(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】吸音部材
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240523BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20240523BHJP
E04B 1/86 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
G10K11/16 130
G10K11/162
E04B1/86 F
(21)【出願番号】P 2024506271
(86)(22)【出願日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2023029769
【審査請求日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2022131424
(32)【優先日】2022-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518308256
【氏名又は名称】株式会社山本
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100092738
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】山本 義清
(72)【発明者】
【氏名】宮里 福治
(72)【発明者】
【氏名】水口 智
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-107125(JP,A)
【文献】特開2013-140248(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1907975(KR,B1)
【文献】特表2014-514502(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0005200(KR,A)
【文献】国際公開第2022/091542(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16
G10K 11/162
E04B 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X―Y平面を有する音源側の前面部と、該前面部にZ方向の厚みを有する背後空気層を介して配置された後面部とを有し、
前記前面部には、前記背後空気層に連通するスリットが、所定長さ、所定ピッチで複数設けられ、かつ、該スリットから入射する音の回析波を誘導収納する通気室が、X―Y面上でZ方向に所定厚みを有して設けられた吸音部材。
【請求項2】
前記通気室は、Y方向に複数に区分され、X方向に連続しており、
前記スリットは直線状であり、X方向に対して45度から135度で交差している請求項1記載の吸音部材。
【請求項3】
前記通気室は、Z方向に複数段設けられている請求項2記載の吸音部材。
【請求項4】
前記前面部は、段ボール、金属材、又は、合成樹脂材のいずれかにより形成されている請求項2又は3記載の吸音部材。
【請求項5】
前記通気室に、吸音材が収納されている請求項4記載の吸音部材。
【請求項6】
前記通気室は、Y方向に複数に区分され、X方向に連続しており、
前記スリットは直線状であり、X方向に対して平行である請求項1記載の吸音部材。
【請求項7】
前記スリットは、X―Y平面を有する平板のY方向上下端部からY方向に所定距離の位置に、X方向所定長さで且つ所定ピッチで一直線上に複数形成され、
前記スリット位置において前記平板のY方向端部を180度折り返し形成して前面ピースが形成され、
前記前面ピースをY方向に複数段密着状に配置して前記前面部が構成され、
前記前面ピースの折り返し部が前記通気室を構成する請求項6記載の吸音部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速道路の防音壁や、屋内通路内壁等に使用される吸音部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の吸音部材として、例えば特開2022-84524号公報(特許文献1)に記載のものがある。この従来の吸音部材は、道路脇に設置される吸音壁に用いられるものであり、ルーバー等の穴が形成された前面部と、背面部と側面部によって構成される箱状のパネル体の内部に吸音材を備えているものであった。
【0003】
前記従来の吸音技術は材料的には繊維、発泡材、薄膜等を用い、構造的には共鳴、振動、摩擦等の熱エネルギー転換方式である。そして、従来の技術はこの原理を、前面部から背面部側に向かって進入音を直線的に進ませて解決を図ってきた。
【0004】
したがって、従来のものは、箱状のパネル本体の厚みが厚くなるものであった。設置場所として、会議室、機械室、体育館、競技場、公共通路、空調設備等の風荷重を受けない壁面及び天井に設ける場合は、薄型吸音板が要望される。
【0005】
しかし従来の特許文献1記載の技術では薄型化が達成し難かった。
【0006】
一方、薄型化を図ったものとして、特開2003-108145号公報(特許文献2)に記載のものがある。この防音部材は、形材の面板部から適長間隔をおいて2枚の多孔金属板を配置し、ヘルムホルツ共鳴原理と粘性減衰原理とにより防音効果を発揮して、薄型軽量化を図ったものであった。
【0007】
しかし、特許文献2記載のものは、形材の厚みが大変厚いものであったので、薄型化には限界があった。また、多孔金属板と面板部との間の空気層を厚いものにしないと十分な防音効果を発揮しないというものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2022-84524号公報
【文献】特開2003-108145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1や2に記載のものは、前面部から背面部側に向かって進入音を直線的に進ませて吸音効果を得るという原理のものであったので、背後空気層の厚みが必要となるものであり、薄型化には限界があった。
【0010】
そこで、本発明は、従来の直進型原理ではなく、新たな回析原理に基づき、前面部と背面部間の厚みを薄くした吸音部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、次の手段を講じた。すなわち、本件発明の吸音部材は、X―Y平面を有する音源側の前面部と、該前面部にZ方向の厚みを有する背後空気層を介して配置された後面部とを有し、前記前面部には、前記背後空気層に連通するスリットが、所定長さ、所定ピッチで複数設けられ、かつ、該スリットから入射する音の回析波を誘導収納する通気室が、X―Y面上でZ方向に所定厚みを有して設けられたものである。
【0012】
前記通気室は、Y方向に複数に区分され、X方向に連続しており、前記スリットは直線状であり、X方向に対して45度から135度で交差しているのが好ましい。
【0013】
前記通気室は、Z方向に複数段設けられているのが好ましい。
【0014】
前記前面部は、段ボール、金属材、又は、合成樹脂材のいずれかにより形成されているのが好ましい。
【0015】
前記通気室に、吸音材が収納されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、音の回析原理を用いることにより、従来の直線的配置のものに比べて、薄型にすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態を示す吸音部材の正面図。
【
図4】前面部がアルミ型材で構成された各種断面図。
【
図5】前面部が複合重ね板で構成された各種断面図。
【
図6】本発明の回析原理の説明用の前面部の斜視図。
【
図10】第1テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図11】第1テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図13】第2テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図14】第2テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図16】第3テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図17】第3テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図19】第4テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図20】第4テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図22】第5テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図23】第5テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図25】第6テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図26】第6テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図27】本発明の他の実施の形態を示す吸音部材の正面図と断面図。
【
図28】本発明の他の実施の形態を示す吸音部材とその構成部材の正面図と断面図。
【
図29】本発明の他の実施の形態を示す吸音部材とその構成部材の正面図と断面図。
【
図30】本発明の他の実施の形態を示す前面部の断面図。
【
図31】本発明の他の実施の形態を構成する平板状のアルミ板の斜視図。
【
図32】
図31のアルミ板を折り曲げ加工して形成される前面ピースの斜視図。
【
図37】後面部を亜鉛鉄板で構成した吸音部材の断面図。
【
図40】(a)は第7テストピースの正面図で、(b)は断面図。
【
図41】第7テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図42】第7テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図43】(a)は第8テストピースの正面図で、(b)は断面図。
【
図44】第8テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図45】第8テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図46】(a)は第9テストピースの正面図で、(b)は断面図。
【
図47】第9テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図48】第9テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図49】(a)は第10テストピースの正面図で、(b)は断面図。
【
図50】第10テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図51】第10テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図52】(a)は第11テストピースの正面図で、(b)は断面図。
【
図53】第11テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図54】第11テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図55】(a)は第12テストピースの正面図で、(b)は断面図。
【
図56】第12テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図57】第12テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図58】(a)は第13テストピースの正面図で、(b)は断面図。
【
図59】第13テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図60】第13テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図61】(a)は第14テストピースの正面図で、(b)は断面図。
【
図62】第14テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【
図63】第14テストピースによる吸音率測定結果のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0019】
図1は、高速道路の防音壁や室内の天井壁等に用いられる吸音部材1の正面図である。
【0020】
図2は、その断面図であり、同図(a)(b)は、屋外使用で風荷重等の外力に対応できる構造とされており、同図(c)は、屋内使用で風荷重等を受けない場所(機械室防音又は間仕切り等)で使用される断面構造とされている。
【0021】
この吸音部材1は、音源側の前面部2と、この前面部2に背後空気層3を介して配置された後面部4とを有する。
【0022】
なお、
図1に記載したX-Y座標、
図2に記載したY-Z座標に基づき、本発明に使用する、「X-Y-Z方向」を定義する。また、X方向を「左右方向」、Y方向を「上下方向」、及び、Z方向を「厚み方向」ということもある。
【0023】
前面部2は、X-Y平面を有しZ方向に所定厚みの板状部材で構成されている。後面部4は、前面部2とZ方向に背後空気層3を介して平行に配置された後面板4aと、この後面板4aの上下端から前面部に向かって伸びる上面板4b及び下面板4cを有する。上面板4bと下面板4cの端部と前面部2の上下端縁が結合されている。
【0024】
図2(a)に示すように、後面板4aの中央部に、前面部2側に突出する凸条リブ4dが形成され、同図(b)では、後面板4aの上下部に前面部2側とは反対側に突出するリブ4eが形成されて、風荷重に対応できるリブ構造とされている。同図(c)に示すものは、屋内使用なのでリブ構造は採用されていない。
【0025】
前記前面部2には、前記背後空気層3に連通するスリット5が、所定長さ、所定ピッチで複数設けられている。また前面部2には、スリット5から入射する音の回析波を誘導収納する通気室6が設けられている。この通気室6は、X―Y面上でZ方向に所定厚みを有する。スリット5の幅は、0.5mm以下とされている。
【0026】
【0027】
図3に示すものは、前面部2を段ボールで構成したものである。同図(a)は、1枚のライナ7に波型に成形した中芯原紙8を貼り合わせた「片面段ボール」であり、波型の中空部が通気室6を形成している。同図(b)は片面段ボールの段頂にライナ7を貼り合わせた「両面段ボール」であり、ライナ7、7間の波型の中空部が通気室6を形成している。同図(c)及び(d)は両面段ボールの片側に片面段ボールを貼り合わせた「複両面段ボール」である。(c)と(d)の相違は、片面段ボールの波型ピッチの大小である。同図(e)は、複両面段ボールの片側に片面段ボールを貼り合わせた「複々両面段ボール」である。
【0028】
前記通気室6は、Y方向に複数に区分され、X方向に連続しており、(c)~(e)に示すものでは、通気室6は、Z方向に複数段設けられている。
【0029】
図4に示すものは、前面部2をアルミ型材で構成したものである。
図4(a)に示すものは、
図3(a)に相当する断面形状を有し、
図4(b)、(c)は、
図3(b)に相当する断面形状を有し、Y方向に複数に区分された通気室6が形成されている。
図4(d)は、2枚のアルミ板をZ方向に所定間隔を有して平行配置したものであり、通気室6は、X-Y面上でZ方向に所定厚みを有するものとされ、Y方向に複数に区分されていない。
【0030】
図5に示すものは、前面部2を複合重ね板で構成したものである。この板は、アルミ、亜鉛鉄板、SUS材、又は、プラスチック板である。重ね板間の空間が通気室6とされている。
【0031】
なお、前面部2は、段ボール、金属材、又は、合成樹脂材で構成されたものを例示したが、本発明は、これらの部材で構成されたものに限定されない。
【0032】
【0033】
音は、隙間がせまい時は、表面板の後ろに大きく回折する。この回折波を構造的に誘導収納し音エネルギーを熱転換させる。つまり、表面板の背後に通気室を設け吸音処理を行う。
【0034】
図6に示す吸音部材の前面部2は、
図3(e)に示す断面形状を有する段ボールで形成されている。この前面部2の表面板はライナ7で形成され、通気室6は、Y方向に複数に区分され、X方向に連続しており、Z方向に複数段設けられている。
【0035】
前面部2にスリット5が厚み方向に貫通して設けられている。スリット5は、Y方向に所定の長さを有し、X方向に所定のピッチで複数設けられている。スリット5は、X方向と90度の交差で設けられている。通気室6が、X方向に連続する場合、スリット5は、通気室6と平行にならないことが条件である。ゆえに90度を基本に45度から135度が最適となる。尚、スリット5は同一平面上での加工であり幅0.5mm以下とする。
【0036】
図7に示すように、スリット5から進入する音の直進波は、回析波となって通気室6に導かれる。回折波を誘導受け入れる通気室6において、音の伝達エネルギーは摩擦・振動等の物理的エネルギーを経て熱エネルギーに変換され、吸音される。回折波は、1回だけでなく第2回折波、第3回折波処理(Z方向多段処理)することで性能UPできる。これにより、背後空気層を薄くでき、吸音部材1の薄型構造が可能となる。
【0037】
音の原理では隙間が狭いと回折現象が発生しその回折は低周波になるほど増加する。この原理を利用し音を通気室6に導入し、通気室6で音のエネルギー変換を行う。一部直進する音もあるが3層構造以上では大きい影響は無い。通気室6に侵入した音は、通気室6の長さに変化(20mm~200mm程度)を持たせているので吸音率の周波数領域が広がる。低周波数でも吸音部材1の厚さを低減できる。
【0038】
図8~
図26に示すものは、垂直入射試験測定結果に関するものである。
【0039】
この測定試験は、地方独立法人大阪産業技術研究所において、装置番号:A6001,装置構成・型番:ブリュエル・ケアー Type4206の「吸音率測定システム」により、垂直入射による吸音率測定を行った。なお、この吸音率測定システムに使用される「テストピース」の直径は100mmである。測定手法は、2マイクロホン法(伝達関数法)である。適用規格は、ISO10534-2及びASTME1050である。測定周波数範囲は、100から1600Hzである。
【0040】
図8、
図9に示すものは、前記「吸音率測定システム」に使用した第1テストピースである。
図8がテストピース(前面部2)の正面図で、
図9がテストピース(前面部2)の断面図である。この第1テストピースは、前面部2が「両面段ボール」の防炎段ボールで構成されている。前面部2の厚みは3mmである。この試験装置では、このテストピースの背面に「背後空気層3」が形成されている。
【0041】
前面部2に形成された通気室6は、X方向に連続し、Y方向に複数に区分されている。スリット5は、X方向に対して90度で交差している。スリット幅は、0.5mmである。スリット5のピッチは、
図8に示すとおりである。
【0042】
図10、
図11は、前記第1テストピースの垂直入射試験測定結果のグラフである。縦軸が吸音率で、横軸が周波数である。
図10は、背後空気層を30mmとしたものであり、代表周波数は850Hzである。
図11は、背後空気層を60mmとしたもので、代表周波数は600Hzである。
【0043】
図12は、第2テストピースの正面図である。この第2テストピースは、X方向に連続する通気室6に対し、スリット5のX軸との交差角を60度としたものである。その断面図は、
図9と同じであるので図示省略する。
【0044】
図13、
図14は、第2テストピースの垂直入射試験測定結果のグラフである。
図13は、背後空気層を30mmとしたものであり、代表周波数は600Hzである。
図14は、背後空気層を50mmとしたもので、代表周波数は700Hzである。
【0045】
図15~
図17は、第3テストピースによるものである。第3テストピースの正面図は、
図8に示すものと同じであるので、図示省略する。その断面図は、
図15に示すものであり、
図3(c)に示す「複両面段ボール」の一般段ボールが用いられている。前面部2の厚みは、3mm+1.5mmである。
【0046】
図16は、背後空気層を15mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は1200Hzである。
図17は、背後空気層を30mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は600Hzである。
【0047】
図18~
図20は、第4テストピースによるものである。第4テストピースの正面図は、
図18に示すものであり、図示するスリット5のピッチが
図8に示すものと異とされている。その断面図は、
図15に示すものと同じであるので、図示省略する。
【0048】
図19は、背後空気層を10mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は1600Hzである。
図20は、背後空気層を30mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は900Hzである。
【0049】
図21~
図23は、第5テストピースによるものである。第5テストピースの正面図は、
図8に示すものと同じであるので、図示省略する。その断面は、
図21に示すものであり、
図4(a)に相当するものである。前面部2の断面形状は、厚み0.8mmの前面アルミ板2aと、厚み0.5mmのアルミ角波板2bで通気室6を形成したものであり、前面部2の厚みは9mmである。
【0050】
図22は、背後空気層を30mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は850Hzである。
図23は、背後空気層を50mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は600Hzである。
【0051】
図24~
図26は、第6テストピースによるものである。第6テストピースの正面図は、
図8に示すものと同じであるので、図示省略する。その断面図は、
図24に示すものであり、
図4(d)に相当するものである。前面部2の断面形状は、厚み0.8mmの前面アルミ板2aと、厚み0.5mmの後面アルミ板を所定空間隔てて平行配置して通気室6を形成したものであり、前面部2の厚みは4mmである。
【0052】
図25は、背後空気層を30mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は800Hzである。
図26は、背後空気層を50mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は500Hzである。
【0053】
上記実験結果より、吸音部材1の厚みを薄くできることが分かる。
【0054】
図27~
図29に示すものは、屋内使用で風荷重を受けない場所で使用する、屋内通路内壁や機械室内壁防音等に使用される吸音部材に使用される前面部2である。
【0055】
図27において、前面部2は、2枚の平板を4mm厚さで平行配置され、型枠9で保持され、2枚の平板間が通気室6とされている。この前面部2にスリット5が設けられている。
【0056】
図28に示すものは、前面部2が「両面段ボール」で構成されている。同図(b)に示すピース10を同図(a)に示すようにスリット5を介して型枠9にはめ込み固定する。すなわち、ピース10とピース10の隙間がスリット5とされている。
【0057】
図29に示すものは、前面部2が段ボールで構成され、同図(b)に示すピース10が回り縁材11に固定される。このピース10に複数のスリット5が形成されている。
【0058】
図30に示すものは、通気室6に吸音材12を収納したものである。前面部2は、表面材13と複数のライナ14とを有し、表面材13とライナ14間、及びライナ14とライナ14間が通気室6とされ、通気室6に吸音材12が収納されている。この前面部2に厚み方向に貫通するスリット5が設けられている。
【0059】
表面材13としてストレート板、石綿セメント板等が用いられる。ライナ14として、透明板(ポリカ)、合板、檜・杉等の薄板材などが用いられる。吸音材12として、ポリエステル不織布、グラスウール、連続気泡プラスチック(EPDM・ウレタン)等が用いられる。吸音材12としてエキスパンドメタルであってもよい。
【0060】
上記実施の形態において、スリット5は、直線状のものが例示されているが、波型や円弧状、その他の形状であってもよい。スリットで図形等を描いて、装飾性を高めたものであってもよい。装飾性を高めるには、通気室は、孔状ではなく面状(
図4(d)参照)のものが良い。スリットは、レーザー加工により形成するのが適しているが、他の加工法により形成されるものであってもよい。本願出願人に係る「特願2022-50983号」の「
図60」等に示す「四ツ目編み構造体」によりスリットを形成するものであってもよい。
【0061】
図31以降に示すものは、本発明の他の実施の形態である。
【0062】
図31に示すものは、厚みが0.5mmの平板状のアルミ板2cである。アルミ板2cはX方向の長辺とY方向の短辺を有する矩形状に形成されている。このアルミ板2cに、厚み方向に貫通するスリット5がX方向に所定長さを有し、且つ、X方向に所定ピッチで複数個が一直線上に形成されている。このスリット5は、Y方向に所定間隔を有して2列設けられている。スリット5は、レーザー加工により形成されるのが好ましいがプレス打ち抜き加工や機械加工であってもよい。
【0063】
スリット5のY方向幅は2mm以下が望ましい。スリット5のX方向長さは板厚にもよるが30~50mm程度である。スリット5をX方向に50~70mmピッチで配置するのが良い。スリット5の開孔率は5%以下とされている。
【0064】
図32に示すように、矩形状のアルミ板2cは、上下端部が前記スリット5の位置で、同じ方向に180度折り返し加工されて、折り返し部2dが形成される。この折り返し部2dと、スリット5間の平面部2eとの間に、Z方向に所定厚みの通気室6が形成される。通気室6の厚みは、前記スリット5の幅、又は、0.5~10mm以下とするのがよい。通気室6のZ方向の厚みは、一定でなくてもよい。すなわち、折り返し部2dと平面部2eは平行でなくても良い。折り返し起点から折り返し部端部に至って0.2mm~8mmに拡開状に変化するものであってもよい。
【0065】
この折り返し形成されたものを、以下、「前面ピース15」という。
【0066】
図33に示すように、折り返し部2dにレーザー加工による追加スリット16を形成することができる。なお、この追加スリット16は、
図31に示す平板状のアルミ板2cにおいて加工される。追加スリット16は、X方向に傾斜して設けられているが、これに限定されず、X方向に直交し、又は、平行であってもよい。追加スリット16の長さは50mm以下とされ、長さや傾斜角度の異なる複数種類を配置することが出来る。
【0067】
図34に示すように、前記前面ピース15を、X-Y平面上においてY方向に複数段密着状に配置して前面部2を構成する。この前面部2に背後空気層3を介して後面部4を配置して、吸音部材1を構成する。
【0068】
上下複数の前面ピース15は、背後空気層3内において上下方向に配置された支持枠2fに、固定リベット2gにより連結固定されている。
【0069】
図35は、前面部2の上下の前面ピース15,15のスリット5における接続部の拡大断面図である。同図に示すように、折り返し部2dのスリット5において、入射音は、背後空気層3に向かって直進するとき、通気室6側に向かって回析して、回析音はスリット5から通気室6に進入する。
【0070】
Y方向に密着した上下のそれぞれの前面ピース15のスリット5の位置が、X方向において一致している。そして、上下に密着した前面ピース15のスリット5の位置におけるY方向の隙間が3mmを超えないことである。すなわち、
図35における入射音の進入隙間が3mm以下である。この隙間から進入した音は、スリット5から回析して通気室6に進入する。
【0071】
通気室6は、スリット5から回析した音の障壁とならない構造とされている。
【0072】
通気室6は、スリット5からの入口と折り返し端から背後空気層3に連通する出口を有し、密閉されていない空間であることが必要である。なお、追加スリット16も背後空気層3に連通する出口を構成する。
【0073】
図36に示すように、前面ピース15で構成される前面部2を、アルミ枠17で保持することができる。このアルミ枠17に後面板4aが保持されて後面部4が構成されている。前面ピース15のY方向寸法は、下から上方に向かって125mm、75mm、50mm、75mm、125mmとされている。
【0074】
図37に示すものは、前面ピース15で構成される前面部2を、後面板4aで保持したものである。後面板4aは、亜鉛鉄板から構成されている。この後面板4aの構造は、
図2に示すものと略同じである。
【0075】
図38及び
図39に示すものは、スパンドレル式のものであり、天井や壁の吸音装置として本発明の吸音部材1を用いたものである。天井や壁面に取り付けられたスパンドレル式アルミ型枠18に、前面ピース15で構成される前面部2が保持されている。このアルミ型枠18に後面部4を保持してもよいが、天井や壁自身を後面部4とすることができる。前面ピース15のY方向寸法は、下から上方に向かって52.5mm、100mm、52.5mmとされている。前面ピース15の折り返し部2dの端部間の間隔は15mmとされている。この間隔により、通気室6と背後空気層3が連通している。
【0076】
上下複数の前面ピース15は、背後空気層3内において上下方向に配置された支持枠2fに、固定リベット2gにより連結固定されている。
【0077】
【0078】
図40(a)は、第7テストピースの正面図であり、同図(b)はその断面図である。
【0079】
第7テストピースは、
図39に示すY方向間隔100mmのスリット5を、テストピースのセンターに配置したものである。アルミ板の厚みは0.5mmで、スリット5のX方向長さは35mm、折り返し部2dのY方向長さは、35mmと20mmである。折り返し部2dに追加スリット16は形成されていない。
【0080】
図41は、背後空気層を20mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は650Hzである。
図42は、背後空気層を40mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は450Hzである。
【0081】
上記実験結果より、吸音部材1の厚みを薄くできることが分かる。
【0082】
【0083】
図43(a)は、第8テストピースの正面図であり、同図(b)はその断面図である。
【0084】
第8テストピースは、
図36に示すY方向間隔50mmのスリット5を、テストピースのセンターに配置したものである。アルミ板の厚みは0.5mmで、スリット5のX方向長さは35mm、折り返し部2dのY方向長さは、15mmと18mmである。折り返し部2dに追加スリット16は形成されていない。
【0085】
図44は、背後空気層を20mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は850Hzである。
図45は、背後空気層を40mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は550Hzである。
【0086】
【0087】
図46(a)は、第9テストピースの正面図であり、同図(b)はその断面図である。
【0088】
第9テストピースは、
図43に示すものと同じであるが、折り返し部2dに追加スリット16が形成されている。追加スリット16のX方向ピッチは、20mm、25mm、20mmとされ、X方向に直交して設けられている。
【0089】
図47は、背後空気層を20mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は800Hzである。
図48は、背後空気層を40mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は600Hzである。
【0090】
【0091】
図49(a)は、第10テストピースの正面図であり、同図(b)はその断面図である。
【0092】
第10テストピースは、
図40に示すものと同じ形状であるが、厚み0.27mmのトタンから構成され、折り返し部2dに追加スリット16が形成されている。追加スリット16のX方向ピッチは、20mm、25mm、20mmとされ、X方向に直交して設けられている。
【0093】
図50は、背後空気層を20mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は750Hzである。
図51は、背後空気層を40mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は500Hzである。
【0094】
【0095】
図52(a)は、第11テストピースの正面図であり、同図(b)はその断面図である。
【0096】
第11テストピースは、
図46に示すものと同じ形状であるが、厚み0.27mmのトタンから構成され、折り返し部2dに追加スリット16が形成されている。追加スリット16のX方向ピッチは、20mm、25mm、20mmとされ、X方向に直交して設けられている。
【0097】
図53は、背後空気層を20mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は750Hzである。
図54は、背後空気層を40mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は500Hzである。
【0098】
【0099】
図55(a)は、第12テストピースの正面図であり、同図(b)はその断面図である。
【0100】
第12テストピースは、
図52に示すものと同じ形状であるが、厚み0.2mmのステンレスから構成されている。
【0101】
図56は、背後空気層を20mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は850Hzである。
図57は、背後空気層を40mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は600Hzである。
【0102】
【0103】
図58(a)は、第13テストピースの正面図であり、同図(b)はその断面図である。
【0104】
第13テストピースは、
図55に示すものと同じ形状であるが、厚み0.5mmのアルミから構成され、折り返し部2dに追加スリット16がX方向に傾斜して設けられている。
【0105】
図59は、背後空気層を20mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は800Hzである。
図60は、背後空気層を40mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は600Hzである。
【0106】
【0107】
図61(a)は、第14テストピースの正面図であり、同図(b)はその断面図である。
【0108】
第14テストピースは、
図58に示すものと同じ形状であるが、折り返し部2dに追加スリット16がX方向に平行して設けられている点が異なる。
【0109】
図62は、背後空気層を20mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は900Hzである。
図63は、背後空気層を40mmとした垂直入射試験測定結果のグラフであり、代表周波数は600Hzである。
【0110】
上記実施の形態によれば、通気室6を折り返し部によって形成するので、通気室6のZ方向の厚みを薄くすることができ、結果として前面部2の厚みを薄くすることができる。
【0111】
前面ピース15の材質は、亜鉛鉄板、ステンレス、アルミ等の金属材に限らず、ポリカーボネート、PET等のプラスチック材であってもよい。
【0112】
前面部2を折り返し構造の前面ピース15で構成するので、薄型にかかわらず強度が向上する。
【0113】
前面部2は開口率が極めて低いので、表面に新規の付加価値を付けることができる。例えば、電波・音波吸収パネル、桁下・地下道路の騒音・ETC電波対策、トンネル内吸音板、トンネル内照明を上げることができる。
【0114】
本発明は、上記各実施の形態に示されたもの、又は、テストピースに示されたものに限定されない。
【0115】
本発明の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0116】
1 吸音部材
2 前面部
2a 前面アルミ板
2b アルミ角波板
2c アルミ板
2d 折り返し部
2e 平面部
2f 支持枠
2g 固定リベット
3 背後空気層
4 後面部
4a 後面板
4b 上面板
4c 下面板
4d リブ
4e リブ
5 スリット
6 通気室
7 ライナ
8 中芯原紙
9 型枠
10 ピース
11 回り縁材
12 吸音材
13 表面材
14 ライナ
15 前面ピース
16 追加スリット
17 アルミ枠
18 スパンドレル式アルミ型枠
【要約】
本発明は、従来の直進型原理ではなく、新たな回析原理に基づき、前面部と背面部間の厚みを薄くした吸音部材を提供することを目的とする。
本発明の吸音部材(1)は、X―Y平面を有する音源側の前面部(2)と、該前面部(2)にZ方向の厚みを有する背後空気層(3)を介して配置された後面部(4)とを有し、前記前面部(2)には、前記背後空気層(3)に連通するスリット(5)が、所定長さ、所定ピッチで複数設けられ、かつ、該スリット(5)から入射する音の回析波を誘導収納する通気室(6)が、X―Y面上でZ方向に所定厚みを有して設けられている。