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特許7492757遺伝子の発現制御剤、アルツハイマー病の予防薬または治療薬および認知症の改善方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】遺伝子の発現制御剤、アルツハイマー病の予防薬または治療薬および認知症の改善方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20240523BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240523BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240523BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240523BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240523BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K31/7105
A61K47/46
A61K48/00
A61P25/28
A61P43/00 105
C12N15/113 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022044972
(22)【出願日】2022-03-22
(65)【公開番号】P2023139438
(43)【公開日】2023-10-04
【審査請求日】2023-11-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520233113
【氏名又は名称】DEXONファーマシューティカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230113697
【弁護士】
【氏名又は名称】菅原 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥嗣
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-520790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/28
A61K 31/7105
A61K 47/46
A61K 48/00
A61P 25/28
A61P 43/00
C12N 15/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NMDA活性化タンパク質の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む微小粒子を含有するNMDA活性化遺伝子の発現抑制剤であり、
前記NMDA活性化タンパク質がDLG1、CAMK2AおよびCAPN1のうち少なくとも1種類のタンパク質であり、
前記微小粒子がDLG1抑制関連miRNA群のうちhsa-miR-21-5p、CAMK2A抑制関連miRNA群のうちhsa-miR-92a-3p、CAPN1抑制関連miRNA群のうちhsa-miR-22-3pをいずれも含み、
前記微小粒子が歯髄由来幹細胞の培養上清から精製されて単離された微小粒子であり、
前記遺伝子の発現制御剤が、前記歯髄由来幹細胞の培養上清からエクソソームを除いた成分を含まない、遺伝子の発現制御剤。
【請求項2】
前記微小粒子がエクソソームである、請求項1に記載の遺伝子の発現制御剤。
【請求項3】
前記微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清よりも高い濃度で、前記NMDA活性化タンパク質のうち少なくとも1種類のタンパク質の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む、請求項1または2に記載の遺伝子の発現制御剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子の発現制御剤、アルツハイマー病の予防薬または治療薬および認知症の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、アルツハイマー病は、認知症の原因の半数以上を占める神経変性疾患であり、治療法や予防法のさらなる発展が望まれている。これまでの研究で、アルツハイマー病の発生機序の解明が進んでいる。アルツハイマー病の予防や進行抑制、改善のために、アミロイドβタンパク質や微小管結合タンパク質であるタウ・タンパク質の増加、凝集、蓄積、沈着を抑制することなどが重要な点の一つであると考えられている。そして、詳細は後述するが、アルツハイマー病の治療薬とその作用機序も知られてきている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方、脳内アミロイドβタンパク質の代謝やアルツハイマー病の発現・進行への、神経細胞由来エクソソームの関与が示唆されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1では、エクソソームの産生を促進し得る薬剤については、未だ十分な検討がなされていないことに注目し、容易に生体内でのエクソソームの産生を促進することができるエクソソーム産生促進剤として、酸性セラミダーゼに対する機能阻害及び/又は発現抑制が可能な物質を有効成分とする、エクソソーム産生促進剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-083415号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】臨床神経学 54(12), 1178-1180, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、その課題解決の手法から明らかなとおり実際にアミロイドβの蓄積などが生じるヒト神経細胞に注目しており、他の細胞由来のエクソソームには注目していなかった。例えば、特許文献1にはヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞にエクソソームの産生を促進させた例が記載されているのみであった。また、特許文献1で引用された文献は、神経細胞由来エクソソームが、アミロイドβ結合性糖脂質を高発現し、アミロイドβタンパク質を捕捉する能力をもつこと、脳内の貪食細胞ミクログリアと連携してアミロイドβタンパク質を除去する作用を有することが示唆された非特許文献や、ニューロン由来エクソソームが、その表面でアミロイドβを捕捉し、ミクログリアへ輸送することで、アミロイドβタンパク質の分解効率を高めていることが示唆された非特許文献などであった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、アルツハイマー病などのアミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症や脳炎症に関連するタンパク質の発現を制御(抑制や阻害など)できる、新規な遺伝子の発現制御剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定のマイクロRNAを含む微小粒子が、アミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症や脳炎症に関連するタンパク質の発現を制御(抑制や阻害など)できることを見出した。
【0009】
具体的に、本発明および本発明の好ましい構成は、以下のとおりである。
【0010】
[1] アミロイド前駆体タンパク質(APP)、β-セクレターゼ(BACE1)、NMDA活性化タンパク質、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)、およびポリグルタミン結合タンパク質-1(PQBP1)のうち少なくとも1種類のタンパク質の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む微小粒子である、遺伝子の発現制御剤。
[2] 微小粒子がエクソソームである、[1]に記載の遺伝子の発現制御剤。
[3] 微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清よりも高い濃度で、APP、BACE1、NMDA活性化タンパク質、GSK-3β、およびPQBP1のうち少なくとも1種類のタンパク質の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む、[1]または[2]に記載の遺伝子の発現制御剤。
[4] APPの発現に関する遺伝子の発現抑制剤であり、
微小粒子がAPPの発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の遺伝子の発現制御剤。
[5] 微小粒子が下記APP抑制関連miRNA群のうち少なくとも1種類を含む、[4]に記載の遺伝子の発現制御剤;
APP抑制関連miRNA群:
hsa-miR-101-3p、hsa-miR-106b-5p、hsa-miR-1229-5p、hsa-miR-1238-3p、hsa-miR-1260b、
hsa-miR-1276、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-144-3p、
hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-153-3p、hsa-miR-15a-5p、hsa-miR-15b-5p、hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-17-5p、hsa-miR-185-5p、hsa-miR-186-5p、hsa-miR-194-5p、hsa-miR-195-5p、
hsa-miR-196a-5p、hsa-miR-203a-3p、hsa-miR-20a-5p、hsa-miR-222-3p、hsa-miR-298、
hsa-miR-31-5p、hsa-miR-3120-3p、hsa-miR-3132、hsa-miR-323a-3p、hsa-miR-324-5p、
hsa-miR-328-3p、hsa-miR-3620-3p、hsa-miR-3646、hsa-miR-369-3p、hsa-miR-373-3p、
hsa-miR-374c-5p、hsa-miR-381-3p、hsa-miR-382-5p、hsa-miR-383-5p、hsa-miR-411-3p、
hsa-miR-423-3p、hsa-miR-424-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-4484、hsa-miR-455-3p、
hsa-miR-4786-5p、hsa-miR-484、hsa-miR-490-5p、hsa-miR-497-5p、hsa-miR-500a-5p、
hsa-miR-5093、hsa-miR-532-3p、hsa-miR-532-5p、hsa-miR-539-3p、hsa-miR-548f-3p、
hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-5584-5p、hsa-miR-567、hsa-miR-5696、hsa-miR-582-5p、
hsa-miR-6073、hsa-miR-873-5p、hsa-miR-93-5p。
[6] BACE1の発現に関する遺伝子の阻害剤であり、
微小粒子がBACE1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の遺伝子の発現制御剤。
[7] 微小粒子が下記BACE1阻害関連miRNA群のうち少なくとも1種類を含む、[6]に記載の遺伝子の発現制御剤;
BACE1阻害関連miRNA群:
hsa-miR-107、hsa-miR-124-3p、hsa-miR-1267、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-129-2-3p、
hsa-miR-140-3p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-141-3p、hsa-miR-15a-5p、hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-17-5p、hsa-miR-195-5p、hsa-miR-200a-3p、hsa-miR-203a-3p、hsa-miR-212-3p、
hsa-miR-212-5p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26b-5p、hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-298、
hsa-miR-299-3p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-328-3p、
hsa-miR-339-5p、hsa-miR-340-5p、hsa-miR-369-3p、hsa-miR-374a-5p、hsa-miR-374b-5p、
hsa-miR-374c-5p、hsa-miR-382-5p、hsa-miR-421、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-455-3p、
hsa-miR-497-5p、hsa-miR-505-3p、hsa-miR-532-5p、hsa-miR-7-5p、hsa-miR-874-3p、
hsa-miR-9-5p。
[8] GSK-3βの発現に関する遺伝子の阻害剤であり、
微小粒子がGSK-3βの発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む、[1]~[7]のいずれか一項に記載の遺伝子の発現制御剤。
[9] 微小粒子が下記GSK-3β阻害関連miRNA群のうち少なくとも1種類を含む、[8]に記載の遺伝子の発現制御剤;
GSK-3β阻害関連miRNA群:
hsa-let-7a-3p、hsa-let-7b-3p、hsa-let-7f-1-3p、hsa-let-7f-2-3p、hsa-miR-101-3p、
hsa-miR-1185-1-3p、hsa-miR-1185-2-3p、hsa-miR-124-3p、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-129-5p、
hsa-miR-132-3p、hsa-miR-137、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-144-3p、
hsa-miR-150-5p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-15a-5p、hsa-miR-15b-5p、hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-1910-5p、hsa-miR-195-5p、hsa-miR-199a-5p、hsa-miR-212-3p、hsa-miR-218-5p、
hsa-miR-219a-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26a-5p、hsa-miR-26b-5p、
hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-28-5p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-346、
hsa-miR-369-3p、hsa-miR-374a-5p、hsa-miR-374b-5p、hsa-miR-374c-5p、hsa-miR-377-3p、
hsa-miR-409-3p、hsa-miR-409-5p、hsa-miR-410-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-425-5p、
hsa-miR-4465、hsa-miR-497-5p、hsa-miR-582-5p、hsa-miR-6083、hsa-miR-708-5p、
hsa-miR-9-5p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-96-5p、hsa-miR-98-3p。
[10] 微小粒子が、APPの発現に関する遺伝子の発現抑制剤、BACE1の発現に関する遺伝子の阻害剤およびGSK-3βの発現に関する遺伝子の阻害剤のうち少なくとも1種類であり、かつhsa-miR-16-5pを含む、[1]~[9]のいずれか一項に記載の遺伝子の発現制御剤。
[11] NMDA活性化遺伝子の発現抑制剤であり、
NMDA活性化タンパク質がDLG1、CAMK2D、CAMK2AおよびCAPN1のうち少なくとも1種類のタンパク質であり、
微小粒子が、DLG1、CAMK2D、CAMK2AおよびCAPN1のうち少なくとも1種類のタンパク質発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmi下記DLG1抑制関連miRNA群、下記CAMK2D抑制関連miRNA群、下記CAMK2A抑制関連miRNA群、および下記CAPN1抑制関連miRNA群のうち少なくとも1種類のmiRNA群を含む、[1]~[10]のいずれか一項に記載の遺伝子の発現制御剤;
DLG1抑制関連miRNA群:
hsa-miR-1-3p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-204-5p、hsa-miR-206、hsa-miR-21-5p、
hsa-miR-218-5p、hsa-miR-340-5p、hsa-miR-613。
CAMK2D抑制関連miRNA群:
hsa-let-7a-5p、hsa-miR-101-3p、hsa-miR-129-5p、hsa-miR-139-5p、hsa-miR-144-3p、
hsa-miR-145-5p、hsa-miR-185-5p、hsa-miR-203a-3p、hsa-miR-204-5p、hsa-miR-211-5p、
hsa-miR-24-3p、hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-30a-3p、hsa-miR-31-5p、hsa-miR-361-5p、
hsa-miR-421、hsa-miR-484、hsa-miR-494-3p、hsa-miR-505-3p、hsa-miR-7-5p。
CAMK2A抑制関連miRNA群:
hsa-miR-129-5p、hsa-miR-137、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-148a-3p、hsa-miR-149-3p、
hsa-miR-152-3p、hsa-miR-25-3p、hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-32-5p、hsa-miR-338-3p、
hsa-miR-340-5p、hsa-miR-363-3p、hsa-miR-3665、hsa-miR-4534、hsa-miR-4665-5p、
hsa-miR-4688、hsa-miR-485-5p、hsa-miR-5010-5p、hsa-miR-505-5p、hsa-miR-5698、
hsa-miR-625-5p、hsa-miR-92a-3p。
CAPN1抑制関連miRNA群:
hsa-miR-1-3p、hsa-miR-124-3p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-17-3p、hsa-miR-22-3p、
hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-6511b-5p。
[12] 微小粒子が、
DLG1抑制関連miRNA群のうちhsa-miR-21-5p、
CAMK2D抑制関連miRNA群のうちhsa-let-7a-5p、
CAMK2A抑制関連miRNA群のうちhsa-miR-92a-3p、
CAPN1抑制関連miRNA群のうちhsa-miR-22-3pをいずれも含む、[11]に記載の遺伝子の発現制御剤。
[13] PQBP1の発現抑制剤であり、
微小粒子がPQBP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む、[1]~[12]のいずれか一項に記載の遺伝子の発現制御剤。
[14] 微小粒子が下記PQBP1抑制関連miRNA群のうち少なくとも1種類を含む、[13]に記載の遺伝子の発現制御剤;
PQBP1抑制関連miRNA群:hsa-miR-6727-3p、hsa-miR-6727-5p。
[15] 微小粒子が歯髄由来幹細胞の培養上清から精製されて単離された微小粒子であり、
遺伝子の発現制御剤が、歯髄由来幹細胞の培養上清からエクソソームを除いた成分を含まない、[1]~[14]のいずれかに記載の遺伝子の発現制御剤。
[16] [1]~[15]のいずれかに記載の遺伝子の発現制御剤を含む、アルツハイマー病の予防薬または治療薬。
[17] 有効量の[1]~[15]のいずれか一項に記載の遺伝子の発現制御剤、あるいは有効量の[16]に記載のアルツハイマー病の予防薬または治療薬を、アミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症を発症した対象に投与することを含む、認知症の改善方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルツハイマー病などのアミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症や脳炎症に関連するタンパク質の発現を制御できる、新規な遺伝子の発現制御剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、アルツハイマー病の発生機序を示すフローチャートである。
図2図2は、非アミロイド形成経路のAPPプロセシングの模式図である。
図3図3は、アミロイド形成経路のAPPプロセシングの模式図である。
図4図4(A)は、エイズウイルスのcDNAによるPQBP1-cGAS-STING経路を介した炎症遺伝子の発現誘導の模式図である。図4(B)は、タウ・タンパク質によるPQBP1-cGAS-STING経路を介した炎症遺伝子の発現誘導の模式図である。
図5図5は、APPをtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の遺伝子の発現制御剤;SGF)に発現するmiRNAの発現量を、大脳皮質(Cerebral Cortex)におけるmiRNAの発現量と対比して示したヒートマップである。
図6図6は、βセクレターゼ(BASE1)をtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の遺伝子の発現制御剤;SGF)に発現するmiRNAの発現量を、大脳皮質(Cerebral Cortex)におけるmiRNAの発現量と対比して示したヒートマップである。
図7図7は、DLG1をtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の遺伝子の発現制御剤;SGF)に発現するmiRNAの発現量を、大脳皮質(Cerebral Cortex)におけるmiRNAの発現量と対比して示したヒートマップである。
図8図8は、CAMK2Dをtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の遺伝子の発現制御剤;SGF)に発現するmiRNAの発現量を、大脳皮質(Cerebral Cortex)におけるmiRNAの発現量と対比して示したヒートマップである。
図9図9は、CAMK2Aをtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の遺伝子の発現制御剤;SGF)に発現するmiRNAの発現量を、大脳皮質(Cerebral Cortex)におけるmiRNAの発現量と対比して示したヒートマップである。
図10図10は、CAPN1をtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の遺伝子の発現制御剤;SGF)に発現するmiRNAの発現量を、大脳皮質(Cerebral Cortex)におけるmiRNAの発現量と対比して示したヒートマップである。
図11図11は、GSK-3βをtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の遺伝子の発現制御剤;SGF)に発現するmiRNAの発現量を、大脳皮質(Cerebral Cortex)におけるmiRNAの発現量と対比して示したヒートマップである。
図12図12は、PQBP1をtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の遺伝子の発現制御剤;SGF)に発現するmiRNAの発現量を、大脳皮質(Cerebral Cortex)におけるmiRNAの発現量と対比して示したヒートマップである。
図13図13は、アミロイドβまたはタウ・タンパク質関連miRNAについて、歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の遺伝子の発現制御剤;SGF)に発現するmiRNAの発現量を、大脳皮質(Cerebral Cortex)におけるmiRNAの発現量と対比して示したヒートマップ(1ページ目)である。
図13-2】図13-2は、図13のヒートマップのつづき(2ページ目)である。
図14図14は、試験例4におけるAPP遺伝子の発現量を示した棒グラフである。
図15図15は、試験例4におけるBASE1遺伝子の発現量を示した棒グラフである。
図16図16は、試験例4におけるCAMK2D遺伝子の発現量を示した棒グラフである。
図17図17は、試験例4におけるGSK-3β遺伝子の発現量を示した棒グラフである。
図18図18は、試験例4におけるPQBP1遺伝子の発現量を示した棒グラフである。
図19図19は、試験例5における各miRNAの発現量を示した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[遺伝子の発現制御剤]
本発明の遺伝子の発現制御剤は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、β-セクレターゼ(BACE1)、NMDA活性化タンパク質、およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)のうち少なくとも1種類のタンパク質の発現に関する遺伝子を標的遺伝子(targetとも言う)とするmiRNAを含む微小粒子である。
本発明の遺伝子の発現制御剤は、アミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症や脳炎症に関連するタンパク質に関する遺伝子の発現を制御できる。その結果、本発明の遺伝子の発現制御剤は、アミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症や脳炎症も改善できることが好ましく、予防または治療できることがより好ましい。治療とは、アミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症や脳炎症の症状を緩和させることを意味し、完治までは至らなくてもよい。アミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症の治療としては、認知機能や行動における症状を緩和することが好ましい。
以下、本発明の遺伝子の発現制御剤の好ましい態様を説明する。
【0015】
<認知症の定義>
本発明において、認知症とは、一般的に、後天的に認知機能が低下した状態を意味する。
認知症の病型としては、例えば、アルツハイマー型認知症(AD)、血管性認知症(VaD)、レビー小体型認知症(DLB。認知症を伴うパーキンソン病PDDを含む)、前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症(FTD)、意味性認知症(SD)、進行性非流暢性失語(PNFA)を含む)、アルコール性認知症、混合型、軽度認知障害(MCI)、若年性認知症などが挙げられる。
本発明の遺伝子の発現制御剤の投与対象となる認知症は、アミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症であることが好ましい。アミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症としては特に制限はなく、いわゆるタウパクチーといわれるタウ蓄積が生じる疾患群が挙げられる。具体的には、本発明の遺伝子の発現制御剤の投与対象となる認知症として、アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症(FTDまたはbvFTD)、意味性認知症(SD)、進行性非流暢性失語(PNFA)であることが好ましい。FTDにはピック病などが含まれる。
本発明の遺伝子の発現制御剤の投与対象となる認知症は、アルツハイマー型認知症であることがより好ましい。
【0016】
<アルツハイマー病の発生機序>
アルツハイマー病の発生機序を示したフローチャートを、図1に示す。
【0017】
まず、図1中の塗り潰し矢印によるフローチャートを説明する。
(1)アミロイド前駆体タンパク質(APP)の産生。さらに、原因遺伝子(APP,PS1,PS2)の変異およびApoE4(危険因子)によって、APPが亢進される。
(2)アミロイドβタンパク質(Aβ)の産生。さらに、Aβ分解酵素の抑制(ネプリライシン、インシュリン分解酵素など)により、Aβの産生が亢進される。
(3)アミロイドβタンパク質の凝集、蓄積、沈着。さらに、神経細胞内カルシウムホメオスタシスの異常、活性酸素、小胞体ストレスにより、Aβの凝集、蓄積、沈着が進行する。
(21)神経原線維変化、細胞死、反応性グリアの増殖。
(22)アルツハイマー病の発生。
【0018】
次に、図1中の塗り無し矢印によるフローチャートを説明する。
(11)タウ・タンパク質の異常リン酸化の誘導が、(3)アミロイドβタンパク質の凝集、蓄積、沈着により、進行する。
(12)微小管から可溶性の単量体タウ・タンパク質が遊離。
(13)軸索から神経細胞の細胞体樹状突起部分に移動。単量体タウ・タンパク質が、Srcチロシンキナーゼであるfynと相互作用。
(14)fynを樹状突起に局在、活性化。
(15)興奮性NMDA受容体GluN2Bをリン酸化。グルタミン酸シグナル伝達の増幅により、興奮性NMDA受容体GluN2Bのリン酸化が進行。
(16)細胞内へのCa2+流入量の増加。
(17)Aβの毒性が増加。
(21)神経原線維変化、細胞死、反応性グリアの増殖。
(22)アルツハイマー病の発生。
【0019】
(APPのプロセシング)
図1の(2)アミロイドβタンパク質(Aβ)の産生に関連して、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングについて説明する。
図2は、非アミロイド形成経路のAPPプロセシングの模式図である。
まず、APPがαセクレターゼにより切断されると、C83(C末端側の83アミノ酸からなる断片)が細胞膜中に残り、sAPPα(N末端側の細胞外ドメインからなる断片)が細胞外に放出される。
次に、C83がγセクレターゼにより切断されると、P3ペプチドとCTFが産生される。その結果、Aβは産生されない。
【0020】
一方、図3は、アミロイド形成経路のAPPプロセシングの模式図である。
まず、APPがβ-セクレターゼ(BACE1)により切断され、C99(C末端側の99アミノ酸断片)が細胞膜中に残り、sAPPβ(N末端側の細胞外ドメイン)が細胞外に放出される。
次に、C99がγセクレターゼにより切断され、Aβペプチド(Aβ1-40またはAβ1-42)が形成される。
なお、γ-セクレターゼは、Presenilin 1(PS1)またはPresenilin 2(PS2)と、Nicastrin、APH-1およびPEN2で構成される。
【0021】
<アルツハイマー病治療薬と作用機序>
本発明の遺伝子の発現制御剤は、認知症の中でも特にアルツハイマー病の改善をできることが好ましい。以下、アルツハイマー病治療薬と作用機序を、本発明の遺伝子の発現制御剤の作用機序とあわせて説明する。
アルツハイマー病治療薬と作用機序としては、以下のものが挙げられる。
【0022】
(a)アセチルコリンの分解酵素の阻害剤
アセチルコリンは、神経細胞の突起先端部のシナプス部で放出されて、次の神経細胞に情報を届ける物質であり、アセチルコリンを産生する細胞がアルツハイマー型認知症の脳では減少している。アセチルコリンの分解酵素の阻害剤(ドネペジル塩酸塩など)により、シナプスでのアセチルコリン分解消失を抑え、アセチルコリンの量を増やす。
なお、アセチルコリンの分解酵素の阻害剤は、本発明の遺伝子の発現制御剤とは関連性が低い。
【0023】
(b)ニコチン受容体に対する刺激剤
ニコチン受容体に対して、アセチルコリンの情報伝達は、アセチルコリン受容体に結合することにより引き起こされる。アセチルコリン受容体にはニコチン性受容体(ニコチン性アセチルコリン受容体ともいう)とムスカリン性受容体が存在する。ニコチン性受容体はサブユニットからなる五量体であり、アセチルコリンが結合するとイオンチャネルとして機能する。アルツハイマー型認知症の脳では、ニコチン性受容体数が減少している。ガランタミン臭化水素などは、アセチルコリンとは別の場所に結合して、ニコチン性受容体の機能を高める(APL作用)。
なお、ニコチン受容体に対する刺激剤は、本発明の遺伝子の発現制御剤とは関連性が低い。
【0024】
(c)NMDA受容体阻害剤
Aβやタウの増加で誘導されるNMDA受容体の活性化を抑制することにより、神経細胞の過剰な興奮による細胞死を防ぐ。NMDAは、記憶、学習、脳虚血に関係する。NMDAを制御するタンパク質として、DLG1、CAMK2D、CAMK2A、CAPN1、EPHB2が挙げられる。
本発明の遺伝子の発現制御剤において、微小粒子がNMDA活性化タンパク質の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む場合、NMDA受容体阻害剤として機能する。特に、本発明の遺伝子の発現制御剤は、DLG1発現抑制剤、CAMK2D発現抑制剤、CAMK2A発現抑制剤およびCAPN1発現抑制剤のうち少なくとも1種類のNMDA受容体阻害剤として機能する。
【0025】
(d)BACE1阻害剤
Aβの産生酵素であるBACE1を阻害して、Aβの産生を抑制する。
本発明の遺伝子の発現制御剤において、微小粒子がβ-セクレターゼ(BACE1)の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む場合、BACE1阻害剤として機能する。
【0026】
(e)GSK-3β阻害剤
グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)は、鎖多様なタンパク質をリン酸化する酵素であり、正常細胞の生命維持や調節に重要かつ多様な働きをしている。GSK-3βが病的に亢進すると、脳ではAβの沈着や、神経細胞の中にタウ・タンパク質の蓄積が促進される。GSK-3β阻害剤は、Aβの沈着や、タウ・タンパク質の異常リン酸化を抑制する(下記表1に記載。臨床神経学 54(12), 1178-1180, 2014参照)。
本発明の遺伝子の発現制御剤において、微小粒子がグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む場合、GSK-3β阻害剤として機能する。
【0027】
【表1】
【0028】
(f)APP阻害剤
APP阻害剤は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の産生を阻害して、APPの産生を抑制する。
本発明の遺伝子の発現制御剤において、微小粒子がアミロイド前駆体タンパク質(APP)の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む場合、APP阻害剤として機能する。
【0029】
<脳炎症>
本発明の遺伝子の発現制御剤は、脳炎症の改善をできることが好ましい。以下、脳炎症の作用機序を、本発明の遺伝子の発現制御剤の作用機序とあわせて説明する。
アルツハイマー病をはじめとして、前頭側頭葉変性症、パーキンソン病、ハンチントン病など複数の神経変性疾患の病態に関与するタウ蛋白質が、脳内ミクログリアにおいて、エイズウイルスの細胞内受容体として知られているPQBP1に認識されて、脳炎症を誘発する。具体的には、タウはPQBP1-cGAC-STING経路を介してミクログリアを活性化し、脳炎症を促進する(Nature Communications volume 12, Article number: 6565 (2021))。図4(A)は、エイズウイルスのcDNAによるPQBP1-cGAS-STING経路を介した炎症遺伝子の発現誘導の模式図である。図4(B)は、タウ・タンパク質によるPQBP1-cGAS-STING経路を介した炎症遺伝子の発現誘導の模式図である。
したがって、本発明の遺伝子の発現制御剤において、微小粒子がポリグルタミン結合タンパク質-1(PQBP1)の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む場合、PQBP1抑制剤として機能する。その結果、本発明の遺伝子の発現制御剤は、タウ・タンパク質関連の認知症(特にアルツハイマー病)や脳炎症の改善をできる。
【0030】
<微小粒子>
本発明の遺伝子の発現制御剤の有効成分であるmiRNAは、微小粒子に含まれる。
本発明の遺伝子の発現制御剤として用いられる微小粒子は、例えば、歯髄由来幹細胞等の間葉系幹細胞からの分泌、出芽または分散などにより、歯髄由来幹細胞等から導き出され、細胞培養培地に浸出、放出または脱落するものである。微小粒子は、歯髄由来幹細胞等の培養上清に含まれることが好ましく、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子であることがより好ましい。ただし、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子は、必ずしも歯髄由来幹細胞の培養上清から取得する必要がない。例えば、歯髄由来幹細胞の内部の微小粒子を任意の方法で単離したものであっても、歯髄由来幹細胞の培養上清から単離できる微小粒子と同じものであれば、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子と言える。
歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子は、培養上清に含まれた状態で用いてもよく、または培養上清から精製した状態で用いてもよい。微小粒子が培養上清から精製された微小粒子であることが好ましい。
微小粒子の由来は、公知の方法で判別することができる。例えば、微小粒子は、J Stem Cell Res Ther (2018) 8:2に記載の方法で、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞などのいずれの幹細胞に由来するか判別することができる。具体的には、微小粒子のmiRNAパターンに基づいて、それぞれの微小粒子の由来を判別することができる。
【0031】
(miRNA)
本発明では、微小粒子がアミロイド前駆体タンパク質(APP)、β-セクレターゼ(BACE1)、NMDA活性化タンパク質、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)、およびポリグルタミン結合タンパク質-1(PQBP1)のうち少なくとも1種類のタンパク質の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含む。
本発明において、miRNA(MicroRNAs)は、例えば21~25塩基(ヌクレオチド)のRNA分子である。miRNAは、標的遺伝子(target;ターゲット)mRNAの分解または解読段階における抑制により遺伝子発現を調節できる。
本発明において、miRNAは、一本鎖(一量体)でもよいし、二本鎖(二量体)であってもよい。また、本発明において、miRNAは、Dicer等のリボヌクレアーゼにより切断された成熟型miRNAが好ましい。
【0032】
なお、hsa-miR-16-5pなどの本明細書に記載のmiRNAの配列は公知のデータベース(例えば、miRBase database)にアクセッション番号と関連づけられて登録されており、当業者であれば配列を一義的に定めることができる。例えば、hsa-miR-16-5pのアクセッション番号はMIMAT0000069であり、miRBase databaseに配列が登録されている。以下、各miRNAのアクセッション番号は省略する。
ただし、本明細書におけるmiRNAは、hsa-miR-16-5pなどの成熟型miRNAに対して1~5個程度の塩基が異なるバリアントも含む。また、本明細書における各miRNAは、各miRNA(例えばhsa-miR-16-5p)の塩基配列と同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、それらの相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、本発明におけるmiRNAの機能を有するポリヌクレオチドを含む。「同一性」とは、比較する配列同士を適切にアライメントしたときの同一の程度であ
り、前記配列間のアミノ酸の正確な一致の出現率(%)を意味する。アライメントは、例えば、BLAST等の任意のアルゴリズムの利用により行うことができる。同一性は、例えば、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または約99%である。同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドは、例えば、miRNAの塩基配列において、点変異、欠失および/または付加を有してもよい。前記点変異等の塩基数は、例えば、1~5個、1~3個、1~2個、または1個である。また、相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドは、例えば、miRNAの塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、本発明におけるmiRNAの機能を有するポリヌクレオチドを含む。ストリンジェントな条件としては、特に限定されないが、例えば、特開2017-184642号公報の[0028]に記載の条件を挙げることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0033】
本発明では、微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清よりも高い濃度で、APP、BACE1、NMDA活性化タンパク質、GSK-3β、およびPQBP1のうち少なくとも1種類のタンパク質の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含むことが好ましい。
以下、微小粒子が含むmiRNAの好ましい態様を説明する。
【0034】
(1)APPの発現抑制剤
本発明の遺伝子の発現制御剤はAPPの発現抑制剤であることが好ましい。この場合、微小粒子がAPPの発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含むことが好ましい。
本発明では、微小粒子が下記APP抑制関連miRNA群(63種類)のうち少なくとも1種類を含むことがより好ましい;
APP抑制関連miRNA群:
hsa-miR-101-3p、hsa-miR-106b-5p、hsa-miR-1229-5p、hsa-miR-1238-3p、hsa-miR-1260b、
hsa-miR-1276、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-144-3p、
hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-153-3p、hsa-miR-15a-5p、hsa-miR-15b-5p、hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-17-5p、hsa-miR-185-5p、hsa-miR-186-5p、hsa-miR-194-5p、hsa-miR-195-5p、
hsa-miR-196a-5p、hsa-miR-203a-3p、hsa-miR-20a-5p、hsa-miR-222-3p、hsa-miR-298、
hsa-miR-31-5p、hsa-miR-3120-3p、hsa-miR-3132、hsa-miR-323a-3p、hsa-miR-324-5p、
hsa-miR-328-3p、hsa-miR-3620-3p、hsa-miR-3646、hsa-miR-369-3p、hsa-miR-373-3p、
hsa-miR-374c-5p、hsa-miR-381-3p、hsa-miR-382-5p、hsa-miR-383-5p、hsa-miR-411-3p、
hsa-miR-423-3p、hsa-miR-424-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-4484、hsa-miR-455-3p、
hsa-miR-4786-5p、hsa-miR-484、hsa-miR-490-5p、hsa-miR-497-5p、hsa-miR-500a-5p、
hsa-miR-5093、hsa-miR-532-3p、hsa-miR-532-5p、hsa-miR-539-3p、hsa-miR-548f-3p、
hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-5584-5p、hsa-miR-567、hsa-miR-5696、hsa-miR-582-5p、
hsa-miR-6073、hsa-miR-873-5p、hsa-miR-93-5p。
【0035】
微小粒子がAPP抑制関連miRNA群のうち5種類以上を含むことが好ましく、10種類以上を含むことがより好ましく、20種類以上を含むことが特に好ましく、30種類以上を含むことがより特に好ましい。
【0036】
微小粒子がAPP抑制関連miRNA群のうち、hsa-miR-101-3p、hsa-miR-153-3p、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-222-3pおよびhsa-miR-93-5pのうちいずれか1種類を含むことが好ましく、hsa-miR-16-5pを少なくとも含むことが特に好ましい。
微小粒子は、APP抑制関連miRNA群のうち少なくとも1種類を、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、4.0以上含むことが好ましく、10.0以上含むことがより好ましく、15.0以上含むことが特に好ましい。微小粒子は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、hsa-miR-101-3p、hsa-miR-153-3p、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-222-3pおよびhsa-miR-93-5pをいずれも4.0以上含むことが好ましく、hsa-miR-101-3p、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-222-3pおよびhsa-miR-93-5pをいずれも10.0以上含むことがより好ましく、hsa-miR-16-5pを15.0以上含むことが特に好ましい。
【0037】
なお、APP抑制関連miRNA群に含まれるhsa-miR-16-5pは、BACE1の発現に関する遺伝子の阻害剤およびGSK-3βの発現に関する遺伝子の阻害剤でもある。すなわち、本発明では、微小粒子が、APPの発現に関する遺伝子の発現抑制剤、BACE1の発現に関する遺伝子の阻害剤およびGSK-3βの発現に関する遺伝子の阻害剤のうち少なくとも1種類であり、かつhsa-miR-16-5pを含むことが好ましい。
さらに微小粒子が、APPの発現に関する遺伝子の発現抑制剤、BACE1の発現に関する遺伝子の阻害剤およびGSK-3βの発現に関する遺伝子の阻害剤であり、かつhsa-miR-16-5pを含むことがより好ましい。
【0038】
本発明の遺伝子の発現制御剤は、脂肪由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームまたは臍帯由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームと比較して、hsa-miR-16-5pの発現量が1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが特に好ましい。
【0039】
本発明の遺伝子の発現制御剤がAPP遺伝子の発現抑制剤である場合、任意の細胞内におけるAPP遺伝子の発現を通常の(未処理の細胞の場合の)0.8倍以下に抑制できることが好ましく、0.6倍以下に抑制できることがより好ましく、0.4倍以下に抑制できることが特に好ましい。
【0040】
(2)BACE1の阻害剤
本発明の遺伝子の発現制御剤はBACE1の阻害剤であることが好ましい。この場合、微小粒子がBACE1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含むことが好ましい。
本発明では、微小粒子が下記BACE1阻害関連miRNA群(50種類)のうち少なくとも1種類を含むことがより好ましい。
BACE1阻害関連miRNA群:
hsa-miR-107、hsa-miR-124-3p、hsa-miR-1267、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-129-2-3p、
hsa-miR-140-3p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-141-3p、hsa-miR-15a-5p、hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-17-5p、hsa-miR-195-5p、hsa-miR-200a-3p、hsa-miR-203a-3p、hsa-miR-212-3p、
hsa-miR-212-5p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26b-5p、hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-298、
hsa-miR-299-3p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-328-3p、
hsa-miR-339-5p、hsa-miR-340-5p、hsa-miR-369-3p、hsa-miR-374a-5p、hsa-miR-374b-5p、
hsa-miR-374c-5p、hsa-miR-382-5p、hsa-miR-421、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-455-3p、
hsa-miR-497-5p、hsa-miR-505-3p、hsa-miR-532-5p、hsa-miR-7-5p、hsa-miR-874-3p、
hsa-miR-9-5p。
【0041】
微小粒子がBACE1阻害関連miRNA群のうち5種類以上を含むことが好ましく、10種類以上を含むことがより好ましく、20種類以上を含むことが特に好ましく、30種類以上を含むことがより特に好ましい。
【0042】
微小粒子がBACE1阻害関連miRNA群のうち、hsa-miR-101-3p、hsa-miR-16-5pおよびhsa-miR-29a-3pのうちいずれか1種類を含むことが好ましく、hsa-miR-16-5pを少なくとも含むことが特に好ましい。
微小粒子は、BACE1阻害関連miRNA群のうち少なくとも1種類を、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、4.0以上含むことが好ましく、10.0以上含むことがより好ましく、15.0以上含むことが特に好ましい。微小粒子は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、hsa-miR-101-3p、hsa-miR-16-5pおよびhsa-miR-29a-3pをいずれも4.0以上含むことが好ましく、hsa-miR-101-3p、hsa-miR-16-5pおよびhsa-miR-29a-3pをいずれも10.0以上含むことがより好ましく、hsa-miR-16-5pを15.0以上含むことが特に好ましい。
【0043】
本発明の遺伝子の発現制御剤がBACE1遺伝子の発現抑制剤である場合、任意の細胞内におけるBACE1遺伝子の発現を通常の(未処理の細胞の場合の)0.8倍以下に抑制できることが好ましく、0.75倍以下に抑制できることがより好ましく、0.7倍以下に抑制できることが特に好ましい。
【0044】
(3)NMDA活性化遺伝子の発現抑制剤
本発明の遺伝子の発現制御剤はNMDA活性化遺伝子の発現抑制剤であることが好ましい。この場合、NMDA活性化タンパク質がDLG1、CAMK2D、CAMK2AおよびCAPN1のうち少なくとも1種類のタンパク質であり、微小粒子がDLG1、CAMK2D、CAMK2AおよびCAPN1のうち少なくとも1種類のタンパク質発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含むことが好ましい。
本発明では、微小粒子が下記DLG1抑制関連miRNA群、下記CAMK2D抑制関連miRNA群、下記CAMK2A抑制関連miRNA群、および下記CAPN1抑制関連miRNA群のうち少なくとも1種類のmiRNA群を含むことがより好ましい(合計51種類)。
DLG1抑制関連miRNA群:
hsa-miR-1-3p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-204-5p、hsa-miR-206、hsa-miR-21-5p、
hsa-miR-218-5p、hsa-miR-340-5p、hsa-miR-613。
CAMK2D抑制関連miRNA群:
hsa-let-7a-5p、hsa-miR-101-3p、hsa-miR-129-5p、hsa-miR-139-5p、hsa-miR-144-3p、
hsa-miR-145-5p、hsa-miR-185-5p、hsa-miR-203a-3p、hsa-miR-204-5p、hsa-miR-211-5p、
hsa-miR-24-3p、hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-30a-3p、hsa-miR-31-5p、hsa-miR-361-5p、
hsa-miR-421、hsa-miR-484、hsa-miR-494-3p、hsa-miR-505-3p、hsa-miR-7-5p。
CAMK2A抑制関連miRNA群:
hsa-miR-129-5p、hsa-miR-137、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-148a-3p、hsa-miR-149-3p、
hsa-miR-152-3p、hsa-miR-25-3p、hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-32-5p、hsa-miR-338-3p、
hsa-miR-340-5p、hsa-miR-363-3p、hsa-miR-3665、hsa-miR-4534、hsa-miR-4665-5p、
hsa-miR-4688、hsa-miR-485-5p、hsa-miR-5010-5p、hsa-miR-505-5p、hsa-miR-5698、
hsa-miR-625-5p、hsa-miR-92a-3p。
CAPN1抑制関連miRNA群:
hsa-miR-1-3p、hsa-miR-124-3p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-17-3p、hsa-miR-22-3p、
hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-6511b-5p。
【0045】
微小粒子がDLG1抑制関連miRNA群、CAMK2D抑制関連miRNA群、CAMK2A抑制関連miRNA群、およびCAPN1抑制関連miRNA群のうち5種類以上を含むことが好ましく、10種類以上を含むことがより好ましく、20種類以上を含むことが特に好ましく、30種類以上を含むことがより特に好ましい。
【0046】
微小粒子が、
DLG1抑制関連miRNA群のうちhsa-miR-21-5p、
CAMK2D抑制関連miRNA群のうちhsa-let-7a-5p、
CAMK2A抑制関連miRNA群のうちhsa-miR-92a-3p、
CAPN1抑制関連miRNA群のうちhsa-miR-22-3pをいずれも含むことが特に好ましい。
微小粒子は、DLG1抑制関連miRNA群、CAMK2D抑制関連miRNA群、CAMK2A抑制関連miRNA群、およびCAPN1抑制関連miRNA群のうち少なくとも1種類を、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、4.0以上含むことが好ましく、10.0以上含むことがより好ましく、15.0以上含むことが特に好ましい。微小粒子は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、hsa-miR-21-5p、hsa-let-7a-5p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-22-3pをいずれも4.0以上含むことが好ましく、hsa-miR-21-5p、hsa-let-7a-5p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-22-3pをいずれも10.0以上含むことがより好ましく、hsa-miR-21-5p、hsa-let-7a-5p、hsa-miR-92a-3pを15.0以上含むことが特に好ましい。
【0047】
本発明の遺伝子の発現制御剤は、脂肪由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームまたは臍帯由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームと比較して、hsa-miR-21-5pの発現量が1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが特に好ましく、5倍以上であることがより特に好ましい。
本発明の遺伝子の発現制御剤は、脂肪由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームと比較して、hsa-let-7a-5pの発現量が1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。また、本発明の遺伝子の発現制御剤は、臍帯由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームと比較して、hsa-let-7a-5pの発現量が1.0倍を超えることが好ましく、1.05倍以上であることがより好ましい。
本発明の遺伝子の発現制御剤は、脂肪由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームまたは臍帯由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームと比較して、hsa-miR-92a-3pの発現量が1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが特に好ましく、4倍以上であることがより特に好ましい。
本発明の遺伝子の発現制御剤は、脂肪由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームまたは臍帯由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームと比較して、hsa-miR-22-3pの発現量が1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが特に好ましい。
【0048】
本発明の遺伝子の発現制御剤がNMDA活性化遺伝子(好ましくはCAMK2D遺伝子)の発現抑制剤である場合、任意の細胞内におけるNMDA活性化遺伝子の発現を通常の(未処理の細胞の場合の)0.8倍以下に抑制できることが好ましく、0.5倍以下に抑制できることがより好ましく、0.3倍以下に抑制できることが特に好ましい。
【0049】
(4)GSK-3βの阻害剤
本発明の遺伝子の発現制御剤はGSK-3βの阻害剤であることが好ましい。この場合、微小粒子がGSK-3βの発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含むことが好ましい。
微小粒子が下記GSK-3β阻害関連miRNA群(54種類)のうち少なくとも1種類を含むことがより好ましい。
GSK-3β阻害関連miRNA群:
hsa-let-7a-3p、hsa-let-7b-3p、hsa-let-7f-1-3p、hsa-let-7f-2-3p、hsa-miR-101-3p、
hsa-miR-1185-1-3p、hsa-miR-1185-2-3p、hsa-miR-124-3p、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-129-5p、
hsa-miR-132-3p、hsa-miR-137、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-144-3p、
hsa-miR-150-5p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-15a-5p、hsa-miR-15b-5p、hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-1910-5p、hsa-miR-195-5p、hsa-miR-199a-5p、hsa-miR-212-3p、hsa-miR-218-5p、
hsa-miR-219a-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26a-5p、hsa-miR-26b-5p、
hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-28-5p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-346、
hsa-miR-369-3p、hsa-miR-374a-5p、hsa-miR-374b-5p、hsa-miR-374c-5p、hsa-miR-377-3p、
hsa-miR-409-3p、hsa-miR-409-5p、hsa-miR-410-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-425-5p、
hsa-miR-4465、hsa-miR-497-5p、hsa-miR-582-5p、hsa-miR-6083、hsa-miR-708-5p、
hsa-miR-9-5p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-96-5p、hsa-miR-98-3p。
【0050】
微小粒子がGSK-3β阻害関連miRNA群のうち5種類以上を含むことが好ましく、10種類以上を含むことがより好ましく、20種類以上を含むことが特に好ましく、30種類以上を含むことがより特に好ましい。
【0051】
微小粒子がGSK-3β阻害関連miRNA群のうち、hsa-miR-16-5pおよびhsa-miR-29a-3pのうちいずれか1種類を含むことが好ましく、hsa-miR-16-5pを少なくとも含むことが特に好ましい。
微小粒子は、GSK-3β阻害関連miRNA群のうち少なくとも1種類を、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、4.0以上含むことが好ましく、10.0以上含むことがより好ましく、15.0以上含むことが特に好ましい。微小粒子は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、hsa-miR-16-5pおよびhsa-miR-29a-3pをいずれも4.0以上含むことが好ましく、hsa-miR-16-5pおよびhsa-miR-29a-3pをいずれも10.0以上含むことがより好ましく、hsa-miR-16-5pを15.0以上含むことが特に好ましい。
【0052】
本発明の遺伝子の発現制御剤がGSK-3β遺伝子の阻害剤である場合、任意の細胞内におけるGSK-3β遺伝子の発現を通常の(未処理の細胞の場合の)0.8倍以下に抑制できることが好ましく、0.75倍以下に抑制できることがより好ましく、0.7倍以下に抑制できることが特に好ましい。
【0053】
(5)PQBP1の発現抑制剤
本発明の遺伝子の発現制御剤はPQBP1の発現抑制剤であることが好ましい。この場合、微小粒子がPQBP1の発現に関する遺伝子を標的遺伝子とするmiRNAを含むことがより好ましい。Nature Communications volume 12, Article number: 6565 (2021)に示されているようにタウの活性化に関与するPQBP1を抑制するmiRNAはタウ疾患(アルツハイマー病や脳炎症)の治療に役立つ可能性がある。
【0054】
微小粒子が下記PQBP1抑制関連miRNA群のうち少なくとも1種類を含むことが特に好ましく、2種類とも含むことがより特に好ましい。
PQBP1抑制関連miRNA群:hsa-miR-6727-3p、hsa-miR-6727-5p。
微小粒子が、PQBP1抑制関連miRNA群のうち、hsa-miR-6727-3pを少なくとも含むことがより好ましく、hsa-miR-6727-3pおよびhsa-miR-6727-5pをいずれも含むことが特に好ましい。
微小粒子は、PQBP1抑制関連miRNA群のうち少なくとも1種類を、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、1.0以上含むことが好ましく、2.0以上含むことがより好ましく、3.0以上含むことが特に好ましい。微小粒子は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、hsa-miR-6727-3pおよびhsa-miR-6727-5pをいずれも2.0以上含むことが好ましく、hsa-miR-6727-3pおよびhsa-miR-6727-5pをいずれも3.0以上含むことがより好ましく、hsa-miR-6727-3pを4.0以上含むことが特に好ましい。
【0055】
本発明の遺伝子の発現制御剤は、脂肪由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームまたは臍帯由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームと比較して、hsa-miR-6727-3pの発現量が1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが特に好ましい。
【0056】
本発明の遺伝子の発現制御剤がPQBP1遺伝子の発言抑制剤である場合、任意の細胞内におけるPQBP1遺伝子の発現を通常の(未処理の細胞の場合の)0.8倍以下に抑制できることが好ましく、0.6倍以下に抑制できることがより好ましく、0.55倍以下に抑制できることが特に好ましい。
【0057】
(miRNAの種類)
ここで、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子には、約2600種類のsmall RNAが含まれる。このうちの約1800種類がmiRNAである。これらのmiRNAのうち、含有量が多いmiRNAは180~200種類である。歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子における含有量が多いmiRNAは、脳神経疾患や眼疾患に治療に関連するマイクロRNAが多い点が特徴であり、従来知られておらず、本発明者が新たに見出した知見である。この特徴は、その他の間葉系幹細胞の微小粒子における含有量が多いmiRNAの種類とは大きく異なる。例えば、脂肪由来幹細胞の微小粒子や臍帯由来幹細胞の微小粒子における含有量が多いmiRNAには、脳神経疾患や眼疾患に治療に関連するマイクロRNAはほとんど含まれない。
【0058】
歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子は、アルツハイマー病などのアミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症や脳炎症に関連するタンパク質の発現を制御できるマイクロRNA(以下、アルツハイマー関連マイクロRNAともいう)として5種類以上を含むことが好ましく、10種類以上を含むことがより好ましく、20種類以上を含むことが特に好ましく、30種類以上を含むことがより特に好ましく、100種類以上含まれることが最も好ましい。
【0059】
(微小粒子の種類)
微小粒子は、エクソソーム(exosome)、微小胞、膜粒子、膜小胞、エクトソーム(Ectosome)およびエキソベシクル(exovesicle)、またはマイクロベシクル(microvesicle)からなる群から選択される少なくとも1種類であることが好ましく、エクソソームであることがより好ましい。
微小粒子の直径は、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
また、微小粒子の表面には、CD9、CD63、CD81などのテトラスパニンという分子が存在することが望ましく、それはCD9単独、CD63単独、CD81単独でもよく、あるいはそれらの2つないしは3つのどの組み合わせでも良い。
以下、微小粒子として、エクソソームを用いる場合の好ましい態様を説明することがあるが、本発明に用いられる微小粒子はエクソソームに限定されない。
【0060】
エクソソームは、原形質膜との多胞体の融合時に細胞から放出される細胞外小胞であることが好ましい。
エクソソームの表面は、歯髄由来幹細胞の細胞膜由来の脂質およびタンパク質を含むことが好ましい。
エクソソームの内部には、核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)およびタンパク質など歯髄由来幹細胞の細胞内の物質を含むことが好ましい。
エクソソームは、ある細胞から別の細胞への遺伝情報の輸送による、細胞と細胞とのコミュニケーションのために使用されることが知られている。エクソソームは、容易に追跡可能であり、特異的な領域に標的化され得る。
【0061】
(微小粒子の含有量)
本発明の遺伝子の発現制御剤は、微小粒子の含有量は特に制限はない。本発明の遺伝子の発現制御剤は、微小粒子を0.5×10個以上含むことが好ましく、1.0×10個以上含むことがより好ましく、2.0×10個以上含むことが特に好ましく、2.5×10個以上含むことがより特に好ましく、1.0×10個以上含むことがさらにより特に好ましい。
また、本発明の遺伝子の発現制御剤は、微小粒子の含有濃度は特に制限はない。本発明の遺伝子の発現制御剤は微小粒子を1.0×10個/mL以上含むことが好ましく、2.0×10個/mL以上含むことがより好ましく、4.0×10個/mL以上含むことが特に好ましく、5.0×10個/mL以上含むことがより特に好ましく、2.0×10個/mL以上含むことがさらにより特に好ましい。
本発明の遺伝子の発現制御剤の好ましい態様は、微小粒子をこのように多量または高濃度で含むことにより、miRNAなどの量を高く維持でき、アミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症や脳炎症に関連するタンパク質の発現を制御(特に抑制)できる。
【0062】
<その他の成分>
本発明の遺伝子の発現制御剤は、微小粒子の他に、投与する対象の動物の種類や目的に応じて、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、栄養成分、抗生物質、サイトカイン、保護剤、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤などを挙げられる。
栄養成分としては、例えば、脂肪酸等、ビタミン等を挙げることができる。
抗生物質としては、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等が挙げられる。
担体としては、薬学的に許容可能な担体として公知の材料を挙げることができる。
本発明の遺伝子の発現制御剤は、歯髄由来幹細胞の培養上清それ自体または微小粒子それ自体であってもよく、薬学的に許容可能な担体や賦形剤などをさらに含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物の目的は、投与対象への歯髄由来幹細胞の培養上清や微小粒子の投与を促進することである。
【0063】
薬学的に許容可能な担体は、投与対象に対して顕著な刺激性を引き起こさず、投与される化合物の生物学的活性および特性を抑止しない担体(希釈剤を含む)であることが好ましい。担体の例は、プロピレングリコール;(生理)食塩水;エマルション;緩衝液;培地、例えばDMEMまたはRPMIなど;フリーラジカルを除去する成分を含有する低温保存培地である。
【0064】
本発明の遺伝子の発現制御剤は、従来公知の遺伝子の発現制御剤の有効成分を含んでいてもよい。当業者であれば用途や投与対象などにあわせて適切に変更することができる。
【0065】
一方、本発明の遺伝子の発現制御剤は、所定の物質を含まないことが好ましい。
例えば、本発明の遺伝子の発現制御剤は、歯髄由来幹細胞を含まないことが好ましい。
また、本発明の遺伝子の発現制御剤は、MCP-1を含まないことが好ましい。ただし、MCP-1以外のサイトカインを含んでいてもよい。その他のサイトカインとしては、特開2018-023343号公報の[0014]~[0020]に記載のもの等が挙げられる。
また、本発明の遺伝子の発現制御剤は、シグレック9を含まないことが好ましい。ただし、シグレック9以外のその他のシアル酸結合免疫グロブリン様レクチンを含んでいてもよい。
なお、本発明の遺伝子の発現制御剤は、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)を実質的に含まないことが好ましい。また、本発明の遺伝子の発現制御剤は、Knockout serum replacement(KSR)などの従来の血清代替物を実質的に含まないことが好ましい。
本発明の遺伝子の発現制御剤は、上記したその他の成分の含有量(固形分量)がいずれも1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0066】
<遺伝子の発現制御剤の製造方法>
本発明の遺伝子の発現制御剤の製造方法は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞等の培養上清を調製し、続けて歯髄由来幹細胞の培養上清から微小粒子を精製して、本発明の遺伝子の発現制御剤を調製してもよい。あるいは、商業的に購入して入手した歯髄由来幹細胞の培養上清から微小粒子を精製して、本発明の遺伝子の発現制御剤を調製してもよい。さらには、廃棄処理されていた歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物を譲り受けて(またはその組成物を適宜精製して)、そこから微小粒子を精製して、本発明の遺伝子の発現制御剤を調製してもよい。
【0067】
(歯髄由来幹細胞等の培養上清の調製方法)
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清を実質的に含まないことが好ましい。例えば、歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清の含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0068】
歯髄由来幹細胞は、ヒト由来であっても、ヒト以外の動物由来であってもよい。ヒト以外の動物としては、後述する本発明の遺伝子の発現制御剤投与する対象の動物(生物種)と同様のものを挙げることができ、哺乳動物が好ましい。
【0069】
培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞としては、特に制限はない。脱落乳歯歯髄幹細胞(stem cells from exfoliated deciduous teeth)や、その他の方法で入手される乳歯歯髄幹細胞や、永久歯歯髄幹細胞(dental pulp stem cells;DPSC)を用いることができる。ヒト乳歯歯髄幹細胞やヒト永久歯歯髄幹細胞の他、ブタ乳歯歯髄幹細胞などのヒト以外の動物由来の歯髄由来幹細胞を用いることができる。
歯髄由来幹細胞は、エクソソームに加え、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子-ベータ(TGF-β)-1および-3、TGF-α、KGF、HBEGF、SPARC、その他の成長因子、ケモカイン等の種々のサイトカインを産生し得る。また、その他の多くの生理活性物質を産生し得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞が、多くのタンパク質が含まれる歯髄由来幹細胞であることが特に好ましく、乳歯歯髄幹細胞を用いることが好ましい。すなわち、本発明では、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を用いることが好ましい。
【0070】
本発明に用いられる歯髄由来幹細胞は、目的の処置を達成することができれば、天然のものであってもよく、遺伝子改変したものであってもよい。
特に本発明では、歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞を用いることができる。実質的に無限増殖が可能な不死化幹細胞を用いることで、幹細胞の培養上清中に含まれる生体因子の量と組成を、長期間にわたって安定させることができる。歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞としては、特に制限はない。不死化幹細胞は、癌化していない不死化幹細胞であることが好ましい。歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞は、歯髄由来幹細胞に、以下の低分子化合物(阻害剤)を単独または組み合わせて添加して培養することにより、調製することができる。
TGFβ受容体阻害薬としては、トランスフォーミング増殖因子(TGF)β受容体の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、2-[(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イルアミン(SD-208)、3-[(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(以上、メルク社)、SB431542(シグマアルドリッチ社)などが挙げられる。好ましくはA-83-01が挙げられる。
ROCK阻害薬としては、Rho結合キナーゼの機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されない。ROCK阻害薬としては、例えば、GSK269962A(Axonmedchem社)、Fasudil hydrochloride(Tocris Bioscience社)、Y-27632、H-1152(以上、富士フイルム和光純薬株式会社)などが挙げられる。好ましくはY-27632が挙げられる。
GSK3阻害薬としては、GSK-3(Glycogen synthase kinase 3,グリコーゲン合成酵素3)を阻害するものであれば特に限定されることはなく、A 1070722、BIO、BIO-acetoxime(以上、TOCRIS社)などが挙げられる。
MEK阻害薬としては、MEK(MAP kinase-ERK kinase)の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、AZD6244、CI-1040(PD184352)、PD0325901、RDEA119(BAY86-9766)、SL327、U0126-EtOH(以上、Selleck社)、PD98059、U0124、U0125(以上、コスモ・バイオ株式会社)などが挙げられる。
【0071】
本発明の遺伝子の発現制御剤を再生医療に用いる場合、再生医療等安全性確保法の要請から、歯髄由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清や、それに由来する微小粒子を含む組成物は、歯髄由来幹細胞等以外のその他の体性幹細胞を含有しない態様とする。本発明の遺伝子の発現制御剤は、歯髄由来幹細胞等以外の間葉系幹細胞やその他の体性幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。
間葉系幹細胞以外のその他の体性幹細胞の例としては、真皮系、消化系、骨髄系、神経系等に由来する幹細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。真皮系の体性幹細胞の例としては、上皮幹細胞、毛包幹細胞等が含まれる。消化系の体性幹細胞の例としては膵臓(全般の)幹細胞、肝幹細胞等が含まれる。(間葉系幹細胞以外の)骨髄系の体性幹細胞の例としては、造血幹細胞等が含まれる。神経系の体性幹細胞の例としては、神経幹細胞、網膜幹細胞等が含まれる。
本発明の遺伝子の発現制御剤は、体性幹細胞以外の幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。体性幹細胞以外の幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性癌腫細胞(EC細胞)が含まれる。
【0072】
歯髄由来幹細胞またはこの不死化幹細胞の培養上清の調製方法としては特に制限はなく、従来の方法を用いることができる。
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、歯髄由来幹細胞を培養して得られる培養液である。例えば歯髄由来幹細胞の培養後に細胞成分を分離除去することによって、本発明に使用可能な培養上清を得ることができる。各種処理(例えば、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩、保存等)を適宜施した培養上清を用いることにしてもよい。
【0073】
歯髄由来幹細胞の培養上清を得るための歯髄由来幹細胞は、常法により選別可能であり、細胞の大きさや形態に基づいて、または接着性細胞として選別可能である。脱落した乳歯や永久歯から採取した歯髄細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。歯髄由来幹細胞の培養上清には、選別された幹細胞を培養して得られた培養上清を用いることができる。
【0074】
なお、「歯髄由来幹細胞等の培養上清」は、歯髄由来幹細胞等を培養して得られる細胞そのものを含まない培養液であることが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、その一態様では全体としても細胞(細胞の種類は問わない)を含まないことが好ましい。当該態様の組成物はこの特徴によって、歯髄由来幹細胞自体は当然のこと、歯髄由来幹細胞を含む各種組成物と明確に区別される。この態様の典型例は、歯髄由来幹細胞を含まず、歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物である。
本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞および大人歯髄由来幹細胞の両方の培養上清を含んでいてもよい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清を有効成分として含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物であることがより特に好ましい。
【0075】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞の培養液には基本培地、或いは基本培地に血清等を添加したもの等を使用可能である。なお、基本培地としてはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社、GIBCO社等)、RPMI1640培地等を用いることができる。また、培地に添加可能な成分の例として、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、ウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
但し、血清を含まない「歯髄由来幹細胞の培養上清」を調製するためには、全過程を通して或いは最後または最後から数回の継代培養についは無血清培地を使用するとよい。例えば、血清を含まない培地(無血清培地)で歯髄由来幹細胞を培養することによって、血清を含まない歯髄由来幹細胞の培養上清を調製することができる。1回または複数回の継代培養を行うことにし、最後または最後から数回の継代培養を無血清培地で培養することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞等の培養上清を得ることができる。一方、回収した培養上清から、透析やカラムによる溶媒置換などを利用して血清を除去することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞の培養上清を得ることができる。
【0076】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞の培養には、通常用いられる条件をそのまま適用することができる。歯髄由来幹細胞の培養上清の調製方法については、幹細胞の種類に応じて幹細胞の単離および選抜工程を適宜調整する以外は、後述する細胞培養方法と同様とすればよい。歯髄由来幹細胞の種類に応じた歯髄由来幹細胞の単離および選抜は、当業者であれば適宜行うことができる。
また、歯髄由来幹細胞の培養には、エクソソームなどの微小粒子を多量に生産させるために、特別な条件を適用してもよい。特別な条件として、例えば、低温条件、低酸素条件、微重力条件など、何らかの刺激物と共培養する条件などを挙げることができる。
【0077】
本発明でエクソソームなどの微小粒子の調製に用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、歯髄由来幹細胞の培養上清の他にその他の成分を含んでいてもよいが、その他の成分を実質的に含まないことが好ましい。
ただし、エクソソームの調製に使用する各種類の添加剤を、歯髄由来幹細胞の培養上清に添加してから保存しておいてもよい。
【0078】
(微小粒子の調製方法)
歯髄由来幹細胞等の培養上清から、微小粒子を精製して、微小粒子を調製することができる。
【0079】
微小粒子の精製は、歯髄由来幹細胞の培養上清から微小粒子を含む画分の分離であることが好ましく、微小粒子の単離であることがより好ましい。
微小粒子は、微小粒子の特性に基づいて非会合成分から分離されることにより、単離され得る。例えば、微小粒子は、分子量、サイズ、形態、組成または生物学的活性に基づいて単離され得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清を遠心処理して得られた、微小粒子を多く含む特定の画分(例えば沈殿物)を分取することにより、微小粒子を精製することができる。所定の画分以外の画分の不要成分(不溶成分)は除去してもよい。本発明の遺伝子の発現制御剤からの、溶媒および分散媒、ならびに不要成分の除去は完全な除去でなくてもよい。遠心処理の条件を例示すると、100~20000gで、1~30分間である。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清またはその遠心処理物を、ろ過処理することにより、微小粒子を精製することができる。ろ過処理によって不要成分を除去することができる。また、適切な孔径のろ過膜を使用すれば、不要成分の除去と滅菌処理を同時に行うことができる。ろ過処理に使用するろ過膜の材質、孔径などは特に限定されない。公知の方法で、適切な分子量またはサイズカットオフのろ過膜でろ過をすることができる。ろ過膜の孔径はエクソソームを分取しやすい観点から、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清またはその遠心処理物あるいはそれらのろ過処理物を、ラムクロマトグラフィーなど、さらなる分離手段を用いて分離することができる。例えば様々なカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用できる。カラムは、サイズ排除カラムまたは結合カラムを使用できる。
各処理段階におけるそれぞれの画分中で、微小粒子(またはその活性)を追跡するために、微小粒子の1つ以上の特性または生物学的活性を使用できる。例えば、微小粒子を追跡するために、光散乱、屈折率、動的光散乱またはUV-可視光検出器を使用できる。または、それぞれの画分中の活性を追跡するために、特定の酵素活性などを使用できる。
微小粒子の精製方法として、特表2019-524824号公報の[0034]~[0064]に記載の方法を用いてもよく、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0080】
本発明の遺伝子の発現制御剤の最終的な形態は、特に制限はない。例えば、本発明の遺伝子の発現制御剤は、微小粒子を溶媒または分散媒とともに容器に充填してなる形態;微小粒子をゲルとともにゲル化して容器に充填してなる形態;微小粒子を凍結および/または乾燥して固形化して製剤化または容器に充填してなる形態などが挙げられる。容器としては、例えば凍結保存に適したチューブ、遠沈管、バッグなどが挙げられる。凍結温度は、例えば-20℃~-196℃とすることができる。
【0081】
本発明の遺伝子の発現制御剤は、従来の遺伝子の発現制御剤として用いることができる組成物と比較して、大量生産しやすい、従来は産業廃棄物等として廃棄されていた幹細胞の培養液を利活用できる、幹細胞の培養液の廃棄コストを減らせる等の利点がある。特に歯髄由来幹細胞の培養上清が、ヒト歯髄由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の遺伝子の発現制御剤をヒトに対して適用する場合に、免疫学上などの観点での安全性が高く、倫理性の問題も少ないという利点もある。歯髄由来幹細胞の培養上清が、認知症の患者からの歯髄由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の遺伝子の発現制御剤をその患者に対して適用する際により安全性が高まり、倫理性の問題も少なくなるであろう。
本発明の遺伝子の発現制御剤が、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する場合、修復医療の用途にも用いられる。特に歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子を含む組成物は、修復医療の用途に好ましく用いられる。ここで、幹細胞移植を前提とした再生医療において、幹細胞は再生の主役ではなく、幹細胞の産生する液性成分が自己の幹細胞とともに臓器を修復させる、ということが知られている。従来の幹細胞移植に伴うがん化、規格化、投与方法、保存性、培養方法などの困難な問題が解決され、歯髄由来幹細胞の培養上清またはそれに由来する微小粒子を用いた組成物により修復医療が可能となる。幹細胞移植と比較すると、本発明の遺伝子の発現制御剤を用いた場合は細胞を移植しないために腫瘍化などが起こりにくく、より安全と言えるだろう。また、本発明の遺伝子の発現制御剤は一定に規格化した品質のものを使用できる利点がある。大量生産や効率的な投与方法を選択することができるので、低コストで利用ができる。
【0082】
[認知症の改善方法]
本発明の認知症の改善方法は、有効量の本発明の遺伝子の発現制御剤を、認知症を発症した対象に投与することを含む。
【0083】
本発明の遺伝子の発現制御剤を、認知症を発症した対象に投与する工程は特に制限はない。
投与方法は、口腔、鼻腔または気道への噴霧または吸引、点滴、局所投与、点鼻薬などを挙げることができ、侵襲が少ないことが好ましい。局所投与の方法としては、注射が好ましい。また、皮膚表面に電圧(電気パルス)をかけることにより細胞膜に一時的に微細な穴をあけ、通常のケアでは届かない真皮層まで有効成分を浸透させられるエレクトロポレーションも好ましい。局所投与する場合、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与などを挙げることができ、動脈内投与、静脈内投与、皮下投与または腹腔内投与であることがより好ましい。
また、種々の製剤化技法を用い、遺伝子の発現制御剤のインビボ分布を変えることができる。インビボ分布を変える多数の方法が当業者に既知である。そのような方法の例には、たとえば、タンパク質、脂質(たとえば、リポソーム)、炭水化物または合成ポリマーのような物質で構成される小胞におけるエクソソームの保護が挙げられる。
認知症を発症した対象に投与された本発明の遺伝子の発現制御剤は対象の体内を循環し、所定の組織に到達してもよい。
投与回数および投与間隔は、特に制限はない。投与回数は1週間当たり1回以上とすることができ、5回以上であることが好ましく、6回以上であることがより好ましく、7回以上であることが特に好ましい。投与間隔は、1時間~1週間であることが好ましく、半日間~1週間であることがより好ましく、1日(毎日1回)であることが特に好ましい。ただし、投与対象の生物種や投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
本発明の遺伝子の発現制御剤は、遺伝子の発現制御剤を治療有効期間にわたって1週間に1回以上、認知症を発症した対象に投与する用途であることが好ましい。投与対象がヒトである場合は、1週間当たりの投与回数は多い方が好ましく、治療有効期間にわたって1週間に5回以上投与することが好ましく、毎日投与することが好ましい。
2.0×10個/mlの濃度の歯髄由来幹細胞の培養上清を用いる場合、マウスモデルでは、マウス1匹(約25g)当たり0.1~5mlであることが好ましく、0.3~3mlであることがより好ましく、0.5~1mlであることがより特に好ましい。
0.1×10個/μgの濃度の微小粒子を用いる場合、マウスモデルでは、マウス1匹(約25g)当たり1~50μgであることが好ましく、3~30μgであることがより好ましく、5~25μgであることがより特に好ましい。
その他の動物への体重当たりの投与量の好ましい範囲は、モデルマウスへの体重(約25g)当たりの投与量から比例関係を用いて計算することができる。ただし、投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
【0084】
本発明の遺伝子の発現制御剤を投与する対象の動物(生物種)は、特に制限はない。本発明の遺伝子の発現制御剤を投与する対象の動物は、哺乳動物、鳥類(ニワトリ、ウズラ、カモなど)、魚類(サケ、マス、マグロ、カツオなど)であることが好ましい。哺乳動物としては、ヒトであっても、非ヒト哺乳動物であってもよいが、ヒトであることが特に好ましい。非ヒト哺乳動物としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターであることがより好ましい。
【0085】
本発明の遺伝子の発現制御剤は、従来公知の遺伝子の発現制御剤と併用してもよい。また、本発明の遺伝子の発現制御剤は、従来公知のアミロイドβ関連またはタウ・タンパク質関連の認知症や脳炎症の治療薬や予防薬と併用してもよい。
【実施例
【0086】
以下に実施例と比較例または参考例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0087】
[実施例1]
<歯髄由来幹細胞の培養上清の調製>
DMEM/HamF12混合培地の代わりにDMEM培地を用い、その他は特許第6296622号の実施例6に記載の方法に準じて、ヒト乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製して、培養上清を分取した。初代培養ではウシ胎仔血清(FBS)を添加して培養し、継代培養では初代培養液を用いて培養した継代培養液の上清をFBSが含まれないように分取し、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製した。なお、DMEMはダルベッコ改変イーグル培地であり、F12はハムF12培地である。
【0088】
<エクソソームの調製>
得られた歯髄由来幹細胞の培養上清から、歯髄由来幹細胞のエクソソームを以下の超遠心法により、精製および回収した。
乳歯歯髄幹細胞の培養上清(100mL)を0.22マイクロメーターのポアサイズのフィルターで濾過したのち、その溶液を、60分間、4℃で100000×gで遠心分離した。上清をデカントし、エクソソーム濃縮ペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁した。再懸濁サンプルを、60分間100000×gで遠心分離した。再度ペレットを濃縮サンプルとして遠心チューブの底から回収した(およそ100μl)。タンパク濃度は、マイクロBSAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL)によって決定した。エクソソームを含む組成物(濃縮溶液)は、-80℃で保管した。
歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームを含む組成物を、実施例1の遺伝子の発現制御剤サンプルとした。
【0089】
実施例1の遺伝子の発現制御剤に含まれる微小粒子の平均粒径、濃度を評価した。
実施例1の遺伝子の発現制御剤に含まれる微小粒子の平均粒径は50~150nmであった。
実施例1の遺伝子の発現制御剤は1.0×10個/ml以上の高濃度エクソソーム溶液であり、具体的には2.0×10個/mlの高濃度エクソソーム溶液であった。
また、得られた実施例1の遺伝子の発現制御剤の成分を公知の方法で分析した。その結果、実施例1の遺伝子の発現制御剤は、歯髄由来幹細胞の幹細胞を含まず、MCP-1を含まず、シグレック9も含まないことがわかった。そのため、間葉系幹細胞の培養上清の有効成分であるMCP-1およびシグレック9ならびにこれらの類縁体とは異なる有効成分が、実施例1の遺伝子の発現制御剤の有効成分であることがわかった。
【0090】
[比較例1]
<脂肪由来幹細胞の培養上清の調製>
脂肪由来幹細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、脂肪由来幹細胞の培養上清を調製した。
脂肪由来幹細胞の培養上清を用いた以外は実施例1と同様にして、脂肪由来幹細胞のエクソソームを精製した。得られた脂肪由来幹細胞のエクソソームを比較例1の遺伝子の発現抑制剤とした。
【0091】
[比較例2]
<臍帯由来幹細胞の培養上清の調製>
臍帯由来幹細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、臍帯由来幹細胞の培養上清を調製した。
臍帯由来幹細胞の培養上清を用いた以外は実施例1と同様にして、臍帯由来幹細胞のエクソソームを精製した。得られた臍帯由来幹細胞のエクソソームを比較例2の遺伝子の発現抑制剤とした。
【0092】
[試験例1]:エクソソームで発現するマイクロRNA
実施例1の遺伝子の発現抑制剤に含まれるsmall RNAを次世代シーケンシング(NGS)解析により解析した。NGS解析により、実施例1の遺伝子の発現抑制剤(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)に含まれるmiRNAが1787個同定された。得られた結果を下記表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
[試験例2]:大脳皮質のmiRNAとの対比
マイクロRNAの解析にはIMOTA(Interactive Multi-Omics-Tissue Atlas)を用いた。
タンパクを制御するマイクロRNAをIMOTAで大脳皮質(Cerebral Cortex)を中心に検索した。IMOTAは、各組織や細胞におけるmiRNAやmRNA、タンパク質の相互作用や発現量について調べることができる対話型のマルチオミクスアトラスである(Nucleic Acids Research, Volume 46, Issue D1, 4 January 2018, Pages D770-D775, "IMOTA: an interactive multi-omics tissue atlas for the analysis of human miRNA-target interactions")。大脳皮質では、Omicのカウント数は、タンパク質が3071個、mRNAが14182個、miRNAが1124個であった。また、大脳皮質で発現率(Expression Rate)がHighのOmicのカウント数は、タンパク質が1119個、mRNAが1110個、miRNAが145個であった。
【0095】
大脳皮質で発現している1124個のmiRNAと、歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソーム(実施例1の遺伝子の発現制御剤;SGF exosome)で発現しているmiRNA1787個の間で、共通に発現しているmiRNAは859個であった。すなわち、実施例1の遺伝子の発現抑制剤(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)で発現しているmiRNAのうち、大脳皮質でも発現しているmiRNAの割合は48.1%であり、非常に高かった。
【0096】
また、実施例1の遺伝子の発現抑制剤(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)で発現があり、大脳皮質での発現がHighであるmiRNAは、下記表3および表4に記載の122個であった。
【表3】
【表4】
【0097】
[試験例3]:疾患に関わるマイクロRNAの探索
得られた解析結果をもとに疾患に関わるマイクロRNAを探索した。疾患に関連するmiRNAの抽出を、IMOTAを用いて行った。ここでは、アルツハイマー病に関連するタンパクを抑制するマイクロRNAが含まれているか、または、治療薬のターゲットとなるタンパクを制御しているマイクロRNAが含まれているかを探索した。この試験例3では、アルツハイマー病に関わるタンパク質として、βセクレターゼ(BACE1)、APPを抑制するマイクロRNAを探索した。治療薬のターゲットとなるタンパク質として、NMDAの抑制、GSK-3βの阻害、またはPQBP1の抑制をするマイクロRNAを探索した。
得られた結果を、各miRNAの発現量を大脳皮質(Cerebral Cortex)と実施例1の遺伝子の発現制御剤(SGF)とを対比して図5図13-2に示した。
【0098】
APPをtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームに発現するmiRNAは、下記のAPP抑制関連miRNA群(63種類)であった。
hsa-miR-101-3p、hsa-miR-106b-5p、hsa-miR-1229-5p、hsa-miR-1238-3p、hsa-miR-1260b、
hsa-miR-1276、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-144-3p、
hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-153-3p、hsa-miR-15a-5p、hsa-miR-15b-5p、hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-17-5p、hsa-miR-185-5p、hsa-miR-186-5p、hsa-miR-194-5p、hsa-miR-195-5p、
hsa-miR-196a-5p、hsa-miR-203a-3p、hsa-miR-20a-5p、hsa-miR-222-3p、hsa-miR-298、
hsa-miR-31-5p、hsa-miR-3120-3p、hsa-miR-3132、hsa-miR-323a-3p、hsa-miR-324-5p、
hsa-miR-328-3p、hsa-miR-3620-3p、hsa-miR-3646、hsa-miR-369-3p、hsa-miR-373-3p、
hsa-miR-374c-5p、hsa-miR-381-3p、hsa-miR-382-5p、hsa-miR-383-5p、hsa-miR-411-3p、
hsa-miR-423-3p、hsa-miR-424-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-4484、hsa-miR-455-3p、
hsa-miR-4786-5p、hsa-miR-484、hsa-miR-490-5p、hsa-miR-497-5p、hsa-miR-500a-5p、
hsa-miR-5093、hsa-miR-532-3p、hsa-miR-532-5p、hsa-miR-539-3p、hsa-miR-548f-3p、
hsa-miR-551b-5p、hsa-miR-5584-5p、hsa-miR-567、hsa-miR-5696、hsa-miR-582-5p、
hsa-miR-6073、hsa-miR-873-5p、hsa-miR-93-5p。
【0099】
βセクレターゼ(BASE1)をtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームに発現するmiRNAは、下記BACE1阻害関連miRNA群(41種類)であった。
hsa-miR-107、hsa-miR-124-3p、hsa-miR-1267、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-129-2-3p、
hsa-miR-140-3p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-141-3p、hsa-miR-15a-5p、hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-17-5p、hsa-miR-195-5p、hsa-miR-200a-3p、hsa-miR-203a-3p、hsa-miR-212-3p、
hsa-miR-212-5p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26b-5p、hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-298、
hsa-miR-299-3p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-328-3p、
hsa-miR-339-5p、hsa-miR-340-5p、hsa-miR-369-3p、hsa-miR-374a-5p、hsa-miR-374b-5p、
hsa-miR-374c-5p、hsa-miR-382-5p、hsa-miR-421、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-455-3p、
hsa-miR-497-5p、hsa-miR-505-3p、hsa-miR-532-5p、hsa-miR-7-5p、hsa-miR-874-3p、
hsa-miR-9-5p。
【0100】
NMDAの活性化に関わるタンパクをtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームに発現するmiRNAは、下記DLG1抑制関連miRNA群、下記CAMK2D抑制関連miRNA群、下記CAMK2A抑制関連miRNA群、および下記CAPN1抑制関連miRNA群であった(合計51種類)。
DLG1抑制関連miRNA群:
hsa-miR-1-3p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-204-5p、hsa-miR-206、hsa-miR-21-5p、
hsa-miR-218-5p、hsa-miR-340-5p、hsa-miR-613。
CAMK2D抑制関連miRNA群:
hsa-let-7a-5p、hsa-miR-101-3p、hsa-miR-129-5p、hsa-miR-139-5p、hsa-miR-144-3p、
hsa-miR-145-5p、hsa-miR-185-5p、hsa-miR-203a-3p、hsa-miR-204-5p、hsa-miR-211-5p、
hsa-miR-24-3p、hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-30a-3p、hsa-miR-31-5p、hsa-miR-361-5p、
hsa-miR-421、hsa-miR-484、hsa-miR-494-3p、hsa-miR-505-3p、hsa-miR-7-5p。
CAMK2A抑制関連miRNA群:
hsa-miR-129-5p、hsa-miR-137、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-148a-3p、hsa-miR-149-3p、
hsa-miR-152-3p、hsa-miR-25-3p、hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-32-5p、hsa-miR-338-3p、
hsa-miR-340-5p、hsa-miR-363-3p、hsa-miR-3665、hsa-miR-4534、hsa-miR-4665-5p、
hsa-miR-4688、hsa-miR-485-5p、hsa-miR-5010-5p、hsa-miR-505-5p、hsa-miR-5698、
hsa-miR-625-5p、hsa-miR-92a-3p。
CAPN1抑制関連miRNA群:
hsa-miR-1-3p、hsa-miR-124-3p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-17-3p、hsa-miR-22-3p、
hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-6511b-5p。
(合計51種類)
【0101】
GSK-3βをtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームに発現するmiRNAは、下記GSK-3β阻害関連miRNA群(54種類)であった。
hsa-let-7a-3p、hsa-let-7b-3p、hsa-let-7f-1-3p、hsa-let-7f-2-3p、hsa-miR-101-3p、
hsa-miR-1185-1-3p、hsa-miR-1185-2-3p、hsa-miR-124-3p、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-129-5p、
hsa-miR-132-3p、hsa-miR-137、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-144-3p、
hsa-miR-150-5p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-15a-5p、hsa-miR-15b-5p、hsa-miR-16-5p、
hsa-miR-1910-5p、hsa-miR-195-5p、hsa-miR-199a-5p、hsa-miR-212-3p、hsa-miR-218-5p、
hsa-miR-219a-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26a-5p、hsa-miR-26b-5p、
hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-28-5p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-346、
hsa-miR-369-3p、hsa-miR-374a-5p、hsa-miR-374b-5p、hsa-miR-374c-5p、hsa-miR-377-3p、
hsa-miR-409-3p、hsa-miR-409-5p、hsa-miR-410-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-425-5p、
hsa-miR-4465、hsa-miR-497-5p、hsa-miR-582-5p、hsa-miR-6083、hsa-miR-708-5p、
hsa-miR-9-5p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-96-5p、hsa-miR-98-3p。
【0102】
PQBP1をtargetとする歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームに発現するmiRNAは、下記PQBP1抑制関連miRNA群(2種類)であった。
hsa-miR-6727-3p、hsa-miR-6727-5p。
【0103】
アルツハイマーの治療に期待される、歯髄由来幹細胞のエクソソームに発現するmiRNAは153個あり、これらの発現量を比較した結果を図13のヒートマップに示す。ヒートマップの濃度は、リードカウント値のlog ratioで示したものである。
【0104】
以上の試験例3では、アルツハイマー病に関わるタンパク質であるβセクレターゼ(BACE1)またはAPPを抑制するマイクロRNA、治療薬のターゲットとなるタンパク質であるNMDAの抑制、GSK-3βの阻害またはPQBP1の抑制をするマイクロRNAがそれぞれ発見された。
特に図13および図13-2より、大脳皮質で発現が確認され、かつ実施例1の遺伝子の発現抑制剤でも確認された859個のmiRNAの中で、アミロイドβまたはタウ・タンパク質関連の遺伝子(アルツハイマー病の原因遺伝子など)をtargetとして抑制する効果があるmiRNAが153個も含まれることがわかった。
【0105】
[試験例4]:遺伝子の発現制御
大脳皮質ニューロン細胞(アルツハイマー病患者由来の神経細胞)に対して、実施例1で得られた歯髄由来幹細胞のエクソソーム、または比較例1の脂肪由来幹細胞のエクソソームを添加した。添加量は、大脳皮質ニューロン細胞あたり、1,000エクソソームとした。72時間後、大脳皮質ニューロン細胞を回収し、mRNAを精製した。精製したmRNAについて、qPCRによって、アルツハイマー型認知症に関係する(発現上昇する)、発現解析の対象遺伝子の発現を定量した。
一方、エクソソームを未添加の大脳皮質ニューロン細胞をコントロール(参考例1)とし、回収した大脳皮質ニューロン細胞のmRNAを精製し、実施例1および比較例1と同様の方法で発現解析の対象遺伝子の発現を定量した。
実施例1(歯髄由来幹細胞のエクソソームにより処理した細胞)および比較例1(脂肪由来幹細胞のエクソソームにより処理した細胞)の発現解析の対象遺伝子の発現量を、参考例1(コントロール;未処理の細胞)の発現解析の対象遺伝子の発現量を1.0とした場合の相対値として計算した。発現解析の対象遺伝子は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)遺伝子、β-セクレターゼ(BACE1)遺伝子、NMDA活性化タンパク質(CAMK2D)遺伝子、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)遺伝子、ポリグルタミン結合タンパク質-1(PQBP1)遺伝子の5種類とした。それぞれの発現解析の対象遺伝子の発現量について、得られた結果を図14~18に示した。
【0106】
図14~18に示した遺伝子の発現解析の結果より、本発明の遺伝子の発現制御剤(実施例1)は、アルツハイマー型認知症に関係する(コントロールで発現上昇する)、5種類の発現解析の対象遺伝子(APP、BACE1、NMDA活性化タンパク質であるCAMK2D、GSK-3β、PQBP1の発現に関する遺伝子)の発現を制御できることがわかった。特に、実施例1の遺伝子の発現制御剤によれば、アルツハイマー型認知症に関係する5種類の発現解析の対象遺伝子の発現を、比較例1の遺伝子の発現制御剤と比較して、より顕著に抑制できることがわかった。
【0107】
[試験例5]:miRNAの種類と発現量
実施例1の遺伝子の発現抑制剤(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)と、比較例1の遺伝子の発現抑制剤(脂肪組織幹細胞由来のエクソソーム;ADSC)と、比較例2の遺伝子の発現抑制剤(臍帯幹細胞由来のエクソソーム;Placenta-MSC)のmiRNA解析を、試験例4と同様にqPCRを用いて行った。得られた解析結果のうち、アルツハイマー病の対象遺伝子群である下記のmiRNAの発現量を比較した。
hsa-miR-16-5p(APP抑制関連miRNA、BACE1阻害関連miRNA、GSK-3β阻害関連miRNA)、
hsa-miR-21-5p(DLG1抑制関連miRNA)、
hsa-let7-a-5p(CAMK2D抑制関連miRNA)
hsa-miR-92a-3p(CAMK2A抑制関連miRNA)、
hsa-miR-22-3p(CAPN1抑制関連miRNA)。
その結果を、図19に示した。図19では、実施例1の遺伝子の発現抑制剤(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)におけるmiRNAの発現量を100とした場合の相対値で表した。
【0108】
図19より、実施例1の遺伝子の発現抑制剤(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)における、アルツハイマー病に関連して発現が上昇する遺伝子群を抑制するmiRNA(治療効果があると予測されるマイクロRNA)の発現量は、他の間葉系幹細胞由来のエクソソーム(比較例1の脂肪幹細胞由来のエクソソーム、比較例2の臍帯幹細胞由来のエクソソーム)と比較して、顕著に多量であることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図13-2】
図14
図15
図16
図17
図18
図19