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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】コンクリート
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240523BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20240523BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240523BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20240523BHJP
   C04B 24/08 20060101ALI20240523BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B16/06 A
C04B22/06 Z
C04B24/02
C04B24/08
E21D11/10 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020083653
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021178744
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591140813
【氏名又は名称】株式会社カテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】吉村 敏子
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-025323(JP,A)
【文献】特開2004-052542(JP,A)
【文献】特開平10-324555(JP,A)
【文献】特許第6606782(JP,B1)
【文献】特開2003-277121(JP,A)
【文献】特開2008-031006(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0305019(US,A1)
【文献】マスターエア202,https://mbcc.sika.com/ja-jp/products/masterair/masterair202
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維、セメント、水、細骨材、粗骨材、膨張材、収縮低減剤、及びJIS A 6204に規定されるAE剤(I種)を含む、コンクリートであって、
前記繊維の量が本コンクリートの体積に対し0.2体積%~0.6体積%、
単位セメント量が250kg/m~290kg/m
単位水量が170kg/m~185kg/m
単位細骨材量が800kg/m~900kg/m
単位粗骨材量が900kg/m~990kg/m
単位膨張材量が15kg/m~25kg/m
単位収縮低減剤が5.0kg/m~10.0kg/m
前記AE剤の量が、前記セメントの質量に対し、0.0010質量%~0.0020質量%、
水セメント比が58%~65%、
細骨材率が45%~51%である、コンクリート。
【請求項2】
前記セメントの質量に対し1.25質量%~1.50質量%の流動化剤を更に含む、請求項1に記載のコンクリート。
【請求項3】
前記繊維の長さが26mm~35mmである請求項1又は請求項2に記載のコンクリート。
【請求項4】
前記繊維の直径が0.6mm~0.8mmである請求項1~のいずれか1項に記載のコンクリート。
【請求項5】
小断面トンネル構築コンクリートである、請求項1~のいずれか1項に記載のコンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル等の建造物を構築するために、コンクリートが用いられている(例えば、特許文献1参照)。そして、建造物の機能保全コストを低減するために、ひび割れを抑制することが望まれている。
例えば、従来技術では、次のひび割れに関する課題があり、課題の解決が望まれていた。すなわち、従来技術では、覆工(コンクリートライニング)に乾燥収縮や温度収縮によるひび割れ、締固め不足によるジャンカ、ジャンカに沿ったひび割れが発生する。また、コンクリート収縮による施工目地の開きが進行し、建造物内の漏水や逸水が発生する。これらの現象によって、構造体そのものの耐久性の低下が顕著になるとともに、送水量の低下による経済損失が起きてしまう。また、ひび割れが進行し、鉄筋に沿ったひび割れや錆汁を伴うひび割れが発生すると、鉄筋の腐食膨張による構造物の破壊のおそれがある。締固め不足によるジャンカ、ジャンカに沿ったひび割れの発生箇所は、構造物内に空隙や内部のひび割れが発生している可能性があり、ひび割れは構造物の劣化を促進する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-184330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の下、従来技術では、建造物におけるひび割れを抑制する効果は必ずしも十分とは言えず、ひび割れを更に抑制させる新たな技術が切望されていた。
本開示は上記の課題を鑑みてなされたものであり、建造物におけるひび割れを抑制できるコンクリートを提供するものである。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
繊維、セメント、水、細骨材、粗骨材、膨張材、収縮低減剤、及びJIS A 6204に規定されるAE剤(I種)を含む、コンクリート。
【発明の効果】
【0006】
本開示のコンクリートは収縮によるひび割れの発生が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】練混ぜ方法を説明するフローチャートである。
図2】練混ぜ方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示のコンクリートでは、前記繊維の量が本コンクリートの体積に対し0.2体積%~0.6体積%、
単位セメント量が250kg/m~290kg/m
単位水量が170kg/m~185kg/m
単位細骨材量が800kg/m~900kg/m
単位粗骨材量が900kg/m~990kg/m
単位膨張材量が15kg/m~25kg/m
単位収縮低減剤が5.0kg/m~10.0kg/m
前記AE剤の量が、前記セメントの質量に対し、0.0010質量%~0.0020質量%、
水セメント比が58%~65%、
細骨材率が45%~51%であ
【0009】
本開示のコンクリートでは、セメントの質量に対し1.25質量%~1.50質量%の流動化剤を更に含んでもよい。
【0010】
本開示のコンクリートでは、前記繊維の長さが26mm~35mmが好ましい。
【0011】
本開示のコンクリートでは、前記繊維の直径が0.6mm~0.8mmが好ましい。
【0012】
本開示のコンクリートは、小断面トンネル構築コンクリートに好適である。
【0013】
以下、本開示のコンクリートを詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0014】
1.コンクリート
本開示のコンクリートは、繊維、セメント、水、細骨材、粗骨材、膨張材、収縮低減剤、及びJIS A 6204に規定されるAE剤(I種)を含む。本開示のコンクリートは、小断面トンネル構築コンクリートとして好適に用いることができる。
【0015】
ここで、「小断面トンネル」とは、仕上がり断面が3m以上15m未満のトンネルを意味する。
小断面トンネルは、農業用水路、発電用水路、上水道及び工業用水等の送水を目的とした水路トンネル等として利用される。小断面トンネルは、無圧トンネル及び圧力トンネルのいずれであってもよい。
小断面トンネル構築コンクリートは、新設トンネルの構築、既設トンネルの改修又は改築に用いることができる。但し、小断面トンネル構築コンクリートは、鉄道トンネル、道路トンネル等の送水目的以外の新設トンネルの構築、既設トンネルの改修又は改築に用いられない。また、小断面トンネル構築コンクリートは、既設トンネルの補修又は補強を目的とした繊維補強によるはく落抑制の用途には用いられない。
以下、必須の構成材料である繊維、セメント、水、細骨材、粗骨材、膨張材、収縮低減剤、及びAE剤について、それぞれ説明する。
【0016】
(1)繊維
繊維は、特に限定されず、有機質繊維及び無機繊維のいずれも使用できる。有機質繊維は、例えば、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、及びセルロース繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種以上が好適に採用される。これらの中でも、ポリプロピレン繊維は、ひび割れ抑制効果の観点から特に好ましく用いられる。
繊維の直径は、特に限定されない。繊維の直径は、好ましくは0.6mm~0.8mmである。この範囲内では、小断面トンネルにおけるひび割れを効果的に抑制できる。
繊維の長さは、特に限定されない。繊維の長さは、好ましくは26mm~35mmである。この範囲内では、マトリックスとの付着力を十分に保ってトンネルにおけるひび割れを効果的に抑制できるとともに、混練時に分散させやすい。
繊維の配合量は、小断面トンネル構築コンクリートの体積100体積%に対し0.2体積%~0.6体積%であり、好ましくは0.3体積%~0.5体積%である。この範囲内では、トンネルにおけるひび割れを効果的に抑制できるとともに、混練時に分散させやすい。
【0017】
(2)セメント
セメントは、特に限定されない。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、エコセメント、及びシリカフュームプレミックスセメントからなる群から選ばれる少なくとも1種以上が例示できる。
また、単位セメント量は、好ましくは250kg/m~290kg/m、より好ましくは260kg/m~280kg/mである。この範囲内では、トンネル等の構造体におけるひび割れを効果的に抑制できる。
【0018】
(3)水
水は、特に限定されない。水としては、水道水、スラッジ水、下水処理水等を用いることができる。また、単位水量は、好ましくは170kg/m~185kg/m、より好ましくは170kg/m~180kg/m、更に好ましくは172kg/m~178kg/mである。この範囲内では、コンクリートの流動性が確保されるため、成形がし易く、しかも、コンクリートの十分な強度を確保できる。
また、水セメント比は、好ましくは58%~65%、より好ましくは59%~61%である。この範囲内では、コンクリートの流動性が確保されるため、成形がし易く、しかも、コンクリートの十分な強度を確保できる。
【0019】
(4)細骨材
細骨材は、特に限定されない。細骨材としては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、スラグ細骨材等から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。また、単位細骨材量は、好ましくは800kg/m~900kg/m、より好ましくは830kg/m~870kg/mである。この範囲内では、コンクリートの流動性が確保されるため、成形がし易く、しかも、コンクリートの十分な強度を確保できる。
また、細骨材率は、好ましくは45%~51%、さらに好ましくは46%~50%である。この範囲内では、コンクリートのワーカビリティが良好であり、かつ十分な流動性やコンシステンシ―が確保され、作業性が良好である。
【0020】
(5)粗骨材
粗骨材は、特に限定されない。粗骨材は、川砂利、砕石、スラグ粗骨材等から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。また、単位粗骨材量は、好ましくは900kg/m~990kg/m、より好ましくは930kg/m~980kg/mである。この範囲内では、コンクリートの耐久性や耐摩耗性が良好であるとともに、高いワーカビリティを確保できる。また、粗骨材の最大粒径は、好ましくは5mm~45mm、より好ましくは5mm~20mmである。
なお、細骨材及び粗骨材は、天然骨材のほか再生骨材も用いることができる。
【0021】
(6)膨張材
膨張材は、水和により水酸化カルシウムやエトリンガイト等の水和物の結晶が成長して嵩体積が大きくなる材料であればよい。膨張材は、例えば、酸化カルシウム(生石灰)、カルシウムサルホアルミネート、石膏、マグネシア、石灰系膨張材、及びエトリンガイト系膨張材等から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。これらの中でも、JIS A 6202「コンクリート用膨張材」に適合する石灰系膨張材、又はエトリンガイト系膨張材は、添加量に応じた膨張率が安定して得られるため、コンクリートのひび割れ抑制に好適である。
単位膨張材量は、収縮低減効果、ひび割れ抑制効果、及び強度発現性の点から、好ましくは15kg/m~25kg/m以下であり、より好ましくは15kg/m~20kg/mである。
【0022】
(7)収縮低減剤
収縮低減剤は、特に限定されない。収縮低減剤は、有効成分が、低級アルコールのアルキレンオキシド付加物、ポリオキシアルキレン・アルコールエーテル、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体、ポリエーテル、及びアルキレンオキシド共重合体から選ばれる1種以上であることが好ましい。
単位収縮低減剤量は、好ましくは5.0kg/m~10.0kg/m、より好ましくは5.0kg/m~7.5g/mである。この範囲内では、収縮低減効果を十分に発揮させつつ、ひび割れ発生を抑制できる。
【0023】
(8)AE剤
AE剤は、JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」のAE剤(I種)に適合するものを好適に使用できる。AE剤としては変性ロジン酸化合物系陰イオン界面活性剤を好適に用いることができる。変性ロジン酸化合物系陰イオン界面活性剤は、コンクリート中に微細で安定した良質な空気泡を連行することができる。 AE剤の量は、特に限定されない。AE剤の量は、セメントの質量(100質量%)に対し、好ましくは0.0010質量%~0.0020質量%である。この範囲では、高い減水性能を確保しつつ、セメントの凝結の遅延が抑制される。
【0024】
(9)流動化剤(化学混和剤)
コンクリートは、流動化剤を更に含んでもよい。流動化剤としては、JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」の高性能AE減水剤標準形(I種)に適合するものを好適に使用できる。流動化剤としては、ポリカルボン酸エーテル系化合物と増粘性高分子化合物の複合体を好適に用いることができる。無塩化タイプの良質な液状製品で、セメントの分散作用と良質な連行空気泡との相互作用により、コンクリートの単位水量を大幅に減少することができ、更には特殊増粘剤により分離抵抗性を高めることができる。
流動化剤の量は、特に限定されない。流動化剤の量は、中流動コンクリートとしての好適な流動性を担保すべく、セメントの質量(100質量%)に対し、好ましくは1.25~1.50質量%である。
【0025】
2.本実施形態のコンクリートの作用効果
本実施形態のコンクリートは、繊維、膨張材、収縮低減剤、及び減水剤を組み合わせた相乗効果により、ひび割れが抑制され、かつ収縮が低減されて、品質向上が図られる。その結果、簡易的な締固め方法(振動、打撃)を採用できる。
また、このコンクリートは、マスコンクリート(マスコン)ではないので、温度の変化によるひび割れは、発生しにくい。
また、このコンクリートは、収縮量が小さく、施工目地の開きの進行が抑制される。
また、このコンクリートは、収縮量が小さく、施工されるトンネルの1スパンを長くすることができるため、施工目地を減らすことができる。
また、このコンクリートは、減水剤を含むことで、流動性が高められ、簡易的な締固め方法(振動、打撃)により、打設時間が短縮でき、材料分離が少ない密実な構造物を構築できる。
また、このコンクリートは、耐久性が高いトンネルを構築できる。
【実施例
【0026】
以下、実施例により本開示を説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されない。
【0027】
1.コンクリートの製造および供試体作製
実験に用いたコンクリートの配合A,B,Cを表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
2.コンクリート材料
コンクリート使用材料を以下に示す。
・セメント :太平洋セメント(株)製「普通ポルトランドセメント」
・細骨材 :静岡県大井川水系 陸砂5~0mm
・粗骨材 :東京都青梅市産 砂岩砕石20~5mm
・水 :神奈川県企業庁 上水道水
・膨張材 :太平洋マテリアル(株)製 膨張材「太平洋ハイパーエクスパン(構造用)」
・収縮低減剤:太平洋マテリアル(株)製 収縮低減剤「太平洋テトラガードAS20」
・繊維 :萩原工業(株)製 コンクリート用補強繊維「バルチップMK3530」
・化学混和剤(AE剤、表1において「AE剤」と表記):BASFジャパン(株)製 AE剤(I種)「マスターエア202」
・化学混和剤(流動化剤、表1において「化学混和剤」と記載):BASFジャパン(株)製 高性能AE減水剤「マスターグレニウム6500」
【0030】
3.練混ぜ方法
コンクリートの練混ぜは、100L強制練りミキサ二軸形を用いて図1(配合A)、図2(配合B,C)に示す手順で行なった。
【0031】
4.ひび割れ抑制効果確認試験
4.1 試験方法
(a)拘束形鋼ひずみ(ひび割れ発生日数)
拘束膨張及び収縮は,JIS A 1151:2011「拘束されたコンクリートの乾燥収縮ひび割れ試験方法」によった。各配合に対して、それぞれ3つの供試体を用いた。
拘束形鋼のひずみと外観観察の結果より、ひび割れ発生までの乾燥日数を測定した。
【0032】
4.2 試験結果
試験結果を表2に示す。ひび割れ発生までの乾燥日数は,配合Aは平均日数34日であった。配合B及び配合Cは乾燥日数47日においてひび割れが確認されなかった。
【0033】
【表2】
【0034】
以上の結果から、繊維、膨張材、収縮低減剤、及びAE剤を含むコンクリート(配合B,C)が、ひび割れ低減効果が高いことが確認された。よって、これらのコンクリートは、小断面トンネル構築等の構造体に適していることが確認された。
【0035】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、本開示の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示のコンクリートは、ひび割れを抑制できる。本開示のコンクリートを小断面トンネル構築コンクリートに適用すれば、トンネルの機能保全コストを低減できる。
図1
図2