(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】車両下部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240523BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20240523BHJP
【FI】
B62D25/20 D
B60K1/04 Z
(21)【出願番号】P 2020210974
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】長崎 雄太
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-038467(JP,A)
【文献】特開2020-111243(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012292(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
B60K 1/00- 6/12
B60K 7/00- 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロア部の前部から車両前方に延びているフロントサイドメンバと、該フロントサイドメンバの車両後方で車幅方向外側に設けられ、車両前後方向に延びているサイドシルと、前記フロア部の下面側に固定されているバッテリパックと、を有し、
前記フロントサイドメンバ及び前記サイドシルは、車幅方向に延びるサイドブレースによって連結されている、車両下部構造において、
前記フロントサイドメンバの後部には、車両前後方向に延び、前記フロア部に接合される車体接合部が設けられ、該車体接合部の後部には、前記バッテリパックを固定するためのバッテリブラケットが接合されており、
前記フロントサイドメンバの後部には、該後部から車幅方向内側に延びるロアメンバが接合され、
前記ロアメンバは、
前記フロア部に接合され、車幅方向に延びる上段部と、
前記上段部に対して車両下方に突出し、車幅方向に延びる下段部と、を有し、
前記上段部の車両前後方向の長さに対する前記下段部の車両前後方向の長さは、車幅方向内側に向かうに従い短くなるように構成
され、
前記下段部の後部には、車幅方向外側に向かうに従い車両後方に湾曲する湾曲形状部が設けられ、
前記バッテリブラケットは、前記湾曲形状部の車幅方向外側部に接合されていることを特徴とする、車両下部構造。
【請求項2】
前記下段部の車両後方側に位置する前記上段部には、前記下段部に対して車両後方に膨出する膨出部が設けられ、
前記フロントサイドメンバの後端部は、前記ロアメンバの後部に位置する縦壁に接合されていることを特徴とする、
請求項1に記載の車両下部構造。
【請求項3】
前記フロア部を車幅方向中間部には、車両上方に隆起するフロアトンネルが設けられており、前記フロア部の下面側には、前記フロアトンネルを跨ぐように車幅方向に延びる中間部材が設けられ、
前記中間部材の車幅方向外側部は、前記ロアメンバの車幅方向内側部に接合され、
前記中間部材は、前記ロアメンバの前記上段部に繋がるように形成された中央上段部と、前記下段部に繋がるように形成された中央下段部とを有していることを特徴とする、
請求項2に記載の車両下部構造。
【請求項4】
前記中央上段部は、前記中央下段部の車両前後方向における前側及び後側に設けられ、
前記中間部材は、前記中央下段部、前側の前記中央上段部及び後側の前記中央上段部により、車両上方に開口部を有する凸形状の断面形状を備え、
車幅方向に延びる板状の補強部材が、前記開口部を塞ぐように設けられ、
前記中間部材と、前記補強部材とにより閉断面構造が構成されていることを特徴とする、
請求項3に記載の車両下部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両では、例えば、特許文献1に開示されているように、バッテリパックは、車体のフロア部の下面側に固定されており、バッテリパックの車両前方側には、クロスメンバが配置されている。この例では、クロスメンバは、アウトリガー等の部材を介して、車体側部のサイドシルに接合されている。
【0003】
また、フロア部の前部には、車両前方に延びるフロントサイドフレームが設けられており、該フロントサイドフレームの後部には、サイドフレーム屈曲部が設けられている。サイドフレーム屈曲部は、クロスメンバの端部に接合されている。このように構成することで、例えば前突等によりフロントサイドフレームが衝撃荷重を受けたとき、当該衝撃荷重は、サイドフレーム屈曲部等を介してサイドシルに伝達されるように促される。これにより、当該衝撃荷重から、バッテリパックを保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記例のように、フロントサイドフレームからサイドシルに衝撃荷重を伝達する構成では、荷重伝達の経路が冗長になるため、意図した荷重伝達経路とならない可能性がある。すなわち、フロントサイドフレームに入力された衝撃荷重がサイドシルに伝達されるまでの間に、衝撃荷重が意図しない方向に伝達され、荷重伝達が不十分になる可能性がある。
【0006】
荷重伝達が不十分になられる場合、例えば、フロントサイドフレームと車体との接合部に応力が集中する可能性があり、その結果、キャビンやバッテリが破損する可能性がある。そのため、荷重伝達の経路に屈曲部等を有する上記例のような構造では、フロントサイドフレームに入力される衝撃荷重を車両後方に効果的に伝達させようとする上で、改善の余地があった。
【0007】
一方で、電動車両のバッテリパックは、大きな重量を有しているため、車体重量の中で大きな割合を占めることになる。重量物であるバッテリパックの慣性力は大きいため、車両走行時に前突等が起こると、当該慣性力により、バッテリパックの外側部を構成するバッテリケースの前部及びその周辺には、車両前方向に大きな負荷が作用することになる。そのため、バッテリパックの前部等の剛性を高める必要がある。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、バッテリパックの前部の剛性を確保し、さらに、フロントサイドメンバの車両後方への荷重伝達を効果的に促進することが可能な車両下部構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る車両下部構造は、車両のフロア部の前部から車両前方に延びているフロントサイドメンバと、該フロントサイドメンバの車両後方で車幅方向外側に設けられ、車両前後方向に延びているサイドシルと、前記フロア部の下面側に固定されているバッテリパックと、を有し、前記フロントサイドメンバ及び前記サイドシルは、車幅方向に延びるサイドブレースによって連結されている。当該車両下部構造において、前記フロントサイドメンバの後部には、車両前後方向に延び、前記フロア部に接合される車体接合部が設けられ、該車体接合部の後部には、前記バッテリパックを固定するためのバッテリブラケットが接合されており、前記フロントサイドメンバの後部には、該後部から車幅方向内側に延びるロアメンバが接合され、前記ロアメンバは、前記フロア部に接合され、車幅方向に延びる上段部と、前記上段部に対して車両下方に突出し、車幅方向に延びる下段部と、を有し、前記上段部の車両前後方向の長さに対する前記下段部の車両前後方向の長さは、車幅方向内側に向かうに従い短くなるように構成され、前記下段部の後部には、車幅方向外側に向かうに従い車両後方に湾曲する湾曲形状部が設けられ、前記バッテリブラケットは、前記湾曲形状部の車幅方向外側部に接合されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バッテリパックの前部の剛性を確保し、さらに、フロントサイドメンバの車両後方への荷重伝達を効果的に促進することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る車両下部構造を車両下方から見た下面図である。
【
図2】
図1のフロントサイドメンバ、ロアメンバ及びサイドブレースが接合されている部分を拡大して示す拡大下面図である。
【
図3】
図2のサイドブレースを取り外した状態を示す下面図である。
【
図4】
図2の外側ロアメンバ及びその周辺を拡大して示す拡大下面図である。
【
図6】
図1のロアメンバ及び中間部材を車両上方側から見た斜視図である。
【
図8】
図7の内側ロアメンバ及び外側ロアメンバを取り外した状態を示す斜視図である。
【
図9】
図8のサイドブレースを取り外した状態を示す斜視図である。
【
図10】
図3のロアメンバ及び外側ロアメンバが一体的に形成されたロアメンバの変形例を示す下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る車両下部構造の一実施形態について、図面(
図1~
図10)を参照しながら説明する。なお、図において、矢印Fr方向は車両前後方向における前方を示す。実施形態の説明における「前部(前端)及び後部(後端)」は、車両前後方向における前部及び後部に対応する。また、矢印L、R方向は、車幅方向における左側、右側を示している。また、本実施形態の説明における「左右」は、車両室内の乗員が車両前方を向いたときの左右に対応している。また、矢印Uは車両上方を示し、矢印D方向は車両下方を示している。
【0013】
本実施形態の車両下部構造は、車輪を駆動するためのモータ(図示せず)に電力を供給するバッテリを有する電動車両の下部構造である。当該車両下部構造は、フロントサイドメンバ10と、サイドシル18と、ロアメンバ21と、サイドブレース16と、バッテリパック40と、バッテリブラケット50と、フロントクロスメンバ60と、を有している。
【0014】
フロントサイドメンバ10は、
図1及び
図2に示すように、車体骨格を構成する剛性の高い部材である。フロントサイドメンバ10は、フロア部を構成するフロアパネル71の前部における車幅方向の両側部から、車両前後方向に延びている。2つのフロントサイドメンバ10は、車幅方向に互いに間隔を空けており、車体側部に設けられたホイルハウスパネル73の車幅方向内側に配置されている。2つのフロントサイドメンバ10の間には、駆動用のモータ等が配置されている。
【0015】
各フロントサイドメンバ10は、後側傾斜部12と、前側直線部11とを有している。後側傾斜部12は、フロアパネル71の前部から車両前方に向かうに従い車幅方向外側に傾斜して延びている。後側傾斜部12の後部は、バッテリブラケット50に接合されている。後側傾斜部12の後部の周辺の構成については後で説明する。前側直線部11は、後側傾斜部12の前端から車両前方に延びている。
【0016】
また、フロントサイドメンバ10は、
図9に示すように、車両上方に開口を有するU字状の断面形状を有している。例えば、後側傾斜部12に位置するフロントサイドメンバ10の内側壁12aには、車幅方向内側に張り出し、車両前後方向に延びる内側フランジ12c(車体接合部)が設けられ、外側壁12bには、車幅方向外側に張り出し、車両前後方向に延びる外側フランジ12d(車体接合部)が設けられている。内側フランジ12cは、車両後方に向かうに従い車幅方向内側に傾斜し、外側フランジ12dは、車両後方に向かうに従い車幅方向外側に傾斜しており、内側フランジ12c及び外側フランジ12dは、車両後方に向かうに従い互いに離れるように傾斜している。
【0017】
内側フランジ12c及び外側フランジ12dのうちの前部は、
図2に示すように、車体のフロア部の一部を構成するダッシュロアパネル72等に接合されている。内側フランジ12c及び外側フランジ12dの後部には、
図3に示すように、バッテリブラケット50が接合されている。バッテリブラケット50については、後で説明する。
【0018】
サイドシル18は、
図1に示すように、フロアパネル71の車幅方向の両外側に接合されている剛性の高い部材で、フロントサイドメンバ10よりも車幅方向外側でホイルハウスパネル73の車両後方側に配置され、車両前後方向に延びている。また、サイドシル18の前部と、フロントサイドメンバ10の後側傾斜部12の後部とは、サイドブレース16によって連結されている。サイドシル18及び後側傾斜部12と、サイドブレース16との関係は後で説明する。
【0019】
図1~
図4に示すように、フロアパネル71の車幅方向中間部には、フロアトンネル71Aが設けられている。当該フロアトンネル71Aは、フロアパネル71のほぼ中央が車両上方に隆起するように形成され、車両前後方向に延びている。すなわち、フロアトンネル71Aを設けることによって、フロアパネル71の下面には、車両前後方向に延びる開口が形成される。
【0020】
バッテリパック40は、内部のバッテリを収容しており、フロアパネル71の下面側に固定されている重量物である。バッテリパック40の内部に収容されているバッテリは、例えば、駆動用のモータにケーブル(図示せず)等を介して電力を供給する。ケーブルは、例えば、フロアトンネル71A内に配索され、モータに接続される。なお、バッテリパック40は、バッテリと、該バッテリを収容するバッテリケースを含んでおり、本実施形態では、バッテリケースをバッテリパック40と称して説明する。
【0021】
バッテリパック40は、
図1に示すように、車両前後方向に延びており、さらに、両側のサイドシル18の間の全域に渡って車幅方向に延びている。バッテリパック40の前部は、
図1~
図3に示すように、ケース直線部41と、ケース傾斜部42とを有している。ケース直線部41は、バッテリパック40の前部における車幅方向の中央部に設けられ、車幅方向に延びている。ケース傾斜部42は、ケース直線部41の車幅方向の両外側に設けられ、ケース直線部41の車幅方向外側部から車幅方向外側に向かうに従い車両後方に傾斜して延びている。また、バッテリパック40の前部には、ケース直線部41とケース傾斜部42とにより、ケース角部43が形成されている。
【0022】
フロントクロスメンバ60は、
図1~
図3に示すように、バッテリパック40の車両前方側に配置され、車体骨格を構成する部材の一つであり、全体として車幅方向に延びる部材である。フロントクロスメンバ60は、メンバ直線部61と、メンバ傾斜部62とを有している。メンバ直線部61は、車幅方向両側のフロントサイドメンバ10の後側傾斜部12の間に配置され、車幅方向に延びている部分である。メンバ傾斜部62は、メンバ直線部61の車幅方向外側部から車幅方向外側に向かうに従い車両後方に傾斜して延びている部分である。また、フロントクロスメンバ60には、メンバ直線部61とメンバ傾斜部62とによりメンバ角部63が形成されている。すなわち、フロントクロスメンバ60は、全体で車両前方に凸となるように形成されている。
【0023】
フロントクロスメンバ60は、図示による説明は省略するが、例えば、天面部及び後壁を構成するL字状の断面を有する上側部材と、前壁及び底部を構成するL字状の断面を有する下側部材を有し、これらが接合されることにより構成されている。上側部材の後壁の下端には、車両後方に突出するフランジが設けられ、該フランジは、下側部材の底面部14に接合され、同様に、下側部材の前壁の上端には、車両前方に突出するフランジが設けられ、該フランジは、上側部材の天面部に接合され、これにより中空構造が構成されている。
【0024】
バッテリブラケット50は、
図2及び
図3に示すように、バッテリパック40を車体のフロア部の下部に取り付けるための部材である。バッテリブラケット50は、フロントクロスメンバ60を介してバッテリパック40に接合されている。
【0025】
バッテリブラケット50は、フロントクロスメンバ60のメンバ角部63に位置する前壁に接合されている。バッテリブラケット50の後部における車幅方向内側には、車幅方向内側に張り出し、車両上下方向に延びるフランジ(図示せず)が設けられ、車幅方向の外側には、車幅方向外側に張り出し、車両上下方向に延びるフランジ(図示せず)が設けられている。これらのフランジは、フロントクロスメンバ60のメンバ角部63に位置する前壁にスポット溶接等により接合されている。
【0026】
バッテリブラケット50は、車両下方視で、
図1~
図3に示すように、フロントサイドメンバ10の後側傾斜部12に設けられた内側フランジ12c及び外側フランジ12dの後部に接合されている。この例では、バッテリブラケット50は、メンバ角部63から車両前方に延びる平坦な平面部51を有している。該平面部51は、後側傾斜部12の後部に、後述する外側ロアメンバ27及びサイドブレース16を介して接合されている。ここで、後側傾斜部12の後部と、外側ロアメンバ27と、サイドブレース16と、バッテリブラケット50の平面部51には、連通するボルト孔52が設けられ、ボルト孔52にボルトを貫通配置して、これらの部材を締結している。
【0027】
続いて、ロアメンバ21は、
図3に示すように、フロントサイドメンバ10の後側傾斜部12の後部から車幅方向内側に向かって延びている。本実施形態では、ロアメンバ21は、車幅方向に並んで配置される内側ロアメンバ22及び外側ロアメンバ27により構成されている。内側ロアメンバ22及び外側ロアメンバ27は、車幅方向に延びる部材であり、内側ロアメンバ22の外端に外側ロアメンバ27が接合されている。
【0028】
内側ロアメンバ22は、
図3に示すように、車両前後方向に所定の幅を有し、車幅方向に延びている中空の部材であり、車幅方向視で、車両上方側に開口を有する断面形状を有している。この例では、内側ロアメンバ22の車幅方向外側部は、フロントサイドメンバ10の後側傾斜部12の後部における車幅方向内側部に配置されている。
【0029】
内側ロアメンバ22の車幅方向内側部は、
図1及び
図4に示すように、フロアトンネル71Aの開口縁に位置するフロアパネル71に接合されている。また、内側ロアメンバ22の車幅方向内側部は、フロアトンネル71Aの跨ぐように車幅方向に延びる中間部材28に接合されている。
【0030】
外側ロアメンバ27は、
図3に示すように、車幅方向に延びる板状であり、外側ロアメンバ27の車幅方向内側部は、内側ロアメンバ22の車幅方向外側部に接合されている。また、外側ロアメンバ27は、フロントサイドメンバ10の後側傾斜部12における底面部14の一部を、車両下方側から覆った状態で、底面部14に接合されている。
【0031】
図1では、中間部材28、左右の内側ロアメンバ22及び左右の外側ロアメンバ27により、車幅方向に延びる1つのロアクロスメンバを構成している。
【0032】
サイドブレース16は、
図2に示すように、外側ロアメンバ27と、サイドシル18の前部とを繋ぐように、車幅方向外側に向かうに従い車両後方に傾斜して延びている。サイドブレース16は、詳細な図示は省略しているが、車両上方に開口するU字形の断面形状を有している。U字形の断面形状を構成する前壁16a及び後壁16bのそれぞれの上部には、フランジ16c,16dが設けられており、該フランジ16c,16dは、フロアパネル71にスポット溶接等により接合されている。なお、前壁16aのフランジ16cは、ホイルハウスパネル73の後部付近に位置するフロアパネル71に接合されている。
【0033】
また、サイドブレース16のU字形の断面形状を構成する下面部における車幅方向内側部は、外側ロアメンバ27を介して、フロントサイドメンバ10の後側傾斜部12の後部における底面部14を覆うように配置されている。フロントサイドメンバ10を覆っている下面部は、フロントサイドメンバ10の後側傾斜部12の底面部14における車幅方向外側部に、スポット溶接等により接合されている。また、当該下面部は、外側ロアメンバ27にも接合されている。
【0034】
ここで、内側ロアメンバ22の形状について詳細に説明する。
図5及び
図7に示すように、内側ロアメンバ22は、フロア部に接合され、車幅方向に延びる上段部23,24と、上段部23,24に対して車両下方に突出し、車幅方向に延びる下段部25とを有している。この例の上段部23,24は、前側上段部23と後側上段部24とを有し、下段部25は、車両前後方向で、前側上段部23と後側上段部24との間に配置されている。すなわち、
図5及び
図7に示すように、内側ロアメンバ22は、車幅方向視で、凸形状の横断面を有している。
【0035】
図3、
図5及び
図7に示すように、前側上段部23は、前上側壁面23Aと、前側上段面23Bとにより構成されている。前上側壁面23Aは、内側ロアメンバ22の前端から車両下方に突出し、車両前方を臨む壁面で、車幅方向に延びている。前上側壁面23Aの車幅方向外側部は、車両前方にやや傾斜し、外側ロアメンバ27の前部の後述する膨出する部分に繋がっている。前側上段面23Bは、前上側壁面23Aの下端から車両後方に延び、車両下方を臨む面で、車幅方向に延びている。前上側壁面23Aの上端には、車両前方に張り出し車幅方向に延びるフランジ23Dが設けられている。フランジ23Dは、フロアパネル71に接合されている。
【0036】
図5及び
図7に示すように、後側上段部24は、後上側壁面24Aと、後側上段面24Bとにより構成されている。後上側壁面24Aは、内側ロアメンバ22の後端から車両下方に突出し、車両後方を臨む壁面で、車幅方向に延びている。この例では、
図7に示すように、後上側壁面24Aは、内側ロアメンバ22の車幅方向外側端から車幅方向外側に向かって直線状の延びる直線部24Aaと、直線部24Aaの外端から車幅方向外側に向かうに従い車両後方の膨出している後側膨出部(膨出部)24Abとを有している。また、後側上段面24Bは、後上側壁面24Aの後側膨出部24Abの下端から車両前方に延び、車両下方を臨む面で、車幅方向に延びている。直線部24Aa及び後側膨出部24Abの上端には、車両後方に張り出し車幅方向に延びるフランジ24Dが設けられている。フランジ24Dは、フロアパネル71に接合されている。
【0037】
下段部25は、
図5及び
図7に示すように、前下側壁面25Aと、後下側壁面25Bと、下段面25Cと、を有している。前下側壁面25Aは、前側上段面23Bの後端から車両下方に突出し、車両前方を臨む壁面で、車幅方向に延びている。この例では、
図2に示すように、前下側壁面25Aは、内側ロアメンバ22の車幅方向外側端から車幅方向内側に向かうに従い車両後方に湾曲するように傾斜し、所定の位置から車幅方向内側に直線的に延びている。
【0038】
後下側壁面25Bは、
図2及び
図7に示すように、後側上段面24Bの前端から車両下方に突出し、車両後方を臨む壁面で、車幅方向に延びている。この例では、後下側壁面25Bは、後上側壁面24Aの直線部24Aaの車幅方向内側端から車幅方向内側に向かうに従い車両前方に凹むように湾曲する湾曲形状部25Baを構成している。
【0039】
下段面25Cは、
図5及び
図7に示すように、前下側壁面25Aの下端と、後下側壁面25Bの下端及び後上側壁面24Aの下端とを、車両前後方向に繋ぐように車両下方を臨む面で、車幅方向に延びている。
図2及び
図7に示すように、前下側壁面25A及び後下側壁面25Bを湾曲させることで、下段面25Cの車両前後方向の長さは、車幅方向内側に向かうに従い、徐々に、短くなるように構成されている。
【0040】
本実施形態では、上段部の車両前後方向の長さに対する下段部25の車両前後方向の長さは、車幅方向内側に向かうに従い短くなるように構成されている。ここで、上段部の車両前後方向の長さは、
図2のL1で示される前上側壁面23Aと後上側壁面24Aとの距離であり、下段部25の車両前後方向の長さは、
図2のL2で示される下段面25Cの車両前後方向長さである。
【0041】
上記のように構成することにより、フロントサイドメンバ10が車体に接合される内側フランジ12c及び外側フランジ12dは、衝撃荷重を車両後方側に位置するバッテリブラケット50へ伝達することが可能となる。また、内側ロアメンバ22が、前側上段部23、後側上段部24及び下段部25を有し、これらの車両前後方向の長さ(L1,L2)を上記のように設定することにより、フロントサイドメンバ10を、前側上段部23、後側上段部24及び下段部25により、支持することが可能となる。その結果、フロントサイドメンバ10の後端部が、車幅方向に変形することが抑制され、衝撃荷重を車両後方に伝達しやすくなる。
【0042】
車体接合部となる内側フランジ12c及び外側フランジ12dを、
図4に示すように、内側フランジ12cと外側フランジ12dとの車幅方向の距離が車両後方に向かうに従い大きくなるように配置することによって、バッテリブラケット50への効果的な荷重伝達が可能となる。さらに、このような配置により、内側ロアメンバ22への接合箇所(スポット溶接の溶接ポイント)を増加することができ、フロントサイドメンバ10と内側ロアメンバ22との接合部分における剛性を、さらに向上させることが可能となる。
【0043】
また、本実施形態では、下段部25の後部に位置する後下側壁面25Bは、上記したように湾曲形状部25Baを有しており、バッテリブラケット50は、後下側壁面25Bの車幅方向外側に接合されている。すなわち、バッテリブラケット50の平面部51は、後下側壁面25Bの車幅方向外側に配置されている。
【0044】
仮に内側ロアメンバ22が車幅方向に直線的に延びるような形状では、当該直線(車幅方向)の形状に沿って、荷重が伝達されやすくなり、その結果、車両後方のバッテリブラケット50に伝達される荷重が小さくなる。これに対して、本実施形態では、下段部25が車両後方に向かって湾曲しているため、内側ロアメンバ22は、車両後方に荷重を伝達しやすくなる。また、内側ロアメンバ22とバッテリブラケット50が接合しているため、フロントサイドメンバ10から入力された衝撃荷重をバッテリブラケット50へ容易に伝達することができる。なお、湾曲の曲率が小さい場合でも、車両後方に伝達することができる荷重を増やすことは、可能である。
【0045】
また、本実施形態では、
図4及び
図7に示すように、下段部25の車両後方側に位置する後側上段部24の後上側壁面24Aには、下段部25に対して車両後方に膨出する後側膨出部24Abが設けられており、フロントサイドメンバ10の後端部は、内側ロアメンバ22の後部に位置する縦壁に接合されている。詳細には、内側ロアメンバ22の後上側壁面24Aの直線部24Aaが、
図8及び
図9に示すフロントサイドメンバ10の後側傾斜部12の後端部に設けられた後端フランジ12eにスポット溶接等により接合されている(
図7)。
【0046】
後側膨出部24Abを設けることで、下段部25と後側上段部24との形状が異なり、これにより、車両前方からの衝撃荷重の入力に抗する面が減少し、変形が抑制される。内側ロアメンバ22の変形が抑制されると、衝撃荷重の車両後方への伝達が促進される。さらに、下段部25と後側上段部24の形状が異なるため、フロントサイドメンバ10の後端部が接合される内側ロアメンバ22の後上側壁面24Aの面積が減少し、荷重を分散することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態では、上記したように、左右のロアメンバ21及び中間部材28により、1つのクロスメンバを構成している。また、中間部材28は、
図4及び
図6に示すように、内側ロアメンバ22の前側上段部23及び後側上段部24のそれぞれに繋がるように形成された前側の中央上段部28A及び後側の中央上段部28Bと、下段部25に繋がるように形成された中央下段部28Cとを有している。すなわち、前側の中央上段部28Aは、中央下段部28Cの車両前方側に設けられ、後側の中央上段部28Bは、中央下段部28Cの車両後方側に設けられている。
【0048】
前後の中央上段部28A,28Bの車幅方向外側部は、それぞれ前側上段部23及び後側上段部24の車幅方向内側部に、スポット溶接等により接合されている。また、中央下段部28Cの車幅方向外側部は、下段部25の車幅方向内側部にスポット溶接等により接合されている。
【0049】
中間部材28がフロアトンネル71Aを跨ぎ、左右のロアメンバ21に接合されることにより、フロントサイドメンバ10が車体に接合される内側フランジ12c及び外側フランジ12dが、衝撃荷重を受けることで車両幅方向の内側方向及び外側方向に移動することが抑制される。その結果、フロントサイドメンバ10に入力される衝撃荷重がバッテリブラケット50へ伝達されることが促進される。
【0050】
また、中間部材28は、
図6に示すように、中央下段部28C、前側の中央上段部28A及び後側の中央上段部28Bにより、車幅方向視で、凸形状の横断面を有している。また、中間部材28には、補強部材29が取り付けられている。補強部材29は、車幅方向に延びる板状の本体部29Aと、該本体部29Aの車幅方向の両外側端から車両下方に延びる縦壁部29Bとを有している。
【0051】
この例では、
図6に示すように、補強部材29の本体部29Aは、中央下段部28Cを構成する前壁及び後壁の下端に形成される開口を塞ぎ、開口縁にスポット溶接等により接合されている。また、縦壁部29Bの前端及び後端には、車幅方向外側に張り出すフランジを有し、該フランジは、中央下段部28Cの前壁及び後壁の車幅方向側部にスポット溶接等により接合されている。
【0052】
中間部材28の凸形状が、車両前後方向に開くように変形すると、フロントサイドメンバ10が車体に接合される内側フランジ12c及び外側フランジ12dが車両内側に移動し、車両前後方向への荷重伝達が阻害されてしまう。これに対して、本実施形態では、閉断面構造が構成されることにより、中間部材28の凸形状が車両前後方向に変形することを抑制できる。また、閉断面構造が維持されることにより、車幅方向の支持剛性を保つことが可能となる。
【0053】
本実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0054】
本実施形態では、ロアメンバ21は、内側ロアメンバ22及び外側ロアメンバ27で構成されているが、これに限らない。例えば、
図10に示すように、内側ロアメンバ22と外側ロアメンバ27とを1つの部材として構成してもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 フロントサイドメンバ
11 前側直線部
12 後側傾斜部
12a 内側壁
12b 外側壁
12c 内側フランジ(車体接合部)
12d 外側フランジ(車体接合部)
12e 後端フランジ(フロントサイドメンバの後端部)
14 底面部
16 サイドブレース
16a 前壁
16b 後壁
16c フランジ
18 サイドシル
21 ロアメンバ
22 内側ロアメンバ
23 前側上段部
23A 前上側壁面
23B 前側上段面
23D フランジ
24 後側上段部
24A 後上側壁面
24Aa 直線部(縦壁)
24Ab 後側膨出部(膨出部)
24B 後側上段面
24D フランジ
25 下段部
25A 前下側壁面
25B 後下側壁面
25Ba 湾曲形状部
25C 下段面
27 外側ロアメンバ
28 中間部材
28A 前側の中央上段部
28B 後側の中央上段部
28C 中央下段部
29 補強部材
29A 本体部
29B 縦壁部
40 バッテリパック
41 ケース直線部
42 ケース傾斜部
43 ケース角部
50 バッテリブラケット
51 平面部
52 ボルト孔
60 フロントクロスメンバ
61 メンバ直線部
62 メンバ傾斜部
63 メンバ角部
71 フロアパネル
71A フロアトンネル
72 ダッシュロアパネル
73 ホイルハウスパネル