(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】眼鏡形フレームにおけるフロントフレームとテンプルとの弾性連結構造及びこの弾性連結構造を備えた眼鏡形フレーム
(51)【国際特許分類】
G02C 5/22 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
G02C5/22
(21)【出願番号】P 2021002467
(22)【出願日】2021-01-09
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】523173852
【氏名又は名称】吉岡 敏光
(74)【代理人】
【識別番号】100110814
【氏名又は名称】高島 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】加納 尚子
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-049010(JP,A)
【文献】実開昭55-103619(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/209675(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフレームと、このフロントフレームに連結されたテンプルとを有する眼鏡形フレームにおける前記フロントフレームと前記テンプルとの弾性連結構造において、
前記眼鏡形フレームを装着する利用者の側頭部側に配置され、一端が前記フロントフレームに連結されるとともに、他端が前記テンプルの基端部から先端寄りに連結された第一の部材と、
前記第一の部材に対して前記利用者の側頭部の反対側に配置され、一端が前記フロントフレームに連結されるとともに、他端が前記テンプルの基端部に連結された第二の部材と、
を有し、
前記第一の部材と前記第二の部材とで菱形状をなし、
前記第一の部材と前記第二の部材と
は、それぞれの前記一端が相対的に回動自在に連結され、
前記眼鏡形フレームの装着時に、前記テンプルに付勢力が作用した際に、前記第一の部材と前記第二の部材とを前記付勢力に抗して復帰させる方向に弾発力を生じさせる弾発手段を
備え、
前記弾発手段は、弾性を有する前記第一の部材及び弾性を有する前記第二の部材で構成されていて、前記付勢力が作用したときに、前記第一の部材と前記第二の部材が曲げ方向に弾性変形することで、前記付勢力に抗する方向に前記テンプルを弾発するとともに、前記付勢力によって前記テンプルに生じる回転力を打ち消す方向に、反回転力を生じさせることで、前記テンプルを拡開方向に平行移動させるものであること、
を特徴とする眼鏡形フレームにおけるフロントフレームとテンプルとの弾性連結構造。
【請求項2】
前記第一の部材と前記第二の部材とは、駒を介して前記フロントフレームに連結され、前記第二の部材の一端は回転支点によって前記第一の部材に対して回動自在に連結されていることを特徴とする請求項
1に記載の眼鏡形フレームにおけるフロントフレームとテンプルとの弾性連結構造。
【請求項3】
前記第一の部材の一端が
、前記駒を介して前記フロントフレームに回動自在に
連結されていることを特徴とする請求項
2に記載の眼鏡形フレームにおけるフロントフレームとテンプルとの弾性連結構造。
【請求項4】
前記第一の部材は、前記一端から他端まで湾曲して形成され、
前記第一の部材の前記他端は、前記湾曲の接線が前記テンプルと平行になる方向から、前記テンプルに接触するように連結されていることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の眼鏡形フレームにおけるフロントフレームとテンプルとの弾性連結構造。
【請求項5】
第二の部材は、高弾性率の第一の部分と低弾性率の第二の部分とを有し、前記テンプルの基端部から一端側に前記第一の部分が配置されていることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の眼鏡形フレームにおけるフロントフレームとテンプルとの弾性連結構造。
【請求項6】
前記第一の部材及び前記第二の部材が、薄肉部又は板ばね部を有するものであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の眼鏡形フレームにおけるフロントフレームとテンプルとの弾性連結構造。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の弾性連結構造を有することを特徴とする眼鏡形フレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者の顔面に装着される眼鏡形フレームに関し、特に眼鏡形フレームを構成するフロントフレームとテンプルとを弾性的に連結する弾性連結構造及びこの弾性連結構造を備えた眼鏡形フレームに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡形フレームの一例として、視力矯正用のレンズを備えた眼鏡フレームを挙げることができる。このような眼鏡フレームにおいては、その掛け外しをスムースにするとともに、利用者の頭部に対するテンプルのフィット感を良好にするために、フロントフレームとテンプルとを連結する蝶番にばね性を持たせたばね蝶番が知られている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-147438号公報
【文献】特開2001-290110号公報
【文献】特開2003-185981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記文献に記載のばね蝶番では、利用者が眼鏡形フレームを顔面に装着すると、左右のテンプルが前記利用者の頭部の幅に合わせて前記ばね蝶番を支点として回転しつつフロントフレームに対して斜めに拡開するので、眼鏡形フレームを顔面に装着した際に前向きに力が作用することになり、装着時に下を向いたり、装着時の振動などによって眼鏡形フレームが前方に移動してフロントフレームがずり落ちるという不具合が生じやすい。
ばね蝶番は、利用者の側頭部を左右両側から挟持することでこのようなずり落ちを抑制しようとするものであるが、ずり落ち抑制効果を高めるためにばね力を強くしても、前記した前向きの力も大きくなってずれ落ちの抑制効果はそれほど向上しないばかりか、ばね力を強くすると前記利用者の側頭部を圧迫して利用者の頭部に過度の負担を掛けるという問題が発生する。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、利用者の頭部に大きな負担を掛けることなく、しっかりと利用者の側頭部に密着して眼鏡形フレームの装着性を高めるとともに、テンプルが斜めに拡開することによる前向きの力の発生を抑制することで、眼鏡形フレームのずれ落ちを効果的に抑制することのできる眼鏡形フレームのフロントフレームとテンプルとの弾性連結構造及びこの弾性連結構造を備えた眼鏡形フレームを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を達成するために本発明の発明者は、ばねヒンジを支点として斜め方向に回動しながら拡開する従来のテンプルの構造を見直し、左右のテンプルが平行方向に拡開するようにフロントフレームに対してテンプルを連結すればよいことを見いだした。
図1(a)は、左右のテンプルを平行方向に拡開させるための原理を模式的に示した図である。なお、以下の
図1(a)(b)では、フロントフレームの両端に連結される左右のテンプルのうちの片方のみを図示し、他方については図示を省略してある。
【0007】
フロントフレームFに対して左右のテンプルTが平行方向に拡開するようにするには、例えば
図1(a)に示すように、菱形(平行四辺形)のリンク機構で構成された連結構造1Aによって、テンプルTとフロントフレームFとを連結すればよい。
この連結構造1Aは、フロントフレームHに一端が固定されているとともにテンプルTと同方向に延びる固定アーム10aと、この固定アーム10aに対して支点11bによって一端が回転自在に支持された回転アーム10bと、支点11aによって一端がフロントフレームHに回転自在に支持された回転アーム10cとを有している。また、二つの回転アーム10b,10cの他端は、それぞれ支点11c、11dによってテンプルTに回転自在に連結されている。すなわち、回転アーム10b,10cとテンプルTとは、支点11a,11b,11c,11dで互いに連結されることで、固定アーム10aを基準とする菱形(平行四辺形)のリンク機構を構成する。
【0008】
このような連結構造1Aは以下のように作用する。すなわち、利用者が眼鏡形フレームを装着する際に前記利用者の側頭部にテンプルTが当接すると、テンプルTの途中部位に、左右のテンプルTを拡開させようとする付勢力Pが作用する。この付勢力Pにより、左右のテンプルTは拡開方向に移動するが、その移動は、
図1(a)中の仮想線で示すように、支点11a,11b,11c,11dを支点とする二つの回転アーム10b,10cの回動による菱形(平行四辺形)の変形に基づくものである。そのため、左右のテンプルTはフロントフレームFに対して傾くことなく、固定アーム10aを基準として、初期姿勢のまま平行方向に移動することになる。
【0009】
上記では
図1(a)を参照しつつ、左右のテンプルTを互いに平行方向に移動させる原理について説明した。しかし、
図1(a)の連結構造1Aはばね性(弾性)を有していないため、利用者の側頭部を左右のテンプルTで挟み付けることができず、眼鏡形フレームの装着が不安定である。
そこで
図1(b)に示す連結構造1Bのように、対角線上の二つの支点(例えば支点11aと支点11c)を例えば圧縮ばねのような付勢手段12で連結し、常に支点11aと支点11cとが引き寄せ合うように、つまり、連結構造1Bの菱形が常に潰れる方向に付勢されるように構成する。なお、支点11bと支点11dとを連結する場合には、引張ばねのような付勢手段を用いる。支点11a~11dに弦巻ばねのような回転弾性部材を設けて、菱形が常に潰れる方向に付勢するようにしてもよい。このような付勢力が作用する連結構造が、本明細書における「弾性連結構造」(以下、単に「連結構造」と記載することがある)である。
このようにすることで、付勢力Pが作用したときに、この付勢手段12によってテンプルTに付勢力Pに抗する弾発力が作用する。この弾発力は、利用者の側頭部を左右から挟み付ける方向の力Iだけでなく、フロントフレームFを後方(顔面側)に引き寄せる方向の力IIも生じさせる。そのため、左右のテンプルTを平行方向に拡開させることによるずれ落ち抑制だけでなく、力IIによる引き寄せ効果により、眼鏡形フレームFのずれをより落ち抑制効果をより高めることができる。
【0010】
上記原理に基づく本発明の弾性連結構造は、請求項1に記載するように、フロントフレームと、このフロントフレームに連結されたテンプルとを有する眼鏡形フレームにおける前記フロントフレームと前記テンプルとの弾性連結構造において、
前記眼鏡形フレームを装着する利用者の側頭部側に配置され、一端が前記フロントフレームに連結されるとともに、他端が前記テンプルの基端部から先端寄りに連結された第一の部材と、
前記第一の部材に対して前記利用者の側頭部の反対側に配置され、一端が前記フロントフレームに連結されるとともに、他端が前記テンプルの基端部に連結された第二の部材と、を有し、前記第一の部材と前記第二の部材とで菱形状をなし、前記第一の部材と前記第二の部材と
は、それぞれの前記一端が相対的に回動自在に連結され、前記眼鏡形フレームの装着時に、前記テンプルに付勢力が作用した際に、前記第一の部材と前記第二の部材とを前記付勢力に抗して復帰させる方向に弾発力を生じさせる弾発手段を
備え、前記弾発手段は、弾性を有する前記第一の部材及び弾性を有する前記第二の部材で構成されていて、前記付勢力が作用したときに、前記第一の部材と前記第二の部材が曲げ方向に弾性変形することで、前記付勢力に抗する方向に前記テンプルを弾発するとともに、前記付勢力によって前記テンプルに生じる回転力を打ち消す方向に、反回転力を生じさせることで、前記テンプルを拡開方向に平行移動させるものである構成としてある。
ここで、この明細書における「菱形」は、
図1の連結構造1A,1Bのようなものを基本形態とするが、この明細書では、形態的な「菱形」でなく、
図1(a)(b)のように左右のテンプルTを平行方向に移動させることのできる作用を奏すものも「菱形」に含ませるものとし、
図2のような形態も含まれるものとする。
【0011】
付勢手段12のような付勢力Pに抗する弾発力は、
図1の固定アーム及び回転アームの各々を、眼鏡形フレームの装着時に曲げ方向に弾性変形する弾性部材で形成することによっても、生じさせることができる。この場合は、
図1(b)に示したような別体の付勢手段12は不要である。
図2は、
図1(b)の固定アーム及び回転アームを弾性部材に置き換えた連結構造1Cの原理を模式的に表した図で、(a)は付勢力Pを付与する前の状態を、(b)は付勢力Pを付与したときの状態を示している。
図2の連結構造1Cでは、
図1の連結構造1Bにおいて菱形を構成する固定アーム10a、回転アーム10b及び回転アーム10cのうち、固定アーム10a及び回転アーム10bを、弾性を有する一つの部材10dに置き換え、回転アーム10cを、弾性を有する部材10eに
置き換えている。
【0012】
図2の例では、部材10eの一端はフロントフレームFに固定されていてもよいが、支点11eでフロントフレームFに回転自在としても
よい。前記第二の部材の一端と前記フロントフレームとの連結を回転支点として構成してもよい。
また、請求項2に記載するように、前記第一の部材と前記第二の部材とは、駒を介して前記フロントフレームに連結され、前記第二の部材の一端は回転支点によって前記第一の部材に対して回動自在に連結されている構成としてもよい。
なお、上記した各支点11a~11eは、軸、ボルト又は凹部と凸部の組み合わせなどで前記回転アーム等を回転自在に支持するものとしてもよい
が、前記第二の部材の一端及び前記フロントフレームを、互いに係合するS形のナックルジョイントにより連結するようにしてもよい。このようなナックルジョイントを用いることで、前記第二の部材の一端と前記フロントフレームとを回転自在に連結する支点(11e)の構成を小型にすることができる。
【0013】
テンプルをフロントフレームに対して折り畳むことができるようにするには、請求項3に記載するように、前記第一の部材の一端を、駒を介して前記フロントフレームに蝶番などで回動自在に連結するとよい。このような蝶番は、左右のテンプルを折り畳み又は展開させることのできる眼鏡形フレームにおいては一般的なものである。このような蝶番で前記第一の部材を回転自在する場合は、前記第二の部材の一端は、前記第一の部材の前記駒を介して、前記フロントフレームに連結する。
【0014】
請求項4に記載するように、前記第一の部材は、前記一端から他端まで湾曲して形成され、前記第一の部材の前記他端は、前記湾曲の接線が前記テンプルと平行になる方向から、前記テンプルに接触するように連結されている構成としてもよい。また、請求項5に記載するように、第二の部材は、高弾性率の第一の部分と低弾性率の第二の部分とを有し、前記テンプルの基端部から一端側に前記第一の部分が配置されている構成としてもよい。請求項6に記載するように、前記第一の部材及び前記第二の部材が、薄肉部又は板ばね部を有する構成としてもよい。
本発明の眼鏡形フレームは、請求項7に記載するように、上記の弾性連結構造を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記のように構成されているので、利用者の頭部に大きな負担を掛けることなく、しっかりと利用者の側頭部に密着して眼鏡形フレームの装着性を高めることができる。また、テンプルが斜めに拡開することによる前向きの力を無くして、眼鏡形フレームのずれ落ちを効果的に抑制できるだけでなく、フロントフレームを後方に引っ張る力も発生させて、ずれ落ち抑制効果のより高い弾性連結構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好適な実施形態について、
図3~5を参照しながら詳細に説明する。
図3(a)は、本発明の連結構造の一実施形態にかかり、その分解斜視図、
図3(b)は、同分解平面図、
図3(c)は、同組立斜視図、
図4(a)は同組立平面図、
図4(b)は同組立底面図、
図4(c)は同組立正面図、
図4(d)は同組立左側面図、
図4(e)は同組立右側面図、
図4(f)は同組立背面図、
図5(a)は付勢力の付与によりテンプルが拡開方向に移動したときの組立斜視図、
図5(b)は同組立平面図、
図5(c)は同組立底面図、
図5(d)は同組立正面図、
図5(e)は同組立左側面図、
図5(f)は同組立右側面図、
図5(g)は同組立背面図である。
なお、各図においてフロントフレームとテンプルとの連結構造は眼鏡型フレームの左側だけのものを示しているが、右側のものについても同様であるので図示及び詳細な説明は省略する。
【0017】
この実施形態の連結構造1は、フロントフレームF(
図1,2参照)の両端の智Faを介して、テンプルTとフロントフレームFとを連結するものである。
この実施形態では、弾性を有する樹脂板や金属板で形成された第一の弾性部材12及び第二の弾性部材13を有し、第一の弾性部材12と第二の弾性部材13とで「菱形」状の連結構造1を構成している。なお、この明細書において「弾性」とは、利用者が眼鏡形フレームを装着したときに、当該装着時にテンプルTに作用する付勢力によって、曲げ方向に弾性的に変形する性状を意味する。
【0018】
[第一の弾性部材]
第一の弾性部材12の一端は、智Faに回動自在に連結されて、フロントフレームFに対して左右のテンプルTを折り畳み自在にしている。智Faには溝Fcが形成され、この溝Fcに挿入される駒122が第一の弾性部材12の一端に形成されている。そして、智Faの上方から溝Fc及び駒122に形成された貫通孔を挿通して智Faに螺入されたボルトFbを軸として、テンプルTが智Faに対して回動自在に連結される。
第一の弾性部材12の他端は、テンプルTの基端部Taからモダンなどが取り付けられるテンプルTの先端寄りでテンプルTに固定して連結される。この連結手段としては、ボルトや接着、溶着、鑞付けなど公知のものを採用することができる。
なお、この実施形態において前記他端には、第二の弾性部材13の他端と干渉しないようにするための段差125が形成されている。
【0019】
前記一端と他端との間は、板状に形成された弾性部123である。この弾性部123は、テンプルTに付勢力Pを作用させたときに曲げ方向に弾性変形して、付勢力Pに抗した反力を生じさせるもので、このような弾性力を生じさせるβチタンなどのチタン合金やステンレス、ばね鋼などの金属のほか、ポリエーテルイミド(例えば、商品名ウルテム)やグリルアミド(同TR-90)などの樹脂を用いることができる。曲げ方向の弾性力は、このような材料の選択だけでなく、弾性部123の肉厚や形状によっても調整することができる。この実施形態では、弾性部123を適度な肉厚に設定するとともに、テンプルTに付勢力Pを作用させたときに、
図4(b)に示すように緩やかなS字状を形成するように湾曲して形成してある。そして、弾性部123の他端側は、可能な限り湾曲の接線方向から前記他端がテンプルTに接触するように、前記湾曲の形状(曲率半径の大きさ)及び向き(曲率中心の位置)が設定されている。
【0020】
なお、第一の弾性部材12は、主として付勢力Pに抗した反力を生じさせるもので、第一の弾性部材12の他端とテンプルTとの接触は点接触であってもよい。しかし、テンプルTに付勢力Pが作用したときに、上記反力だけでなく、第一の弾性部材12の他端に作用する回転力を打ち消すような反回転力を生じさせるように、第一の弾性部材12の他端とテンプルTとの接触は図示するような面接触とするのが好ましい。
【0021】
[第二の弾性部材]
第二の弾性部材13は、第一の弾性部材12と対をなして略菱形状の連結構造1を構成するもので、その一端は第一の弾性部材12の一端に回動自在に連結されている。また、その他端は、テンプルTの基端部Taから長手方向に沿って伸び、基端部Taで固定的に連結される。この連結手段としては、第一の弾性部材12とテンプルTとの連結と同様に、ボルトや接着、溶着、鑞付けなど公知のものを採用することができる。
第二の弾性部材13と第一の連結部材12とを回動自在に連結する手段としては、ボルトなどの軸や凹凸の係合などを挙げることができるが、この実施形態では、第一の連結部材12と第二の弾性部材13の一端のそれぞれに形成されたS字状のナックル121,131を係合させることで、連結している。このようなナックルジョイントは、第一の連結部材12や第二の弾性部材13が小サイズのものであってもこれらを回動自在に連結することができ、その構成も簡素で壊れにくいという利点がある。
【0022】
第二の弾性部材13の、少なくとも前記一端と基端部Ta他端との間は板状に形成された弾性部133である。この弾性部133は、テンプルTに付勢力Pを作用させたときに曲げ方向に弾性変形するもので、第一の弾性部材12と同様に、βチタンなどのチタン合金やステンレス、ばね鋼などの金属のほか、ポリエーテルイミド(例えば、商品名ウルテム)やグリルアミド(同TR-90)などの樹脂を用いることができる。テンプルTに付勢力Pが作用すると、テンプルTの基端部Taは第一の弾性部材12との連結部分を支点として回転しようとするが、弾性部133は基端部Taを持ち上げ、前記回転に抗する方向に反回転力を生じさせるものである。このようにして、第一の弾性部材12と第二の弾性部材13との協働により、テンプルTに付勢力Pが作用したときに、付勢力Pに抗する反力(弾発力)を生じさせるとともに、テンプルTの回転を抑制し、フロントフレームFの両端の左右のテンプルTの平行状態を保ったままで拡開方向に移動させる。
なお、第二の弾性部材13における弾性部133の曲げ方向の弾性力は、第一の弾性部材12の弾性部123と同様に、材料の選択だけでなく、弾性部133の肉厚や形状によっても調整することができる。この実施形態では、弾性部133が一端側から基端部Taに向けて肉厚が減少するように、一端側が曲がりにくい厚肉部133a、基端部Ta側が曲がりやすい薄肉部133bとして形成してある。また、一端から基端部Taに向けて弓なりに湾曲するように形成してある。
テンプルTに付勢力Pが作用すると、テンプルTの移動とともに第二の弾性部材13の弾性部133は弾性変形するが、弾性部133の弾性変形によってテンプルTに作用する反回転力は、強すぎても弱すぎてもテンプルTを回転させることになる。そこで、厚肉部133aと薄肉部133bの長さの割合を調整したり、これらの肉厚を大小調整したりすることで、テンプルTの可動範囲で常に左右のテンプルTを平行方向に移動させることができるものに調整する。
【0023】
なお、この実施形態の第二の弾性部材13の他端側は、テンプルTの基端部Taで接触し、第一の弾性部材12とテンプルTとの連結部分の近傍まで延ばしてある。第二の弾性部材13の他端とテンプルTの基端部Taとの固着長さ(又は固定・連結する位置)を適宜に調整することによっても、反回転力の大きさを調整することが可能である。
【0024】
上記構成の連結構造1の作用を、
図4及び
図5を参照しつつ説明する。
初期状態においては、第一の弾性部材12及び第二の弾性部材13で構成される連結構造1には負荷が作用しておらず、第一の弾性部材12及び第二の弾性部材13で構成される菱形は閉じた状態である。眼鏡形フレームの利用者が眼鏡形フレームを顔面に装着すると、左右のテンプルTが利用者の側頭部に当接して、左右のテンプルTを押し広げる方向に付勢力Pが作用する。
この付勢力Pが作用すると、第一の弾性部材12及び第二の弾性部材13の協働によって、テンプルTには付勢力Pに抗する反力と、テンプルTを回転させないようにする反回転力とが作用し、左右のテンプルTを回転させることなく、平行方向に拡開させる。また拡開に伴い、左右のテンプルTはフロントフレームF側に前進する。
【0025】
左右のテンプルTの平行方向の移動によって、利用者の側頭部には、常に直交する方向から第一の弾性部材12及び第二の弾性部材13による弾発力が作用するため、眼鏡形フレームが前方にずれにくくなり、フロントフレームFのずり落ちを抑制することができる。さらに、左右のテンプルTがフロントフレームF側に前進しながら拡開するので、利用者の側頭部には第一の弾性部材12及び第二の弾性部材13による後ろ向きの力が作用し、これによっても眼鏡形フレームの前方へのずれにくくなり、フロントフレームFのずり落ちを抑制効果を高めることができる。
【0026】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の説明により限定されるものではない。
例えば、上記の実施形態において第一の弾性部材12及び第二の弾性部材13は弾性を有する材料から形成されているものとして説明したが、第一の弾性部材12及び第二の弾性部材13はこのような構成に限られない。例えば
図6(a)に示すように、第
一の弾性部材12′(及び/又は第
二の弾性部材)を図示するように複数の部材12a′,12b′・・・に分割し、隣接する各部材12a′,12b′・・・を板ばね12c′で連結して各部材12a′,12b′・・・間で弾性を保持させたもの、(b)に示すように、第
一の弾性部材12″(及び/又は第
二の弾性部材)の途中部位に一つ又は複数の薄肉部(凹部12d″)を形成して、全体として弾性を有するように形成したものなどを挙げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、フロントフレームとテンプルとを備え、利用者の顔面に装着される眼鏡形フレームに広範に適用が可能で、眼鏡レンズや拡大レンズなどのレンズ、飛沫防止などのためのフェイスシールドを装着するためのもの限らず、LEDなどの照明体や医療用拡大鏡、ウェアラブルコンピュータなど各種器具や機器を装着するためのものにも広範に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】テンプルを平行方向に移動させるための原理を模式的に示した図である。
【
図2】
図1(b)の固定アーム及び回転アームを弾性部材で形成した弾性連結構造1Cの原理を模式的に表した図で、(a)は付勢力を付与する前の状態を、(b)は付勢力を付与したときの状態を示している。
【
図3】
図3(a)は、本発明の連結構造の一実施形態にかかり、その分解斜視図、
図3(b)は、同分解平面図、
図3(c)は、同組立斜視図である。
【
図4】
図4(a)は同組立平面図、
図4(b)は同組立底面図、
図4(c)は同組立正面図、
図4(d)は同組立左側面図、
図4(e)は同組立右側面図、
図4(f)は同組立背面図である。
【
図5】
図5(a)は付勢力の付与によりテンプルが拡開方向に移動したときの組立斜視図、
図5(b)は同組立平面図、
図5(c)は同組立底面図、
図5(d)は同組立正面図、
図5(e)は同組立左側面図、
図5(f)は同組立右側面図、
図5(g)は同組立背面図である。
【
図6】第一の弾性部材及び第二の弾性部材の他の実施形態を説明する図である。
【符号の説明】
【0029】
1,1A,1B,1C 連結構造
12 第一の弾性部材(第一の部材)
121 ナックル
122 駒
123 湾曲部
124 弾性部
125 段差
13 第二の弾性部材(第二の部材)
131 ナックル
133 弾性部
133a 厚肉部
133b 薄肉部
F フロントフレーム
Fa 智
Fb ボルト
Fc 溝
T テンプル
Ta 基端部