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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】歩行者保護用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/36 20110101AFI20240522BHJP
【FI】
B60R21/36 320
B60R21/36 351
B60R21/36 352
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022565202
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2021041211
(87)【国際公開番号】W WO2022113727
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2020197212
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】原田 知明
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-196795(JP,A)
【文献】特開2008-273250(JP,A)
【文献】特開2006-044325(JP,A)
【文献】特開2018-016254(JP,A)
【文献】特開2019-077216(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0059844(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16,21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントフードの下方からウインドシールドに向かって膨張展開し、少なくとも該ウインドシールドに接触する裏面側パネルおよび該裏面側パネルとは反対側の表面側パネルを含んで構成されたエアバッグクッションと、該エアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えた歩行者保護用エアバッグ装置において、
前記エアバッグクッションは、
前記車両における一対のAピラーの一方から他方にまでわたって少なくとも前記ウインドシールドの下部を覆う主膨張部と、
前記主膨張部から前記一対のAピラーそれぞれに沿って上方に突出して該Aピラーを覆う一対の突出膨張部と、
を有し、
前記主膨張部は、前記車両の車幅方向の中間位置で互いに隣接して谷間を形成するよう左右に分割された第1主膨張部および第2主膨張部を含み、
前記エアバッグクッションはさらに、前記第1主膨張部および前記第2主膨張部それぞれの前記表面側パネルの前記車幅方向の中間位置における端部近傍を少なくとも含んだ前記谷間を形成する範囲に形成され、その他の当該エアバッグクッションの外表面よりも摩擦係数が大きい高摩擦部を有し、
前記高摩擦部はさらに、前記裏面側パネルの前記車幅方向の中間位置の端部近傍を含んだ範囲に形成されていて、
前記高摩擦部はさらに、前記中間位置にて向かい合う前記第1主膨張部および前記第2主膨張部の端面部分それぞれに形成されていて、
前記高摩擦部は、車幅方向の寸法が前後方向の寸法よりも小さいことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項2】
車両のフロントフードの下方からウインドシールドに向かって膨張展開し、少なくとも該ウインドシールドに接触する裏面側パネルおよび該裏面側パネルとは反対側の表面側パネルを含んで構成されたエアバッグクッションと、該エアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えた歩行者保護用エアバッグ装置において、
前記エアバッグクッションは、
前記車両における一対のAピラーの一方から他方にまでわたって少なくとも前記ウインドシールドの下部を覆う主膨張部と、
前記主膨張部から前記一対のAピラーそれぞれに沿って上方に突出して該Aピラーを覆う一対の突出膨張部と、
を有し、
前記主膨張部は、前記車両の車幅方向の中間位置で互いに隣接して谷間を形成するよう左右に分割された第1主膨張部および第2主膨張部を含み、
前記エアバッグクッションはさらに、前記第1主膨張部および前記第2主膨張部それぞれの前記表面側パネルの前記車幅方向の中間位置における端部近傍を少なくとも含んだ谷間を形成する範囲に形成され、その他の当該エアバッグクッションの外表面よりも摩擦係数が大きい高摩擦部を有し、
前記高摩擦部はさらに、前記裏面側パネルの前記車幅方向の中間位置の端部近傍を含んだ範囲に形成されていて、
前記高摩擦部はさらに、前記中間位置にて向かい合う前記第1主膨張部および前記第2主膨張部の端面部分それぞれに形成されていて、
前記高摩擦部は、車幅方向の寸法が前後方向の寸法よりも大きいことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記高摩擦部は、前記その他のエアバッグクッションの外表面よりも摩擦係数が大きい樹脂層が形成された状態になっていることを特徴とする請求項1または2に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記高摩擦部は、前記その他のエアバッグクッションの外表面よりも摩擦係数が大きいパッチが取り付けられた状態になっていることを特徴とする請求項1または2に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントフードの下方からウインドシールドに向かって膨張展開するエアバッグクッションを備えた歩行者保護用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車内の乗員を拘束するものとは異なるエアバッグ装置として、車外の歩行者を保護する歩行者保護用エアバッグ装置が開発されている。主な歩行者保護用エアバッグ装置は、車両の前部等に設けたセンサが歩行者との接触を検知すると、ウインドシールド等の歩行者の身体が接触するおそれのある部位にフロントフードの下側等からエアバッグクッションが膨張展開する構成となっている。
【0003】
歩行者保護用エアバッグ装置のエアバッグクッションは歩行者が接触する可能性のある範囲を保護エリアとして広く覆う必要がある一方、フロントフードの下側において当該エアバッグクッションの収納スペースとして確保できる空間は限られている。この点において、例えば、特許文献1の車両用フードエアバッグ装置では、エアバッグ60が左側エアバッグ60L´と右側エアバッグ60R´とに分割された構成になっている。このような左右に分割された構成のエアバッグクッションは、全体が一つの袋になっている場合に比べて、折り畳み等をより細やかに行うことができるため、限られた収納スペースを効率よく利用することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-196795号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1の技術では、左側エアバッグ60L´と右側エアバッグ60R´の互いに接触する箇所を押し合わせたり厚みを増加させたりすることで、左側エアバッグ60L´と右側エアバッグ60R´とを互いにずれ難くさせている。しかしながら、このような分割された構成のエアバッグクッションは、膨張部のずれだけでなく、膨張部同士の谷間に歩行者等が落ち込むことを防ぐ工夫も求められている。仮に歩行者の頭部などの重量があって加速しやすい部位が膨張部の谷間に入った場合、そのまま谷間をすり抜けてウインドシールド等に底づくことも考えられる。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、収納のしやすさと歩行者の保護性能とを両立した歩行者保護用エアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる歩行者保護用エアバッグ装置の代表的な構成は、車両のフロントフードの下方からウインドシールドに向かって膨張展開し、少なくともウインドシールドに接触する裏面側パネルおよび裏面側パネルとは反対側の表面側パネルを含んで構成されたエアバッグクッションと、エアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えた歩行者保護用エアバッグ装置において、エアバッグクッションは、車両における一対のAピラーの一方から他方にまでわたって少なくともウインドシールドの下部を覆う主膨張部と、主膨張部から一対のAピラーそれぞれに沿って上方に突出してAピラーを覆う一対の突出膨張部と、を有し、主膨張部は、車両の車幅方向の中間位置で互いに隣接するよう左右に分割された第1主膨張部および第2主膨張部を含み、エアバッグクッションはさらに、第1主膨張部および第2主膨張部それぞれの表面側パネルの車幅方向の中間位置における端部近傍を少なくとも含んだ範囲に形成され、その他の当該エアバッグクッションの外表面よりも摩擦係数が大きい高摩擦部を有することを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、主膨張部を第1主膨張部と第2主膨張部とに分割することでよりコンパクトな収納を達成しつつ、高摩擦部によって歩行者の頭部等が第1主膨張部と第2主膨張部との谷間をすり抜けることを防止可能になる。また、当該高摩擦部によれば、隣接する第1主膨張部および第2主膨張部がずれ難くなるため、膨張展開時の揺動を抑えることができる。したがって、上記構成によれば、簡潔な構成で歩行者を効率よく保護可能な歩行者保護用エアバッグ装置を実現することが可能になる。
【0009】
上記の高摩擦部はさらに、裏面側パネルの車幅方向の中間位置の端部近傍を含んだ範囲に形成されていてもよい。この構成によって、歩行者の頭部等が第1主膨張部と第2主膨張部との谷間をすり抜けることを効率よく防ぎ、歩行者をより十全に保護することが可能になる。
【0010】
上記の高摩擦部はさらに、中間位置にて向かい合う第1主膨張部および第2主膨張部の端面部分それぞれに形成されていてもよい。この構成によって、歩行者の頭部等が第1主膨張部と第2主膨張部との谷間をすり抜けることを効率よく防ぎ、歩行者をより十全に保護することが可能になる。
【0011】
上記の高摩擦部は、その他のエアバッグクッションの外表面よりも摩擦係数が大きい樹脂層が形成された状態になっていてもよい。この構成によって、上記の高摩擦部を好適に実現することが可能になる。
【0012】
上記の高摩擦部は、その他のエアバッグクッションの外表面よりも摩擦係数が大きいパッチが取り付けられた状態になっていてもよい。この構成によって、上記の高摩擦部を好適に実現することが可能になる。
【0013】
上記の高摩擦部は、車幅方向の寸法が前後方向の寸法よりも小さくてもよい。高摩擦部の設置範囲を必要な個所のみに制限することで、歩行者等に与える摩擦力が高くなり過ぎることを防いだり、高摩擦部の設置コストを抑えたりすることが可能になる。
【0014】
上記の高摩擦部は、車幅方向の寸法が前後方向の寸法よりも大きくてもよい。この構成によれば、車幅方向に移動する挙動の歩行者に対しても、その頭部等が谷間をすり抜けないよう歩行者を拘束することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、収納のしやすさと歩行者の保護性能とを両立した歩行者保護用エアバッグ装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態にかかる歩行者保護用エアバッグ装置の概要を例示する図である。
図2図1(b)の歩行者保護用エアバッグ装置を上方から拡大して例示した図である。
図3図2のエアバッグクッションの高摩擦部を各方向から例示した図である。
図4図3の高摩擦部の変形例を例示した図である。
図5図3(a)のエアバッグクッションに対して行ったインパクタ試験の解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態にかかる歩行者保護用エアバッグ装置100の概要を例示する図である。図1(a)は歩行者保護用エアバッグ装置100の作動前の車両を例示した図であり、図1(b)は歩行者保護用エアバッグ装置100の作動時の車両を例示した図である。これら図1その他の各図においては、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0019】
図1(a)に例示するように、歩行者保護用エアバッグ装置100は、車両102のフロントフード104の下側に設置されている。歩行者保護用エアバッグ装置100は、例えばフロントバンパ106付近の内部など、歩行者の脚部等が接触しやすい箇所に不図示のセンサを備えている。センサが歩行者との接触を検知すると、制御部等を介してガス発生装置であるインフレータ112a、112bに稼動信号が送信され、図1(b)のようにエアバッグクッション114がフロントフード104の下方からウインドシールド108に向かって膨張展開する仕組みとなっている。
【0020】
図1(a)に例示するように、歩行者保護用エアバッグ装置100は、エアバッグクッション114を収容するハウジング116を備えている。ハウジング116は、主に樹脂で形成された長尺な箱状の容器であり、エアバッグクッション114(図2参照)やインフレータ112a、112b等を収納する。ハウジング116は、その長手方向を車幅方向に向けて、専用のブラケット等を介してフロントフード104の下面に取り付けられる。
【0021】
図1(b)に例示するように、本実施形態におけるエアバッグクッション114は、ウインドシールド108に沿って膨張展開し、このウインドシールド108に接触しようとする歩行者を受け止める。加えて、エアバッグクッション114は、フロントフード104を持ち上げてわずかに浮かせる構成を採ることもできる。この動作には、フロントフード104に接触する歩行者に与える衝撃を和らげる効果がある。
【0022】
図2は、図1(b)の歩行者保護用エアバッグ装置100を上方から拡大して例示した図である。エアバッグクッション114は袋状であって、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製または接着することや、OPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによって形成されている。
【0023】
インフレータ112a、112bは、エアバッグクッション114の前端側に車幅方向に沿って配置されている。インフレータ112a、112bは、ハウジング116の内部にスタッドボルト(図示省略)を使用して固定されていて、所定のセンサから送られる衝撃の検知信号に起因して作動し、エアバッグクッション114にガスを供給する。エアバッグクッション114は、インフレータ112a、112bからのガスによって膨張を始め、その膨張圧でハウジング116を開裂等してウインドシールド108に向かって膨張展開する。
【0024】
インフレータ112a、112bは、本実施例ではシリンダ型(円筒型)のものを採用している。現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ112a、112bとしては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0025】
本実施形態では、エアバッグクッション114のうちガスが流入して膨張する膨張領域は、主膨張部118と一対の突出膨張部120a、120bに大きく分かれている。
【0026】
主膨張部118は、インフレータ112a、112bからガスを受給し、ウインドシールド108の下部を左側のAピラー110aから右側のAピラー110bにわたるまで車幅方向に覆うよう膨張展開して、歩行者の身体を広く受け止める。
【0027】
本実施形態では、主膨張部118は、第1主膨張部118aおよび第2主膨張部118bに分割されている。第1主膨張部118aおよび第2主膨張部118bは、車両の車幅方向の中間位置で互いに隣接するよう左右に分割されている。主膨張部118は、第1主膨張部118aおよび第2主膨張部118bに分割されていることによって、車幅方向の中央位置に谷間122が形成されている。このように、当該エアバッグクッション114は、左右2つに分割されていることで、より細やかに折り畳んだり巻回したりすることができ、よりコンパクトに収納することが可能になっている。
【0028】
なお、主膨張領域118は、フロントフード104の後端近傍を下方から持ち上げる構成とすることも、フロントフード104の後端近傍の上側に重なって膨張展開する構成とすることも可能である。主膨張領域118がフロントフード104の後端近傍を持ち上げる場合、フロントフード104を浮かせることで歩行者がフロントフード104に接触したときに与える衝撃を和らげることが可能である。
【0029】
一対の突出膨張部120a、120bは、主膨張部118の車幅方向両端側にAピラー110a、110bそれぞれに沿って上方に突出するよう設けられている。突出膨張部120a、120bは、それぞれ第1主膨張部118aおよび第2主膨張部118bからガスを受給するとAピラー110a、110bを覆うよう膨張展開し、歩行者の頭部などが剛性の高いAピラー110a、110bに接触することを防ぐ。
【0030】
図3は、図2のエアバッグクッション114の高摩擦部124を各方向から例示した図である。図3(a)は、図2と同じ方向から高摩擦部124を例示している。高摩擦部124は、その他の当該エアバッグクッション114の外表面よりも摩擦係数が大きい領域である。なお、高摩擦部124の摩擦係数は、動摩擦係数および静止摩擦係数のいずれの特性で評価することも可能である。
【0031】
当該エアバッグクッション114は、少なくともウインドシールド108(図2参照)に接触する裏面側パネル126(図3(b)参照)と、裏面側パネル126とは反対側の表面側パネル128を含んで構成されている。本実施形態では、高摩擦部124は、表面側パネル128の車幅方向の中央位置における谷間122の近傍の領域に形成されていて、第1主膨張部118aには第1高摩擦部124aが形成され、第2主膨張部118bには第2高摩擦部124bが形成されている。
【0032】
図3(b)は、図3(a)の谷間122側から第1主膨張部118aを例示した図である。上述したように、第1高摩擦部124aは、第1主膨張部118aの表面側パネル128の谷間122側の領域に形成されている。第1高摩擦部124aは、第2高摩擦部124bと共に谷間122の近傍に形成される。
【0033】
ここで、第1高摩擦部124aおよび第2高摩擦部124bは、主膨張部118の中間位置の谷間122にて向かい合う第1主膨張部118aおよび第2主膨張部118bの端面部分それぞれに形成されている。これらによって、第1主膨張部118aと第2主膨張部118b(図3(a)参照)の位置ずれを防ぐことに加えて、歩行者の頭部等が谷間122を滑ってすり抜けることを防ぐ機能を有している。
【0034】
上述したように、当該エアバッグクッション114は、主膨張部118を第1主膨張部118aと第2主膨張部118bとに分割することで、よりコンパクトな収納を達成しつつ、歩行者の保護性能を向上させることが可能になっている。特に、高摩擦部124によれば、隣接する第1主膨張部118aおよび第2主膨張部118bがずれ難くなるため、膨張展開時の揺動を抑えることができる。そして、仮に歩行者の頭部等が谷間に入ったとしても、第1高摩擦部124aおよび第2高摩擦部124bが両側から挟むようにして頭部の滑りを止めるため、頭部が車両側に底づくことを防止できる。これらによって、本実施形態によれば、収納のしやすさと歩行者の保護性能とを両立した歩行者保護用エアバッグ装置100を提供することが可能になる。
【0035】
図3(a)に例示する高摩擦部124は、表面側パネル128の車幅方向の中間位置の端部近傍を含んだ範囲に樹脂を塗布し、摩擦係数が大きい樹脂層を設けることで形成可能である。一般に、エアバッグクッションのパネルには、耐熱性や耐摩耗性を高める目的で樹脂を塗布することがある。高摩擦部124は、谷間122の近傍の領域にのみ樹脂層を設けることによっても形成可能であり、また、その他のエアバッグクッション114の外表面に形成された樹脂層よりも厚い樹脂層を谷間122の近傍の領域に設けることによっても形成可能である。これら構成によって、高摩擦部124を好適に実現することができる。
【0036】
他の構成としては、高摩擦部124は、エアバッグクッション114を構成するパネルとは異なる材質で形成されたパッチを谷間122の近傍の領域に取り付けることによっても形成可能である。パッチの材質としては、その他のエアバッグクッション114の外表面よりも摩擦係数が大きいものを用いる。このようなパッチによっても、上述した高摩擦部124を好適に実現することができる。
【0037】
高摩擦部124は、車幅方向の寸法W1が前後方向の寸法L1よりも小さく設定されている。この構成によれば、高摩擦部124の設置範囲を必要な個所のみに制限することで、歩行者等に与える摩擦力が高くなり過ぎることを防いだり、高摩擦部124の設置コストを抑えたりすることが可能になる。
【0038】
なお、本実施形態では、主膨張部118を第1主膨張部118aおよび第2主膨張部118bを分割する位置は、車両における車幅方向の中心線C1に沿った場所でもよいが、中心線C1から左右に偏らせた場所でもよい。すなわち、主膨張部118のうち谷間122を設ける中間位置とは、車幅方向の左右にある程度の幅を持たせた領域の事であり、例として車両のうち車幅方向の中心線C1から車幅方向の端部までの半分の範囲E1に偏らせて設けることが可能である。
【0039】
(変形例)
図4は、図3の高摩擦部124の変形例を例示した図である。図4では既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0040】
図4(a)は、図3(a)の高摩擦部124の第1変形例(高摩擦部200)を例示した図である。高摩擦部200は、第1主膨張部118a側の第1高摩擦部200aおよび第2主膨張部118b側の第2高摩擦部200bを含んで構成されている。高摩擦部200は、車幅方向の寸法W2が前後方向の寸法L2よりも大きく設定されている。この構成によれば、エアバッグクッション114上を車幅方向に移動する挙動の歩行者に対しても、車幅方向に広い範囲の高摩擦部200によって歩行者の頭部等が谷間をすり抜けないよう滑りを止めて拘束することが可能になる。
【0041】
図4(b)は、図3(b)の高摩擦部124の第2変形例(高摩擦部220)を例示した図である。高摩擦部220もまた、第1主膨張部118aおよび第2主膨張部118b(図3(a)参照)それぞれに形成されている。高摩擦部220は、第1主膨張部118aの表面側パネル128および裏面側パネル126の両方における車幅方向の中間位置の端部近傍を含んだ範囲に形成されている。高摩擦部220もまた、谷間122(図2等参照)にて向かい合う第1主膨張部118aおよび第2主膨張部118bの端面部分それぞれに形成されている。これらの構成によれば、歩行者の頭部等が第1主膨張部118aと第2主膨張部118bとの谷間122に入り込むことを効率よく防ぎ、歩行者をより十全に保護することが可能になる。
【0042】
なお、高摩擦部のさらなる変形例として、主膨張部118の裏面側パネル126のみに高摩擦部を設けることも可能である。裏面側パネル126のうちの中間位置の谷間122の近傍のみの高摩擦部を設けることによっても、ウインドシールド108等の上でエアバッグクッション114が滑ることを防ぎ、谷間122における歩行者頭部のすり抜けを防ぐことが可能になる。
【0043】
図5は、図3(a)のエアバッグクッション114に対して行ったインパクタ試験の解析結果である。図5(a)は解析結果を例示した図であり、図5(b)および図5(c)はインパクタ試験の様子を各方向から例示した模式図である。インパクタとは、エアバッグクッション114の試験において採用される人間の頭部を模した衝突装置である。本試験では、インパクタ240をエアバッグクッション114に衝突させたときの頭部障害基準値(HIC:Head Injury Criterion)をコンピュータ上で解析した。
【0044】
図5(a)の左上欄のFSFD(Friction Static and Friction Dynamic)とは静摩擦係数と動摩擦係数のことである。このうち、Head vs Cushionは、インパクタヘッド240(図5(c)参照)とエアバッグクッション114間の摩擦係数であり、値が大きいほどインパクタヘッド240は谷間122をすり抜け難くなる。Cushion vs Groundは、エアバッグクッション114と車両ボディ間の摩擦係数であり、値が大きいほどエアバッグクッション114はウインドシールド108等の上からずれ難くなる。Cushion selfは、エアバッグクッション114間の摩擦係数であり、値が大きいほど第1主膨張部118aと第2主膨張部118bとが擦れ難くなる。
【0045】
なお、一般的な定義として、摩擦係数とは垂直抗力に対する摩擦力の比で定義される無次元量のことであり、多くの場合ギリシャ文字μで表される。摩擦係数は、物質の組み合わせによって0に近い値から1を超える値にまでなる。静止摩擦係数と動摩擦係数は、どちらも接触している物質の組み合わせに依存し、例えば鋼の上に置かれた氷は摩擦係数が小さく、舗装道路の上に置かれたゴムは摩擦係数が大きい。1を超える摩擦係数は、単に物体を滑らせるのに必要な力が接触面にはたらく垂直抗力より大きいということを意味するに過ぎず、現実的にはμ<1となる場合がほとんどであるが、例えばゴムと他の物質との間の摩擦係数は1から2の値を取り得る。シリコーンゴムやアクリルゴムをコーティングした面の摩擦係数は1よりはるかに大きくなる。
【0046】
case1~3は、それぞれの摩擦係数を次第に大きくなるよう可変していて、右側にその解析(シミュレーション)の結果を示している。右上欄のHIC(Head Injury Criterion)は、上述した頭部障害基準値のことである。HICの数値は、インパクタの合成加速度から下記の式1で測定した。
1:加速度応答中の任意の時刻
2:加速度応答中の任意の時刻
ただしt2>t1
a(t):加速度
【0047】
図5(a)のうち、point1およびpoint2は、それぞれ図5(b)に例示した主膨張部118の谷間122の中央よりも上側の衝突位置P1と、中央よりも下側の衝突位置P2にインパクタヘッド240を衝突させたときの値を示している。この試験からは、case1~3の順に次第に各摩擦係数を大きくすることで、頭部障害基準値も順当に下がっていることが確認された。
【0048】
上記の事から、エアバッグクッション114におけるそれぞれの摩擦係数が高いほどHICが低く、性能が良いことが分かった。すなわち、インパクタヘッド240が谷間122をすり抜け難く(図5(c)参照)、ウインドシールド108とエアバッグクッション114とがずれ難く、第1主膨張部118aと第2主膨張部118b(図5(b)参照)とが擦れづらいほど、良い結果が得られた。
【0049】
以上のことから、図2のエアバッグクッション114のように表面側パネル128に高摩擦部124を形成して歩行者頭部が谷間122をすり抜け難くしたり、図4(b)のエアバッグクッション114のように裏面側パネル126にも高摩擦部220を形成してウインドシールド108上においてエアバッグクッション114を位置ずれさせ難くすること、およびこの高摩擦部220のように表面側パネル128と裏面側パネル126との両方に設けて第1主膨張部118aと第2主膨張部118bとをずれ難くさせることの有効性が確認された。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0051】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、車両のフロントフードの下方からウインドシールドに向かって膨張展開するエアバッグクッションを備えた歩行者保護用エアバッグ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
100…歩行者保護用エアバッグ装置、102…車両、104…フロントフード、106…フロントバンパ、108…ウインドシールド、110a、110b…Aピラー、112a、112b…インフレータ、114…エアバッグクッション、116…ハウジング、118…主膨張部、118a…第1主膨張部、118b…第2主膨張部、120a、120b…突出膨張部、122…谷間、124…高摩擦部、124a…第1高摩擦部、124b…第2高摩擦部、126…裏面側パネル、128…表面側パネル、200…第1変形例の高摩擦部、200a…第1高摩擦部、200b…第2高摩擦部、220…第2変形例の高摩擦部、240…インパクタヘッド、C1…車両の中心線、L1…高摩擦部の前後方向の寸法、L2…高摩擦部の前後方向の寸法、P1、P2…インパクタヘッドの衝突位置、W1…高摩擦部の車幅方向の寸法、W2…高摩擦部の車幅方向の寸法
図1
図2
図3
図4
図5