(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】圧電デバイス内のバイポーラ境界領域
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20240523BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20240523BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H3/02 B
B81B3/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019225461
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-11-09
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517090646
【氏名又は名称】コーボ ユーエス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100162846
【氏名又は名称】大牧 綾子
(72)【発明者】
【氏名】ジョティ・スワロープ・サドゥー
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・ロザムンド
(72)【発明者】
【氏名】アリレザ・タージク
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0288121(US,A1)
【文献】特開2004-221550(JP,A)
【文献】特開2007-036915(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0012568(US,A1)
【文献】国際公開第2013/175985(WO,A1)
【文献】特開2008-109573(JP,A)
【文献】特開2002-076822(JP,A)
【文献】特開2001-185984(JP,A)
【文献】特開2000-312129(JP,A)
【文献】特開2005-353876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00- 9/74
H03H 3/007-3/06
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電デバイスであって、
● 基礎構造と、
● 前記基礎構造を覆うトランスデューサであって、
● 底部電極と、
● 前記底部電極を覆う圧電層であって、圧電材料を備える、圧電層と、
● 前記圧電層を覆う頂部電極と、を備える、トランスデューサと、を備え、
● 前記圧電層が、前記トランスデューサの活性領域内の活性部分と、前記トランスデューサの境界領域内のバイポーラ境界部分と、を有し、
●
前記活性領域がユニポーラであるように、前記活性部分内の前記圧電材料が、第1の分極を有し、
● 前記バイポーラ境界部分が、第1のサブ部分と、前記第1のサブ部分を覆うまたはその下にある第2のサブ部分と、を備え、
● 前記第1のサブ部分内の前記圧電材料が、前記第1の分極を有し、前記第2のサブ部分内の前記圧電材料が、前記第1の分極と反対の第2の分極を有する、圧電デバイス。
【請求項2】
前記第1のサブ部分と前記第2のサブ部分との間に第1の反転層をさらに備える、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記第1の反転層が、前記境界領域内に質量負荷を提供する、請求項2に記載の圧電デバイス。
【請求項4】
前記境界領域内に、および前記圧電層を覆う境界リングをさらに備え、前記境界リングが、質量負荷を提供する、請求項3に記載の圧電デバイス。
【請求項5】
前記境界領域内に、および前記圧電層を覆う境界リングをさらに備え、前記境界リングが、質量負荷を提供する、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項6】
前記圧電材料が、金属元素および非金属元素を含む化合物から形成される、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項7】
前記金属元素が、III族元素で
ある、請求項
6に記載の圧電デバイス。
【請求項8】
前記圧電材料が、スカンジウム、エルビウム、マグネシウム、およびハフニウムからなる群から選択される遷移金属でドープされたAlNを含む、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項9】
前記圧電材料は、前記境界領域が外側領域と前記活性領域との間にあるように、前記外側領域内に外側部分を有する、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項10】
前記
圧電層の外側部分内の前記圧電材料が、前記第1の分極を有する、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項11】
前記基礎構造は、前記
圧電デバイスがソリッドマウント共振器ベースのバルク音響波共振器であるように、基板と、前記基板を覆う複数の反射体層を備える反射器と、を備える、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項12】
前記基礎構造は、前記
圧電デバイスが圧電薄膜共振器(FBAR)であるように、エアギャップを前記トランスデューサの下側に提供する基板を備える、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項13】
前記バイポーラ境界部分が、前記第1のサブ部分および前記第2のサブ部分を覆ってまたはその下に、少なくとも2つの追加のサブ部分を備え、前記少なくとも2つの追加のサブ部分が、前記第1の分極と前記第2の分極との間を交互する、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項14】
前記圧電層の外側部分が、前記第1の分極および前記第2の分極のうちの1つのみを有する、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項15】
前記第1のサブ部分の厚さと前記第2のサブ部分の厚さとの比が、0.7:1.0~1.3:1.0である、請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項16】
圧電デバイスを形成するための方法であって、
● 基礎構造を提供することと、
● 前記基礎構造を覆って底部電極を形成することと、
● 前記底部電極を覆って、かつ外側領域、境界領域、および活性領域を通して、圧電層の下部分を形成することであって、前記活性領域が、前記境界領域の内側にあり、前記境界領域が、前記外側領域の内側にある、形成することと、
● 前記境界領域内に、前記圧電層の前記下部分を覆って反転層を形成することと、
● 前記反転層を覆って、かつ前記外側領域、前記境界領域、および前記活性領域を通して、前記圧電層の上部分を形成することであって、
● 前記反転層の下側の、および前記境界領域内の前記圧電層の前記下部分が、第1の分極を有し、
● 前記反転層を覆う、および前記境界領域内の前記圧電層の前記上部分が、前記第1の分極と反対の第2の分極を有する、前記圧電層の上部分を形成することと、
● 前記圧電層の前記上部分を覆う頂部電極を形成することと、を含
み、
前記圧電層の活性部分が前記第1の分極および前記第2の分極のうち1つのみを有する、方法。
【請求項17】
前記圧電層の活性部分およ
び外側部分が、それぞれ、前記第1の分極および前記第2の分極のうちの1つのみを有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記圧電層の外側部分が、前記第1の分極および前記第2の分極のうちの1つのみを有する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記基礎構造は、前記
圧電デバイスがソリッドマウント共振器ベースのバルク音響波共振器であるように、基板と、前記基板を覆う複数の反射体層を備える反射器と、を備える、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記基礎構造は、前記
圧電デバイスが圧電薄膜共振器(FBAR)であるように、エアギャップをトランスデューサの下側に提供する基板を備える、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記反転層が、質量負荷を前記境界領域内に提供する、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
第1のサブ部分の厚さと第2のサブ部分の厚さとの比が、0.7:1~1.3:1.0である、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本明細書は、2018年12月14日に出願された仮特許出願第62/779,605号の利益を主張するものであり、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、圧電フィルムを用いた圧電デバイスに関し、特に、バイポーラ境界領域を有する圧電デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
音響共振器、特にバルク音響波(BAW)共振器は、数多くの高周波通信用途で使用されている。特に、BAW共振器は、1.5GHzを超える周波数で動作し、かつ平坦な通過帯域を必要とするフィルタネットワークに用いられることが多く、非常に急な勾配のフィルタスカート、ならびに、通過帯域の上端部および下端部の角張った肩部を有し、かつ通過帯域外の優れた阻止を提供する。BAWベースのフィルタはまた、挿入損失が比較的低く、動作の周波数が増加するにつれてサイズが減少する傾向を有し、かつ広い温度範囲にわたって比較的安定している。よって、BAWベースのフィルタは、数多くの第3世代(3G)無線デバイスおよび第4世代(4G)無線デバイスのためのフィルタの選択肢であり、また、第5世代(5G)無線デバイスのためのフィルタ用途の中心となるであろう。大部分のこれらの無線デバイスは、セルラ、ワイヤレスフィデリティ(Wi-Fi)、Bluetooth(登録商標)、および/または同じ無線デバイス上の近距離無線通信をサポートし、よって、極めて困難なフィルタ処理要求をもたらす。これらの要求は、無線デバイスの複雑さを増加させ続け、一方で、BAW共振器およびBAWベースのフィルタの性能を高めること、ならびにそれらと関連付けられるコストおよびサイズを減少させることに対する必要性が常に存在している。
【発明の概要】
【0004】
音響デバイスは、基礎構造と、基礎構造を覆って提供されるトランスデューサと、を含む。基礎構造は、頂部電極と底部電極との間に圧電層を含む。圧電層は、トランスデューサの活性領域内の活性部分と、トランスデューサの境界領域内のバイポーラ境界部分と、を有する。活性部分内の圧電材料は、第1の分極を有する。バイポーラ境界部分は、第1のサブ部分と、第1のサブ部分の上側または下側のどちらかに存在する第2のサブ部分と、を有する。第1のサブ部分内の圧電材料は、第1の分極を有し、第2のサブ部分内の圧電材料は、第1の分極と反対の第2の分極を有する。
【0005】
当業者は、添付の図面の図と関連付けられた以下の「発明を実施するための形態」を読んだ後に、本開示の範囲を理解し、その追加的な態様を認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本明細書に組み込まれ、かつ本明細書の一部を形成する添付図面は、本開示のいくつかの態様を例示し、その説明と共に本開示の原理を説明する役割を果たす。
【0007】
【
図1】従来のバルク音響波(BAW)共振器を例示する図である。
【
図2】理想的なBAW共振器の周波数の関数としての、周波数応答にわたるインピーダンスの大きさおよび位相のグラフである。
【
図3A】様々なBAW共振器構成の位相応答のグラフである。
【
図3B】様々なBAW共振器構成の位相応答のグラフである。
【
図3C】様々なBAW共振器構成の位相応答のグラフである。
【
図4】境界リングを有する従来のBAW共振器を例示する図である。
【
図5A】従来のラダーネットワークの概略図である。
【
図5B】
図5Aの従来のラダーネットワークのBAW共振器の周波数応答、および
図5Aの従来のラダーネットワークの周波数応答のグラフである。
【
図5C】
図5Aの従来のラダーネットワークのBAW共振器の周波数応答、および
図5Aの従来のラダーネットワークの周波数応答のグラフである。
【
図6A】
図5Cにおいて識別される周波数点1、2、3、4、および5における
図5Aのラダーネットワークの回路の同等物である。
【
図6B】
図5Cにおいて識別される周波数点1、2、3、4、および5における
図5Aのラダーネットワークの回路の同等物である。
【
図6C】
図5Cにおいて識別される周波数点1、2、3、4、および5における
図5Aのラダーネットワークの回路の同等物である。
【
図6D】
図5Cにおいて識別される周波数点1、2、3、4、および5における
図5Aのラダーネットワークの回路の同等物である。
【
図6E】
図5Cにおいて識別される周波数点1、2、3、4、および5における
図5Aのラダーネットワークの回路の同等物である。
【
図7】本開示の第1の実施形態による、バイポーラ部分を圧電層の境界領域内に提供する圧電デバイスを例示する図である。
【
図8A】窒化アルミニウムの異なる極性配向をグラフィカルに例示する図である。
【
図8B】窒化アルミニウムの異なる極性配向をグラフィカルに例示する図である。
【
図9A】一実施形態による、境界リングを有する、およびバイポーラ境界部分を有するBAW共振器の、質量負荷による周波数シフトに対する品質係数プロットした図である。
【
図9B】一実施形態による、境界リングを有する、およびバイポーラ境界部分を有するBAW共振器の、質量負荷による周波数シフトに対する境界モード振幅をプロットした図である。
【
図9C】一実施形態による、境界リングおよびバイポーラ境界部分を備えるBAW共振器の境界モードコンテンツを例示する図である。
【
図10A】一実施形態による、直列共振周波数(f
s)付近での、直列共振周波数(f
s)と並列共振周波数(f
p)との間での、および並列共振周波数(f
p)付近での横(スプリアス)モード抑制を例示する図である。
【
図10B】一実施形態による、直列共振周波数(f
s)付近での、直列共振周波数(f
s)と並列共振周波数(f
p)との間での、および並列共振周波数(f
p)付近での横(スプリアス)モード抑制を例示する図である。
【
図10C】一実施形態による、直列共振周波数(f
s)付近での、直列共振周波数(f
s)と並列共振周波数(f
p)との間での、および並列共振周波数(f
p)付近での横(スプリアス)モード抑制を例示する図である。
【
図11】本開示の第2の実施形態による、境界リングおよびバイポーラ部分を圧電層の境界領域内に提供する圧電デバイスを例示する図である。
【
図12】本開示の第3の実施形態による、バイポーラ部分を圧電層の境界領域内に提供する圧電デバイスを例示する図である。
【
図13】本開示の第4の実施態様による、バイポーラ部分を圧電層の境界領域内に提供する圧電デバイスを例示する図である。
【
図14】本開示の第5の実施態様による、バイポーラ部分を圧電層の境界領域内に提供する圧電デバイスを例示する図である。
【
図15】本開示の第6の実施態様による、バイポーラ部分を圧電層の境界領域内に提供する圧電デバイスを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に記載する実施形態は、当業者が本実施形態を実践すること、および本実施形態を実践するための最良の形態を示すことを可能にするために必要な情報を表す。添付図面に照らして以下の説明を読むことで、当業者は、本開示の概念を理解し、本明細書において特に対処されていないこれらの概念の用途を認識するであろう。これらの概念および用途は、本開示および添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることを理解されたい。
【0009】
第1、第2などの用語が、様々な要素を説明するために本明細書で使用され得るが、これらの要素は、これらの用語によって限定されるべきではないことが理解されるであろう。これらの用語は、単に、ある要素を別の要素と区別するために使用される。例えば、本開示の範囲から逸脱することなく、第1の要素を第2の要素と称することができ、同様に、第2の要素を第1の要素と称することができる。本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、関連付けられる列記された項目のうちの1つ以上のいずれかおよび全ての組み合わせを含む。
【0010】
層、領域、または基板などの要素が別の要素の「上に(on)」存在する、または「上へ(onto)」延在すると称される場合、その要素は、他の要素の上に直接存在し得るか、またはその上へ延在し得るか、または介在要素も存在し得ることが理解されるであろう。対照的に、ある要素が、別の要素の「上に直接(directly on)」存在する、または「上へ直接(directly onto)」延在すると称される場合は、いかなる介在要素も存在しない。同様に、層、領域、または基板などの要素が別の要素を「覆って(over)」存在する、または「覆って(over)」延在すると称される場合、その要素は、他の要素を直接覆い得るか、または要素を直接覆って延在し得るか、または介在要素も存在し得ることが理解されるであろう。対照的に、ある要素が、別の要素を「直接覆って(directly over)」存在する、または「直接覆って(directly over)」延在すると称される場合は、いかなる介在要素も存在しない。また、ある要素が、別の要素に「接続されている(connected)」または「連結されている(couple)」と称される場合、その要素は他の要素に直接接続または連結され得るか、または介在要素が存在し得ることも理解されるであろう。対照的に、ある要素が、別の要素に「直接接続されている(directly connected)」または「直接連結されている(directly coupled)」と称される場合、いかなる介在要素も存在しない。
【0011】
「下側(below)」もしくは「上側(above)」、または「上部(upper)」もしくは「下部(lower)」、または「水平(horizontal)」もしくは「垂直(vertical)」などの相対的な用語は、図面に示されるように、ある要素、層、または領域と、別の要素、層、または領域との関係を説明するために本明細書に使用され得る。これらの用語および上で論じた用語は、図面に示された配向に加えて、デバイスの異なる配向を包含することを意図していることが理解されるであろう。
【0012】
本明細書に使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的のものであり、本開示を限定することを意図しない。本明細書で使用される場合、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに指示のある場合を除き、複数形も含むことを意図する。本明細書で使用される場合、「備える(comprises)」、「備えている(comprising)」、「含む(includes)」、および/または「含んでいる(including)」という用語は、述べられる特徴、整数、工程、動作、要素、および/または構成要素の存在を明示するが、1つ以上の他の特徴、整数、工程、動作、要素、構成要素、および/またはそれらの群の存在または追加を排除しないこともさらに理解されるであろう。
【0013】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術的用語および科学的用語を含む)は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用される用語は、本明細書の文脈および関連する技術におけるそれらの意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書でそのように明確に定義されない限り、理想的な意味、または過度に形式的な意味に解釈されないことがさらに理解されるであろう。
【0014】
本開示は、独特な圧電層を有する圧電デバイスおよびその製造方法に関する。圧電デバイスは、基礎構造と、基礎構造を覆って提供されるトランスデューサと、を含む。基礎構造は、頂部電極と底部電極との間に圧電層を含む。圧電層は、トランスデューサの活性領域内の活性部分と、トランスデューサの境界領域内のバイポーラ境界部分と、を有する。活性部分内の圧電材料は、第1の分極を有する。バイポーラ境界部分は、第1のサブ部分と、第1のサブ部分の上側または下側のどちらかに存在する第2のサブ部分と、を有する。第1のサブ部分内の圧電材料は、第1の分極を有し、第2のサブ部分内の圧電材料は、第1の分極と反対の第2の分極を有する。
【0015】
圧電デバイスは、バルク音響波(BAW)共振器などの様々なデバイスに実装することができる。独特な圧電フィルムの詳細を掘り下げる前に、BAW共振器およびその動作の概要を説明する。BAW共振器は、数多くの高周波フィルタ用途において使用される。例示的なBAW共振器10を
図1に例示する。BAW共振器10は、ソリッドマウント共振器型BAW共振器10であり、一般に、基板12と、基板12を覆って載置された反射器14と、反射器14を覆って載置されたトランスデューサ16と、を含む。トランスデューサ16は、反射器14の上に静置されており、また、頂部電極20と底部電極22との間に挟まれた圧電層18を含む。頂部電極20および底部電極22は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)、または同様の物質で形成することができ、圧電層18は、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、または他の適切な圧電材料で形成することができる。
図1では単層を含むように示されているが、圧電層18、頂部電極20、および/または底部電極22は、同じ材料の多層、少なくとも2つの層が異なる材料である多層、または各層が異なる材料である多層を含むことができる。基板12および反射器14の組み合わせは、一般に、BAW共振器10の基礎構造と称され、よって、トランスデューサ16は、基礎構造の上に、またはそれを覆って存在する。
【0016】
図1を続けると、BAW共振器10は、活性領域24および外側領域26に分けられる。活性領域24は、一般に、頂部電極20および底部電極22が重なっているBAW共振器10の区間に対応し、さらに、重なっている頂部電極20および底部電極22の下側の層も含む。外側領域26は、活性領域24を取り囲むBAW共振器10の区間に対応する。活性領域24内に存在する圧電層18の一部分は、活性部分SAと称され、外側領域26内に存在する圧電層18の一部分は、外側部分SOと称される。
【0017】
BAW共振器10の場合、頂部電極20および底部電極22の全体にわたって電気信号を加えることで、圧電層18内に音響波を励起する。これらの音響波は、主に垂直に伝搬する。BAW共振器設計の主たる目的は、これらの垂直に伝搬している音響波をトランスデューサ16内に閉じ込めることである。上方へ進行する音響波は、頂部電極20の頂面の空気-金属境界で反射してトランスデューサ16の中へ戻る。下方へ進行する音響波は、フィルムBAW共振器(FBAR)内でトランスデューサの直下に提供される反射器14で、または空気キャビティ(図示せず)で反射してトランスデューサ16の中へ戻る。
【0018】
反射器14は、典型的に、反射体層(RL)28のスタックによって形成され、反射体層は、材料組成を交互にして、隣接する反射体層28の接合部において相当な反射係数を生成する。典型的に、反射体層28は、タングステン(W)および二酸化ケイ素(SiO
2)などの高音響インピーダンスおよび低音響インピーダンスを有する材料を交互にする。
図1では反射体層28が5つのみ例示されているが、反射体層28の数および反射器14の構造は、設計によって異なる。
【0019】
比較的理想的なBAW共振器10の周波数の関数として、電気インピーダンスの大きさ(Z)および位相(φ)を
図2に提供する。電気インピーダンスの大きさ(Z)を実線によって例示し、一方で、電気インピーダンスの位相(φ)を点線によって例示する。BAW共振器10の独特な特徴は、共振周波数および反共振周波数を有することである。共振周波数は、典型的に、直列共振周波数(f
s)と称され、反共振周波数は、典型的に、並列共振周波数(f
p)と称される。直列共振周波数(f
s)は、BAW共振器10のインピーダンスまたはリアクタンスの大きさがゼロに近づいたときに起こる。並列共振周波数(f
p)は、BAW共振器10のインピーダンスまたはリアクタンスの大きさが非常に高いレベルでピークに達したときに起こる。一般に、直列共振周波数(f
s)は、圧電層18の厚さ、ならびに底部電極20および頂部電極22の質量の関数である。
【0020】
位相の場合、BAW共振器10は、直列共振周波数(fs)と並列共振周波数(fp)との間で、90°位相シフトを提供するインダクタンスのように作用する。対照的に、BAW共振器10は、直列共振周波数(fs)の下側で、および並列共振周波数(fp)の上側で、-90°位相シフトを提供するキャパシタンスのように作用する。BAW共振器10は、直列共振周波数(fs)において非常に低いほぼゼロの抵抗を示し、並列共振周波数(fp)において非常に高い抵抗を示す。BAW共振器10の電気的性質は、比較的短い周波数範囲にわたって超高Q(品質係数)のインダクタンスに好適であり、特に約1.8GHz以上の周波数で動作する高周波フィルタネットワークにおいて非常に有益であることが証明されている。
【0021】
残念なことに、
図2の位相(φ)曲線は、理想的な位相曲線を表す。実際には、この理想に近づくことは困難である。
図1のBAW共振器10の典型的な位相曲線を
図3Aに例示する。滑らかな曲線である代わりに、
図3Aの位相曲線は、直列共振周波数(f
s)の下側に、直列共振周波数(f
s)と並列の共振周波数(f
p)との間に、および並列の共振周波数(f
p)の上側に、リップルを含む。リップルは、スプリアスモードから生じ、スプリアスモードは、対応する周波数において起こるスプリアス共振によって生じる。BAW共振器10における大部分の音響波は、垂直に伝搬するが、トランスデューサ16に関する様々な境界条件は、横定常波と称される横(水平)音響波の伝搬をもたらす。これらの横定常波の存在は、BAW共振器10と関連付けられた電位Qを低減させる。
【0022】
図4に例示されるように、境界(BO)リング30は、一定のスプリアスモードを抑制するために、頂部電極20の上に、または頂部電極内に形成される。BOリング30によって抑制されるスプリアスモードは、
図3Bの位相曲線の円AおよびBによって強調されるように、直列共振周波数(f
s)の上側にある。円Aは、位相曲線の通過帯域における、直列共振周波数(f
s)と並列の共振周波数(f
p)との間に存在するリップルの、したがってスプリアスモードの抑制を示す。円Bは、並列共振周波数(f
p)の上側リップルの、したがってスプリアスモードの抑制を示す。特に、直列共振周波数(f
s)と並列共振周波数(f
p)との間で、および、並列共振周波数(f
p)の上側で滑らかなまたは実質的にリップルを含まない位相曲線によって証明されるように、並列共振周波数(f
p)の直下の通過帯域の上方肩部のスプリアスモード、および通過帯域の上側のスプリアスモードが抑制されている。
【0023】
BOリング30は、活性領域24の外周の周りに延在する頂部電極20の一部分の質量負荷に対応する。BOリング30は、頂部電極20の肥厚部、または頂部電極20を覆う適切な材料の追加層の適用に対応することができる。BOリング30を含み、BOリング30の下側に存在するBAW共振器10の一部分は、境界(BO)領域32と称される。BO領域32内の圧電層18の一部分は、境界部分SBと称される。したがって、BO領域32は、一般に、活性領域24と外側領域26との間に存在し、境界部分SBは、活性部分SAと外側部分SOとの間に存在する。
【0024】
図3Bに示されるように、BOリング30は、直列共振周波数(f
s)の上側のスプリアスモードを抑制する際に有効であるが、BOリング30が一般に直列共振周波数(f
s)の下側のスプリアスモードに及ぼす影響ははるかに少ない。直列共振周波数(f
s)の下側にあるスプリアスモードを抑制するために、しばしば、アポダイゼーションと称される技術を使用する。
【0025】
アポダイゼーションは、BAW共振器10内の、または少なくともBAW共振器のトランスデューサ16内の、任意の左右対称性を低減させるように機能する。左右対称性は、トランスデューサ16のフットプリントに対応し、左右対称性を回避することは、フットプリントの両側部と関連付けられた対称性を回避することに対応する。例えば、正方形または長方形の代わりに五角形に対応するフットプリントを選択することができる。対称性を回避することは、トランスデューサ16の横定常波の存在を低減させることを補助する。
図3Cの円Cは、直列共振周波数(f
s)の下側でスプリアスモードが抑制される、アポダイゼーションの効果を例示する。いかなるBOリング30も提供されないと仮定すると、
図3Cにおいて、アポダイゼーションが直列共振周波数(f
s)の上側のスプリアスモードを抑制できていないことが容易に分かる。よって、典型的BAW共振器10は、アポダイゼーションおよびBOリング30を用いる。
【0026】
前述のように、BAW共振器10は、しばしば、高周波で動作し、かつ高Q値を必要とするフィルタネットワークで使用される。基本的なラダーネットワークLNを
図5Aに例示する。ラダーネットワークLNは、従来のラダー構成で配設された、2つの直列共振器B
SERと、2つのシャント共振器B
SHと、を含む。
図5Bに示されるように、典型的に、直列共振器B
SERは、同じまたは類似する第1の周波数応答を有し、シャント共振器B
SHは、第1の周波数応答と異なる、同じまたは類似する第2の周波数応答を有する。多くの用途において、シャント共振器B
SHは、直列共振器B
SERの離調バージョンである。その結果、直列共振器B
SERおよびシャント共振器B
SHの周波数応答は、一般に、非常に類似しているが、シャント共振器の並列共振周波数(f
p,SH)が直列共振器B
SERの直列共振周波数(f
s,SER)に近似するように、互いに対してシフトされる。シャント共振器B
SHの直列共振周波数(f
s,SH)は、直列共振器B
SERの直列共振周波数(f
s,SER)未満であることに留意されたい。シャント共振器B
SHの並列共振周波数(f
p,SH)は、直列共振器B
SERの並列共振周波数(f
p,SER)未満である。
【0027】
図5Cは、
図5Bと関連付けられ、ラダーネットワークLNの応答を例示する。シャント共振器B
SHの直列共振周波数(f
s,SH)は、通過帯域のスカートの低い側(位相2)に対応し、直列共振器B
SERの並列共振周波数(f
p,SER)は、通過帯域のスカートの高い側(位相4)に対応する。直列共振器B
SERの実質的に整列させた直列共振周波数(f
s,SER)、およびシャント共振器B
SHの並列共振周波数(f
p,SH)は、通過帯域の範囲内に入っている。
図6A~6Eは、ラダーネットワークLNの応答の5つの位相の回路同等物を提供する。第1の相(位相1、
図5C、6A)の間、ラダーネットワークLNは、入力信号を減衰させるように機能する。シャント共振器B
SHの直列共振周波数(f
s,SH)に近づくにつれて、シャント共振器B
SHのインピーダンスが急激に低下し、よって、シャント共振器B
SHは、本質的に、シャント共振器の直列共振周波数(f
s,SH)において接地への短絡を提供する(位相2、
図5C、6B)。シャント共振器B
SH(位相2)の直列共振周波数(f
s,SH)において、入力信号は、本質的に、ラダーネットワークLNの出力から遮断される。
【0028】
シャント共振器B
SHの直列共振周波数(f
s,SH)と通過帯域に対応する直列共振器B
SERの並列共振周波数(f
p,SER)との間で、入力信号は、相対的に殆どまたは全く減衰を伴うことなく出力へと通過する(位相3、
図5C、6C)。通過帯域内で、直列共振器B
SERは、比較的低いインピーダンスを示し、一方で、シャント共振器B
SHは、比較的高いインピーダンスを示し、これらの2つの組み合わせは、急勾配の低い側のスカートおよび高い側のスカートを伴う平坦な通過帯域につながる。直列共振器B
SERの並列共振周波数(f
p,SER)に近づくにつれて、直列共振器B
SERのインピーダンスが非常に高くなり、よって、直列共振器B
SERは、本質的に、直列共振器の並列共振周波数(f
p,SER)においてそれらを開放しているように示す(位相4、
図5C、6D)。直列共振器B
SER(位相4)の並列共振周波数(f
p,SER)において、入力信号は、本質的に、ラダーネットワークLNの出力から再度遮断される。最終位相(位相5、
図5C、6E)の間、ラダーネットワークLNは、位相1で提供される減衰と同様の様式で入力信号を減衰させるように機能する。直列共振器B
SERの並列共振周波数(f
p,SER)を通過すると、直列共振器B
SERのインピーダンスが減少し、シャント共振器B
SHのインピーダンスが正規化する。したがって、ラダーネットワークLNは、シャント共振器B
SHの直列共振周波数(f
s,SH)と直列共振器B
SERの並列共振周波数(f
p,SER)との間で高Qの通過帯域を提供するように機能する。ラダーネットワークLNは、シャント共振器B
SHの直列共振周波数(f
s,SH)および直列共振器の並列共振周波数(f
p,SER)の両方において極めて高い減衰を提供する。ラダーネットワークLNは、シャント共振器B
SHの直列共振周波数(f
s,SH)の下側、および直列共振器B
SERの並列共振周波数(f
p,SER)の上側で良好な減衰を提供する。
【0029】
携帯電話などの単一の最新の通信システムでは、多数のフィルタが、異なる帯域幅の通過帯域、および異なる周波数を中心とすることが必要である。BAW共振器10を用いたフィルタの中心周波数は、主に、トランスデューサ16の様々な層の厚さ、特に圧電層18の厚さによって管理される。通過帯域の帯域幅およびフィルタの帯域端の形状は、主に、圧電層18の電気機械結合係数kによって管理される。電気機械結合係数kは、電気的エネルギーを機械的エネルギーに、およびその逆も同様に変換する際の圧電層の有効性の尺度である。異なる圧電材料または材料組成は、一般に、異なる電気機械結合係数kを有する。
【0030】
100MHz未満の帯域幅を有する通過帯域の場合、窒化アルミニウム(AlN)は、圧電層18のための共通の選択である。100MHzを超える帯域幅を有する通過帯域の場合、増加した電気機械結合係数kを提供する、より新しい圧電材料が用いられている。これらのより新しい圧電材料は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)などの1種以上の遷移金属を単独で、またはエルビウム(Er)、マグネシウム(Mg)などの他の材料との組み合わせでドープした窒化アルミニウムが挙げられるが、これに限定されない。例示的な圧電材料としては、ScAlN、YAlN、[Mg][Zr]AlN、[Sc][Er]AlNなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
残念なことに、これらの圧電材料の各々は、かなり特有の電気機械結合係数kを有する。その結果、設計者らは、現在、特定の圧電材料を選択し、次いで、残りのBAW共振器10、および選択した圧電材料の電気機械結合係数kに近いBAW共振器10を用いるフィルタを設計しなければならない。換言すれば、圧電層18のための圧電材料の選択は、電気機械結合係数kを制限し、よって、最終的には、全体的なフィルタ設計の性能を最適化するための設計者の能力を制限する。さらに、設計者は、圧電層18の特定の領域に電気機械結合を提供し、かつ圧電層18の他の領域に本質的にゼロの電気機械結合を提供するための技術から利益を得る。例えば、BAW共振器10の活性領域24には所望のレベルの電気機械結合を提供し、外側領域26および/またはBO領域32には殆どまたは全く電気機械結合を提供しないことが望まれる。
【0032】
材料の電気機械結合係数は、材料の圧電特性の関数である。よって、非圧電材料は、殆どまたは全く電気機械結合を示さず、したがって、ゼロまたはゼロに近い電気機械結合係数kを有する。圧電材料は、材料の圧電特性に少なくとも部分的に基づいた電気機械結合係数kを示す。
【0033】
以下、圧電部分および非圧電部分またはこれらの領域を圧電層18に提供するための技術を説明する。上で説明したように、ラダーネットワークLNなどを形成するために、しばしば、複数のBAW共振器10を一緒に使用する。多くの場合において、ラダーネットワークLNを形成するために使用される複数のBAW共振器10が、単一のダイ上に一体化され、異なるBAW共振器10のトランスデューサ16が、共通基板12、反射器14などを共有する。さらに、圧電層18、頂部電極20、および底部電極22は、適切な堆積およびエッチングプロセスを通して、共通の材料層から個々に形成される。
【0034】
図7を参照して、本開示は、BO領域32内に存在する圧電層18の一部分バイポーラである圧電層18に関する。このバイポーラ部分は、バイポーラ境界部分BSBと称される。大部分の実施形態において、活性領域24の活性部分SAは、ユニポーラのままである。異なる実施形態において、外側領域26内の外側部分SOは、ユニポーラまたはバイポーラとすることができる。圧電材料は、固有の極性配向を有し、
図7において一実施形態の極性配向の方向を矢印によって示す。BAW共振器の場合、垂直分極(「上」または「下」)は、電気機械変換にとって有意である。圧電層18の活性部分SAおよび外側部分SO内で、極性配向は、それぞれの一部分の全体を通して一定であり、よって、ユニポーラである。
【0035】
対照的に、圧電層18のバイポーラ境界部分BSBは、その中で対向する矢印によって示されるように、対向する分極を有するサブ部分34、36を有するように形成される。バイポーラ境界部分BSBのサブ部分34、36は、残りの圧電層18と同じ材料から形成することができるが、対向する分極を有するように形成される。反転層ILは、バイポーラ境界部分BSBのサブ部分34と36との間の境界を表す。反転層ILは、単に、製作中に分極反転を実際にトリガした分極移行レベルまたは1つ以上の層の実際の構造を表すことができ、続いてさらに詳細に説明する。
【0036】
極性変化が圧電層の音響特性に影響を及ぼさないので、活性部分SAおよびバイポーラ境界部分SBは、音響的に類似しており、いかなる追加の質量負荷も、本質的に、境界部分SBバイポーラを作製することによって生じる圧電層18のバイポーラ境界部分BSB内に存在しない。その結果、バイポーラ境界部分BSBは、質量負荷に対する必要性の有無にかかわらず、横音波エネルギーを閉じ込め、それによって、潜在的にBOリング30の必要性を排除し、このBOリング30は、
図7の実施形態に存在しない。得られた品質係数Qは、BOリング30を組み込んだ設計によって実現される値よりも良好であるか、または同等である。
【0037】
バイポーラ境界部分BSBの組み込みは、活性領域の直列共振周波数(fs)の近傍において境界(BO)モードを生成しない。「近接」とは、直列共振周波数(fs)の300MHz以内であると定義される。代わりに、BOモードは、活性領域の直列共振周波数(fs)の上側で数千メガヘルツまでシフトし、それによって、実質的に、これらのBAW共振器10を用いるフィルタの性能に影響を及ぼさない。バイポーラ境界部分BSBの使用はまた、BOリング30を組み込んだ従来設計よりも良好に、または同等にスプリアス横モードを低減させる。これらのおよび他の利益に関するさらなる詳細を続いて提供する。
【0038】
圧電層18のための一般的な圧電材料としてIII~V族の窒化物、主に窒化アルミニウム(AlN)、およびSc、Er、Mg、Hfなどのような遷移金属によってドープしたAlNが挙げられる。圧電層18がAlNから形成される場合、AlN結晶構造のc軸に沿ったAl-N結合の方向は、AlN結晶構造の分極または極性方向を決定する。材料の分極は、圧電層18の成長中にAl-N結合の方向をフリップすることによって、反転され得る。III族~V族の窒化物の分極反転を達成するためのいくつかの処理方法が存在する。例えば、AlNは、W、Cu、およびMoなどの特定の金属表面の上に、および金属表面を覆って、N極性(N極性)を伴って成長し、一方で、AlNは、Al、Ru、およびRuO
2などの表面の上に、および表面を覆ってAl極性(Al極性)を伴って成長する。適切な反転層ILは、圧電層18の成長プロセス中にBO領域32内に堆積させて、リソグラフ的にパターン化して、
図7に例示されるバイポーラ境界部分BSBを達成することができる。
【0039】
例示の実施形態では、ソリッドマウント共振器またはFBAR基礎構造が提供される。底部電極22は、基礎構造の圧電層を覆って適切な金属層などを堆積させ、次いで底部電極22を残す様態で金属層をエッチングすることによって、基礎構造を覆って形成される。次に、圧電層18の下部分を、底部電極22を覆って、かつ外側領域26、BO領域32、および活性領域24を通して、第1の分極によって第1の厚さまで成長させる。このレベルで、適切な金属層などを、圧電層18を覆って堆積させ、次いで反転層ILを残す様態でエッチングする。前述のように、反転層ILは、BO領域32内に存在する。
【0040】
次に、圧電層18の成長プロセスを再開し、そして、圧電層18が第2の厚さに到達するまで、圧電層18の上部分を、外側領域26、BO領域32、および活性領域24の全体にわたって、圧電層18の下部分を覆って成長させる。とりわけ、反転層ILを覆って成長させる圧電層18の分極が反転され、したがって、反転層IL覆い、かつBO領域32内の圧電層18は、第1の分極とは逆の第2の分極を有する。活性部分SAおよび外側部分SO内で成長させる圧電層18の分極は、反転されず、即ち、第1の分極を有する。頂部電極20は、圧電層を覆って適切な金属層などを堆積させ、次いで頂部電極20を残す様態で金属層をエッチングすることによって、圧電層18を覆って形成される。
【0041】
図8Aは、成長方向が原子構造のc軸に沿った、アルミニウム極性(Al極性)配向を例示する。Al極性の原子構造の場合、c軸に沿ったAl-N原子結合は、Al原子がN原子の下側に存在するようになされる。ネット極性(P
NET)は、下向き矢印によって表されるように反転される。
図8Bに例示されるように、c軸に沿った成長方向を有する窒素極性(N極性)配向には、逆のことが当てはまる。N極性の原子構造の場合、c軸に沿ったAl-N原子結合は、N原子がAl原子の下側に存在するようになされる。ネット極性(P
NET)は、上向き矢印によって表されるように成長方向と整列される。よって、Al極性配向の分極は、N極性配向の分極の反対である。この実施例では窒化アルミニウムが使用されているが、他の圧電化合物を圧電材料に使用することができ、化合物の金属などの適切な金属を、反転層ILを形成するために使用することができる。
【0042】
反対の分極を有するサブ部分34、36の厚さの比は、BO領域32の基本BAWモードを相殺するように選択することができる。それぞれの層の厚さは、1:1とすることができるが、そうである必要はない。特定の比は、圧電層18の下および上の材料および要素のスタックに依存し得る。典型的に、この比は、大部分のBAW共振器について0.7:1~1.3:1の範囲であり、一方で、他の実施形態は、0.8:1~1.2:1、0.9:1~1.1:1、0.95:1~1.05:1などの、より狭い範囲を必要とし得る。他のより広いまたはより狭い範囲が可能であり、本開示の範囲の範囲内であるとみなされる。バイポーラ境界部分BSBは、一度だけ分極を切り替えるように示されるが、さらに続いて詳細に説明するように、圧電層18の厚さの全体を通して多数の極性を切り替える(すなわち、各サブ部分34、36の2つ以上を交互にする)ことも案出される。上述した厚さの比はまた、それぞれのサブ部分34、36の累積厚さにも当てはまる。
【0043】
従来のBOリング30を使用するとき、
図4に例示されるように、BO領域32内のBOリング30によって提供される追加の質量負荷は、曲げBAWモードのBO領域32内に下方への周波数シフトを導入する。活性領域24とBO領域32との間の音響分散においてもたらされる変化を利用して、横音波エネルギーを圧電層18の活性部分SA内に閉じ込める。
図9Aは、周波数のダウンシフトに対する最適なBOリング30の幅での品質係数Qpをプロットしている。BOリング30によって提供される質量負荷の大きさは、より良好なQpを達成するために重要である。
【0044】
本開示の場合、バイポーラ境界部分BSBは、活性部分SAからの音響分散の相当な変化を必要とすることなく、横波のエネルギーを閉じ込める。
図9Aにおいて、非常に高いQp値は、ごくわずかな質量負荷によって達成される。分極反転は、機械的分散の変化を誘発しないが、バイポーラ境界部分BSBは、電気的境界条件により、いくつかのモードをサポートする。活性部分SA内の(z方向における)反対称モードは、バイポーラ境界部分BSBの中へ伝搬せず、したがって、活性部分SA内に閉じ込められたままである。
【0045】
BAW共振器の活性領域24は、基本直列共振周波数(f
s)で共振する。バイポーラ境界部分BSBの新しい態様は、それが基本音響トーンをサポートしないことである。基本モード共振は、サブ部分34、36が反転した分極を有する構造で、ゼロ結合(k2e)を有する。質量負荷が、バイポーラ境界部分BSBに加えられるか、BSBによって加えられるかにかかわらず、直列共振周波数(f
s)近傍のいかなるモードも、BO領域32内で励起されない。その結果、かかるBAW共振器10で作製されたフィルタに重要である周波数で、BO領域32からいかなるモードも生成されない。
図9Bは、BO領域32がバイポーラ境界部分BSBとして設計されたとき、BOモードがBO領域32内で効果的に抑制されることを示す。基本直列共振周波数(f
s)において、バイポーラBO領域32は、電気機械変換に関与しないので、有効圧電結合が最大で4%以上減少し得る。
【0046】
バイポーラ境界部分BSBは、第2のオーバートーン共振をサポートする。これらの共振は、典型的に、基本直列共振周波数(f
s)の2倍を超える周波数で起こる。大部分のBAW共振器10は、1500MHzを超える周波数で動作するので、BO領域32からの第2のオーバートーンは、基本直列共振周波数(f
s)から少なくとも数千メガヘルツで起こる。
図9Cは、BOリング30およびバイポーラ境界部分BSBをそれぞれ装備した、BAW共振器10のBOモードコンテンツを示す。例示されるように、バイポーラ境界部分BSBを使用することで、フィルタ通過帯域内に入るBOモードの問題を解決し、任意の帯域幅のBAWフィルタのより良好な設計を可能にする。加えて、バイポーラ境界部分BSBの使用は、しばしばデュプレクサおよびマルチプレクサに必要とされるような、密集した帯域を有する多重化を容易にする。
【0047】
さらに、BO領域32を画定するためにバイポーラ境界部分BSBを使用することは、BOリング30を単独で使用するよりもはるかに良好な横(スプリアス)モード抑制を提供する。
図10A、10B、および10Cは、両方の構成に関する最良の場合のシナリオを比較する。
図10A、10B、および10Cでは、それぞれ、直列共振周波数(f
s)の直下での、直列共振周波数(f
s)~並列共振周波数(f
p)の間での、および並列共振周波数(f
p)の直情でのスプリアスコンテンツを示す。これらの3つの周波数領域は、フィルタ通過帯域を成形する際に最も重要である。バイポーラ境界部分BSBを有する設計は、3つ全ての周波数レジームにおいてスプリアスコンテンツを抑制する際に、BOリング30を有する設計よりも良好に機能することに留意されたい。バイポーラ境界部分BSBを組み込んだBAW共振器10は、それによって作製されたフィルタが、スプリアスモード含まない通過帯域を達成することを可能にする潜在性を有する。
【0048】
図11は、BO領域32のバイポーラ境界部分BSBを覆うBOリング30を組み込んだBAW共振器10を例示する。
図12は、質量負荷をバイポーラ境界部分BSB内に提供するのに十分な厚さである反転層ILを組み込んだBAW共振器10を例示する。よって、この実施形態における反転層ILは、所望の質量を有する1つ以上の層の肥厚構造であり、バイポーラ境界部分BSB内のサブ部分34、36の間に提供される。この実施形態における反転層ILは、BOリング30の質量負荷の代わりをして、それを提供することができる。さらに、反転層ILは、バイポーラ部分BSBの頂部に存在するBOリング30と併せて提供され得る。
【0049】
前述の実施形態のいずれかは、FBAR構造で実施することができ、
図13に例示されるように、反射器14は、本質的に、エアギャップ38と置き換えられる。FBARの実施形態の基礎構造は、基板12と、エアギャップ38と、を含む。よって、トランスデューサ16は、基本的に、基礎構造の上にまたは基礎構造を覆って存在する。この実施形態では、追加の質量を加えるように構成することができるBOリング30および反転層ILを提供する。
【0050】
実施形態の多くの潜在的変形例を上で説明した。例えば、BO領域32のサブ部分34、36は、
図14に例示されるように、上で説明した実施形態と比較して、分極を交換することができる。前述のように、バイポーラ境界部分BSBは、2つを超えるサブ部分34、36を有することができる。
図15に例示されるように、バイポーラ境界部分BSBは、3つの反転層ILによって分離された4つのサブ部分40、42、44、46に分けられる。反転層ILは、圧電層18の成長または蒸着プロセス中の、バイポーラ境界部分BSB内での圧電材料の分極交換を容易にする。サブ部分40、44は、第1の分極を有し、サブ部分42、46は、第1の分極の反対である第2の分極を有する。この実施形態では、外側部分OSおよび活性部分SAもまた、第2の分極を有するが、これらの分極の全ては、交換することができる。さらに、サブ部分40、42、44、46の分極は、交換することができる。サブ部分40、42、44、46の数および厚さは、用途に必要とされる性能メトリックに応じて、ある実施形態から別の実施形態に変動し得る。
【0051】
当業者は、本開示の好ましい実施形態の改善例および変形例を認識するであろう。全てのそのような改善例および変形例は、本明細書で開示される概念および以下の特許請求項の範囲内であるとみなされる。