(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】パルスレーザー発振装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/115 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
H01S3/115
(21)【出願番号】P 2020046237
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】501387666
【氏名又は名称】スパークリングフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田道寛
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-136369(JP,U)
【文献】特表2005-500705(JP,A)
【文献】米国特許第06292504(US,B1)
【文献】特開2013-089680(JP,A)
【文献】特表2002-503396(JP,A)
【文献】特表2007-503125(JP,A)
【文献】特表2008-523619(JP,A)
【文献】特開平11-097783(JP,A)
【文献】特開2006-179724(JP,A)
【文献】特開2013-021133(JP,A)
【文献】特開2011-228564(JP,A)
【文献】特開2009-130143(JP,A)
【文献】特開平08-309566(JP,A)
【文献】特開平07-094816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー共振器の中心軸上に、出力鏡と、レーザー媒質と、EOQスイッチ光回路と、過飽和吸収体と、リア鏡との順序に配置され、前記レーザー媒質に対向して励起源が配置されて
おり、
前記EOQスイッチ光回路と前記過飽和吸収体との間に、偏光面制御による光路切替回路を設け、前記光路切替回路によって一方の光路が選択された場合は前記EOQスイッチ光回路と前記過飽和吸収体とによるサブナノ秒発振を可能とし、前記光路切替回路によって他方の光路が選択された場合は前記EOQスイッチ光回路によるナノ秒発振を可能とすることを特徴とするパルスレーザー発振装置。
【請求項2】
前記過飽和吸収体は、レーザー媒質に対して、レーザー共振器として機能し得る範囲にあって、前記EOQスイッチ光回路の前記リア鏡側の遠方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載されたパルスレーザー発振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短パルス化された高出力のパルスレーザー光を出力することのできるパルスレーザー発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、色素系(メラニン色素)皮膚病変のレーザー治療用としてナノ秒パルスよりも短い、サブナノ秒(数百ピコ秒)のレーザー光を用いた治療が注目されている。これはナノ秒レーザー治療で基本をなした選択的光熱乖離理論だけでなく、サブナノ秒のパルス光によって誘導される衝撃波が色素に作用して破砕効果が出現し、レーザー光と衝撃波の協調作用により、より安全で有効な治療法として考えられているためである。
【0003】
従来、ナノ秒パルスのレーザー発振法として以下の3つの方法が知られている。
(1)飽和吸収体を用いた受動Qスイッチ発振(過飽和吸収特性)を利用するものであり、この方法では、パルス幅を短くすると光損失が大きくなり光出力が小さくなる問題がある。
(2)超音波振動によるブラッグ散乱を用いたAOQスイッチ発振(ブラッグ散乱特性)を利用するものであり、これはダンピング特性が良くないため、パルス幅が長く、小出力となる。
(3)ポッケルスセル等を用いたEOQスイッチ発振(偏光特性)を利用するものであり、この方法は、ダンピング特性が良く、パルス幅が短く、大出力の対応が可能である。
【0004】
その他にピコ秒パルスのレーザー発振法としては以下の方法がある。
(4)モードロック発振によるものであり、この方法では共振器の縦モードを1点でロックするため、数百kHz以上のピコ秒パルスを発生することができるが、パルスエネルギーは1mJ以下と小出力である。
【0005】
皮膚治療に必要な0.1J以上のパルスエネルギーで、衝撃波を誘導するためにピコ秒パルス光を出すために、(4)の方法を用いた場合には、パルスエネルギーの大きい数百kHz以上のピコ秒パルスを発生させることができるが、数Hzにパルスを間引いた後、数段の光増幅器で増幅する等、複雑で大きなレーザー発振器が必要になる。
【0006】
ここで、上記(1)の方法について詳述する。
図4にレーザー光を発振する受動Qスイッチを用いたレーザー発振装置を示す。
レーザー発振装置の中心軸上に、出力鏡105、YAGロッド等のレーザー媒質102、受動Qスイッチとしての過飽和吸収体103、リア鏡104を配置し、レーザー媒質102に対向してフラッシュランプ等の励起源101を配置するものである。
【0007】
励起源101からの励起光によりレーザー媒質102が励起され、このレーザー媒質102から出る光が過飽和吸収体103に入射する。過飽和吸収体103の透過光強度が低く、レーザー発振を抑制する状態にある場合には、リア鏡104と出力鏡105との間でレーザー発振は起きず、レーザー媒質102内にエネルギーの蓄積が起こる。エネルギーの蓄積が開始され、レーザー媒質102で励起が開始されてから、例えば100~300μ秒経過した後に、過飽和吸収体103の透過光強度が高まり、レーザー発振を許容する状態になると、リア鏡104と出力鏡105との間でレーザー発振が起き、発振レーザー光が出力鏡105から出射される。
【0008】
図5は受動Qスイッチを用いたレーザー発振装置のタイムチャートである。
同図に示すように、励起源101からレーザー媒質102に励起光が出射される。励起光の初期の段階では、
図5(b)、(c)に示すように、過飽和吸収体103が光非飽和の基底状態吸収損失の状態にあるため、過飽和吸収体103は光吸収体として作動し、レーザー媒質102内にエネルギーが蓄積される。過飽和吸収体103が光飽和し透過光強度が上昇し、透明体となった瞬間、
図5(b)、(c)に示すように、過飽和吸収体103は光飽和の励起状態吸収損失の状態となり、レーザー媒質102に蓄積されたエネルギーが一気に開放され、
図5(d)に示すようなレーザーパルス光が発生する。
【0009】
しかし、この受動Qスイッチを用いたいレーザー発振装置は、出力されるパルス幅は小さいが、過飽和吸収体103において光吸収があるため大出力パルスを取り出すことが難しい。また、過飽和吸収体103はパラメータ(吸収定数、吸収長)が固定されるのでQスイッチ発振の条件が固定されてしまう。また、パルス発振のタイミングは励起強度に依存し、ジッターが大きい。また、過飽和吸収体103は、レーザー共振器としての構成上、レーザー媒質102に近接して配置されるため、励起直後から自然放射による光吸収が起こり、過飽和吸収体103が早い時期に飽和するため、結果として、過飽和特性が遅れ、短パルス化が難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の点に鑑み、皮膚治療に必要な0.1J以上のパルスエネルギーで、衝撃波を誘導するためにパルス光を出すために、受動Qスイッチ発振とEOQスイッチ発振のQスイッチ発振の協調作用により、サブナノ秒のパルスレーザー光を得る光学回路を有するパルスレーザー発振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を達成するために、本発明のパルスレーザー発振装置は、レーザー共振器の中心軸上に、出力鏡と、レーザー媒質と、EOQスイッチ光回路と、過飽和吸収体と、リア鏡との順序に配置され、前記レーザー媒質に対向して励起源が配置されており、前記EOQスイッチ光回路と前記過飽和吸収体との間に、偏光面制御による光路切替回路を設け、前記光路切替回路によって一方の光路が選択された場合は前記EOQスイッチ光回路と前記過飽和吸収体とによるサブナノ秒発振を可能とし、前記光路切替回路によって他方の光路が選択された場合は前記EOQスイッチ光回路によるナノ秒発振を可能とすることを特徴とする。
【0013】
前記過飽和吸収体は、レーザー媒質に対して、レーザー共振器として機能し得る範囲にあって、前記EOQスイッチ光回路の前記リア鏡側の遠方に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
EOQスイッチ発振と過飽和吸収体による受動Qスイッチ発振とのQスイッチ発振の協調作用により、サブナノ秒の短パルスレーザー光を得る共に、高エネルギーのパルスレーザー光を出力することのできるパルスレーザー発振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るパルスレーザー発振装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1に示すパルスレーザー発振装置のタイムチャートを示す図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係るパルスレーザー発振装置の構成を示す図である。
【
図4】従来技術に係るパルスレーザー発振装置の構成を示す図である。
【
図5】
図4に示すパルスレーザー発振装置のタイムチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に本発明の第1の実施形態に係るレーザー発振装置を示す。
同図に示すように、レーザー共振器1の中心軸上に、出力鏡9、YAGロッド等のレーザー媒質3、偏光板4とポッケルスセル等のEOQスイッチ5と偏光板6等からなるEOQスイッチ光回路、レーザー媒質3からEOQスイッチ光回路を介して離間された位置に配置された過飽和吸収体7、リア鏡8の順序で配置され、レーザー媒質3に対向してフラッシュランプ等の励起源2が配置される。
【0018】
EOQスイッチ5に用いるポケルスセル(Electro-Optic素子:電気光学素子)は、ADP等の結晶に電界をかけることにより発生する直交成分の屈折率変化を利用して偏光面を制御するものである。EOQスイッチ光回路は、EOQスイッチ5に、偏光板4、6と共に用いるものであり、P波偏光でQ値が大きくなる特性を持たせ、EOQスイッチ5に電圧を印加してS波偏光に制御することにより、Q値を大きく下げる。この間、レーザー媒質3内にエネルギーを蓄積させ、瞬間的に電圧を切ることによりP波偏光に戻して、レーザー共振器1のQ値を上げ、蓄積したエネルギーを一気に開放し、ジャイアントパルスの発生を可能とする。EOQスイッチ5を用いると、偏光面を制御するため高強度光領域でもQ値を下げられ、また、印加する電界(電圧)を可変できるのでゲイン側のパラメータ変化に対応することができる。
【0019】
さらに、EOQスイッチ光回路と過飽和吸収体7とを協調させて、上記のジャイアントパルスの発生過程において、ジャイアントパルスを過飽和吸収体7に入射するようにする。過飽和吸収体7はジャイアントパルスが入射された初期の段階では、透過光強度が低く、ジャイアントパルスの透過が抑制されている状態にあるので、リア鏡8と出力鏡9との間ではレーザー発振は起きない。過飽和吸収体7がジャイアントパルスを吸収して透過光強度が高まり、レーザー発振が許容されると、リア鏡8と出力鏡9との間でレーザー発振が起き、発振レーザー光が出力鏡9から出射される。
【0020】
図2は
図1に示したレーザー発振装置のタイムチャートである。
図2(a)に示すように、励起源2からレーザー媒質3に励起光が入射される。励起光の初期の段階では、
図2(b)に示すように、EOQスイッチ5に電圧を印加してS波偏光に制御することにより、Q値を大きく下げ、レーザー媒質3内にエネルギーを蓄積させる。
図2(c)に示すように、EOQスイッチ5の電圧を瞬間的に切って、P波偏光に戻し、レーザー共振器1のQ値を上げ、蓄積したエネルギーを一気に開放することにより、ジャイアントパルスの発生が可能とする。発生したジャイアントパルスが過飽和吸収体7に入射されると、
図2(d)示すように、ジャイアントパルスの初期の段階においては、過飽和吸収体7は光非飽和の基底状態吸収損失の状態にあるため、光吸収体として機能する。その後、過飽和吸収体7が光飽和して透過光強度が上がり透明体となった瞬間、
図2(d)に示すように、過飽和吸収体7は光飽和の励起状態吸収損失の状態となり、過飽和吸収体7に蓄積されたエネルギーが一気に開放され、
図2(e)に示すように、短パルス化されたジャイアントパルスを発生することができる。
【0021】
このレーザー発振装置によれば、受動Qスイッチとして過飽和吸収体7を用いているが、EOQスイッチ光回路と受動Qスイッチとを協調させることにより、EOQスイッチ発振によるナノ秒パルスをサブナノ秒パルスに短縮することを実現している。過飽和吸収体7は、高強度光へ光ダンピング特性が悪く、パラメータが固定され、発振閾値の励起強度は固定される等の欠点があるが、EOQスイッチ発振は光ダンピング強度が高く、パラメータは設定電圧で可変できる利点を有するので、両者をレーザー共振器に組み込み協調してQスイッチ発振することにより、QSWパラメータを可変し、EOQスイッチパルスを更に短縮したパルス幅を得ることができる。得られたパルスはEOQスイッチ発振に起点を持っているので、ジッターが小さいという利点を有する。
【0022】
また、通常、過飽和吸収体をレーザー共振器内に配置した一般的な受動Qスイッチレーザーにおいては、過飽和吸収体をレーザー媒質(利得媒質)に接近させて配置するため、励起直後にレーザー媒質より発生する自然放射を過飽和吸収体が吸収し、光学損失の減少カーブが緩慢となり、QSW発振のパルス幅が延びる。それに対して本発明によれば、レーザー共振器1内において、レーザー媒質3に対して、過飽和吸収体7が、レーザー共振器として機能し得る範囲にあって、EOQスイッチ光回路のリア鏡8側の遠方に配置されているので、過飽和吸収体7がEOQスイッチゲートを通過した光のみを吸収するため、光学損失の減少カーブが急峻となり、QSW発振のパルス幅が短くすることができる。
【0023】
次に、
図3に本発明の第2の実施形態に係るレーザー発振装置を示す。
同図に示すように、レーザー共振器10の中心軸上に、出力鏡9、YAGロッド等のレーザー媒質3、偏光板4とポッケルスセル等の第1のEOQスイッチ11と偏光板6等からなるEOQスイッチ光回路、第2のEOQスイッチ12と偏光フィルタ13からなる光路切替回路、レーザー媒質3に対して、レーザー共振器10として機能し得る範囲にあって、光路切替回路の第1のリア鏡14側の遠方に配置されている過飽和吸収体7、第1のリア鏡14が配置され、偏光フィルタ13から分岐された光路に第2のリア鏡15が配置され、レーザー媒質3に対向してフラッシュランプ等の励起源2が配置されている。
【0024】
図3に示すレーザー発振装置によれば、レーザー共振器10内には、出力鏡9、レーザー媒質3、EOQスイッチ光回路、光路切替回路、過飽和吸収体7、第1のリア鏡14、第2のリア鏡15が配置されている。第2のEOQスイッチ12の電圧を制御して光路切替回路を切替えて、第2のEOQスイッチ12がオフの時P波偏光となり、P波偏光は偏光フィルタ13を通過して、過飽和吸収体7、第1のリア鏡14の光路が選択されたレーザー共振器が構成された場合には、第1の実施形態において示したサブナノ秒パルス発振器が構成される。また、光路切替回路を切替えて、第2のEOQスイッチ12がオンの時S波偏光となり、S波偏光は偏光フィルタ13に反射されて、第2のリア鏡15の光路が選択されたレーザー共振器が構成された場合には、ナノ秒パルス発振器が構成される。このように、本実施形態に係るレーザー発振装置によれば、サブナノ秒パルス発振器とナノ秒パルス発振器とを容易に切替えることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 レーザー共振器
2 励起源
3 レーザー媒質
4 偏光板
5 EOQスイッチ
6 偏光板
7 過飽和吸収体
8 リア鏡
9 出力鏡
10 レーザー共振器
11 第1のEOQスイッチ
12 第2のEOQスイッチ
13 偏光フィルタ
14 第1のリア鏡
15 第2のリア鏡