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特許7492733ドーパミンD2受容体・ドーパ受容体相互作用阻害ペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】ドーパミンD2受容体・ドーパ受容体相互作用阻害ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/705 20060101AFI20240523BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20240523BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240523BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240523BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240523BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20240523BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240523BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240523BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240523BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C07K14/705 ZNA
A61K38/17
A61K47/62
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/18
A61P25/22
A61P25/24
A61P43/00 111
C07K14/47
C07K19/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020124178
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2022020919
(43)【公開日】2022-02-02
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 良郎
(72)【発明者】
【氏名】増川 太輝
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】GHOSH, A et al.,Structural insights into human GPCR protein OA1: a computational perspective,Journal of Molecular Modeling,2012年,Vol. 18,pp. 2117-2133
【文献】GOSHIMA, Y et al.,L-DOPA and Its Receptor GPR143: Implications for Pathogenesis and Therapy in Parkinson's Disease,Frontiers in Pharmacology,2019年,Vol. 10,Article 1119
【文献】五嶋良郎,40. パーキンソン病におけるドーパ受容体GPR143の役割,上原記念生命科学財団研究報告集,2019年,Vol. 33,pp. 1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IPHYVTTYLPLLLVLVANPIL(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物。
【請求項2】
IPHYVTTYLPLLLVLVANPIL(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチドのC末端にYGRKKRRQRRR(配列番号2)のアミノ酸配列からなるTATペプチドが付加されたペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物を含む、医薬。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物を含む、ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項5】
ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患が、パーキンソン病、統合失調症、双極性障害、うつ病、躁病、依存症及び注意欠損多動性障害からなる群より選択される少なくとも1つの疾患である請求項4記載の予防及び/又は治療薬。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物を含む、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143とを介するシグナル伝達経路の阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーパミンD2受容体と3,4-Dihydroxyphenylalanine (DOPA,ドーパ) 受容体GPR143の相互作用を阻害するペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
ドーパミンは脳内の重要な神経伝達物質の1つであり、その受容体の1つD2 受容体は、パーキンソン病や精神神経疾患の治療標的である。
【0003】
ドーパミンの前駆物質であるドーパは、パーキンソン病治療薬のゴールドスタンダートとして使用されている。しかし、ドーパには、長期投与に伴う機序不明の副作用(ジスキネジア、低血圧、情動障害など)や、薬効の消失、薬効の急激な変動など、未解決の課題が数多く存在する。また、ドーパ自体が、神経変性過程に対してそれを抑制するのか、逆に進行させるのかについても一定の見解を見ていない。従来、パーキンソン病治療におけるドーパの欠点を補う目的でドーパミンD2作動薬が使用されてきた。しかし、ドーパに比して、薬効が低く、副作用も多いことが判明した。また薬物依存や統合失調症に対して用いられるD2受容体阻害薬は、運動障害、内分泌異常など多くの副作用が報告されている。
【0004】
GPR143は、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)であり、メラニン色素形成不全である眼白皮病の原因遺伝子として同定されている。本発明者らは、GPR143がドーパ受容体として機能することを証明した (非特許文献1:Hiroshima et al, Br J Pharmacol, 2014(171, 2, 403-414)。さらに、血管平滑筋における GPR143 がアドレナリン α1 受容体 (α1AR)とヘテロオリゴマー形成することにより血圧調節を行うことを明らかとした (非特許文献2:Masukawa et al, JCI insight, 2017(2, 18, e90903. doi: 10.1172/jci.insight.90903)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hiroshima et al, Br J Pharmacol, 2014(171, 2, 403-414)
【文献】Masukawa et al, JCI insight, 2017(2, 18, e90903. doi: 10.1172/jci.insight.90903)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ドーパミンシグナル伝達における、GPR143とD2受容体の機能を解明することにより、パーキンソン病のような精神神経疾患の治療を可能とする、新たな薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ドーパ受容体GPR143とドーパの薬効と密接に関係するD2 受容体とが相互作用することを見出し、さらに、この相互作用を阻害し、D2 受容体機能を修飾するペプチド配列を発明した。これらは、従来には見られない全く新規の技術である。
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)IPHYVTTYLPLLLVLVANPIL(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物。
(2)細胞膜透過ペプチドが付加された(1)記載のペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物。
(3)(1)又は(2)に記載のペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物を含む、医薬。
(4)(1)又は(2)に記載のペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物を含む、ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患の予防及び/又は治療薬。
(5)ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患が、パーキンソン病、統合失調症、双極性障害、うつ病、躁病、依存症及び注意欠損多動性障害からなる群より選択される少なくとも1つの疾患である(4)記載の予防及び/又は治療薬。
(6)(1)又は(2)に記載のペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物を含む、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143とを介するシグナル伝達経路の阻害剤。
(7)ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143との相互作用を阻害することを指標として、ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患の予防及び/又は治療に有効な物質をスクリーニングする方法。
(8)さらに、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143を共発現する細胞における、下記の(a)、(b)及び(c)からなる群より選択される少なくとも1つの作用も指標とする、(7)記載の方法。
(a)ドーパミンD2受容体作動薬により誘導されたcAMP産生低下の抑制
(b)ドーパミンD2受容体作動薬により誘導されたGSK3βのリン酸化レベル上昇の抑制
(c)ドーパミンD2受容体作動薬により誘導されたDARPP32のリン酸化レベル上昇の抑制
(9)さらに、非ヒト動物における、ドーパミンD2受容体作動薬及び/又はドーパミンD2受容体拮抗薬の作用の抑制も指標とする、(7)又は(8)に記載の方法。
(10)非ヒト動物における、ドーパミンD2受容体作動薬の作用が、行動反応の低下である(9)記載の方法。
(11)非ヒト動物における、ドーパミンD2受容体拮抗薬の作用が、カタレプシーである(9)記載の方法。
(12)ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患が、パーキンソン病、統合失調症、双極性障害、うつ病、躁病、依存症及び注意欠損多動性障害からなる群より選択される少なくとも1つの疾患である(7)~(11)のいずれかに記載の方法。
【0009】
本発明により、ドーパミン受容体を初めとするG タンパク質受容体(GPCR)を直接、標的とする作動薬、あるいは拮抗薬に比し、より選択性が高く、副作用の少ない薬物の創生が期待できる。
【発明の効果】
【0010】
GPR143とD2 受容体との相互作用は、精神神経疾患治療を開発するための新たなターゲットとなりうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】D2DRを介したシグナル伝達には線条体GPR143が必要であった。(A) キンピロール(QNP、0.01~0.1 mg/kg、i.p.)または生理食塩水(SAL)の要約した効果は、自発運動を誘導した(n=5~7、左)。QNP (0.03 mg/kg、i.p.)またはSALにおける時間経過(中央)および総(右)自発運動活性は、野生型(WT)およびGpr143-/y (10)マウスにおいて自発運動低下を誘発した。(B) SKF81297(SKF、1.0~5.0 mg/kg、i.p.)またはSALの要約した効果は、自発運動を誘導した(n=6~8、左)。SKF (2.5 mg/kg、i.p.)またはSALにおける時間経過(中央)および総(右)自発運動活性は、WTおよびGpr143-/y (10)マウスにおいて過剰自発運動を誘発した。(C) AAV-DJ-GPR143-P2A-EGFP (a-d)または-EGFP (e-h)に感染させたKOマウスの線条体におけるEGFP (a,b)およびGPR143免疫反応性(b,f)シグナル。GPR143シグナル(矢頭)はGPR143‐P2A‐EGFP(b)で観察されたが、EGFP(f)を発現している線条体では観察されなかった。マージの拡大画像を(d,h)で示した。青色信号はDAPIを示す。尺度棒:50(a-c、e-g)、20 μm (d、h)。(D) キンピロール(0.03 mg/kg、i.p.)における時間経過(左)および総(右)自発運動活性は、WTおよびGPR143‐KOマウスにおいて自発運動低下を誘発した。(E) キンピロール(0.3および3 mg/kg, i.p.)処理後の線条体におけるリン酸化蛋白質レベルの変化。WTおよびGPR143-KO (KO)マウスの線条体におけるpDARPP32 (T75)、DARPP32、pGSK3β(S9)、GSK3β、pERK (T42、44)、ERK、pAkt (T473)、Aktの蛋白質レベル。WT 0 mg/kg対照を100%とした場合のリン蛋白質/総蛋白質の比を計算することにより、キンピロールの要約効果を示した。すべての数値は平均値±標準誤差である。*P <0.01、** P<0.01、*** P<0.001、チューキーの多重比較検定による一元配置分散分析である。
図2】線条体におけるGPR143とDRD1またはD2DRの発現パターン(A) マウス線条体におけるin situハイブリダイゼーション・シグナル。GPR143 mRNAの青色シグナルはアンチセンス(左)で検出されたが、センス(右)プローブでは検出されなかった。(B) GPR143 mRNA (緑色)とDARPP32の二重染色。スケールバー、100 μm.
図3】D2DRシグナル伝達の増強には、GPR143の5番目の膜貫通領域(TM5)が必要である。(A) D2DRを発現するCHO細胞におけるキンピロール(QNP、0.1および0.1 μM)による処理後のpGSK3β(S9)およびGSK3βの蛋白質レベルに対するGPR143およびGPR37の効果。(B) (A)のデータの要約(定量・グラフ化)。(C) キメラ受容体の模式図。(D) CHO細胞を発現するD2DRにおけるキンピロール(QNP、0.01および0.1 μM)による処理後のpGSK3β(S9)およびGSK3bの蛋白質レベルに対するGPR143およびキメラ受容体の効果。(E) (D)のデータの要約(定量・グラフ化)。(F) キンピロール誘発pGSK3β(S9)のGPR143による増強に対するTAT‐TM5ペプチドの効果。(G) (F)のデータの要約(定量・グラフ化)。すべての数値は平均値±標準誤差。*P <0.1, ** P<0.01, *** P<0.001, #P <0.01, Bonfferoniの多重比較検定による双方向の分散分析。
図4】TAT-TM5ペプチドはCHO細胞におけるD2DRシグナル伝達を抑制した。(A) in situ近接連結アッセイを用いて、D2DRおよびGPR143を共発現するCHO細胞におけるD2DRとGPR143の間の相互作用シグナルに対する細胞貫通ペプチドTAT融合‐TM5(TAT‐TM5)ペプチドの効果。スケールバー、10 μm。(B) (A)の相互作用シグナルの定量的解析。(C) GPR143の有無にかかわらず、D2DRRを発現するCHO細胞における[3H]‐ラクロプリド結合(4 nM)に対するキンピロール(0.05~50 μM)結合に及ぼすGPR143の効果。(D) GPR143の共発現の有無にかかわらず、D2DRRを発現するCHO細胞におけるcAMPの蓄積に対するキンピロール (0.001~10 μM) の効果。(E) GPR143の共発現の有無にかかわらず、D2DRRを発現するCHO細胞におけるcAMPの蓄積のキンピロール(10 nM)誘導減少に対するTAT-TM5の効果。(F) 数値は平均値±標準誤差。*P<0.01, ** P<0.01, ***P<0.001, #P<0.01, Bonfferoniの多重比較検定による二元配置分散分析。
図5】TM5-TATペプチドはマウス線条体におけるD2DRシグナル伝達を抑制した。(A) キンピロール(0.02 mg/kg, i.p.)に対するTAT‐TM5またはTAT‐対照ペプチド(100 pmol, i.c.v.)の効果は、運動低下を誘導した。(B) (A)の効果の要約(グラフ化)。(C) マウス線条体におけるpGSK3βおよびpDARPP32の蛋白質レベルのキンピロール(0.3mg/kg、i.p.)誘発性増加に対するTAT‐TM5の効果。(D) (C)の効果の要約(定量・グラフ化)。*P<0.1, **P<0.01, ***P<0.001, #P<0.01, チューキーの多重比較検定による一元配置分散分析。
図6】キンピロール(0.3および3 mg/kg, i.p.)処理後のWTおよびGPR143-KOマウスの前頭皮質(A)および視床下部(B)におけるpGSK3βおよびGSK3βのタンパク質レベルの変化。キンピロールの要約された効果はpGSK3β/GSK3βの比により算出された。全ての値は平均値±標準誤差である。
図7】キンピロール(10 nM)の線条体におけるドーパミンの放出に対する効果。値は対照に対するパーセントにより示される。全ての値は平均値±標準誤差である。
図8】キンピロール(1および10 μM)処理後のD1(A)およびD3(B)を発現しているCHO細胞におけるpGSK3βおよびGSK3βのタンパク質レベルの変化。キンピロールの要約された効果はpGSK3β/GSK3βの比により算出された。
図9】in situ PLA(緑)を用いたD2DRおよびGPR143の相互作用に対するTAT膜貫通(1-4、6および7)ペプチドの効果。青はDAPIシグナルを示す。尺度棒、10 μm。グラフはin situ PLAシグナルのドットカウント/細胞を示す(n=6、2つの独立した実験)。全ての値は平均値±標準誤差である。
図10】キンピロール(QNP、0.001~10 μM)処理後のD1(A)およびD3(B)を発現しているCHO細胞におけるcAMP蓄積の変化。キンピロールの要約された効果はMock-vehicleを対照とすることにより算出された。全ての値は平均値±標準誤差である。
図11】WTおよびGPR143-KOマウスにおけるハロペリドール(0.5 mg/kg, i.p.)処理後のカタレプシー試験の経時変化に対するTAT-TM5あるいはTAT-対照ペプチド(100 pmol、i.c.v)の効果。全ての値は平均値±標準誤差である。** P<0.01、#P<0.01、Bonfferoniの多重比較検定による二元配置分散分析。
図12】TAT-TM5のクロマトグラム。
図13】TAT-TM5のマススペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、IPHYVTTYLPLLLVLVANPIL(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物を提供する。
【0014】
本発明のペプチドは、マウス由来のGPR37の第5膜貫通領域(TM5)をコードするペプチドである。GPR37のアミノ酸配列は、UniProt(https://www.uniprot.org/)にProsaposin receptor GPR37としてQ9QY42の番号で登録されており、アミノ酸番号192~212の領域に相当するペプチドが、本発明のペプチドである。
【0015】
本発明のペプチドには、細胞膜透過ペプチドが付加されてもよい。細胞膜透過ペプチドとしては、TATペプチド、及びこれと同等の効果を持つ小分子化合物などを例示することができる。
【0016】
本発明のペプチドは、公知の遺伝子工学的手法によって製造することができる。例えば、本発明のペプチドをコードするDNAを得、得られたDNAを適当な発現ベクターに組み込んだ後、適当な宿主に導入し、組換え蛋白質として生産させることにより、本発明のペプチドを製造することができる(例えば、西郷薫、佐野弓子共訳、CURRENT PROTOCOLSコンパクト版、分子生物学実験プロトコール、I、II、III、丸善株式会社:原著、Ausubel,F.M.等, Short Protocols in Molecular Biology, Third Edition, John Wiley & Sons, Inc., New Yorkを参照のこと)。
【0017】
あるいはまた、本発明のペプチドは、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。
【0018】
本発明のペプチドは、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143との相互作用を阻害することができる。本発明のペプチドは、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143との相互作用を阻害することにより、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143とを介するシグナル伝達経路を阻害することができるので、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143とを介するシグナル伝達経路の阻害剤として用いることができる。本発明のペプチドは、医薬として用いることができ、例えば、ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患の予防及び/又は治療薬として用いることができる。ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患としては、パーキンソン病、統合失調症、双極性障害、うつ病、躁病、依存症、注意欠損多動性障害などを例示することができ、依存症としては、薬物、アルコール性、喫煙、ギャンブル依存症を例示することができる。本発明のペプチドは、医薬的に許容される塩又は溶媒和物の形態であってもよいし、プロドラッグの形で投与されてもよい。
【0019】
医薬的に許容される塩としては、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、強酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸など)の塩などを例示することができる。これらの塩は、公知の方法で製造することができる。
【0020】
本発明のペプチド又はその医薬的に許容される塩は、水や有機溶媒などの溶媒と溶媒和物を形成してもよい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、t-ペンタノール、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、塩化メチレン、プロピレングリコール、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシドなどを例示することができる。溶媒和物は、医薬的に許容されるものであるとよい。
【0021】
プロドラッグは、生体に投与された後、酵素の作用や代謝的加水分解などにより、医薬的に活性な化合物になる。プロドラッグの一例は、当業者に知られている酸誘導体であり、例えば、適当なアルコールとの反応によって製造されるエステル、適当なアミンとの反応によって製造されるアミドなどが挙げられる。
【0022】
本発明のペプチド、その医薬的に許容される塩、溶媒和物又はプロドラッグは、単独で、あるいは、医薬的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とともに、適当な剤型の医薬組成物として、動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、サル類、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマなどの哺乳動物、ニワトリなどの鳥類など)に対して、局所又は全身に、経口または非経口で投与することができる。投与量や投与の頻度は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なる。マウス(体重約30g)において得られた有効投与量は、100pmol(脳室内投与, 0.4 μg: TAT-TM5の分子量は4081)をもとに、ヒト等価用量を以下の式に基づいて求めると、
計算式[1]
HED = 動物用量(mg/kg) x (動物体重(kg) / ヒト体重(kg)) 0.33
体重30gのマウス(0.4 μgx1000/30=13.32 μg)/kg用量から、体重60kgのHEDを算出
HED = 13.32μg x (0.03 / 60) 0.33
HED = 13.32μg x0.0814 μg/kg=1.08μg となる。
例えば、成人の精神神経疾患(例えば、統合失調症、ドーパの副作用発現)の予防・治療のために使用する場合には、本発明のペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物を1回量として通常1~100 μg /kg体重程度、好ましくは1~10 μg /kg体重程度を、1日3~4回程度の頻度で、好ましくは1日1~2回程度の頻度で、静脈注射により投与(好ましくは、連続または隔日投与)するとよい。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合にはその症状に応じて増量してもよい。
【0023】
経口投与のための製剤としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などがあげられる。かかる製剤は常法により製造することができ、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有してもよい。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、庶糖、ステアリン酸マグネシウムなどがあげられる。
【0024】
非経口投与のための製剤としては、例えば、注射剤、坐剤などがあげられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤などの剤型であるとよい。かかる注射剤は常法、すなわち、本発明のペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製することができる。注射用の水性液としては生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などがあげられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50 mol)adduct of hydrogenated castor oil))などと併用してもよい。油性液としてはゴマ油、大豆油などがあげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。調製された注射液は通常適当なアンプルに充填される。直腸投与に用いられる坐剤は、本発明のペプチド、その医薬的に許容される塩又は溶媒和物を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製することができる。
【0025】
上記の経口用または非経口用製剤は、有効成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されるとよい。かかる投薬単位の剤形としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられ、それぞれの投薬単位剤形当り通常200~300 mg程度の本発明のペプチド、その医薬的に許容される塩、溶媒和物又はプロドラッグが含有されていることが好ましい。
【0026】
製剤は、本発明のペプチド、その医薬的に許容される塩、溶媒和物又はプロドラッグとの配合により好ましくない相互作用を生じない限り、他の有効成分を含有してもよい。
【0027】
本発明は、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143との相互作用を阻害することを指標として、ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患の予防及び/又は治療に有効な物質をスクリーニングする方法も提供する。ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患については、上述した。
【0028】
候補物質が、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143との相互作用を阻害するか否かを調べるには、in situ PLA法を用いるとよい。ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143を共発現する細胞に候補物質を添加することにより、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143との相互作用シグナルが減少すれば、候補物質は、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143との相互作用を阻害すると判定することができる。
【0029】
本発明のスクリーニング方法においては、さらに、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143を共発現する細胞における、下記の(a)、(b)及び(c)からなる群より選択される少なくとも1つの作用も指標とすることができる。
(a)ドーパミンD2受容体作動薬により誘導されたcAMP産生低下の抑制
(b)ドーパミンD2受容体作動薬により誘導されたGSK3βのリン酸化レベル上昇の抑制
(c)ドーパミンD2受容体作動薬により誘導されたDARPP32のリン酸化レベル上昇の抑制
ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143を共発現する細胞は、以下のようにして、作製することができる。D2DR-mCherry を安定的に発現するCHO細胞株(あるいはそれと同等の細胞株)を定法にしたがってG418遺伝子を組み込んだプラスミドを用いて作製し(Goshima et al, J Neurosci 13(2): 559-567, 1993)、同安定化細胞株にさらにGPR143-flagをインサートに含むプラスミドを用いて強制発現させ、これら2種の受容体を共に発現する細胞株を調整する。この際、mCherryとflagのそれぞれをマーカーとして、共発現していることを確認する。
【0030】
ドーパミンD2受容体作動薬としては、キンピロール、ブロモクリプチン、カベルゴリン、スマニロール、ロピニロール、タリペキソール、アポモルヒネなどを例示することができる。
【0031】
後述の実施例で示すように、本発明者らは、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143を共発現する細胞において、ドーパミンD2受容体作動薬(例えば、キンピロール)は、ホルスコリンによって刺激されたcAMP産生を阻害することを見出した。よって、この試験系に、候補物質を添加することにより、cAMP産生阻害が抑制されれば、その候補物質は、ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患の予防及び/又は治療に有効であると判定することができる。cAMPの量は、Direct cAMP ELISAキット(Enzo Life Science)を用いて、標準プロトコールにより算出することができる。
【0032】
また、後述の実施例で示すように、本発明者らは、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143を共発現する細胞において、TAT-TM5(TATペプチドが付加された、配列番号1のアミノ酸からなるペプチド)による処理が、ドーパミンD2受容体作動薬(キンピロール)によるGSK3βのリン酸化の増加を抑制することを見出した。よって、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143を共発現する細胞に、候補物質を添加することにより、ドーパミンD2受容体作動薬(キンピロール)によるGSK3βのリン酸化の増加が抑制されれば、その候補物質は、ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患の予防及び/又は治療に有効であると判定することができる。GSK3βのリン酸化レベルは、イムノブロット分析により測定することができる。
【0033】
さらに、後述の実施例で示すように、本発明者らは、TAT-TM5(TATペプチドが付加された、配列番号1のアミノ酸からなるペプチド)を投与したマウスの線条体において、ドーパミンD2受容体作動薬(キンピロール)が誘導するpGSK3β(Ser9)およびpDARPP32(Thr75)の蛋白質レベルの増加が減少することを見出した。このことは、候補物質を投与したマウスの線条体における、ドーパミンD2受容体作動薬により誘導されたDARPP32のリン酸化レベル上昇の抑制も、スクリーニングの判定の指標とすることができることを示している。候補物質の添加により、ドーパミンD2受容体とドーパ受容体GPR143を共発現する細胞における、ドーパミンD2受容体作動薬により誘導されたDARPP32のリン酸化レベル上昇が抑制されれば、その候補物質は、ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患の予防及び/又は治療に有効であると判定することができる。DARPP32のリン酸化レベルは、イムノブロット分析により測定することができる。
【0034】
本発明のスクリーニング法においては、さらに、非ヒト動物における、ドーパミンD2受容体作動薬及び/又はドーパミンD2受容体拮抗薬の作用の抑制も指標とすることができる。
【0035】
非ヒト動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ニワトリなどの鳥類、ブタ、サル類、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマなどを例示することができる。
【0036】
ドーパミンD2受容体拮抗薬としては、ハロペリドール、ベンペリドール、クロルプロマジン、ドロペリドール、ペラジン、ピモザイド、スルピリド、スピペロン、チオリダジンなどを例示することができる。
【0037】
ドーパミンD2受容体作動薬としては、上述したものを例示することができる。
【0038】
非ヒト動物における、ドーパミンD2受容体作動薬の作用としては、行動反応の低下、プロラクチン分泌抑制、成長ホルモン抑制、血圧下降作用などを例示することができる。
【0039】
非ヒト動物における、ドーパミンD2受容体拮抗薬の作用としては、カタレプシー、胃酸分泌抑制、消化管蠕動運動亢進、制吐、睡眠時間の減少ないし増加(量に依存)などを例示することができる。
【0040】
候補物質を投与した非ヒト動物において、ドーパミンD2受容体作動薬及び/又はドーパミンD2受容体拮抗薬の作用の抑制が観察されれば、その候補物質は、ドーパミンD2受容体を介するシグナル伝達経路が関与する疾患の予防及び/又は治療に有効であると判定することができる。
【実施例
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
ドーパミン受容体は、無数の細胞応答を調節して、ドーパミン関連の行動および機能の発現を微調整することができる。しかし、ドーパミンシグナル伝達の調整機構はほとんど知られていない。本研究では、以前は不活性と考えられていたアミノ酸であるドーパが、D2DRとGPR143の間の相互作用を介してドーパミンD2DR受容体(D2DR)シグナル伝達を微調整することを示す。GPR143遺伝子欠損(Gpr143-/y)マウスにおいて、ドーパミンD2/3受容体作動薬キンピロール誘発自発運動低下は野生型(WT)マウスと比較して減弱した。キンピロールは、線条体におけるT75でのDARPP32およびS9でのGSK3βのリン酸化を増加させたが、WTマウスと比較した場合、Gpr143-/yマウスでは減弱した。Gpr143-/yマウスにおけるD2DRシグナル伝達のこれらの変化は、第5膜貫通領域(TM5)をコードするペプチドによるD2DRとGPR143の相互作用の破壊によって模倣され、背側線条体へのGPR143の導入によって救済された。これらの結果は、ドーパが線条体ドーパミン作動系においてGPR143を介してD2DRシグナル伝達を調節する証拠を提供する。
【0042】
線条体は、さまざまな精神運動行動を制御する脳核の一群である大脳基底核の重要な要素である。大脳基底核機能に対する線条体の重要性は、線条体機能が損なわれる神経学的障害によって強調される。ドーパミン受容体は、意欲、喜び、認知、記憶、学習、および微細な運動技能を含む多くの神経学的過程に関与している。ドーパミン受容体には、D1DR、D2DR、D3DR、D4DR、D5DRの5つのサブタイプがある。ドーパミン受容体は多種多様な機能を発揮し、正常状態、病的状態ともに主要な役割を果たしている(1~3)。D2DRに作用する薬物は、パーキンソン病(PD)、統合失調症、うつ病などの疾患によって生じる症状を緩和するためによく用いられる。これらの薬物の使用の限界は、ときに重度の副作用を有する患者を苦しめることである。ドーパミン受容体、特にD2DRは統合失調症やその他、類似の精神疾患の最も重要な薬物標的であるが、陰性症状や社会的適合性を改善する効果を持つ薬物が乏しく、その開発は急務である。したがって特定のD2DRを介したシグナル伝達経路の選択的ターゲティングは、これらの破壊的な疾患に対する改善された治療の開発につながる可能性がある。
【0043】
ドーパミン受容体はG蛋白質共役型受容体であり、2つの主なファミリー(1,4~7):D1およびD5受容体を含むD1様受容体サブファミリー(D1R);およびD2、D3およびD4受容体を含むD2様サブファミリーに属する。D1RはGs/Golfとの共役を介してアデニル酸シクラーゼ(AC)を活性化するが、D2DRはGi/o結合し、Gαi/oおよびGβγサブユニットを放出する。D2DRの機能は、cAMP依存性シグナル伝達の拮抗という観点から考えられてきた。cAMP依存性シグナル伝達では、Gαiサブユニットがアデニル酸シクラーゼに結合して阻害し、cAMPの産生とプロテインキナーゼA (PKA)の活性化を妨げる。線条体ニューロンでは、DARPP-32はPKAの主要な標的であり、DARPP-32はcAMP依存系のD2DR阻害を含む多くのドーパミン作動性作用に関与している。D2DR受容体はまた、Gβγサブユニットを介して細胞内シグナル伝達を変化させ、これは多くの細胞内標的で作用することができる。
【0044】
PDでは、線条体へのドーパミン作動性求心性神経が失われ、直接および間接経路を介した線条体出力が変化し、運動能力の障害が生じる。L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン (L-DOPA)はPDの治療に最も効果的な治療薬であり、芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)によるドーパミン(DA)への変換を介して作用する能力を有する不活性アミノ酸であると考えられてきた。我々は、DOPAが中枢神経系における神経伝達物質であることを提唱してきた(CNS)(8)。最近、G‐蛋白質共役受容体(GPCR) GPR143がin vitro (9)およびin vivo (10)でL‐DOPA受容体の候補として機能することが報告された。
【0045】
ドーパは中脳におけるドーパミンD2DR受容体(D2DR)を介した伝達を増強する(11)。ドーパミン作動性神経伝達におけるGPR143のin vivoでの役割を検討するために、自発運動に対するD2DR作動薬キンピロールの効果を調べた。
【0046】
キンピロール(0.01~0.1 mg/kg, i.p.)はWTマウスの自発運動を用量依存的に減少させた。キンピロール(0.03 mg/kg)による自発運動量の減少はWTマウスと比較した場合、Gpr143-/yマウスでは減弱していた(図1A)。一方、DRD1作動薬であるSKF81297(1.0~5.0 mg/kg, i.p.)はWTマウスの自発運動を用量依存的に増加させた。Gpr143-/yマウスにおけるSKF81297(2.5 mg/kg)による自発運動の増加は、WTマウスで観察されたものと同様であった(図1B)。GPR143の機能喪失の特異性を保証するために、我々はAAV-DJ-CAGGS-GPR143-P2A-EGFPまたはAAV-DJ-CAGGS-EGFPをコードするアデノ随伴ウイルスを用いてGpr143-/y (KO)マウスの線条体におけるGPR143の再発現アッセイを実施した(図1C)。線条体におけるGPR143-P2A-EGFP (図1D)の再発現は、EGFP発現群と比較した場合、キンピロールによる自発運動の減少を回復させ(図1D)、Gpr143が線条体におけるD2DRシグナル伝達に関与することを示した。
【0047】
次に、我々はin situハイブリダイゼーションアッセイにより線条体におけるGPR143の局在性を調べた。GPR143 mRNAシグナルは、アンチセンスプローブで検出されたが、センスプローブでは検出されなかった(図2A)。ここでも、GPR143 mRNAシグナルは線条体で発現しており、これらのシグナルはDARPP32および/またはD2DR免疫反応陽性細胞で発現していた(図2B、C)。これらの結果は、GPR143が線条体におけるD2DR媒介応答を調節することを示唆した。
【0048】
GPR143がD2DR作動薬(図1A)に対する行動反応にどのように関与しているかを解明するために、まず線条体におけるイムノブロット法を用いて、D2DRを介したシグナル伝達の下流分子であるリン酸化DARPP32、GSK3β、Akt、ERKを測定した。DARPP32(Thr75)およびGSK3β(Ser9)のリン酸化レベルは、WTマウスの線条体においてキンピロールにより増加した。キンピロールによるリン酸化タンパク質レベルの増加は、Gpr143-/yマウスでは減弱した(図1E)。さらに、GSK3βのリン酸化は前頭皮質および視床下部では変化しなかった(図6)。対照的に、Gpr143-/yマウスにおけるp-Aktおよびp-ERKのレベルは、WTマウスにおけるレベルと類似していた(図1E)。キンピロールはD2DR自己受容体に作用し、ドーパミンの合成と放出を負に制御することで、自発運動を抑制する(12)。次に、in vivo微小透析を用いて線条体からのドーパミンの放出を測定した。キンピロール(100 nM)は、Gpr143-/yおよびWTマウスにおけるドーパミン放出を阻害した。しかしながら、予想外に、この効果はGpr143-/yおよびWTマウスでも同様に観察された(図7)。これらの知見は、Gpr143-/yマウスにおける表現型欠損が、主に線条体のシナプス後ニューロンで発現するGPR143の機能喪失に起因することを示唆した。
【0049】
GPR143は平滑筋細胞のa1Bアドレナリン受容体と共役し、交感神経活動に対する血管収縮反応を感作する(10)。D2DRとGPR143の間の相互作用の可能性を調べるために、再構成系におけるD2DR媒介シグナル伝達を推定した。キンピロールは、D2DR-mCherryを発現するCHO細胞においてp-GSK3β濃度を上昇させた(図3)。D2DRとGPR143を共発現する細胞におけるp-GSK3βレベルのキンピロール(0.1 μM)誘導性増加は、D2DRを単独発現するCHO細胞よりも高かった(図3B)。このGSK3βリン酸化の増大は、GPR143とDRD1またはDRD3を共発現する細胞では観察されなかった(図8A、B)。次に、D2DRとの機能的相互作用に必要なGPR143のドメインを決定するために、キメラ受容体を用いた。パーキン関連エンドセリン受容体様受容体(Pael‐R) (GPR37)は、GPR143のそれらと共通のいくつかの特性を共有する。GPR37はGPR143と重複した発現パターンを示し、細胞膜への追跡は不良であった。GPR37とGPR143はレビー小体に局在する(13)。しかし、GPR143とは異なり、GPR37はキンピロール誘発GSK3βリン酸化を増強しなかった(図3A、B)。次に、GPR143の各膜貫通(TM)ドメインがGPR37の対応するTMドメイン(TM1-TM7)に置換された7つのキメラ受容体を構築した(図3C)。TMキメラGPR143変異体TM1、2、3、4、6および7の共発現は、D2DR発現細胞におけるキンピロール誘導GSK3βリン酸化を増強した(図3D、E)。対照的に、GPR143変異体TM5はキンピロールによるGSK3βのリン酸化を増強しなかった(図3D、E)。この知見は、GPR143のTM5ドメインが、D2DRとGPR143を共発現するCHO細胞におけるD2DR媒介シグナル伝達の増強に重要な役割を果たし、D2DRとGPR143の間の相互作用に必要である可能性を示した。GPCRヘテロマー化の機能を解析するために、HIV転写トランスアクチベーター(TAT)融合ペプチドを用いて、D2DRとGPR143の間のヘテロマー化の可能性を遮断した。D2DR媒介GSK3βリン酸化のGPR143による増強に対するTAT‐TM5の効果を検討した。TAT-TM5ペプチドで処理したところ、D2DRとGPR143を共発現するCHO細胞において、キンピロールによるGSK3βのリン酸化の増加が抑制された(図3F、G)。増強にD2DRとGPR143の相互作用が必要かどうかを決定するために、in situ PLA法を採用した。D2DRとGPR143の両方を発現する細胞では、ドットシグナルが観察された(図4A、B)。対照的に、D2DRを単独発現する細胞ではシグナルは観察されなかった(図4A)。TAT-TM5ペプチドによる処理は、D2DRおよびGPR143を共発現する細胞におけるGPR143-D2DR相互作用シグナル(ドット数/細胞)を減少させた(図4A、B)。TAT‐コントロールペプチドはD2DRとGPR143の間の相互作用シグナルに影響しなかった(図4A、B)。他のTAT-TMペプチド、TAT-TM1、2、3、4、6および7ペプチドは、それぞれGPR143によるD2DRシグナル伝達の増強に影響を示さず、相互作用シグナルに影響を及ぼさなかった(図9)。これらの結果は、D2DRシグナル伝達のGPR143による増強にはD2DRとGPR143のヘテロマー化が必要であることを示唆した。
【0050】
また、GPCRのヘテロマー化がリガンド結合特性を修飾する可能性があるため、GPR143の発現がD2DR発現細胞におけるD2DRリガンドである[3H]-racloprideの特異的結合に対するキンピロールの結合親和性に影響を及ぼすかどうかを検討した。D2DRとGPR143を共発現する細胞における[3H]-racloprideに対するキンピロールの結合親和性(Ki = 4.5、n = 4)は、D2DRを単独発現する細胞(Ki = 5.3、n = 4)における結合親和性と類似しており(図4B)、それによりGPR143はD2DRに対するD2DRリガンドの結合特性に影響しないことが示された。D2DRとGPR143を共発現する細胞におけるD2DR媒介シグナル伝達をさらに特性化するために、D2DRを発現する細胞およびD2DRとGPR143を共発現する細胞におけるcAMP産生を測定した。キンピロールは、D2DRを単独発現するCHO細胞およびD2DRとGPR143を共発現するCHO細胞において、ホルスコリンによって刺激されたcAMP産生を阻害した(図4C、D)。しかし、キンピロールによる阻害は、D2DRとGPR143を共発現している細胞では、D2DRを単独発現している細胞よりも顕著に亢進していた(図4C)。また、DRD1を発現するCHO細胞において、GPR143の有無にかかわらず、SKF81297に対するcAMP反応を検討した(図10)。DRD1またはDRD3を発現するCHO細胞におけるcAMP応答の間に差はなかった。ドーパは、D2DRを単独発現する細胞においてcAMP産生に何ら影響を及ぼさなかった。これらの知見は、GPR143が選択的にD2DRと機能的共役を示したが、DRD1またはDRD3とは機能的共役を示さず、D2DR媒介シグナル伝達を増強することを示唆する。
【0051】
D2DRとGPR143の間の相互作用のin vivo関連性を解明するために、D2DR媒介行動表現型に対するTAT‐TM5の効果を調べた。キンピロールは溶媒対照処置マウスとTAT‐TM5処置マウスの両方で自発運動を減少させた。しかし、TAT-TM5投与動物では、キンピロールによる自発運動の抑制が溶媒対照投与動物と比較して鈍化していた(図5AおよびB)。D2DRを介した作用に対するTAT-TM5の抑制作用は、線条体におけるpGSK3β(Ser9)およびpDARPP32(Thr75)のレベルによって確認された(図5C、D)。さらに、TAT-TM5投与(i.c.v)は、よく特徴付けられたD2DRを介した行動的反応であるハロペリドール誘発カタレプシーを抑制した(図11)。
【0052】
本研究では、ドーパミンシグナル伝達における調節成分としてのGPR143の機能を報告し、D2DR/GPR143複合体形成が、D2DRによって生成されるドーパミン媒介GSK3βシグナル伝達を増強するために必要であることを実証した。TAT-TM5によるD2DR/GPR143相互作用の破壊は、D2DR/GPR143間の機能的共役を妨害し、それによりD2DRシグナル伝達のGPR143による増大を抑制する可能性がある。
【0053】
したがって、D2DR/GPR143相互作用の同定は、潜在的にD2DRシグナル伝達の多様性のメカニズムを明らかにする。
【0054】
D2DRとGPR143の相互作用とGSK3βシグナル伝達のその調節との生理学的関連性は、D2DR作動薬であるキンピロールに対する行動反応の低下、およびD2DR拮抗薬であるハロペリドール誘発性カタレプシーの抑制によって表される(図1および図11)。この観察は、ドーパがD2DR媒介作用を増強することを示唆する十分な証拠により特に興味深い(11, 14)。さらに、合成DA作動薬は数十年にわたってPDの治療に含まれてきたが、ドーパは依然として最も有効な治療薬であり、PD治療におけるゴールドスタンダードと広く考えられている(15)。本研究は、ドーパとドーパミン作動薬の相違の理由と根本的なメカニズムについての洞察を提供する。
【0055】
ここに示したデータは、GPR143マウスの行動表現型が、セロトニンまたはノルアドレナリンのような他の神経伝達物質系の同様の機構による修飾による可能性を除外していない。この可能性を解明するにはさらなる研究が必要である。しかしながら、GPR143は機能的にD2DRと相互作用するが、DRD1またはDRD3とは相互作用しないことは注目に値する。D2DRはドーパミン作動性伝達において重要で多様な役割を持つことが広く認識されている。しかしながら、DRD1と比較して、ニューロンに対する活性化D2DRの生理学的結果はよく理解されている(3)。線条体におけるD2DR陽性或いはGPR143陽性、そしてD2DRとGPR143の二重陽性のニューロンがあることを観察した。したがって、ドーパ‐GPR143シグナル伝達が脳内のドーパミン作動性伝達におけるD2DRの多様な機能に寄与する可能性を示す証拠を提供する。
【0056】
ドーパミンD2DR受容体(D2DR)に作用する薬物は、パーキンソン病、統合失調症、うつ病などの疾患によって生じる症状を緩和するためによく用いられる。しかしながら、これらの薬物の使用の限界は、ときに重度の副作用を有する患者を苦しめることである。特定のD2DRを介したシグナル伝達経路の選択的ターゲティングは、これらの破壊的な疾患に対する改善された治療の開発につながる可能性がある。
【0057】
方法

倫理声明
すべての動物飼育および実験手順は、横浜市立大学大学院医学研究科における実験動物の飼育および使用の手引きの勧告に従って実施した(許可番号: F-A-14-046およびF-A-17-012)。実験を通して、使用動物数とその苦痛を最小限に抑えるためにあらゆる努力がなされた。
【0058】
動物
以前にC57BL/6J遺伝的バックグラウンドでGpr143遺伝子欠損マウス(10)を作製した。雌KOヘテロ接合体と雄Wtの交配により、GPR143‐KOとWT雄マウスの同腹仔を作出した。体重20~25 gの全てのマウス(6~12週齢)を使用し、温度(23±1℃)‐および湿度(55%)‐制御した部室に収容した。実験用マウスの餌と水を自由摂取させ、明暗サイクル(明期07.00~19.00時間)で維持した。実験を実施する少なくとも3日前に、マウスを1日1回拾い上げることにより、ハンドリングに馴化させた。
【0059】
細胞培養
CHO細胞はAmerican Type Culture Collection (Manassas, VA, USA)から入手した。 CHO細胞をF‐12 Ham培地で培養した。これらの培地に10% FBS、ペニシリン(100 U・mL-1)およびストレプトマイシン(100μg・mL-1)を添加し、5% CO2で加湿した大気中で37℃でインキュベートした。キンピロールおよび/またはドーパの適用前に、細胞をTAT-TM5ペプチドで15分処理した。
【0060】
薬物とTAT-TMペプチド
SKF81297およびキンピロールはTcris (ブリストル、英国)から購入した。ドーパは、Nacalai Tesque (京都、日本)から購入した。TAT-TMペプチドはペプチド合成装置で合成した。GPR143ペプチドの配列は以下の通りであった;
対照TAT、 YGRKKRRQRRR(配列番号2):
TAT-TM1、 VFHALCLGSGTLRLVLGLLQLYGRKKRRQRRR(配列番号3):
TAT-TM2、 YGRKKRRQRRRLLGCLGIVIRSTVWIAYPEFI(配列番号4):
TAT-TM3、 LLYSACFWWLFCYAVDVYLVIYGRKKRRQRRR(配列番号5) :
TAT-TM4、 YGRKKRRQRRRILLYHIMAWGLAVLLCVEGAV(配列番号6) :
TAT-TM5、 IPHYVTTYLPLLLVLVANPILYGRKKRRQRRR(配列番号7):
TAT-TM6、 YGRKKRRQRRRIMLVLIACWLSNIINESLLFY(配列番号8) :
TAT-TM7、 FIMGILNPAQGLLLSLAFYGWYGRKKRRQRRR(配列番号9)
図12は、TAT-TM5のクロマトグラムを示し、保持時間17.333分にピークが検出された。このピークに相当する化合物をマススペクトルで同定した(計算値:3904.72、測定値:3904.6)(図13)。
【0061】
手術
GPR143-KOマウスにおけるGPR143の復帰解析を行うために、我々はマウスGPR143を含むアデノ随伴ウイルス-DJ (AAV-DJ)をミクロ注入した。
マウスをイソフルランで麻酔し、頭部固定した。
【0062】
行動分析
自発運動の測定には、試験の少なくとも1時間前にマウスを部屋に馴化させた。その後、70ルクス照明条件でマウスを個別にチャンバー(50×50×40 cm3)に入れた。キンピロールまたはSKF81297による処理の60分前後に移動距離(cm)を記録した。ハロペリドール(0.5 mg/kg, i.p.)誘発カタレプシーの測定のために、水平棒試験を用いてカタレプシー時間を評価した。動物の前足を床から5cmに置いた水平棒上に置き、体位保持に費やした時間を測定した。オープンフィールドでの活動をイメージングソフトウエア(TimeOFCR4: O'Hara & Co., Ltd、東京、日本)を用いて定量化した。TAT‐ペプチドの脳室内(i.c.v.)処理は、キンピロールまたはハロペリドールによる処理の15分前に行った。
【0063】
プラスミド構築
in situハイブリダイゼーションと免疫化学
in situハイブリダイゼーション解析のために、マウスをイソフルランにより深く麻酔し、4%パラホルムアルデヒド/PBS pH 7.4(4% PFA)で心臓内潅流固定した。
【0064】
潅流後、速やかに脳を摘出し、4% PFAに一晩4℃で保存した。10%スクロースで2時間、20%で2時間、30%で一晩凍結保護した後、脳をO.C.T化合物(Sakura Finetechnical)の混合物で包埋した。脳領域を含む線条体を厚さ20 μmでスライスした。4% PFAで10分間固定した後、切片をプロテイナーゼKで30分処理し、その後、トリエチルアミン塩酸中0.45 %無水酢酸でアセチル化した。次に、ジゴキシゲニン(DIG)標識リボプローブを含む溶液中で、65℃で組織を夜間ハイブリダイズさせた。アンチセンスプローブは、M13プライマー(M13-F、5'-CCCAGTCACGACGTTGTAAAACG(配列番号10); M13-R、AGCGGAATAACATTCACAAGGG(配列番号11))を用いたPCRによりBluescript SK (+)中にマウスGPR143(Genbankアクセッション番号010951.3の1-949)を含むプラスミドを線形化して、T3ポリメラーゼで転写することによって得た。センス対照プローブは、T7ポリメラーゼで転写することにより得た。非特異的染色は、室温で90分間、10%ウシ血清アルブミンおよび正常ヒツジ血清を含むPBSを用いた組織の事前のインキュベーションにより防いだ。その後、組織をアルカリホスファターゼと結合させた抗DIG中で4℃で夜間インキュベートした。アルカリホスファターゼ反応はニトロブルーテトラゾリウムと5‐ブロモ‐4‐クロロ‐3'‐インドリルリン酸基質を用いて可視化した。蛍光ISHについて、D2DRとGPR143の間の相互作用シグナルは、前述した製造者のプロトコールに従ってDuolink in situ PLAキット(Olink Bioscience社)により可視化された。Olympus FV100共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて特異的なシグナルを解析した。in situ PLAでは、抗D2DR抗体(Frontier institute、D2R-Rb-Af960)とflagに対する抗体(Sigma-Aldrich、Monoclonal ANTI-FLAG(登録商標)M2 antibody)を用いて、D2DRとGPR143を共発現する細胞(D2DR‐mCherryを発現するCHO細胞にGPR143-flagプラスミドをトランスフェクトしたもの)における、D2DRとGPR143の間の相互作用シグナルを検出した。
【0065】
イムノブロット分析
脳サンプルはキンピロール(0.3および3 mg/kg, i.p.)による45分処理後に採取した。ペプチドは、キンピロール処理の前にi.c.v.を介して15分間処理した。試料を300μl免疫沈降緩衝液(20mM Tris-HCl、pH 8.0、150 mM NaCl、1 mM EDTA、10 mM NaF、1 mM Na3VO4、0.1% Nonidet P-40、および0.1%プロテアーゼ阻害剤)中で均質化した。培養細胞については、キンピロールを37℃で10分間処理した後にCHO細胞を採取し、免疫沈降緩衝液中で溶解した。たんぱく質の量は、Bradfordたんぱく質アッセイ(Bio-Rad)によって定量化した。簡単に述べると、DTT (50μM)を含有するSDS 4×試料緩衝液に溶解した等量のタンパク質(20μg)をSDS-PAGE (9%)によって分離し、次いでポリフッ化ビニリデン膜(Millipore)に移した。
【0066】
次いで、サンプルを、抗GSK (#12456、1:6,000希釈)、pGSK (#9336、1:6,000希釈)、Akt (#9272、1:6,000希釈) pAkt (#9271、1:6,000希釈)、ERK (#9101、1:3,000希釈)、pERK (#9102、1:3,000希釈)、pDARPP32(#2301、1:3,000希釈) (Cell Signaling Technology)、またはDARPP32(#、1:3,000希釈)抗体のイムノブロット分析に使用した。一次抗体で標識した後、膜を洗浄し、HRPに結合した二次抗ウサギIgG抗体(GE Healthcare)とインキュベートした。抗体‐抗原複合体をLuminata Forte Western化学発光HRP基質(Millipore)またはWestern BLoT超高感度HRP基質(タカラ)を用いて同定した。
【0067】
cAMPアッセイ
D2DR‐mCherryを発現するCHO細胞を12ウェル培養プレートに1×106細胞で播種した。細胞を一晩平板培養した後、Fugene6(Promega)を用いてそれぞれ2.5 mgのGPR143-flagプラスミドおよびfree-flagプラスミドをトランスフェクトした。2日間培養後、ロリプラム(10 μM)で37℃、30分間処理した。次に、ホルスコリン(10 μM)とキンピロール(0.001~10 μM)で37℃、30分間処理した。インキュベーション後、0.1%トリトンX-100を含む0.1N HClを用いて細胞を溶解した。cAMPの量は、Direct cAMP ELISAキット(Enzo Life Science)を用いて標準プロトコールにより算出した。この結果は、free-flag vehicle処理対照のパーセントで示した。
【0068】
受容体結合アッセイ
D2DR‐mCherryを発現するCHO細胞を10 cm培養皿に1×106細胞で播種した。細胞を一晩平板培養した後、Fugene6(Promega)を用いて5mgのGPR143‐flagおよびfree‐flagプラスミドをトランスフェクトした。2日間のインキュベーション後、細胞を氷冷結合緩衝液[25 mM Tris、150 mM NaCl、5 mM EDTA (pH 7.4)]で収集し、0.4×106 細胞/mLに分注した。 [3H]‐ラクロプリド(5 nM、PekinElmer)およびキンピロール(0.005~50 μM、最終濃度)を含む結合緩衝液中で1時間、細胞をインキュベートした。細胞を氷冷結合緩衝液で3回洗浄した。[3H]‐ラクロプリドの特異的結合は、1 μMキンピロール存在下での[3H]‐ラクロプリド結合の値を差し引いて計算した。
【0069】
データ解析
結果は独立した実験の平均± 標準誤差として示した。データフィッティングおよび統計解析は、対応のない独立二群のStudent t検定または複数の群間で、一元配置または二元配置の分散分析によって行い、続いてTukeyまたはBonferroniの多重比較検定を行った。すべての分析はGraphPad Prism 7により行った。
【0070】
参照文献

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action of psychotropic drugs. Annu Rev Pharmacol Toxicol. 2009;49:327-47.
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excitability in the striatum and nucleus accumbens. Annu Rev Neurosci.
2000;23:185-215.
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dopamine signalling. Int J Obes Suppl. 2014;4(Suppl 1):S5-8.
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potentiates postsynaptic D2 receptor-mediated locomotor activities of conscious
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manifestations of PD: Neurobiological basis. Mov Disord. 2016;31(8):1103-13.
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、パーキンソン病、精神神経疾患など、D2 受容体が病態に関わる疾患群を予防及び/又は治療する医薬の開発に利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0072】
<配列番号1>GPR37の第5膜貫通領域(TM5)をコードするペプチドのアミノ酸配列を示す。
IPHYVTTYLPLLLVLVANPIL
<配列番号2>TATペプチドのアミノ酸配列を示す。
YGRKKRRQRRR
<配列番号3>TAT-TM1のアミノ酸配列を示す。
VFHALCLGSGTLRLVLGLLQLYGRKKRRQRRR
<配列番号4>TAT-TM2のアミノ酸配列を示す。
YGRKKRRQRRRLLGCLGIVIRSTVWIAYPEFI
<配列番号5>TAT-TM3のアミノ酸配列を示す。
LLYSACFWWLFCYAVDVYLVIYGRKKRRQRRR
<配列番号6>TAT-TM4のアミノ酸配列を示す。
YGRKKRRQRRRILLYHIMAWGLAVLLCVEGAV
<配列番号7>TAT-TM5のアミノ酸配列を示す。
IPHYVTTYLPLLLVLVANPILYGRKKRRQRRR
<配列番号8>TAT-TM6のアミノ酸配列を示す。
YGRKKRRQRRRIMLVLIACWLSNIINESLLFY
<配列番号9>TAT-TM7のアミノ酸配列を示す。
FIMGILNPAQGLLLSLAFYGWYGRKKRRQRRR
<配列番号10>M13プライマー(M13-F)の塩基配列を示す。
5'-CCCAGTCACGACGTTGTAAAACG
<配列番号11>M13プライマー(M13-R)の塩基配列を示す。
AGCGGAATAACATTCACAAGGG
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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