(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】断熱箱体
(51)【国際特許分類】
F25D 23/06 20060101AFI20240523BHJP
A47B 31/00 20060101ALI20240523BHJP
A47B 91/06 20060101ALI20240523BHJP
F25D 23/00 20060101ALI20240523BHJP
F25D 23/12 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
F25D23/06 303V
A47B31/00 H
A47B91/06
F25D23/00 307
F25D23/06 303U
F25D23/12 L
(21)【出願番号】P 2021063062
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504192678
【氏名又は名称】株式会社コガサン
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】古賀 靖
(72)【発明者】
【氏名】久保田 真隆
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0001468(US,A1)
【文献】特開2005-241142(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03034403(EP,A1)
【文献】特開平08-226747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25D 1/00 ~ 31/00
A47B 31/00 ~ 31/06
A21C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納室と、前記収納室に通じる開口と、前記開口を開閉可能な扉とを備え、キャスタを備えたカートを前記開口を介して前記収納室に対して出し入れ可能である断熱箱体であって、
前記断熱箱体は、
前記収納室の底面を規定する底板と、
前記カートの前記キャスタが走行することができるように前記底板に設けられた溝と、
前記溝を塞ぐように、前記溝に向かって突出した変形可能な遮蔽部材とを備え
、
前記遮蔽部材は複数の薄板を含み、
前記複数の薄板は、各薄板の主面を上下方向に向けて、前記溝の長手方向に沿って並べられていることを特徴とする断熱箱体。
【請求項2】
前記溝の長手方向に沿って並ぶ前記複数の薄板が連続部を介して連結されており、
前記連続部は、前記底板に固定されている請求項
1に記載の断熱箱体。
【請求項3】
前記複数の薄板は、略長方形の板材に形成された複数のスリットを介して分割されている請求項
1又は2に記載の断熱箱体。
【請求項4】
前記複数の薄板は、上下方向に重ねられて多層構造を構成している請求項
1~3のいずれか一項に記載の断熱箱体。
【請求項5】
前記多層構造の各層を構成する前記複数の薄板は、前記溝の長手方向に一定のピッチで配置されており、
前記多層構造の第1層を構成する前記複数の薄板は、前記第1層に対して上下方向に隣り合う第2層を構成する前記複数の薄板に対して、前記溝の長手方向に位置ずれしている請求項
4に記載の断熱箱体。
【請求項6】
前記カートに突起が設けられており、
前記カートの前記キャスタが前記溝を走行するとき、前記突起が前記遮蔽部材を弾性変形させる請求項1~5のいずれか一項に記載の断熱箱体。
【請求項7】
収納室と、前記収納室に通じる開口と、前記開口を開閉可能な扉とを備え、キャスタを備えたカートを前記開口を介して前記収納室に対して出し入れ可能である断熱箱体であって、
前記断熱箱体は、
前記収納室の底面を規定する底板と、
前記カートの前記キャスタが走行することができるように前記底板に設けられた溝と、
前記溝を塞ぐように、前記溝に向かって突出した変形可能な遮蔽部材とを備え、
前記カートに突起が設けられており、
前記カートの前記キャスタが前記溝を走行するとき、前記突起が前記遮蔽部材を弾性変形させる
ことを特徴とする断熱箱体。
【請求項8】
前記カートの前記キャスタが前記溝を走行するとき、前記突起が前記遮蔽部材を下方または上方に向かって曲げ変形させる請求項
6又は7に記載の断熱箱体。
【請求項9】
前記突起は、略舳先形状を有する請求項
6~8のいずれか一項に記載の断熱箱体。
【請求項10】
前記溝の幅方向の両側から前記遮蔽部材が突出している請求項
1~9のいずれか一項に記載の断熱箱体。
【請求項11】
前記溝の幅方向の両側から突出した前記遮蔽部材が、前記溝の略中央で互いに接近または接触している請求項
10に記載の断熱箱体。
【請求項12】
前記遮蔽部材は、シリコンスポンジからなる請求項1~
11のいずれか一項に記載の断熱箱体。
【請求項13】
前記扉が前記開口を閉じたとき、前記溝の長手方向の端部は、前記扉で閉じられない請求項1~
12のいずれか一項に記載の断熱箱体。
【請求項14】
前記遮蔽部材は、前記カートを前記収納室に収納したとき前記カートに衝突するように設けられている請求項1~
13のいずれか一項に記載の断熱箱体。
【請求項15】
前記カートは、トレイを保持するトレイ保持部と、前記キャスタを有する台車と、前記トレイ保持部と前記台車とをつなぐ上下方向に延びた支持柱とを備え、
前記遮蔽部材は、前記カートを前記収納室に収納したとき前記支持柱に衝突するように設けられている請求項1~
14のいずれか一項に記載の断熱箱体。
【請求項16】
前記収納室に通じる2つの開口が、対向する2つの側板に設けられており、
前記溝が、前記2つの開口間に延びている請求項1~15のいずれか一項に記載の断熱箱体。
【請求項17】
前記断熱箱体は、前記カートを更に備える請求項1~16のいずれか一項に記載の断熱箱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カートを出し入れ可能なカートイン方式の断熱箱体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の製造において使用される冷蔵庫やドウコンディショナーは、食品を収納する収納室を内部に備えた断熱箱体で構成される。断熱箱体として、食品を載せたカートを収納室に収納することが可能なカートイン方式が知られている。カートイン方式の断熱箱体は、収納室に対してカートを出し入れするための開口と、開口を開閉する扉とを備える。
【0003】
特許文献1には、業務用冷蔵庫として使用可能なカートイン方式の断熱箱体が記載されている。この断熱箱体の収納室の底面を規定する底板は、断熱箱体が設置される床面より高い。このため、カートを収納室に対して出し入れしやすくするために、収納室に通じる開口の下端からスロープが延びている。スロープは、開口に向かって上昇する傾斜面である。カートを収納室に収納するときには、カートを収納室の開口に向かってスロープ上を走行させる(特許文献1の
図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スロープは、断熱箱体から突出して設置される。このため、スロープを設置するための面積が必要である。また、スロープは、傾斜し且つ幅が狭いので、スロープ上でカートの向きを変えることは困難である。このため、スロープとは別に、断熱箱体外でカートを方向転換させるスペースが必要である。従って、スロープを備えた特許文献1の断熱箱体は、大きな設置面積が必要である。更に、作業者がスロープにつまずく危険もある。
【0006】
また、特許文献1の断熱箱体では、カートのキャスタが、収納室の底板上に乗り上げるようにして、カートが収納室に収納される。断熱箱体外の作業エリアの床面上を走行していたキャスタが食品と一緒に収納室内に収納されるので、食品衛生の観点から望ましくない。
【0007】
本発明の第1の目的は、スロープが不要な断熱箱体を提供することにある。本発明の第2の目的は、衛生性に優れた断熱箱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の断熱箱体は、収納室と、前記収納室に通じる開口と、前記開口を開閉可能な扉とを備える。キャスタを備えたカートを前記開口を介して前記収納室に対して出し入れ可能である。前記断熱箱体は、前記収納室の底面を規定する底板と、前記カートの前記キャスタが走行することができるように前記底板に設けられた溝と、前記溝を塞ぐように、前記溝に向かって突出した変形可能な遮蔽部材とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の断熱箱体では、収納室の底面を規定する底板に、キャスタが走行可能な溝が設けられている。カートを収納室に収納するとき、キャスタは底板上に乗り上げる必要がない。このため、本発明の断熱箱体にはスロープが不要である。
【0010】
本発明の断熱箱体では、遮蔽部材が溝を塞いでいる。遮蔽部材は、キャスタが走行する溝を収納室から分断する。このため、収納室の衛生状態を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態にかかる断熱箱体及びカートの前側から見た斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した断熱箱体及びカートの後ろ側から見た斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した断熱箱体の第1開口の近傍を示した拡大斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2に示した断熱箱体の第2開口の近傍を示した拡大斜視図である。
【
図5】
図5は、第1溝を塞ぐ薄板の取付構造を示す拡大分解斜視図である。
【
図6】
図6Aは、支持柱及びその近傍を示したカートの拡大斜視図である。
図6Bは、支持柱の後ろ面に設けられた突起及びその近傍を示したカートの拡大平面図である。
図6Cは、支持柱及びその近傍を示したカートの拡大側面図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態において、断熱箱体にカートを搬入する直前の状態を示した斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態において、断熱箱体の収納室にカートを収納した状態を示した斜視図である。
【
図9】
図9は、
図8の、カートの支持柱及びその近傍部分の拡大断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態において、カートを断熱箱体の収納室に収納し、扉を閉じた状態を示した斜視図である。
【
図11】
図11は、本発明の別の実施形態にかかる断熱箱体の第1開口の近傍を示した拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記溝の幅方向の両側から前記遮蔽部材が突出していてもよい。かかる態様によれば、遮蔽部材の溝に対する遮蔽性が向上する。これは、収納室の衛生性の向上、及び、収納室内の雰囲気の維持に有利である。
【0013】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記溝の幅方向の両側から突出した前記遮蔽部材が、前記溝の略中央で互いに接近または接触していていもよい。かかる態様によれば、遮蔽部材の溝に対する遮蔽性が向上する。これは、収納室の衛生性の向上、及び、収納室内の雰囲気の維持に有利である。
【0014】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記遮蔽部材は複数の薄板を含みうる。前記複数の薄板は、各薄板の主面を上下方向に向けて、前記溝の長手方向に沿って並べられていてもよい。かかる態様によれば、カートを収納室に収納したときに、カートから外力を受けた薄板のみが、カートの形状に応じて容易に変形することができる。このため、カートを収納室に収納したときの、遮蔽部材の溝に対する遮蔽性が向上する。これは、収納室の衛生性の向上、及び、収納室内の雰囲気の維持に有利である。
【0015】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記溝の長手方向に沿って並ぶ前記複数の薄板が連続部を介して連結されていてもよい。前記連続部は、前記底板に固定されていてもよい。かかる態様によれば、複数の薄板の取り扱いが容易であり、また、複数の薄板を底板に固定する作業が簡単である。
【0016】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記複数の薄板は、略長方形の板材に形成された複数のスリットを介して分割されていてもよい。かかる態様によれば、複数の薄板の製造が容易である。また、スリットを介した空気の出入りを少なくすることができるので、複数の薄板の溝に対する遮蔽性が向上する。
【0017】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記複数の薄板は、上下方向に重ねられて多層構造を構成していてもよい。かかる態様によれば、複数の薄板の溝に対する遮蔽性が向上する。これは、収納室の衛生性の向上、及び、収納室内の雰囲気の維持に有利である。
【0018】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記多層構造の各層を構成する前記複数の薄板は、前記溝の長手方向に一定のピッチで配置されていてもよい。前記多層構造の第1層を構成する前記複数の薄板は、前記第1層に対して上下方向に隣り合う第2層を構成する前記複数の薄板に対して、前記溝の長手方向に位置ずれしていてもよい。かかる態様によれば、複数の薄板の溝に対する遮蔽性が向上する。これは、収納室の衛生性の向上、及び、収納室内の雰囲気の維持に有利である。
【0019】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記遮蔽部材は、シリコンスポンジで構成されていてもよい。シリコンスポンジは、弾性及び断熱性に優れる。これは、収納室の衛生性の向上、及び、収納室内の雰囲気の維持に有利である。
【0020】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記扉が前記開口を閉じたとき、前記溝の長手方向の端部は、前記扉で閉じられなくてもよい。かかる態様によれば、扉による密閉構造を簡単化することができる。
【0021】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記遮蔽部材は、前記カートを前記収納室に収納したとき前記カートに衝突するように設けられていてもよい。かかる態様によれば、遮蔽部材はカートから外力を受けてカートの形状に応じて変形することができる。これは、カートを収納室に収納したときに、収納室の衛生性の向上、及び、収納室内の雰囲気の維持に有利である。
【0022】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記カートは、トレイを保持するトレイ保持部と、前記キャスタを有する台車と、前記トレイ保持部と前記台車とをつなぐ上下方向に延びた支持柱とを備えていてもよい。前記遮蔽部材は、前記カートを前記収納室に収納したとき前記支持柱に衝突するように設けられていてもよい。かかる態様は、第1に、カートを収納室に収納したときに、収納室の衛生性の向上及び収納室内の雰囲気の維持に有利であり、第2に、遮蔽部材の永久変形による遮蔽部材の交換頻度を低減するのに有利である。
【0023】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記カートに突起が設けられていてもよい。前記カートの前記キャスタが前記溝を走行するとき、前記突起が前記遮蔽部材を弾性変形させてもよい。かかる態様によれば、遮蔽部材を所望するように変形させることが容易になる。
【0024】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記カートの前記キャスタが前記溝を走行するとき、前記突起が前記遮蔽部材を下方または上方に向かって曲げ変形させてもよい。かかる態様によれば、遮蔽部材の変形によって遮蔽部材が破損するなどの問題が生じる可能性が低下する。
【0025】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記突起は、略舳先形状を有していてもよい。かかる態様は、遮蔽部材を弾性変形させるのに有利である。
【0026】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記収納室に通じる2つの開口が、対向する2つの側板に設けられていてもよい。前記溝が、前記2つの開口間に延びていてもよい。かかる態様によれば、カートが断熱箱体を通り抜けることが可能なパススルー方式の断熱箱体を実現できる。
【0027】
本発明の断熱箱体の一態様では、前記断熱箱体は、前記カートを更に備えていてもよい。断熱箱体に、当該断熱箱体に適合したカートを組み合わせることにより、カートを収納室に収納したときの、遮蔽部材の溝に対する遮蔽性が向上する。これは、収納室の衛生性の向上、及び、収納室内の雰囲気の維持に有利である。
【0028】
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態を構成する主要部材を簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の部材を備えうる。また、本発明の範囲内において、以下の各図に示された各部材を変更または省略しうる。同じ部材には、異なる図面において同じ符号が付してある。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態にかかる断熱箱体1及びカート100の前側から見た斜視図である。
図2は、断熱箱体1及びカート100の後ろ側から見た斜視図である。
【0030】
断熱箱体1は、内部に収納室10を備えた、全体として中空の略直方体形状を有する。収納室10を取り囲む各板は、例えば発泡樹脂等の断熱材を内板及び外板で挟んだ断熱板で構成されている。断熱箱体1の外界に露出される面及び収納室10を規定する面を構成する部材(例えば上記断熱板の外板及び内板)は、水洗いが可能なように、ステンレス鋼などの防錆性に優れた金属材料や、その表面に防錆処理が施された材料からなることが好ましい。
【0031】
断熱箱体1の互いに対向する2つの側板11,12に、収納室10に通じる開口16,17が設けられている。第1開口16と第2開口17とは互いに対向する位置に配置されている。開口16,17は扉18,19で開閉可能である。
図1及び
図2は、扉18,19が開かれた状態を示している。本実施形態では、扉18,19は、水平面内で回動する片開き式の扉である。但し、本発明はこれに限定されず、扉18,19は、例えば左右の2枚の扉が水平面内でそれぞれ回動する観音開き式の扉や、側板11,12と平行に水平方向に沿って移動する引き戸であってもよい。
【0032】
以下の説明の便宜のため、図示したように、上下方向軸をZ軸とするXYZ直交座標系を設定する。Y軸は、第1開口16と第2開口17とが対向する方向と平行である。カート100は水平面(XY面)内で自由に移動可能であるが、
図1に示したようにカート100を収納室10に収納するためにカート100を断熱箱体1の第1開口16に対向させた状態のカート100に対してXYZ直交座標系を設定する。Y軸方向を「前後方向」という。断熱箱体1に関して、第1開口16側を断熱箱体1の「前」側といい、第2開口17側を断熱箱体1の「後ろ」側という。カート100に関して、カート100を第1開口16を通って収納室10に収納するときのカート100の移動方向の前側をカート100の「前」側といい、当該移動方向の後ろ側をカート100の「後ろ」側という。
【0033】
収納室10の底面は底板20で規定される。底板20に、2本の溝21,22が設けられている。溝21,22は、Y軸に平行であり、X軸方向に互いに離間して配置されている。溝21,22は、第1開口16と第2開口17とをつなぐように、底板20の前側端から後ろ側端まで延びている。このため、底板20は、2本の溝21,22によって、第1底板部20aと、第2底板部20bと、これらの間の第3底板部20cとに三分割されている。底板部20a,20b,20cのそれぞれの下面から複数の脚23が突出している。脚23は、断熱箱体1の下面(または底板20)を、断熱箱体1が設置された床面(図示せず)から所定距離だけ離間させている。第1溝21及び第2溝22は、同じ幅(X軸方向寸法)を有し、その幅はY軸方向において一定である。溝21,22が所望する幅を有するように、底板部20a,20b,20cのそれぞれは、略L字形状の固定具24にて断熱箱体1が設置される床面に固定される。
【0034】
食品(図示せず)は、カート100に載せられる。食品を載せたカート100は、第1開口16を通って収納室10に搬入される。所定時間経過後、カート100は、食品を載せたまま第2開口17を通って収納室10から搬出される。このように、断熱箱体1は、カート100を収納可能なカートイン方式の断熱箱体であり、また、カート100が第1開口16、収納室10、第2開口17の順に断熱箱体1を通り抜けることが可能なパススルー方式の断熱箱体である。
【0035】
本実施形態の断熱箱体1は、限定されないが、食品の製造において、加工途中の食品を所定の温度及び湿度雰囲気下で所定時間保管するドウコンディショナーを構成しうる。この場合、断熱箱体1は、仕込みエリアと加熱エリアとを仕切る壁を貫通するように設置されてもよい。第1開口16は仕込みエリアに向かって開口し、第2開口17は加熱エリアに向かって開口してもよい。例えば、パンやドーナツ、ピザなどの製造では、仕込みエリアで製造された生地をカート100に載せて第1開口16から断熱箱体1に搬入する。断熱箱体1内で発酵させた生地を第2開口17から加熱エリアに搬出し焼成工程に付す。また、中華饅頭の製造では、仕込みエリアで製造した、餡を生地で包んだ包餡生地をカート100に載せて第1開口16から断熱箱体1に搬入する。断熱箱体1内で発酵させた包餡生地を第2開口17から加熱エリアに搬出し蒸し工程に付す。
【0036】
断熱箱体1がドウコンディショナーを構成する場合、断熱箱体1は、収納室10内を所定の温度及び湿度雰囲気に維持するために、収納室10内に、冷却器、ヒーター、ファン、及び、噴霧ノズルが設けられうる(いずれも図示せず)。
【0037】
冷却器は、収納室10内を冷却又は除湿するためのものである。冷却器の構成は、特に制限はなく、冷却装置や冷凍装置において使用される周知の冷却器を用いることができる。冷却器は、制限はないが、一般に、冷媒が通過するコイルと、コイルの外周面に取り付けられた多数のフィンとを備える。多数のフィンは互いに平行に且つ一定のピッチで離間して配置されている。冷却器は、一般に全体として略直方体形状である。冷却器は、冷媒を圧縮する圧縮機や、圧縮した冷媒ガスを冷却するする凝縮器等とともに冷却装置を構成する。圧縮機や凝縮器等(いずれも図示せず)は、断熱箱体1の外側に配置される。
【0038】
ヒーターは、収納室10内を加熱するためのものである。ヒーターは、発熱体であるヒーター線を、絶縁材とともステンレス鋼等の中空パイプに収納した細長い線状体(または棒状体)であってもよい。ヒーターを、冷却器の霜取りも可能なデフロストヒーターとしても用いてもよい。この場合、ヒーターは、冷却器を構成するフィン間に取り付けることができる。
【0039】
冷却器及びヒーターは、カート100を収納室10内に収納したとき、カート100に載せられた食品に対してX軸方向に対向するように、X軸方向寸法が相対的に大きな第1底板部20a上の空間内に配置されうる。この場合、冷却器のフィンの主面(面積が最大である面)は、XZ面と平行であることが好ましい。ファンが、冷却器及びヒーターと食品との間に配置されうる。ファンは、冷却器で冷却された冷気及びヒーターで暖められた暖気を食品に向かって送り出して、収納室10内の雰囲気を均一に保つ。
【0040】
噴霧ノズルは、水を霧状に収納室内に噴射して、収納室10内の空気を加湿する。噴霧ノズルは、制限はないが、冷却器の上方に、冷却器の上面に向かって噴霧するように配置されうる。
【0041】
収納室10内には、収納室10内の温度を測定するための温度センサ、収納室10内の湿度を測定するための湿度センサ、収納室10内を照明するための照明装置等が設けられていてもよい。
【0042】
図3に、断熱箱体1の第1開口16の近傍を示す。
図4に、断熱箱体1の第2開口17の近傍を示す。第1底板部20aと第3底板部20cとがX軸方向に離間し、これらの間に第1溝21が設けられている。第2底板部20bと第3底板部20cとがX軸方向に離間し、これらの間に第2溝22が設けられている。第1及び第2溝21,22は、第1及び第2溝21,22内に突出した複数の薄板25によって実質的に塞がれている。薄板25は、柔軟で、容易に変形可能な材料からなる。
【0043】
図3に示されているように、第1溝21に関して、複数の薄板25が、第1底板部20aから第3底板部20cに向かって突出し、また、複数の薄板25が、第3底板部20cから第1底板部20aに向かって突出している。薄板25は、重力によりその先端が下降するように湾曲変形している。第1底板部20aから突出した薄板25と、第3底板部20cから突出した薄板25とは、第1溝21の幅方向の略中央にて互いに接近し、好ましくは接触している。上方から見たとき、第1溝21は、第1底板部20aから突出した薄板25と、第3底板部20cから突出した薄板25とによって実質的に塞がれている。
【0044】
図4に示されているように、第2溝22に関しても同様に、複数の薄板25が、第2底板部20bから第3底板部20cに向かって突出し、また、複数の薄板25が、第3底板部20cから第2底板部20bに向かって突出している。薄板25は、重力によりその先端が下降するように湾曲変形している。第2底板部20bから突出した薄板25と、第3底板部20cから突出した薄板25とは、第2溝22の幅方向の略中央にて互いに接近し、好ましくは接触している。上方から見たとき、第2溝22は、第2底板部20bから突出した薄板25と、第3底板部20cから突出した薄板25とによって実質的に塞がれている。
【0045】
図5は、第1溝21を塞ぐ薄板25の取付構造を示す分解斜視図である。第1底板部20a及び第3底板部20cのそれぞれの上に、第2板材26b、第1板材26a、固定板29が順に積層されている。板材26a,26bのそれぞれは、細長い略長方形の平面視形状を有する薄板であり、その長辺方向はY軸と平行である。所定長さの複数のスリット(切り込み)27が、板材26a,26bのそれぞれの一方の長辺(溝21側の長辺)から短辺方向(X軸方向)に平行に延びている。これにより、板材26a,26bのそれぞれに、複数のスリット27で分割された複数の薄板25が形成されている。スリット27の幅(Y軸方向寸法)は非常に小さく、このため、Y軸方向に隣り合う薄板25は、実質的に接触していることが好ましい。板材26a,26bのそれぞれに形成された薄板25は、スリット27が形成された長辺に対向する長辺に沿った連続部28を介して連結されている。第1底板部20aの上に、第2板材26bの連続部28及び第1板材26aの連続部28を重ね合わせ、更にこれら連続部28上に固定板29を重ね合わせて、ネジ等でこれらを第1底板部20aに固定する。かくして、上下二層構造の複数の薄板25が、第1底板部20aから第1溝21内に突出する。第1板材26aに設けられた複数のスリット27と第2板材26bに設けられた複数のスリット27とは、Y軸方向のピッチは同じであるが、第1板材26aに設けられた複数のスリット27は第2板材26bに設けられた複数のスリット27に対してY軸方向に半ピッチだけ位置ずれしている。従って、第1板材26aのスリット27の下には、第2板材26bの薄板25が位置しており、第1板材26aの薄板25の下には、第2板材26bのスリット27が位置している。第3底板部20cから第1溝21に向かって突出する複数の薄板25も上記と同様である。図示を省略するが、第2底板部20b及び第3底板部20cのそれぞれから第2溝22に向かって突出する複数の薄板25も同様である。
図5では、
図3及び
図4とは異なり、重力による湾曲変形をしていない平坦な状態の薄板25を示している。
【0046】
薄板25(または板材26a,26b)の材料は、外力を加えると比較的容易に変形し、当該外力を取り除くと直ちに初期状態に復帰可能な弾性(または反発性、クッション性)を有することが好ましい。また、当該材料は、断熱性を有することが好ましい。薄板25(または板材26a,26b)の材料は、制限されないが、例えば、スポンジ、天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマー、軟質樹脂等を用いうる。なかでも、シリコンスポンジが好ましい。
【0047】
図1に戻り、カート100は、トレイ保持部110と、台車120と、トレイ保持部110と台車120とをつなぐ一対の支持柱125とを備える。
【0048】
トレイ保持部110は、互いに平行な複数のトレイ受けバー111を備える。複数のトレイ受けバー111は、上下方向(Z軸方向)に延びた複数(本実施形態では6本)の支柱113によって水平方向(本実施形態ではX軸方向)に平行に、互いに離間して支持されている。支柱113は、水平面(XY面)内において格子点状に配置されている。本実施形態では、支持柱113は、略矩形形状(または略「コ」字形状)のフレーム115上に立設されている。水平方向(本実施形態ではY軸方向)に対向する同一高さにあるトレイ受けバー111がトレイ受けバー111の「対」を構成する。このトレイ受けバー111の対が上下方向に一定間隔で配置されている。加工途中の食品が載置されたトレイ(図示せず)が、各対を構成するトレイ受けバー111に、トレイ受けバー111間に掛け渡されるように保持される。
【0049】
台車120は、Y軸方向に平行な2本の水平竿121と、水平竿121の下面に取り付けられた複数(本実施形態では4つ)のキャスタ(車輪)122とを備える(
図1では3つのキャスタ122のみが見える)。キャスタ122は、断熱箱体1が設置された床面(図示せず)上を任意の向きに走行可能である。各水平竿121の上面であって、水平竿121の後ろ側端近傍の位置に、支持柱125が上下方向(Z軸方向)に沿って立設されている。支持柱125は、四角柱形状を有している。支持柱125の上端にフレーム115が取り付けられている。即ち、2本の支持柱125が、トレイ保持部110と台車120とをつないでいる。
【0050】
図6Aは、支持柱125及びその近傍を示した拡大斜視図である。支持柱125の前方を向いた側面(前面)及び後方を向いた側面(後ろ面)に、突起127が設けられている。突起127は、略舳先形状を有する。即ち、
図6Bに示すように、突起127を平面視したとき(上方から見たとき)、突起127は、支持柱125から突起127の先端128(支持柱125からY軸方向に最も突出した部分)に近づくにしたがって突起127の幅(X軸方向寸法)が小さくなる略楔形状(または略二等辺三角形形状)を有している。突起127は、支持柱125との接続箇所にて最大幅を有し、当該最大幅は支持柱125のX軸方向寸法と略同じである。
図6Cに示すように、突起127をX軸方向に沿って側面視したとき、支持柱125から突起127の先端128に近づくにしたがって突起127の下側の輪郭線129が徐々に上昇している。図示を省略するが、突起127のXZ面に平行な面に沿った断面形状は、その下部に、輪郭線129を頂点とする略逆三角形(または略「V」字形状)を有する。支持柱125に対して前側の突起(以下、「前方突起」という)127と後ろ側の突起(以下、「後方突起」という)127とは、支持柱125に対して対称である。本実施形態では、突起127は、金属製の薄板を折り曲げ加工して形成された中空体であるが、樹脂等からなる中実の成形体であってもよい。
【0051】
本実施形態では、台車120に立設された2本の支持柱125がトレイ保持部110を支持しているが、トレイ保持部110を支持する支持柱125の数は2本に限定されず、例えば4本であってもよい。支持柱125の数にかかわらず、各支持柱125の前面及び後面に突起127が設けられることが好ましい。
【0052】
中華饅頭を製造するための包餡生地をドウコンディショナーを構成する断熱箱体1内で発酵させる場合を例に、断熱箱体1の使用方法を説明する。
【0053】
図7に示すように、断熱箱体1の第1扉18を開き、カート100を第1開口16に対向させる。断熱箱体1の第2開口17(
図2参照)は第2扉19で閉じられている。カート100を第1開口16に向かって前進させる。図示していないが、カート100のトレイ保持部110は、包餡生地が載置された複数のトレイを保持している。
【0054】
図8は、断熱箱体1の収納室10にカート100を収納した状態を示す。
図9は、
図8の、カート100の支持柱125及びその近傍部分の拡大断面図である。
図8及び
図9から分かるように、カート100の台車120を構成する2本の水平竿121及びキャスタ122(
図6A、
図6C参照)は、断熱箱体1の溝21,22内に進入し、薄板25より下側に位置している。水平竿121の幅(X軸方向寸法)は、溝21,22の幅(X軸方向寸法)より小さく、2本の水平竿121の中心軸間距離は、溝21,22の中心軸間距離と略一致する。水平竿121及びキャスタ122は、溝21,22内をY軸方向に移動可能である。
【0055】
支持柱125に設けられた突起127は、溝21,22を塞ぐ薄板25と略同一高さに位置している。カート100がY軸の矢印の向きに移動(即ち、前進)すると、前側に向かって突出した突起(前方突起)127が溝21,22の長手方向に沿って設けられた薄板25に順次衝突する。上述したように、前方突起127は、略舳先形状を有している。薄板25は、前方突起127が衝突すると、前方突起127から下向きの力を受けて、薄板25の先端が下降し且つ薄板25が溝の幅方向外側に移動するように曲げ変形する。例えば、第2溝22においては、第2底板部20bから第2溝22に向かって突出した薄板25は、前方突起127が衝突することによって、薄板25の先端が下降し且つ薄板25が第2底板部20b側に移動するように曲げ変形する。同様に、第3底板部20cから第2溝22に向かって突出した薄板25も、前方突起127が衝突することによって、薄板25の先端が下降し且つ薄板25が第3底板部20c側に移動するように曲げ変形する。第1溝21を塞ぐ薄板25も、これと同様に曲げ変形する。前方突起127は溝(21,22)の幅方向両側から溝(21,22)に向かって突出した薄板25をこのように溝(21,22)の両外側に向かって曲げ変形させる。この曲げ変形された溝(21,22)の幅方向両側の薄板25の間を、前方突起127、支持柱125、後方突起127が、薄板25に接触しながら順に通過する。上述したように、支持柱125から後方に向かって突出した突起(後方突起)127も略舳先形状を有している。後方突起127が通過するにしたがって、薄板25の曲げ変形の程度は後方突起127の形状に応じて徐々に小さくなり、後方突起127が通過し終えると、薄板25は初期状態に復帰する。
図9に示されているように、前方突起127、支持柱125、及び後方突起127にX軸方向に対向する薄板25のみが、前方突起127、支持柱125、及び後方突起127の形状に応じて変形する。仮にカート100を後退(Y軸の矢印の向きとは反対向きに移動)させた場合には、カート100を前進させた場合と同様に薄板25が変形する。
【0056】
本願発明の断熱箱体1は、収納室10内に2台のカート100をY軸方向に並べて収納することができる。
図8のようにカート100を収納室10に収納した後、
図10に示すように第1扉18を閉じる。収納室10内を所望する温度及び湿度に制御して所定時間放置して、包餡生地を発酵させる。その後、第2扉19(
図2参照)を開く。発酵された包餡生地を載せたカート100を、収納室10から第2開口17を通って断熱箱体1外に搬出する。包餡生地は、蒸し器に搬入され加熱される。
【0057】
以上のように、本実施形態の断熱箱体1は、収納室10の底面を規定する底板20に溝21,22が設けられている。カート100を収納室10に対して出し入れするとき、及び、カート100を収納室10内で移動させるとき、カート100のキャスタ122は、溝21,22内を走行する。キャスタ122が走行する溝21,22の底面(本実施形態では断熱箱体1が設置された床面)は、収納室10の底面(即ち、底板20の上面)より低い。本実施形態では、カート100を収納室10に収納するとき、キャスタ122は収納室10の底板20上に乗り上げる必要がない。このため、従来の断熱箱体では必要であった、収納室の開口から外側に突出したスロープが、本実施形態では不要である。スロープがないので、開口16,17のすぐ近くでカート100の向きを自由に変えることができる。カート100を方向転換するためスペースも含めた断熱箱体1を設置するのに必要な面積を小さくすることが可能である。更に、作業者がスロープにつまずくことがないので、断熱箱体1は安全性に優れる。
【0058】
なお、本実施形態では、断熱箱体1が設置された床面が溝21,22の底面を構成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図11に示すように、溝21,22のそれぞれの内面が、溝部材31で構成されていてもよい。溝部材31は、例えば金属薄板を略「U」字形状断面を有するように折り曲げ成形して製造しうる。溝部材31は、溝21,22の全長にわたって延びている。
図11では、溝部材31の底板部(溝部材31のうち薄板25に上下方向に対向する部分)32が溝21,22の底面を構成する。好ましくは、底板部32は、断熱箱体1が設置された床面に接している。底板部32は薄いので、カート100のキャスタ122は、断熱箱体1が設置された床面と底板部32との間の段差を容易に乗り越えることができる。従って、
図11の構成でも、スロープは不要である。第1溝21を構成する溝部材31は、第1底板部20aと第3底板部20cとをつないでいる。また、第2溝22を構成する溝部材31は、第2底板部20bと第3底板部20cとをつないでいる。底板20を構成する第1、第2及び第3底板部20a,20b,20cが溝部材31を介して連結される。このため、溝部材31は、これを用いない場合に比べて、断熱箱体1を設置する際に第1、第2及び第3底板部20a,20b,20c間の位置合わせを容易にする。
【0059】
本実施形態では、遮蔽部材としての薄板25が、溝21,22に向かって突出し、溝21,22を塞いでいる。薄板25は、収納室10と溝21,22の内腔とを分断する。薄板25は、以下の効果を奏する。
【0060】
第1に、薄板25は、収納室10の衛生性の向上に有利である。キャスタ122は断熱箱体1外の床面を走行するので、床面上の塵などがキャスタ122に付着する可能性がある。この場合、カート100を収納室10に搬入すると、キャスタ122が塵を溝21,22内に持ち込む。塵は、キャスタ122に付着したまま、またはキャスタ122から離れて溝21,22内に蓄積する。本実施形態と異なり、薄板25が設けられていないと、収納室10内に設置された冷却器を構成するファンによる気流によって、塵が収納室10内へ舞い上がり、カート100に載せられた食品や収納室10の内壁に付着する可能性がある。これに対して、本実施形態では、収納室10と溝21,22の内腔との間に薄板25が設けられている。キャスタ122は、薄板25より下側(溝21,22内)にある。従って、溝21,22内の塵が収納室10内へ舞い上がるのを薄板25が防止する。このため、収納室10内の食品や収納室10の内壁に塵が付着する可能性は低い。収納室10の衛生状態を良好に維持することが容易である。断熱箱体1は、食品衛生性に優れている。
【0061】
第2に、薄板25は、収納室10内を、温度や湿度等に関して所望する雰囲気に維持するのに有利である。薄板25は、収納室10と溝21,22との間での空気の行き来を遮断するので、収納室10内の冷気または暖気が溝21,22を通じて断熱箱体1外に漏れ出るのを防ぐ。収納室10内を所望する雰囲気に維持するのが容易であり、また、そのために必要な消費電力を低減することができる。扉18,19を閉めたとき、扉18,19が、開口16,17の下端部を規定する底板部20a,20b,20c及び薄板25にY軸方向に密着すれば、収納室10内と外界との間での空気の流れを実質的に遮断できる。扉18,19を閉めたとき、扉18,19と床面とが上下方向に離間し、両者間の隙間を介して溝21,22の内腔(または底板20と床面との間の空間)が外界と連通していても、このことは収納室10内の雰囲気を維持するのに実質的に悪影響を及ぼさない。このため、扉18,19による収納室10の密閉構造を簡単化することができる。
【0062】
薄板25は、外力によって変形し、外力を取り除くと初期状態に復帰する、弾性的に変形可能な材料からなる。このため、上述したように、カート100を収納室10に搬入したとき、カート100から外力を受けた薄板25のみがカート100の外表面に密着しながら変形する。カート100と薄板25との間の隙間は、無視しうる程度に小さい。このような薄板25は、収納室10の衛生性の向上、及び、収納室10内の雰囲気の維持に有利である。
【0063】
本発明では、薄板25は、溝21,22のそれぞれの幅方向の一方の側のみから他方の側に向かって突出していてもよい。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、薄板25は、溝21,22のそれぞれの幅方向の両側から溝21,22の中央に向かって突出している。この構成は、薄板25が溝21,22の幅方向の一方の側のみから突出している構成に比べて、薄板25が溝21,22を塞ぐ特性(遮蔽性)が高い。収納室10にカート100を収納した場合に、特に顕著である。薄板25が高い遮蔽性を有することは、収納室10の衛生性の向上、及び、収納室10内の雰囲気の維持に有利である。
【0064】
本発明では、溝21,22の幅方向の一方の側から突出した薄板25と、溝21,22の幅方向の他方の側から突出した薄板25とが、離間していてもよい。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、カート100が収納室10に収納されていない状態において、溝21,22の幅方向の両側から突出した薄板25が、溝21,22の略中央で互いに接近または接触している。これは、薄板25の溝21,22に対する遮蔽性の向上に有利である。溝21,22の幅方向の両側から突出した薄板25の一部が、溝21,22の略中央で上下方向に互いに重なり合っていてもよい。これは、薄板25の溝21,22に対する遮蔽性の向上に更に有利である。
【0065】
本発明では、遮蔽部材を構成する薄板25の構成は任意である。例えば、遮蔽部材が、スリット27で分割されていない、溝21,22の全長にわたって連続する単一の薄板で構成されていてもよい。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、溝21,22の幅方向の両側からそれぞれ突出した遮蔽部材が複数の薄板25で構成され、複数の薄板25は、各薄板25の主面(薄板25の面積が最大である面)を上下方向に向けて、溝21,22の長手方向に沿って並べられている。このため、複数の薄板25のそれぞれは、互いに独立して上方または下方に容易に変形できる。カート100を収納室10に収納したとき、カート100から外力を受けた薄板25のみが、カート100の形状に応じて適宜変形する。従って、本実施形態の複数の薄板25は、特にカート100を収納室10に収納した場合に、溝21,22に対する遮蔽性が高い。
【0066】
本発明では、溝21,22の幅方向の一方の側から突出した複数の薄板25のそれぞれは、別個に製造され、互いに分離し独立していてもよい。この場合、複数の薄板25は、一枚一枚、溝21,22の長手方向に沿って底板20(底板部20a,20b,20c)上に並べられ固定される。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、複数の薄板25は、連続部28を介して連結されている。連続部28を底板20(本実施形態では底板部20a,20b,20c)上に固定することにより、複数の薄板25を設置することができる。複数の薄板25が連続部28で連結されてユニットを構成するので、複数の薄板25の取り扱いが容易であり、また、複数の薄板25を底板20に固定する作業が簡単である。
【0067】
連続部28を介して連結された複数の薄板25は、略長方形の板材26a,26bに複数のスリット27を形成することにより製造することができる。スリット27は、例えばトムソン加工や剪断加工により形成することができる。このため、複数の薄板25の製造が容易である。また、スリット27を介して隣り合う薄板25を互いに実質的に接触させることができるので、スリット27を通過する空気は少ない。このため、本実施形態の遮蔽部材は、複数の薄板25で構成されているにもかかわらず、溝21,22に対して高い遮蔽性を有している。
【0068】
本発明では、複数の薄板25は、上下方向に重ね合わされていない単層構造を有していてもよい。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、複数の薄板25は、上下方向に重ねられた多層構造を有している。多層構造の薄板25は、単層構造の薄板25に比べて、溝21,22に対する遮蔽性の向上に有利である。多層構造を構成する層の数は、2層以上であれば制限はないが、好ましくは3層以下である。層の数が多くなると、溝21,22に対する遮蔽性の向上の程度が徐々に低下するばかりか、薄板25の取付やメインテナンスが煩雑になる。
【0069】
本発明では、多層構造の各層を構成する薄板25の配置に制限はない。例えば、薄板25のY軸方向(溝の長手方向)の寸法及び位置や、スリット27のY軸方向の位置は、多層構造を構成する層間において同じであってもよいし、異なっていてもよい。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、多層構造の第1層を構成する複数の薄板25(または複数のスリット27)は、第1層に対して下に配置された第2層を構成する複数の薄板25(または複数のスリット27)に対して、Y軸方向に位置ずれしている。ここで、第1層と第2層との間に別の層が介在していてもよいが、好ましくは第1層と第2層とは上下方向に隣り合う。より好ましくは、第1層を構成する薄板25と第2層を構成する薄板25とは、上下方向に近接し、特に好ましくは接触している。かかる構成では、第1層のスリット27の下に、第2層の薄板25が位置し、第1層の薄板25の下に、第2層のスリット27が位置することになる。このため、スリット27を介した空気の行き来が低減する。これは、薄板25の溝21,22に対する遮蔽性の向上に更に有利である。
【0070】
好ましくは、上記の実施形態のように、上記第1層を構成する複数の薄板25(または複数のスリット27)と、上記第2層を構成する複数の薄板25(または複数のスリット27)とは、Y軸方向の配置ピッチは同じであるが、Y軸方向に互いに位置ずれしている。このような第1層及び第2層は、複数の薄板25が形成された同じ板材(板材26a,26b)をY軸方向に互いに位置ずれして設置するだけで簡単に構成することができる。第1層の薄板25(またはスリット27)の第2層の薄板25(またはスリット27)に対するY軸方向の位置ずれ量は、制限されないが、例えば複数の薄板25(またはスリット27)のY軸方向のピッチの略半分に設定しうる。
【0071】
本発明では、扉18,19が断熱箱体1の開口16,17を閉じたとき、扉18,19が溝21,22の長手方向の端部も閉じるように構成されていてもよい。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、扉18,19が断熱箱体1の開口16,17を閉じたとき、溝21,22の長手方向の端部は扉18,19で閉じられないように構成されていてもよい。本発明では、収納室10にカート100が収納されているか否かにかかわらず、遮蔽部材(薄板25)が収納室10と溝21,22との間での空気の行き来を遮断する。溝21,22の長手方向の端部(更には、溝21,22と連通する、底板20と床面との間の空間)が扉18,19で閉じられなくても、収納室10内の雰囲気の維持は容易である。このため、扉18,19による密閉構造を簡単化することができる。
【0072】
カート100を収納室10に収納したとき、薄板25はカート100に衝突する。本発明では、薄板25がカート100のどの部位に衝突するかに関して制限はない。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、カート100を収納室10に収納したとき、薄板25はカート100の支持柱125に衝突する。支持柱125は、溝21,22の長手方向寸法が小さいので、カート100を収納室10に収納したときにカート100によって変形される薄板25の数は少ない。これは、以下の効果を奏する。
【0073】
第1に、薄板25が変形されることによる溝21,22の遮蔽性の低下を少なくすることができる。一般に、薄板25がカート100によって変形されると、スリット27を挟んで隣り合う薄板25間の間隔が拡大したり、薄板25とカート100との間に隙間が形成されたりすることによって、薄板25の溝21,22に対する遮蔽性が低下しうる。この遮蔽性の低下は、カート100によって変形される薄板25の数が少ないほど小さい。遮蔽性の低下が小さいことは、カート100を収納室10に収納した場合に、収納室10の衛生性の向上、及び、収納室10内の雰囲気の維持に有利である。
【0074】
第2に、薄板25の交換頻度を少なくすることができる。一般に、カート100は収納室10に所定時間収納され続ける。この間、カート100から外力を受けた薄板25は変形されたままである。薄板25が変形した状態で長時間放置されると、薄板25は永久変形されやすく、初期状態への回復力が低下する。これは、薄板25の溝21,22に対する遮蔽性の低下を招く。カート100によって変形される薄板25の数が少ないほど、回復力の低下により交換すべき薄板25の発生数は少なくなる。このため、薄板25を交換するためのメインテナンスコストを低減することができ、また、薄板25の交換による断熱箱体1の稼働率の低下を抑えることができる。
【0075】
本発明では、カート100に突起127が設けられることは必須ではない。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、カート100に突起127が設けられており、キャスタ122が溝21,22を走行するとき、突起127が薄板25を弾性変形させる。本実施形態と異なり、カート100に突起127が設けられていないと、薄板25は、移動するカート100からカート100の移動方向に過大な力を受けて、最悪の場合、破損してしまう可能性がある。カート100に突起127を設けることにより、薄板25を所望するように変形(例えば下向きに曲げ変形)させることが容易になるので、カート100の移動によって薄板25が破損するなどの問題が生じる可能性を低減することができる。
【0076】
カート100に突起127を設ける場合、突起127は、収納室10内でのカート100の移動方向の前方に向かって突出していることが好ましい。カート100を移動させるとき、カート100に順次衝突する薄板25を変形させることができるからである。好ましくは、上記の実施形態のように、溝21,22に沿ったカート100の前進方向及び後退方向の両方向に向かって突出するように、2つの突起(即ち、前方突起127及び後方突起127)がカート100に設けられる。これにより、収納室10内でカート100を前進及び後退のいずれに移動させた場合にも、突起127で薄板25を所望するように変形させることが容易になる。また、カート100に、その移動方向の後方に向かって突出した突起(後方突起)127を設けた場合、薄板25は後方突起127に密着しながら初期状態に復帰するため、薄板25とカート100との間に形成される隙間が小さくなる。これは、薄板25の溝21,22に対する遮蔽性の低下を抑えるのに有利である。
【0077】
突起127は、薄板25をいずれの方向(例えば水平方向または上下方向)に変形させてもよい。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、カート100のキャスタ122が溝21,22を走行するとき、突起127は薄板25を下方に向かって弾性変形させる。薄板25は、その主面を上下方向に向けて設けられている。また、薄板25は、カート100に接触していない状態で、その自重によりわずかに下方に向かって曲げ変形している。このため、薄板25を下方に向かって変形させるのは比較的容易であり、また、変形によって薄板25が破損するなどの問題が生じる可能性が低下する。
【0078】
本発明では、突起127の形状に制限はない。但し、好ましくは、上記の実施形態のように、突起127は、先端が尖った略舳先形状を有している。略舳先形状の突起127は薄板25を下方に向かって曲げ変形させるのに有利である。なお、略舳先形状の突起127を、輪郭線129(
図6参照)が上側を向くように、上記実施形態とは上下を反転してカート100に設けてもよい。この場合、突起127は、薄板25を上方に跳ね上げるように曲げ変形させる。
【0079】
本発明の断熱箱体は、カート100を収納室10に収納可能なカートイン方式の断熱箱体である。上記の実施形態では、カート100が断熱箱体1を通り抜け可能なように側板11,12に開口16,17が設けられたパススルー方式の断熱箱体を示したが、本発明の断熱箱体はこれに限定されない。本発明の断熱箱体は、カート100を収納室10に対して出し入れ可能である開口を一つのみ備えた(例えば上記の実施形態において側板12に開口17が設けられていない)非パススルー方式の断熱箱体であってもよい。
【0080】
上記の実施形態は例示に過ぎない。本発明は、上記の実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
【0081】
上記の実施形態では、断熱箱体1がドウコンディショナーを構成したが、本発明の断熱箱体の用途はこれに限定されない。例えば、本発明の断熱箱体は、冷蔵庫、冷凍庫、保管庫など収納室内の雰囲気を一定に維持する必要がある任意の装置に適用することができる。装置の用途に応じて、収納室内または収納室外に、冷却装置やヒーターなどの公知の構成が設けられる。
【0082】
上記の実施形態では、溝21,22を塞ぐ遮蔽部材として複数の薄板25を用いたが、遮蔽部材の構成はこれに限定されない。遮蔽部材は、収納室10と溝21,22の内腔との間での空気の出入りを少なくすることができ、また、収納室10にカート100を収納したときにはカート100に密着しながらカート100の形状に応じて変形することができることが望ましい。
【0083】
例えば遮蔽部材として、多数のブラシ毛を用いることができる。多数のブラシ毛は、底板部20a,20b,20cから溝21,22に向かって(X軸方向に略平行に)突出するように設けられる。ブラシ毛間を介した空気の出入りが少なくなるように、ブラシ毛は密に配置される。収納室10にカート100を収納したとき、ブラシ毛はカート100から外力を受けて、Z軸方向またはY軸方向に、弾性的に曲げ変形される。ブラシ毛の材料は、制限されないが、樹脂(例えばナイロン)や金属(例えばステンレス鋼)を用いうる。
【0084】
遮蔽部材は、カート100によって、Z軸方向またはY軸方向に曲げ変形するのではなく、例えばX軸方向(溝21,22の幅方向)に圧縮変形するように構成されていてもよい。例えば、上下方向寸法が比較的大きな塊状(あるいは略直方体形状)のスポンジ等からなる遮蔽部材を底板部20a,20b,20cから溝21,22に向かって突出するように設けることができる。
【0085】
上記の実施形態では、遮蔽部材(薄板25)がカート100の支持柱125に衝突したが、遮蔽部材が衝突するカート100の部位は、これに限定されない。例えば、遮蔽部材がカート100の水平竿121(
図1参照)に衝突するように構成されていてもよい。この場合、水平竿121の長手方向の両端面に突起127が設けられることが好ましい。
【0086】
本発明の断熱箱体に使用可能なカートの構成は、上記の実施形態に限定されない。底板に設けられた溝のX軸方向の位置や幅、溝に向かって突出する遮蔽部材の高さなどに適合したカートが使用されることが好ましい。断熱箱体とカートには好ましい組み合わせが存在しうる。このため、本発明の断熱箱体は、当該断熱箱体に適合したカートが組み合わされて販売され使用されることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の断熱箱体の用途は、制限はないが、食品を製造する分野において、食品を保管(例えば冷凍または冷蔵して保管)するために、あるいは食品に所定の処理(例えば発酵)をするために使用することができる。もちろん、本発明の断熱箱体を食品以外のもの(例えば化学製品、薬剤)を収納するために使用することも可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 断熱箱体
10 収納室
11,12 側板
16,17 開口
18,19 扉
20 底板
21,22 溝
25 薄板(遮蔽部材)
26a,26b 板材
27 スリット
28 連続部
100 カート
110 トレイ保持部
120 台車
122 キャスタ
125 支持柱
127 突起