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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】タイヤ摩耗測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20240522BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
G01B7/00 W
B60C19/00 E
B60C19/00 B
B60C19/00 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022545565
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2021027841
(87)【国際公開番号】W WO2022044665
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2020141508
(32)【優先日】2020-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】今井 佑貴
(72)【発明者】
【氏名】中村 徳男
(72)【発明者】
【氏名】野口 貴史
(72)【発明者】
【氏名】戸張 博之
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 真哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮介
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 利恵
(72)【発明者】
【氏名】不藤 平四郎
(72)【発明者】
【氏名】篠原 英司
(72)【発明者】
【氏名】田村 学
(72)【発明者】
【氏名】末松 信彦
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203831(JP,A)
【文献】特開平08-075403(JP,A)
【文献】特開2017-114438(JP,A)
【文献】国際公開第2020/070951(WO,A1)
【文献】特開2006-290315(JP,A)
【文献】特開平05-302619(JP,A)
【文献】特開平06-141524(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122252(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01B 11/00-21/32
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気センサと集磁部材とを備え、タイヤに埋設された磁石の磁界に基づいて前記タイヤの摩耗を検知するタイヤ摩耗測定装置において、
前記集磁部材は、前記磁石の磁界を伝達可能であり、かつ外周端から前記磁石の磁界を放出磁界として放出し、
前記磁気センサは、前記放出磁界を検知可能な位置に配置され、
前記放出磁界を誘導する磁界誘導部材を備え、
前記集磁部材がコイン型電池であり、前記コイン型電池の電極面の法線方向から平面視した場合に、
前記磁界誘導部材の前記磁気センサ側の端部が、前記コイン型電池の前記外周端の外側に配置され、
前記磁気センサが、前記コイン型電池と前記磁界誘導部材の端部との間に配置され、
前記磁界誘導部材が、導波路となり電磁波の放射・受信を行うアンテナであり、
前記磁気センサの検知可能方向は前記コイン型電池の電極面に平行な方向であることを特徴とするタイヤ摩耗測定装置。
【請求項2】
前記コイン型電池は、その電極面が前記磁石に臨む向きに配置されている、請求項1に記載のタイヤ摩耗測定装置。
【請求項3】
前記コイン型電池の電極面に平行な同一平面上に、前記磁界誘導部材の前記端部と前記磁気センサとが配置されている請求項1または請求項2に記載のタイヤ摩耗測定装置。
【請求項4】
前記磁気センサは、第1センサと第2センサとを有し、
前記コイン型電池の前記電極面に平行な方向において、前記コイン型電池を挟んで、一方側に前記第1センサが配置され、他方側に前記第2センサが配置され、
前記第1センサの出力と前記第2センサの出力とに基づいてタイヤの摩耗を検知する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタイヤ摩耗測定装置。
【請求項5】
前記コイン型電池の前記電極面の法線方向から平面視したときに、前記コイン型電池の前記電極面の中心が、タイヤに埋設された前記磁石と重なり、かつ、前記第1センサと前記第2センサとを結んだ直線上に位置する、請求項4に記載のタイヤ摩耗測定装置。
【請求項6】
前記磁気センサは、第1センサと第2センサとを有し、
前記磁界誘導部材は、前記磁気センサ側の端部として、第1端部と第2端部とを有し、
前記集磁部材がコイン型電池であり、前記コイン型電池の電極面に平行な方向において、前記コイン型電池を挟んで、一方側に前記第1センサおよび前記第1端部が配置され、他方側に前記第2センサおよび前記第2端部が配置され、
前記第1センサの出力と前記第2センサの出力とに基づいてタイヤの摩耗を検知する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のタイヤ摩耗測定装置。
【請求項7】
前記磁石の磁界の範囲内に配置されたコイルを備え、前記タイヤの回転によって前記コイルに発生した誘導電流を動作用電源として利用可能である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のタイヤ摩耗測定装置。
【請求項8】
前記コイルが、前記集磁部材と前記磁石との間に配置されている、請求項7に記載のタイヤ摩耗測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに埋設された磁石の磁界に基づいてタイヤの摩耗を検出するタイヤ摩耗測定装置および発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの摩耗が進行すると、路面を走行する際におけるグリップ性能や、濡れた路面を走行する際におけるタイヤと路面との間の水を排出する排水性能が低下する。そこで、運転者や車両管理者は、タイヤのトレッドの摩耗状態を目視で点検し、安全性を確保するために使用限度を超える前にタイヤを交換する。目視による点検にはタイヤの溝に設けられているスリップサインなどが用いられる。しかし、点検作業は煩雑であり、また、摩耗状態の評価を誤るおそれもある。ユーザーによっては点検を行わないことも考えられる。評価を誤った場合、性能が低下したタイヤが継続して使用されることになり、安全性の観点から好ましくない。
そこで、目視以外の方法によってタイヤの摩耗の程度を測定するためのセンサモジュールが提案されている。たとえば、特許文献1には、トレッド部のタイヤ半径方向の磁場の磁束密度を検知する磁気センサを有し、磁気センサにより検知された磁束密度によりトレッド部の摩耗を測定するように構成されたセンサモジュールが記載されている。
また、特許文献2には、タイヤ内のデバイスに電力を供給するための、振り子に磁石が配置され、振り子を支持する本体側にコイルが配置され、タイヤの回動とともに磁石が回動し発電するタイヤ内発電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-203831号公報
【文献】特開2011-239510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のセンサモジュールは、摩耗により変化する磁場の強さを測定し、タイヤの摩耗状態を常時正確に把握することを目的としている。このため、同文献には、センサモジュールの小型・軽量化のための構成は記載されていない。また、センサモジュールはタイヤに取り付けて用いられるため、大型であったり・重量が大きかったりすると、タイヤが回転する時のバランスを悪くする原因となるおそれがある。したがって、センサモジュールは、できるだけ小型・軽量であることも求められている。また、特許文献2に記載の装置は、発電システムとして大掛かりであるから、重量が大きくなりやすく、この装置を取り付けたタイヤでは回転時のバランスが悪くなることも考えられる。
本発明は、タイヤの摩耗を精度よく検出でき、小型・軽量化に適したタイヤ摩耗測定装置およびタイヤ内へ設置可能な発電装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、磁気センサと集磁部材とを備え、タイヤに埋設された磁石の磁界に基づいて前記タイヤの摩耗を検知するタイヤ摩耗測定装置において、前記集磁部材は、前記磁石の磁界を伝達可能であり、かつ外周端から前記磁石の磁界を放出磁界として放出し、前記磁気センサは、前記放出磁界を検知可能な位置に配置されていることを特徴とするタイヤ摩耗測定装置を提供する。
上記の構成により、集磁部材から放出される放出磁界を検知することにより、磁気センサをタイヤに埋設された磁石の近傍に配置する必要がなくなる。したがって、磁気センサの設計における自由度が高くなり、タイヤ摩耗測定装置の構造を簡略化して小型・軽量化するとともに、検知精度を良好にすることができる。
【0006】
タイヤ摩耗測定装置は、前記放出磁界を誘導する磁界誘導部材を備えていることが好ましい。この場合、前記集磁部材がコイン型電池であり、前記コイン型電池の電極面の法線方向から平面視した場合に、前記磁界誘導部材の前記磁気センサ側の端部が、前記コイン型電池の前記外周端の外側に配置され、前記磁気センサが、前記コイン型電池と前記磁界誘導部材の端部との間に配置されていることが好ましい。
上記の構成により、磁界誘導部材に誘導された放出磁界を磁気センサによって効率よく検知することができるから、磁気センサの検出精度が向上する。すなわち、コイン型電池と磁界誘導部材の端部との間に磁界誘導部材に誘導された放出磁界が形成される。この放出磁界を磁界誘導部材で誘導することにより、磁束密度を高くできる。したがって、コイン型電池と磁界誘導部材の端部との間に磁気センサを配置することにより、磁気センサは放出磁界を精度良く検知できる。
【0007】
前記コイン型電池は、その電極面が前記磁石に臨む向きに配置されていることが好ましい。この構成により、コイン型電池の外周端全体から放出磁界が放出されるから、外周端の近傍に磁気センサを配置することにより放出磁界を検知できる。
【0008】
前記磁界誘導部材が、導波路となり電磁波の放射・受信を行うアンテナであってもよい。通信用のアンテナを磁界誘導部材として用いることにより、タイヤ摩耗測定装置を小型・軽量化できる。
【0009】
前記磁気センサの検知可能方向は前記コイン型電池の電極面に平行な方向であり、前記コイン型電池の電極面に平行な同一平面上に、前記磁界誘導部材の前記端部と前記磁気センサとが配置されていてもよい。
この構成により、磁気センサに検知される放出磁界には、コイン型電池の電極面に平行な成分がより多く含まれることとなるから、効率よく放出磁界を検知できる。
【0010】
前記磁気センサは、第1センサと第2センサとを有し、前記コイン型電池の前記電極面に平行な方向において、前記コイン型電池を挟んで、一方側に前記第1センサが配置され、他方側に前記第2センサが配置され、第1センサの出力と第2センサの出力とに基づいてタイヤの摩耗を検知してもよい。
この場合、前記コイン型電池の前記電極面の法線方向から平面視したときに、前記コイン型電池の前記電極面の中心が、タイヤに埋設された前記磁石と重なり、かつ、前記第1センサと前記第2センサとを結んだ直線上に位置することが好ましい。
第1センサの出力および第2センサの出力を用いることにより、外部磁界のようなノイズの影響をキャンセルできる。また、コイン型電池を挟んで一方側と他方側とでは磁界の向きが逆向きである。このため、例えば、両者の出力差を用いることによって1個の磁気センサの出力に比べて約2倍の出力が得られるから、検知精度が向上する。
【0011】
タイヤ摩耗測定装置が前記放出磁界を誘導する磁界誘導部材を備えている場合、前記磁気センサは、第1センサと第2センサとを有し、前記磁界誘導部材は、前記磁気センサ側の端部として、第1端部と第2端部とを有し、前記集磁部材がコイン型電池であり、前記コイン型電池の電極面に平行な方向において、前記コイン型電池を挟んで、一方側に前記第1センサおよび第1端部が配置され、他方側に前記第2センサおよび前記第2端部が配置され、前記第1センサの出力と前記第2センサの出力とに基づいてタイヤの摩耗を検知してもよい。
磁界誘導部材に誘導された放出磁界を磁気センサによって効率よく検知することができるから、タイヤの摩耗測定における精度が向上する。
【0012】
タイヤ摩耗測定装置は、前記磁石の磁界の範囲内に配置されたコイルを備え、前記コイルに発生した誘導電流を動作用電源として利用可能であってもよい。この場合、前記コイルが、前記集磁部材と前記磁石との間に配置されていることが好ましい。
タイヤの回転に伴う磁石とコイルとの相対位置の変化により、コイルにおける磁束密度が変化する。集磁部材と磁石との間にコイルを配置することでコイルを通過する磁束密度が大きくなるから、発電効率が向上する。したがって、外形(サイズ)を小さく維持したままコイルにより発電した電力をタイヤ摩耗測定装置の動作に利用することができる。
【0013】
本発明は、タイヤに埋設された磁石と、前記磁石の磁界の範囲内に配置されたコイルと、を備え、前記磁石と前記コイルとの相対位置が、前記タイヤの回転に伴って変化し、前記相対位置の変化に起因する前記コイルを通過する磁束密度の変化により発電する発電装置を提供する。発電装置は、磁性部材を備え、前記磁性部材と前記磁石との間にコイルが配置されていることが好ましい。
上記の構成により、タイヤの回転に伴うコイルにおける磁束密度の変化によって生じる誘導電流を用いて発電することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタイヤ摩耗測定装置は、集磁部材から放出される放出磁界を検知することで、磁気センサの配置における自由度が高くなり、小型、軽量化を実現しつつ、タイヤの摩耗を精度よく測定することができる。また、コイルを配置することにより、装置を大型化することなく、タイヤの回転に伴ってコイルを通過する磁界の磁束密度の変化によって生じる誘導電流を用いて発電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るタイヤ摩耗測定装置の構成を模式的に示す断面図
図2】(a)図1のタイヤ摩耗測定装置における磁界を示すベクトルマップ、(b)図1のタイヤ摩耗測定装置における磁界のセンサ検知成分を示すコンターマップ
図3】(a)図1のタイヤ摩耗測定装置における磁界のセンサ検知成分を示すコンターマップ、(b)図8のタイヤ摩耗測定装置における磁界のセンサ検知成分を示すコンターマップ
図4図1のタイヤ摩耗測定装置における、磁石と、コイン型電池と、磁気センサと、アンテナ端部との位置関係を模式的に示す説明図
図5】タイヤ摩耗測定装置の変形例の構成を模式的に示す断面図
図6】(a)図5のタイヤ摩耗測定装置における磁界を示すベクトルマップ、(b)図5のタイヤ摩耗測定装置における磁界のセンサ検知成分を示すコンターマップ
図7】タイヤ摩耗測定装置がタイヤに取り付けられた状態を模式的に示す断面図
図8】従来のタイヤ摩耗測定装置の構成を模式的に示す断面図
図9】(a)図8のタイヤ摩耗測定装置における磁界を示すベクトルマップ、(b)図8のタイヤ摩耗測定装置における磁界のセンサ検知成分を示すコンターマップ
図10】タイヤ摩耗測定装置の他の変形例の構成を模式的に示す断面図
図11】本発明の実施形態に係る発電装置の構成を模式的に示す断面図
図12】(a)実施例1および実施例2のタイヤ摩耗測定装置の形状を示す斜視図、(b)比較例1のタイヤ摩耗測定装置の形状を示す斜視図
図13】実施例1、2および比較例1の出力比を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態について、以下、図を参照しつつ説明する。各図において、同一の部材には同じ番号を付して、適宜、説明を省略する。
図7は、本発明の実施形態に係るタイヤ摩耗測定装置がタイヤに取り付けられた状態を模式的に示す断面図である。同図に示すように、タイヤ摩耗測定装置10は、タイヤ20の内側面21に設けられており、外側面22のトレッド部23に磁性体30が埋設されている。トレッド部23とともに磁性体30が摩耗することに伴って、図中に破線で示す磁性体30からの磁界Mが変化する。このため、タイヤ摩耗測定装置10は、磁界Mを測定することにより、トレッド部23の摩耗状態を検知できる。例えば、磁性体30の摩耗に伴う磁界Mの変化をあらかじめ記憶したテーブルと磁界Mの測定値とに基づいて、タイヤ20の摩耗状態を測定することができる。
【0017】
図8は、従来のタイヤ摩耗測定装置の構成を模式的に示す断面図である。同図に示すように、タイヤ摩耗測定装置100はコイン型電池101を備えている。コイン型電池101のパッケージは透磁率の高い軟磁性材料でできているから、タイヤ20のトレッド部23に埋設された磁性体30が形成する磁界はコイン型電池101に誘導されやすい。このため、従来、コイン型電池101は、磁性体30と磁気センサ102A・102Bとの間に配置されていなかった。磁気センサ102A・102Bは、コイン型電池101よりも磁性体30に近く、かつコイン型電池101から十分に離れた位置に配置されていた。すなわち、磁気センサ102A・102Bによる磁気検出に対して影響しないように、磁性体30からコイン型電池101までの距離D1が、磁性体30から磁気センサ102A・102Bまでの距離D2よりも大きくなるように配置されていた。コイン型電池101と磁気センサ102A・102Bとを図8に示すように配置する構成は、タイヤ摩耗測定装置100の構造が複雑化し、サイズが大きくなる原因であった。
【0018】
図9(a)は、図8のタイヤ摩耗測定装置における磁界を示すベクトルマップであり、図9(b)は図8のタイヤ摩耗測定装置における磁界のセンサ検知成分を示すコンターマップである。ベクトルマップは、ベクトルを用いて磁界の方向および磁束密度を示したものである。コンターマップは、磁界におけるX軸方向の成分の磁束密度を濃淡で示したものであり、磁束密度が大きいほど濃い色で示される。
【0019】
図9(a)に示すように、従来のタイヤ摩耗測定装置100は、磁性体30の近傍に磁束密度が高い領域が形成されるから、この領域に磁気センサ102A・102Bを配置して磁性体30からの磁束を検知していた。しかし、図9(b)に示すように、磁性体30とは反対側のコイン型電池101の外周端101eの近傍に、X軸方向の成分の磁束密度が高い領域が形成されることが分かった。この領域の磁界は、コイン型電池101へ誘導された磁性体30からの磁界がコイン型電池101を介して放出された放出磁界であって、磁性体30からの磁界の変化に伴って変化する。したがって、当該放出磁界を測定することにより、磁性体30の磁界の変化を検知することが可能である。
【0020】
すなわち、コイン型電池101を磁気センサ102A・102Bよりも磁性体30に近い位置に配置するとともに、磁気センサ102A・102Bをコイン型電池101の外周端101eから放出される放出磁界を検知可能な位置に配置する構成により、磁性体30からの磁界の変化を測定することができる。この構成により、コイン型電池101を集磁部材(疑似ヨーク)として用いることができるから、構造を簡略化して、タイヤ摩耗測定装置100を小型化・軽量化することが可能になる。以下、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るタイヤ摩耗測定装置の構成を模式的に示す断面図である。同図に示すように、本実施形態のタイヤ摩耗測定装置10は、磁気センサ12A・12Bとコイン型電池11とを備えており、タイヤ20に埋設された磁性体30の磁界を検知してタイヤ20の摩耗を測定する。
【0022】
コイン型電池11は、磁性体30の磁界を伝達可能な位置に配置されており、その外周端11eから磁性体30からの磁界を放出磁界として放出する。本実施形態では、タイヤ摩耗測定装置10の電源として一般的に用いられているコイン型(ボタン型)の電池を用いた態様について説明する。しかし、コイン型電池11に限られず、磁性体30の磁界を伝達可能な集磁部材を用いることができる。ここで、「磁界を伝達可能な集磁部材」とは、磁性体30からの磁界を放出磁界として放出できる、透磁率の高い軟磁性材料からなる部分を備えた電池等の部材をいう。コイン型電池11は、その電極面11dから外周端11eまで連続するパッケージ(外装)に軟磁性材料が用いられているから、磁性体30の磁界の影響を受ける位置に配することにより、磁性体30の磁界を伝達して、磁性体30から遠い側の外周端11eから放出磁界として放出することができる。
【0023】
本実施形態において、磁性体30の磁界の影響が及ぶ位置とは、磁性体30からの磁界の磁束密度を検知可能な領域をいう。0mTでなければ磁束密度を検知することができるが、磁束密度が小さい場合ノイズの影響を受けやすいから、例えば、複数の検知結果の差分をとりノイズの影響を打ち消すことが好ましい。また、磁性体30の磁界の影響が及ぶ位置に配置されているとは、磁界を伝達する軟磁性材料からなる部分が、磁界の影響が及ぶ位置に配置されていることをいう。なお、コイン型電池11は、電極面11dの軟磁性材料からなる部分が磁界の影響が及ぶ位置にあれば磁界を伝達して外周端11eから放出磁界を放出することができる。このため、軟磁性材料からなる部分の全体が磁性体30の磁界の影響が及ぶ位置に配置されていなくてもよい。
【0024】
コイン型電池11は、電極面11dが磁性体30に臨む向きに配置されている。すなわち、電極面11dの法線11Lの方向(法線方向)がY軸方向を向くように、電極面11dがタイヤ20の内側面21に対向して配置されている。このため、コイン型電池11は、磁性体30からの磁界を効率よく伝達し、外周端11eから放出磁界として放出することができる。
【0025】
磁気センサ12A・12Bは、コイン型電池11を挟んで磁性体30とは反対の面11f側における、外周端11eから放出された放出磁界を検知可能な位置に配置されている。そして、磁気センサ12Aと磁気センサ12Bとは、同一平面上に配置されている。なお、放出磁界は外周端11eから図1における斜め上方向へ放出され、外周端11eの近傍にその周辺に比べて磁束密度が高くなっている領域が形成される。すなわち、磁気センサ12A・12Bを、外周端11eから放出された放出磁界を検知可能な位置に配置することで、磁界の変化を精度よく検知することができる。磁気センサ12A・12Bにより放出磁界を検知するためには、例えば、磁気センサ12A・12Bの位置における検知可能方向の磁束密度が0.4mT以上であることが好ましい。なお、本実施形態における磁束密度は、使用前の新しいタイヤ20にタイヤ摩耗測定装置10を配置した場合に検知される磁束密度をいう。
【0026】
例えば、表面磁束密度として26mTの磁界を発生する磁性体30を用いた場合、磁性体30から電極面11dまでの距離D1が10~20mm程度となる位置にコイン型電池11を配置すれば、コイン型電池11により磁界を伝達可能である。磁気センサ12A・12Bによって外周端11eからの放出磁界を精度よく検知する観点から、コイン型電池11の外周端11eからのX軸方向の距離(LX)が2.8mm以下、好ましくは2.5mm以下、より好ましくは2.3mm以下となるように磁気センサ12A・12Bを配置する。また同様の観点から、コイン型電池11の外周端11eからのY軸方向の距離(LY)が3.2mm以下、好ましくは2.9mm以下、より好ましくは2.7mm以下となるように磁気センサ12A・12Bを配置する。
【0027】
図1に示すように、磁気センサ12A・12Bと磁性体30とのY軸方向の距離D2は、コイン型電池11と磁性体30との距離D1よりも大きい。このため、磁気センサ12A・12Bは、磁性体30からの磁界を直接検知するのではなく、コイン型電池11により伝達され、その外周端11eから放出された放出磁界として検知する。なお、本実施形態において、部材間の距離とは、部材同士の最も近接する部分間の距離をいう。
【0028】
磁気センサ12A・12Bは、外周端11eからの放出磁界を測定するものであり、磁界の方向、強さによって抵抗が変化する磁気抵抗効果素子が用いられる。磁気抵抗効果素子としては、GMR素子、TMR素子等が挙げられる。磁気センサ12A・12Bによる測定は、リアルタイムで連続的に行われる必要はなく、一定の時間毎に断続的に行われてもよい。あるいは、図示しない無線通信手段を介して受信した外部からの指示に応じて測定してもよい。一定の時間毎、あるいは指示に応じて測定を行うことにより、連続的に測定するよりも電力消費を抑制できる。磁気センサ12A・12Bである磁気抵抗効果素子の代わりにホール素子を使用し、磁束の強さの変化を計測してもよい。また磁気インピーダンス効果素子を磁気センサ12A・12Bとして用いて、磁界の変化によるインピーダンスの変化を計測してもよい。
【0029】
磁気センサ12A・12Bは、X軸方向の磁束密度を検知可能に構成されているから、外周端11eからの放出磁界を精度よく検知することができる。ただし、X軸方向のみでなく、それぞれ、互いに直交する3軸方向(X軸、Y軸およびZ軸)の磁界を検知可能に構成されていてもよい、この場合、磁気センサ12A・12Bは、1軸検出のセンサ3つを用いて構成されてもよい。なお、本実施形態においては、磁気センサ12A・12BはモールドパッケージにGMR素子が内蔵されたGMRセンサを用いている。
【0030】
タイヤ摩耗測定装置10は、磁気センサ12A・12Bによる磁界の測定に基づいたタイヤ20の摩耗に関する情報を、無線通信手段などを介して車両側装置などに出力してもよい。無線通信手段を介して、車両側装置に磁気センサ12A・12Bによる測定結果の情報を送信したり、車両側装置からの情報を受信したりすることができる。タイヤ摩耗測定装置10と外部の装置との通信による情報の送受は図示しないCPUによって制御される。
【0031】
タイヤ摩耗測定装置10は外部との通信用のアンテナ13を備えており、その両側の端部13a・13bが、それぞれ磁気センサ12A・12Bの近傍の外周端11eからの放出磁界を誘導可能な位置に配置されている。アンテナ13は、導波路となり電磁波の放射・受信を行うものであり、コイン型電池11の外周端11eからの放出磁界を誘導する磁界誘導部材(ヨーク)として機能する。アンテナ13の端部13a、13bは、コイン型電池11の外周端11eの近傍に配置され、放出磁界を誘導する磁界誘導部材(ヨーク)として機能する。磁気センサ12A・12Bは、外周端11eと端部13a、13bとの間に配置されている。
【0032】
図2(a)は、図1のタイヤ摩耗測定装置における磁界を示すベクトルマップであり、図2(b)は図1のタイヤ摩耗測定装置における磁界のセンサ検知成分を示すコンターマップである。これらに示すように、タイヤ摩耗測定装置10は、磁性体30の磁界を伝達可能な位置にコイン型電池11が配置され、磁気センサ12A・12Bがコイン型電池11の外周端11eからの放出磁界を検知可能な位置に配置されている。この構成により、コイン型電池11を疑似ヨークとして機能させ、外周端11eからの放出磁界を磁気センサ12A・12Bにより検知することができる。このように、磁性体30と磁気センサ12A・12Bとの間にコイン型電池11を配置することにより、タイヤ摩耗測定装置10を小型・軽量化するとともに、磁性体30の磁界を精度よく測定することが可能になる。
【0033】
図3(a)は図1のタイヤ摩耗測定装置における磁界のセンサ検知成分を示すコンターマップであり、図3(b)は図8のタイヤ摩耗測定装置における磁界のセンサ検知成分を示すコンターマップである。
【0034】
図3(a)に示すように、本実施形態のタイヤ摩耗測定装置10では、コイン型電池11の外周端11eとアンテナ13の端部13a・13bとの間に、X軸方向の成分の磁束密度が高い領域が形成されている。これはコイン型電池11の外周端11eからアンテナ13の端部13a・13bへ誘導された放出磁界により形成されたものである。そこで、この領域に、X軸方向に検知軸を備えた磁気センサ12A・12Bを配置することにより、磁性体30からの磁界を精度よく検知することができる。また、コイン型電池11の外周端11eとアンテナ13の端部13a・13bとの間に磁気センサ12A・12Bを配置することで、磁気センサ12A・12Bは放出磁界を検知可能な位置に確実に配置される。
【0035】
図3(b)に示すように、従来のタイヤ摩耗測定装置100は、コイン型電池11よりも磁気センサ102A・102Bを磁性体30の近くに配置して、磁性体30からの磁界を直接検知するため、小型・軽量化することが困難である。
【0036】
図4は、図1のタイヤ摩耗測定装置における、磁性体30と、コイン型電池11と、磁気センサ12A・12Bと、アンテナ13の端部13a・13bとの位置関係を模式的に示した説明図である。図4は、コイン型電池11の電極面11dの法線11L(図1参照)の方向であるY軸方向から、平面視した場合における位置関係を模式的に示している。すなわち図4では、図面奥側が電極面11d側である。同図に示すように、アンテナ13の磁気センサ12A側の端部13aおよび磁気センサ12B側の端部13bがそれぞれ、コイン型電池11の外周端11eの外側すなわちコイン型電池11と重ならない位置に配置されている。そして、磁気センサ12A・12Bがそれぞれ、コイン型電池11の外周端11eとアンテナ13の端部13a・13bとの間に配置されている。
【0037】
図4では、Y軸方向から平面視した場合に、コイン型電池11の外周端11e、磁気センサ12Aおよびアンテナ13の端部13a、ならびにコイン型電池11の外周端11e、磁気センサ12Bおよびアンテナ13の端部13bが重ならないように配置されている。しかし、同図の配置は一例であり、磁気センサ12A・12Bは、コイン型電池11の外周端11eとアンテナ13の端部13a・13bとの間に配置されていればよい。例えば、Y軸方向から平面視した場合に、磁気センサ12A、外周端11eおよび端部13aの一部または全部、磁気センサ12B、外周端11eおよび端部13bの一部または全部が、重なるように配置されてもよい。
【0038】
タイヤ摩耗測定装置10は、磁気センサ12Aと磁気センサ12Bとを有し、コイン型電池11の電極面11dに平行なX軸方向において、コイン型電池11を挟んで、一方側に磁気センサ12Aが配置され、他方側に磁気センサ12Bが配置されている。本実施形態では、図4に示すように、コイン型電池11の電極面11dの中心Oが、タイヤ20に埋設された磁性体30と重なり、かつ、磁気センサ12Aと磁気センサ12Bとを結んだ直線L上に位置している。
【0039】
磁気センサ12Aと磁気センサ12Bとを結んだ直線LはX軸に平行であり、アンテナ13の端部13aおよびアンテナ13の端部13bはいずれも、直線L上に位置している。また、磁気センサ12Aと磁気センサ12Bとは、コイン型電池11の電極面11dの中心Oに対して対称に配置されている。また、アンテナ13の端部13aと端部13bとは、コイン型電池11の電極面11dの中心Oに対して対称に配置されている。
【0040】
そして、コイン型電池11を挟んで一方側に、磁気センサ12Aおよび端部13aが配置され、他方側に磁気センサ12Bおよび端部13bが配置されている。コイン型電池11は、Y軸方向から見て磁性体30と重なる位置に配置されている。
【0041】
上述した構成により、磁気センサ12Aにより検知される放出磁界Maと、磁気センサ12Bにより検知される放出磁界Mbとは、磁束密度が同じで磁界の向きが逆になる。したがって、磁気センサ12Aの出力と、磁気センサ12Bの出力とに基づいて、タイヤ20の摩耗を検知することにより、タイヤ摩耗測定装置10の冗長性が向上する。
【0042】
また、測定のノイズとなる外部磁界は、磁気センサ12Aと磁気センサ12Bとに同様に影響を及ぼす。このため、これらの二つのセンサからの出力の差を用いて、外部磁界の影響を取り除くことができる。二つのセンサからの出力は磁界の向きが逆であるから、両出力の差を用いることにより、ノイズの影響を取り除きながら、一つのセンサからの出力の二倍の大きさの出力が得られる。したがって、外部磁界のようなノイズの影響を取り除くとともに出力を大きくして、タイヤ20の摩耗を精度よく測定することが可能になる。
【0043】
磁性体30は、硬磁性材料の粉粒体(磁性粉)が、高分子材料中に分散されて形成され、一方向に着磁されて構成され、その着磁方向がタイヤ半径方向と一致するような姿勢でトレッド部に埋設される。高分子材料としては、トレッド部に用いられるトレッドゴム組成物と同じ配合のゴム材料などが好ましい。
【0044】
磁性体30は、磁性体表面において1mT以上の磁束密度を有するように構成されていることが好ましい。また、地磁気に影響されず確実に磁性体の磁束密度の測定ができるという観点から磁気センサ12A・12Bが配置されている測定位置において、0.05mT以上の磁束密度を有するように構成されていることが好ましく、0.5mT以上の磁束密度を有するように構成されていることがより好ましい。
【0045】
一方、磁性体30の磁力によって、車載される他の電子機器などに悪影響を与えないようにするという観点から、磁性体30の表面磁束密度は600mT以下であることが好ましく、道路走行時に路面に落ちている釘などの金属片を吸着しないようにするという観点から、磁性体30の表面磁束密度は60mT以下であるとより好ましい。なお、磁性体の表面磁束密度は、着磁された磁性体30の表面にテスラメーターを直接接触させることにより測定される値である。
【0046】
<変形例>
図5は、本実施形態のタイヤ摩耗測定装置の変形例の構成を模式的に示す断面図である。同図に示すタイヤ摩耗測定装置50は、基板51のコイン型電池11側の表面51d上に、磁気センサ12A・12Bおよびアンテナ13の端部13a・13bが配置されている構成において、上述したタイヤ摩耗測定装置10とは異なっている。すなわち、タイヤ摩耗測定装置50は、コイン型電池11の電極面11dに平行な基板51の同一平面上に、磁気センサ12A・12Bおよびアンテナ13の端部13a・13bが設けられている。
【0047】
図6(a)は、図5のタイヤ摩耗測定装置における磁界を示すベクトルマップである。図6(b)は、図5のタイヤ摩耗測定装置における磁界のセンサ検知成分を示すコンターマップである。これらの図に示すように、同一平面上に、磁気センサ12A・12Bおよびアンテナ13の端部13a・13bが設けられた構成により、コイン型電池11の外周端11eからの放出磁界をアンテナ13の端部13a・13bに誘導して、基板51上の磁気センサ12A・12Bの検知可能方向であるX軸に沿った方向とすることができる。したがって、タイヤ摩耗測定装置50の検知精度が良好になる。
【0048】
図10は、本発明のタイヤ摩耗測定装置の他の変形例の構成を模式的に示す断面図である。同図に示すように、タイヤ摩耗測定装置60は、磁性体30の磁界の範囲内に配置されたコイル61を備えており、タイヤ20の回転によってコイル61に発生した誘導電流を動作用電源として利用可能である点において、タイヤ摩耗測定装置10(図1参照)とは異なっている。タイヤ摩耗測定装置60は、回転に伴うタイヤ20の変形によって、タイヤ20のトレッド部23に埋設された磁性体30の位置が変動することを、発電に利用するものである。
【0049】
コイル61は、集磁部材としても機能するコイン型電池11と、タイヤ20のトレッド部23に埋設された磁性体30との間に配置されている。タイヤ20の回転に伴う変形や振動により、コイル61を通過する磁性体30からの磁界の磁束密度が変化する。図10に中抜き両側矢印で示すY軸方向の磁束密度の変化によって、コイル61に生じる誘導電流により起電力が発生する。そこで、この起電力を、例えば、タイヤ摩耗測定装置60の起動時や通信時などに、タイヤ摩耗測定装置60の電源として用いる。
【0050】
タイヤ摩耗測定装置60は、タイヤ20の回転や振動に伴って磁性体30からの磁界の磁束密度の変化を用いて、コイル61に誘導電流を生じさせることによって発電する。したがって、タイヤ摩耗測定装置60を小型・軽量としたまま、発電した電気を種々の用途に用いることができる。このように、タイヤ20の回転によって生じる、磁性体30とコイル61との相対的な位置変化を電気的なエネルギーに変換して用いることによりコイン型電池11の電力消費の負担が抑えられる。
【0051】
磁性体30とコイン型電池11との間の磁界は、コイン型電池11の表面が集磁することにより、Y軸方向成分が大きくなる。一般的に、コイルを通過する磁束におけるコイルに対して直交する成分(図10におけるY軸方向成分)が大きい方がコイルを通過する磁束の変化が大きくなるので、コイルにはより大きな誘導電流が発生する。そこで、コイル61を磁性体30からみて、コイン型電池11側で、かつ磁性体30に近い位置に配置する。これにより、タイヤ20の回転に伴ってコイル61に生じる誘導電流を大きくして、効率よく発電することができる。
【0052】
磁性体30からの磁界の磁束密度の大きさや変化の程度によって、コイル61に生じる起電力が異なる。すなわち、コイル61に生じる起電力はタイヤ20の状態を反映するから、コイル61に生じる起電力をタイヤ20の状態を検出するために用いてもよい。例えば、タイヤ20の摩耗に伴ってトレッド部23に埋設された磁性体30が小さくなると、磁性体30からの磁界の磁束密度が小さくなるから、タイヤ20の回転に伴って磁性体30からの磁界の磁束密度の変化も小さくなる。したがって、コイル61に生じる起電力(誘導電流)は、タイヤ20の摩耗の進行度合いに応じて変化する。このため、コイル61に生じる起電力に基づいて、タイヤ20の摩耗を検知することもできる。この場合、図10から磁気センサ12A・12Bを除いた態様として、タイヤ摩耗測定装置60を実施してもよい。
【0053】
コイル61は、図示しない蓄電部に電気的に接続されている。蓄電部は、整流回路と充電回路とを備えており、磁束密度の変化によって生じた誘導電流をコンデンサに充電することができる。整流回路は、例えば、コイル61で生じた誘導電流(交流電流)を整流する回路を備えた整流素子を用いることができる。充電回路は、例えば、誘導電流の電荷を蓄積する静電容量タイプのコンデンサを用いることができる。コンデンサに保持された電力を、タイヤ摩耗測定装置60の起動時や通信時に使用することにより、コイン型電池11の負荷を減らして、タイヤ摩耗測定装置60を連続使用できる期間(寿命)を長くする。なお、コイン型電池11が二次電池である場合には、蓄電部としてコイン型電池11を用いて、上記のコンデンサを省略することができる場合がある。この場合には、蓄電部は充電回路に代えて充放電回路を備える。
【0054】
なお、図10には、タイヤ20の変形に連動して磁性体30が変形する態様を示した。しかし、この態様に限らず、タイヤ20の変形によってコイル61における磁性体30からの磁束密度が変化する構成であればよい。例えば、タイヤ20の変形に伴って、磁性体30ではなくコイル61が変形することにより、コイル61における磁性体30からの磁界の磁束密度が変化する構成としてもよい。
【0055】
図11は、本発明の実施形態に係る発電装置の構成を模式的に示す断面図である。同図に示すように、発電装置70は、タイヤ20に埋設された磁性体30と、磁性体30の磁界の範囲内に配置されたコイル61と、を備え、磁性体30とコイル61との相対位置が、タイヤ20の回転に伴って変化し記相対位置の変化に起因するコイル61を通過する磁束密度の変化により発電する。
【0056】
また、発電装置70は、磁性部材としての二次電池型のコイン型電池11を備えており、コイン型電池11と磁性体30との間にコイル61が配置されている。したがって、タイヤ20の回転に伴ってコイル61に生じる誘導電流を大きくして、効率よく発電することができる。
【0057】
なお、図11においては、アンテナ13を図示しているが、不要であれば構成から外してもかまわない。例えば、発電装置70とは別体に設けられたセンサに発電装置70から給電する構成で、センサ側にアンテナを備えて通信可能な場合などが考えられる。
【0058】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。例えば、図11に示される発電装置70は、コイル61で生じた起電力の振幅や周波数の変化を計測する計測部を有し、計測部で得られた信号に基づいて、摩耗状態を含むタイヤの状態を検出してもよい。コイル61で生じた起電力が計測部で測定される信号源となる場合には、発電装置70はタイヤの状態に関する情報を出力する検出装置として位置づけられうる。また、発電装置70ではコイン型電池11が磁性部材として機能しているが、コイン型電池11とは別に磁性部材が設けられていてもよく、発電装置70が検出装置として機能する場合には、コイン型電池11は設けられていなくてもよい。
【実施例
【0059】
図1に示す構造を備えた本発明のタイヤ摩耗測定装置10および当該タイヤ摩耗測定装置からアンテナ13を除いたものについて、図8に示す従来のタイヤ摩耗測定装置100と比較してどの程度の出力が大きくなるかを測定した。いずれも、表面磁束密度が26mTである磁性体30を用いた。
【0060】
図12(a)は実施例1および実施例2のタイヤ摩耗測定装置の外形および内部構造の概要を示す斜視図であり、図12(b)は比較例1のタイヤ摩耗測定装置の外形および内部構造の概要を示す斜視図である。これらタイヤ摩耗測定装置について、出力を測定した結果を表1および図13に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1および図13に示すように、磁性体の磁界をコイン型電池で伝達し、コイン型電池の外周端から放出される放出磁界を磁気センサにより検知することにより、従来よりも容量および重量を大きく減少させるとともに、高出力化による検知精度の向上を実現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、タイヤの摩耗状態を目視によらず測定可能なタイヤ摩耗測定装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10、50、60 :タイヤ摩耗測定装置
11 :コイン型電池(電池、集磁部材、磁性部材)
11L :法線
11d :電極面
11e :外周端
11f :面
12A :磁気センサ(第1センサ)
12B :磁気センサ(第2センサ)
13 :アンテナ
13a :端部(第1端部、磁気センサ側の端部)
13b :端部(第2端部、磁気センサ側の端部)
20 :タイヤ
21 :内側面
22 :外側面
23 :トレッド部
30 :磁性体(磁石)
51 :基板
51d :表面
61 :コイル
70 :発電装置
100 :タイヤ摩耗測定装置
101 :コイン型電池
101e :外周端
102A、102B:磁気センサ
M :磁界
Ma、Mb :放出磁界
O :中心
D1、D2 :距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13