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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】引き裂き性を有する熱収縮チューブ
(51)【国際特許分類】
   B29C 61/06 20060101AFI20240523BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240523BHJP
   F16L 11/12 20060101ALI20240523BHJP
   B29K 27/12 20060101ALN20240523BHJP
   B29L 23/00 20060101ALN20240523BHJP
【FI】
B29C61/06
C08J5/00 CEW
F16L11/12 N
B29K27:12
B29L23:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020013370
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021045954
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019015563
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019017799
(32)【優先日】2019-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019167695
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000145530
【氏名又は名称】株式会社潤工社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 泰之
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/077452(WO,A1)
【文献】特開平08-216252(JP,A)
【文献】特開平02-258324(JP,A)
【文献】特開2014-136756(JP,A)
【文献】特開2010-253729(JP,A)
【文献】特開2017-044335(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106633548(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 61/06
C08J 5/00
F16L 11/12
B29K 27/12
B29L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融加工可能なフッ素樹脂で主に構成される引き裂き性を有する熱収縮チューブであって、
チューブの歪みをε及びそのときの応力をσ(MPa)とし、座標グラフ上の横軸を歪みεに、縦軸を応力σにとり、該グラフ上の4つの座標点a(0.4,8.8)、b(0.4,2.4)、c(1.0,9.9)、d(1.0,3.2)により定められる直線ab及び直線cdの夫々と、下記の測定方法によって得られる該チューブの機械特性曲線が交わり、
構成モノマーとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含む樹脂を、チューブを構成する前記フッ素樹脂中に25wt%以上95wt%以下含むことを特徴とする、引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
(測定方法)
雰囲気温度60℃、初期チャック間距離22±0.05mm、引張速度5mm/secの条件で、引張試験を行う。
【請求項2】
構成モノマーとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含む前記樹脂は、ビニリデンフルオライドを15wt%~25wt%含む共重合体である、
請求項に記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【請求項3】
複数のフッ素樹脂を含み、その複数のフッ素樹脂間の屈折率(ASTM D542)の差が、最大で0.05以下であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【請求項4】
溶融加工可能なフッ素樹脂で主に構成される引き裂き性を有する熱収縮チューブであって、
チューブの歪みをε及びそのときの応力をσ(MPa)とし、座標グラフ上の横軸を歪みεに、縦軸を応力σにとり、該グラフ上の4つの座標点a’(0.4,7.6)、b(0.4,2.4)、c’(1.0,8.9)、d(1.0,3.2)により定められる直線a’b及び直線c’dの夫々と、下記の測定方法によって得られる該チューブの機械特性曲線が交わり、
構成モノマーとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含む樹脂を、チューブを構成する前記フッ素樹脂中に25wt%以上95wt%以下含むことを特徴とする、引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
(測定方法)
雰囲気温度60℃、初期チャック間距離22±0.05mm、引張速度5mm/secの条件で、引張試験を行う。
【請求項5】
構成モノマーとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含む前記樹脂は、ビニリデンフルオライドを15wt%~25wt%含む共重合体である、
請求項に記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【請求項6】
複数のフッ素樹脂を含み、その複数のフッ素樹脂間の屈折率(ASTM D542)の差が、最大で0.05以下であることを特徴とする、
請求項またはに記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【請求項7】
溶融加工可能なフッ素樹脂で主に構成される引き裂き性を有する熱収縮チューブであって、
チューブの歪みをε及びそのときの応力をσ(MPa)とし、座標グラフ上の横軸を歪みεに、縦軸を応力σにとり、下記の測定方法によって得られる該チューブの機械特性曲線において、
歪みεが1.0のときの応力σが3.2MPa以上であり、
該機械特性曲線上の歪εが1.0のときの座標点をe、該機械特性曲線上の歪εが2.0のときの座標点をfとしたとき、
座標点eと座標点を通る直線の傾きが2.4~3.0MPaであり、
構成モノマーとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含む樹脂を、チューブを構成する前記フッ素樹脂中に25wt%以上95wt%以下含むことを特徴とする、引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
(測定方法)
雰囲気温度60℃、初期チャック間距離22±0.05mm、引張速度5mm/secの条件で、引張試験を行う。
【請求項8】
構成モノマーとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含む前記樹脂は、ビニリデンフルオライドを15wt%~25wt%含む共重合体である、
請求項に記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【請求項9】
複数のフッ素樹脂を含み、その複数のフッ素樹脂間の屈折率(ASTM D542)の差が、最大で0.05以下であることを特徴とする、
請求項またはに記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長手方向の易引き裂き性を有する熱収縮チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
長手方向の易引き裂き性を有するチューブは、各種物品の使用時までの保護部材として利用されている。なかでもフッ素樹脂で構成される引き裂きチューブは、フッ素樹脂が有する、耐熱性、耐薬品性、撥水撥油性、非粘着性、自己潤滑性等の、炭化水素系合成樹脂製では得られない特性を有している。これらの特性を利用して、精密機器、電子部品等の保護用チューブ、あるいはカテーテル、ガイドワイヤー等を体内に導入するための医療機器導入用チューブ等として使用されている。
【0003】
引き裂き性を有するチューブに、さらに熱収縮性を付与したチューブは、内部に装着された物品をずれることなく確実に保護したり、あるいはカテーテル製造の治具としても利用される。引き裂き性を有する熱収縮チューブは、不要になった場合には、特殊な器具を使用しなくても容易に引き裂いて除去することが可能である。例えば特許文献1には、フッ素樹脂の混合物からなる引き裂き性を有する熱収縮チューブに関して記載されている。しかし、チューブの引き裂きが容易であるために、チューブに熱収縮性を付与するためのチューブを拡径する工程において、チューブの破裂が生じやすく、安定して生産することが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】US2015/0354732
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、長手方向の易引き裂き性を有する熱収縮チューブを提供するにあたり、製造工程のチューブを拡径する工程において、チューブの破裂が発生しにくく、安定して生産できるチューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは、チューブの機械特性のうち、チューブの引張試験で得られる機械特性曲線が特定の領域にあるとき、チューブの製造工程のチューブを拡径する工程において、チューブの破裂が生じにくく、安定して生産することが可能であることを見いだし、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
本発明のチューブは、少なくとも溶融加工可能なフッ素樹脂を含有する引き裂き性を有する熱収縮チューブであって、チューブの歪みをε及びそのときの応力をσ(MPa)とし、座標グラフ上の横軸を歪みεに、縦軸を応力σにとり、該グラフ上の4つの座標点a(0.4,8.8)、b(0.4,2.4)、c(1.0,9.9)、d(1.0,3.2)により定められる直線ab及び直線cdの夫々と、下記の測定方法によって得られる該チューブの機械特性曲線が交わるチューブである。このとき、チューブの拡張工程において、チューブの破裂が生じにくく、安定したチューブが得られやすい。機械特性曲線は、雰囲気温度60℃、初期チャック間距離22±0.05mm、引張速度5mm/secの条件で、引張試験を行い測定して求められる。
チューブの機械特性曲線は、グラフ上の4つの座標点で定められる領域が、4つの座標点a’(0.4,7.6)、b(0.4,2.4)、c’(1.0,8.9)、d(1.0,3.2)により定められる直線a’b及び直線c’dの夫々と、交差するものであることがより好ましい。
本発明のチューブは、少なくとも溶融加工可能なフッ素樹脂を含有する引き裂き性を有する熱収縮チューブであって、チューブの歪みをε及びそのときの応力をσ(MPa)とし、座標グラフ上の横軸を歪みεに、縦軸を応力σにとり、上述の測定方法によって得られる該チューブの機械特性曲線において、歪みεが1.0のときの応力σが3.2MPa以上であり、該機械特性曲線上の歪εが1.0のときの座標点をe、該機械特性曲線上の歪εが2.0のときの座標点をfとしたとき、座標点eと座標点fを通る直線の傾きが2.4~3.0MPaである熱収縮チューブである。このとき、チューブの拡張工程において、チューブの破裂が生じにくく、安定したチューブが得られやすい。
【0008】
本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブを構成するフッ素樹脂としては、構成モノマーとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含む樹脂を、少なくとも含むものであることが好ましい。構成モノマーとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含む樹脂として、たとえばテトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン‐ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン‐ビニリデンフルオライド‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などが挙げられる。
【0009】
本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブでは、複数のフッ素樹脂を含んでも良いので、構成モノマーとして少なくともテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含むフッ素樹脂とは別に、他のフッ素樹脂を含んでもよい。前記少なくとも3つのモノマーを含む樹脂をできるだけ多く含むことが好ましく、前記少なくとも3つのモノマーを含む前記樹脂を25wt%以上95wt%以下含むものであることが好ましい。上記の少なくとも3つのモノマーを含む前記樹脂を40wt%以上含むものであることがさらに好ましく、50wt%以上含むものであることがとくに好ましい。チューブを構成するフッ素樹脂中に、構成モノマーとしてテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含む樹脂を複数含む場合は、その複数の樹脂の総量を含有量とする。
【0010】
本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブを構成するフッ素樹脂のうち、構成モノマーとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの、少なくとも3つのモノマーを含む前記樹脂は、ビニリデンフルオライドを15wt%~25wt%含む共重合体であることが好ましい。
【0011】
本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブは、複数のフッ素樹脂を含み、その複数のフッ素樹脂間の屈折率(ASTM D542)の差が、最大で0.05以下であることが好ましい。ここで、複数のフッ素樹脂の「フッ素樹脂」とは、全フッ素樹脂のうち3重量%以上含有するフッ素樹脂を指す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、引き裂き性を有するチューブを拡径する工程において、チューブの破裂を生じさせることなく、熱収縮チューブを安定して生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のチューブの引き裂き性を説明する図である
図2】従来のチューブと本発明のチューブの機械特性曲線の一例を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。以下に説明する実施形態は本発明を説明するための例示であり、特許請求の範囲に係る発明を限定する趣旨ではない。また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせが、本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0015】
本発明のチューブは、図1のように、チューブ長手方向に易引き裂き性を有しており、チューブの一方の端部からチューブのもう一方の端部まで引き裂くことが可能である。チューブには必要に応じて切り込み込みを設けることができる。
【0016】
本発明のチューブはさらに熱収縮性を有している。チューブに熱収縮性を付与するためには、一般的な方法で加工することができる。例えば次のような方法を用いることができる。
[原料準備]
本発明のチューブの原料として、溶融加工可能なフッ素樹脂を使用する。ここで、複数の樹脂を用いて構成し、本発明のチューブの機械特性を調整することもできる。フッ素樹脂として一般的に用いられるのは、THV、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、エチレン‐テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン‐テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EFEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などである。原料となるフッ素樹脂の混合は、ペレットをタンブラーなどでブレンドして用いてもよいが、2軸押出機を用いて、溶融混練してペレット成形して準備することがより好ましい。ここに、さらに熱溶融性を有しないPTFEのような樹脂を添加材として添加してもよい。また、樹脂の分散を促進させるために相溶化剤の働きをする成分や、結晶化度、チューブ柔軟性やチューブ硬度の調整、機械的物性を向上させるなどのその他の機能を有する添加剤を添加することもできる。
[チューブの成形]
準備した樹脂を、単軸押出機を用いてチューブ状に溶融押出成形し、熱収縮チューブの材料となるチューブ(以降、これを原チューブという。)とする。
[原チューブの拡張]
原チューブを、原チューブを構成する樹脂のガラス転移温度以上に加熱しながら、加圧気体を注入し、チューブを内部から加圧して径方向に拡張する。チューブの加圧状態を維持したまま冷却して熱収縮チューブとする。
【0017】
本発明で課題としている、従来の引き裂き性を有する熱収縮チューブの製造工程で発生する破裂は、上記の製造工程のうち原チューブの拡張の工程で、加熱しながらチューブを内部から加圧するときに主に発生する。
【0018】
図2は、チューブの歪みεを横軸、そのときの応力σ(MPa)を縦軸としたグラフ上での、チューブの機械特性曲線の一例である。曲線AとBは、本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブの好ましい機械特性曲線の一例である。曲線Aと曲線Bは、4つの座標点により定められる直線abおよび直線cdの夫々と交わる。さらに曲線Bは、直線a’bおよびc’dの夫々とも交わっている。曲線Aと曲線Bで表わされる機械特性を有する本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブは、機械特性曲線が直線abおよび直線cdの夫々と交わっており、原チューブの拡張の工程で破裂を生じにくくなっている。さらに、機械特性曲線が、直線a’bおよびc’dの夫々とも交わる場合は、原チューブの拡張の工程で、一気に拡張しても破裂を生じにくく安定したチューブが得られやすい。
【0019】
本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブは、複数のフッ素樹脂を含み、その複数のフッ素樹脂間の屈折率(ASTM D542)の差が、最大で0.05以下であることが好ましい。
ここで、屈折率は、ASTM D542に従って測定した測定値を用いる。樹脂の屈折率には、その樹脂の分子構造が反映される。近い屈折率を示すフッ素樹脂同士は分子構造が類似しており、樹脂をブレンドしたときに、分散した樹脂の界面において樹脂同士の接着力が得られ、より好ましい。
【0020】
本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブは、該チューブの機械特性曲線が、歪みεが1.0のときの応力σが3.2MPa以上であり、該機械特性曲線上の歪εが1.0のときの座標点をe、該機械特性曲線上の歪εが2.0のときの座標点をfとしたとき、座標点eと座標点fを通る直線の傾きが2.4~3.0MPaであることが好ましい。原チューブの拡張の工程でチューブの破裂が生じにくく、安定したチューブが得られやすい。
【0021】
発明を、下記の実施例でより詳細に説明する。
【実施例
【0022】
<引張試験>
[測定サンプル]
以下の方法でチューブの測定サンプルを作成した。
測定サンプル作製方法: チューブを、表面が平滑なポリイミドフィルムに挟み、熱プレス機を用いて溶融プレスし、厚さ0.10~0.12mmのフィルムを作成した。以下にフィルム作成の具体例を記す。作成するフィルムの大きさに応じてカットしたチューブを並べて、表面が平滑なポリイミドフィルムに挟み、熱プレス機を用いて、チューブを構成する複数のフッ素樹脂の中でいちばん高い融点を有するフッ素樹脂の融点よりも20℃~50℃高い温度に加熱し、1回目の溶融プレスを行って、厚さ0.2mm程度の予備成型フィルムを作成した。得られた予備成型フィルムをそのフィルムの中心から放射状に4分割し、その4分割したフィルムはフィルムの方向を変えながら重ね、再び表面が平滑なポリイミドフィルムに挟み、それを、熱プレス機を用いて、チューブを構成する樹脂のうち一番高い融点を有する樹脂の融点よりも20℃~50℃高い温度に加熱し、2回目の溶融プレスを行って、厚さ0.1~0.12mmのフィルムを作成した。作成したフィルムは、室温で翌日まで静置した後、ASTM D1708に従ったダンベル型で打ち抜き、測定サンプルとした。
[測定方法]
引張試験機を使用して、チューブ測定サンプルの引張試験を実施した。測定温度60℃、初期チャック間距離22mm±0.05mm、および引張速度5mm/secの条件で測定を行った。それ以外の条件は、ASTM D1708に従った。測定した歪みは、下の式(1)に基づいて算出する。また、チューブの歪みをε及びそのときの応力をσ(MPa)とし、座標グラフ上の横軸を歪みεに、縦軸を応力σにとって、チューブの機械特性曲線を作成する。
【0023】
【数1】
【0024】
[原料準備]
各実施例、比較例において、以下の配合比の樹脂を準備した。
実施例1
THV(VDF 約17wt%含有) 80wt%
FEP(三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 FEP 130‐J) 20wt%
実施例2
THV(VDF 約20wt%含有) 75wt%
FEP(ダイキン工業(株)製 FEP NP‐3180) 25wt%
実施例3
THV(VDF 約22wt%含有) 50wt%
PFA(ダイキン工業(株)製 PFA AP‐202) 50wt%
実施例4
THV(VDF 約20wt%含有) 25wt%
FEP(三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 FEP 9494X) 75wt%
実施例5
THV(VDF 約22wt%含有) 90wt%
PFA(三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 PFA 420HP‐J) 10wt%
実施例6
THV(VDF 約20wt%含有) 60wt%
THV(VDF 約17wt%含有) 20wt%
FEP(三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 FEP 130‐J) 20wt%
実施例7
THV(VDF 約20wt%含有) 90wt%
ETFE(旭硝子(株)製 ETFE C88AX‐P) 10wt%

各実施例、比較例の配合比で準備した原料を、タンブラーで十分に攪拌し、シリンダー径20mmの2軸押出機に投入し、ペレット成形した。
[原チューブの成形]
各実施例、比較例で作成した原料ペレットを、それぞれシリンダー径20mmの単軸押出機を用いてチューブに成形し、熱収縮チューブの原チューブとした。
[原チューブの拡張]
原チューブは、チューブの外部から加熱しながらチューブ内部に加圧窒素を注入し、チューブ内部を加圧して径方向に拡張した。チューブ内部の圧力を保持したままチューブを冷却し、熱収縮チューブとした。
[原チューブの拡張試験]
原チューブは、チューブの外部から加熱しながらチューブ内部に加圧窒素を注入してチューブ内部を加圧し、チューブの内径の拡張率が300%を超えるまで一気に加圧して拡張させた。このとき、チューブが破裂した確率を表1に示す。本条件で拡張したときの破裂の確率が20%程度であれば、製品製造時の拡張工程で安定して製造できる範囲と考えられ、破裂の確率が10%程度までのとき、チューブの破裂が生じにくく、より安定したチューブが得られやすい。
【0025】
各実施例、比較例について、各測定を行った結果を表1に示す。
【表1】
【0026】
実施例1~7のチューブは、いずれも機械特性曲線が直線ab及び直線cdの夫々と交わっており、原チューブの拡張試験で、破裂を生じる確率が低く安定して拡張することが可能だった。とくに実施例1~6は、樹脂間の最大の屈折率差が0.05以下のフッ素樹脂で構成されており、拡張時のチューブ内圧を高く設定して一気に拡張しても安定して拡張できた。
【0027】
実施例8
THVとして、
THV(VDF 約17wt%含有、屈折率1.35)またはTHV(VDF 約20wt%含有、 屈折率1.35)
およびFEPとして、
FEP 130‐J、またはFEP 9494X を使用し、さまざまな配合比でチューブを作成した。準備した原料をタンブラーで十分に攪拌し、シリンダー径20mmの2軸押出機に投入し、ペレット成形した。作成した原料ペレットをそれぞれ、シリンダー径20mmの単軸押出機を用いてDDR8~9で押出して原チューブを作成し、上述の方法で熱収縮チューブを作成した。得られたチューブはいずれも、チューブの機械特性曲線において、歪みεが1.0のときの応力σが3.2MPa以上であり、歪εが1.0のときの座標点eと歪εが2.0のときの座標点fとを通る直線の傾きが、2.4~3.0MPaの範囲にあるものだった。また、拡張試験を行った結果、破裂の確率は20%以下に収まっていた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブは、原チューブに熱収縮性を付与する工程においてチューブの破裂が生じにくく、安定したチューブが得られやすい。カテーテル、ガイドワイヤー等を体内に導入するための医療機器導入用チューブやカテーテル製造に使用する治具、あるいは精密機器、電子部品等の保護用チューブ等として有用である。


図1
図2