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特許7492691炭化タングステン合金コーティングを伴う圧延機のロールを得る方法、及び得られたロール
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  • 特許-炭化タングステン合金コーティングを伴う圧延機のロールを得る方法、及び得られたロール 図1A
  • 特許-炭化タングステン合金コーティングを伴う圧延機のロールを得る方法、及び得られたロール 図1B
  • 特許-炭化タングステン合金コーティングを伴う圧延機のロールを得る方法、及び得られたロール 図1C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】炭化タングステン合金コーティングを伴う圧延機のロールを得る方法、及び得られたロール
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/02 20060101AFI20240523BHJP
   B21B 27/00 20060101ALI20240523BHJP
   C23C 4/10 20160101ALI20240523BHJP
   C23C 4/18 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C23C4/02
B21B27/00 C
B21B27/00 B
C23C4/10
C23C4/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022538837
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 ES2021070016
(87)【国際公開番号】W WO2021148690
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P202030039
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】522249280
【氏名又は名称】メカニザシオン インダストリアル アスティジェロ,エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(73)【特許権者】
【識別番号】524106749
【氏名又は名称】フエンテヴィラ ディアズ,グレゴリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】フェンテヴィラ ディアズ,グレゴリオ
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056519(WO,A1)
【文献】特開平09-248606(JP,A)
【文献】特開2017-160497(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107699842(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/02
B21B 27/00
C23C 4/10
C23C 4/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン合金のコーティングを伴う圧延機のロールを得るための方法であって、以下の動作段階またはステップが定義されており、
a)前記圧延機のロールにおける表面のグリースを除去するステップ、
c)500mm以上の径の、前記圧延機のロールの表面を、40~45℃で加熱し、500mm未満の径の、前記圧延機のロールの表面を、80~100℃で加熱するステップ、
d)溶射によって、ホウ化モリブデンまたは炭化クロムを含んだ、炭化タングステン合金を用いて前記圧延機のロールをコーティングするステップであって、ここで30~15μmから成る粉末の粒度分布を呈する炭化タングステン合金の粉末を燃焼チャンバで融解し、融解された材料は、キャリヤガスによって噴射ガンに移され、1~8kg/時間から成る値の供給フローで、前記噴射ガンによって前記圧延機のロールに噴射する、コーティングするステップ、
溶射は高速の燃料空気の溶射であり、前記燃料は、600~634kPa(87~92Psi)から成る圧力を伴うプロパンで実体化され、空気は586~620kPa(85~90Psi)から成る圧力で供給され
記プロパンの圧力は、空気圧よりも少なくとも14kPa(2Psi)高く、
前記キャリヤガスは窒素であり、23~24リットル/分から成る流量を伴い、
前記噴射ガンによる噴射は、水素と共に実行され、水素の流量は、33~36リットル/分から成り、
前記噴射ガンと、コーティングされる前記圧延機のロールとの間の距離は、19~26cmから成り、
前記噴射ガンの横断スピードは、2~3mm/秒から成り、前記圧延機のロールの直線運動は、500mmより大きい径で2000mm/秒、200~500mmから成る径で2500mm/秒、及び200mm未満の径で3000mm/秒、のスピードで動くことを想定する、ことを特徴とする、炭化タングステン合金のコーティングを伴う圧延機のロールを得るための方法。
【請求項2】
前記ステップd)の後に、ダイアモンド研磨材を使用する最終研磨ステップを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の、炭化タングステン合金のコーティングを伴う圧延機のロールを得るための方法。
【請求項3】
前記ステップa)及び前記ステップc)の間に、ブラストによって表面を活性化するためのステップb)を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の、炭化タングステン合金のコーティングを伴う圧延機のロールを得るための方法。
【請求項4】
前記ステップd)の後に、ステップe)表面洗浄プロセスを加熱によって実行するステップ、及び前記ステップe)の後にステップf)ガラスビーズを噴射して粗度ピークを丸めるステップを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の、炭化タングステン合金のコーティングを伴う圧延機のロールを得るための方法。
【請求項5】
ステップf)における空気は483~552kPa(70~80Psi)から成る圧力で適用され、その一方で前記燃焼チャンバは262kPa(38Psi)の水準の圧力に保たれ、ガラスビーズは、遊離シリカを含まず化学的に中性で、球形かつ規則的な形状で、非多孔性であり、48~50HRcから成る硬度で、45~90μmから成る粒度分布である、ナトリウム-カルシウムのガラスに基づいた組成を呈する特性を有することを特徴とする、請求項4に記載の、炭化タングステン合金のコーティングを伴う圧延機のロールを得るための方法。
【請求項6】
炭化タングステン合金のコーティングを伴う圧延機のロールであって、前記コーティングは単層であり、0.003~0.020mmから成る厚さを伴い、ワーク表面の全体を覆い、0~0.1%から成るガス浸透性を有し、前記炭化タングステン合金はホウ化モリブデンまたは炭化クロムを含むことを特徴とする、圧延機のロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目標は、炭化タングステン合金の単層コーティングを伴う、圧延機のロールを得ることができるプロセスを開発することである。
【0002】
コーティングは、溶射によって実行される。
【0003】
本発明は、円滑仕上げ及び荒仕上げの両方を伴う圧延機のロールを得るために提供される。本発明の別の目標は、プロセス自体から生成される、コーティング上の汚れを軽減させることである。
【0004】
したがって本発明は、コーティングされた圧延機のワークロールの範囲内に収まる。
【背景技術】
【0005】
圧延鋼の生成において、圧延機のロールが使用される。その機能は、生産性の観点からだけではなく、表面の品質における大きな影響からも、重要である。
【0006】
圧延機のワークロールは、圧延されるストリップに接触し、厚さを減少させる(絞り圧延)か、または圧延した材料に仕上げ及び機械特性を与えるか、のいずれかである。ストリップと圧延機のロールとの接触のため、圧延機のロールは表面が摩耗し、表面仕上げ及びその幾何学的外形を失う。これが生じたとき、圧延機のロールは他のものと交換しなければならない。
【0007】
過去に、圧延機のロールはコーティングされずに使用され、鋳鋼で作られて鍛鋼となり、圧延された多くのトン数に対する耐摩耗性を増加させた。
【0008】
1980年代には、最初のコーティング試験が、様々なコーティングを用いて、鍛鋼の圧延機のロールに実行された。耐摩耗性と価格との組み合わせという観点で、最良の結果を得たのは、電解クロムであった。クロムは、現在世界中で受入れられ、多くの圧延会社のためのコーティングが確立されている。
【0009】
欧州において、環境規制のために、高い毒性の六価クロムから得られたクロムの電解プロセスは、禁止されることになる。数度の一時停止後、EECは、このプロセスを2023年に停止することを決めた。そのため、製造会社はREACHに従った、環境的に実施可能な代替を探す必要がある。これは、プロセスにクロムを使用する会社は、2023年より前に交換するための代替を探すことを示す。これは圧延会社の場合であり、研究開発部を通して、技術的、経済的、及び環境的に、クロムの真の代替である新しいコーティングを試験している。
【0010】
以下に記載するような書類は、当技術分野で公知である。
【0011】
中国特許第107699842号明細書は、非金属圧延プロセスを開示しており、そこでは適用される圧縮力は、鉄鋼圧延プロセスと比較すると非常に低い。この出願における0.15±0.1mmのコーティング厚は、鉄鋼圧延機では作動しないことが既に判っており、供給された層に早すぎるスキッピングを生じさせる。それらはHVAF技術を使用するが、薄い厚さの層には適用できない。薄い厚さの層は本出願に好適であり、十分に証明されている。
【0012】
欧州特許第0694620号明細書は、上記の特許と同じ困難を呈する。
【0013】
中国特許第106011605号明細書は、粉末合金を焼結硬化させ、その後圧延機のロール本体に溶接することによって、リングを製造することを目的としている。
【0014】
結局、それはコーティングではなく硬化スリーブの製造であり、プロセスは、平板(熱間及び冷間)圧延機のロールには適用できない。より詳細には、これらのリングは、ローラ本体に設定され、ワイヤロッド、鉄片など長い製品を圧延するために使用される。その製造の複雑さのため、これらのリングのサイズは非常に小さく、それらは平板製品(シートメタル)の熱間及び冷間圧延には寸法的に有用ではなく、mm範囲の厚さを呈し、30~150mmの範囲で可能である。
【0015】
これらのリングは、熱間及び冷間シートメタル圧延機において適用される圧延荷重に耐えず、非常に低い伝導性を呈し、大きい厚さのために、頻繁に変化する圧延空隙で生成された熱を消散させず、技術的及び経済的に動作可能ではない。
【0016】
中国実用新案第2091128522号明細書は、炭化タングステンを波形ローラに噴射する一般的なプロセスから成り、波形カードボードを製造するために使用され、冷間及び熱間金属圧延には適用できない。
【0017】
より詳細には、炭化タングステンの厚さは0.030mmより厚く、金属圧延力に耐えられないので、コーティングは剥離する。このプロセスにおいて、コーティング適用のために数回の通過が必要である事実を、加えなければならない。
【0018】
中国特許第106040744号明細書は、炭化タングステンの層が硬化プロセスによって提供されるプロセスを記載している。そこでは、炭素及びタングステンが炉に導入され、炭化タングステンの層を蒸着させて、圧延機のロール本体における炭素濃度を増加させる。
【0019】
硬化プロセスは、920℃を超えた温度で実行される。
【0020】
この技術を使用して炭化タングステンを蒸着させるために、蒸着層の接着を保証できるように、(レーザで)表面彫刻を実行することが必要である。
【0021】
この技術は、冷間圧延機のワークロールには適用できない。なぜならそれは、硬化温度において破壊されるマルテンサイト構造の層(20~25mm厚)を呈するからである。この構造は、圧延機のロールに硬い層を与え、それがHVAFコーティングを支持し、冷間圧延機の作業条件下で圧延機のロールの変形を軽減させ、圧延機のロールの使用期間を減少させる。
【0022】
硬化温度のために、圧延機のロールは復元を許容しない。なぜなら、圧延機のロールにおけるスリーブは変形し、使用不能になるからである。したがって、この適用は、新しく製造された圧延機のロールのためだけのものである。この問題は熱間圧延機のロールでも生じ得る。
【0023】
現実的には、新しい熱間及び冷間シートメタルの圧延機におけるロールの価格は非常に高く、そのためこのプロセスは、再使用できない場合に経済的に実現可能とならない。
【0024】
同時に、この技術と共に実行する必要があるレーザ彫刻は、冷間圧延に使用できない。なぜなら、圧延圧によって圧延製品に傷跡が付けられ、使用できない状態にするからである。
【0025】
さらに、硬化中の炭素濃度の増加は、圧延機のロールの脆弱性を増加させることになり、それによって、熱間圧延条件下で生じる温度ひび割れのために、圧延機のロールから剥離する材料の変化及び欠陥が減少しない。
【0026】
さらに、熱間圧延プロセスの(400℃より高い)温度において、この炭化タングステンコーティングは(既に試験されたように)実行可能ではない。なぜなら400℃を超えると硬度を失い、耐摩耗性を低下させるからである。
【0027】
要するに、この技術が、圧延機のロールを加工する必要がある長い時間を考慮すると、熱間及び冷間圧延の論理的条件において、経済的に実行不可能なプロセスである。
【0028】
中国特許第104611664号明細書は、メタルセラミック(炭化タングステンなど)を圧延機のロールに蒸着させる一般的なプロセスを記載しており、それは冷間圧延機のワークロールには適用可能ではない。
【0029】
この技術は、ブライドル装置、引張装置、ガイドローラなどに適用可能であり、現在世界中で使用されている。この技術の相違は、Ni-Alの初期層(0.02mm)を噴射することによって適用することに基づき、多孔質層を作り出すことで耐腐食性を改善することである。次に、0.15~0.20mmの厚いサーメット層が適用され、最後に、この層がやはり多孔質であるので、有機封止剤(細孔カバー)が適用されて、その後硬化される。
【0030】
したがってこれは、圧延に使用されるローラのための典型的技術であるが、圧延機のワークロールのための技術ではない。
【0031】
より詳細には、適用される厚さは極めて厚く(合計0.17~0.22mm)、そのためこの層は、シートメタルの初めのメートルが圧延されるときに剥離する場合がある(既に試験済)。
【0032】
同時に、説明した厚さを適用するために、4回より多い通過を実行することが必要であり、そのためより大きい応力がコーティングに発生することになり、それは圧延中の剥離を引き起こすことになる。
【0033】
さらに、超音波噴射プロセス中に、燃焼に必要な酸素の高い含有量のために、高い多孔性及び脆弱性がコーティングに発生する。
【0034】
したがって、当技術分野の書類から確認できるように、それらが炭化タングステンコーティングであっても、いくらかの欠点を呈する。多くの場合、コーティング厚は非常に厚いか、または圧延機のロールに適用できない加工であり、鉄鋼圧延機の場合、それらは供給された層に早すぎるスキッピングを生じさせ、そのため冷間圧延には好適ではなく、その一方で他の場合、それらは2層のコーティングを使用するか、またはローラであり、大幅に低い圧縮力を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【文献】中国特許第107699842号明細書
【文献】欧州特許第0694620号明細書
【文献】中国特許第106011605号明細書
【文献】中国実用新案第2091128522号明細書
【文献】中国特許第106040744号明細書
【文献】中国特許第104611664号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
したがって本発明の目標は、圧延プロセスにおける圧延機のワークロールに対する表面コーティングを発展させることであり、クロムめっきと同様の価格で、圧延機の性能を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
提案する方法は、完全に満足する方法で、上記で呈した問題を解決する。
【0038】
このため、より詳細には、以下の動作段階が、本発明の方法において考慮される。
a)圧延機のロールにおける表面のグリースを除去すること
c)圧延機のロールの表面を加熱すること
d)溶射によって、炭化タングステン合金またはそれらの複数の合金を用いて圧延機のロールをコーティングすることであって、ここで30~5μmから成る粉末の粒度分布を呈する炭化タングステン合金の粉末を燃焼チャンバで融解し、この融解材料を、キャリヤガスによって噴射ガンに移し、1~8kg/時間から成る値の供給フローで、ガンによって圧延機のロールに噴射する、コーティングすること
【0039】
最初のグリースを除去するステップa)は、圧延機のロールの表面から油及び脂質の残りを除去する。
【0040】
加熱ステップc)は、事前の予加熱を実行する役割を担い、それによって圧延機のロールの表面は、供給された層の浸透性及びひび割れの増加を起こすことになる熱衝撃を生成することなく、後続のコーティングを可能にすることができる。
【0041】
溶射ステップd)は、圧延機のロールを、適切な材料、厚さ、及び機械特性でコーティングするステップである。噴射される材料は、燃焼チャンバにおいて、部分的または完全に融解される。この融解材料は、ガンのノズルで加速され、速いスピードで圧延機のロールの表面に放たれる。
【0042】
炭化タングステン合金の30μmより大きい粒度分布は、浸透性の増加及び耐衝撃性の低下を誘発し、圧延プロセス中において供給された層に剥離の不具合を生じさせる。8kg/時間より大きいフローは、コーティング厚の増加、応力の増加、及びガンの中における粉末の堆積の増加、を生み出す。
【0043】
(シートメタル及びブリキ圧延のための)円滑仕上げが必要な場合、ダイアモンド研磨材を用いた従来の研磨の追加ステップが加えられ、必要な値まで粗度を低下させる。
【0044】
荒仕上げが必要な場合、方法は、専門的なブラストによって表面を活性化させるためのステップb)を、任意選択で考慮し、それによってこのステップでは油及び脂質の残りを除去する。このブラスト作業は、酸化アルミニウムを使用したものと同じ噴射ガンを用いて、熱間及び冷間において制御された粗度で実行されることになる。
【0045】
洗浄が重要である荒仕上げを得るための、別の選択肢は、このステップb)を抜いて、ステップd)の後に新しいステップを加えることである。
【0046】
ステップe)において、表面洗浄プロセスは、ステップc)と類似した加熱によって実行され、炭化タングステン合金の溶射であるステップd)で生成された汚れを除去することを目的としたステップである。
【0047】
ステップf)において、粗度のピークは、ガラスビーズを噴射することによって丸められる。この段階は、摩擦を軽減させる。
【0048】
全ては同じ噴射ガンによって実行される。
【0049】
方法における、これら3つの変形のいずれからも、薄い厚さのコーティングを用いて、炭化タングステン合金でコーティングされた圧延機のロールが得られる。このコーティングは単層であり、0.003~0.020mmから成る厚さで、ワーク表面に100%の影響を及ぼす。
【0050】
コーティング厚の測定は、ASTM-B499規格によって判断される。
【0051】
このように、単層の炭化タングステンまたはその合金を用いて、かつ0.003~0.020mmから成る厚さで、圧延機のロールのコーティングを実現することが、単なるデザイン及び/または製造における選択肢ではないことを強調することは、価値がある。なぜなら、通常の条件下で、0.020mm未満の厚さで層を適用することは、圧延機のワークロールに非常に低い被覆率のコーティングを生成し、部分的に高い浸透性を伴う非被覆領域を残し、この層の剥離をもたらすからである。この理由のため、1/2以上の層が、ワーク表面の100%の被覆を保証するために適用され、0.020mmよりも大きく達する厚さを成す。これは、厚さ及び次に適用される層が内部応力を含むことから、圧延条件に耐えない。これらの応力のため、供給された層の微細ひび割れが圧延応力下で生じ、その結果コーティングの不具合が実現することになり、層をスキッピングする。これは、本発明の圧延機のロールでは起こらない。
【0052】
本発明における圧延機のロールの利点は、クロムめっきの圧延機のロールに対して2倍以上、非コーティングの圧延機のロールに対して3倍以上に、圧延機のロールの使用期間(摩耗制限)を延ばすことである。それは圧延運動の時間を延ばし、圧延機のロールの合計年間消費を減少させ、かつ継続した圧延運動の予定を考える必要なく、進行中に幅の変更を実行できる可能性を提示する。
【0053】
得られた圧延機のロールは、シートメタルと圧延機のロールとの摩擦に対する良好な耐摩耗性を保証するために、1300HVより大きい硬度を呈し、かつ0.8~3Tm/mmの圧延プロセスにおける高い圧縮力に耐えるために、0.1%未満の浸透性を呈する。
【0054】
浸透性は、透気試験によって測定される。硬度は、ASTM-B578規格によって測定される。
【0055】
別様に示されたとき以外、本明細書で使用される技術的要素及び科学的要素は、本発明が属する平均的な当業者が一般的に理解される意味を有する。本発明が実施されるとき、本明細書で説明するものと類似または同等の方法、及び材料が使用され得る。
【0056】
明細書及び特許請求の範囲の全体を通して、用語「備える(comprise)」及びその変形は、他の技術的特徴、追加物、構成要素、またはステップを排除することを意図しない。当業者には、本発明における他の目標、利点、及び特徴が、本発明の説明及び実施の両方から推定されるであろう。
【0057】
本明細書で提供されることになる説明に対する捕捉として、かつ本発明の特徴をより容易に理解するのを助ける目的のために、好ましい実際の例示的実施形態に従い、この説明には図面のセットが添付され、それらは例示によって、非限定で、不可分の一部を構成し、以下で表わされる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1A】現在使用されているクロムコーティングの断面図である。
図1B】高速の酸素燃料噴射技術によって適用された、典型的な炭化タングステンコーティングの断面図である。
図1C】本発明の目標である高速の空気燃料噴射技術によって提供した、炭化タングステンコーティングの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明の方法における変形実施形態の任意のものに従い、以下の動作ステップは、それらの全てで実現される。
a)圧延機のロールにおける表面のグリースを除去するステップ
c)圧延機のロールの表面を加熱するステップ
d)溶射によって、炭化タングステン合金またはそれらの複数の合金を用いて圧延機のロールをコーティングするステップであって、ここで30~5μmから成る粉末の粒度分布を呈する炭化タングステン合金の粉末を燃焼チャンバで融解して、この融解材料を、キャリヤガスによって噴射ガンに移し、1~8kg/時間から成る値の供給フローで、ガンによって圧延機のロールに噴射する、コーティングするステップ
【0060】
好ましくは、ステップa)は、冷却溶媒または蒸気相を使用して実行される。
【0061】
好ましくは、ステップc)における温度は、圧延機のロールが溶射プロセス中に達するであろう圧延機のロールの温度と類似することが望ましく、それはコーティングされる圧延機のロールの大きさに応じたものになる。詳細には、500mm以上の径を伴う圧延機のロールのために、温度は40~50℃から成るものでなければならない。詳細には、500mm未満の径を伴う圧延機のロールのために、温度は80~100℃でなければならない。詳細には、加熱は燃焼炎を用いて実行される。
【0062】
得られる圧延機のロールは、円滑仕上げ(0.2~0.4ミクロン)を有するよう意図されるとき、最終研磨動作は、同じ噴射器及び/または外部の機械によって実行される。研磨は、ダイアモンド研磨材を使用して回転機械で実行され、噴射によって粗度を低減させて指定した値を実現する。
【0063】
それは、以下のパラメータを有して、乾式(冷媒なし)で実行される動作である。
-圧延機のロールの回転:50~100rpm
-研磨材ストリップの移動スピード:20~60cm/分
-研磨材のタイプ:ダイアモンド
-研磨材の粒径:150~250μm
-ストリップのタイプ:自然冷却のために銅の挿入物を伴う繊維
【0064】
本発明の第2の変形実施形態によると、荒仕上げを得るために、方法は、専門的なブラストによって表面を活性化するための、ステップb)を含む。このステップは、油及び脂質の残りを除去する。このブラスト動作は、酸化アルミニウムを使用した同じ噴射ガンを用いて、熱間及び冷間において制御された粗度で実行されることになる。
【0065】
ブラストステップは、80%を超えるコーティング接着を保証する。ASTM-B571規格は、コーティングの接着における定性的判断のために使用される。
【0066】
より詳細には、ステップd)において、溶射は、高速空気燃料の溶射において実体化される。好ましくは、空気圧は、85~90Psiから成る範囲である。詳細には、燃料はプロパンである。好ましくは、プロパンの圧力は87~92Psiから成る範囲であり、さらに詳細には、プロパンの圧力は、空気圧よりも少なくとも2Psi大きい。
【0067】
好ましくは、キャリヤガスは窒素である。好ましくは、窒素の流量は、20~30リットル/分から成る。より好ましくは、23~24リットル/分から成る。
【0068】
好ましくは、ガンによる噴射は、水素と共に実行される。好ましくは、水素の流量は、30~40リットル/分から成る。より好ましくは、33~36リットル/分から成る。
【0069】
好ましくは、ガンと、コーティングされる圧延機のロールとの間の距離は、19~26cmから成る。好ましくは、粉末は、30~15μmから成る粒径分布である。好ましくは、供給フローは4~8kg/時間から成る。
【0070】
好ましくは、噴射ガンの横断スピードは2~3mm/秒から成る。コーティングのいくつかの層が適用されるとき、これらのスピードは使用できない。なぜなら、部品に過熱を生じさせ、熱応力を誘導するからである。好ましくは、圧延機のロールの直線運動(mm/秒)は、2000~3000mm/秒の接線スピードである。詳細には、500mmより大きい径に2000mm/秒が使用され、200~500mmから成る径に2500mm/秒が使用され、200mm未満の径に3000mm/秒が使用される。
【0071】
荒仕上げを得るよう意図されたときの、第2の選択肢は、洗浄が重要であり、上述のステップb)を省略して、ステップd)の後に2つの新しいステップが加えられる。
【0072】
ステップe)において、炭化物微粒子の洗浄プロセスが、炎を減らすことによって実行され、水素を燃焼に投入する。水素が導入されない場合、炎は酸化してコーティングを部分的に酸化させ、以下の状況を生じさせる。
-脱炭:有用な炭化相WCの含有量(%)を減少させ、別の望ましくない非常に脆いWC相が形成され、コーティングの耐摩耗性を低下させる。
-燃焼における、より高い酸素含有量のため、自然の多孔性が増加する。
【0073】
このステップにおいて、空気圧は、好ましくは80~84Psiから成り、プロパンの圧力は86~89Psiであり、その一方で窒素、水素、及び燃焼チャンバの圧力は、約72Psiに設定される。窒素の流量は23リットル/分の水準、及び水素の流量は15リットル/分の水準を使用する。
【0074】
ステップf)において、ピークは、炎を使用せず空気圧を設定するのみで、噴射ガンによって丸められる。噴射材料は、コーティングを侵さないよう、コーティングよりも低い硬度のガラスビーズである。大量のガラスビーズの圧力は、粗度のピークにおいて塑性変形を生じさせて、丸める。粗度は減少する傾向にあるため、目標の粗度を実現させるために、10%高い粗度から開始することが必要である。
【0075】
このステップにおいて、空気圧は、好ましくは70~80Psiから成り、一方で燃焼チャンバは、38Psiの水準の圧力に保たれる。
【0076】
ガラスの極小体に関して、それらは遊離シリカがなく、かつ化学的に中性である、ナトリウム-カルシウムのガラスに基づいた組成を有し、球形かつ規則的な形状を伴い、非多孔性で、48~50HRcから成る硬度を有し、45~90μmから成る粒度分布である。
【0077】
このプロセスから、ストリップ上の汚れを軽減させることが可能で、より丸められたピークを伴うコーティング外形を実現して、シートメタルとの摩擦を減らし、ストリップ上の微細鉄の数を減少させる。
【0078】
上述の3つの事例のいずれにおいても、圧延機のロールは、炭化タングステン合金のコーティングを伴って得られる。このコーティングは単層であり、0.003~0.020mmから成る厚さを伴い、ワーク表面に100%の影響を及ぼす。
【0079】
好ましくは、コーティングの浸透性は、0~0.1%の範囲である。
【0080】
合金は、好ましくは:WC-CoCr、WC-NiCr、WC-Co、WC-Ni、WC-CrC-Ni、WC-CrC-Co、炭化タングステン、及びホウ化モリブデン合金(WC-Mo B Ni Co Cr Feなど)、から選択される。
【0081】
好ましくは、炭化タングステン合金は炭化クロムを含む。
【0082】
好ましくは、炭化タングステン合金はホウ化モリブデンを含む。組成にMoBを伴うこれらの合金は、WC合金よりも優れた非粘着特性を呈する。
【0083】
コーティング相は、以下のような最終的な特性を有する。
-厚さ、mm 0.003~0.012mm
-硬度、Hv 1300~1600Hv
-浸透性、% 0.1%未満
-ヤング係数、GPa 450GPa以下
-粘着性、MPa、80より大きい
-通過回数 1
【0084】
本発明の性質、ならびにいかにして実現するか、を適切に説明した。基本的性質内で、本発明は、例として提示された詳細とは異なる他の実施形態によって実行され、その基本的原理が改変、変化、変更されなければ、求められる保護は等しく網羅され得ることに、留意しなければならない。
図1A
図1B
図1C