Aq/rCII(259~273)複合体がHEK 293細胞内で生成された際にいずれの翻訳後修飾が存在するかを評価するために、CII259~273エピトープに対して異なる特異性を持つAq制限T細胞ハイブリドーマクローンを、精製された複合体により生体外で刺激した(図2)。
【0124】
対照のMHC II/CII複合体を、リジン側鎖のO-結合型グリコシル化の点で翻訳後修飾を産出する能力が著しく損なわれているS2昆虫細胞で生成した。予測通りに、264位に非修飾またはヒドロキシル化リジンを有するCII259~273ペプチドを認識するHCQ.4クローンのみが、S2昆虫細胞内で生成されたAq/rCII(259~273)複合体に応答した。対照的に全てのCII特異的クローンは、HEK 293細胞内で生成されたAq/rCII(259~273)複合体に応答した。使用したT細胞ハイブリドーマクローンのその他の特異性は次の通りである:HCQ3(CII、Gal-HK264)、HCQ.4(CII、未修飾およびHK264)、HCQ.11(Glc-Gal-HK264)、HM1R.2(CII、Gal-HK264およびGal-HK264+270)、HP3(Aq制限ペプシンペプチド)。これは、HEK 293細胞で生成された場合に、264位が実際に翻訳後修飾される可能性があることを示している。さらに得られる複合体は不均質であり、264位には非修飾および/またはヒドロキシル化リジン、ならびに単糖および二糖の両方を有するグリコシル化リジンが含まれる。ペプシンペプチドに特異的なAq制限クローンHP3は、いずれのAq/rCII(259~273)複合体にも応答しなかった。
実施例2:マウスコラーゲン誘発関節炎モデルでのその場グリコシル化Aq/rCII
【0125】
免疫賦活剤中のCIIで免疫化されたマウスに、(最初の免疫化の35日後の追加免疫後の)7日後に、3つの異なる量のHEK 293産生Aq/rCII(259~273)複合体を負荷した浸透圧ポンプを移植し、関節炎の発症を追跡した。陰性対照としてPBSのみを負荷したポンプをマウスに移植した。図3Aに示すように、Aq/rCII(259~273)複合体は用量依存的に保護を付与し、最高量のAq/rCII(259~273)複合体(100μg)で治療したマウスは、関節炎の発症から完全に保護された。中間量(50μg)のAq/rCII(259~273)複合体で治療したマウスはある程度の保護を示したが、最低量(10μg)での治療は、PBSで治療した対照と同等の関節炎の発生頻度をもたらした。
実施例3:HEK 293細胞での機能的に活性なDR4/hCIIの生成
【0126】
本発明者らは、機能的なマウスMHC II/CII複合体(Aq/rCII)が、宿主細胞のその場グリコシル化機構を用いてHEK 293細胞内で調製できることを証明した。次に細胞のその場グリコシル化機構を用いて、HEK 293細胞内でヒトMHC II/CII複合体を調製できるかどうかを調べた。この複合体は、HEK 293細胞内で上記のように調製された。対照の複合体は、CHO細胞内で発現され、未修飾ペプチド(DR4/nCII)またはガラクトシル化ペプチド(DR4/galCII)を負荷された。2つの活性化制限ヒトT細胞ハイブリドーマ(3H8:未修飾CIIエピトープ、mDR1.1:ガラクトシル化CIIエピトープ)を用いて、未修飾ペプチドまたはガラクトシル化ペプチドのいずれかを負荷したDR4/ペプチド複合体に対比して、自然にグリコシル化されたDR4/ペプチド複合体(DR4/hCII)のガラクトシル化状態を調べた。図4Aに示すように、T細胞ハイブリドーマmDR1.1は、DR4/galCII複合体による刺激で活性化するが、DR4/nCIIによる刺激では殆ど陰性のままである。DR4/galCIIおよびDR4/nCIIに比較すると、DR4/共有結合CII(DR4/hCII)は、ガラクトシル化状態に関しては不均質な生成物である。このことは、DR4/hCII複合体を含む組成物が、264位にガラクトシル化リジン残基および未修飾のリジン残基を有するペプチドを含むことを意味している。DR4/hCIIで刺激された細胞の活性化水準は、DR4/galCII複合体と比較して僅かに低く、(3H8細胞を用いる図4Bに示すように)DR4/nCII複合体に非常に類似している。
実施例4:ヒトでのCIIペプチド特異的T細胞の検出
【0127】
ここでの目的は、四量体に基づく、関節リウマチ患者および健康なドナーの末梢血(PBMC)中の抗原特異的T細胞を直接検出する方法を確立することであった。従ってビオチン化DR4/CIIペプチド複合体を、ストレプトアビジン-PEまたはストレプトアビジン-APCのいずれかで培養した。四量体の非特異的結合を低減するために、2つの蛍光色素を用いて二重に四量体染色を実施した。DR4/galCII四量体を用いる抗原特異的T細胞(CII259~273、K264gal)は、関節リウマチ患者ならびに健康なドナーで検出できる(図5A)。さらに未修飾のCIIペプチドに特異的なT細胞は、DR4/nCII四量体を用いて検出できる(図5B)。抗原特異的T細胞の平均発生頻度は、DR4/galCII四量体またはDR4/nCII四量体と比較して、天然にグリコシル化されたDR4/hCII四量体を用いる方が高くなる(図5B)。末梢血中の抗原特異的T細胞の発生頻度は非常に低いので(0.01~0.1%)、観察された数は予測の通りである。
【0128】
活性化したCD4+T細胞はまた、CD154(CD40L)表面染色をT細胞活性化のマーカーとして用いるフローサイトメトリーによるgalCIIペプチド刺激後のHLA-DRB1*0401関節リウマチ患者のPBMC中で検出された(図6)。陽性対照として、細胞をまた超抗原SEBと培養して、活性化マーカーであるCD154の強力な上方制御をもたらした(データは示さず)。対照的に、共刺激CD28に対する抗体のみで培養した細胞は、大部分は陰性であった(データは示さず)。抗原特異的T細胞集団の予測発生頻度は末梢血内では極めて低いので、0.01~0.1%のCD154+T細胞(親集団:CD3/CD4生T細胞)の検出は満足のいくものである。注目すべきは、未修飾の(裸の)CIIペプチドを使用するとT細胞の活性化が低下するという事実である。DR4/galCIIまたはDR4/nCII四量体染色を用いる抗原特異的T細胞の数は、HLA-DRB1*0401関節リウマチ患者のPBMCで類似していたので(図5)、ペプチドの活性化後に観察された差異は、活性の差異またはそれぞれのT細胞の機能状態によるものと思われる。
実施例5:HLA-DRB1*0401陽性関節リウマチ患者の末梢血からのT細胞の生体外での刺激/分化
【0129】
制御性T細胞機能の誘導/分化、例えばDR4/CIIモノマーで8日間の長期培養期間に亘って刺激した際のTr1表現型関連サイトカインIL-10の上方制御を調査するために、生体外検討を実施した。従って、遺伝子型が決定されたHLA-DRB1*0401陽性関節リウマチ患者から単離されたPBMCを、抗CD3およびIL-27(陽性対照、Tr1)、DR4/nCII(3.6μg/mL)、DR4/galCII(3.6μg/mL)を有するTr1細胞誘導条件下で8日間刺激するか、あるいは刺激しなかった(陰性対照、K1)。刺激は2回繰り返した。8日目に培養上清を回収して、製造元の手順書に従って、複数ビーズに基づくLEGENDplexTM測定方式でヒトサイトカイン用の特注品パネルを用いて、サイトカイン放出を分析した。図7に示す結果は、DR4/nCIIおよびDR4/galCIIが関節リウマチ患者からのPBMC中で抗炎症性サイトカインIL-10の放出を誘発し、かつ8日間の従来からのTR1誘発条件下で培養された陽性対照に比較して僅かに高い水準での放出を誘発する能力を明確に示している。TNF-α、IL-2、IL-17a、IL-17f、またはIFN-γなどの炎症促進性サイトカインの生成の増加に繋がる経路の同時活性化の証拠は存在しない。
実施例6:DR4/CIIペプチド複合体中のHisタグ:薬理効果への寄与
【0130】
組換え複合体のT細胞活性化特性へのポリヒスチジンタグ(Hisタグ)、ビオチン化部位、TEV切断部位、トロンビン切断部位、およびstrepタグの寄与を含み、MHC II/CII複合体に直接的に必須ではない配列を構築物から排除可能かどうかを調査した。典型的には、DR4/CIIペプチド複合体ならびに抗CD3抗体(陽性対照)は、標準的なハイブリドーマ活性化測定ではマイクロタイターウェルのプラスチック表面に被覆される。最初の実験では、本発明者らは、DR4/nCIIペプチド複合体の内部TEV切断部位を用いて、マイクロタイターウェルに被覆された未切断のDR4/hCIIペプチド複合体に比較してIL-2分泌によって測定されたTハイブリドーマ細胞(3H8)の活性化に対するHisタグのタンパク質分解切断の影響を調査した。タンパク質分解切断の効力は、ウエスタンブロット分析によって制御された。さらに、切断および非切断の複合体での等モル溶液を用いるマイクロタイターウェルの同等の被覆効力が、DR4特異的抗体および過酸化酵素結合二次抗体を用いるELISAによって確認された(図8)。これによりまた、複合体は解離せずにヘテロ二量体として存在することを確認した。Tハイブリドーマ細胞のTCRによって認識されるDR4/nCII複合体の機能ドメインはプラスチック表面に類似の効力で被覆されているが、本発明者らのデータでは、Tハイブリドーマ細胞の活性化において切断された構築物の大幅な減少を示している(図8)。ジッパーの切断が複合体の解離を引き起こす可能性は殆どない。ジッパーは主に生合成プロセス中の複合体の形成に必要であるが、形成されたMHC IIペプチド複合体自体は、両方の鎖の変動領域によって形成される結合溝に結合したペプチドの安定化効果により、少なくとも生体外ではかなり安定である。
【0131】
本発明者らは、未切断のDR4/nCII複合体のHisタグは、帯電した接触面をプラスチック表面に優先的に接触させることにより、ペプチド結合溝をT細胞に向かって露出する多量体配列での表面上の複合体の正確な配向には必要であると結論付けた。この結論を確証するために、MHCクラスIIβ鎖のカルボキシ末端にHisタグ(6His)のみを欠くDR4/hCIIΔHis複合体を生成したが、それ以外はDR4/hCII複合体と同一であり、すなわちJUN/FOSヘテロ二量体化ドメインを含む(図1での比較)。ヒスチジンの正帯電した官能イミダゾール基による静電相互作用の関与へのさらなる制御として、DR4/hCII複合体のさらに変異した組換え変異体を調製し、この変異体では、Hisタグは負帯電したアミノ酸残基の三量体であるAsp-Glu-Asp(DED)(DR4/hCII_DED)で置換されていた。さらに、非生理学的材料のプラスチックを、細胞表面に、滑膜滲出液やリンパ液などの細胞外体液中に、ならびに関節、軟骨、または滑膜などの組織中に存在する荷電細胞外基質(ECM)成分(コンドロイチン硫酸、ヘパリン硫酸、ヒアルロナン)で置換した。この目的のために、まずマイクロタイターウェルを、コンドロイチン硫酸、ヘパリン硫酸、およびヒアルロナン溶液の高濃度溶液(10 mg/mL)で被覆した。被覆された表面を徹底的に洗浄し、DR4/CIIペプチド複合体を液相に添加することにより、上清中のIL-2濃度を読出し値として用いて3H8ハイブリドーマ細胞の生体外刺激実験を実施した。対照として、ECM成分の不在下で表面が遮断されたマイクロタイタープレートで並行実験を実施した。図9Aに示す結果は、これらの条件下では、Hisタグを含む複合体のみが強いIL-2応答を誘導して、T細胞を活性化するその能力は、マイクロタイターウェルの表面に被覆されたコンドロイチン硫酸に顕著に依存しているように見受けられ、一方で、ヒアルロンナン(HA)の影響はそれ程顕著ではなく(図9B)、ヘパリン硫酸では殆ど検出されなかった(図9C)ことを示している。可溶性DR4/hCII_DEDの対照複合体は、マイクロタイターウェルのコンドロイチン硫酸で被覆された表面の存在下でIL-2応答を誘発しなかった(図9A)。しかしながら、ヘパラン硫酸は同様に高度の負帯電した硫酸基を含むが、溶質Hisタグ付きDR4/hCII複合体によって刺激された3H8ハイブリドーマ細胞のIL-2応答を顕著に促進するようには思われないので、Hisタグ付き複合体の観察された効果は、ポリヒスチジンタグの正帯電したイミダゾール基を介するポリ硫酸化アニオン性グリコサミノグリカンの静電相互作用によっては容易に説明することはできない。従って、これらの結果は、ポリヒスチジンタグとコンドロイチン硫酸基質との特異的な相互作用が、溶解したDR4/hCII複合体で刺激された3H8ハイブリドーマ細胞によるIL-2応答を増大させることを示唆している。
【0132】
種々のDR4/hCII構築物を3つの異なる濃度(0.01 mg/mL、0.1 mg/mL、および1 mg/mL)でプラスチック表面に直接被覆することを用いる並行Tハイブリドーマ細胞刺激実験において、最初にTevで切断されたDR4/nCII複合体で得られる結果を確認した。DR4/hCIIΔHis複合体および変異DR4/hCII_DED複合体によりIL-2応答を誘発する能力は、被覆に0.1 mg/mLおよび1 mg/mLを使用した場合には大幅に低下した。但し、被覆濃度が10分の1の未修飾複合体(DR4/hCII)に匹敵する水準の被覆では、1 mg/mLを用いた場合に応答が観察された(図10)。
【0133】
しかしながら、これら実験はまた、全ての構築物でDR4結合溝に機能性ペプチドを保持することが、3H8ハイドリドーマ細胞のTCR活性化の必要条件であることを示している。従って、本発明者らの検討では、DR4/CII複合体でのHisタグが複合体の活性を改善するという明白な証拠を提供している。理論に拘束されることなく、HisタグはECM成分であるコンドロイチン硫酸との相互作用に及ぼす影響を介してTCR認識のためのペプチド結合溝の空間的配向の改善を提供するように思われる。さらに、図11に示すその後の検討では、Hisタグを含むDR4/CII複合体と、プラスチック表面が遮蔽されたマイクロタイターウェル内の固相のコンドロイチン硫酸またはヒアルロナンとの相互作用が、Tハイブリドーマ細胞によってIL-10応答を刺激するその能力を増強できることを示している。
【0134】
生体外データは、DR4/CII複合体でのその免疫調節薬理効果におけるHisタグの重要な機能的役割を裏付けている。さらに、Aq発現QBマウスでのT細胞依存性CII誘発性過敏反応のモデルを用いる生体内での検討を実施した。CII予備免疫化マウスは、免疫後8日目に片方の耳への皮内CII注射によって誘発されて、反対側の耳に適用された媒体誘因によって制御されるT細胞依存炎症性の腫れを発症した。DTH反応の誘発の前に、マウスは、免疫後4日目にAq/galCII複合体を含むHisタグ、Hisタグ不含のAq/galCIIΔHis複合体、または結合溝内に結合した対照ペプチド(クラスII関連不変鎖:CLIP)を含む対照Aq/CLIP複合体のいずれかの24時間での皮下ポンプ注入による治療を受けた。図12に示す結果は、実験的なCII特異的DTH反応によって誘発されるT細胞依存性の耳の腫れの治療的縮小に対するHisタグの機能的影響の明白な証拠を提供する。従って、本発明者らの検討は、T細胞に対する免疫調節治療効果のためのポリヒスチジン配列を含むMHC II/CIIペプチド複合体の機能の改善を一貫して示していて、この機能は、細胞表面、組織成分、および生体内の体液に対する標的構造の環境で、十分に利用可能なECM成分との相互作用に対する影響を介して媒介される可能性が最も高い。
実施例7:HEK細胞でのDR4/galCII複合体の組換え生成の妨害
【0135】
組換えDR4複合体の結合溝でのペプチドのCII配列の翻訳後修飾には、種々の酵素によるいくつかの連続工程が含まれる。これらのコラーゲン特異的な翻訳後修飾は、264位と270位のリジン残基に優先的に影響を及ぼす。最初の工程は、リジン水酸化酵素によって媒介されるリシルヒドロキシル化、それに続くガラクトース転移酵素によって媒介されるヒドロキシル化リジンへのガラクトシル転移である。さらに、単一のグルコース残基をガラクトシル化ヒドロキシリジンに加えてもよい。これらの工程は全て、HEK細胞中など、コラーゲンの翻訳後機構を備えた細胞中での生合成プロセス中に引き起こされ、これにより、生体内の軟骨中の天然ECMタンパク質に匹敵する異種起源の組換え産物が得られる。ヒトでは、この混合物は、免疫媒介性関節疾患を減弱するために、IL-10などの抗炎症媒介物を生成する制御性細胞中に、調節のためのレパートリー全体から動員できる潜在的なT細胞の範囲を増大する目的に都合が良い可能性がある。ガラクトシル化(DR4/galCII)ペプチドまたは非修飾CII(DR4/nCII)ペプチドのいずれかを含む組換えDR4/CII複合体に応答する関節リウマチ患者の末梢血からのT細胞中のIL-2およびIL-10応答の生体外活性化に関する検討は、この方向での実験的な裏付けを提供する。しかしHEK細胞中で生成されたCR4/hCIIのいくつかのバッチの質量分析では、相当量の組換えタンパク質が両方のリジン残基に二糖(Glc-Gal-Hyl)の高含有量を示し、この量では、嵩高い炭水化物構造によるペプチド結合溝の被覆によりTCR認識に不利になる可能性が高く、それによってTCR認識を妨害することが明らかになった(図13)。
【0136】
特に残基264にある組換えDR4/hCII構築物のCIIペプチド配列中のリジン残基のコラーゲン特異的翻訳後ガラクトシル化は、TCRを介するT細胞認識および結果として生じる薬理学的効果にとって重要である。270位のリジン残基は、DR4分子の結合溝の端部に位置しているので、その炭水化物修飾は、一般にTCR認識に関与しないと考えられている。270位(K270)のヒドロキシル化リジン残基への炭水化物の結合によるDR4結合溝内のCIIペプチドのTCR認識に対する負の干渉の不均質性および潜在的なリスクを低減するために、K270をアルギニン残基(R)に変異させてもよい。この変異は、抗原特異的T細胞ハイブリドーマのTCRへの結合に影響を及ぼさないことが過去に示されている。
【0137】
さらにより関連深いのは、264位でのガラクトシル化ヒドロキシリジンへのグルコース残基の最終的な転移の防止である。この炭水化物部分は、嵩高くかつ可撓性のある二糖(Glc-Gal)がTCR結合を妨害する可能性があるので、TCR認識に悪影響を及ぼし易い。関節リウマチ患者の末梢血からのT細胞の生体外での刺激により、未修飾(nCII)およびモノガラクトシル化ペプチド(galCII)を認識できることを示している。グルコース残基のガラクトシル化ヒドロキシリジンへの転移を触媒する反応は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコース転移酵素(同義名としてプロコラーゲンリジン水酸化酵素3(LH3))である。LH3は、前述のリジン修飾の初期工程、すなわちヒドロキシリジン(Hyl)をもたらすヒドロキシル化、およびガラクトシルヒドロキシリジン(Gal-Hyl)をもたらすガラクトシル転移を触媒することもできる多機能酵素である(図14A)。但しその非冗長性の活性は、ガラクトシルヒドロキシリジンへの最終的なグルコース転移である。
【0138】
従って本発明者らは、LH3酵素をノックダウンするようにExpi293F細胞を遺伝子操作した。CIIペプチドでのガラクトシルヒドロキシリジンへの最終的なグルコシル転移を選択的に欠損させるDR4/hCII複合体を生成するためのHEK細胞株は、組換え生成されたDR4/hCII複合体の効力を改善するために有益であると予測される。これは、HEK 293 LH3ノックアウト細胞を生成して、例えば、CRISPR/CAS遺伝子編集手法を用いてリジン水酸化酵素3遺伝子をコードするPlod3遺伝子に遺伝子破壊変異を導入して達成できる。
【0139】
最初の工程では、本発明者らは、特定のshRNAのレンチウイルス遺伝子導入によるPlod3ノックダウンでExpi293F細胞を生成して、組換え発現システムの改良により特定のT細胞活性が増大した不均質性の低い製品を取得するためのこの手法の可能性を調査した。遺伝子導入のために、Expi293細胞を12ウェルプレートにウェル当たり200,000個の細胞を用いて播種し、続いてプレートを37℃、8%のCO2、120 rpmで3時間振盪した。200 μLのレンチウイルス粒子(Sigmaからの特注のレンチウイルス粒子)を、10 μLのPEIpro遺伝子導入試薬(Polyplus)と混合して細胞に加え、37°C、120 rpm、および8%のCO2での振盪下でさらに4時間培養した。1 mLの新鮮な培地を加えて、遺伝子導入効率を分析する前に3日間培養を継続した。
【0140】
Plod3を標的とするshRNAによるレンチウイルス遺伝子導入の3日後に、細胞を2つの部分に分けた。一方の部分にピューロマイシンを2μg/mLの最終濃度まで添加して、遺伝子導入されてない細胞を死滅させ、他方の部分をフローサイトメトリーにより分析して、遺伝子導入効率を確認した。遺伝子導入されてない細胞が死滅し、遺伝子導入された細胞が約18日間分裂して生存率が90%を超えるまで、細胞を抗生物質の選択圧下に置いた。これらの安定な遺伝子導入混合保存液を500 mLまで増殖し、上記のようにDR4/hCIIで遺伝子導入した。精製後に質量分析によるグリカン分析を実施して、plod3ノックダウンExpi293F細胞およびExpi293F対照細胞中のガラクトシルヒドロキシリシル残基のグルコシル化の減弱を調査した。II型コラーゲンエピトープ内の両方のリジン(K264およびK270)を分析した。Expi293 KO細胞では、グルコガラクトシルヒドロキシリシル残基(DiHex)の明らかな減弱が見られる(図14C)。
【0141】
一方で、安定的に遺伝子導入された細胞を希釈し、少量保存液の生成のために96ウェルプレートに播種した。播種の過程で、細胞は選択圧下で増殖し、40個の少量保存液を分離した。細胞を増殖させて、PLOD3の効率的なノックダウンを検証するためにウエスタンブロットにより細胞溶解物中のPLOD3発現を測定した。1×106個のレンチウイルスで遺伝子導入されたExpi293Fの少量保存液からの溶解物を、SDS-PAGEに負荷した。成功したノックダウンのウエスタンブロット分析を、抗PLOD3抗体(Thermo Fisher PAS-48435)および二次抗ウサギHRP抗体を用いて実施した。PLOD3の理論分子量は84 kDaである。クローン番号4、18、および20は、効率的なPlod3ノックダウンを示したので、さらなる増殖および実験に使用した。クローン番号18は生存率の低下により喪失し、クローン番号4と20はさらなる生成のために選択されて、グリカン分析を進行させる。
配列表
配列番号1:AGFKGEQGPKG
配列番号2:AGFKGEQGPXG
配列番号3:AGFKGEX2GPKG
配列番号4:AGFKGX3QGPKG
配列番号5:AGFKX4EQGPKG
配列番号6:AGFKGEX2GPX1G
配列番号7:AGFKGX3QGPX1G
配列番号8:AGFKX4EQGPX1G
配列番号9:AGFKGEQGPRG
配列番号10:AGFKGEQGPKGEP
配列番号11:AGFKGEQGPX1GEP
配列番号12:AGFKGEQGPRGEP
配列番号13:GIAGFKGEQGPKGEP
配列番号14:GIAGFKGEQGPX1GEP
配列番号15:GIAGFKGEQGPRGEP
配列番号16:DR4構築物α鎖
配列番号17:hCII259~273ペプチド含有DR4構築物β鎖
配列番号18:最小DR4構築物α鎖
配列番号19:hCII259~273ペプチド含有最小DR4構築物β鎖
配列番号20:hCLIPmut含有DR4構築物β鎖
配列番号21:Aq構築物α鎖
配列番号22:ラットCII259~273ペプチド含有Aq構築物β鎖
配列番号23:Hisタグ不含ラットCII259~273ペプチド含有Aq構築物β鎖
配列番号24:mCLIPペプチド含有Aq構築物β鎖
配列番号25:Hisタグ不含mCLIPペプチド含有Aq構築物β鎖
配列番号26:cFosドメイン
配列番号27:cJuneドメイン
配列番号28:修飾ヒトCLIPペプチド
配列番号29:ラットCIIペプチド259~273
配列番号30:ストレプトアビジンタグ
配列番号31:EKRIWFPYRRF
配列番号32:YKTNFRRYYRF
配列番号33:VLIRHFRKRYY
配列番号34:SAWSHPQFEKGIAGFKGEQGPKGEPSGGGS
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
【配列表】
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