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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】接着剤樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 167/06 20060101AFI20240523BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240523BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20240523BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C09J167/06
C09J11/06
C09J7/35
B32B27/36 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023082330
(22)【出願日】2023-05-18
(62)【分割の表示】P 2023075523の分割
【原出願日】2022-09-08
(65)【公開番号】P2023109893
(43)【公開日】2023-08-08
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2021154071
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】三枝 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晃一
(72)【発明者】
【氏名】三上 忠彦
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/035822(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/172349(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/095901(WO,A1)
【文献】特開2006-206860(JP,A)
【文献】特開2013-075965(JP,A)
【文献】特開2009-084348(JP,A)
【文献】特開2004-250484(JP,A)
【文献】特開2011-074188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)を含み、次の(i)~(v)の要件を満たすことを特徴とする接着剤樹脂組成物。
(i)ポリエステル樹脂(A)の酸価が100eq/ton以上である。
(ii)ポリエステル樹脂(A)を構成するポリオール成分として、1級水酸基を2個有しかつ脂環構造を有さないジオール(a)を含み、さらに、脂環構造を有するジオール(b)および1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)のいずれかまたは両方を含む。
(iii)ポリエステル樹脂(A)を構成するポリカルボン酸成分として、不飽和ジカルボン酸(d)を含む。
(iv)接着剤樹脂組成物が、触媒(B)として、ドデシルベンゼンスルホン酸及び/又はその中和物を含む。
(v)ポリエステル樹脂(A)が分岐構造を有する。
【請求項2】
接着剤樹脂組成物中の硬化剤の含有量が、固形分換算で、ポリエステル樹脂(A)の固形分100質量部に対して1質量部未満である、請求項1に記載の接着剤樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(A)を構成するポリカルボン酸成分として、ベンゼン骨格を有するポリカルボン酸を含み、さらに脂肪族ポリカルボン酸、脂環族ポリカルボン酸、およびナフタレン骨格を有するポリカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(A)を構成するポリカルボン酸成分として、不飽和ジカルボン酸(d)を5~20モル%含む、請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物。
【請求項5】
ポリエステル樹脂(A)が120℃で15分間加熱処理した際のテトラヒドロフラン不溶分が10質量%未満である、請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物からなる接着剤層を有する積層体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の接着剤樹脂組成物からなる接着剤層を有する接着シート。
【請求項8】
請求項6に記載の積層体を構成要素として含むプリント配線板。
【請求項9】
請求項6に記載の積層体を構成要素として含む包装材。
【請求項10】
請求項7に記載の接着シートを構成要素として含む3次元成形品加飾用積層フィルム。
【請求項11】
請求項7に記載の接着シートを構成要素として含む金属缶ラミネート用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤樹脂組成物、接着剤樹脂組成物からなる接着剤層を有する積層体または接着シート、積層体を構成要素として含むプリント配線板または包装材、および接着シートを構成要素として含む3次元成形品加飾用積層フィルムまたは金属缶ラミネート用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で接着剤は使用されているが、使用目的の多様化により、従来使用されてきた接着剤と比べて各種プラスチックフィルムや、金属、ガラスエポキシ等の基材に対する優れた接着性、耐熱性など、更なる高性能化が求められている。たとえば、フレキシブルプリント配線板(以下FPCと略すことがある)をはじめとする回路基板用の接着剤には、接着性、加工性、電気特性、保存性が求められる。従来、この用途には、エポキシ/アクリルブタジエン系接着剤、エポキシ/ポリビニルブチラール系接着剤などが使用されている。
【0003】
特に、近年では鉛フリーハンダへの対応やFPCの使用環境から、より高度なハンダ耐熱性を有する接着剤が求められている。また、配線の高密度化、FPC配線板の多層化、作業性から、ハンダ耐熱性が強く求められている。これらの課題に対し、ポリエステル・ポリウレタンとエポキシ樹脂を主成分とする接着剤用樹脂組成物が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-205370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている組成物では、鉛フリーでのハンダ耐熱性に関して、十分に満足できるものではなかった。
【0006】
本発明の目的は、硬化剤を実質的に含有せずともポリエステル樹脂単独で硬化することができ、ハンダ耐熱性、各種基材への接着性に優れた接着剤樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定量の酸価および特定の構造を有するポリエステル樹脂を含有する接着剤樹脂組成物が、硬化剤を実質的に使用せずに、ポリエステル樹脂単独で硬化できることを見出した。さらに、本発明者は、樹脂組成を特定し、触媒量を制御することで硬化性と各種基材との接着性のバランスに優れ、鉛フリーハンダにも対応できる高度のハンダ耐熱性を有する接着剤樹脂組成物が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成から成る。
[1]ポリエステル樹脂(A)を含み、次の(i)~(iii)の要件を満たすことを特徴とする接着剤樹脂組成物。
(i)ポリエステル樹脂(A)の酸価が100eq/ton以上である。
(ii)ポリエステル樹脂(A)を構成するポリオール成分として、1級水酸基を2個有しかつ脂環構造を有さないジオール(a)を含み、さらに、脂環構造を有するジオール(b)および1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)のいずれかまたは両方を含む。
(iii)ポリエステル樹脂(A)を構成するポリカルボン酸成分として、不飽和ジカルボン酸(d)を含む。
[2]ポリエステル樹脂(A)が分岐構造を有する、[1]に記載の接着剤樹脂組成物。
[3]接着剤樹脂組成物が硬化剤を実質的に含有しない、[1]または[2]に記載の接着剤樹脂組成物。
[4]ポリエステル樹脂(A)を構成するポリカルボン酸成分として、ベンゼン骨格を有するポリカルボン酸を含み、さらに脂肪族ポリカルボン酸、脂環族ポリカルボン酸、およびナフタレン骨格を有するポリカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、[1]または[2]に記載の接着剤樹脂組成物。
[5]ポリエステル樹脂(A)を構成するポリカルボン酸成分として、不飽和ジカルボン酸(d)を5~20モル%含む、[1]または[2]に記載の接着剤樹脂組成物。
[6]接着剤樹脂組成物がさらに触媒(B)を1種以上含む、[1]または[2]に記載の接着剤樹脂組成物。
[7]ポリエステル樹脂(A)が120℃で15分間加熱処理した際のテトラヒドロフラン不溶分が10質量%未満である、[1]または[2]に記載の接着剤樹脂組成物。
[8][1]または[2]に記載の接着剤樹脂組成物からなる接着剤層を有する積層体。
[9][1]または[2]に記載の接着剤樹脂組成物からなる接着剤層を有する接着シート。
[10][8]に記載の積層体を構成要素として含むプリント配線板。
[11][8]に記載の積層体を構成要素として含む包装材。
[12][9]に記載の接着シートを構成要素として含む3次元成形品加飾用積層フィルム。
[13][9]に記載の接着シートを構成要素として含む金属缶ラミネート用フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬化剤を実質的に含有せずとも硬化が可能で、かつ高いハンダ耐熱性、各種基材への接着性の特性にも優れた接着剤樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の接着剤樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)を含み、次の(i)~(iii)の要件を満たすことを特徴とする接着剤樹脂組成物である。
(i)ポリエステル樹脂(A)の酸価が100eq/ton以上である。
(ii)ポリエステル樹脂(A)を構成するポリオール成分として、1級水酸基を2個有しかつ脂環構造を有さないジオール(a)を含み、さらに、脂環構造を有するジオール(b)および1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)のいずれかまたは両方を含む。
(iii)ポリエステル樹脂(A)を構成するポリカルボン酸成分として、不飽和ジカルボン酸(d)を含む。
【0011】
<要件(i)>
要件(i)は、ポリエステル樹脂(A)の酸価が100eq/ton以上であることを規定する。好ましくは200eq/ton以上であり、より好ましくは250eq/ton以上であり、さらに好ましくは300eq/ton以上である。上記下限値以上であることで架橋点となるカルボキシ基を十分に確保でき、硬化性がより良好となる。さらに、酸価が上記下限値以上であると、200℃に加熱した際に熱分解反応よりも硬化反応がより優位に進行しやすくなり、接着性やハンダ耐熱性が向上する。また、酸価が前記下限値以上を有することで、水性分散化が容易となる。酸価の上限値は特にないが、酸付加反応時の酸成分の未反応物やオリゴマー量を少なくするためには、1200eq/ton以下が好ましい。
【0012】
ポリエステル樹脂(A)の酸価は、任意の方法で付与できる。酸価を付与する方法としては重縮合後期にポリカルボン酸無水物を付加反応させる方法、プレポリマー(オリゴマー)の段階でこれを高酸価とし、次いでこれを重縮合し、酸価を有するポリエステル樹脂を得る方法などがあるが、操作の容易さ、目標とする酸価を得易いことから前者の付加反応させる方法が好ましい。
【0013】
ポリエステル樹脂(A)に酸価を付与するための分子内にポリカルボン酸無水物基を有する化合物のうち、カルボン酸モノ無水物としては、たとえば、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフルフリル)-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸の一無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられ、これらの中から1種またはそれ以上を選び使用できる。その中でも、汎用性、経済性の面から無水トリメリット酸が好ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂(A)に酸価を付与するための分子内にポリカルボン酸無水物基を有する化合物のうち、カルボン酸ポリ無水物としては、たとえば、無水ピロメリト酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、2,2’,3,3’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物などがあり、これらの中から1種または2種以上を選び使用できる。その中でも、エチレングリコールビストリメリテート二無水物が好ましい。
【0015】
前記の酸価を付与するための分子内にポリカルボン酸無水物基を有する化合物は、カルボン酸モノ無水物とカルボン酸ポリ無水物をそれぞれ単独で使用することもできるし、併用して使用することもできる。
【0016】
<要件(ii)>
要件(ii)は、本発明のポリエステル樹脂(A)が、構成するポリオール成分として、1級水酸基を2個有しかつ脂環構造を有さないジオール(a)を含み、さらに、脂環構造を有するジオール(b)および1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)のいずれかまたは両方を含むことを規定する。(以下、各成分をそれぞれ(a)成分、(b)成分、(c)成分とも言うことがある。)(a)成分はエステル結合を形成しやすく、他方(b)成分および(c)成分はエステル結合が(a)成分に比べ開裂しやすいことから、(a)成分と、(b)成分や(c)成分とを有していることで、加熱処理時にエステル結合の再配列および再結合が促進され、硬化性が良好となり、接着性やハンダ耐熱性が向上する。
【0017】
ポリエステル樹脂(A)における1級水酸基を2個有しかつ脂環構造を有さないジオール(a)としては、例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等の脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルグリコール類などを挙げることができ、これらの中から1種またはそれ以上を選び使用できる。その中でも、エチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオールを使用することが好ましい。
【0018】
ポリエステル樹脂(A)における、1級水酸基を2個有しかつ脂環構造を有さないジオール(a)の共重合比率は、全ポリオール成分中20~80モル%が好ましく、より好ましくは20~60モル%であり、さらに好ましくは20~40モル%である。上記範囲内であると、硬化性、ハンダ耐熱性が良好となる。
【0019】
ポリエステル樹脂(A)は、ポリオール成分として脂環構造を有するジオール(b)を有することが好ましい。脂環構造を有するジオール(b)を有することで、接着性とハンダ耐熱性の両立が容易となる。ポリエステル樹脂(A)を構成する脂環構造を有するジオール(b)としては、例えば1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水素添加ビスフェノール類などを挙げることができ、これらの中から1種またはそれ以上を選び使用できる。その中でも、硬化性、接着性、ハンダ耐熱性の点から、1,4-シクロヘキサンジメタノールを使用することが好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)を構成する脂環構造を有するジオール(b)の共重合比率は、全ポリオール成分中5~50モル%が好ましく、より好ましくは10~40モル%であり、さらに好ましくは20~30モル%である。上記範囲内であると、接着性が良好となる。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)は、ポリオール成分として1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)を有することが好ましい。ポリエステル樹脂(A)における1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)としては例えば、1,2-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオールなどを挙げることができ、これらの中から1種またはそれ以上を選び使用できる。その中でも、1,2-プロピレングリコールを使用することが好ましい。
【0022】
ポリエステル樹脂(A)における1個の1級水酸基と1個の2級水酸基を有しかつ脂環構造を有さないジオール(c)の共重合比率は、全ポリオール成分中5~75モル%が好ましく、より好ましくは10~65モル%であり、さらに好ましくは15~50モル%である。上記範囲内であると、硬化性やハンダ耐熱性が良好となる。
【0023】
<要件(iii)>
要件(iii)は、本発明に用いられるポリエステル樹脂(A)が、構成するポリカルボン酸成分として、不飽和ジカルボン酸(d)を含むことを規定する。不飽和ジカルボン酸(d)を有することで、加熱処理時に不飽和結合の開裂による分子間炭素-炭素結合を生成させる反応により、硬化性、ハンダ耐熱性を向上させることができる。前記不飽和ジカルボン酸(d)としては、例えばフマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、2,5-ノルボルナンジカルボン酸及びテトラヒドロフタル酸ならびにこれらの酸無水物が挙げられ、これらを一種または二種以上使用することができる。
【0024】
不飽和ジカルボン酸(d)の共重合比率は全ポリカルボン酸成分中5~20モル%が好ましい。より好ましくは10~15モル%である。前記範囲内であることで、接着性とハンダ耐熱性を両立させることができる。
【0025】
ポリエステル樹脂(A)を構成するポリカルボン酸成分としては特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等のベンゼン骨格を有するポリカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレン骨格を有するポリカルボン酸等が挙げられる。これらを単独でまたは2種以上併用することができる。なかでも、接着性とハンダ耐熱性の両立の面でベンゼン骨格を有するポリカルボン酸とナフタレン骨格を有するポリカルボン酸を併用することが好ましい。ベンゼン骨格を有するポリカルボン酸とナフタレン骨格を有するポリカルボン酸を併用する場合、使用比率(モル比)はベンゼン骨格を有するポリカルボン酸/ナフタレン骨格を有するポリカルボン酸=95/5~70/30が好ましく、より好ましくは90/10~75/25である。上記範囲内であることで、接着性やハンダ耐熱性がより良好となり好ましい。また、ベンゼン骨格を有するポリカルボン酸としてはテレフタル酸が好ましく、ナフタレン骨格を有するポリカルボン酸としては2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0026】
ポリエステル樹脂(A)を構成する他のポリカルボン酸成分としては、脂肪族ポリカルボン酸成分、脂環族ポリカルボン酸成分を挙げることができる。脂肪族ポリカルボン酸成分としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などが挙げられる。脂環族ポリカルボン酸成分としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸などが挙げられる。これらの中から1種または2種以上を選び使用することができる。脂肪族ポリカルボン酸成分または脂環族ポリカルボン酸成分を含有すると、接着性を向上させることができる。その中でも、アジピン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が反応性や経済性の面で好ましい。
【0027】
ポリエステル樹脂(A)において脂肪族ジカルボン酸成分、脂環族ジカルボン酸成分を構成単位に有する場合、それらの共重合比率は全ポリカルボン酸成分中5~40モル%が好ましい。より好ましくは15~35モル%である。上記範囲を外れるとポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が大きく低下し、ハンダ耐熱性が低下することがある。
【0028】
ポリエステル樹脂(A)は、分岐構造を有していることが好ましい。分岐構造を有するとは、ポリエステルの主鎖中に分岐構造を有することを言い、ポリエステル樹脂(A)において分岐構造を導入するには、ポリエステルの重縮合反応において、ポリカルボン酸成分および/またはポリオール成分の一部として3官能以上の成分を共重合する方法が例として挙げられる。3官能以上のポリカルボン酸成分としては、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などが挙げられ、3官能以上のポリオールとしてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、α-メチルグルコシドなどが挙げられる。ポリエステル樹脂(A)が分岐構造を有することにより、加熱処理時にエステル結合の再配列および再結合が起きた時の架橋密度が上がるため、THF不溶分が上昇し、硬化性、ハンダ耐熱性、接着性を向上させることができる。
【0029】
3官能以上のポリカルボン酸成分の共重合比率は、全ポリカルボン酸成分を100モル%としたとき、好ましくは0.1モル%以上であり、より好ましくは0.5モル%以上であり、さらに好ましくは1モル%以上である。また、好ましくは7モル%以下であり、より好ましくは6モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下であり、特に好ましくは4モル%以下である。3官能以上のポリオール成分の共重合比率は、全ポリオール成分を100モル%としたとき、好ましくは0.1モル%以上であり、より好ましくは0.5モル%以上であり、さらに好ましくは1モル%以上である。また、好ましくは5モル%以下であり、より好ましくは3モル%以下であり、さらに好ましくは2モル%以下であり、特に好ましくは1モル%以下である。ポリカルボン酸成分およびポリオール成分がそれぞれ上記を超えるとポリエステル樹脂の可とう性が失われ、接着性が低下したり、またはポリエステルの重合時にゲル化することがある。
【0030】
ポリエステル樹脂(A)を構成するポリカルボン酸成分およびポリオール成分には、バイオマス資源から誘導された原料を用いることができる。バイオマス資源とは、植物の光合成作用で太陽の光エネルギーがデンプンやセルロースなどの形に変換されて蓄えられたもの、植物体を食べて成育する動物の体や、植物体や動物体を加工してできる製品等が含まれる。この中でも、より好ましいバイオマス資源としては、植物資源であるが、例えば、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、油脂、古紙、製紙残渣、水産物残渣、家畜排泄物、下水汚泥、食品廃棄物等が挙げられる。さらに好ましくは、とうもろこし、さとうきび、キャッサバ、サゴヤシである。
【0031】
次にポリエステル樹脂(A)の製造方法について説明する。エステル化/交換反応では、全モノマー成分および/またはその低重合体を加熱熔融して反応させる。エステル化/交換反応温度は、180~250℃が好ましく、200~250℃がより好ましい。反応時間は1.5~10時間が好ましく、3時間~6時間がより好ましい。なお、反応時間は所望の反応温度になってから、つづく重縮合反応までの時間とする。重縮合反応では、減圧下、220~280℃の温度で、エステル化反応で得られたエステル化物から、ポリオール成分を留去させ、所望の分子量に達するまで重縮合反応を進める。重縮合の反応温度は、220~280℃が好ましく、240~275℃がより好ましい。減圧度は、130Pa以下であることが好ましい。減圧度が不十分だと、重縮合時間が長くなる傾向があるので好ましくない。大気圧から130Pa以下に達するまでの減圧時間としては、30~180分かけて徐々に減圧することが好ましい。
【0032】
エステル化/交換反応および重縮合反応の際には、必要に応じて、テトラブチルチタネートなどの有機チタン酸化合物、二酸化ゲルマニウム、酸化アンチモン、オクチル酸スズなどの有機錫化合物を用いて重合をおこなう。反応活性の面では、有機チタン酸化合物が好ましく、樹脂着色の面からは二酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0033】
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、ハンダ耐熱性や接着性の点から5~50℃が好ましく、10~40℃がより好ましい。ガラス転移温度が前記範囲内であると、ハンダ耐熱性および基材への接着性がより良好となる。
【0034】
ポリエステル樹脂(A)の還元粘度は、0.2~0.6dl/gが好ましく、0.3~0.5dl/gがより好ましい。還元粘度が前記下限値以上であると、樹脂の凝集力により、基材に対する接着性がより良好となる。一方、還元粘度が前記上限値以下であると溶融粘度や溶液粘度が適切となり作業性が良好となる。また、水酸基末端数を多くでき、酸価を十分に付与しやすくなる。
【0035】
本発明の接着剤樹脂組成物は実質的に硬化剤を含有しないことが好ましい。この「実質的に硬化剤を含有しない」とは、「ポリエステル樹脂(A)100質量部(固形分換算)に対し、硬化剤含有量が1質量部未満(固形分換算)であること」を意味する。本発明の接着剤樹脂組成物は、加熱により自己架橋するため、硬化剤を実質的に含有していなくても硬化することができる。
ここで硬化剤とは、本発明のポリエステル樹脂(A)と反応し架橋構造を形成する既知の硬化剤を指し、架橋構造の形態は、例えば、ポリエステル樹脂中の不飽和二重結合をラジカル付加反応、カチオン付加反応、またはアニオン付加反応等によって反応させ、分子間炭素-炭素結合を生成させる反応や、ポリエステル樹脂中の多価カルボン酸基、多価アルコール基との縮合反応、重付加反応、またはエステル交換反応等による分子間結合の形成等が挙げられる。硬化剤としては、例えば、フェノール樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、またはβ-ヒドロキシルアミド化合物、不飽和結合含有樹脂などを挙げることができる。
【0036】
本発明の接着剤樹脂組成物において、硬化剤の含有量は、ポリエステル樹脂(A)(固形分)100質量部に対して、1質量部未満であることが好ましい。0.5質量部未満がより好ましく、0.1質量部未満が更に好ましく、硬化剤を全く含まないことが最も好ましい。上記範囲よりも硬化剤の含有量が多い場合には、ポットライフ性が劣る。また、経済性にも劣るだけでなく、硬化剤同士の自己縮合反応による接着性が低下するおそれがある。
【0037】
本発明の接着剤樹脂組成物は、前記の通り、硬化剤を実質的に含有しなくとも、加熱処理により自己架橋するため、硬化させることが可能である。
【0038】
本発明の接着剤樹脂組成物は、200℃で1時間加熱処理した際のテトラヒドロフラン不溶分が10質量%以上であることが好ましい。上述のように、本発明の接着剤樹脂組成物は、加熱により自己架橋する。加熱処理時のテトラヒドロフラン不溶分の量は、この加熱による自己架橋性の度合いの指標である。テトラヒドロフラン(THF)不溶分が10質量%以上であることで、硬化性が十分であり、ハンダ耐熱性と接着性のバランスに優れた接着剤樹脂組成物およびその接着剤層が得られる。ここで、接着剤層とは、本発明の接着剤樹脂組成物を基材に塗布し、乾燥させた後の接着剤樹脂組成物の層をいう。THF不溶分は好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%である。10質量%未満では硬化性が不十分となり、接着性やハンダ耐熱性が低下する恐れがある。なお、加熱処理時のテトラヒドロフラン不溶分の量(加熱による自己架橋性の度合い)は、従来公知の方法によって制御可能であるが、例えばポリエステル樹脂(A)の各構成成分の種類や配合割合を調節したり、触媒を配合したりすることによって制御することができる。
【0039】
ここで、「200℃で1時間加熱処理した際のテトラヒドロフラン不溶分が10質量%以上である」とは、銅箔上に接着剤樹脂組成物を乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布し、200℃で1時間熱を加え、縦10cm、横2.5cmの大きさにしたサンプルのTHF浸漬前質量を(X)とし、60mlのTHFに25℃、1時間浸した後、100℃、10分乾燥させた後のサンプルの質量をTHF浸漬後質量(Y)とし、下記式で求めたときのTHF不溶分が10質量%以上であることを指す。

THF不溶分(質量%)=〔{(Y)-銅箔質量}/{(X)-銅箔質量}〕×100
【0040】
一方、加熱処理前では、溶剤溶解性や樹脂の凝集などのハンドリングの観点から、硬化物がなるべく含まれていないことが好ましい。こうした硬化物含有量は、低温での加熱処理時のテトラヒドロフラン(THF)不溶分を指標として知ることができる。具体的には、本発明に用いられるポリエステル樹脂(A)は、120℃で15分間加熱処理した際のTHF不溶分が10質量%未満であることが好ましい。より好ましくは5質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満であり、0質量%であっても差し支えない。120℃程度の比較的低温な加熱条件下ではTHF不溶分が前記の値未満であることで、溶剤への溶解時や、水分散体としたときの凝集物の発生を抑制することができる。
ここで、「120℃で15分間加熱処理した際のテトラヒドロフラン不溶分が10質量%未満である」とは、銅箔上にポリエステル樹脂を乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布し、120℃で15分間熱を加え、縦10cm、横2.5cmの大きさにしたサンプルのTHF浸漬前質量を(X)とし、60mlのTHFに25℃、1時間浸した後、100℃、10分乾燥させた後のサンプルの質量をTHF浸漬後質量(Y)とし、下記式で求めたときのTHF不溶分が10質量%未満であることを指す。

THF不溶分(質量%)=〔{(Y)-銅箔質量}/{(X)-銅箔質量}〕×100
【0041】
[触媒(B)]
本発明の接着剤樹脂組成物には、さらに触媒(B)を含有することが好ましい。触媒(B)を含有することで、ポリエステル樹脂(A)の加熱処理時の自己架橋性を促進し、貯蔵弾性率E’が上昇し、硬化性を向上させることができる。触媒としては、例えば硫酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、樟脳スルホン酸、リン酸等の酸触媒及びこれらをアミンブロック(アミンを添加し一部中和)したもの、ジブチル錫ジラウリレート等の有機スズ化合物、チタンテトラブトキシド等のチタン化合物、酢酸亜鉛などの亜鉛化合物、塩化ハフニウム・THF錯体などのハフニウム化合物、スカンジウムトリフラートなどの希土類化合物が挙げられ、これらの中から1種、又は2種以上を併用することができる。中でもポリエステル樹脂(A)との相容性、衛生性の面からドデシルベンゼンスルホン酸、及びこの中和物が好ましい。
【0042】
本発明の接着剤樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)及び触媒(B)の配合比は、(A)/(B)=100/0.01~0.5(質量部)が好ましく、さらに好ましくは100/0.05~0.4(質量部)であり、最も好ましくは100/0.1~0.3(質量部)である。前記範囲内であることで、接着剤樹脂組成物の200℃で1時間加熱処理後のTHF不溶分を増加させることができる。
【0043】
本発明の接着剤樹脂組成物において、触媒(B)はポリエステル樹脂(A)に含まれていてもよいし、後から添加してもよい。ポリエステル樹脂(A)重合の際のゲル化を回避する観点から、触媒(B)はポリエステル樹脂(A)の製造後に添加することが好ましい。
【0044】
本発明の接着剤樹脂組成物にはラジカル重合禁止剤(C)を添加しても良い。ラジカル重合禁止剤(C)は、主にポリエステル樹脂(A)を重合する際に不飽和結合開裂によるゲル化防止のために用いられるものであるが、ポリエステル樹脂(A)の貯蔵安定性を高めるために重合後に添加しても良い。ラジカル重合禁止剤(C)としてはフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ニトロ化合物系酸化防止剤、無機化合物系酸化防止剤など公知のものが例示できる。
【0045】
フェノール系酸化防止剤としては、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、4,4’-ブチルデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス-メチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレートなど、またはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0046】
リン系酸化防止剤としては、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシルホスファイト)、ジステアリル-ペンタエリスリトールジホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイトなど、またはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0047】
アミン系酸化防止剤としては、フェニル-ベータ-ナフチルアミン、フェノチアジン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-ベータナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、アルドール-アルファ-ナフチルアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジハイドロキノリンポリマーなど、またはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0048】
硫黄系酸化防止剤としては、チオビス(N-フェニル-ベータ-ナフチルアミン、2-メルカプトベンチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルイソプロピルキサンテートなど、又はそれらの誘導体が挙げられる。
【0049】
ニトロ化合物系酸化防止剤としては、1,3,5-トリニトロベンゼン、p-ニトロソジフェニルアミン、p-ニトロソジメチルアニリン、1-クロロ-3-ニトロベンゼン、o-ジニトロベンゼン、m-ジニトロベンゼン、p-ジニトロベンゼン、p-ニトロ安息香酸、ニトロベンゼン、2-ニトロ-5-シアノチオフェンなど、又はそれらの誘導体が挙げられる。
【0050】
無機化合物系酸化防止剤としては、FeCl、Fe(CN)、CuCl、CoCl、Co(ClO、Co(NO、Co(SO等が挙げられる。
【0051】
ラジカル重合禁止剤(C)としては、上記の酸化防止剤の中でも、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が熱安定性の点で好ましく、融点が120℃以上で分子量が200以上のものがより好ましく、融点が170℃以上のものがさらに好ましい。具体的には、フェノチアジン、4,4’-ブチルデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)などである。
【0052】
本発明の接着剤樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)及びラジカル重合禁止剤(C)の配合比は、(A)/(C)=100/0.001~0.5(質量部)が好ましく、さらに好ましくは100/0.01~0.1(質量部)であり、最も好ましくは100/0.02~0.08(質量部)である。前記範囲内であることで、ポリエステル樹脂(A)製造中のゲル化を抑制することができる。
【0053】
本発明の接着剤樹脂組成物には、要求特性に合わせて、さらに他の成分を必要に応じて含有してもよい。このような成分の具体例としては、難燃剤、粘着性付与剤、シランカップリング剤、酸化チタン、シリカなどの公知の無機フィラー、リン酸およびそのエステル化物、表面平滑剤、消泡剤、分散剤、潤滑剤等の公知の添加剤を配合することができる。特にシリカなどのフィラーは、配合することによりハンダ耐熱性の特性が向上するため非常に好ましい。シリカとしては一般に疎水性シリカと親水性シリカが知られているが、ここでは耐吸湿性を付与する上でジメチルジクロロシランやヘキサメチルジシラザン、オクチルシラン等で処理を行った疎水性シリカの方が良い。シリカを配合する場合、その配合量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.05~30質量部の配合量であることが好ましい。前記下限値以上とすることでハンダ耐熱性を向上させる効果を奏することができる。また、前記上限値以下とすることでシリカの分散不良が生じることがなく、溶液粘度が良好であり作業性が良好となる。また接着性も低下しない。
【0054】
本発明の接着剤樹脂組成物は、公知の有機溶剤に溶解された状態で使用することができる。有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノアセテート、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ソルベッソ等が挙げられる。これらから、溶解性、蒸発速度等を考慮して、1種または2種以上を選択し、使用される。
【0055】
本発明の接着剤樹脂組成物には、接着剤層の可撓性、密着性付与などの改質を目的としたその他の樹脂を配合することができる。その他の樹脂の例としては、非晶性ポリエステル、結晶性ポリエステル、エチレン-重合性不飽和カルボン酸共重合体、及びエチレン-重合性カルボン酸共重合体アイオノマーを挙げることができ、これらから選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を配合することにより塗膜の可撓性および/または密着性を付与できる場合がある。
【0056】
本発明の接着剤樹脂組成物は、基材に塗布した後、乾燥し、接着剤層を形成することができる。基材は、特に限定されないが、フィルム状樹脂等の樹脂基材、金属板や金属箔等の金属基材、紙類等を挙げることができる。
【0057】
樹脂基材としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、及びフッ素系樹脂等を例示することができる。好ましくはフィルム状樹脂(以下、基材フィルム層ともいう)である。
【0058】
金属基材としては、回路基板に使用可能な任意の従来公知の導電性材料が使用可能である。素材としては、SUS、銅、アルミニウム、鉄、スチール、亜鉛、ニッケル等の各種金属、及びそれぞれの合金、めっき品、亜鉛やクロム化合物など他の金属で処理した金属等を例示することができる。好ましくは金属箔であり、より好ましくは銅箔である。金属箔の厚みについては特に限定はないが、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは、3μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。また、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下ある。厚さが薄すぎる場合には、回路の充分な電気的性能が得られにくい場合があり、一方、厚さが厚すぎる場合には回路作製時の加工能率等が低下する場合がある。金属箔は、通常、ロール状の形態で提供されている。本発明のプリント配線板を製造する際に使用される金属箔の形態は特に限定されない。リボン状の形態の金属箔を用いる場合、その長さは特に限定されない。また、その幅も特に限定されないが、250~500cm程度であるのが好ましい。
【0059】
紙類として上質紙、クラフト紙、ロール紙、グラシン紙等を例示することができる。また複合素材として、ガラスエポキシ等を例示することができる。
【0060】
本発明の接着剤樹脂組成物との接着力、耐久性から、基材としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、SUS鋼板、銅箔、アルミ箔、またはガラスエポキシが好ましい。
【0061】
本発明の積層体は、基材に接着剤樹脂組成物を積層したもの(基材/接着剤層の2層積層体)、または、さらに基材を貼り合わせたもの(基材/接着剤層/基材の3層積層体)である。本発明の接着剤樹脂組成物を、常法に従い、各種基材に塗布、乾燥すること、およびさらに他の基材を積層することにより、本発明の積層体を得ることができる。
【0062】
本発明の接着シートは、前記積層体と離型基材とを接着剤樹脂組成物を介して積層したものである。具体的な構成としては、積層体/接着剤層/離型基材、または離型基材/接着剤層/積層体/接着剤層/離型基材が挙げられる。離型基材を積層することで基材の保護層として機能する。また離型基材を使用することで、接着シートから離型基材を離型して、さらに別の基材に接着剤層を転写することができる。
【0063】
本発明の接着剤樹脂組成物を、常法に従い、各種積層体に塗布、乾燥することにより、本発明の接着シートを得ることができる。また乾燥後、接着剤層に離型基材を貼付けると、基材への裏移りを起こすことなく巻き取りが可能になり操業性に優れるとともに、接着剤層が保護されることから保存性に優れ、使用も容易である。また離型基材に塗布、乾燥後、必要に応じて別の離型基材を貼付すれば、接着剤層そのものを他の基材に転写することも可能になる。
【0064】
離型基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、上質紙、クラフト紙、ロール紙、グラシン紙などの紙の両面に、クレー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの目止剤の塗布層を設け、さらにその各塗布層の上にシリコーン系、フッ素系、アルキド系の離型剤が塗布されたものが挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等の各種オレフィンフィルム単独、及びポリエチレンテレフタレート等のフィルム上に上記離型剤を塗布したものも挙げられる。離型基材と接着剤層との離型力、シリコーンが電気特性に悪影響を与える等の理由から、上質紙の両面にポリプロピレン目止処理しその上にアルキド系離型剤を用いたもの、またはポリエチレンテレフタレート上にアルキド系離型剤を用いたものが好ましい。
【0065】
なお、本発明において接着剤樹脂組成物を基材上にコーティングする方法としては、特に限定されないが、コンマコーター、リバースロールコーター等が挙げられる。もしくは、必要に応じて、プリント配線板構成材料である圧延銅箔、またはポリイミドフィルムに直接もしくは転写法で接着剤層を設けることもできる。接着剤樹脂組成物の硬化条件は通常、約150~260℃の範囲で約1分~3時間の程度であり、さらには約180~210℃の範囲で、約30分~2時間の程度が好ましい。乾燥後の接着剤層の厚みは、必要に応じて、適宜変更されるが、好ましくは5~200μmの範囲である。接着フィルム厚が5μm未満では、接着強度が不十分である。200μm以上では乾燥が不十分で、残留溶剤が多くなり、プリント配線板製造のプレス時にフクレを生じるという問題点が挙げられる。乾燥条件は特に限定されないが、乾燥後の残留溶剤率は1質量%以下が好ましい。1質量%超では、プリント配線板プレス時に残留溶剤が発泡して、フクレを生じるという問題点が挙げられる。
【0066】
本発明のプリント配線板は、導体回路を形成する金属箔と樹脂基材とから形成された積層体を構成要素として含むものである。プリント配線板は、例えば、金属張積層体を用いてサブトラクティブ法などの従来公知の方法により製造される。必要に応じて、金属箔によって形成された導体回路を部分的、或いは全面的にカバーフィルムやスクリーン印刷インキ等を用いて被覆した、いわゆるフレキシブル回路板(FPC)、フラットケーブル、テープオートメーティッドボンディング(TAB)用の回路板などを総称している。
【0067】
本発明のプリント配線板は、プリント配線板として採用され得る任意の積層構成とすることができる。例えば、基材フィルム層、金属箔層、接着剤層、およびカバーフィルム層の4層から構成されるプリント配線板とすることができる。また例えば、基材フィルム層、接着剤層、金属箔層、接着剤層、およびカバーフィルム層の5層から構成されるプリント配線板とすることができる。
【0068】
さらに、必要に応じて、上記のプリント配線板を2つもしくは3つ以上積層した構成とすることもできる。
【0069】
本発明の接着剤樹脂組成物はプリント配線板の各接着剤層に好適に使用することが可能である。特に本発明の接着剤樹脂組成物を接着剤として使用すると、プリント配線板を構成する従来のポリイミド、ポリエステルフィルム、銅箔だけでなく、LCP(液晶ポリマー)などの低極性の樹脂基材と高い接着性を有し、ハンダ耐熱性に優れる。そのため、カバーレイフィルム、積層板、樹脂付き銅箔及びボンディングシートに用いる接着剤組成物として好適である。
【0070】
本発明のプリント配線板の基材フィルムとしては、従来からプリント配線板の基材として使用されている任意の樹脂フィルムが使用可能である。基材フィルムの樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、及びフッ素系樹脂等を例示することができる。
【0071】
カバーフィルムとしては、プリント配線板用の絶縁フィルムとして従来公知の任意の絶縁フィルムが使用可能である。例えば、ポリイミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、アラミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミドイミド系樹脂等の各種ポリマーから製造されるフィルムが使用可能である。より好ましくは、ポリイミドフィルムである。
【0072】
本発明のプリント配線板は、上述した各層の材料を用いる以外は、従来公知の任意のプロセスを用いて製造することができる。
【0073】
好ましい実施態様では、カバーフィルム層に接着剤層を積層した半製品(以下、「カバーフィルム側半製品」という)を製造する。他方、基材フィルム層に金属箔層を積層して所望の回路パターンを形成した半製品(以下、「基材フィルム側2層半製品」という)または基材フィルム層に接着剤層を積層し、その上に金属箔層を積層して所望の回路パターンを形成した半製品(以下、「基材フィルム側3層半製品」という)を製造する(以下、基材フィルム側2層半製品と基材フィルム側3層半製品とを合わせて「基材フィルム側半製品」という)。このようにして得られたカバーフィルム側半製品と、基材フィルム側半製品とを貼り合わせることにより、4層または5層のプリント配線板を得ることができる。
【0074】
基材フィルム側半製品は、例えば、(A)前記金属箔に基材フィルムとなる樹脂の溶液を塗布し、塗膜を初期乾燥する工程、(B)(A)で得られた金属箔と初期乾燥塗膜との積層物を熱処理・乾燥する工程(以下、「熱処理・脱溶剤工程」という)を含む製造法により得られる。
【0075】
金属箔層における回路の形成は、従来公知の方法を用いることができる。アディティブ法を用いてもよく、サブトラクティブ法を用いてもよい。好ましくは、サブトラクティブ法である。
【0076】
得られた基材フィルム側半製品は、そのままカバーフィルム側半製品との貼り合わせに使用されてもよく、また、離型フィルムを貼り合わせて保管した後にカバーフィルム側半製品との貼り合わせに使用してもよい。
【0077】
カバーフィルム側半製品は、例えば、カバーフィルムに接着剤を塗布して製造される。必要に応じて、塗布された接着剤における架橋反応を行うことができる。好ましい実施態様においては、接着剤層を半硬化させる。
【0078】
得られたカバーフィルム側半製品は、そのまま基材フィルム側半製品との貼り合わせに使用されてもよく、また、離型フィルムを貼り合わせて保管した後に基材フィルム側半製品との貼り合わせに使用してもよい。
【0079】
基材フィルム側半製品とカバーフィルム側半製品とは、それぞれ、例えば、ロールの形態で保管された後、貼り合わされて、プリント配線板が製造される。貼り合わせる方法としては、任意の方法が使用可能であり、例えば、プレスまたはロールなどを用いて貼り合わせることができる。また、加熱プレス、または加熱ロ-ル装置を使用するなどの方法により加熱を行いながら両者を貼り合わせることもできる。
【0080】
補強材側半製品は、例えば、ポリイミドフィルムのように柔らかく巻き取り可能な補強材の場合、補強材に接着剤を塗布して製造されることが好適である。また、例えばSUS、アルミ等の金属板、ガラス繊維をエポキシ樹脂で硬化させた板等のように硬く巻き取りできない補強板の場合、予め離型基材に塗布した接着剤を転写塗布することによって製造されることが好適である。また、必要に応じて、塗布された接着剤における架橋反応を行うことができる。好ましい実施態様においては、接着剤層を半硬化させる。
【0081】
得られた補強材側半製品は、そのままプリント配線板裏面との貼り合わせに使用されてもよく、また、離型フィルムを貼り合わせて保管した後に基材フィルム側半製品との貼り合わせに使用してもよい。
【0082】
基材フィルム側半製品、カバーフィルム側半製品、補強材側半製品はいずれも、本発明におけるプリント配線板用積層体である。
【0083】
本発明の接着剤樹脂組成物または接着シートは、プリント配線板以外にも、3次元成形品加飾用積層フィルムの各接着剤層に好適に使用することが可能である。本発明の3次元成形品加飾用積層フィルムは、3次元成形品の加飾成形において使用するフィルムである。すなわち、意匠性を有するフィルムを各種成形体に接着させて、成形体に意匠性を付与したり、表面保護機能を付与したりするものである。その際に、3次元形状の表面に沿った形に変形させて密着させるものである。特に本発明の接着剤樹脂組成物を接着剤として使用すると、3次元成形品加飾用積層フィルムを構成する従来の軟質塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエステルフィルム、ABSなどの樹脂基材と高い接着性を有し、シートライフ性にも優れる。そのため、サイドアンダースカート、サイドガーニッシュ、ドアミラー等の自動車外装用部材や、インパネ、ドアスイッチパネル等の自動車内装部材、冷蔵庫、携帯電話、照明器具等の家電製品の筐体用の3次元成形加飾用積層フィルムに用いる接着剤樹脂組成物として好適である。
【0084】
本発明の接着剤樹脂組成物およびこれを用いた接着シートは、金属缶ラミネート用フィルムの各接着剤層や金属缶ラミネート用フィルムとして使用することが可能である。特に本発明の接着剤樹脂組成物を接着剤として使用すると、金属缶ラミネート用フィルムを構成する従来のポリエステルフィルムや金属缶を構成するブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等の金属基材に高い接着性を有し、ポットライフ性にも優れる。そのため、金属缶ラミネート用フィルムの各接着剤層や金属缶ラミネート用フィルムに用いる接着シートとして好適である。
【0085】
本発明の接着剤樹脂組成物およびこれを用いた積層体は、包装材として使用することが可能である。特に本発明の接着剤樹脂組成物を接着剤として使用すると、包装材に一般的に用いられるポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などのプラスチックフィルムや、アルミニウム箔等のガスバリア基材に高い接着性を有し、ポットライフ性にも優れる。そのため、包装材の各接着剤層や包装材に用いる積層体として好適である。
【実施例
【0086】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。種々の特性の評価は下記の方法に従った。実施例中、単に部とあるのは質量部を示し、%とあるのは質量%を示す。
【0087】
<ポリエステル樹脂(A)の特性の測定>
(1)樹脂組成の測定
ポリエステル樹脂(A)の試料を、重クロロホルムに溶解し、VARIAN社製 核磁気共鳴(NMR)装置400-MRを用いて、1H-NMR分析を行った。その積分値比より、モル比を求めた。
【0088】
(2)還元粘度(単位:dl/g)の測定
ポリエステル樹脂(A)の試料0.1gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25ccに溶解し、30℃で測定した。
【0089】
(3)ガラス転移温度(Tg)の測定
示差走査型熱量計(SII社、DSC-200)により測定した。ポリエステル樹脂(A)の試料5mgをアルミニウム製の抑え蓋型容器に入れて密封し、液体窒素を用いて-50℃まで冷却し、次いで150℃まで20℃/分にて昇温させた。この過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前のベースラインと、吸熱ピークに向かう接線との交点の温度をもって、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)とした。
【0090】
(4)酸価の測定
ポリエステル樹脂(A)の試料0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、0.01Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、ポリエステル樹脂10gあたりの当量(eq/ton)を求めた。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
【0091】
(5)THF不溶分の測定
120℃で15分間加熱処理した際のTHF不溶分は、ポリエステル樹脂(A)のメチルエチルケトン溶液(固形分20質量%)を調製し、銅箔上にポリエステル樹脂(A)の乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布し、120℃で15分間熱を加え、縦10cm、横2.5cmの大きさにしたサンプルのTHF浸漬前質量を(X)とし、60mlのTHFに25℃、1時間浸した後、100℃、10分乾燥させた後のサンプルの質量をTHF浸漬後質量(Y)とし、下記式により求めた。

THF不溶分(質量%)=〔{(Y)-銅箔質量}/{(X)-銅箔質量}〕×100
【0092】
<ポリエステル樹脂(A)の合成例(a)>
テレフタル酸ジメチル580質量部、無水トリメリット酸10質量部、フマル酸60質量部、エチレングリコール310質量部、1,2-プロピレングリコール380質量部、触媒としてテトラ-n-ブチルチタネート(以下、TBTと略記する場合がある)0.5質量部(全ポリカルボン酸成分に対して0.03モル%)を3L四つ口フラスコに仕込み、3時間かけて230℃まで徐々に昇温しながら、エステル交換反応を行った。次いで、アジピン酸220質量部を投入し、1時間かけて240℃まで徐々に昇温しながら、エステル化反応を行った。反応後、系内を徐々に減圧していき、1時間かけて10mmHgまで減圧重合を行うとともに温度を245℃まで昇温し、さらに1mmHg以下の真空下で50分間後期重合を行なった。目標分子量に達した後、これを窒素雰囲気下で210℃に冷却した。次いで無水トリメリット酸20質量部、エチレングリコールビストリメリテート二無水物21質量部を投入し、窒素雰囲気下、200~230℃、30分攪拌を継続した。これを取り出し、ポリエステル樹脂(合成例(a))を得た。得られたポリエステル樹脂の還元粘度は0.30dl/g、ガラス転移温度(Tg)は20℃、酸価は300eq/tonであった。
【0093】
合成例(b)~(o)
合成例(a)と同様に直接重合法にて、但し仕込み組成を変更して、樹脂組成および樹脂特性が表1に示されるようなポリエステル樹脂(合成例(b)~(o))を製造した。
【0094】
【表1】
【0095】
<接着剤樹脂組成物の特性の評価>
(1)THF不溶分の測定
200℃で1時間加熱処理した際のTHF不溶分は、銅箔上に接着剤樹脂組成物を乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布し、200℃で1時間熱を加え、縦10cm、横2.5cmの大きさにしたサンプルのTHF浸漬前質量を(X)とし、60mlのTHFに25℃、1時間浸した後、100℃、10分乾燥させた後のサンプルの質量をTHF浸漬後質量(Y)とし、下記式により求めた。

THF不溶分(質量%)=〔{(Y)-銅箔質量}/{(X)-銅箔質量}〕×100
【0096】
(2)ピール強度(ポリイミドフィルムまたは銅箔基材に対する接着性)
後述する接着剤樹脂組成物を厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、アピカル(登録商標))に、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で10分乾燥した。この様にして得られた接着性フィルム(Bステージ品)を厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(PI)または18μmの圧延銅箔(JX金属株式会社製、BHYシリーズ)(Cu)と貼り合わせた。貼り合わせは、圧延銅箔の光沢面が接着剤層と接する様にして、160℃で40kgf/cmの加圧下に30秒間プレスし、接着した。次いで200℃で1時間加熱処理して硬化させて、ピール強度評価用サンプルを得た。剥離強度は、25℃において、フィルム引き、引張速度50mm/minで90°剥離試験を行ない、剥離強度を測定した。この試験は常温での接着強度を示すものである。
<評価基準>
◎:0.8N/mm以上
○:0.6N/mm以上8.0N/mm未満
△:0.4N/mm以上0.6N/mm未満
×:0.4N/mm未満
【0097】
(3)ピール強度(ポリエステル基材、ポリカーボネート基材、またはアルミ蒸着基材に対する接着性)
後述する接着剤樹脂組成物を厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、アピカル(登録商標))に、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、200℃で1時間乾燥した。この様にして得られた接着剤層(Bステージ品)に、厚さ25μmのポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製、E5107)(PET)、厚さ0.125mmのポリカーボネートフィルム(帝人株式会社製、パンライトシート)(PC)、または厚さ30μmのアルミ蒸着ポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製)(Al)を貼り合わせた。貼り合わせは、ポリカーボネートフィルムの未処理面、ポリエステルフィルムのコロナ処理面、またはアルミ蒸着ポリエステルフィルムのアルミ蒸着面が接着剤層と接する様にして、120℃で40kgf/cmの加圧下に30分間プレス、接着し、ピール強度評価用サンプルを得た。剥離強度は、25℃において、ポリイミドフィルム引き、引張速度50mm/minで90°剥離試験を行ない、剥離強度を測定した。この試験は常温での接着強度を示すものである。
<評価基準>
◎:0.8N/mm以上
○:0.6N/mm以上8.0N/mm未満
△:0.4N/mm以上0.6N/mm未満
×:0.4N/mm未満
【0098】
(4)ハンダ耐熱性
上記(2)ピール強度または(3)ピール強度と同じ方法でサンプルを作製し、2.0cm×2.0cmのサンプル片を23℃で2日間エージング処理を行い、280℃で溶融したハンダ浴に10秒フロートし、膨れなどの外観変化の有無を確認した。
<評価基準>
◎:膨れ無し
○:一部膨れ有
△:多くの膨れ有
×:膨れ、かつ変色有
【0099】
(5)ポットライフ性
ポットライフ性とは、接着剤樹脂組成物の配合直後または配合後一定時間経過後の該ワニスの安定性を指す。ポットライフ性が良好な場合は、ワニスの粘度上昇が少なく長期間保存が可能であることを指し、ポットライフ性が不良な場合は、ワニスの粘度が上昇(増粘)し、ひどい場合にはゲル化現象を起こし、基材への塗布が困難となり、長期間保存が不可能であることを指す。
上記で調製した接着剤樹脂組成物を、ブルックフィールド型粘度計を用いて25℃の溶液粘度測定し、初期の溶液粘度ηB0を求めた。その後、接着剤樹脂組成物を40℃下7日間貯蔵し、25℃下で溶液粘度ηBを測定した。溶液粘度比を下記式にて算出を行い、以下の通りに評価した。
溶液粘度比=溶液粘度ηB/溶液粘度ηB0
<評価基準>
◎:溶液粘度比が0.5以上1.5未満
○:溶液粘度比が1.5以上2.0未満
△:溶液粘度比が2.0以上3.0未満
×:溶液粘度比が3.0以上、またはプリン化により粘度測定不可
【0100】
<接着剤樹脂組成物の作製>
ポリエステル樹脂(A)100質量部(固形分)をメチルエチルケトンで塗布に適した粘度になるように溶解した。表2、表3および表4の配合に従い、接着剤樹脂組成物(固形分約20質量%)を得た。
【0101】
得られた接着剤樹脂組成物のTHF不溶分、ポリイミドフィルムおよび銅箔基材との接着性、ハンダ耐熱性およびポットライフ性の評価を実施した。評価結果を表2および表3に示す。また表4には、3次元成形品加飾用積層フィルムや包装材の基材として好適に用いられるポリエステル基材およびポリカーボネート基材、アルミ蒸着基材との接着性、ならびにポットライフ性の評価結果を示した。
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
表2および表4で明らかなように、本発明の接着剤樹脂組成物は、その接着性(ピール強度)、ハンダ耐熱性のいずれもが優れている。なお、実施例12および13は硬化剤を配合したため、ポットライフ性が低下した例である。一方比較例1はポリエステル樹脂がポリカルボン酸成分として不飽和ジカルボン酸(d)を含まないため、ハンダ耐熱性が劣った。比較例2はポリエステル樹脂がポリオール成分として(b)成分および(c)成分を含まないため、硬化性が悪く、接着性(ピール強度)およびハンダ耐熱性が劣った。比較例3はポリエステル樹脂がポリオール成分として(a)成分を含まないため、硬化性が悪く、接着性(ピール強度)およびハンダ耐熱性が劣った。比較例4および5はポリエステル樹脂の酸価が低いため、硬化性が悪く、接着性(ピール強度)およびハンダ耐熱性が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明品は、接着性、ハンダ耐熱性に優れた接着剤樹脂組成物、および接着シートと、これを含有する積層体であり、FPCをはじめとする回路基板用の接着剤として特に有用である。また、ポリエステル基材やポリカーボネート基材、アルミ蒸着基材との接着性も有しており、3次元成形品加飾用積層フィルムや包装材用の接着剤としても適用できる。