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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】電子顕微鏡の導電性固定
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/30 20060101AFI20240523BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
G01N1/30
G01N1/28 J
【請求項の数】 63
(21)【出願番号】P 2020538600
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 US2019013051
(87)【国際公開番号】W WO2019140089
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】62/615,811
(32)【優先日】2018-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/615,866
(32)【優先日】2018-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508176441
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・カンザス
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ローザ-モリナー エドゥアルド
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特許第6055766(JP,B2)
【文献】特開2004-347566(JP,A)
【文献】特開2000-028556(JP,A)
【文献】特許第5246348(JP,B2)
【文献】特開2013-142624(JP,A)
【文献】Gina E. Sosinsky,The combination of chemical fixation procedures with high pressure freezing and freeze substitution preserves highly labile tissue ultrastructure for electron tomography applications,Journal of Structural Biology,2008年,Vol.161,Page.359-371
【文献】L. Edelmann,Adsorption Staining of Freeze-Substituted and Low Temperature Embedded Frog Skeletal Muscle with Cesium: A New Method for the Investigation of Protein-Ion Interactions,Scanning Microscopy,1991年,Vol. 1991 : No. 5 , Article 7,Page.S75-S84
【文献】有本聡,種々の走査型電子顕微鏡を用いたイオン液体中での 電極表面その場観察技術,表面科学,2009年,Vol. 30, No. 7,pp. 368-373
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/30
G01N 1/28
G01N 33/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量分析用の生体試料を作製する方法であって、
(i)前記生体試料を、前記生体試料へのリチウム塩の浸透を可能にするのに有効な条件下で、0.5重量%~10重量%の前記リチウム塩を含む凍結置換溶液と接触させること、
(ii)前記生体試料への重合可能樹脂の浸透を可能にするのに有効な条件下で、前記生体試料を第1の重合可能樹脂と接触させること、
(iii)前記生体試料を一定量の第2の重合可能樹脂に配置すること、及び
(iv)このように作製された前記生体試料を、前記第1の重合可能樹脂と前記第2の重合可能樹脂を硬化させるのに有効な温度に加熱して、それにより三次元の導電性試料ブロックを形成すること、
を含み、
ステップ(i)が、
前記生体試料を前記凍結置換溶液に0℃未満の第1の温度で第1の期間浸すこと、及び
前記生体試料を前記凍結置換溶液に0℃を超える第2の温度で第2の期間浸すこと
を含む、前記方法。
【請求項2】
ステップ(i)の前に前記生体試料を固定液と接触させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固定液がアルデヒドを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルデヒドが、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、またはそれらの組み合わせを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記固定液が、前記固定液の総重量に基づいて、2重量%~8重量%のアルデヒドを含む水溶液を含む、請求項3~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記固定液が、1重量%~3重量%のグルタルアルデヒド及び1重量%~3重量%のパラホルムアルデヒドを含む水溶液を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶液が生理学的緩衝液を含む、請求項5~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記リチウム塩が、20℃で少なくとも10g/100mLの水への溶解度を示す、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記リチウム塩が、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、クエン酸リチウム、硝酸リチウム、安息香酸リチウム、ギ酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記リチウム塩が、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記リチウム塩が、前記凍結置換溶液の0.5重量%~4重量%を構成する、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記凍結置換溶液が酸化固定液をさらに含む、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記酸化固定液が、前記凍結置換溶液の0.5重量%~5重量%を構成する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記凍結置換溶液がネガティブ染色剤をさらに含む、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記凍結置換溶液がウラン塩をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記凍結置換溶液が鉛塩をさらに含む、請求項14~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記ネガティブ染色剤が、前記凍結置換溶液の0.5重量%~8重量%を構成する、請求項14~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記凍結置換溶液が、前記凍結置換溶液の総重量に基づいて、3重量%~5重量%の酢酸ウラニル及び0.1重量%~1重量%のクエン酸鉛を含む、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記凍結置換溶液が媒染剤をさらに含む、請求項1~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記媒染剤が、前記凍結置換溶液の総重量に基づいて、前記凍結置換溶液の0.01重量%~1重量%を構成する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記凍結置換溶液がp-フェニレンジアミンをさらに含む、請求項1~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記凍結置換溶液が硝酸ランタンをさらに含む、請求項1~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
ステップ(i)が、前記生体試料を0℃超の前記第2の温度で前記第2の期間前記凍結置換溶液に浸す前に、前記凍結置換溶液に前記生体試料を0℃未満の第3の温度で第3の期間浸すことをさらに含む、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
ステップ(i)が、前記生体試料を前記凍結置換溶液に0℃を超える第4の温度で第4の期間の間浸すことをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の温度が-70℃~-80℃である、請求項1~24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記第1の期間が8時間~24時間である、請求項1~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記第2の温度が0℃~10℃である、請求項1~26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記第2の期間が8時間~24時間である、請求項1~27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記第3の温度が-10℃~-40℃である、請求項23~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記第3の期間が2時間~12時間である、請求項23~29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記第4の温度が15℃~30℃である、請求項24~30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記第4の期間が2時間~12時間である、請求項24~31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記第1の重合可能樹脂がエポキシ樹脂を含む、請求項1~32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記エポキシ樹脂がビスフェノールAエピクロルヒドリンエポキシ樹脂を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第2の重合可能樹脂がエポキシ樹脂を含む、請求項1~34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記エポキシ樹脂がビスフェノールAエピクロルヒドリンエポキシ樹脂を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記第2の重合可能樹脂が促進剤を含む、請求項1~36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
前記促進剤が、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP-30)、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、またはそれらの組み合わせを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
ステップ(iv)が、そのように作製された前記生体試料を少なくとも40℃の温度に加熱することを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記生体試料が組織試料を含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
生体試料を画像化するための方法であって、
請求項1~40のいずれかに記載の方法を使用して、微量分析のために前記生体試料を作製し、それにより三次元導電性試料ブロックを形成すること、
前記三次元導電性試料ブロックを物理的に切断して、1つ以上の試料切片を取得すること、及び
電子顕微鏡により前記1つ以上の前記試料切片を画像化すること
を含む、前記方法。
【請求項42】
前記三次元導電性試料ブロックを物理的に切断することは、前記三次元導電性試料ブロックをミクロトームすることを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項43】
前記電子顕微鏡が走査型電子顕微鏡を含む、請求項4~4のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
前記電子顕微鏡が透過型電子顕微鏡を含む、請求項4~4のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
連続ブロック面走査電子顕微鏡(SBEM)のための方法であって、
請求項1~40のいずれかに記載の方法を使用して微量分析のための前記生体試料を作製し、それにより三次元導電性試料ブロックを形成すること、
前記三次元導電性試料ブロックをSEM顕微鏡に配置すること、及び
前記三次元導電性試料ブロックの様々な深さを連続的に画像化すること
を含む、前記方法。
【請求項46】
異なる深さを連続的に画像化することは、異なるレベルに焦点を合わせることによって異なる深さを仮想的に画像化することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項47】
異なる深さを連続的に画像化することは、前記三次元導電性試料ブロックを物理的に切断することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項48】
前記三次元導電性試料ブロックを物理的に切断することは、SBEMチャンバでダイヤモンドナイフを用いて自動化された切断をすることを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項49】
微量分析用の生体試料の作製に使用するための凍結置換溶液であって、
前記凍結置換溶液の総重量に基づいた、0.5重量%~10重量%のリチウム塩、
前記凍結置換溶液の総重量に基づいた、0.5重量%~5重量%の四酸化オスミウム、
前記凍結置換溶液の総重量に基づいた、0.5重量%~8重量%の1つまたは複数のネガティブ染色剤であって、ウラン塩、鉛塩、またはそれらの組み合わせから選択される前記1つまたは複数のネガティブ染色剤、及び
60重量%~98.9重量%のアセトン
を含む、前記凍結置換溶液。
【請求項50】
前記リチウム塩が、20℃で少なくとも10g/100mLの水への溶解度を示す、請求項4に記載の溶液。
【請求項51】
前記リチウム塩が、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、クエン酸リチウム、硝酸リチウム、安息香酸リチウム、ギ酸リチウム、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項450のいずれかに記載の溶液。
【請求項52】
前記リチウム塩が、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを含む、請求項5に記載の溶液。
【請求項53】
前記リチウム塩が、前記凍結置換溶液の0.5重量%~4重量%を構成する、請求項4~5のいずれかに記載の溶液。
【請求項54】
前記四酸化オスミウムが、前記凍結置換溶液の2重量%~3重量%を構成する、請求項4~5のいずれかに記載の溶液。
【請求項55】
前記1つまたは複数のネガティブ染色剤がウラン塩を含む、請求項4~5のいずれかに記載の溶液。
【請求項56】
前記1つまたは複数のネガティブ染色剤が鉛塩を含む、請求項4~5のいずれかに記載の溶液。
【請求項57】
前記1つまたは複数のネガティブ染色剤が、前記凍結置換溶液の2重量%~6重量%を構成する、請求項4~5のいずれかに記載の溶液。
【請求項58】
前記凍結置換溶液が、前記凍結置換溶液の総重量に基づいて、3重量%~5重量%の酢酸ウラニル及び0.1重量%~1重量%のクエン酸鉛を含む、請求項4~5のいずれかに記載の溶液。
【請求項59】
前記凍結置換溶液が媒染剤をさらに含む、請求項4~5のいずれかに記載の溶液。
【請求項60】
前記媒染剤が、前記凍結置換溶液の総重量に基づいて、前記凍結置換溶液の0.01重量%~1重量%を構成する、請求項5に記載の溶液。
【請求項61】
前記凍結置換溶液がp-フェニレンジアミンをさらに含む、請求項460のいずれかに記載の溶液。
【請求項62】
前記凍結置換溶液が硝酸ランタンをさらに含む、請求項4~6のいずれかに記載の溶液。
【請求項63】
前記リチウム塩が、前記凍結置換溶液の2重量%~3重量%を構成する、請求項49~62のいずれかに記載の溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年1月10日出願の米国仮出願第62/615,811号及び2018年1月10日出願の米国仮出願第62/615,866号の利益を主張するものであり、これらは各々、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本願は、一般に電子顕微鏡で使用するための方法と組成物、特に生体試料の画像化に関連する一般的な問題を軽減するための方法と組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
電子顕微鏡法は、細胞や組織などの生体試料、高分子樹脂試料、及び無機物質などの結晶試料の超微細構造を調査するために有利に使用できる。2つのタイプの電子顕微鏡が知られている。走査型電子顕微鏡(以下、時にSEMと呼ばれる)と透過型電子顕微鏡(以下、時にTEMと呼ばれる)である。
【0004】
電子顕微鏡のカラムでは、入射電子は加速されて、例えばエポキシ樹脂包埋の試料に入る(図1を参照)。樹脂に包埋された試料の内部に含まれる加速された電子と原子の間の相互作用の数により、電子の弾性散乱と非弾性散乱が生じる(電子相互作用量と知られている。図1を参照)。生成された多数の信号(つまり、二次電子、後方散乱電子、陰極線ルミネセンス、オージェ電子、特性X線、及び制動放射X線)を使用して、細胞や組織オルガネラの超微細な機構の高分解能電子顕微鏡の画像化を行うことができる。
【0005】
非導電性試料の画像化には関連する多くの問題がある。図2に示すように、帯電により、生体試料などの導電性の低い画像化試料が厄介なものとなる可能性がある。帯電は、試料の電子の蓄積とそれらの制御されない放電によって生成される。これにより、特に二次電子画像で、不要なアーチファクトが発生する可能性がある。入射電子の数が標本から出る電子の数よりも多い場合、ビームが試料に当たる箇所で負の電荷が蓄積する。この現象は帯電と呼ばれ、異常なコントラストや画像の変形やシフトなど、ある範囲の異常な影響を引き起こす。時に、帯電した領域から突然電子が放出されると、画面に明るいフラッシュが発生することがある。これらは、標本の均一な画像を取り込めないようにし、小さな標本が取り付けスタブから移動するほど激しいことさえもある。
【0006】
また、標本に電子ビームを照射すると、熱の形での試料に対するビームエネルギーの喪失を生じる可能性がある。kVが高くなると、照射点の温度が高くなり、ポリマーやタンパク質などの脆い試料に損傷(例えば溶解)が生じ、ワックスやその他の試料成分が蒸発する可能性がある。これは試料を台無しにする可能性がある(SEMチャンバを汚染するだけでなく)。解決策は、ビームエネルギーを下げること、時には数kVまで下げることである。また、同じビームエネルギーで試料により大きな大きさのスポットを生成するため、作動距離を長くすることも有用であるが、これには分解能が低下するという欠点がある。
【0007】
高分解能の顕微鏡法を利用するには、生命科学で、電子顕微鏡での電子ビームと試料の相互作用によって引き起こされる帯電と試料の損傷を克服する、より優れた試料作製のワークフローと試薬が必要である。
【発明の概要】
【0008】
微量分析(例えば、電子顕微鏡による画像化)のために生体試料を作製する方法が開示されている。この方法は、(i)生体試料へのリチウム塩の浸透を可能にするのに有効な条件下で、生体試料を、リチウム塩を含む凍結置換溶液と接触させること、(ii)生体試料への重合可能樹脂の浸透を可能にするのに有効な条件下で生体試料を第1の重合可能樹脂と接触させること、(iii)生体試料を一定量の第2の重合可能樹脂に配置すること、及び(iv)このように作製された生体試料を、第1の重合可能樹脂と第2の重合可能樹脂を硬化させるのに有効な温度に加熱して、それにより三次元導電性試料ブロックを形成することを含むことができる。
【0009】
リチウム塩は、20℃で少なくとも10g/100mLの水への溶解度を示すことができる。リチウム塩は、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、クエン酸リチウム、硝酸リチウム、安息香酸リチウム、ギ酸リチウム、またはそれらの組み合わせを含むことができる。特定の実施形態では、リチウム塩は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを含むことができる。リチウム塩は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、凍結置換溶液の0.1重量%~10重量%(例えば、0.5重量%~4重量%または2重量%~3重量%)を構成することができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、方法は、ステップ(i)の前に生体試料を固定液と接触させることをさらに含むことができる。固定液は、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、またはそれらの組み合わせ)を含むことができる。いくつかの実施形態では、固定液は、固定液の総重量に基づいて、2重量%~8重量%のアルデヒドを含む水溶液を含むことができる。特定の実施形態では、固定液は、1重量%~3重量%のグルタルアルデヒド及び1重量%~3重量%のパラホルムアルデヒドを含む水溶液を含む。水溶液は、ハンクス平衡塩類溶液などの生理学的緩衝液を含むことができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、四酸化オスミウムなどの酸化固定液をさらに含むことができる。酸化固定液は、凍結置換溶液の2重量%~3重量%など、凍結置換溶液の0.5重量%~5重量%を構成することができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、ウラン塩、鉛塩、またはそれらの組み合わせなどのネガティブ染色をさらに含むことができる。ネガティブ染色は、凍結置換溶液の0.5重量%~8重量%、例えば凍結置換溶液の2重量%~6重量%を構成することができる。場合によっては、凍結置換溶液は、酢酸ウラニルなどのウラン塩をさらに含むことができる。場合によっては、凍結置換溶液は、クエン酸鉛などの鉛塩をさらに含むことができる。特定の実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、酢酸ウラニルの3重量%~5重量%、クエン酸鉛の0.1重量%~1重量%を構成することができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、タンニン酸などの媒染剤をさらに含むことができる。媒染剤は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、凍結置換溶液の0.01重量%~1重量%を構成することができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.1重量%~2重量%のp-フェニレンジアミンなどのp-フェニレンジアミンをさらに含むことができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.5重量%~6重量%のランタン塩(例えば、硝酸ランタン)などのランタン塩(例えば、硝酸ランタン)をさらに含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、接触ステップ(i)は、生体試料を凍結置換溶液に、0℃未満の第1の温度で第1の期間浸すこと、及び試料を凍結置換溶液に0℃超の第2の温度で第2の期間浸すことを含むことができる。第1の温度は、-70℃~-80℃、例えば約-78℃にすることができる。第1の期間は8時間~24時間にすることができる。第2の温度は0℃~10℃にすることができる。第2の期間は8時間~24時間にすることができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、接触ステップ(i)は、0℃を超える第2の温度で第2の期間凍結置換溶液に試料を浸す前に、生体試料を凍結置換溶液に0℃未満の第3の温度で第3の期間浸すことをさらに含むことができる。第3の温度は、-10℃~-40℃、例えば約-20℃にすることができる。第3の期間は2時間~12時間にすることができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、接触ステップ(i)は、生体試料を凍結置換溶液に0℃を超える第4の温度で第4の期間浸すことをさらに含む。第4の温度は、15℃~30℃、例えば約23℃にすることができる。第4の期間は2時間~12時間にすることができる。
【0019】
第1の重合可能樹脂は、ビスフェノールA-エピクロルヒドリンエポキシ樹脂などのエポキシ樹脂(例えば、水溶性エポキシ樹脂)を含むことができる。
【0020】
第2の重合可能樹脂は、ビスフェノールA-エピクロルヒドリンエポキシ樹脂などのエポキシ樹脂(例えば、水溶性エポキシ樹脂)を含むことができる。いくつかの実施形態では、第2の重合可能樹脂は、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP-30)、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、またはそれらの組み合わせなどの促進剤をさらに含むことができる。
【0021】
ステップ(iv)は、そのように作製された生体試料を少なくとも40℃、例えば45℃~80℃、または55℃~75℃の温度に加熱することを含むことができる。
【0022】
細胞や組織などの生体試料を画像化する方法も提供される。この方法は、本明細書に記載されている方法を使用して微量分析のために生体試料を作製し、それにより三次元導電性試料ブロックを形成すること、三次元導電性試料ブロックを物理的に切断して、1つ以上の試料切片を取得すること、及び電子顕微鏡による1つ以上の試料切片を画像化することを含むことができる。三次元導電性試料ブロックを物理的に切断することは、例えば、三次元導電性試料ブロックをミクロトームすることを含み得る。電子顕微鏡法は、走査型電子顕微鏡法または透過型電子顕微鏡法を含み得る。
【0023】
さらに提供されているのは、連続ブロック面走査電子顕微鏡(SBEM)の方法である。これらの方法は、本明細書に記載されている方法を使用して微量分析のために生体試料を作製し、それにより三次元導電性試料ブロックを形成すること、三次元導電性試料ブロックをSEM顕微鏡に配置すること、及び三次元導電性試料ブロックの異なる深さを連続的に画像化することを含むことができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、連続的に画像化する異なる深さは、実質的に異なるレベルの焦点を合わせることによって、異なる深さを画像化することを含むことができる。他の実施形態では、異なる深さを連続的に画像化することは、三次元導電性試料ブロックを物理的に切断することを含み得る。特定の実施形態では、三次元導電性試料ブロックを物理的に切断することは、SBEMチャンバでダイヤモンドナイフを用いて、自動化された切断をすることを含むことができる。
【0025】
また、微量分析用の生体試料の作製に使用する凍結置換溶液も提供される。凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.1重量%~10重量%のリチウム塩と;凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.5重量%~5重量%の四酸化オスミウムと;凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.5重量%~8重量%の1つまたは複数のネガティブ染色と、この場合1つまたは複数のネガティブ染色は、ウラン塩、鉛塩、またはそれらの組み合わせから選択される;60%~98.9%のアセトンとを含むことができる。特定の実施形態では、凍結置換溶液は、実質的に無水であり得る(例えば、凍結置換は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、1重量%未満、0.5重量%未満、0.25重量%未満、0.1重量%未満、0.05重量%未満、0.025重量%未満、または0.01重量%未満の水を含み得る)。
【0026】
リチウム塩は、20℃で少なくとも10g/100mLの水への溶解度を示すことができる。リチウム塩は、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、クエン酸リチウム、硝酸リチウム、安息香酸リチウム、ギ酸リチウム、及びそれらの組み合わせを含み得る。特定の実施形態では、リチウム塩は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを含むことができる。いくつかの実施形態では、リチウム塩は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、凍結置換溶液の0.5重量%~4重量%、または2重量%~3重量%を構成することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、四酸化オスミウムは、凍結置換溶液の2重量%~3重量%を構成することができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数のネガティブ染色は、酢酸ウラニルなどのウラン塩を含む。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のネガティブ染色は、クエン酸鉛などの鉛塩を含む。いくつかの実施形態では、ネガティブ染色は、凍結置換溶液の2重量%~6重量%を構成することができる。特定の実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、酢酸ウラニルの3重量%~5重量%、及びクエン酸鉛の0.1重量%~1重量%を構成することができる。
【0029】
いくつかの場合において、凍結置換溶液は、タンニン酸などの媒染剤をさらに含むことができる。媒染剤は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、凍結置換溶液の0.01重量%~1重量%を構成することができる。
【0030】
いくつかの場合において、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.1重量%~2重量%のp-フェニレンジアミンなどのp-フェニレンジアミンをさらに含むことができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.5重量%~6重量%のランタン塩(例えば、硝酸ランタン)などのランタン塩(例えば、硝酸ランタン)をさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】エポキシ樹脂包埋試料内の電子相互作用量を示す概略図である。
図2】帯電しているアーチファクトを含むSEM顕微鏡写真である。帯電(顕微鏡写真で垂直に走る暗い線として見える)は、電子ビームを照射された試料に負の電荷が蓄積することによって引き起こされる。帯電は一般に、画像化されている試料の導電性が低い場合に発生する。
図3図3Aは、ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液で浸透されていないエポキシ包埋脊髄組織の顕微鏡写真を示しており、図3Bは、ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液で浸透させたエポキシ包埋脊髄組織の顕微鏡写真を示している。
図4】ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液で浸透させたエポキシ包埋脊髄組織の広帯域誘電分光法を示している。
図5】50nmの間隔のろ過された固定液/導電性凍結置換溶液で浸透させた切断されたエポキシ包埋脊髄組織の六千一九(6,109)の連続画像を示している(画像の大きさ:1024×1024、ピクセルサイズ:0.184731μm)。6,109枚の連続画像は、カダヤシの14番目の脊髄腹側根(実施例1のベンチマークに使用されたモデルシステム)に相当する。
図6図6A図6Bは、ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液の3%乾燥トリフルオロメタンスルホン酸リチウムから生じる安定性を示す。図6Aは、ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液の3%乾燥トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを用いて作製した試料を使用して収集した画像データを示している。一方で、図6Bは、ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液なしで作製された試料を使用して収集された画像データを示している。ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液にリチウム塩を含めることは、図6Bに示す著しく無秩序な再構成と比較して、滑らかでリアルな3D再構成(6Aに示す)を生じる完全に整列した画像データを生成する。図6Bの鋸歯状の表面の外観は、不安定性の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書に記載されているのは、生体試料(例えば、組織試料及び細胞)を含む有機材料の導電性固定のための組成物及び方法である。以下で論じるように、これらの組成物及び方法は、電子顕微鏡内での電子ビームと試料の相互作用によって引き起こされる帯電及び試料の損傷の問題に対処することができる。
【0034】
例えば、開示されているのは、微量分析(例えば、電子顕微鏡による画像化)のために生体試料を作製する方法である。この方法は、(i)生体試料へのリチウム塩の浸透を可能にするのに有効な条件下で、生体試料を、リチウム塩を含む凍結置換溶液と接触させること、(ii)生体試料への重合可能樹脂の浸透を可能にするのに有効な条件下で生体試料を第1の重合可能樹脂と接触させること、(iii)生体試料を一定量の第2の重合可能樹脂に配置すること、及び(iv)このように作製された生体試料を、第1の重合可能樹脂と第2の重合可能樹脂を硬化させるのに有効な温度に加熱して、それにより三次元の導電性試料ブロックを形成することを含むことができる。
【0035】
リチウム塩は、20℃で少なくとも10g/100mLの水への溶解度を示すことができる(例えば、20℃での少なくとも50g/100mLの水への溶解度、または20℃での少なくとも100g/100mLでの水への溶解度)。リチウム塩は、アセトンと水の両方に適切に溶解する任意の適切なリチウム塩を含むことができる。適切なリチウム塩の例としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、クエン酸リチウム、硝酸リチウム、安息香酸リチウム、ギ酸リチウム、及びそれらの組み合わせが挙げられる。特定の実施形態では、リチウム塩は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(リチウムトリフレートとも呼ばれる)を含むことができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、少なくとも0.1重量%(例えば、少なくとも0.5重量%、少なくとも1重量%、少なくとも1.5重量%、少なくとも2重量%、少なくとも2.5重量%、少なくとも3重量%、少なくとも3.5重量%、少なくとも4重量%、少なくとも4.5重量%、少なくとも5重量%、少なくとも5.5重量%、少なくとも6重量%、少なくとも6.5重量%、少なくとも7重量%、少なくとも7.5重量%、少なくとも8重量%、少なくとも8.5重量%、少なくとも9重量%、または少なくとも9.5重量%)のリチウム塩を含むことができる。いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、10重量%以下(例えば、9.5重量%以下、9重量%以下、8.5重量%以下、8重量%以下、7.5重量%以下、7重量%以下、6.5重量%以下、6重量%以下、5.5重量%以下、5重量%以下、4.5重量%以下、4重量%以下、3.5重量%以下、3重量%以下、2.5重量%以下、2重量%以下、1.5重量%以下、1重量%以下、または0.5重量%以下)のリチウム塩を含むことができる。
【0037】
リチウム塩は、上記の最小値のいずれかから上記の最大値のいずれかまでの範囲の量で凍結置換溶液に存在することができる。例えば、いくつかの実施形態では、リチウム塩は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、凍結置換溶液の0.1重量%~10重量%(例えば、0.5重量%~4重量%、または2重量%~3重量%)を構成することができる。
【0038】
生体試料は、任意のタイプの生体試料であり得る。生体試料は、原核生物起源または真核生物起源であり得る。例えば、生体試料は、細菌、真菌、原生動物、昆虫、魚、鳥、爬虫類、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウシ、イヌ、ロバ、モルモット、ウサギなど)、または霊長類(例えば、チンパンジー、またはヒト)などの生物学的対象に由来し得る。生体試料は、様々な方法によって生物学的対象から得られる、または由来し得る。例えば、生体試料は、哺乳動物(例えば、ヒト)から単離された組織または細胞、または生体試料の切片(例えば、臓器または組織の切片部分)を含み得る。いくつかの例では、生体試料は、神経細胞、胚細胞、血液細胞、皮膚細胞、心臓細胞、肝細胞、骨細胞、内皮細胞、または膵臓の細胞を含み得る。生体試料の他の非限定的な例には、皮膚、心組織、肺組織、腎組織、骨髄、骨、乳房組織、膵臓組織、肝組織、筋肉組織、平滑筋組織、膀胱組織、胆嚢組織、結腸組織、腸組織、脳組織、前立腺組織、食道組織、甲状腺組織、脊髄、及び歯が含まれる。一例では、生体試料は固形の腫瘍を含むことができる。別の例では、生体試料は、生体材料と組織(例えば、医療用インプラントまたはデバイスの一部、及びインプラントまたはデバイスと接触する組織)との間のインターフェースを含むことができる。
【0039】
いくつかの実施形態では、方法は、ステップ(i)の前に生体試料を固定液と接触させることをさらに含むことができる。固定液は、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、またはそれらの組み合わせ)を含むことができる。いくつかの実施形態では、固定液は、固定液の総重量に基づいて、2重量%~8重量%のアルデヒド(例えば、2重量%~6重量%のアルデヒド)を含む水溶液を含むことができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、固定は、2つ以上のアルデヒドの混合物(例えば、グルタルアルデヒドとパラホルムアルデヒドの混合物)を含むことができる。特定の実施形態では、固定液は、1重量%~3重量%のグルタルアルデヒド及び1重量%~3重量%のパラホルムアルデヒドを含む水溶液を含む。
【0041】
水溶液は生理学的緩衝液を含むことができる。「生理学的緩衝液」という語句は、生理学的条件である緩衝液を指す。生理学的緩衝液の例としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ハンクス平衡塩溶液(HBBS)、リンゲル液、及びダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を含むが、これらに限定されない。
【0042】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、四酸化オスミウムなどの酸化固定液をさらに含むことができる。酸化固定液は、凍結置換溶液の2重量%~3重量%など、凍結置換溶液の0.5重量%~5重量%を構成することができる。
【0043】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、ウラン塩、鉛塩、またはそれらの組み合わせなどのネガティブ染色をさらに含むことができる。ネガティブ染色は、凍結置換溶液の0.5重量%~8重量%、例えば凍結置換溶液の2重量%~6重量%を構成することができる。場合によっては、凍結置換溶液は、酢酸ウラニルなどのウラン塩をさらに含むことができる。場合によっては、凍結置換溶液は、クエン酸鉛などの鉛塩をさらに含むことができる。特定の実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、酢酸ウラニルを3重量%~5重量%、クエン酸鉛を0.1重量%~1重量%含むことができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、タンニン酸などの媒染剤をさらに含むことができる。媒染剤は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、凍結置換溶液の0.01重量%~1重量%を構成することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.1重量%~2重量%のp-フェニレンジアミンなどのp-フェニレンジアミンをさらに含むことができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.5重量%~6重量%のランタン塩(例えば、硝酸ランタン)などのランタン塩(例えば、硝酸ランタン)をさらに含むことができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、接触ステップ(i)は、生体試料を凍結置換溶液に、0℃未満の第1の温度で第1の期間浸すこと、及び試料を凍結置換溶液に0℃超の第2の温度で第2の期間浸すことを含むことができる。第1の温度は、-70℃~-80℃、例えば約-78℃にすることができる。第1の期間は8時間~24時間にすることができる。第2の温度は0℃~10℃にすることができる。第2の期間は8時間~24時間にすることができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、接触ステップ(i)は、0℃を超える第2の温度で第2の期間凍結置換溶液に試料を浸す前に、生体試料を凍結置換溶液に0℃未満の第3の温度で第3の期間浸すことをさらに含むことができる。第3の温度は、-10℃~-40℃、例えば約-20℃にすることができる。第3の期間は2時間~12時間にすることができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、接触ステップ(i)は、生体試料を凍結置換溶液に0℃を超える第4の温度で第4の期間浸すことをさらに含む。第4の温度は、15℃~30℃、例えば約23℃にすることができる。第4の期間は2時間~12時間にすることができる。
【0050】
第1の重合可能樹脂と第2の重合可能樹脂は、それぞれ独立して、電子顕微鏡による分析用の試料(例えば、細胞や組織などの生体試料)の包埋に使用することが公知の任意の樹脂であり得る。場合によっては、第1の重合可能樹脂及び第2の重合可能樹脂は、それぞれ独立して、エポキシ樹脂(例えば、水溶性エポキシ樹脂)を含むことができる。
【0051】
「エポキシ樹脂」という用語は、重合を経ることができる1つ以上のオキシラン環を有する任意の材料または化合物を含むことを意味する。したがって、この用語は、エポキシ含有モノマー、エポキシ含有オリゴマー、及びエポキシ含有架橋剤を包含する。単数形の用語は、複数形の用語を含むことを意図している。オリゴマー及び多官能性エポキシ材料もエポキシ樹脂として使用できる。
【0052】
エポキシ樹脂は、少なくとも1つのオキシラン環を有する有機化合物を含むことができる。オキシラン環は次の式で示される。
【化1】
開環のメカニズムによって重合可能である。「エポキシド」とも呼ばれるそのようなエポキシ樹脂は、モノマーのエポキシ化合物及びポリマー型のエポキシドを含み、脂肪族、脂環式、芳香族または複素環式であり得る。これらの材料は一般に、平均して、分子あたり少なくとも1つの重合可能なエポキシ基、または典型的には分子あたり少なくとも約1.5、さらには少なくとも約2つの重合可能なエポキシ基を有する。高分子重合性エポキシ材料には、末端エポキシ基を備える線状ポリマー(例えば、ポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル)、骨格(主鎖)オキシランユニットを備えるポリマー(例えば、ポリブタジエンポリエポキシド)、及びペンダントエポキシ基を備えるポリマー(例えば、グリシジルメタクリレートポリマーまたはコポリマー)を含む。
【0053】
エポキシ樹脂は単一の化合物であるか、それらは分子あたり1つ、2つ、またはそれより多いエポキシ基を含む異なるエポキシ材料の混合物であることができる。分子あたりのエポキシ基の「平均」数は、エポキシ材料の中のエポキシ基の総数を、存在するエポキシ含有分子の総数で割ることによって判定される。
【0054】
エポキシ樹脂は、低分子量のモノマー材料から高分子量のポリマーまで多様であり得、これらは主鎖及び置換基(またはペンダント)基の性質が大きく異なり得る。例えば、主鎖は任意の種類であり得、その置換基は、室温で望まれるカチオン光硬化プロセスを実質的に妨害せず、電子顕微鏡によるその後の画像化に悪影響を及ぼさない任意の基であり得る。置換基の例としては、ハロゲン、エステル基、エーテル、スルホネート基、シロキサン基、ニトロ基、及びリン酸基が挙げられるが、これらに限定されない。エポキシ材料の分子量は、少なくとも58から100,000まで、またはそれより多くすることができる。
【0055】
有用なエポキシ樹脂には、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-2-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-2-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、及びアジピン酸ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)などのエポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどのシクロヘキセンオキシド基を含有するものが含まれる。さらに他の有用なエポキシ樹脂には、多価フェノールをエピクロロヒドリンなどの過剰のクロロヒドリンと反応させることにより得られる多価フェノールのグリシジルエーテルであるグリシジルエーテルモノマーが含まれる[例えば、2,2-ビス-(2,3-エポキシプロポキシフェノール)-プロパンのジグリシジルエーテル]。
【0056】
多くの市販のエポキシ樹脂が知られており、グリシジルエーテル、例えばビスフェノールA-ジグリシジルエーテル(DGEBA)、ビスフェノールSとビスフェノールFのグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA拡張グリシジルエーテル、フェノール-ホルムアルデヒドグリシジルエーテル(エポキシノボラック)、及びクレゾール-ホルムアルデヒドグリシジルエーテル(エポキシクレゾールノボラック)、エポキシ化アルケン、例えば1,2-エポキシオクタン、1,2,13,14-テトラデカンジエポキシド、1,2,7,8-オクタンジエポキシド、オクタデシレンオキシド、エピクロロヒドリン、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシシクロヘキセンオキシド、グリシドール、グリシジルメタクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(例えば、EPONの商標で入手可能なもの、例えばShell Chemical Co.のEpon(商標)812、MomentiveのEpon(商標)828、Epon(商標)825、Epon(商標)1004、及びEpon(商標)1010、Electron Microscopy ServicesのEMbed(商標)812、PELCOのEponate 12(商標)、DOW Chemical Co.のDER-331、DER-332、及びDER-334樹脂)、ビニルシクロヘキセンジオキシド(例えば、PolyscienceのERL-4206樹脂)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(例えば、DOW Chemical Corp.のERL-4221、CYRACURE(商標)6110、またはCYRACURE(商標)6105モノマー)、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル-メチル-3,4-エポキシ-6-メチル-シクロヘキセンカルボキシレート(例えば、Pfaltz and Bauerから)、アジピン酸ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)、ビス(2,3-エポキシ-シクロペンチル)エーテル、ポリプロピレングリコールで修飾された脂肪族エポキシ、ジペンテンジオキシド、エポキシ化ポリブタジエン(例えば、FMC Corp.のOxiron2001樹脂)、エポキシ官能基を含有するシリコーン樹脂、難燃性エポキシ樹脂(例えば、DOW Chemical Co.から入手可能なDER-580樹脂、臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂)、フェノールホルムアルデヒドノボラックの1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(例えば、DOW Chemical Co.のDEN-431及びDEN-438樹脂)、レゾルシノールジグリシジルエーテル、アジピン酸ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)(例えば、Dow Corning Corp.のCYRACURE(商標)樹脂)、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタ-ジオキサン、ビニルシクロヘキセン一酸化物、1,2-エポキシヘキサデカン(例えば、Dow Corning Corp.のCYRACURE(商標)樹脂)、HELOXY(商標) Modifier 7やHELOXY(商標)Modifier 8(Momentiveから)などのアルキルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル(例えば、MomentiveのHELOXY(商標)Modifier 61)、クレシルグリシジルエーテル(例えば、MomentiveのHELOXY(商標)Modifier 62)、p-tertブチルフェニルグリシジルエーテル(例えば、MomentiveのHELOXY(商標)Modifier 65)、多官能性グリシジルエーテル、例えば1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル(例えば、MomentiveのHELOXY(商標)Modifier 67)、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル(例えば、MomentiveのHELOXY(商標)Modifier 68)、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル(例えば、MomentiveのHELOXY(商標)Modifier 107)、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル(例えば、MomentiveのHELOXY(商標)Modifier 44)、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(例えば、MomentiveのHELOXY(商標)Modifier 48)、脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(例えば、MomentiveのHELOXY(商標)Modifier 84)、ポリグリコールジエポキシド(例えば、MomentiveのHELOXY(商標)Modifier 32)、ビスフェノールFエポキシド(例えば、Huntman Advanced MaterialsのEPN-1138またはGY-281樹脂)、及び9,9-ビス>4-(2,3-エポキシプロポキシ)-フェニルフルオレノン(例えば、MomentiveのEpon(商標)1079樹脂)を含む。
【0057】
さらに他のエポキシ樹脂が公知であり、例えば1つ以上のエチレン性不飽和重合性モノマーと共重合されている、グリシドールと反応したアクリル酸エステルから誘導されたコポリマー、例えばグリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートがある。そのようなコポリマーの例は、ポリ(スチレン-co-グリシジルメタクリレート)(50:50のモル比)、ポリ(メチルメタクリレート-co-グリシジルアクリレート)(50:50のモル比)、及びポリ(メチルメタクリレート-co-エチルアクリレート-co-グリシジルメタクリレート)(62.5:24:13.5のモル比)である。他のエポキシ樹脂は、エピクロロヒドリンなどのエピクロロヒドリン、プロピレンオキシド及びスチレンオキシドなどのアルキレンオキシド、ブタジエンオキシドなどのアルケニルオキシド、及びエチルグリシデートなどのグリシジルエステルを含む。他のエポキシ材料には、シクロヘキシルエポキシ基などのエポキシ官能基またはエポキシ基を有するシリコーン、特にシリコーン骨格を有するエポキシ材料が含まれる。そのようなエポキシ樹脂の市販の例には、Momentiveから入手可能なUV 9300、UV 9315、UV 9400、UV 9425シリコーン材料が含まれる。
【0058】
ポリマーエポキシ樹脂は、室温での光重合性組成物のカチオン光硬化を実質的に妨害せず、電子顕微鏡による画像化に悪影響を及ぼさない他の官能基を任意に含むことができる。例えば、エポキシ材料はまた、以下により詳細に記載されるように、フリーラジカル重合可能官能基を含み得る。例えば、エポキシ材料は、同じ分子にフリーラジカル重合可能官能基を含むこともできる。したがって、そのようなエポキシ材料は、1つまたは複数のエポキシ基ならびに1つまたは複数のエチレン性不飽和重合可能結合を含むことができる。例えば、多重合可能機能材料は、ジエポキシドまたはポリエポキシドを1当量以上のエチレン性不飽和カルボン酸と反応させることにより得ることができる。そのような反応生成物の例には、VR-6105またはDER 332(Dow Chemical Co.から入手可能)と1当量のメタクリル酸との反応生成物が含まれる。1つ以上のエポキシ基とフリーラジカル重合可能な官能基の両方を有する市販の材料には、シクロマーM100またはM101(日本のダイセル化学から入手可能)などのシクロマー化合物が含まれる。
【0059】
エポキシ樹脂は、2つ以上の異なるエポキシ材料のブレンドまたは混合物を含むことができる。このようなブレンドの例には、1つ以上の低分子量(200未満)のエポキシ材料と1つ以上の中間分子量(200から10,000)のエポキシ材料のブレンド、または1つ以上のこのようなエポキシ材料と1つ以上のより高次の分子量(10,000超)のエポキシ材料のブレンドなどの2つ以上の分子量分布のエポキシ材料が含まれる。代替的または追加的に、エポキシ樹脂は、脂肪族及び芳香族の性質などの異なる化学的性質、または極性及び非極性の特性などの異なる機能性を有するエポキシ材料のブレンドを含むことができる。他のカチオン重合可能モノマーまたはポリマーをさらにエポキシ樹脂に組み込むことができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、第1の重合可能樹脂は、ビスフェノールA-エピクロルヒドリンエポキシ樹脂などのエポキシ樹脂(例えば、水溶性エポキシ樹脂)を含むことができる。
【0061】
いくつかの実施形態では、第2の重合可能樹脂は、ビスフェノールA-エピクロルヒドリンエポキシ樹脂などのエポキシ樹脂(例えば、水溶性エポキシ樹脂)を含むことができる。
【0062】
特定の実施形態では、第1の重合可能樹脂、第2の重合可能樹脂、またはそれらの組み合わせは、ビスフェノール-A-エピクロルヒドリンエポキシ樹脂(例えば、数平均分子量≦700を有する)を含むことができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、第2の重合可能樹脂は、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP-30)、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、またはそれらの組み合わせなどの促進剤をさらに含むことができる。
【0064】
ステップ(iv)は、そのように作製された生体試料を少なくとも40℃、例えば45℃~80℃、または55℃~75℃の温度に加熱することを含むことができる。
【0065】
細胞や組織などの生体試料を画像化する方法も提供される。この方法は、本明細書に記載されている方法を使用して微量分析のために生体試料を作製し、それにより三次元導電性試料ブロックを形成すること、三次元導電性試料ブロックを物理的に切断して、1つ以上の試料切片を取得すること、及び電子顕微鏡による1つ以上の試料切片を画像化することを含むことができる。三次元導電性試料ブロックを物理的に切断することは、例えば、三次元導電性試料ブロックをミクロトームすることを含み得る。電子顕微鏡法は、走査型電子顕微鏡法または透過型電子顕微鏡法を含み得る。特定の実施形態において、電子顕微鏡法は、連続切片走査電子顕微鏡法(SSSEM)または連続走査透過型電子顕微鏡法(SSTEM)を含み得る。
【0066】
さらに提供されているのは、連続ブロック面走査電子顕微鏡(SBEM)の方法である。SBEMは、近接しているナノメートルスケールの分解能で「ブロック」の形態及び細胞のアレイの組織における比較的大きな領域を三次元で再構成することを可能にすることにより、組織学及び神経解剖学的研究に対する大きな期待を示している最近の顕微鏡技術である。SBEMは、走査型電子顕微鏡に組み込まれた自動ウルトラミクロトームを使用して、組織のブロック面を画像化する。試料は、透過型電子顕微鏡法と同様の方法で、通常は標本を染色してからエポキシ樹脂に包埋することで作製される。固定、保護、体積の均一化の確立に一般的に使用される樹脂は、絶縁材料である。SBEMでは、連続するスライスが標的組織から除去されるか、組織の位置が変更されてブロックの焦点深度が変更され、電子ビームが残りのブロック面または新しい焦点深度でスキャンされて、電子後方散乱画像が生成される。SBEMは、例えば、星状細胞、ニューロン、及びシナプスの3D微細構造を研究するのに有用である。
【0067】
SBEM機器には、後方散乱検出器を備えたSEM内部に取り付けられた超ミクロトームが含まれている。自動化されたプロセスでは、超ミクロトームが振動するダイヤモンドナイフで組織の超薄切片を取り除き、関心領域が画像化される。このシーケンスは、所望の体積の組織を通過するまで数百回または数千回繰り返される。この方法は、潜在的に、光学顕微鏡で得られるよりも優れた分解能のレベルで、ミクロンから数十ミリメートルの体積の組織の再構成を可能にする。他の変形例では、組織が持ち上げられてビームの焦点が変化し、組織試料の仮想スライスが得られる。
【0068】
SBEMの方法は、本明細書に記載されている方法を使用して微量分析のために生体試料を作製し、それにより三次元導電性試料ブロックを形成すること、三次元導電性試料ブロックをSEM顕微鏡に配置すること、及び三次元導電性試料ブロックの異なる深さを連続的に画像化することを含むことができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、連続的に画像化する異なる深さは、異なるレベルの焦点を合わせることによって、異なる深さを画像化することを実質的に含むことができる。他の実施形態では、連続的に画像化する異なる深さは、三次元の導電性試料ブロックを物理的に切断することを含み得る。特定の実施形態では、三次元の導電性試料ブロックを物理的に切断することは、SBEMチャンバにおけるダイヤモンドナイフを用いた自動化された切断を含むことができる。
【0070】
また、微量分析用の生体試料の作製に使用する凍結置換溶液も提供される。凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.1重量%~10重量%のリチウム塩と;凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.5重量%~5重量%の四酸化オスミウムと;凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.5重量%~8重量%の1つまたは複数のネガティブ染色と、この場合1つまたは複数のネガティブ染色は、ウラン塩、鉛塩、またはそれらの組み合わせから選択される;60%~98.9%のアセトンとを含むことができる。特定の実施形態では、凍結置換溶液は、実質的に無水であり得る(例えば、凍結置換は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、1重量%未満、0.5重量%未満、0.25重量%未満、0.1重量%未満、0.05重量%、0.025重量%未満、または0.01重量%未満の水を含み得る)。
【0071】
リチウム塩は、20℃で少なくとも10g/100mLの水への溶解度を示すことができる。リチウム塩は、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、クエン酸リチウム、硝酸リチウム、安息香酸リチウム、ギ酸リチウム、及びそれらの組み合わせを含み得る。特定の実施形態では、リチウム塩は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを含むことができる。いくつかの実施形態では、リチウム塩は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、凍結置換溶液の0.5重量%~4重量%、または2重量%~3重量%を構成することができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、四酸化オスミウムは、凍結置換溶液の2重量%~3重量%を構成することができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数のネガティブ染色は、酢酸ウラニルなどのウラン塩を含む。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のネガティブ染色は、クエン酸鉛などの鉛塩を含む。いくつかの実施形態では、ネガティブ染色は、凍結置換溶液の2重量%~6重量%を構成することができる。特定の実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、酢酸ウラニルの3重量%~5重量%、クエン酸鉛の0.1重量%~1重量%を構成することができる。
【0074】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、タンニン酸などの媒染剤をさらに含むことができる。媒染剤は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、凍結置換溶液の0.01重量%~1重量%を構成することができる。
【0075】
いくつかの場合において、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.1重量%~2重量%のp-フェニレンジアミンなどのp-フェニレンジアミンをさらに含むことができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、凍結置換溶液は、凍結置換溶液の総重量に基づいて、0.5重量%~6重量%のランタン塩(例えば、硝酸ランタン)などのランタン塩(例えば、硝酸ランタン)をさらに含むことができる。
【0077】
非限定的な例示として、本開示の特定の実施形態の例を以下に示す。
【実施例
【0078】
実施例1:有機物の導電性固定
本実施例は、生体試料を含む有機材料の導電性固定のための組成物及び方法を模索するものである。以下で論じるように、これらの組成物及び方法は、電子顕微鏡内での電子ビームと試料の相互作用によって引き起こされる帯電及び試料の損傷の問題に対処することができる。
【0079】
材料及び方法
動物に麻酔をかけ、ハンクスの平衡塩類溶液(HBSS)で、その後8%PFA水性原液からHBSSで希釈した4%パラホルムアルデヒド(v/v;PFA)で経心臓的に灌流した。動物の脊髄が露出した。動物はその後、氷上で1時間、4%PFAで固定された。脊髄を取り出し、氷上で1時間、改変カルノフスキー固定液(HBSSで希釈した2.5%グルタルアルデヒド及び2%PFA)に浸した。次に、脊髄を、2%の四酸化オスミウム、4%の酢酸ウラニル、0.4%のクエン酸鉛、0.1%のタンニン酸、1%のp-フェニレンジアミン、3%の乾燥した硝酸ランタン(乾燥した硝酸ランタンは、緊密・空隙の接合部の差次的な一括染色をもたらす)、無水乾燥アセトンで希釈した3%乾燥トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを含むろ過した固定液/導電性凍結置換溶液に浸した。次に、試料を、ドライアイス(-78.5℃)と共に、クーラーにあるこの溶液の中で一晩インキュベートした。
【0080】
翌朝、試料をクーラーから取り出し、-20℃で4時間インキュベートした。ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液は、その後、新鮮なろ過された固定液/導電性凍結置換溶液と交換され、脊髄を4℃で一晩インキュベートした。ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液は、その後、新鮮なろ過された固定液/導電性凍結置換溶液ともう一度交換され、脊髄を4時間ドラフトの内部で室温(RT)にてインキュベートした。
【0081】
インキュベーション後、脊髄を絶対乾燥アセトンで2回すすいだ(各すすぎ5分、室温)。次いで、脊髄を絶対乾燥アセトンで4時間すすいだ(各すすぎ10分、室温)。
【0082】
順次アセトンでリンスした後、RTで10分間、Embed 812樹脂と絶対乾燥アセトンの混合物に脊髄を浸した。次に、脊髄をRTで10分間100%Embed 812樹脂に浸した。次に、Embed 812樹脂を2回交換し、試料を交換ごとにRTで10分間インキュベートした。次に、試料の脊髄を室温で24時間インキュベートして、Embed 812樹脂を脊髄に浸透させた。
【0083】
脊髄を、DMP-30と共にEmbed 812樹脂で満たされた平らな包埋用の型に移した。次に、型をコクーンボックスの中に入れ、60℃の乾燥器に移して36~48時間入れて、樹脂を重合させた。
【0084】
Embed 812樹脂の重合に続いて、脊髄組織を含むEmbed 812樹脂ブロックは、標準的なウルトラミクロトーム/透過型または走査型電子顕微鏡(可変圧力、電界放射)、ATUMtome/走査型電子顕微鏡、Gatan3View/走査型電子顕微鏡、または集束イオンビーム走査型電子顕微鏡を使用して、直面され、また連続的に厚く(120nm~1um)または薄く(20nm~50nm)切断/画像化された。
【0085】
結果と考察
図3A図3Bにて見て取れるように、完全乾燥アセトンで希釈させた2%四酸化オスミウム/4%酢酸ウラニル/0.4%クエン酸鉛/0.1%タンニン酸/1%p-フェニレンジアミン/3%乾燥硝酸ランタン/3%乾燥トリフルオロメタンスルホン酸リチウムを含むろ過された固定液/導電性凍結置換溶液が、脊髄に浸透して、脊髄を導電性にした。図3Aは、ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液で浸透されていない脊髄の断面図を示している。明るく白い境界線(白い矢印で示されている)で示されている帯電に留意されたい。また、画像の焦点が合っていないように見え、コントラストがないことに留意されたい。図3Aの黒い矢印は、ギャップ結合浸透性で固定可能な極性神経管トレーサーAlexaFluor(登録商標)594ビオシチンで逆行性標識された脊髄の運動ニューロンを示している。帯電により、図3B(白い矢印)に示すように、脊髄の運動ニューロンの体細胞内にある高電子密度のAlexaFluor(登録商標)594ビオシチンの標識化、さらに核と核小体の独特な特徴が見えなくなる。さらに、図3Bに示すように、Mauthnerの軸索に関連する有髄白質とミエリンがはっきりと見える。図3Bに見られる脊髄の外側の境界に沿って、脊髄から発散するフィラメント状の高電子密度の結晶突起が観察され得ることに留意されたい。
【0086】
広帯域誘電分光法(BDS)を使用して、ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液に浸透したエポキシ包埋脊髄組織の誘電特性を測定した。
【0087】
図4に示すように、BDSは、ろ過された固定液/導電性凍結置換溶液が浸透したエポキシ包埋脊髄組織が導電性であることを示している。
【0088】
導電性は、帯電の欠如、画像の取得と画像の質の向上、及び連続画像の位置合わせと相関している。
【0089】
図5は、50nmでの6109の途切れがない連続画像のデータセットを示している。文献によると、ほとんどの画像データセットには、50nmで300以下の途切れのない連続画像が含まれている。
【0090】
1%~5%の乾燥トリフルオロメタンスルホン酸リチウムの濃度が評価された。これらの実験は、固定液/導電性凍結置換溶液中の3%乾燥トリフルオロメタンスルホン酸リチウムの濃度が優れた画像化をもたらすことを示唆している。3%を超える濃度の乾燥したトリフルオロメタンスルホン酸リチウムは、高濃度で完全に脊髄を囲む脊髄から発する大きな糸状の電子密度の高い結晶突起を含むリターンの減少をもたらすように見える。
【0091】
これにより、一部の試料が使用できなくなる可能性がある。他のリチウム塩(例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム)も、様々な結果が評価された。
【0092】
トリフルオロメタンスルホン酸リチウムは、細胞及び組織試料を導電性にし、電子ビーム下で非常に安定させる。非弾性散乱電子(エネルギー損失分光、EELS)、X線、及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)を使用した場合の試料の安定性は非常に重要である。強力な分析電子顕微鏡法は、リチウム塩、EELS及びEDSを使用して、初めて細胞及び組織のナノスケールの成分を研究するのに使用することができ、そのため生命科学における研究の新しい軌跡を有効なものにし得る。
【0093】
四酸化オスミウム、酢酸ウラニル、クエン酸鉛、及び乾燥硝酸ランタンは、強化された画像のコントラスト、膜、及び緊密・空隙の接合部の差次的なen bloc染色をもたらす。p-フェニレンジアミンは、還元されないいずれかの利用可能な四酸化オスミウムを還元する(そのため、組織はスーパーブラックである)。タンニン酸及び乾燥リチウム塩(例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)は、組織を導電性にする。絶対乾燥アセトンにより、氷の結晶の形成を回避し、周囲温度の細胞と組織の固定及び脱水のアーチファクトの有害な影響を避けるのに十分低い温度での凍結置換ワークフローが可能になる。電子顕微鏡に関する化学物質とワークフローのこの組み合わせは、生命科学の研究者のニーズを、(1)固定、凍結、染色、及び標識化によって引き起こされるアーチファクトの減少/除去、(2)三次元画像の収集と画像のセグメンテーションと処理の改善(図6を参照)、及び(3)研究者が電子顕微鏡の能力を十分に活用して新しい軌道を提供できるようにすることにより満たすのを補助する。
【0094】
添付の特許請求の範囲のデバイス、システム、及び方法は、特許請求の範囲のいくつかの態様の例示として意図される、本明細書で説明される特定のデバイス、システム、及び方法により範囲を限定されない。機能的に同等のいずれのデバイス、システム、及び方法も、特許請求の範囲に含まれるものとする。本明細書に示され記載されたものに加えて、デバイス、システム、及び方法の様々な改変形態が、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。さらに、本明細書に開示される特定の代表的なデバイス、システム、及び方法ステップのみが具体的に説明されるが、デバイス、システム、及び方法ステップの他の組み合わせはまた、具体的に列挙されていなくても、添付の特許請求の範囲にあることが意図される。したがって、ステップ、要素、成分、または構成要素の組み合わせは、本明細書で明示的に言及される場合があるが、明示的に述べられていなくても、ステップ、要素、成分、及び構成要素の他の組み合わせが含まれる。
【0095】
本明細書で使用される「含む(comprising)」という用語及びその変形は、「含む(including)」という用語及びその変形と同義に用いられ、限定されていない、非限定的な用語である。「含む(comprising)」及び「含む(including)」という用語は、様々な実施形態を説明するために本明細書で使用されてきたが、「本質的にからなる」及び「からなる」という用語は、本発明のより具体的な実施形態を提供するために「含む(comprising)」及び「含む(including)」の代わりに使用している場合があり、また開示されている。特に明記されていない限り、本明細書及び請求項で使用される形状、寸法などを表すすべての数値は、まさに少なくとも理解されるべきであり、均等論の適用を請求項の範囲に限定しようとするものではなく、有効桁数と通常の丸めのアプローチを考慮して解釈されることが理解されるべきである。
【0096】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、開示されている本発明が属する当業者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。本明細書において引用される出版物及び引用される資料は、参照により具体的に組み込まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6