(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】バラスト状態監視システム、バラスト状態監視装置及びバラスト状態監視方法
(51)【国際特許分類】
E01B 37/00 20060101AFI20240522BHJP
【FI】
E01B37/00 B
(21)【出願番号】P 2023546444
(86)(22)【出願日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2022048478
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100117662
【氏名又は名称】竹下 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100156177
【氏名又は名称】池見 智治
(72)【発明者】
【氏名】西尾 勇佑
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第4675958(JP,B2)
【文献】特許第3561368(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2020/0239049(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 1/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、
前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部と、
前記指標値に基づいて保守の要否を判定する保守要否判定処理部と、
を備
え、
前記バラストの表面状態を示すデータは、前記バラストの幅方向に沿った断面における表面形状データであり、
前記処理部は、前記表面形状データのうち前記鉄道軌道における第1レール及び第2レールの間の少なくとも一部の領域のデータに基づいて、前記指標値を演算する、バラスト状態監視システム。
【請求項2】
鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、
前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部と、
前記指標値に基づいて保守の要否を判定する保守要否判定処理部と、
を備
え、
前記処理部は、前記指標値として、前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、フラクタル次元を求める、バラスト状態監視システム。
【請求項3】
鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、
前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部と、
前記指標値に基づいて保守の要否を判定する保守要否判定処理部と、
を備
え、
前記処理部は、前記指標値として、前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、算術平均粗さを求める、バラスト状態監視システム。
【請求項4】
請求項2に記載のバラスト状態監視システムであって、
前記バラストの表面状態を示すデータは、前記バラストを上から観察した領域における画像データであり、
前記処理部は、前記画像データに対してエッジ抽出処理を行って前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する、バラスト状態監視システム。
【請求項5】
請求項2又は請求項4に記載のバラスト状態監視システムであって、
前記処理部は、前記バラストの表面状態を示すデータに対してボックスカウンティング法によるフラクタル次元解析を行って前記フラクタル次元を求める、バラスト状態監視システム。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のバラスト状態監視システムであって、
前記保守要否判定処理部は、前記指標値を、予め定められた基準値と比較することで、保守の要否を判定する、バラスト状態監視システム。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のバラスト状態監視システムであって、
前記処理部は、前記指標値を、鉄道軌道における位置データと対応付けたデータを生成する、バラスト状態監視システム。
【請求項8】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のバラスト状態監視システムであって、
前記鉄道軌道を走行する鉄道車両に支持され、前記鉄道車両の走行中に前記バラストの表面状態を検出可能な表面状態検出センサをさらに備える、バラスト状態監視システム。
【請求項9】
請求項8に記載のバラスト状態監視システムであって、
前記表面状態検出センサは、前記バラストのうち前記鉄道軌道における第1レール及び第2レールの間の少なくとも一部の領域の表面状態を検出可能な位置で前記鉄道車両に支持されている、バラスト状態監視システム。
【請求項10】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のバラスト状態監視システムであって、
前記指標値が予め定められたエラー判定値未満となる場合に、前記指標値をエラー指標値であると判定する、バラスト状態監視システム。
【請求項11】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のバラスト状態監視システムであって、
表示装置をさらに備え、
前記保守要否判定処理部は、保守の要否の判定結果に基づいて、前記鉄道軌道における前記バラストの状態を示すバラスト状態画像を表示する、バラスト状態監視システム。
【請求項12】
請求項11に記載のバラスト状態監視システムであって、
前記バラスト状態画像は、鉄道軌道の位置に、バラストの状態を対応付けた画像である、バラスト状態監視システム。
【請求項13】
鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、
前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部と、
を備え、
前記バラストの表面状態を示すデータは、前記バラストの幅方向に沿った断面における表面形状データであり、
前記処理部は、前記表面形状データのうち前記鉄道軌道における第1レール及び第2レールの間の少なくとも一部の領域のデータに基づいて、前記指標値を演算する、バラスト状態監視装置。
【請求項14】
鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、
前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部と、
を備
え、
前記処理部は、前記指標値として、前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、フラクタル次元を求める、バラスト状態監視装置。
【請求項15】
鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、
前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部と、
を備
え、
前記処理部は、前記指標値として、前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、算術平均粗さを求める、バラスト状態監視装置。
【請求項16】
鉄道軌道におけるバラストの表面状態を検出し、
前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算し、
前記演算結果を出力
し、
前記バラストの表面状態を示すデータは、前記バラストの幅方向に沿った断面における表面形状データであり、
前記表面形状データのうち前記鉄道軌道における第1レール及び第2レールの間の少なくとも一部の領域のデータに基づいて、前記指標値を演算する、バラスト状態監視方法。
【請求項17】
鉄道軌道におけるバラストの表面状態を検出し、
前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算し、
前記演算結果を出力
し、
前記指標値として、前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、フラクタル次元を求める、バラスト状態監視方法。
【請求項18】
鉄道軌道におけるバラストの表面状態を検出し、
前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算し、
前記演算結果を出力
し、
前記指標値として、前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、算術平均粗さを求める、バラスト状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、鉄道車両が走行する鉄道軌道におけるバラストの状態を監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、軌道検測車の走行時に収録された各画像データを解析して、バラストの断面形状を求めて断面尺度を算出し、これが基準値より大きいときバラスト状態を不良と判定して崩壊部分を検出し、その断面形状と位置データを表示する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
経年劣化によりバラストの細粒化が進行すると、バラストとして敷かれた砕石が交換される。このため、砕石の細粒度を基準としてバラストの状態を監視することが望まれる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、砕石の細粒度を基準としてバラストの状態を監視することはできない。
【0006】
そこで、本開示は、バラストとして敷かれた塊状物の細粒度を基準としてバラストの状態を監視することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、バラスト状態監視システムは、鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部と、前記指標値に基づいて保守の要否を判定する保守要否判定処理部とを備える。
【0008】
また、バラスト状態監視装置は、鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部と、を備える。
【0009】
また、上記課題を解決するため、バラスト状態監視方法は、鉄道軌道におけるバラストの表面状態を検出し、前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算し、前記演算結果を出力する。
【発明の効果】
【0010】
このバラスト状態監視システムによると、指標値に基づいて保守の要否を判定することができる。
【0011】
また、このバラスト状態監視システムによると、バラストとして敷かれた塊状物の細粒度を基準としてバラストの状態を監視することができる。
【0012】
また、このバラスト状態監視方法によると、バラストとして敷かれた塊状物の細粒度を基準としてバラストの状態を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係るバラスト状態監視システムを示すブロック図である。
【
図2】バラスト状態監視装置を示すブロック図である。
【
図3】レール間におけるバラストの状態及び検出対象ラインの一例を示す説明図である。
【
図4】レール間におけるバラストの状態及び検出対象ラインの一例を示す説明図である。
【
図5】指標値演算装置の処理例を示すフローチャートである。
【
図6】ボックスカウンティング法によるフラクタル次元解析の処理例を示す説明図である。
【
図7】ボックスカウンティング法によるフラクタル次元解析の処理例を示す説明図である。
【
図8】ボックスカウンティング法によるフラクタル次元解析の処理例を示す説明図である。
【
図9】算術平均粗さを演算する処理例を示す説明図である。
【
図10】判定処理装置の処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態に係るバラスト状態監視装置、バラスト状態監視システム及びバラスト状態監視方法について説明する。
図1はバラスト状態監視システム30の全体構成を示すブロック図である。
【0015】
本システム30による監視対象となる鉄道軌道10の一例について説明する。鉄道軌道10は、鉄道車両20を所定の経路に沿って導く路である。ここでは、鉄道軌道10は、第1レール12a及び第2レール12bを含む。2つのレール12a、12bは、まくらぎ13を介してバラスト16上に固定されている。
【0016】
バラスト16は、レール12a、12bを支える道床である。バラスト16は、路盤に敷かれた複数の塊状物17を含む。塊状物17は、例えば、岩石を砕いた砕石又は砂利である。路盤は、土地の表面であってもよいし、トンネル内の下側表面であってもよいし、橋梁又は高架橋等の橋の上面であってもよい。バラスト16上にまくらぎ13が置かれている。まくらぎ13は、バラスト16と2つのレール12a、12bとの間に介在し、レール12a、12bを支える直方体状の部材である。すなわち、バラスト16上に、複数のまくらぎ13がレール12a、12bの延在方向において間隔をあけて平行姿勢で配置される。2つのレール12a、12bが、まくらぎ13の延在方向に対して間隔をあけて、当該まくらぎ13に対して直交する姿勢で、当該まくらぎ13上に配置される。レール12a、12bはまくらぎ13に対してイヌクギ等の締結具によって固定される。
【0017】
鉄道車両20は、車体22と台車24とを備える。台車24は、台車枠25と、複数の車輪25Wとを備える。複数の車輪25Wは、台車枠25の左右部位に車軸部を介して回転可能に支持されている。車軸部を支持する部分は軸箱と呼ばれることがある。なお、本実施形態において、鉄道車両20の進行方向を前側、後退方向を後側ということがある。また、鉄道車両20から進行方向を見た場合を基準として左又は右という場合がある。重力方向において重力が加わる側を下側、その反対側を上側という場合がある。左右の車輪25Wは、それぞれ2つのレール12a、12bによって案内されつつ当該レール12a、12b上を走行する。台車24が下方から車体22を支持している。台車24が鉄道軌道10上を走行することで、車体22を含む鉄道車両20が鉄道軌道10に沿って走行する。鉄道車両20は、鉄道軌道10を走行する車両であればよく、電車、貨物列車の機関車、貨車、旅客列車の機関車、客車のいずれであってもよい。貨車又は客車は、機関車によって牽引される付随車であってもよいし、自身が動力を有する動力車であってもよい。機関車は、電気機関車であってもよいし、ディーゼル機関車等の内燃機関車であってもよい。鉄道車両20は、人又は荷物の輸送のための営業車両であってもよいし、鉄道軌道状態を監視するための事業用車両であってもよい。鉄道車両20は、鉄道軌道と道路との両方を走行可能な軌陸車であってもよい。
【0018】
バラスト16は、上記鉄道車両20がレール12a、12b上を通過する際の振動を路盤へ分散する機能を有している。また、バラスト16は、排水性を向上させる機能、及び、雑草の生育を妨げる機能を有している。
【0019】
鉄道車両20の走行によって塊状物17同士が接触し、バラスト16を構成する塊状物17が細粒化していくことが考えられる。塊状物17の細粒化が進行すると、上記振動の分散機能、排水機能及び雑草の生育を妨げる機能が失われてくことが考えられる。塊状物17の細粒化が進行すると、敷かれた塊状物17が交換される。交換の要否を判定するため、塊状物17の細粒度を目視にて観察することが考えられる。この場合、塊状物17の細粒度を確認するための検査員が、バラスト16が敷かれた現地に赴くこととなり、検査のための作業負担が大となる。また、目視による検査では人による定性的判断となり易く、交換の要否判断にばらつきが生じることが考えられる。
【0020】
本実施形態は、バラスト16として敷かれた塊状物17の細粒度を容易、かつ、定量的に判断するための技術に関する。
【0021】
図1に示すように、バラスト状態監視システム30は、鉄道軌道10におけるバラスト16に敷かれた塊状物17の状態を監視するためのシステムであり、バラスト状態監視装置40と、判定処理装置70とを備える。
【0022】
バラスト状態監視装置40は、バラスト16の状態を監視するための指標値を演算する装置である。本実施形態では、バラスト状態監視装置40は、表面状態検出センサ42と、走行位置検出部44と、指標値演算装置50と、通信装置46とを備える。バラスト状態監視装置40は、鉄道車両20に組込まれている。
【0023】
表面状態検出センサ42は、鉄道軌道10の走行中にバラスト16の表面状態を検出する。走行位置検出部44は、鉄道軌道10における鉄道軌道10の走行位置を検出する。表面状態検出センサ42及び走行位置検出部44の出力は、指標値演算装置50に入力される。指標値演算装置50は、鉄道軌道10におけるバラスト16の表面状態を示すデータに基づいて、バラスト16として敷かれた塊状物17の細粒度を示す指標値を演算する。演算された指標値は、鉄道軌道10における位置に対応付けられたデータとして通信装置46に出力される。通信装置46は、指標値と鉄道車両20における位置とが対応付けられたデータを送信する。
【0024】
バラスト状態監視装置40と判定処理装置70とは、データサーバ90に通信可能に接続されている。例えば、バラスト状態監視装置40が通信網38及び通信装置76を介してデータサーバ90に通信可能に接続される。また、判定処理装置70がデータサーバ90に有線方式で通信可能に接続される。判定処理装置70とデータサーバ90とのそれぞれが通信網38を介して通信可能な通信装置を有していてもよい。この場合、バラスト状態監視装置40と判定処理装置70とデータサーバ90との各間の通信が通信網38を介してなされてもよい。データサーバ90は、記憶装置92を備えたコンピュータである。データサーバ90は、クラウドサーバであってもよい。演算結果である指標値は、鉄道車両20の走行位置と対応付けられたデータとして、通信網38を介して、データサーバ90に送信される。これにより、データサーバ90の記憶装置92には、指標値と鉄道軌道10における位置とが対応付けられた収集データ92aが記憶される。
【0025】
データサーバ90には、複数の鉄道車両20から送信されたデータが記憶されてもよい。データサーバ90が、複数の鉄道車両20から送信されたデータを収集することで、鉄道軌道10の指標値を網羅的に収集することができる。特定の鉄道軌道10に対する指標値が複数収集される場合、逐次最新データに更新されてもよい。
【0026】
判定処理装置70は、データサーバ90から指標値と鉄道軌道10における位置とが対応付けられたデータをダウンロードし、指標値に基づいて保守の要否を判定する。本実施形態では、判定処理装置70は、鉄道軌道10ではない任意の位置に設けられる。例えば、判定処理装置70は、鉄道軌道10を監視するために地上に設置された管理基地28に設けられる。判定処理装置70は、保守作業を行うための基地に設けられてもよい。判定処理装置70は、携帯可能な端末装置に実装されており、作業者によって持運ばれてもよいし、データサーバ90上に判定処理装置の判定処理を実装してもよい。データサーバ90がクラウドサーバである場合、当該クラウドサーバに判定処理装置の判定処理機能を実装してもよい。
【0027】
上記通信網38は、有線式であっても無線式であってもよいし、それらの複合方式であってもよい。また、通信網38は、公衆通信網であっても専用回線による通信網であってもよい。また、バラスト状態監視装置40から判定処理装置70に、指標値と鉄道軌道10における位置とが対応付けられたデータが直接送信されてもよい。この場合、データサーバ90は省略されてもよい。
【0028】
図2はバラスト状態監視装置40を示すブロック図である。
【0029】
表面状態検出センサ42は、鉄道車両20に支持されており、鉄道車両20の走行中に当該鉄道車両20の走行位置におけるバラスト16の表面状態を検出する。表面状態検出センサ42は、例えば、切断法形状計測装置であってもよい。光切断法形状計測装置は、スリット光源42a及び撮像部42bを含む。スリット光源42aは、バラスト16に向けてバラスト16の幅方向に沿ったスリット光Lを照射する。バラスト16の幅方向は、レール12a、12bを結ぶ方向であり、まくらぎ13に沿った方向でもある。撮像部42bは、撮像カメラであり、スリット光Lが写り込んだ像を撮像する。光切断法形状計測装置は、撮像された像におけるスリットの位置に基づいて、3角測量の原理に基づいて、バラスト16の幅方向に沿った断面における、バラスト16の表面形状データを求める。表面形状データは、例えば、バラスト16の幅方向に沿ったライン上の各座標に対するバラスト16の表面の上下座標位置を示すデータである。バラスト16の表面の座標位置を演算するプロセッサは、表面状態検出センサ42に組込まれていてもよいし、指標値演算装置50に組込まれていてもよい。
【0030】
表面状態検出センサ42が、切断法形状計測装置であることは必須ではない。例えば、表面状態検出センサ42は、バラスト16の幅方向に沿ったラインにおけるバラスト16の凹凸による高さを検出できるセンサであればよい。このように、所定ラインにおける表面高さを検出する表面状態検出センサ42は、例えば、複数の距離センサがライン状に配列されたセンサであってもよいし、複数の撮像装置の画像に基づいて3次元データを取得するセンサであってもよい。後者のセンサは、いわゆるステレオカメラであってもよい。
【0031】
表面状態検出センサ42は、所定ラインにおけるバラスト16の表面の凹凸による高さを検出する必要は無い。例えば、表面状態検出センサ42は、バラスト16を上から観察した領域における塊状物17の大きさを判別できるデータを提供するセンサであってもよい。このように、観察領域における塊状物17の大きさを判別し得るデータを提供する表面状態検出センサ42としては、例えば、単一の撮像部であってもよい。撮像部によって得られた画像において、塊状物17の境界をエッジ抽出処理等することによって、塊状物17の大きさが判別され得るからである。もちろん、塊状物17の大きさを判別し得るデータを提供する表面状態検出センサ42は、複数の撮像装置の画像に基づいて観察領域における3次元データを取得するセンサであってもよい。
【0032】
すなわち、表面状態検出センサ42は、検出対象がラインであるか、平面的に広がる領域であるかを問わず、塊状物17の細粒度を指標値化するのに利用できる、バラスト16の表面状態を検出して出力できればよい。
【0033】
表面状態検出センサ42は、バラスト16のうち第1レール12aと第2レール12bとの間の少なくとも一部の領域の表面状態を検出可能な位置で、鉄道軌道10に支持されている。例えば、表面状態検出センサ42は、車体22の下部に支持される。表面状態検出センサ42は、表面状態検出センサ42は、車幅方向において、左右の車輪25Wの間に位置する。表面状態検出センサ42は、第1レール12aと第2レール12bとの間を検出領域とする姿勢で車体22に支持される。例えば、スリット光源42aからのスリット光源42aがレール12a、12a間に照射され、撮像部42bの撮像領域がレール12a、12a間におけるスリット光源42aの照射領域を含むように設定される。これにより、表面状態検出センサ42は、バラスト16のうち第1レール12aと第2レール12bとの間の少なくとも一部の領域の表面状態を検出できる。表面状態検出センサ42は、台車24に支持されてもよい。
【0034】
図3及び
図4はレール12a、12b間におけるバラスト16の状態及び検出ラインDLの一例を示す説明図である。
【0035】
図3に示すように路盤にバラスト16が敷詰められており、レール12a、12b間に複数の塊状物17が存在している。敷設直後では、塊状物17は、鉄道車両20の通過時の振動を分散させたり、排水性を向上させたり、雑草の生育を妨げたりするのに十分な大きさを有している。鉄道車両20の走行が繰返されると、塊状物17同士の接触等によって塊状物17の細粒化が進み、
図4に示すように、塊状物17の大きさが小さくなる。
【0036】
表面状態検出センサ42は、例えば、検出ラインDL上に各位置におけるバラスト16の表面の高さ情報を検出する。バラスト16の細粒化が進行する前後で、検出ラインDLにおけるバラストの表面形状データの違いは次のようになる。すなわち、細粒化前の表面形状データは、細粒化後の塊状物17よりも大きい塊状物17の表面形状によって規定される形状を示す。細粒化後の表面形状データは、細粒化前の塊状物17よりも小さい塊状物17の表面形状によって規定される形状を示す。このため、細粒化前の表面形状データと細粒化後の表面形状データとは、異なる細粒度を示しており、細粒化前の表面形状データは細粒化後の表面形状データよりも粗い。よって、表面形状データに基づいて、細粒度を示す値を指標値化することができる。また、演算された細粒度を示す指標値に基づいて、バラスト16の保守の要否を判断することができる。
【0037】
図2に示すように、走行位置検出部44は、鉄道車両20の走行中において、鉄道車両20の走行位置を特定するための状態を検出する。鉄道車両20の走行位置は、鉄道軌道10の長手方向における鉄道車両20の位置である。鉄道車両20の走行位置は、鉄道軌道10の長手方向における固定位置(例えば、線路の起点、いずれかの駅)等を基準とする位置(例えば、キロ程)であってもよいし、鉄道軌道10の長手方向における任意位置を基準とする位置であってもよい。例えば、走行位置検出部44は、車輪の回転数を検出する回転数検出センサを含み、当該回転数検出センサの検出結果に基づくいずれかの位置からの走行距離を出力してもよい。鉄道車両20の回転数に基づいて車速を検出するセンサは、速度発電機と呼ばれることもある。速度を積分演算すれば走行距離が特定されるため、回転数検出センサを含む走行位置検出部44は、一定時間毎の速度を出力してもよい。
【0038】
また、例えば、走行位置検出部44は、GNSS(Global Navigation Satellite System)におけるGPS(Global Positioning System)受信部を含み、当該GPS受信部による受信信号によって求められる緯度経度情報又は当該緯度経度情報に基づく鉄道軌道10の長手方向における位置を出力してもよい。
【0039】
指標値演算装置50は、CPU等のプロセッサ52、記憶装置54、入出力インターフェース56等を含むコンピュータによって構成されている。上記表面状態検出センサ42及び走行位置検出部44からの出力は、入出力インターフェース56に入力される。
【0040】
プロセッサ52は、演算回路を含む。プロセッサ52は、バラスト16の表面状態を示すデータに基づいて、バラスト16として敷かれた塊状物17の細粒度を示す指標値を演算する処理部の一例である。また、プロセッサ52は、指標値を、鉄道軌道10における位置データと対応付けたデータを生成する処理部の一例でもある。記憶装置54は、HDD(hard disk drive)、SSD(Solid-state drive)等の不揮発性記憶装置によって構成されている。記憶装置54には、例えば、プログラム54a、指標値データに位置データを対応付けたデータ54bが記憶される。
【0041】
プログラム54aには、プロセッサ52が処理部としての機能を実現するための処理が記述されている。よって、プロセッサ52が記憶装置54等に保存されたプログラム54aに記述された処理を実行することによって、指標値を演算する処理部としての処理が実行される。例えば、プロセッサ52は、指標値を演算する指標値演算部52a、データ出力部52bとしての各機能を実行する。プロセッサ52は、1つであってもよいし、複数であってもよい。複数のプロセッサ52は、1つのコンピュータに組込まれていてもよい。複数のプロセッサ52が、複数のコンピュータに組込まれており、複数のコンピュータが指標値を演算する処理部としての処理を分散して行ってもよい。
【0042】
記憶装置54に記憶されるデータ54bは、バラスト16の表面形状を示すデータに基づいて演算される指標値に、当該指標値に対応するバラスト16の状態を検出した鉄道車両20の位置を対応付けたデータである。
【0043】
指標値演算装置50における処理部の処理例について、
図5に示すフローチャートを参照して説明する。
【0044】
ステップS1において、走行位置検出部44からの出力に基づいて鉄道車両20が判定距離走行したか否かが判定される。判定距離は、指標値を演算する間隔として予め設定された値である。例えば、判定距離がd(m)に設定されるとする。この場合、現在の鉄道車両20の走行位置から、初期位置、又は、前回の指標値を演算した走行位置を減算した走行距離が、d(m)未満であれば、NOと判定され、d(m)を越えれば、YESと判定される。鉄道車両20の前記走行距離がd(m)である場合、YES、NOのいずれに判定されてもよい。判定距離d(m)は、例えば、0.5(m)であってもよいし、1(m)であってもよいし、2(m)であってもよいし、5(m)であってもよいし、より長い10(m)、50(m)であってもよい。ステップS1において、NOと判定されると、ステップS1の処理を繰返し、YESと判定されると、次ステップS2に進む。
【0045】
ステップS2では、表面状態検出センサ42から、バラスト16の表面形状の検出データを取得する。
【0046】
なお、ステップS1及びS2において、表面状態検出センサ42は、走行位置検出部44の出力に基づき、判定距離走行毎に動作して表面形状データを取得してもよい。例えば、判定距離走行毎に、スリット光源42aがスリット光を発すると共に、撮像部42bが撮像動作を行ってもよい。そして、表面状態検出センサ42から判定距離走行毎の表面形状データが指標値演算装置50に入力されたときに、ステップS3以降の動作を行ってもよい。
【0047】
次ステップS3では、取得された表面形状データに基づいて指標値を演算する。指標値の演算例が後に説明される。
【0048】
次ステップS4において、ステップS3で演算された指標値に、ステップS1における判定の際に用いられた鉄道車両20の走行位置を対応付けて、記憶装置54にデータ54bとして記憶する。
【0049】
次ステップS5において、指標値に鉄道車両20の走行位置を特定したデータ54bを、通信装置46を介して送信する。データ54bは、データサーバ90に記憶される。なお、データ54bの送信は、指標値を演算する都度なされてもよいし、所定距離走行毎又は所定回数の指標値演算毎になされてもよいし、鉄道車両20の停車毎又は運行終了時になされてもよい。送信後、記憶装置54におけるデータ54bは消去されてもよい。通信装置46が省略されてもよい。この場合、記憶装置54に記憶されたデータ54bは、可搬性のある記憶媒体を通じて収集されてもよい。
【0050】
次ステップS6において、鉄道車両20の走行終了の有無が判定される。走行終了の有無は、例えば、鉄道車両20が終着駅に達した否か又は電源がオフされたか否かによって判定される。鉄道車両20の走行が終了したと判定されると処理を終了し、鉄道車両20の走行が終了していないと判定されると、ステップS1に戻って上記処理を繰返す。
【0051】
これにより、鉄道車両20が走行する鉄道車両20において、上記判定距離走行毎に、指標値に鉄道軌道10における位置が対応付けられたデータが得られる。
【0052】
指標値の演算処理例について説明する。
【0053】
指標値は、フラクタル次元解析によって演算されてもよい。より具体的には、指標値は、ボックスカウンティング法によるフラクタル次元解析によって演算されてもよい。
【0054】
図6及び
図7は、ボックスカウンティング法によるフラクタル次元解析の処理例を示す図である。
【0055】
図6に示すように、バラスト16の幅方向に沿った検出ラインDLにおけるバラスト16の表面形状が表現される。表面形状データが検出ラインDLにおけるバラスト16の表面の高さを表す座標データである場合、当該データに基づいてバラスト16の表面形状が表現される。表面形状データが画像データである場合、エッジ抽出処理等することによって、検出ラインDLにおけるバラスト16の表面形状が表現される。
【0056】
検出ラインDLにおけるバラスト16の表面形状が表現された平面において、縦横に四角いセルQ1が設定される。各セルQ1において、バラスト16の表面形状を示す境界線が通過するセルの数をカウントする(
図6において網点が付されたセルQ1参照)。
【0057】
続けて、
図7に示すように、セルQ1と相似形状で大きさを変えたセルQ2が設定される。各セルQ2において、上記と同様に、バラスト16の表面形状を示す境界線が通過するセルの数をカウントする(
図7において網点が付されたセルQ2参照)。
【0058】
セルの大きさを変えて、バラスト16の表面形状を示す境界線が通過するセルの数をカウントする処理を繰返す。そして、セルの大きさと境界を含むセルの総数とが対数変換される。セルの大きさと境界を含むセルの総数との関係を両対数グラフに表現すると、
図8に示すようになる。
【0059】
セルの大きさの対数変換値Xと境界を含むセルの総数の対数変換値Yとの関係を示す回帰式(Y=αX+β)を、最小自乗法等によって演算する。回帰式における回帰係数αの絶対値がフラクタル次元として演算される。
【0060】
解析対象物が粗いほどフラクタル次元αが大きくなり、解析対象物が細かい程フラクタル次元αは小さくなる。よって、フラクタル次元αは、バラスト16の細粒度を示す指標値として用いられ得る。
【0061】
フラクタル次元解析による指標値の演算は、バラスト16の表面の状態が、バラスト16を上から観察した領域における塊状物17の大きさを判別できる画像データである場合にも適用可能である。例えば、当該画像データに対して各塊状物17の境界をエッジ抽出する処理を実行し、当該各塊状物17の境界に対して上記と同様に、ボックスカウンティング法によるフラクタル次元解析を実行することによって指標値を演算してもよい。エッジ抽出は、画像データに対するエッジ抽出フィルタを適用する処理によってなされてもよい。エッジ抽出フィルタとしては、例えば、ソーベルフィルタ又はラプラシアンフィルタが適用されてもよい。
【0062】
指標値は算術平均粗さによって演算されてもよい。
【0063】
図9は、算術平均粗さを演算する処理例を示す図である。
図9に示すように、バラスト16の幅方向に沿った検出ラインDLにおけるバラスト16の表面形状が表現される。表面形状は、フラクタル次元解析における表面形状と同じ求められたデータに基づく。
【0064】
検出ラインDLにおけるバラスト16の表面形状に基づき、バラスト16の幅方向における等間隔な各座標に対してバラスト16の表面形状の高さ位置Ziが求められる。高さ位置Ziは、例えば、検出ラインDLにおけるバラスト16の表面形状の平均高さ位置に対する高さによって表現される。
【0065】
下記数1に示すように、検出ラインDL上における各座標iの高さ位置Ziの絶対値の総和を、座標iの総数で除することによって、算出平均粗さRaが演算される。
【0066】
【0067】
バラスト16の細粒度は、上記以外の演算処理によって求められてもよい。例えば、検出ラインDLにおけるバラスト16の表面の最も高い点から最も低い点までの距離である最大高さを、指標値としてもよい。塊状物17の大きさに応じて変り得る各種演算値が指標値として用いられ得る。
【0068】
演算された指標値は、鉄道軌道10の位置と対応付けられて、データサーバ90の記憶装置54に記憶される。判定処理装置70は、データサーバ90からデータをダウンロードして処理を実行する。
【0069】
判定処理装置70は、
図1に示すように、CPU等のプロセッサ72、記憶装置74、通信装置76等を含むコンピュータによって構成されている。判定処理装置70は、例えば、有線方式の通信線を介してデータサーバ90に通信可能に接続されている。
【0070】
判定処理装置70は、データサーバ90に記憶された収集データ92aを受信し、記憶装置74に記憶する。記憶装置74にダウンロードされる収集データ74bは、データサーバ90における収集データ92aのうち評価対象となる鉄道軌道10に属する一部のデータであってもよい。プロセッサ72は、保守要否判定処理部として、記憶装置74に記憶されたプログラム74aに従った処理を実行することで、指標値に基づいて保守の要否を判定する処理を実行する。例えば、プロセッサ72は、指標値を、記憶装置74に記憶された基準値データ74dに含まれる基準値と比較することで、保守の要否を判定する。保守の要否は、保守の必要度合(保守レベル)として判定されてもよい。判定結果74cは、鉄道軌道10の位置に対応付けて記憶装置74に記憶される。
【0071】
また、判定処理装置70には、表示装置78及び入力部79が接続されている。表示装置78は、液晶表示装置、有機EL(Electro-luminescence)表示装置等であってもよい。表示装置78として、スマートフォン、タブレット端末等に設けられた表示装置等が用いられてもよい。入力部79は、判定処理装置70に対する利用者からの諸指示を受付ける。入力部79は、複数のスイッチを含むキーボード、マウス、タッチパネル等であってもよい。上記鉄道軌道10のバラスト16に対する保守の要否の判定結果が、表示装置78に表示されてもよい。
【0072】
判定処理装置70における処理例について、
図10に示すフローチャートを参照して説明する。
【0073】
ステップS11において、評価対象位置の指標値が取得される。例えば、鉄道軌道10における一部の区間が、利用者によって入力部79を通じて評価対象区間として指定される。当該評価対象区間における1つの位置における指標値が、記憶装置74の収集データ74bから取得される。
【0074】
次ステップS12において、指標値がエラー判定値未満か否かが判定される。エラー判定値は、例えば、基準値データ74dにおいて定義されるデータであり、予め設定された値である。エラー判定値は、例えば、細粒化が進んだバラスト16の表面よりも明らかに平滑な状態を示す値である。例えば、バラスト16の細粒化が進行したとしても、まくらぎ13の表面よりは明らかに粗いことが考えられる。このため、例えば、エラー判定値は、細粒化が進行したバラスト16の表面形状の指標値と、まくらぎ13の表面形状の指標値との間の値に設定される。
【0075】
ステップS12において、指標値がエラー判定値未満であると判定されると、ステップS17に進み、当該指標値はエラー指標値であると判定する。指標値がエラー指標値であると判定されると、エラー指標値は、バラスト16の保守の要否を判定する値として利用されない。ステップS17の後、ステップS11に戻って、別の評価対象位置の指標値を取得し、上記処理を繰返す。
【0076】
ステップS12において、指標値がエラー判定値未満でないと判定されると、ステップS13に進む。指標値がエラー判定値と同じである場合、ステップS17に進んでもよいし、ステップS13に進んでもよい。
【0077】
ステップ12及びS17の処理が行われることによって、表面状態検出センサ42がバラスト16ではないまくらぎ13の表面形状を検出したとしても、当該まくらぎ13の表面形状データに基づいてバラスト16の保守要否の判定がなされることが抑制される。例えば、鉄道軌道10が所定の判定距離走行する毎に表面状態検出センサ42が表面状態を検出すると、まくらぎ13の表面形状データを検出することがあり得る。このようなまくらぎ13の表面形状データに基づく指標値を、保守の要否の判定対象から除くことができる。ステップS12の処理は、指標値演算装置50において、指標値演算処理後になされてもよい。この場合、エラー指標値は、鉄道軌道10から外部に送信されるデータから除かれてもよい。また、ステップS12の処理は、データサーバ90においてなされてもよい。
【0078】
ステップS13では、指標値を、判定基準値と比較し、保守の要否を示す保守レベルを判定する。例えば、バラスト16の細粒化が進む程、バラスト16の保守の必要度合は大きくなる。このため、保守の必要度合(注意レベル)に応じて複数の保守レベルが予め設定される。指標値に応じた保守レベルは、当該指標値に応じたバラスト16の細粒度に応じて経験的に設定され得る。指標値が当該判定基準値と比較されることで、鉄道軌道10の各位置における保守レベルが判定される。保守レベルは、バラスト16の細粒化の進行度合を示しており、保守レベルが高い程、バラスト16の細粒化が進んでいるともいえる。判定基準値が1つであり、保守レベルは、単に注意の要否を示す2段階のレベルであってもよい。判定基準値が複数であり、保守レベルは3つ以上のレベルであってもよい。保守レベルは、判定基準値を閾値として、各レベルに区別されるとよい。指標値が判定基準値と同じ値である場合、当該判定基準値の前後のレベルのいずれに属すると判定されてもよい。
【0079】
次ステップS14において、判定結果74cが鉄道軌道10における位置に対応付けて記憶装置74に書込まれる。
【0080】
次ステップS15において、対象区間の判定が終了したか否かが判定される。対象区間に含まれる全ての位置に対する評価判定が終了していると判定されると、ステップS16に進み、終了していないと判定されると、ステップS11に戻り、上記処理を繰返す。これにより、対象区間に含まれる全ての判定距離毎の位置に対応する指標値に対して、保守レベルの判定がなされる。
【0081】
ステップS16において、表示装置78に、保守の要否の判定結果に基づいて、鉄道軌道10におけるバラスト16の状態を示すバラスト状態画像が表示される。この後、処理が終了する。
【0082】
図11はバラスト状態画像100の一例を示す図である。バラスト状態画像100は、例えば、鉄道軌道10の位置に、バラスト16の状態を対応付けた画像である。
【0083】
図11では、鉄道軌道10の各区間に、保守レベルを対応付けられている。画像は、実際の鉄道軌道10を表現する軌道画像102を含む。軌道画像102に保守レベルを表示する保守レベル画像103が含まれる。保守レベル画像103は、色、濃淡、模様等によって識別されてもよい。例えば、保守レベルが緑色から黄色を経て赤に遷移するのに伴って保守度合が高くなるように区別されてもよい。この画像を見ることによって、鉄道軌道10におけるどの位置で、バラスト16の状態を注意すべきかが容易に把握される。
【0084】
なお、鉄道軌道10の表示スケールによっては、鉄道軌道10の各区間が、指標値の評価対象となった複数の位置を含むことが考えられる。この場合、複数の位置のいずれかの評価結果のうち最も高い保守レベルに応じた保守レベル画像103が表示されるようにしてもよい。
【0085】
軌道画像102とは別に、当該軌道画像102の一部を拡大した範囲に、指標値を表した詳細画像104が表示されてもよい。詳細画像104は、鉄道軌道10における長方向の位置(例えばキロ程)を横軸、指標値を横軸としたグラフである。詳細画像104は、例えば、軌道画像102の一部をクリック、タッチ操作等で選択することによって表示されてもよい。この詳細画像104によって、鉄道軌道10の一部の状態がより詳細に把握され得る。
【0086】
なお、バラスト状態画像は、保守が必要とされる箇所を、保守レベルに応じた表形式に表示した画像であってもよい。バラスト状態画像は、保守が必要とされる箇所と保守レベルとを特定したメッセージを含む画像であってもよい。
【0087】
このように構成されたバラスト状態監視装置40、バラスト状態監視システム30及びバラスト状態監視方法によると、鉄道軌道10におけるバラスト16の表面状態を示すデータに基づいて、バラスト16として敷かれた塊状物17の細粒度を示す指標値を演算する。このため、バラスト16として敷かれた塊状物17の細粒度を基準としてバラストの状態を監視することができる。
【0088】
当該指標値は、バラスト16の表面状態を示すデータに基づいて演算されるため、定量的かつ個人差を避けて、バラスト16の状態が監視される。
【0089】
また、バラスト16の表面状態を示すデータとして、バラスト16の幅方向に沿った断面における表面形状データを利用すると、バラスト16の幅方向に沿った断面における表面形状データは、バラスト16の表面の高さ情報を含む輪郭データとして処理され得る。このため、バラスト16表面の平面的なデータに基づいて処理を行う場合と比較して、少ない計算量で指標値を算出することができる。また、指標値には、バラスト16の高低の凹凸状態が反映されるため、塊状物17の細粒度が正確に反映され易い。
【0090】
また、指標値としては、フラクタル次元を求めたり、算術平均粗さを求めたりすることで、塊状物の細粒度を表現することができる。
【0091】
また、指標値を、鉄道軌道10における位置データと対応付けることで、指標値を鉄道軌道10における位置と対応付けて監視することができる。
【0092】
また、バラスト状態監視装置40は、鉄道車両20に支持され、鉄道車両20の走行中にバラスト16の表面状態を検出可能な表面状態検出センサ42を備える。このため、鉄道車両20の走行中に表面形状データを逐次取得することができる。これにより、検査員が鉄道軌道10の各所に赴かなくても、鉄道軌道10におけるバラスト16の状態を容易に監視することができる。
【0093】
表面状態検出センサ42が支持される鉄道軌道10が人又は荷物の輸送のための営業車両であれば、当該営業車両が走行する鉄道軌道10におけるバラスト16の状態を、広範囲かつ高頻度に取得することができる。
【0094】
また、表面状態検出センサ42が、バラスト16のうちレール12a、12b間の少なくとも一部の領域の表面状態を検出可能な位置で鉄道車両20に支持されていれば、表面状態検出センサ42は、バラスト16の表面状態を継続して検出し易い。例えば、表面状態検出センサ42がレール12a、12a間から外れた外側領域を検出している場合を想定する。この場合、カーブ等で鉄道車両20が傾くと、検出対象領域が、バラスト16から外方に外れてしまうことが想定される。表面状態検出センサ42がレール12a、12a間の領域を検出していると、カーブ等で鉄道車両20が傾いても、検出対象領域をバラスト16から外方に外れ難い。
【0095】
また、判定処理装置70が、指標値に基づいて保守の要否を判定するため、指標値に基づいて安定した基準で保守の要否を判定することができる。
【0096】
また、指標値が低い場合には、バラストの表面状態を示すデータがまくらぎ13の表面状態を示すデータである場合が想定される。そこで、指標値と予め定められたエラー判定値とを比較し、指標値がまくらぎ13の表面状態を表すと考えられる場合、例えば、指標値がエラー判定値未満となる場合、当該指標値をエラー指標値であると判定してもよい。これにより、まくらぎ13に対応するような指標値をエラー指標値として区別して、エラー指標値では無い指標値によってバラストの状態を監視することができる。
【0097】
また、表示装置78に、バラスト状態画像を表示することによって、バラスト16の状態を容易に把握することができる。
【0098】
また、バラスト状態画像100は、鉄道軌道10に対応する軌道画像102の位置に、バラスト16の状態を示す保守レベル画像103を対応付けた画像であれば、鉄道軌道10の位置に応じたバラスト16の状態が容易に把握される。
【0099】
なお、上記実施形態では、指標値演算装置50が鉄道車両20に搭載される例が説明された。指標値演算装置50がデータサーバ90又は判定処理装置70に実装され、データサーバ90又は判定処理装置70において指標値演算処理がなされてもよい。この場合、鉄道車両20には、表面状態検出センサ42及び走行位置検出部44が搭載され、表面状態検出センサ42及び走行位置検出部44からの出力データが、通信装置46を介してデータサーバ90又は判定処理装置70に送信されるとよい。
【0100】
また、上記実施形態では、判定処理装置70が、鉄道車両20とは別の箇所に設置される例が説明された。判定処理装置70が鉄道車両20に搭載され、鉄道車両20において判定処理がなされてもよい。この場合、判定結果がデータサーバ90、又は、保守管理者又は保守作業者が操作するコンピュータに送信され、判定結果に基づくバラスト状態画像が保守管理者又は保守作業者が操作するコンピュータに表示されてもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、バラスト16が細かい程、指標値が小さくなるという前提で説明がなされた。バラスト16が細かい程、指標値が大きくなる場合、指標値と、エラー判定値又は判定基準値の大小比較処理は、上記説明とは逆となる場合がある。
【0102】
なお、上記施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組合わせることができる。
【0103】
本開示は、下記の各態様を開示する。
【0104】
第1の態様は、鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部と、前記指標値に基づいて保守の要否を判定する保守要否判定処理部とを備える、バラスト状態監視システムである。これにより、指標値に基づいて保守の要否を判定することができる。
【0105】
第2の態様は、第1の態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記バラストの表面状態を示すデータは、前記バラストの幅方向に沿った断面における表面形状データとされている。
【0106】
この場合、バラストの幅方向に沿った断面における表面形状データは、バラストの表面の高さ情報を含む輪郭データとして処理され得る。このため、バラスト表面の平面的なデータに基づいて処理を行う場合と比較して、少ない計算量で指標値を算出することに貢献する。また、指標値には、バラストの凹凸状態が反映されるため、塊状物の細粒度が正確に反映され易い。
【0107】
第3の態様は、第1の態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記バラストの表面状態を示すデータは、前記バラストを上から観察した領域における画像データであり、前記処理部は、前記画像データに対してエッジ抽出処理を行って前記バラストの細粒度を示す指標値を演算するものである。これにより、画像データに基づいて指標値を演算できる。
【0108】
第4の態様は、第1から第3のいずれか1つの態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記処理部は、前記指標値として、前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、フラクタル次元を求めるものである。この場合、フラクタル次元によって、塊状物の細粒度を表現することができる。
【0109】
第5の態様は、第4の態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記処理部は、前記バラストの表面状態を示すデータに対してボックスカウンティング法によるフラクタル次元解析を行って前記フラクタル次元を求めるものである。ボックスカウンティング法によって簡単にフラクタル次元が求められる。
【0110】
第6の態様は、第1又は第2の態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記処理部は、前記指標値として、前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、算術平均粗さを求めるものである。この場合、算術平均粗さによって、塊状物の細粒度を表現することができる。
【0111】
第7の態様は、第1から第6のいずれか1つの態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記保守要否判定処理部は、前記指標値を、予め定められた基準値と比較することで、保守の要否を判定するものである。これにより、保守の要否を容易に判定できる。
【0112】
第8の態様は、第1から第7のいずれか1つの態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記処理部は、前記指標値を、鉄道軌道における位置データと対応付けたデータを生成するものである。これにより、指標値を鉄道軌道における位置と対応付けて監視することができる。
【0113】
第9の態様は、第1から第8のいずれか1つの態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記鉄道軌道を走行する鉄道車両に支持され、前記鉄道車両の走行中に前記バラストの表面状態を検出可能な表面状態検出センサをさらに備えるものである。これにより、鉄道車両の走行中にバラストの表面状態を検出することができる。
【0114】
第10の態様は、第9の態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記表面状態検出センサは、前記バラストのうち前記鉄道軌道における第1レール及び第2レールの間の少なくとも一部の領域の表面状態を検出可能な位置で前記鉄道車両に支持されているものである。これにより、カーブ等で鉄道車両が傾いても、表面状態検出センサは、前記バラスト表面状態を継続して検出し易い。
【0115】
第11の態様は、第1から第10のいずれか1つの態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記指標値が予め定められたエラー判定値未満となる場合に、前記指標値をエラー指標値であると判定するものである。指標値の値によっては、バラストの表面状態を示すデータがまくらぎの表面状態を示すデータである場合が想定される。このような指標値をエラー指標値として区別して、エラー指標値では無い指標値によってバラストの状態を監視することができる。
【0116】
第12の態様は、第1から第11のいずれか1つの態様に係るバラスト状態監視システムであって、表示装置をさらに備え、前記保守要否判定処理部は、保守の要否の判定結果に基づいて、前記鉄道軌道における前記バラストの状態を示すバラスト状態画像を表示するものである。これにより、バラスト状態画像によってバラストの状態を把握することができる。
【0117】
第13の態様は、第12の態様に係るバラスト状態監視システムであって、前記バラスト状態画像は、鉄道軌道の位置に、バラストの状態を対応付けた画像とされているものである。これにより、鉄道軌道の位置に応じたバラストの状態を容易に把握できる。
【0118】
第14の態様は、鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部とを備えるバラスト状態監視装置である。これにより、バラストとして敷かれた塊状物の細粒度を基準としてバラストの状態を監視することができる。
【0119】
第15の態様は、鉄道軌道におけるバラストの表面状態を検出し、前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算し、前記演算結果を出力する、バラスト状態監視方法である。これにより、バラストとして敷かれた塊状物の細粒度を基準としてバラストの状態を監視することができる。
【0120】
なお、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0121】
上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0122】
10 鉄道軌道
12a 第1レール
12b 第2レール
13 まくらぎ
16 バラスト
17 塊状物
20 鉄道車両
30 バラスト状態監視システム
40 バラスト状態監視装置
42 表面状態検出センサ
44 走行位置検出部
50 指標値演算装置
52 プロセッサ
54 記憶装置
70 判定処理装置
72 プロセッサ
74 記憶装置
78 表示装置
90 データサーバ
100 バラスト状態画像
102 軌道画像
103 保守レベル画像
104 詳細画像
DL 検出ライン
【要約】
バラスト状態監視システムは、鉄道軌道におけるバラストの表面状態を示すデータが入力される入力部と、前記入力部に入力された前記バラストの表面状態を示すデータに基づいて、前記バラストの細粒度を示す指標値を演算する処理部と、前記指標値に基づいて保守の要否を判定する保守要否判定処理部とを備える。