(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】モノアシルグリセロールリパーゼ変異体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/18 20060101AFI20240523BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240523BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20240523BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C12N9/18 ZNA
C12N1/21
C12N15/55
C12N15/63 Z
(21)【出願番号】P 2019182220
(22)【出願日】2019-10-02
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長村 達也
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-183873(JP,A)
【文献】国際公開第2019/135868(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104388403(CN,A)
【文献】CHARBONNEAU, DM et al.,Role of Ley Salt Bridges in Thermostability of G. thermodenitrificans EstGtA2: Distinctive Patterns within the New Bacterial Lipolytic Enzyme Family XV,PLOS ONE,2013年10月,Vol. 8,pp. 1-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドであって、
配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ以下:
配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるチロシン;
配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置におけるロイシン;及び
配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置におけるアラニン、
からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有
し、
親ポリペプチドと比べてエステル化活性が向上しており、
該親ポリペプチドは、該モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列に対して、配列番号1のアミノ酸配列の29位、132位及び145位に相当する位置に、それぞれフェニルアラニン、メチオニン及びイソロイシンを有するアミノ酸配列からなり、かつモノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドである、
モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
請求項
1記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項
2記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項4】
請求項
2記載のポリヌクレオチド又は請求項
3記載のベクターを含有する形質転換体。
【請求項5】
バチルス属菌である、請求項
4記載の形質転換体。
【請求項6】
請求項
4又は
5記載の形質転換体を培養することを含む、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドの製造方法。
【請求項7】
モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有する変異ポリペプチドの製造方法であって、
該方法は、配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも92%の同一性を有し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の29位、132位及び145位に相当する位置に、それぞれフェニルアラニン、メチオニン及びイソロイシンを有するアミノ酸配列からなり、かつモノアシルグリセロールリパーゼ活性を有する親ポリペプチドにおいて、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置のフェニルアラニンのチロシンへの置換、132位に相当する位置のメチオニンのロイシンへの置換、及び145位に相当する位置のイソロイシンのアラニンへの置換からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基の置換を行うことを含
み、
該変異ポリペプチドは、該親ポリペプチドと比べてエステル化活性が向上している、
方法。
【請求項8】
請求項
1記載のポリペプチドを用いたモノアシルグリセロール合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノアシルグリセロールリパーゼ変異体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノアシルグリセロール(MAG)は、乳化剤や抗菌剤等として食品、医薬品、化粧品等の分野に広く利用されている物質である。さらに近年、MAGが、食後の血中トリグリセリドの上昇抑制、食後血中インスリン上昇抑制、食後GIP分泌抑制等の優れた生理活性を有することが見出されている。MAGは、生化学的な方法では、脂肪酸とグリセリンとをリパーゼの存在下でエステル化反応させることで製造される。この方法で用いるリパーゼとしては、モノグリセリドリパーゼ(MGLP)などの脂肪酸モノグリセリド又は脂肪酸ジグリセリドを基質として認識するリパーゼが好ましい。非特許文献1には、ゲオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)由来MGLPであるEstGtA2が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】PLoS ONE, 2013, 8(10):e76675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より高いMAG合成活性を有するモノアシルグリセロールリパーゼが望まれる。本発明は、エステル化活性の向上したモノアシルグリセロールリパーゼ変異体、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ以下:
配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置における、フェニルアラニン以外のアミノ酸残基;
配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置における、メチオニン以外のアミノ酸残基;及び
配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置における、イソロイシン以外のアミノ酸残基、
からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有する、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドを提供する。
また本発明は、配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつモノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置のフェニルアラニン、132位に相当する位置のメチオニン、及び145位に相当する位置のイソロイシンからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することを含む、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有する変異ポリペプチドの製造方法を提供する。
さらに本発明は、前記モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
さらに本発明は、前記ポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。
さらに本発明は、前記ポリヌクレオチド又は前記ベクターを含有する形質転換体を提供する。
さらに本発明は、前記形質転換体を培養することを含む、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のモノアシルグリセロールリパーゼ変異体は、親酵素と比べてエステル化活性が向上している。本発明は、酵素反応によるモノアシルグリセロール合成の効率を向上させる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0008】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「少なくとも92%の同一性」とは、92%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは98.5%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上の同一性をいう。
【0009】
本明細書において、ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0010】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列上の「相当する位置」又は「相当する領域」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号1のアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列またはヌクレオチド配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行うことができる。Clustal Wは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。また、相当する位置により挟まれた領域、または相当するモチーフからなる領域は、相当する領域とみなされる。
【0011】
当業者であれば、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントを、最適化するようにさらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニンとリシン又はグルタミン;グルタミン酸とアスパラギン酸又はグルタミン;セリンとトレオニン又はアラニン;グルタミンとアスパラギン又はアルギニン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0013】
本明細書において、プロモーター等の制御領域と遺伝子の「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0014】
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3’側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5’側の領域を意味する。
【0015】
本明細書において、細胞の機能や性状、形質に対して使用する用語「本来」とは、当該機能や性状、形質が当該細胞に元から存在していることを表すために使用される。対照的に、用語「外来」とは、当該細胞に元から存在するのではなく、外部から導入された機能や性状、形質を表すために使用される。例えば、「外来」遺伝子又はポリヌクレオチドとは、細胞に外部から導入された遺伝子又はポリヌクレオチドである。外来遺伝子又はポリヌクレオチドは、それが導入された細胞と同種の生物由来であっても、異種の生物由来(すなわち異種遺伝子又はポリヌクレオチド)であってもよい。
【0016】
本明細書に記載の枯草菌の遺伝子の名称は、JAFAN:Japan Functional Analysis Network for Bacillus subtilis(BSORF DB)でインターネット公開([bacillus.genome.ad.jp/]、2006年1月18日更新)された枯草菌ゲノムデータに基づいて記載されている。本明細書に記載される枯草菌の遺伝子番号は、BSORF DBに登録されている遺伝子番号を表す。
【0017】
本明細書において、「モノアシルグリセロールリパーゼ」(MGLPともいう)とは、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドをいう。本明細書において、「モノアシルグリセロールリパーゼ活性」とは、トリアシルグリセロールをジアシルグリセロールと脂肪酸に分解する活性及びジアシルグリセロールをモノアシルグリセロールと脂肪酸に分解する活性に比較して、より選択的にモノアシルグリセロールをグリセリンと脂肪酸に分解する活性をいうか、又はグリセリンと脂肪酸との合成反応において、トリアシルグリセロール及びジアシルグリセロールに比較して、より選択的にモノアシルグリセロールを合成する活性をいう。
【0018】
本明細書において、酵素の「エステル化活性」とは、エステル合成反応を触媒する活性をいう。MGLPにおけるエステル化活性の向上は、グリセリンと脂肪酸からのモノアシルグリセロール合成反応の向上をもたらす。
【0019】
本明細書において、ポリペプチド変異体の「親」ポリペプチドとは、そのアミノ酸残基に所定の変異がなされることにより、当該ポリペプチド変異体となるポリペプチドをいう。言い換えると、「親」ポリペプチドとは、ポリペプチド変異体が変異される前のポリペプチドである。同様に、変異ポリヌクレオチドの「親」ポリヌクレオチドとは、そのヌクレオチドに所定の変異がなされることにより、当該変異ポリヌクレオチドとなるポリヌクレオチドをいう。言い換えると、「親」ポリヌクレオチドとは、変異ポリヌクレオチドが変異される前のポリヌクレオチドである。
【0020】
本発明は、エステル化活性が向上したMGLP変異体、及びその製造方法を提供する。
【0021】
一実施形態において、本発明は、MGLP変異体の製造方法を提供する。当該本発明の方法は、親MGLPにおいて、配列番号1のアミノ酸配列の29位、132位及び145位に相当する位置のアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することを含む。
【0022】
本発明のMGLP変異体の親MGLPの一例としては、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドの例としては、ゲオバチルス・サーモデニトリフィカンス由来MGLPであるEstGtA2(GenBank: AEN92268.1)が挙げられる。EstGtA2は、Bacterial Lypolytic Enzyme Family XV(非特許文献1)に属するMGLPである。該親MGLPの別の一例としては、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつモノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0023】
該親MGLPは、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置にフェニルアラニンを有するか、配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置にメチオニンを有するか、又は配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置にイソロイシンを有する。より好ましくは、該親MGLPは、配列番号1のアミノ酸配列の29位及び132位に相当する位置に、それぞれフェニルアラニン及びメチオニンを有するか、配列番号1のアミノ酸配列の29位及び145位に相当する位置に、それぞれフェニルアラニン及びイソロイシンを有するか、又は配列番号1のアミノ酸配列の132位及び145位に相当する位置に、それぞれのメチオニン及びイソロイシンを有する。このとき、好ましくは該29位に相当する位置の残基はチロシンではなく、該132位に相当する位置の残基はロイシンではなく、該145位に相当する位置の残基はアラニンではない。さらに好ましくは、該親MGLPは、配列番号1のアミノ酸配列の29位、132位及び145位に相当する位置に、それぞれフェニルアラニン、メチオニン及びイソロイシンを有する。
【0024】
該親MGLPから本発明の変異体を製造する場合、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置のフェニルアラニンが、チロシンに置換される。また好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置のメチオニンが、ロイシンに置換される。また好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置のイソロイシンが、アラニンに置換される。本発明によるMGLP変異体の製造においては、上述した29位、132位及び145位に相当する位置における置換のうち、いずれか1種類の置換のみが行われてもよく、又はいずれか2種もしくは3種類の置換が組み合わせて行われてもよい。
【0025】
本発明はまた、MGLP変異体を提供する。本発明のMGLP変異体は、配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列に対して、配列番号1のアミノ酸配列の29位、132位及び145位に相当する位置のアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列からなる、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドである。好ましくは、該置換前の配列番号1のアミノ酸配列の29位、132位及び145位に相当する位置のアミノ酸残基は、それぞれフェニルアラニン、メチオニン、及びイソロイシンである。
【0026】
また本発明のMGLP変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ以下:
配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置における、フェニルアラニン以外のアミノ酸残基、好ましくはチロシン;
配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置における、メチオニン以外のアミノ酸残基、好ましくはロイシン;及び
配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置における、イソロイシン以外のアミノ酸残基、好ましくはアラニン、
からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有する、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドである。本発明のMGLP変異体の好ましい例としては、配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0027】
一実施形態において、本発明のMGLP変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置にフェニルアラニン以外のアミノ酸残基を有する、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドである。好ましくは、該MGLP変異体において、該29位に相当する位置のアミノ酸残基はチロシンである。好ましくは、該MGLP変異体における配列番号1のアミノ酸配列の132位及び145位に相当する位置のアミノ酸残基は、それぞれメチオニン及びイソロイシンである。
【0028】
一実施形態において、本発明のMGLP変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置にメチオニン以外のアミノ酸残基を有する、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドである。好ましくは、該MGLP変異体において、該132位に相当する位置のアミノ酸残基はロイシンである。好ましくは、該MGLP変異体における配列番号1のアミノ酸配列の29位及び145位に相当する位置のアミノ酸残基は、それぞれフェニルアラニン及びイソロイシンである。
【0029】
一実施形態において、本発明のMGLP変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置にイソロイシン以外のアミノ酸残基を有する、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドである。好ましくは、該MGLP変異体において、該145位に相当する位置のアミノ酸残基はアラニンである。好ましくは、該MGLP変異体における配列番号1のアミノ酸配列の29位及び132位に相当する位置のアミノ酸残基は、それぞれフェニルアラニン及びメチオニンである。
【0030】
あるいは、本発明のMGLP変異体は、上述した29位、132位及び145位に相当する位置における変異を、いずれか2つ又は3つ組み合わせて有していてもよい。好ましい例として、該29位に相当する位置における変異と、該132位に相当する位置における変異との組み合わせ、該29位に相当する位置における変異と、該145位に相当する位置における変異との組み合わせ、該132位に相当する位置における変異と、該145位に相当する位置における変異との組み合わせ、及び、該29位に相当する位置における変異と、該132位に相当する位置における変異と、該145位に相当する位置における変異との組み合わせ、が挙げられる。
【0031】
従って、一実施形態において、本発明のMGLP変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置にフェニルアラニン以外のアミノ酸残基、好ましくはチロシンを有し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置にメチオニン以外のアミノ酸残基、好ましくはロイシンを有する、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドである。好ましくは、該MGLP変異体における配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置のアミノ酸残基はイソロイシンである。
【0032】
別の一実施形態において、本発明のMGLP変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置にフェニルアラニン以外のアミノ酸残基、好ましくはチロシンを有し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置にイソロイシン以外のアミノ酸残基、好ましくはアラニンを有する、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドである。好ましくは、該MGLP変異体における配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置のアミノ酸残基はメチオニンである。
【0033】
別の一実施形態において、本発明のMGLP変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置にメチオニン以外のアミノ酸残基、好ましくはロイシンを有し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置にイソロイシン以外のアミノ酸残基、好ましくはアラニンを有する、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドである。好ましくは、該MGLP変異体における配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基はフェニルアラニンである。
【0034】
別の一実施形態において、本発明のMGLP変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置にフェニルアラニン以外のアミノ酸残基、好ましくはチロシンを有し、配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置にメチオニン以外のアミノ酸残基、好ましくはロイシンを有し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置にイソロイシン以外のアミノ酸残基、好ましくはアラニンを有する、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドである。
【0035】
本発明において、親MGLPのアミノ酸残基を変異させる手段としては、当技術分野で公知の各種変異導入技術を使用することができる。例えば、親MGLPのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(以下、親遺伝子ともいう)において、変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を、変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列に変異させ、さらにその変異遺伝子からタンパク質を発現させることにより、目的のMGLP変異体を得ることができる。
【0036】
親遺伝子への目的の変異の導入は、基本的には、当業者に周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行うことができる。部位特異的変異導入法は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法などの任意の手法により行うことができる。市販の部位特異的変異導入用キット(例えば、Stratagene社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit等)を使用することもできる。
【0037】
親遺伝子への部位特異的変異導入は、最も一般的には、導入すべきヌクレオチド変異を含む変異用プライマーを用いて行うことができる。該変異用プライマーは、親遺伝子における変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を含む領域にアニーリングし、かつその変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)に代えて変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)を有するヌクレオチド配列を含むように設計すればよい。変異前及び変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)は、当業者であれば通常の教科書等に基づいて適宜認識し選択することができる。あるいは、部位特異的変異導入は、導入すべきヌクレオチド変異を含む相補的な2つのプライマーを別々に用いて変異部位の上流側及び下流側をそれぞれ増幅したDNA断片を、SOE(splicing by overlap extension)-PCR(Gene,1989,77(1):p61-68)により1つに連結する方法を用いることもできる。
【0038】
親遺伝子を含む鋳型DNAは、上述したEstGtA2を産生するゲオバチルス・サーモデニトリフィカンスなどから、常法によりゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって、調製することができる。あるいは、親MGLPのアミノ酸配列に基づいて、対応するヌクレオチド配列を化学合成して鋳型DNAとして用いてもよい。必要に応じて、親遺伝子は、後述するMGLP変異体産生用の形質転換体の種にあわせて、コドン至適化されてもよい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。コドン至適化された親遺伝子の例としては、バチルス属菌用にコドン至適された、配列番号2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0039】
変異用プライマーは、ホスホロアミダイト法(Nucleic Acids R4esearch,1989,17:7059-7071)等の周知のオリゴヌクレオチド合成法により作製することができる。そのようなプライマー合成は、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成装置(ABI社製など)を用いて実施することもできる。該変異用プライマーを含むプライマーセットを使用し、親遺伝子を鋳型DNAとして上述のような部位特異的変異導入を行うことにより、目的の変異を有するMGLP変異体をコードするポリヌクレオチドを得ることができる。
【0040】
したがって、本発明はまた、本発明のMGLP変異体をコードするポリヌクレオチドを提供する。当該本発明のポリヌクレオチドは、一本鎖又は2本鎖のDNA、cDNA、RNAもしくは他の人工核酸を含み得る。該DNA、cDNA及びRNAは、化学合成されていてもよい。また当該本発明のポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレーム(ORF)に加えて、非翻訳領域(UTR)のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。また当該本発明のポリヌクレオチドは、MGLP変異体産生用の形質転換体の種にあわせて、コドン至適化されていてもよい。
【0041】
本発明はまた、当該本発明のMGLP変異体をコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。該ベクターは、該本発明のポリヌクレオチドを常法により任意のベクター中に挿入することにより作製することができる。該ベクターの種類は特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクター等の任意のベクターであってよい。また該ベクターは、限定ではないが、好ましくは、細菌内、とりわけバチルス属細菌内で増幅可能なベクターであり、より好ましくは、バチルス属細菌内で導入遺伝子の発現を誘導可能な発現ベクターである。中でも、バチルス属細菌と他の生物のいずれでも複製可能なベクターであるシャトルベクターは、本発明のMGLP変異体を組換え生産する上で好適に用いることができる。好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、pHA3040SP64、pHSP64R又はpASP64(特許第3492935号)、pHY300PLK(大腸菌と枯草菌の両方を形質転換可能な発現ベクター;Jpn J Genet,1985,60:235-243)、pAC3(Nucleic Acids Res,1988,16:8732)等のシャトルベクター;pUB110(J Bacteriol,1978,134:318-329)、pTA10607(Plasmid,1987,18:8-15)等のバチルス属細菌の形質転換に利用可能なプラスミドベクター、等が挙げられる。また大腸菌由来のプラスミドベクター(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC57、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)を用いることもできる。
【0042】
本発明のMGLP変異体を組換え生産する場合、当該ベクターは発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターは、転写プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位等の宿主生物における発現に必須な各種エレメント;ポリリンカー、エンハンサー等のシスエレメント;ポリA付加シグナル;リボソーム結合配列(SD配列);薬剤(例えばアンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール等)耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子、などの有用な配列を必要に応じて含み得る。あるいは、本発明のMGLP変異体をコードするポリヌクレオチドが、上記の有用な配列を含んでいてもよい。
【0043】
本発明はまた、本発明のMGLP変異体をコードするポリヌクレオチド又はそれを含有するベクターを含む、形質転換体を提供する。該形質転換体は、本発明のMGLP変異体をコードするポリヌクレオチド、又はそれを含有するベクターを宿主に導入することにより製造することができる。
【0044】
当該形質転換体の宿主としては、枯草菌等のバチルス属(Bacillus)菌や、クロストリジウム属(Clostridium)菌、酵母などが挙げられ、このうちバチルス属菌が好ましく、枯草菌又はその変異株がより好ましい。したがって、本発明の形質転換体は、好ましくは組換えバチルス属細菌であり、より好ましくは枯草菌又はその変異株の組換え体である。枯草菌変異株としては、aprXと、aprE、nprB、nprE、bpr、vpr、mpr、epr及びwprAから選択される遺伝子とを欠失した株(特開2006-174707)などが挙げられる。
【0045】
ポリヌクレオチドやベクターの宿主細胞への導入には、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーティクルガン法、PEG法等の周知の形質転換技術を適用することができる。例えばバチルス属細菌に適用可能な方法としては、コンピテントセル形質転換法(J Bacteriol,1967,93:1925-1937)、エレクトロポレーション法(FEMS Microbiol Lett,1990,55:135-138)、プロトプラスト形質転換法(Mol Gen Genet,1979,168:111-115)、Tris-PEG法(J Bacteriol,1983,156:1130-1134)などが挙げられる。
【0046】
当該本発明の形質転換体を培養することにより、本発明のMGLP変異体を製造することができる。したがって、本発明はまた、本発明の形質転換体を用いるMGLP変異体の製造方法を提供する。MGLP変異体製造のための当該形質転換体の培養は、当該分野の一般的な方法に従って行うことができる。例えば、該形質転換体がバチルス属菌である場合、その培養のための培地は、バチルス属菌の生育に必要な炭素源、及び無機窒素源もしくは有機窒素源を含む。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖、メタノールなどが挙げられる。無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが挙げられる。必要に応じて、該培地は、他の栄養素、例えば無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、カナマイシン、スペクチノマイシン、エリスロマイシン等)などを含んでいてもよい。培養条件、例えば温度、通気撹拌条件、培地のpH及び培養時間等は、微生物の種や形質、培養スケール等に応じて適宜選択され得る。
【0047】
あるいは、本発明のMGLP変異体は、無細胞翻訳系を使用して、本発明のMGLP変異体をコードするポリヌクレオチド又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸等の試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。
【0048】
当該形質転換体又は無細胞翻訳系で製造された本発明のMGLP変異体は、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、細胞の破砕、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、培養液、細胞破砕液、無細胞翻訳系の反応液などから取得することができる。
【0049】
本発明のMGLP変異体は、上述したアミノ酸残基の置換前のMGLP(親MGLP)に対して、エステル化活性が向上している。例えば、本発明のMGLP変異体のエステル化活性は、親MGLPに対して、好ましくは120%以上、より好ましくは130%以上であり得る。本発明のMGLP変異体は、モノアシルグリセロール合成反応の効率を向上させる。
【0050】
したがって、本発明の別の実施形態は、MGLPのエステル化活性向上方法である。例えば、当該方法は、上述した親MGLPにおいて、配列番号1のアミノ酸配列の29位、132位及び145位に相当する位置のアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することを含む方法である。当該方法の詳細は、上述した本発明のMGLP変異体の製造方法と同様である。
【0051】
本発明はまた、例示的実施形態として以下の物質、製造方法、用途、方法等を包含する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0052】
〔1〕配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ以下:
配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置における、フェニルアラニン以外のアミノ酸残基;
配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置における、メチオニン以外のアミノ酸残基;及び
配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置における、イソロイシン以外のアミノ酸残基、
からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を有する、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチド。
〔2〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置にチロシンを有する、〔1〕記載のポリペプチド。
〔3〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置にロイシンを有する、〔1〕又は〔2〕記載のポリペプチド。
〔4〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置にアラニンを有する、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載のポリペプチド。
〔5〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置にチロシンを有し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置にロイシンを有する、〔1〕記載のポリペプチド。
〔6〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置にチロシンを有し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置にアラニンを有する、〔1〕記載のポリペプチド。
〔7〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置にロイシンを有し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置にアラニンを有する、〔1〕記載のポリペプチド。
〔8〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置にチロシンを有し、配列番号1の132位に相当する位置にロイシンを有し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置にアラニンを有する、〔1〕記載のポリペプチド。
〔9〕好ましくは、親ポリペプチドと比べてエステル化活性が向上している、〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載のポリペプチド。
【0053】
〔10〕〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
〔11〕〔10〕記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
〔12〕〔10〕記載のポリヌクレオチド又は〔11〕記載のベクターを含有する形質転換体。
〔13〕好ましくはバチルス属菌であり、より好ましくは枯草菌又はその変異株である、〔12〕記載の形質転換体。
〔14〕〔12〕又は〔13〕記載の形質転換体を培養することを含む、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドの製造方法。
【0054】
〔15〕配列番号1のアミノ酸配列又はこれと少なくとも92%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつモノアシルグリセロールリパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置のフェニルアラニン、132位に相当する位置のメチオニン、及び145位に相当する位置のイソロイシンからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することを含む、モノアシルグリセロールリパーゼ活性を有する変異ポリペプチドの製造方法。
〔16〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置のフェニルアラニンをチロシンに置換することを含む、〔15〕に記載の方法。
〔17〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置のメチオニンをロイシンに置換することを含む、〔15〕又は〔16〕記載の方法。
〔18〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置のイソロイシンをアラニンに置換することを含む、〔15〕~〔17〕のいずれか1項記載の方法。
〔19〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置のフェニルアラニンをチロシンに置換し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置のメチオニンをロイシンに置換することを含む、〔15〕記載の方法。
〔20〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置のフェニルアラニンをチロシンに置換し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置のイソロイシンをアラニンに置換することを含む、〔15〕記載の方法。
〔21〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置のメチオニンをロイシンに置換し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置のイソロイシンをアラニンに置換することを含む、〔15〕記載の方法。
〔22〕好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の29位に相当する位置のフェニルアラニンをチロシンに置換し、配列番号1のアミノ酸配列の132位に相当する位置のメチオニンをロイシンに置換し、かつ配列番号1のアミノ酸配列の145位に相当する位置のイソロイシンをアラニンに置換することを含む、〔15〕記載の方法。
〔23〕好ましくは、前記変異ポリペプチドが、親ポリペプチドと比べてエステル化活性が向上している、〔15〕~〔22〕のいずれか1項記載の方法。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
以下の実施例において、PCRはPrimeSTAR Max Premix(タカラバイオ)を使用して行った。PCRは、98℃で1分間の後、98℃で10秒間、55℃で5秒間、及び72℃で1分間を30サイクル行った。In-fusion法はIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を使用して行った。宿主微生物へのプラスミドの導入は、プロトプラスト法(Mol.Gen.Genet,1979,168:111-115)にて行った。タンパク質生産のための組換え微生物の培養には、LB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl)、又は2×L-マルトース培地(2%トリプトン、1%酵母エキス、1%NaCl、7.5%マルトース、7.5ppm硫酸マンガン4-5水和物)を用いた。表1に、以下の実施例で使用したプライマーの名称とヌクレオチド配列を示す。
【0057】
【0058】
実施例1 MGLP変異体発現組換え枯草菌株の作製
(1)プラスミドpHY-EstGtA2の構築
モノアシルグリセロールリパーゼEstGtA2(配列番号1)をコードする、枯草菌用にコドン至適化した遺伝子(配列番号2)をプラスミドpUC57に挿入したプラスミド(EstGtA2-pUC57)を、GenScript社の人工遺伝子合成サービスを利用して作製した。作製したプラスミドを鋳型とし、プライマーEstGtA2-F及びプライマーEstGtA2-R(配列番号3及び4)を用いてPCRを行った。同様に、WO2006/068148A1の実施例7に記載のプラスミドpHY-S237を鋳型とし、プライマーpHY-S237-F及びpHY-S237-R(配列番号5及び6)を使用してPCR反応を行った。それぞれのPCR産物をDpnI(New England Biolabs)にてDpnI処理を行った。得られた両断片を適量混合し、In-fusion法を用いてプラスミド(pHY-EstGtA2)を合成した。
【0059】
(2)プラスミドpHY-EstGtA2の抽出
(1)で得られたIn-Fusion反応液を用いて、ECOSTM Competent E.coli DH5α(ニッポンジーン、310-06236)を形質転換した。形質転換処理した細胞をアンピシリンを含有するLBプレートに塗抹し、37℃で一晩培養した。プレート上に形成したコロニーをアンピシリンを含むLB培地に植菌して、一晩培養した後、菌体を回収し、High Pure Plasmid Isolation Kit(Roche)を使用してプラスミドpHY-EstGtA2を抽出した。
【0060】
(3)EstGtA2-F29Y発現組換え枯草菌株の作製
(2)で得られたpHY-EstGtA2を鋳型として、変異用プライマーEstGtA2-F29Y-F及びEstGtA2-F29Y-R(配列番号7及び8)を用いてPCRを行った。PCR産物をDpnIにて処理した。得られた断片をプロトプラスト形質転換法にてプロテアーゼ遺伝子9重欠失枯草菌株(Kao9株;プロテアーゼ遺伝子aprE、nprB、nprE、bpr、vpr、mpr、epr、wprA及びaprXが欠失した株、特開2006-174707)に導入し、F29Y変異を有するEstGtA2変異体であるEstGtA2-F29Yを発現する組換え枯草菌株を得た。
【0061】
(4)他のMGLP変異体発現組換え枯草菌株の作製
(3)と同様の手順で、変異用プライマーとして表1記載の変異用プライマーを用いて、M132L変異を有するEstGtA2変異体EstGtA2-M132L、及びI145A変異を有するEstGtA2変異体EstGtA2-I145Aを発現する組換え枯草菌株を取得した。
【0062】
実施例2 MGLP変異体の製造
実施例1で得られた組換え枯草菌株を3mL/大試験管(φ18×180mm)中のLB培地で30℃、15時間、250rpmで振盪培養した。得られた培養液0.02mLを20mL/500mL容ヒダ付三角フラスコ(バイオット)の2×L-マルトース培地に接種し、30℃で96時間、210rpmで振盪培養した。培養後、培養液を遠心分離(8000rpm×30分)し、得られた上清をフィルター(0.45μm、PVDF、メルクミリポア製)でろ過して菌体を除いた。ろ過上清をビバスピン20(ザルトリウス)にて濃縮後、エコノパック(登録商標)10DG脱塩カラム(バイオラッド)を用いて50mMリン酸緩衝液(pH6.0)へと置換した。得られた溶液を60℃で10分間加熱処理することで枯草菌宿主由来のリパーゼを不活化し、遠心分離(8000rpm×30分)により凝集物を除去した。遠心後の上清を分取し、これを酵素液として用いた。酵素濃度はQuick StartTM Bradford 1×Dye Ragent(Bio-Rad)を用いて測定した。アルブミンタンパク質溶液を用いて作成した検量線により酵素濃度を測定した。50mMリン酸緩衝液(pH6.0)を用いて酵素液の濃度を適宜調整した。
【0063】
実施例3 MGLP変異体の酵素活性
(エステル化反応)
実施例2で得られた酵素液を用いてMGLP変異体のエステル化活性を調べた。リップ付試験管(φ15×105mm)にグリセリン0.16g及びオレイン酸0.25gを添加し、次いで8N KOHを8μL添加した。次いで実施例2で調製したEstGtA2(親)もしくは変異体の酵素液(3.5g/Lに調整)を添加して反応液を調製した。試験管のキャップを閉めて反応槽(ケミストプラザCP-1000;柴田化学)にセットし、反応液を800rpmで撹拌しながら、50℃で3又は6時間エステル化反応させた。
【0064】
(エステル化率の計算)
エステル化反応後の反応液約10μLを試験管に分取し、クロロホルム1mL、メタノール1mL、及び脱イオン水1mLを添加して撹拌し、遠心分離(3000rpm、5分)した。有機層(下層)をねじ口試験管に回収し、窒素ガスで乾固した。得られた乾固物にTMSI-H(ジーエルサイエンス)を添加し、80℃で10分間反応させた。反応物にヘキサン1mL、飽和NaCl溶液1mLを添加して撹拌し、遠心分離(3000rpm、5分)した後、ヘキサン層(上層)を回収することで、脂肪酸グリセリドのトリメチルシリル誘導体を得た。得られたトリメチルシリル誘導体を、下記に示す条件下でガスクロマトグラフィー(GC)分析した。
<ガスクロマトグラフィー条件>
分析装置:(Agilent)
キャピラリーカラム:DB1-M 30m×200μm×0.25μm(J&W Scientific)
移動相:ヘリウム
カラム内流量:0.25mL/分
昇温プログラム:80℃(1分)→20℃/分→340℃(10分)
注入口:スプリット注入(スプリット比:50:1)
検出器温度:340℃
検出器:FID
【0065】
GC分析で検出された遊離脂肪酸(FA)、モノアシルグリセロール(MAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、及びトリアシルグリセロール(TAG)のピークエリアに基づいて、下記の式に従って反応液のMAG選択率及びエステル化率を計算した。
MAG選択率(%)=MAG/(MAG+DAG+TAG)×100
エステル化率(%)=(MAG+DAG+TAG)/(FA+MAG+DAG+TAG)×100
算出したMAG選択率及びエステル化率の平均値と標準偏差を求めた(n=2)。さらにエステル化率の平均値をもとに、親酵素に対するエステル化率の相対値を求めた。結果を表2に示す。変異体では親酵素に比べて脂肪酸エステル合成が亢進していた。
【0066】
【配列表】