(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】電池システム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240522BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20240522BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240522BHJP
H02H 7/18 20060101ALI20240522BHJP
H02H 9/02 20060101ALI20240522BHJP
H01M 10/44 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
H02J7/00 S
H02J7/10 H
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02H7/18
H02J7/00 P
H02J7/00 302A
H02H9/02 Z
H01M10/44 P
(21)【出願番号】P 2022071513
(22)【出願日】2022-04-25
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 康晴
(72)【発明者】
【氏名】一之瀬 工資
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 快
(72)【発明者】
【氏名】原田 育幸
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/169062(WO,A1)
【文献】特表2010-525757(JP,A)
【文献】特開2015-070753(JP,A)
【文献】特開2013-230023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
H01M 10/42 - 10/48
H02H 7/00
H02H 7/10 - 7/20
H02H 9/00 - 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池を含む通電部品が配置される通電経路と、
前記通電経路を流れる電流を検出する電流センサと、
前記通電経路を流れる電流を制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、
前記電流センサの検出値に対して無限インパルス応答のフィルタ処理を施すことによって、予め定められた複数の連続通電時間中の平均電流にそれぞれ相当する複数の電流フィルタ値を算出し、
前記複数の連続通電時間にそれぞれ対応する複数の電流制限値を前記通電部品の許容電流未満となるように設定し、
前記複数の電流フィルタ値の少なくとも1つが当該電流フィルタ値に対応する電流制限値を超えた場合、前記通電経路を流れる電流を当該電流制限値以下に制限
し、
前記制御回路は、前記複数の電流制限値の各々を、当該電流制限値に対応する電流フィルタ値に応じて変化させ、
前記制御回路は、
前記電流フィルタ値が第1値よりも小さい第2値未満である場合は当該電流フィルタ値に対応する電流制限値を前記第1値よりも大きい値に設定し、
前記電流フィルタ値が前記第2値以上かつ前記第1値未満である場合は当該電流フィルタ値が大きいほど当該電流フィルタ値に対応する電流制限値を前記第1値に向けて単調減少させ、
前記電流フィルタ値が前記第1値よりも大きい場合は当該電流フィルタ値に対応する電流制限値を前記第1値に設定する、電池システム。
【請求項2】
前記制御回路は、前記電流センサの検出値に対して、互いに異なるフィルタ係数を有する複数の無限インパルス応答のフィルタ処理を施すことによって、前記複数の電流フィルタ値を算出する、請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
電池を含む通電部品が配置される通電経路と、
前記通電経路を流れる電流を検出する電流センサと、
前記通電経路を流れる電流を制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、
前記電流センサの検出値に対して無限インパルス応答のフィルタ処理を施すことによって、予め定められた複数の連続通電時間中の平均電流にそれぞれ相当する複数の電流フィルタ値を算出し、
前記複数の連続通電時間にそれぞれ対応する複数の電流制限値を前記通電部品の許容電流未満となるように設定し、
前記複数の電流フィルタ値の少なくとも1つが当該電流フィルタ値に対応する電流制限値を超えた場合、前記通電経路を流れる電流を当該電流制限値以下に制限し、
前記制御回路は、前記通電部品の環境温度および前記通電部品の使用期間の少なくとも一方に応じて、前記電流フィルタ値および前記複数の電流制限値の少なくとも一方を変化させる
、電池システム。
【請求項4】
前記制御回路は、前記通電部品の環境温度が高いほど、および/または、前記通電部品の使用期間が長いほど、前記電流フィルタ値を大きい値にする、請求項
3に記載の電池システム。
【請求項5】
前記制御回路は、前記通電部品の環境温度が高いほど、および/または、前記通電部品の使用期間が長いほど、前記複数の電流制限値を小さい値にする、請求項
3に記載の電池システム。
【請求項6】
電池システムであって、
電池を含む通電部品が配置される通電経路と、
前記通電経路を流れる電流を検出する電流センサと、
前記通電経路を流れる電流を制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、
前記電流センサの検出値に対して無限インパルス応答のフィルタ処理を施すことによって、予め定められた複数の連続通電時間中の平均電流にそれぞれ相当する複数の電流フィルタ値を算出し、
前記複数の連続通電時間にそれぞれ対応する複数の電流制限値を前記通電部品の許容電流未満となるように設定し、
前記複数の電流フィルタ値の少なくとも1つが当該電流フィルタ値に対応する電流制限値を超えた場合、前記通電経路を流れる電流を当該電流制限値以下に制限し、
前記制御回路は、前記電池システムが作動状態から停止状態に変化するシステム停止時に電流フィルタ値を記憶し、
前記制御回路は、前記電池システムの停止状態が継続した後に作動状態に変化するシステム起動時に、前記システム停止時に記憶された電流フィルタ値と、前記電池システムの停止状態が継続していた時間とを用いて、前記システム起動時の電流フィルタ値を算出する
、電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池システム内の通電部品の過熱を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5687340号公報(特許文献1)には、電池を構成する部品の過熱を防止する電池システムが開示されている。この電池システムにおいては、電池システム内の通電部品毎に、過熱を防止するための電流制限値が設定されている。電流制限値は、通電部品の熱許容電流を超えない範囲において、予め設定された複数の時間窓幅(連続通電時間幅)中にそれぞれ許容される複数の電流平均値として設定される。この電池システムは、複数の時間窓幅毎に平均電流を計算し、各平均電流が各平均電流に対応する熱許容電流を超過しないように電池を流れる電流を電流制限値以下に制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許第5687340号公報に開示された電池システムのように複数の連続通電時間幅毎に平均電流を計算する手法では、通電部品の熱保護に要する処理負荷が膨大となってしまう。たとえば、1つの連続通電時間幅が20秒であり0.1秒周期で電流を検出する場合、過去20秒間に検出された200点の電流検出値のデータをメモリに記憶しておき、これら200点の電流検出値の移動平均値を計算する必要がある。このような処理を、複数の連続通電時間幅毎に行なうことになるため、処理負荷が膨大となる。さらに、複数の通電部品毎に複数の連続通電時間幅を設定すると、処理負荷がさらに増大してしまう。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、電池システム内の通電部品の熱保護に要する処理負荷を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(第1項) 本開示による電池システムは、電池を含む通電部品が配置される通電経路と、通電経路を流れる電流を検出する電流センサと、通電経路を流れる電流を制御する制御回路とを備える。制御回路は、電流センサの検出値に対して無限インパルス応答のフィルタ処理を施すことによって、予め定められた複数の連続通電時間中の平均電流にそれぞれ相当する複数の電流フィルタ値を算出し、複数の連続通電時間にそれぞれ対応する複数の電流制限値を通電部品の許容電流未満となるように設定し、複数の電流フィルタ値の少なくとも1つが当該電流フィルタ値に対応する電流制限値を超えた場合、通電経路を流れる電流を当該電流制限値以下に制限する。
【0007】
(第2項) 第1項に記載の電池システムにおいて、制御回路は、電流センサの検出値に対して、互いに異なるフィルタ係数を有する複数の無限インパルス応答のフィルタ処理を施すことによって、複数の電流フィルタ値を算出する。
【0008】
(第3項) 第1または2項に記載の電池システムにおいて、制御回路は、複数の電流制限値の各々を、当該電流制限値に対応する電流フィルタ値に応じて変化させる。
【0009】
(第4項) 第3項に記載の電池システムにおいて、制御回路は、電流フィルタ値が第1値よりも小さい第2値未満である場合は当該電流フィルタ値に対応する電流制限値を第1値よりも大きい値に設定し、電流フィルタ値が第2値以上かつ第1値未満である場合は当該電流フィルタ値が大きいほど当該電流フィルタ値に対応する電流制限値を第1値に向けて単調減少させ、電流フィルタ値が第1値よりも大きい場合は当該電流フィルタ値に対応する電流制限値を第1値に設定する。
【0010】
(第5項) 第1~4項のいずれかに記載の電池システムにおいて、制御回路は、通電部品の環境温度および通電部品の使用期間の少なくとも一方に応じて、電流フィルタ値および複数の電流制限値の少なくとも一方を変化させる。
【0011】
(第6項) 第5項に記載の電池システムにおいて、制御回路は、通電部品の環境温度が高いほど、および/または、通電部品の使用期間が長いほど、電流フィルタ値を大きい値にする。
【0012】
(第7項) 第5項に記載の電池システムにおいて、制御回路は、通電部品の環境温度が高いほど、および/または、通電部品の使用期間が長いほど、複数の電流制限値を小さい値にする。
【0013】
(第8項) 第1~7項のいずれかに記載の電池システムにおいて、制御回路は、電池システムが作動状態から停止状態に変化するシステム停止時に電流フィルタ値を記憶する。制御回路は、電池システムの停止状態が継続した後に作動状態に変化するシステム起動時に、システム停止時に記憶された電流フィルタ値と、電池システムの停止状態が継続していた時間とを用いて、システム起動時の電流フィルタ値を算出する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、電池システム内の通電部品の熱保護に要する処理負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】電池システムの全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】通電部品の熱限界特性を模式的に示す図である。
【
図4】従来の平均処理によって算出される平均電流の波形特性と、IIRフィルタ処理によって算出される電流フィルタ値IFの波形特性とを比較する図である。
【
図5】制御回路の処理の流れを示す図(その1)である。
【
図6】制御回路の処理の流れを示す図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0017】
<システム構成>
図1は、本実施の形態に係る電池システム1の全体構成を概略的に示す図である。電池システム1は、たとえば、負荷20の一例であるインバータおよびモータジェネレータを駆動力源とする車両に搭載される。
【0018】
電池システム1は、電池パック10と、負荷20と、正極線PLと、負極線NLと、制御回路100とを含む。電池パック10は、バッテリ11と、ヒューズ12と、監視ユニット13と、システムメインリレーSMRとを含む。
【0019】
バッテリ11は、複数のセルを含む組電池である。各セルは、たとえばリチウムイオン電池などの二次電池である。
【0020】
正極線PLは、バッテリ11の正極と負荷20とを電気的に接続する。負極線NLは、バッテリ11の負極と負荷20とを電気的に接続する。
【0021】
システムメインリレーSMRは、バッテリ11と負荷20との間に電気的に接続されている。システムメインリレーSMRは、制御回路100からの指令に従って閉成される。システムメインリレーSMRが閉成されることで、バッテリ11と負荷20との間の通電経路が形成される。
【0022】
ヒューズ12は、バッテリ11とシステムメインリレーSMRとの間に設けられている。ヒューズ12に大電流が流れると、内蔵の合金部品が溶断し、バッテリ11と負荷20との間の通電経路が電気的に遮断される。
【0023】
負荷20は、バッテリ11から供給する電力によって作動する電機部品である。たとえば、負荷20には、車両の駆動力を発生するモータジェネレータと、モータジェネレータを駆動するためのインバータとが含まれる。
【0024】
監視ユニット13は、電流センサ14、電圧センサ15、温度センサ16を含む。電流センサ14は、バッテリ11を流れる電流(通電経路を流れる電流I)を検出する。なお、電流センサ14によって検出される電流Iは、バッテリ11の放電時に正値、バッテリ11の充電時に負値となるものとする。電圧センサ15は、バッテリ11の電圧を検出する。温度センサ16は、バッテリ11の温度を検出する。監視ユニット13内の各センサは、検出結果を制御回路100に出力する。
【0025】
制御回路100は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ101と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ102と、各種信号を入出力するためのポートとを含む(いずれも図示せず)。制御回路100は、メモリに記憶されたプログラムおよびマップ、ならびに各センサから受ける信号等に基づいて、システムメインリレーSMRを制御したり、負荷20を制御したりする。
【0026】
<通電部品の熱保護(過熱抑制)>
電池システム1の通電経路には、上述のように、バッテリ11、システムメインリレーSMR、ヒューズ12等の複数の部品が配置されている。
【0027】
バッテリ11の最大入出力可能電流は、負荷20側の入出力要求を満たしつつ、通電経路上にある各部品(以下「通電部品」ともいう)の熱保護のために、各通電部品の熱限界特性を考慮して決められた定格電流(以下「許容電流」ともいう)を超えない範囲であることが望ましい。なお、本実施の形態による許容電流は、熱許容電流を含む。
【0028】
通電部品の熱限界特性(許容電流の特性)は、通電部品の連続通電時間と、連続通電時間中の平均電流とで規定されることがある。
【0029】
図2は、通電部品の熱限界特性を模式的に示す図である。
図2において、縦軸が連続通電時間(単位:sec(秒))を示し、横軸が連続通電時間中の平均電流(単位:A(アンペア))を示す。なお、
図2には、通電部品の熱限界特性として、3つの部品A~Cの許容電流が例示されている。
図2に示す部品A~Cの許容電流が、部品A~Cの熱保護を図る上で超えてはいけないラインである。
【0030】
図2に示すように、各部品A~Cの許容電流は、互いに異なるが、いずれも連続通電時間が長くなるほど小さくなる特性を有する。各部品A~Cの熱保護を適切に図るためには、各部品A~Cを流れる平均電流が各々の許容電流を超えないように、通電経路を流れる電流Iを抑制することが望ましい。
【0031】
その手法として、従来では、上述の特許第5687340号公報に開示された電池システムのように、複数の連続通電時間幅を予め設定し、複数の連続通電時間幅毎に電流の移動平均を計算する平均処理が行なわれる場合があった。しかしながら、従来の平均処理では、通電部品の熱保護に要する処理負荷が膨大となってしまうという問題がある。
【0032】
たとえば、
図2に示される3つの連続通電時間幅T1=0.1s(秒),T2=1s,T3=20sが予め設定されている場合、3つの連続通電時間幅T1,T2,T3の平均電流をそれぞれ計算する手法が従来の平均処理である。この従来の平均処理では、処理負荷が膨大となる。たとえば0.1s周期で電流センサ14の検出値を取得する場合、連続通電時間幅T3(=20s)の平均電流を算出するためには、過去20秒間に検出された200点の電流検出値のデータをメモリに記憶しておき、これら200点の電流検出値の移動平均値を計算する必要がある。このような平均処理を、連続通電時間幅T1,T2,T3毎に行なう必要があるため、処理負荷が膨大となる。
【0033】
そこで、本実施の形態による制御回路100は、複数の連続通電時間毎の平均電流を算出するのではなく、電流センサ14の検出値である電流Iに対して無限インパルス応答(IIR;Infinite Impulse Response)フィルタ処理を施すことによって、平均電流に相当する「電流フィルタ値IF」を複数の連続通電時間毎に算出する。そして、制御回路100は、各電流フィルタ値IFに基づいて電流Iの大きさを制限することによって、各通電部品の過熱を抑制する。
【0034】
IIRフィルタは、単純に移動平均をとるのではなく、フィードバックを取り入れることでより少ないタップ数(演算に用いる係数の数)で所望のフィルタ特性を得るディジタルフィルタである。したがって、IIRフィルタ処理を行なうことで、単純に移動平均処理を行なう場合よりも処理負荷を大幅に軽減することができる。そのため、従来のように複数の連続通電時間幅毎の平均電流を計算する場合に比べて、通電部品の熱保護に要する処理負荷を軽減することができる。以下、本実施の形態による通電部品の熱保護について詳しく説明する。
【0035】
<連続通電時間の設定手法>
本実施の形態によるIIRフィルタ処理を説明する前に、本実施の形態による連続通電時間の設定手法を
図2を参照して説明する。
【0036】
図2に示したように、各部品A~Cの許容電流は互いに異なる。処理負荷を抑えつつ各部品A~Cの熱保護を図るためには、連続通電時間の数および値を適切に設定することが望まれる。本実施の形態においては、連続通電時間の数および値が以下の手順で設定される。
【0037】
(手順1) 部品A~Cの許容電流を超えない領域に、
図2に示されるような電流制限目標ラインを設定する。
【0038】
(手順2) 部品A~Cの許容電流のうちの最も小さい許容電流値I3(
図2に示す例では200A)と電流制限目標ラインとの交点P3における連続通電時間(
図2に示す例では20s)を「連続通電時間幅T3」に設定する。また、許容電流値I3を「電流制限値Ilim3」に設定する。
【0039】
(手順3) 連続通電時間幅T3と部品A~Cの許容電流との交点のうちの最も小さい許容電流値I2(
図2に示す例では連続通電時間幅T3=20sと部品Bの許容電流との交点における400A)と電流制限目標ラインとの交点P2における連続通電時間(
図2に示す例では1s)を「連続通電時間幅T2」に設定する。また、許容電流値I2を「電流制限値Ilim2」に設定する。
【0040】
(手順4) 電流制限値が電流制限目標ラインの最大値を超えるまで、手順3による連続通電時間の設定を繰り返す。
図2に示す例では、連続通電時間幅T2と部品A~Cの許容電流との交点のうちの最も小さい許容電流値I1(
図2に示す例では連続通電時間幅T2=2sと部品Cの許容電流との交点における700A)が既に電流制限目標ラインの最大値を超えているため、手順3による連続通電時間の設定は1回のみとなる。
【0041】
(手順5) 最後に、連続通電時間幅T2=1sと部品Cの許容電流との交点における許容電流値I1(=700A)を「電流制限値Ilim1」に設定し、0.1sを「連続通電時間幅T1」に設定する。なお、許容電流値I1(=700A)が電流制限目標ラインの最大値(=400A)を超えていることに鑑み、電流制限値Ilim1を許容電流値I1(=700A)ではなく電流制限目標ラインの最大値(=400A)に設定するようにしてもよい。
【0042】
このような手順で連続通電時間の数および値が設定されることによって、連続通電時間の数を部品A~Cの熱保護を図るのに必要十分な適切な数に抑えることができる。そのため、連続通電時間の数が過剰に多くなることが抑制される。その結果、処理負荷を低減することができる。
【0043】
また、このような手順で設定される電流制限値Ilimは、いずれも、部品A~Cの許容電流未満の値である。したがって、電流Iを電流制限値Ilim以下に制限することによって、電流Iを部品A~Cの許容電流を超えないように制御することができる。そのため、部品A~Cの熱保護を適切に図ることができる。
【0044】
<IIRフィルタ処理を用いた通電部品の熱保護>
本実施の形態による制御回路100は、上述のように設定された連続通電時間幅T1,T2,T3毎にIIRフィルタ処理を行なうことによって、連続通電時間幅T1中の平均電流に相当する「電流フィルタ値IF1」、連続通電時間幅T2中の平均電流に相当する「電流フィルタ値IF2」、連続通電時間幅T3中の平均電流に相当する「電流フィルタ値IF3」をそれぞれ算出する。
【0045】
制御回路100は、連続通電時間幅T1,T2,T3にそれぞれ対応する電流制限値Ilim1,Ilim2,Ilim3を設定する。なお、本実施の形態においては、電流制限値Ilim1,Ilim2,Ilim3は、上述したように、それぞれ許容電流値I1(=700A),I2(=400A),I3(=200A)に予め設定されている。
【0046】
そして、制御回路100は、電流フィルタ値IF1が電流制限値Ilim1を超えた場合、通電経路を流れる電流Iの大きさを電流制限値Ilim1に制限する。これにより、平均電流が電流制限値Ilim1(=700A)よりも大きく、かつ、連続通電時間が連続通電時間幅T1(=0.1s)を超える「領域Z」での使用が抑制される。
【0047】
同様に、制御回路100は、電流フィルタ値IF2が電流制限値Ilim2を超えた場合、通電経路を流れる電流Iの大きさを電流制限値Ilim2に制限する。これにより、平均電流が電流制限値Ilim2(=400A)よりも大きく、かつ、連続通電時間が連続通電時間幅T2(=1s)を超える「領域Y」での使用が抑制される。
【0048】
同様に、制御回路100は、電流フィルタ値IF3が電流制限値Ilim3を超えた場合、通電経路を流れる電流Iの大きさを電流制限値Ilim3に制限する。これにより、平均電流が電流制限値Ilim3(=200A)よりも大きく、かつ、連続通電時間が連続通電時間幅T3(=20s)を超える「領域X」での使用が抑制される。
【0049】
図3は、制御回路100の通電部品の熱保護に関する部分の機能ブロック図である。制御回路100は、電流取得部110と、IIRフィルタ121~123と、判定部131~133と、電流制限部140とを有する。
【0050】
電流取得部110は、電流センサ14によって検出された電流Iを取得し、取得した電流Iの大きさ(以下「電流絶対値|I|」ともいう)をIIRフィルタ121~123に送信する。
【0051】
上述のように電流Iはバッテリ11の放電時に正値となりバッテリ11の充電時に負値となるが、通電部品の発熱量は電流Iの2乗に比例するため、通電部品の温度は、電流Iの正負に関わらず、電流Iの絶対値が大きいほど高くなる。この点を考慮して、電流取得部110は、電流Iそのものではなく、電流絶対値|I|をIIRフィルタ121~123に送信する。これにより、電流絶対値|I|がIIRフィルタ処理の対象となる。なお、IIRフィルタ処理の対象を、電流絶対値|I|に代えて、電流Iの2乗値としてもよい。
【0052】
IIRフィルタ121は、電流取得部110からの電流絶対値|I|に、IIRフィルタ係数αを「第1係数α1」とするIIRフィルタ処理を施すことによって、連続通電時間幅T1中の平均電流に相当する電流フィルタ値IF1を算出し、算出結果を判定部131に送信する。
【0053】
IIRフィルタ122は、電流取得部110からの電流絶対値|I|に、IIRフィルタ係数αを「第2係数α2」とするIIRフィルタ処理を施すことによって、連続通電時間幅T2中の平均電流に相当する電流フィルタ値IF2を算出し、算出結果を判定部132に送信する。
【0054】
IIRフィルタ123は、電流取得部110からの電流絶対値|I|に、IIRフィルタ係数αを「第3係数α3」とするIIRフィルタ処理を施すことによって、連続通電時間幅T3中の平均電流に相当する電流フィルタ値IF3を算出し、算出結果を判定部133に送信する。
【0055】
判定部131は、連続通電時間幅T1の電流制限値Ilim1を設定し、IIRフィルタ121からの電流フィルタ値IF1と電流制限値Ilim1との大小関係を判定する。なお、本実施の形態においては、上述のように、電流制限値Ilim1が
図2に示した許容電流値I1(=700A)に予め固定されている。
【0056】
判定部132は、連続通電時間幅T2の電流制限値Ilim2を設定し、IIRフィルタ122からの電流フィルタ値IF2と電流制限値Ilim2との大小関係を判定する。なお、本実施の形態においては、上述のように、電流制限値Ilim2が
図2に示した許容電流値I2(=400A)に予め固定されている。
【0057】
判定部133は、連続通電時間幅T3の電流制限値Ilim3を設定し、IIRフィルタ123からの電流フィルタ値IF3と電流制限値Ilim3との大小関係を判定する。なお、本実施の形態においては、上述のように、電流制限値Ilim3が
図2に示した許容電流値I3(=200A)に予め固定されている。
【0058】
判定部131~133は、判定結果を電流制限部140に送信する。電流制限部140は、判定部131~133からの判定結果に基づいて、電流Iの大きさを制限する。具体的には、電流フィルタ値IF1が電流制限値Ilim1を超えた場合には、電流Iの大きさを電流制限値Ilim1に制限する。電流フィルタ値IF2が電流制限値Ilim2を超えた場合には、電流Iの大きさを電流制限値Ilim2に制限する。電流フィルタ値IF3が電流制限値Ilim3を超えた場合には、電流Iの大きさを電流制限値Ilim3に制限する。
【0059】
図4は、従来の平均処理によって算出される平均電流の波形特性と、本実施の形態によるIIRフィルタ処理によって算出される電流フィルタ値IFの波形特性とを比較する図である。
【0060】
従来の平均処理は、単純に移動平均を行なうものである。なお、従来の平均処理は、たとえば、FIR(Finite Impulse Response;有限インパルス応答)ローパスフィルタを用いて行なうことができる。FIRローパスフィルタは、移動平均の対象となる複数の要素毎に重み付けのパラメータを追加した構成を有する。
図4の下段に、FIRローパスフィルタの構成の一例が示されている。
【0061】
これに対し、本実施の形態によるIIRフィルタ(IIRローパスフィルタ)は、単純に移動平均をとるのではなく、フィードバックを取り入れることでより少ないタップ数(演算に用いる係数の数)で所望のフィルタ特性を得る構成を有する。したがって、FIRフィルタのように単純に移動平均を行なう場合に比べて、処理負荷を大幅に軽減することができる。
図4の下段に、IIRローパスフィルタの構成の一例が示されている。なお、
図4に示されるIIRローパスフィルタの構成は、あくまで一例であって、これに限定されるものではない。たとえば、
図4に示される構成を基本的な構成として含んで、より複雑な構成が追加されてもよい。
【0062】
図4からも理解できるように、IIRフィルタ処理によって算出される電流フィルタ値IFの波形特性は、従来の平均処理によって算出される平均電流の波形特性とほぼ同等である。この点に鑑み、本実施の形態においては、従来の平均処理の代用として、IIRフィルタを用いる。これにより、従来と同等精度の平均電流を、少ない処理負荷で得ることができる。
【0063】
なお、
図4に示す例では、電流フィルタ値IF2が連続通電時間幅T2中の平均電流に相当する値に適合するように、電流フィルタ値IF2を算出するためのIIRフィルタ係数α(第2係数α2)が「0.1667」に調整されている。同様に、電流フィルタ値IF3が連続通電時間幅T3中の平均電流に相当する値に適合するように、電流フィルタ値IF3を算出するためのIIRフィルタ係数α(第3係数α3)が「0.0091」に調整されている。このように、IIRフィルタ係数αの値を調整することによって、電流フィルタ値IF1,IF2,IF3を、それぞれ連続通電時間幅T1,T2,T3中の平均電流に相当する値に適合させることができる。
【0064】
図5は、制御回路100が通電部品の熱保護を行なう場合の処理の流れを示す図である。
【0065】
まず、制御回路100は、電流センサ14によって検出された電流Iを所定周期(たとえば0.1s周期)で取得し(ステップS10)、電流Iの大きさである電流絶対値|I|を算出する(ステップS12)。
【0066】
次いで、制御回路100は、電流絶対値|I|にα=α1のIIRフィルタ処理を施すことによって、連続通電時間幅T1の平均電流に相当する電流フィルタ値IF1を算出する(ステップS21)。そして、制御回路100は、連続通電時間幅T1の電流制限値Ilim1を設定し、電流フィルタ値IF1と電流制限値Ilim1との大小関係を判定する(ステップS31)。なお、連続通電時間幅T1が0.1sであり、かつ、0.1s周期で電流Iが取得される場合には、電流絶対値|I|をそのまま電流フィルタ値IF1に設定するようにしてもよい。
【0067】
制御回路100は、電流絶対値|I|にα=α2のIIRフィルタ処理を施すことによって、連続通電時間幅T2の平均電流に相当する電流フィルタ値IF2を算出する(ステップS22)。そして、制御回路100は、連続通電時間幅T2の電流制限値Ilim2を設定し、電流フィルタ値IF2と電流制限値Ilim2との大小関係を判定する(ステップS32)。
【0068】
制御回路100は、電流絶対値|I|にα=α3のIIRフィルタ処理を施すことによって、連続通電時間幅T3の平均電流に相当する電流フィルタ値IF3を算出する(ステップS23)。そして、制御回路100は、連続通電時間幅T3の電流制限値Ilim3を設定し、電流フィルタ値IF3と電流制限値Ilim3との大小関係を判定する(ステップS33)。
【0069】
制御回路100は、ステップS31~S33の判定結果に基づいて電流Iの大きさを制限する(ステップS40)。具体的には、制御回路100は、電流フィルタ値IF1が電流制限値Ilim1よりも大きい場合には、電流Iの大きさを電流制限値Ilim1に制限する。制御回路100は、電流フィルタ値IF2が電流制限値Ilim2よりも大きい場合には、電流Iの大きさを電流制限値Ilim2に制限する。制御回路100は、電流フィルタ値IF3が電流制限値Ilim3を超えた場合には、電流Iの大きさを電流制限値Ilim3に制限する。
【0070】
以上のように、本実施の形態による制御回路100は、電流センサ14の検出値である電流Iの大きさに対してIIRフィルタ処理を施すことによって、連続通電時間幅T1,T2,T3中の平均電流にそれぞれ相当する電流フィルタ値IF1,IF2,IF3を算出する。そのため、従来と同等精度の平均電流を、少ない処理負荷で得ることができる。その結果、通電部品の熱保護に要する処理負荷を軽減することができる。
【0071】
[変形例1]
上述の実施の形態においては、各電流フィルタ値IFが各電流制限値Ilimを超えた場合に電流Iの大きさを各電流制限値Ilimに制限しているが、この場合、電流制限前の電流Iの大きさと電流制限後の電流Iの大きさ(=電流制限値Ilim)との差が大きいと、急減な電流制限が作用してしまうことになる。
【0072】
この点に鑑み、本変形例1による制御回路100は、各電流制限値Ilim1を、各電流制限値Ilimに対応する電流フィルタ値IFに応じて変化させる。
【0073】
図6は、本変形例1による制御回路100Aが通電部品の熱保護を行なう場合の処理の流れを示す図である。
図6の処理は、上述の
図5のステップS31~S33,S40をそれぞれステップS31A~S33A,S40Aに変更したものである。
図6のその他の処理は、上述の
図5の処理と同じであるため、ここでの詳細な説明は繰り返さない。
【0074】
制御回路100は、電流フィルタ値IF2に応じて電流制限値Ilim2を設定する(ステップS32A)。具体的には、電流フィルタ値IF2が許容電流値I2の0.9倍の値(=400A×0.9=360A)未満である場合、制御回路100は、電流制限値Ilim2を許容電流値I2よりも大きい値(制限なしの値)に設定する。電流フィルタ値IF2が許容電流値I2の0.9倍の値以上かつ許容電流値I2未満である場合、制御回路100は、電流フィルタ値IF2が大きいほど、電流制限値Ilim2を許容電流値I2に向けて単調減少させる。電流フィルタ値IF2が許容値Ilim2よりも大きい場合、制御回路100は、電流制限値Ilim2を許容電流値I2に設定する。
【0075】
同様に、制御回路100は、電流フィルタ値IF3に応じて電流制限値Ilim3を設定する(ステップS33A)。具体的には、電流フィルタ値IF3が許容電流値I3の0.9倍の値(=200A×0.9=180A)未満である場合、制御回路100は、電流制限値Ilim3を許容電流値I3よりも大きい値(制限なしの値)に設定する。電流フィルタ値IF3が許容電流値I3の0.9倍の値以上かつ許容電流値I3未満である場合、制御回路100は、電流フィルタ値IF3が大きいほど、電流制限値Ilim3を許容電流値I3に向けて単調減少させる。電流フィルタ値IF3が許容電流値I3よりも大きい場合、制御回路100は、電流制限値Ilim3を許容電流値I3に設定する。
【0076】
同様の手法で、制御回路100は、電流フィルタ値IF1に応じて電流制限値Ilim1を設定する(ステップS31A)。
【0077】
そして、制御回路100は、電流Iの大きさを電流制限値Ilim1,Ilim2,Ilim3未満に制限する(ステップS40A)。
【0078】
このように、各電流フィルタ値IFが各許容電流値に近づくに連れて徐々に各電流制限値Ilimを各許容電流値に向けて減少させることで、急激に電流制限がかかることを抑制することができる。
【0079】
[変形例2]
上述の実施の形態においては、上述の
図2に示したように、通電部品の熱限界特性が通電部品の連続通電時間と連続通電時間中の平均電流とで規定される場合を想定していた。
【0080】
しかしながら、実際には、通電部品の熱限界特性は、通電部品の環境温度(暴露温度)、および通電部品の使用期間(劣化状態)によっても変化し得る。具体的には、通電部品の許容電流値は、連続通電時間および平均電流が同じであっても、環境温度が高いほど、また、使用期間が長いほど(経年劣化の度合いが大きいほど)、低下する。特に、ヒューズ12は部品劣化によって溶断温度が変化するため、使用期間の影響を受け易い傾向にある。
【0081】
この点に鑑み、通電部品の環境温度および使用期間の少なくとも一方に応じて、電流フィルタ値IFおよび電流制限値Ilimの少なくとも一方を変化させるようにしてもよい。たとえば、制御回路100は、通電部品の環境温度が高いほど、および/または、通電部品の使用期間が長いほど、電流フィルタ値IFを大きい値にすることで、電流制限がかかり易くするようにしてもよい。また、制御回路100は、通電部品の環境温度が高いほど、および/または、通電部品の使用期間が長いほど、電流制限値Ilimを小さい値にすることで、電流制限がかかり易くするようにしてもよい。なお、制御回路100は、通電部品の環境温度および使用期間に応じてIIRフィルタ係数αを変化させることによって、各電流フィルタ値IFを変化させることができる。なお、通電部品の環境温度は、たとえば温度センサ16の検出結果から把握するようにすればよい。
【0082】
[変形例3]
電池システム1が停止状態から作動状態に変化するシステム起動時(たとえば、電池システム1が車両に搭載される場合には車両のユーザによるIGオン操作が行なわれた時)には、前回のシステム停止時の電流フィルタ値IFをメモリ102から読み出し、システム起動時の電流フィルタ値IFを、前回のシステム停止時の電流フィルタ値IFと、前回のシステム停止時から今回のシステム起動時までの時間(システム停止時間)とから算出するようにしてもよい。
【0083】
たとえば、システム停止中の電流絶対値|I|が0であることを前提として、前回のシステム停止時の電流フィルタ値IFをシステム停止時間で割った値を、システム起動時の電流フィルタ値IFとしてもよい。これにより、システム起動時の電流フィルタ値IFを、システム停止中の通電部品の放熱量を加味した値にすることができる。
【0084】
[変形例4]
上述の実施の形態においては通電部品の熱保護のために電流制限値を設定したが、電流を制限する目的は、通電部品の熱保護に限定されず、さまざまな目的が存在し得る。そのため、複数の目的に沿って複数の電流制限値をそれぞれ算出し、複数の電流制限値のうちの最小値を選択するようにしてもよい。
【0085】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0086】
1 電池システム、10 電池パック、11 バッテリ、12 ヒューズ、13 監視ユニット、14 電流センサ、15 電圧センサ、16 温度センサ、20 負荷、100,100A 制御回路、101 プロセッサ、102 メモリ、110 電流取得部、121,122,123 IIRフィルタ、131,132,133 判定部、140 電流制限部、NL 負極線、PL 正極線、SMR システムメインリレー。