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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】過給機のシール構造
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20240522BHJP
【FI】
F02B39/00 M
F02B39/00 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022026022
(22)【出願日】2022-02-22
(65)【公開番号】P2023122357
(43)【公開日】2023-09-01
【審査請求日】2024-02-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松尾 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 幸博
(72)【発明者】
【氏名】白川 太陽
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-65829(JP,A)
【文献】米国特許第9988976(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
F16J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機のシール構造であって、
前記過給機の回転軸および前記回転軸の一端側に設けられた回転ホイールを少なくとも含む回転部材と、
前記回転部材を収容するハウジングを少なくとも含む静止部材と、
前記回転軸を回転可能に支持する軸受と、
前記回転部材と前記静止部材との間に形成されるシール隙間であって、前記回転ホイールが収容される第1空間と前記軸受が収容される第2空間とを連通するシール隙間に設けられたシール部材と、を備え、
前記回転部材は、前記シール隙間を画定するとともに、少なくとも前記シール部材よりも前記第2空間側において前記回転軸の軸方向と平行な方向に沿って延在する回転側外周面と、前記回転側外周面における前記第2空間側の第1縁から前記回転軸の径方向に沿って前記径方向における内側に向かって延在する回転側端面とを少なくとも含み、
前記静止部材は、前記シール隙間を画定するとともに、少なくとも前記シール部材よりも前記第2空間側において前記回転軸の軸方向と平行な方向に沿って延在する静止側内周面と、前記静止側内周面における前記第2空間側の第2縁から前記回転軸の径方向に沿って延在する静止側端面であって、前記第2縁は前記回転軸の軸線よりも上方において前記第1縁と対向する位置にある静止側端面と、を含み、
前記静止部材は、前記回転軸の軸線よりも下方における前記静止側端面に設けられる排油溝であって、前記静止側内周面における前記第2空間側の前記第2縁から鉛直方向に沿って下方に向かって延在する排油溝を有し、
前記排油溝は、前記排油溝の幅方向において互いに隙間を介して対向する一対の溝壁面と、前記一対の溝壁面の各々の前記第1空間側の縁同士を繋ぐ溝底面と、を有し、
前記溝底面は、前記回転軸の前記軸線よりも下方において、前記回転側外周面における前記第2空間側の前記第1縁よりも前記第1空間側に位置する、
過給機のシール構造。
【請求項2】
前記回転軸の前記軸線に対して鉛直下方を0°とし、前記回転軸の回転方向に向かって角度が増加するように角度位置を定義した場合において、
前記一対の溝壁面のうち一方の溝壁面は、前記角度位置が+45°以上+95°以下の範囲に上端が設けられ、
前記一対の溝壁面のうち他方の溝壁面は、前記角度位置が-95°以上-45°以下の範囲に上端が設けられた、
請求項1に記載の過給機のシール構造。
【請求項3】
前記一方の溝壁面は、前記角度位置が+85°以上+95°以下の位置に前記一方の溝壁面の前記上端が設けられ、
前記他方の溝壁面は、前記角度位置が-95°以上-85°以下の位置に前記他方の溝壁面の前記上端が設けられた、
請求項2に記載の過給機のシール構造。
【請求項4】
前記排油溝の前記幅方向における長さをL1とし、前記静止部材の前記静止側内周面の直径をL2とした場合において、前記排油溝は、0.95×L2≦L1≦1.05×L2の条件を満たす、
請求項3に記載の過給機のシール構造。
【請求項5】
前記静止側端面は、前記回転軸の前記軸線よりも下方において、前記排油溝と、前記排油溝が形成された領域以外に設けられる平坦面を含み、
前記平坦面は、前記回転側外周面における前記第2空間側の前記第1縁よりも前記第1空間側に位置する、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の過給機のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、過給機のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
過給機は、回転シャフト、回転シャフトの一方側に取り付けられたタービンインペラ、及び、回転シャフトの他方側に取り付けられたコンプレッサインペラ、を含むロータ(回転体)と、回転シャフトにおけるタービンインペラとコンプレッサインペラとの間を回転可能に支持する軸受と、ロータ及び軸受を収容するケーシングと、を備える。過給機の軸受は、高速回転する回転シャフトを支持するため、高温になり易く、潤滑が不十分であると焼き付けが生じる虞がある。このため、軸受に潤滑油を供給することで、軸受を潤滑したり冷却したりすることが行われる。過給機には、軸受に供給された潤滑油のコンプレッサ側やタービン側への漏洩を防ぐために、ロータなどの回転体の外面とケーシングなどの静止体の内面との間を封止するシールリングを備えるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-232124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シールリングによるシーリング機構を備える過給機において、潤滑油の漏洩が生じる虞がある。具体的には、シールリングが装着される回転体の外面と静止体の内面との間の空間に潤滑油が溜まり、上記空間に溜まった潤滑油が、シールリングを挟んで上記空間とは反対側の空間に漏洩する虞がある。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、潤滑油の漏洩を抑制できる過給機のシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくとも一実施形態にかかる過給機のシール構造は、
過給機のシール構造であって、
前記過給機の回転軸および前記回転軸の一端側に設けられた回転ホイールを少なくとも含む回転部材と、
前記回転部材を収容するハウジングを少なくとも含む静止部材と、
前記回転軸を回転可能に支持する軸受と、
前記回転部材と前記静止部材との間に形成されるシール隙間であって、前記回転ホイールが収容される第1空間と前記軸受が収容される第2空間とを連通するシール隙間に設けられたシール部材と、を備え、
前記回転部材は、前記シール隙間を画定する回転側外周面を少なくとも含み、
前記静止部材は、前記シール隙間を画定する静止側内周面と、前記静止側内周面における前記第2空間側の縁から前記回転軸の径方向に沿って延在する静止側端面と、を含み、
前記静止部材は、前記回転軸の軸線よりも下方における前記静止側端面に設けられる排油溝であって、前記静止側内周面における前記第2空間側の前記縁から鉛直方向に沿って下方に向かって延在する排油溝を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、潤滑油の漏洩を抑制できる過給機のシール構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る過給機のシール構造を備える過給機の軸線に沿った断面を示す概略断面図である。
図2】一実施形態に係る過給機のシール構造の軸線に沿った断面を示す概略断面図である。
図3】一実施形態に係る過給機のシール構造を第2空間側から視た状態を示す概略図である。
図4】一実施形態に係る過給機のシール構造を第2空間側から視た状態を示す概略図である。
図5】一実施形態に係る過給機のシール構造における排油溝近傍を上方から視た状態を示す概略図である。
図6】一実施形態に係る過給機のシール構造の軸線に沿った断面を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0010】
(過給機)
図1は、一実施形態に係る過給機のシール構造を備える過給機の軸線に沿った断面を示す概略断面図である。過給機1は、図1に示されるように、回転軸11と、回転軸11の一端側に設けられたコンプレッサホイール12Aと、回転軸11の他端側に設けられたタービンホイール12Bと、回転軸11を回転可能に支持する軸受13と、回転軸11、コンプレッサホイール12A、タービンホイール12B及び軸受13を収容するハウジング14と、を備える。
【0011】
軸受13は、ハウジング14に支持される。回転軸11は、コンプレッサホイール12Aとタービンホイール12Bの間において軸受13に支持されることで、回転軸11の軸線LAを中心として回転可能になっている。
【0012】
以下、回転軸11の軸線LAが延在する方向を回転軸11(過給機1)の軸方向と定義し、軸線LAに直交する方向を回転軸11(過給機1)の径方向と定義する。回転軸11(過給機1)の軸方向のうち、タービンホイール12Bに対してコンプレッサホイール12Aが位置する側をコンプレッサ側とし、コンプレッサホイール12Aに対してタービンホイール12Bが位置する側をタービン側とする。
【0013】
タービンホイール12Bは、タービンホイール12Bに導かれる、エンジンから排出された排ガスのエネルギーにより回転するように構成される。コンプレッサホイール12Aは、回転軸11とともにタービンホイール12Bの回転に連動して回転する。過給機1は、コンプレッサホイール12Aの回転により、コンプレッサホイール12Aに導かれる気体(例えば、空気)を圧縮し、上記気体の密度を高めて気体の供給先(例えば、上記エンジン)に送るように構成される。
【0014】
(過給機のシール構造)
図2は、一実施形態に係る過給機のシール構造の軸線に沿った断面を示す概略断面図である。図2には、図1中において二点鎖線により囲まれた領域が示されている。図3及び図4の各々は、一実施形態に係る過給機のシール構造を第2空間側から視た状態を示す概略図である。図5は、一実施形態に係る過給機のシール構造における排油溝近傍を上方から視た状態を示す概略図である。幾つかの実施形態に係る過給機のシール構造2は、過給機1に設けられる過給機1における潤滑油の漏洩を抑制するためのシール構造である。過給機のシール構造2は、図1に示されるように、回転部材3と、回転部材3を収容する静止部材4と、回転部材3と静止部材4との間に形成されるシール隙間20に設けられたシール部材5と、上述した軸受13と、を備える。
【0015】
(回転部材、静止部材)
回転部材3は、過給機1の駆動時に回転するように構成される。回転部材3は、回転軸11及び回転軸11の一端側に設けられた回転ホイール12を少なくとも含む。静止部材4は、過給機1の駆動時に回転部材3が回転しても静止する(回転しない)ように構成される。静止部材4は、ハウジング14を少なくとも含む。
【0016】
静止部材4(ハウジング14)は、回転部材3及び軸受13を収容する。静止部材4(ハウジング14)の内部には、上述したシール隙間20と、回転ホイール12が収容される第1空間21と、軸受13が収容される第2空間22と、が形成される。シール隙間20は、回転軸11の軸方向において第1空間21と第2空間22の間に設けられて、第1空間21と第2空間22とを連通する。
【0017】
回転部材3は、シール隙間20を画定する回転側外周面31を有する。静止部材4は、シール隙間20を画定する静止側内周面41を有する。静止側内周面41は、回転側外周面31よりも回転軸11の径方向における外側に設けられて、環状に形成されるシール隙間20を挟んで回転側外周面31に対向している。
【0018】
静止部材4は、図2に示されるように、静止側内周面41における第2空間22側の縁42から回転軸11の径方向に沿って上記径方向における外側に向かって延在する静止側端面43を有する。回転部材3は、図2に示されるような、回転側外周面31における第2空間22側の縁32から回転軸11の径方向に沿って上記径方向における内側に向かって延在する回転側端面33を有していてもよい。
【0019】
(シール部材)
シール部材5は、静止側内周面41と回転側外周面31との間を封止するように構成される。図示される実施形態では、シール部材(シールリング)5は、図2に示されるように、静止側内周面41と回転側外周面31との間に圧縮された状態で配置され、静止側内周面41にその外周面が当接するとともに、回転側外周面31にその内周面が当接する。なお、図1及び図2に示されるように、静止側内周面41又は回転側外周面31の少なくとも一方には、シール部材5の一部を嵌合させるための回転軸11の周方向に沿って延在する環状の溝部が設けられていてもよい。
【0020】
(潤滑油系統)
過給機1は、軸受13や軸受13が収容された第2空間22に潤滑油が流れ込むように構成される。図1に示される実施形態では、ハウジング14は、その内部に潤滑油を導入するための潤滑油導入口23と、潤滑油導入口23から軸受13に潤滑油を導くための潤滑油供給路24と、ハウジング14の外部に潤滑油を排出するための潤滑油排出口25と、が形成されている。潤滑油供給路24は、ハウジング14の内壁面により画定される、潤滑油導入口23と第2空間22とを連通させる流路からなる。潤滑油排出口25は、第2空間22よりも下方に設けられ、第2空間22の下部に連通している。
【0021】
潤滑油導入口23を介してハウジング14の内部に導入された潤滑油は、潤滑油供給路24を通じて軸受13に導かれる。軸受13に導かれた潤滑油の多くは、第2空間22において下方に流れ落ちて、潤滑油排出口25を介してハウジング14の外部に排出される。軸受13に導かれた潤滑油の一部がシール隙間20に流入することがある。
【0022】
幾つかの実施形態に係る過給機1のシール構造2は、上述した回転部材3と、上述した静止部材4と、上述した軸受13と、上述したシール隙間20に設けられたシール部材5と、を備える。静止部材4は、上述した静止側内周面41と、上述した静止側端面43と、を含む。静止側端面43は、図2図4に示されるように、回転軸11の軸線LAよりも下方における静止側端面43に設けられる排油溝6を有する。排油溝6は、静止側内周面41における第2空間22側の縁42から鉛直方向に沿って下方に向かって延在している。以下、排油溝6の延在方向に直交する方向を排油溝6の幅方向とする。排油溝6の幅方向は、回転軸11の軸線LAに直交する水平方向に沿って延在する。
【0023】
静止側端面43は、図2図5に示されるように、排油溝6が形成された領域以外に設けられる平坦面43Aをさらに有する。平坦面43Aは、静止側内周面41における第2空間22側の縁42から回転軸11の径方向に沿って上記径方向における外側に向かって延在している。図5に示されるように、静止側内周面41の第2空間22側の縁42のうち、排油溝6に連なる排油溝側縁42A(排油溝6の上端縁)は、平坦面43Aに連なる平坦面側縁42B(平坦面43Aの静止側内周面41に連なる内周縁)よりも回転軸11の軸方向における第1空間21側に凹む凹形状(図示例では、角の尖ったU字形状)を有する。
【0024】
シール隙間20に流入した潤滑油は、シール隙間20の下部に溜まる。シール隙間20の下部に溜まる潤滑油の少なくとも一部が、排油溝6を伝って流れ落ちて、第2空間22に排出される。
【0025】
上記の構成によれば、回転軸11の軸線LAよりも下方における静止側端面43に設けられた排油溝6により、シール隙間20の下部から潤滑油を排出できるので、シール隙間20の下部に潤滑油が溜まることを抑制できる。過給機のシール構造2は、シール隙間20の下部に潤滑油が溜まることを抑制することで、潤滑油がシール隙間20に設けられたシール部材5よりも第1空間21側(回転ホイール12が位置する側)に漏洩することを抑制できる。
【0026】
幾つかの実施形態では、図1に示されるように、過給機のシール構造2A(2)は、第2空間22からコンプレッサホイール12Aが収容される第1空間21A(21)への潤滑油の漏洩を抑制するためのものである。過給機のシール構造2Aの回転ホイール12は、上述したコンプレッサホイール12Aからなる。図1に示されるように、コンプレッサホイール12Aが収容される空間である第1空間21Aやシール隙間20A(20)は、軸受13が収容される第2空間22よりも回転軸11の軸方向におけるコンプレッサ側に設けられる。
【0027】
回転側外周面31A(31)は、例えば、図1に示されるような、過給機1が備える環状のスリーブ15の外周面であってもよい。スリーブ15は、回転軸11の軸方向におけるコンプレッサホイール12A(回転ホイール12)と軸受13との間において、回転軸11の外周を覆うように回転軸11に取り付けられている。回転部材3は、スリーブ15をさらに含んでいてもよい。静止側内周面41A(41)は、シール隙間20Bを挟んでスリーブ15の外周面に対向するハウジング14の内壁面であってもよい。
【0028】
幾つかの実施形態では、図1に示されるように、過給機のシール構造2B(2)は、第2空間22からタービンホイール12Bが収容される第1空間21B(21)への潤滑油の漏洩を抑制するためのものである。過給機のシール構造2Bの回転ホイール12は、上述したタービンホイール12Bからなる。図1に示されるように、タービンホイール12Bが収容される空間である第1空間21Bやシール隙間20B(20)は、軸受13が収容される第2空間22よりも回転軸11の軸方向におけるタービン側に設けられる。
【0029】
回転側外周面31B(31)は、例えば、図1に示されるような、タービンホイール12Bの背面から突出するボス部の外周面であってもよい。静止側内周面41B(41)は、シール隙間20Bを挟んでタービンホイール12Bの上記ボス部の外周面に対向するハウジング14の内壁面であってもよい。また、回転側外周面31は、回転軸11の外周面であってもよい。
【0030】
なお、過給機1は、過給機のシール構造2A、2Bの両方を備えていてもよい。すなわち、静止側内周面41Aのタービン側に連なる端面、及び、静止側内周面41Bのコンプレッサ側に連なる端面、の夫々が上述した排油溝6を含む静止側端面43であってもよい。
【0031】
図3及び図4に示されるように、回転軸11の軸線LAに対して鉛直下方を0°とし、回転軸11の回転方向に向かって角度が増加するように角度位置θを定義する。幾つかの実施形態では、上述した排油溝6は、排油溝6の幅方向において互いに隙間を介して対向する一対の溝壁面62、63を有する。一対の溝壁面62、63のうち一方の溝壁面62は、角度位置θが+45°以上+95°以下の範囲に静止側内周面41に連なる上端64が設けられることが好ましい。一対の溝壁面62、63のうち他方の溝壁面63は、角度位置θが-95°以上-45°以下の範囲に静止側内周面41に連なる上端65が設けられることが好ましい。
【0032】
図3に示される実施形態では、一方の溝壁面62の上端64は、角度位置θが+45°の位置に設けられ、他方の溝壁面63の上端65は、角度位置θが-45°の位置に設けられている。
【0033】
上記の構成によれば、一方の溝壁面62の上端64を角度位置θが+45°以上+95°以下の範囲に設け、且つ他方の溝壁面63の上端65を角度位置θが-95°以上-45°以下の範囲に設けることで、静止側内周面41の一方の溝壁面62及び他方の溝壁面63の各々との接続位置における鉛直方向に対する傾斜角度を小さくできるため、静止側内周面41を伝って流れ落ちる潤滑油を排油溝に導くことができ、これにより静止側内周面(41)上に潤滑油が溜まることを抑制できる。また、上記の構成によれば、排油溝6の幅方向における長さが大きいので、シール隙間20の下部から排油溝6への潤滑油の流入が促進される。
【0034】
図示される実施形態では、排油溝6は、一対の溝壁面62、63の夫々の第1空間21側の端同士を繋ぐ溝底面61をさらに有する。排油溝6の溝底面61は、角度位置θが0°の位置を含むように形成される。角度位置θが0°の位置を含むように排油溝6を形成することで、シール隙間20の潤滑油が溜まる下部から、排油溝6へ潤滑油を直接的に排出できる。
【0035】
図4に示されるように、上述した一方の溝壁面62は、角度位置θが+85°以上+95°以下の位置にその上端64が設けられることがさらに好ましい。上述した他方の溝壁面63は、角度位置θが-95°以上-85°以下の位置にその上端65が設けられることがさらに好ましい。図4に示される実施形態では、一方の溝壁面62の上端64は、角度位置θが+90°の位置に設けられ、他方の溝壁面63の上端65は、角度位置θが-90°の位置に設けられている。
【0036】
上記の構成によれば、一方の溝壁面62の上端64を角度位置θが+85°以上+95°以下の範囲に設け、且つ他方の溝壁面63の上端65を角度位置θが-95°以上-85°以下の範囲に設けることで、静止側内周面41の一方の溝壁面62及び他方の溝壁面63の各々との接続位置における鉛直方向に対する傾斜角度を小さくできるため、静止側内周面41を伝って流れ落ちる潤滑油を排油溝6に効果的に導くことができ、静止側内周面41上に潤滑油が溜まることを効果的に抑制できる。
【0037】
幾つかの実施形態では、図4に示されるように、排油溝6の幅方向における長さをL1とし、静止側内周面41の直径をL2とした場合において、排油溝6は、0.95×L2≦L1≦1.05×L2の条件を満たす。図示される実施形態では、排油溝6は、その幅方向における長さL1が一定であるが、他の実施形態では、排油溝6は、下方に向かうにつれてその幅方向における長さが大きくなるように構成されていても良いし、下方に向かうにつれてその幅方向における長さが小さくなるように構成されていても良い。なお、排油溝6の幅方向における長さが一定でない場合には、上記長さL1として、排油溝6の上端縁(排油溝側縁42Aに連なる縁)の幅方向における長さを用いてもよい。
【0038】
上記の構成によれば、排油溝6の幅方向における長さL1を静止側内周面41の直径L2と同様の長さにすることで、静止側内周面41を伝って流れ落ちる潤滑油を排油溝6に効果的に導くことができ、静止側内周面41上に潤滑油が溜まることを効果的に抑制できる。また、排油溝6の幅方向における長さL1を静止側内周面41の直径L2と同様の長さにすることで、排油溝6における潤滑油の排出性を良好なものにできる。
【0039】
幾つかの実施形態では、図2に示されるように、上述した溝底面61は、回転軸11の軸線LAよりも下方において、回転側外周面31における第2空間22側の縁32よりも第1空間21側に位置する。
【0040】
上記の構成によれば、溝底面61は、回転軸11の軸線LAよりも下方において、回転側外周面31における第2空間22側の縁32よりも第1空間21側に位置する。この場合には、回転側端面33を伝って流れ落ちる潤滑油が、シール隙間20に入り込み難い形状になっているので、シール隙間20への潤滑油の流入を抑制でき、ひいてはシール隙間20の下部に潤滑油が溜まることを抑制できる。
【0041】
図6は、一実施形態に係る過給機のシール構造の軸線に沿った断面を示す概略断面図である。図6には、図1中において二点鎖線により囲まれた領域が示されている。幾つかの実施形態では、図6に示されるように、上述した静止側端面43は、上述した排油溝6と、排油溝6が形成された領域以外に設けられる平坦面43Bと、を有する。平坦面43Bは、上述した平坦面43Aと同様に、静止側内周面41における第2空間22側の縁42から回転軸11の径方向に沿って上記径方向における外側に向かって延在している。回転軸11の軸線LAよりも下方において、平坦面43Bは、回転側外周面31における第2空間22側の縁32よりも第1空間21側に位置する。この場合には、回転側端面33を伝って流れ落ちる潤滑油が、シール隙間20に入り込み難い形状になっているので、シール隙間20への潤滑油の流入を抑制でき、ひいてはシール隙間20の下部に潤滑油が溜まることを抑制できる。
【0042】
なお、静止側内周面41に第2空間22からシール隙間20への潤滑油の流入を抑制する、不図示の突出部材を設けてもよい。該突出部材は、静止側内周面41から回転軸11の径方向における内側に向かって突出し、回転軸11の周方向に沿って延在する。
【0043】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0044】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0045】
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
【0046】
1)本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機のシール構造(2)は、
過給機(1)のシール構造であって、
前記過給機(1)の回転軸(11)および前記回転軸(11)の一端側に設けられた回転ホイール(12)を少なくとも含む回転部材(3)と、
前記回転部材(3)を収容するハウジング(14)を少なくとも含む静止部材(4)と、
前記回転軸(11)を回転可能に支持する軸受(13)と、
前記回転部材(3)と前記静止部材(4)との間に形成されるシール隙間(20)であって、前記回転ホイール(12)が収容される第1空間(21)と前記軸受(13)が収容される第2空間(22)とを連通するシール隙間(20)に設けられたシール部材(5)と、を備え、
前記回転部材(3)は、前記シール隙間(20)を画定する回転側外周面(31)を少なくとも含み、
前記静止部材(4)は、前記シール隙間(20)を画定する静止側内周面(41)と、前記静止側内周面(41)における前記第2空間(22)側の縁(42)から前記回転軸(11)の径方向に沿って延在する静止側端面(43)と、を含み、
前記静止側端面(43)は、前記回転軸(11)の軸線(LA)よりも下方における前記静止側端面(43)に設けられる排油溝(6)であって、前記静止側内周面(41)における前記第2空間(22)側の前記縁(42)から鉛直方向に沿って下方に向かって延在する排油溝(6)を有する。
【0047】
上記1)の構成によれば、回転軸(11)の軸線(LA)よりも下方における静止側端面(43)に設けられた排油溝(6)により、シール隙間(20)の下部から潤滑油を排出できるので、シール隙間(20)の下部に潤滑油が溜まることを抑制できる。上記1)に記載の過給機のシール構造(2)は、シール隙間(20)の下部に潤滑油が溜まることを抑制することで、潤滑油がシール隙間(20)に設けられたシール部材(5)よりも第1空間(21)側(回転ホイール12が位置する側)に漏洩することを抑制できる。
【0048】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の過給機のシール構造(6)であって、
前記排油溝(6)は、前記排油溝(6)の幅方向において互いに隙間を介して対向する一対の溝壁面(62、63)を有し、
前記回転軸(11)の前記軸線(LA)に対して鉛直下方を0°とし、前記回転軸(11)の回転方向に向かって角度が増加するように角度位置(θ)を定義した場合において、
前記一対の溝壁面(62、63)のうち一方の溝壁面(62)は、前記角度位置(θ)が+45°以上+95°以下の範囲に上端(64)が設けられ、
前記一対の溝壁面(62、63)のうち他方の溝壁面(63)は、前記角度位置(θ)が-95°以上-45°以下の範囲に上端(65)が設けられた。
【0049】
上記2)の構成によれば、一方の溝壁面(62)の上端(64)を角度位置(θ)が+45°以上+95°以下の範囲に設け、且つ他方の溝壁面(63)の上端(65)を角度位置(θ)が-95°以上-45°以下の範囲に設けることで、静止側内周面(41)の一方の溝壁面(62)及び他方の溝壁面(63)の各々との接続位置における鉛直方向に対する傾斜角度を小さくできるため、静止側内周面(41)を伝って流れ落ちる潤滑油を排油溝に導くことができ、これにより静止側内周面(41)上に潤滑油が溜まることを抑制できる。
【0050】
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載の過給機のシール構造(2)であって、
前記一方の溝壁面(62)は、前記角度位置(θ)が+85°以上+95°以下の位置に前記一方の溝壁面(62)の前記上端(64)が設けられ、
前記他方の溝壁面(63)は、前記角度位置(θ)が-95°以上-85°以下の位置に前記他方の溝壁面(63)の前記上端(65)が設けられた。
【0051】
上記3)の構成によれば、一方の溝壁面(62)の上端(64)を上記角度位置が+85°以上+95°以下の範囲に設け、且つ他方の溝壁面(63)の上端(65)を上記角度位置(θ)が-95°以上-85°以下の範囲に設けることで、静止側内周面(41)の上記接続位置における鉛直方向に対する傾斜角度を小さくできるため、静止側内周面(41)を伝って流れ落ちる潤滑油を排油溝(6)に効果的に導くことができ、静止側内周面(41)上に潤滑油が溜まることを効果的に抑制できる。
【0052】
4)幾つかの実施形態では、上記3)に記載の過給機のシール構造(2)であって、
前記排油溝(6)の前記幅方向における長さをL1とし、前記静止部材(4)の前記静止側内周面(41)の直径をL2とした場合において、前記排油溝(6)は、0.95×L2≦L1≦1.05×L2の条件を満たす。
【0053】
上記4)の構成によれば、排油溝(6)の幅方向における長さL1を静止側内周面(41)の直径L2と同様の長さにすることで、静止側内周面(41)を伝って流れ落ちる潤滑油を排油溝(6)に効果的に導くことができ、静止側内周面(41)上に潤滑油が溜まることを効果的に抑制できる。また、排油溝(6)の幅方向における長さL1を静止側内周面(41)の直径L2と同様の長さにすることで、排油溝(6)における潤滑油の排出性を良好なものにできる。
【0054】
5)幾つかの実施形態では、上記2)から上記4)までの何れかに記載の過給機のシール構造(2)であって、
前記排油溝(6)は、前記一対の溝壁面(62、63)の各々の前記第1空間(21)側の縁同士を繋ぐ溝底面(61)をさらに有し、
前記溝底面(61)は、前記回転軸(11)の前記軸線(LA)よりも下方において、前記回転側外周面(31)における前記第2空間(22)側の前記縁(32)よりも前記第1空間(21)側に位置する、
請求項2乃至4の何れか1項に記載の過給機のシール構造。
【0055】
上記5)の構成によれば、溝底面(61)は、回転軸(11)の軸線(LA)よりも下方において、回転側外周面(31)における第2空間(22)側の縁(32)よりも第1空間(21)側に位置する。この場合には、回転側端面(33)を伝って流れ落ちる潤滑油が、シール隙間(20)に入り込み難い形状になっているので、シール隙間(20)への潤滑油の流入を抑制でき、ひいてはシール隙間(20)の下部に潤滑油が溜まることを抑制できる。
【符号の説明】
【0056】
1 過給機
2,2A,2B シール構造
3 回転部材
4 静止部材
5 シール部材
6 排油溝
11 回転軸
12 回転ホイール
12A コンプレッサホイール
12B タービンホイール
13 軸受
14 ハウジング
15 スリーブ
20,20A,20B シール隙間
21,21A,21B 第1空間
22 第2空間
23 潤滑油導入口
24 潤滑油供給路
25 潤滑油排出口
31,31A,31B 回転側外周面
32 縁
33 回転側端面
41,41A,41B 静止側内周面
42 縁
42A 排油溝側縁
42B 平坦面側縁側縁
43 静止側端面
43A,43B 平坦面
44 下端縁
61 溝底面
62,63 溝壁面
64,65 上端
LA 軸線
θ 角度位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6