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特許7492723シロリムス含有顆粒製剤、及びその製造方法
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  • 特許-シロリムス含有顆粒製剤、及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】シロリムス含有顆粒製剤、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/436 20060101AFI20240523BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240523BHJP
【FI】
A61K31/436
A61P37/06
A61K9/16
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019217699
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021088507
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504237832
【氏名又は名称】ノーベルファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】野村 達雄
(72)【発明者】
【氏名】安澤 亨
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/053974(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0095144(US,A1)
【文献】特開2009-263303(JP,A)
【文献】特開平11-092403(JP,A)
【文献】特表2008-514706(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204215(WO,A1)
【文献】小関道夫,難治性血管・リンパ管疾患に対するシロリムスの臨床試験,JRCT臨床研究等提出・公開システム,2019年09月17日,https://jrct.niph.go.jp/detail/2005/jRCT/1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K31/00-33/44
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成粒子中に、シロリムス、トコフェロールとを含有し、ヒドロキシプロピルセルロースを含まない、シロリムス含有顆粒製剤であって、
シロリムスの含量が、顆粒製剤全体の0.2質量%であり、トコフェロールの含量は、シロリムスに対する質量比にして、1~2.5倍である、製剤
【請求項2】
トコフェロールの含量が、顆粒製剤全体の0.2質量%以上である、請求項1に記載のシロリムス含有顆粒製剤
【請求項3】
顆粒製剤を構成する各粒子が、その中心に核となるコア粒子を有する、請求項1又は2に記載のシロリムス含有顆粒製剤
【請求項4】
顆粒製剤を構成する各粒子において、コア粒子に、シロリムスとトコフェロールが結合している、請求項3に記載のシロリムス含有顆粒製剤
【請求項5】
コア粒子が、ショ糖及び/又はマンニトールを主成分とする粒子である、請求項3に記載のシロリムス含有顆粒製剤
【請求項6】
コア粒子が、略球形の粒子である、請求項3~5のいずれか一項に記載のシロリムス含有顆粒製剤
【請求項7】
(1)シロリムスとトコフェロールとを含有した溶液と、顆粒製剤の核となるコア粒子とをヒドロキシプロピルセルロースの不存在下で混合する工程、及び
(2)工程(1)で得られた混合物を乾燥させる工程、
を含むことを特徴とする、シロリムス含有顆粒製剤の製造方法であって、
シロリムス含有顆粒製剤は、シロリムスの含量が、顆粒製剤全体の0.2質量%であり、トコフェロールの含量は、シロリムスに対する質量比にして、1~2.5倍である、製造方法
【請求項8】
シロリムスとトコフェロールとを含有した溶液における溶媒がエタノールである、請求項7に記載の製造方法
【請求項9】
トコフェロールの含量が、顆粒製剤全体の0.2質量%以上である、請求項7又は8に記載の製造方法
【請求項10】
コア粒子が、ショ糖及び/又はマンニトールを主成分とする粒子である、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法
【請求項11】
コア粒子が、略球形の粒子である、請求項7~10のいずれか一項に記載の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロリムス含有顆粒製剤、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シロリムス(別名:ラパマイシン)は、イースター島の土壌から分離された放線菌Streptomyces hygroscopicusの代謝産物であり、1970年代にマクロライド系抗生物質として見出された。その後、シロリムスは免疫抑制作用を有することが明らかとなり、1999年9月に米国で、2001年3月にヨーロッパで「腎移植患者における臓器拒絶反応の予防」を効能・効果として承認され、使用されている。国内では、2014年7月に「リンパ脈管筋腫症」の効能・効果で承認され、経口剤として臨床応用されているが、現在知られている、シロリムスを有効成分として有する経口剤は、錠剤のみである。
【0003】
しかし、特に高齢者の患者には、服用しやすく且つ服用量の調整が容易な粉末製剤とすることが望ましい。
【0004】
ここで、シロリムスは水に難溶であるため、これを単に顆粒製剤としただけでは、服用後に生体に吸収されにくく、十分な薬効を得ることができない。そのため、シロリムス含有製剤の製剤設計に際しては、服用し易さに加え、生体吸収性の向上も図る必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、シロリムスをポリエチレングリコール6000およびポロキサマー188に加熱溶解して、乳糖等に噴霧して得られた粉末(固体分散体)を圧縮した錠剤等が開示されている。しかし、犬を用いた吸収性の比較では、市販の錠剤と比べ、格段に優れた吸収は示していない。また、同文献に記載された製造方法は、シロリムスを加熱溶融した液を粒子にスプレーする方法であるため、特殊な装置が必要であり、汎用性が低いと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2008-532953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シロリムス含有経口剤は、高齢者を含む幅広い年齢の患者に用いられるため、より服用しやすくかつ用量の調整が容易な、顆粒製剤の形態にて用いることが望ましい。しかし、シロリムスは水に対する溶解性が極めて悪く、かつ安定性に乏しい(例えば、酸化等の影響により分解する)。さらに、シロリムスを単に顆粒製剤としただけでは、服用後に生体に吸収されにくく、十分な薬効を得ることができない。したがって、顆粒製剤の設計においては、これらの問題点を克服することが必要である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、シロリムスの生体吸収性、及びシロリムスの安定性がともに向上した、シロリムス含有顆粒製剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意検討の結果、シロリムス含有顆粒製剤において、粒子中にシロリムスと共にトコフェロールを含有し、かつ、顆粒製剤における結合剤として汎用されているヒドロキシプロピルセルロースを含有しないことにより、シロリムスの生体吸収性、及びシロリムスの安定性がともに向上することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
トコフェロール(ビタミンE)は、アスコルビン酸と同様に、抗酸化剤として知られている化合物である。つまり、トコフェロールを配合させることにより、抗酸化作用効果は期待されるものの、生体吸収性に影響を与えることは、全く知られていなかった。また、トコフェロールの抗酸化効果は他の抗酸化剤と比較して特段に優れているわけではなく、シロリムス含有顆粒製剤において、トコフェロールが、他の抗酸化剤と比較して特に優れた安定性向上効果を奏することも、全く予想されていなかった。加えて、顆粒製剤における結合剤として汎用されているヒドロキシプロピルセルロースがシロリムス含有製剤の安定性に影響を与えることも知られていなかった。我々はこのような従来の知見に反し、シロリムス含有顆粒製剤中にトコフェロールを配合させ、さらにヒドロキシプロピルセルロースを含有しない剤型とすることによって、シロリムスの生体吸収性が向上し、さらに安定性の向上も図ることができることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、構成粒子中に、シロリムスとトコフェロールとを含有し、ヒドロキシプロピルセルロースを含まない、シロリムス含有顆粒製剤である。
【0012】
また本発明は、(1)シロリムスとトコフェロールとを含有した溶液と、顆粒製剤の核となるコア粒子とをヒドロキシプロピルセルロースの不存在下で混合する工程、及び(2)工程(1)で得られた混合物を乾燥させる工程、を含むことを特徴とする、シロリムス含有顆粒製剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、生体吸収性が担保され、かつ安定性が向上した、シロリムス含有顆粒製剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、各試料投与被験者における全血中シロリムス濃度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施形態は、シロリムスとトコフェロールとを含有し、ヒドロキシプロピルセルロースを含まない、シロリムス含有顆粒製剤である。本発明に係るシロリムス含有顆粒製剤は、上記の様な構成を有しているので、長期間保存後のシロリムスの安定性が高く、服用後のシロリムスの溶出並びに生体吸収性が高いといった優れた効果を奏する。
【0017】
好ましい態様において、本発明に係る顆粒製剤は、コア粒子に、シロリムス及びトコフェロールを結合させた粒子により構成される。ここで、「結合」している状態は、例えば、結合する両者が隣接して一体となっている状態を含む。例えば、シロリムス及び/又はトコフェロールが、粒子と接した状態又は接着した状態で、顆粒製剤を形成している場合、シロリムス及び/又はトコフェロールと粒子とは結合しているといえる。また、粒子の形状は、略球形であることが好ましい。粒子の大きさは、1mmの篩を通過できる大きさであることが好ましい。
【0018】
本発明において、「コア粒子」という語は、本発明に係る顆粒製剤を構成する各々の粒子の略中心に位置して核となる粒子をいう。本発明において、コア粒子は、口内崩壊性を有する粒子であることが好ましく、製造時において用いられるシロリムス及び/又はトコフェロールを含有した溶液における溶媒に対し、不溶又はほとんど溶けない性質をもった粒子を用いることが好ましい。具体的には、溶媒がエタノールの場合は、ショ糖及び/又はマンニトールを主成分とする粒子を用いることができる。コア粒子の主成分は、上記の条件を満たしている限り特に限定されないが、マンニトールを好ましいものとして用いることができる。またコア粒子の形状は、特に限定されないが、略球状の粒子を好ましいものとして用いることができる。粒子の形状が球形に近いほど、シロリムス及びトコフェロールを均一に結合させることができ、品質が安定する。
【0019】
本発明の一実施形態において、顆粒製剤中のトコフェロールの含量は、シロリムスに対する質量比で等倍以上、顆粒製剤全体の0.2質量%以上であることが好ましい。上限は、経口投与製剤における許容上限値とすれば良く、例えば、シロリムスを0.2質量%含有する顆粒製剤において、一日の使用上限を2gとした場合には、シロリムスに対する質量比で2.5倍程度、顆粒製剤全体の0.5質量%とすることができる。
【0020】
本発明の一実施形態において顆粒製剤中のシロリムスの含量は、有効量のシロリムスを服用するために、扱いやすい体積となる量であればよく、特に限定されない。通常は、0.05~1.0重量%の範囲で、適宜調整して用いることができる。ここで、「有効量のシロリムスを服用するために、扱いやすい体積」とは、服用にあたって、適度な体積であることを意味する。例えば、顆粒製剤中のシロリムスの含量が大きすぎる場合は、顆粒製剤全体としては体積が小さくなり、一方顆粒製剤中のシロリムスの含量が少なすぎると、顆粒製剤全体の体積が大きくなり、いずれも服用するのが難しくなる。
【0021】
本発明の一実施形態において顆粒製剤は、本発明に係る顆粒製剤の効果や性能を損なわない限りにおいて、薬学的に許容される添加剤を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の別の一実施形態は、(1)シロリムスとトコフェロールとを含有した溶液と顆粒製剤の核となるコア粒子とをヒドロキシプロピルセルロースの不存在下で混合する工程を含むことを特徴とする、シロリムス含有顆粒製剤の製造方法である。この製造方法は、例えば、(2)工程(1)で得られた混合物を乾燥させる工程を含んでいてもよい。この製造方法を用いれば、シロリムスとトコフェロールを結合させたコア粒子を各粒子の中心に有し、ヒドロキシプロピルセルロースを含有しない顆粒製剤を製造できる。
【0023】
上記製造方法において、シロリムス及びトコフェロールを含有した溶液の溶媒は、シロリムス及びトコフェロールを溶解させることができる溶媒であれば、特に限定されない。溶媒は、例えば、エタノール、アセトン、プロパノール等を用いることができ、好ましくはエタノールを用いることができる。
【0024】
上記製造方法で得られる顆粒製剤のトコフェロール及びシロリムスの含量、コア粒子の形状や種類等の実施形態は、前述の顆粒製剤における実施形態と同様である。例えば、シロリムスとトコフェロールとを含有した溶液におけるトコフェロールの含量は、シロリムスに対する質量比にして、等倍以上、または1~2.5倍とすることができる。また、コア粒子は、ショ糖及び/又はマンニトールを主成分とする粒子とすることができる。コア粒子は、略球形の粒子とすることができる。
【0025】
上記製造方法は、例えば、シロリムスと上記溶媒とを混合し、シロリムス溶液を調製する工程、そのシロリムス溶液にトコフェロールを溶解する工程、得られたシロリムスとトコフェロールとを含有する溶液を粒子成分に加える工程、シロリムスとトコフェロールと粒子成分との混合物を乾燥し、固形物を調製する工程、その固形物を、篩分する工程を含んでいてもよい。
【0026】
本発明の一実施形態においてトコフェロールは、α-、β-、γ-、又はδ-トコフェロールを含む。
【0027】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、実施形態を組み合わせて採用することもできる。
【実施例
【0028】
以下に具体的な実施形態を挙げて本発明を説明するが、本発明はその実施形態に限定されるものではなく、それらにおける様々な変更及び改変が当業者によって、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく実行され得ることが理解される。
【0029】
試験例1:種々の添加剤による安定性の違いの検討
(1)試料
シロリムスのエタノール溶液(1質量%)100gに対し、各添加剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日光ケミカルズ株式会社製、NIKKOL(登録商標) HCO-60)、ポロキサマー188(BASFジャパン株式会社製、Kolliphor(登録商標)188)、ヒドロキシプロピルセルロース(信越化学工業株式会社製、HPC-SL)、トコフェロール(BASFジャパン株式会社製、DL-ALPHA-Tocopherol))を、表1に記載した量添加して、溶解した。この液を、混合機中で撹拌しながら、表1に記載した量のマンニトールに添加した。これを、流動層乾燥機に移し、給気温度70℃で、乾燥減量が0.4%以下となるまで乾燥した。得られた固形物を、目開き1mmの篩で篩分し、各顆粒製剤試料とした。
【0030】
【表1】
*無水エタノールは乾燥により除去されるので、合計質量には含めない。
【0031】
(2)試験方法
上記(1)で調製した各試料につきそれぞれ30gを秤量してガラス瓶に移し、プラスチック栓をした。それぞれの試料を安定性試験器に入れ、40℃、75%RHの条件で保存した。
【0032】
試験開始時、保存2週間後、及び、保存7週間後のそれぞれにおいて、下記の条件によるHPLC法により、シロリムス含量(残存量)(%)、及び、分解物である、セコーシロリムス含量(%)の定量を行った。
【0033】
(HPLC条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:280nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:酢酸(100)6mLに水を加えて1000mLとした後、トリエチルアミンを加えてpHを3.6に調整する。この液400mLに1,4-ジオキサン600mLを加えて混合する。
流量:クロマトグラム上におけるシロリムスの異性体ピークのうち最も保持時間の短いものの保持時間が約15分となるように調整
【0034】
(3)結果
安定性の測定結果を、表2に示す。試料1(添加剤無し)及び試料2(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油配合)においては、シロリムス含量が保存期間の経過に伴って急激に低下しており、十分なシロリムスの安定性が得られないことが示された。試料1及び試料2の保存試料において、セコーシロリムスは検出されなかったものの、シロリムスの含量が急激に低下していたことから、分解によりセコーシロリムスが生成するものの、さらに分解が進んだことにより、未検出となったものと判断された。
【0035】
試料3(ポロキサマー188配合)、試料4(ヒドロキシプロピルセルロース配合)及び試料6(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びヒドロキシプロピルセルロース配合)では、試料1、試料2よりは分解抑制効果が見られたものの、保存7週間で、試料3においては15%以上の含量低下が確認され、また、試料4及び試料6では、6%以上のセコーシロリムスの発生が確認され、安定性向上効果は不十分であると判断された。
【0036】
一方、試料5(トコフェロール配合)では、シロリムス含量の低下が抑制されていることに加え、セコーシロリムスの生成も効果的に抑制されていることが確認された。
【0037】
【表2】
【0038】
試験例2:種々の添加剤による溶出性及び安定性の違いの検討
(1)試料
シロリムスのエタノール溶液(1質量%)100gに対し、各添加剤(ヒドロキシプロピルセルロース、トコフェロール、アスコルビン酸)を、表3に記載した量溶解させた。この液を、混合機中で撹拌しながら、表1に記載した量のマンニトールに加えた。これを、流動層乾燥機に移し、給気温度70℃で、乾燥減量が0.4%以下となるまで乾燥した。得られた固形物を、目開き1mmの篩で篩分し、各顆粒製剤試料とした。
【0039】
また、溶出性については、比較対象として、市販のシロリムス錠剤(ラパリムス(登録商標)錠、ノーベルファーマ株式会社製)を用いた実験も行った。
【0040】
【表3】
*無水エタノールは乾燥により除去されるので、合計質量には含めない。
【0041】
(2)溶出性
試験方法:パドル法(溶媒:水、試験液量:900mL、回転数:100rpm)を用いた。
結果:溶出性の測定結果を、表4に示す。試料9(トコフェロールを含まない顆粒製剤)を除く全ての顆粒製剤処方において、シロリムス錠剤(表4の「錠剤」)と比較して溶出性が向上していることが確認された。
【0042】
【表4】
【0043】
(3)安定性
試験方法:上記(1)で調製した各試料につきそれぞれ30gを秤量してアルミ袋に移し、脱酸素剤(ファーマキープ(登録商標)KD-20、三菱ガス化学株式会社製)を同梱してヒートシールにより封をした。それぞれの試料を安定性試験器に入れ、40℃、75%RHの条件で保存した。
【0044】
試験開始時、保存2週間後、及び、保存4週間後のそれぞれにおいて、試験例1と同様の条件のHPLC法により、シロリムス含量(残存量)(%)、及び、主要な分解物である、セコーシロリムス含量(%)の定量を行った。また、試料10については、8週後、試料9及び試料12については、8週間後、及び、3か月後のデータも取得した。
【0045】
結果:安定性試験の結果を、表5に示す。試料7、試料8、試料10、及び、試料11(トコフェロール及び/又はアスコルビン酸と共に、ヒドロキシプロピルセルロースを配合させた顆粒)では、試料9(添加剤無し)と比べ、保存時間の経過に伴うシロリムス含量の減少量が多いことが確認された。また、試料7、試料8、試料10、及び、試料11では、試料9と比較して、保存時間の経過に伴うセコーシロリムスの発生量が多いことも確認された。従って、これらの処方では、シロリムスの安定性を向上させることはできないことが確認された。
【0046】
一方、試料12(トコフェロールを配合させた顆粒)では、試料9と比較してもシロリムス含量の減少が抑制されるとともに、セコーシロリムスの発生量が0.5%未満であり、セコーシロリムスの発生が試料9と同様に十分に抑えられていた。
【0047】
これらの結果から、顆粒製剤にトコフェロールを配合させ、ヒドロキシプロピルセルロースを含まない剤型とすることにより、シロリムスの安定性を向上させ得ることが確認された。
【0048】
【表5】
【0049】
試験例3:トコフェロールの配合量による溶出性及び安定性の違いの検討
(1)試料
添加剤として、トコフェロールを表6記載の量添加した以外は、試験例1と同様の方法を用い、各顆粒試料を調製した。
【0050】
【表6】
*無水エタノールは乾燥により除去されるので、合計質量には含めない。
【0051】
(2)試験方法
上記(1)で調製した各試料につきそれぞれ30gを秤量してガラス瓶に移し、栓をせずに安定性試験器に入れた。30℃、75%RHの条件で保存した。
【0052】
試験開始時、保存2週間後、保存4週間後、及び、保存8週間後のそれぞれにおいて、試験例1と同様の条件によるHPLC法により、シロリムス含量(残存量)(%)、及び、セコーシロリムス含量(%)の定量を行った(ただし、試料15については、4週間後の時点で、セコーシロリムスの含量が1%を超えたため、8週間後の定量は行わなかった)。
【0053】
また、試験開始時の試料につき、試験例2と同じ方法により溶出性を確認した。
【0054】
(3)結果
シロリムス含量とセコーシロリムス含量の定量結果を、表7に示す。この表に示すように、トコフェロール含量0.2質量%以上(試料13、試料14)においては、シロリムス含量の低下及びセコーシロリムスの生成が抑制されており、十分な安定性を有していることが確認された。この結果から、シロリムスを0.2質量%配合させた顆粒製剤において、トコフェロールの含量は、少なくとも0.2質量%以上であれば、十分に安定性向上効果を示すことが確認された。
【0055】
【表7】
【0056】
溶出性の測定結果を、表8に示す。この表に示すように、少なくともトコフェロール0.2質量%以上の試料(試料13、試料14)では、十分な溶出性を有していることが確認された。
【表8】
【0057】
以上の結果から、トコフェロールの配合量は、少なくともシロリムスと等量以上であれば、溶出性を維持させつつ安定性を向上させ得ることが確認された。
【0058】
試験例4:生体吸収性の検討
(1)試料
試験例1と同様の方法により、1g中にシロリムス2mg、トコフェロール2mgを含む顆粒製剤を調製した(試料14と同様の組成。試料16とする)。
【0059】
比較対象として、市販のシロリムス含有錠剤(ラパリムス(登録商標)錠1mg、ノーベルファーマ株式会社製、以下、「対照製剤」という)を用いた。
【0060】
(2)試験方法
年齢20~39歳の健康成人10人を5名ずつ2群に分け、それぞれ試料16(顆粒製剤)1.0g(シロリムスとして2mg)、及び対照製剤2錠(シロリムスとして2mg)を、150mLの水と共に、経口投与した。各被験者における試料の投与は、10時間以上の絶食後に行った。
【0061】
投与前1時間、投与後30分、1時間、1時間30分、2時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間、48時間及び72時間に、採血を行った。得られた血液サンプルにつき、下記の条件のLC-MS/MSを用いた分析を行い、全血中のシロリムス濃度を測定した。
【0062】
・LC条件
カラム:ZORBAX(登録商標)XDB-CN(内径2.1mm、長さ50mm)(アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム温度:50℃
移動相:0.1%酢酸水溶液と0.1%酢酸アセトニトリル溶液を、表9記載の割合で混合
流量:0.45mL/min
【0063】
【表9】
【0064】
・MS/MS条件
測定モード:ポジティブESI
ガス温度:350℃
ガス流速:10L/min
ネブライザー圧:50psi
キャピラリー電圧:4000V
【0065】
(3)結果
結果を、図1に示す。この図に示すように、試料16は、対照製剤と比較し、血中のシロリムス濃度が、優位に高い値を示していた。この結果から、コア粒子にシロリムスとトコフェロールを配合させかつヒドロキシプロピルセルロースを含まない顆粒製剤とすることにより、シロリムスの生体吸収性を向上させ得ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のシロリムス含有顆粒製剤は、例えば、リンパ脈管筋腫症治療又はmTOR(mammalian target of rapamycin)阻害等の用途において利用可能である。
図1